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『プリキュアシリーズ』ファンの集い!2

1運営:2015/06/27(土) 19:59:43
現行作品を除く、『ふたりはプリキュア』以降の全てのシリーズについて語り合うスレッドです。
本編の回想、妄想、雑談をここで語り合いましょう。現行作品以外の、全てのSSと感想もこちらにてお願いします。
掲示板のローカルルール及び、保管庫【オールスタープリキュア!ガールズSSサイト】(ttp://www51.atwiki.jp/apgirlsss/pages/1.html)のQ&Aを読んで下さい。
※現行作品や映画の話題は、ネタバレとなることもありますので、このスレでは話題にされないようお願いします。
※過去スレ「『プリキュアシリーズ』ファンの集い!」は、過去ログ倉庫に移しました。

90一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/02/21(日) 22:09:05
 夜もとっぷりと更けた、ラビリンスの居住区。立ち並ぶ集合住宅は、外から見るとどれも判で押したように同じ大きさ、同じ形の建物だ。その一棟の片隅にある小さな部屋に、今、灯りが点いた。
「どうぞ、上がって」
「お邪魔しまーす!」
 玄関先で靴を脱ぐ二人の少女は、せつなとラブ。ここは、ラビリンスでのせつなの住まい。彼女が一人で暮らしている部屋だ。

 一足先に上がってラブにスリッパを差し出したせつなは、少し困ったような表情だが、その口元は嬉しそうに緩んでいる。ラブの方はワクワクを絵に描いたような顔で、部屋に入るやいなや、わぁっと歓声を上げた。
「広いじゃん、せつな。ベッドも凄く大きい!」
 えーっと、ここは何かなぁ……などと大きな声で言いながら、ラブが幾つかの扉を開けて、楽しげに中を覗き込む。そして最後はきれいに整えられたベッドめがけて、勢いよくダイブした。
 もう、と呆れた顔をしてみせてから、せつながクスリと笑う。そしてラブの荷物を机の上に置くと、自分はベッドの縁に腰かけた。ラブもすぐに起き上がって、その隣に座る。

 ベッド、机、本棚、姿見。どれも桃園家のせつなの部屋にある物より一回りか二回りほど大きいが、それらは全て、桃園家の部屋と同じ配置で置かれている。
 それ以外には、家具らしい家具は無い。女の子の一人暮らしにしては、殺風景なくらい必要最小限のものしか置いていない部屋。改めて見回したラブは、机の上に置かれた写真立てに気付き、小さく微笑んだ。
 それは、あの最後の戦いから帰った後、タルトやシフォン、アズキーナも一緒に家族で撮った写真だった。ラブも同じ写真を、同じように自室の机の上に飾っている。が、そのことには触れず、ラブはせつなに微笑みながら、おどけた調子で言った。

「やっぱきちんと片付いてるねー、せつなの部屋。あたしなんか、つい散らかしちゃうのにさ」
「ラブの部屋は、物が多すぎるのよ」
 そういつもの調子でたしなめてから、せつなはまた少し困った表情に戻って、ラブの顔を見つめた。
「それよりラブ。本当に泊まっていったりしていいの? お父さんとお母さんが心配してるんじゃ……」
「大丈夫だよぉ。お母さんには、ちゃんと言って来たもん」
「でも……」
 ラブの即答とは対照的に、せつなが曇った顔のままで口ごもる。

 今朝、せつなは四つ葉町での休暇を早めに切り上げてラビリンスに戻って来たのだが、驚いたことに、ラブも後から彼女を追ってラビリンスにやって来た。ちょうどこちらへ戻るところだったウエスターとばったり出会って、彼に頼み込んで連れて来てもらったのだと言う。しかもラブは、着替えを詰めた大きなスポーツバッグを肩にかけ、泊まる気満々の格好で現れたのだ。
 いくら移動が可能と言っても、ここは異世界。友達の家にちょっと遊びに行くのとは、わけが違う。だが、ラブは事もなげに、こんな言葉を付け足した。

「大丈夫だって! せつなの家に泊まるって言ったらさ、お母さんが、せっちゃんのところなら安心だわ、だって」
「……ホントに?」
 せつながそれを聞いて、まだ心配そうな表情を残したまま、うっすらと頬を染める。その顔を見て、ラブの言葉にさらに力がこもった。
「うん! だから、明日からせつなの手伝い、あたし、精一杯がんばるよっ!」
「明日から、って……。そんな、ダメよ。せっかくの夏休みなのに」
「もう。わかってないなぁ、せつなは。夏休みだから、あたしにもせつなの手伝いが出来るんでしょう?」
 再び困ったような表情になるせつなの隣で、ラブが得意げに胸を張る。
「あたし、この前のお料理教室で、せつなの手伝いが出来て、すっごく嬉しかったんだ。だから、もしまた手伝えることがあるなら一緒にやらせてよ。だって、せつなの夢は、あたしの夢でもあるんだから」
「ラブの……夢?」
「そう!」
 ますます得意げにニッと笑ってみせるラブを、せつなは一瞬、不思議そうな顔で見つめる。そして、フッと顔をほころばせてから、うん、とひとつ頷いた。

「わかったわ。ありがとう、ラブ」
「やったぁ!」
「でも、そう長い間はダメよ?」
「え〜、なんで?」
「まだ夏休みの宿題も、終わってないんでしょう?」
「うっ……それは……」
 途端に目を泳がせるラブに、せつながクスクスと笑い出す。

 この部屋で、こんな風に笑ったことなんてあっただろうか、とふと思った。
 ラビリンスを笑顔でいっぱいにしたい――そう思ってここに戻って来たけれど、ここでの自分の笑顔のほとんどは、ラビリンスの人々のために――人々の緊張をほぐしたり、敵意が無いことを伝えたりするために浮かべるもののような気がする。

91一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/02/21(日) 22:09:35

――せつな自身が幸せな姿を見せなくてどうするの。

 昨日の美希の言葉が蘇った。いや、もしかしたらさっきから、心の中にあったのかもしれない。
 そして、蘇ったその言葉は、初めて聞いた時よりずっと優しく、せつなの心に沁みた。

「あーあ、失敗しちゃったなぁ。宿題、持って来てせつなに教えてもらうんだったよぉ」
 そんなことを言って頭を掻いているラブに、もう一度小さく微笑んで、せつながベッドから立ち上がる。
「じゃあ、お風呂の準備してくるから。準備が出来たら、ラブが先に入って」
「え、シャワーだけじゃなくて、お風呂もあるの?」
「え……ええ。小さなバスタブだけど」
「そっか。じゃあせつな、一緒に入ろう!」
「ちょっ……何言ってるのよ!」
 慌てるせつなの手を取って、ラブが俄然元気になって、ベッドから立ち上がる。
「だって、お風呂場の使い方、わかんないんだもーん。さ、せつな早く!」
「ちょっと、ラブ! まだお湯も入れてないんだから!」
 いきなりお風呂場に向かおうとするラブに、せつながもう一度、クスリと笑った。
 部屋の灯りが、いつもより明るく、あたたかい。何だか夢を見ているような気持ちで、せつなはそれに半ば納得し、半ば不思議に思っていた。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第4話:再会 )



 次の日、ラブはせつなと一緒に、ラビリンスの中心地から少し離れた場所へ出かけた。
 かつて見た、人々が一糸乱れぬ隊列を組んで歩く光景は、今のラビリンスではもうすっかり見られなくなったらしい。全員が同じグレーの服に身を包んでいるところは変わらないが、人々は皆、思い思いの方向に、思い思いの速さで、時々立ち止まったり急ぎ足になったりしながら歩いている。
 すれ違う人の中には、せつなの顔を見て微笑みながら会釈をする人、せつなの方から声をかける人も多かった。そんな光景を見るのが何だかとても嬉しくて、ラブは自分も元気よく挨拶しながら、隣を歩く親友の横顔を誇らしげに見つめた。

 やがて二人がやって来たのは、低い塀で囲まれた広大な敷地だった。中に入ると、石や木の柵で区切られた花壇や、まだ植えられたばかりの苗木が二人を出迎えた。
「ここを、四つ葉町公園のような憩いの場にしたいの」
「へぇ! いいね、それ」
 せつなの言葉を聞いて、ラブの顔がぱぁっと輝く。
 ウエスターとサウラーも一緒に政府に進言し、公園の設計も、三人が中心になって考えたのだと言う。もっとも、ウエスターの要望は公園がどうこうと言うより、「絶対にドーナツの店を出す!」というただ一点だったらしいが。

「でも、ラビリンスには公園に植えられるような植物なんて、なかったから」
「うん」
「異世界から、木の苗や花の種を持って来てね」
「うんうん」
「ラビリンスに適しているものを選んで、公園に植えられる大きさにまで高速栽培させたの」
「う……ん?」
 話に付いて行けなくなったのか、ラブが頷くのをやめて、首を傾げる。
 せつなは、ひょろひょろと頼りなく並んだ、まだ並木とはとても言えない小さな木々を、愛おしそうに見つめた。
「この木が大きくなるまでには、まだまだ時間がかかりそうだけど」
「うん。でも、それを待つのも楽しいよね。どんどん変わっていく公園を見られるのって、なんか楽しくない?」
 ラブが、さっきまでとは打って変わった力強い声でそう言うと、せつなと並んで、まだ柔らかい木の葉を、ちょん、とつつく。
 せつなは少し驚いたような表情でその横顔を見つめてから、嬉しそうに、そうね、と頷いた。

「ところで、せつな。今日はお料理教室の準備に来たんじゃないの? それとも、何か別の用事?」
「ううん、ちゃぁんと料理学校のための用事よ」
 不思議そうに尋ねるラブに、少し悪戯っぽく微笑んで、せつながずんずんと公園の中へ入っていく。
 やがて公園の一番奥まで辿り着いた時、突如そこに開けた景色に、ラブは驚いて目をパチパチさせた。

 そこに広がっていたのは、柔らかそうな土の黒と、みずみずしい緑のコントラスト。ラブたちの世界のものとそっくりな、野菜畑だった。

92一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/02/21(日) 22:10:08
「ラビリンスの食材は、野菜も全て工場で、人工的に作られているの」
 せつなが静かな声で説明する。
「でも、やっぱり自然の土や光で育ったものの方が、美味しいんじゃないか、って……」
 それで試験的にここで野菜を育て、収穫したものの一部を、料理教室でも使わせてもらっているのだと言う。
 丁度せつなが話し終えたところで、畑の隅にある小さな小屋の扉が開き、中から一人の老人が、ゆっくりと姿を現した。

「こんにちは〜! あの、今ちょっといいですか?」
 せつなが両手をメガホンのようにして大きな声で呼びかけてから、彼の方に向かって歩き出す。ラブもその後ろを付いて行きながら、わずかに眉根を寄せた。

(あれ? あの人、どこかで会った、ような……)

 老人は、せつなの言葉に特に反応も見せず、うつむき加減でゆっくりと歩いて来る。
 銀髪と言うより白髪に近い髪が、頭の周りにだけ残った髪型。少し腰を曲げるようにして歩く姿は見るからに老人だが、その足取りは意外としっかりしている。
 そして彼が、そこに置いてあった大きな袋を抱え上げた瞬間、ラブが、あっ、と小さく声を上げた。
「やっぱり……。この人、あの時のおじいさんだよ」
「え?」
 せつなが不思議そうに、ラブと老人とに交互に目をやる。
「ほら、あたしたちがメビウスの城に行く時に、すれ違ったおじいさん」
 そう言うが早いか、まだポカンとしているせつなをその場に残して、ラブは老人に駆け寄った。

「大丈夫? 持つよ、おじいさん」
 そう言いながら、老人が抱えた袋を一緒に持とうとするラブ。それを見て、せつなもようやく思い出した。
 あれは、メビウスとの最終決戦のために、ここラビリンスにやって来た時。ラビリンスの人々の列に紛れてメビウスの城に向かおうとした四人の近くに、大きな荷物を抱えた彼が歩いていたのだ。

(確か、この人がバランスを崩して、そして……)

 咄嗟に助けようとしたラブを、列が乱れると見つかるという理由で、せつなは止めた。その時は、彼が無事体勢を立て直して、事なきを得たのだが。

(あの時ほんの少し見ただけなのに、ラブはよく顔を覚えていたわね)

 ラブにとっては、困っている人を助けることは息をするくらい自然なことで、それが出来なかったことの方が、心にかかる出来事だったのかもしれない。
 そう思うと、何だか申し訳ないような複雑な気持ちで、せつなは老人とラブの元へと駆け寄った。

「結構重いね〜、この袋。何が入ってるの?」
「肥料だ」
「へぇ。これから畑に撒くの?」
「ああ」
「あたしも手伝おうか!」
「いや」
 ラブが袋に手を掛けながら、明るい声で老人に話しかけている。だが、老人の返事は極めてそっけなかった。特に不機嫌そうなわけではない。ただ聞かれたことに、必要最小限な答えを返しているだけだ。
 やがて、肥料の袋を畑の隅に置いた老人は、ゆっくりとせつなの方に向き直った。

「すみません。次の料理教室の日程が、変更になりそうなので――」
 そう老人に説明しながら、せつなはそっと唇を噛みしめる。せつなの話を聞いている老人のねずみ色の瞳はぼんやりとしていて、その反応は事務的以外の何物でもなかった。

(この人は今でも、まだ管理されていた頃のラビリンス人、そのものだわ)

 ここに畑を作ることになった時、近くの居住区に住む人々に向けて、畑の世話をする人を募る知らせが出された。彼はそれに応募してきた、数少ない一人だ。
 だからもっと新しいことに興味を持っている人物なのかと思ったのだが、会ってみると、彼はせつなの想像とは全く違っていた。
 仕事は黙々とこなしている。ラビリンスで野菜を路地で育てるためには何が必要か、サウラーが事前に様々なことを調べて書き記していたのだが、それを見てきちんと作業をしているらしい。
 だが、それだけだった。果たして野菜作りに興味を持っているのか、はたまた自分が作った野菜のことをどう思っているのか、まるでわからない。
 何も考えていないかのように、淡々と仕事をこなし、淡々と規則正しい生活を送る――それは確かに、かつてのラビリンスの人々の生活そのものと言えた。

93一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/02/21(日) 22:10:41
 次の料理教室についての連絡を一通り終えて、せつなが再び頭を下げる。するとそれを待っていたように、ラブがニコニコと老人に歩み寄った。
「ねぇ。今度のお料理教室には、おじいさんも参加してみない?」
「いや……遠慮しておく」
 やっぱり、とせつなが心の中で呟く。せつなも何度か彼を料理教室に誘って、そのたびに断られているのだから。だが、ラブは簡単には諦めなかった。
「そう言わないでさぁ。みんなでお料理するのって、すっごく楽しいんだよ?」
「……」
「みんなで作ったハンバーグも、すっごく美味しいし」
「食事は……栄養がとれればそれでいい」
「じゃあじゃあ、ためしに試食だけでも来てよ! すっごく賑やかなんだ。みんなが自分で作ったハンバーグを交換して……」
「すまん。私はそういうものは、苦手なんだ」
 老人の、すまなそうながらキッパリとした拒絶の言葉に、ラブも口をつぐむ。すると、今度はせつなが静かに口を開いた。

「おじいさん。おじいさんがここでの仕事を選んで理由って、もしかして……」
「もしかして……何? せつな」
 そこで言いよどんだせつなの顔を、ラブが心配そうに覗き込む。
「その……ここなら一日、ほとんど誰とも会わずに居られるから、ですか?」
 せつなの問いに、老人は相変わらず何の感情も読み取れない表情で、ああ、と頷いた。老人の顔をひたと見つめていたせつなの瞳が揺らぐ。それを見て、老人は目を伏せると、フーッと長く息を吐き出した。

「メビウスに管理されていた頃、私たちは皆、人のことには無関心でした」
「ああ」
 せつなの言葉に、老人が短く応じる。
「その方が……おじいさんには、居心地がいいですか?」
「わからん」
 老人は相変わらずそっけなく答えると、腰を伸ばすようにして、公園の並木の方を見つめた。
「今のラビリンスは、あの頃とは違う」
「そう……思いますか?」
「ああ。きっとこれから、もっと変わっていくだろう」
 我知らず頬を緩めたせつなの方に、老人が視線を戻す。
「それが人としての、本来の姿なのかもしれん。だが……今のラビリンスは私には少々賑やか過ぎて、どうしていいかわからんのだ」

 野菜畑が一瞬、しんと静まり返った。ああ、この静けさこそが、この人には馴染みの日常なのか――せつながそう思った時、沈黙を破ったのは、ラブだった。
「大丈夫だよ。お料理教室で出会った人たちは、みんな優しい人たちだったよ。だから、おじいさんにもきっと友達が出来るって」
「友達? よくわからんが……。もう老い先短い身だ。このまま静かに、一人で過ごさせてくれ」
「でも!」
 静かにかぶりを振る老人に、ラブが詰め寄り、なおも言い募ろうとする。

 するとその時、老人がわずかに顔を上げた。視線はラブを通り越して、畑の入り口辺りを見ている。
 至近距離からその顔を見ていたラブは、心の中で首を傾げた。今までまるで生気のなかった瞳が、何だか少し嬉しそうに輝いたように見えたのだ。
 ラブが思わず後ろを振り向いて、そのまま笑顔になる。そこに立っていたのは一人の少女。昨日ラブが給食センターを訪れた時に出会った、あの少女だった。

「こんにちは。あなたとは、よく会うね」
 ラブが明るく声をかける。が、答えは返ってこなかった。彼女は目を大きく見開いて、何かにひどく驚いたような表情で、ラブとせつなを交互にみつめていたのだ。

「お前……どうしてそいつと、一緒に居るんだ」
「そいつって……ああ、せつなのこと? せつなは、あたしの大切な友達だから」
 かすれた声で問いかける少女に、ラブが満面の笑みで答える。が、それを聞いて、少女の瞳が大きく揺れた。
「ということは、まさか……お前もプリキュアなのか!」
「あ……アハハ、うん。実は、そうなんだ」
 少女の問いに、軽い調子で答えて頭を掻くラブ。それを見て、少女がわなわなと震え出す。
「え……ちょっと、大丈夫?」
「ラブ、待って!」
 心配そうに駆け寄ろうとするラブの手を、せつなが掴んで止めた。

 少女の瞳が、二人を――いや、ラブを睨み付ける。
 燃えるような赤い眼差し。そこに宿るのは今や戸惑いではなく、驚愕と――怒り。
 食いしばった奥歯の間から、ごく小さな呟きが漏れる。その言葉を、せつなだけは聞き取ることが出来た。

「こんなヤツに……こんなヤツに、メビウス様は倒されたと言うのか……!」

 ハッとした瞬間、ラブの腕を掴んでいたせつなの手が緩む。それを待っていたかのように、ラブが心配そうな表情で、一歩、二歩と少女の方に歩み寄った。
「ねえ、ホントにだいじょう……」

「ラブ、下がって!」
「寄るなっ!」

94一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/02/21(日) 22:11:12
 せつなが高い声で叫んだ瞬間、ラブの体があぜ道に転がる。少女がラブを突き飛ばしたのだ。
 慌ててラブを助け起こしたせつなは、ラブと老人を庇うように、少女の前に立った。

「なんてことするの! 彼女は、今はプリキュアじゃないわ」
「それがどうした」
「一般の人間に手を挙げるなんて、かつても許されていなかったはず。“己の力は”――」
 激しい口調でそう言いかけたせつなが、そこで口をつぐむ。そして、気持ちを落ち着けるようにひとつ大きく深呼吸をしてから、努めて静かな声で言った。

「メビウスは、もう居ない。それはあなたもわかってるんでしょう?」
「黙れ! お前がそんなことを言えた義理か」
 吐き捨てるようにそう言って、少女が不敵に笑う。
「さっきお前が言いかけた掟を、正確に言い直してやる。
“己の力は、メビウス様のために。それ以外のものに使ってはならない”
そうだったわね、先代――私の前の、イース!」
 今度はせつなの方が驚きの表情を浮かべた後、その顔が苦しそうに歪んだ。

「私は今でもメビウス様の僕。そのメビウス様を倒したプリキュアを、みすみす放ってはおけぬ!」
「……どうしてもラブを傷付けると言うのなら、私が相手になるわ!」
 二人の少女が睨み合ったまま、ゆっくりと構えを取る。が、次の瞬間。
「二人とも、やめてっ!」
 凛としたラブの声が、辺りに響いた。

 少女が、ふん、と鼻を鳴らしてから、構えを取ったままで後ずさり、やがて一目散にその場を駆け去る。それを見届けてから、ラブはまだ構えを解いていないせつなの肩に、ぽん、と手を置いた。
 せつなが、ハッと我に返ったように、自分の両手をしげしげと見つめ、続いてぼんやりとした目でラブの顔に目をやる。
「……せつな?」
「ラブ……。私、今、あの子と……」
「大丈夫。大丈夫だよ、せつな」
 ラブは、その場に棒立ちになっているせつなの体を抱きしめると、その背中を優しく撫で始めた。
 せつなの体はひどく強張っていて、その背中は微かに震えている。ラブは、せつなを抱く手にギュッと力を籠め、震えが収まるまで、何度も何度も、優しく背中を撫で続けた。


   ☆


 その夜、星ひとつ無い空の下、ラビリンスの人々が深い眠りに就いた頃。
 今は廃墟となっているメビウスの城の跡地に、こっそりと近付く小さな影があった。
 影は跡地に侵入すると、爆発の及んでいなかった地下の部屋から、ある小さな物を持ち出した。そして闇に紛れて街を駆け抜けると、いずこへともなく、消えてしまった。


〜終〜

95一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/02/21(日) 22:11:59
以上です。
明日からは競作に全力投球させて頂きます。
ありがとうございました!

96運営:2016/04/14(木) 00:15:52
こんばんは、運営です。
先日ご連絡致しました通り、競作スレは過去スレに移しました。
たくさんの投下と書き込み、本当にありがとうございました!!
なお、告知を頂いている方の投下分は競作として保管しますので、
以後はこちら「『プリキュアシリーズ』ファンの集い!」にて、
引き続き投下をお待ちしております。

97名無しさん:2016/04/26(火) 22:59:42
前田健さん、素敵な振り付けをありがとう!!!!!

プリキュアといえば、エンディングのCGが有名だけど、
それに見合う振り付けを考えたのはこの人です!
「カワイイ!」がテンコ盛りの振り付けで、特にスマイルプリキュアの「イェイ!イェイ!イェイ!」は、もはや伝説です。
個人的にはハートキャッチの前期も好き。

カオルちゃんがいなかったら、ラビリンスの人達はドーナツの味を知らないままだった。

98名無しさん:2016/04/26(火) 23:56:18
カオルちゃん・・・
きっと今も、四つ葉町のあの公園で、「グハッ!」と笑いながらドーナツを売ってるって、俺は信じてるよ。
さよならは言わない。またいつか会える日を楽しみにしてるからね。

99Mitchell&Carroll:2016/05/01(日) 01:15:11
お久しぶりです。投下させていただきます。スイートプリキュア♪で……


『アコの誕生日』


アコ「――痛いって、奏太!そんなに強く、手、引っ張らないでよ!」
奏太「早く早く!姉ちゃん達、待ってるから!」

(奏の部屋)
奏太「姉ちゃーん!アコ、連れて来たよ〜!」
響「♪バースデー、バースデー、バーバーバーバーバースデー」
奏「ハイ!」
響「♪バースデー、バースデー、バーバーバーバーバースデー」
エレン「ハイ!」
響「♪バースデー、バースデー、バーバーバーバーバースデー」
ハミィ「ニャプ!」
響「♪バースデー、バースデー、バーバーバーバーバースデーーイ!!!」

響「♪今日は!姫の!たんじょ〜び!!」
ほか「「ワッショイ!」」
奏「♪生まれて!出会えて!ア・リ・ガ・ト・ネ☆」
ほか「「ワッショイ!!」」
ハミィ「♪今夜は!美味しくシャン○リー飲・め・る・の・は?」
ほか「「ニャプショイ!」」
エレン「♪姫の!笑顔のお・か・げ・で・す!!」

響「♪こぉ〜んやの主役はジュリエット!」
ほか「「ハッピーバー、ハッピーバー、ハッピーハッピーバースデー!」」
響「♪こぉ〜んやの主役はジュリエット!」
ほか「「ハッピーバー、ハッピーバー、ハッピーバースデー!!」」
みんな「「「♪バースデー、バースデー、バーバーバーバーバースデー(×4)」」」

奏太「そんなHAPPY‐GIRLから一言聞いてみたいと、お・も・い・ま……」
ほか「「スリーツーワン!!」」





アコ「私の誕生日……再来月なんだけど……」

100Mitchell&Carroll:2016/05/01(日) 01:22:11
さっそく訂正、すみません……

ほか「「ハッピーバー、ハッピーバー、ハッピーバースデー!!」」
みんな「「「♪バースデー、バースデー、バーバーバーバーバースデー(×4)」」」

この、ほかとみんなの間を一行、空けて下さい。よろしくお願い致します。

101名無しさん:2016/05/01(日) 12:44:42
>>100
どーしてこーなったwww

102名無しさん:2016/05/01(日) 12:51:05
>>99
ぜーったい、周りがやりたかっただけニャw

103Mitchell&Carroll:2016/05/24(火) 01:27:11
タコは、吸盤が綺麗に並んでいるものが♀だそうです。
2レス、お借りします。

18禁
『タコにイカされて』


 日曜午前の町民プール――ひと際、目を惹くプロポーションの持ち主・蒼之美希。
優雅なフォームでエレガントに泳ぐ、その姿には同性からの憧れの眼差しも強い。
そんなオーディエンスの熱い視線をモチベーションに換えながら、
美希は、美容&ボディシェイプトレーニングメニューを黙々とこなすのだった。

 プールの壁にタッチすると、颯爽とゴーグルを外す美希。ノルマの中程までを達成したところで一旦、
休憩を取るようだ。――ふと、違和感を覚えて辺りを見回すと、先程までいた他の利用者たちが、誰一人居なくなっていた。
「あら?あたし、一人だけ?」
不思議な事もあるものだと思いつつ、ハシゴを昇っていくと――

 ――それはプールサイドで、その不気味な目をギョロリと光らせていた。
身の丈8尺はあろうかという巨大なタコ。太い触手を美希の体に絡み付かせ、自分の元へと手繰り寄せた。

「いつかは、いつかはと、狙い澄ましていた甲斐があったというものだわ、美希ちゃん!今日という今日は、
とうとう捕まえたわよ!!」
タコは8本の触手で美希の体の自由を奪い、美希の競泳水着のVゾーンをペロリと捲(めく)り上げると、
中の具をしげしげと観察し始めた。
「う〜ん、色といい形といい、とってもイイモノをお持ちなのねぇ〜。私は、お芋が好きなんだけど、
 それよりもDANZEN!こっちの方が好みだわ!!さあ、チュパチュパしちゃうわよ!
 吸って吸って吸いまくって、たぁ〜っぷり楽しんだら、竜宮城へ連れて行って、囲っちゃおうかしら?」

 ご機嫌なタコは、チュウチュウ、ズチュズチュと音を立て、美希の陰部を吸い始めた。
「い、いやぁぁぁーーーっ!!」
「ん〜もう、イヤじゃないでしょ?美希ちゃん!美希ちゃんのワレメちゃんが「吸って吸って」って言ってるわよ〜ん?」
美希の体は水泳で十分にウォ-ムアップされていたせいもあって、快感の伝達が早い。引き締まった腹筋や臀部の筋肉が、
快感を全身へと運ぶ。
「そんなにしたら……イッちゃう!……イクッ!イックゥゥーー〜〜ッ!!」
「もうイッちゃったの?さすがねぇ、美希ちゃん!!」
タコは間髪を入れずに、美希のクリトリスを強烈に吸い上げる。
剥き出しにされている美希のそれは、今や乳首以上に尖っている。
自分でも思わぬ以上の自己主張を強いられ、美希の羞恥心と興奮は高まる。
「あぁん、それ、駄目ぇぇ!!喜んでる……クリちゃん、喜んでるのぉぉ!!」

104Mitchell&Carroll:2016/05/24(火) 01:27:58
 8本もの触手を持つタコは、美希の両腕・両足を押さえ、身動きが取れないようにしながらも、
器用に美希の両方の乳房と、腋の下、更には背中までをも同時に愛撫する。
「どう?この8本の触手のカラミ具合は!気持ち良いでしょ?ほら!気持ち良いって言いなさい!
 どうしてガマンするの?ガマンは美容と健康に良くないわよ!!ホントは気持ち良いくせに!!
 自分を曝け出すのよ、美希ちゃん!!さあ、言って!言ってぇぇ!!」
「きっ、気持ち良いーー〜〜〜ッッ!!!」
「そう!そうよ!エラいわ、美希ちゃん!!もっとして欲しいんでしょ、ほらっ!!
――私は知っているわよ。美希ちゃん。美希ちゃんは、イースちゃんが、その体を触手に蝕まれているのを見て、
 ひそかに羨ましいと思ったのよね?心の中で何かが激しく燃え上がったのよね?
 そしてその夜、息を荒げ、体を荒げ、悶々として、なかなか寝付けなかったのよね?
 私はちゃ〜んと知ってるのよ、美希ちゃん!知ってるんだから!
 美希ちゃんは確かに、私のことが苦手なようね。美希ちゃんは私を恐れているわね。
 だけどね、美希ちゃん。私は美希ちゃんを快楽の海の底に引き摺り込む自信があるの。
 これはあの日、浜辺で交わした約束なのよ?あの日、腕に絡み付かれた美希ちゃんは、興奮してしまったのよね?
 恥ずかしがらなくてもいいのよ、美希ちゃん。触手に纏わり付かれる快感に、美希ちゃんは目覚めてしまったのよね?
 そして、恐れているのね?乱れ狂ってしまう事を……コントロール出来ない自分を恐れているのね?
 でもね、美希ちゃん!美希ちゃんは、コントロールが効かなくなる事が、自分がカンペキでなくなる事だと
 思っているようだけれども、それは違うのよ!これはカンペキな“美”なのよ!
 カンペキとは、解放することなのよ!美とは、解放よ!自分を解放するのよ、美希ちゃん!
 美とは、自分を解放することなのよ!!!自分を解放することが“カンペキ”なのよぉぉっ!!!!」

 タコの愛撫によって、美希の体はさらにエキサイトする。
「スゴいわ!美希ちゃんの中、キュウキュウ絞まってるわぁ!奥からアツいのが溢れ出てくるわぁぁ!
 美希ちゃん味のおつゆが、ドクドク溢れ出てきて、私の触手、ズポズポニュルニュル、入っちゃうわぁぁ!!」
もうすっかり敏感になってしまった美希の体内で製造される、美希のウェルカムジュース
(made in mktn【lot 1919】)によって、タコの触手の侵入が、より一層、容易になりましたとさ。
そして、タコの愛溢れる言葉によって外された、美希の心の重石。沈められていたものが急浮上する。
「浮いてる……あたし、浮いてるのぉ!!」
それは、水中で感じるものとは、また違った浮遊感。
「美希ちゃん……溺れてしまったのね、快楽の海に!!」

 完全に剥き出しになった美希の心と体に、容赦ない愛が降り注ぐ。
「ずっとイッてるぅ!!ずっとイッてるのぉぉ!!ずっと、ずっとぉぉ!!もっと、も゛っどぉ゛ーー〜〜〜っ!!!!」
いよいよ、タコは最後の仕上げに入る。
「ほらほら、ほぉ〜ら!!もっと鳴くのよ、喘ぐのよ、叫ぶのよ!!
 今の美希ちゃんは何?言って!言ってぇぇっっ!!」
「あたし……あたし、カンペキィィィィィーー〜〜〜ッッッ!!!!!!」

 

 先程から美希の顔にへばり付いて、口元やら耳やら首筋やらを吸っていた小ダコが言う。
「親ビンの番が終わったら、次はアタチが、この自慢のイボイボでチュパチュパしてあげっかんね!
 クリちゃんから、お尻の穴まで、コスってコスってコスりまくって、い〜っぱいイカせて、
 美希ちゃんのエッチ汁を、吸って吸って、吸い尽まくってあげっかんね〜!!チュウチュウ……」





 了

105名無しさん:2016/05/24(火) 07:28:08
>>104
相手がタコだと背徳感ぱない。
朝からスゴいもん読んでしまったw

106Mitchell&Carroll:2016/06/05(日) 23:14:02
よろしくお願いします。


『Re:』

ラブ「――それで、ラビリンスは遺伝子の研究も進んでたんだ」
せつな「ええ。クラインやノーザはその技術で生み出されたの。ほかにも、遺伝子を分析
    して、その人に適した職業、食べる物、着る物、読む物から聴く物まで、何もか
    も全て“管理”されていたわ。おまけに寿命まで…」
美希「死ねって言われたら死ぬ、みたいな…」
祈里「動物さん達にだって、自発性というものがあるのに…」
せつな「そういうものは尊重してなかったわ。知らないし、信じてもいなかった。感じる
    事すら出来なかったの。でも、こっちの世界では、自分で決断することが多いか
    ら、感じたり気付いたりする事が多くて…」
ミユキ「そういえば、ラビリンスには、乗り物とかはあったの?」
せつな「こっちの世界で言うところの自動車みたいなものはあったけど、それもやっぱり
    管理されていて、衝突しそうになると勝手にブレーキが掛かるように仕組まれて
    いて…でもそれは結局、運転手の責任逃れだから、そのシステムは今では廃止さ
    れています」
タルト「進んどるンやなぁ〜」
シフォン「キュア〜」
せつな「それにしても美味しいわ、このドーナツ!」
カオル「お日さまの光をたっぷり浴びた小麦と、お日さまの光をたっぷり浴びたオジサン
    の真心で出来てるからね。グハッ!」
                                     END

107Mitchell&Carroll:2016/06/06(月) 01:11:50
グロ注意


『Reverse』


ラブ「たまには息抜きしないとね!」
美希「遊園地、久しぶりね〜」
祈里「貸し切りみたいだけど……」
ありす「うふふ。この遊園地は(以下略)」
ラブ「じゃあ、みんな!好きなアトラクション、好きなだけマンキツしちゃお♡」
せつな「私、アレにするわ!」
マナ「お供します!地の果てまでも!!(≧Д≦)ゞ」
六花「――あっ、待って!その子は……」

(ゴーカート・始動)
せつな「私の華麗なハンドル捌(さば)き、見せてあげるわ!」
(キューキュキュキュキュッ)
マナ「オロッ」
せつな「ん?」
マナ「ゴクン(―_―|||)」
(キュキュキュキュキュッ)
マナ「オ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛!!!!」

(遠くから見ていた)
六花「あ〜あ、やっちゃった…‥」
ありす「あらまあ……」
亜久里「レディたる者が、何たる有様……」
真琴「ウ……オエ゛ッ」
レジーナ「な〜に、もらいゲ〇してんのよ。ねえ、それより誰かポップコーン買って来て」
アイちゃん「キュピオロロロ……」
六花「いけない!さっき、ミルク飲ませた後にちゃんとゲップさせてなかったわ!」
シフォン「キュアオロロロ……」
ラブ「いけない!さっき、キュアビタン飲ませた後にちゃんとゲップさせてなかった!」

せつな「(アカルンで登場)大変なの!マナが……キャーーッ!?」
六花「ああ……こっちも今、取り込んでてね……」
せつな「うっ……」
ラブ「せつな!?」
せつな「ラブ……できちゃったみたい」


つわ……じゃなくて
おわり

108Mitchell&Carroll:2016/06/06(月) 01:14:28
やはりグロ注意


『続・Reverse』


亜久里「――というワケで、マナの三半規管を鍛える特訓を行いますわよ!!」
六花「なにも、遊園地に来てまで……」
レジーナ「燃えてんね〜」
亜久里「当然ですわ!見ていられませんもの!」
ありす「たしかに、何時、走行中のバスや飛行中のジェット機の上で戦うか分かりませんものね」

亜久里「まずはコレですわ!“コーヒーカップ”!!」
マナ「いきなりキツイのが来たね……」
レジーナ「マナ!一緒に乗ろ!」
マナ「う、うん……」

レジーナ「アハハハ!楽しーい☆」
(ぐるぐるぐるぐる)
六花「いくらなんでも、勢いよく回り過ぎじゃない?」
ありす「レジーナさんは加減というものを知りませんから……」
マナ「ちょっ、レジー……オエエエエ゛!!」

ラケル「マナはパスタか何かを食べたケル?」
六花「こらこら、分析しないの!」
ランス「あの色からすると、きっとトマト系でランス〜」
シャルル「マナは今朝、ナポリタンを食べてたシャル!」
ダビィ「さすが、洋食屋の娘だビィ」

亜久里「次はコレですわ!“メリーゴーラウンド”!!」
ありす「以前、私の所有する馬に乗った際には平気でしたが……」
祈里「(いいなぁー)」
六花「あの時は生き物だったけれど、今度は機械仕掛けだから、果たして上手く行くかどうか……」
美希「馬だけに……“うま”く行くかどうか……」

(♪♪♪)
マナ「……あ、大丈夫かも。楽しい音楽で気分も紛れオエエエ゛!!」

亜久里「最後は特別講師にレッスンしていただきますわ!!」
キュアパッション「特別講師・キュアパッションよ!」
亜久里「では先生、デモンストレーションをお願いします!」
キュアパッション「プリキュア・ハピネスハリケーン!!(ぐるぐるぐる)」
亜久里「マナにはコレをやってもらいますわ。パッションハープの代わりに、このウチワを持って……」
真琴「この遊園地で売っているウチワね」
亜久里「では、スタート!」

マナ「(ウチワを持ってぐるぐるぐる)う、うう……」
六花「マナ、いい調子よ!」
マナ「(ぐるぐるぐる……)ゴックンゴックンゴックン……」
ありす「耐えるのです、マナちゃん!」
亜久里「あと5秒!4、3、2、1……合格ですわ!!」

ラブ「ねえ、みんなでマナを胴上げしようよ!」
みんな「「マーナ!マーナ!マーナ!」」
マナ「あはは、あははは……ウッオエエエエ゛!!」
みんな「「キャーーッ!!?」」


END.

109名無しさん:2016/06/07(火) 23:32:24
>>106
>>107
>>108
これってやっぱ、『Re』三部作!?
いやぁ、行き過ぎたら「戻る(す)」のって、大事だよね〜(棒)
それにしても、せっちゃんの勘違いが素敵すぎる。

110一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/06/12(日) 21:35:33
こんばんは。
三カ月以上間が空いてしまいましたが(汗)長編の続きを投下させて頂きます。
5〜6レスお借りいたします。

111一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/06/12(日) 21:36:08
 しんと静まり返った薄闇の中。ラブはベッドの上にそっと半身を起こすと、隣にある寝顔を見つめた。
 閉じられた長い睫毛。小作りで均整の取れた顔立ち。額に一筋だけかかった黒髪に思わず手を伸ばしかけて、すんでのところでその手を引っ込める。今はその安らかな眠りを、少しでも邪魔したくは無かった。

 小刻みに震える身体を抱き締めた感触が、まだこの手に残っている。あまり力を入れたら、手の中で消えてしまうんじゃないかと思うほど、弱々しくて儚げだった。
 あんなに怯えたせつなを見たのは、いつ以来だろう。

(良かった。せつな、よく眠れてるみたいだね)

 掛布団が規則正しく上下するのを見ながら、確か前にもこんな距離で、せつなの寝顔を見つめたことがあったな、と記憶を辿る。
 あれは、せつなが初めて桃園家にやってきた日。まだせつなの部屋が出来ていなくて、ラブのベッドで一緒に眠った夜のことだ。

 森の中で二人、互いに全てを懸けてぶつかったあの日。
 心が通じ合ったと思った矢先に訪れた別れと、奇跡の再会。
 そしてラブは、初めてラビリンスの――せつなの置かれていた、あまりにも冷酷な現実に触れた。

――ねえ。せつなは幸せ? せつなの幸せは、なぁに?

――せつなはいつも一人で居るし、寂しいのかなぁって。

――せつなも自分の体を大切にしなきゃ、周りの人たちが心配するよ?

 友達だと思って発した数々の言葉が、せつなを傷付けていた。
 友達だと思って過ごしてきた日々が、せつなを追い詰めていた。
 それが悲しくて、悔しくて、今度こそあたしが付いてるからね、と涙をこらえてその寝顔に誓った夜。
 でも、せつなの苦しみに比べれば、自分の涙なんて、本当に取るに足らないものだったと思う。

 過去の自分の行いを悔い、せつながずっと苦しんできたことを、ラブは知っている。だから、ラブはせつながイースだった頃のことを尋ねたことは無かったし、せつなもまた、その頃のことを語ることは無かった。
 それでいいと思っていた。仲間になり、家族になったのは、今のせつな。悲しい過去を振り返るより、その分もっともっと楽しい毎日を積み上げて、未来で幸せゲットしてほしいって思ったから。
 でも今日みたいに、せつなが未だに過去の自分の影に怯え、震えているのを見ると、いつになく心が揺らいだ。
 悲しい、というのとは少し違う。なんていうか、小さな後悔の芽のようなものが、心の中にむくりと頭をもたげたような……そんな感じがした。

(せつなは、せつなだよ。それは何があっても変わらない。だけど……本当にこれで良かったのかな。せつなが、これまでどんなところで、どんな風に過ごしてきたのか。何を考えて、何を感じて来たのか、もっと知ってたら……もっとせつなのために出来ることが、あったのかな)

 ラブは、せつなの寝顔をもう一度覗き込んでから、再びベッドにそっと身体を預けた。胸の上で祈るように両手を組んで、天井を見つめる。

(今、あたしに出来ることって、何だろう……)

 淡い色彩の天井は、今は常夜灯の陰になり、ぼんやりとした闇に霞んで、ラブの目に映った。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第5話:届かない声 )



「せつなさん。注文しておいた新しい食器、届きましたよ」
 ホールの入り口から、給食センターの職員の声がした。
「ありがとうございます」
 テーブルクロスを畳んでいたせつなが笑顔で席を立って、その手から重そうな箱を受け取る。
 戻って来たところで、ラブはせつなに近付くと、わざとその肩にぶつかるようにして、箱の中を覗き込んだ。

「わぁ、きれいなお皿だね、せつな。グラスもこんなに沢山!」
「ラブったら。いきなりぶつかって来たら危ないじゃないの」
 もうっ、と軽く睨まれて、ラブはエヘヘ〜、と頭を掻く。せつなの口元が柔らかくほころんで、その唇が、しょうがないわね、と動いた。それを見て、ラブは内心、ホッとする。
 その声も表情も、立ち居振る舞いも普段通り、いつものせつなだ――そのことを何だか嬉しく思いながら、ラブはせつなを手伝って、食器をテーブルの上に並べ始めた。

112一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/06/12(日) 21:36:38
 一緒に作業をしていた職員たちが、テーブルに並べられた食器を見て集まって来た。艶やかな平皿の表面を感心したように眺めたり、グラスにこわごわ手を伸ばしたりしている。
 長い間、食事は栄養を摂取するための義務でしかなかったラビリンスでは、当然ながら、食器を選んだり、盛り付けを工夫したりということは皆無だった。料理教室で使われている食器類は、調理台や調理器具と同じく、異世界から買ってきたり、工場に特別に頼んで作ってもらったりしているのだという。
 その特注の食器の多くが犠牲となった思わぬ事件も、ようやく片付いた。これでまた、いつものように料理教室を開くことが出来るだろう。
 職員たちの様子を嬉しそうに眺めながら、食器棚に食器を仕舞い始めるせつなに、ラブがタイミングよく次々と、テーブルの上のお皿を手渡していく。

「う〜ん、この白いお皿は、お料理が映えそうだね。これにハンバーグを盛り付けたら、きっとすっごく美味しそうに見えるよ〜!」
「そうね。このお皿なら、付け合わせのニンジンも美味し〜く食べられるんじゃない?」
「うっ……せつなのイジワル。それなら今度の付け合わせは、ニンジングラッセじゃなくて、ピーマンのソテーにしようっと」
「そ……そこは別に、変えなくていいわよ」
 ラブとせつなが交互に冷や汗をかいてから、最後は二人同時に、プッと吹き出した。そのまま、アハハ……と楽しそうに笑い合う二人に、周りの職員たちもつられて笑顔になる。

「随分と楽しそうじゃないか。何か旨いものの話でもしているのか?」
 入口の方から、ひときわ明るくて大きな声がした。それを聞いて、もう一度せつなと顔を見合わせてクスリと笑ってから、ラブがブンブンと首を横に振る。
「違うよ、ウエスター。お料理教室で、せつなにどうやってピーマン食べさせようかなぁって話」
「何言ってるのよ。ラブがちゃんとニンジンを食べるのが先でしょ?」

「ほぉ。まさか苦手なものの話とは思わなかったぞ……」
 ウエスターが少し驚いたように呟く。そして得意そうな顔で、抱えていた紙袋をテーブルの上に置いた。
「じゃあ、今度は旨いものの出番だな。今日のドーナツは、今までの最高傑作だぞ!」
「わぁ、ウエスター、ありがとう! ねえねえ、せつなぁ、どれにする?」
 ラブが真っ先に歓声を上げ、早速ガサゴソと紙袋を覗く。が、一向にせつなの声が聞こえてこないのに気付いて、不思議そうに顔を上げた。

 せつなは、さっきまでとは打って変わった厳しい顔つきで、窓の方に目をやっていた。ウエスターも別人のような険しい表情で、せつなと同じ方向を見つめている。
 それを見て、最初は不思議そうだったラブの顔が、すぐに不安そうな表情に変わった。
 ウエスターはともかく、せつなのこういう反応を、プリキュアとして一緒に戦っていた頃、ラブは何度か目にしたことがあった。他の仲間が誰も気付いていない危険を察知して、いち早く警告してくれる。そのお蔭で助かったことは、何度もあったのだが。

(きっとこれも、せつながラビリンスで身につけた能力なんだよね……)

 何だか少し悲しい気持ちで、ラブがせつなの横顔を見守る。すると次の瞬間。

「うわーっ!!」

 その場に居た全員が、一斉に両耳を押さえてしゃがみ込んだ。ラブの手からドーナツがひとつ転げ落ち、コロコロと床の上を転がって、ぱたりと倒れる。
 衝撃波を伴った、耳をつんざくような凄まじい音。頭の芯に響くようなハウリング音が、突如襲い掛かったのだ。
 これだけの大きさになると、音は強大な暴力と化す。窓ガラスにピシリと亀裂が走り、それがみるみる広がって蜘蛛の巣のようになったかと思うと、ガラスがザァっと一瞬で崩れ落ちた。

「な……何だ、あれ!」
 よろよろと立ち上がった職員の一人が、裏返った声を上げて外を指差した。
 枠だけになった窓の向こうに、のそりと立つ大きな影。その姿を、職員たちだけでなく、ラブとせつなも、そしてウエスターも、驚きのあまり声も無く見つめる。

 ビル一つ分くらいの幅の円柱がぐんと縦に伸びた、巨大な棒のような胴体。その上に乗っかっている、これまた巨大な黒い円盤のようなもの。
 何よりラブとせつな、それにウエスターを驚かせたのは、円盤の上部に見えるつり上がった赤い二つの目と、胴体の中央にある、黒っぽい色の大きなダイヤだった。

「あれって……やっぱりナケワメーケ?」
「ええ。どうやら素材は、この区画の街頭スピーカーみたいね」
 怪物に厳しい目を向けたままでラブの質問に答えたせつなが、すぐに鋭い一言を発する。
「気を付けて! また来るわ!」

「ナケワメーケ! ワワワワワ……」

113一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/06/12(日) 21:37:55
 再びの音波攻撃に、今度は食器棚がミシミシと不気味な音を立て始めた。ウエスターが慌てて棚を押さえ、長い足を素早く伸ばしてドアを蹴り飛ばす。
「イース! ラブ! とにかくみんなを連れて逃げろ!」
「わかった。こっちよ!」
 せつなが先頭に立って、廊下に出る。職員たちを全員外に出してから、最後にラブが走り出した時。

「ホ〜ホエミ〜ナ〜。ニッコニコ〜!」
「ホホエミーナ、行け! ヤツを止めろ!」

 聞き覚えのある能天気な雄叫びと、ウエスターの凛とした声が、今飛び出したドアの向こうから聞こえた。


   ☆


 せつなとラブは、給食センターの職員たちを連れて、すぐ近くにある食糧庫を目指した。
 食糧庫なら、頑丈なシャッターが付いているから音波も遮ってくれるに違いない。おまけに広いし、何と言っても食糧なら豊富にあるので、避難場所としてはもってこいのはず――走りながら、せつながそう説明してくれる。

 外へ出てみると、周りの建物もそのほとんどが、窓ガラスが割れたり、ひびが入ったりしている。何が起きたのか訳が分からず通りをうろうろしていた人や、道端でうずくまっていた人たちが続々と集まってきて、二人の後ろに長い行列が出来た。
 後ろを振り返ってみると、ナケワメーケの前に、平べったい円形の身体のホホエミーナが立ちふさがっていた。どうやら給食センターのフライパンが素材らしい。その奮闘のお蔭か、耳を塞いでも防ぎきれないあの凄まじい轟音は、さっきと違って、今は時々途切れるようになってきている。だが、なかなか完全には止まないところを見ると、ホホエミーナはどうやら苦戦しているようだった。

「それにしても何なんだろう? あのナケワメーケ」
「分からない。あんな色のダイヤも、見たことがないし……」
 ラブの問いに、せつなが前を向いたまま苦い表情で答えかけた時、一人の幼い女の子が、通りをふらふらと歩いているのが目に入った。
「ここに居ては危険よ。私たちと一緒に、安全なところへ行きましょう」
 せつなが女の子の側にしゃがみ込み、目線の高さを合わせて、優しい声で語りかける。そして女の子の手を取って立ち上がらせると、その子としっかりと手を繋いだ。
 ラブが、そんなせつなの様子に、フッと頬を緩める。せつなはそんなラブの顔を照れ臭そうにチラリと眺めてから、女の子と一緒に列の先頭に立った。
「さあ、そこの角を曲がったところよ!」
 後ろに続く人たちにそう声をかけて、せつなが女の子を気遣いつつ、速足で交差点を右に曲がる。続く人々を誘導してから、自分も角を曲がろうとしたラブは、もう一度ナケワメーケの方を振り返って、そこで思わず足を止めた。

(あんなところに、誰か居る!)

 二体のモンスターが戦っているすぐ近くの陸橋の上に、小さな人影が見える。いくら途切れ途切れとはいえ、あんな近くでは轟音も物凄いだろう。もしかしたら取り残されて、動けなくなっているのかもしれない。

「ラブ〜! どしたの?」
 ラブが来ないのに気付いたのだろう。曲がり角の向こうから、せつなの叫ぶ声が聞こえた。それに大声で答えようとした時、またしても音波が襲って来て、ラブは慌てて両手で耳を塞いだ。

「早く助けなきゃ!」
 思わず二、三歩走りかけて、せつなのいる方を振り返る。心配させないように一言伝えてから行きたいが、今は普通に会話するのすら難しい状況だ。それにぐずぐずしていたら、あの人がますます危険にさらされるかもしれない。

(せつななら、分かってくれるよね?)

 ほんの少しだけためらってから、ラブは意を決して、元来た道を全速力で走り出した。

 ナケワメーケに近付くにつれ、さすがに音波の衝撃は強くなってきた。音だけでなく、物理的な圧力が、突風となってラブを押し戻そうとする。ラブは、足から力が抜けそうになるのを必死で堪え、建物の陰から陰へと移動して、じりじりと前へ進む。

 ようやく陸橋がよく見える距離まで近付いた時、ラブは、ん? と不思議そうに呟いた。
 ごしごしと目をこすって、陸橋の上に居る人物にもう一度目を凝らす。そして。
「あーっ、あなたは!」
 誰も聞いていないビルの陰で、ラブは思わず大声を上げた。

114一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/06/12(日) 21:38:54
 肩の上くらいで切り揃えられた、少しくすんだライトブラウンの髪。大きな緋色の目がひときわ強い存在感を放つ、色白で端正な顔立ち……。
 間違いない。昨日、公園の奥の畑で出会った少女――あの時、せつなと睨み合ったあの少女だ。だが、今日の彼女の服装は、昨日と一昨日会った時のラビリンスの国民服とは、明らかに違っていた。
 上半身は華奢な身体にぴったりとフィットし、裾はマントのように長くて後ろに広がった形の、黒い衣装。細い手足は、同じく黒の長手袋と、黒の長靴下に覆われている。
 ラブの目に焼き付いている、親友のかつての姿とは同じでは無いものの、それをありありと思い起こさせる姿。
 と、その時ちょうど音波が途切れ、彼女の声がはっきりとラブの耳に飛び込んで来た。

「何をしている、ナケワメーケ! もっと攻撃しろ! 愚かで恩知らずな者どもを、不幸のどん底に突き落としてやれ!」

 そう、彼女はそこに取り残されているわけではなかった。左手を腰に当て、右手を前に突き出して、ナケワメーケに檄を飛ばしていたのだ。

「え……えーっ!? あの子が、ナケワメーケを!?」
 またしても誰も居ないところで大声を上げてから、ラブがハッとしたような顔つきになった。
「不幸の……どん底に……?」

 彼女の言葉に奮起したのか、ナケワメーケは再び強烈な音波を放ちながら、街の方へと歩き出そうとしていた。ホホエミーナが立ちふさがり、その丸くて平べったい身体をナケワメーケに叩き付ける。
 ゴン、という鈍い音がして、ナケワメーケがぐらりとよろけ、地響きを上げてその場に倒れた。ホホエミーナが相変わらず笑顔のままで覆いかぶさり、ナケワメーケのダイヤに手を伸ばす。
 だが、そこで予想外の出来事が起こった。ホホエミーナの手がダイヤに届いたと思った瞬間、まるで感電でもしたように、ホホエミーナが弾き飛ばされたのだ。建物の上に倒れ込んだホホエミーナが、衝撃にビリビリと身体を震わせながら、必死で立ち上がろうとする。

「ハハハ……! 何度やっても無駄だ。お前にコイツは倒せない。それどころか、お前が居るお蔭で不幸がもっと広がっている。見ろ!」
「ホ……ホエミ……ナ……」
 勝ち誇ったような少女の言葉に、ホホエミーナが目尻をカタッと下げて、悲しそうに辺りを見回す。
 二体のモンスターが戦っている周辺の建物は、そのあおりを受けて、ほとんどが全壊、半壊の状態になっていた。
 戦意を喪失したホホエミーナに、ナケワメーケが再び音波を浴びせかける。

「もうやめて!」
 自分の声さえ聞こえない騒音の中で、ラブは思わず叫んでいた。
 鋭い目でナケワメーケを見据える少女の姿が、ラブの中でいつの間にか、かつてのせつなの――イースの姿と重なっていた。同時に、昨日自分の腕の中で震えていたせつなの姿が、それと重なるように蘇って来る。

「ダメ……。このままじゃ……ダメ〜!!」

 ラブはグッと拳を握ると、風圧に何度も転びそうになりながら、再び通りを走り出した。少女が立っている陸橋は、モンスターたちの戦いの現場を挟んで向こう側にある。
 路地から路地を斜めに走って、大回りをしてナケワメーケの背後に回ると、あんなにラブを悩ませていた音は嘘のように小さくなった。音は一定の方向に向けて、強く発せられているらしい。なるほど、それで少女はあんなにも平然と、立っていられるのだろう。
 どうにか少女の立つ陸橋の下までやって来ると、荒い呼吸を力づくで抑え込んで、精一杯の大声を張り上げる。

「もうやめてっ! どうしてこんなことをするの?」
「ん? ……ああ、お前か」
 少女がナケワメーケから目を離し、ラブの姿を認める。そして昨日とは打って変わった余裕の表情で、ふん、と鼻で笑った。

「どうして? そんなこと、聞いてどうする」
「だって……何か理由があるんでしょう?」
「ふん、異世界人のお前には関係ない。とっとと自分の世界へ帰るがいい」
「関係あるよっ!」
「何っ?」
 打てば響くように返って来たその言葉に、少女が初めて、怪訝そうな顔になる。が、続くラブの言葉を聞いて、その表情は次第に険しいものに変わった。

「あたし、あなたにこんなことして欲しくない!」
「……何を言ってる」
「人を怖がらせたり、傷付けたりしてしまったら、結局は自分が傷付くことになるんだよ。あたしはあなたに、悲しい顔して欲しくないの。だから、こんなこともうやめて!」
 今まで悠然とラブを見下ろしていた少女が、ギリッと奥歯を噛みしめる。そして矢のような速さで陸橋の上から飛び降りると、ぐいっとラブの胸倉を掴んだ。

115一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/06/12(日) 21:39:29
「お前、正気か? お前に私の何が分かると言うんだ」
「わ……分からないよ。でも……あなたはあたしを……助けてくれたじゃない。ほら、初めて会ったとき」
 息苦しそうに、それでも必死で言葉を押し出すラブをじろりと睨んでから、少女がラブから手を離す。
「あれは助けたんじゃない。お前がぶつかって来ただけだ」
「でも、転ばないように受け止めてくれた」
「だから、それはたまたまだっ」
 穏やかなラブの言葉に、思わず食ってかかってから、少女は珍しいものでも見るようにラブの顔を見つめて――もう一度、ふん、と小さく笑った。

「どうしても私を止めたいと言うのなら、一緒に来い。私がすることを、見届ければいい」
「え……」
「ふん、やっぱり私が恐ろしいか」
「そんなこと無いよ!」
 突拍子もない提案に戸惑ったラブが、少女の挑発めいた言葉に、再び勢いよく反論する。それを見て、少女が今度はニヤリと笑った。
「お前には、一切危害を与えないと約束する。途中で逃げ出したくなれば、いつでも逃げればいい。
ただし、来るのはお前だけだ。私が目的を達する前に、お前が私を止められれば、何でも言うことを聞く。止められなければ、もうこの世界にお前の居る場所は無い。尻尾を巻いて自分の世界に帰るがいい。何も出来なかった、無力感という名の不幸をお土産にな」
 ラブが、真剣な眼差しで少女の顔を見つめてから、こくん、と頷く。
「必ず止めてみせるよ、あなたのこと」
 きっぱりと言い放ってから、ラブは何かに呼ばれた様に後ろを振り向いて、あっ、と声にならない声を上げた。
 ナケワメーケとホホエミーナが戦っているその向こう側、ナケワメーケの轟音の只中に、驚きのあまり瞳を極限まで見開いた、せつなの姿があった。

「ふぅん、お仲間が来たようね」
 少女がせつなに気付いて、ニヤリと小さく笑う。
「どうする? 引き返すなら、今のうちだぞ?」
「ううん。でも……お願い、せつなと話をさせて」
「それはダメだ。ヤツはラビリンスの国民だ。こちらに来させるわけにはいかない」
「話をするだけだよ。行くのはあたし一人でいい」
「ふん、そんな手に乗るか。ヤツはメビウス様を裏切った元幹部。信用できるはずがない」
「……そう」
 ラブは、少女の顔を少しの間見つめてから、くるりとせつなの方を向くと、ありったけの声で叫んだ。

「せつな、ゴメン! 心配かけて、本当にごめんなさい! あたし、どうしても行かなくちゃいけないの。必ず帰って来るから……必ずみんなで、幸せゲットしてみせるから。だから、待ってて!」

 せつなが子供のようにイヤイヤと首を振りながら、何かを必死で叫んでいる。その言葉は、ナケワメーケの音波に邪魔されて、ラブの耳には届かない。
 だが、ラブはそんなせつなをじっと見つめた。耳ではなく、目にせつなの思いを刻み付けようとでもするように、大きく目を見開いて、見つめ続けた。

「愚かなことを。この状況で、声など届くはずがない」
 ラブの大声に一瞬キョトンとしてから、少女が苦々しそうに吐き捨てる。ラブは、そんな少女にチラリと目をやって、小さく微笑んだ。
 そしてそっと目を閉じてから、もう一度せつなを見つめると、思いを込めて、最後にこう叫んだ。

「せつなぁ〜! 大好きだよ〜!!」

「ふん、下らない。ナケワメーケ! 戻れ!」
 少女が呆れたようにため息をついて、ナケワメーケに指示を出す。
 ナケワメーケの身体が鈍く光ったかと思うと、その直後、高脚付きのスピーカーが地響きを立てて地面に倒れ、少女の手にはナケワメーケに付いていたダイヤがあった。

「ラブっ!」
 せつながこちらに向かって脱兎のごとく駆け寄る。が、それと同時に少女がラブの腕をぐいっと引いた。
 次の瞬間、少女とラブの姿は忽然と消え失せて、せつなはようやく静けさを取り戻した街に、一人呆然と立ち尽くした。


〜終〜

116一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/06/12(日) 21:40:17
以上です。ありがとうございました!
次はもう少し早く更新できるように、頑張ります。

117名無しさん:2016/06/14(火) 00:16:39
うおぉ! 続き待ってました! 赤目の少女がオリジナルながらリアリティがあって容姿まで目に浮かびますね!
かつての『彼女』と同じで、悪いことをしているけど、そこには強い意志がある姿がカッコいい。
ラブが彼女を放っておけないのがよくわかります。
連れ去られた先で一体何が待っているのか… 次回も楽しみに待っています!

118名無しさん:2016/06/15(水) 22:26:22
>>116
面白かったです!
ナケワメーケの出現は迫力ありましたね。ラブと少女の対峙など見どころも沢山でした。
ハラハラの展開に、次回どうなのるのか非常に気になります!

119名無しさん:2016/07/13(水) 00:25:30
ミントという植物は爆発的に繁殖するらしいですね。こまちちゃんの謎が解けました。

120名無しさん:2016/07/13(水) 07:53:56
>>119
あれ全部子供だったのかと思うと、それはそれで怖いっす!

121一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/07/18(月) 21:41:11
こんばんは。
長編の続きを投下させて頂きます。5〜6レス使います。

122一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/07/18(月) 21:42:10
 地面にゴロリと横たわった街頭スピーカー。しんと静まり返った通りに、せつなは呆然と立ち尽くす。

 ラブが消えた。目の前で忽然と消えてしまった。それも……戦闘服を着て、ナケワメーケを操っていた相手と一緒に。

 ガクガクと震えそうになる身体を必死で静め、二人が消えた陸橋の下を凝視する。
 一刻も早く、ラブを取り戻さなくてはならない。そのために、何かほんの些細なものでも、ラブの居場所を突き止められるような手がかりが残ってはいないか……そんな祈るような気持ちで目を凝らす。
 一人の人影すらない、ガランとした街。その普段の姿との違いの大きさが、より一層にせつなの不安を掻き立てる。と、その時、慌てた調子の大声が後ろから急速に迫ってきた。

「イース! ラブはっ!? ヤツはどうし……うぐっ」
「ウエスター! 一体、何があったの!?」
 考える間もなく身体が動いた。せつなの細い両腕が、息せき切って駆けてきた大男の胸倉を掴み、締め上げる。
「……すまん。全て俺の責任だ」
 せつなの手を払いのけようともせず、無様な前かがみの格好のまま、ウエスターが喉の奥から声を絞り出す。それを聞いて、せつなは我に返ったように、ようやく手を離した。

 ごめんなさい、と目を伏せたまま小さく呟くせつなの隣に立って、ウエスターも鋭い眼差しで辺りを見つめる。
 これは「失態」などと言う生易しい言葉で済まされることではなかった。何をしでかすか分からない相手に、戦闘力を持たない者が連れ去られたのだ。生かすも殺すも相手次第――それはすなわち、限りなく“死”に近い状態を意味する。
 ましてや被害者であるラブは、平和な世界で暮らす、今はこんな危険とは無縁の少女なのだ。そのラブをこの世界に連れて来たのも、彼自身。全ての状況は自分が招いたと言って過言ではない。

 やがてウエスターが、悔しそうに「クソっ!」と小さく呟いた時、彼の通信機が着信を告げた。
 ウエスターが通信機をスピーカーモードにする。すると、いつもより早口のサウラーの声が聞こえてきた。

「報告を聞いて、今、全てのモニターのチェックを終えた。その場所から半径二キロ圏内に、ラブらしき姿は無い。二人は本当に、そこから消えたのか?」
「間違いないわ!」
「おう! 俺も見ていたぞ」
 せつなとウエスターが口々に言い募る。
「だとすると、ラブを連れ去った彼女は、何か特別な手を使ったというわけか? いくら幹部候補だったと言っても、そんな芸当が……」
「ええい、つまり何の手がかりも無いと言うことかっ!」
 サウラーのいぶかしげな呟きを、ウエスターが苛立たし気に遮る。その時、通信機の向こうでけたたましいアラームが鳴り響いた。同時にウエスターの通信機が第二の着信を告げる。

「なんてことだ……ナケワメーケがまた現れたぞ!」
 通信機の向こうで、サウラーが心底驚いたような声を出す。状況から見て同一犯と考えるのが自然だが、こんな頻度でナケワメーケを召喚するのは、ウエスターやサウラーでも容易なことではない。
「ほう……思いのほか早く、チャンス到来か。今度こそヤツを捕えて、必ずラブを取り戻してやる!」
 凄みを帯びたウエスターの声が、それに答える。サウラーが一緒ならば、頭を使うのは彼の仕事ではない。これで心置きなく戦える――誰よりも前線に立って、誰よりも強い力で。殺気すら伴った闘志が、彼の全身から放たれる。
 せつなはそんなふたりに目をやって、もう一度陸橋の方に視線を戻し、硬い表情でその場所に背を向けた。

「全員、戦闘服を着用の上、現場に急げ!」
「ウエスター、私も……」
 そう言いかけて、せつなは口をつぐむ。
 今の自分では、戦力にならない。かえって足手まといになるのがオチ――それは自分自身が、痛いほどによく知っている。

 せつなの声が聞こえなかったのか、それとも聞かなかったことにしたのか、ウエスターの返答は無かった。そのまま部下に手短に指示を終え、通信を切って振り返る。
「お前は住人たちの避難を頼む」
 そう言うが早いか、ウエスターはマントを翻し、飛ぶように走り去った。
 見る見る遠ざかっていくその後ろ姿を見つめて、せつなは一人、唇を噛みしめた。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第6話:不幸の襲来 )

123一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/07/18(月) 21:42:54
「あ、居た! せつなさん、あの……」
 避難所になっている食糧庫の一室。ようやくせつなを探し当てた給食センターの若い女性職員は、声をかけようとして、慌てて思い止まった。

 薄暗い部屋の隅に立って、通信機で誰かと話している後ろ姿。その左手の拳がギュッと握られて、小刻みに震えている。だが。
「ごめんなさい。何かありました?」
 通話を終えて振り返ったせつなの表情は、いつもと変わらない穏やかなものだった。

「あ……はい。今日新しく避難してきた人と、昨日から居る人たちとの間で、ちょっと……」
「すぐに行きます」
 せつながうっすらと微笑んで、先に立ってスタスタと歩き出す。その様子に、職員は安心した顔つきで、せつなの後ろに従った。
 だから彼女には見えていなかった。歩き出したせつなの顔から瞬時に笑みが消え、代わりに眉間に深い皺が刻まれていたことを。

 ナケワメーケが街を襲い始めて――つまりラブが連れ去られて、三日目の夜を迎えようとしている。
 ウエスターの決死の覚悟も空しく、少女はまだ捕えられてはいなかった。従ってラブの行方も、ようとして知れなかった。

 この三日間、ナケワメーケは日に何度も、時と場所を変えて街を襲っている。信号、陸橋、電波塔……様々なものが次々と怪物になって、街を破壊し、人々を苦しめている。
 だが、あの最初の襲撃の後からは、怪物を操っているはずの少女の姿が、現場のどこにも見当たらないのだ。
 ナケワメーケ自体も、ウエスターたちが駆け付けるとそれを嘲笑うかのように、すぐに元の公共物に戻ってしまう。怪物を生み出したはずのダイヤも、少女の手がかりも、現場には何も残っていない。
 そんなことが、イタチごっこのように今日も延々と繰り返されたと苦い声で語ってから、サウラーはこう付け足した。

「何か少しでも手がかりは無いかと、僕も僕なりに探しているところだ。何か分かったら、すぐに連絡する」

 サウラーが気休めを言うところなど、せつなは今まで一度も聞いたことが無い。それを口に出すほど手立てが無いと言うことなのか。それでももう少し何とかならないものかと、つい苛立ちが口をついて出そうになって、せつなはグッと拳を握って、何とか堪えたのだった。



 避難者たちがいる方へ行ってみると、人々が二手に分かれて睨み合っていた。さっき職員が言っていた通り、今日ここに避難してきた人たちと、何日もここに居る人たちとが言い争っている。
「だから、こんな場所じゃまた襲われた時に危ないだろ!」
「私たちも、奥の部屋に入れてちょうだい!」
 彼らが言う“奥の部屋”とは、倉庫を片付けて作ったスペース。だからいざとなればシャッターを閉めて、外と遮断することが出来る。しかし、その場所は既に人で一杯になっており、仕方なく、今日来た人たちは手前の部屋――大きなガラス窓がある事務室に避難していた。

 血走った眼で詰め寄る避難者たちを、初日から避難している中年の男性が押しとどめる。
「奥はもう一杯だ。何か頑丈な物で窓を塞いで、出来るだけ危険を少なくしよう。だからここで我慢してくれ」
 男性の落ち着いた物言いに、新しい避難者たちが言葉を引っ込め、顔を見合わせる。だが、それも一瞬。
「そうだそうだ! 後からやって来たくせに、勝手なこと言うな」
「こっちだって狭いのを我慢して場所を作ったのに、何て態度なの?」
 男性の後ろから苛立った様子の複数の声が上がって、辺りの空気はさらに緊迫の度合いを増した。

「何よ、その言い方は。早い者勝ちだなんて誰が決めたの?」
「ここは公共の倉庫だろ。君たちだけの場所じゃない!」
「何だと? そんなに文句があるなら他所へ行けよ」
「こんな時に、街へ追い出そうっていうの!?」
「こんなに大勢が一か所に集まっていたら、食糧だって持たないぞ」

「もうやめて下さい。皆さん、少し落ち着いて!」
 そう言いながら、せつながいがみ合う二つの集団の間に割って入った。人々の苛立った、敵意すら感じられる視線が、一斉にせつなに突き刺さる。
 視線が痛い――そう感じられるほど強い視線にさらされることなど、このラビリンスで、かつてあっただろうか。

(本当に、ここはラビリンスなのかしら……)

 つい先日は、真逆の意味でそんなことを思った――それを思い出すと共に、ラブの笑顔が蘇って来て、胸の奥が、視線の痛みなどとは比べ物にならない痛みを訴えた。
 再び左手の拳を、ギュッと握る。

(こんな時、ラブなら……)

 目を閉じて深呼吸し、気持ちを落ち着ける。そして一人一人の顔を真っ直ぐに見つめながら、せつなは静かな、しかしよく通る声で語りかけた。

124一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/07/18(月) 21:43:26
「今、警察が、怪物の攻撃から私たちを守りながら、犯人逮捕に動いています。政府も懸命に犯人を捜しています。私たちは彼らを信じて、私たちに出来ることをしましょう。ここに居る人たち全員で、助け合って……」
 だが、そこでせつなの言葉が途切れた。ひとつひとつは小さいが、不安と不満の塊のような囁きが、さざ波のように部屋中を覆ったのだ。

「そんな、信じろなんて無責任に言われても……」
「もう三日よ? 一体いつまで待てばいいの?」
「いい加減、我慢の限界だ」
 せつなの顔を一切見ようとはせず、疲れ切った顔でブツブツと呟く声。
 なおも言い募ろうと息を吸い込んでから、伝えるべき言葉が見つからなくて、せつなが力なく息を吐き出す。
 が、そこでせつなの呼吸が止まった。ごく小さな、ため息と共に吐き出された力ない言葉が、雷のような衝撃を伴って耳を打ったのだ。

「以前は……メビウスの時代には、こんなこと絶対に無かったのに」

「おいっ! そんなこと、言うもんじゃないだろう!」
 慌てたように声の主をたしなめる、さらに小さな声がする。だが、さっきの声はおさまらない。
「だってそうだろう? 俺は事実を言っただけだ」
「メビウスは、僕たちを管理していたんですよ?」
「ああ。でもだからこそ、こんな犯罪なんて絶対に起こらなかった」
「事故も災害も、その存在すら知らないでいられたしな」
「じゃあ私たちは、メビウスに守られていた、ってこと……?」
「いい加減にしないか! せつなさんの前だぞ!」

 ごく小さな声で言い合っていた人々が、その一言でハッとしたように、せつなの方を窺う。
 うつむいたせつなの表情は、黒髪に隠れてよく分からない。
「せつなさん……」
 彼女の後ろに付き従っていた女性職員が、泣きそうな声で呟いた時。

「ナケワメーケ!!」

 窓の外から、新たな怪物の雄叫びが聞こえて来て、部屋の中は騒然となった。

「マズい。スピーカーの化け物だ!」
「全員、窓から離れろ! 耳を塞げ!」
「うわ、お願い、押さないで!」
 一斉に奥の部屋へと逃げ込もうとする人々。だが、ナケワメーケが続いて発したのは、あの頭が割れるような雄叫びでは無かった。

「愚かな者たちよ。これは、メビウス様からお前たちへの、制裁だ」

 ナケワメーケの頭部にあるスピーカーから、初めて人の声が響く。まだ若い女性らしく、少々甲高い声。だが、それを補って余りある堂々とした語り口調とよく通る声音には、聞く者に耳を傾けさせる威圧感のようなものさえ備わっている。

「メビウス様は、このラビリンスから完全に消え去ってなどいない。忠実な僕であるこの私の手で、復活される日を待っておられるのだ。大恩ある存在を裏切ったことを後悔するのなら、泣け! 嘆け! そして許しを請え! お前たちの不幸が、メビウス様の力になる」

 あまりにも衝撃的なことを知らされると、かえって言葉は出て来なくなるものらしい。
 部屋の中は一瞬、しんと静まり返った。が、続いて沸き起こったざわめきは、あっという間に部屋全体をパニック状態に陥れた。

「メビウスが……」
「復活するというのか……」
「再びこの世界に、メビウス様が……」
「私たちは、どうなってしまうの……」
「だけど、受け入れてしまえば、もうこんな目には遭わずに済むんじゃないか?」
「今、裏切ったと言われたじゃない。何の制裁も無しに許されると思ってるの?」

 自分達を苦しめているのが、単なる犯罪者による事件ではなく、絶対者であったメビウスによる粛清である――その通達は、わずかばかり残っていた人々の希望を消し飛ばすのに十分だった。
 立っていられなくなったのか、その場にへたり込む者が続出する。
 あちこちで火の付いたように子供たちが泣き出した。大人たちはそれをなだめるでもあやすでもなく、ただ呆然とその場に座り込んでいる。

「せ、せつなさん……!」
 さっきの女性職員が、すがるような目でせつなの姿を追い求め、え……と驚きに声を飲み込んだ。
 驚愕と恐怖に支配された部屋の中から、せつなの姿は忽然と消え失せて、もうどこにも見当たらなかった。

125一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/07/18(月) 21:44:22
 食糧庫の扉が、一瞬だけ内側に開く。外へと走り出た少女――せつなは、ギリリ、と音がするほど奥歯を噛みしめて、そびえ立つ化け物を睨みつけた。
 避難所の人たちがパニック状態に陥っていることなど、今はどうでもよかった。
 メビウスがまだこの世界に居るかもしれない。そんな衝撃の告白すらも、どうでもよかった。

(許せない)

 ナケワメーケの姿に、メビウスの本体であった巨大な球体が重なって見えた。
 もうダメかと何度も思うような状況の中で、そのたびに立ち上がって果敢に挑みかかった、仲間たちの姿が蘇る。
 傷つき倒れた自分たちを励まし、思いを託してくれたラビリンスの人たちのお蔭で、キュアエンジェルに覚醒した――あの時の高揚感も、ありありと思い出される。

(許せない)

 自分のことはいい。そもそも、ラビリンスの幹部であったイースがプリキュアになったこと自体、受け入れられるようなことではなかったのだから。
 だが、仲間たちが傷つき、ぼろぼろになりながらも、このラビリンスで戦ってくれたことを、その戦いに心動かして、応援してくれたたくさんの人たちの思いがあったことを、嘲るようにこんな形で無駄にしようとするなんて――。

(絶対に……許せない!)

 せつなの瞳が怒りのためか、常よりも赤く輝く。その鋭い視線が、ナケワメーケの右肩の辺りに流れた。
 そこに立っている小さな人影を認めて、大きく目を見開く。そして次の瞬間、せつなは獲物に襲いかかる獣のように走り出した。

「もう一度言う。これは、メビウス様からお前たちへの、制裁だ!」

 そこに立っていたのは紛れもなく、昨日ラブと共に消えたあの少女――ナケワメーケを操っている少女だった。

 走り出したせつなを遮るように、一台の車が滑り込む。現場に急行した警察車両だ。そこから腕っぷしの強そうな若者が、続々と降りてくる。
 彼らは一様に、警察支給の戦闘服を着用していた。ウエスターやサウラーのような過酷な訓練を積んだ者だけが扱える特別製ではないが、それでも使用者の身体能力を数十倍に底上げしてくれる、優れた武装だ。
 その者たちの中に、慌てたのだろうか、まだ戦闘服を手に持ったままの警官が混じっていた。せつなはそれを見つけるや否や、彼に狙いを定めて躍りかかった。

 その若者は、一瞬、自分の目を疑った。戦闘態勢にあるはずの数人の仲間が、突然目の前で、バタバタと地面に倒れ込む。一陣の風のように近付いてきた何者かが、ただの一撃で昏倒させたのだ。
 仲間の安否を確認する暇など無かった。すぐさま目の前の脅威――不届き者の方へと向き直る。だが、相手はもうそこには居なかった。
 後ろに気配を感じたと思った瞬間、首筋に手刀が叩き込まれる。そして抱えていた戦闘服が奪われると同時に、意外にも女性の声がこう囁いた。
「説明している時間が無いの……ごめんなさい」
 薄れゆく意識の中で、彼が最後に見たものは、ラビリンス人にしては珍しい黒々とした髪と、硬い表情でこちらを見つめる赤い瞳だった。



 警察車両から離れた路地に飛び込んで、せつなは改めて手の中のものに目をやった。
 ラビリンスの戦闘服――久しぶりに手にするそれは、かつて自分が着ていたものに性能では及ばない。だがこれがあれば、少なくとも目の前の敵と――少女と戦う力を得ることが出来る。
 急いで身に纏おうとして、せつなは自分の両手が小刻みに震えているのに気付いた。

(怖れているというの、私は……。この期に及んで)

「泣け! 嘆け! そして許しを請え!」
 少女の声が、頭の上から威圧するように降って来る。
 仲間たちの奮闘も、ようやく自分の足で歩き出そうとしているこの国の姿も、嘲るように踏み潰そうとする声――その声が、かつての自分の声と重なって聞こえた。

(もしかしたら、全てを無駄にしようとしているのは私の方かもしれない。それでも……だとしても!)

「誰も泣かせない! 誰も嘆かない! 私が……このイースが、お前を倒すっ!」
 言葉と共に、手にした戦闘服が旗のように勇ましく空中に翻る。だが、伸ばした腕がそれを纏うことはなかった。
 背後に感じる巨大な気配。と同時に大きな掌がせつなの腕を掴み、締め上げる。せつなの渾身の力を持ってしても、拘束は微動だにしない――。

「何をするのっ、放して!」
「すまん、イース。だが、今のお前にそいつは着せられない」
 いつの間に現れたのか、ウエスターがいつになく神妙な、哀し気にも見える顔つきで、そこに立っていた。

126一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/07/18(月) 21:44:54
「おかしなものでな。この職務に就いてから、こんな俺でも人間の感情ってヤツに、少しは敏感になって来たようだ」
「何が言いたいの?」
「上手く言えんが……とにかく今のお前を行かせたら、俺はもうお前たちに顔向け出来なくなる」
「……え?」
「ラブがあの時なんて言ったか、俺にも読めてしまったんでな」

――せつなぁ〜! 大好きだよ〜!!

 あの時、別れ際にラブが叫んだ言葉――声は聞こえなかったが、唇の動きで確かにそれと分かった言葉。この三日間、焦燥と一緒に何度も脳裏に浮かんできた言葉が、再びせつなの中に蘇った。

「だったら、私の気持ちもわかるでしょう!?」
「ああ、わかるぞ。そしてラブの気持ちもな。たとえ無傷でラブを救っても、お前が変わってしまえば、無事な再会とは言えないということもな」

 せつなの腕から、力が抜ける。ウエスターは優しい手つきで戦闘服を取り上げると、まだ信じられないような顔で後ろに立っていた持ち主に放り投げ、くるりと踵を返した。
「すまん。今度こそ、俺に任せてくれ」
 そう言った途端、ウエスターの纏う空気が、ガラリと変わった。


 ナケワメーケを取り囲んでいた警官たちが、にわかにざわめき出した。前線から一人の男が進み出て、怪物に向かって悠然と歩き始めたのだ。
「た、隊長、何を……」
「お前たちは下がっていろ」
 制止しようとした若者の声が、凄みのある声で遮られる。言われるまでもなく、その背中から発せられる強烈な気に、全員が圧倒されてじりじりと後ずさる。

「ナケっ?」
 ナケワメーケが、人影に気付いた。無謀にも、たった一人で近付いて来る男。その小さな姿目がけて、虫けらを踏み潰そうとでもするように、巨大な足を振り上げる。
 だがその瞬間、男の姿が消えた。そして次の瞬間。

「どぉりゃぁぁぁぁっ!」

 辺りを震わせるような雄叫びが響く。ナケワメーケは軸足を取られ、地響きを上げてその場に転倒した。

 すんでのところで離脱した少女が、驚きに目を見開いてから、それを隠すように、ふん、と鼻を鳴らす。
「そこまでだ! これがただのナケワメーケだと思うのか? お前にコイツは倒せない」
「さあ、それはどうかな?」

 言うが早いか、ウエスターは空中高く跳び上がった。全身の気を右の拳に集め、まだ起き上がろうともがいているナケワメーケのダイヤ目がけて、渾身の一撃を叩き込む。
 その途端、ビリビリと暗紫色の稲妻が走った。ナケワメーケのダイヤから強烈な衝撃波が巻き起こり、空気を不穏に震わせる。
 だが、ウエスターは拳を離さない。髪を逆立て、両目をカッと見開いて、裂帛の気合いをさく裂させる。

「ぐおぉぉぉぉぉっっ!!」

 ついに、ピシリ、という鋭い音がしたかと思うと、ダイヤは乾いた音を立てて粉々に砕け散り、埃を被って横倒しになった街頭スピーカーが、姿を現した。

 スピーカーから飛び降りたウエスターが、今度は少女の方へと歩み寄る。あまりのことに、その場から一歩も動けずにいた少女は、そこでやっと我に返って、戦闘の構えを取った。
 が、そこまでだった。放った蹴りを軽々と受け止められ、地面に叩き付けられる。飛び起きようとしたところで鳩尾に一撃を喰らって、意識を失ったまま、肩に担ぎ上げられた。

「さぁ、ラブの居場所に案内してもらおうか」
 ウエスターが少女を抱えて、警察部隊と共に車に向かう。
 その姿を追う見えない影があったことに、さすがのウエスターも気付いてはいなかった。

〜終〜

127一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/07/18(月) 21:45:26
以上です。5レスにおさまりましたね。
ありがとうございました!

128名無しさん:2016/07/23(土) 00:15:37
>>127
次回はいよいよクライマックス……ですか!?

129ゾンリー:2016/08/10(水) 20:50:50
はじめまして、ゾンリーと申します!
アコちゃんが大好きでよく響アコなど漁ってます。拙い文章ですが見ていただけると幸いです。
タイトルは「響とアコのお泊り会!」
2レス使わせて頂きます。

130ゾンリー:2016/08/10(水) 20:54:38
「いや急に言われてもなぁ…アコがなぁ…エレンもハミィとメイジャーランドに行くと言っておったし…」
「私がどうしたの?おじいちゃん」
急に出てきた私_調辺アコ_の言葉に反応せずにはいられなかった。
ここは調べの館。今日が終業式で明日から夏休みの私達は久しぶりに一緒に帰宅することになっていた。その途中で立ち寄ったのが調べの館だった。
「え?あ、あぁおかえり。皆もよくきたな。」
「「「「おじゃましまーす!」」」」
「で、どうしたの?」
「いやぁ、急に明日外泊することになってのぉ。場所が場所だけにアコを連れてく訳にも行かぬし一人にもできぬし…」

「それなら私のところに来る?」

そう言ったのは響だった。私の肩に手を置くと続けて話す。
「ウチも両親が明日明後日いないんだよね。いいでしょ?音吉さん」
「おお!それはありがたい!アコ、失礼の無いようにな。」
「なんか私抜きで話が進んでるけど…つまり明日響の家にお泊りって事ね。」
「んふふ〜楽しみ〜!」

〜翌日〜

「おじゃましますー。」
ドアをくぐると香りが他人の家だということを自覚させる。
ドタバタと足音がしたと思ったらすぐ目の前に響が出てきた。
「いらっしゃい!待ってたよ〜さ、上がって上がって!」
背中を押されて無理矢理中に入れさせられる。
「なんでそんなにテンション高いのよ…」
あきれ顔で聞くと「だって泊まりに来るなんて久しぶりだし!」と即答された。
案内された部屋に荷物を置いてとりあえずリビングへと向かう。
「ささ、何して遊ぼっか?」
一通り響とじゃれ合ったあと、ふと思い出したように響が言った。
「あ、そろそろ買い物行かなきゃね〜。何食べたい?」
「別に何でも…」
「んーじゃあカレーかな?」

ー近所のスーパーにてー

「人参、お肉、ジャガ芋、カレールー…あと何だっけ」
私は手元のメモに目を落とす。
「あと玉ねぎね。」
カートに玉ねぎを入れる響。そんな彼女の目を奪った…つもりは無かったがついついお菓子コーナーをチラ見してしまった。
そしてそんな私を響は見逃すつもりはなさそうで…
「え、何?お菓子買って欲しいの?も〜しょうがないなぁ〜」
「ちょ…違うって…!」
背中を押されて問答無用でお菓子コーナーへと。
なんとか(?)お菓子の購入を回避して会計を済ませる。
帰り道はパ○コを二人で分けてちゅーちゅー吸いながら帰宅。

ーもう一回響宅ー
エプロンをつけて私達は台所に立っている。
響はカレールーのパッケージの裏を見てうんうん唸っている。
私はちょうど野菜やお肉やらを切り終わったところ。
「とりあえずお肉を炒めればいいみたい?」
(疑問形…)
足場の小さい台からピョンと飛び降りると戸棚から手頃な鍋を取りだしコンロに置く。
「油〜油〜」
私がサラダ油を取り出すのを響は制止する。
「お肉から直接油が出るから油敷かなくていいの!」
「えっ!そうんなんだ…」
しぶしぶ元の場所へと戻す。____

131ゾンリー:2016/08/10(水) 20:55:13
「「でーきたっ!」」
鍋から見える茶色のトロトロの液体。湯気が良い香りを運んで来る。
「「いただきまーす!」」
響は中辛、私は甘口のカレーを口の中へと運ぶ。少し味付けを失敗してしまったけど、自分達で作ったカレーはいつもより美味しく感じた。

その後は後片付けや何やらをしていると時計は8:00を指していた。
そろそろお風呂に入らなきゃ…と思っていると響から衝撃的な一言が。
「もう8時か…せっかくだし、一緒にお風呂入ろうか!」
「うっ…ええええええええ!?」
「何か問題でもあんの〜?」
「いや別に…無い…け、ど…」
最後は尻すぼみになってしまった。
結局一緒に入る事になり、脱衣所で服を脱ぐ。
これまた響の提案で背中を洗いっこして湯舟に浸かる。
ゆっくりしようと思い息をゆっくりと吐く。
…まあ響はそうさせるつもりは無いようで。
「んでー?奏太とはどんな感じなの〜?うりうり〜」
「ちょ…っいきなりなによ!?ふ、普通の友達よ!」
いきなり顔を近づけられる。残念ながら逃げ場は無い。
「ふーん…それじゃあアコ自身はどう思ってるの?」
「それは…その…」
「あぁー!赤くなっちゃってるー!」
「の、のぼせただけだし!もう上がるもん!」
湯舟から出てバスタオルで身体を拭く。肩をすくめながらも響も詮を抜いて上がる。

パジャマに着替えた私達は並んでテレビの前に座っていた。
画面に映るのは暗い廃校。小さな松明を持って歩く一人称のカメラ。
私は膝を抱えて顔を半分うずくめてテレビを睨んでいる。
何となくで見たホラー番組だが、ものすごく…怖い。
「ひっ」
いきなり画面いっぱいに出てきた気色悪い顔に思わず声を上げてしまう。
「エ、エレンがいたら凄い事になりそうね…」と響。
「そ、そうね…」と私。
上の空で会話をしつつも早く終わってくれないかと願うばかり。
お互いにプライドが途中で終わる事を認めてくれないのだ。

〜番組終了〜

「「ふぅ…」」
《また次回》のテロップが消えると同時にため息をつく。
「ねぇ…一緒に寝ない?」そういう響の声には生気が無かった。
そしてその提案に私は
「…賛成」
と言わざるを得なかった。

ー響の寝室にてー
私と響はお互いに向かいあって一つのベッドに入っている。壁側に私、反対側に響が寝ている。
きつい位の密度が今は恐怖心を抑えてくれる。
「うぅん…」
響の腕が私の背中にまわって抱き込まれる。…まあ寝ていて気付かなかったんだけど…不思議と心地好かった気がする。

〜翌朝〜
「じゃあ…おじゃましました。」
「うん!またお泊り会したいね!次は皆で!」
「ホラー番組はナシで…ね。」

___これで、私のちょっとした初体験は幕を閉じたのでした。

132ゾンリー:2016/08/10(水) 20:55:48
以上です。
ありがとうございました!

133名無しさん:2016/08/10(水) 22:40:05
>>132
ゾンリーさん、ガールズサイトへようこそ!
いつもクールなのになんか子供らしくドキドキしてるアコと、自然体の響が良かったです。
ホラーが怖いのに、自分からは切れない二人が最高w
また書いて下さいね。楽しみにしています。

134名無しさん:2016/08/13(土) 00:47:52
>>132
響アコ愛が詰まっていて面白かった!
朝食はアレかな……お茶漬けと沢庵かな

135名無しさん:2016/09/01(木) 00:01:05
プリキュア書き手あるある
投稿した直後、ミスに気付きがち

136名無しさん:2016/09/01(木) 07:26:45
>>135
あるあるw

137一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:47:59
こんばんは。
大変遅くなりましたが、長編の続きを投下させて頂きます。
ちょっと長くなりまして、8〜9レス頂きます。

138一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:49:09
 少女にぐいっと腕を引っ張られたと思った瞬間、ラブは見覚えの無い、狭いトンネルのような場所に立っていた。
 振り返っても何も見えず、前を向くと、先を歩く少女の姿がかろうじて見えるだけのほの暗い場所。
 慌てて彼女の背中を追いかける。程なくして急に視界が開け、二人は大きな建物の前に出た。

「ここはどこ? 何のための建物なの?」
「軍事養成施設・E棟。歴代のイースが生まれ育った場所よ。今は政府によって封鎖されているけど」
「え……じゃあ、せつなもここで!?」
 少女の言葉に、ラブは目を見開いてから、改めて目の前の建物をしげしげと見つめる。

 大きな扉を中心に、左右に広がる黒々とした壁。その造りだけを見ると、どことなく占い館に似た佇まい。だがこの建物は周囲を高い塀で囲まれていて、森の中にあった占い館とは、受ける印象が随分違う。
 より無機質で、硬質で、他を寄せ付けない堅固な要塞のような雰囲気が感じられる場所――。
 少女の方は、そんなラブの様子には目もくれず、中央の重そうな扉に向かって、さっと右手を翳した。

 ギィ、という音を立ててゆっくりと扉が開く。
「開いた……。自動ドア?」
「いや、私が開けた。データを読み込ませてね」
 面白くもなさそうな声でそう言って、少女が無造作に建物に足を踏み入れる。慌てて続くラブの後ろで、大きな音を立てて扉が閉まった。

 入ったところはホールのような、だだっ広い場所だった。壁も床も、全てがグレー一色。その中でまず目に入ったのが、左右に伸びる長い階段だ。色合いやデザインは大きく異なるが、造り自体は、やはりどことなく占い館を思わせる。ラブは不思議な懐かしさを感じながら、階段の中程に目をやった。

(確かあの辺りに、せつなが立ってたんだよね。急に声を掛けられて、びっくりしたっけ……)

 初めて会った時のせつなの動きを目で追うように、ゆっくりと視線を動かす。が、少女は階段まで歩を進めると、ラブの視線とは逆の、地下へ伸びる階段の方へと足を向けた。
 少女に続いて、ラブも階段を下りる。そして地下の部屋にあるものを目にした途端、さっきまでの感傷は一辺に吹き飛んだ。

 一階と同じくグレーの壁に覆われた、薄暗い一室。その真ん中に置かれていたのは、天井まで伸びた透明な円柱状のゲージだった。かつて占い館で見たものほど大きくはないが、一人ではとても抱えきれない太さの筒の中に、濁った液体がラブの膝の高さくらいまで溜まっている。

「これって……まさか!」
 ラブが声を震わせた、その時。
「あら? 珍しい顔ねぇ。あなたがここに居るということは、その子の言うことも、あながち間違いでもなさそうね」
 どこかから妖艶な声が響いて、ラブは再び目を見張った。

 ゲージの前に突如、大柄な女性が現れる。腰まで伸びた濡れ羽色の髪。鮮血のように真っ赤な唇。そして相手を射すくめるような、鋭い眼光――。
「……ノーザ! どうして!?」
 思わず大声を上げてから、ラブはごしごしと目をこすった。ノーザの姿が、何だか透明がかっているように見えたからだ。それどころか、よく見るとその体の向こうに、後ろのゲージがぼんやりと透けて見えている。
 ノーザの姿は実体を伴ったものではなく、ただの映像のようだった。どうやらゲージの前に置かれた、まるで枯れ木のように見える小さな植木の枝先から投影されているらしい。

「あなた、本当にノーザなの? ホンモノはどこにいるの? このゲージは何? もう一度、不幸を溜めるつもりなの? 何のために!?」
「相変わらずうるさいわねぇ。少しお黙りなさいな」
 ノーザがそう言うと同時に別の枝がしなやかに伸び、蔦となってラブに襲いかかった。
 少女がラブの前に飛び出すと、手首を軽く返しただけで蔦を弾いた。ラブのすぐ横の壁が蔦の一撃を喰らって、その表面の一部がボロリと崩れ落ちる。
 目をパチパチさせるラブに一瞬だけ鋭い視線を送ってから、少女は真っ直ぐノーザの映像に向き合った。

「お手柔らかに。相手は生身の人間ですよ?」
「あら、ごめんなさい。それにしても、プリキュアを人質に取るなんて、なかなかやるじゃないの。こうしておけば、裏切り者の幹部たちも迂闊に手が出せないというわけね」
「……」
 少女はそれには答えず、ラブを制して自分の後ろに下がらせる。

139一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:50:11
「それで、ゲージの上がり具合は?」
「見ての通りよ。初めてにしては上出来だわ。それにしても、このラビリンスで不幸を集められるようになるなんてねぇ」
「それだけ、今のラビリンスが愚かな世界になったということ。メビウス様の統治が素晴らしかったという証拠です」
 そう言いながら、少女は今にもノーザの前に飛び出しそうなラブの二の腕を掴んで離さない。その様子を見て、ノーザは口の端を斜めに上げてニヤリと笑った。

「そうねぇ。でも、ウエスター君にあなたの姿を見られたのだけは、失敗だったわね」
「このダイヤを使ったナケワメーケならば、ヤツらが生み出すモンスターでも倒せない――おっしゃる通りなのは確認しました。ならば問題ないはずでは? それに、いざとなればさっきのように時空を開いて頂ければ……」
「こと戦闘にかけては、あまり彼を舐めると痛い目に遭うわよ? 姿を見られた以上、さっき時空を開いたのが最後の一回だと思いなさい。多用すれば、私の存在を奴らに察知される恐れがある。それだけは避けたい――わかるわよね?」
「じゃあ、どうしろと?」

 少女の言葉が終わるより早く、何かがシュッと部屋の中を横切った。と同時に、少女の手に握られていた暗紫色のダイヤが魔法のように消え失せる。
 さっきとは比べ物にならない速さと鋭さだった。気付いた時には一本の蔦が、絡めとったダイヤをまるで捧げもののように、ノーザの前に高々と掲げていた。

「っ……何を!」
 思わず声を荒げる少女をさらに威圧するように、ノーザが重々しい声を出す。
「あなたには二、三日休暇をあげる。後でちゃんと花を持たせてあげるから、しばらくは私に任せなさい」
「ノーザさんに? ですが、そんなこと……」
「あら、出来ないとでも思ってるの? 姿を隠したままでも、あなたの三倍、いや五倍は働いてあげるわ」
 フフフ……と楽し気に笑うノーザに、少女が少し悔しそうに下を向く。その隙をついて、ラブが少女の腕を振りほどき、ようやくノーザの前に躍り出た。
「お願い。これ以上、ラビリンスの人たちを不幸にしないで! みんな、今ようやく幸せゲットしようって、頑張り始めたところなんだよ。だから……」
「聞き分けのない子ねぇ。お前の出る幕じゃないって、何度言ったら分かるのかしら?」

 ノーザがそう言うが早いか、さっきよりはるかに太い蔦が、ラブを目がけて唸りを上げる。
 今度はとても弾けない――そう判断したのか、少女は咄嗟に覆い被さるようにしてラブを庇った。蔦はそのまま少女とラブの身体を絡めとると、二人を部屋の外へと放り出した。
「そうそう。まさかとは思うけど、ここが奴らに見つかったりしていないか、ちゃんと確認しておきなさい。頼んだわよ」
 ノーザのその声を最後に、部屋のドアはバタンと閉まった。

 跳ね起きたラブがドアに駆け寄る。だが鍵がかけられたのか、どんなにノブを回してもドアはびくとも動かない。
「ふん、全く懲りないわね」
 少女は腰に手を当てて呆れたように呟くと、すぐに元来た階段の方へと向かった。仕方なくその後に続きながら、ラブはもう一度閉じられたドアを振り返って、不安そうに胸の前でギュッと両手を組み合わせた。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第7話:瞳の中の炎 )



 どこからか、タン、という小さな音が断続的に聞こえてくる。それをぼんやりと聞きながら、ラブは目を覚ました。
 ここへ来て二日目の朝。ラブの寝室としてあてがわれた部屋は、同じ形と大きさの部屋がずらりと並ぶ、居住エリアにある一室だ。
 普段寝ている畳のベッドより一回り大きなベッドから降りて、まずは分厚いカーテンを開ける。窓の向こうに見えるのは、こちらもグレー一色の、高い塀だった。
 見上げると、四角く切り取られた空が小さく見える。青というより、塀の色より少し淡いグレーといった色合いの空からは、今の季節の四つ葉町よりずいぶん柔らかな、朝の光が差し込んでいた。

(せつなも見ていたのかな、こんな景色……)

 うーん、と大きく伸びをしてから、くるりと窓に背を向け、改めて部屋の中に目をやる。
 大きさだけは立派だが、あまりにもシンプルなベッドと机、それにクローゼットだったらしい細長い物入れがひとつ。封鎖されている建物だからこんなに殺風景なのか、それとも元々こんな部屋だったのだろうか。
 閑散とした部屋の中に、親友の姿を思い浮かべようとして――しかし、思い浮かんだのは昨日の出来事だった。

 再び目にした不幸のゲージと、まさか再会するとは夢にも思っていなかったノーザの姿。黒雲のような不安が広がりそうになる胸を、ギュッと両手を組み合わせて抑える。

――どうしても私を止めたいと言うのなら、一緒に来い。私がすることを見届ければいい。

140一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:50:42

 そう言って不敵に笑って見せた少女の瞳に、親友の――せつなの哀し気な瞳が重なって見えた。
 だからどうしても、彼女を止めたいと思った。でも……。

(あの子は一体、何をするつもりなんだろう……)

 昨日、ノーザに地下室から放り出された後、少女は真っ直ぐこの棟のコントロール・ルームに向かった。ラブはそんな少女を追いかけて、ノーザの言いつけ通り外部モニターのチェックを始めた彼女に、質問を浴びせかけたのだ。

「ねえ。あそこにノーザの姿が映っていたということは、ノーザがどこかに居るってことでしょう? どこに居るの?」
「今に分かるわ」
「部屋の真ん中にあったのって、“不幸のゲージ”だよね?」
「ええ」
「やっぱり。またナケワメーケで不幸を集めて、一体何をするつもりなの?」
「それもゲージが溜まったらすぐに見せてあげるわ。そう先のことじゃない」

 ここへ来る前よりは幾分柔らかな口調ながら、モニターから目を離さず、今に分かる、の一点張りの少女。

「じゃあ今は……何も教えてくれないの?」
「これでも随分と手の内を明かしているつもりよ。何と言ってもアジトに連れて来たんだから」
 不満そうに問いかけたラブに、初めてチラリと視線を向けて、彼女はそう言ったのだが。

(そう言われたって……これだけじゃ、何も分からないよ)

 はぁっと溜息をついた時、また部屋の外から、タン、という微かな音が聞こえた。

(何の音だろう……)

 廊下に出てきょろきょろと辺りを見回してから、向かいの部屋を覗いてみる。そこを自分が使うから、監視がしやすいように必ず部屋のドアを開けておけと、昨夜、少女に言われていたのを思い出したのだ。
 ラブの部屋だけでなく、少女の部屋のドアも開いていたが、部屋はもぬけの殻だった。寝具はきちんと畳まれていて、シーツに残ったわずかな皺だけが、そのベッドが使われたことを示している。
 誰も居ない廊下に、一人佇むラブ。やがてその瞳が、わずかに輝きを増した。

(……そうだよね。せっかく、せつなとあの子が育った場所に連れて来てもらったんだもの。ここでの暮らしのこと、そしてあの子のことをもっともっと知れば、もっとちゃんと話をすることだって出来るよね)

 おそらく少女は、あの音がしている場所に居るのだろう。ラブは耳を澄ませると、音のする方に向かって歩き出した。
 歩いては立ち止まり、また歩いては立ち止まりしながら、時折聞こえる音を頼りに少しずつ歩を進める。音は少しずつ大きくなり、それにつれてラブの足も少しずつ速まっていく。
 居住エリアを抜けた先には長い廊下が伸びていて、そのさらに先に、この建物の中でも特に重厚そうに見える大きな扉があった。
 物音は、どうやらこの扉の向こうから聞こえてくるようだ。何の音かは定かではないが、何かを叩き付けるような鋭い音――。

(まさか、またノーザがいるわけじゃないよ……ね)

 ラブはゴクリと唾を飲み込んでから、意を決してその重い扉を開いた。
 そこにはひときわ明るい照明の下、等間隔に立つ太い柱とグレーの床に囲まれた広大なスペースが広がっていて、その一角で一人飛ぶように動いている少女の姿があった。時折、タン! と床を蹴りつける音がひときわ大きく響く。さっきからラブが耳にしていたのは、どうやらこの音だったらしい。

(ここって道場……なのかな。おもちゃの国のカンフー道場より、何倍も広い……)

 とりあえずノーザでなかったことに少しホッとして、そろりと扉を閉める。
「危ないから、近くに寄らないで」
 少女はラブの方を見もせずにそう言うと、一旦動きを止めて、ふーっと長く静かに息を吐いた。

 少女の訓練が再開される。空手ならば“型”、拳法ならば“套路”と呼ばれているもの。正しい動作を無意識に出せるようにするための訓練方法だ。しかしその動きは、ラブの目にはまるで舞のように映った。
 見えない相手に向かって、多彩な技を連続して繰り出すような動き。複雑な動きなのに、そこには一切の迷いも無駄もない。
 強く、鋭く、速く、しかも滑らかで、ダンスのように美しく――。
 息を詰めてその動きを見つめていたラブは、ふと不思議な既視感を覚えて、その正体に目を見張った。

141一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:51:17
(この動きって、せつなの……ううん、パッションの動きによく似てる!)

 が、そう思ったのはほんの束の間だった。すぐにまた少女の動きに引き込まれて、その一挙手一投足を食い入るように見つめる。
 しばらくの間、その変幻自在で華麗な舞を披露してから、最後にもう一度、ふーっと長く息を吐いて、少女の訓練は終わった。

 パチパチパチ……という音が訓練場に大きく響き、少女が驚いた顔で振り返る。
 おそらくこの訓練場で、この音が発せられたのは初めてのことだったろう。それは、ラブが少女に対して、思い切り手を叩いて絶賛を贈った音だった。

「それって……一体、何の合図なの?」
「ああ、これ? 拍手だよ。合図じゃなくて、凄いっていう感動を伝えるものなの」
 ラブが手を下ろし、代わりに興奮気味な様子で少女に近付く。
「ホント凄いね! 動き速いし、力強いし、何よりすっごく綺麗!」
「……別に、そんなこと……」
 一瞬ぽかんと首を傾げた少女が、ラブの賛辞を聞いてさりげなくあさっての方を向いた。その顔は、訓練が終わった直後よりも心なしか上気しているように見える。

「そんな風に動けるようになるには、毎日ものすごく練習したんでしょ?」
「そりゃあ……訓練は毎日だった」
「凄いなぁ。何歳くらいから訓練を始めたの?」
「さぁ。物心ついた頃には、既に生活の一部だったわ」
「……そうなんだ。そんな小さい頃から、ずっと頑張って来たんだね」
「そうしないと、ここには居られなかったから」
 キラキラした目で問いかけていたラブが、その一言を聞いて、え、と言葉を途切れさせる。反対に少女の方は、おもむろに顔を上げてラブを見据えた。

 少女が胸の前のダイヤのような飾りに手をやると、黒い衣装が消え失せて、彼女の服装は初めて会った時と同じ、ラビリンスの国民服に変わった。
 そうしておいて、少女がラブの方に右手を差し伸べた。掌を上にしてクイッと手招きして見せながら、挑戦的な笑みを浮かべる。

「ちょうどいいわ、一本付き合って。プリキュアを務めたあなたの手並み、是非拝見したい」
「えぇっ!? む、無理だよぉ。今はあたし、プリキュアにはなれないもの」
「プリキュアじゃなくて、生身のあなたと手合せしたいの。だから私も、戦闘服を解除したでしょう?」
「いや、だから、そうじゃなくて……」
「来ないなら、こっちから行くわ!」
「ええっ!? ちょ、ちょっと待って!」

 次の瞬間、少女の拳がラブを襲った。慌ててよけると、すぐに次の一撃が追いかけてくる。
「わ、わ、わ……うわっ!」
 必死で後ずさりながら三つのパンチを避けたところで、ラブが足をもつれさせて勢いよく転倒した。痛てて……と言いながら起き上がろうとするラブを、少女は腰に手を当てて、やけに真剣な顔つきで見下ろした。

「はあ、びっくりしたぁ……」
「最大限に手加減しても、その程度なの? 会った時から思っていたけど……やっぱりあなた、プリキュアにならなければ何の力も無いのね」
「うん、プリキュアの力はね、変身して初めて出せるもので、あたし自身が持っている力じゃないんだ」
 そう言ってふらふらと立ち上がるラブを見ながら、少女がごく小さな声で呟く。
「一体、何故? メビウス様が、こんなヤツに……」
「へ?」
 何か言った? と問いかけようとしたラブが、少女の顔を見て、思わず口をつぐんだ。

 ラブを見つめる赤い瞳が、言葉よりも遥かに雄弁に、彼女の心を物語っている。
 怒り。憎しみ。そして――哀しみ。瞳に宿る激しい想いが燃え盛る炎となって、ラブの心をチリチリと焦がす。
 ラブにとっては長い時間。だが実際には、ほんの数秒のこと。
 少女は目を伏せるとくるりと踵を返し、黙って道場を後にした。
 バタン、と扉が閉まる音が背後から聞こえる。ラブは一歩も動けぬまま、しばらくの間、その場に立ち尽くしていた。



 棟の備蓄品としてまだ残されていたという非常食を、二人で朝食として食べてから、ラブは少女に、建物の中を案内してほしいと頼んだ。
 さっき少女の瞳に宿る炎を見てから、ラブはますますこの場所のことをよく知りたいと思うようになった。
 この子がここでどんな生活をしてきたのか。何を考え、どんな風に生きてきたのか知りたい――そう思った。
 少女は怪訝そうな顔をしたが、モニターのチェックが終わってからなら、と二つ返事で承知した。ノーザから待機命令を出されている今の状況では、侵入者の監視以外、特にやるべきことも無い。このまま時間を持て余すよりは――そう思ったのかもしれない。

142一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:52:51
 少女がラブの半歩先を行き、ラブはその斜め後ろを、辺りを見回しながら歩く。
 それぞれ異なる戦闘能力を鍛えるための様々なトレーニング・ルームや、数多くの専門書が並んでいたという図書室。少女は次々と案内して、ここがどういう施設だったのかをラブに説明していく。
 元はトレーニング・マシーンや器具類、おびただしい数の書籍がずらりと並んでいたというそれらの部屋は、今はどれもただの空き部屋に過ぎなかった。それでもラブは、何もない部屋の中をきょろきょろと見回し、興味津々の様子で少女にいくつも質問を浴びせる。
 そのせいか、少女の説明は次第に詳しいものになり、その内容も、いつしかここでの暮らしについての説明が多くなっていった。

 やがて少女が、学習室と呼ばれていた部屋にラブを連れてきた。ここも元は数多くの机やコンピュータがあった部屋だという。
 ぽつんと残された演台に両手をついて、ラブはガランとした部屋を、愛おしそうな目つきで見渡した。

「へぇ、同じ建物の中に教室があったんだ。道理で学校に行かなくて済むわけだよね……。ねえ、やっぱりクラス分けがあったり、担任の先生が居たりしたの?」
「“担任”というのは知らないけど……“クラス”というのはレベルのこと? それなら、全国統一で十段階に振り分けられていたわ。ここに居られるのは、レベル九と十の人間だけ」
「凄っ……それって五段階の通信簿に直すと、全員がオール五ってこと?」
「そうなるかしら。あなたはどのレベルだったの?」
「え、あたし? う、うーん……五段階の……真ん中くらい、かな。アハハハ……」
 苦し紛れの笑い声を上げるラブに、隣に立っていた少女はまたも呆れた顔になる。が、次のラブの質問を聞いて、その表情は不思議そうなものへと変わった。

「そんな優秀な人たちがみんなで受ける授業って、きっと難しいんだろうなぁ。ねえ、ここで毎日そういう授業を受けていたの?」
「授業って……日々の学習の? そんなものは、みんな自分の部屋で、コンピュータを使って勉強していた。ここには、まだ幼い頃に端末の操作を覚えたり、コンピュータでは学習しきれない、実験や演習をするために来ていただけ」

「え……じゃあ勉強って、小さい頃から一人でやってたの!?」
「一人じゃなくてどうやって勉強するって言うの?」
 ラブが目を丸くして驚く様子に、少女の方がさらに不思議そうな顔をする。
「だって、小さい子に一人で勉強しろって言ったって……」
「ここでは一日のスケジュールがきちんと決められていた。だからそれに従うだけのこと。幼い子供にだって簡単よ」

 なおも目を丸くしているラブに、少女はすらすらと一日のスケジュールを言ってみせる。
「起床、朝の訓練、朝食、勉学。昼食後、勉学と訓練。身体清掃と夕食の後は、一日の反省と明日の目標をパーソナルデータに入力して、就寝」
「凄い……。で、でも、お休みの日もあるんだよね?」
「丸一日なんか休んだら、頭も体も鈍るだけ。どうしてそんな日が必要なの?」
「え……じゃあ、楽しいことって、何も……」
 遠慮がちに呟くラブの言葉を聞いて、少女は不意に背筋を伸ばすと、妙に誇らし気な様子で言った。

「一日のうちで一番楽しみだったのは、反省の時間の冒頭に、メビウス様のお声が聞けることだった。ほんの短い時間、スピーカーからお声が流れてくるだけだったけど、それでも嬉しかった。有り難かった。こんなところでぐずぐずしていないで、早くメビウス様のお役に立ちたい。毎日その思いを新たにすることが出来た……」
 そう言って、少女が力なく首を垂れる。少女をじっと見つめながら話を聞いていたラブも、悲し気な顔になる。が、少女はそこで顔を上げると、憎々しげな目でラブを睨んだ。

「メビウス様はコンピュータだったのに……そう思ってるんでしょう?」
「ううん。そんなこと、あなたがメビウスを思う気持ちには、関係ないよ」
 一瞬の迷いも無いその答えに、少女がわずかに目を見開く。ラブの方は、何だか泣きそうな表情のまま、少女に向かって愛おし気に微笑んだ。
「本当に偉いね。そうやって小さい頃から、ずーっと頑張って来たんだ」
 だが。
「あなたが……お前が言うな!」
 少女の言葉が鋭い棘となって、今度は耳からラブに突き刺さった。

「偉い、ですって? ずっと頑張って来た、ですって? その努力を水の泡にしたのは誰? 私はもう少しで次のイースに――幹部になれるところだった。完璧に管理された正しい世界で、メビウス様のお傍にお仕え出来るはずだった。それを……このラビリンスを、こんな愚かな世界にしたのは誰!?」

 少女がラブの顔をひたと見据えたまま、押し殺したような声を出す。赤い瞳が、さっきより鋭い光を放って、ラブをねめつける。

143一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:54:00
「ふん、知っているわ」
 呆然とするラブに、少女は勝ち誇ったように言葉を繋いだ。
「あなたは……あなたたちは、ラビリンスなんかどうでも良かったんでしょう? あの時ラビリンスへ乗り込んだ目的は、メビウス様がやっと手に入れたインフィニティを取り返すため。ただそれだけだったんでしょう?」
「え……?」

 ラブの瞳が、小刻みに揺れる。
 確かにはじめは、奪われたシフォンを取り戻すことしか考えていなかった。「みんなの世界を元に戻そう」とは言ったが、その“世界”の中にラビリンスが入っていたかと言われれば、胸を張って「はい」と言える自信は無い。

 言葉に詰まるラブに、相変わらず鋭い視線を向けながら、少女がなおも言葉を重ねる。
「だけど、あなたたちが来て、ラビリンスは変わってしまったわ。メビウス様は、全パラレルワールドをラビリンスのような正しい世界にしようと、壮大な計画を立てておられた。だけどそれが成し遂げられなかったばかりか、このラビリンスまで愚かで醜い世界になってしまった」
「それは違うよ!」
 ラブがようやく顔を上げて、力強くかぶりを振った。

「今のラビリンスは、愚かなんかじゃない。醜くなんかない。みんな、これからは自分たちの力で幸せゲットしようって頑張ってるじゃない」
「本当に、みんながそう思ってるって言えるの? 異世界に住んでいるあなたに、今のラビリンスの本当の姿なんか分からないでしょう?」

――もう老い先短い身だ。このまま静かに、一人で過ごさせてくれ。

 不意に、二日前に出会ったあの老人の言葉が蘇って来た。少女に対してか自分に対してかよく分からないままに、ラブが目をつぶって小さく頷く。

「そうかもしれない。だけど……みんなそれぞれ、感じ方も考え方も違うから、自分の考えと違ったり、上手く行かなかったりすることだってあるよ。だから、みんなで話し合うの」
「メビウス様に正しく管理された世界では、そんなこと必要なかった。人と対立したり、争ったりすることも無かったわ」
「本音を言い合えば、喧嘩になることだってあるよ。でも、人間には互いを思いやる心があるんだよ。だから……」
「そんな心、今も昔も、私はこのラビリンスで一度も見たことなど無い!」
 少女がラブの言葉を遮って、きっぱりと言い切った。

「私は、あのお節介な元・幹部に連れられて、警察組織が争いの仲裁をする現場を何度か見たわ。私自身、人と争ったこともある。でも、結局争った人たち両方か、どちらか片方が罰を受けて終わりよ」
 少女が演台から少し離れ、腕組みをしてラブを見つめる。
「みんなそれぞれ、考え方が違うって言ったわね。それはよく分かる。人と意見が違うから、みんな自分が正しいと主張するのに必死で、人を思いやる余裕なんかどこにも無い」
「そんなことない。誰かと争う嫌な気持ちとか、分かってもらえない悲しい気持ちとか、みんな知ってるでしょう? だったら、相手の気持ちだって分かるはずだよ」
 ラブもいつしか演台から離れ、少女の正面に立ってその顔を見つめる。その真っ直ぐな瞳をしばらく見つめ返してから、少女はフッと、目の力をやわらげた。

「……あなたの世界はそうなのかも知れない。でも、だからと言ってラビリンスもそうとは限らないわ。人がそれぞれ皆違うなら、世界だって、それぞれ違うものなんじゃないの?」
「そんなこと無いよ! ラビリンスの人たちだって……」
「まぁいい。私の言っていることが正しいと、すぐに分かるわ。それに自分の努力だって、このまま水の泡にしておくつもりは無い」
「それ、どういう意味? そのために、不幸のゲージを? ねえ、一体何をするつもりなの?」
 ラブが少女ににじり寄り、不安そうにその腕を掴む。
「今に分かるわ」
 少女は一瞬でラブの手を振りほどくと、先に立って学習室を後にした。



 その夜、昨夜と同じ部屋のベッドの上で、ラブは長い間、闇を見つめていた。
 小さく唸り声を上げたり、大きなため息をついたりしながら、何度も寝返りを繰り返す。
 夜の時間は、闇と静寂の中でのろのろと過ぎ、やがてラブがここへ来て三日目の朝が来た。



   ☆

144一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:55:14
 眠れないと思っていたが、明け方になって少しうとうとしたらしい。
 ラブがベッドの上に起き上がったのは、昨日よりも遅い時間だった。

 慌てて向かいの部屋を覗き、そこに誰も居ないのを確認してから、今度は食堂へと足を向ける。
 テーブルの上には一人分の食事が残されていて、やはり少女の姿は無い。その時ラブの耳に、昨日と同じ、タン、という小さな音が聞こえた。

 道場へ行ってみると、果たしてそこに少女は居た。昨日より厳しい顔つきで、動きもさらに速く鋭くなっている。
「今日は、スケジュール通りじゃないんだね」
「そろそろノーザさんが帰って来る。出撃の前には、それ相応の準備があるの。スケジュールにも組み込まれているわ」
 ラブの方を見ないまま、少女は息も乱さずに答える。
 そう、と小さく答えてから、ラブは大きくひとつ深呼吸をして、少女に一歩近づいた。

「あのね。聞いて欲しいことがあるの」
「何? 不幸のゲージのことなら、ノーザさんが帰って来たら……」
「ノーザが帰って来る前に、聞いて欲しいんだ。せつなの……イースだった、あたしの親友の話を」
 少女の動きが、ぴたりと止まった。

「せつなはね。あたしたちの世界に来て、メビウスの命令を果たそうと、凄く一生懸命だったんだ」
 少し悲しそうな、そして実に愛おしそうな表情で語るラブを、少女が怪訝そうな顔で見つめる。
「一生懸命って……その頃の彼女は、あなたたちの敵だったんでしょう?」
「うん。でもあたしたち、友達になったんだ。本当はリンクルンを……変身アイテムを奪うために近付いたって、後で言ってたけど」
「バカバカしい。そういうのを“潜入”と言うの。あなたを騙していただけ」
 少女が呆れたようにため息をついてから、それで? と先を促す。

「プリキュアになってからも、せつなはいつも一生懸命だった。どんな時でも、どんな小さいことでも、“精一杯、頑張るわ”って、そう言って頑張るの。あなたもそうやって頑張って来たんだよね?」
「あの人と……裏切り者と一緒にしないで」
 少女がラブから顔をそむける。
「あたしの力は、プリキュアに変身して初めて使える力だけどさ。せつなは普段から、すっごく強くて、頭も良くて……。その理由が、ここへ来て、あなたの話を聞いてよく分かったよ。小さい頃からずーっと頑張って来たから、身についたんだよね。メビウスのためだったかもしれないけど、自分自身の力として」
 そう言って、ラブは優しい笑顔で少女の顔を覗き込んだ。

「人がそれぞれ皆違うなら、世界だってそれぞれ違うんじゃないか……あなた、そう言ったよね? でも、一生懸命頑張って身につけた力が、水の泡なんかじゃなくてその人の力になるってことは、どの世界でも同じだと思うんだ。だから、あなたも……」

 次の瞬間、くるりと世界が反転した。ダン、という鋭い音と共に、肩と背中に衝撃が走る。
 気付いた時には、ラブは道場の床に仰向けに転がされていた。のしかかるような格好でラブを見下ろす少女の瞳が、今度は純度の高い怒りの炎を宿す。そしてラブの顔面に、高速のストレートが迫る――!

 思わずギュッと目をつぶる。だが、いくら待っても衝撃はやって来ない。
 恐る恐る目を開けると、ラブの鼻先ギリギリのところで、少女の拳がぴたりと止まっていた。

「……何の努力もせず、与えられた力だけで勝利を収めたあなたに、そんなこと言われたくはない!」
 少女が低く凄みのある声を出す。
「あの人が……イースがどんなに凄い戦士だったか、あなたなんかに分かるわけがない。彼女に追いつき、追い越すことだけを目標にして、私は……」
 少女がギリッと奥歯を噛みしめた、その時。
「どう? 休暇は楽しめたかしら」
 不意に、道場にノーザの声が響いた。



 少女が道場を飛び出し、地下室に走る。ラブも慌てて起き上がり、その後に続いた。
 一昨日は固く閉ざされていた地下室のドアは、今は大きく開かれている。部屋に入ると、既にラブの背丈ほどの高さまで液体が溜まったゲージが、二人を出迎えた。

 ノーザの映像が、相変わらず妖艶な笑みを浮かべて少女たちを見つめる。
「どう? 私の成果もなかなかのもんでしょう?」
「……お見事です」
 少女が無表情にゲージを見上げてから、ノーザに向かって頭を下げる。
「では、この子に見せてあげようかしら。裏切り者のラビリンスの国民たちの、不幸な姿を」
 ノーザの指が、パチリと小気味よい音を鳴らす。すると、ノーザの映像の周囲の空中に、幾つもの画像が浮かび上がった。

145一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:55:46
 見るも無残に破壊された、ラビリンスの街並み。
 我先に逃げようとして、将棋倒しになる人々。
 避難所で言い争っている、怒りと不安に満ちた、顔、顔、顔……。

 ラブの目が大きく見開かれる。それを見て、ノーザは実に楽しそうに、甲高い笑い声を上げた。

「ほらね。私が言った通りじゃない」
「そんな……。こんなの嘘だよ!」
 目を潤ませるラブを、勝ち誇ったような表情で見つめる少女。その目の前に、するすると一本の蔦が伸びる。少女に差し出されるような格好で蔦の先にあったのは、あの暗紫色のダイヤだった。

「さぁ、あなたの出番よ。ラビリンスの国民たちに教えて上げなさい、この不幸の意味を」
「不幸の意味って……どういうこと!?」
 ラブがノーザの映像に迫る。
「これはメビウス様の制裁だ、ってそういうこと。人の不幸は蜜の味。あなたがそれを知らせてあげれば、この世界の人間どもがどれだけ打ちのめされるか……。ゲージが上がるのが楽しみだわぁ」
 実に楽し気なノーザの言葉に、ラブは目に涙をいっぱい浮かべたまま、力一杯少女の両腕を掴んだ。

「ダメだよ! 行っちゃダメ! そんなこと聞いたら、みんな不幸に飲まれちゃう。せっかく立ち上がろうとしているのに、立ち上がれなくなっちゃうよ。お願いだから、そんなデタラメでこれ以上みんなを惑わせたりしないで!」
 と、その時、ラブの背後からもう一本の太い蔦が伸び、ダイヤに気を取られていた少女が反応する間もなく、ラブの身体を巻き取った。

「フフフ……相変わらず能天気ねぇ。私たちの計画がデタラメだなんて、どうして言えるのかしら? この子に教えてあげなさい」
「……本当に、間違いないんですよね?」
 ゲージの横に宙づりにされたラブに目をやってから、少女が初めてノーザを詰問する。
「あら、私が信じられないの? 疑うのなら、降りてもいいのよ?」
「いえ、そんなことは……」
 少女はかぶりを振ってから、ラブに向かってぶっきら棒な調子で言った。
「メビウス様は、もうじき復活なさるの。ノーザさんの力でね」

「嘘! だって、メビウスは自爆したんだよ? 復活なんてあり得ないよ!」
 ジタバタと身をよじって何とか拘束から逃れようとしながら、ラブが声を張り上げる。それを聞いて、ノーザの笑みが消えた。
「せっかく教えてあげたのに……痛い目に遭わないと分からないようね」
 ノーザがさっと右手を挙げると、蔦がギュッと締まって、ラブの身体を締め上げる。
「うわぁっ!」
 ラブは思わず悲鳴を上げて、苦しそうにケホケホと咳をした。

「おやめ下さい!」
 少女が大声を上げてから、我に返ったように小さく咳払いをする。
「そいつには、危害を加えないと約束しました。ですから……」
「甘いなぁ。そんなことで本当に幹部が務まると思っているの? まあ、最近の幹部には何故か愚か者が多いから、仕方ないのかしら」

 ノーザの嘲るような声に、少女の目つきが変わった。グッと拳を握ってから、挑むようにノーザの映像を見つめる。
「私は、メビウス様を裏切った元・幹部たちとは違います。己の力は、メビウス様のために。それ以外のものには使わず、自分の望みを叶えてみせる!」
 言うが早いか、少女の手が暗紫色のダイヤを、躊躇なく掴み取った。

「いい覚悟ねぇ」
 少女の様子を眺めて、ノーザがニヤリと笑う。
「闇は人を不安にさせる。だから通告は、夜まで取っておきなさい。それまでは現状を確認がてら、あなたも一暴れすればいいわ」
「承知しました」

「待って!!」
 ラブがそう叫ぶと同時に、少女の周りの空間が歪む。ギュッとダイヤを握りしめた少女と目が合ったと思った次の瞬間、彼女の姿は消え失せていた。
「フフフ……。これで確実に、不幸のゲージは満タンになる」
 高らかなノーザの哄笑が響き渡る。なす術もなく瞳を震わせるラブの隣で、不幸のゲージが、ゴポリ、と微かに不気味な音を立てた。


〜終〜

146一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:57:13
以上です。ありがとうございました!

147名無しさん:2016/09/05(月) 06:10:13
>>146
相変わらずストーリーや世界観の作りこみがすごいな… 人の考え方が皆違って争い合うだけの今のラビリンスは
「こちら側」の考えからすると、解放されはしたもののまだ精神的に未熟な部分があるのかな、と思いました。

一方でメビウスを崇拝する少女にとって変わってしまったラビリンスは、幼い時分から努力し鍛えられた自分の存在意義が
否定されてしまうような感覚なんでしょうね、愚かで醜い世界と罵る裏に悲壮感すら見える彼女の行動に目が離せません。

ん〜! しかしこの時点でものすごい大作!! ノーザの目的や不幸のゲージがたまった時に何が起こるのか気になります
執筆大変だと思いますが次回も楽しみに待ってます!

148名無しさん:2016/09/06(火) 00:23:44
せつなが元居た場所の、冷た〜い感じが伝わって来ました。
非常食ってどんなだろ?気になる。

149Mitchell&Carroll:2016/09/30(金) 02:10:57
だいぶ前にランキングスレッドで出た話題の回収です。R‐20(ウソ)。


『PANICURE!』


〜某居酒屋〜
響「アコも成人したことだし、これでようやく皆そろって飲めるね!」
アコ「“あたし待ち”だったってこと?申し訳なかったわね」
奏「まあ、それ以前からちょくちょく集まって飲んではいたんだけど……特にあそこら辺は」
なぎさ「ほ、ほろか〜、ほろか、ろこ?」
ほのか「あはは、なぎさったら!私はここにいるじゃない!あはははは」
アコ「もう酔ってる……」
エレン「ふにゃふにゃ……」
奏「エレンももう酔ってる……そんなに飲んでなかったと思うけど」
みゆき「あ、いや……さっきちょっとマタタビ茶を飲ませてみたら、こんなんなっちゃった……」

えりか「ほらほら!ゆりさん、これ飲んでみてよ!あたしが作った特製カクテル!!」
ゆり「要らないわ。お酒は上品に飲むものよ」
えりか「しょぼーん」
いつき「じゃあ、代わりに僕が……」
つぼみ「それなら、私が飲みます!」
ゆり「……仕方ないわね。私が――」
全員「「どうぞどうぞ」」
ゆり「なっ!?」

はるか「みなみさん!私がお酌してあげますね!」
みなみ「ありがとう、はるか。お礼にキスしてあげるわ」
はるか「えっ!?」
みなみ「きららにも、日頃の感謝を込めて、キスしてあげるわ」
トワ「わたくしには……して下さらないのですか……?」
ラブ「た、大変!美希たんが!」
美希「あのね、美希たんね、寂しいの」
きらら「は、はあ……」
美希「きらら〜、チュ」
きらら「ちょっ……」
トワ「な……な……!?……ワイン!!赤ワインをありったけ持ってくるのです!!」

いおな「ねえ、どこかで蛙が鳴いているのかしら?ゲロゲロって……」
六花「えっ、カエル?(喜)」
亜久里「マナがトイレで吐いている音ですわ」
六花・いおな「「な〜んだ」」
ゆうゆう「さっきからありすちゃんはメニュー表とにらめっこしてるわね」
ありす「どれも0(ゼロ)がひとつ足りませんわね」
いおな「普段、どんなものを食べて&飲んでるのよ……」

せつな「ねぇ、聞いて。ラブったらね、今朝、今夜に向けての準備運動だなんて言って、朝からビールを飲み始めたのよ。それも特撮のDVDを観ながら(グビッ)。そうそう、私達、夜寝る前にお話しするんだけど……(グビッ)一緒の布団に入って。そしたらラブったら先に寝ちゃうのよ。私はまだ全然話し足りないというのに。この前だって、あたしが襟足を1ミリ切ったことにも、ラブったら全然気付かないのよ。それに、私はピーマン嫌いを克服したというのに、ラブったら未だにニンジンを食べられないまま……亜久里ちゃんを見習って欲しいわ。ニンジンで思い出したんだけど、ラブったら、ダンスに某市非公認キャラクターの動きを取り入れようなんて言い出して……私、あんなテンションの高い動き、正直言って無理だわ。やるなら一人でやりなさいっていうの!あとねえ、私がイースだった頃、ラブったらスタジアムで暴走した私を取り押さえようとして、思いっきり鯖折りをキメてくれたのよ。あれ、ホントに苦しかったわ。ナキサケーべの副作用よりも効いたもの。手加減を知らないのよね、ラブったら。ラブったら……ラブったら……」
祈里「だ、誰か、せつなちゃんを止めて……」

150Mitchell&Carroll:2016/09/30(金) 02:13:24
ひめ「ねぇ、そのバターコーン食べないの?貰っていい?」
レジーナ「ちょっと!なに勝手にあたしのバターコーン食べてんのよ!」
ひめ「いいじゃない、ちょっとくらい。ケチンボ!」
レジーナ「あのねぇ、世界中のお酒とおつまみは私の物なの!わかった?」
六花「二人ともワガママね……」

マナ「ふぅ〜っ、スッキリした!……まこピー、どこ見てるの?」
真琴「アルコールが……私の魂を浄化してくれる・・・…」

ゆうこ「ご飯に日本酒をかけて、っと」
いおな「侠飯(おとこめし)ってヤツね」
ラブ「漢(おとこ)と聞いちゃ、黙ってられないよね!よーし、あたしも!」

のぞみ「う〜ん♡なんで居酒屋メニューってこんなに美味しい物ばっかりなんだろう?全品制覇するの、けって〜い!!」
みゆき「スゴい食欲……」
あかね「こっちにも似たようなんがおるで……(呆)」
なお「あかね、そんな所で突っ立ってないで、お好み焼き、焼いて」
あかね「おっしゃ、任しときぃ!(喜)」
れいか「ふふ……なおの美味しそうに食べる姿が、何よりの肴です(悦)」

めぐみ「やよいちゃんとあゆみちゃんはお酒飲みながらゲームしてるし……」
あゆみ「すみませーん、ワインもう1本……いや、3本下さい!」
みらい「い、今……3本って言いました!?」
あゆみ「白ワインでHP回復♡」
やよい「赤ワインでMP回復♥」
ひめ「二人の前に空瓶が……」
いおな「次々と並べられて……」
ゆうこ「さながら勲章バッジのようね」

みらい「――って、リコ、顔が真っ赤!」
リコ「で、でんでんよっへないひ!」
ことは「♪で〜んでんむ〜しむし……」

咲「パンとビールって、合うんだよね〜」
舞「ふたつとも、元々エジプトのものだからね」
満「薫、日本酒ばかり飲んでるわね」
薫「満こそ、カクテルばかり飲んでるじゃない」

アコ「――奏、強いのね。響ったら、一発で撃沈したっていうのに」
奏「私はほら、ケーキ作りで、ラム酒とかブランデーとか、しょっちゅう嗅いでるから」
アコ「ふぅ〜ん」
エレン「ふにゃふにゃ……――ハッ!ここはどこ?それにしても喉が渇いたわ。あ、こんなところに水が」
満「薫の日本酒、飲まれてるわよ」
薫「それなら、ついでに満のカクテルも飲ませてあげましょう」
響「グー……」
満「――奏、あなたのところの子が、猫に変身しちゃったわよ」
エレン改めセイレーン「ふぎゃーッ!!」
くるみ「あっ!あたしの秋刀魚の蒲焼き、奪われた!」
亜久里「わたくしのマグロユッケも、ですわ!」
ほのか「あはは!あたしのカツオのタタキ、あはははは!」

151Mitchell&Carroll:2016/09/30(金) 02:14:20
咲「唐揚げか手羽先か……手羽先か唐揚げか……」
舞「唐揚げじゃない?でも手羽先も……いや、やっぱり――」
こまち「羊羹かしら?」
咲舞「「それはない」」

トワ「ぶはッ!?」
はるか「トワちゃんが血を吐いた!?」
きらら「いや、赤ワイン飲んでて咽(むせ)っただけだから」
いおな「ブハァッッ!!!」
はるか「いおなちゃんも赤ワインを?」
ゆうこ「そうじゃなくって、この店のクーポン券を家に忘れてきちゃったんだって。そのショックで……」
はるか「じゃあコレ、本物の血なの!?キャーッ!!」

うらら「のぞみさんが、キムチの汁、飲みまーす!」
のぞみ「ゴクッ、ゴクッ……」
ことは「一気!一気!」
のぞみ「ゲホッ!!」
りん「なに馬鹿なことやってんのよ」
みるく「のぞみは相変わらずアホミル」
ひかり「――布巾をもう一枚。このお皿と、このお皿を下げて……と。あとそれから……」
りん「ごめんね、ひかりちゃん。気を遣わせちゃって」
ひかり「いえ、あかねさんのお店の手伝いで慣れていますから」
かれん「かわいいわね、ひかりさん。キスしてあげるわ」
なぎひゃ「ラメェー!ひかりはあたひのものなのー!」
なお「誰のものでもないと思うけど(モグモグ)。そんなことより、あかね、餅入りスペシャルお好み焼き、焼いて(モグモグ)」
あかね「任しときぃぃ!!(大喜)」
なお「それから、もんじゃ焼きも焼いて。……あかね?あかねったら!」
あかね「あ゛ぁん?誰に物言うとんねん、コラ。んなもん自分で焼かんかい、ボケ!シバいたろか、アホンダラ」
みゆき「た、大変!あかねちゃんとなおちゃんが、取っ組み合いのケンカを!」
なお「焼いてくれたっていいじゃないのさ!!」
あかね「じゃかぁしい、このドアホォ!!」
ひめ「あーあー、二人ともお酒が入ってるからエキサイトしちゃって……」
レジーナ「くだらないことでケンカして、ほんとガキよね〜」
いつき「よしっ、ここは僕が止める!」
えりか「おっ、いちゅき〜。可愛い下着穿いてるねぇ」
いつき「ちょっと、えりか!スカートめくらないでったら!――そういえば、ゆりさんは?」

〜おでん屋〜
ゆり「……ふぅ。もう一杯、いいかしら?あと、がんもをちょうだい」
オヤジ「あいよ」


燗……じゃなくて完

152Mitchell&Carroll:2016/09/30(金) 02:18:45
『真っ赤なランチは愛情の証』


「せっちゃん、赤が好きだものね〜。せっちゃんの好きな赤色の食材で、喜ばせてあげましょ!」

 本日の四葉中学校、給食はお休みで、お弁当の日。4時限目終了後、せつなは机の上で、真っ赤な巾着袋を紐解く。真っ赤な弁当箱には、母・あゆみの愛情が込もっている。蓋を開けてみると、そこには――

・お赤飯(真ん中に梅干し)
・タコさんウインナー
・カニかま
・プチトマト
・紅生姜

 そして、トマトジュース(果汁100%)。

「――お母さん!トマト、被ってるわ!!」


 完
 
 食

153Mitchell&Carroll:2016/09/30(金) 02:20:26
『LET IT BE』


うらら「う〜〜ん、なかなかピンキーが見つかりませんね〜」

かれん「――あら?あの人達もピンキーを集めているのかしら。何かを手にしながら歩いているようだけれども…」

りん「あれ、危なくない?よそ見してるから…」

うらら「それに、車を運転しながら何かを弄っている人も見かけます」

かれん「みんな、何に夢中になっているのかしら?」

のぞみ「見て見て!太ったトンボが虻を食べてる!」

こまち「これはシオカラトンボね!」

うらら「のぞみさん達は別な方に目が行っちゃってるみたいです……あっ、キレイな蝶々!」

りん「ふう、仕方ない。かれんさん、あたし達でピンキーを探しましょ。……あ!珍しい花!」

かれん「まあ!珍しい形の雲だわ!」


おわり

154Mitchell&Carroll:2016/09/30(金) 02:23:59
アイカツ(ジョニー時代)とのコラボ


『Burnin’』


 まるで血のように赤い液は、グングンと上昇して、その値は40度に達する勢いだ。
 もはや、この暑さはどうしようもない。神頼みしようにも、口の中は渇ききって、喋る事すらままならない。外で勢い良く伸びゆく植物達が羨ましい。自分達はというと、今にもドロドロに溶けて、地面に吸い込まれそうになっているというのに。

 洋食屋・豚のしっぽ亭にて、マナと六花はテーブルに突っ伏し、これまでの事を走馬灯のように思い浮かべていた。ジンジャーエールの氷はすでに溶けきっている。
 ――どこからともなく、シャカシャカという乾いた音が聴こえてくる。
「誰?こんな時にマラカスなんか振っているのは」
 音がだんだん近づいてくるにつれ、気温もどんどん上昇し始める。ブラウスがすっかり汗で体にへばり付いてしまった六花の苛立ちも、頂点に達した。
「鬱陶しい事この上ないわね!」
 音の正体を探るべく椅子から立ち上がろうしたその時、客を装った男が店に入って来た。

「チャオ!プリキュアの皆さん」
「あなたは……?」
「俺様の名は――」
 男は燃え上がった。炎が紙ナプキンに引火し、慌ててマナの父が消火器で対処する。
「ククク……そんな泡でこの俺の情熱が治まるとでも?」
「ナプキンをこんなにして……許さない!」
 マナと六花はすかさず変身した。男は興奮した様子で、
「ここでは狭い。表へ出ろ、プリキュア!」
 と言って、二人を公園へと連れ出した。

 灼熱の炎天下、全身に炎を纏った男の振るマラカス――そのテンポは更に速くなっていった。先客のアブラ蝉も、ミンミン蝉も、ツクツク法師も、負けじとテンポを上げて求愛の雄叫びをあげている。
 素早い影が、公園の土に映った。
「マラカスといえば、私よ!」
「ハニー!来てくれたんだ!」
 世界を駆け巡るプリキュア、キュアハニーが到着した。男に負けじとマラカスでリズムを刻んでいる。
「小娘が!この俺のテンポについて来れるとでも?」
 蝉が鳴きまくる中、両者のマラカス合戦は続く。だが暫くして、一匹の蝉が小便を撒き散らしながら戦線離脱する頃、
「ダ、ダメ……手首が……それに、耳も……」
 そう呟いてキュアハニーは、トリプルダンスハニーバトン(マラカスモード)と共に崩れ落ちた。
「ハニーになんて事を!プリキュア・ダイヤモンドシャワー!!」
 キュアダイヤモンドの氷の攻撃が、男を襲う。だが、炎の壁の前に呆気なく蒸発してしまった。
「そ、そんな……」
 戦意の喪失と暑さでよろめくキュアダイヤモンドの肩は、危機を察して駆けつけた仲間によって支えられた。
「目には目を、炎には炎を!プリキュア・ルージュファイヤー!」
「プリキュア・サニーファイヤー!」
「プリキュア・フェニックス・ブレイズ!」
 3つの炎の攻撃が男に直撃し、巨大な火柱が立ち上がる。
「ルージュにサニー、それにスカーレット!」
 再会の感動も束の間、火柱の中から男の笑い声が聞こえて来る。
「いいぞ!この熱で俺は更にパワーアップする!」

155Mitchell&Carroll:2016/09/30(金) 02:24:52
 誰もが絶望したその時、軽やかなカスタネットの音が響いた。
「その折は私の先輩とアミーガス、つまり友人が世話になった。紅林珠璃、参・上!」
 そのアイドルはカスタネットの音をマラカスとシンクロさせながら、男と共に炎の螺旋を描いて空へと舞い上ってゆく。
「あんなに高く……あの子、あのままじゃ太陽の熱で、燃え尽きちゃうよ!」
「羽も生えてないというのに……ワイヤー、ワイヤーはどこ?」
 下から何やら聞こえてくるが、そんな事はお構い無しに、珠璃は不敵な笑みを浮かべてこう答えた。
「望むところよ!エル・ソル、つまり太陽と私、どちらがアレか、根競べだわ!」
 意気揚々と宣戦布告する珠璃に対して、聞こえてくるのは、
「なに馬鹿な事を言っているの!さっさと降りてらっしゃい!」
「アイドルって大変なんだね〜……」
「――あ、これちゃう?うわっ、ワイヤーやなくて蜘蛛の糸やった!」
 などといった言葉ばかり。

 せっかくアパリエンシア、つまり登場したというのに、見せ場無く終わってしまうことへのディズグスト、つまり悔しさと、哀れみに満ちた言葉で足を引っ張る者達へのドロール、つまり悲しみで、たまらず珠璃は泣き出してしまった。その涙の一滴が、男の唇に触れ、潤した。
「――グラシアス、お嬢さん。俺は行く。偉大なる父の元へ――」
 男は、珠璃を突き飛ばし、代わりに自分だけが太陽へと消えていった。その瞬間、より大きな輝きを放ちながら。


 ようやく収束がついた後、皆は豚のしっぽ亭に集い、新しい大きな氷の入ったジンジャーエールで喉を潤した。
「それにしても、あの男の人、いったい何だったのかしらね?」
 六花はマナから借りたTシャツに袖を通しながら問うと、珠璃は答えた。
「あの男は、消えゆく前にこう言っていたわ。『ちょっと目立ちたかっただけ』だと。……プエドレペティール、つまり――」
 そう言って、ジンジャーエールをもう一杯、頼んだ。


 夕方の空を飛行機雲が横切ってゆく。「モエルンバ」と言う文字を描きながら――。



 Adios.

156Mitchell&Carroll:2016/09/30(金) 02:25:37
以上です。ありがとうございました!

157名無しさん:2016/09/30(金) 07:47:35
>>156
うわぁ、ミシェルさん一気に来たぁっ!
相変わらずぶっ飛んでいながらwキャラの特徴捕らえた語り口お見事!
楽しませてもらいました。
そしてやっぱり、ゆりさんは別格なんだなぁと再認識しました。

158名無しさん:2016/10/09(日) 23:17:31
くどまゆさん、引退か〜。惜しいなぁ。こんなパワフルなボーカリスト、なかなかいないだけに。

159名無しさん:2016/10/10(月) 14:28:19
>>158
そうだね〜。
5もスイートもテーマソング好きだった! フェアリートーンも好きだった!(特にファリーがっ)
今までありがとう!
「新しい夢」って何だかわからないけど応援してる。

160名無しさん:2016/10/12(水) 23:54:21
『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。四つ葉中学体育祭(前・後編)――』の感想

走り方とか、綱引きの作戦などの細かい描写が凄いと思いました。ラブとせつなの二人三脚に感動しました。
読み応えがありました。

161名無しさん:2016/10/13(木) 01:03:23
>>160
作者です。ありがとうございます!

162Mitchell&Carroll:2016/10/22(土) 23:55:15
ちょっとバッドエンド気味なんです……。よろしくお願いいたしします。

『プリキュア和食教室』


れいか「みなさん、こんばんは。青木れいかです。」

ほのか「雪城ほのかです。」

ことは「アシスタントの、はーちゃんだよ♡」

モフルン「番組マスコットのモフルンモフ〜!みんな、割烹着姿がとーっても似合ってるモフ〜!」

れいか「本日の料理は【マグロのお刺身】です。」

ほのか「日本でお刺身という調理法が発達したのには 醤油の普及によるところが大きいと言われています。生魚特有のくせを、醤油に浸けることによって和らげることができます。また、タンパク質が固まって薄い膜ができ、うまみを閉じ込めてくれます。塩分で表面が締まるので、水気の多い魚も水っぽさがなくなり、張りのある状態になります。」

モフルン「ほのか先生、くわしいモフ〜!」

れいか「今日は特別に、冷凍マグロを丸ごと1匹用意していただきました。」

ほのか「冷凍の造り身を購入した場合、冷蔵庫に入れてそのまま解凍すると時間もかかる上、うまみのある汁“ドリップ”が流れ出てしまいます。そこで、約1%の塩水にマグロを1分ほど浸けて水気を拭き取り、ペーパータオルに包んで冷蔵庫に入れると、3時間ほどで丁度良い状態に――」

ことは「キュアップ・ラパパ!マグロよ、解けなさい!!」

ほのか「あっ……。」

マグロ「(赤い汁ドバー。)」

モフルン「“ドリップ”がダダ漏れモフ〜。」

れいか「………。」

ほのか「………。」

れいか「……本日の料理は、予定を変更して【熊鍋】をお送りいたします。」

モフルン「わ、何するモフやめ――」

〜〜〜お花畑〜〜〜

163名無しさん:2016/10/23(日) 08:06:23
>>162
いや、そもそも●●にならないって・・・モフルン、ピーンチ!

164makiray:2016/10/31(月) 23:13:17
 どうも、キュアエコー大好きな makiray です。
 あゆみちゃんと、お向かいの家のワンコのお話。
 4スレお借りします。

次へ、次へ (1/4)
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 ある日曜。
 母親からお使いを頼まれたあゆみがマンションに戻ってきた。
 向かいの清水家を覗き込む。
 その家はモモという名の犬を飼っている。出かけるときに姿が見えなかったのだが、散歩でもしていたのであればもう戻っているのではないかと思った。
「あれ」
 いた。だが、奥の方の犬小屋に入ったままである。
「モモちゃん?」
 あゆみが声をかけるとモモはこちらを見た。だが、起き上がる様子がない。
 どうしたのだろう。心配だが、勝手に入るわけにもいかないし、と思っていると玄関のドアが空き、向かいの主人が餌の入った器を持って出てきた。
 だが、いつもなら飛び出してくるモモが関心を示さない。むしろ、あゆみの声に上げかけた上体を戻してしまった。
 清水は、困ったな、という顔をしたが、あゆみに気付くと笑顔を向けてきた。
「あの…」
 その笑顔に甘えるようにして、門の中に入る あゆみ。
「モモちゃん、どうしたんですか?」
「それが、昨日からこんな感じなんだよ。餌もほとんど食べないし」
「え…」
 あゆみは心配そうにしゃがんだ。モモの頭をゆっくりとなでるが、モモは何の反応も示さなかった。
「まぁ、モモもそんなに若いわけじゃないしねぇ」
「そうなんですか?」
「六歳だからね。人間で言ったら、そろそろ 50 歳だ」
「…」
 まさか。
 あゆみの唇が震えた。
 モモがいなくなる? それも、そんなに先のことではない、というのか?
「あの。
 獣医さんには」
「診せた方がいいかとは思うんだけど、今日はお休みだし。今週はちょっと私の仕事が立て込んでてね。来週の土曜日くらいかな」
 一週間も先。こんなに弱っているのに。
(その間に何かあったら…)
 あゆみはその想像を振り切ろうとしたが、振り切れなかった。悪い想像ばかりが浮かんでくる。何かないのだろうか。自分にできることは。
「あ」
「どうしたんだい」
「あの、診てもらえるかもしれません」

165makiray:2016/10/31(月) 23:14:08
次へ、次へ (2/4)
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 清水は、距離があることにわずかに難色を示したが、あゆみの必死の表情に折れた。車の後ろにモモを乗せ、向かった先は四つ葉町だった。
「あの…」
 山吹祈里の父、正は、迎えたときこそ笑顔だったが、モモを見るなり厳しい表情になった。あゆみは、そんなにモモの具合が悪いのか、と逆に不安を強めた。
「モモちゃん…」
「あゆみちゃん」
 祈里は、あゆみを診察室の外に連れ出そうとしたが、あゆみは動かなかった。手を震わせながら診察の様子を見ている。
「昨日あたりから、ということでしたが、何かお気づきになったことは」
「そうですね。
 食欲がない様子で、ずっとうずくまっていて」
「ほかには。どんな些細な事でも構いません」
「あぁ、さっき連れ出した時、犬小屋に敷いてあるタオルに赤いものが」
「…。
 血?」
 あゆみが呟く。正は、一度、モモに視線をやった。
「けがをしている様子はなかったのですが…。
 どの辺りでしたか」
「犬小屋の奥の方です」
「奥…」
 正はそれを聞くと眉をひそめ、もう一度、モモの顔を覗き込んだ。
「モモちゃんのエサはどうしていますか。
 皆さんの食事、例えばお味噌汁を与えたりは」
「いえ、そういうことは。ドッグフードだけです」
「そうですか…」
「先生、モモちゃんは」
「近くに小学校などは」
「はい?」
「子供たちが勝手にモモちゃんに餌をやったりはしませんか」
「あぁ、そういうことはないようです」
「散歩のときに何か食べたりは」
「させないようにはしていますが、目を離したすきに、ということが絶対にないかと言われますと…」
「ふむ…。
 ちょっと検査をしましょう。
 みなさんはちょっと外でお待ちください」

166makiray:2016/10/31(月) 23:15:14
次へ、次へ (3/4)
----------------

 じりじりと時間が過ぎる。診察室のドアが開くと、あゆみははじかれたように立ち上がった。
「先生」
「おそらく、タマネギ中毒でしょう」
「タマネギ…中毒?」
 あゆみは何を言われているかわからない、という様子だったが、飼い主である清水の方は理解したようだった。
「うちでタマネギを食べさせたりはしませんけど」
「えぇ。
 それで、近くに小学校があるかどうか、というようなことを聞いたのです。それもないとすると、散歩中に清水さんの目を盗んで、タマネギの入った何かを食べたんでしょうな」
「あの、どういうことなんですか」
 正は、あゆみの様子に、むしろ笑顔を見せた。
「犬はね、タマネギを食べられないんだ。急性の貧血になってしまうんだよ」
「貧血…ですか」
「おそらく、タオルについていた赤いもの、というのは尿の中に溶けだした血液だと思う」
「先生、大丈夫なんですか。
 貧血で、あんな風になっちゃうなんて!」
「大丈夫よ」
 祈里があゆみの手を取る。
「お父さん、吐いたりしていない、ということはそれほど多くはないんでしょう?」
「あぁ」
 正が頷く。
「おそらく心配はない。
 ですが、今夜は念のためにこちらで預からせていただけますか。
 なに、明日か明後日には回復すると思いますよ」
 清水が、お願いします、と言うと、あゆみは手で顔を覆った。よかった、という声が漏れてきた。

167makiray:2016/10/31(月) 23:16:05
次へ、次へ (4/4)
----------------

「あゆみちゃんは、モモちゃんが大好きなのね」
 落ち着くと、祈里はあゆみを自分の部屋に招いた。温かい紅茶で、あゆみはほっと息をつく。
「うん…。
 あの町に引っ越してきて、あの騒ぎを起こして…その後、最初に友達になってくれたのはモモちゃんなの」
「そうなんだ」
 ずっと友達でいてくれると思っていた。そうではない、ということなど、考えてもみなかった。
「あゆみちゃんの家では動物を飼ったりはしないの?」
「うちのマンションはペット禁止なんだ…前のアパートもそうだったから。
 子供の頃に、犬を飼いたい、猫を飼いたい、って駄々をこねたことはあるけど、実際に飼えたことはなかったな。
 でも」
「でも?」
「私、何も知らなかったんだな、と思って」
 犬にタマネギを食べさせてはいけない、ということ。タマネギの入った肉じゃがも、味噌汁も、ハンバーグも危険だ、ということ。
 さらに、チョコレートやコーヒーもダメだ、ということ。
 そして、犬の平均的な寿命は十歳くらいである、ということ。
「私なんかが飼わなくてよかったのかも」
「それは違うと思うよ」
 祈里は、印象とは裏腹にやや強い調子で言った。
「そういうことは飼いはじめるときに憶えればいいことだから。
 それよりも」
 そして微笑む。
「体調が悪そう、っていうことに気付いてあげられる。
 気づいたときにすぐに行動できる。
 そういうことが大事なの。
 あゆみちゃんは、十分、ペットを飼う資格を持ってると思う」
「祈里ちゃん…」
「モモちゃんがあゆみちゃんの友達になったのは、あゆみちゃんのそういうところがわかったからじゃないかな」
「そうなのかな…」
「うん。
 だって」
 祈里はあゆみの手を取った。
「あゆみちゃんは、思いを届けるプリキュアなんだから。
 モモちゃんに届かないはずがないもの。
 私、それは間違いないって、信じてる」
 温かい手。
 将来、この手がたくさんの動物を救うことになるのだ、とあゆみは思った。
 それが遠い先のことではない、ということを あゆみも信じられる。
「祈里ちゃん、私に犬のことを教えて。
 モモちゃんが元気になったら、色んなことをしてあげたい。今よりもっと気をつけてあげたい」
「うん。
 喜んで」
「ありがとう!」
 次へ。
 してもらうだけの自分、してもらえなかったら不平を言うだけの自分からは脱皮できたと思う。多分。
 次は、誰かのために何かをしてあげられる自分にならなければ。
 まずは、モモのために。
 その手助けをしてくれる祈里のために。
 ラブや美希、せつなのために。大事な友達のために。
 今は知らない誰かのために。
 そう思うだけで、胸がどきどきするのはなぜだろう。祈里が笑顔を忘れないのは、その理由を知っているからではないか、とあゆみは思った。

168名無しさん:2016/11/01(火) 00:18:07
>>167
久しぶりに来ましたね、makirayさんのあゆみちゃん話。
ブッキーとの絡みが凄くお得感ありました。
一歩一歩、世界を広げていく彼女の姿がとても愛おしいです。
素敵なお話、ありがとうございました!

169Mitchell&Carroll:2016/11/11(金) 23:21:24
ドキプリ第30話を元にしたお話。ランキングスレに載せるべきかどうかで迷いました。
3スレお借りします。


『華麗なるプリキュア』


マナ「――ありがとう、メラン。またね!」
メラン「待て!まだ帰さん!!」
六花「えっ!?」
メラン「某カレー店の人気メニュー・ベスト10を当てるまで、帰すわけにはいかん!!」
真琴「どうしてそうなるの!?」
ありす「ベスト10に入っていると思われるものを注文して食べきったところで、順位が発表されるのでしょうか?」
亜久里「しかも、一度も間違えずに全部当てるとパーフェクト達成、賞金100万円ゲットというわけですか!?」
メラン「その通りだ!ではさっそく始めるぞ!!」

六花「やっぱりここは定番から攻めていくのがいいわよね」
ありす「作戦は六花ちゃんに任せるのが良さそうですわね」
マナ「よろしくお願いします、六花曹長!」
六花「じゃあまず、ポークカレーから行くわよ!」
セバスチャン「――お待たせいたしました。ポークカレーです」
マナ「(パクパク)う〜ん♡カレーはやっぱりポークカレー♪」
真琴「……具、少なくない?」
亜久里「贅沢を言ってはいけませんわ!」
マナ「完しょーく!」
ありす「セバスチャン、順位のほうを……」
セバスチャン「はっ。こちらのメニュー、第……2位!」
マナ「ランクイーーン!!」
六花「2位か……(計算中)」
セバスチャン「定番の“ベース”カレー、堂々の2位でございます」
真琴「まずまずのすべり出しね」

六花「メニュー表を見たところ、ほかにも定番カレーがいっぱいあるようだから、片っ端からいってみようと思うの」
マナ「カレーだったらいくらでも入るよー♡」
亜久里「となると次は、ビーフカレーといったところでしょうか?」
六花「そうなるわね」
セバスチャン「――お待たせいたしました。ビーフカレーでございます」
真琴「(パクパク)美味しいわ。やっぱり具が少ない気がしないでもないけど」
セバスチャン「こちらのメニュー、第……5位!」
ありす「やはり定番は上位ですわね」
セバスチャン「ビーフの旨味が凝縮された深みとコクのあるカレーは、もうひとつの定番カレーでございます」

170Mitchell&Carroll:2016/11/11(金) 23:24:04
六花「チキンカレーを頼もうと思ってるんだけど、いくつか種類があるのよ」
ランス「おもいきってまとめてたのむでランス〜」
セバスチャン「――お待たせいたしました。チキンカツカレー、チキンにこみカレー、パリパリチキンカレー、フライドチキンカレーでございます」
マナ「あたし、1日にこんなに沢山の種類のカレー食べるの初めて!」
真琴「あたしもよ、マナ」
ありす「たまにはこんな日があってもいいのではないでしょうか」
セバスチャン「順位の発表に参らせていただきます。チキンカツカレー、第……7位!あっさりテイストのチキンの旨みをお楽しみください。続いてチキンにこみカレー、第……1位!!やわらかくボイルした鶏肉を丁寧にほぐして入れたマイルドなカレーでございます。続きましてパリパリチキンカレー、第……6位!衣はパリッ、中はジューシーな一枚肉を贅沢に使用、でございます。そしてフライドチキンカレー、第……10位!カリッと揚がった衣とジューシーなチキンがカレーとよく合いますでございます(?)」
シャルル「すごいシャル!全部ランクインしたシャル!」
ありす「お手柄ですわ、ランス」
マナ「お見事ー!!」
ランス「いや〜(照)でランス〜」

亜久里「わたくし、この納豆カレーというものに興味があるのですが……」
セバスチャン「――お待たせいたしました。納豆カレーでございます」
亜久里「(パクパク)おいしい!」
マナ「カレーと納豆って合うんだね〜。おいしいねぇ、アイちゃん!」
アイちゃん「ネバネバ、キュピ〜♡」
六花「お家でも真似して作ってみるっきゃないわね!」
セバスチャン「納豆カレーの順位、第……9位!納豆好きにはたまらない、ネバネバがヤミツキ、でございます」

六花「さて、残すは3位と4位と8位……」
マナ「六花隊長!チーズカレーはいかがでしょう!」
六花「そうね。そろそろ乳製品が恋しくなってきた頃だわ」
セバスチャン「――お待たせいたしました。チーズカレーでございます」
ラケル「さすがにそろそろお腹いっぱいになってきたケル……」
六花「頑張って、ラケル!あと3つ当てたら、帰れるのよ!」
ラケル「分かったケル!六花のために、ボク、頑張るケル!!」
セバスチャン「チーズカレーの順位、第……8位!カレーの風味をマイルドにしながら、濃厚さを増す“とろとろチーズ”をトッピング、でございます」
ラケル「やったケル!ボクの六花への想いが届いたケル!!」

マナ「そういえばあたし、よくカレーにロースカツをトッピングしてたな〜」
セバスチャン「――お待たせいたしました。こちらロースカツカレーになります」
マナ「また会えたね、豚肉さん!」
六花「気のせいか、さっきよりも美味しく感じるわ」
真琴「ホントだわ。なぜかしら」
ダビィ「会えない時間が、愛を育てるビィ」
セバスチャン「ロースカツカレー、第……4位!カレーのトッピングといえばロースカツ、定番中の定番でございます」

171Mitchell&Carroll:2016/11/11(金) 23:25:27
六花「いよいよ残すは2位だけよ!」
真琴「ながかったわ……」
ありす「みんなで手と手を取り合って、頑張りましたものね」
亜久里「みなさん、最後の最後まで、気を抜かずに走りきりますわよ!」
マナ「そろそろ野菜も摂らなくちゃいけないと思うんだ。といわけで、セバスチャンさん!野菜カレーお願いします!」
セバスチャン「――お待たせいたしました。野菜カレーになります」
マナ「わ〜お♡ニンジン・ジャガイモ・アスパラガスがいっぱ〜い♡♡」
亜久里「………」
真琴「どうしたの?亜久里ちゃん」
ありす「せっかくのカレーが冷めてしまいますわよ?」
六花「さすがにもう、お腹いっぱいなのかしら?」
亜久里「……え、ええ。ジャガイモとアスパラガスは何とかイケます。でも……」
マナ「よぉぉーし!亜久里ちゃんのニンジン、代わりにあたしが食べてあげよう!!」
亜久里「ありがとうございます、マナ!!」
マナ「――せぇーの」
全員「「完しょーーく!!」」
セバスチャン「こちらのやさいカレーの順位、第……3位!色鮮やかな定番のやさいカレーでございます」

メラン「見事だ、お前たち。そら、賞金の100万円だ。持って行くがよい」
マナ「やった!ねぇ六花、コレで何買う?ナニ買う?」
六花「決まってるでしょ――新しい眼鏡よ!!」


おしまい

172名無しさん:2016/11/12(土) 00:01:38
>>171
まさかのコラボでしたw

173名無しさん:2016/11/12(土) 00:19:14
うん。
これはプリキュアランキングじゃないねw
ここで正解だと思いまする。

174名無しさん:2016/11/14(月) 16:59:39
六花ちゃんはメランのせいで命より大事な眼鏡をなくしちゃったもんね(でもそれくらいありすがいればなんとかなりそうだけど・・・てゆうか四葉にとって100万円なんて絶対大した額じゃないよね・・・(苦笑))

175一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/04(日) 14:42:54
こんにちは。
三カ月も間が空いてしまいましたが、長編の続きを投下させて頂きます。
6レスで納まると思います。

176一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/04(日) 14:44:21
 薄暗い部屋の中で、ゲージに降り注ぐ不幸のしずくが陰鬱な音を響かせる。その前にはノーザの姿があって、壁に映し出された街の様子を満足げに眺めている。
 もっとも、このノーザは実体ではなくホログラム。映像が映像を鑑賞しているという何とも奇妙な光景を、ラブは不幸のゲージの隣に吊るされたまま、ぼんやりと見つめていた。

 さっきから、巨大な電波塔のナケワメーケが、まるで砂の城でも壊すように易々と建物を破壊する光景が続いている。その無造作な打撃の音、壁がボロリと崩れる音のひとつひとつが、重く鈍い痛みを伴ってラブの胸を打ちつける。

――やっぱりあなた、プリキュアにならなければ何の力も無いのね。

 昨日の少女の言葉がもう一度聞こえた気がした。少女の攻撃をただ避け続け、無様に倒れたあの時の冷たい床の感触が蘇って来る。

(そうだよね。変身も出来なくて、こんなところで捕まっちゃってる今のあたしに、出来ることなんか……)

 力なくうつむきかけるラブ。だが、その途中で不意に目を見開くと、今度はガバッと顔を上げて食い入るように映像を見つめた。

 場面が切り替わって、ナケワメーケの足元がアップになったのだ。そこに映し出されたのは、ラビリンスの住人たちだった。まだ被害の及んでいない街の奥へと逃げようとしているのか、お互いに目を合わせることもなく、全員がただ同じ方向に向かって一目散に走っている。
 疲れ切って表情のない人々の姿に、少し前のお料理教室の光景が重なった。楽しそうに輝いていた人々の笑顔が思い出されて、目元にじわりと涙が滲む。が、それを振り払うように、ラブはブンブンと乱暴に頭を振った。

(泣きたいのは、あたしじゃなくてみんなの方だよ。あたしに出来ることって、本当に何も無いの? こうしてみんなが苦しんでるのを、ただ見ていることしか出来ないの?)

 住人たちが我先に逃げて行った方に向かって、ナケワメーケがゆっくりと移動を開始する。歯を食いしばってその映像を睨んでから、ラブは気持ちを落ち着けるように目を閉じて、ふぅっと大きく息を吐いた。

 まるで暗闇に淡い光が灯るように、目の裏にぼんやりと浮かんできたのは、四つ葉町公園の景色だった。ラブが一番よく知っている、石造りのステージの上から見た眺めだ。
 豊かな緑を背景に、パンパン、と手を叩いて指導の声を飛ばすミユキ。その足元に置かれたダンシング・ポッド。そして隣に感じる息づかいは、美希、祈里、そしてせつな――大切な仲間たちのもの。
 次に浮かんできたのは、上空から見下ろす巨大な怪物の姿と、耳元で鳴る風の音。そして華麗に変身した頼もしい仲間たち――ベリー、パイン、パッションの姿。
 普段とは桁違いのスピードとパワーは、変身によって手に入れたもの。しかし完全にシンクロした四人の動きは、毎日のダンスレッスンと、プリキュアとしての経験を積み重ねて培った賜物だ。

(確かにプリキュアの力は、あたしの力じゃない。でも、ダンスもプリキュアも両方選んで、全力で頑張って来たのはあたしたちだよ。だからプリキュアになれなくても、凄い力は出せなくても、頑張った分はきっと、あたしの力にもなっているはず)

 パッと目を開けて、今度は決意を込めた眼差しで映像を見つめる。姿は見えないが、このナケワメーケを操っている――そしてこの後、人々を不幸に陥れる通告をするはずの少女が、このどこかに居るはずだ。

(出来る出来ないじゃない。やらなきゃいけないことがあるって、わかってるじゃない。あの子を止めなきゃ。そのためにはまず――ここを出る!)

 映像を見据えたまま、ラブがもう一度歯を食いしばる。でも今度は悔しさを堪えるためではなく、渾身の力を出すためだ。
 まずは両腕にグッと力を入れて、捕えられている腕を何とか外そうと試みる。だが、ただの少女であるラブの力では、蔦はピクリとも動かない。
 今度は腕だけでなく足もバタバタさせ、全身を滅茶苦茶に動かしてみる。それでも蔦の拘束は緩まなかったが、吊るされているラブの身体が小刻みに揺れた。
 ラブは自分の身体を見下ろし、次に周囲を見回して、うん、と小さく頷いた。思い起こすのは心に刻まれたミユキの言葉と、身体に刻まれたダンスの動きだ。

――ある方向に力が働けば、必ずその反対方向にも力が働くの。それが“反動”よ。右に行きたければ、まず左に重心を移す。上に大きく跳びたければ、まずは低く屈みこむ。そうやって――

(……そうやって力を蓄えれば、より大きな力が生まれる!)

 ラブが再び全力で身体を動かして、蔦を揺らそうとする。その顔は見る見る真っ赤になり、額には汗が浮かんできた。それでもラブは、ハァハァと荒い息を吐きながら、不自由な身体を少しずつ、必死で動かし続ける。

177一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/04(日) 14:44:55
 やがて、ラブの動きは少しずつリズミカルになり、それにつれて蔦が少しずつ大きく振れ始めた。その揺れが目に見えて大きくなった時、ラブはさらに力を振り絞って、思いっ切り身体を反らした。
 ぐん、と蔦が大きく揺れる。その揺れを振り子のように使って、ラブは隣に立つ不幸のゲージを、ゴン、としたたかに蹴りつけた。

 ノーザが恐ろしい形相でラブを振り返る。だが一度勢いがついたラブの身体は止まらない。
 もう一度、さらにもう一度、ゴン、ゴン、と響く鈍い音。それを聞いて、ノーザが慌てたようにさっと右手を挙げる。その途端、生きたロープはするすると解け、ラブを床に下ろして開放した。
 思わずその場にへたり込みそうになるラブ。だがそれを必死で堪えて震える足で立ち上がり、鋭い眼差しをノーザに向ける。

「あら、ごめんなさい。苦しかったのならそう言ってくれれば、すぐに下ろしてあげたのに」
 ノーザがさっきの狼狽えた素振りを取り繕うように、妖艶な笑みを浮かべてみせる。それでもラブの表情が変わらないのを見て、ノーザは口の端を斜めに上げると、いつになく優し気な声で言った。
「解放してあげたついでに、この部屋からも出してあげるわ。上の部屋にでも行って、少し休憩なさい」
「それより建物の外に……そこに映っている場所に、帰してくれないかな」
 粗い呼吸を抑えて映像を指差すラブに、ノーザが余裕の笑みを浮かべたままでかぶりを振る。
「それはダメねぇ。でもこの建物の中であれば、どこに居ても構わないわよ」
 余裕の表情でラブを見下ろすノーザの映像。その顔をひたと見つめながら、ラブは唾を飲み込もうとして、口の中がカラカラに乾いていることに気付いた。

(せつな。美希たん。ブッキー。ミユキさん。お願い……あたしに力を貸して!)

 もう一度、一瞬だけ祈るように目を閉じてから、ラブは静かに目を開けて、ノーザに向かって声を張り上げた。

「本当にいいの? この建物の中に居たら、あたし、何をするか分からないよ? コントロール・ルームの場所も分かっちゃったし、またゲージを壊しちゃうかもしれないけど」
「あら。あなたにそんなこと、出来るのかしら」
「……試して、みる?」
 そう言いながら、ラブはノーザから片時も目を離さずに、ゆっくりと腰のリンクルン・ケースに手を置いて見せた。

 今度は苛立たし気な表情を隠そうともせず、ノーザがラブを睨み付ける。
「ふん、せっかく優しくしてあげたのに、つけ上がるとはいい度胸ね。ならば元通り、大人しく縛られているがいい」
 ノーザの声と同時に、鉢植えから再び蔦が放たれる。だが一瞬早く、ラブはパッと身を翻した。
 横っ跳びで不幸のゲージの後ろに身を隠す。鋭い鞭のようにラブに襲い掛かった蔦は、ゲージに届く直前に、まるで慌てて急ブレーキをかけたかのように失速した。
 忌々し気に歯噛みしたノーザが、指をパチリと鳴らす。すると蔦が再び方向転換し、今度は部屋のドア目がけて直進すると、バタンと大きく押し開けた。

「今はお前に構っているヒマは無いの。さあ、この部屋から出て行きなさい」
「嫌だよ。出て行ってほしいのなら、外に出してくれなくちゃ」
「調子に乗るのもいい加減にすることね」

 再び蔦が、今度はさっきとは違う枝から放たれる。続いてもう一本、その次は同時に二本、太さを変え、速さを変え、本数を変え、次第に数と力を増して襲ってくる緑色の鞭。だが、ラブはゲージの後ろ半面を盾に使い、サイドステップを繰り返して、何とかそれを凌ぎ続ける。

 ラブの真剣な眼差しは、蔦を放つ小さな鉢植えにじっと注がれていた。最初はただスピードにばかり翻弄されたが、何度か避けているうちに、その動きに規則性があることに気付いたのだ。
 あの最終決戦で、蔦を自在に操って攻撃してきたノーザの動き――あの時によく似た、でももっと単純で分かりやすい予備動作が、必ずあるということに。

(蔦が飛び出す直前に、枝がグッとしなる……。これもミユキさんが言ってた“反動”だよね。それをちゃんと見ていれば、何とか避けられるはず!)

 頼みは盾にしている“不幸のゲージ”。四つ葉町にあったものより小さなこのゲージは、大きさだけでなく強度の面でも劣るのか、蔦はゲージに触れることさえ避けるような動きをしている。
 ラブにとっては、それが付け目だった。自分と蔦との間に常にゲージが挟まるよう小まめに動きながら、蔦を避け続け、帰してほしいとノーザに訴え続ける。

 ゲージを挟んでの攻防が、どれくらい続いただろう。いくら動きを予測できると言っても、変身もしていないラブの体力には限界がある。もうとっくに息が上がり、膝もがくがくと震えるようになった頃。
 完全にゲージの方を向いて、苛立たし気にラブを睨んでいたノーザが、不意にハッとした顔をして壁の方を振り返った。ラブも思わず鉢植えから目を離して、映像に注目する。

178一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/04(日) 14:45:47
「愚かな者たちよ。これは、メビウス様からお前たちへの制裁だ!」

 映像の中から、威圧感を伴った声が響く。スピーカーのナケワメーケに増幅されたその声の主は、怪物の肩の上で腕を組み、仁王立ちしているあの少女だった。
 少女による不幸の通告が、ついにラビリンスの住人たちにもたらされたのだ。

 ずっと渋面を作っていたノーザが、ニヤリとほくそ笑む。
「フフフ……。これでラビリンスの国民たちは不幸に沈む。残念だったわねぇ」
「うわぁっ!」
 映像をもっとよく見ようと、ついふらふらと前に出たラブが、初めて蔦の鞭を喰らって弾き飛ばされる。何とかゲージの陰に転がり込むと、ラブは自分に言い聞かせるように、必死で声を絞り出した。
「まだ……諦めないよ。不幸は……不幸は必ず、幸せに、生まれ……変われるんだからっ!」
「ええい、まだそんな戯言を!」

 今度は何本も一度に襲い掛かる、蔦の攻撃。ラブは何とかゲージの陰を移動して避けたが、その動きはさっきと比べて明らかに精彩を欠いていた。
 枝の動きを注視しなくてはいけないのに、どうしても気になって、その視線が時折映像の方へちらちらと流れるのを止められない。おまけにさっき鞭の攻撃を受けた左腕が、ズキズキと痛み出した。そうでなくても身体はとっくに限界を超えて、悲鳴を上げているのだ。ゲージのお蔭でそれ以降は大きな打撃は免れているものの、次第に蔦の先がラブの身体に当たり始める。

 そしてついに、ラブがゲージを背にしてよろよろと崩れ落ちる。ノーザの含み笑いと共に、蔦がゆっくりと遠巻きに伸びてゲージの後ろを窺う。そして何とか立ち上がろうともがくラブの身体を、容赦なく絡め取った。
 だが次の瞬間、蔦の動きが止まった。映像の中から突然響いた、パリン、という乾いた音。それを聞いて、ノーザが顔色を変えて映像の方に向き直ったのだ。

 そこに映っていたのは、あろうことかナケワメーケのダイヤを拳で打ち砕くウエスターと、それを驚愕の表情で見つめる少女の姿だった。
 少し遅れて地面に倒れる、元に戻った街頭スピーカー。しばしの間呆然としてから、ウエスターに挑みかかる少女。そんな少女をいとも簡単に倒して、その身体を肩に担ぎ上げるウエスター……。

「おのれ……これからが不幸集めの本番という時に! だからあれほど、彼には気をつけろと……」
 悔しそうにそう呟いてから、ノーザはさっと右手を前に突き出した。
「こうなっては仕方がない」
 それを合図に、動きを止めていた蔦がするすると動き出す。そして、もう抵抗も出来ずに荒い息を吐いているラブを吊り上げると、ノーザのすぐ目の前の中空にかざした。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第8話:全力の想い )



 ナケワメーケが倒された現場から一番近い警察組織の建物に、一台の車が横付けされた。バラバラと車を降りる警官たちの最後にウエスターが降り立って、気を失った少女を建物の中に運び込み、床に下ろす。
 その瞬間、少女の表情が動き、眉間にわずかに皺が寄った。
「気が付いたか。起こす手間が省けたな」
 ウエスターが無表情でそう言いながら少女を見下ろす。が、部屋の外がにわかに騒がしくなったのに気付いて、今度は彼の方が眉間に皺を寄せた。

 少女をそこに寝かせたまま、部屋の入口の方へ取って返す。すると、開けっ放しだったドアから小さな人影が飛び込んだ。
「イース! ここは俺に任せろと言っただろう!」
 人影は――せつなはウエスターの呼びかけには応えず、部屋の中に目を走らせた。そして少女の姿を認めると同時に、その身体から、フッと力を抜いた。

 ウエスターの眉間の皺が、わずかに深くなる。それは些細だが、確かな違和感だった。ここで筋肉を弛緩させたのは、次の瞬間に力を爆発させるため。飛び出す“反動”を得るための予備動作としか思えない。
 普段の優しい眼差しからは考えられないような、感情の見えない赤い瞳に危機感を覚え、ウエスターはせつなを拘束すべく動き出す。だが、せつなは目にも留まらぬ速さでその腕の下をかいくぐると、仰向けに寝かされている少女に覆い被さるようにして、その顔のすぐ横の床に、ダン、と掌を叩きつけた。

「ラブをどこへやったの!? 答えて!!」
 至近距離から睨み付けるせつなの顔を、少女が驚愕の表情で見つめる。戦闘服を身に着けている自分が、さっき全く反応できなかった男の動きを、彼女は生身で見切って避けてみせたのだ。
 だが、それも一瞬のこと。すぐに表情を取り繕うと、少女は青白い顔に不敵な笑みを浮かべた。
 せつなの掌の下で床がギュッと鈍い音を立て、赤い瞳に怒気を超えた殺気が浮かぶ。今度こそ割って入ろうとするウエスター。が、その足は異変を感じてぴたりと止まった。

179一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/04(日) 14:46:26
 突然、二人の横手の壁の真ん中辺りがぐにゃりと歪み、まるで木の洞のような時空の口が開いたのだ。そこから浮かび上がるように現れた人物を見て、せつなの目が大きく見開かれた。

「ラブ……!」

 ラブは前のめりになった格好で、緑色の蔦のようなもので拘束されていた。だが、それがすぐに解けて、部屋の中へと放り出される。
 せつなは飛び上がるようにしてラブを受け止めると、夢中でその顔を覗き込んだ。
 ぐったりと力の抜けた身体。力なく閉じられた目蓋――。

「ラブ! しっかりして、ラブ!」
 耳に煩いような自分自身の心臓の音と、締め付けられるような胸苦しさに耐えて、せつなが必死で呼びかける。すると、ラブの睫毛が微かに震え、その目がゆっくりと開かれた。

「せつな……」
「……良かった……!」
 ラブを抱き締めるせつなの目から涙が溢れて、ぽろぽろと零れる。

 二人の姿を安堵の表情で見つめるウエスター。しかし一瞬の後、彼は慌てて壁に向かって突進した。
 だが、ほんの少し遅かった。
 せつなとウエスターがラブに気を取られている隙に、蔦がするすると伸びて、少女の身体を絡め取ったのだ。ウエスターの目の前で、少女が時空のトンネルへと連れ去られる。そして彼の手が壁に届いたときには、時空の口は消え失せていて、後には何も残ってはいなかった。



   ☆



 淡いグレーの壁と天井で仕切られた、何の変哲もない小さな部屋。仮眠室として使われているという警察組織の一室で、せつなはベッドの隣で小さな椅子に座り、ラブの寝顔をじっと見つめていた。

 ナケワメーケを操る少女を止めようとして、自分の意志で彼女に付いて行ったこと。そのアジトが、せつなや彼女が育った軍事養成施設・E棟であったこと。その地下にあった不幸のゲージと、映像として現れたノーザの存在――それだけを何とか話し終えてから、ラブは気絶するように眠ってしまったのだ。
 ウエスターはラブの話を聞き終えると、サウラーのところへ相談に行くと言って、厳しい顔つきで出て行った。

 ラブの身体には、締め付けられたような跡や、何かで打たれたような痣が無数にあった。

――何とかここに戻って、あの子を止めなきゃ、って思ったんだけど……。

 うつむき加減でそう呟いたラブの顔を思い出す。
 今は変身することも出来ないというのに、その想いだけで、映像とはいえあのノーザと渡り合ったのだろうか。

「全く……。無茶し過ぎよ」
 眠っているラブの姿がやけに小さく見えて、思わずその顔に指を伸ばして、目の上に掛かった髪をそっと払う。その途端、ラブが小さく口を開けて、弱々しく言葉を吐き出した。

「せつなぁ……」

(えっ?)

 思わずドキリと手を止めて、もう一度ラブの顔を見つめる。
 その目は閉じられたままだったが、口元がムニャムニャと柔らかく動いて、再び途切れ途切れに言葉を紡いだ。

「大丈夫だよ……せつな……」

 ぽかんとするせつなの目の前で、ラブが再びすうすうと寝息を立て始める。

(ひょっとして……寝言?)

 不意に可笑しさがこみ上げて来て、せつなは口に手を当てて、クスクスと声を立てずに笑った。

(私がこれだけラブのことを心配して、居ても立ってもいられなかったっていうのに、当のラブは、夢の中でまで私の心配をしてくれてるっていうの……)

 口元に当てた手の甲に、ポツリとあたたかな雫が落ちる。それが自分の涙だと気が付くのに、少し時間がかかった。
 もう一度手を伸ばして、ラブの布団を掛け直す。前に一度、あゆみにそうしてもらったことを思い出して、布団の上からあやすように、トントン、と優しく叩いた。

(ラブと一緒に居るときの涙は、どうしてこんなに、あたたかいのかしら……)

 心の中にぽかりと浮かんだ小さな疑問。その答えが見つからないままに、せつなはラブの寝顔を愛おし気に見つめながら、そっと頬の涙をぬぐった。



   ☆

180一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/04(日) 14:47:08
 目蓋の裏に感じる朝の光。そして頬を滑る、柔らかなシーツの肌触り――。
 ぼんやりとそんなことを感じて……次の瞬間、せつなは跳ね上がるようにして身体を起こした。
 いつの間にか、椅子に座ったままベッドに突っ伏して寝ていたらしい。こんなところで朝まで眠ってしまうなんて、初めての経験だった。
 考えてみれば、ラブが心配でこの三日間はほとんど眠っていなかったから、安心して一気に疲れが出たのかもしれない。

 ベッドに目をやったせつなが、今度は弾かれたように立ち上がる。そこに寝ているはずのラブの姿は、どこにも無かった。

(まさか、ラブったらまた一人でどこかへ……!?)

 咄嗟にそう思った時、どこかから聞き慣れた明るい声が聞こえて来て、せつなは慌てて部屋から走り出た。

 声を頼りに進んで行くと、小さなキッチンに辿り着いた。湯気の立つ大きな鍋をかき混ぜている、ラブの後ろ姿が見える。その隣には一人の少年が立っていて、せつなに気付き、照れ臭そうな顔でぺこりとお辞儀をした。その様子を見て、ラブも後ろを振り返る。
「あ、せつな、おはよう。ちょうど良かった、ちょっと手伝って」
「ラブったら。身体の方はもう大丈夫なの?」
「へーきへーき!」
 ラブがそう言いながら、左手でガッツポーズを作ろうとして、痛てて……と苦笑いをする。ラブの左腕に特に大きな痣があったことを思い出して、せつなは小さく溜息をつく。そしてラブの隣に歩み寄ると、鍋の中を覗き込んだ。

 ふわりと懐かしい香りが、せつなの鼻をくすぐった。たっぷりの汁の中で、細かく切られた具材とお米が、コトコトと音を立てている。
「これ、“おじや”よね? 前に、お母さんに作ってもらったことがあるわ」
「そ。これならみんなで一緒に、あたたかいうちに食べられるでしょ?」
「え? みんな、って……」
 首を傾げたせつなが、あ、と小さく声を上げて、そっと隣の部屋を窺う。道場のようなその広い部屋には、せつなの予想以上の人数が集まっていた。ナケワメーケの攻撃を逃れたこの建物もまた、人々の避難所になっていたのだ。

「ここは警察官が寝泊まりも出来る施設だから、食糧も置いてあるって、この子が教えてくれたんだ」
 ラブがそう言いながら、鍋の中のものを小皿に取って、それを少年に差し出す。怪訝そうな顔で受け取った少年は、促されるままにそれを口にして、驚いたように目を丸くした。

「こんな料理、初めてだ……。いろんなものが入っているんですね」
 少年が、ぼそぼそとした調子で呟くように言う。
「うん。本当は残り物で作る料理なんだけど、これなら食材を無駄なく使えるから、食糧が長持ちするんだ。それに、あたたかいものを食べて身体があたたまると、元気が湧いて来るからね」
「元気……ですか」
「まぁこれは、お母さんの受け売りだけど」
 一層低い声になった少年に、ラブが小さく微笑む。そして、「でーきたっ!」とひときわ明るい声で叫ぶと、鍋を持ち上げようとして、痛てて……と再び顔をしかめた。

「あ……俺、運びます」
「ひとりで大丈夫? 結構、重いよ?」
「平気です。力には自信がありますから」
 少年がそう言って、ひょい、と鍋を持ち上げる。せつなとラブが食器を持ち、三人は人々が避難している隣の部屋に向かった。

「みんな、お待たせ〜! 朝ご飯、持って来たよ〜」
 ラブが明るい声で呼びかけても、応える者は誰も居なかった。全員が思い思いの場所に座り込み、暗い目をして床の一点を見つめている。
 メビウス様が復活する。この襲撃は、メビウス様による制裁である――少女による衝撃の通告を受けて、まだ半日しか経っていない。最初はパニック状態に陥った人々は、今は絶望と虚無感に支配され、全てを諦めて来たるべき時を待っているように、せつなの目には映った。

 グッと拳を握り締め、せつながラブの隣から一歩前に進み出る。何か言おうとして口を開き、言うべき言葉が見つからなくて立ちすくんだ、その時。
 ラブがおもむろに鍋の蓋を開けると、それを椀によそって、近くにうずくまっている小さな女の子の傍に座り込んだ。

181一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/04(日) 14:47:43
「はい。熱いから、一緒に食べようね」
 最初の一匙をすくってフーフーと息を吹きかけてから、ラブがそれを女の子の口元に持っていく。
 お腹が空いていたのだろう。戸惑った顔をしながらも素直に口を開けた女の子は、すぐに目を輝かせて叫んだ。
「美味しい!」

 すぐに自分でスプーンを握って食べ始めた女の子を横目で見ながら、周囲の子供たちがゴクリと喉を鳴らす。その目の前に、せつながタイミング良くお椀とスプーンを差し出した。
 ほどなくして、子供たちの食べっぷりにつられるように、大人たちもスプーンを手にする。しばらくすると、全員が夢中で椀の中身を食べ始めた。
 やがて、部屋の中に少しずつざわめきが――人の声が聞こえ始める。子供たちの顔には笑みが見え始め、大人たちの表情も、さっきまでよりも明らかに穏やかなものになっていた。

「ありがとう、せつな。さ、あたしたちも食べよ」
 驚いた顔で人々を見回すせつなに、ラブがおじやの入った椀を差し出した。鍋を運び、配膳を手伝ってくれた少年は、二人から少し離れたところに座って、既に猛然と椀の中身をかき込んでいる。

 ラブは、自分もスプーンを手に取りながら、せつなだけに聞こえるような、小さな声で言った。
「せつな……心配かけて、ごめんなさい」
「……」
 せつなが無言でラブの背中に手をやると、ポンポン、と二回、優しく叩く。その仕草に、ちらりと上目づかいでせつなの顔に目をやると、ラブはフッと小さく顔をほころばせた。

「本当はあの子を止めたかったけど、出来なかった……。だから今はほんの少しでも、みんなに元気になってもらいたいんだ」
「ほんの少しじゃないわ。まだ“元気”とは言い切れないかもしれないけど、大きな変化だと思う」
「そうかな……。もしそうなら、嬉しいな」
 ラブはそう言って、食べ始めたばかりのおじやの椀を、大切そうに両手で包んだ。

「ねえ、せつな。あたし、決めたんだ」
 相変わらず密やかな、でもさっきより明るい声で、ラブが語りかける。
「“どうせ出来っこない”なんて思わないで、自分の力を信じようって。プリキュアの力に比べれば小さな力かもしれないけど、その力で、やらなきゃいけないことを、あたしが本当にやりたいことを、全力でやろうって。だからあたし、いつか、あの子とも……」
 ラブがそう言いかけた時、建物が突然、ズシン、と揺れた。



「様子を見てきますから、皆さんは建物の外に出ないでください!」
 せつながテキパキと人々に指示を出してから、既に廊下を走り始めたラブの後を追う。玄関から外に飛び出すと、二人の耳に、ナケワメーケとは明らかに違う怪物の声が飛び込んで来た。

「……まさか、これって!」
 せつなが驚きの声を上げて、呻き声が聞こえた方角へ向かって走り出す。そして、そこに立っている化け物の姿に、やっぱり……と唸るように呟いた。

 顔の中央に貼り付いている、涙を流す一つ目のマーク。言葉を発せず、ただ苦し気な呻き声を上げるだけの哀しきモンスター。
 その巨大な姿の後ろに見えるビルの上に小さな人影を見つけて、せつなが今度こそ絶句する。
 紙のように白い顔に苦悶の表情を浮かべて立っているのは、あの少女。その腕に、鋭い棘を持つ暗紫色の茨が巻き付いているのが、せつなの目にはっきりと映った。

〜終〜

182一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/04(日) 14:49:08
以上です。ありがとうございました!
次はもう少し早く更新できるように頑張ります。
(オオカミなんちゃら、って言わないでください……(汗))

183名無しさん:2016/12/08(木) 00:48:44
もしも某芸人風にプリキュアにあだ名を付けるとしたら(気を悪くしたらすみません)

なぎさ→足クサ馬鹿トンカチ
ほのか→おしゃべりクソ女
ひかり→たこ焼きマシーン
咲→黒コゲ筋肉
舞→幽霊部員
満→暴走族
薫→おで子
のぞみ→くそ馬鹿リア充
りん→恋愛下手
うらら→かぼちゃぱんつ
こまち→エロ羊羹
かれん→金持ちクソババア
くるみ→母乳垂れ流し変態クソ女
ラブ→熱血馬鹿野郎
美希→自意識過剰
祈里→もののけ姫
せつな→鉄仮面
つぼみ→高木○保
えりか→ブレーキ故障中
いつき→女装癖
ゆり→栄養不足
響→ケーキ泥棒
奏→クソ女子力
エレン→バカ黒猫
アコ→上げ底
みゆき→クソバカ大凶女
あかね→国際結婚
やよい→妖怪しょんべんちびり
なお→ノーブラ
れいか→猪木イズム
あゆみ→不登校
マナ→ヤリチ○女
六花→金魚のフン
ありす→くしゃぽいクソ金持ち
真琴→進路相談
亜久里→真っ赤なオバサン
めぐみ→偏差値低め
ひめ→らきたま
ゆうこ→飯炊き女
いおな→守銭奴
はるか→牝狸
みなみ→二代目金持ちクソババア
きらら→らんこの親友
トワ→洗濯女
みらい→テレ朝アニバーサリー
リコ→緊張ガチガチ魔法ヘタクソ女
ことは→年齢不詳
モフルン→糖尿病

個人的には響の「ケーキ泥棒」が御気に入り。

184名無しさん:2016/12/11(日) 12:54:32
えりかとのぞみはぴったりだ!
舞、満、ゆりさん、亜久里ちゃんのは特にツボに入りました〜(レジーナも気になりますね)

185名無しさん:2016/12/15(木) 23:43:50
>>184
レジーナは候補がいっぱいあって……「パツキンのチャンネー」「アイカツ」「キッカ」「レジーナ軍曹であります」

186一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/18(日) 17:58:31
こんばんは。
長編の続きではありませんが、投下に参りました。
出張所(Twitter)のフォロワーさんが500人を超えたので、そのお礼のSSです。
前回の競作の時に掲示板に書き込んで頂いたSSネタを、私も使わせて頂きました。

フレッシュ・美希せつです。第33話(タコ回)の、その夜と次の日のお話。
タイトルは、「Thank you, my follower 〜美希のもうひとつのこわいもの〜」
5レス使わせて頂きます。

187一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/18(日) 17:59:19
 思えばあの日のアタシの運勢は、最悪だったに違いない。
 昼間は十四年の人生で最も怖いものと戦う羽目になり、夜は夜で、あんな目に遭ってしまったんだから。

 それでも夕食を終えて、お気に入りのアロマオイルを垂らした湯船に浸かっていた時は、なかなかに幸せな気分だったのだ。
 思いがけず、せつなと初めて二人きりで買い物に出かけた今日。会話は弾まないわ、洋服は決まらないわ、おまけに……アレに遭遇するわで散々だったけど、今までよりずっとせつなと心を開いて話ができたし、昨日より、せつなに少し近づけた気がした。
 湯船の中で、今日の出来事をあれこれ振り返って、思い出し笑いがこみ上げてきたくらい。こんな風にせつなの顔を思い浮かべたことなんて、今まで無かったと思う。
 笑顔でお湯の中から立ち上がった途端、せつなに言おうと思っていて言いそびれたことがあるのを思い出した。

(明日、言うの忘れないようにしようっと)

 そう思いながら、鼻歌交じりでお風呂から上がる。そしてバスタオルを巻いただけの姿で、いつものように体重計に乗って――そこでアタシは凍り付いた。
 いったん体重計から降り、数字がゼロになっているのを確認してもう一度乗ってみる。
 さらにもう一度……そしてムキになってもう一度。
 でも何度測り直しても、体重計は同じ数字をアタシに突き付けてくる。昨日測った時より明らかに大きな、あり得ない数字を。

(なんで? なんで? たった一日で五キロも増えるって、どういうワケ!?)

 気を取り直して、今日一日の行動を、さっきとは全く別の視点で振り返ってみる。
 朝のジョギングは、いつも通り。朝食も昼食も、量も内容もいつもと変わらない。むしろカオルちゃんのドーナツを食べなかった分、いつもよりカロリーは控えめなくらいだ。体調も、特に変わったところは無い……。
 体重が増える原因なんて、どこをどう探したって見つからない。と、言うことは。

(この体重計が、壊れてるってことよね)

「そうよね、それしか考えられないわよ」
 思わず声に出してそう呟いたまさにその時、廊下に通じるドアがバタンと開いて、アタシはビクッと肩をすくめた。
「あらぁ、ごめんなさい、美希ちゃん。少し早く来すぎちゃったかしら」
 パジャマを抱えたママが、いつもののんびりとした口調でそう言いながら脱衣場に入って来た。

「どうしたの? 何だか難しい顔しちゃって」
「え? う……ううん。それより、ママこそどうしたの?」
「どうしたの、って……お風呂に入りたいんだけど」
「ああ、お風呂、ね。アハハ。さぁ、どうぞどうぞ」
「変な美希ちゃん」

 そう言って、ママがおもむろに服を脱ぎ始める。そして下着姿になったところで、何と問題の体重計に足を乗せた。
「ちょ、ちょっとママ! 体重を測るなら、お風呂の後じゃないの?」
「普段ならそうなんだけど」
 つい勢い込んでしまったアタシの顔を、一瞬あっけにとられたように見つめてから、ママがキラリと目を輝かせる。
「さっき、テレビで“ダイエットに効く入浴法”っていうのをやっててね。早速試してみようと思ってぇ。だからまずは、現状チェックよ」
「あ……そう。で、どうだった?」
「どうって、それをこれから試すんじゃないの。やっぱり何だか変よ? 美希ちゃん」
「アハハ……。ちょっと、お風呂でのぼせちゃったかな」

 我ながら苦しい言い訳をしながら、ママを観察する。
 ママは体重計の数字にちらりと目をやっただけで、あとはさっさと下着を脱いで、そのままお風呂場に入っていった。その後ろ姿を見届けてから、アタシは体重計をはったと睨み付ける。

(あの様子だと、別におかしな体重じゃなかったみたいね。ってことは……これ、壊れてないってこと!?)

 お風呂上りだというのに、さーっと血の気が引くのを感じた。もうこうなったら、トコトン確かめないと寝るに寝られない。
 そそくさとパジャマを着て、超特急で化粧水だけ付けてから、小走りでダイニングへと向かう。そこに、今日お米屋さんが届けてくれたばかりの、封の開いていないお米の袋があったのを思い出したからだ。
 五キロの米袋を、半ばヤケになってお風呂場へと運ぶ。もしあの数字が本当だとすると、この重さの分だけ昨日より重くなってるってこと――そう思ったら、何だか目の前が霞んだ。

188一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/18(日) 17:59:51
 アタシは仮にもモデルだ。そして将来の夢は、海を越えて世界を駆け巡るトップモデルになること。
 もし万が一、体重計が壊れていなかったりしたら……ここまで自己管理が出来ていないモデルなんて、あり得ない。
 って言うかそもそも、一日に五キロも太……ふっ、増えるなんて、そんなことあるわけないじゃない!

 ようやく脱衣場に辿り着いたと思ったら、慌てたせいか、米袋をお風呂場のドアに思い切りぶつけてしまった。ガコンガコン、と大きな音がして、ガラス戸が震える。
「……美希ちゃん? どうかしたの?」
「な、何でもないわ!」
 しまった、と思いながら、お風呂場の中から響くママの声に、大声で答える。
 さぁ、急がなきゃ。ママが不審に思ってお風呂場から顔を出す前に。

(アタシ、何やってるんだろう……)

 目頭が熱くなるのを何とか抑えて、祈るような気持ちで体重計の上に米袋を置く。だが。
 アタシの期待をものの見事に裏切って、数字はぴたりと五キログラムを表示して止まった。



   ☆



 翌朝、アタシはまさにどん底の気分で目を覚ました。いや、そもそも一晩中ハテナマークが頭の中をぐるぐると回っていて、少しでも眠ったのかどうか、自分でもよく分からない。
 体重計は壊れていないらしい。でもアタシ自身にはまるで心当たりがない。なのにどうしてこんなことになっちゃったんだろう。
 何だかヤケに黄色っぽく見える太陽をちらりと眺めてから、トレーニングウェアに着替える。
 ちっともワケがわからないけど、まずはやれることからしっかりやろう、と決めた。もしこの最悪の事態が事実なら、悩むより先に、さっさと元のアタシに戻らなくちゃいけない。

 朝の街を走り出すと、寝不足のせいか――それとも別の理由なのか、何となく身体が重い気がして、気分がさらに重くなった。それを振り払おうとして、いつもよりスピードを上げる。
 息が切れるのも構わず走っていたら、向こうから大きな二匹の犬に引きずられるようにして、ブッキーがやって来た。こちらもかなり息を切らしている。
 いつもなら、立ち止まって言葉を交わしたり、一緒に公園まで走って休憩したりするんだけど、今日のアタシにそんな余裕はない。どうやらブッキーも、二匹を制御するだけで精一杯みたい。それでお互い、目と目で挨拶するだけで別れた。それにしてもブッキー、今日は随分張り切っているんだなぁって思ったら、何だか自然に顔が下を向いた。



 その日は午前中、ミユキさんのダンスレッスンがあった。家に帰ってシャワーを浴びてから、体重計……は、ちょっと睨んだだけで、急いで支度して家を飛び出す。
 レッスンはいつもの四つ葉町公園じゃなくて、ミユキさんがよく使っているダンススタジオで行われるということで、四人で待ち合わせて公園近くのビルに向かった。

「スタジオって、最上階だったよね。何階だっけ?」
「えっと、確か十階じゃなかったかしら」
 ラブとブッキーがそう言い合いながら、エレベーターの列に並ぶ。
 ここは、本屋さんや歯医者さん、スポーツジムや英会話スクールなどが入った総合ビルで、朝から多くの人で賑わっている。そのくせ到着したエレベーターは小さめで、三人の後に続いてアタシが乗り込もうとした時には、小さな箱はもう満員に近かった。

 ふと、普段ならまず考えないような、嫌な想像が頭をよぎった。ここでアタシが乗り込んだ瞬間、もし重量オーバーのブザーが鳴ったりしたら……そう考えてしまったのだ。
 そんなこと、普段なら笑って済ませられることだ。別に、アタシ一人のせいで重量オーバーになるワケじゃないんだし。だけど今は――今だけは、あのブザーの音は絶対に聞きたくない!

「え、えーっと……アタシ、トレーニングを兼ねて階段で行くわ」
「え〜! 美希たん、十階だよぉ?」
 驚くラブの声を背中に聞きながら、くるりと踵を返す。エレベーターの隣にある金属製の扉を開けると、無機質なグレーの階段がアタシを出迎えた。
 半ばヤケになって、階段を勢いよく駆け上がる。だがちょっとペースを上げ過ぎたのか、五階に差し掛かった辺りで息が上がって来た。そして七、八階まで上がった頃には、息が切れて足が上がらなくなってきた。仕方なく、踊り場で立ち止まって、一回、二回と深呼吸する。と、その時。
「やっと追いついたわ」
 少し低めの、でもいつもより少し上気した声が、すぐ下から聞こえてきた。

189一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/12/18(日) 18:00:23
「せつな! どうして?」
「別に。私もちょっと、身体を温めたかっただけ」
 だからって、エレベーターを降りてわざわざ追いかけてきたのだろうか。アタシと違って息のひとつも切らしていないのが、ちょっとばかり憎たらしくなる。
 せつなは軽やかにアタシの隣までやって来ると、いつも通りの生真面目な様子で言葉を繋いだ。

「あと少しだし、ここからは歩いて行かない?」
「ア、アタシは……もう少し頑張るわ」
「これからレッスンだし、あまり無理しない方が……」
「いいから放っといてよ!」
 心配そうなせつなの声と表情に、思わずカッとなって怒鳴ってしまった。その声が、ガランとした空間に思いのほか大きく響いてドキリとする。同時に胸の中に、苦いものが広がった。

 アタシったら、やってることが昨日と同じだ。せつなはただ、アタシのことが心配で追いかけて来てくれただけ。幼馴染で付き合いの長いラブやブッキーなら、もう少し遠くから見守ってくれていたかもしれないけど、せつなは――せつなという人は、ただ不器用なくらい真っ直ぐで――。

(ううん。不器用だなんて、アタシも人のこと言えないか。こういう時どうしたらいいか、全然わかんないんだもの)

「……ごめん」
「ううん。でも、一体どしたの?」
 うなだれたアタシにかぶりを振って、せつながアタシの顔を覗き込む。そのほっそりとした少し冷たい手が、いつの間にか握りしめていたアタシの手にそっと触れた。
 何だかフッと肩の力が抜ける。せつなになら打ち明けてもいいかな……ふとそう思えて、今度はアタシの方からせつなと向かい合う。
「実はね、アタシ……」
 そう口にして、何て説明しようかと次の言葉を探す。が、次に口を開いたのはアタシじゃなかった。アタシの後ろにある小さな窓を指差して、せつなが鋭く叫んだのだ。
「美希、あれって……!」

 振り返ったアタシの表情も引き締まる。
 見えているのは隣のビルの屋上。地上からは見えないであろうその場所に、普通ならあり得ないものが立っていた。
 つり上がった赤い目を持つ大きな化け物と、その隣で腕組みしている銀色の長髪の男――。
「ラビリンス!!」
 声を揃えてそう叫んでから、アタシとせつなは、手近の階のエレベーターホールに飛び込んだ。



 赤い光が、パッと目の前で四散する。ラブとブッキーにも連絡を取って、みんな一緒にせつなのアカルンで、隣のビルの屋上へと瞬間移動したのだ。
 現れたアタシたちを見て、銀髪の男――サウラーはあまり驚いた様子もなく、いつもの小馬鹿にしたような顔で、口の端を斜めに上げてみせた。

「ほぉ。意外と時間がかかったようだね。いや、むしろ早かったと言うべきかな」
「それ、どういう意味? こんなところで、何してるの!?」
 ラブが、いつもの闘志満々の口調で問いかける。
「不幸のしずくが滴り落ちる音を聞いているんだよ。もっとも、ゲージの上がり具体に比べれば、街は少々静かすぎるみたいだけどね」
「静かすぎるって……」
「えっ? まさか、このナケワメーケ!」

 ラブの言葉を遮って、思わず大声を上げてしまった。サウラーの隣に立っている、怪物の正体に気付いてしまったから。
 平べったくて四角張った形。上の方に付いている赤い目の下には扇形の窓があって、そこには目盛りと針が……。
「このナケワメーケ、元は……体重計、よね?」
 慎重に問いかけるアタシに、えっ、と驚きの声を上げる三人。そんなアタシたちを見回して、サウラーが得意げに、フン、と鼻を鳴らす。
「ああ、そうだよ。この世界の人間は、自らの体重の増加をとても気にしているようだからね。まぁ、こんなに様々な食べ物がある世界だ、僕ですらつい食べ過ぎることだって……コホン。だから、少し上乗せした数字を見せてあげたのさ。まさかそれだけでここまで不幸が集まるなんて、予想できなかったけどね」


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