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Key Of The Twilight

728ベルッチオ(過去) ◆Hbcmdmj4dM:2017/02/02(木) 23:58:15

その日は非番だった。私が神殿に赴くと、ちょうど彼女が夕方の祈りを捧げているところだった。彼女は祭壇の前に恭しく膝をつき、胸の前で手を結んでいる。美しい歌声が静謐な空間に満ちていた。
そこで私はふと、その頬に涙が伝っていることに気づいた。

「…何故泣いている?」

びくり、と細い肩が揺れ、歌が止んだ。私が来たことに気づいていなかったのだろうか?彼女は驚いたふうに顔を上げ、濡れた瞳を私に向けた。

「違うの、これは私の涙じゃなくて、この世界そのものが流している涙」

慌てて言う彼女に、私は、どういうことだ、と眉を潜める。

「今…私、この星の想いと繋がってたみたい…」

彼女は言った。

「胸が締め付けられるようだった…。
痛い、苦しいって…。すごく哀しい悲鳴が響いてた…。それを感じていたら独りでに涙が溢れてきて…」

私は彼女に歩み寄った。その涙を指で掬うようにして拭った。

「星の声が聞こえるのか?」

彼女は頷いた。

「なぜ星は苦しんでいるんだ」

更に私は聞いた。

「人間が星を穢すから、星のエネルギーを奪い続けているから。だから今、この惑星のマナ自体が枯れかけちゃってるの」

私が返事に窮していると、彼女は続けた。

「知ってる?闇ってね、本当は惑星の意志の力なんだよ。
多くの人が闇は穢れや呪いの力ってだって嫌がるけど…、本当は星の生きたいって想いの力なの。
魔物には人を襲う本能があるけど、あれは病気を直そうとして悪い菌を退治する抗体の働きと同じようなものなの。
でも今はその闇さえ人間の…今は私のお父様の管理下にあるから、星は自分の身を護ることさえ出来ない状態で…」

その話を聞いて驚いた。私の認識している闇の知識とは全く違うものだったから。

遥か昔、世界に顕れた闇を四神が封印した神話は有名だ。
人々を救った四神が英雄であることは間違いないが…。その話が本当なら、解釈の仕方が根本から変わってくる。
頭が混乱しそうだ。

「人間は悪なのか?」私は聞いた。

「星にとっては、そう…」

「このままでは星のエネルギーは枯渇し、いずれ死ぬ。そう言うことか?」

彼女は目を伏せ頷く。

「全ての人間を地上から排除すれば、星が滅びることはなくなるのか?」

「そうだと思う…。完全に元に戻るには時間がかかると思うけど」

「そのこと、ユリウス様には言ったのか?」

「うん…、でも他の人には言わない方が良いって…」

「そうだろうな…」

他の人間に言ったとしても、とても受け入れられるような話ではないだろう。なにせ近い内に世界は滅び、その責任が我々人間自身にあるともすれば、誰だって認めたくはない筈だ。私でさえまだ半信半疑なのだから。
それに不用意な発言は、彼女自身の身も危険に曝してしまう恐れがある。
頭のおかしい奴だと言われるだけならまだいい。しかし、やり場のない不安が怒りとなり、人々の非難の的にさせられ得ることも考えられるのだ。
その話を事実として証明する術がない内は、黙っているに越したことはない。


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