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フレイ様人生劇場SSスレpart5〜黎明〜

1迷子のフレイたま:2004/03/02(火) 22:57
愛しのフレイ・アルスター先生のSSが読めるのはこのスレだけ!
|**** センセイ、          ・創作、予想等多種多様なジャンルをカバー。
|台@) シメキリガ・・・       ・本スレでは長すぎるSSもここではOK。
| 編 )    ヘヘ         ・エロ、グロ、801等の「他人を不快にするSS」は発禁処分。
|_)__)   /〃⌒⌒ヽオリャー     ライトH位なら許してあげる。
|       .〈〈.ノノ^ リ))    ・フレイ先生に信(中国では手紙をこう書く)を書こう。
        |ヽ|| `∀´||.      ・ここで950を踏んだ人は次スレ立てお願いね。
     _φ___⊂)__
   /旦/三/ /|     前スレ:フレイ様人生劇場SSスレpart4〜雪花〜
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|. |    http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/anime/154/1070633117/
   |オーブみかん|/    
              既刊作品は書庫にあるわ。
             ○フレイスレSS保存庫 ttp://oita.cool.ne.jp/fllay/ss.html

              こっちも新しい書庫よ。
             ○フレイたんSS置き場 ttp://fllaystory.s41.xrea.com/top.html

716キラ(♀)×フレイ(♂)・46−2:2004/06/18(金) 00:57
時刻は既に夕暮れ時。この時間帯のサドニス海近辺の島々は、夕日に照らされた
美しい紅海を堪能できるのだが、島全体がどんよりとした雲に覆われ、日の恩恵を
受けられない海は灰を溶かしたかのように濁り、島本来の美観を大きく損ねている。
その灰色の海と同じ色をしたフェイズシフト・ダウン中のイージスガンダムは、
ボディの彼方此方から水滴を滴らせて、抜かるんだ大地の上に寝そべっている。
イージスの近辺には、黒と金色の髪をした二人の少年が、崖に背も垂れるような
体勢で座っている。アスランとカガリだ。フレイは、何故かこの場にはいない。
今現在、雨は止んでいるが、突然の夕立にでも降られたのか、二人とも、軍服と
色の異なる髪の毛をビショビショに濡らしている。
カガリはチラリと、自分の真横にいるアスランの横顔を覗く。アスランは体育座り
の姿勢のまま、呆けた瞳で目の前の空間を見つめている。
突然、崖上の草木に貯まっていた水滴が、その重さに耐えられずに、一塊の水の弾丸を
レールガンのように崖下に弾き出した。水の塊は真下にいたアスランの頭に直撃したが、
アスランはピクリとも動かない。黒髪からポタポタと水滴を滴らせながら、まるで雨中
で乱暴され掛けた女性のような放心した表情で、心ここにあらずといった状態だ。

あいつ…。
カガリは、見えない鎖で拘束されているかのようなアスランの無気力な姿を、
彼にしては珍しく、同情した瞳で見つめている。
アスランとか言ったっけ?あいつ、本当にキラのことが好きなんだな。



「ア…アスラン君?」
フレイの問い掛けに無言のまま、アスランは彼の襟首を掴むと、左腕一本で軽々と
フレイを宙吊りにする。彼ら三人のモヤモヤとした内面とシンクロしたかのように、
突如、黒雲が、東の海岸から急速に流れてきて、島内を隈なく覆った。
フレイが右頬に冷たい水滴の存在を感じた刹那、鋭い灼熱感がフレイの逆側の頬を襲った。
予想外の事態に唖然とするカガリの目前で、アスランに渾身の力でぶん殴られたフレイは、
派手に吹っ飛ばされて、崖岩に背中をぶつけると、そのままズルズルと沈み込んだ。

「うぉおぉおおぉ…………!!!!」
アスランは獣のように咆哮すると、そのまま瀕死のフレイに馬乗りになり、再び利き腕
を大きく振りかぶった。フレイの後頭部は、硬い岩石の上に置かれており、このまま
コーディネイターの腕力で殴られたら、パンチの威力よりも、岩石との衝突でフレイの
頭蓋骨が砕かれるだろう。
「お…おい、待てよ、アスラン!?止めろぉ〜!!」
理性の箍が外れているとしか思えないアスランが、本気でフレイを殺そうとしていると
悟ったカガリは、縛られた体勢のまま、アスランに体当たりを敢行する。
側面からの予期せぬ奇襲に、アスランはカガリ共々もつれ合うように、崖側に転がった。
アスランが昏睡中のフレイから引き離されたと同時に、物凄い勢いでスコールが降り始める。
ミサイルのような大粒の雨は、水捌けの悪いここら一帯の大地を水浸しにし、ものの数秒
と経たない内に、地面に転がり込んだ三人の髪は雨で濡れ、軍服は泥塗れになる。

「き…貴様!?なぜ、庇う!?」
「落ち着け、アスラン!お前、自分が何をしているか判っているのか!?」
血走った目付きで、今度はカガリの襟首を締め上げるアスランに臆することなく、
カガリは堂々とアスランを睨み返しながら、彼の暴挙を訴える。
カガリ自身も、一度は本気でフレイを射殺そうとした身なのだ。
ならば、余計なチョッカイを掛けずに諦観し、黙ってアスランに、
フレイを殴り殺させるに任せておけば良かった筈である。
ただ、身動きの取れない捕虜に、理不尽な理由で一方的な加虐を加えようとする構図
がカガリの潔癖な倫理観に引っ掛かり、ほとんど反射的に危地に飛び込んでしまった。
何よりも、今のアスランを支配している殺意が、極めて衝動に近い感情である事実を
カガリは知っていたので、アスラン自身の為にも、彼の軽挙を止める必要性があった。

717キラ(♀)×フレイ(♂)・46−3:2004/06/18(金) 00:57
捕虜の分際でのカガリの叱咤に、アスランは忌々しそうにカガリを睨んだが、流石に
カガリにまで手を挙げようとはしなかった。こうしている間にも、雨足はさらに加速
し続け、フレイに挑発され熱し上がったアスランの激情を、少しずつ醒ましはじめる。
その時、縛られた状態のまま、仰向けに寝そべっていたフレイが蘇生し、彼の唇が動いた。

「………何を………怒っているんだい……………アスラン君?」
フレイはノロノロとした緩慢な動作で、座したままの体勢で上半身だけを起き上がらせる。
彼の顔は泥水で汚れ、切れた唇の中から真っ赤な血が滴り落ちている。
「……君にはラクスという、れっきとした許婚がいるのだろう?
もしや、ラクスを正妻とし、キラを愛人として囲む邪な計画でも巡らせていたのかい?」
危うく殺害されかけたフレイだが、淡々とアスランの非を打ち鳴らすフレイの態度からは、
微塵も怒りも恐怖心も感じられない。能面のような無表情に、妙に危機感の欠落した
冷めた瞳でじっとアスランを見つめ、逆にその静けさが、スコールのシャワーを浴びて、
正気に返りつつあるアスランを怯ませた。

「…以前、君はキラに、民間人を人質にするのは卑劣だとか、偉そうに説教したらしいね?
なら、拘束中の捕虜に私怨で暴行を加えるのが、君とザフトの信じる正義なわけかい?」
フレイは最後まで、強者に媚いることなく、強者が犯した不条理を訴えた。
その結果、ここで屍を晒すことになったとしても、アスランが筋の通らぬ逆恨みで、
フレイを害しようした事実だけは、彼の胸の内に永久に刻み込ませるつもりだ。


フレイから命懸けの告訴を受けたアスランは、無言のままガックリと肩を落とした。
今日までザフトの軍人として、数え切れない程の敵兵を殺してきたが、全ては祖国と正義
の為と信じた信念に支えられての行動であり、後ろ暗さを感じたことは一度もない。
だが、アスランが目の前で行った虐待は、明らかに正義ではなく、戦争ですらない。
彼は私怨で、目の前のナチュラルの兵士を、死刑(リンチ)にしようとしたのだ。
正規の軍人でありながら、仲間の死を冒涜されたとかの高次な話しではなく、痴話喧嘩
レベルの低次な挑発に惑わされて、理性を喪失してしまったという己の馬鹿さ加減が
信じられなくて、アスランは大幅に精神を失調させた。

「僕を殺す気がないのなら、縄を解いてくれないか?この傷の治療がしたい」
フレイがさり気無く、傷口をアピールし、アスランはまるでフレイの言いなりなった
かのように、彼の縄を解いた。こうしてフレイは、久方振りに自由を確保した。



フレイは手鏡を覗き込みながら、救急用バックから取り出したオキシドールを
染み込ませた綿を傷口に当てて、治癒に努める。
妙に口の奥がズキズキ痛むと思ったら、奥歯が一本叩き折れている。
「痛ぅ!!あの馬鹿力め!」
彼にしては凡百な悪口でアスランを罵りながら、フレイは折れた歯を吐き出したが、
コーディネイターの男子に本気で殴られて、生命があったどころか、自慢の高い鼻
も潰されずに、歯一本程度の被害で済んだのは、むしろ僥倖だろう。

一通りの応急治療を済ませ、錠剤の痛み止めを飲んだら、少し痛みが和らいできた。
痛みが引いてくるのと同時に、フレイの中から、今まで抑えこんできた怒りの感情
がフツフツと噴出してきた。
「こいつもか…」
フレイは項垂れたアスランを、醒めた瞳で見下ろしながら、心の中でそう独白する。
ジュリエットだけではない。ロミオの側も無意識に結託し、茶番を演じてきたのだ。
ヘリオポリスを脱した当時のアークエンジェルと、未熟な素人パイロットだったキラ。
過酷な環境下で、ザフトの精鋭部隊たるクルーゼ隊に度々襲われながらも、
キラが今日まで生き延びてこれた裏面のカラクリを、フレイを垣間見た気分だ。

718キラ(♀)×フレイ(♂)・46−4:2004/06/18(金) 00:58
「こいつら、ふざけやがって!戦争を愚弄するにも程がある!」
互いに愛し合っている者同士が、敵と味方に別れて、殺しあうのは確かに悲劇だろう。
だが、その悲劇に無理やり巻き込まれた者がいたとすれば、それは、むしろ喜劇でないか?
戦場では、人の生命ほど儚い存在は他にない。
己の全知全能を出し尽くした所で、報われるとは限らず、戦いを支配する何者か(神?)
の些細な気紛れにより、理不尽な死を賜るケースもしばし見受けられるが、
それでも戦争に携わった者達は、大切な何かの為に必死に戦っているのだ。
なのに、中には、そういう弱者の生命賭けの足掻きを嘲笑するかのように、敵味方の
枠組みを無視し、殺しても良い味方と殺したくない敵とを分類した上で、あまつさえ、
その絶大なる能力故に、自分の身さえも余裕で守れる強者が存在していたりする。
キラやアスラン君という闘神の申し子達が、まさしくそれだ。

「お前たちは神の身遣いか!?全ての人間が、自分と仲間を守ろうと戦っている戦場で、
殺す相手を選り分ける権利が、貴様らには与えられているとでも言うのか!?」
フレイがキラ個人を目の敵にしている本当の理由は、彼女の戦争そのものを冒涜する
許されざる背信行為に、自分の母親も巻き込まれたと信じ込んだからだ。
意外かも知れないが、フレイは直接、母を殺したザフトをそれほど憎んでもいないし、
コーディネイターを宇宙から抹殺しようという馬鹿げた妄執に囚われている訳でもない。
殺し合いの場には、無辜の被害者などという奇特な人種は、例外なく存在しないのだから。

「『ペンは剣よりも強し』だ。神様も法律も、奴らを罰しないというのなら、僕が裁く。
力で、全ての暴挙が罷り通ると信じている奴らに、言葉の恐ろしさを思い知らせてやる!」
個人として見れば、キラが自分などよりはるかに善良な人間で、母を見殺した一件も、
彼女自身には何らの悪意も持ち合わせていなかったことなどは、フレイも承知している。
フレイが問題としているのは、人柄の善悪ではなく、行為の善悪なのだ。
戦場での力ある者の『手抜き行為』を立証するのは、至難というよりも不可能だ。
これは、ある種の超越者だけに許された合法的犯罪に等しいからだ。
ならば、こちらも同等の手段によって、報復を実行する以外に道はない。
フレイならば、それが可能な筈である。
何故なら、彼は口先一つで他者の運命を自在に操れる、言霊(※)の魔術師だからだ。
※(言葉に内在する霊力。昔は言語が発せられると、その内容が具現化すると信じていた)

フレイは意趣返しとしての合法的犯罪性に拘っているが、毒殺の準備を別にすれば、
実際、今回の復讐劇の中で、法に接触する行為は何一つ犯さなかった。
キラに戦いを強要した覚えはないし、日常生活で誰もが使用しうる範囲の嘘方便なら
巧みに用いたが、詐欺罪に問われるレベルの深刻な虚言は慎重に避けてきた。
(だから、フレイはキラに「愛している」とさえ、囁いたことは一度もない)
全てはキラが、自分の責任において、勝手に仕出かした事だ。
フレイに在ったのは、「自分がこう言えば、きっと彼女はこう動くだろう」と予測し、
それを躊躇なく実行してのけた、明確な悪意の感情だけである。
そして、「手抜き行為」同様に、「悪意」を裁ける法律は、世界中のどこにも存在しない。

シェークスピアの戯曲通りに、ジュリエットにはロミオと心中してもらう。
そこから先のシナリオは白紙だが、軍属として過酷な最前線で戦っている以上、
キラという盾を失ったフレイの命数が尽きるのも、そう遠い先の話ではないだろう。
いかにフレイが、自分のインナースペースに高貴な悪魔を飼い馴らしていたとしても、
その魔族の魂を覆う彼の肉体そのものは、通常の人間のそれと何ら変わらない。
タカツキ君や、非武装のシャトルを撃ち落したというデュエルのパイロットのような、
脊髄反射で引き金を引ける類の人間の放った銃弾の一発でも、簡単に死ねるのだ。
フレイは自分の無謬性を過信してはいなかったし、何よりも、母のいないこの世紀末
の世界には、もはや、何の未練も無かった。

フレイ独特の復讐動機は、世間一般の感性に照らし合わせれば、到底、理解や共感が
得られるような代物ではなく、狂人の逆恨みの烙印を押された事は間違いないだろう。
またフレイは、キラへの憎悪が無尽蔵に溢れ出ていた初期の頃に比べて、
最近は己が怒りを定期的に確認し鼓舞し続けない事には、キラへの悪意を維持
できなくなりつつある、自身の心情変化には全く気がついていなかった。

719キラ(♀)×フレイ(♂)・46−5:2004/06/18(金) 00:58
フレイは心中から湧き上がる強い軽蔑感を押し隠して、自分の殻の中に閉じこもって
いるアスランを眺める。昂ぶる感情に反応するかのように歯欠けの歯茎がズキリと痛む。
高い代償を支払わされはしたが、お陰で、今まで風聞でしか知りえなかったアスラン君
の実像を、フレイは凡そ把握することが出来た。
「軍人として有能で、個人としても善良だが、軍隊という枠組みから一歩でも外に出たら、
まだまだ人間としての完成度には程遠く、良家のお坊ちゃまの域は出ていない」
それが、フレイがアスランに下した評価の全てだ。
世の中には、他人の善意や純粋(ピュア)な想いを正確に理解した上で、それを悪意を
以って踏み躙れる、フレイのような確信犯的な小悪党が結構存在しているのだ。
アスラン君は、そういう輩に踊らされて犬死するか、または人間に絶望し、今度は彼自身
が世界を滅ぼす魔王へと転身を果たしてしまうようなタイプだとフレイには思われた。

「プラントが世襲制度じゃなくて残念だな。アスラン君が将来、父親の後を引き継ぐ
ことにでもなれば、プラントとの外交交渉も随分と遣り易くなりそうなんだけどな」
一瞬、フレイはそう考えたが、そのアスランの婚約者で、現最高評議会議長の令嬢
であるピンク頭のお姫様の笑顔を思い浮かべた瞬間、慌ててその思考を打ち消した。
「危ない、危ない。そうなると、あの歌姫がプラントの指導者となるわけか」
酢を一気飲みしたような渋い表情を浮かべ、フレイは胃の辺りを撫で始めた。

フレイは、コーディネイター云々を抜きにして、ラクスが嫌いだった。
あの天然を装ったお姫様に、どことなく自分と似たペテンの匂いを嗅ぎ取ったからだ。
他人を騙せる詐欺師は世間にたくさん溢れているし、フレイもまた、その中の一人である。
けど、自分を騙せる詐欺師となると、どうだろう?
それは稀有というより奇跡に属する領域だ。何故なら、ヒトは他人を騙す事は出来ても、
基本的には自分自身にだけは、嘘を吐けない生き物だからだ。
「アレは、己自身も含めた総ての生命体を欺ける希代のペテン師だ」
フレイはラクス・クラインの正体をそう睨んでいる。
そういう意味では、普段、彼女が見せている天然お嬢様の仮面も、ラクスにしてみれば、
演技をしている自覚はないのだろう。ラクス自身、今はまだ卵の殻の中身を知らないのだ。

「あの女、今はアイドルの真似事をして満足しているみたいだが、そのうち自分の本性に
気づいたら、宇宙をあっと震撼させるような、とんでもない真似をやらかすのではないか?」
フレイは何らの根拠も無しに、頑なにラクスの性根をそう決め付けていた。
尚、このフレイの妄想染みた予言ないし言霊は、後日、完璧に現実の世界の出来事となる。



雨は既に止んでいる。
先のドサクサに紛れて、そのまま要領良く身柄の自由を確保したフレイは、
「食事の準備をしてくる」と宣言して、この場所から姿を消し、後には
カガリとフレイの二人だけが、取り残された。
未だ拘束中のカガリの存在を無視し、ひたすら自分独りの世界に閉じこもって
いるアスランの姿に、カガリは憐憫に近い感情を抱いた。
「あいつ、本当にキラのことが好きなんだな」
先のアスランの無様な醜態を見るにつけ、フレイほどの洞察力を必要としなくても、
アスランの本当の想いが誰に向けられているのか、カガリにも痛いほど良く分かった。
彼にはプラントに許婚がいるみたいだが、カガリ自身も親族から顔も知らない婚約者を
押し付けられそうになった口なので、身分の高い家柄の者には、昔の封建社会さながらに、
自由恋愛など許されてはいない現実をカガリは良く知っていた。

「キラの隣にいるのが、あいつだったらな…」
カガリ自身の恋愛感にマッチしたからかも知れないが、フレイの手馴れたスマートな
恋愛感覚よりも、アスランの不器用な誠実さの方にカガリは好感を抱いた。
少なくとも、キラを支えていたのが、不誠実の塊のフレイではなく、精神の骨格の半分は
優しさで構成されているアスランだったら、カガリも今ほどヤキモキしなかった筈である。
だが、現実にはアスランこそが、AAと今のキラの生命を脅かしている敵なのだ。
信用ならぬ危険な味方と、敬意に値する敵。キラを巡るその矛盾した構図が、いつかは
逆転する時は、来るのか?来ぬのか? 予言者ではないカガリには分からなかった。

720キラ(♀)×フレイ(♂)・46−6:2004/06/18(金) 00:59
日が完全に落ち、真っ暗闇になった頃、ようやく、フレイは二人の前に戻ってきた。
茸、果実、草花、木の実などが大量に詰まったらしいリュックを左腰に抱え、
どこかで捕らえてきたらしい野兎を、細長い耳を右手で掴んで、ぶら提げている。
「おっ?、ちゃんと火を炊いといてくれたみたいだね」
あれから、少しだけ精神の失調を回復させたアスランが、濡れた服を乾かす為に
仕込んだ焚き火の存在に気づいたフレイは、感心したように呟き、今までフレイの
手の内で大人しくしていた兎が、本能的に危険を感じ取ったのか、突如暴れだした。
「こらっ、暴れるんじゃない。味が落ちるだろう。美味しく調理してやるからさ」
フレイは笑顔で兎を諭しながら、一気に兎の頚骨を捻ろうとしたが、その手首を
アスランが強い力で掴んだ。アスランの異常な握力に耐え切れずに、フレイは
兎の耳を掴んでいた掌を離し、自由を得た兎は、慌てて森の中に逃げていった。

「食料なら俺の手持ちの携帯食を分けてやる。だから、逃がしてやれ」
フレイが何か言うよりも先に、アスランが口を開いた。キラは、アスラン君のことを
優しい人と表現していたが、彼は無益な殺生を好まない性格らしい。
「ふ〜ん。面白いんだね、君って。人は平気で殺せても、動物は駄目なんだ?」
スタスタとアスランの横を通り過ぎる間際に、フレイはボソッと彼の耳元に囁き、
その皮肉の痛烈さにアスランはビクッとする。

「私、アスランがそんな人だなんて、思わなかった」
「えっ!?キ…キラ!?」
有り得ない事態にアスランは呆然とする。彼が振り返った先には、焦茶色の髪をした
キラがキョトンとした表情で、彼の偽善を追求するかのように、じっと見つめている。
「て…テメエ、何しやがる!?」
突然、キラが、隣にいるフレイに、彼女らしからぬ乱暴な言葉遣いで難癖をつけ始めた。
いや、良く見ると、キラではない。そのキラに似た物体は縄で縛られた上に、緑を基調
としたコンバットスーツを着込んでいる。確か、カガリ・ユラとか名乗っていたっけ?
「似ているだろう?カガリ君はキラの変身の達人でね。案外、キラの血族だったりしてね」
開いた口が塞がらない状態のアスランに対して、カガリに焦茶色の鬘を被せた挙句、
キラの声帯模写までやってのけたフレイは、軽くウィンクしながら悪戯っぽく説明する。
この茶目っ気の為だけに、わざわざグラスパーまで戻って、鬘を回収してきたらしい。

「外せ〜!」と喚きたてるカガリの姿を尻目に、フレイはアスランから受け取った食料
を加えた上で、調理の仕込みに入る。フレイの目の前には、彼が採取してきた怪しげな
食材が並べられていたが、毒物の目利きに関しては、フレイはエキスパートなので、
食中毒の心配をする必要性は………………ひょっとすると、大いにあるかも知れない。
淡々と調理を続けるフレイの傍らで、カガリは、頭から鬘を外そうと暴れ狂ったが、
鬘はゴムで、両耳の耳元にキッチリと固定されているので、その努力は徒労に終わる。
「うがぁ〜!!」と発狂したかのように、のたうち回るカガリの姿は、自分の尻尾を
餌と勘違いし、必死に喰らいつこうとグルグル回転する間抜けな犬の姿にソックリで、
思わずアスランの顔からも笑みが零れた。
「この野郎、何が可笑しい!?」
涙目で睨むカガリに、アスランは慌てて目を逸らしたが、鬘を取ってやろうとはしない。
別に意地悪してではなく、単に自分にその選択肢があるのを忘れていただけの話しだが。

「ほら、出来たぞ」
特性のスープを煮込んだフレイは、料理を皿に盛ると、カガリの目の前に置いた。
「…って、お前、この状態で、どうやって食えっていうんだよ!?」
「そのまま食べればいいだろう。とにかく、君の縄は解けないよ。
自由の身を確保したら、君はまた身の程知らずにも、アスラン君に戦いを挑みそうだからね。
君が返り討ちにあって、くたばるのは勝手だけど、僕まで巻き込まれるのはゴメンだよ」
「何だと!?テメエ、ふざけるな!!」
カガリは当然の抗議をしたが、フレイはカガリを無視すると自分の食事に入った。
フレイは美味そうにスプーンでスープを掬い、目の前に置かれたスープの皿からは、
野生の食材で構成されているとは思えない、食欲中枢を擽る香ばしい匂いが漂ってくる。
カガリのお腹がグーっと鳴り、今朝から何も食べていない事に気付いたカガリは、
背に腹は変えられぬ…とばかりに、目の前の御椀に喰らいついた。

721キラ(♀)×フレイ(♂)・46−7:2004/06/18(金) 00:59
くっそぉ!!フレイの野郎、アスランから助けてやった恩を忘れやがって!!
殺す、殺す。絶対に殺してやるぅ!!
内心でフレイを呪怨しながら、オーブの王子様とは思えない、情けない格好で、
カガリはスープを啜った。猫舌のカガリが、舌を火傷しかけた刹那、フッと軽い音
がすると、カガリを拘束していたロープが切断された。アスランである。
彼は、キラの顔そのままで、泣きながら犬食いするカガリのあられもない姿を
見てられなくなったのだ。カガリは大慌てで、頭の鬘を外し、地面に叩き付けた。

「考えてみれば、こいつだけ動けるのじゃ不公平だからな。
ただし、銃を奪おうとするなら、その時は、躊躇い無く殺すから覚悟しておけよ」
手持ちのナイフで、カガリを戒めていたロープを切断したアスランは、照れ隠しに、
そう警告すると、無防備にもフレイから手渡されていた、敵の作ったスープを啜る。
重ね重ねのアスランのお人よし度にカガリは呆れたが、今の敵はアスランではない。
実力行使でフレイへの報復を敢行しようとしたが、既にフレイは忽然と姿を消している。
相変わらず要領の良いフレイは、カガリのほとぼりが醒めるまで、怒りをやり過ごす
所存のようだ。仕方無しに復讐のレベルを二段階ほどダウンさせたカガリは、
奴の分は残すまいと、鍋の中の美味のスープを、全部、自分の胃の中に押し込んだ。



あれから、カガリの怒りが静まった頃合いを見計らってフレイは戻ってきた。
洞窟の中で、三人は焚き木を囲んだが、元々彼ら三人は互いを潜在的な敵と見做し
合っていたので、キャンプファイアのような友好的な雰囲気とは無縁だ。
「そういえば、アスラン君。君にはお礼を言わなければならないよね?」
ピリピリとした緊張状態が長く続いたが、まずはフレイが口火を切る。
アスランは煩わしそうに、フレイの方角に振り向いただけで、頷きもしなかった。
あれから三人の間で、様々な貸借関係が発生したので、今更、不必要なオベッカだと
アスランは切り捨てたが、フレイの謝意は、無人島に来る以前の過去に向けられていた。

「今まで、キラが死なないように、それとなく手心を加えていてくれたんだろう?
お陰で、僕らもキラのお零れに与って、今日まで生き延びる事が出来たわけで…」
「ば…馬鹿を言うな。俺はザフトの軍人だ!戦場で私情を織り交ぜるなど有り得ん!」
アスランは内心でキグリとしながらも、大声でフレイの仮説を打ち消した。
今まで、フレイの口車に乗せられ、何枚化けの皮を剥がされたか判らないが、
アスランの立場上、確かにそれだけは認める訳にはいかなかっただろう。
「ふ〜ん。じゃあ、まあ、そういう事にしておこうか」
内心を見透かしたかのようにフレイの視線に、アスランは後ろめたそうに目を逸らす。

「君には色々とお世話になったから、最後に一つだけ忠告しておこうか。
君がこの先も、戦いの中でキラに温情を掛け続けるのは、それは君の勝手だけど、
もうキラの方では、そういう君の想い(馴れ合い)には頓着してくれないと思うよ?」
「な…何!?」
もう、これ以上、このペテン師の言葉に惑わされるのは止そう…と決意した傍から、
ついアスランは反射的にフレイの言葉に反応してしまう。
キラが絡む限り、彼はフレイの言葉の魔力から、自由にはなれないらしい。
「キラは僕と約束してくれたんだ。僕がもう戦わないでも済むように、僕の敵…つまり、
アークエンジェルに襲い掛かってくる君たちを、キラが一人残らず始末してくれるって。
こんな健気な恋人を持って、僕は本当に幸せ者だよ」
フレイはポタポタと涙を流しながら、サドニス島でマイケル君を殺害しかけた際の
キラの宣誓を、故意に拡大解釈した上で、アスランに最後通告として突きつけた。
自然と涙が出てしまう泣き虫のキラと異なり、泣きたい時に自由に嘘涙を流せるのが、
極上の詐欺師たるフレイお得意の御家芸の一つだ。

722キラ(♀)×フレイ(♂)・46−8:2004/06/18(金) 01:00
「フ…フレイ、お…お前、まさかその為に、キラに近づいたのか!?」
フレイは、ザフトに母親を殺されたと自己申告していた。
その上で、恋人であり、最高クラスのコーディの戦士であったキラの心の支えとなり
ながらも、同時にキラに対して、何故か不可解な憎悪をも抱き続けてきた。
この二つの符号が意味するものは何なのか?カガリの中で、その情報が一本の線で
繋がり、フレイの謎めいた行動がはじめて明確な指針を帯びた。
フレイは、単にキラを、母親の復讐の道具として利用していただけなのでは!?
かつてフレイを良く知るサイが、辿り着いたその仮説に、ようやくカガリも到着した。
さらには、そのカガリの疑惑が伝染したかのように、アスランも強い疑惑の眼差しでフレイ
を睨んだが、四面楚歌に晒され、守勢にまわされても、フレイは一向に動じた様子はない。


「心の貧しい奴らだな。一々、利害打算を絡めない事には、恋愛の一つも出来ないのか?
ただ、好きな人の役に立ちたいと願う、キラの切ない想いがどうして判らないんだ?」
キラに便乗した、ここまで図々しい反論は、想像の遥か彼方だったので、二人は絶句する。
将棋の対局中に、王手の掛かった将棋版を180度反転させたかのように、フレイは
口先一つで、あっさりと弾劾する側とされる側の立場を入れ替えた。
「まあ、一切の見返りを求めない無償の愛など、君達には一生掛かっても辿り着けない
領域だから、無理もない話しか。けど、そういう不器用な愛情に殉じる人間を愚かと
嘲笑していたら、いつかきっと手痛いしっぺ返しを食らうから気をつけた方が良いよ」
フレイはアスラン達を憐憫するような瞳で見下ろしながら、わざとらしく両肩を竦めた。

コ…コイツは!?
アスランの中で、再びフレイへの明確な殺意の感情が芽生え始めた。
何故、こんな不真面目そうな奴に、キラへの想いをここまで侮辱されねばならないのか?
アスランは、今日まで生きてきて、これほど憎たらしい人間に出会った事はない。
このまま衝動の命じるままに、コイツの首を捻じ切ってやれたら、どれほど爽快だろう
との誘惑に駆られたが、似たような挑発に惑わされて醜態を晒した先の件を思い出し、
その殺意の波動をアスランは辛うじて抑制した。

「僕にもサイという親が定めた許婚がいたよ。幼馴染の気立ての良い子で、
僕の軍属への志願に一緒に身柄を預けてくれた、僕想いの本当に優しい娘だった」
そんなアスランの内心の葛藤などお構いなしに、フレイは話を先へと進める。
サイの名前を出した時、ほんの僅かだが、フレイの瞳に、芝居でない後ろめたい光が宿る。
「でも、キラと付き合うために、彼女とはキッチリと別れたよ。ただ、許婚というだけで、
愛してもいない女性と付き合うのは、その相手の娘にとっても失礼な話しだからね」
フレイはアスランの殺気に臆することなく、自分が彼と似た境遇にありながらも、
アスランが超えられなかった壁を、超越してのけていたという現実を誇示してみせる。
ラクスというアキレス腱を巧みに斬りつけられたアスランは、心中で密かに呻いた。

「僕は、キラの為なら、許婚も、アルスター家も、生命さえも全て捨ててみせるよ。
アスラン君、君はどうだい?キラの為に、婚約者(ラクス)や、ザラ家の名誉や、
軍人としての責務などの、全てを投げ出せるだけの覚悟が君にはあるのかい?」
フレイは敢えて、純朴というよりは、むしろステレオタイプな恋愛観でアスランに挑んだ。
その方が、恋愛方面では極めて稚拙なアスラン君に、一番効果があると踏んだからだ。

フレイの宣誓布告を聞かされたアスランは、幼年学校時代のキラとのデートで、彼女と
一緒に見た映画の内容を思い浮かべた。題名は覚えていないが、主人公は、世界を救う
よりも一人の女を愛する事を選んだ物語で、キラも感涙に泣き咽ていた記憶がある。
彼の身体に執拗に絡み付く現実の柵を、何一つ振り解く事も叶わずに、キラの敵と化した
自分と、映画の主人公さながらに、キラの為に、全てをかなぐり捨てたというフレイ。
映画同様に、キラがフレイを選んだのは、むしろ、当然のフィナーレではないか?
フレイの魔術めいたペテンに惑わされて、自分の想いに迷いを抱いたアスランは、
深刻な疑心暗鬼に陥った。

723キラ(♀)×フレイ(♂)・46−9:2004/06/18(金) 01:00
「もう、止めとけ、アスラン。そいつに何を言っても無駄だ」
実に意外な人物が、精神的な呼吸困難に喘いでいたアスランを救った。
本来、仰ぐ旗の色から、アスランよりもフレイに組する立場であるはずのカガリが、
まるでアスランを庇うかのように、嫌悪の感情を隠さずにフレイを睨んだ。
アスランは驚いた表情で、フレイは興味深そうな瞳で、カガリを見つめている。

「さっき、コイツの母親は、連合の外務次官とか言っていただろ?
お前が戦闘のプロであるように、多分、フレイは言葉のスペシャリストだ。
会話を正論と理論武装で塗り固めた上で、己の主張の矛盾を排して言質を取らせず、
逆に敵側の言質を抑えた上で、相手の主張の矛盾には鋭く突っ込みを入れてくる。
そういう、口先一つで、黒いカラスを白と言いくるめる事も可能な厄介な連中さ。
だから、アスラン。あんまり、コイツの言うことを真に受けない方が良いぞ」
アスランを慰めながら、カガリは、フレイに感じていた潜在的な反発心の源が何なのか、
ようやく、把握する事が出来た。ようするに、フレイは、カガリが世界で一番嫌いな人物
と良く似ていたのだ。そう、口先一つで、世界を欺き続けてきた、オーブの獅子とかいう
偉そうな呼称で呼ばれている、彼の実…ではなくて、最近、仮と知らされた父親に。


「僕は、単に老婆心から、アスラン君に忠告しただけなんだけどね。
アスラン君はキラに討たれても本望かも知れないけど、彼のキラへの葛藤なんて、
彼の仲間達にとっては、どうでも良い話しだろ?」
かつて、トールがフレイの正体を見破ったように、カガリも数多の失敗から、
フレイの本性を突き止め、最良の対処の仕方を学んだようだ。
一瞬、今度はカガリを論破しようかとフレイは思ったが、そろそろ眠くなってきたので、
止めることにした。結局、彼は、カガリに拉致られたまま、一睡もしていなかったのだ。
「君とキラの愛憎劇に巻き込まれて、君の仲間が死んだりしなければ良いけどね」
睡魔の誘惑に身を委ねながら、最後にそれだけをアスランに告げると、フレイはゴロン
と寝転がって、会話を打ち切った。眠気がフレイの理性に皹を入れたのか、今まで、
完璧な理論武装を施していたフレイの論述の中に、僅かに本音が入り混じっていたが、
自分一人の思考に囚われていたカガリもアスランも、その傷の存在に気がつかなかった。

フレイは毛布に包まって、軽い寝息の音を立て始めた。もはや、目の前の二人の敵兵
に対して、物理的な危険度は感じていなかったアスランは、フレイの言葉の刃に、
心をズタズタに切り刻まれて精神的に参っていたので、自分もそろそろ寝ようかと
考えた刹那、テレパシーのような小さな音声が、彼の耳元に届いてきた。

「心配するな、アスラン。フレイが何と言おうと、キラはお前が知っているキラのままだ。
泣き虫でお人好しで……、まあ、ちょっと…いや、かなり気が多いのが少し困り者だけどな」

一瞬、頭の中を妖精が囁いたのかとアスランは己の理性を疑ったが、どうやら声の発生源
はカガリのようだ。彼は照れているのか、例の傷のない頬だけを赤く染めて、ソッポを
向いている。どうやらカガリは、フレイには聞かれないように、コーディの聴力なら
聞き取れるであろう可聴域すれすれの小声で、態々アスランに囁きかけてくれたようだ。

「ありがとう」
アスランは心からの謝意と笑顔でそう呟き、カガリは傷のある側の頬も含めて、真っ赤に
なると、ぶっきらぼうに、そのまま毛布を被って、アスランから顔を背けた。


今回の無人島での長い一日で、アスランは最大の敵と同時に、一人の知己を得た。
アスランはカガリとの間に、無意識化での奇妙な友情を成立させ、キラを挟んだ
二人の間に、アンチフレイ同盟が結成される運びとなる。

724キラ(♀)×フレイ(♂)・46−10:2004/06/18(金) 01:01
翌日の早朝、アスラン達が目を覚ますと、無人島の周辺は雲一つ無い澄み切った青空が
広がっている。こういう天気の時は、NJの影響率が低い事を知っていたアスランは、
イージスのコックピットに乗り込んで、無線を試してみると、ノイズ混じりに仲間から
の通信が聞こえてきた。
「こちらは、アスラン。アスラン・ザラだ。その声はニコルか?」
「そうだよ、良かった。生きていたんだね、アスラン。心配したんだから…」
ニコルの涙ぐんだ声に、アスランは顔を綻ばす。無人島の座標マップを送信して、
救助に関する打ち合わせを終えたアスランがコックピットから降りると、
カガリとフレイの二人が、アスランを出迎えてくれた。

「それじゃ、ここでお別れだね、アスラン君。こちらも、迎えが来ているかも知れない
から、グラスパーの方に戻ってみる事にするよ」
フレイはわざとらしく握手を求めたりはしなかったので、アスランは無言のまま、
彼らを見送る事にした。殺すという選択権を行使しなかった以上、彼ら二人を捕虜
として、ザフトへ連行する意思などない。フレイなど、イザーク達にキラの件で、
何を吹き込むやら分かったものじゃないからだ。

こうして、男三人の無人島での共同生活は、たったの一日で終わりを告げた。


「カガリ!?フレイ!?私よ。良かった。二人とも無事だったのね」
アスランと同じく、フレイとカガリの二人にも、極上のお出迎えがすぐ側まで来ていた。
グラスパーの通信機に、キラの嗚咽の声が聞こえてきて、フレイとカガリの行動は、
ほんの一瞬の半秒ほどだけシンクロし、二人は苦笑未満の表情を浮かべた。

二人が海岸線で待機していると、突如、モーゼの奇跡のように海が割れ、中から海坊主
のような巨大なMSが出現し、のっしのっしとこちらに向かって歩いてきた。
「フレイっ〜!!、カガリぃ〜!!」
コックピットから転がり落ちるように、飛び降りたキラは、ヘルメットを投げ捨てると、
泣きながら二人に駆け寄ろうとしたが、彼らの手前2mの砂浜でピタリと足を止める。
相変わらずの愛玩犬さながらの優柔不断な仕草で、キョロキョロと二人を見渡すキラ。
どちらの胸元に先に飛び込むか、彼女にとって、結構デリケートな問題だったりするのだ。

どちらを選んでも角が立つと判断したキラは、折半案(二股)を選択したらしい。
無駄にコーディネイターの身体能力を発揮して、二人の手前で大きくジャンプし、彼ら
の頭上を飛び越えると、そのまま後方に回り込んで、二人の片腕に自分の両腕を絡めた。

「えへへ…。二人とも、生きていてくれて、本当に良かったよ〜」
キラは、CIAの職員に連行される宇宙人さながらに、二人にぶら下がりながらも、
軽い涙を含んだ上目遣いで、フレイとカガリを笑顔で見上げた。
キラの本心は見え透いていたので、フレイもカガリも呆れていたが、
このキラの泣き笑いの表情を見せられたら、何も言えなくなってしまう。
緊急事態でもあったことだし、一時的に停戦同盟を結んだ二人は、
敢えてキラのミエミエの誤魔化しに、騙されてやる事にした。


結局、キラはアスランと同じ無人島の大地に足を踏み入れながらも、
アスランとの邂逅を果たすことなく、この島を去る事になる。
この先、キラとアスランの二人に、さらなる過酷な運命が待ち構えていた事を、
当人達は勿論、二人の未来の鍵を握る、言霊の魔術師たるフレイでさえも、
この地点では全く予期していなかった。

725私の想いが名無しを守るわ:2004/06/18(金) 02:58
>>キラ(♀)×フレイ(♂)
いつも楽しみにしてます!
ここしばらくはフレイの魔術師ぶりが全開でとても面白かったです。
自分は男フレイ様は黒い方が好きですね。

726私の想いが名無しを守るわ:2004/06/18(金) 08:28
>>キラ(♀)×フレイ(♂)
待ってましたよぉ〜〜〜!
もう読めないのかと心配していましたので本当にうれしいです!
個人的にはあの、暁の車のシーンを男三人でやっちゃうのかと想像し、
はらはらしていたんですが、
何事もなく(?)救出されて良かったです。
カガリ少年も大好きなので、今後の活躍を期待しています。

727私の想いが名無しを守るわ:2004/06/18(金) 08:35
>>キラ(♀)×フレイ(♂)
キラ(♀)の抱きつきシーン期待してましたが、その優柔不断ぶりが素敵でした。
かなりの筆量に圧倒されつつ、これだけ費やしてもアスランの考えが心に響いて来ない。
逆に、不可解と言われるフレイ(♂)様の方の考えが理解できるのは、既に毒され過ぎでしょうか。

キラ(♀)とアスランの映画ネタ。映画の結果じゃなく、そこに至るプロセスが気になるな。
比喩として使うのなら…… もし、イメージする作品があるなら、それ匂わすだけでも。

728私の想いが名無しを守るわ:2004/06/18(金) 09:50
「フレイ=アルスターです。よろしくお願い致します。」
バジルール少佐の力添えで通信士としての仕事をすることに決まった私は、まず最低限の仕事を覚えるために月基地にいる間研修を受けることになった。
研修と言っても、通信士担当の人から操作方法を教えてもらう、アークエンジェルにいた頃にはおざなりになっていた軍規を覚える、という程度のことだという話だったけれど。

「このパネルのここを操作して・・・・・」
皆丁寧に教えてくれるけれど、私は中々一度で覚えることができなかった。
本当に、私、できる事って少なかったんだ・・・・・
さして難しくない(少なくともMSの操縦よりは簡単なはずだ)操作ですら飲み込みの悪い私が、アークエンジェルにいた頃、何ができただろう。
何かできたはずだ、本当は。
本当はあの時やらされていた雑用だって大切な仕事だった。でも、真面目にやらなかったから、アークエンジェルで私は中途半端な立場でしかなかった。
今は通信士ならできるだろうって、バジルール少佐の信頼を受けたんだから頑張らなくちゃ。
私は必死で勉強した。皆の邪魔にならないように。
次にキラに会ったときに恥ずかしくないように。
私にもちゃんとできる事があったんだって、そう言えるように。

「フレイ=アルスター軍曹!」
ふと振り向くと、見覚えのある、同じ年頃の少年兵士が駆け寄ってきた。
「はい。ええと・・・・」
彼の名前はなんだっただろう。今度こそクルーの皆をちゃんと覚えなくちゃ。
アークエンジェルにいた頃みたいに自分の周りだけ見ていればいいわけじゃない。
バジルール少佐に迷惑をかけないようにしないと・・・・
「ケリィ=エヴィンス二等兵です。お話ししてもよろしいでしょうか。」
「え・・・・ええ・・・・何か?」
彼はきらきらと目を輝かせて私を見ている。
一体何なんだろう?
私は今はまだただの落ちこぼれで・・・何もこんな目で見られる事はないと思うんだけど・・・・・
「ジョージ・アルスター事務次官のご令嬢でいらっしゃいますよね。俺、あなたの話を聞いて、感動して軍に志願したんです。」
・・・私の話?
「『これでもう安心でしょうか?これでもう平和でしょうか。そんなこと全然無い。』・・・本当だ、と思いました。例えば中立国に逃げ込めば自分は平和なまま暮らしていけるかもしれない。でも、それは戦争が終わったわけではないんですよね。ただ、逃げているだけなんだ。」
「・・・それ、誰から?」
「志願の時に、映像を残されませんでしたか?正直俺は志願を迷っていたんですが、あれを見て決意したんです。俺も自分で戦わなくちゃって。」
「・・・私の映像が、志願を促すために使われているということ?」
信じられなかった。通信の時の記録を残してあったということだろうか。
「じゃあ、あなたは、私の言葉がなければ、軍には志願しなかった?」
彼は少しだけ笑みを浮かべて首をかしげた。
「正直・・・よくわかりません。ただ、あの時の迷いを断ち切ってくれたのは、貴女の言葉だったのだ、と。」
私は・・・・・・
「私は、そんなつもりで、あんな事を言ったわけじゃ・・・」
「いいえ、気持ちは同じです。俺も自分が平和な場所にいて、自分だけ平和でいることに疑問を感じたんです。だから俺は、戦う事にしたんです。あなたと同じように。」
私と同じように?違う。私は、本当はそんなこと思っていなかった。
「違うわ。私・・・・・私、あの時は、パパの復讐のことしか・・・・・・」
こんなの間違ってる。キラと同じように、サイと同じように、私のせいで戦争に巻き込まれる人なんてこれ以上いちゃいけないのに。
「わかります。お父上の事も聞いています。さぞつらかっただろうと思います。その状態で悲しみに沈むのではなく、戦う事を選んだ貴女を、俺は尊敬します。」
「違うの。私、そんな立派な事を考えていたわけじゃないのよ。あなたが私のせいで志願したというなら・・・・」
それは間違ってる。キラの時と同じだ。偽りの言葉に動かされて戦うなんて。
今だって私は自分のためにドミニオンにいるのに。
「あなたのおかげです。あの時決心できたのは。それだけ言いたかったんです。お忙しいところ失礼しました!」
言うなり彼は踵を返す。
「ちょっ・・・・・」
呼び止めたけれど彼はもう振り向かず、私は自分のしたことの恐ろしさを考えずにはいられなかった。

729散った花、実る果実57:2004/06/18(金) 09:55
「フレイ=アルスターです。よろしくお願い致します。」
バジルール少佐の力添えで通信士としての仕事をすることに決まった私は、まず最低限の仕事を覚えるために月基地にいる間研修を受けることになった。
研修と言っても、通信士担当の人から操作方法を教えてもらう、アークエンジェルにいた頃にはおざなりになっていた軍規を覚える、という程度のことだという話だったけれど。

「このパネルのここを操作して・・・・・」
皆丁寧に教えてくれるけれど、私は中々一度で覚えることができなかった。
本当に、私、できる事って少なかったんだ・・・・・
さして難しくない(少なくともMSの操縦よりは簡単なはずだ)操作ですら飲み込みの悪い私が、アークエンジェルにいた頃、何ができただろう。
何かできたはずだ、本当は。
本当はあの時やらされていた雑用だって大切な仕事だった。でも、真面目にやらなかったから、アークエンジェルで私は中途半端な立場でしかなかった。
今は通信士ならできるだろうって、バジルール少佐の信頼を受けたんだから頑張らなくちゃ。
私は必死で勉強した。皆の邪魔にならないように。
次にキラに会ったときに恥ずかしくないように。
私にもちゃんとできる事があったんだって、そう言えるように。

「フレイ=アルスター軍曹!」
ふと振り向くと、見覚えのある、同じ年頃の少年兵士が駆け寄ってきた。
「はい。ええと・・・・」
彼の名前はなんだっただろう。今度こそクルーの皆をちゃんと覚えなくちゃ。
アークエンジェルにいた頃みたいに自分の周りだけ見ていればいいわけじゃない。
バジルール少佐に迷惑をかけないようにしないと・・・・
「ケリィ=エヴィンス二等兵です。お話ししてもよろしいでしょうか。」
「え・・・・ええ・・・・何か?」
彼はきらきらと目を輝かせて私を見ている。
一体何なんだろう?
私は今はまだただの落ちこぼれで・・・何もこんな目で見られる事はないと思うんだけど・・・・・
「ジョージ・アルスター事務次官のご令嬢でいらっしゃいますよね。俺、あなたの話を聞いて、感動して軍に志願したんです。」
・・・私の話?
「『これでもう安心でしょうか?これでもう平和でしょうか。そんなこと全然無い。』・・・本当だ、と思いました。例えば中立国に逃げ込めば自分は平和なまま暮らしていけるかもしれない。でも、それは戦争が終わったわけではないんですよね。ただ、逃げているだけなんだ。」
「・・・それ、誰から?」
「志願の時に、映像を残されませんでしたか?正直俺は志願を迷っていたんですが、あれを見て決意したんです。俺も自分で戦わなくちゃって。」
「・・・私の映像が、志願を促すために使われているということ?」
信じられなかった。通信の時の記録を残してあったということだろうか。
「じゃあ、あなたは、私の言葉がなければ、軍には志願しなかった?」
彼は少しだけ笑みを浮かべて首をかしげた。
「正直・・・よくわかりません。ただ、あの時の迷いを断ち切ってくれたのは、貴女の言葉だったのだ、と。」
私は・・・・・・
「私は、そんなつもりで、あんな事を言ったわけじゃ・・・」
「いいえ、気持ちは同じです。俺も自分が平和な場所にいて、自分だけ平和でいることに疑問を感じたんです。だから俺は、戦う事にしたんです。あなたと同じように。」
私と同じように?違う。私は、本当はそんなこと思っていなかった。
「違うわ。私・・・・・私、あの時は、パパの復讐のことしか・・・・・・」
こんなの間違ってる。キラと同じように、サイと同じように、私のせいで戦争に巻き込まれる人なんてこれ以上いちゃいけないのに。
「わかります。お父上の事も聞いています。さぞつらかっただろうと思います。その状態で悲しみに沈むのではなく、戦う事を選んだ貴女を、俺は尊敬します。」
「違うの。私、そんな立派な事を考えていたわけじゃないのよ。あなたが私のせいで志願したというなら・・・・」
それは間違ってる。キラの時と同じだ。偽りの言葉に動かされて戦うなんて。
今だって私は自分のためにドミニオンにいるのに。
「あなたのおかげです。あの時決心できたのは。それだけ言いたかったんです。お忙しいところ失礼しました!」
言うなり彼は踵を返す。
「ちょっ・・・・・」
呼び止めたけれど彼はもう振り向かず、私は自分のしたことの恐ろしさを考えずにはいられなかった。

730散った花、実る果実/作者:2004/06/18(金) 09:57
すみません、728はタイトル入れるの忘れました。
わかりにくいので729にタイトルつけてもう一度同じ物をUPしました。

731私の想いが名無しを守るわ:2004/06/18(金) 10:48
>>散った花、実る果実
続編投下ありがとうございます。
フレイたまの一生懸命な姿がいじらしいです。
新キャラ登場ですが、どうなっちゃうんでしょう?
ひそかに連合のアイドルになっていたなんてちょっと嬉しいかも。
続きもお待ちしています。

732私の想いが名無しを守るわ:2004/06/19(土) 01:43
ここってアスラクだのアスキラだの、フレイ様の小説なのに
わざわざ他カプの設定まで変えてアスカガは書きません…という
職人さんが多いのでしょうか?前から不思議だったのですが。
書かないのは勝手なんですが他ヒロインの事とはいえ、何か設定の
変更が気になったので失礼します。

733私の想いが名無しを守るわ:2004/06/19(土) 02:08
アスカガを【書かない】じゃなくて、アスラクとかアスキラを【書きたい】なんじゃ?
二次創作ってそういうもんでしょ。>設定変更
ぬっちゃけキラフレラブラブってのも設定変更っちゃ変更なんだし、
そういう突っ込みは野暮ってもんだ。

と思うわけだが、さらに議論になるようなら次は議論スレでよろ。

734私の想いが名無しを守るわ:2004/06/19(土) 07:33
>>散った花、実る果実
フレイ様、研修に一生懸命な様子。いじらしいです。
>>次にキラに会ったときに恥ずかしくないように。
この台詞が、心に染みました。

それにしても、フレイ様の軍志願の台詞が、ここで使われるとは。
確かに、サザーランドは志望理由と共にプロパガンダに利用すると
マリューに公言していましたが……
私の場合、この後の鍵のディスクの真実と共に、フレイ様に試練の予感がします。
どちらに話が転ぶのかは、この先次第ですが……

それにしても、この空白期間の通信士研修は、フレイ様SS書きにとっては、
挑戦しがいのある素材ですね。私は、残念ながら、そこまでできませんでしたが。

735私の想いが名無しを守るわ:2004/06/19(土) 08:44
>>732
私も、ここで書いていましたが、カガリは、キラとの関係が、オーブでの「友人」から、
オーブ戦の「依存」に変わるところまでで、アスランを出す前に話が終わってしまったので、
そこまで進みませんでした。
もっとも、フレイ様に対する、もう一人のヒロインの設定変更が、とてつもなく人を選ぶのですが……

バトルの得意な書き手さんのは、アスランが可哀想なくらい(?)カガリに慕われていましたし、
毎日連載の人は、確かに設定変更して、アスランとカガリは出会いませんでしたが、カガリは
今後、結構重要な役目を持っていたようです。カガリとフレイ様は友人関係築いていましたし、
フレイ様とアスランは出会っていましたので、そのうち、三人が出会うのじゃないかと期待してます。
フレイ(♂)様の人は、まあ……

それ以外の人はフレイ様関係の設定変更が中心で、カガリが出ないものも多かったです。
ううむ、思い返すと、カガリとアスランに関して変えた人は、このスレでは少なかったんじゃ
ないでしょうか。

736私の想いが名無しを守るわ:2004/06/20(日) 11:37
>>散った花、実る果実
続編投下ありがとうございます
フレイ様が謙虚になってがんばってる姿がうれしいです
どちらかというと、前半DQNよりもドミ後のフレイ様が好きなので
次も楽しみにしています

>>キラ(♀)×フレイ(♂)
フレイ様の黒さがどんどん増してきて…
大好きなお話ですので、大量投下本当にうれしいです
アスランを言い負かしてしまうほど頭の良いフレイ様、カコイイ
こちらも続きを楽しみにしています

>>さよならトリィ
短編完結ものはここでは珍しいので、集中して読めました
フレイ様の気持ちの変化が、すごく身近に感じられて
ラストがすごく切なかったです
先にも書きましたが、後半フレイ様好きにとってはとても印象的な作品です
新作の投下もぜひぜひお待ちしています

737私の想いが名無しを守るわ:2004/06/20(日) 17:06
>>さよならトリィ
トリィに対する感情、キラに対する感情がリンクして切なかったです。
ラストはあんな書き方もあるんだ、と感心しました。
フレイ様の想いをトリィが運んで・・・・・・
とてもいい作品でした。次の作品の予定がありましたら楽しみにしてます。

738あぼーん:あぼーん
あぼーん

739私の想いが名無しを守るわ:2004/06/20(日) 20:58
此処は私、フレイ・アルスターのためのスレ。アツくなり過ぎちゃダメよ!
■気に入らない書きこみは全て放置しましょう。

740私の想いが名無しを守るわ:2004/06/20(日) 21:26
>>散った花、実る果実
フレイ様空白の2ヶ月間!
フレイファンならどうしても補完したいところです。
今回出てきた少年兵の行く末が気になります
続きを待ってます。
>>キラ(♀)×フレイ(♂)
毎回毎回すごく楽しみにしているんですが、
今回も期待を裏切らない面白さでした!
アスランとカガリの共同戦線もこれからどうなるのか気になります。
>>さよならトリィ
切ないという感想が多かったので読みました。
……本当に切なかった。
葛藤しながら生きて、光になったフレイ様に
読んだ後しばらく最終回後と同じ脱力感が来てしまいました。
次作も期待しています。
余談ですが、ここでは未完だった前作も楽しませていただいていました。

741散った花、実る果実58:2004/06/20(日) 22:30
私は私の疑問をそのまま放っておく訳にはいかない、と思った。
「バジルール少佐・・・・・」
ブリッジにはいない、バジルール少佐の自室にも。さっき食堂は見たし、あとは・・・・・・
次の作業時間までにバジルール少佐に会わなければ、というあせりと共に私は彼女を探した。
「バジルール少佐!!」
休憩時間だったのか、バジルール少佐は宇宙を眺めることの出来る後部デッキにいた。
「アルスター軍曹・・・・・うわっ・・・・・」
勢いあまって飛び込んでしまった私を、バジルール少佐はなんとか受け止めた。
「どうした。そんなに慌てて。何かあったのか?」
姉のよう私を覗き込む彼女の瞳は優しい。アークエンジェルにいた頃怖い人だと思っていたのが嘘のようだ。
「あの・・・っ・・・私の、軍に志願したときの・・!」
「志願?」
バジルール少佐は何のことだか分からない、と言ったように首をかしげた。
「ええと・・・・・私が、軍に志願したとき・・・・・・あのっ・・・」
焦っていてうまく言葉がつながらない。ああもう、こんなことしてる場合じゃないのに。
「どうした。少し落ち着きなさい。軍に志願した時の事で何かあったのか?」
「そうなんです。あの・・・私が軍に志願したときの映像って・・・・・!」
バジルール少佐の助けを得て私はせき止められていた流れが決壊するように話し始めた。
「私の言葉が志願を促すために使われているってどういうことですか?私、あれが映像として残されているなんて知らなかった。あの時バジルール少佐は傍にいましたよね、少佐もご存知だったんですか?何故そんなものが使われているんですか?私がザフトの艦に乗っていた間ずっとあれが使われていたの?私は死んだと思われていたのではなかったのですか?どうして、どうしてあんなものが使われなきゃいけないの・・・・?私、私そんなつもりじゃ・・・・」
「ちょっ・・・・・アルスターぐんそ・・・ちょ、ちょっと落ち着きなさい」
「だって・・・・・!」
なおも勢いの止まらない私を、バジルール少佐はなだめるように両肩をおさえ、座らせた。
「落ち着きなさい、フレイ・アルスター。お前はそもそも、何のために軍に志願したのだ?」
そもそもの理由。パパの復讐。キラへの謀略・・・・・?
顔が熱くなるのがわかった。
「パパが死んで・・・・このままにできない、と思って・・・・・・」
「父上の復讐のためか?」
こくん、と頷く。
「それに、キラに・・・・・・・」
「ヤマト少尉に?」
「キラは、コーディネイターだから、ちゃんと戦ってないんだって・・・だからパパは死んだんだって・・・・あの時は、そう、思ったんです。」
それは、今となっては違う、とわかる。ちょっとだけ本当かもしれないけど、それはキラのせいじゃない。
「でも、お前自身が軍に志願しよう、と思った理由がちゃんとあるだろう。・・・平和のために何かしたい、と思ったのだろう?」
とても優しいバジルール少佐の言葉が、今の私にはつらかった。

742私の想いが名無しを守るわ:2004/06/21(月) 03:46
>>散った花、実る果実
ナタルさんを捜して、焦って一生懸命なフレイ様可愛い……
月じゃないと、転げまくっているところでしょうね。
しかし、いきなり、復讐の真実を打ち明けても動じないナタルさんは、
艦長になって成長したのでしょうか。それとも、隠しごとだと思っていたのは
フレイ様だけで、大人組はみんな知っていた?

743私の想いが名無しを守るわ:2004/06/21(月) 05:50
 >さよならトリィ
全話一気に読みました。
台詞回しも放映中のフレイ様を思い起こさせ、AA時代のあたりなどは圧巻でした!
キラが出てこない分、お話としてフレイ様に集中できたような気がします。
 >キラ(♀)×フレイ(♂)
実は、このスレになってからの分しか拝見していないんですが
(近々過去ログから纏めて読ませていただきます)
フレイ様を男の子にしちゃったのに、すごく面白いです!
きちんとキャラ立ちしていてすごく魅力的な悪役ぶりにはまりました。
 >散った花、実る果実
こちらもこのスレからなんですが
自分的にはナタルフレイのコンビが好きなので、これからが楽しみです。
二人の会話をもっと聞きたいです。

744あぼーん:あぼーん
あぼーん

745私の想いが名無しを守るわ:2004/06/21(月) 09:15
>>散った花、実る果実
再開ありがとうございます!
自分もナタルフレイの桑島姉妹萌えですので
最新作の二人の会話に口元がゆるみっぱなしでした〜
>>キラ(♀)×フレイ(♂)
こんなフレイ君なのに、なぜかキラとうまくいってほしいと願う自分がいます。
優柔不断なキラは最終的にどこに落ち着くんだろ?
>>さよならトリィ
すごく良かったです!
フレイSSではフレイ様の死を他キャラが語るってほうが多いと思ってたんですが
こういう感じはあまり目にしなかったので
キラフレ的にはアンハッピーエンドですが
フレイ様自身的にはある意味幸せエンドだったのかなって。
又の投下、お待ちしております〜

746あぼーん:あぼーん
あぼーん

747私の想いが名無しを守るわ:2004/06/21(月) 10:46
一応修正テンプレ
こちらに添った書き込みをお願いします。
↓   ↓   ↓   ↓   ↓   ↓   ↓   ↓   ↓   

愛しのフレイ・アルスター先生のSSが読めるのはこのスレだけ!
|**** センセイ、         ・創作、予想等多種多様なジャンルをカバー。
|台@) シメキリガ・・・         真似では無い、あなたの本当の創作(おもい)を読みたいわ。
| 編 )    ヘヘ           自分では似ていないと思っても、今一度、読み直して確かめてみてね。
|_)__)   /〃⌒⌒ヽオリャー  ・エロ、グロ、801等の「他人を不快にするSS」は発禁処分。
|       .〈〈.ノノ^ リ))       ライトH位なら許してあげる。
        |ヽ|| `∀´||.        キャラヘイトは駄目よ。私以外のファンのためにも配慮をお願いね。
     _φ___⊂)__     ・フレイ先生に信(中国では手紙をこう書く)を書こう。
   /旦/三/ /|        感想だけよ。議論したいなら議論スレでね。
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|. |        感想が無くっても私負けない! 次は絶対がんばるから。
   |オーブみかん|/     ・ここで950を踏んだ人は次スレ立てお願いね。

             前スレ:フレイ様人生劇場SSスレpart5〜黎明〜
             http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/anime/154/1078235844/

748あぼーん:あぼーん
あぼーん

749あぼーん:あぼーん
あぼーん

750私の想いが名無しを守るわ:2004/06/21(月) 13:38
>>749
>>747

751私の想いが名無しを守るわ:2004/06/22(火) 09:10
>>散った花、実る果実
フレイファンなら誰もが知りたいドミでの空白の2ヶ月
新米軍人さんのフレイ様が愛らしいです

>>キラ(♀)×フレイ(♂)
筋と関係ないのですが
ウサギ狩中のフレイ様を想像してしまいました
絞めるのも、毛をむしるのも平気なんでしょうか?
ワイルドな一面も良いです!

>>さよならトリィ
トリィに感情があるかのようで…
フレイ様死にエンドですが、感動的でした
余韻の残るお話で大好きです

752散った花、実る果実59:2004/06/28(月) 00:04
「平和のために、なんて・・・・私、本当はそんな立派な理由で軍に志願したわけじゃなかった。」
私は握り締めた自分の拳を見つめながらつぶやいた。
「違うんです。本当は、私。・・・・本当に、パパの復讐のことばかり考えていた。」
「それがおまえの戦う理由というわけか・・・・」
淡々と囁くバジルール少佐の声。しかし私は少佐の顔を見ることができなかった。
「平和のために、なんて、嘘。・・・・ちょっとは本当だったけど・・・・・でも、パパを殺したコーディネイターなんて皆死んじゃえばいいって。そう思ってた。戦争なんて、嫌だったけど・・・・・早く終わって欲しかったけど・・・・・・」
自分がわからなくなった。
本当に戦争を終わらせたくてあんな事を言ったのか。
本当に復讐のことだけを考えてあんな事を言ったのか。
「結局私はあそこにいる時なんにもしなかった。・・・・私はただキラを、皆を戦争にかりたてただけ。それなのに自分は安全なところで怯えて丸くなっていた、ただそれだけだった。」
バジルール少佐は知っているはずだ。あの頃の私の情けない行動を。
「そうだな。正直、軍に志願した時の毅然とした様子とかけ離れた勤務態度に呆れなかった、と言えば嘘になるが・・・」
私は唇をかみ締めた。
「しかし、そんなものだろうとも思っていた。ヘリオポリスで最初お前達を見かけた時は『同じ年頃でもう戦場に立っている者もいるのに』と腹立たしく思ったものだったが・・・・・」
「ヘリオポリスで?」
気がつかなかった。私は、この人とヘリオポリスで出会っていたのだろうか。
「お前は気がつかなかったろう。いや、恐らく皆忘れているだろうと思うが・・・・お前と、ヤマト少尉と・・・・ミリアリア・ハウ二等兵もいたか?あまりはっきり記憶しているわけではないが・・・・ラブレターがどうの、とか騒いでいたような・・・・話題の中心はお前だったな?フレイ・アルスター」
バジルール少佐は悪戯っぽく微笑んだ。
「え?いや、あの・・・・・」
ラブレター?え?もしかして、サイの?
「ヘリオポリスでは随分もてていた様子じゃないか?アークエンジェルではヤマト少尉とアーガイル二等兵と一悶着あったようだし・・・・ここは女性兵士も少ないから、変な男にからまれないように気をつけるんだぞ?」
「あ、ああああの、ええええぇ!?」
バジルール少佐はこんなにお茶目な人だっただろうか。もっと厳格な人だったような気がするんだけど・・・・
「いや、あのですね、そうじゃなくて。」
そう、そうじゃなくて。私はもっと大事な話をしにきたはず。
「私はそんな立派な信念があって軍に志願したわけじゃなかったんです。だから、だから私・・・・私の志願理由を軍の広報に使うなんて間違ってる。」
流石にバジルール少佐は真顔に戻り、しかしこう言った。
「いいや、間違ってはいないよ、フレイ・アルスター。軍と言うのはこういうものだ。」
「でも・・・・!」
「まあ聞け。・・・軍としては、できるだけ兵士の士気を高めたいわけだ。それもできるだけ自然な方法の方が好ましい。ここまでは納得できるか?」
「はい。」
それはそうだろうけど、でも・・・
「軍にとって重要なのは、お前の言葉が真実であるかどうか、ではない。聞く人間にとって真実に聞こえるか。それを聞いて軍の士気があがるかどうか、だ。」
「・・・私の言葉が嘘でもいいって事ですか?」
理屈はわかる。わかるけど感情は納得できない。
「ああ。いいんだ、嘘でも。それが本当かどうかは本人にしかわからないだろう?・・・お前がやっていたのも、そうではないのか?」
私の、やっていたこと?
「ヤマト少尉を戦わせていた時。・・・・全て真実によって、お前は彼を動かしていたか?」
・・・キツイ一言だった。
今までの言葉が優しかっただけに尚更効いた。
「・・・私は・・・・・・・」
「いいんだ、フレイ・アルスター。お前を責めているわけじゃない。しかし、人と言うのは、多かれ少なかれそういう側面を持っている物ではないのか?私もそれを利用した。お前とヤマト少尉が寝食を共にしても何も言わなかったその理由がこれだ。」
バジルール少佐もキラを利用した?キラを利用するために私を利用したの?
「・・・私がそばにいればキラが戦う、ってそう思っていたから?」
「そうだ。あまつさえ私はヤマト少尉の両親を人質にとろうか、とも考えたことのある人間だ。しかしそれはしょうがないことだ、とその頃は思っていた。」

753私の想いが名無しを守るわ:2004/06/28(月) 06:31
>>散った花、実る果実
コンスタントに連載続けられていて、頭が下がります。
まだまだ、ナタルさんとの話は続きそうですね。
とりあえず、第一話のことまで正確に記憶しているナタルさん、スゴイです。

>>あ、ああああの、ええええぇ!?
フレイ様の言動も、お茶目になってる? ナタルさんに会って、今までの張り詰めた
気分が解き放されているせいでしょうか。

754散った花、実る果実60:2004/07/03(土) 00:30
キラの両親を人質に・・・・それはとてもひどい考えだ、と思った。
でもすぐ気づいた。私はザフトに対してラクスを人質にしようとしたじゃないか。
「そんな顔をするな。今はそれが正しいとは私も思っていない。」
複雑な表情の私を見て、バジルール少佐は苦笑しながら言った。
「ただ・・・・やはり他人の人生に立ち入るのには覚悟のいることだ。・・・・もうわかっているだろうと思うが。」
「はい。・・・私は・・・・・キラの人生を狂わせたのですから。キラには謝っても謝り切れない。でも、謝らなくてはいけないと思っています。それに・・・キラには伝えたい事があります。」
「伝えたいこと?」
「はい。キラに会ったら・・・会えたら、そうしたら言います。それまで内緒です。」
不安だった。とても。
この広い宇宙の中、もう一度キラに会えるという保証はどこにもない。
けれど、賭けてみようと思った。
キラの乗っているアークエンジェルを追いかけているこの艦に乗るのが一番可能性が高い。
ここにいて会えないのならもうきっと、キラには会えないだろう。
だから、可能性にかけてみよう、と思ったのだ。

「でも、だからこそ。もう、私のせいで誰かの人生が狂わされるのは嫌なんです。」
そう、そのためにバジルール少佐を探していたのだ。
「しかし、あの放送によって決意を固めたものがいるとして、それはある意味自身の選択であるとも言える。それを覆すのは、難しいのではないか?それに、今更覆すというのも彼らのためになるのかどうか・・・・」
「そうかもしれないけど・・・・でも、もう何もしないで後悔するのは嫌なんです。それがなんであれ・・・私にできることはやりたい、と思っています。」
アークエンジェルにいたときのような後悔はしない。もう二度と。

755散った花、実る果実61:2004/07/03(土) 00:36
「ケ・・・・・エヴィンス二等兵!」
「ああ、アルスター軍曹」
私を見る彼は本当に嬉しそうだ。
「どうかされましたか?」
子犬のような彼の瞳にかすかに罪悪感がうずく。
いいの?どのみち彼は軍を抜けることなんてできないんじゃないの?
だったら、夢を見せてあげたままの方がいいんじゃないの?
「何か?」
だめ、できることはしなくちゃって、そう決めたじゃないの。
「エヴィンス二等兵・・・私は、あなたが思っているほど立派な人間じゃないんです。」
「・・・どうしたんです?急に」
私は気持ちを落ち着けるために一つ大きく深呼吸をしてから話し始めた。
「私の映像を見て軍に志願したって言ってたでしょ?あの時の私の言葉・・・半分は、嘘なの。」
彼は黙って私の言葉を聞いている。
「私・・・・ヘリオポリスの出身なの。あそこで、友達と買い物をしている時に戦争に巻き込まれたの。それまでは私、とても幸せな人生を送っていたわ。ママは死んじゃっていなかったけど・・・・でもね、パパはとっても私を愛してくれたわ。私、片親の家庭だから不幸だなんて思ったこと一度も無い。でも、ヘリオポリスが崩壊して・・・・聞いたでしょ?ザフトとの戦闘に巻き込まれて跡形もなく消えてしまったわ。そして、私の乗っている避難シェルターが壊れて、それをアークエンジェルに拾われたわ。」
「アークエンジェルに行くまではあなたは軍人ではなかったんですね。」
「そうよ。・・・アークエンジェルに乗ってからも、私、軍の仕事なんてしようとも思わなかったわ。・・・皆は自分にできる事をしようって頑張っていたのにね。」
泣きながら戦っていたキラ、苦悩しながらもキラを受け入れたサイ、トールを失ったミリアリア、始終怯えていたカズイ・・・・・
「私、アークエンジェルさえ降りれば、自分はもう平和だって思ってたの。戦争なんて関係ないって。」
緊張に、私ののどが鳴る。
「パパが・・・死んだの。殺されたの、ザフトに。その時、アークエンジェルにはろくな戦力はいなかった。二人を除いて。エンデュミオンの鷹、フラガ少佐と・・・キラ・ヤマト。ヘリオポリスの学生だった、コーディネイター。」
何度も脳裏を掠めた、キラのあの時の言葉。
「出撃する前、パパを心配する私にキラは言ったわ、『僕たちも行くから大丈夫だ』・・・って。でもパパは死んだ。私は思ったの。パパが死んだのはキラが真面目に戦わなかったからだって。・・・コーディネイターだから手を抜いてたんだろうって。」
「あの戦闘での悲劇は俺も聞いています。・・・・ひどい損害だった、と。」
ひどい損害。そう、戦争においては大切な人の死が、そんな簡単な言葉で切り捨てられてしまう。
当事者が、親近者がどんな悲しみを覚えたかなどそこに入る隙間など無い。
あの時までは私もそれに気がつかなかった。
「パパは私のすべてだった。パパを失って、私は帰る場所を無くしてしまった。そして・・・パパを殺したコーディネイターを許せない、と思ったの。」
「そしてあなたは軍に志願なさったのですね。」
そう語る彼の瞳にはいまだ憧憬の影が色濃くその姿をあらわしている。
「『かつて父の愛情だけを受けて育った少女。父を奪われた少女は復讐を誓う。少女は健気にもその身を戦いの最中に置き、偽りの平和ではなく真の平和をつかむために戦う事を決意したのだ』・・・・あなたが考えていることは、こんな感じ?」
「・・・何故、それを・・・?」
「見たのよ、あれを、私も。例の私の志願した時の言葉を使った映像を。まさかあんな言葉で装飾されてるとは思わなかったけど。」
ため息と共に私は言葉を吐き出した。
「・・・・今のって、あの時の言葉でしたっけ?忘れてました。」
ケロっとして彼は言う。
それはそうだろう。大体、人は自分が重要だと思ったことしか記憶に残さないものだ。
「その言葉だけ聞けば感動的な話よね。でも違うのよ。実際はそんな感動的な話じゃないの。」
「ご謙遜なさらなくても。」
にこにこして彼は言う。・・・・思わず脱力しそうになる自分を励まして私は続ける。
「そうじゃないのよ。話を聞いて頂戴。・・・私はね、自分で戦うつもりなんて、全然なかったの。・・・私が軍に残ればキラも残ると思ったの。私がキラに身を委ねれば、キラは私のためにコーディネイターを殺してくれるって、そう思ったのよ。」

756散った花、実る果実62:2004/07/03(土) 00:40
「身をゆだね・・・・・って、その・・・・・」
「いいわよ、遠慮しなくても。・・・寝たのよ、キラと。思い通り、彼は私のために、アークエンジェルのために戦ってくれたわ。・・・殺したいわけじゃない、守りきれなかった、そう言って、泣きながら、ぼろぼろになるまで。・・・・あげくMIAになって。」
眉をひそめて彼は言った、
「それって・・・・なんだかとても貴女が悪女のように聞こえます。」
私は苦笑する。
「そうよ。悪女よ。ひどいでしょ?あなたの思っている私と本当の私は違ったでしょう?目がさめた?もう、虚像を追いかけて戦争をするのはやめなさい。でないと後悔するわ。戦争なんて、何かをなくすためにあるようなものよ。」
「でも貴女はここにいるじゃないですか・・・・なら何故まだ戦争から離れようとしないんです・・・・」
焦点を失った目で彼は呆然とつぶやく。もはや無意識なのかもしれない。
「戦争を終わらせたいからよ。そしてどうしても会いたい人がいる。謝らなきゃいけない人がたくさんいる。・・・だから私はここから逃げ出すわけにはいかないの。」
「俺は・・・・・・」
「さあ、あなたがそもそも軍に志願した理由は消えたわ。・・・あなたは、なんの為に、戦っていくの?」
「俺は・・・・・・・・」
言い過ぎたかもしれない。そう思った次の瞬間。
「何故、だったら何故、放っておいてくれないだ!」
彼は突然叫び始めた。
「あんたがどんな理由でここにいようとそれはいいよ。そりゃ個人の自由だ。だけどだからって俺の理想をわざわざ崩さなきゃいけない理由はないだろう?せめて放って置いてくれればよかったんだ。だったら俺はあのまま迷わずに戦いつづけることができたのに。何故わざわざそんな事を言うんだよ?」
やっぱり間違っていたんだろうか。そんな迷いがありつつも私は反論した。
「ではあなたはやはり私の言葉だけで軍に入ったという事?だったら今のうちにやめればいい。戦争って、そんなに甘いもんじゃない。知らずに済めばどんなに幸せなことか。そんなスクリーンを、マイクを通した脆い虚像が壊れただけで迷うような決心なんて持たなければいい。」
私は彼を睨みつける。
「あなたは何のために戦っているのよ。」
言葉を失った彼に、それ以上かけてあげる言葉を見つけることは、できなかった。

757私の想いが名無しを守るわ:2004/07/03(土) 06:33
>>散った花、実る果実
知らなければ、ごまかせば、それで何事も無く済むことだけど、それをしなかったフレイ様。
案の定、エヴィンスを怒らせてしまったけど、それは、以前のような考えの無い発言じゃなく、
自分のように後悔しないため、後悔させないための覚悟を持った重い言葉です。
狂い始めている戦争を止めるためキラ達が、どこかで戦っているように、フレイ様も戦っているんですね。
こんなフレイ様を見せていただいて感謝です。

758人為の人・プロローグ:2004/07/21(水) 18:08
戦争は終わった。
けれど僕の心にはまだ熱い、そして苦しい痛みが残っていた。
たとえどれほど時が流れようとも、それは僕の中ではじけ、
飛び散り、悲しみの破片をあちこちにばらまくことだろう。
色んな事があった。そして今も色んな事が起こっている。
もう取り戻せない過去と、進むべき未来が今、僕の中に生きている。
僕はキラ・ヤマト。最高のコーディネーター。

759人為の人・PHASE−1・1:2004/07/21(水) 18:10
戦争が起こって何ヶ月もが過ぎた頃。
その時僕は、コロニー「ヘリオポリス」の中にいた。
連合とザフト、どちらにも所属しない中立コロニーの中で、
僕はいつもと変わらない平和な日々を送っていた。
柔らかな日の光―偽りとは思えない―そんな光が辺りを照らす中、
僕は外のベンチに座ってキーボードを叩いていた。
そしてふいに幼い時別れた、無二の親友の顔を思い出した。

彼の名はアスラン・ザラ。きりっとした瞳と責任感あふれる顔立ちが
印象的だった。僕達は別れの日、桜舞う空の下で言葉を交わした。
彼の可愛らしく―そういうと失礼なのかもしれないが―着飾った恰好が
いつもとは違う雰囲気をどこか起こさせ、僕は不思議な気分だった。
彼は別れ際一羽の機械仕掛けの小鳥をくれた。
「トリィ」と鳴きながらまるで本物のような仕草をみせるその小鳥を
指先に留め、僕は鳴き声そのままに「トリィ」と名付けた。
その思い出は何故か、その日に限ってひどく鮮明に思い出された。

僕ははっと気づいた。見るとミリアリアとトールが立っている。
過去の記憶は水晶の砕け散るように消えて、現実が戻ってきた。
トールがいつものように僕に悪ふざけをしてくる。ミリアリアは
それを見て少し呆れつつも、自分のボーイフレンドの事を
楽しそうに見ている。僕も一緒になって楽しんでいた。
何の変わりもない、いつもの出来事だった。

道に3人、女の子が立っていた。どうも恋の話題で盛り上がっている
らしく、賑やかで明るい喧騒が僕の耳をなでた。
話題の中心になっているのは紅い髪の女の子で、友人の話に
困り果てたような口調で、それでも楽しそうな顔で言い返していた。
その子はミリアリアに話しかけてくる。話の内容はその子が
ラブレターをもらったというものだった。
その相手は、僕の親友でもありその子の婚約者でもあった少年、
サイ・アーガイル。僕はそれを聞いて、少し悔しかった。
僕は確かにその時、その子に淡い恋心を抱いていたのだ。

760人為の人・PHASE−1・2:2004/07/21(水) 18:11
ディスプレイで見ていた遠い地球での戦争。爆発が起こり、人が死に、
巨大なMSが大地を蹂躙する映像を僕はずっとこの目で見てきた。
それは酷い事だと思ったし、とても悲しい事だとも思った。
けれど僕はその時、まだ「思っていた」にすぎなかったのだ。
恐ろしい光景が繰り広げられていたのはまさに僕の生きている世界で、
僕がトールとふざけあっていた頃、地球では何人もの人が一瞬で
死に追いやられていたのだった。それはやはり現実だった。
突如、大きな震動が部屋にいた僕達を襲った。僕は初め何の事か
分からず、ただ他の人にあわせて避難を始めた。戦争が僕達のもとに
現れたのは明らかだったが、信じる事はできなかった。
ここは中立だから、絶対安全だから、僕はそこにいたのだ。
駆けぬけていく途中、一人の男の子に出くわした。正確には女の子で、
ずっと少年だと思っていた僕はびっくりした。彼女は部屋の中で
人待ち顔を続けていたのだが、平和が破られるとただ走り続け、
後を追った僕はとんでもないものを目にする事となった。
それはMSだった。
お父様の裏切り者、と彼女は地の底から絞り出すような叫び声で
その場にへたり込み、階下にいた敵の銃声が僕の耳に轟いた。
僕のすぐ側に戦場があり、赤い兵士が人を殺していた。
少年と見間違えた少女を連れ、僕は彼女をシェルターに押しこめた。
大きな瞳と、手入れのない真っ直ぐな金髪が僕の目に焼きついた。

そして僕は作業員姿の女性、マリュー・ラミアス大尉の指示に従って
彼女のもとへ向かった。何度も爆発が起こり、縛めを解かれたMSが
次々に動き出していた。ザフトが地球軍の極秘MSを奪いに来たのだ。
僕は熱い空気とすぐ近くで聞く銃声に心臓をこわばらせ、生きた気が
しなかった。喉はカラカラで、指先まで震えが止まらなかった。
恐怖の中、ラミアス大尉が撃たれた。僕の前に敵が迫ってくる。
僕はあまりに理不尽な死の可能性を限りなく100%に近づけられ、
その赤いザフト兵の持つナイフの切っ先に混乱寸前だった。
死ぬ。僕は死ぬ。本当に死ぬのかという思いが何度も頭に浮かんだ。
ふいにそのナイフが止まった。敵は驚いた顔をしていた。その顔は
はっきりと見えた。僕は目を見開き、懐かしい名前をつぶやいた。
そこには返り血にまみれたアスラン・ザラが、桜舞う昔の思い出から
成長した姿で呆然と手を止めていた。僕の頭は空白になった。

ラミアス大尉が隙を突いて僕をMSのコックピットの中に
突き落とした。僕達はMS、X−105ストライクの上にいたのだ。
そして僕と中に入ったラミアス大尉はMSを起動させた。
アスラン・ザラはその場から身を退き、別のMSのもとへと
向かっていった。僕にとっての真の戦争は、その時始まった。

761人為の人・作者:2004/07/21(水) 18:16
初めまして。放送中からかれこれ一年以上ROMらせてもらっていた結果、
ついに一念発起して書き込んでみることにしました。
内容はキラの軌跡を彼の自身の視点でたどるというものです。暗いです。
ちなみにフレイ様が「あの子」という表現になっているのは
こちらで読ませていただいた某作品に由来するものなのですが、
よろしいでしょうか?作者さんがいらっしゃったらご了承いただきたいのですが……

762私の想いが名無しを守るわ:2004/07/21(水) 20:01
おお、新作!!
最近投下が無くて自然消滅してしまうんじゃないかと危惧していただけに感激。
そういえば今までキラ視点てあんまりありませんでしたね。
楽しみにしています!

763私の想いが名無しを守るわ:2004/07/21(水) 20:39
>>人為の人
その某作品の作者ですが、別に私の専売特許でも無いので、全然構いませんです。
二話のうちに、本編一話を過不足無くまとめて、かつ、キラの心情も追加しておられてますね。
題名が純文学みたいな感じで、これから、どんな話になっていくのか期待しています。

764人為の人・PHASE−2:2004/07/22(木) 18:58
それから後の戦闘では、もうずっと生きた気がしなかった。
僕はただただ死に物狂いで、自分の生きる道を探っていた。
住み馴れた居住区に出たところで敵のMS、ジンに遭遇した。
そしてそんな戦場にトールが、ミリアリアが、カズイが、
サイがいた。僕の友人があんな所で、死ぬかもしれない。
死ぬ。その一言の恐怖に支配され、僕はおぼつかない足取りの
ストライクを操縦するラミアス大尉からMSの支配権を奪った。
ほとんどが初めて見る機器だというのに僕の頭はそこから流れ出る
滝のような情報を一つ一つ手に取るように理解し、行動につなげた。
敵がこちらの駆動の異常な変化に戸惑う中、僕は戦うための怒りを
全身にこめて、唯一の武器をジンの肩口に突き刺した。
敵の兵士が死ぬことなく脱出したのを確かめると、僕は自分が死から
逃げ切ったことにほっとする気持ちでいっぱいだった。

でもその安心は長く続かなかった。傷を負ったラミアス大尉を
友人達と介抱してから、今度はその彼女に銃を突きつけられたのだ。
僕達は一列に並ばされ、一人ずつ名前を言った。
トール・ケーニヒ。いつも明るさをたやさない、楽しい友達。
ミリアリア・ハウ。トールの恋人で、つんと外に跳ねた髪が印象的。
サイ・アーガイル。みんなのまとめ役で、僕にとって頼もしい存在。
そして、彼はあの子と婚約の話が進んでいた。
カズイ・バスカーク。目立たないけど、根は優しい少年。
そして僕、キラ・ヤマト。
僕達は地球軍に拘束される形でMSの傍に留まる事になった。

僕はストライクの設定を確認しながらあちこちの操作系統を確認し、
またいつ来るとも分からないザフトの攻撃に備えていた。
町はあちこちがひどく破壊され、動いている人影も見えない。
僕はモニターに表示される「GUNDAM」の文字を見つめながら、
日常から離れすぎた現在の状況をどこか恐れていた。
そして心の影には、あの子の事も含めてついさっきまでの平和な
暮らしが過去の思い出のようにぼやけて浮かんでいた。
あの時、透明なバイザー越しに見たアスランの顔。彼は確かに
僕の事をキラと呼んだ。たくさんの人を殺して、その血を纏って。
ザフトが再び攻めてきた。真っ白なMSがこちらに向かってくる。
続いてオレンジ色の戦闘機のようなものが現れた。メビウスだ。
僕は必死に気持ちを奮い立たせてストライクを起動し、頑丈な
フェイズシフト装甲を展開させて敵の攻撃を防いだ。
僕が戦わなければ、みんなが死ぬ。その気持ちでいっぱいだった。
そしてその後に、僕にとって忘れる事のできない思い出をいくつも
作り出した戦艦、アークエンジェルが姿を現した。

765人為の人・作者:2004/07/22(木) 19:05
続編が迫ってきたのも投稿を決心したきっかけの一つでした。続編での
キラの性格が、この小説と結構似ているんじゃないかと考え始めたもので。

>名前の件
何だかそのまま使うのはためらわれたので、お伺いした次第です。
丁寧な心情描写や台詞回しが私的にとてもツボだったもので。

766人為の人・PHASE−3:2004/07/23(金) 21:29
現れた純白の巨大戦艦を警戒し、敵MSは去っていった。
あとには撃墜を辛くも免れたメビウスと、ストライク、
アークエンジェルが残され、僕達は町の片隅で一堂に会した。
戦艦を指揮していたのはナタル・バジルール少尉。誰かと思えば、
ゼミに行く途中に見たサングラス姿の女性だった。その時は
軍服姿で、軍帽を真っ直ぐにかぶって鋭い視線を投げかけていた。
メビウスに乗っていたのはムウ・ラ・フラガ大尉。少し変わった
名前だと僕は思ったものだが、彼は名前だけでなく行動にも
一風変わったユニークさがあった。飄々としていて言葉は軽く、
僕には初めあまり物事を深刻に考えないような人に見えた。
そんな彼が、僕を一目でコーディネーターだと見抜いたのだ。
周りの人の僕を見る目が変わった。
その言葉に反応してトールが僕の前に立った。キラは友達だから、
彼はそう言って僕のことをかばってくれた。他のみんなも、
しっかりとした眼差しで地球軍の人達を見つめていたように思う。
僕はその時、本当に救われる思いがしたものだった。
フラガ大尉はそんな僕達の姿を見て微笑むと、別にそんな事は
どうでもいいという感じでそれ以上の追求をやめた。
それだからか、彼が悪い人だという気持ちは起こらなかった。

ラミアス大尉は技術士官で戦艦操作の経験もほとんどなかったが、
バジルール少尉はそんな彼女に階級上一番適した場所を勧めた。
ラミアス大尉は、アークエンジェルの艦長になった。
そしてバジルール少尉はその副官をしばらく務める事となった。
この二人が次第に対立し、悲劇的な結末を迎える事など
当時の僕には知る由もない。ただ一つ言えるのは、死の悲しみを
背負って今を生きている人が僕だけではないという事だ。
戦艦のクルーには他に、アーノルド・ノイマン曹長を初めとして
みな経験の浅い、襲撃で生き残る事のできた人達が就いた。
そしてその中には、後に僕の友達も含まれることになる。

ザフトはまた襲ってきた。
僕はストライクに搭乗して、みんなを守るために戦った。
けれど戦うたびに、今までの平和な暮らしは確実に遠のいていく。
コロニーの外壁を突き破って侵入してくる敵はバズーカを撃った。
僕は使った事があるはずもないランチャーストライクのアグニで
応戦し、アークエンジェルは豊富なビーム兵器を駆使した。
その時の僕は戦うことに手一杯で、コロニーがどうなろうと
知った事ではなかったし、敵が僕に考える余裕を与えてくれる
はずもなかった。中立という名の揺りかごにいくつも穴が空いた。
僕はさらにソードストライクに切り替えてジンと相対し、
相手の気迫を全面に受け止めて跳ね返そうと試みた。
敵が人ではなく機械だとか、急所を外せば助かるとか、そんな事は
考えていられない。ただ自分が死ぬという事に脅え、そこから
抜け出すために必死で戦い、結果僕は人を殺した。
上下真っ二つになったジンを爆破して、僕は一瞬ほっとした。

アスランは僕の戦闘をずっと見ていたのだろうか。彼は奪取した
MS、イージスでコロニーの中にいた。人殺しでアスランの仲間に
なった僕は、通信から聞こえてくる彼の変わらない声を聞いた。
お互いの名前を確認しあう。僕達はMSで向かいあっていた。
頭の中を信じられないという単語が幾度も駆け巡り、操縦桿を
握る手に力がこもった。動けない体の真ん中に痛みが集まって、
脳天へと突き抜けていった。何故という言葉をひどく軽く感じた。
そして軸を失ったコロニー「ヘリオポリス」は大きな音を立てて
分解を始め、僕は漆黒の宇宙へと投げ出されていった。

767私の想いが名無しを守るわ:2004/07/24(土) 09:59
>>人為の人
キラが緒戦で、躊躇い無くミゲルを撃墜した部分の感情が補完されてますね。
人が乗っていると実感しだしたのは、確かデブリ帯のころなんでしたか。
しかし、今のところ台詞が、まったく無いんですね。作者さんのスタイルなの
かもしれませんが。

この次は、多分、フレイたま登場。キラの感情の変化の表現に期待します。

768人為の人・PHASE−4:2004/07/24(土) 23:39
寂しさに死んでしまうのではないかと思うほどの孤独な宇宙。
次第に冷静さを取り戻し始めていた僕の目が捉え続けていたのは、
今やただの瓦礫の塊となってそこら中に飛び散っているだけの
元・コロニーだった。僕は手の震えが止まらなかった。
ヘリオポリスが、僕達の家が、こんなにあっさり崩れてしまった。
その事実に圧倒され、僕は通信機から響くバジルール少尉の声を
無視すらしていなかった。当然だ、聞こえていなかったのだから。
そして僕はわずかな生命の輝きを見つけ出そうとするかのように、
あの子の乗った脱出ポッドを半ば運命的に拾い上げたのだった。

彼女がポッドから出てきた時はびっくりした。
僕の胸に跳び込んで本当に嬉しそうだった彼女は、サイの姿を見ると
再び僕の手を離れて彼に喜びの表情を見せていた。今思えば、
それは彼女の一種の特技と呼べるものだったのかもしれない。
どんな人に対しても同じ中身のない笑顔を振りまくような、そう、
短絡的に言えば八方美人のような所があった。でもそれも少し違う。
彼女は本当に美人だったのだ。見る者を惹きつけるようなオーラが
体中からあふれていて、その輝きに僕は何かを見失っていた。
けれどその時の僕に何ができただろう。僕は幸せそうな二人を複雑に
見守る、一人の取巻きでしかなかった。そして、変わっていく彼女を
僕が誤った方向へ導いた結果、誰もが傷つく事になった。
過去は何もしゃべってはくれない。あるのはただ、一つの現実だけ。

僕はストライクに搭乗するのを嫌がった。だんだん思考が冷静になる
につれ、なんで自分がはっきりとした理由も無いままMSに乗り、
地球軍に従い、ザフトと戦わなければならないのか分からなくなって
きたからだ。「大人の都合で」という、子供に都合のいい理屈を
振り回して僕は抵抗した。でも戦争はそんな事を許してはくれない。
トール、ミリアリア、カズイ、そしてサイ。友人達が少年兵の服装で
僕の前に現れた時、僕は自分一人だけが駄々をこねる子供のように
思えた。みんなの顔は決意と自信に満ちていて、当たり前ながら
ゼミにいた時よりも幾分引き締まって見えた。僕は取り残されるのを
恐れ、次に臆病な自分とそれなりに格闘した。そして答えが出た。
自分には戦うための力がある。そして、今がそれを使う時なのだと。
僕はそうして、今まで隠してきた自分の異常性を人々に知らしめた。

補給を得るため、月基地ではなくより近いアルテミスへの航路を
とったアークエンジェル。ダミーを見抜いて追撃するザフト艦。
僕はフラガ大尉に及びもつかない決心から、ストライクに搭乗した。
ノーマルスーツを着こみ、ヘルメットのバイザーを下ろした心に
迷いはもうないと思いこんでいた。だが動揺は確実に存在していた。
みんなを守る事ができれば、それでいいんだ。
僕は笑顔で話しかけるミリアリアの声にわずかな安心を得て、
再び広い広い宇宙へと自ら飛び出していった。

769人為の人・作者:2004/07/24(土) 23:43
なんかだんだん投稿する時間が遅くなっている……大丈夫かいな?

>セリフの件
この小説を書くにあたって、自分なりにいろんな制限を課してみました。
その一つに「カギカッコなしでどれだけうまく感情を表現できるか」
というのを入れてみたのですが、今更ながらに後悔w
最終的にどんな形になるのか自分でも楽しみな反面不安というか。

770私の想いが名無しを守るわ:2004/07/25(日) 03:07
>>人為の人
一人称語りだから、キラの感情は表現できますよね。挑戦してるのは、キラ以外の
キャラの感情表現かな。軍を手伝うことになったヘリオ組に対するキラの隠れた劣等感が、
彼らの純粋な思いを伝えているように思います。
でも、難しいよね…… がんばって。

771人為の人・PHASE−5:2004/07/25(日) 13:37
敵は奪った新型機を全て投入してきていた。
基礎的で格闘重視のデュエル、遠距離支援型のバスター、
偵察能力を高度に有したブリッツ、そして一撃離脱攻撃の可能な
高速可変MS、イージス。僕はほぼ他の三機をアークエンジェルに
任せる形で、アスランの駆るその赤い機体と交戦した。
アスランはなぜ僕が地球軍にいるのかと詰問した。彼は軍人だった。
そして民間人でずっと平和を貪ってきた僕に、その問いかけは
果てしなく理不尽で答えようのないものだった。僕は思い出の中の
アスランを探し求めようとした。けれどそこにはもう誰もいない。
戦争なんか嫌いだと言っていた「あの」アスランはどこかに消え、
一人のザフトの軍人が戦闘慣れしない僕を追い詰めていった。
そうして焦るばかりの僕に、宇宙はあまりにも無表情だった。

しばらくすると、無駄撃ちのせいでPS装甲が切れた。
それは自分がいつ爆死してもおかしくないという事を意味したが、
僕にそれを理解する余裕があるはずもなかった。僕は、いや
ストライクは変形したイージスの脚に捕らえられて運ばれていた。
アスランは僕をザフトヘ連れていくのだと言った。
僕は何のためにこんな宇宙にいるのかすら分からなくなった。
分からない事だらけで、ザフトに行くのか、ああそうなんだと
訳もなく納得し、直後そんな事は嫌だという思いが現れた。
脳裏にアスランが、続いてトール達が次々に現れては消えた。
僕の思考は混乱の極みを迎えてあちこちに錯綜していた。
もしあの時ザフト艦に一撃与えて戻ってきたフラガ大尉の声が
無かったら、僕はまた成り行きでザフト兵になっていたのだろうか。
ともかく、ストライクは決死の換装を行って装甲を取り戻し、
僕達は奇跡ともいう形でザフト軍を一旦は撤退させる事に成功した。

アークエンジェルに帰艦した僕は、依然としてまとまらない頭の中を
整理しようと一人で勝手にもがき苦しんでいた。
宇宙。それは想像していたよりずっと暗くて、寂しい所だった。
でも僕は戦わなければならない。そう決めた以上、後戻りができない
事は自覚していたし、楽じゃない事も分かっているつもりだった。
そんな僕に、フラガ大尉はストライクの操縦系統をロックしておく
ように言った。なぜそんな事をしなければならないのか。
その答えはこれから入港しようとしていた友軍基地、アルテミスの
中で初めて分かる事だった。僕はそこで、あまりに無知だった。
結局、何も分かってはいなかったのだ。そう、何も。

772人為の人・作者:2004/07/25(日) 13:38
>感情表現
度々の感想ありがとうございます。「まだ誰もやってないかな?」と考えたのが
会話無しでの描写をしようと思ったきっかけなのですが、誰もやらないのは
それが面倒だからなわけで……ともかくがんばってみます。

基本的にキラのいない場での出来事はスルーされてしまいますが、
それでもさりげなく出てくるかもしれません。さてどうなることか……

773人為の人・PHASE−6:2004/07/26(月) 19:16
食堂に集まっていた僕達の前に突如、銃を構えた軍人が入ってきた。
やっと一息ついて、快適な時間を過ごせると思っていた僕はやはり
甘すぎたのだ。物々しく張り詰めた緊張の中で、階級の高そうな
軍人がストライクのパイロットは誰かと尋ねた。立ちあがろうとする
僕を整備のマードック軍曹が止めた。代わりにノイマン曹長が
なぜそんな事を尋ねるのかと聞き返した。相手側の返事にはどこか
僕達を蔑むような口調が含まれていた。ミリアリアが腕を捕まれた。
彼女がパイロットのはずはない。軍人の目つきに僕は怒りを覚えた。
心が体を突き動かし、僕は立った。軍人は相変わらず不愉快な顔で、
なぜ子供がというような事を言った。するとあの子が口を開いた。
彼女の正直な一言は、僕がコーディネーターだという事を驚くほど
あっさり、そして確実に伝える事となった。

アークエンジェルには確かに「識別コード」がなかった。
でもそれはただの口実で、実際はもっと問題はこじれていた。
大西洋連邦とユーラシア連邦は仲が悪くて、僕達は大西洋、
アルテミスはユーラシアに所属していた。我々はMSの開発も
知らされていない。だから見せろというのが相手の要求だった。
戦争って何なんだろうと僕は思った。そんなこと今更考えるとは
思ってもみなかったのに、気がつけば僕はそこに囚われていた。
戦争の大義を一兵卒が知ったところでどうにもならない。
けれど僕はついさっきまで民間人だったのだ。それは嘘ではないし、
何の誇張もなかった。そこに甘えるつもりもなかった。
だが結局僕は自分が当然だと思っていた事を次々に否定され、
あげく「裏切り者」の「コーディネーター」の名を冠された。
僕は二重の意味で、軍人たるべき枠からはみ出ていた。

ブリッツは体を透明にする事ができた。
もちろん存在を消してしまうわけではなく、ミラージュコロイドと
呼ばれる特殊な粒子を撒いて姿を悟られないようにするものだった。
そしてそのたった一機のMSが、そんな「姿を消す」能力を使って
アルテミスの防御システムを破壊した。そう考えると皮肉なものだ。
ユーラシアが大西洋の開発したMSを知らなかったから、
それにやられた。そう言ってしまう事だってできる。
戦争とはつまりそんなものなんだろうと僕は思った。そんな事ばかり
繰り返して、その度にたくさんの人が死んで、ようやく気づく。
僕は基地内に鳴り響いた警報に反応してストライクを起動させ、
ブリッツと一瞬交戦し、そしてアルテミスの人間を完全に無視した。
拘束されていた艦長、副長、フラガ大尉も無事帰還し、
アークエンジェルは爆発し崩壊していくアルテミスを残して
第8艦隊への孤独な旅を続ける事となった。そう、孤独な旅だ。
もちろん僕は、ヘリオポリスの最期を見届けた時の喪失感など
微塵も感じてはいなかった。つまりはそれが戦争なのだ。

774人為の人・PHASE−7:2004/07/27(火) 19:36
フラガ大尉が一つの提案をした。
それは補給を受けられなかったアークエンジェルのため、
近くにあったデブリ帯で必要物資を探すというものだった。
僕は反対した。それは墓場を荒らす事に等しいと思ったからだ。
人が死んで、それを悲しんで、弔って、お墓に埋めたその亡骸を
蹂躙する「悪人」の姿が僕の目に浮かんだ。そんなのひどすぎる。
でも僕の考えはまたしても浅はかなものだった。

デブリ帯には戦争で傷ついたものが何でも「捨てられて」いた。
それは墓場というより、死んだ人を邪魔物のように遠ざけた
死体置き場の印象を強く与えた。僕はあまりの凄惨にただ驚愕した。
俺達は生きているんだ、だから生きなければならない。
フラガ大尉の言葉が痛いほど胸に染みた。僕達は生きているのに、
ここにいる死者達を弔う事さえせずただ放り出していたのだ。
そして漂う残骸の中でも一際目を引いたのが、ユニウス7。
地球軍のたった一発の核ミサイルによってバラバラに砕け散った、
ザフトのコロニーだった。その冷えきった中心部を僕は見た。

僕達は作業を始めた。トール達が物資を集め、僕がストライクで
哨戒活動にあたるというものだった。でも僕は少し油断していた。
こんな所に好き好んでやってくる「軍人」なんているわけがない、
もっと他にする事があるだろうから、と。少なくとも僕にとっては、
アークエンジェルの人達はそれとは何か違うもののように思えた。
その時、残骸の陰に一機のジンが見えた。僕はにわかに緊張した。
そして相手が気づいてくれない事をただただ願った。
でもその願いは届かなかった。ジンがこちらに目を向けた。
視線の先には友達の乗った作業用機械があった。攻撃される。
僕は精一杯の葛藤を抱えながらそれでも銃の引き金を引いた。
ヘリオポリスでジンを斬った時よりも遥かにあっさり、ジンは
爆発した。そうして僕はまた一人、人を殺した。
友達を守るために戦ったはずなのに、ひどく心が苦しかった。
アークエンジェルから放たれていく折り鶴の群れを眺めながら、
僕は弔いと懺悔に満ちた思いをそこに委ねようとしていた。

君はつくづく拾い物をするのが好きなようだな。
そう副長に言われた。実際そうなのだろう。僕はこの廃墟の中で、
やはり「捨てられる」ようにしてたたずむ一つの脱出ポッドを
見つけたのだ。そして僕は二度目の運命的な出会いをした。
相手は桃色の髪を持つザフトの歌姫、ラクス・クラインだった。

775人為の人・PHASE−8:2004/07/28(水) 16:07
ポッドの中からまず現れたのはピンク色の丸い変な機械だった。
自分からボールのようにあちこち跳び回ったり、随分とクセのある
言葉を甲高い音声で発したりして、なかなか愛らしいものだった。
そしてすぐ後から現れた一人の少女。戦争とはおよそ無関係の
ような幻想的な衣装、凍てついた心を溶かすような歌声、いつも
純粋な笑みを浮かべている完璧なまでの顔立ちがそこにはあった。
彼女は自分がどんな状況に置かれているのか全くわからない、
というような空気を振りまきながら僕達に挨拶をした。
やれやれ、おいおい、困ったな。そんな声が聞こえてきそうだった。

ラクスは戦場追悼慰霊団の代表としてやってきた所を地球軍に
見つかり、攻撃を受けて避難させられたらしい。そんな大変な事が
あったのに、彼女はまるでそんな素振りを見せなかった。
もちろん彼女の目にだって戦争は映っていたはずだ。人が人を憎み、
殺し合い、多くの犠牲を撒き散らしてなお続く無意味な争いの姿を。
でも当時の僕にそんな事を考えている余裕はなかった。僕は彼女の
非の打ち所のない外面に見とれ、浮わついた心に思考を寸断された。
天使のような微笑みの奥に潜む無限の苦悩を分かる事ができず、
ただ導かれるだけの存在に甘んじて無邪気に照れていたのだった。

あの子はラクスの手を振り払って、馴れ馴れしくしないでと言った。
そこには明確に拒否の形が現れていたし、それ以上のものがあった。
あの子はコーディネーターのくせに、とその時言ったのだ。
僕は二度目の衝撃を受けた。初めはアルテミスでの一言だった。
そしてこの時の態度が、僕にある一つの結論を導き出させた。
僕はあの子の考えの中にはっきりとした差別感情がある事を知った。
でもそんな感情は誰にでも備わっているものだと、僕は思っていた。
サイの何気ない一言が悪意から出たものでない事は明らかだったし、
僕の友達がナチュラルである以上仕方がないんだと考えていた。
だから衝撃は長続きしないものと思っていた。今は苦しいけど、
いつも通りに我慢すればいい。そうすれば大丈夫だと。
だがやはりそんな甘い考えは通用しなかった。

ラクスの歌声は美しい。そう僕は思った。戦争と全く無関係のように
紡ぎ出される響きには、それでも作り変えられた遺伝子を嫌悪する
人にしか感じ取れないような排他的な刺が含まれていたのだろうか。
少なくともコーディネーターの僕には全く気にならない事だった。
そんな彼女を乗せて、戦艦アークエンジェルは第8艦隊先遣隊との
接触の時を迎えつつあった。再び穏やかな空気が艦内に漂い始めた。
けれど悲劇の足音は確実に、僕と、そしてあの子に迫ってきていた。

776人為の人・PHASE−9:2004/07/29(木) 22:53
先遣隊の構成は、バーナード、ロウ、そしてモントゴメリ。
モントゴメリにはあの子の父親、ジョージ・アルスター事務次官が
乗っていた。僕は彼がどんな人だったかをよくは知らない。
サイなら知っていただろうが、それも今となっては尋ねようもない。
どこかで一度聞いた事があるのは、あの子は早く母親に死なれて
すごく大事に育てられたというものだった。でもその事で
苦労しているという様子は無かったし、彼女のお父さんは
とてもよくできた人なんだと何気なく思っていた。
僕の父さんと母さん―――ヤマト夫妻も僕の事を本当の息子のように
育ててくれたし、その時は僕も本当の息子だと信じて疑わなかった。
親子の仲は、その親密さが第一に重きをなすのではないかと思う。

接触間近になって、先遣隊がザフトの攻撃を受けた。
アークエンジェルは宙域から離脱するよう打電を受けたが退かず、
先遣隊の救援に向かう事となった。艦長と副長が少し対立した。
第一戦闘配備の放送で艦内がにわかに騒然とする中、ストライクの
もとへ急ごうとしていた僕はあの子に出会った。彼女はとても
動揺していて、怯えた声で僕にパパは大丈夫なのと尋ねた。
僕は彼女の気持ちを理解したつもりになった。僕が彼女の立場に
もし置かれていたなら同じ気持ちになっていただろう、と。
僕は彼女を安心させようとして、大丈夫だよと言った。
だってみんなを守りたくて、戦い始めた戦争だから。
守るべき命を守るために戦おう。僕はそう安易に決意して、
MS格納庫へと走っていった。不安げなあの子の顔が焼きついた。

ザフト艦からはアスランの駆るイージスと、数機のジンが
出撃していた。僕はジンをフラガ大尉に一手に任せる形で、
再びアスランとの辛い戦いを余儀なくされた。
彼の動きに以前のようなためらいは無いように思えた。何より速さが
前回とは段違いで、僕は彼の攻撃を受け止めるのに必死だった。
アスランは僕と違って、ずっと前から軍人としてMSに触れている。
だから何とか応戦できるだけでも充分だと思っていた。しかし彼は
いまだに本気を出してはいなかったし、その時僕は彼との戦いに夢中に
なりすぎて、先遣隊の事など考えにも及ばなくなってしまっていた。
彼と過ごした日々を振り切って前へ進む事に固執した僕の罪だ。
バーナード被弾、ロウ撃沈。フラガ大尉の専用機、メビウス零式も
損傷して帰艦し、戦局は悪化の一途をたどっていた。
僕はずっと、本気でもないアスランと一人よがりの「戦争」を
していたのだ。今となっては仕方がない事だけれど、胸が痛む。

ザフト艦の主砲がモントゴメリを貫き、爆発するのを僕は見た。
僕はそこで初めて守るべきものの存在を大きく直視した。
そこでアスランのイージスが動きを一瞬止めた事にも気づかなかった。
敵はさらにアークエンジェル目がけて攻撃を仕掛けてくる。万事休す、
その時副長の声がコクピットに響いた。ラクスを人質に取った、と。
続けてアスランの苦しげな叫び声が聞こえた。こんなもののために
お前は戦っているのか。ラクスは返してもらう。それは僕の心に
どうにもならないやりきれなさを残し、彼は引き揚げていった。
穏やかなラクスの微笑みと、あの子の不安げな表情が同時に浮かんだ。

777リヴァアス・作者:2004/07/30(金) 19:48
リヴァアスの作者の最新作。ついに登場!

778燃える戦士:2004/07/30(金) 20:02
キラ・ヤマトはヒッチハイクしていたフレイ・アルスターを車に乗せた。
「ところで、エチオピアにはいつ着くの?」
「ああ、あと2時間くらい」
キラはコロニーから地球に来て、飛行機に乗り、モガディシュに行き
レンタカーの74年型いすゞジェミニを借りて、エチオピアに向かって
いった。そのとき、ヒッチしていたフレイに出会った。
「フレイは何しにエチオピアに行くんだい?」
「観光旅行よ」
「そう、なにもないけどさ」
キラはカーラジオをかけた、曲はジョン・レノンの
「スターティング・オーバー」だった。
「ねぇキラ、どっかで昼食とらない?」
フレイは言った。

779リヴァアス・作者:2004/07/30(金) 20:06
リヴァアスを書いていた作者です、とうぞ最新作「燃える戦士」
をご堪能してください。

780人為の人・PHASE−10:2004/07/30(金) 22:27
帰艦した僕は、まずそこにいたフラガ大尉に不満をぶつけた。
僕は人質に取るためにラクスを助けたんじゃない、そう言いたかった。
けれど大尉の返事は的確だった。そう、確かにあの時彼女を人質に
取らなければアークエンジェルは沈められていたかもしれないのだ。
僕にも大尉にも艦長や副長を責める資格はない。だったらどうすれば
いいのか。僕達が弱いからああせざるを得なかった。僕が弱いから。
「弱い」という言葉が頭の中で何度も僕を殴りつけ、あざ笑った。

僕は、あの子が分かってくれるだろうと思っていたのかもしれない。
戦争で人が死ぬのは異常な事ではないのだから、あの子は僕の事を
悲しみながらも分かってくれるんじゃないか。僕はそう考えていた。
それは辛い環境に置かれていた僕の、一種の防衛本能だったのか。
今となっても僕はそこに答えを見出す事ができない。
僕は友達とあの子がいる部屋の前で立ち止まり、中を見た。
そこには最愛の父を失った少女の、あまりにも痛々しい姿があった。
彼女は床に崩れ落ち、サイに泣きついていた。そして僕に気づいた。
こちらへ向けたその目は圧倒的な悲しみと僕への憎悪に満ちていて、
一瞬ひるんだ僕はようやく想像以上の事の重大さに打ちのめされた。
嘘つき。大丈夫だって言ったのに。彼女の言葉の刃が僕を襲った。
みんなから半分可愛がられるようにして育ってきた甘い僕に、
その切っ先は鋭すぎた。僕は何も言う事ができなかった。
やがて彼女の口から、残酷ながらも核心を突いた一言が飛び出した。
あんたコーディネーターだからって、本気で戦ってないんでしょう。
僕はその場から逃げ出し、自分の中に抑え込まれたあらゆる感情を
一緒くたにして吐き出すように泣いた。泣き続けた。

理性を失って泣き続ける僕の耳に、ラクスの声が聞こえた。
僕は見開かれた瞳に浮かぶ涙を拭って、彼女の整った顔を見つめた。
彼女はまっすぐに僕の目を見つめてくる。僕は切れかかっていた
心の糸が、再び元のしなやかさを取り戻していくのを感じていた。
僕とラクスはその後色々な話をした。とは言っても話題のほとんどは
アスランにまつわるものだった。ハロというボール状のロボットを
作ったのもアスランなら、ラクスの婚約者なのもアスランだった。
彼女と話していると不思議な気持ちになる。さっきまで戦っていた
イージスのパイロットとしての彼の姿が頭からすっかり消えて、
ちょっと無口で頑固だけど頼れる、親友だった少年の面影が
僕の心の中に現れ始めていた。僕は彼女に救われたのだと思った。
アスランがなぜあそこまで苦しげな叫び声を上げたかも分かった。
そして、このままではいけないと強く思うようになっていた。

向かい合ったストライクとイージスのコクピットが開いた。
僕は抱きかかえたラクスをそっと放し、アスランのもとへやった。
彼女はずっと、全てを包みこむような微笑みを絶やさなかった。
アスランが僕に向かって言った。お前も一緒に来い。
それはできなかった。あの艦には守りたい人が、友達がいるから。
ラクスを連れて無許可で発進する計画を立てた時、ミリアリアと
サイが手伝ってくれた。サイは僕に何度も、帰ってこいよと言った。
その時の必死に呼びかける彼の表情を、僕は今でも覚えている。
あの声が、あの気持ちがあったから、僕は地球軍に残ったのだ。
もしそうでなければ、僕は今度こそアスランを選んでいただろう。
彼は僕の返事に体を震わせ、今度会う時にはお前を討つ、
そう言った。僕達はもう戻れない道を別々に歩み始めていた。

真っ白なMSが視界の隅に映った。仮面の男、ラウ・ル・クルーゼの
駆るシグーだ。僕はその時大して気にも留めていなかったが、
やがて彼は僕の心に癒しがたい傷を残す事になるのだった。
本当に、世の中には後になってから気づく事が多すぎるのだ。

781人為の人・作者:2004/07/30(金) 22:28
>リヴァアス作者さん
どうも初めまして、最近ここを半占拠状態にしておりました者です(おい)
新作ということで期待が高まりますね。これから何が起こるのでしょうか。

782人為の人・PHASE−11:2004/07/31(土) 11:36
僕はアークエンジェルの一室で、小さな軍事裁判にかけられた。
フラガ大尉がさりげなく僕の事を擁護してくれたが、結果は銃殺刑。
その時は一瞬全身の血が凍ったかと思った。でも艦長の判断は、
僕を厳重注意に処するだけのとても優しいものだった。僕はほっと
して、僕の事を散々きつく問い詰めていた副長から目を反らした。
艦長と副長の対立は、その時から何となく感じていた。

外に出るとサイとミリアリアがいた。あの時僕を手助けした二人は、
罰としてトイレ掃除1週間を命じられたらしい。僕は自分だけが
何もお咎め無しだった事を申し訳なく思ったが、彼らは笑顔で逆に
僕を励ましてくれた。僕はここに残って本当に良かったと思った。

食堂で友達と食事をとっていると、あの子が現れた。僕はあの時の
彼女から僕に向かって発せられた、ほとんど殺意に近い憎悪を
その身に感じ取ろうとしたが、しかし入り口に立っていた彼女に
そんな気配は微塵も無かった。彼女は辛そうな顔をしていた。
あの子は僕の前に立ち、憎しみではなく謝罪の言葉を口にした。
僕はその一言一言に彼女の悲しみを共有しようとしながら、
彼女が僕を許してくれたのだと信じて疑わなかった。ついに彼女が
分かってくれたのだと、むしろ清々しい感謝の気持ちで一杯だった。
あの子はそんな態度を見せる僕を目にして、前以上の憎悪と嘲りの
感情とを高め続けていたに違いない。僕は全く気づかなかった。

第8艦隊との合流が目前に迫る中、ザフトが襲ってきた。
その中にアスランはいない。やってきたのは別の奪われた3機、
デュエル、バスター、ブリッツ。僕達は食堂を飛び出した。
そこへ艦内でよく見かけていた女の子が走ってきて、カズイに
ぶつかった。倒れた女の子をあの子が立たせた。僕は立ち止まった。
あの子が言った。大丈夫、このお兄ちゃんがみんなやっつけて
くれるからね。とても優しい響きをもって聞こえたその声は、
僕の心のどこかに急速に染みわたっていった。

バスターをフラガ大尉に任せ、僕はデュエルと1対1で切り結んだ。
相手のパイロット―――イザーク・ジュールは機体の特性もあってか
ほとんど射撃攻撃を行わず、ビームサーベルでひたすら押してきた。
僕はその動きからにじみ出る気迫に負けまいと必死に戦った。
でも敵は僕を倒すために襲ってきたのではなかった。残ったもう1機、
ブリッツがアークエンジェルへと向かった。ミラージュコロイドの展開
には対応できても、対空砲火でPS装甲を打ち砕くのは難しい。
たちまち取りつかれ、ブリッツのビーム兵器が直接船体を揺さぶった。
キラ、戻って。ミリアリアの声が聞こえた。
アークエンジェルが敵の攻撃を受けている。
目の前のデュエルは一向に攻撃を止めない。
フラガ大尉は性能ではるかに勝るバスターを相手に互角の戦いを
しているが、戻る事はできない。あの白い戦艦は、やがて沈む。
僕の脳裏に爆発するモントゴメリが映った。同じ事がアークエンジェル
で起こるのか。サイも、トールも、ミリアリアも、カズイも、そして
あの子も。いたいけな女の子に語り聞かせた彼女の声が蘇った。
弱いから守る事ができなかった。力がないから傷つけた。人が死んだ。
そして僕は極限状態の中に、はじけ飛ぶ一つの種子を目撃した。

頭の中で大量の情報が一度に訪れ、一度に処理されていった。
手と足はまるで自分のものではないかのように機能した。
世界が独り歩きを始め、駆け足の僕がそれを追い抜いていった。
視界には最大限の事実が誤りなく表示され、僕の感情を消し飛ばした。
僕はあっという間にブリッツを蹴散らし、続いてやって来たデュエルに
ナイフ型格闘兵器、アーマーシュナイダーを突き立てた。
コクピット近くに入り込んだそれがデュエルの内部を破壊する感覚を
催させたが、僕は何のためらいも感じなかった。これが力なのか。
僕の中の一部が戦いの高揚感に目覚め始めていた。敵は撤退した。
やがて、遠い宇宙の闇の中に第8艦隊の頼もしい明かりが見えてきた。

783燃える戦士:2004/07/31(土) 19:13
キラとフレイはレストランで車を止めて、昼食を
とることにした、二人はカレーを頼んだ。
「キラ、やっぱりカレーは辛いわ」
「うん」
後ろの席ではエチオピア駐屯の傭兵のジーン、スレンダー、デニムが
ニヤニヤ笑ってみていた。キラは無視した、ジーンはニヤリと笑って
コップの水をキラにかける。そして3人はレストランから出た。
キラは近くにいる棺桶屋に
「三つ用意しておけ」
キラは外に出た、ジーンはニヤニヤ笑っている
「おや?まだ居たのか!さっさと戻らねえと殺されちまうぜ」
「話があるんだ。カンカンなんだ」
「誰が?」
「僕さ」
「何に・・・」
「人に水をかけることさ、ここで、おたくが謝るって言うなら
 話は別だが」
「ギャハハハ」
ジーンは笑う
「笑うのもほどほどにしな!笑われるのが一番嫌いなんだ。このままじゃ
 気もすまねェ。どう片をつけるのか、ハッキリしてもらおう!」
ジーン、デニム、スレンダーがトカレフを取り出して乱射する。
しかし、キラが44マグナムと早撃ちで3人を撃ち殺した。
「行こうフレイ」
キラはフレイに言った。

784私の想いが名無しを守るわ:2004/08/01(日) 08:47
「燃える戦士」って、いくらなんでもひどすぎ。

785人為の人・PHASE−12:2004/08/01(日) 08:53
第8艦隊の総司令官、ハルバートン提督はとてもいい人だった。
彼は僕がコーディネーターである事を知っても特に不快感や
差別するような感情を見せたりせず、まっすぐに僕を見てくれた。
おかげであのアルテミスでの体験以来抱いていた、地球軍への恐れ
とでも言うべきものが僕の中でほんの少しばかり小さくなった。
そこに押し潰されてしまうような事になっていたら、僕はやはり
自分の帰る場所を失い心にまた傷を一つ増やしていただろう。
僕の心は弱い。どれほど強さを手に入れても、それは変わらない。

アークエンジェルは地球に降下し、一路アラスカを目指す事となった。
それに伴って、僕達民間人も降下用シャトルに乗り移る事が決まった。
僕は短い間だったけど色んな経験をしたストライクの調整をしつつ、
もうこの機体に乗る事も二度とないだろうという思いを馳せていた。
そこに艦長がやって来た。彼女は、一度あなたに謝りたかった、と
言って、僕の事を真正面から見つめた。わずかの微笑みがあった。
その姿がハルバートン提督に少し似ていたような気がした。
艦長もいい人だ。その意味合いは複雑だけれど、彼女はとても温厚で
母性を感じさせるような人だった。だから僕もむやみに腹を立てたり
する事は無かったし、そもそもそんな気持ちにはなれなかった。
彼女は僕がアークエンジェルに残る必要はない旨を伝えてくれた。
色々あったが、これでこの艦とも別れる事になる。そう考えて僕は
ほっとすると同時に、分不相応な戦力の心配をしてしまうのだった。
アークエンジェルはこのままアラスカまでたどり着けるのだろうか。
現に副長は僕を貴重な戦力として、戦艦に留め置く事を考えていた。

艦内でよく見かけていた女の子が僕に折り紙の花をくれた。
肩紐の片方が外れたオーバーオールをいつも着ていた彼女は、
すっとその小さな手であどけない作品を僕の目の前に差し出した。
守ってくれてありがとう。その無邪気な言葉に僕は励まされた。
こんな僕でも、誰かを守る事ができたんだ。良かった。
そしてあの子の事を思い、先程目覚めた力に無謀な勇気を覚えた。

一緒に艦を降りるとばかり思っていた友達が、まだ軍服を着ていた。
サイ、トール、ミリアリア、カズイ。みんな除隊許可証を破り捨てて、
アークエンジェルに残ってしまったのだ。理由はあの子だった。
あの子は戦争を終わらせるために自分ができる事をと言って、
自ら地球軍に志願したのだった。僕は後ろめたい気持ちに駆られた。
結局僕はみんなの優しさに甘えているだけではないのか?
友達を置いて僕だけが安全な所に避難していていいのか?
みんなの優しさに報いたい思いと、そうすればみんなの優しさに
背く事になるという矛盾した関係が暴き出され、僕は迷った。
そしてそんな中、敵が攻めてきた。
僕は結局、みんなを守る事ができたという直前の事実に満足し、
浮かされていたのかもしれない。ここで僕が出撃すれば大丈夫、と。
もちろんその時の僕はどうしようもないほどの切迫感を感じていて、
一瞬の逡巡の中に数えきれない種類の苦悩を抱えていたに違いない。
しかしいくら悩んでみたところで、僕にはMSを取る選択しか
残されていなかったのだ。僕はあの子の憎しみの内で踊っていた。
僕は踵を返し、ストライクの待つ方角へと駆け出していた。

786人為の人・作者:2004/08/02(月) 23:36
在庫が尽きてきたんで、しばらく投稿をお休みします。
再開まで、今しばしのお待ちを。

787人為の人・PHASE−13:2004/08/18(水) 22:32
信じられない光景が目の前にあった。
あの子はロッカールームで、僕のパイロットスーツを取り出していた。
何をするつもりなのかが一瞬でわかった。彼女は戦おうとしていた。
自分の父親を殺した、無意味な戦争を終わらせたい願いから。
あの時の彼女の表情、言葉、仕草。今でも嘘だったとは思えない。
確かに彼女は僕を待っていた。僕が来るはずだと確信していた。だから
芝居を打つためにそこにいたのだ。全て演技。そう考える事は簡単だ。
しかし僕は今思う。
彼女はあの時、本当に戦おうとしていたのではないか。
僕が来なければ実際にストライクに乗っていたのではないか。
結局、僕はそこへやって来た。やって来て、彼女の夢を叶え始めた。
私の想いが、あなたを守るから。
僕達は生まれて初めての甘く呪わしいキスを交わした。

僕は完全にその興奮に支配され、酔わされていた。
第8艦隊の艦艇が次々と沈黙し爆破されていく中、僕は笑んでいた。
あの子の偽りの愛情を全身に浴びて、新たな力を得た気がしていた。
出撃を止められたフラガ大尉を尻目に、僕はストライクに搭乗した。
ザフトが何だ。MSが何だ。みんな僕が守ってやる。
山のように出てきてはあっという間に壊されていくメビウスを尻目に、
僕は最深部にまで飛びこんできたデュエルと対峙した。
アスランのイージスは見えなかったが、バスターはすぐ近くにいた。

心なしかデュエルの動きは以前よりも大振りで、精密さに欠けていた。
それはこちらへ向かって来ようとする気迫ばかりが余計に増幅されて
いるようで、僕は内心冷や汗をかきつつも力強く対処しようとした。
ストライクがデュエルを蹴り飛ばす。ビームサーベルが火花を散らす。
僕は敵のパイロットが自分より必死である事にどこか気づいていた。
そしてそうこうしているうちに、次第に大気圏が近づいてきた。

信じられない光景が目の前にあった。
デュエルが射出された民間人のシャトルにライフルを向けていた。
なぜ。僕と戦っていたはずの敵が、どうして無関係の人に。
自分の中にわずかに生まれていた余裕が瞬時に消え去るのを感じた。
そして守るべきものが今まさに絶命の危機に瀕していることを悟った。
僕はスラスターを全開にして、シャトルに手を伸ばそうとした。
こんな所で、僕の目の前で、僕のせいで人が死ぬのは嫌だ。
利他的なようで限りなく自己中心的でもあった僕の気持ちが焦った。
結局、あれはどうしようもない事故と捉えるしかなかったのだろうか。
それとも、何か他に彼女達が救われる手立てがあったのだろうか。
いずれにせよ、それは僕に「守る」の限界を嫌というほど見せつけた。
そのシャトルには折り紙をくれた女の子が乗っていた。
デュエルのライフルから放たれたビームは僕より早くそこに到着した。
そして―――爆発が起こった。

僕は地獄のような高熱を全身に感じながらコクピットの中で一人、
その業苦を当然の報いであるように受け入れていた。
大気圏突入。その際にあれほどの熱が生じる事など、知らなかった。
ストライクの他にも、シャトルを「撃墜」したデュエル、そして
バスターが単独で地球へ落ちていこうとしていた。
僕を、と言うよりストライクを失わないようにアークエンジェルが
突入ポイントをずらして機体を拾い上げた。僕の責任だった。
第8艦隊は全滅。ハルバートン提督もザフト艦の特攻に命を散らした。
守れないものは必ずある。その事実が僕の心に消えない爪跡を残した。

788人為の人・作者:2004/08/18(水) 22:33
投稿再開しました。と言っても20日から遠出するのですぐに止まってしまいますが、
1週間後くらいからまた再開したいと思っています。

789私の想いが名無しを守るわ:2004/08/19(木) 12:50
フレイ様!こんなとこに居られましたか!

790人為の人・PHASE−14:2004/08/19(木) 19:54
僕はかぶりを振った。頭にもやもやとした霧が立ち込めている。
辺りを見回すと、がらんとした薄暗い部屋にただ一人。
気分を落ち着けるため少し水を飲む。冷たい感覚が喉を潤おした。
また気を取り直して机に向かう。机上には一枚の紙と、ペン。
僕は何かに取りつかれるように「自伝」のようなものを書いていた。

今どこまで書き進めていただろうか。そう、大気圏突入の所だ。
あの出来事は僕にとって本当に大きな意味を持ったのだと思う。
僕の目の前でよく知っている人が亡くなった、初めての体験だった。
不思議だ。戦争で数え切れないほどの命が奪われたはずなのに、
僕の中では自分に近しい人の死の瞬間ばかりが思い起こされる。
それも僕がストライク、やがてフリーダムに搭乗し、それでもなお
守る事のできなかった戦場の人々の死が特別な存在となっている。
人は自分の知らない他人の死を悲しむ事ができるのだろうか?
それは慈愛なのかもしれないし、あるいは偽善なのかもしれない。
ただ一つ言えるのは、僕にとってあの子の死ほど強烈な、そして
絶対的なものは他に無いという事だった。それもまた悲しい。

今僕は生者の世界にいる。そこにはアスラン、カガリ、ラクスが
いて、平和を築くために奔走している。みんなが目指すのは、
ナチュラルとコーディネーターが争う事なく暮らしていける世界だ。
僕はみんなの試みについていく事ができなかった。みんなのように
人の上に立つ資質、理解を求める心、強い信念、全てに欠けていた。
代わりに僕は、死者の世界と交わる日々を続けていた。
あの子は死者の世界にいる。あの子の他にもトール、ナタルさん、
ムウさん、クルーゼさん、会えなくなってしまった多くの人達がいる。
時々彼らの声が聞こえてくる。自分達が親しみ、愛し、憎み、
滅ぼそうとした生者の世界がどうなっているのかを尋ねてくる。
僕はこう答える。大丈夫です、みんなしっかり生きていますよ。
その「みんな」の中に、僕が含まれる事はおそらくないのだろう。
キラ・ヤマト、人間の営みから大きく逸脱した僕が取るべき道は、
生死を分かつ境目で本当の平和を迎えた世界に賛辞を送る事。
それが真実なのだと信じたい。

僕は再びペンを手に取り、戦争の記録を綴り始めた。
この行為に何の目的があるのか、それは自分にも分からない。
しかしキーボードを叩いて苦もなく仕上がる印刷物を目にするよりは、
紙に記されていく頼りない字を確認しながら果てしない時間を
過ごす方が自分にとってはずっと居心地がいいような気がした。
次は砂漠。忘れもしない記憶ばかりで彩られた、熱く冷たい大地。

791人為の人・PHASE−15:2004/08/20(金) 07:21
僕は熱く苦しい悪夢の中をさまよい続けていた。
アスランとの別離、血にまみれた再会、MSの戦闘、殺人の経験、
ヘリオポリスの崩壊、あの子との出会い、ラクスとの出会い、
戦艦の撃沈、戦闘能力の覚醒、そしてシャトル爆発。
それらがきちんと順番通りに再現され、そして永遠に繰り返された。
僕は頭の中で作り上げられたイメージの渦に放りこまれ、回され、
血を吐くような悲しみに声を上げる事ができなかった。
あげく自分が今何に苦しんでいるのかさえ分からなくなるほどに
意識は混濁し、それでもなお目が覚める事は無かった。
そんな僕の傍らに、あの子はずっと付き添っていた。

ようやく現実に戻ってきた頃には、様々な出来事が起こっていた。
まず、アークエンジェルの主だったクルーが1階級昇進した。
艦長とフラガ大尉は少佐に、副長は中尉に。その他の人達もみな、
それまでの立場より少しだけ高い所へ上る事になった。
サイにトール、ミリアリア、カズイ、そしてあの子も正式に軍属と
なり、もちろん僕にもMSのパイロットとして「少尉」が与えられた。
これで僕達は「民間人だから」という言い訳を使えなくなった。

少尉になった僕には個室が与えられた。
僕はその部屋で、周りの人の自分を見る目がどこか変化した事について
考えを巡らせていた。そう、並みの人間ではとても生き残れないほどの
高熱の中、コクピットから引きずり出された僕は生きていたのだ。
みんなはコーディネーターが「化け物」である事を改めて認識したに
違いない。そんな事を考えていると、つくづく自分が嫌になった。
なぜ僕はコーディネーターなのだろう。それは僕の意志がそうさせた
のではないし、他人にない力を持っていてもそれは当然と見なされる。
しかしそんな事を考えても何も始まらなかった。僕は依然として
遺伝子を調整された人間であり、その事実は一生ついて回る。それに、
僕には自分の事をよく理解してくれる友達がいる。今は恐れていても、
時が経てばまた分け隔てなく付き合えるだろう。僕はそんな希望を胸に
抱いて、前向きに生きる事に目を向けようとした。
そこにあの子が現れた。

あの子は手に折り紙の花を持っていた。
やや形の崩れたその物体を目にした途端、僕の顔は凍りついた。
夢で何度も再生された女の子の姿と、シャトルを貫く一筋のビーム。
「守ってくれたお礼」として手渡されたささやかな贈り物が、
「守れなかった現実」を僕に突きつける何よりの証拠へと変わった。
僕はそれをコクピットに入れ、そのまま忘れてきたのだった。
大気圏の熱にも消えない鮮烈な悲劇がそこにはあった。
いつしか僕は部屋の床に膝をつき、救いを求めるように泣いていた。
過ちに許しを乞う言葉は涙でほとんど意味を成さなかった。
あの子はそんな僕の前に座りこみ、私がいるわと言った。
優しく甘美な旋律が僕の耳を撫でた。顔を上げた先にはあの子の笑顔。
うるんだ視界は彼女を紅い聖女のごとく見立て、僕から理性を奪った。
二度目の口づけに僕は本能を止める事ができなかった。
僕達は絡まり合いながらベッドへともつれ込み、そして交わった。
あの子の復讐はまもなく頂点を迎えようとしていた。

792キラ(♀)×フレイ(♂)・47−1:2004/08/26(木) 18:36
二百海里水域。
堅苦しい条文を記載するなら、
『海洋法による国際連合条約(以下、「国連海洋法条約」)によって定められた沿岸国の
主権的権利その他を行使する水域として設けられた排他的経済水域』
と条約に明記されており、もっと簡潔に述べるなら、海に囲まれた島国が、主に漁業権や、
多国籍の船や飛行機(軍船含む)の侵入を規制する為の、海上の領土である。


かの条約に挑むかの如く、南太平洋に位置するオーブ首長国連邦の海域(二百海里水域)
に侵攻している一隻の大型の軍船がある。“足付き”のコードネームでザフトから追われ
ている、地球連合軍の強襲機動特装艦アークエンジェルだ。この艦を遠目からシルエット
だけ眺めれば、ショートケーキに四匹の蝿が集っているように映ったかもしれない。
アークエンジェルの周囲には、グゥルと呼ばれる無人輸送機の上に乗った四体の
モビルスーツが、執拗にAAに取り付いて、攻撃を仕掛けているからだ。

イージス、ブリッツ、バスター、デュエル。
ヘリオポリスでザフトが奪った地球連合製のMS隊で、この四者を率いるのは、
足付き討伐チームとして新たに結成されたザラ隊の隊長に就任したイージスのパイロット
であり、数日前、フレイ達と奇妙な無人島での共同生活を強いられたアスラン・ザラだ。
このザラ隊を迎撃する側のアークエンジェルの方は、AAの甲板上に、ランチャーパック
で出陣したストライクが陣取って、アグニ砲を連射し、フラガの乗るスカイグラスパーも
共に出撃してストライクを援護している。
ここ最近の戦闘で、AAの勝利に少なからぬ貢献を果たしてきたスカイグラスパー二号
を駆るカガリは、何故かこの会戦には参加していない。
その訳は、二人がキラに無人島から救助された地点まで遡る。



「二人とも無事に戻ってきてくれて何よりです」
事情徴収の為に艦長室へと呼び出されたカガリとフレイの二人に、艦長のマリューは
まずは労いの言葉を掛ける。AAきっての問題児(トラブルメーカー)二人の生還に
際して、彼らの息災を喜んだ者と密かに落胆した者、どちらが多数派を占めるのかは、
艦内アンケートを採ったわけでもないので、実に微妙な所ではあるが、少なくとも、
この時のマリューの笑顔からは、利害や打算を超えた暖かい思い遣りが滲み出ていた。
フラガが賞したように、子供たちの幸福を願う彼女の真心に嘘偽りはないらしい。
ただし、可愛げのない少年兵二人は、マリューの態度に特に感応した風もなく、
カガリは居心地悪そうにソッポを向き、フレイはそれと判る営業スマイルで、
形だけは恭しく頭を下げてみせる。
「さて、本来なら直ぐに休憩を取らせたいところですが、その前に二人に2、3、
お尋ねしたいことがあります」
マリューは軽く表情を引き締めると、そう前置きしてから、すぐさま本題に入る。
「遭難中の詳細報告は一先ず置いておくとして、何故、非戦闘員のフレイ君が、
カガリ君と一緒にスカイグラスパーで出陣する事態になったのかしら?」
今回の失踪事件における最大の疑問点について、マリューは単刀直入に質問する。
「そいつは僕でなくカガリ君に尋ねて下さい。
僕は彼に銃で脅され、無理矢理グラスパーに拉致された被害者の身分ですので」
多少の嫌味の篭もった口調で、フレイは自身の身の潔白を訴える。それに応じて、
室内に控えていたフラガ、ナタルの幹部二人と、カガリのお目付け役のキサカも、
カガリに好奇の視線を注いだが、カガリは不貞腐れたように俯いて無言のままだ。
今回の一連の事件に対して、事後的に査問会が開かれるであろうことはカガリも予測
していたはずだが、まさか、馬鹿正直に妹絡みの本音を語るわけにもいかないだろう。
とはいえ、フレイなどとは異なり、性格的にあまり嘘方便を吐くことに慣れていない
カガリは適当な言い訳の一つも思い浮かばずに苦悩し、得意の百面相を演じている。
そんなカガリの様子を見かねたフレイが、彼の弁護(んな訳ない)を買って出た。

793キラ(♀)×フレイ(♂)・47−2:2004/08/26(木) 18:37
「僕が愚考するに、カガリ君の動機は、彼の公人としての非戦闘クルーへの偏見と、
私人としての痴情の縺れとが融合した結果だと推測します」
黙秘権を行使する被告人(カガリ)の弁護を担当するかのようにフレイが口を挟む。
この場合、フレイはどちらかといえば原告に近い立場の筈なのだが、まるで弁護人
のように、被告人の情状酌量を求めるが如く、カガリの拉致動機について代弁する。
「華麗なる戦闘パイロットであられるカガリ君は、僕のような非戦闘クルーの、
日常エリアでの地道で下積み的な働きを随分と軽視しているみたいでした。
特に、彼が恋慕を抱いていると思われるキラが、過酷な最前線で戦っているのに対して、
恋人の僕が常に安全な艦内勤務である事実が気に入らなかったらしく、僕を最前線に
引っ張り出して、びびらせてやろうとかいう浅ましい魂胆があったように感じます。
勿論、今の測論は単なる僕の邪推に過ぎず、もしかするとカガリ君には、どうしても
僕を連れ出さねばならない正当な理由があったのかもしれません。
ここは是非とも、彼の意見を慎重に拝聴してみるべきでしょう」

カンニングペーパーも無しに、一息に見解を述べると、そのままフレイは貝のように
口を閉ざして、以後の答弁をカガリに丸投げする。親切にも、カガリが言えなかった
本心を代弁してあげたフレイだが、この行為は一層カガリを追い詰める効果を持っていた。
何しろ、フレイの憶測は、百点満点中、九十点はつけてもいいほどの、全くの事実で、
不備があるとすれば、キラがカガリの妹である点が抜け落ちている点ぐらいである。
完全に言葉に詰まり、蝦蟇蛙のようにダラダラと脂汗を流して沈黙するカガリの態度に、
どうやらフレイの与太話が真実だったらしいと悟らされたAA幹部三人のカガリを見る
視線が白けだした。思考もカガリに対する思い入れも大きく異なる三者だが、この時、
カガリを戦闘機のパイロットの任から解く事に、無意識に見解を一致させた。

90点の解答用紙の残り10点分の真実(シスコン的嫉妬心)を知っているキサカは、
強い失意の感情と共に内心で大きな溜息を吐き出しながらも、それでもフレイに
追い詰められた主君を救う為に、意を決して、強行手段に訴えることにした。


「カガリ様、お許しください」
スタスタとカガリの背後に廻り込んだキサカは、山男のようなゴツイ拳骨を振り上げると、
意味不明な謝罪の言葉と共に、そのまま容赦なく、カガリの後頭部をぶっ叩いた。
「ギャンっ!!?」
蛙が車にひき潰された時のような奇抜な悲鳴と共に、カガリは前のめりにぶっ倒れる。

「フレイ君と言ったね?カガリ様が迷惑をかけたようで申し訳ない。許して欲しい」
突然の下克上劇に唖然とする一同を尻目に、キサカが、ファンネルのビットのように
頭の周りにお星様を展開させて目を回しているカガリの代わりに頭を下げる。
「カガリ様は正規の軍人ではない故、ラミアス殿の側では処罰し辛いでしょう。
私の方から後できつく申し上げておきますので、カガリ様の処遇は私に一任ください」
キサカはそうマリュー達にも宣誓すると、コーディの男性に匹敵する膂力で、気絶した
カガリを軽々と抱き上げて、まるで米袋のようにカガリを左肩に背負と、そのまま
ノッシノッシと大股に歩んで部屋から出て行った。


「いやはや、大した忠臣だね」
キサカという大型台風に匹敵するハリケーンの来襲にいち早く理性を回復したフレイは、
キサカの行動をそう賞賛した。彼はあの力業で主君たるカガリの名誉を救ったのだ。
非ある時は、己が主君にさえ手を上げる覚悟を持つとは真に武士(もののふ)の鏡である。
その昔、有名な武蔵棒弁慶は、敵の目から欺くために、主君である牛若丸をあえて棒で
鞭打ちしたという故事もあるが、彼の忠勤振りはそれに匹敵するかもしれない。
「それじゃ、僕もそろそろ失礼してよいですか?痛めた歯の治療をしたいので」
「待ちなさい、フレイ君。あなたには、彼とは別に聞きたい事があります。
それに今、自分の部屋に戻っても、あなたの部屋は使用出来ないわよ」
退出許可を求めるフレイに、マリューは意味深なニュアンスで、彼を呼び止める。
訝しむフレイに対して、マリューは、フレイの部屋から毒物が検出され、その瘴気が
未だに部屋中を蝕んでいる現状と、何故、そうなったかについての事情説明を求めた。

794キラ(♀)×フレイ(♂)・47−3:2004/08/26(木) 18:37
外見上、鉄面皮を維持していたフレイだが、内心は流石に動揺していた。
どういう了見で、彼の室内での毒物の保持が露見してしまったのだろう?
フレイの脳細胞は、創造性に恵まれていたし思考の柔軟性にも富んでいたが、
バレルロール(180度の宙返り)の結果、上下真っ逆さまになった部屋内に、
引き出しの奥の毒物の瓶が投げ出されたなどという発想は思い浮かばなかった。
それでも、聡い(狡賢い)フレイは、どうして発覚したかという経緯を尋ねるよりも
先に、まずは毒物を所持するに値する尤もらしい理由をでっち上げる方を優先する。

「僕には戦闘は出来ないけど、僕なりの遣り方でAAに貢献したいと思いましてね」
フレイはそう前置きすると、バラディーヤで買い集めた花類から毒物を調合したという
出所について申告し、さらには、それを兵器として応用可能な旨について簡単に説明する。
「具体的には、アルテミス要塞の時のように、AA内部を敵に占拠されたような場合に、
食事に毒物を混入したり、もしくは、敵の密集している区域にガスを流し込んだりする
なりすれば、武器を使わずに敵を無力化する事も十分に可能です」
健気にも、独自の路線でAAに奉仕する道を模索していたらしいフレイの力説に、
マリュー達は、感動したり感涙に泣き咽たりはしなかった。
むしろ、三人は得体の知れない物の怪でも見るような眼つきでフレイを睨む。
「フ…フレイ君、あなた、そのようなケースが発生した場合、本気で毒物の使用に
踏み切るつもりだったの?」
「当然です。味方を守り敵を殲滅する為には、手段など一切選んでいられませんから。
艦長だって、例のアルテミス要塞脱出の際に、「アルテミスと心中するのはゴメンよ!」
とか宣言して、景気よく要塞一つをポンと破壊してきたじゃないですか?」

澄まし顔で、堂々とそう答えたフレイにマリューは絶句する。彼女には、目の前にいる
少年が、つい先日まで、戦争とは無縁の平凡な学生であるという事実が信じられなかった。
まさか、その毒物を機会さえあればマリュー達の食事に混ぜようとフレイが企んでいた事
までは見抜けなかったが、フレイという少年の危険性だけは十二分に認識できた。
フレイがどうやら自分の良識とは異なる世界の住人であり、到底、彼女の手に負える相手
ではないと本能的に悟ったマリューは、「以後、艦内での毒物の生成、使用は禁じます」
という常人には恐らく一生縁がないであろう禁句事項だけを通達すると、そのまま
事情徴収を有耶無耶のまま打ち切って、フレイを退出させる。
毒物の件を上手く誤魔化し、さらには無人島内での、敵兵(アスラン)と遭遇した事実
についてまで隠蔽する事に成功したフレイは満足して艦長室から出て行った。
今現在、彼の寝床は使用不可能みたいだが、ここ最近、フレイはキラの処に入り浸りで、
自分の部屋で寝た記憶はほとんど無かったので、さして問題ではなかった。


カガリ、フレイという問題児共との査問を終了させ、大きな溜息を吐き出したマリュー
の横顔は何時もより五歳ほど老けて見えた。この時ばかりは、フラガだけでなく、
彼女と対立しているナタルの瞳にさえも幾分かの同情の要素が見て取れた。

それから、カガリがスカイグラスパー二号のパイロットから解任される旨の通達が
正式に届けられた。
以後、戦闘中は、カガリはキサカと共に室内での艦内待機を命じられる事になる。
元々、彼らは、AA幹部が密かに中間ポイントとして定めたオーブ首長国連邦に
辿り着くまでの期間限定の臨時戦力であったのだが、万が一の事態が発生した有事の
際には、彼らにしか果たしえない最後の役割を演じてもらう事になるだろう。

795キラ(♀)×フレイ(♂)・47−4:2004/08/26(木) 18:38
このような経緯で、グラスパー二号という貴重な戦力を欠いたまま、アークエンジェルは、
オーブ近海の海域でのザラ隊の挑戦を受ける羽目となる。
今回は水の中に潜る必然性が無いので、ストライクの換装装備の中では、最も使用頻度
が低いと思われているランチャーパックで出陣したキラは、AAの固定砲台として
アグニ砲を連射する。バッテリー部分をAA本体と連結し、エネルギーの供給を母艦
から受けているので、PS切れを起こす心配が無いのは良いが、一撃必殺の大出力砲
も当らなければ意味が無い。戦闘機顔負けの機動性能で空中を自在に駆け巡るグゥルを
駆る四機のMSは、大砲のアグニを避けて、執拗にAA本体に纏わりつき攻撃を敢行する。
ただ、アークエンジェル側が片手落ちの戦力で万全の防御態勢を敷いていないのと同様に、
攻撃側であるザラ隊にも、穴が無いわけではない。ただし、それはAAのような戦力
(能力)的な要因ではなく、むしろ、人為的要因(チームワーク)に起因していた。


「イザーク、出すぎだぞ!それ以上、近づくとストライクの射程圏内に入る。
それに、足付きのラミネート装甲の理論は、学んだ筈だ。
ここはビーム兵器よりも、実体弾で……」
「五月蝿いぞ、アスラン!俺に指図するな!」
イザークの視界には、足付きでは無く因縁深いストライクの姿しか映っていないようだ。
それ故にPSを無効化するビーム兵器の使用に拘っているらしく、エネルギーライフルを
構えると、ストライク目掛けてグゥルを突っ込ませる。それを見た、イザーク派である
ディアッカも、彼を援護するかのように、AA本体ではなく、わざわざストライクに
砲火を集中するが、艦首に背後を守られ、前面からの砲撃にだけ備えれば良いキラは、
対ビームシールドで、易々と二人のビーム攻撃をシャットアウトする。
「あ…あいつら……」
指揮官機(イージス)からの、隊長命令を無視した二人組にアスランは大きく舌打ちする。

ラミネート装甲は、艦体全体を一つの装甲に見立てて、点で受けたビームを面全体に拡散
する事でダメージを防ぐと、クルーゼ隊長がどこからか仕入れてきた情報に記されていた。
その為に、排熱が追いついている限りは無敵に近く、ビームで仕留めるには途方も無い
時間を必要とする。だから、PSとは逆発想で、実体弾中心の攻撃で、まずは足付きを
沈めるように、予め作戦を立てておいたのだが、実弾兵器の豊富なバスターとデュエル
の足並みが揃わないものだから、攻撃が非効率的に成らざるを得ない。
「どうするの、アスラン!?」
「仕方が無い、ニコル。俺達もビーム兵器で攻撃するぞ!」
イザーク達があくまで我が道を突き進む以上は、不本意だがこちらが併せるしかない。
アスランは、心配そうに尋ねる隊で唯一のシンパであるニコルにそう指示すると、
イージスとブリッツの二機は、ジン用のD型装備であるバズカー砲を放り捨てて、
それぞれの手持ちのビームライフルによる攻撃に切り替える。
こうしてザラ隊がモタモタしている間に、足付きは、オーブ領の海域に到着する。
領海の防衛ラインには、オーブ本土を守護する複数のイージス艦が、手薬煉引いて
マリュー達を待ち構えていた。


「何とか無事、ここまで辿り着けたわね」
ザラ隊の拙攻にも助けられ、相応のダメージを負いながらも、目的のポイントに到達
したマリューは軽く安堵の溜息を吐いたが、ノイマンをはじめとした艦橋のクルーは
依然、緊張したままだ。絶対中立国であるオーブ本土に軍船の寄港など簡単に認められる
訳が無く、これ以上侵攻すると、下手をしたらザフトではなく、オーブ艦隊の手に
よって沈められる危険性もあるからだ。
案の定、前方のイージス艦から、「貴官らの艦は、我が国の領海に近づきすぎている。
これ以上近づいたら撃つ」という旨の警告が通信で送られてきた。さらには、ご丁重
にも、威嚇発砲が行われ、アークエンジェルの周りに三つの巨大な水柱が炸裂したが、
後半歩まで足付きを追い詰めているザラ隊は、ここまで来て、引き返す意思は
さらさら無いらしく、オーブ側の存在を無視して執拗にAAへの攻撃を続行する。

前門の虎、後門の狼という絶対絶命のピンチだが、マリューには、この窮地を乗り切れる
秘策がある。その時、艦橋の自動ドアが開き、彼女の切り札となる人物達が登場した。

796キラ(♀)×フレイ(♂)・47−5:2004/08/26(木) 18:39
「だ…誰!?」
突如、艦橋に見知らぬ二人組の男性が乗り込んできて、ミリアリアは軽く息を呑む。
大柄な壮年男性と小柄な少年のコンビで、男性は、髪を七三に分け、見慣れぬ紫色の
軍服を着ている。ヘリオポリス組の少年達には判らなかったが、何人かの正規クルーは、
それがオーブ軍の軍服である事実に気づいた。もう一人の少年は、端正な顔立ちに、
金髪をオールバックに纏め、白を基調とした将帥服を着用し、貴族然とした神々しい
雰囲気を醸し出している。

「お待ちしていたわよ、カガリ君」
「えっ…カ……カガリぃ〜!!?」
唖然とする艦橋のクルーの中で、ナタルと二人、落ち着き払っていたマリューが、
あっさりと爆弾を投下し、艦橋のパニックがさらに拡散する。
ミリアリア達は、金魚のように口をパクパクと泡めかせながら、カガリを指差している。
最初、ミリィ達は本当にカガリだとは気づかなかった。頬の傷跡を消した今のカガリは、
普段の山猿のようなワイルドな姿からは程遠く、皇族の子女と偽っても、十分通じそう
なレベルで、キラの女装までしていた人間と同一人物だとは信じられないぐらいだ。
とすると、隣にいるエリート軍人っぽい将校は、例のランボー似の大男(キサカ)なの
だろうか。こちらも、かなりのシンデレラ(変身)振りであり、トール達は、普段はダサ目の
女の子が眼鏡を外すと美少女に生まれ変わるという、少女漫画のお約束を思い浮かべたが、
今回の笑劇(フォルス)はまだ半分しか消化しておらず、これからが驚きの本番である。


キサカ(と思わしき人物)は、通信を担当していたカズイから、インカムを借り受けると、
自分達を映像の範囲内に位置取らせた上で、さっそく演説を行った。
「前方のオーブ艦隊に告げる。私は、オーブ陸軍第21特殊空挺部隊に所属している
レドニル・キサカ一佐だ。そして、こちらにおられるのは、オーブ首長国連合代表
ウズミ・ナラ・アスハ様の嫡子であられるカガリ・ユラ・アスハ王子である」
自分達の正体を明かしたキサカの爆弾発言に、艦橋のドヨメキは最高潮に達している。
艦橋で私語は禁じられているが、ヘリオポリス組だけでなく、正規クルーの間でさえ、
ザワメキがおさまらず、厳格なナタルも、事態の急転性を考慮してか、それを鎮めよう
とはしなかった。

「おい、アスラン。これは一体どういうことだよ!?」
キサカの発言は、味方だけでなく、敵であるザフト側にも少なからぬ衝撃を与えていた。
困惑した表情で問い掛けるディアッカに、アスランも「お…俺にも判らん」と返すのが
精一杯であったが、彼には、通信スクリーンに映し出された人物に見覚えがあった。
忘れるわけが無い。数日前に、アスランは無人島で、その人物(カガリ)と命の遣り取り
をした上で、最後はキラを巡っての、奇妙なシンパシーを芽生えさせたのだから。
もし、あいつが本当にオーブの王子なら面倒な事態になるやも知れぬと思いながらも、
件のペテン師(フレイ)に対する不信感がMAX値にまで達していたアスランは、
「これも、もしかしたら、あの詐欺師のシナリオか?」との疑惑を拭えなかったが、
舞台はそんなアスランの思惑とは無関係にどんどん進行していった。

「私とカガリ王子は、某国とのとある外交交渉を成功させる為に、本国政府の密命を
帯びて、密かに某国を訪問中であったが、その帰り道、嵐に襲われ遭難していた際に、
こちらの軍艦に救助され、保護を受けている身である。
或いは、我々が身分を詐称していると疑われるかも知れぬが、特務コード「Z5B291-EQ」
で、本国政府に照会されたし。私たちの身の保証となるであろう」

キサカの演説はさらに続き、周りのヘリオポリス組でさえ、絶句するような嘘八百が
並べられたが、どうやら既に、オーブ本国とは話しが通っていたみたいである。
「コードを確認した。貴官らを本物のカガリ王子と護衛のキサカ一佐と認定する。
本国への軍艦の滞留は認められないが、カガリ王子をこちらで引き取る為の、
一時的寄港だけは特例的に許可する」
やがて、艦隊側から、上記の旨のメッセージが通達され、アークエンジェルは悠々と
周りをイージス艦に護衛されながら、オーブ領海の奥へと消えてゆき、後には、
未だに事態を上手く把握出来ていない、茫然自失状態のザラ隊だけが取り残された。

797キラ(♀)×フレイ(♂)・47−6:2004/08/26(木) 18:39
「「大西洋連邦艦(足付き)は、カガリ王子を降ろした後、即座にオーブ領海を離脱した」
だと!?ふざけるな!こんな馬鹿な話しがあるか!?」
「だよねえ。あれだけのダメージを負った足付きが、そう簡単に、すぐに動ける筈がない
じゃない。舐められてるんじゃないの、俺たちは。隊長が若いからさ…」
「ディアッカ。それは関係ないでしょ?すぐにアスランを貶す材料にするんだから」
ボズゴロフ級の作戦司令室に集まったザラ隊の四人は、オーブからの正式回答に対して、
それぞれの憤りをぶつけ合っていたが、なかなか建設的な意見は出てこない。
「大体、あんなどこの馬の骨とも判らない小僧を、いきなり王子ですとか言われても、
「ハイ、そうですか」と納得出来るか。オーブ側との出来レースに決まっている。
邪魔するなら、オーブ艦隊ごと、一緒に沈めてやれば良かったんだ!」
知的生物のコーディネイターの割には、妙に単細胞な意見をイザークは主張するが、
戦力比的に可能かは別にして、外交的な見地から、それは難しい問題だろう。
フレイあたりは、コーディネイターには知識は在っても、知恵は無いと見立ていたが、
彼らの問答を見ていると、それほど的外れの評価では無いのかもしれない。

「いや、案外、あいつがオーブの王子であるというのは、意外と事実なのかもな」
今まで黙っていたアスランがはじめて口を開き、他の三者の視線がアスランに注がれる。
アスランも当初は例の詐欺師(フレイ)の策略かと疑ったが、彼は無人島で出会った時
から、既にカガリ・ユラと名乗っていた。データベースに問い合わせた結果、ウズミ代表
に、カガリという嫡子がいるのは確かで、仮にアイツが偽者だとしても、あの地点で
わざわざ偽名を名乗らせる必要性は無かった筈である。
「まあ、そんな事はどうでも良いけどな。肝心なのは、それらがオーブ首長国連邦の
正式な回答であるという事実だけだ」
そう、それこそが重要な問題なのである。カガリの真偽は別にしても、イザークが主張
した通り、足付きとオーブが裏で繋がっているのは間違いないと思われるが、オーブは
れっきとした主権国家であり、下手をすると重大な外交問題にまで発展しかねない。

「それでは、どうするというのだ、隊長殿?このまま泣き寝入りか!?」
イザークが慇懃無礼な態度で、そう問いかけ、アスランは軽く思案する。
アスランの弱腰な対応にイザーク達が憤る気持ちは判るが、正直に本音を言うなら
アスランにも、彼らに不満がない訳ではない。そもそも、イザーク達が、アスランの
指示通りに足並みを揃えていたら、面倒な事態に陥る前に、そう、オーブ領海に辿り着く
以前の地点で、足付きを沈める事も十分に可能だった筈なのだ。アスランはそう考え、
彼らの造反を苦々しく思ったが、隊長の責務を与えられながらも、イザーク達を御しえ
なかった自分にも責任の一端はあるような気がしたので、それは主張しなかった。
彼が代わりに主張したのは、次のような提案である。

「とにかく、足付きがオーブにいるという確証が必要だ。
ここは単身、生身でオーブに潜入してみるというのはどうだ?」
このアスランの予期せぬ提案に、三人はキョトンとした表情を見合わせた。

798キラ(♀)×フレイ(♂)・47−7:2004/08/26(木) 18:40
「まさか、こんな形で、再びオーブに舞い戻ってくるなんてね」
ドッグに入港したアークエンジェルの甲板上にワラワラと、ヘリオポリス組&カガリの
子供達七人が姿を現した。未だに艦の外に出るのは禁止されているが、ここも一応は
彼らの生まれ故郷の一部なので、少しでも外の空気に触れてみたかったからだ。
キラは居心地悪そうな表情で、隣にいるカガリを見る。今のカガリは先の正装から
普段の軽装に着替えており、せっかくオールバックに纏めた髪もボサボサに崩してラフな
スタイルを取り戻していたが、それで、カガリの正体が有耶無耶になったわけではない。
「何だよ、キラ。俺のオヤジが国王だろうと宇宙人だろうと、俺は俺だ。関係ないだろ?」
キラの視線に気付いたカガリがムッとした表情で、そう主張し、キラも「そ…そうよね」
と愛想笑いを浮かべたが、未だに戸惑いは抜け切っていない。アスラン、フレイ、
そしてカガリまでも、彼女が惚れ込んだ男性は皆、やんごとない家柄の血筋なので、
パンピー(一般人)である自分に、キラは些か引け目を感じてしまったりするのだ。
「俺に言わせれば、俺なんかより、お前の方がよっぽど特別な存在なんだぜ、キラ」
妙に煮え切らないキラの態度に、カガリは内心でそう謙遜したが口にはしなかった。
キラの隣にいるフレイは、互いにコンプレックスを抱いているらしい非公認兄妹の
遣り取りを興味深そうに拝見している。カガリの正体について、実はどこぞのボンボン
ではないかと密かに当りをつけていたフレイだが、オーブの王子様とは想像以上だ。
まだ、彼にはキラを巡った秘密がありそうだが、それらも追々判ってくる事なのだろうか?


その頃、交渉の為に艦外へとキサカに連れられていった幹部三人と入れ違いになるように、
三つのシルエットが、密かにアークエンジェルの中へと忍び込み、探索活動を行っていた。
途中、AAのクルーに見咎められたりもしたが、三つの影は屈託のない笑顔で挨拶して、
堂々と彼らの詰問をやり過ごす。やがて、甲板の出口まで来て、目当てのブツ(者)を発見
した影達は、一斉に甲板に飛び出して、その本性を現した。



「「「カガリさま〜ぁ!!!!」」」
「ゲっ!!?お…お前ら!?」
突如、後方から黄色い声が聞こえてきたので、慌てて振り返ったカガリは表情を
引き攣らせた。お揃いの真っ赤な軍用のチョッキに、グレーのズボンをはいた
三人の少女が、猛牛のような勢いでこちらに突っ込んできたからだ。
直ぐに廻れ右したカガリは、脱兎の如く、その場を駆け出そうとしたが、

「ジュリ!、マユラ!、フォーメーション・デルタよ!!」
「「ラジャー(了解)!!!」」
彼女達の中でリーダー格っぽい、カガリと似た金髪の少女の掛け声の下、少女達は
陣形を定めると、カガリを基点とした三角形(デルタ)の形にカガリを取り囲んだ。
それから、三人は、グルグルと時計回りに回転しながら、ジワジワと包囲網を狭めてゆき、
カガリに離脱する一ミクロンの隙さえも与えずに、見事、カガリを捕獲するのに成功する。
手前勝手な攻撃を繰り返して、結局、足付きを取り逃がしてしまったザラ隊に比べれば、
彼女達の方が八百倍ぐらい統率が取れているみたいである。

「カガリ様、お久しぶりです。マユラ、本当に寂しゅうございました」
「ザフトとの戦闘交渉、見てましたよ。凛々しかったですね、カガリ様」
マユラと名乗ったボーイッシュな娘は自分の頬をカガリの頬に猫のように擦りつけ、
リーダー格の少女は瞳をキラキラと輝かせながら、カガリの手を強く握る。
「キャア!、見て、アサギ。おいたわしや。カガリ様の玉のお肌に傷が!?」
「それ所じゃないわよ、マユラ。御身体の方はもっと酷い惨状よ!」
マユラがカガリの頬の傷にツーっと指を這わせ、アサギはカガリの襟首を掴んで、
赤いシャツの下から見え隠れする夥しい数の傷跡に、目を瞬かせる。
「ま…まさか、下の方も!?」「………………確かめなくては」
「ひいっ!?何をする、お前ら!?や…止めろぉ〜!!」
少女達は二人掛かりでズボンを下ろしにかかり、カガリは悲鳴を上げて、必死に抵抗する。

799キラ(♀)×フレイ(♂)・47−8:2004/08/26(木) 18:41
「アサギ、マユラ。もう、止めてあげなよ。カガリ様、本気で嫌がっているよ。
それに皆さん、呆れてこっちを見ているわよ」
三人娘の中の良心っぽい眼鏡の子が、軽くはにかみながら、そう訴える。
「またジュリは良い娘ぶちゃって…」「そうそう……、ところで、皆さんって!?」
ようやく、少女達は外野(ヘリオポリス組)の存在に気づいたみたいだ。
「い…嫌だわ、私達ったら…」
唖然とした表情で、自分達の痴態を見つめていたヘリオポリス組の面々に、
アサギとマユラは、今更ながらに羞恥で顔を真っ赤に染めながら、カガリから手を離す。
危うく公衆の面前で、逆レイプされ掛けたカガリは、大慌てで三人から距離を取ると、
キラの後方へと逃げ込んだ。

「そうそう、自己紹介がまだだったわね。私達は学園時代のカガリ様ファンクラブの者で、
私は、ファンクラブの会長を務めていた、アサギ・コーデウェルでぇ〜す」
「同じく、副会長のマユラ・ラバッツよ」
「……書記のジュリ・ウー・ニェンです」
先の照れ隠しのつもりなのか、少女達は妙にノリノリで自分達の姓名を明らかにする。
どうやら彼女達は、カガリの学生時代の級友らしい。立場的には、明けの砂漠にいた
アフメと似たカガリの追っかけ(ストーカー)という事になるのだろうか。
ただ、カガリにゾッコンだったアフメと異なり、何となくだが、この三人はカガリを
玩具にして遊んでいる節があるように感じられる。もしかしなくても、カガリの女性不信
の原因には、学園時代の彼女達の存在が大いに寄与していたのかもしれない。


「こ…ここは、軍用基地だぞ。何で、民間人のお前らがいるんだ!?」
情けなくもキラの影に隠れて、慌ててずり落ち掛けたズボンを引き上げながら、カガリは
当然の質問をしたが、「私達、実は軍に志願したの」という突拍子もない返事が戻ってきた。
「ほら、オーブって、ユーラシアや大西洋連邦とかの他の軍事大国と違って徴兵制度を
敷いていないから、軍は慢性的な人手不足じゃない?
だから、エリカさんの口利きで、私達、今、M1のテストパイロットをやっているのよ」
「エリカって、あのシモンズの婆ぁか!?」
「またまた、カガリ様ったら、本当に口が悪いんだから。
とにかく私達が動かせるようになれば、どこへ出しても恥ずかしくない仕上がりになる
から…って、エリカ主任に拝み倒されたら、ちょっと断れないじゃない?」
「そうそう、ここで仕事していれば、いずれカガリ様とも再会出来るって言われたしね」
「それって、お前らでも動かせるようになれば、誰にも操縦可能になるって意味じゃないか?」
とカガリはシニカルに思ったが、意外とフェミニストのカガリは、持ち上げられて
舞い上がっているらしい三人に、敢えて冷や水を浴びせようという気にはなれなかった。


「おやおや、中々、コミカルなお嬢様達みたいだね」
三人娘のハイテンションなノリに順応出来ずに、呆然としていたヘリオポリス本家と
異なり、興味深くカガリとの漫才を見物していたフレイが早速アサギ達に声を掛ける。
「キャッ、美少年!?」
美形なら誰でも良さそうなミーハーっぽいアサギが軽く頬を染め、他の二人も興味深々
という顔つきで、フレイの透明感溢れる笑顔を食い入るように眺めている。
「僕はフレイ・アルスター。君達と同じ少年兵さ。一応、彼女持ちの身分なんで、
あまり深い仲になることは出来ないけど、良きお友達としてお付き合いできるかな?」
「え〜!?やっぱり、もう既に売却済みなんですか?あうっ、残念」
「はっはっは。駄目じゃないか、浮気っ気を出すと、カガリ君が嫉妬するだろう?」
「馬鹿野郎。んな事あるか!……って、おい、お前ら。
コイツにだけは絶対に近づかない方が良いぞ。マジで食われちまうぞ」
「キャア、もしかして、カガリ様。私に嫉妬してくれてるの!?」
「だから違うって言ってるだろう!俺は親切心から……」
「酷いな、カガリ君。僕と君とは無人島で、お互いに肌と肌とを寄せ合って、
共に一夜を過ごした仲じゃないか…」
フレイはセクシィーな流し目でカガリの耳に息を吹きかけながら、芝居掛かった仕草で
カガリの肩を抱き、身体全体に鳥肌を立たせたカガリは、反射的にフレイの手を払いのけた。

800キラ(♀)×フレイ(♂)・47−9:2004/08/26(木) 18:41
「き…気色悪い真似するんじゃねえ!」
「済まないね、カガリ君。君の本命は兄貴と慕っているフラガ少佐なんだよね?」
「だから、さっきから誤解を招くような紛らわしい言い方は止め……」
そこまで言いかけて、ふと、カガリが三人娘の方を振り返る。
フレイの発言に、ショックを受けた者、頭に?マークを浮かべている者、
瞳をキラキラと星のように輝かせている者と、三者三様の反応が見て取れた。
「カ…カガリ様。何度モーション掛けても全然反応がないから、もしや女性に興味が
無いのかと思いきや、まさかそっち側の人だったとは…」
「ねえ、聴いた!?兄貴だって!?キャア、ヤオイよ。ヤオイ!耽美すぎるわ」
「カガリ様、私は決して諦めません。私の愛の力で、カガリ様の男しか愛せない
という病気を癒やして……」
「だから違うって言ってるだろ!お前ら人の話を聞け!!」
再び三人娘はカガリの身体にしな垂れる。四面楚歌でホモ扱いされたカガリがとうとう
発狂したが、自分達の世界に填まり込んでしまったらしい三人には全く効果が無かった。

フレイの正体を知っているヘリオポリス組の面々は、カガリをダシにして、
さっそく三人娘を上手く懐柔しているフレイの手並みに呆気に取られている。
既に三人娘の中では、フレイはかっこ良くて、面白い男性と認識されているみたいだ。
例の悪魔的な本性をひた隠したフレイは実に爽やかで、博識で口当りも良いので、
初対面の女の子が、フレイの上っ面に騙されてしまうのは、無理からぬ事であろう。


「そんなに怒るなよ、カガリ君。この三人は君の物だよ。僕には、キラさえいてくれれば
十分だから、この三人娘に手を出すつもりはないさ。しかしまあ、女に興味が無いような
振りして、影でハーレムを拵えるなんて、やっぱり王子様は凡人とは遣る事が違うね」
ここぞとばかりに、フレイがカガリを畳み掛ける。
実際、フレイは、デート中に恋人(キラ)を連れ去られたり、戦場(無人島)へと
無理やり拉致されたり、危うく敵(アスラン)ごと撃ち殺され掛けたりと、
何だかんだ言っても、カガリへの怨み辛みがけっこう溜まっていたのである。
まあ、カガリの一方的な認識では、妹を悪魔の手から救うためにやった事ではあるが。

今まで、この場のペースに戸惑っていたキラも、呆れたようなジト目でカガリを睨み、
「誤解だ、キラ!」とカガリは大声で叫んだが、三人娘を身体中に侍らせている
今の状況では、説得力が無いこと甚だしかった。


「そう、あなたがキラさんだったね?例のMS(ストライク)のパイロットの」
自分達の世界にトリップしていた三人は、カガリの発した「キラ」というキーワードを、
復活の呪文として、現実世界へと帰参し始めた。
「実は私達、本当なあなたに用があったのよ。カガリ様の姿を見つけたら、
ついつい、そんな事は頭から吹っ飛んでしまったけど」
照れ隠しに軽く頭を掻きながら、三人娘はようやくカガリに絡めていた身体を離すと、
真正面からキラに向き直り、弛み切っていた表情を引き締め直した。
「キラ・ヤマトさん。エリカ・シモンズ主任がお呼びです。
是非とも、あなたにお願いしたい事があるそうです」
三人を代表する形で、アサギがキラにメッセージを伝え、キラは軽く瞬きしながら、
不安そうな目付きで、自分と歳の変わらない三人娘の顔を覗きこんだ。



その頃、断崖絶壁に囲まれた人気の無いオーブ沖に、ダイバーのスーツを着た四人の
少年少女が泳ぎ着いた。足付きの動向を探るために、オーブへの密入国を果たした
ザラ隊のメンバーである。
数日前の無人島でも為しえなかった、キラと生身で邂逅出来る日が近づいている事を、
この時、彼らを率いる隊長のアスランは、未だに気がついていなかった。

801私の想いが名無しを守るわ:2004/08/26(木) 19:35
>>キラ(♀)×フレイ(♂)

久々の投下乙です。もう続きは読めないのかなと思ってた
矢先だったので大変嬉しいです。

802人為の人・PHASE−16:2004/08/26(木) 22:12
目を覚ました僕の耳に、第一戦闘配備の警報音が飛び込んできた。
僕はベッドから起き上がった。「何か」が僕の中で変わっていた。
体のあちこちがガラスの切っ先のような自信に満ち溢れていた。
自分を押さえつけていた膜のようなものが壊れたのを僕は感じていた。
全てはあの子と寝た事がもたらした、羽のように軽い快感だった。
僕は大切なものを絶対に守る事ができる確信を得て、部屋を出た。
それは結局、傷ついた僕の一時的な闇への逃亡だったのかもしれない。
けれど、僕は今でもそれを憎んではいない。そうしなければ、きっと
僕は誰も守る事ができないまま消えてしまっていただろうから。
隣で眠っていたあの子の本当の気持ちを、僕は知らなかった。

すぐに出撃できるとの旨を伝えた僕は、ミリアリアにさえ乱暴な態度を
とった。敵が攻めてきてるのに、戦わないといけないのに、みんな何を
呑気にやっているんだ。さっさとハッチを開けろ。僕は怒鳴った。
僕は少しでも早く敵を滅ぼす事を望んでいた。そうすれば、多くの人が
助かるのだと考えていた。以前にもまして必死な心がそこにはあった。
僕はランチャーストライクで飛び立った。

砂の大地に落ちた僕は予想外の動きの悪さにてこずった。手に感じる
衝撃が宇宙とあまりに違う。そんな僕に敵は攻撃を仕掛けてきた。
地上を縦横無尽に動き回る事を目的として設計されたMS、バクゥ。
犬のような形をしたそれは、鈍いストライクに次々とミサイルを
撃ち込んでくる。PS装甲の頑丈さに守られながら、僕はストライクの
操作系統を自分でも驚くほど瞬時に修正した。生きるためではなく、
倒すための力。戦場で無力な者は失う事しかできない。砂への接地圧を
調整し、初めての環境に適応を開始していた僕はバクゥの軽やかな
動きに翻弄されつつも、確実に反撃を展開していった。
僕にはあの子の「想い」がある。託された気持ちが、僕の力となる。
一見正しいようでいて底知れぬ誤解を含んだ僕の信念が再び弾け、
未知の力が感情を支配し始めた。

僕はいつしか、敵のMSを生意気とさえ思うようになっていた。
砂漠を飛び跳ねるバクゥを僕はストライクの足で押さえつけ、そのまま
ヘリオポリス破壊の引き金ともなったアグニで容易く吹き飛ばした。
遠くから飛んでくる敵艦の主砲にはそれの一匹を投げつけて相殺した。
僕にはそれがただの機械でできた紛い物の犬としか思えなかった。
その気になればアークエンジェルを守るためにいくらでも壊してやる、
だからかかってこい。僕には力がある。そんな残酷な心があった。
しかし僕の黒い一面は長続きしなかった。PS装甲が切れたのだ。
これ以上の戦闘は危険だった。僕は正気に返り、生存の道を探した。
そこに有線通信でコクピットに声を入れてくる者がいた。
レジスタンスの一員らしく、敵に地雷を踏ませる作戦を僕に提案した。
やがて思惑通り、そのポイントを飛び越えた僕を追ってきたバクゥが
残骸となって空に舞った。僕は無責任なまでにそこに残酷さを感じた。
結局、戦闘はザフト側に多大な損害を残して終わった。
三度目の運命的な出会いがすぐそこに迫っていた。

803人為の人・作者:2004/08/26(木) 22:16
投稿再開しました。9月いっぱいの完結を目指して頑張ってみます。

>>キラ(♀)×フレイ(♂)
最初から拝見しておりました。濃厚な地の文とひねられた会話が
とても面白く、続きを期待していたのでうれしいです。
個人的に、例の夕焼けのシーンがどうアレンジされるのかが楽しみです。

804私の想いが名無しを守るわ:2004/08/26(木) 22:30
がんばって!

805人為の人・PHASE−17:2004/08/27(金) 12:03
戦闘を終えてMSから下りた僕に、一人の少女が駆け寄ってきた。
乱れるに任せた金髪と、見る者を愛情とはまた違った意味で惹きつける
瞳を持つ彼女の顔がたちまち怒りに満ち、僕を問い詰めた。
何であんなものに乗っているんだ。あまりに直接的な質問だった。
僕の中で過去の記憶が次々と呼び起こされた。それらはみな複雑に
絡み合い、巨大な力となって僕を追いたてているように感じた。
そして長く辛い説明をする事をためらううちに、僕はようやく彼女が
ヘリオポリスにいたあの時の事を思い出したのだった。
色んな出来事がありすぎてどこかへ置き忘れてしまったのだろうか。
そのせいか、彼女との再会はひどく新鮮なものに思えた。
訳も分からないまま結局彼女に殴られてしまったのもその一因だろう。
彼女の名はカガリ・ユラ・アスハ。僕の数少ない血縁者の一人だ。

アークエンジェルは地元のレジスタンス組織「暁の砂漠」に協力する
という形で、アフリカに駐屯するザフト軍を撃破し紅海へ抜ける事に
なった。そのザフト軍を率いていたのは、「砂漠の虎」と名高い
アンドリュー・バルトフェルド。僕はこの人と後々戦う事になる。
もちろんその時の僕はそんな事を知るはずもなく、ただただこれからの
旅路への不安とそれを押し殺すための歪んだ自信を抱え続けていた。

僕は岩場の間にカモフラージュされて横たわるアークエンジェルを
眺めながら、砂漠の熱い空気を苦痛に思うことなく肌身に感じていた。
そこへ金髪の少女、カガリが涼しげな恰好で上ってきた。
僕の横に座り、とても正直な言葉で先程の謝罪と弁明を行う彼女は
どこかおかしくて、自然と笑みがこぼれた。カガリのようにまっすぐで
偽りのない気持ちを持った人を僕は今までに見た事がない。傍にいると
顔の表情一つに注目するだけで退屈しないし、本当に癒されるのだ。
もちろん血の繋がった者の贔屓目もあるかもしれないが、少なくとも
カガリは、僕なんかが決して持ち得ていないような魅力を備えていた。
そんな彼女と話をしている時、僕はあの子の事を一時的に忘れた。

僕はその時、MSの調整を終えて外へ出てきたところだった。
昼とは打って変わって冷えこんだ空気が漂う中で、二人は争っていた。
あの子がまず僕に抱きついてきた。視線の先にサイが見えた。
腕の中であの子は小さく震えていた。サイは苛立っていた。
僕は彼らが何を問題にしているのかを悟った。
二人は深い関係にあったはずなのだ。すっかり忘れてしまっていた。
もし覚えていれば、あの子と寝る事も無かったのだろうか。
僕はあの子を抱いて、サイがどう思うかなんて考えもしなかった。
自分の辛く苦しい状況に溺れ、遠くにいる友人を思い出さなかった。

ゆうべはキラの部屋にいたんだから―――。
あの子の痛切な響きを伴った声が、僕の心を完全に狂わせた。
僕の腕にしがみつくあの子の温もりが、無意味な力を引き寄せた。
やめなよ、サイ。信じられないような冷たい自分の声が耳を打った。
強い衝撃を受けていたサイの顔が次第に怒りへと変わっていく。
しかし僕は全く動揺していなかった。すぐに小さくなって謝るはずの
僕が暗黒の僕に踏みつけられ、蹴飛ばされて泣いていた。
昨日の戦闘で疲れてるんだ。もうやめてくんない。
その言葉にサイは僕の名前を呼び、向かってきた。僕はその動きを
冷酷なまでに予測して、彼の腕をひねり上げた。
やめてよね。本気で喧嘩したらサイが僕に敵うはずないだろ?
彼を砂地に突き飛ばした僕は、圧倒的な優越意識に酔いしれていた。
自分がコーディネーターである事実を喜んで受け入れていた。
それは僕が僕自身を最も醜いと感じた瞬間だった。
僕はその時点で悪魔とも成り得ていたのだ。
やがて臆病な自尊心は切実で身勝手な言い訳へと変わった。
僕がどんな思いで戦ってきたか、知りもしないくせに―――。
首を僕の肩に傾けるあの子の優しさに触れ、僕は力を感じていた。
僕の人生に、逃れようのない罪の一点が築かれた。

806人為の人・PHASE−18:2004/08/28(土) 16:56
町のある方角から火の手が上がっていた。
僕はあの子に優しい言葉をかけ、戦闘に備えるべくその場を去った。
MS格納庫へ向かう僕の頭の中では、先程の出来事が幾度も頭を
かすめていた。僕はサイの手をひねり上げ、地面に突き飛ばしたのだ。
サイはヘリオポリスの工業カレッジで、僕の友人だった。
僕達のリーダー的な存在で、いつも頼もしく思っていた。
困った時にはお互いに助けあい、協力し、手を取りあって喜んだ。
僕達はお互いを理解しあっている。そう思っていた。
それなのに、僕はそれを裏切る酷い行為をしたのだ。
高揚が次第に罪悪感へと変わり、僕の胸を締め付け始めていた。

「砂漠の虎」はレジスタンスの家族の住む町を強襲した。
彼は事前に攻撃する事を予告していたらしく、皆命からがらで
逃げ出したものの死者は皆無だったという。不思議なものだった。
しかし住居、食料、武器弾薬は完膚無きまでに焼き尽くされ、
町の人は明日を生きる手段にも事欠く状態で呆然としていたそうだ。
もちろんそんな状況に「暁の砂漠」のメンバーが黙っている訳もなく、
カガリを含めて多くの男達がジープでザフト軍の跡を追った。
彼らは純粋な怒りのもとに敵に一矢を報いようとしていたのだった。
たとえその結果が何を意味するかを分かってはいても、止められない。

僕はストライクで待機していたが、レジスタンスの人々がそんな行動に
出たという連絡を受けて出撃した。砂塵の向こうでは柔軟に飛び回る
バクゥと、その下でおもちゃのように攻撃を加えるジープが戦闘を
繰り広げていた。その戦力差は一目瞭然で、犬が次々と車を破壊する
奇妙に恐ろしい光景が続いていた。僕はそこに乱入していった。
砂漠での戦闘に慣れ始めていた僕に対し、敵は独特の陣形を組みながら
襲ってくる。僕は心の奥に溜まったどす黒い感情を吐き出すように、
そんな技巧を凝らした相手の攻めをかわして反撃に転じた。
しかし、それでもなお続く戦いは僕を一層深い闇に落とし込んだ。
何物にも代えがたい想いに守られた自分の力をただ信じて、僕はまた
弾け飛ぶ種子の姿を瞳の奥に感じた。そうして敵を殺し、退けた。

戦闘が終わってストライクの眼下にあったものは、「結果」だった。
カガリが泣き叫んでいた。キサカさんが隣にいた。誰かが死んだ。
それはアフメドという名の少年で、カガリと活動を共にしていた
らしい。今度は僕がそんな光景に複雑な憤りを抱く番だった。
死にたいんですか?
僕は精一杯の怒りと軽蔑をこめて、自分の命を顧みようともしない
「勇敢な」人々に対する言葉を紡ぎ出した。拳に力が入った。
MSの前では、人はゴミのように蹴散らされ、踏み潰されてしまう。
その時僕は、自分の守るべき人々が自分から命を投げ出す事に
我慢できなかったのだ。そう、僕はただ庇護の意識に固執していた。
カガリの強い口調にも僕はたじろがなかった。誰かが誰かを
守るために必死になったところで、死んだらどうなる?
この少年は?カガリは?その代償は決して小さくはない。
気持ちだけで、いったい何が守れるって言うんだ―――。
僕はカガリが女の子である事も忘れ、無我夢中で彼女の頬を張った。

807人為の人・PHASE−19:2004/08/29(日) 11:04
あれから僕とカガリの間にはしばらく微妙な空気が流れていた。
険悪なものではないが、それでいて別段仲が良いというわけでもない、
そんな関係だ。それはきっと僕がいつまでも心の隅で気にしていたのに
対して、カガリの方はすっかり忘れてしまったような態度で日々を
過ごしていたからだろう。細かいことを気にしない彼女が羨ましい。
そうだ、僕はいつでも気にしている。そして都合の悪いことはすぐに
忘れる。でも僕は今も悲しい思い出を、忘れることなく気にしている。

そんな中、僕達は物資の調達のために大都市パナディーヤに赴いた。
武器商人との交渉に向かった大人達と別れ、僕とカガリは雑用品の
買出しに四方八方を歩き回る。買い物リストの中にはあの子の依頼品も
あって、カガリは少し顔をしかめた。行く先々で繁栄の陰に潜む戦争の
気配を感じ取りながら、僕は彼女の自由奔放さに振り回されつつ
ひと時の平和な安らぎを覚えていた。

僕とカガリが昼食をとろうとカフェテリアに落ち着いたときのことだ。
まず、注文したドネル・ケバブという料理にかけるソースをめぐって
一悶着あった。妙に派手な服装の、明るい声で話しかけてきた男性が
カガリのチリソースをかける嗜好に異を唱えたのだ。冒涜だ、邪道だ、
彼はそう叫んで僕のケバブにヨーグルトソースを注ごうとし、それを
止めようとしたカガリと激しい競争を繰り広げた結果、僕のケバブは
見事に紅白ミックスへと染め上げられてしまった。僕は軽く驚愕した。
だが、本当の恐怖はここからだった。
蒼き清浄なる世界のために―――そう叫ぶ一団が、先ほど現れた男性を
狙うようにして銃を手に僕達を襲った。刹那にテーブルを倒して防壁を
築いた男性は、さっきとは打って変わって周りにいた部下達に一団の
排除を命令していく。それはまさしく指揮官のものだった。
死角から僕達に銃を向けていた男を蹴り飛ばし、波乱の終結を悟った
僕の前で、男性はサングラスを外して名を名乗った。
「砂漠の虎」、アンドリュー・バルトフェルドその人だった。

襲われた時にチリソースを頭から被ってしまったカガリのため、僕と
彼女はバルトフェルドさんの屋敷へと連れて行かれることになった。
冗舌でコーヒー好きな彼の性格を知って敵とは思えない親近感を
抱き始めていたその時、汚れを洗い落としたカガリが現れた。
若草色のドレスを着た彼女はすっかり容姿を変えてしまったようで、
僕は素直に驚きの感想を述べて彼女を愉快に怒らせてしまった。
続くバルトフェルドさんの言葉は何やら意味深で、こちらはカガリを
普通に苛立たせたようだった。彼のふざけたような数々の言動に彼女は
純粋に怒りを覚え、彼を問い詰める。彼ははぐらかす。彼女は叫ぶ。
そして彼は冷たい銃口を向け、僕達に一つの問いを投げかけた。
どこで戦争を終わりにすればよいのか。全てを滅ぼして、なのか。
やや遅れて僕に衝撃が走った。僕達は今戦争のただ中にいる、それは
分かっているつもりだった。けれど僕は「今」を生きることに必死で、
戦争の終わるべき「未来」を見つめていなかった。ただ単に目の前の
危機を振り払おうとしてストライクを起動し、敵を滅ぼしていた。
「敵」の考えに触れることができたのは、それが初めてのことだった。
やがてバルトフェルドさんはどうでもいいことのように銃を下げ、
僕達に戻るべき場所へ帰るよう促した。僕達は殺されなかった。
その頃アークエンジェルでは、サイがストライクを起動させていた。

808人為の人・PHASE−20:2004/08/30(月) 11:01
それから「砂漠の虎」との決戦の時が訪れるまで、血は流れなかった。
しかしそれを本当に平和な日々と呼ぶことができただろうか?
僕がアークエンジェルに帰ったその時から、僕はあの子を抱くことに
心の底で言い知れない不安を抱き始めていた。表面上は何も変わらず、
外側から見れば何の変哲もない穏やかな日々。だがそこには、戦争を
生々しく感じさせないからこそ漂う甘い不吉な影があった。

僕とカガリのいない間に無断でストライクを起動させたサイは、
罰として営倉に入れられ食料を届けられる生活を余儀なくされていた。
彼はどんな思いで、僕がアークエンジェルを守るために多くの敵を
葬ってきたそのMSを起動させたのだろうか。僕が帰らなかったから、
自分を砂漠に突き落としたかつての親友が戻らなかったから、
僕にできることを自分も成し遂げようとして結局失敗したのだろうか。
いずれにしろ僕が彼を追い詰めたことは明らかで、そのことに対する
僕の苦しみはそのままあの子との関係に跳ね返ってきた。僕はあの子と
出会うことを避け、ストライクのコクピットで寝起きするようにした。
そうでもしなければ、僕自身が耐えられないという身勝手な理由で。

サイに食料を届けに行くところだったカズイと一緒に、僕はサイの
入れられている営倉の前までやってきた。カズイはいつもの力なく
静かな声で僕に扉の前で待つよう指示した後、一人で営倉の中へ入る。
戦争が僕達の前に訪れるまでは頼もしく聞こえていたはずのサイの声。
その声が、カズイとの会話から以前よりもずっと弱々しく響いて
僕の耳に流れ込んでくる。あれほどみんなの尊敬していたサイが、
今は屈辱的な立場に置かれて苦しんでいる。その時、僕はすべてが
自分の責任なのだと思った。僕のためにみんなが傷ついているのだと
思った。しかしそれが安易な思い上がりであることには気づかず、
この鬱々とした日々を何とか生き抜くことしか考えていなかった。
ふと、あの子の姿が瞳の片隅に映った。僕が顔を向けると、彼女は
通路の向こう側に姿を消した。不安は数え切れなかった。

久方ぶりに部屋へと戻った後、しばらくしてあの子が目の前に現れた。
あの子は僕に近づき、ベッドに腰掛けた僕に肩を寄せ、甘い声で僕を
混乱させる。サイの悲惨な状況に目もくれず、人を魅了する笑顔で
彼の行動を暗に非難する。違う。何かが違う。僕達は、僕とあの子は、
こんなことをしていい関係じゃない。突然心の中に明らかな拒絶が
生まれ、僕はベッドの上での空しい抱擁を求めてきた彼女を
振り払った。ほんの一瞬だけあの子を邪悪だと思い、直後にその考えを
打ち消し、そう考えた自分に嫌悪した。心はずっと泣いていた。

やがて「砂漠の虎」との決着を目前に控え、僕の中を新たな思いが
駆け巡った。ザフト軍。親友だったアスランもそこにいる。
彼は今どこで、何をしているのだろうか。急速に彼の姿を思い出す。
僕とは違う誰かにイージスの銃を向け、ただひたすら「戦争」に
徹しているのだろうか。僕はそう考えたくはなかった。

809人為の人・PHASE−21:2004/08/31(火) 09:35
ついにサハラ砂漠を抜ける時が来た。それはつまり、紅海への道を
閉ざしているレセップス、「砂漠の虎」との正面衝突を意味する。
戦争から少しでも遠ざかっていた間に考えていたあまりにも多くの
出来事を断ち切り、僕は戦いに専念することを決意しようとした。
アークエンジェルを、みんなを守れるのは僕しかいない―――。
だがやはりバルトフェルドさんの言葉は重くのしかかってくる。
一度見知って、ただの「敵」とは思えなくなってしまった人を
僕は容赦なく討つことができるのだろうか。自信などあるはずもなく、
必要以上のノルマを自分に与える身勝手さがまたしても僕を責めた。

出撃前、僕はフラガ少佐に問いかけた。あの時、バルトフェルドさんが
僕の戦いぶりを見てたとえた言葉、「バーサーカー」の指し示す意味。
返ってきた答えは、正にストライクに乗った僕そのものを表していた。
狂戦士。普段は大人しいのに、戦いが始まると狂ったように強くなる。
限界を超えたと思った瞬間に脳裏に浮かぶ、弾け飛んだ紫紺の種子の
イメージを想像して、僕はいつもの通り暗い気持ちになった。

「砂漠の虎」との決戦は予想通り非常に激しいものとなった。
敵はレセップス以外の陸上艦も動員して待ち伏せ作戦を行っていた上、
襲撃を避けようと廃墟に逃げ込んだアークエンジェルは瓦礫が艦体に
引っかかって離脱不可能に陥ってしまった。僕はバクゥとの戦いに
全神経に取られて援護することもできなかったし、
少佐のスカイグラスパーも空の戦いに集中せざるをえなかったため
どうすることもできない。もうだめか。そう思いかけたその時だった。
ストライクと同じく地上に降り立っていたバスターが、
アークエンジェルへの砲撃を誤射して何とか危機は回避された。
不思議な気分だった。後で聞いてみればカガリも参戦していた
というし、何だか今になって思うと幻のような戦いにも思える。
そう、まるで真実が砂塵の中へ埋もれるのを拒否したかのように。

バクゥを一通り蹴散らしたところで、ついに見たことのないMSが
現れた。バルトフェルドさん、そして彼の愛人だったアイシャさんの
搭乗するラゴゥ。オレンジ色に塗装された機体が砂漠を猛烈なスピード
で駆け回り、対砂漠用にOSを書き換えたストライクを翻弄する。
ためらいの気持ちを捨てきれないまま僕は戦闘になだれ込んだ。一撃、
また一撃。ビームライフルを巧みに回避し、ラゴゥが迫る。僕は通信を
開いて必死に言葉を伝えてはみるものの、彼の荒々しい返事は僕の
空しい理想を否定して現実を伝えてくる。戦うしかない。どこまで?
どちらかが滅びるまで。ストライクのビームサーベルがラゴゥの足を
切断する。まだ戦いは終わらない。ルールなどない。PS装甲が切れ、
無防備になるストライク。手負いで襲いかかるラゴゥ。これが現実。
覚醒した僕は―――狂戦士となった僕は、アーマーシュナイダーを
ラゴゥの額部分に突き立てた。殺したくなかった人が、爆炎に消えた。

長い長い悲しみの叫びは、こうしてまた僕を少しずつ変えていく。
僕の敵への対し方も、僕のあの子との関係も、何もかも。

810人為の人・PHASE−22:2004/09/01(水) 12:27
紅海へ出たアークエンジェルは、インド洋を経てアラスカへと向かう。
「砂漠の虎」は倒したものの、海洋にはザフト軍が潜水艦で息を潜めて
おり、油断することはできない。僕は戦争に巻き込まれて以来感じた
度重なる悲しみも癒えぬままに、ただ戦い続けなければならなかった。
戦うこと。その言葉が僕にとって、新たな意味を帯び始めていた。

僕はデッキに出た。澄み切った青空の下、カモメ達が楽しそうに空を
飛んでいる。自由な鳥。縛られた自分。僕はなぜ戦っているのだろう。
殺してしまったと思ったバルトフェルドさんの姿が繰り返し脳裏に
浮かび、僕はいつもの通り耐え切れなくなって涙した。自分の運命が
つらかった。コーディネーターだから、戦える。コーディネーター
だから、簡単に死なない。死なない?でも僕はあの人を殺した。
果てしなく自分を絶望に追い込んでいく思考の渦に囚われようとして
いたその時、目の前にカガリが現れた。いつになく優しい顔と声で
僕を抱き寄せ、静かに安心させてくれる。あの子の時とは違う、
何か懐かしくて温かいものが全身を駆け巡った。僕は癒されていた。
直後、急に我に帰ったように弁解をするカガリ。彼女の行動はいつも
短絡的で、それでいて情に厚くて面白い。僕がコーディネーター
だからといって差別しないとはっきり言ってくれた彼女は、どこか
他人ではないような気持ちを与えてくれたのだった。

ふと、あの子の僕を呼ぶ声が聞こえる。見上げるとタンクトップ姿で、
僕のことを甘く誘惑するような視線のあの子。カガリは不機嫌そうに
立ち去ってしまい、アークエンジェルのデッキには僕とあの子の二人が
残された。僕は困惑したものの、結局のところ嫌な気分ではなかった。
今となって思えば、あの頃のそんな思い出でさえ僕の中にしっかりと
息づいている。官能的で、扇情的で、でも心は傷ついていたあの子。
僕は今あの子の手にすら触れることもできない。

初めての水中戦闘。巨大斬艦刀、シュベルトゲーベルを装備して
ザフトのMSと対峙する。グーンがクローを振りかざす。速い。
いや、水中用ではないストライクが遅いのか。冷たい海の底で
緊張を最大限に高めながら、守るべき人のことを思う。思わなければ
戦えずに死ぬ。僕は最初の頃とは違う妙に落ち着いた恐怖心を
心に抱えながら、敵の動きを識別した。そこだ。最も効率的な運動を
はじき出して実行に移す。敵に近づく。やがて攻撃を受けた敵MSは
水圧で紙くずのようになって爆発し、勝負はついた。そう、爆発した。
またバルトフェルドさんの顔が頭をよぎる。なぜ彼は死んだのか?
僕が殺したから。何度でも繰り返してきた結論にまた直面した僕は、
誰にも見られることのないコクピットの中で一人空しく泣いた。
それがどれほど無駄で意味のないことだと分かっていても、
僕には決して止められない。なぜなら、僕は弱い人間だから。

811人為の人・PHASE−23:2004/09/02(木) 15:19
しばらく航海を続けるうち、あの子が船酔いにかかった。
僕の部屋で寝ている彼女は、甘えたような声で僕に様々な催促を
してくる。タオルの取り換え、飲み物の用意、その他色々。僕はそれに
忙しく応じながら、戦うことのつらさから少しでも目を背けようと
していた。少なくともあの子の相手をしていれば、平和でいられるのだ。
そして同じ理由から、僕はあの子との関係にも目をつぶって何も言わない
ことにした。少しでも僕があの子の気持ちに疑いを持っていることを
話したりしたら、今の平和な関係が崩れ去ってしまうかもしれない。
そんなことは考えたくはなかった。僕は純粋にただ怖かったのだ。
しかしそれも結局、あの子との破局を遅らせるだけにすぎなかった。

サイ。昔はいつも頼りにしていて、今でもとてもいい性格のサイ。
その彼が僕に一言、頼むな、と言った。あの子のことだった。僕はもう、
その言葉に対してうつむいたまま無言で返事をすることしかできない。
僕もサイもつらいし、苦しい。サイは何にも悪くない。悪いのは僕だ。
彼の悲痛な表情が、その奥にあるそれ以上の苦悩を表しているように
思えて、僕はそのまま立ち去るしかなかった。

第一戦闘配備の放送が鳴り、僕とフラガ少佐とカガリが出撃した。
空中を舞う無数のMS、ディンの相手を二人が、水中のMSを
僕が引き受ける。僕に襲いかかってきた敵は前回のグーンに加え、
隊長機らしい緑色の機体をしたゾノが新たに増えていた。前にも増して
激しい攻撃にさらされるアークエンジェル。僕が対処しきれなかった敵は
そのまま戦艦の攻撃に回ってしまう。僕はさらに覚悟を決めなければ
ならなかった。もう人を殺す云々を考える余裕もなかった。とにかく
敵を倒すこと、目の前の危険を取り除くこと、みんなを守ることだけを
考えて、僕はグーン、そしてゾノに対決を挑んでいった。もちろんその間
上空でどんな戦闘が行われていたかなど、僕には知る由もない。

バレルロールを行って水中の敵に直接ゴットフリートを照射した
アークエンジェルの戦略もあり、残るMSはゾノ一体。体当たり同然で
攻撃してくる相手に対し、追加武装をほとんど失っていたストライクは
備え付けのナイフ形兵器、アーマーシュナイダーを取り出そうとする。
しかし敵もその瞬間を見逃さない。ストライクがナイフを取り落とす。
僕は焦った。敵パイロットが捨て身なのがよく分かった。このままでは
道連れにされてしまう。僕は素早くもう一方のナイフを取り出し、
間髪いれずにゾノの装甲に深々と突き刺した。素早く離脱し、敵が
爆発するのを見届ける。僕はまた生き延びた。そう、死ななかったのだ。
戦いに勝ち、自分の死が遠い存在に思えてくるにつれて、少なくとも
戦闘中の僕は「戦争」という現実を素直に受け入れ始めていた。
要するに、人殺しに慣れてきたということだった。

この後帰艦した僕は、カガリがMIA、すなわち行方不明になったことを
告げられる。少なからず僕にとっても重要な意味を持つ運命の出会いが、
彼女とアスランを待ち受けていた。

812人為の人・PHASE−24:2004/09/03(金) 12:36
いつだったか、アスランとカガリの両方からお互いに初めて出会った時の
話を聞いたことがある。無人島に不時着した二人。相手がどんな人間か
分かるはずもなく、手持ちの武器で争い、そしてもう少しで悲劇を
生み出す所だったのだと。馬乗りになったアスランがもしカガリの悲鳴を
聞く前にナイフを振り下ろしていたとしたら、少なくとも僕の世界は
今よりもずっと暗いものになっていただろう。いや、ひょっとしたら
もうとっくに終わっていたかもしれない。運命は不思議で、切ない。

副長はカガリを見捨てて離脱するように進言したものの、結局艦長は
僕とフラガ少佐が捜索活動に出ることを認めてくれた。僕はそれが
全く軍人らしからぬ行為であることに薄々気づきながらも、カガリを
捜すことに全力を注げるよう手配してくれた艦長に心の中で感謝した。
マリュー・ラミアスさん。あの人は本当にいい人だ。年下の僕が言うのも
変かもしれないが、彼女は四方八方から吹き付ける風に翻弄されて、
最愛の人さえも目の前で彼女を守るために命を散らして、悲しんで、
それでも最後まで立ち続けることのできた可憐な花のようだった。
今、彼女はどこで何をしているのだろう。しばらく姿を見ていない。

偶然とも言える形で最悪の事態を免れたアスランとカガリが、その後
僕が迎えに来るまで何をしていたかについてはよく分からない。何しろ
当事者である本人たちが少し微笑みながら黙り込んだり、顔を赤くして
怒ったり、ほとんど内容を語ってくれなかったから。でもその方が
いいのだろう。きっとあの二人にとっては初めての出会い以上の意味が
あったのだ。決して殺し合おうとした事実や、今あるような相思相愛の
関係にまつわるものですらない、熱くぶつかりあった鮮烈な記憶。
彼らは無人島で、二人だけの「戦争」を繰り広げていたのかもしれない。

夜が明けて、ストライクのコクピットにカガリの声が飛び込んできた。
刹那に喜びで満たされる僕。ずっと探し回ってあの子には申し訳ないと
思ってはいたが、そんな心配も一気に吹っ飛んでしまった。水上から
その巨体を露わにするストライクに、満面の笑顔で手を振るカガリ。
僕は感動で胸が一杯だった。本当に良かったと心の底から思った。
その彼女のすぐ向こう側でイージスへと乗り込むアスランには気づかず、
僕はカガリを連れてこれ以上になく晴れやかな気持ちで帰艦した。
あの時、僕にとって特別な存在となり始めていた彼女を無事に助け出せた
ことは、間違いなく僕を明るくしてくれたように思う。現に僕は、
何か失ってはならないものを失ってしまいそうな気がしていて
ひどく焦っていたのだ。それはあの子への思いを既に越えていた。
しかし、運命はやはり分不相応な喜びを僕に長く与えてはくれない。
この後僕はアスランと、これ以上にないほど激しい憎しみを戦わせる
ことになるのだった。原因は、悲しい「死」という名の現実。

813人為の人・PHASE−25:2004/09/04(土) 11:55
襲い来る4機のガンダム。迎え撃つ僕、フラガ少佐、アークエンジェル。
かつて宇宙で繰り広げられた戦いは、ついに海上でも始まった。敵は
グゥルと呼ばれる飛行土台に乗り、空中を自在に飛び回りながら攻撃を
仕掛けてくる。逆にそのグゥルを壊してしまえば後は海中に沈むだけ
なので、僕はビームライフルで土台を徹底的に狙っていった。
3種類の装備を換装できるストライクは、エール形態で多少の飛行が
可能であるもののその機動力はどうしても敵に劣ってしまう。しかし
僕と幾多の戦場を駆け抜けてきたストライクは、これ以上にないほど
こちらの細かい操作に応えてくれる。右、上、前方左斜め45度後ろ。
自分でも信じられないほどの機動性が、4機のガンダムを翻弄した。
それでも、アークエンジェルの損傷は次第に大きくなっていった。

オーブの領海が近づいてくる。中立国のオーブには地球連合もザフトも
手を出すことはできない。オーブ側が離脱するよう警告を促す。
無理だ。この状況では先にアークエンジェルが沈んでしまう。もはや
取るべき手段は一つしかなかった。カガリが叫び、自らの身分を明かす。
エンジン部分に被害を受けたアークエンジェルは着水して、オーブの
艦艇群の中に入り込む。自衛と称した敵意のない砲撃が海に沈む。
ザフトは撤退し、僕達は「平和の国」オーブへと入港した。

カガリ・ユラ・アスハ。彼女はオーブの前首長、ウズミ・ナラ・アスハの
一人娘になっていた。かつて「オーブの獅子」と呼ばれ、中立国としての
尊厳を貫いたウズミさん。けれど連合のガンダム開発に協力した責任を
取って、首長の座を退いた人。カガリはそんな「父」の中立精神に疑問を
持ち、国を飛び出した。そして、偶然にも僕と巡り会ったのだった。
オーブは僕の育った国でもある。でもカガリが「オーブのお姫様」だった
なんて全然知らなかったし、まして後々明らかになる事実など、
どうして素直に受け止められただろうか。僕もカガリも、この頃はまだ
何も知らなかった。もちろん、この国がやがてたどる運命さえも。

美しく着飾ったカガリが、僕の前を通り過ぎていく。大半のクルーは
それを見て驚きにも似たため息をついている。僕は前に一度見たことが
あったけれど、僕の隣にいたあの子は嫉妬するような目で強く彼女を
にらんでいた。それを感じた僕は、あの子の僕に対する気持ちが
どうなっているのかますます分からなくなり混乱した。表面上は
困ったように微笑むだけの、複雑な心境が僕を支配していた。
あの子は僕を憎んでいる?それとも本当は―――
僕はその先を考えるのが怖かった。何か絶対に手を出してはいけない、
簡単に壊れてしまいそうなものがあるように思えたから。

オーブがアークエンジェルの入港を認めた理由には、僕たちを助けようと
いう意志も少しはあったのかもしれない。けれど結局、主な目的は
コーディネーターである僕のストライク搭乗経験から来る技術提供の
ようだった。中立を、平和を守るための力。僕は従った。

814人為の人・PHASE−26:2004/09/05(日) 12:43
ふと、ペンを持った手を止めてみる。たくさんの文字がびっしりと
書き込まれた紙。その上に乗っている僕の手は、小さく震えていた。
僕は少し感動した。ああ、僕も人間なんだ、と。神がかりのごとく
キーボードを叩いていた小さな指先が、コントロールスティックをほんの
数ミリ傾けて敵を撃墜していた自分の手が、今はこうして筆記に疲れて
カタカタと震えている。そんな当たり前のような光景が懐かしかった。
机の上にペンを置き、僕は目を閉じて大きく伸びをする。過去の記憶が
容赦なく僕の良心を襲う。それはもう慣れてしまった思い出。あの時
ああしていれば、こうしていれば、彼は傷つかなかった、彼女は
死ななかった。もう後悔で涙にむせぶこともない。慣れてしまったのだ。
そんな自分を悲しいと思いながらも、やはり涙は流れなかった。

世界は確実に平和の方向に向かっている。そう信じようとして、僕は
限りない安寧を享受できる孤島に住み着いた。毎日が穏やかに、優しく、
何事もなく過ぎていく生活。それでいて過去と常に向き合うような、
後ろ向きの暗い心。僕は何か途方もない矛盾を抱えて生きているかの
ようで、このままではいけない、そんな警告を受け取りながらもそれを
無視し続けている気がしてならなかった。なぜ?戦争はもう終わって、
平和が来て、ナチュラルとコーディネーターは仲良く暮らして―――
事実、争いは絶えない。戦争というのはただの入れ物であって、そこで
人々は殺し合いをして、滅ぼし尽くして、やがて離脱して、それでも
終わらない。また別の入れ物で争いあう。そして結局、また戦争になる。
ある時、僕は何のために戦ってきたのだろうと考えたことがある。
戦争を終わらせるため。そう即答した瞬間、僕は自らを軽蔑した。
―――確かに戦争は終わった。でも争いは終わらない。明日がある限り。
それ以来、僕は自分の戦った理由を考えないように努力してきた。

僕が「自伝」を書いている時、一つ一つの瞬間が僕を通り過ぎていく。
それは微笑む人であったり、蹂躙するMSであったり、破滅の光で
あったり、様々な姿を見せながらやがて遠ざかっていく。
時間はそんなごく小さな瞬間が何百、何千、数え切れないほど集まって
流れている。そこで何が起こり、誰がどうなるかは誰にも分からない。
分からないから「自伝」を書くのだろうか。僕は何とかそれを明らかに
しようとして、悪戦苦闘しているのだろうか。だとすれば、僕は今も
「戦争」を続けているのだ。これから始まろうとしている戦争では
ない、もう終わってしまった戦争を無意味な想像の中で繰り返して、
そうやって何かをしようとしているのだ。いや、実際は何もしていない
のかもしれない。「何か」が分からない以上、それは当然のことだと
割り切るしかないのかもしれない。でも、でも。
―――僕は書かないではいられない。

815人為の人・PHASE−27:2004/09/06(月) 12:00
オーブの技術主任であるエリカ・シモンズさんに連れられて、
僕はモルゲンレーテのMS格納庫にやってきた。
そこで見たのは、整然と一列に並ぶたくさんの「ガンダム」だった。
正確にはM1アストレイという名称で、ヘリオポリスで製造された
5機の量産型のようなものらしかった。確かによく見れば、
所々ストライクなんかより軽装という感じがする。
まあ、ストライクはもともと3種の換装が可能な機体なのだから
重装備になるのも無理はないのかもしれないけれど。そんなことを
考えながらMS群を見上げていると、横からカガリの声が聞こえた。
いつもよりやや苛立ったような声で話す彼女の、片方の頬が赤く
腫れ上がっていた。どうもウズミさんとの並々ならぬ意見の対立が
あって、最終的にぶたれたようだった。カガリは言う、こんなものを
作りながらよくオーブが中立だなどと言えたものだ、と。
守るための力とは言っても、それが軍隊であることには変わりがない。
彼女は彼女なりにオーブの外へ出て戦争の空気を肌で感じ取り、
そして確かな口調で強い意見を述べている。それを見て聞いた僕は、
いつまでも優柔不断なままに流されていくだけの自分を情けなく
思っていた。本当に、僕はこのままでいいのだろうか。
周囲の状況に慣らされていくだけの、毎日が殺し合いの日々。
その問いに対する答えの一つは次第に近づきつつあった。

マードック曹長が着ているような整備服に着替え、僕は黙々とOSの
作成に取り組む。自分にそんなことをする義務があるのかという
疑問からは目を背けていた。その答えは「軍務だから」の一言で
済むものであったし、考えたところで逃れることはできない。
せわしなくキーボードを動かしながら大量のデータを処理し、
有用なものだけをピックアップしていく。とんでもない単純作業の
積み重ねだが、集中力は一向に切れる気配がない。自分のことなのに、
自分の意志で行われてもいないような感覚だった。
僕はパソコンに向かうと自然と手が動くようになっている。さながら
ピアノを弾くように、しかし美しい旋律の代わりに無機質な打鍵音だけ
を残して、作業はどこまでもどこまでも続いていく。
不思議なことだが、そうしていると時々残像のようにあの子の姿が
目に浮かぶことがあった。僕はそのたびに頭を振って作業に徹した。
以前は限りなく癒されていたはずの笑顔に、邪魔されてしまうなんて。
そんな気持ちを引きずりながら、僕の目はモニターを追い続けた。
作業中にフラガ少佐がMSに興味を示していたり、時々見かけていた
カガリの友達的な立場にある3人の女の子がM1アストレイの
パイロットだったりしたことを、今となってぼんやりと思い出す。

やがて完成したOSは、地球軍の量産型MS「ダガー」に組み込まれる
ことになる。ザフト軍のMSに対抗しうる存在として後々大きな影響を
及ぼしていくこの機体は、結局のところ僕の手が加わったものだった。
最高のコーディネーター。その言葉は、今も僕を礼賛し罵倒する。


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