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フレイ様人生劇場SSスレpart5〜黎明〜

1迷子のフレイたま:2004/03/02(火) 22:57
愛しのフレイ・アルスター先生のSSが読めるのはこのスレだけ!
|**** センセイ、          ・創作、予想等多種多様なジャンルをカバー。
|台@) シメキリガ・・・       ・本スレでは長すぎるSSもここではOK。
| 編 )    ヘヘ         ・エロ、グロ、801等の「他人を不快にするSS」は発禁処分。
|_)__)   /〃⌒⌒ヽオリャー     ライトH位なら許してあげる。
|       .〈〈.ノノ^ リ))    ・フレイ先生に信(中国では手紙をこう書く)を書こう。
        |ヽ|| `∀´||.      ・ここで950を踏んだ人は次スレ立てお願いね。
     _φ___⊂)__
   /旦/三/ /|     前スレ:フレイ様人生劇場SSスレpart4〜雪花〜
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|. |    http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/anime/154/1070633117/
   |オーブみかん|/    
              既刊作品は書庫にあるわ。
             ○フレイスレSS保存庫 ttp://oita.cool.ne.jp/fllay/ss.html

              こっちも新しい書庫よ。
             ○フレイたんSS置き場 ttp://fllaystory.s41.xrea.com/top.html

662さよならトリィ 4/8:2004/06/06(日) 07:00
[フレイ、トリィを部屋に連れて行っておいてくれ]

オーブでキラと別れた。

修理のためオーブに寄港したアークエンジェル。そこでのヘリオポリスの学生の両親との面会。
だけど、私には誰も会いに来てくれる人はいない。ママは小さいころ死んだし、もう、パパも……
当日、両親面会に行かずに、私のいる部屋に来たキラ。それに、私は同情されたと思って
激情を爆発させた。

「辛いのはアンタの方でしょ! 可哀想なのはアンタの方でしょ!
 可哀想なキラ…… 独りぼっちのキラ……
 戦って辛くて…… 守れなくて辛くて…… すぐ泣いて……
 なのにっ!! なんで私がアンタに同情されなきゃならないのよ!」

感情のまま、言葉を投げかけて、そのままキラの胸で涙を流していた私の耳元で呟くキラの言葉。
二人の関係は……間違った……

…… そう、そうよ!…… 間違いよ!!
…… そんなの最初っから分かってるわよ!…… だけど …… だけどっ!!!

私はキラを突き放し部屋を飛び出そうとする。痛い、心が痛い。なんでよ、なんで、私まで
心が痛いの? キラ一人傷つけばいいんじゃない。キラ一人可哀想ぶってればいいんじゃない。
なのになぜ?

開けたドアの前で振り返った時、トリィは辛そうに俯くキラの肩で、キラに話しかけていた。
トリィはキラを選んだ。キラを慰めている。当たり前だ。私が辛い言葉でキラを傷つけたのだから。
可哀想なのはキラ。悪いのは私。キラを復讐に利用していた私。トリィが慰めるべきなのはキラ。
トリィはキラのものなんだから。

部屋を飛び出した私は、涙を流しながら、目的もなく、ただ通路を走っていく。
自分でも、どうして、こうなったのかさえ分からずに……

グルグルと通路を歩き回って、行くところが無くて。また、私はキラの部屋の前に立っていた。
躊躇いながら、パスコードを入力し、ドアを開ける。部屋は真っ暗だった。キラはいなかった。
トリィもいなかった。キラはトリィまで連れて行った。私は、もう顧みられることは無い。
終わりなんだ。もう何もかも。

* * *

アークエンジェルはオーブを出発した。
私は行くところが無い。今さら、ミリアリアと同室の部屋なんて顔を出せない。
ただ、夜中じゅう、通路を彷徨い続ける。空いている仮眠室で、つかの間の眠りに落ちる。

トリィもいない。私に話しかける人も、私の話を聞いてくれる人も誰もいない。ただ、一人
彷徨い続ける。食堂では、みんなが談笑している声が聞こえる。私は、その輪の中に入ることもできず、
一人寂しく立ち去るしかない。

私は何をしているの? なんで、こんな想いをしなくちゃいけないの? 誰が悪いの?
誰か答えてよ。

深夜、歩き回って行き当たった通路の先、モビルスーツデッキ。見下ろすと、そこに、
キラとトリィは居た。キラも、暗い表情をしている。何かに悩んでいる。私と同じように?
何かの答えを求めて? 何を求めて?

敵襲を告げるアラートの響く中、私はキラとトリィを追った。

「キラ、私……」
「ごめん、後で…… 帰ってから」

そう言ってキラは走り出した。トリィも付いて行く。二人とも行ってしまう。やはり、私には誰も……

「トリィ、お前は帰ってろ。フレイ、トリィを部屋に連れて行っておいてくれ」

それに、私は許されたような気がした。飛んできたトリィを手で受け止めると、軽くキラに頷いた。
それを見て、また、キラは駆け出した。

私は揺れ始めた艦の通路を、壁に寄りかかりながら歩いて、トリィと一緒にキラの部屋へ戻った。
パスコードも変わっていない。キラの部屋は何も変わっていない。

私はベッドに飛びこんで毛布をかぶった。トリィも毛布に潜り込んできた。
恐い戦闘。でも、これが過ぎれば、何かが変わると思っていた。

戦闘が終わった。キラが帰って来る。足音が部屋に近づく。私は弾かれたようにベッドから飛び起きた。
ドアの前で期待を胸に踊らせる。トリィも、私の肩に乗って、ドアを見つめる。

でも、足音は通り過ぎた。

私はドア脇の机に座り込み、頭を組んだ腕の間にうずめて、ドアの向こうの足音に聞き耳を立てながら、
目の前のトリィを見つめ続ける。

足音は通り過ぎ続ける。次の足音も、その次も、その次も……

「キラ、遅いわね。何してんるんだろう……」
<トリィ……>

私はトリィに呟きながら待ち続ける。
キラが帰ってくれば、何かが分かる。私の答えが見つかるはず。そう思って、ひたすら待ち続ける。

でも、その答えは得られなかった。キラは帰って来なかったから……

663私の想いが名無しを守るわ:2004/06/06(日) 10:45
さよならトリィも再開ですね。
人の痛みを知るフレイたま。
本編の補完SSとして萌えさせていただいております。
こういう形でキャラの気持ちを最初からなぞり直してもらえると
ファンとしては嬉しい限りです。
半分まで読ませていただきましたが最後まで頑張ってくださいね。
(あ、もう書き終えられているんでしたっけ)

664夢と希望・5:2004/06/06(日) 21:42
ストライクのコクピットで、敵機接近の警告音が鳴り響いた。ビ−ムライフルを構える。
真紅の機体が接近してきた、イ−ジス(アスラン)だ。

「アスラン!?」
<キラ!キラだな・・・>

あの声が頭の中に響いた。
<やめろ!やめるんだキラ!俺達は敵じゃない、味方だ、仲間なんだ、そうだろ!?>
スピ−カ−からの声にキラははっとする、そうだ・・・なぜ?なぜ僕達は友達なのに戦ってるんだろうか。
<同じコ−ディネイタ−のお前がなぜ地球軍にいる!?なぜナチュラルの味方をするんだ!?>
<僕は地球軍じゃない!でも・・・あの艦には友達が・・・大切な人達が乗ってるんだ!>
そんななか別の二機がア−クエンジェルに攻撃していることにキラは気づき掩護に向かおうとした。
しかしイ−ジスが割り込んでくる。

<やめろ!お前は俺達の味方だ!>
<アスラン・・・!君こそなんでザフトになんか!戦争なんか嫌だって、君だって言ってたじゃないか!>
<状況も分からぬナチュラルどもがこんな物を作るから・・・>

そんなとき、一機の機体が割り込んできた。
二人は我に返りかわす。

<なにをモタモタやっている!?アスラン!>
聞き覚えのない声が割り込んできた。
「これは・・・デュエル!?じゃこれも!」

バスタ−とブリッツに取り付かれたア−クエンジェルは、回避行動を取りながら必死の防戦につとめていた。
爆雷が撃ち出され、それがさらに炸裂して細かな粒子をまき散らす。
新型艦ア−クエンジェル、大天使の火力にバスタ−、ブリッツも攻めあぐねている様子だ。

その頃、ストライクのコクピットでは、息を切らし、必死で機体をコントロ−ルしているキラがいた。
しかし・・・。
「しまった!エネルギ−切れ!?」
フェイズシフトが落ちた・・・。
その隙を見てデュエルが突っ込んでくる。
やられた!しかし次の瞬間キラのストライクはイ−ジスに捕らえられていた。

665夢と希望・6:2004/06/06(日) 22:33
<なにをするんだ!?アスラン!>
<ストライク、捕獲する!>
<なにを馬鹿なことを言っている!?命令は撃破だぞ!>
<捕獲できるなら捕獲したほうがいい!撤退する!>
イ−ジスはストライクを捕獲したまま離脱している。

<アスラン!どういうつもりだ!?>
キラが叫んだ。
<このまま連行する、お前も一緒に来るんだ>
<ふざけるな!僕はザフトになんか行かない!>
<いいかげんにしろ!>

アスランの一声にキラは黙った。
<このまま帰るんだ!でないと・・・僕はお前を撃たなきゃならなくなるんだぞ!そんなことはしたくな!俺はもう大切な人には誰にも死んでほしくないんだ!>
<アスラン・・・なら、君が来るんだ・・・>
<な・・・?なんだと!?>
<君が地球軍に来るんだ・・・アスラン、君もおいでよ>
<な!?馬鹿なことを言うな!>

その頃。
「あのキラって子・・・大丈夫なのかしら・・・?」
居住区に一人取り残されていたフレイはベッドの中で心配そうに呟いていた。

ムウのネビウス・ゼロが二機に近づいてくる。
<離脱しろ!ア−クエンジェルがランチャ−ストライカ−を射出する!>
<キラ・・・く!>
ストライクはイ−ジスを一目見るとそのまま宙域を離脱した。
そんな中メビウス・ゼロを迎撃していたイ−ジスのアスランは先程のキラの言葉が頭をよぎっていた。

無事帰還したキラ、その後のア−クエンジェルはアルテミスへ入港した。
しかし・・・ユ−ラシアの軍には面白く思われていなかったのか、いろんないざこざがあった。
そんなときに限っていいことは起こらないもので、ザフトが攻めてきたのだ。
そして結局アルテミスは壊滅したがア−クエンジェルは無事で済んだのである。
戦闘ばかりで心が疲れていたキラ、この後の謎の少女の出現によりまた・・・。

666私の想いが名無しを守るわ:2004/06/06(日) 23:04
>>さよならトリィ

フレイ様せつな杉…
折角スレ違っていた二人が少し近づいたと思ったら…
凄くいい作品ですね。
うわ〜〜〜ん

667さよならトリィ 5/8:2004/06/07(月) 06:42
[一緒に来るんだフレイ。約束の地へ]

「キラはMIAさ。多分、死んだんだよ」
カズイの言葉が、いつまでも耳に残っている。

頭の中はキラのことばかり考えていた。何で、そうなの?
キラは、私の思惑通り、戦って死んだんじゃない。何でそうなるの。何で、こんなに心が苦しいの。

<トリィ……>

トリィが慰めるような声を出す。
そうよ、私は復讐を終えたのよ。これで終わったの。戻らなきゃ。元のところに。

私はキラの部屋を出た。肩にトリィがとまった。それを私は追い払おうともしなかった。
ごく自然に。既に、私の一部であるかのように。

通路を歩き回って捜した。医務室の前で、やっと見つけた。サイを……
この前の戦闘で、同じようにトールを亡くして、悲しみに震えるミリアリア。
サイは彼女を癒すように付き添っていた。

「サイ…… あの……」サイに声をかけた。

サイが振り向く。その時、トリィが急に私の肩を飛び立ってサイの肩にとまった。身じろぎするサイ。

いや、違う! 私にはキラが見えていた。幻想のキラが……
私に明るい微笑みを返すキラ。現実に無かった光景。そのキラに私は吸いこまれそうになる。

── おいで、フレイ

キラが、そう囁いたような気がした。トリィが私のところへ飛んできた。

── 一緒に来るんだフレイ。約束の地へ。

「イヤッ! イヤ!!」
手を振り回してトリィを叩き落としそうになった。トリィは、私の手をかいくぐって、
通路を飛び去って行った。私は激しく動揺して、息を乱していた。

「やめなよ」サイは憮然とした表情で私に声をかけ、「後で」と言い残してミリアリアを
連れて医務室に入った。

私は、まだ呆然として立っていた。キラの亡霊? キラは私を呼んでいるの? 私を恨んで?
トリィが、また戻ってきて天井近くを滑るように飛び回っている。トリィ、あなたは一体何を言いたいの?

ほどなく、サイは医務室から出てきた。

「俺に、何?」
「何って……」私は言葉に詰まる。

サイは、私によそよそしい。私を慰められないと言う。他の人と話せって? サイ以外に
話せる人がいる訳ないじゃない。どうして? 私は帰ってきたのに、なんでサイはこんなことを言うの?

「サイ! けど、私、ほんとは…… あなたも分かってたじゃない。私ほんとはキラのことなんか」

「いいかげんにしろよ! 君はキラのことが好きだったろ」サイは、はっきり言った。

「違うわ」
「違わないさ!!!」
思ってもみなかったサイの怒鳴るような声。厳しい表情。それに、私は気圧された。

「ちがうぅぅ! 違う、違う」
私は叫んだ。首を振りながら自分に言い聞かせるように叫んだ。そんなはずが無い。そんなはずが……
私がキラのことを、そんな風に思っているなんて、そんなはずが無い!

私はキラが憎いのよ。キラに復讐したのよ。復讐を果たしたのよ。だから……
違うのよ、違うって言ってよ。そうじゃないと私、私……

トリィが、またサイの肩に舞い降りた。そして、私に視線を向ける。真実を見通すような
まっすぐな目で。トリィ、あなたは……

その時、医務室で大きな音がした。悲痛な叫び声。トリィは、また飛び立ち、サイは、急いで
医務室に戻った。後を追った私が見たものは、手にナイフを持ってサイに取り押さえられている
ミリアリア。医務室の奥には、頭から血を流している捕虜のコーディネーター。
ミリアリアは、私が見たことも無いような形相で叫んでいる。トールを失った悲しみ、憎しみ。
それが、私の心を痛ませる。それは、私にも、やがて……

ふと、机の半開きの引き出しに、銃が入っているのが見えた。私は、感情に突き動かされるまま、
それを手に取った。

「コーディネーターなんて、みんな死んじゃえばいいのよ!」

私は銃を、その捕虜に向けて叫んだ。復讐のために。

…… キラを失った復讐のために ……

さっきのキラの亡霊。あれは、キラが恨んでいるのでは無い。私が呼んだのだ。
キラを呼んだのは私なのだ。私がキラを求めているのだ。

トリィは、そんな私を通路でジッと見ていた。トリィの言いたかったことって、そういうことだったの?

668夢と希望・7:2004/06/07(月) 22:29
「あそこの水を・・・!?本気なんですか?」
ア−クエンジェルのブリッジに戻ったキラは、驚愕の声に上げた。
「あそこには一億トン近い水が凍りついているんだ」
なんの理由も説明しない事実を、ナタルが口にする、彼らはユ二ウス・セブンの残骸から水を運ぶことを決定したのだ。
「でも・・・あのプラントは何十万人もの人が亡くなった場所で・・・!」
キラは懸命に抗議した、あの場所は彼にとっても特別な意味を持っているのだ。
マリュ−は言った。
「気持ちは分かるけど・・・水はあれしか見つかってないの・・・」
キラは仕方なく黙る。
「俺達だってできればあそこには踏み込みたくないさ」
勢いづくようにムウは言った。
「けど、しょうがねえだろ!俺達は生きてるんだ!ってことは生きなきゃなんねえってことなんだよ!分かるか!?」

地球軍に壊された大地、虐殺されたコ−ディネイタ−の記念碑に、キラは祈りを捧げた。
だが、僕に祈る資格なんてあるのか?事情があるとはいえ虐殺を行った地球軍と共に戦っている僕に・・・。
殺したくなんかない、ただ守りたいだけなのに、頭の中に赤い髪の少女が浮かぶ。
その時・・・電子音が鳴り始めた、敵か!?
だがモニタ−に写っていたのは敵の機影ではなかった。

ア−クエンジェルの格納庫には、キラが見つけた救命ポットが横たわっていた。
ハッチはかすかな音を立てて開いた。
兵士達が一斉に銃を構える。
<ハロ・ハロ・・・!>
間抜けな声を発しながら出てきたのはピンク色の丸い物体だった。
ぱたぱたと耳が羽ばたくように動き、球の真ん中には目が二つ光っていた。

「ありがとう・・・ご苦労様です・・・」

柔らかなピンクの髪と、長いスカ−トの裾をなびかせて、ハッチから出てきたのは、天使のような可愛い少女だった。ほんわりと白い肌、ほっそりした腕、優しく愛らしい顔は見るものを幸せにしそうだ。
「あら・・・あらあら?」
彼女をキラは抱きとめた。
「ありがとう」
間近で彼女がにっこりする。キラはつい顔が赤くなった。
「あら?」
彼女はあたりを見回した。
「まあ・・・これはザフトの艦ではありませんのね?」
全員が大きなため息をついた。

669夢と希望・8:2004/06/07(月) 23:04
士官室の中にいたピンクの髪の少女はキラの姿を見つけると手を振った。
顔を赤くしたキラは手を少し振るとそのまま去って行った。

「私はラクス・クラインですわ、これは友達のハロです」
少女はマリュ−達の前にピンク色のロボット、ハロを差し出して紹介する。
ムウがため息をつく、どうもこの少女の前では調子がでない・・・。
「クラインねえ・・・そういやプラント最高評議会議長もシ−ゲル・クラインといっていたような」
ムウが思い出したように呟いた。
それを聞いたラクスは嬉しそうに。
「あら、シ−ゲル・クラインは私の父ですわ」
無邪気というか、天然というか・・・自分の置かれた状況を分かっているのないないのか・・・こんなに認めるとは・・・三人はまたため息をついた。
「・・・そんな方が、どうしてこんなところに?」
「ええ、私、ユニウス・セブンの追悼慰霊のために事前調査に来ておりましたの」
黙って聞く、やっと本題に入ったようだ。
「そうしましたら、地球軍の艦と出会ってしまいました、臨検するとおっしゃいましたので、お受けしましたのですが、地球の方々には、私どもの目的がお気に障ったようで・・・ささいないさかいから、船内はひどいもめごとになってしまいましたの・・・」
少女の表情が悲しく曇った。
「私はポットで脱出させられたのですが・・・あのあと、どうなったのでしょう、地球軍の方々が、お気をしずめめてくださってい下さっていればよろしいのですが・・・心配ですわ」
この宙域に、ごく最近破壊されたような民間船があったなどと、言う必要はない、その船に砲撃の痕があったなどと・・・言う必要はない・・・。

仕官達が立ち去るとラクスは壁のモニタ−に近づいた。船内の様子が写し出されている。砕かれ・・・荒れ果てた大地が真空の闇にさらされているのが見える。
ラクスはハロを膝の上に抱き上げると、手を合わせ目を閉じるとささやきかけた。
「祈りましょうね、ハロ・・・どの人の魂も安らぐようにと・・・」

その一時間後である。
部屋に連れられたラクスは・・・。
「お腹がすきましたわ・・・食事はくるんでしょうか・・・?」
プシュ−とドアが開いた。
「あらあら?貴女が?食事をお持ちしてくださいましたのね、ありがとうございます、はしたないことを言うようですけど、私ずいぶんお腹がすいてましたの、よかったですわ」
「どうぞ・・・」
入ってきたのは赤い髪の少女だった。
「私はラクス・クラインですわ、貴女は?」
「フレイ・・・フレイ・アルスタ−よ・・・よろしくねラクスさん」
フレイは優しくラクスに微笑んだ。

670さよならトリィ 6/8:2004/06/08(火) 08:19
[トリィ、ずっと一緒に居て。約束して、絶対離れないって]

私は復讐の心に突き動かされるまま、コーディネーターに向けて銃を撃った。

だけど、ミリアリアに突き飛ばされて、弾は外れて、天井の照明を壊しただけだった。
蛍光灯の破片が散乱する中、私に覆いかぶさるように涙を流しているミリアリア。
どういうことなの? ミリアリアの考えが分からない。

私はミリアリアに問いかける。
「なんで邪魔するのよ…… アンタだって私と同じじゃない」

「違う、私…… 違う……」
ミリアリアは涙を流しながら、ただ、それを呟くだけだった。

いつの間にか、自分も涙を流しているのに気がついた。復讐の高揚感も消えていた。
手に残る銃の衝撃が、急に恐ろしく感じられた。

騒ぎを聞いて医務室にクルーが集まる中、バジルール中尉が仕切って、私とミリアリアは
守られるように、それぞれの部屋へ戻された。私はキラの部屋へ…… トリィも一緒だった。

キラの部屋で、電気も付けず暗いまま、私は、まだ銃の衝撃が残り震える手を、トリィに、
啄ばませながら、さっきのことを思っていた。

…… 私がキラを呼んでいる。私がキラを求めている ……
それは、もう隠すことはできない。何で、今になって……

グルグルと思考だけが空回りする。うわ言のようにトリィに話しかける。

「ねえ、トリィ、何で今ごろ気がつかなきゃいけないの? なぜ、気づかせたの?」
<トリィ!>

「もう居ないのに。キラは居ないのに。何で今ごろなの」
<トリィ!>

「キラ、なぜ居なくなってしまったの。あんなに強いのに。あんなに一緒だったのに」
<トリィ?>

「キラの馬鹿…… 馬鹿、馬鹿!! もうちょっと居てくれたら。私……」
<トリィ! トリィ!>

私は記憶の中のキラの姿を追っていた。

ヘリオポリスにいる頃のキラは、友達と優しい目で笑い、時々、私に向かって遠巻きに熱い目を向ける。
だけど、私は、その頃のキラのことを、ほとんど知らない。

アークエンジェルに乗ってからのキラは、私の手の中にあった。いつの間にか、キラの仕草の癖や、
食べ物の好みも、みんな分かっていた。キラが心のうちに持つ痛みさえも……
…… ただひとつ知らなかった。本当に明るく笑っているキラ……

「トリィ、キラに会いたい。キラのこと、もっと知りたい。みんな知りたい」
<トリィ>

「教えて、教えてよ、トリィ! あなたが、気づかせたんだから。教えてよ!」
<トリィ! トリィ!>

トリィに答えられる訳が無い。それが分かっていて、私は問いかけずにいられない。

さっきのミリアリアの行動。自分もコーディネーターに復讐しようとしながら、なぜ、私の復讐を
止めたのかは、今でも分からない。でも、ミリアリアに止められてから、私には、もう復讐の心は無かった。
パパの復讐にキラを利用しようとして、キラが死んで、また、その復讐を……
そんなことが、すべて虚しく感じられた。心に、ぽっかり空いた空洞。それを埋めるかのように、
私はトリィに話しかけ続ける。

「私、キラのこと…… キラのことが…… もう、ずっと前から……」
<トリィ!>

「ここにキラと居たことが…… キラと…… トリィ、あなたと一緒に居たことが、私……」
<トリィ……!>

「大切だった。それが…… とても、大切だった……」
<トリィ!!>

私はトリィを手の平に乗せ、そっと頬に当てた。

今の私にはトリィが必要だった。砕けてしまいそうな心を繋ぎ止めるにはトリィが必要だった。
あの時、折り紙の花を手にキラが泣きじゃくった時、私を必要としてくれたように。

「トリィ、ずっと一緒に居て。約束して、絶対離れないって」
<トリィ!! トリィ!!>

トリィの強い声に、私は一時の安らぎを覚えた。

* * *

だけど、私には、その約束さえ守られなかった。転属で、私はアークエンジェルを降りることになった。

「イヤよ! イヤです私! はなしてっ!」

バジルール中尉に手を引かれて、私はサイやミリアリア、マリューさんの見守る中、アークエンジェルを
降ろされた。

トリィは、私に付いて来なかった。サイのところへ行ったまま、私の手には戻って来なかった。
なぜ? どうして? 約束したじゃない。嘘つき! なんで、私と来ないのよトリィ。

嘘つき! 絶対離れないって言ったのに。嘘つき! トリィの嘘つき!!

トリィは私に付いて来なかった……
…… でも、その方が良かったのかもしれない。

なぜなら……
アークエンジェルを降りた私は、ラウ・ル・クルーゼに捕らえられて、ザフトへさらわれたのだから。

671私の想いが名無しを守るわ:2004/06/08(火) 09:32
>>トリィ
フレイ様視線でありながら、フレイ様に都合の良い解釈だけでない
冷静な文体に本当に(フレイ様)がお好きなんだと感じさせられます。
独白も真に迫り、心打たれるものがあります。
書き終えられている作品の分割投下という事で、
とても読みやすく、エンディングが楽しみです。
文章力のある方のSSは読んでいてとても安心いたします。

672夢と希望・9:2004/06/08(火) 21:29
「私ね・・・ほんとはコ−ディネイタ−って本当は好きじゃないのよ」
そう呟いたフレイの表情をラクスは伺った。
「でもね・・・貴女は安心出来るの」

<ハロ!ハロ!>
「ふふ・・・可愛いわね、どうしたのそれは?」
ハロを見ながらフレイは言った。
「ハロですか?これは大切な人に貰ったものですわ」
「大切な人?」
「はい・・・とっても大切な人です・・・愛してるんですの」

「しかしまあ・・・補給の問題が解決したかと思ったら、今度はピンクのお嬢様か・・・」
ムウがマリュ−を見やり、からかうように敬礼する。
「悩みの種がつきませんな、艦長さん」
よくもまあ他人事のように言ってるれるものだ、と思うマリュ−だが、ただ、この頃は彼女もムウのスタイルになれてきた、普段はいいかげんに見えても、いざというとき非常に頼りになる男だ、補給のことだけでなく、これまでだって、もの飄々とした態度も・・・いややめとこう。
「あの子もこのまま、連れて行くしかないでしょうね」
マリュ−はため息をつきながら呟いた。

「じゃあまたねラクスさん!話せてよかったわ!」
「ええ、こちらこそ楽しかったですわ」
部屋から出て行くフレイをキラは目撃した。

673夢と希望・10:2004/06/08(火) 22:05
「あ、駄目ですよ部屋から出たら!」
部屋から出ようとしたラクスをキラは士官室に入れる。
「またここに居なくてはいけませんの?」
フレイを追おうとしていたラクスは寂しそうに呟く。
「ええ・・・そうですよ」
キラは沈んだ気持ちを押し隠し、無理に笑いかけた。
「私もあちらで皆さんとお話ししたいですわ」
そんな顔もまたなんとも愛らしい、キラはまぶしいものを見たように目をそらした。
「これは地球軍の艦ですから、コ−ディネイタ−のこと・・・その・・・あまり好きじゃないって人もいるし・・・」
(たぶん、僕のことも・・・)
口にした瞬間走った胸の痛みをまぎらすように、彼は言葉をついだ。
「ってか、今は敵同士だし・・・だから仕方ないと思います・・・」
なぜ僕は・・・僕はこうやって、ナチュラルの肩を持つようなことを言ってるのだろう、それで彼等に溶け込めるわけでもないのに。
そう思うとますます悲しくなってキラは目を落とした。
「残念ですわね・・・」
ラクスはそんな彼の顔を見上げ、切なげな表情になる、だがそれはたちまち消え去り、すぐに包み込むような笑顔になった.
「でもフレイさんという方は私に優しくしてくれましたわ、励ましてくださいました、食事も持ってきていただいて・・・」
ラクスは嬉しそうに微笑んだ。
「フレイが?そうですか・・・そうなんですか!フレイが・・・」
キラはつい嬉しくなった、フレイが彼女に優しくしてくれたのはなんだか嬉しかった・・・なんで・・・おかしい、そんなこと考えても仕方ないか。
「貴方もとても優しくしてくださいますのね、ありがとう」
「僕は・・・」
キラははっとした、なぜか後ろめたい気分になり、彼は思い切って言った。
「僕も、コ−ディネイタ−ですから」
ラクスは目を丸くし、きょとんと首をかしげた、驚いているのだろう、とキラは思った、そして次にはきっと、「コ−ディネイタ−がなぜ地球軍にいるのか」尋ねるだろう。
だが、キラの予想は裏切られた、ラクスは、不思議そうに訊いた。

「・・・貴方が優しいのは・・・貴方だからでしょう?」
どきん、と、キラの心臓が大きく打った。
・・・この子は、誰なんだろう・・・?
「お名前を、教えていただけます?」
ラクスはほわりと笑う、その笑顔に見入っていたキラは、一泊おいてあわてて答えた。
「あ・・・キラです・・・キラ・ヤマト・・・」
「そう・・・ありがとう、キラ様」
そう呼ばれたとたん、キラは自分が大昔の騎士または伝説の勇者、もとい錬金術師になったような気がした。

674さよならトリィ 7/8:2004/06/09(水) 07:58
[トリィは、こうなることまで知っていたの?]

私はラウ・ル・クルーゼによってザフトにさらわれた。

ラウ・ル・クルーゼ。仮面を付けたコーディネーターの軍人。そして、パパの声のする人。
その人物に、私は、まるで籠に囚われた鳥のように飼われた。私を脅し、部屋に閉じ込め、
自由を奪い、それでいて、自分を頼れば安全だと、私にパパの声で話す。
クルーゼ…… あの人は、一体、何を考えていたの?

周りはザフトの軍人ばかり、少しでも逆らえば、私の命は無い。ただ、クルーゼの言葉を信じて
従い続けるしかない。その状況の中で、私は心を押し殺し、脅えながら生きてきた。

「早く終わらせたいものだな。こんな戦争は…… 君も、そう思うだろ。
 そのための最後の鍵は手にしているが、ここにあったのでは、まだ扉は開かぬ。
 早く開けてやりたいものだがな」

だから、戦争終結を語るクルーゼの想いも、私は信じた。偵察に行くクルーゼから手渡された
鍵と呼ばれるディスク。私は、それを手に平和な頃に想いを馳せた。

そして、作戦室で聞いていた。同じ空域にアークエンジェルが居ることも……
トリィのこと、キラの思い出は忘れなかった。アークエンジェルに帰りたかった。

偵察から帰ってきた時のクルーゼ。仮面が外れている?
激しく苦しみながら、引き出しから、いつも私の前で飲んでいた薬を捜し出して噛み砕くように
飲み込み、獣のような、うめき声を上げる。長髪に隠れた素顔は、私のところからは覗くことは
できない。やがて、クルーゼは慌てて新しい仮面を付け直した。

偵察で何があったのかは分からない。だけど、私は、恐ろしくて逆らえなかった。
次のクルーゼの命令に……

「さて、君も手伝ってもらおうか。最後の賭けだ。扉が開くかどうかのね」

私は、救命ポッドでドミニオンへ…… 戦闘の光の、ただ中へ……
成す術も無い私は通信で、ただ叫ぶ。

「アークエンジェル! 私、私ここ! フレイです。フレイ・アルスター!
 鍵、鍵を持ってるわ私。戦争を終わらせるための鍵…… だからお願い……」

その時……

「フレイ…… フレイっ……」
嘘…… キラの声がする。嘘…… 嘘……

「フレイ!!」
間違い無いキラの声。生きてた?…… キラ、生きてた…… 生きてた!!

「キラ……、嘘……」
私は涙を流して呟く。私の心は、それだけで解放される。それまでの辛い想いも、悲しみも、
すべて打ち消すように。

「フレイィーーー!!」
「キラーーーーー!!」

キラと私の叫びは、暗闇の宇宙を越えて、互いの想いを伝えた。

トリィは、キラが死んだと思って自分を誤魔化そうとする私に、キラへの想いを気づかせた。
それから私は自分自身も死んだも同然の辛さを味わった。

だけど、悲しくても、辛くても、それを乗り越えれば、より強い繋がりが生まれる。
今、キラの声を耳にした私は、それが実感できる。
ひょっとして、トリィは、こうなることまで知っていたの?

「キラ、キラーーーー!」 私は、想いをこめて、いつまでも叫びつづけた。

生きていたキラの声を聞けた…… だけど、ドミニオンに回収された私は、キラの顔さえ
見ることができなかった……

* * *

私がクルーゼからドミニオンへ運んだ鍵のディスク。戦争を終わらせる鍵。そう思っていた。
だけど、それは、核を解放するディスク。さらに悲惨な戦争。あのクルーゼが望んでいたものは……
許されない罪の意識。それを感じながらも、私には、すでに強い意思が生まれていた。

── 会いたい。キラに会いたい!

私はドミニオンへの乗艦を志願した。アークエンジェルを追いかけるために。
昇進し、ドミニオンの艦長になっていたバジルール少佐は、私のことを理解して、
通信士としてブリッジに置いてくれた。

私は、激しい戦争を目の当たりにしながらも、歯を食い縛って、ブリッジからアークエンジェルの
行方を追い続けた。

…… キラに会いたくて。謝りたくて。
私と一緒に居た、みんなに謝りたくて。何も知らなかった私を……

そして、キラに、せめて一言でも、私の想いを伝えたくて。
もしも…… もしも、許してくれるのなら、キラのいる、トリィのいる、あの部屋へ戻りたくて。

そして……
戦争は、そんな私の想いさえ飲み込んだ……

届かなかった。後、一歩のところで…… キラにも…… トリィにも……

675私の想いが名無しを守るわ:2004/06/09(水) 10:27
さよならトリィ作者さま
フレイ様が…!!!
ラスト一回、腹をくくって読ませていただきます
でも涙で前が見えないかも知れない…

676私の想いが名無しを守るわ:2004/06/09(水) 13:42
本編のフレイ様が本当に考えていた事のようなお話ですね>さよならトリィ
短期間でこんなお話が作れる職人さんすごい!
毎日更新を心待ちにしています

677さよならトリィ 8/8:2004/06/10(木) 06:18
[さよならトリィ]

トリィが飛んで来る。私に向かって飛んで来る。

── トリィ……
<トリィ! トリィ!>

── トリィ、やっと会えた
<トリィ!!>

トリィは再会を喜ぶように、私の目の前で翼を盛んに羽ばたいている。トリィの瞳が、私を
ジッと覗きこむ。そんな、トリィに、私は今までに無い笑顔を向ける。解放された私の心は、
とても素直に私を振る舞わせる。

やがて、トリィは私の胸に飛び込んできた。それを私の手は受け止めようとする。
だけど、トリィは私の手をすり抜け、私の胸の中を突き抜けて通り過ぎる。

<トリィ……?>

トリィは不思議そうな顔をする。悲しそうな顔をする。私もトリィの、そんな顔を見て、
少し表情を曇らせる。

── トリィごめんね、私、届かなくて…… あなたにも…… キラにも……
<ト……リ……ィ……>

── ごめんね。トリィごめんね……
<トリィ…… トリィ……>

宇宙。周りは一面の星。既に、そこで繰り広げられていた暴力的な強い光の興亡は影を潜め、
見回す限り、まるで夢のように幻想的な淡い光で彩られている。その中、トリィは、私の周りを
舞うように飛び続ける。

── トリィ、ありがとう。元気づけてくれてありがとう。トリィ、私、あなたに会えて良かった。
<トリィ! トリィ! トリィ! トリィ! トリィ! ……>

トリィは精一杯叫びながら、私の周りを回り続ける。私を逃さないかのように。

だけど、私は別れの時が近づいていることを知っている。
私はトリィに指差した。

── トリィ、キラがいる。私はいいから、あそこまで飛びなさい
<トリィ?>

── カガリとキラの友達が、あっちにいる。その二人をキラのところまで連れて行きなさい
<トリ? トリィ……>

── ここで、お別れよトリィ
<トリィ……>

── 今まで、ありがとうトリィ。私を助けてくれて。私に本当のことを気づかせてくれて。勇気づけてくれて。
<トリ……ィ……>

── トリィごめんね、そんなに、私を助けてくれたのに。私、お返しできなくて……
<ト……リ……>

── 悲しまないでトリィ。私はキラと一緒にいるから。
<トリ……?>

── キラには、さっき伝えたから。私の本当の想いは、ずっとキラの中にあるから。
<トリィ…………>

── さよなら。キラを、お願いトリィ。
<トリィ!>

トリィは、キラの方向に体を向けた。そして、私を、もう一度振り向いた。私はトリィに無言で頷いた。
トリィは飛び去って行った。

── さよならトリィ

それが最後の言葉だった。トリィ、キラ、本当に今までありがとう。
さよならトリィ。

さよならキラ……

678さよならトリィ 作者:2004/06/10(木) 06:32
「さよならトリィ」これで終わります。

最初に、すべて書き上げてから投下を始めたんですが、途中、議論の行方を見守ったり、
それを元に、再度、見直したりして投下が遅くなってしまいました。むしろ、加筆しているうちに、
描写がエスカレートしていった感もあります

テンプレはあるとしても、まだ、仕切り直したスレの雰囲気が定まっていないため、
フレイの心情描写以外の実際に起こった出来事は、本編に忠実であることを心がけました。
そのため、フレイの最後は変えられませんでした。ただ、今までの私の作品では、それから
逃げていただけに、今回、自分なりに、きちんと描けて良かったと思っています。

SEEDのSSを書き始めてから読んだ某小説の書き方の本で、「猫を猫として書く」
という主張がありました。動物を作中の人物の比喩として使うものでは無いと言うことなのですが、
それでも、私の中では、やはり、トリィは、ロボットでも鳥でも無く、『トリィ』という、
ひとつのキャラクターとなっています。そのつもりでトリィの意思が見えるように描いてきました。

これは、前作の長編で、量産のオモチャの改造品という設定改変を加えたトリィでも同じでした。
設定改変は、ミリアリアとも絡めやすくなるという意味合いもありました。

まとめてのコメントになりますが、感想つけてくれた方々、ありがとうございました。
投下の励みになりました。

SSスレも少し落ち着いてきたようですし、また、いろいろな方の作品が集まることを祈っています。
私も、また、なにか思い付きましたら、投下します。

679夢と希望・11:2004/06/10(木) 23:16
「パパが?」
フレイが可愛い笑顔になった。
「ええ、先遣隊と一緒に来てるらしいわよ、フレイのことは知らないでしょうけど、こっちの乗員名簿を送ったわ」
ミリアリアはそう言うとフレイの楽しそうな笑顔に自然と自分も微笑んだ。
ミリアリアとフレイは同室になっている、寝ているフレイをミリアリアが起こしたのだ。

<大西洋連邦事務次官、ジョ−ジ・アルスタ−だ、まずは民間人の救助に尽力してくれたことに礼を言いたい>
マリュ−は思いあたる、フレイの父のことは、ミリアリアから聞いていた、こうして、あとから考えてみると、政府の重要人物の令嬢を保護できたことは、今後の評価に役にたつだろう、キラのおかげだ。
<あ・・・その・・・乗員名簿の中に、私の娘、フレイ・アルスタ−の名があったのだが・・・できれば顔を見せてくれるとありがたい・・・>
ア−クエンジェルクル−達はきょとんとした顔だ、ここは軍艦ということが分かっているのだろうか・・・気持ちは分かるが・・・。
「こういう人なのよね・・・フレイのお父さんって、ね、サイ?」
戻ったミリアリアが告げるとサイは困ったように・・・。
「俺はよく知らないよ・・・」
と告げた。

「これは・・・」
「どうしたの?」
「ジャマ−です!エリア一帯、干渉を受けています!」
それが何を意味するか、誰もがはっきりと分かっていた。
先遣隊は、敵に見つかったのだ。

ア−クエンジェル艦内に、警報が鳴り響いた、自室を飛び出したキラはパイロットロッカ−へと向かう、ちょうどラクスの部屋の前を通り過ぎようとしていたとき、ドアが開いた。
「また!」
どうなってるんだここの鍵は?ここは軍艦だぞ?
ラクスは部屋から完全に出てくると大きな目できょとんとキラを見つめた。
「なんですの?急ににぎやかに・・・」
「戦闘配備なんです、さ、中に入ってください」
「まあ・・・戦いになるんですの?」
「そうです、てか・・・もうなってます」
「キラ様もフレイさんも戦われるのですか?」
どうしてフレイも・・・と思ったが・・・曇りのない淡い瞳で見つめられ、一瞬キラは言葉につまった。
「とにかく、部屋から出ないでください、今度こそ、いいですね?」
せめて優しい口調で言い、ラクスを部屋に押し込み、また鍵をかけ直した。

680私の想いが名無しを守るわ:2004/06/11(金) 11:33
>>さよならトリィ
お疲れ様でした!
フレイ様が死んじゃうという現実は、
彼女のファンの全員が向き合わねばならないつらい現実なんですが…
こういう形のSSにしてくださった事で
彼女も浮かばれるんじゃないのかな、と思いました。
放映最後でトリイがキラの元へアスランとカガリを案内したシーンと
今回のSSが合わさって、何ともいえない気分になりました。
投下終了時のみのコメントでも、凄く真剣に作品に取り組んでいらっしゃるんだなあ、
と感動いたしました。
自分もSSを書くのですが、一作一作にチャレンジ精神を持ち込んで
自分を甘やかさない作者様の姿勢は見習いたいです。
そして、こういう連載形式で話数が決まっている作品は
内容が吟味されているのが感じられ、読者の立場からは大歓迎です!
素敵な作品をありがとうございました。
次の作品投下を心からお待ちいたしております。

681夢と希望・12:2004/06/11(金) 21:47
「キラ!」

ラクスの部屋を通り過ぎたキラは途中でフレイと会う。
不安げな顔のフレイはキラの腕を強くつかむと揺さぶった。
「戦闘配備ってどういうこと?パパの船は?」
パパの船?どういうことなんだろう?事情を聞かされてないキラは内心戸惑いつつ、憧れている少女の前に心臓が高鳴った。
「だ、大丈夫よね?パパの船やられたりしないわよね?ね?キラ!」
よく分からないが、とにかく行かなければ、キラはフレイの欲しがっている言葉で安心させるためにあせったように言った。

「・・・だ、大丈夫だよフレイ、僕達も行くから」
無理に微笑むと、きつく腕をつかんでいる指を外す、フレイはなおも不安げだったが、走り出すキラを見送りながら手を合わせると目を閉じた。

着替えて格納庫へ飛び込むと、ムウの乗ったゼロはすでに発進していた。
ストライクのシ−トに着くと、ミリアリアが状況を教えてくれた。
<敵はナスカ級にジンが三機、それとイ−ジスがいるわ!気をつけて!>
イ−ジス・・・その単語に・・・キラの顔は曇った、そしてミリアリアからの通信が再び入った。
<キラ!先遣隊にはフレイのお父さんがいるの!頼むわ!>
そういうことだったのか・・・。
「分かった・・・」

その頃フレイは・・・ラクスの部屋にいた。
「ラクスさん・・・私・・・パパ、大丈夫かな・・・」
「フレイさん・・・大丈夫ですわ、キラ様が助けてくれます・・・」

682私の想いが名無しを守るわ:2004/06/11(金) 23:51
>>さよならトリィ
連載お疲れ様でした!
フレイたま一人称SSは大好きなので
フレイたまやトリィと一緒になって読ませていただきました。
他の登場人物が動かないので余計に感情移入しやすかったです。
なんていうのか、職人さんの腕なのかな、読みやすくてよかったです。
やっぱり本編の悲劇のヒロインであるフレイたまが大好きだって再確認しました。

683私の想いが名無しを守るわ:2004/06/12(土) 03:22
>さよならトリィ
連載終了お疲れ様でした。
短編でとても心に残るラストでした。
個人的には最後にフレイ様の思いがトリィに乗り移って
アスランとカガリにキラの場所を教えてくれたんじゃないかな、なんて思ったりして。
次の作品も楽しみにしてます!

684私の想いが名無しを守るわ:2004/06/12(土) 16:29
>>さよならトリィ
今日まとめて全部読みました。
フレイ様せつな杉…
素敵なお話をありがとうございました!

685私の想いが名無しを守るわ:2004/06/13(日) 13:26
>>さよならトリィ、
良かったです
光フレイたま、やすらかだったんですね
こういうお話大好きなので、またよろしくお願いいたします

686私の想いが名無しを守るわ:2004/06/14(月) 19:41
>>さよならトリィ
いいですね、本当に切なげでした、感動しました、また新投下をお待ちしてます。
>>夢と希望
新投下どうもです、頑張ってください。
本編とまず違うところはフレイ様がラクスを怖がらず親しく接しているところなどですね、これからもうどう変わっていくかなどなど楽しみです。

それにしても・・・感想書いてる人達って少し冷たいですね。
私はどんなSSでも感想書きますけどね。

687私の想いが名無しを守るわ:2004/06/14(月) 20:24
>さよならトリィ
自分はしがない絵描きなんですが、
ラストのトリィとフレイ様にすごくインスパイアされました。
イラストを描いて見たいと思わせるシーンでした…
字の持つ力って読んだ人に絵のように直接的ではないけれど
その分幅広い影響があると思われます。
すばらしいSSをありがとうございました。

>男フレイシリーズ
次投下、すごくすごく待っています!
大好きなシリーズですのでどうなるか超楽しみです!
誰かも書いてらっしゃいましたが、
男フレイ様も絵にして見たいキャラですね。
頑張ってください!

688私の想いが名無しを守るわ:2004/06/14(月) 23:32
トリィ>> 短いけどすごく胸に迫りました。
個人的にはトリィに当たるフレイ様の回が切なかったです。
暁の車が聞こえてきそうでした。
次回作も楽しみにしていますね。

689私の想いが名無しを守るわ:2004/06/14(月) 23:43
>>トリィ  
フレイ様がトリィに苛立ちをぶつけるあたり、本当に胸が痛くなりました
なんだか暁の車が聞こえてきそうで、死にネタですが無茶苦茶好みなお話で、良かったです。

690私の想いが名無しを守るわ:2004/06/14(月) 23:45
すみません。
投下ミスしたと思ったので同じ内容のものを投下しました。
>>688>>689は自分が書いてます。

691私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 05:45
>>さよならトリィ
ウワァァァン・゚・(ノД`)・゚・。
えらく感想がついているので纏めて読ませてもらい
住人ツボにガツンと入れられた気分です!
フレイ様好きよ、初心に帰れ的ないい作品でした。
短期連載、お疲れ様でした。

692私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 07:51
>>さよならトリィ
お疲れ様でした!次もまたお待ちしてます

>>686
たしかに無視は酷いですね、いつからここの感想者って冷たい人達ばがりになったんだ!?あ、私もその一人か^^

693私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 10:52
>>帰還
>> 散った花、実る果実
こっそりとこの2作の続きを待ち続けてます。
ナタル&フレイのドミでのお話読みたいので。

694私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 11:35
>>686>>692

あえて感想を書かないんじゃなくて、単にみんなその作品を読んでないだけじゃないかな?
どの作品を読み、どの作品に感想を寄せるかは読者の自由だからね。
冷たいと思うなら個人サイトでやったほうがいいですよ。

695私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 12:30
自作自演につられすぎだ。お前ら。
>>686は夢と希望の作者。あんなのを誉める人間なんて
全世界探しても片手で数えるほどしかいない。

696私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 12:42
>>695
あんた言い過ぎだよ、そこまで言うか?普通、最近相手の気持ちなどを考えずにはっきり言う住人が多い。

697私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 12:47
>>あんなのを誉める人間なんて。
この発言は暴言だな、どんな気持ちでこういう発言したんだろうか、心無い人もいるんだね、ていうか作者の自作自演ってなんで決め付けてるんだよ!

698私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 12:49
>>696
漏れと荒らしはスル−して。

699私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 12:56
感想とSS以外の書き込みはご遠慮願います。

700私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 12:59
自分は素直に
>>さよならトリィ
に感動したのでスレ活性化の願いを込めて感想を書きました。
本当にいい作品だと思いました。

701私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 12:59
【夢と希望作者】=【過去の傷作者】

702私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 13:04
>>701
いいかげんにしろ!しつこすぎだよ。

703私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 13:04
>>701
いいかげんにしろ!しつこすぎだよ。

704私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 13:17
>>701
あえて言うことはない。
みんな知ってても生暖かく見守っていたんだから。

705私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 13:31
とりあえずこれでまた連載止まるだろうな、いやもう来ないかもな・・・。
くだらない話し合いと695のような人を侮辱したような暴言によってだ。

706私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 13:39
>>705
又擁護&貶め作戦で荒らすつもり?

707私の想いが名無しを守るわ:2004/06/15(火) 16:45
以後この件については避難所でどうぞ。
発端はどうやら>>686のようだが、感想以外の意見は避難所でやってくれ。
このレスに対するレスも、もしあるなら避難所で書いてくれ。

では以後SS感想で。
職人さんたち、ほんとにお騒がせしました。

708私の想いが名無しを守るわ:2004/06/16(水) 10:34
えっと…
とりあえず雰囲気を変えるために感想書かせていただきます。
>>さよならトリィ、
短いお話なので読みやすく、フレイ様の感情がストレートに伝わってくる
余韻が残る素敵なストーリーでした。
自分が今まで読んだフレイ様死のストーリーは、
キラ視点や残された人視点が多かったのですが、
フレイ様視点だからこそ、読んだ後に妙に共感を覚えたのかなあと思います。
すごく良かったです。
どうもありがとうございました。
こんな状態ですが、ぜひ次の作品も読ませて頂きたいです。

709リヴァオタと八アスのためでなく:2004/06/16(水) 12:13
ラスボスとの決闘のとき,カガリがやってきた。
「キラ、打ち上げ花火もって来たぞ」
「なにほんとか!」
「いまから飛ばすからちゃんと見ろよ!」
ポチ
ドガァァァァァァァァァァンンンンンン
コロニーだけでなく地球,月,火星なども地球破壊爆弾で消滅した。
全宇宙は粉々に砕け散り,生き物はすべて絶滅した。
この物語はあの小説のラストのようなものだった。

終わり

710私の想いが名無しを守るわ:2004/06/17(木) 06:55
>>リヴァオタ
連載終了お疲れさん。
独特の世界観と語り口で、なかなか感想を付けられなかったが、
巨人の星ネタや、藤子不二雄作品ランキングなど、古いネタでは楽しませてもろた。
また、どこかで新しい作品が見られること期待してる。

711私の想いが名無しを守るわ:2004/06/17(木) 10:51
某小説が何故感想がなかったか

・腐女子臭がする
・犯罪行為を堂々とする
・過去の荒らしの作品、又は過去の荒らしの作品と似た文体である
・パクり部分以外の文章が稚拙極まりない。
・初めての投下。と嘘の疑惑を盛り立てる発言をした事。
・擁護、良感想は殆ど自作自演を疑わせる、特徴ある物であること。
・サイなどの良行動を全てフレイ様に分担させる事で、
ファンですら引く位に原作との剥離が甚だしいこと。
・上記の行動をさせるために行動に無理が生じ、余計に作品の質を下げている事
・誤字、脱字、文法ミスの多さ

712私の想いが名無しを守るわ:2004/06/17(木) 10:52
誤爆スマソ。

713私の想いが名無しを守るわ:2004/06/17(木) 11:26
>>711
そんなことはどうでもいい、他の職人さんに迷惑だからやめろ。

714私の想いが名無しを守るわ:2004/06/17(木) 12:02
過去の放置による評判悪化の憂き目を繰り返す気はない。

続きは避難所で。

715キラ(♀)×フレイ(♂)・46−1:2004/06/18(金) 00:56
「こちらキラよ。ねぇ、カガリ。どこにいるの?いたら返事をして」
これで何度目だろうか。キラは、凶悪犯の母親が自首を訴えかけるかのような必死さで、
通信機に呼びかけたが、全く応答は無い。キラがブルーになり掛けた瞬間、通信機の
応答ランプが赤く点滅した。
「はい、こちらキラです!カガリ!?それとも、フレ……」
「キラ、俺だ。そろそろ日が暮れてきたから、俺達も一端引き上げるぞ」
少女漫画のヒロインのようにパッと瞳を輝かせたキラは、大慌てで通信機のチャンネルを
合わせたが、ノイズ混じりにフラガの声が聞こえてきたので、軽く意気消沈する。
「ま…待ってください、フラガさん。もう少しだけ…」
「駄目だ。艦長からも、二時間したら戻るように言われただろうに。
夜になれば、NJの影響が一層濃くなる上に、視界まで効かなくなる。
これじゃ、どうにも探しようがないだろ?」
「で…でも……」
意志薄弱で、今まで易々と命令を受託してきたキラにしては珍しく執拗に食い下がる。
この付近は、未だに敵の勢力圏内だし、この機会に、カガリ達を探し出せなかったら、
このまま彼らをMIA扱いして、先に進まれてしまうのでは…と危惧しているようだ。
そのことに思い当たったフラガは、優しい声色で、キラを諭しはじめた。

「心配するな、キラ。絶対にカガリ達を置き去りにはしないよ。
探索効率が悪いから、あくまで一度出直すだけだ。夜が明けたら、再び捜索開始だ」
「えっ!?ほ…本当ですか!?」
「俺達は軍人だ。緊急時となれば、左手か右手か辛い選択をしなければならない時もある。
でも、そうでない場合は、最後まで仲間を見捨てるような真似はしないさ」
「フラガさん…」
キラは神妙な顔つきでフラガの話しに聞き入っている。ここ最近、色々と不祥事
が相次いでいたので、キラの中で軍人の株は値崩れを続けていたのだが、
フラガの仲間想いの力説に、少しだけ再び株価が高騰しだしたみたいだ。
「まっ、そういう訳だ。お前の今の仕事は、明日の捜索に備えて、じっくり休むことだ。
もっとも、最近キラお嬢様は、あまり独り寝に慣れていないみたいだから、人恋しくて
なかなか寝付けないかもしれないけどな。ウッシシシ…」
「もうっ、フラガさんのエッチ!」
せっかくシリアスに決めた場面でさえも、ついつい要らぬボケをかましてしまうのが、
フラガ兄貴の病んだ性癖のようだ。キラは、モニター上のフラガのニヤケ面に軽く
デコピンを放つと、プゥーと頬を膨らませながら、乱雑に通信を切断した。
それから、海中をエール推進で泳いでいたストライクは、水泳のターンの要領で、
クルリと一回転して方向転換すると、アークエンジェルの方角へ帰投していく。
フラガのセクラハ発言に幾らか気分を害したようだが、キラは彼の忠言を受け入れ、
英気を養うことにしたらしい。


「ふうっ。大人って狡いよな」
キラの脹れっ面が消えた途端、光を反射した漆黒のモニターは鏡の役割を果たす。
鏡の中のフラガは、例の人好きのする笑顔で、フラガを嘘吐きと罵っている。
アークエンジェルの幹部達が、敵に捕捉される危険を承知の上で、彼らの探索に
拘るのは、人道的な見地故ではなく、カガリの政略的な価値に起因していた。
それなのにフラガは、この件を最近、上層部への信頼度が低下していると思われた
キラの信用回復のダシに利用したのだ。ここの所、大人達の不誠実な態度ばかりが
目に付くが、何時かは子供達と心を分かちあえる時が来るのだろうか。
「副長の事をあまり悪く言えないよな。むしろ、体裁を取り繕おうとする分だけ、
悪役に徹しようとするナタルより、俺の方がよっぽど性質が悪いかもな。でも…」
代謝行為という訳でもないが、フラガはマリューの人が良さそうな笑顔を思い浮かべた。
甘いかもしれないが、彼女なら、たとえカガリ達に何の利用価値がなかったとしても、
それでも損得勘定抜きで、子供たちの捜索を指示していただろう。
フラガが知っているマリュー・ラミアスとは、そういう女だった。

716キラ(♀)×フレイ(♂)・46−2:2004/06/18(金) 00:57
時刻は既に夕暮れ時。この時間帯のサドニス海近辺の島々は、夕日に照らされた
美しい紅海を堪能できるのだが、島全体がどんよりとした雲に覆われ、日の恩恵を
受けられない海は灰を溶かしたかのように濁り、島本来の美観を大きく損ねている。
その灰色の海と同じ色をしたフェイズシフト・ダウン中のイージスガンダムは、
ボディの彼方此方から水滴を滴らせて、抜かるんだ大地の上に寝そべっている。
イージスの近辺には、黒と金色の髪をした二人の少年が、崖に背も垂れるような
体勢で座っている。アスランとカガリだ。フレイは、何故かこの場にはいない。
今現在、雨は止んでいるが、突然の夕立にでも降られたのか、二人とも、軍服と
色の異なる髪の毛をビショビショに濡らしている。
カガリはチラリと、自分の真横にいるアスランの横顔を覗く。アスランは体育座り
の姿勢のまま、呆けた瞳で目の前の空間を見つめている。
突然、崖上の草木に貯まっていた水滴が、その重さに耐えられずに、一塊の水の弾丸を
レールガンのように崖下に弾き出した。水の塊は真下にいたアスランの頭に直撃したが、
アスランはピクリとも動かない。黒髪からポタポタと水滴を滴らせながら、まるで雨中
で乱暴され掛けた女性のような放心した表情で、心ここにあらずといった状態だ。

あいつ…。
カガリは、見えない鎖で拘束されているかのようなアスランの無気力な姿を、
彼にしては珍しく、同情した瞳で見つめている。
アスランとか言ったっけ?あいつ、本当にキラのことが好きなんだな。



「ア…アスラン君?」
フレイの問い掛けに無言のまま、アスランは彼の襟首を掴むと、左腕一本で軽々と
フレイを宙吊りにする。彼ら三人のモヤモヤとした内面とシンクロしたかのように、
突如、黒雲が、東の海岸から急速に流れてきて、島内を隈なく覆った。
フレイが右頬に冷たい水滴の存在を感じた刹那、鋭い灼熱感がフレイの逆側の頬を襲った。
予想外の事態に唖然とするカガリの目前で、アスランに渾身の力でぶん殴られたフレイは、
派手に吹っ飛ばされて、崖岩に背中をぶつけると、そのままズルズルと沈み込んだ。

「うぉおぉおおぉ…………!!!!」
アスランは獣のように咆哮すると、そのまま瀕死のフレイに馬乗りになり、再び利き腕
を大きく振りかぶった。フレイの後頭部は、硬い岩石の上に置かれており、このまま
コーディネイターの腕力で殴られたら、パンチの威力よりも、岩石との衝突でフレイの
頭蓋骨が砕かれるだろう。
「お…おい、待てよ、アスラン!?止めろぉ〜!!」
理性の箍が外れているとしか思えないアスランが、本気でフレイを殺そうとしていると
悟ったカガリは、縛られた体勢のまま、アスランに体当たりを敢行する。
側面からの予期せぬ奇襲に、アスランはカガリ共々もつれ合うように、崖側に転がった。
アスランが昏睡中のフレイから引き離されたと同時に、物凄い勢いでスコールが降り始める。
ミサイルのような大粒の雨は、水捌けの悪いここら一帯の大地を水浸しにし、ものの数秒
と経たない内に、地面に転がり込んだ三人の髪は雨で濡れ、軍服は泥塗れになる。

「き…貴様!?なぜ、庇う!?」
「落ち着け、アスラン!お前、自分が何をしているか判っているのか!?」
血走った目付きで、今度はカガリの襟首を締め上げるアスランに臆することなく、
カガリは堂々とアスランを睨み返しながら、彼の暴挙を訴える。
カガリ自身も、一度は本気でフレイを射殺そうとした身なのだ。
ならば、余計なチョッカイを掛けずに諦観し、黙ってアスランに、
フレイを殴り殺させるに任せておけば良かった筈である。
ただ、身動きの取れない捕虜に、理不尽な理由で一方的な加虐を加えようとする構図
がカガリの潔癖な倫理観に引っ掛かり、ほとんど反射的に危地に飛び込んでしまった。
何よりも、今のアスランを支配している殺意が、極めて衝動に近い感情である事実を
カガリは知っていたので、アスラン自身の為にも、彼の軽挙を止める必要性があった。

717キラ(♀)×フレイ(♂)・46−3:2004/06/18(金) 00:57
捕虜の分際でのカガリの叱咤に、アスランは忌々しそうにカガリを睨んだが、流石に
カガリにまで手を挙げようとはしなかった。こうしている間にも、雨足はさらに加速
し続け、フレイに挑発され熱し上がったアスランの激情を、少しずつ醒ましはじめる。
その時、縛られた状態のまま、仰向けに寝そべっていたフレイが蘇生し、彼の唇が動いた。

「………何を………怒っているんだい……………アスラン君?」
フレイはノロノロとした緩慢な動作で、座したままの体勢で上半身だけを起き上がらせる。
彼の顔は泥水で汚れ、切れた唇の中から真っ赤な血が滴り落ちている。
「……君にはラクスという、れっきとした許婚がいるのだろう?
もしや、ラクスを正妻とし、キラを愛人として囲む邪な計画でも巡らせていたのかい?」
危うく殺害されかけたフレイだが、淡々とアスランの非を打ち鳴らすフレイの態度からは、
微塵も怒りも恐怖心も感じられない。能面のような無表情に、妙に危機感の欠落した
冷めた瞳でじっとアスランを見つめ、逆にその静けさが、スコールのシャワーを浴びて、
正気に返りつつあるアスランを怯ませた。

「…以前、君はキラに、民間人を人質にするのは卑劣だとか、偉そうに説教したらしいね?
なら、拘束中の捕虜に私怨で暴行を加えるのが、君とザフトの信じる正義なわけかい?」
フレイは最後まで、強者に媚いることなく、強者が犯した不条理を訴えた。
その結果、ここで屍を晒すことになったとしても、アスランが筋の通らぬ逆恨みで、
フレイを害しようした事実だけは、彼の胸の内に永久に刻み込ませるつもりだ。


フレイから命懸けの告訴を受けたアスランは、無言のままガックリと肩を落とした。
今日までザフトの軍人として、数え切れない程の敵兵を殺してきたが、全ては祖国と正義
の為と信じた信念に支えられての行動であり、後ろ暗さを感じたことは一度もない。
だが、アスランが目の前で行った虐待は、明らかに正義ではなく、戦争ですらない。
彼は私怨で、目の前のナチュラルの兵士を、死刑(リンチ)にしようとしたのだ。
正規の軍人でありながら、仲間の死を冒涜されたとかの高次な話しではなく、痴話喧嘩
レベルの低次な挑発に惑わされて、理性を喪失してしまったという己の馬鹿さ加減が
信じられなくて、アスランは大幅に精神を失調させた。

「僕を殺す気がないのなら、縄を解いてくれないか?この傷の治療がしたい」
フレイがさり気無く、傷口をアピールし、アスランはまるでフレイの言いなりなった
かのように、彼の縄を解いた。こうしてフレイは、久方振りに自由を確保した。



フレイは手鏡を覗き込みながら、救急用バックから取り出したオキシドールを
染み込ませた綿を傷口に当てて、治癒に努める。
妙に口の奥がズキズキ痛むと思ったら、奥歯が一本叩き折れている。
「痛ぅ!!あの馬鹿力め!」
彼にしては凡百な悪口でアスランを罵りながら、フレイは折れた歯を吐き出したが、
コーディネイターの男子に本気で殴られて、生命があったどころか、自慢の高い鼻
も潰されずに、歯一本程度の被害で済んだのは、むしろ僥倖だろう。

一通りの応急治療を済ませ、錠剤の痛み止めを飲んだら、少し痛みが和らいできた。
痛みが引いてくるのと同時に、フレイの中から、今まで抑えこんできた怒りの感情
がフツフツと噴出してきた。
「こいつもか…」
フレイは項垂れたアスランを、醒めた瞳で見下ろしながら、心の中でそう独白する。
ジュリエットだけではない。ロミオの側も無意識に結託し、茶番を演じてきたのだ。
ヘリオポリスを脱した当時のアークエンジェルと、未熟な素人パイロットだったキラ。
過酷な環境下で、ザフトの精鋭部隊たるクルーゼ隊に度々襲われながらも、
キラが今日まで生き延びてこれた裏面のカラクリを、フレイを垣間見た気分だ。

718キラ(♀)×フレイ(♂)・46−4:2004/06/18(金) 00:58
「こいつら、ふざけやがって!戦争を愚弄するにも程がある!」
互いに愛し合っている者同士が、敵と味方に別れて、殺しあうのは確かに悲劇だろう。
だが、その悲劇に無理やり巻き込まれた者がいたとすれば、それは、むしろ喜劇でないか?
戦場では、人の生命ほど儚い存在は他にない。
己の全知全能を出し尽くした所で、報われるとは限らず、戦いを支配する何者か(神?)
の些細な気紛れにより、理不尽な死を賜るケースもしばし見受けられるが、
それでも戦争に携わった者達は、大切な何かの為に必死に戦っているのだ。
なのに、中には、そういう弱者の生命賭けの足掻きを嘲笑するかのように、敵味方の
枠組みを無視し、殺しても良い味方と殺したくない敵とを分類した上で、あまつさえ、
その絶大なる能力故に、自分の身さえも余裕で守れる強者が存在していたりする。
キラやアスラン君という闘神の申し子達が、まさしくそれだ。

「お前たちは神の身遣いか!?全ての人間が、自分と仲間を守ろうと戦っている戦場で、
殺す相手を選り分ける権利が、貴様らには与えられているとでも言うのか!?」
フレイがキラ個人を目の敵にしている本当の理由は、彼女の戦争そのものを冒涜する
許されざる背信行為に、自分の母親も巻き込まれたと信じ込んだからだ。
意外かも知れないが、フレイは直接、母を殺したザフトをそれほど憎んでもいないし、
コーディネイターを宇宙から抹殺しようという馬鹿げた妄執に囚われている訳でもない。
殺し合いの場には、無辜の被害者などという奇特な人種は、例外なく存在しないのだから。

「『ペンは剣よりも強し』だ。神様も法律も、奴らを罰しないというのなら、僕が裁く。
力で、全ての暴挙が罷り通ると信じている奴らに、言葉の恐ろしさを思い知らせてやる!」
個人として見れば、キラが自分などよりはるかに善良な人間で、母を見殺した一件も、
彼女自身には何らの悪意も持ち合わせていなかったことなどは、フレイも承知している。
フレイが問題としているのは、人柄の善悪ではなく、行為の善悪なのだ。
戦場での力ある者の『手抜き行為』を立証するのは、至難というよりも不可能だ。
これは、ある種の超越者だけに許された合法的犯罪に等しいからだ。
ならば、こちらも同等の手段によって、報復を実行する以外に道はない。
フレイならば、それが可能な筈である。
何故なら、彼は口先一つで他者の運命を自在に操れる、言霊(※)の魔術師だからだ。
※(言葉に内在する霊力。昔は言語が発せられると、その内容が具現化すると信じていた)

フレイは意趣返しとしての合法的犯罪性に拘っているが、毒殺の準備を別にすれば、
実際、今回の復讐劇の中で、法に接触する行為は何一つ犯さなかった。
キラに戦いを強要した覚えはないし、日常生活で誰もが使用しうる範囲の嘘方便なら
巧みに用いたが、詐欺罪に問われるレベルの深刻な虚言は慎重に避けてきた。
(だから、フレイはキラに「愛している」とさえ、囁いたことは一度もない)
全てはキラが、自分の責任において、勝手に仕出かした事だ。
フレイに在ったのは、「自分がこう言えば、きっと彼女はこう動くだろう」と予測し、
それを躊躇なく実行してのけた、明確な悪意の感情だけである。
そして、「手抜き行為」同様に、「悪意」を裁ける法律は、世界中のどこにも存在しない。

シェークスピアの戯曲通りに、ジュリエットにはロミオと心中してもらう。
そこから先のシナリオは白紙だが、軍属として過酷な最前線で戦っている以上、
キラという盾を失ったフレイの命数が尽きるのも、そう遠い先の話ではないだろう。
いかにフレイが、自分のインナースペースに高貴な悪魔を飼い馴らしていたとしても、
その魔族の魂を覆う彼の肉体そのものは、通常の人間のそれと何ら変わらない。
タカツキ君や、非武装のシャトルを撃ち落したというデュエルのパイロットのような、
脊髄反射で引き金を引ける類の人間の放った銃弾の一発でも、簡単に死ねるのだ。
フレイは自分の無謬性を過信してはいなかったし、何よりも、母のいないこの世紀末
の世界には、もはや、何の未練も無かった。

フレイ独特の復讐動機は、世間一般の感性に照らし合わせれば、到底、理解や共感が
得られるような代物ではなく、狂人の逆恨みの烙印を押された事は間違いないだろう。
またフレイは、キラへの憎悪が無尽蔵に溢れ出ていた初期の頃に比べて、
最近は己が怒りを定期的に確認し鼓舞し続けない事には、キラへの悪意を維持
できなくなりつつある、自身の心情変化には全く気がついていなかった。

719キラ(♀)×フレイ(♂)・46−5:2004/06/18(金) 00:58
フレイは心中から湧き上がる強い軽蔑感を押し隠して、自分の殻の中に閉じこもって
いるアスランを眺める。昂ぶる感情に反応するかのように歯欠けの歯茎がズキリと痛む。
高い代償を支払わされはしたが、お陰で、今まで風聞でしか知りえなかったアスラン君
の実像を、フレイは凡そ把握することが出来た。
「軍人として有能で、個人としても善良だが、軍隊という枠組みから一歩でも外に出たら、
まだまだ人間としての完成度には程遠く、良家のお坊ちゃまの域は出ていない」
それが、フレイがアスランに下した評価の全てだ。
世の中には、他人の善意や純粋(ピュア)な想いを正確に理解した上で、それを悪意を
以って踏み躙れる、フレイのような確信犯的な小悪党が結構存在しているのだ。
アスラン君は、そういう輩に踊らされて犬死するか、または人間に絶望し、今度は彼自身
が世界を滅ぼす魔王へと転身を果たしてしまうようなタイプだとフレイには思われた。

「プラントが世襲制度じゃなくて残念だな。アスラン君が将来、父親の後を引き継ぐ
ことにでもなれば、プラントとの外交交渉も随分と遣り易くなりそうなんだけどな」
一瞬、フレイはそう考えたが、そのアスランの婚約者で、現最高評議会議長の令嬢
であるピンク頭のお姫様の笑顔を思い浮かべた瞬間、慌ててその思考を打ち消した。
「危ない、危ない。そうなると、あの歌姫がプラントの指導者となるわけか」
酢を一気飲みしたような渋い表情を浮かべ、フレイは胃の辺りを撫で始めた。

フレイは、コーディネイター云々を抜きにして、ラクスが嫌いだった。
あの天然を装ったお姫様に、どことなく自分と似たペテンの匂いを嗅ぎ取ったからだ。
他人を騙せる詐欺師は世間にたくさん溢れているし、フレイもまた、その中の一人である。
けど、自分を騙せる詐欺師となると、どうだろう?
それは稀有というより奇跡に属する領域だ。何故なら、ヒトは他人を騙す事は出来ても、
基本的には自分自身にだけは、嘘を吐けない生き物だからだ。
「アレは、己自身も含めた総ての生命体を欺ける希代のペテン師だ」
フレイはラクス・クラインの正体をそう睨んでいる。
そういう意味では、普段、彼女が見せている天然お嬢様の仮面も、ラクスにしてみれば、
演技をしている自覚はないのだろう。ラクス自身、今はまだ卵の殻の中身を知らないのだ。

「あの女、今はアイドルの真似事をして満足しているみたいだが、そのうち自分の本性に
気づいたら、宇宙をあっと震撼させるような、とんでもない真似をやらかすのではないか?」
フレイは何らの根拠も無しに、頑なにラクスの性根をそう決め付けていた。
尚、このフレイの妄想染みた予言ないし言霊は、後日、完璧に現実の世界の出来事となる。



雨は既に止んでいる。
先のドサクサに紛れて、そのまま要領良く身柄の自由を確保したフレイは、
「食事の準備をしてくる」と宣言して、この場所から姿を消し、後には
カガリとフレイの二人だけが、取り残された。
未だ拘束中のカガリの存在を無視し、ひたすら自分独りの世界に閉じこもって
いるアスランの姿に、カガリは憐憫に近い感情を抱いた。
「あいつ、本当にキラのことが好きなんだな」
先のアスランの無様な醜態を見るにつけ、フレイほどの洞察力を必要としなくても、
アスランの本当の想いが誰に向けられているのか、カガリにも痛いほど良く分かった。
彼にはプラントに許婚がいるみたいだが、カガリ自身も親族から顔も知らない婚約者を
押し付けられそうになった口なので、身分の高い家柄の者には、昔の封建社会さながらに、
自由恋愛など許されてはいない現実をカガリは良く知っていた。

「キラの隣にいるのが、あいつだったらな…」
カガリ自身の恋愛感にマッチしたからかも知れないが、フレイの手馴れたスマートな
恋愛感覚よりも、アスランの不器用な誠実さの方にカガリは好感を抱いた。
少なくとも、キラを支えていたのが、不誠実の塊のフレイではなく、精神の骨格の半分は
優しさで構成されているアスランだったら、カガリも今ほどヤキモキしなかった筈である。
だが、現実にはアスランこそが、AAと今のキラの生命を脅かしている敵なのだ。
信用ならぬ危険な味方と、敬意に値する敵。キラを巡るその矛盾した構図が、いつかは
逆転する時は、来るのか?来ぬのか? 予言者ではないカガリには分からなかった。

720キラ(♀)×フレイ(♂)・46−6:2004/06/18(金) 00:59
日が完全に落ち、真っ暗闇になった頃、ようやく、フレイは二人の前に戻ってきた。
茸、果実、草花、木の実などが大量に詰まったらしいリュックを左腰に抱え、
どこかで捕らえてきたらしい野兎を、細長い耳を右手で掴んで、ぶら提げている。
「おっ?、ちゃんと火を炊いといてくれたみたいだね」
あれから、少しだけ精神の失調を回復させたアスランが、濡れた服を乾かす為に
仕込んだ焚き火の存在に気づいたフレイは、感心したように呟き、今までフレイの
手の内で大人しくしていた兎が、本能的に危険を感じ取ったのか、突如暴れだした。
「こらっ、暴れるんじゃない。味が落ちるだろう。美味しく調理してやるからさ」
フレイは笑顔で兎を諭しながら、一気に兎の頚骨を捻ろうとしたが、その手首を
アスランが強い力で掴んだ。アスランの異常な握力に耐え切れずに、フレイは
兎の耳を掴んでいた掌を離し、自由を得た兎は、慌てて森の中に逃げていった。

「食料なら俺の手持ちの携帯食を分けてやる。だから、逃がしてやれ」
フレイが何か言うよりも先に、アスランが口を開いた。キラは、アスラン君のことを
優しい人と表現していたが、彼は無益な殺生を好まない性格らしい。
「ふ〜ん。面白いんだね、君って。人は平気で殺せても、動物は駄目なんだ?」
スタスタとアスランの横を通り過ぎる間際に、フレイはボソッと彼の耳元に囁き、
その皮肉の痛烈さにアスランはビクッとする。

「私、アスランがそんな人だなんて、思わなかった」
「えっ!?キ…キラ!?」
有り得ない事態にアスランは呆然とする。彼が振り返った先には、焦茶色の髪をした
キラがキョトンとした表情で、彼の偽善を追求するかのように、じっと見つめている。
「て…テメエ、何しやがる!?」
突然、キラが、隣にいるフレイに、彼女らしからぬ乱暴な言葉遣いで難癖をつけ始めた。
いや、良く見ると、キラではない。そのキラに似た物体は縄で縛られた上に、緑を基調
としたコンバットスーツを着込んでいる。確か、カガリ・ユラとか名乗っていたっけ?
「似ているだろう?カガリ君はキラの変身の達人でね。案外、キラの血族だったりしてね」
開いた口が塞がらない状態のアスランに対して、カガリに焦茶色の鬘を被せた挙句、
キラの声帯模写までやってのけたフレイは、軽くウィンクしながら悪戯っぽく説明する。
この茶目っ気の為だけに、わざわざグラスパーまで戻って、鬘を回収してきたらしい。

「外せ〜!」と喚きたてるカガリの姿を尻目に、フレイはアスランから受け取った食料
を加えた上で、調理の仕込みに入る。フレイの目の前には、彼が採取してきた怪しげな
食材が並べられていたが、毒物の目利きに関しては、フレイはエキスパートなので、
食中毒の心配をする必要性は………………ひょっとすると、大いにあるかも知れない。
淡々と調理を続けるフレイの傍らで、カガリは、頭から鬘を外そうと暴れ狂ったが、
鬘はゴムで、両耳の耳元にキッチリと固定されているので、その努力は徒労に終わる。
「うがぁ〜!!」と発狂したかのように、のたうち回るカガリの姿は、自分の尻尾を
餌と勘違いし、必死に喰らいつこうとグルグル回転する間抜けな犬の姿にソックリで、
思わずアスランの顔からも笑みが零れた。
「この野郎、何が可笑しい!?」
涙目で睨むカガリに、アスランは慌てて目を逸らしたが、鬘を取ってやろうとはしない。
別に意地悪してではなく、単に自分にその選択肢があるのを忘れていただけの話しだが。

「ほら、出来たぞ」
特性のスープを煮込んだフレイは、料理を皿に盛ると、カガリの目の前に置いた。
「…って、お前、この状態で、どうやって食えっていうんだよ!?」
「そのまま食べればいいだろう。とにかく、君の縄は解けないよ。
自由の身を確保したら、君はまた身の程知らずにも、アスラン君に戦いを挑みそうだからね。
君が返り討ちにあって、くたばるのは勝手だけど、僕まで巻き込まれるのはゴメンだよ」
「何だと!?テメエ、ふざけるな!!」
カガリは当然の抗議をしたが、フレイはカガリを無視すると自分の食事に入った。
フレイは美味そうにスプーンでスープを掬い、目の前に置かれたスープの皿からは、
野生の食材で構成されているとは思えない、食欲中枢を擽る香ばしい匂いが漂ってくる。
カガリのお腹がグーっと鳴り、今朝から何も食べていない事に気付いたカガリは、
背に腹は変えられぬ…とばかりに、目の前の御椀に喰らいついた。

721キラ(♀)×フレイ(♂)・46−7:2004/06/18(金) 00:59
くっそぉ!!フレイの野郎、アスランから助けてやった恩を忘れやがって!!
殺す、殺す。絶対に殺してやるぅ!!
内心でフレイを呪怨しながら、オーブの王子様とは思えない、情けない格好で、
カガリはスープを啜った。猫舌のカガリが、舌を火傷しかけた刹那、フッと軽い音
がすると、カガリを拘束していたロープが切断された。アスランである。
彼は、キラの顔そのままで、泣きながら犬食いするカガリのあられもない姿を
見てられなくなったのだ。カガリは大慌てで、頭の鬘を外し、地面に叩き付けた。

「考えてみれば、こいつだけ動けるのじゃ不公平だからな。
ただし、銃を奪おうとするなら、その時は、躊躇い無く殺すから覚悟しておけよ」
手持ちのナイフで、カガリを戒めていたロープを切断したアスランは、照れ隠しに、
そう警告すると、無防備にもフレイから手渡されていた、敵の作ったスープを啜る。
重ね重ねのアスランのお人よし度にカガリは呆れたが、今の敵はアスランではない。
実力行使でフレイへの報復を敢行しようとしたが、既にフレイは忽然と姿を消している。
相変わらず要領の良いフレイは、カガリのほとぼりが醒めるまで、怒りをやり過ごす
所存のようだ。仕方無しに復讐のレベルを二段階ほどダウンさせたカガリは、
奴の分は残すまいと、鍋の中の美味のスープを、全部、自分の胃の中に押し込んだ。



あれから、カガリの怒りが静まった頃合いを見計らってフレイは戻ってきた。
洞窟の中で、三人は焚き木を囲んだが、元々彼ら三人は互いを潜在的な敵と見做し
合っていたので、キャンプファイアのような友好的な雰囲気とは無縁だ。
「そういえば、アスラン君。君にはお礼を言わなければならないよね?」
ピリピリとした緊張状態が長く続いたが、まずはフレイが口火を切る。
アスランは煩わしそうに、フレイの方角に振り向いただけで、頷きもしなかった。
あれから三人の間で、様々な貸借関係が発生したので、今更、不必要なオベッカだと
アスランは切り捨てたが、フレイの謝意は、無人島に来る以前の過去に向けられていた。

「今まで、キラが死なないように、それとなく手心を加えていてくれたんだろう?
お陰で、僕らもキラのお零れに与って、今日まで生き延びる事が出来たわけで…」
「ば…馬鹿を言うな。俺はザフトの軍人だ!戦場で私情を織り交ぜるなど有り得ん!」
アスランは内心でキグリとしながらも、大声でフレイの仮説を打ち消した。
今まで、フレイの口車に乗せられ、何枚化けの皮を剥がされたか判らないが、
アスランの立場上、確かにそれだけは認める訳にはいかなかっただろう。
「ふ〜ん。じゃあ、まあ、そういう事にしておこうか」
内心を見透かしたかのようにフレイの視線に、アスランは後ろめたそうに目を逸らす。

「君には色々とお世話になったから、最後に一つだけ忠告しておこうか。
君がこの先も、戦いの中でキラに温情を掛け続けるのは、それは君の勝手だけど、
もうキラの方では、そういう君の想い(馴れ合い)には頓着してくれないと思うよ?」
「な…何!?」
もう、これ以上、このペテン師の言葉に惑わされるのは止そう…と決意した傍から、
ついアスランは反射的にフレイの言葉に反応してしまう。
キラが絡む限り、彼はフレイの言葉の魔力から、自由にはなれないらしい。
「キラは僕と約束してくれたんだ。僕がもう戦わないでも済むように、僕の敵…つまり、
アークエンジェルに襲い掛かってくる君たちを、キラが一人残らず始末してくれるって。
こんな健気な恋人を持って、僕は本当に幸せ者だよ」
フレイはポタポタと涙を流しながら、サドニス島でマイケル君を殺害しかけた際の
キラの宣誓を、故意に拡大解釈した上で、アスランに最後通告として突きつけた。
自然と涙が出てしまう泣き虫のキラと異なり、泣きたい時に自由に嘘涙を流せるのが、
極上の詐欺師たるフレイお得意の御家芸の一つだ。

722キラ(♀)×フレイ(♂)・46−8:2004/06/18(金) 01:00
「フ…フレイ、お…お前、まさかその為に、キラに近づいたのか!?」
フレイは、ザフトに母親を殺されたと自己申告していた。
その上で、恋人であり、最高クラスのコーディの戦士であったキラの心の支えとなり
ながらも、同時にキラに対して、何故か不可解な憎悪をも抱き続けてきた。
この二つの符号が意味するものは何なのか?カガリの中で、その情報が一本の線で
繋がり、フレイの謎めいた行動がはじめて明確な指針を帯びた。
フレイは、単にキラを、母親の復讐の道具として利用していただけなのでは!?
かつてフレイを良く知るサイが、辿り着いたその仮説に、ようやくカガリも到着した。
さらには、そのカガリの疑惑が伝染したかのように、アスランも強い疑惑の眼差しでフレイ
を睨んだが、四面楚歌に晒され、守勢にまわされても、フレイは一向に動じた様子はない。


「心の貧しい奴らだな。一々、利害打算を絡めない事には、恋愛の一つも出来ないのか?
ただ、好きな人の役に立ちたいと願う、キラの切ない想いがどうして判らないんだ?」
キラに便乗した、ここまで図々しい反論は、想像の遥か彼方だったので、二人は絶句する。
将棋の対局中に、王手の掛かった将棋版を180度反転させたかのように、フレイは
口先一つで、あっさりと弾劾する側とされる側の立場を入れ替えた。
「まあ、一切の見返りを求めない無償の愛など、君達には一生掛かっても辿り着けない
領域だから、無理もない話しか。けど、そういう不器用な愛情に殉じる人間を愚かと
嘲笑していたら、いつかきっと手痛いしっぺ返しを食らうから気をつけた方が良いよ」
フレイはアスラン達を憐憫するような瞳で見下ろしながら、わざとらしく両肩を竦めた。

コ…コイツは!?
アスランの中で、再びフレイへの明確な殺意の感情が芽生え始めた。
何故、こんな不真面目そうな奴に、キラへの想いをここまで侮辱されねばならないのか?
アスランは、今日まで生きてきて、これほど憎たらしい人間に出会った事はない。
このまま衝動の命じるままに、コイツの首を捻じ切ってやれたら、どれほど爽快だろう
との誘惑に駆られたが、似たような挑発に惑わされて醜態を晒した先の件を思い出し、
その殺意の波動をアスランは辛うじて抑制した。

「僕にもサイという親が定めた許婚がいたよ。幼馴染の気立ての良い子で、
僕の軍属への志願に一緒に身柄を預けてくれた、僕想いの本当に優しい娘だった」
そんなアスランの内心の葛藤などお構いなしに、フレイは話を先へと進める。
サイの名前を出した時、ほんの僅かだが、フレイの瞳に、芝居でない後ろめたい光が宿る。
「でも、キラと付き合うために、彼女とはキッチリと別れたよ。ただ、許婚というだけで、
愛してもいない女性と付き合うのは、その相手の娘にとっても失礼な話しだからね」
フレイはアスランの殺気に臆することなく、自分が彼と似た境遇にありながらも、
アスランが超えられなかった壁を、超越してのけていたという現実を誇示してみせる。
ラクスというアキレス腱を巧みに斬りつけられたアスランは、心中で密かに呻いた。

「僕は、キラの為なら、許婚も、アルスター家も、生命さえも全て捨ててみせるよ。
アスラン君、君はどうだい?キラの為に、婚約者(ラクス)や、ザラ家の名誉や、
軍人としての責務などの、全てを投げ出せるだけの覚悟が君にはあるのかい?」
フレイは敢えて、純朴というよりは、むしろステレオタイプな恋愛観でアスランに挑んだ。
その方が、恋愛方面では極めて稚拙なアスラン君に、一番効果があると踏んだからだ。

フレイの宣誓布告を聞かされたアスランは、幼年学校時代のキラとのデートで、彼女と
一緒に見た映画の内容を思い浮かべた。題名は覚えていないが、主人公は、世界を救う
よりも一人の女を愛する事を選んだ物語で、キラも感涙に泣き咽ていた記憶がある。
彼の身体に執拗に絡み付く現実の柵を、何一つ振り解く事も叶わずに、キラの敵と化した
自分と、映画の主人公さながらに、キラの為に、全てをかなぐり捨てたというフレイ。
映画同様に、キラがフレイを選んだのは、むしろ、当然のフィナーレではないか?
フレイの魔術めいたペテンに惑わされて、自分の想いに迷いを抱いたアスランは、
深刻な疑心暗鬼に陥った。

723キラ(♀)×フレイ(♂)・46−9:2004/06/18(金) 01:00
「もう、止めとけ、アスラン。そいつに何を言っても無駄だ」
実に意外な人物が、精神的な呼吸困難に喘いでいたアスランを救った。
本来、仰ぐ旗の色から、アスランよりもフレイに組する立場であるはずのカガリが、
まるでアスランを庇うかのように、嫌悪の感情を隠さずにフレイを睨んだ。
アスランは驚いた表情で、フレイは興味深そうな瞳で、カガリを見つめている。

「さっき、コイツの母親は、連合の外務次官とか言っていただろ?
お前が戦闘のプロであるように、多分、フレイは言葉のスペシャリストだ。
会話を正論と理論武装で塗り固めた上で、己の主張の矛盾を排して言質を取らせず、
逆に敵側の言質を抑えた上で、相手の主張の矛盾には鋭く突っ込みを入れてくる。
そういう、口先一つで、黒いカラスを白と言いくるめる事も可能な厄介な連中さ。
だから、アスラン。あんまり、コイツの言うことを真に受けない方が良いぞ」
アスランを慰めながら、カガリは、フレイに感じていた潜在的な反発心の源が何なのか、
ようやく、把握する事が出来た。ようするに、フレイは、カガリが世界で一番嫌いな人物
と良く似ていたのだ。そう、口先一つで、世界を欺き続けてきた、オーブの獅子とかいう
偉そうな呼称で呼ばれている、彼の実…ではなくて、最近、仮と知らされた父親に。


「僕は、単に老婆心から、アスラン君に忠告しただけなんだけどね。
アスラン君はキラに討たれても本望かも知れないけど、彼のキラへの葛藤なんて、
彼の仲間達にとっては、どうでも良い話しだろ?」
かつて、トールがフレイの正体を見破ったように、カガリも数多の失敗から、
フレイの本性を突き止め、最良の対処の仕方を学んだようだ。
一瞬、今度はカガリを論破しようかとフレイは思ったが、そろそろ眠くなってきたので、
止めることにした。結局、彼は、カガリに拉致られたまま、一睡もしていなかったのだ。
「君とキラの愛憎劇に巻き込まれて、君の仲間が死んだりしなければ良いけどね」
睡魔の誘惑に身を委ねながら、最後にそれだけをアスランに告げると、フレイはゴロン
と寝転がって、会話を打ち切った。眠気がフレイの理性に皹を入れたのか、今まで、
完璧な理論武装を施していたフレイの論述の中に、僅かに本音が入り混じっていたが、
自分一人の思考に囚われていたカガリもアスランも、その傷の存在に気がつかなかった。

フレイは毛布に包まって、軽い寝息の音を立て始めた。もはや、目の前の二人の敵兵
に対して、物理的な危険度は感じていなかったアスランは、フレイの言葉の刃に、
心をズタズタに切り刻まれて精神的に参っていたので、自分もそろそろ寝ようかと
考えた刹那、テレパシーのような小さな音声が、彼の耳元に届いてきた。

「心配するな、アスラン。フレイが何と言おうと、キラはお前が知っているキラのままだ。
泣き虫でお人好しで……、まあ、ちょっと…いや、かなり気が多いのが少し困り者だけどな」

一瞬、頭の中を妖精が囁いたのかとアスランは己の理性を疑ったが、どうやら声の発生源
はカガリのようだ。彼は照れているのか、例の傷のない頬だけを赤く染めて、ソッポを
向いている。どうやらカガリは、フレイには聞かれないように、コーディの聴力なら
聞き取れるであろう可聴域すれすれの小声で、態々アスランに囁きかけてくれたようだ。

「ありがとう」
アスランは心からの謝意と笑顔でそう呟き、カガリは傷のある側の頬も含めて、真っ赤に
なると、ぶっきらぼうに、そのまま毛布を被って、アスランから顔を背けた。


今回の無人島での長い一日で、アスランは最大の敵と同時に、一人の知己を得た。
アスランはカガリとの間に、無意識化での奇妙な友情を成立させ、キラを挟んだ
二人の間に、アンチフレイ同盟が結成される運びとなる。

724キラ(♀)×フレイ(♂)・46−10:2004/06/18(金) 01:01
翌日の早朝、アスラン達が目を覚ますと、無人島の周辺は雲一つ無い澄み切った青空が
広がっている。こういう天気の時は、NJの影響率が低い事を知っていたアスランは、
イージスのコックピットに乗り込んで、無線を試してみると、ノイズ混じりに仲間から
の通信が聞こえてきた。
「こちらは、アスラン。アスラン・ザラだ。その声はニコルか?」
「そうだよ、良かった。生きていたんだね、アスラン。心配したんだから…」
ニコルの涙ぐんだ声に、アスランは顔を綻ばす。無人島の座標マップを送信して、
救助に関する打ち合わせを終えたアスランがコックピットから降りると、
カガリとフレイの二人が、アスランを出迎えてくれた。

「それじゃ、ここでお別れだね、アスラン君。こちらも、迎えが来ているかも知れない
から、グラスパーの方に戻ってみる事にするよ」
フレイはわざとらしく握手を求めたりはしなかったので、アスランは無言のまま、
彼らを見送る事にした。殺すという選択権を行使しなかった以上、彼ら二人を捕虜
として、ザフトへ連行する意思などない。フレイなど、イザーク達にキラの件で、
何を吹き込むやら分かったものじゃないからだ。

こうして、男三人の無人島での共同生活は、たったの一日で終わりを告げた。


「カガリ!?フレイ!?私よ。良かった。二人とも無事だったのね」
アスランと同じく、フレイとカガリの二人にも、極上のお出迎えがすぐ側まで来ていた。
グラスパーの通信機に、キラの嗚咽の声が聞こえてきて、フレイとカガリの行動は、
ほんの一瞬の半秒ほどだけシンクロし、二人は苦笑未満の表情を浮かべた。

二人が海岸線で待機していると、突如、モーゼの奇跡のように海が割れ、中から海坊主
のような巨大なMSが出現し、のっしのっしとこちらに向かって歩いてきた。
「フレイっ〜!!、カガリぃ〜!!」
コックピットから転がり落ちるように、飛び降りたキラは、ヘルメットを投げ捨てると、
泣きながら二人に駆け寄ろうとしたが、彼らの手前2mの砂浜でピタリと足を止める。
相変わらずの愛玩犬さながらの優柔不断な仕草で、キョロキョロと二人を見渡すキラ。
どちらの胸元に先に飛び込むか、彼女にとって、結構デリケートな問題だったりするのだ。

どちらを選んでも角が立つと判断したキラは、折半案(二股)を選択したらしい。
無駄にコーディネイターの身体能力を発揮して、二人の手前で大きくジャンプし、彼ら
の頭上を飛び越えると、そのまま後方に回り込んで、二人の片腕に自分の両腕を絡めた。

「えへへ…。二人とも、生きていてくれて、本当に良かったよ〜」
キラは、CIAの職員に連行される宇宙人さながらに、二人にぶら下がりながらも、
軽い涙を含んだ上目遣いで、フレイとカガリを笑顔で見上げた。
キラの本心は見え透いていたので、フレイもカガリも呆れていたが、
このキラの泣き笑いの表情を見せられたら、何も言えなくなってしまう。
緊急事態でもあったことだし、一時的に停戦同盟を結んだ二人は、
敢えてキラのミエミエの誤魔化しに、騙されてやる事にした。


結局、キラはアスランと同じ無人島の大地に足を踏み入れながらも、
アスランとの邂逅を果たすことなく、この島を去る事になる。
この先、キラとアスランの二人に、さらなる過酷な運命が待ち構えていた事を、
当人達は勿論、二人の未来の鍵を握る、言霊の魔術師たるフレイでさえも、
この地点では全く予期していなかった。

725私の想いが名無しを守るわ:2004/06/18(金) 02:58
>>キラ(♀)×フレイ(♂)
いつも楽しみにしてます!
ここしばらくはフレイの魔術師ぶりが全開でとても面白かったです。
自分は男フレイ様は黒い方が好きですね。

726私の想いが名無しを守るわ:2004/06/18(金) 08:28
>>キラ(♀)×フレイ(♂)
待ってましたよぉ〜〜〜!
もう読めないのかと心配していましたので本当にうれしいです!
個人的にはあの、暁の車のシーンを男三人でやっちゃうのかと想像し、
はらはらしていたんですが、
何事もなく(?)救出されて良かったです。
カガリ少年も大好きなので、今後の活躍を期待しています。

727私の想いが名無しを守るわ:2004/06/18(金) 08:35
>>キラ(♀)×フレイ(♂)
キラ(♀)の抱きつきシーン期待してましたが、その優柔不断ぶりが素敵でした。
かなりの筆量に圧倒されつつ、これだけ費やしてもアスランの考えが心に響いて来ない。
逆に、不可解と言われるフレイ(♂)様の方の考えが理解できるのは、既に毒され過ぎでしょうか。

キラ(♀)とアスランの映画ネタ。映画の結果じゃなく、そこに至るプロセスが気になるな。
比喩として使うのなら…… もし、イメージする作品があるなら、それ匂わすだけでも。

728私の想いが名無しを守るわ:2004/06/18(金) 09:50
「フレイ=アルスターです。よろしくお願い致します。」
バジルール少佐の力添えで通信士としての仕事をすることに決まった私は、まず最低限の仕事を覚えるために月基地にいる間研修を受けることになった。
研修と言っても、通信士担当の人から操作方法を教えてもらう、アークエンジェルにいた頃にはおざなりになっていた軍規を覚える、という程度のことだという話だったけれど。

「このパネルのここを操作して・・・・・」
皆丁寧に教えてくれるけれど、私は中々一度で覚えることができなかった。
本当に、私、できる事って少なかったんだ・・・・・
さして難しくない(少なくともMSの操縦よりは簡単なはずだ)操作ですら飲み込みの悪い私が、アークエンジェルにいた頃、何ができただろう。
何かできたはずだ、本当は。
本当はあの時やらされていた雑用だって大切な仕事だった。でも、真面目にやらなかったから、アークエンジェルで私は中途半端な立場でしかなかった。
今は通信士ならできるだろうって、バジルール少佐の信頼を受けたんだから頑張らなくちゃ。
私は必死で勉強した。皆の邪魔にならないように。
次にキラに会ったときに恥ずかしくないように。
私にもちゃんとできる事があったんだって、そう言えるように。

「フレイ=アルスター軍曹!」
ふと振り向くと、見覚えのある、同じ年頃の少年兵士が駆け寄ってきた。
「はい。ええと・・・・」
彼の名前はなんだっただろう。今度こそクルーの皆をちゃんと覚えなくちゃ。
アークエンジェルにいた頃みたいに自分の周りだけ見ていればいいわけじゃない。
バジルール少佐に迷惑をかけないようにしないと・・・・
「ケリィ=エヴィンス二等兵です。お話ししてもよろしいでしょうか。」
「え・・・・ええ・・・・何か?」
彼はきらきらと目を輝かせて私を見ている。
一体何なんだろう?
私は今はまだただの落ちこぼれで・・・何もこんな目で見られる事はないと思うんだけど・・・・・
「ジョージ・アルスター事務次官のご令嬢でいらっしゃいますよね。俺、あなたの話を聞いて、感動して軍に志願したんです。」
・・・私の話?
「『これでもう安心でしょうか?これでもう平和でしょうか。そんなこと全然無い。』・・・本当だ、と思いました。例えば中立国に逃げ込めば自分は平和なまま暮らしていけるかもしれない。でも、それは戦争が終わったわけではないんですよね。ただ、逃げているだけなんだ。」
「・・・それ、誰から?」
「志願の時に、映像を残されませんでしたか?正直俺は志願を迷っていたんですが、あれを見て決意したんです。俺も自分で戦わなくちゃって。」
「・・・私の映像が、志願を促すために使われているということ?」
信じられなかった。通信の時の記録を残してあったということだろうか。
「じゃあ、あなたは、私の言葉がなければ、軍には志願しなかった?」
彼は少しだけ笑みを浮かべて首をかしげた。
「正直・・・よくわかりません。ただ、あの時の迷いを断ち切ってくれたのは、貴女の言葉だったのだ、と。」
私は・・・・・・
「私は、そんなつもりで、あんな事を言ったわけじゃ・・・」
「いいえ、気持ちは同じです。俺も自分が平和な場所にいて、自分だけ平和でいることに疑問を感じたんです。だから俺は、戦う事にしたんです。あなたと同じように。」
私と同じように?違う。私は、本当はそんなこと思っていなかった。
「違うわ。私・・・・・私、あの時は、パパの復讐のことしか・・・・・・」
こんなの間違ってる。キラと同じように、サイと同じように、私のせいで戦争に巻き込まれる人なんてこれ以上いちゃいけないのに。
「わかります。お父上の事も聞いています。さぞつらかっただろうと思います。その状態で悲しみに沈むのではなく、戦う事を選んだ貴女を、俺は尊敬します。」
「違うの。私、そんな立派な事を考えていたわけじゃないのよ。あなたが私のせいで志願したというなら・・・・」
それは間違ってる。キラの時と同じだ。偽りの言葉に動かされて戦うなんて。
今だって私は自分のためにドミニオンにいるのに。
「あなたのおかげです。あの時決心できたのは。それだけ言いたかったんです。お忙しいところ失礼しました!」
言うなり彼は踵を返す。
「ちょっ・・・・・」
呼び止めたけれど彼はもう振り向かず、私は自分のしたことの恐ろしさを考えずにはいられなかった。

729散った花、実る果実57:2004/06/18(金) 09:55
「フレイ=アルスターです。よろしくお願い致します。」
バジルール少佐の力添えで通信士としての仕事をすることに決まった私は、まず最低限の仕事を覚えるために月基地にいる間研修を受けることになった。
研修と言っても、通信士担当の人から操作方法を教えてもらう、アークエンジェルにいた頃にはおざなりになっていた軍規を覚える、という程度のことだという話だったけれど。

「このパネルのここを操作して・・・・・」
皆丁寧に教えてくれるけれど、私は中々一度で覚えることができなかった。
本当に、私、できる事って少なかったんだ・・・・・
さして難しくない(少なくともMSの操縦よりは簡単なはずだ)操作ですら飲み込みの悪い私が、アークエンジェルにいた頃、何ができただろう。
何かできたはずだ、本当は。
本当はあの時やらされていた雑用だって大切な仕事だった。でも、真面目にやらなかったから、アークエンジェルで私は中途半端な立場でしかなかった。
今は通信士ならできるだろうって、バジルール少佐の信頼を受けたんだから頑張らなくちゃ。
私は必死で勉強した。皆の邪魔にならないように。
次にキラに会ったときに恥ずかしくないように。
私にもちゃんとできる事があったんだって、そう言えるように。

「フレイ=アルスター軍曹!」
ふと振り向くと、見覚えのある、同じ年頃の少年兵士が駆け寄ってきた。
「はい。ええと・・・・」
彼の名前はなんだっただろう。今度こそクルーの皆をちゃんと覚えなくちゃ。
アークエンジェルにいた頃みたいに自分の周りだけ見ていればいいわけじゃない。
バジルール少佐に迷惑をかけないようにしないと・・・・
「ケリィ=エヴィンス二等兵です。お話ししてもよろしいでしょうか。」
「え・・・・ええ・・・・何か?」
彼はきらきらと目を輝かせて私を見ている。
一体何なんだろう?
私は今はまだただの落ちこぼれで・・・何もこんな目で見られる事はないと思うんだけど・・・・・
「ジョージ・アルスター事務次官のご令嬢でいらっしゃいますよね。俺、あなたの話を聞いて、感動して軍に志願したんです。」
・・・私の話?
「『これでもう安心でしょうか?これでもう平和でしょうか。そんなこと全然無い。』・・・本当だ、と思いました。例えば中立国に逃げ込めば自分は平和なまま暮らしていけるかもしれない。でも、それは戦争が終わったわけではないんですよね。ただ、逃げているだけなんだ。」
「・・・それ、誰から?」
「志願の時に、映像を残されませんでしたか?正直俺は志願を迷っていたんですが、あれを見て決意したんです。俺も自分で戦わなくちゃって。」
「・・・私の映像が、志願を促すために使われているということ?」
信じられなかった。通信の時の記録を残してあったということだろうか。
「じゃあ、あなたは、私の言葉がなければ、軍には志願しなかった?」
彼は少しだけ笑みを浮かべて首をかしげた。
「正直・・・よくわかりません。ただ、あの時の迷いを断ち切ってくれたのは、貴女の言葉だったのだ、と。」
私は・・・・・・
「私は、そんなつもりで、あんな事を言ったわけじゃ・・・」
「いいえ、気持ちは同じです。俺も自分が平和な場所にいて、自分だけ平和でいることに疑問を感じたんです。だから俺は、戦う事にしたんです。あなたと同じように。」
私と同じように?違う。私は、本当はそんなこと思っていなかった。
「違うわ。私・・・・・私、あの時は、パパの復讐のことしか・・・・・・」
こんなの間違ってる。キラと同じように、サイと同じように、私のせいで戦争に巻き込まれる人なんてこれ以上いちゃいけないのに。
「わかります。お父上の事も聞いています。さぞつらかっただろうと思います。その状態で悲しみに沈むのではなく、戦う事を選んだ貴女を、俺は尊敬します。」
「違うの。私、そんな立派な事を考えていたわけじゃないのよ。あなたが私のせいで志願したというなら・・・・」
それは間違ってる。キラの時と同じだ。偽りの言葉に動かされて戦うなんて。
今だって私は自分のためにドミニオンにいるのに。
「あなたのおかげです。あの時決心できたのは。それだけ言いたかったんです。お忙しいところ失礼しました!」
言うなり彼は踵を返す。
「ちょっ・・・・・」
呼び止めたけれど彼はもう振り向かず、私は自分のしたことの恐ろしさを考えずにはいられなかった。

730散った花、実る果実/作者:2004/06/18(金) 09:57
すみません、728はタイトル入れるの忘れました。
わかりにくいので729にタイトルつけてもう一度同じ物をUPしました。

731私の想いが名無しを守るわ:2004/06/18(金) 10:48
>>散った花、実る果実
続編投下ありがとうございます。
フレイたまの一生懸命な姿がいじらしいです。
新キャラ登場ですが、どうなっちゃうんでしょう?
ひそかに連合のアイドルになっていたなんてちょっと嬉しいかも。
続きもお待ちしています。

732私の想いが名無しを守るわ:2004/06/19(土) 01:43
ここってアスラクだのアスキラだの、フレイ様の小説なのに
わざわざ他カプの設定まで変えてアスカガは書きません…という
職人さんが多いのでしょうか?前から不思議だったのですが。
書かないのは勝手なんですが他ヒロインの事とはいえ、何か設定の
変更が気になったので失礼します。

733私の想いが名無しを守るわ:2004/06/19(土) 02:08
アスカガを【書かない】じゃなくて、アスラクとかアスキラを【書きたい】なんじゃ?
二次創作ってそういうもんでしょ。>設定変更
ぬっちゃけキラフレラブラブってのも設定変更っちゃ変更なんだし、
そういう突っ込みは野暮ってもんだ。

と思うわけだが、さらに議論になるようなら次は議論スレでよろ。

734私の想いが名無しを守るわ:2004/06/19(土) 07:33
>>散った花、実る果実
フレイ様、研修に一生懸命な様子。いじらしいです。
>>次にキラに会ったときに恥ずかしくないように。
この台詞が、心に染みました。

それにしても、フレイ様の軍志願の台詞が、ここで使われるとは。
確かに、サザーランドは志望理由と共にプロパガンダに利用すると
マリューに公言していましたが……
私の場合、この後の鍵のディスクの真実と共に、フレイ様に試練の予感がします。
どちらに話が転ぶのかは、この先次第ですが……

それにしても、この空白期間の通信士研修は、フレイ様SS書きにとっては、
挑戦しがいのある素材ですね。私は、残念ながら、そこまでできませんでしたが。

735私の想いが名無しを守るわ:2004/06/19(土) 08:44
>>732
私も、ここで書いていましたが、カガリは、キラとの関係が、オーブでの「友人」から、
オーブ戦の「依存」に変わるところまでで、アスランを出す前に話が終わってしまったので、
そこまで進みませんでした。
もっとも、フレイ様に対する、もう一人のヒロインの設定変更が、とてつもなく人を選ぶのですが……

バトルの得意な書き手さんのは、アスランが可哀想なくらい(?)カガリに慕われていましたし、
毎日連載の人は、確かに設定変更して、アスランとカガリは出会いませんでしたが、カガリは
今後、結構重要な役目を持っていたようです。カガリとフレイ様は友人関係築いていましたし、
フレイ様とアスランは出会っていましたので、そのうち、三人が出会うのじゃないかと期待してます。
フレイ(♂)様の人は、まあ……

それ以外の人はフレイ様関係の設定変更が中心で、カガリが出ないものも多かったです。
ううむ、思い返すと、カガリとアスランに関して変えた人は、このスレでは少なかったんじゃ
ないでしょうか。

736私の想いが名無しを守るわ:2004/06/20(日) 11:37
>>散った花、実る果実
続編投下ありがとうございます
フレイ様が謙虚になってがんばってる姿がうれしいです
どちらかというと、前半DQNよりもドミ後のフレイ様が好きなので
次も楽しみにしています

>>キラ(♀)×フレイ(♂)
フレイ様の黒さがどんどん増してきて…
大好きなお話ですので、大量投下本当にうれしいです
アスランを言い負かしてしまうほど頭の良いフレイ様、カコイイ
こちらも続きを楽しみにしています

>>さよならトリィ
短編完結ものはここでは珍しいので、集中して読めました
フレイ様の気持ちの変化が、すごく身近に感じられて
ラストがすごく切なかったです
先にも書きましたが、後半フレイ様好きにとってはとても印象的な作品です
新作の投下もぜひぜひお待ちしています

737私の想いが名無しを守るわ:2004/06/20(日) 17:06
>>さよならトリィ
トリィに対する感情、キラに対する感情がリンクして切なかったです。
ラストはあんな書き方もあるんだ、と感心しました。
フレイ様の想いをトリィが運んで・・・・・・
とてもいい作品でした。次の作品の予定がありましたら楽しみにしてます。

738あぼーん:あぼーん
あぼーん

739私の想いが名無しを守るわ:2004/06/20(日) 20:58
此処は私、フレイ・アルスターのためのスレ。アツくなり過ぎちゃダメよ!
■気に入らない書きこみは全て放置しましょう。

740私の想いが名無しを守るわ:2004/06/20(日) 21:26
>>散った花、実る果実
フレイ様空白の2ヶ月間!
フレイファンならどうしても補完したいところです。
今回出てきた少年兵の行く末が気になります
続きを待ってます。
>>キラ(♀)×フレイ(♂)
毎回毎回すごく楽しみにしているんですが、
今回も期待を裏切らない面白さでした!
アスランとカガリの共同戦線もこれからどうなるのか気になります。
>>さよならトリィ
切ないという感想が多かったので読みました。
……本当に切なかった。
葛藤しながら生きて、光になったフレイ様に
読んだ後しばらく最終回後と同じ脱力感が来てしまいました。
次作も期待しています。
余談ですが、ここでは未完だった前作も楽しませていただいていました。

741散った花、実る果実58:2004/06/20(日) 22:30
私は私の疑問をそのまま放っておく訳にはいかない、と思った。
「バジルール少佐・・・・・」
ブリッジにはいない、バジルール少佐の自室にも。さっき食堂は見たし、あとは・・・・・・
次の作業時間までにバジルール少佐に会わなければ、というあせりと共に私は彼女を探した。
「バジルール少佐!!」
休憩時間だったのか、バジルール少佐は宇宙を眺めることの出来る後部デッキにいた。
「アルスター軍曹・・・・・うわっ・・・・・」
勢いあまって飛び込んでしまった私を、バジルール少佐はなんとか受け止めた。
「どうした。そんなに慌てて。何かあったのか?」
姉のよう私を覗き込む彼女の瞳は優しい。アークエンジェルにいた頃怖い人だと思っていたのが嘘のようだ。
「あの・・・っ・・・私の、軍に志願したときの・・!」
「志願?」
バジルール少佐は何のことだか分からない、と言ったように首をかしげた。
「ええと・・・・・私が、軍に志願したとき・・・・・・あのっ・・・」
焦っていてうまく言葉がつながらない。ああもう、こんなことしてる場合じゃないのに。
「どうした。少し落ち着きなさい。軍に志願した時の事で何かあったのか?」
「そうなんです。あの・・・私が軍に志願したときの映像って・・・・・!」
バジルール少佐の助けを得て私はせき止められていた流れが決壊するように話し始めた。
「私の言葉が志願を促すために使われているってどういうことですか?私、あれが映像として残されているなんて知らなかった。あの時バジルール少佐は傍にいましたよね、少佐もご存知だったんですか?何故そんなものが使われているんですか?私がザフトの艦に乗っていた間ずっとあれが使われていたの?私は死んだと思われていたのではなかったのですか?どうして、どうしてあんなものが使われなきゃいけないの・・・・?私、私そんなつもりじゃ・・・・」
「ちょっ・・・・・アルスターぐんそ・・・ちょ、ちょっと落ち着きなさい」
「だって・・・・・!」
なおも勢いの止まらない私を、バジルール少佐はなだめるように両肩をおさえ、座らせた。
「落ち着きなさい、フレイ・アルスター。お前はそもそも、何のために軍に志願したのだ?」
そもそもの理由。パパの復讐。キラへの謀略・・・・・?
顔が熱くなるのがわかった。
「パパが死んで・・・・このままにできない、と思って・・・・・・」
「父上の復讐のためか?」
こくん、と頷く。
「それに、キラに・・・・・・・」
「ヤマト少尉に?」
「キラは、コーディネイターだから、ちゃんと戦ってないんだって・・・だからパパは死んだんだって・・・・あの時は、そう、思ったんです。」
それは、今となっては違う、とわかる。ちょっとだけ本当かもしれないけど、それはキラのせいじゃない。
「でも、お前自身が軍に志願しよう、と思った理由がちゃんとあるだろう。・・・平和のために何かしたい、と思ったのだろう?」
とても優しいバジルール少佐の言葉が、今の私にはつらかった。

742私の想いが名無しを守るわ:2004/06/21(月) 03:46
>>散った花、実る果実
ナタルさんを捜して、焦って一生懸命なフレイ様可愛い……
月じゃないと、転げまくっているところでしょうね。
しかし、いきなり、復讐の真実を打ち明けても動じないナタルさんは、
艦長になって成長したのでしょうか。それとも、隠しごとだと思っていたのは
フレイ様だけで、大人組はみんな知っていた?

743私の想いが名無しを守るわ:2004/06/21(月) 05:50
 >さよならトリィ
全話一気に読みました。
台詞回しも放映中のフレイ様を思い起こさせ、AA時代のあたりなどは圧巻でした!
キラが出てこない分、お話としてフレイ様に集中できたような気がします。
 >キラ(♀)×フレイ(♂)
実は、このスレになってからの分しか拝見していないんですが
(近々過去ログから纏めて読ませていただきます)
フレイ様を男の子にしちゃったのに、すごく面白いです!
きちんとキャラ立ちしていてすごく魅力的な悪役ぶりにはまりました。
 >散った花、実る果実
こちらもこのスレからなんですが
自分的にはナタルフレイのコンビが好きなので、これからが楽しみです。
二人の会話をもっと聞きたいです。

744あぼーん:あぼーん
あぼーん

745私の想いが名無しを守るわ:2004/06/21(月) 09:15
>>散った花、実る果実
再開ありがとうございます!
自分もナタルフレイの桑島姉妹萌えですので
最新作の二人の会話に口元がゆるみっぱなしでした〜
>>キラ(♀)×フレイ(♂)
こんなフレイ君なのに、なぜかキラとうまくいってほしいと願う自分がいます。
優柔不断なキラは最終的にどこに落ち着くんだろ?
>>さよならトリィ
すごく良かったです!
フレイSSではフレイ様の死を他キャラが語るってほうが多いと思ってたんですが
こういう感じはあまり目にしなかったので
キラフレ的にはアンハッピーエンドですが
フレイ様自身的にはある意味幸せエンドだったのかなって。
又の投下、お待ちしております〜

746あぼーん:あぼーん
あぼーん

747私の想いが名無しを守るわ:2004/06/21(月) 10:46
一応修正テンプレ
こちらに添った書き込みをお願いします。
↓   ↓   ↓   ↓   ↓   ↓   ↓   ↓   ↓   

愛しのフレイ・アルスター先生のSSが読めるのはこのスレだけ!
|**** センセイ、         ・創作、予想等多種多様なジャンルをカバー。
|台@) シメキリガ・・・         真似では無い、あなたの本当の創作(おもい)を読みたいわ。
| 編 )    ヘヘ           自分では似ていないと思っても、今一度、読み直して確かめてみてね。
|_)__)   /〃⌒⌒ヽオリャー  ・エロ、グロ、801等の「他人を不快にするSS」は発禁処分。
|       .〈〈.ノノ^ リ))       ライトH位なら許してあげる。
        |ヽ|| `∀´||.        キャラヘイトは駄目よ。私以外のファンのためにも配慮をお願いね。
     _φ___⊂)__     ・フレイ先生に信(中国では手紙をこう書く)を書こう。
   /旦/三/ /|        感想だけよ。議論したいなら議論スレでね。
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|. |        感想が無くっても私負けない! 次は絶対がんばるから。
   |オーブみかん|/     ・ここで950を踏んだ人は次スレ立てお願いね。

             前スレ:フレイ様人生劇場SSスレpart5〜黎明〜
             http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/anime/154/1078235844/

748あぼーん:あぼーん
あぼーん

749あぼーん:あぼーん
あぼーん

750私の想いが名無しを守るわ:2004/06/21(月) 13:38
>>749
>>747

751私の想いが名無しを守るわ:2004/06/22(火) 09:10
>>散った花、実る果実
フレイファンなら誰もが知りたいドミでの空白の2ヶ月
新米軍人さんのフレイ様が愛らしいです

>>キラ(♀)×フレイ(♂)
筋と関係ないのですが
ウサギ狩中のフレイ様を想像してしまいました
絞めるのも、毛をむしるのも平気なんでしょうか?
ワイルドな一面も良いです!

>>さよならトリィ
トリィに感情があるかのようで…
フレイ様死にエンドですが、感動的でした
余韻の残るお話で大好きです

752散った花、実る果実59:2004/06/28(月) 00:04
「平和のために、なんて・・・・私、本当はそんな立派な理由で軍に志願したわけじゃなかった。」
私は握り締めた自分の拳を見つめながらつぶやいた。
「違うんです。本当は、私。・・・・本当に、パパの復讐のことばかり考えていた。」
「それがおまえの戦う理由というわけか・・・・」
淡々と囁くバジルール少佐の声。しかし私は少佐の顔を見ることができなかった。
「平和のために、なんて、嘘。・・・・ちょっとは本当だったけど・・・・・でも、パパを殺したコーディネイターなんて皆死んじゃえばいいって。そう思ってた。戦争なんて、嫌だったけど・・・・・早く終わって欲しかったけど・・・・・・」
自分がわからなくなった。
本当に戦争を終わらせたくてあんな事を言ったのか。
本当に復讐のことだけを考えてあんな事を言ったのか。
「結局私はあそこにいる時なんにもしなかった。・・・・私はただキラを、皆を戦争にかりたてただけ。それなのに自分は安全なところで怯えて丸くなっていた、ただそれだけだった。」
バジルール少佐は知っているはずだ。あの頃の私の情けない行動を。
「そうだな。正直、軍に志願した時の毅然とした様子とかけ離れた勤務態度に呆れなかった、と言えば嘘になるが・・・」
私は唇をかみ締めた。
「しかし、そんなものだろうとも思っていた。ヘリオポリスで最初お前達を見かけた時は『同じ年頃でもう戦場に立っている者もいるのに』と腹立たしく思ったものだったが・・・・・」
「ヘリオポリスで?」
気がつかなかった。私は、この人とヘリオポリスで出会っていたのだろうか。
「お前は気がつかなかったろう。いや、恐らく皆忘れているだろうと思うが・・・・お前と、ヤマト少尉と・・・・ミリアリア・ハウ二等兵もいたか?あまりはっきり記憶しているわけではないが・・・・ラブレターがどうの、とか騒いでいたような・・・・話題の中心はお前だったな?フレイ・アルスター」
バジルール少佐は悪戯っぽく微笑んだ。
「え?いや、あの・・・・・」
ラブレター?え?もしかして、サイの?
「ヘリオポリスでは随分もてていた様子じゃないか?アークエンジェルではヤマト少尉とアーガイル二等兵と一悶着あったようだし・・・・ここは女性兵士も少ないから、変な男にからまれないように気をつけるんだぞ?」
「あ、ああああの、ええええぇ!?」
バジルール少佐はこんなにお茶目な人だっただろうか。もっと厳格な人だったような気がするんだけど・・・・
「いや、あのですね、そうじゃなくて。」
そう、そうじゃなくて。私はもっと大事な話をしにきたはず。
「私はそんな立派な信念があって軍に志願したわけじゃなかったんです。だから、だから私・・・・私の志願理由を軍の広報に使うなんて間違ってる。」
流石にバジルール少佐は真顔に戻り、しかしこう言った。
「いいや、間違ってはいないよ、フレイ・アルスター。軍と言うのはこういうものだ。」
「でも・・・・!」
「まあ聞け。・・・軍としては、できるだけ兵士の士気を高めたいわけだ。それもできるだけ自然な方法の方が好ましい。ここまでは納得できるか?」
「はい。」
それはそうだろうけど、でも・・・
「軍にとって重要なのは、お前の言葉が真実であるかどうか、ではない。聞く人間にとって真実に聞こえるか。それを聞いて軍の士気があがるかどうか、だ。」
「・・・私の言葉が嘘でもいいって事ですか?」
理屈はわかる。わかるけど感情は納得できない。
「ああ。いいんだ、嘘でも。それが本当かどうかは本人にしかわからないだろう?・・・お前がやっていたのも、そうではないのか?」
私の、やっていたこと?
「ヤマト少尉を戦わせていた時。・・・・全て真実によって、お前は彼を動かしていたか?」
・・・キツイ一言だった。
今までの言葉が優しかっただけに尚更効いた。
「・・・私は・・・・・・・」
「いいんだ、フレイ・アルスター。お前を責めているわけじゃない。しかし、人と言うのは、多かれ少なかれそういう側面を持っている物ではないのか?私もそれを利用した。お前とヤマト少尉が寝食を共にしても何も言わなかったその理由がこれだ。」
バジルール少佐もキラを利用した?キラを利用するために私を利用したの?
「・・・私がそばにいればキラが戦う、ってそう思っていたから?」
「そうだ。あまつさえ私はヤマト少尉の両親を人質にとろうか、とも考えたことのある人間だ。しかしそれはしょうがないことだ、とその頃は思っていた。」

753私の想いが名無しを守るわ:2004/06/28(月) 06:31
>>散った花、実る果実
コンスタントに連載続けられていて、頭が下がります。
まだまだ、ナタルさんとの話は続きそうですね。
とりあえず、第一話のことまで正確に記憶しているナタルさん、スゴイです。

>>あ、ああああの、ええええぇ!?
フレイ様の言動も、お茶目になってる? ナタルさんに会って、今までの張り詰めた
気分が解き放されているせいでしょうか。

754散った花、実る果実60:2004/07/03(土) 00:30
キラの両親を人質に・・・・それはとてもひどい考えだ、と思った。
でもすぐ気づいた。私はザフトに対してラクスを人質にしようとしたじゃないか。
「そんな顔をするな。今はそれが正しいとは私も思っていない。」
複雑な表情の私を見て、バジルール少佐は苦笑しながら言った。
「ただ・・・・やはり他人の人生に立ち入るのには覚悟のいることだ。・・・・もうわかっているだろうと思うが。」
「はい。・・・私は・・・・・キラの人生を狂わせたのですから。キラには謝っても謝り切れない。でも、謝らなくてはいけないと思っています。それに・・・キラには伝えたい事があります。」
「伝えたいこと?」
「はい。キラに会ったら・・・会えたら、そうしたら言います。それまで内緒です。」
不安だった。とても。
この広い宇宙の中、もう一度キラに会えるという保証はどこにもない。
けれど、賭けてみようと思った。
キラの乗っているアークエンジェルを追いかけているこの艦に乗るのが一番可能性が高い。
ここにいて会えないのならもうきっと、キラには会えないだろう。
だから、可能性にかけてみよう、と思ったのだ。

「でも、だからこそ。もう、私のせいで誰かの人生が狂わされるのは嫌なんです。」
そう、そのためにバジルール少佐を探していたのだ。
「しかし、あの放送によって決意を固めたものがいるとして、それはある意味自身の選択であるとも言える。それを覆すのは、難しいのではないか?それに、今更覆すというのも彼らのためになるのかどうか・・・・」
「そうかもしれないけど・・・・でも、もう何もしないで後悔するのは嫌なんです。それがなんであれ・・・私にできることはやりたい、と思っています。」
アークエンジェルにいたときのような後悔はしない。もう二度と。

755散った花、実る果実61:2004/07/03(土) 00:36
「ケ・・・・・エヴィンス二等兵!」
「ああ、アルスター軍曹」
私を見る彼は本当に嬉しそうだ。
「どうかされましたか?」
子犬のような彼の瞳にかすかに罪悪感がうずく。
いいの?どのみち彼は軍を抜けることなんてできないんじゃないの?
だったら、夢を見せてあげたままの方がいいんじゃないの?
「何か?」
だめ、できることはしなくちゃって、そう決めたじゃないの。
「エヴィンス二等兵・・・私は、あなたが思っているほど立派な人間じゃないんです。」
「・・・どうしたんです?急に」
私は気持ちを落ち着けるために一つ大きく深呼吸をしてから話し始めた。
「私の映像を見て軍に志願したって言ってたでしょ?あの時の私の言葉・・・半分は、嘘なの。」
彼は黙って私の言葉を聞いている。
「私・・・・ヘリオポリスの出身なの。あそこで、友達と買い物をしている時に戦争に巻き込まれたの。それまでは私、とても幸せな人生を送っていたわ。ママは死んじゃっていなかったけど・・・・でもね、パパはとっても私を愛してくれたわ。私、片親の家庭だから不幸だなんて思ったこと一度も無い。でも、ヘリオポリスが崩壊して・・・・聞いたでしょ?ザフトとの戦闘に巻き込まれて跡形もなく消えてしまったわ。そして、私の乗っている避難シェルターが壊れて、それをアークエンジェルに拾われたわ。」
「アークエンジェルに行くまではあなたは軍人ではなかったんですね。」
「そうよ。・・・アークエンジェルに乗ってからも、私、軍の仕事なんてしようとも思わなかったわ。・・・皆は自分にできる事をしようって頑張っていたのにね。」
泣きながら戦っていたキラ、苦悩しながらもキラを受け入れたサイ、トールを失ったミリアリア、始終怯えていたカズイ・・・・・
「私、アークエンジェルさえ降りれば、自分はもう平和だって思ってたの。戦争なんて関係ないって。」
緊張に、私ののどが鳴る。
「パパが・・・死んだの。殺されたの、ザフトに。その時、アークエンジェルにはろくな戦力はいなかった。二人を除いて。エンデュミオンの鷹、フラガ少佐と・・・キラ・ヤマト。ヘリオポリスの学生だった、コーディネイター。」
何度も脳裏を掠めた、キラのあの時の言葉。
「出撃する前、パパを心配する私にキラは言ったわ、『僕たちも行くから大丈夫だ』・・・って。でもパパは死んだ。私は思ったの。パパが死んだのはキラが真面目に戦わなかったからだって。・・・コーディネイターだから手を抜いてたんだろうって。」
「あの戦闘での悲劇は俺も聞いています。・・・・ひどい損害だった、と。」
ひどい損害。そう、戦争においては大切な人の死が、そんな簡単な言葉で切り捨てられてしまう。
当事者が、親近者がどんな悲しみを覚えたかなどそこに入る隙間など無い。
あの時までは私もそれに気がつかなかった。
「パパは私のすべてだった。パパを失って、私は帰る場所を無くしてしまった。そして・・・パパを殺したコーディネイターを許せない、と思ったの。」
「そしてあなたは軍に志願なさったのですね。」
そう語る彼の瞳にはいまだ憧憬の影が色濃くその姿をあらわしている。
「『かつて父の愛情だけを受けて育った少女。父を奪われた少女は復讐を誓う。少女は健気にもその身を戦いの最中に置き、偽りの平和ではなく真の平和をつかむために戦う事を決意したのだ』・・・・あなたが考えていることは、こんな感じ?」
「・・・何故、それを・・・?」
「見たのよ、あれを、私も。例の私の志願した時の言葉を使った映像を。まさかあんな言葉で装飾されてるとは思わなかったけど。」
ため息と共に私は言葉を吐き出した。
「・・・・今のって、あの時の言葉でしたっけ?忘れてました。」
ケロっとして彼は言う。
それはそうだろう。大体、人は自分が重要だと思ったことしか記憶に残さないものだ。
「その言葉だけ聞けば感動的な話よね。でも違うのよ。実際はそんな感動的な話じゃないの。」
「ご謙遜なさらなくても。」
にこにこして彼は言う。・・・・思わず脱力しそうになる自分を励まして私は続ける。
「そうじゃないのよ。話を聞いて頂戴。・・・私はね、自分で戦うつもりなんて、全然なかったの。・・・私が軍に残ればキラも残ると思ったの。私がキラに身を委ねれば、キラは私のためにコーディネイターを殺してくれるって、そう思ったのよ。」

756散った花、実る果実62:2004/07/03(土) 00:40
「身をゆだね・・・・・って、その・・・・・」
「いいわよ、遠慮しなくても。・・・寝たのよ、キラと。思い通り、彼は私のために、アークエンジェルのために戦ってくれたわ。・・・殺したいわけじゃない、守りきれなかった、そう言って、泣きながら、ぼろぼろになるまで。・・・・あげくMIAになって。」
眉をひそめて彼は言った、
「それって・・・・なんだかとても貴女が悪女のように聞こえます。」
私は苦笑する。
「そうよ。悪女よ。ひどいでしょ?あなたの思っている私と本当の私は違ったでしょう?目がさめた?もう、虚像を追いかけて戦争をするのはやめなさい。でないと後悔するわ。戦争なんて、何かをなくすためにあるようなものよ。」
「でも貴女はここにいるじゃないですか・・・・なら何故まだ戦争から離れようとしないんです・・・・」
焦点を失った目で彼は呆然とつぶやく。もはや無意識なのかもしれない。
「戦争を終わらせたいからよ。そしてどうしても会いたい人がいる。謝らなきゃいけない人がたくさんいる。・・・だから私はここから逃げ出すわけにはいかないの。」
「俺は・・・・・・」
「さあ、あなたがそもそも軍に志願した理由は消えたわ。・・・あなたは、なんの為に、戦っていくの?」
「俺は・・・・・・・・」
言い過ぎたかもしれない。そう思った次の瞬間。
「何故、だったら何故、放っておいてくれないだ!」
彼は突然叫び始めた。
「あんたがどんな理由でここにいようとそれはいいよ。そりゃ個人の自由だ。だけどだからって俺の理想をわざわざ崩さなきゃいけない理由はないだろう?せめて放って置いてくれればよかったんだ。だったら俺はあのまま迷わずに戦いつづけることができたのに。何故わざわざそんな事を言うんだよ?」
やっぱり間違っていたんだろうか。そんな迷いがありつつも私は反論した。
「ではあなたはやはり私の言葉だけで軍に入ったという事?だったら今のうちにやめればいい。戦争って、そんなに甘いもんじゃない。知らずに済めばどんなに幸せなことか。そんなスクリーンを、マイクを通した脆い虚像が壊れただけで迷うような決心なんて持たなければいい。」
私は彼を睨みつける。
「あなたは何のために戦っているのよ。」
言葉を失った彼に、それ以上かけてあげる言葉を見つけることは、できなかった。

757私の想いが名無しを守るわ:2004/07/03(土) 06:33
>>散った花、実る果実
知らなければ、ごまかせば、それで何事も無く済むことだけど、それをしなかったフレイ様。
案の定、エヴィンスを怒らせてしまったけど、それは、以前のような考えの無い発言じゃなく、
自分のように後悔しないため、後悔させないための覚悟を持った重い言葉です。
狂い始めている戦争を止めるためキラ達が、どこかで戦っているように、フレイ様も戦っているんですね。
こんなフレイ様を見せていただいて感謝です。

758人為の人・プロローグ:2004/07/21(水) 18:08
戦争は終わった。
けれど僕の心にはまだ熱い、そして苦しい痛みが残っていた。
たとえどれほど時が流れようとも、それは僕の中ではじけ、
飛び散り、悲しみの破片をあちこちにばらまくことだろう。
色んな事があった。そして今も色んな事が起こっている。
もう取り戻せない過去と、進むべき未来が今、僕の中に生きている。
僕はキラ・ヤマト。最高のコーディネーター。

759人為の人・PHASE−1・1:2004/07/21(水) 18:10
戦争が起こって何ヶ月もが過ぎた頃。
その時僕は、コロニー「ヘリオポリス」の中にいた。
連合とザフト、どちらにも所属しない中立コロニーの中で、
僕はいつもと変わらない平和な日々を送っていた。
柔らかな日の光―偽りとは思えない―そんな光が辺りを照らす中、
僕は外のベンチに座ってキーボードを叩いていた。
そしてふいに幼い時別れた、無二の親友の顔を思い出した。

彼の名はアスラン・ザラ。きりっとした瞳と責任感あふれる顔立ちが
印象的だった。僕達は別れの日、桜舞う空の下で言葉を交わした。
彼の可愛らしく―そういうと失礼なのかもしれないが―着飾った恰好が
いつもとは違う雰囲気をどこか起こさせ、僕は不思議な気分だった。
彼は別れ際一羽の機械仕掛けの小鳥をくれた。
「トリィ」と鳴きながらまるで本物のような仕草をみせるその小鳥を
指先に留め、僕は鳴き声そのままに「トリィ」と名付けた。
その思い出は何故か、その日に限ってひどく鮮明に思い出された。

僕ははっと気づいた。見るとミリアリアとトールが立っている。
過去の記憶は水晶の砕け散るように消えて、現実が戻ってきた。
トールがいつものように僕に悪ふざけをしてくる。ミリアリアは
それを見て少し呆れつつも、自分のボーイフレンドの事を
楽しそうに見ている。僕も一緒になって楽しんでいた。
何の変わりもない、いつもの出来事だった。

道に3人、女の子が立っていた。どうも恋の話題で盛り上がっている
らしく、賑やかで明るい喧騒が僕の耳をなでた。
話題の中心になっているのは紅い髪の女の子で、友人の話に
困り果てたような口調で、それでも楽しそうな顔で言い返していた。
その子はミリアリアに話しかけてくる。話の内容はその子が
ラブレターをもらったというものだった。
その相手は、僕の親友でもありその子の婚約者でもあった少年、
サイ・アーガイル。僕はそれを聞いて、少し悔しかった。
僕は確かにその時、その子に淡い恋心を抱いていたのだ。

760人為の人・PHASE−1・2:2004/07/21(水) 18:11
ディスプレイで見ていた遠い地球での戦争。爆発が起こり、人が死に、
巨大なMSが大地を蹂躙する映像を僕はずっとこの目で見てきた。
それは酷い事だと思ったし、とても悲しい事だとも思った。
けれど僕はその時、まだ「思っていた」にすぎなかったのだ。
恐ろしい光景が繰り広げられていたのはまさに僕の生きている世界で、
僕がトールとふざけあっていた頃、地球では何人もの人が一瞬で
死に追いやられていたのだった。それはやはり現実だった。
突如、大きな震動が部屋にいた僕達を襲った。僕は初め何の事か
分からず、ただ他の人にあわせて避難を始めた。戦争が僕達のもとに
現れたのは明らかだったが、信じる事はできなかった。
ここは中立だから、絶対安全だから、僕はそこにいたのだ。
駆けぬけていく途中、一人の男の子に出くわした。正確には女の子で、
ずっと少年だと思っていた僕はびっくりした。彼女は部屋の中で
人待ち顔を続けていたのだが、平和が破られるとただ走り続け、
後を追った僕はとんでもないものを目にする事となった。
それはMSだった。
お父様の裏切り者、と彼女は地の底から絞り出すような叫び声で
その場にへたり込み、階下にいた敵の銃声が僕の耳に轟いた。
僕のすぐ側に戦場があり、赤い兵士が人を殺していた。
少年と見間違えた少女を連れ、僕は彼女をシェルターに押しこめた。
大きな瞳と、手入れのない真っ直ぐな金髪が僕の目に焼きついた。

そして僕は作業員姿の女性、マリュー・ラミアス大尉の指示に従って
彼女のもとへ向かった。何度も爆発が起こり、縛めを解かれたMSが
次々に動き出していた。ザフトが地球軍の極秘MSを奪いに来たのだ。
僕は熱い空気とすぐ近くで聞く銃声に心臓をこわばらせ、生きた気が
しなかった。喉はカラカラで、指先まで震えが止まらなかった。
恐怖の中、ラミアス大尉が撃たれた。僕の前に敵が迫ってくる。
僕はあまりに理不尽な死の可能性を限りなく100%に近づけられ、
その赤いザフト兵の持つナイフの切っ先に混乱寸前だった。
死ぬ。僕は死ぬ。本当に死ぬのかという思いが何度も頭に浮かんだ。
ふいにそのナイフが止まった。敵は驚いた顔をしていた。その顔は
はっきりと見えた。僕は目を見開き、懐かしい名前をつぶやいた。
そこには返り血にまみれたアスラン・ザラが、桜舞う昔の思い出から
成長した姿で呆然と手を止めていた。僕の頭は空白になった。

ラミアス大尉が隙を突いて僕をMSのコックピットの中に
突き落とした。僕達はMS、X−105ストライクの上にいたのだ。
そして僕と中に入ったラミアス大尉はMSを起動させた。
アスラン・ザラはその場から身を退き、別のMSのもとへと
向かっていった。僕にとっての真の戦争は、その時始まった。

761人為の人・作者:2004/07/21(水) 18:16
初めまして。放送中からかれこれ一年以上ROMらせてもらっていた結果、
ついに一念発起して書き込んでみることにしました。
内容はキラの軌跡を彼の自身の視点でたどるというものです。暗いです。
ちなみにフレイ様が「あの子」という表現になっているのは
こちらで読ませていただいた某作品に由来するものなのですが、
よろしいでしょうか?作者さんがいらっしゃったらご了承いただきたいのですが……


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