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穂乃果「千歌ちゃん」千歌「穂乃果お姉ちゃん」雪穂(………)
1
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/13(水) 06:17:46 ID:h4dW1d8.
・雪穂視点(全編)
・穂乃果と千歌は同学年の設定
・他オリジナル改変設定有り
・穂乃果ハーレム要素有り
・キャラ崩壊要素多少有り
・全体的に地の文比率高め
・安心と信頼のご都合主義展開
・全十章(予定)
※SS初挑戦&初投稿です(ネタで原型の一部となる短文を書いた事はあります)
※以前別所で見かけたネタコメをきっかけに妄想を膨らませたものです
※多くのSS作品の影響を受けまくっているためネタ被りが色々あると思います
以上、OKの人はどうぞ宜しくお願いします
354
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/27(水) 07:24:26 ID:lqHlZxEQ
雪穂 「今の学校に、ずっといたいのか…それとも…音ノ木坂に来たいと、思ってくれるのか…」
千歌 「……それは…」
雪穂 「それだけで、いいんだ…それだけが、聞きたいんだ。」
千歌 「……雪穂、ちゃん…」
雪穂 「………なんてねっ!」
千歌 「……え?」
雪穂 「まあ、私もね?最初は今みたいな路線で行くつもりだったし、もし千歌お姉ちゃんが、
今の学校の方がいいって言ったら…残念だけど、諦めようかなーって…思ってたんだ。」
千歌 「…え?え?」
雪穂 「でも、やめたの。そして決めたんだ。もし千歌お姉ちゃんが、そう言っても…
私は力ずくでも、千歌お姉ちゃんを…絶対に音ノ木坂に、連れて行くんだって!」
千歌 「え?……えええーーっ!?」
355
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/27(水) 07:46:22 ID:lqHlZxEQ
雪穂 「もう、ぶっちゃけちゃうとね?厄介な学校関連の面倒な手続きの準備に、ご実家からのご理解と承諾でしょ?
あと試験勉強の為の助っ人の準備と、それ以外の事も、やれる範囲の事は全部。もう用意…出来てるんだよ?」
千歌 「……へ?…な…な、なな……なんだってーーーっ!!?」
雪穂 「だからね?後はさー、千歌お姉ちゃんさえ、首を縦に振ってくれたらー…」
千歌 「ちょっ…ちょちょっ、ちょっとぉっ!?」
雪穂 「万事解決!一件落着!めでたしめでたし!って訳だよ♪」
千歌 「ちょーっと待ってっ!?ななっ、なにそれ!?聞いてないよっ!?」
雪穂 「今言ったよ?(サラッ)」
千歌 「っ!?……だ、だから…そうじゃなくって…!!」
雪穂 「何か問題でも?」
千歌 「も、問題だらけだよっ!!」
356
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/27(水) 08:08:24 ID:lqHlZxEQ
雪穂 「どの辺りが?」
千歌 「そ、それは…!だから、その……わ…私の、気持ち、とか…!」
雪穂 「だから後はそれだけだって、さっき言ったよ?」
千歌 「っ!?……で、でも!…もしかしたら私が、断ったりすることだって…あ、あるかも、知れないんだよ…!?」
雪穂 「その時は、私が問答無用で連れてくって言ってるじゃん。」
千歌 「っっ!!?」
私の余りにも一方的な発言の数々に、ただ圧倒されて行く千歌お姉ちゃん。
だが、私はもう決めたのだ。逃がすつもりなんて全く無い。
それは…この私の我侭が、必ず千歌お姉ちゃんと私達の、更なる幸せの道と信じているからだ。
その為には、強引だろうと無理矢理だろうと、例え今の時点で嫌われてしまおうと。
今、私にやれる事なら何だってやってやる覚悟が…今の私には、もうあるんだ。
千歌 「…ど…どど、どうしちゃったの、雪穂ちゃん…?その…き、気持ちは、うれしいんだけど……」
357
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/27(水) 08:16:58 ID:lqHlZxEQ
雪穂 「私は本気だよ。」
千歌 「…っ!!」
雪穂 「私は絶対に、千歌お姉ちゃんに音ノ木坂に来て欲しい。それに…
その為になら、どんな努力だって手段だって、何一つ惜しまない。」
千歌 「……雪穂、ちゃん…」
雪穂 「…私が望んだ、信じた、選んだ…私の、この我侭が……絶対に…
今よりもっと素敵な、私達の道になると…誓って言えるからっ!」
千歌 「…っっ!!!」
千歌お姉ちゃんは…言葉を失う。
それ程までに私は…自分の想いを、千歌お姉ちゃんに容赦なく叩きつけた。
そして私は、こんな時のお約束の(ゆきほ)モードに切り替えて、先を続ける。
ちなみに、千歌お姉ちゃん呼びはそのままで。この辺に関しては、流石に大分慣れてきたみたいだ。
358
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/27(水) 08:23:08 ID:lqHlZxEQ
雪穂 「さて、言いたい事は一通り言ったので…千歌お姉ちゃんには、
気持ちの整理をする為の時間を、来月の頭まで与えましょう。」
千歌 「……………(ハッ!?)」
雪穂 「その時に、千歌お姉ちゃんの気持ちを改めて聞きます。一応。」
千歌 「気付いたら話が勝手に進んでるよっ!?それに一応ってっ!?」
雪穂 「ですから。それまでの間に、よーく考えてくださいね。一応。」
千歌 「ええっ!?そのまま進んじゃうの!?しかもまた一応…っ!?」
雪穂 「まあー私としては、良い返事を期待していますけど。もしも…」
千歌 「…も、もしも…!?」
雪穂 「期待している返事では、無かった場合は…(ゴゴゴゴ…)」
千歌 「…ば……場合…は…!?(ゴクッ…)」
359
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/27(水) 08:27:13 ID:lqHlZxEQ
雪穂 「『YES』と言ってくれるまで、ずっと説得し続けちゃいますから!」
千歌 「………へ…?」
雪穂 「食事の時も遊ぶときも寝る時も。一緒に居る間は、ずっとそうし続けますからね。
だから、千歌お姉ちゃん?その時は…覚悟しておいて、くださいね♪(パチッ☆)」
千歌 「………(ポカーーーーン)」
まるで、狐に包まれたみたいな顔の千歌お姉ちゃん。
でも。これで私の本心は…伝えたい事は…全部伝わったと思う。
千歌 「……あ…はは……あはは……あはははっ…!」
我に返った千歌お姉ちゃんが、何だか可笑しそうに笑い出した。
千歌 「今日の雪穂ちゃん…なんか、穂乃果お姉ちゃんみたいだぁ…あはは。」
360
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/27(水) 08:31:56 ID:lqHlZxEQ
雪穂 「…今回ばかりは、穂乃果お姉ちゃんを参考にさせてもらいましたので。」
千歌 「あはは、そうなんだ……すっごく強引なトコとか…もう、ソックリだったよ。」
そう言うと、少し眉を八の字気味にしていながらも…
千歌お姉ちゃんは、穏やかな雰囲気で柔らかく微笑んだ。
千歌 「いきなりだったから、すっごくビックリしちゃったけど……でも、なんか…嬉しかった、かも。」
雪穂 「……」
千歌 「普段はクールな雪穂ちゃんが、穂乃果お姉ちゃんのマネしてまで、あんなに強引になったのは…
そこまで私のこと、大好きって…一緒がいいって、想ってくれてるんだって…伝わってきたから。」
雪穂 「……///」
千歌 「あれ…?雪穂ちゃん、もしかして…テレてる?」
雪穂 「///…私の気持ちが、伝わったというのなら…ちゃんと、真剣に…考えてみて下さいねっ///」
361
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/27(水) 08:37:46 ID:lqHlZxEQ
千歌 「クスクス……うん、わかった。私なりに、頑張って…これからの事…いっぱい、考えてみるね。」
雪穂 「……はい。」
そして私は、千歌お姉ちゃんに。
次の「その時」まで、この話はしない事を約束して。
この場での、この話を終わらせたのだった。
…私にやれる事は…全部やれたと思う。
後は、その答えを聞く日を待つ事にしよう。
いざという時は、強引に説得するまでとは言ったものの。
それでも…やっぱり私は…千歌お姉ちゃんの気持ちが、本心から…
私と、一緒になってくれる事を……強く願わずには、いられなかった。
362
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/27(水) 08:39:43 ID:lqHlZxEQ
今回は、ここまでとなります。ありがとうございました。次回もどうぞ宜しくお願いします。
363
:
名無しさん@転載は禁止
:2019/03/27(水) 18:09:02 ID:aL166PEU
乙
364
:
名無しさん@転載は禁止
:2019/03/27(水) 18:10:55 ID:ZG.ffyOc
とても良いな
365
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/28(木) 11:38:40 ID:BmS4aA0Q
<高坂家>
あの約束の日から、時間は過ぎて。
今日は八月一日。
そう。千歌お姉ちゃんの誕生日だ。
誕生日パーティーは、私達の家で盛大に行われる事になった。
参加者は、主役の千歌お姉ちゃん、穂乃果お姉ちゃんと私、お父さんとお母さん。
そして、ことりさん、亜里沙、部の友達の四人に、ヒデコさん、フミコさん、ミカさん。
それから、部の先輩で元μ'sのメンバーの、海未さん、花陽さん、凜さん、真姫さん。
今日来てくれた人達は、関わった時間の違いはあれど、これまでに千歌お姉ちゃんと交流があって、
あの時にも千歌お姉ちゃんを助ける為に、穂乃果お姉ちゃんの呼びかけに応えて協力してくれた人達だ。
そして今日も、千歌お姉ちゃんの誕生日を祝福する為に…こうして、みんな集まってくれたのだ。
366
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/28(木) 11:52:10 ID:BmS4aA0Q
お祝いしてくれる人達が、こんなにも来てくれるとは思っていなかったのか、千歌お姉ちゃんは驚いていたけど、
まず最初に、あの時にお世話になった事へのお詫びとお礼を、改めてみんなに伝えて…感謝の涙で、いっぱいになっていた。
雪穂(千歌お姉ちゃん?気持ちは分かるけどね。でも、まだ泣いちゃダメだよ。パーティーは…これからなんだから!)
お父さんが用意してくれた、自慢のラインナップのお菓子達と、
お母さんが用意してくれた、たくさんの美味しそうな料理達を、前に。
元気で明るい乾杯の音頭と共に…パーティーは、幕を開けた。
みんなから千歌お姉ちゃんへの、HAPPY BIRTHDAY SONG♪
みんなから渡される、両腕でも抱えきれない程のプレゼントの山。
パーティーは時間と共に…更に、大いに盛り上がってゆく。
そんな賑やかで楽しいパーティーの主役である、千歌お姉ちゃんは…
何度も涙を浮かべながらも…本当に嬉しそうに、幸せそうに、ずっと笑っていた。
367
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/28(木) 12:03:57 ID:BmS4aA0Q
真姫「…明るくなったわよね、千歌。今までは、何だか無理してるように見えたけど…安心したわ。」
海未「そうですね…きっと今の姿が、千歌さんの……いいえ……千歌の…本来の姿なのだと思います。」
凛 「凛は、前の大人しい千歌ちゃんも好きだけど、今の千歌ちゃんはもっともっと大好きにゃー!」
花陽「クス。そうだね……千歌ちゃんの、あの嬉しそうな顔……まるで…お日様、みたいかも…」
千歌「…あー!おーい、海未ちゃーん、真姫ちゃーん!凛ちゃんと、花陽ちゃんもー!こっちで一緒に、コレやろうよーっ!」
凛 「おおーと、凛たち呼ばれてるよ!今、いっくにゃーっ!!」
花陽「あ、凛ちゃん待って!私も、行くから………フフ、本当に……太陽、みたいな人…」
千歌「あ、待ってたよ!凛ちゃん、花陽ちゃん!ほーらー、真姫ちゃんと海未ちゃんも、早く早くー!」
真姫「ヤレヤレ、仕方ないわね……なら、いいわ。この真姫ちゃんの実力、とくと見せてあげるわ!」
海未「フフ…穂乃果一人でも、大変だったのに……これからまた、色々と大変そうですね……今行きます…千歌…!」
368
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/28(木) 12:11:10 ID:BmS4aA0Q
元μ'sのメンバーで部の先輩でもある、三年生の海未さんと、二年生の花陽さん、凛さん、真姫さん。
今この場にいる人達の中では、千歌お姉ちゃんとの交流は、そんなに多くはなかったのだけれど…
そう。何も心配なんて要らなかった。だって…この素敵な輪の世界で、いつも繋がってくれる…とても大切な人達なのだから。
ヒデコ「フミコ!ミカ!ちかっちに、J・S・アタックを仕掛けるよっ!!」
フミコ「OK!やるんだね!」
ミカ 「了解!いっくよーー!!」
千歌 「ええーっ!?ちょっとちょっと、なにそれぇっ!?そんなのズルいよぉーーっ!!」
そして…いつも目立たない場所から、みんなを支えてくれている、ヒデコさん、フミコさん、ミカさんとも。
元々、あの穂乃果お姉ちゃんと長く友達をやっている人達だけあって、三人とも実に逞しくて頼もしい人達で。
私が思ってた通り、今日の千歌お姉ちゃんとすぐに仲良くなっていた。またも、輪は…繋がって、広がってゆく。
それにしても。今の時点で、こんなにも盛り上がっちゃって…今日の誕生祝いは、夜までずっと続く予定なのに。
この調子で、二日後の穂乃果お姉ちゃんの誕生日パーティーの時に、みんなパワーは残っているのだろうか。
…なんてね。みんななら、そんな心配は無用に違いない。だってパーティー♪終〜わらない〜♪…ってね☆
369
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/28(木) 12:20:18 ID:BmS4aA0Q
それでも…楽しい時間は、あっとゆう間に過ぎてゆき…
日も暮れて…月がハッキリと、その姿を見せ始めた頃。
「片付けはいいから、気をつけて行っておいで!」と言ってくれたお母さんと、
その横で、指を立てて頷いてくれたお父さんに、「ありがとう!」と、感謝の気持ちを大きな声で伝えて。
私達は家を出て、今日の主役である千歌お姉ちゃんを連れて…ある場所へ向かった。
千歌お姉ちゃん本人には、どこに行くかは内緒なので、不思議そうにキョトンとしていた。
でも仕方無い。だってこれは、千歌お姉ちゃんへの…サプライズなのだから。
そのサプライズの為に…千歌お姉ちゃんには、現地へ着く少し前から、目隠しをして貰う事にした。
ちょっとの間だけ辛抱して欲しいと、私はお願いをして…やや不安そうではあったけど了解してくれた。
そして…移動を初めて暫く経ってから…いよいよ、目指す場所が見えて来た。
千歌お姉ちゃんの両肩を、私は自分の両手でしっかりと支えながら、
お互いに転ばない様に、気を配りつつ…ゆっくりと目的の場所へと歩いて向かった。
370
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/28(木) 12:46:10 ID:BmS4aA0Q
…実は、目隠しをされている千歌お姉ちゃんは、まだ気付いていないけど…
今、千歌お姉ちゃんの側にいるのは…こうして横で身体を支えてる、私一人だけだ。
その私達二人は、目的地に着くまでの残り僅かな間も、これまで通り慎重に歩き続けた。
それから十数分後…私達二人は、ようやく目的の場所へと辿り着いた。
そして…今、目の前にある扉を、私が片方の手で開けると…ここから奥の位置、舞台の側には…理事長がいた。
ゆっくりとこちらを向いた理事長は…今日、これからの私達を優しく見守る様に…微笑んでくれた。
理事長『…急な講堂の使用許可…しかも夏休みの時間外で……本来、最低でも二週間前には申請が必要なのは…分かっているわね?』
雪穂 『…はい。本当に、すみません……でも…ご無理を承知で……どうか、どうか…お願いします…っ!』
理事長『…………ハア……もう………こうゆうところは、お姉ちゃん譲りなのかしらね………でも……』
雪穂 『………』
理事長『……もしかしたら…また、私が…見落としてただけなのかも、知れないわね……あの時みたいに。』
雪穂 『?……えっと…その………あの時と…言うのは……』
371
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/28(木) 12:59:58 ID:BmS4aA0Q
理事長『以前にね。μ'sの人達と学校で宿泊したいって、ことりが言ってきた事があったのよ。
その時も、私ったら…うっかり…ね。本当、嫌だわ……歳って、取りたくないものね。』
雪穂 『………それって……確か……』
…その時の話は、穂乃果お姉ちゃんやことりさんから聞いていたので…私も知っていた。
μ'sが全国大会で優勝を果たした、その前日。後に聞いた…9人の想いが、本当に一つになれた気がしたという、その大切な日。
そして、そこには…こうして影で支えてくれていた人の存在が、理事長の優しさがあった事を…私は思い出していた。
雪穂 『……っ………理事長……ありがとう、ございます…っ!』
理事長『フフッ。私も応援してるわ……しっかりね。』
雪穂 『……はいっ!!』
本当に…いつも理事長には……何から何まで、助けて貰ってばかりだった。
私は、舞台の側の理事長へ向かって…あの時と同じ様に、心からの感謝を込めて…もう一度、頭を深く下げた。
372
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/28(木) 13:39:27 ID:BmS4aA0Q
それから私は、周りを見渡して…もう準備はOK、という合図を確認すると。
まず千歌お姉ちゃんに、ここに着くまでに不安と不自由を与えてしまった事を謝り、
その後…軽く深呼吸を、一つしてから……大きな声で、こう言うのだった。
雪穂 「さあ、始まるよ…!これは…みんなから千歌お姉ちゃんへの……サプライズプレゼントだよっ!!」
それと同時に。
もう必要の無くなった目隠しを、千歌お姉ちゃんから…外した。
暗闇から開放されて。
少しずつ視界が戻って来たであろう、千歌お姉ちゃんの前では…
千歌 「……ん………………え…………え…っ……………あ…………あ…あっ………っ……う…っ……う、そ……!?」
今…自分が立っている場所よりも、少し高い位置から。
煌びやかな衣装と、照明のライトで…その身を眩いまでの光に包まれた…
今も「伝説」と謳われ続けている女神達が……優しく微笑んでいた。
373
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/28(木) 13:45:13 ID:BmS4aA0Q
今回は、ここで一旦終了です。また次回も、どうか宜しくお願いします。
コメントを下さった方々、とても励みになっています。本当にありがとうございます。
374
:
名無しさん@転載は禁止
:2019/03/30(土) 00:11:40 ID:NfIbgG32
とても良いです
あなたは最高です
375
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/30(土) 09:01:58 ID:7fu6HE0s
私は……余りにも突飛な、このサプライズを思いついてから……悩みに悩んでいた。
もし実現すれば、きっと…ううん……絶対に、最高の贈り物になるという自信があった。
…だけど……もう「μ's」は……世に宣言している通り…その活動を…既に終了しているのだ。
元μ'sの先輩達は、現在ではソロやユニットだったり、時に一年生の部員の子達と一緒に活動をしている事もある。
現実的に考えるなら、そういった方面からみんなに協力をお願いするのが、本来なら最良の選択と言えるのかも知れない。
あるいは、現アイドル研究部の全員でステージに立つ、という形ならば…それはきっと、大きな期待が持てるに違いないだろう。
それでも…やっぱり私は…「μ's」に拘りたかった。どうしても「μ's」である事に、拘りたかったのだ。
千歌お姉ちゃんが、その輝きに惹かれて、焦がれた、大好きな「μ's」に。
亜里沙といくら熱く語り合っても足りない位までに、今でも夢中で仕方ない…本当に大好きな「μ's」に。
だけど…これは私一人の我侭だ。それに、ただでさえ私は…今も自分の我侭を、みんなに聞いて貰っていると言うのに。
それを頭では理解していながらも、私は……もしかしたら、という身勝手な希望と共に……結局、諦める事が…出来なかった。
そして遂に、私は……断られるのも、咎められるのも、覚悟の上で……元μ'sメンバーの先輩達に……
止まる事のない、自責の念からの涙を…堪えながら……今の私の想い、この我侭な願いを……正直に伝えた。
376
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/30(土) 09:38:10 ID:7fu6HE0s
ことり『うん!雪穂ちゃんのアイディア、とっても素敵だよ♪千歌ちゃん、絶対に喜んでくれると思うな♪』
海未 『それにしても、これが貴女からの案だなんて…正直、驚きました。やっぱり、姉妹なんですね…フフ。』
真姫 『まあ、いいんじゃない?私も賛成するわ。それにしても、なかなか粋なこと思いついたわね。』
凜 『凜もさんせーい!すっごく面白そう!よーし、凜も千歌ちゃんに、いいトコ見せるにゃー!』
花陽 『な、なんかこうゆうのって…ドキドキ、するよね…!でも、私も…何だか、楽しみかも…!』
穂乃果『……すごい……うん!すごいよ、雪穂っ!よーし、私も!穂乃果も!全力で頑張るからねっ!!』
雪穂 『……穂乃果、お姉ちゃん……ことりさん……海未さん……』
もう…私は……ずっと、堪えていた涙が……止まらなかった。
雪穂 『……真姫さん……凜さん……花陽さん……っ…ありがとう……ござい…ます……っ…』
だから…せめて……例え、ほんの少しでも……今の、私の気持ちが…伝わってくれる様に……
精一杯に、深く頭を下げて……震えが止まらない声ながらも…感謝の言葉を、懸命に伝えた。
そんな私の頭を、穂乃果お姉ちゃんが…笑顔で優しく、撫でてくれた。
私が顔を上げると…先輩のみんなも…笑顔だった。
377
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/30(土) 09:54:55 ID:7fu6HE0s
ことり『あ、そうだぁ!せっかくだから、また新しい衣装も作っちゃおうかな〜♪久しぶりだから腕がなるよ〜!やんやん♪』
穂乃果『それじゃあ、穂乃果も何か手伝うよ!私にも出来ることあったら、何でも言ってね?ことりちゃん!』
ことり『ホント!?やったあ〜♪じゃあじゃあ、ぜひお願いしちゃうね!穂乃果ちゃん、ありがと〜♪』
海未 『二人共…大丈夫なのですか?もう時間も余り無いですし…それに夏休みとはいえ、私達には、生徒会の仕事も…』
凜 『凜も手伝うよ!』
花陽 『わ、私も・・・!穂乃果ちゃん達よりは、まだ時間あると思うし…何か手伝えること、あると思うから…!』
真姫 『全く…しょうがないわね。私も、手伝ってあげるから…その…感謝しなさいよね…!』
穂乃果『凜ちゃん…!花陽ちゃん…!真姫ちゃん…!(ジーーーン)』
ことり『やったあ〜!凜ちゃんも花陽ちゃんも真姫ちゃんも、ありがと〜!!
みんなも協力してくれるなら、今からでも大丈夫!絶対間に合うよ♪』
海未 『…ハア…仕方無いですね。それでは…衣装作りの間だけ、生徒会の仕事は…私の方で、出来る限り進めておきますから。』
穂乃果『…海未ちゃん…!(ジーーーン)』
ことり『…海未ちゃ〜ん…(ジーーーン)』
378
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/30(土) 10:02:45 ID:7fu6HE0s
海未 『た・だ・し!それが終わったら…二人共!最低でも、今までの倍は働いて貰いますので…!いいですね!?』
穂乃果『うんっ!海未ちゃん…ありがとうっ!』
ことり『私も〜!ありがと〜、海未ちゃ〜ん♪』
海未 『…全く、もう……少しは、いつも振り回される私の身にも、なって欲しいです。』
花陽 『…クスクス。海未ちゃん…あんなふうに、言ってるけど……何だか、楽しそうだよね。』
真姫 『そうね。いつもは、ああゆう感じな人ほど…実は結構、素直じゃなかったりするのかも知れないわ。』
凜 『…きっと海未ちゃんも、真姫ちゃんにだけは言われたくないよね(ボソッ)』
真姫 『…ちょっと凜!今、なにか言ったでしょ!』
凜 『真姫ちゃんの気のせいだにゃ(目逸らし)』
花陽 『ま、真姫ちゃん、落ち着いて…!凜ちゃんも…からかっちゃ、ダメだよぉ…!』
穂乃果『みんなーっ!ホントにありがとーーっ!大好きだよ!!ぎゅーーーーーーーーーー♪♪』
ことり『じゃあ、ことりも〜!みんなぁ〜!ことりも大好き〜!ぎゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪♪』
凜 『あっ!なら凜も凜もー!みんな大好きだにゃ〜〜っ!!ぎゅうううぅぅ〜〜〜〜〜♪♪』
379
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/30(土) 10:17:34 ID:7fu6HE0s
真姫 『ハ、ハア!?ナニソレイミワカンナイッ!…って、もう…やっ…やめなさいよ…!』
海未 『ほ、穂乃果…!ことりも…!く、苦しい…ですから…!ちょっ…り、凜…まで…!』
花陽 『ピャアアーー!?…い、息が…できな……ダ、ダダ……ダレカタスケテーーッ!!』
雪穂 『(ポカーーーーン)……………プッ!…ククッ……フフ……ハハッ、アハハハ……!』
…ああ…そうなんだ……
この人達だから…μ's、だったんだ……
そして、やっぱり…今も……μ's、なんだ。
その光景が…余りにも、可笑しくて…そして、温かくて……私は、そう思った。
そうだ。
だからこそ、私は…
あの人達にも…
380
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/30(土) 10:32:37 ID:7fu6HE0s
…正直言うと……卒業生の人達にまで協力をして貰うのは、難しいかも知れないと…私は思わざるを得なかった。
あの三人の先輩達は、既に音の木坂を卒業しており…もうそれぞれの自分の道を、自身の力で歩み始めている真っ最中なのだ。
そんな立場の人達にまで…いくら顔馴染みといっても、私のこの我侭に付き合せようとするのは…許される事なのだろうか。
そう考えると私は…自分の気持ちが、少し揺らぎ始めている事に…気付いていた。
でも。だからこそ、思い出そうとした。あの時に託された…言葉と、想いを。
今…こうして弱気になりかけている、私自身を…奮い立たせる為に。
元μ'sの在校生の先輩達が、私の我侭な願いを温かく受け入れてくれた、あの日。
その後で…ことりさんと穂乃果お姉ちゃんが、私に言っていた言葉を……思い出すんだ。もう一度。
381
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/30(土) 10:42:01 ID:7fu6HE0s
千歌 「……うそ………なん…で……………今……あそこに………いる…のは……………………μ's………だよ…ね……」
ことり『それで、新しい衣装なんだけどね?やっぱり《全員分》作ることにしたんだ〜♪』
穂乃果『みんなで話し合って、そうしようって決めたんだよ。まあ、そうゆう訳だからー……よろしくね、雪穂っ!』
その時の、二人から私への言葉は…たったそれだけだった。
誰の分とも、何人分とも言ってなかった。私に何をして欲しいかも、言ってなかった。
でも、その意志は…想いは……ハッキリと私に…伝わっていた。
……ズルいなあ。もう。
ただ…私も。元より、そのつもりだったから…どの道、同じ事ではあったのだけれど…
まあ、それでも……本当に、ズルいよね……全く。
382
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/30(土) 11:22:50 ID:7fu6HE0s
そんな、ズルくてイジワルな先輩達の…言葉と想いを、胸に。
私は…何度も首を横に振りながら、自分の中の弱気を追い出して……覚悟を決めた。
それから…卒業生の先輩達一人一人に、何度も連絡を取って…
色々と無理を言ってしまいつつも、何とか全員の都合が付いた、この日。
こうして、三人全員に集まって貰う機会を…遂に得る事が出来た。
そして…余りにも我侭で強引な、私の計画を。
この計画への協力を、私が切に願っている事を。
私が今、どうしても叶えたいと思っている…この気持ちを。
ただ、正直に…在りのままに……三人の先輩へと、伝えた。
私の言葉に真っ直ぐに込められた、その想いを聞いて…
深く強く…頭を下げて…懸命に助けを願う私の姿を見ていた…
その三人の先輩達が、私に出した…その返答は………
383
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/30(土) 11:33:02 ID:7fu6HE0s
千歌 「…………そんな………どう、して……………μ's……μ's…が…………………μ'sの……9人…が……!」
雪穂 『………え……ほ、本当に……協力して…くれるんですか…!?本当に…また、ステージに……立ってくれるんですか…!!』
にこ 『…千歌は、穂乃果にとっても、あんたにとっても……大事なヤツ、なんでしょ?』
雪穂 『…はいっ!!』
にこ 『フン……だったら……とってもイイヤツに、それに《持ってる》ヤツに、決まってるじゃない。』
雪穂 『……っ………は、い…っ…!』
絵里 『…ねえ、雪穂ちゃん?多分…自分では、気付いてないのかも知れないけど。』
雪穂 『……え…?』
絵里 『今の貴女、以前よりも…すごく良い顔、してるわよ。』
希 『うん、ウチもそう思ってた。それにな?カードも…そう言ってるんや。』
雪穂 『……今の…私が……ですか…?』
384
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/30(土) 11:41:12 ID:7fu6HE0s
希 『そう……迷いから開放されて…優しさと自信と…決して揺らぐ事のない、とても強い想いに…満たされている……そんな顔や。』
雪穂 『………』
希 『そして、その想いは…ちかっちを通して……雪穂ちゃん達だけやない…
ウチらにも…いつか眩しい輝きを、見せてくれる…そう告げてるんや。』
絵里 『勿論、純粋に貴女達の力になりたい、というのもあるわ。ただ…実はね。私も、千歌には…何か感じるものがあったの。
それが何なのかを、私は知りたい。今は、私達が道標となって…あの子の持つ、その輝きが放つ光を…見てみたいから。』
にこ 『まあ、その時にはー、このにこにーの半分くらいは、せいぜい光ってもらわないとねー。
じゃなきゃ久々のステージなのにー、やり甲斐なくなっちゃうから!にっこにっこにー♪』
希 『にこっちは相変わらずやね。まあ、それはいいとして…雪穂ちゃん。ウチもな…見たいんや。ちかっちだけやない。
見てみたいんや…ちかっちに、雪穂ちゃんや穂乃果ちゃん、今の音ノ木坂のコ達が、紡いで生み出す…その輝きを。』
385
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/30(土) 11:52:40 ID:7fu6HE0s
絵里 『そうね…だから雪穂ちゃん。私達も、喜んで協力させて貰うわ。但し…先輩スクールアイドルとして、
後輩達に、そう簡単には遅れを取るつもりはないから。久しぶりに私も…全力でやらせて貰うわよっ!』
にこ 『あったりまえじゃない!雪穂!あんたにも千歌にも、新入り部員たちにも!
このにこにーとゆう、とても高くて険しい壁を!見せつけてあげるにこ〜♪』
音ノ木坂の卒業生である、にこさん、絵里さん、希さんは…在校生である元μ'sの先輩達よりも、
今までに千歌お姉ちゃんとの交流があった機会は、もっと少なくて…それこそ、片手で数えられる程でしかなかった。
それなのに…この先輩達は……こんなにも、優しくて…こんなにも、頼もしくて……
千歌お姉ちゃんの中にある…確かな「輝き」を…その可能性を……こんなにも、信じてくれた。
私の…無茶で我侭な、この願いを……拒否するどころか…こんなにも、頼もしく…受け入れてくれた……
そんな、本当に素敵な…この先輩達に……ちゃんと、お礼を言いたい私なのに……声の震えは…もう、止まってくれなかった。
雪穂 『……っ……にこさん……希、さん……絵里…さん…っ………本当に……ありが、とう……ござい……ま…す…っ…』
386
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/30(土) 12:51:45 ID:7fu6HE0s
そして…私が、何とか泣き止んで…落ち着いてから。どんなに忙しい状況であっても、
当日の時間までには、必ず駆けつけてくれる事を…卒業生の三人の先輩達は…約束してくれた。
ただ…それぞれの都合により、ぶっつけ本番のステージになってしまう事に…私は少し、焦りと不安を…感じていた。
元々忙しい人達で、ブランクだってあるのに…このままではリスクも大きく、多くの不安要素が残ったままになってしまう…
どうにか回避する可能性や手段はないかと…私は、思考をフル回転にして探してみるが…それを見つけられずにいた。
そんな私が、一体どうしたものか…と、顔をしかめながら、悩んでいると…
にこ 『あんたねえー…、私たちを誰だと思ってんの?ぶっつけなんて、そんなの楽勝に決まってるでしょ!』
絵里 『そうゆう事ね。大丈夫よ、雪穂ちゃん…心配しないで。安心して見てくれてていいわ。』
希 『そうや。こーんなに楽しそうなステージなんやで?ここはウチらに、ドーンと任しとき!』
三人の偉大な先輩の…改めて伝わってくる、その優しさと…その頼もしさに……
私は…再び流れる涙を、拭う事も忘れて……またも震える声で、もう一度……お礼を言うので…精一杯だった。
…本当に……何て…何て、素敵な人達なんだろうか。
この「μ's」という、スクールアイドルは。この9人の……伝説の、女神は。
387
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/30(土) 13:41:52 ID:7fu6HE0s
≪音ノ木坂学院 講堂≫
その9人の…全ての女神が…今こうして、この場に集まっている。
この講堂で、これから唯一人の観客となる……千歌お姉ちゃんの目の前に。
今日、この時を…この奇跡のステージを迎える前に。
千歌お姉ちゃんが特に好きなμ'sの曲を、私は日常の会話を通して…既に聞き出しておいてあった。
そう。これから始まるステージは、千歌お姉ちゃん専用のナンバーがリストに組まれている。
ステージの音響、舞台装置、その他全ての準備は、亜里沙と部活メンバーの友達に、
助っ人ならお任せの、ヒデコさん、フミコさん、ミカさん達によって、全てスタンバイ済みと…サインが出ている。
もうサポート役のみんなも、事前の準備を終えていて…スタートの時を、今も待ってくれているのだ。
今、ここにいる…みんなの想いが…一つになって。
きっと…もう二度と、無い筈だった…この幻のステージを……
今宵限り……この八月一日の、この夜だけ……実現させてくれたのだ。
そして、その全ての用意は…もう出来ている。
388
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/30(土) 14:28:09 ID:7fu6HE0s
だから…さあ、始めよう。
ここに蘇る、最初で最後の…μ's再結成のステージを。
まだ呆然としている、千歌お姉ちゃんの背中に…私は、そっと左手を当てて。
そして…ステージに向けて、右手をかざして…さっきよりも、もっともっと大きな声で。
雪穂 「さあ、千歌お姉ちゃんへ…!ここにいるみんなからのプレゼントだよっ!
今日だけの…今夜だけのっ……μ's、復活ライブが……今…始まるよっ!!」
そう宣言した私は、ステージの中央に立っている穂乃果お姉ちゃんへと…
今の自分の気持ちを、精一杯に込めた笑顔の後……首を縦に振る。
穂乃果お姉ちゃんは、溢れんばかりの笑顔の後……首を縦に振って、私に返してくれた。
次の瞬間。穂乃果お姉ちゃんは、館内に響き渡る大きな声で、叫ぶ。
この一夜だけ、再び煌く……最高に眩しい輝きへの。
その始まりの合図を。
389
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/30(土) 14:47:31 ID:7fu6HE0s
穂乃果「よーーし!みんなーー!いっくよーーーっ!!」
穂乃果「1!」
ことり「2!」
海未 「3!」
真姫 「4!」
凛 「5!」
花陽 「6!」
にこ 「7!」
希 「8!」
絵里 「9!」
穂乃果「μ'ーーーs!!」
μ's 「「「「「「「「「ミュージックーー……スターートーーーーーッッ!!!」」」」」」」」」
390
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/30(土) 15:10:55 ID:7fu6HE0s
千歌 「…ーーっっ!!!………あ……あ、あ……………あ………あ…あ……っ!!」
…千歌お姉ちゃんの、両目からは……大粒の涙が…溢れて続けていた。
でも、その表情は……最初こそ、すぐにでも泣き崩れそうな顔…だったけど……
いっぱいの涙が、零れ落ちるのは…止まらなかったけど……とても、幸せそうな笑顔へと…次第に変わっていった。
それを見て安心した私は…その場を離れて、ステージの手伝いに向かった。
そう。今、始まりを告げた…この奇跡の時間こそが。
ここに集まってくれた、みんなの想いと力と共に。
今の私が、千歌お姉ちゃんへと贈る事の出来る……最高の誕生日プレゼントだった。
ライブは始まった。
たった一晩だけの。たった一人の観客だけへの。
μ'sの……特別なライブが。
『I say〜♪ hey! hey! hey! START:DASH!!〜…』
391
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/03/30(土) 15:17:52 ID:7fu6HE0s
今回は、ここで終了となります。残りあと僅かとなりましたが、次回もどうか宜しくお願いします。
メッセージを下さった方、本当にありがとうございます。このまま最後までお付き合い頂ければ、とても嬉しいです。
392
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/01(月) 10:57:56 ID:QDzxZXq.
「START:DASH!!」
千歌 『私がμ'sと…初めて出会った曲なの。もう、衝撃だった……それにね、今でも信じてるんだ。
この時の出会いは…私にとって、きっと…ううん、絶対に。運命の出会いだったんだ…って。』
ステージの手伝いをしながら…私は、ただ圧倒されて……そして…魅了されていた。
これが、本当に……数ヶ月ぶりの…しかも、ぶっつけ本番でのステージ……なのだろうか。
「ユメノトビラ」
千歌 『…ユメノトビラ、ずっと探し続けた……私ね、この曲は特に…歌詞が大好きなんだ。それに、この曲を聴いてると…
何だか、私にも…素敵な歌詞が書けそうって…そんな気がしてくるの。私…歌詞を書いたことなんて、ないのにね。』
今、ステージで光輝いている9人の女神達は……声も…動きも…そして、その想いも……
その全てが一つになって…途方もなく、大きな力となって……強く、優しく、美しく…この空間を包んでいた。
393
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/01(月) 11:03:06 ID:QDzxZXq.
「Snow halation」
千歌 『何度もPVを観て、歌も振り付けも覚えて、いっぱいいっぱい練習して、頑張ってマネできるようにしてたんだー。
穂乃果お姉ちゃんのソロパートなんて、特に何度もやってたから…ちょっぴりだけど、モノマネには自信あるの!』
全国のスクールアイドル達の憧れであり…活動終了後の今も、伝説とまで謳われている存在で…
全国の数え切れない程のファン達が、どれだけ望んでも…この9人のステージを目にする事は……もう、叶わない。
その「μ's」が……
たった一人の観客の為に…目の前にいる、たった一人の…千歌お姉ちゃんの為に。
今も汗を流しながら…全力で、歌って。踊って。精一杯に、その想いを…伝え続けている。
394
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/01(月) 11:17:48 ID:QDzxZXq.
「もうひとりじゃないよ」
千歌 『歌詞と、穂乃果お姉ちゃんの歌声が…とっても優しくて…それが、とっても嬉しくて…私、何度も泣いちゃった。
寂しい時や、辛いことがあった時には…いつも、聴いてるの。その度にね…いっぱいの元気を、もらってるんだ。』
「SUNNY DAY SONG」
千歌 『μ'sが活動終了しちゃうって、知った時は…ホントに…すごくショックだった。私、その日…ずっと泣いてた。
でもね。あの日に私も、この曲を…不恰好だったけど…一緒に、歌って、踊って…すっごく、幸せだったんだ…』
千歌お姉ちゃんは、この夢の様な現実を。時間を。この煌く輝きを。想いを。
どんな色で、形で、大きさで。今、その胸の中で…受け止めているのだろうか。
395
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/01(月) 11:28:42 ID:QDzxZXq.
アンコール「僕たちはひとつの光」
千歌 『歌詞の中にね。μ'sのみんなの…9人の名前が入ってるのが、すっごく素敵なの!
それに、何だか切ないのに…温かい気持ちになれるメロディが、とっても大好き。』
千歌 『μ'sの、スクールアイドルの、たくさんのものが…ここに、この曲に詰まっているんだって…
そして…μ'sはいつも側にいるんだって、そう感じさせてくれる…本当に、大切な曲なんだ。』
今、千歌お姉ちゃんは…
見て、聞いて、感じてくれているだろうか。
スクールアイドルの、楽しさを…素晴らしさを…その可能性を……
396
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/01(月) 11:36:40 ID:QDzxZXq.
だけど……
夢は何時か、目が覚めるもの。
この場にいる誰もが…それを惜しみながらも。
束の間の、この奇跡の煌きと共に…
時間は…決して止まる事なく、過ぎてゆき……
そして…
夢の宴は…舞台は……遂に…
閉幕の時を、迎えた。
397
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/01(月) 11:43:01 ID:QDzxZXq.
今回は短めですが、これで一旦おしまいです。お付き合い頂いた方、ありがとうございました。
恐らく後1、2回程で完結となる予定ではありますが、最後までどうぞ宜しくお願いします。
398
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/03(水) 02:38:27 ID:C3Xd02Ts
今日、最大の誕生日プレゼントを…最高の形で、千歌お姉ちゃんへと…無事に渡し終えて。
…まだ、さっきまでの余韻に…もう少しだけ、浸っていたい……そんな気持ちを…私はグッと堪える。
ステージの手伝いをしていた亜里沙も、部の友達も…一年生みんなして、目には涙を浮かべてたけど。
でも…みんな笑顔だった。だって、あの奇跡のステージを…後輩である自分達で、見事にサポート出来たのだから。
ちなみに……実は、私も…コッソリと、泣いてたのは……みんなには…秘密にしておこう。
それから少し経った後。私達は全員、千歌お姉ちゃんの前へと集まっていた。
この場にみんな揃っているのを確認してから。今度は、卒業生の先輩達と理事長も一緒に。
「HAPPY BIRTHDAY DEAR 千歌♪ HAPPY BIRTHDAY TO YOU〜♪」
みんなから千歌お姉ちゃんへと。もう一度、お祝いの歌を贈った。
千歌お姉ちゃんの顔は…もう涙と汗で、グチャグチャになっていた。
そして…顔を両手で押さえ、下を向いて……嗚咽を漏らしながら…泣いた。
すぐ側にいた私は、そっと千歌お姉ちゃんを宥めながら…持ってきていたタオルで、その涙を拭いた。
399
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/03(水) 02:48:52 ID:C3Xd02Ts
その後…何とか泣き止んだ千歌お姉ちゃんが、私に一言お礼を言ってから…みんなへの感謝の言葉を、震える声ながらも…懸命に紡いだ。
千歌 「…皆さん……本当に…本当に……ありがとう…ございます。
こんなに、夢のような…最高の、誕生日を……私にくれて…」
千歌 「……私、今…すごく、幸せです……すっごく、すっごく…幸せ、なんです……
ここにいるみんなと、出会えたこと…知り合えたこと…仲良く…なれたこと…」
また泣きそうになるのを、何とか必死で堪えて…千歌お姉ちゃんは…続ける。
千歌 「そして…こんな、一生…忘れられない…絶対に、絶対にっ…忘れたくない…
日本一…ううん…世界一、素敵な……誕生日プレゼントを…もらえたこと…」
千歌 「……みんな…みんっ…な……本当に…本、当…に…っ………ありが…とう……ございっ…まし、た……っ…!」
頑張ってそう言い終えた、千歌お姉ちゃんの両目からは…涙が、また溢れ出していた。
だけど今度は、本当に嬉しそうで…そして、幸せそうな…とても眩しい表情だった。
その感謝の言葉と気持ちを、精一杯に伝えて貰った私達は…そんな千歌お姉ちゃんへと、心からの熱い拍手を全員で送った。
400
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/03(水) 02:53:41 ID:C3Xd02Ts
さあ。いよいよだ。
今。その時が、来たんだ。
私は…隣にいた穂乃果お姉ちゃんと、顔を合わせて…そして、共に頷いた。
それから私達は、千歌お姉ちゃんの正面に並んで立ってから…二人で一緒に語りかけた。
雪穂 「…でもね、千歌お姉ちゃん。まだ、なんだよ?」
千歌 「…え……雪穂…ちゃん…?」
穂乃果「そうだよ。だって千歌ちゃんは…もっともっと、幸せになれるんだからね!」
千歌 「…穂乃果、お姉ちゃん…?」
私と穂乃果お姉ちゃんは、少し横に移動してから振り返った。そこにいたみんなは、顔を見合わせながら…同時に頷いた。
ことり「千歌ちゃん♪」
海未 「千歌…!」
最初に、同じ三年生で同級生となる二人が、千歌お姉ちゃんに呼びかけた。
401
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/03(水) 02:57:02 ID:C3Xd02Ts
真姫 「千歌!」
凛 「千歌ちゃーんっ!!」
花陽 「ち、千歌ちゃん…!」
学年では一つ後輩になる二年生の三人が、続いて呼びかけた。
亜里沙「千歌さんっ!」
部員1「高海先輩!」
部員2「千歌先輩!」
部員3「チカ先輩♪」
部員4「ちかっち先輩っ!」
その更に後輩となる一年生達も、次々と呼びかけた。
ヒフミ「「「ちかっちーーっ!!」」」
いつも助っ人として支えてくれる三年生の三人も、揃って呼びかけた。
402
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/03(水) 03:05:12 ID:C3Xd02Ts
にこ 「ほら、千歌!」
希 「ちかっちー!」
絵里 「さあ……千歌…!」
頼もしい卒業生の先輩の三人も、後押しする様に呼びかけた。
理事長「千歌さん…いいえ……千歌ちゃん。こんなにもたくさんの人達が、この場所で貴女を待っているの…勿論、私もよ?」
この学校の最高責任者である理事長も、千歌お姉ちゃんが大好きな「一人」として…そう声を掛けた。
千歌 「……わ、私…は…………私……は………」
千歌お姉ちゃんは……もう自分では、どうしたらいいのか、分からない……そんな表情をしていた。
きっと…これまでの様々な記憶と感情が、まるで渦巻く螺旋の如く…ぐるぐると頭と心の中で、駆け巡っているのだろう。
それでも。まだ自分では、気付いてはいなくても…きっと答えは、もう出ている。
そう。あと必要なのは…今、必要なのは……最初の一歩を踏み出す、そのきっかけ。それだけなんだ。
403
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/03(水) 03:11:23 ID:C3Xd02Ts
だから。
さあ。仕上げだ。
今日の全ては。
今、この時の為に。
この音ノ木坂に、千歌お姉ちゃんを必ず連れてくる。
私、その為になら。どんな事だってするよって…あの時、言ったよね?
そう。これが私。これが高坂雪穂なんだよ。
だからね?千歌お姉ちゃん。
もう。今の私が、期待してる答えしか。
絶対に……許さないんだからね☆
404
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/03(水) 03:20:09 ID:C3Xd02Ts
穂乃果「千歌ちゃんっ!」
千歌お姉ちゃんから右に立つ、穂乃果お姉ちゃん。
雪穂 「千歌お姉ちゃんっ!」
千歌お姉ちゃんから左に立つ、私。
穂乃果「この学校で…この、音ノ木坂で……」
お姉ちゃんは、右手を差し出す。
雪穂 「私と、穂乃果お姉ちゃんと、ここにいるみんなと……」
私は、左手を差し出す。
そして…このありったけの想いを胸に、私は合図を取って。
雪穂 「……せーーーのっ!」
405
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/03(水) 03:35:25 ID:C3Xd02Ts
部全員「「「「「「「「「「「「スクールアイドル、一緒にやってみませんかっ!!」」」」」」」」」」」」
講堂の外にまで響きそうな、大きな声で。
部のみんなと一緒に、千歌お姉ちゃんに呼びかけた。
千歌「ーーーっっ!!!」
…激しく、驚いた顔をした後…
ただ……唖然となる、千歌お姉ちゃん。
今、その表情から察するに…『私、夢でも見ているのかな…?』と…そんな風に感じているのかも知れない。
でも…大丈夫。夢なんかじゃないよ。
それに、心配なんて何にもないよ。
だって。千歌お姉ちゃんには、こんなにも味方がいる。
406
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/03(水) 03:42:46 ID:C3Xd02Ts
私がいる。穂乃果お姉ちゃんがいる。ことりさんがいる。
もうすっかり仲良くなった、海未さんが、真姫さんが、凛さんが、花陽さんがいる。
千歌お姉ちゃんが大好きなμ'sの人達だって、こんなにもいるんだよ。
それに、仲良しになった後輩達も。亜里沙がいて、部のみんながいる。
きっと千歌お姉ちゃんなら、他の部員の子達とも、すぐに仲良くなれる。
頼もしい助っ人になってくれる、ヒデコさん、フミコさん、ミカさんがいて、
いつも私達をそっと見守ってくれて、そして支えてくれる理事長がいる。
それとね。三年生からのスタートでも、大丈夫。
ここにいる、にこさんも、絵里さんも、希さんも。
みんなμ'sへは、三年生の途中からでの参加だった。
それでも、あんなに輝いてた。
伝説のスクールアイドルにまでなった。
だから、きっと…ううん、必ず。千歌お姉ちゃんだって、輝けるよ。
407
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/03(水) 03:49:40 ID:C3Xd02Ts
私の願い。
千歌お姉ちゃんが、この音ノ木坂学院の生徒として…そして、スクールアイドルとして。
楽しい事も苦しい事も。ここにいる私達と一緒に、分かち合ってゆける事。
そして。みんなで一緒に手を取り合って、共に前へ進んでゆける事。
私の夢。
千歌お姉ちゃんと、穂乃果お姉ちゃんと、私。
私達、三人姉妹で。
いつか一緒のステージで、歌い、踊り、眩しく輝く事。
だから、ほら。
千歌お姉ちゃん、一緒に行こうよ。
これから、私達と。
いっぱい、いっぱい…輝こうっ!
408
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/03(水) 04:06:28 ID:C3Xd02Ts
時間は今も過ぎてゆく。
私とみんなの想いを詰め込んだ、あの呼びかけの後。
千歌お姉ちゃんの目からは…たくさんの涙が…また、零れ落ちて。
だけど。それでも、しっかりと…その顔を上げて。
それから、千歌お姉ちゃんは。
その右手で、
穂乃果お姉ちゃんの右手を取り。
その左手で、
私…高坂雪穂の左手を取って。
私達、一人一人の顔を……ゆっくりと、見渡した。
409
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/03(水) 04:21:54 ID:C3Xd02Ts
そんな千歌お姉ちゃんの、今の表情は……
千歌 「……ありがとう……」
私も、みんなも、穂乃果お姉ちゃんでさえも…
きっと今までに、誰一人……一度も見た事が無かった位の。
千歌 「…私も……私も……」
ずっと楽しそうで、ずっと嬉しそうだった、
今日という日の中でも……飛び抜けて、一番の。
千歌 「ここにいる、みんなと一緒に……」
たくさんの喜びと、いっぱいの幸せに、満ち溢れていて。
そして…すごく綺麗に……キラキラと、眩しく煌いている………
千歌 「 輝 き た い っ !! 」
最高の「笑顔」だったんだ。
【 終 】
410
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/03(水) 04:29:45 ID:C3Xd02Ts
第十章(最終章)は、これで終わりとなります。
全体としての完結は次回のエピローグという形になりますが、物語の大筋としてはこれで終了です。
ここまでお付き合い頂いた方々、今まで本当にありがとうございました。
願いましては、あと残り一回の最後も見届けて頂ければ、とても嬉しく思います。
411
:
名無しさん@転載は禁止
:2019/04/04(木) 22:48:53 ID:VSL.x4A6
遅れたけど今全部読ませていただきましたよー
終わるのはちょっと寂しいけど最後まで楽しみにしてます
412
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/05(金) 10:20:38 ID:IHhPxEKE
エピローグ 【未来】
雪穂 「あの…今からみんなで、記念写真を撮りませんか?」
部員4「お!それいいじゃん!」
亜里沙「ハラショー!ナイスアイディアだよ、雪穂!」
部員1「そうですわね。折角こうして、皆さんが集まってる事ですし…先輩方も、宜しいでしょうか?」
穂乃果「うん!もちろんだよっ!」
ことり「私も〜!とっても素敵な記念になるよね♪」
部員3「ほらほら♪チカ先輩は真ん中でしょ♪」
希 「そうやで?今日の主役は、ちかっちなんやから!」
千歌 「わっ、とと…!えへへ、うんっ!」
凛 「凛も凛もー!ほらほら、真姫ちゃんも早くー!」
真姫 「ちょっ、ちょっと凛!ソンナニ引ッ張ラナイデッ!」
413
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/05(金) 10:33:14 ID:IHhPxEKE
にこ 「あんたたちって、ホンット相変わらずねえ……あ、にこはココだにこ〜♪」
絵里 「流石にこね。そのブレなさ…大したものだわ…!」
海未 「全く…こうゆう時の騒がしさは、いつまで経っても変わりませんね。」
部員2「まーでも。その方が私たちっぽくて、いいんじゃないですか?」
花陽 「クス。うん…そうかも。だって、みんな…すごく、楽しそうだから…」
ヒデコ「あ、そーいえばさ。みんなで撮るんだったら、やっぱりカメラの方がいいよね。」
フミコ「えっと、それなら…全員が写れるようにタイマーのヤツ、持って来ようか?」
ミカ 「でも、アレってどこにあったけ。どうしよっか、今からちょっと探しにいってみる?」
理事長「もし校舎の方まで行くつもりなら、保護者という事で、私も一緒に…」
雪穂 「あ、それなら大丈夫です。」
そう言うと、私は上着のポケットから小型カメラを出して。
414
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/05(金) 10:39:04 ID:IHhPxEKE
雪穂 「私がこれでみなさんに合図して、撮らせて貰いますから。」
シャッターを切る役目を、自ら申し出た。
雪穂 「撮れたら後で現像して、ちゃんとみなさんにもお渡ししますね。」
それが当たり前かの様に、サラッとそう言った私に…少し驚いてからの、みんなの反応は。
そのままでは撮る役の私が写れないから、という理由で……なら自分が代わりに撮るから…とか。
じゃあ撮る人を交代で何枚か撮ればいい…とか。やっぱりタイマー式を探して持って来よう…とか。
ここにいる誰もが、私も一緒に写れる様にと…幾つもの代案を考えてくれて。
本当に…本当に……みんな、優しい人ばかりで。
でも…だからこそ、だった。
雪穂 「皆さん。気を遣って頂いて…本当に、ありがとうございます。でも…ごめんなさい…
これは…私の我侭なんです。だから、みなさん…一枚だけ…どうか、お願いします。」
そんな私からのお願いに…みんなは、少し戸惑っている様子だった。
415
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/05(金) 10:52:42 ID:IHhPxEKE
雪穂 「…私は……今日じゃなくて、いいんです。ううん……今度が、いいんです。」
千歌お姉ちゃんが、穂乃果お姉ちゃんやみんなと一緒に笑っている姿を。その瞬間を。
写真にも…そして、私の胸の中にも…しっかりと、焼き付ける事が出来る。
今の私には…それで充分に過ぎる程の贅沢だった。
穂乃果「……雪穂…」
千歌 「……雪穂ちゃん…」
私の、今の気持ちが…二人のお姉ちゃんには、この言葉を通して伝わった事を…私は肌で感じていた。
だって。私達は三人姉妹なんだから。それぐらいは、ね?
そう。この記念撮影は、これまでの自分自身への…私なりのけじめ。
そして。今、ここにいる私達のこれからへと繋げる為の…ささやかな儀式。
だから私は、今の自分の想いを…ただ在りのままに…みんなへと伝えるのだ。
416
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/05(金) 10:59:54 ID:IHhPxEKE
雪穂 「…だって……こうしてみんなが、集まって…また…写真を、撮って……
次は…私も、一緒に……みんなと、写れる…そんな…機会、なんて……」
人前で…素直に自分の気持ちを、表に出すのが苦手だった……私は…高坂雪穂は、今……
雪穂 「……これから、だって………いくらでも…あるじゃあっ、ないですか…!えへへ……」
みんなの前で……嬉しそうに、楽しそうに…そして、幸せそうに……笑えて、いるだろうか。
…うん。きっと大丈夫だ。
だって、ここにいるみんな。
誰もが。優しく、温かく。今…笑ってくれている。
だから大丈夫。私は、みんなを信じてるから。
ただ…ちょっとだけ。みんなが、滲んじゃって…見えるけど。
それでも…大丈夫。だって、いっぱいいっぱい。私は、笑えているんだ。
417
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/05(金) 11:05:45 ID:IHhPxEKE
そうだ。その日は絶対来る。
私が今、切に願っている日は。必ず。
もしかしたら、明後日の穂乃果お姉ちゃんの誕生日パーティかも知れないし、
それとも…今から何年も何十年も、先の日になるのかも知れない。
それでも。
その日は、絶対に来るから。
だから私は。
信じて待つ事が出来るんだ。
その日が来るまで……ずっと、ずっと。
それにね。
今のみんなの顔を見た、私は。
418
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/05(金) 11:26:11 ID:IHhPxEKE
雪穂 「はーい、みんな笑ってくださいねー。」
またみんなで集まって。その時も、また一緒に…こんな風に、記念写真を撮って。
雪穂 「あっ、端にいる人はー、もう少し真ん中に寄ってください。」
そこに写ってる、みんなの輪の中に。今度は……私も一緒に入っていて。
雪穂 「…それじゃあ、いきますよー!」
その場所にいる私が、とても幸せそうに。今よりも、もっともっと幸せそうに。笑っている。
雪穂 「はいっ、チーーーズッ!!」
そんな未来への…ドキドキと、ワクワクが……さっきから、ずっと。
カシャッ!
今だって、もう……止まらないんだからっ!
穂乃果「千歌ちゃん」千歌「穂乃果お姉ちゃん」雪穂(私の二人のお姉ちゃん)
【 完 】
419
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/05(金) 11:54:21 ID:IHhPxEKE
これにて、この物語は全て完結となりました。最後までお付き合い頂きまして、本当にありがとうございました。
ここで初めてのSS投稿をさせて貰う様になってから、特に最初の頃は緊張してばかりだったり、
応援を頂けた時すごく嬉しかったり、投稿中に突然思い立って修正したり、誤字や脱字に名前ミスで何度も凹んだり、
前半飛ばし過ぎたのと体調を崩したのが重なってしまって、後半息切れ気味になってしまったり…
今までに色々な事がありましたが、このSS投稿を通してとても貴重な良い経験をさせて貰えたと思っています。
初めて書いたSS、しかも初の長文、更には書き手である自分の圧倒的力量不足故に、稚拙でチグハグな作品であったと痛い程に自覚していますが、
それらも含めて、色々と至らないながらも何度も励ましを頂けたおかげで、遂にこうして完走する事が出来て…嬉しさと感謝の気持ちで今いっぱいです。
もし機会があれば、また番外編みたいなものを書けたらいいな…とも思っています(いつになるかは分かりませんが…)
今回メッセージを下さった方へ。この最後の投稿前に、とても温かい言葉を頂けて…ものすごく嬉しかったです。
そして…この完結まで見届けて下さった方々、今までメッセージを下さった方々、全ての方々に対して、大変感謝しております。
最後に…これまでお付き合い頂きました、全ての皆様に。もう一度、心からの御礼を申し上げます。本当に、本当にありがとうございました!
420
:
名無しさん@転載は禁止
:2019/04/05(金) 12:05:24 ID:PIMp16/M
って、なんで俺くんが!?
421
:
名無しさん@転載は禁止
:2019/04/05(金) 17:25:20 ID:jJKvaGpY
作者さん見てるー?
千歌を穂乃果たちと同世代にした上高坂家に住まわせるって前例がなくて正直かなり挑戦的な内容だと思ったけど
特に破綻もなく爽やかにかつ大団円で終わったのは流石です
ほのちか好きの自分としては最後まで楽しめたし、μ's最後の復活シーンは自分も千歌と一緒に感動しました
番外編もそうだけど、次回作あったらこのSSの作者って名乗ってくれたらまた見に行くよー
本当にお疲れさまでした
422
:
名無しさん@転載は禁止
:2019/04/05(金) 17:26:59 ID:jJKvaGpY
↑訂正
トリップ付けてるから別に名乗らなくてもよかったね
◆bK3.D2B8eMさん、改めて楽しいSS読ませてくれてありがとねー
423
:
名無しさん@転載は禁止
:2019/04/06(土) 00:13:57 ID:HH3TRrnE
とても良かった
濃い部分もありながら読後感も爽やか
素晴らしい
出来たら次回作、楽しみにしています
424
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/04/06(土) 13:22:15 ID:X92KUB02
感想を下さった皆様、本当にありがとうございました。
色々と至らない粗の目立つ作品であったと思いますが、それでも読んで下さった方々から、
こんなにも温かい、勿体無いまでの感想を頂けて…感謝と感激で、気持ちがいっぱいになっています。
それに…まさか次回作の事まで、自分が言って頂けるなんて…正直、考えてもいませんでした。
すごく驚いたと同時に、もう感無量でした。でも、折角そう言って頂けたので…いつか挑戦してみたいです。
そして出来れば、本編では書ききれなかった短編等を仕上げて、またここに投稿させて貰いたいと思っています。
その際に、もしお目に留まる機会がある様でしたら、またお付き合い頂ければとても嬉しいです。
今、ここでSS初投稿をさせて貰って本当に良かったと改めて思っています。もう一度、皆様へ。本当に、ありがとうございました!
425
:
名無しさん@転載は禁止
:2019/04/07(日) 00:48:31 ID:w44H1blY
まずは初めてで長期に渡って長編を書ききった事、お疲れ様です
プロットだけ練って満足する自分には出来ない事で本当に凄いことです
次回作を楽しみにしています
間を作りたい意図からか三点リーダが多かったのが特徴的な書き方でした
426
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/05(水) 08:28:27 ID:x4soCUzg
皆様、どうもお久しぶりです。
以前の本編投稿の際には、本当にありがとうございました。
今回から、番外編となる短編の方を投稿させて貰う事にしました。
相変わらず粗の目立つ出来とは思いますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
427
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/05(水) 08:36:35 ID:x4soCUzg
それは、千歌が高坂家へと帰って来る数日前の出来事。
雨が降りしきる街の中での、ある「勇気」の物語。
番外編 【勇気】
雨の降り続ける中、街で千歌がことりに発見されてから。
暫しの間、千歌は南家で癒しの時を過ごす事になり、
それから数日後、再び雪穂達の元へと無事に戻って来る事となった。
だが…実はそれが、一体どれだけ奇跡的な出来事だったのか。
あの雨の日の真実を、後に知った雪穂は…その際に大きな衝撃を受ける事となる。
その時よりも更に以前。あの日あの時の状況を、その翌日に穂乃果から聞いた時。
雪穂は、自分が原因で千歌を危うい状態にさせてしまったのだと、深く悔やむのと同時に、
そんな千歌の身に忍び寄る、闇の可能性を…何よりも恐れていた。
そして…
その時の雪穂が抱いていた不安は。
最悪にも…本当に的中していたのだった。
現実に起きた出来事として。
428
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/05(水) 08:44:11 ID:x4soCUzg
冷たい雨が降り続ける中、フラフラと彷徨うように街を歩く一人の少女。
激しいショックにより、目は虚ろで足取りは重く…雨に打たれた全身と制服は、ズブ濡れで。
まるで人形の様だった千歌の姿は…余りにも無防備で、無抵抗だった千歌は。
後に、雪穂が危惧していた通りのままに。
その姿に邪念を抱く輩にとっては…極上の獲物そのものだった。
その獲物の力の入っていない腕を、太い手が乱暴に掴んで、また別の手が背中を強く押して。
もう今すぐにでも、中の見えない黒い窓に覆われた大きめの車へと、連れ込もうとして…
それが済んだ直後には、車を走らせてこの場を去っていたに違いない…下品な目と声をした大柄な男達。
穂乃果からの連絡により、街で千歌を探していた真っ最中に。
偶然にも、その現場を目の当たりにする事態となった…
ことり(ちっ、千歌ちゃんっ!!?)
そのことりを襲った衝撃は…一体、どれ程のものだったのだろうか。
429
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/05(水) 09:02:00 ID:x4soCUzg
ことり(ど、どうしよう…!このままじゃ、千歌ちゃんが…!なのに、足が…ふっ、震えて……)
ことり(で、でも…このまま震えて、何もしなければ…絶対に千歌ちゃんは、連れて行かれちゃう…!)
ことり(だけど…もしも、私も一緒に捕まったりでもしたら…もう絶対に、助けられなくなる…!)
ことり(…雨が降ってるせいで、今周りには人が少ない…助けを呼んでも、気付いてもらえる?助けてもらえる!?)
ことり(なら急いで、警察に連絡をして……えっ…く、車のナンバーが…見えないっ!?)
ことり(そ、それに…通報しても、見つけるまでには時間がかかるだろうし…もし、見つけた頃には……手遅れ…だったら…!?)
焦り、不安、恐怖……あらゆる感情が束になって、ことりへと襲い掛かる。
それらに押し潰されそうになるのを、辛うじてギリギリで堪えて、
この僅か十秒足らずという間の時の中で…ことりは、必死に思考を巡らせる。
スマホで誰かに連絡をしようにも、その前には千歌を乗せた車が目の前から消えてしまっている事だろう。
柄の悪い男達、明らかに少女の誘拐、外から中が見えない上に、ナンバーまでもが見えない車…
どう冷静に考えても、あのまま車に乗せられた時点で詰みと判断すべき事態だった。
430
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/05(水) 09:14:41 ID:x4soCUzg
この様な最悪とも言える状況で、千歌の危機を救える可能性があるのは、
今はこの場にいる自分だけで…その為に残された時間が、余りにも少な過ぎるというこの現実。
ただでさえ追い詰められた精神状態であることりに、それが大きな重圧となって更に襲い掛かって来る。
ことり(私、私…一体、どうしたらいいの…!?)
ことりがそうしている間にも、時間はただ残酷に過ぎてゆき…
遂に残された時間が、完全に無くなる直前となった時。
ことり(…穂乃果ちゃん…っ!!)
傘を投げ捨てたことりは、ただ一目散に駆けてゆき、
その大柄で醜悪な男達の少し前まで辿り着くと…そこで立ち止まった。
そう。ほとんど無意識だったこの時のことりの行動が、
もしも後1、2秒でも遅かったら…もう間に合わなかった事だろう。
431
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/05(水) 09:39:02 ID:x4soCUzg
突然の出来事に「なんだなんだ」と、男達は少し驚いた様子を見せて動きを止める。
そんな男達の視線は、いきなり自分達の前に現れた一人の女の子へと今は向く事となった。
何とか男達の動きを一旦止めさせ、自分へと意識を集めさせる事に成功したことりは…
少しの間の後。
この男達の前で、唐突に…
ことり「ちゅ〜〜〜〜〜ん♪♪」
道化を演じ始めた。
ことり「はじ〜めま〜して〜の、ミ〜ナリ〜ンちゅん♪」
ことり「ここ〜でわ〜たし〜の、と〜くい〜わざ〜♪」
ことり「ミ〜ナリ〜ンお〜んど〜で、お〜どり〜ましょ〜♪あ、そ〜れ♪」
ことり「ちゅんちゅんちゅん♪あ、そーれ♪ちゅんちゅんちゅん♪あ、そーれ♪」
432
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/05(水) 09:52:32 ID:x4soCUzg
男達の世界は…完全に硬直していた。
今、自分達の目の前で起こっているこの事態に、全く理解が追いつかずにいたのだ。
ことり「ちゅんちゅんちゅん♪あ、そーれ♪ちゅんちゅんちゅん♪あ、そーれ♪」
反射的に体が動いていたことりには、この行動に何か考えがあった訳では無かった。
だが…あのまま何もしなければ。確実に手遅れとなって全てが終わっていた事は、充分に理解していた。
だから少なくとも、例え僅かながらの時間であったとしても、幾らかの時はこうして稼げたのだ。
ことり「さ〜あさ〜あ〜、あ〜なた〜もごいっしょに〜♪」
ことり「わ〜たしといっしょ〜に、お〜どりましょ〜♪あ、そ〜れ♪」
ことり「ちゅんちゅんちゅん♪あ、そーれ♪ちゅんちゅんちゅん♪あ、そーれ♪」
大きな声と大げさな動きで…ひたすらに歌い踊り続けることり。
こうしながらも頭をフル回転させつつ、何とか現状を打破する道を懸命に考える。
この咄嗟の芸で男達の注意を自分に惹きつけている隙に、まずは何とか落ち着いて現状の確認を行う。
433
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/05(水) 10:08:53 ID:x4soCUzg
ことりは、男達に悟られない様に注意しつつ、最優先である千歌の姿を横目で追う。
今、助ける対象である千歌は…この場所からやや左側の、約4,5メートル離れた位置にいた。
その千歌の細い腕をガッシリと。男達の一人の太い腕が、逃げられる事のない様に掴んでいる状態だった。
あの状態から…一体何があったのか、見るからに意識の朦朧としている今の千歌を連れて、この場から一緒に逃げる…
少なくとも、この男達に何かしらの隙でも無い限り、非力なことりでは…それは、まず不可能に近かった。
恐らくは、いずれかのタイミングで我に返った男達に妨害され…最悪の場合、自らまでも捕まってしまう事だろう。
故にことりは、最短な方法ながらも最難間となるこの選択肢は、現状では外さざるを得なかった。
しかし…他に何か別の打開策を見つけようにも、激しい緊張状態が続くことりは、
どうしても頭が上手く回ってくれず、ただ焦りばかりがどんどん募ってしまう。
男達がいつ正気に戻ってもおかしくない今の状況も、余計にその焦りを駆り立てていた。
434
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/05(水) 10:22:05 ID:x4soCUzg
それでもことりは諦めずに、ひたすら道化を演じ続けた。
歌い踊りながら、残り僅かであろうタイムリミットまでに何か次の手を打たなくてはと、
とにかく死に物狂いで今の重圧に耐えながら、頭の中では思考を巡らせ続ける。
しかし、無情にも…もう既に時間は残されていなかった。
ことりのその必死の思いを、冷たく無残に引き裂くかの様に…
我を取り戻した男達が、次々とことりの前に立ちはだかった。
その余りにも暴力的な威圧感に…ことりは心身共に、恐怖で震える。
気が付けば、必死の思いで続けていた歌と踊りも、今は完全に止まってしまっていた。
そんな一人の少女の、怯えて動けない姿を目の当たりにして。
余裕を取り戻した男達は、ようやく少しずつながら事態を把握し始める。
435
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/05(水) 10:36:18 ID:x4soCUzg
先程までは、あの奇妙なパフォーマンスに呑まれてしまって、すぐには分からなかったが…
恐らくこの少女は、自分達が先に見つけていたあの少女の、友達か関係者…或いは、ただのお人好しで。
先に自分達が捕まえていた少女を連れて行こうとしていたのを、きっと止めに来たのだろうと。
、
それにやっと気付いた男達は…揃って歪んだ醜い笑い顔で、下品に舐め回す様にことりの姿をジロジロと見る。
その悪意に満ちた目が、更に男達に気付かせる。むしろ、こっちの方が大事な収穫だとでも言わんばかりに。
そう。目の前で怯えているこの少女も…自分達にとっての最高級の獲物、そのものであった事に。
新たな極上の獲物を見つけ、下卑た笑いを口に浮かべてジリジリと…ことりに近づいてゆく男達。
しかしながら、千歌の腕を掴んでいた男だけは、同じ様な醜い笑みを見せながらもその場に留まったままでいる。
こういった事に関しては、非常に用心深く狡猾な連中であった故に…この局面ですらも男達に隙は無かった。
激しい恐怖と重圧に押し潰されそうになるのを、懸命にずっと絶え続けて。
いつ緊張の糸が切れてもおかしくない状態の中でありながらも、必死に歌と踊りで時間を稼ぎ。
その一方で、全力で思考を巡らせていた…そんな状態で、心身ともにエネルギーを消耗し続けていたことりは…
もう、その糸が切れる寸前だった。
436
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/05(水) 10:47:11 ID:x4soCUzg
このままでは、千歌だけではなく…自分も捕まってしまう…
なら、せめて…この場から自分だけでも逃げて、誰かしら助けを呼んだ方が…
そうした方が…まだ千歌を救う可能性が、少しは…あるのでは……
ボンヤリと、そう頭に浮かんだことりだったが…すぐにその考えを搔き消し、唇を噛み締めた。
ことり(そんなこと……出来るわけ、ないよね…)
ことり(…もしかしたら、私が捕まっちゃったせいで…後でみんなに、余計に迷惑をかけることになるかも知れない…)
ことり(でも…でも…!今の…あんな姿の、千歌ちゃんだけ置いて…自分だけ、逃げるなんて……)
ことり(やっぱり……私には、出来ないよ…っ!)
だから。
必死で、男達には抵抗して…少しでも時間を稼ごう。
そうすれば、どんなに可能性は少なくても。
何かチャンスは、そこで生まれるかも知れない。
437
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/05(水) 11:07:42 ID:x4soCUzg
ことりは思う。
そうだ。今の自分が一番やってはいけない事は、
ただ諦めてしまう事なんだ、と。
ことりは考える。もしも、これが穂乃果だったら。
ずっと昔から…そして今だって、自分が大好きな…あの穂乃果だったのなら。
この今の状況だって、絶対に諦めたりしない。
初めて出会った幼い頃から、ずっと見てきて…ずっと信じて、付いてきて…
大切な幼馴染みで、大切な親友……そして………
そんなかけがえの無い存在で、眩しい笑顔がよく似合う少女の姿を、ことりは胸に想い浮かべていた。
だから…自分も、そう在りたい。
彼女の様に、絶対に諦めたくないんだ。
そう覚悟を決めたことりは、
今立ち向かうべき相手達を見ている自身の目に…強く力を込めた。
438
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/05(水) 11:26:16 ID:x4soCUzg
そんなことりのすぐ目の前には。
男達のグループの中でも、特に身体の大きな男が…ことりを見下ろす様に立っていた。
この中央に立つ男に従うかの如く、その左右のやや後ろでは別の数人の男達が立っている。
どちらにしても。ことりの逃げ道は、既に失われている状況だった。
そして…恐らくは、この男達のリーダーと思われる中央の大きな男が、
ことりの細い腕を自ら掴もうと…その太くて荒々しい腕を、ぬっと伸ばした。
これから自分は、必死で抵抗しなくてはいけないのに。
ついさっき、そう強く決心したばかりだというのに。
頭では分かってはいながらも、おぞましいまでの恐怖が…またしてもことりを襲う。
ことり(っ!!…穂乃果ちゃん…っ!!)
439
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/05(水) 11:38:58 ID:x4soCUzg
心の中でそう叫び、目を瞑って縮こまってしまうことり。
ことり(ダ、ダメ…!早く、早く目を開けなきゃ…!それに、時間を…少しでも…!)
ことり(お願い…お願い…!私の体、私の目!…動いて……ねえ、動いて…!)
ことり(…お願いだから…お願いだからぁ……動いてぇっ!!)
ここまで強く、ことりが願っても…
完全に固まってしまっている今の体は、ことりの願う様に動いてはくれなかった。
これでもう…万事休すだった。
その筈だった。
ところが。
完全に追い詰められていた筈のことりが、
次の瞬間には乱暴に掴まれていると思っていた、その自分の腕には…
一向に、何の感覚も迫っては来る事が無いままだった。
ことり(…………え?)
440
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/05(水) 12:03:10 ID:x4soCUzg
それを不思議に感じたことりが、恐る恐る…ゆっくりと目を開くと…
すぐ目の前にいた男は、何やらキョロキョロと周りを見渡していたのだった。
何故なら…このリーダー格の男は、ことりの腕を掴むよりも先に。
自分や仲間の男達と同じく、これまで気付いていなかったことりよりも、先に。
少し前から自分達の周りに起きていた変化に、今になってようやく気付いたからだった。
男達は、自分達にとって重大なミスを既に犯していた。
ことりを追い詰め、更には千歌への隙も見せなかったまでは、まだ良かったのだが…
そこで素早く動かなかった時点で、余りにもツメが甘過ぎたのだ。
本来なら、まずは千歌を捕らえていた男が、そのまま無抵抗な千歌をすぐ車に乗せるべきだった。
その際にはことりを誘導する為に、なるべくワザと見せつける様に実行すれば、より効果は覿面だろう。
元々動けない上にそれに激しく動揺するのが目に見えてることりを、次にアッサリと捕まえてしまえばいい。
441
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/05(水) 12:26:32 ID:x4soCUzg
もしことりが、千歌を助けようと自分から車の方に向かってゆくというのであれば。
それこそ飛んで火に入る何とやらで。その勢いのままに、車へと押し込んでしまえばいいだけの話だ。
後は、運転をスタンバイしていた役目の男が車を出して、男達は用の無いこの場を去るのみだ。
仮に誰かに見られていたとしても、その対策として男達の車にはアレコレ細工をしてある。
車の中には、もし捕らえた獲物が暴れても大人しくさせられる様にと、色々なブツの用意もしてあった。
つまり男達は、さっさと二人を捕まえて車に入れてしまって、ここから離れればよいだけだったのだ。
本当に、たったそれだけで済んでいた事だった。
それさえのみを実行していれば、男達は極上の獲物を二つも手に入れて、
何もかもが自分達の望むままに、上手くいっていた筈だったのだ。
442
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/05(水) 12:40:43 ID:x4soCUzg
そんな実に単純明快な事に、仲間内の誰もが気付かなかった時点で。
ことりを捕まえる事に、無駄な人数と時間を掛け続けていたせいで。
男達にとって、最早それは取り返しの付かない致命的なミスとなっていた。
きっと中学時代の雪穂が、この愚かな連中の行動の手順を知れば、
何の感情も無い、非常に無機質な表情をするに違いないだろう。
故に。男達の命運は、ここでもう尽きていた。
この愚かな者達に残されていた道は、既に唯一つの方へと決まっていたのだった。
443
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/05(水) 12:52:30 ID:x4soCUzg
ワイワイ……ガヤガヤ……
今。
ことりと男達の周りには…数多くの人々の姿があった。
そう。この男達とことりが気付くよりも、少し前から。
やや離れた位置から、この場を大きな波で囲むかの様に…この場には、次々と多くの人々が集まっていた。
更には、近くのビルや他の色々な建物の窓からも、沢山の人達がこの場へと顔を覗かせている。
そんな中で…最初に反応した何人かをきっかけに。
集まっていた人達は、次々と気付いてゆく。
以前この街を大熱狂させ、その後も伝説とまで言われ続け。今でも大人気のスクールアイドル「μ's」…
その最初期から活躍していたメンバーの一人であり、数々の秀逸な衣装の担当としても有名で。
しかも、この街ではもう一つの名前でも知れ渡っていた、伝説のカリスマメイド。
そんな一人の少女…『南ことり』の存在に。
444
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/05(水) 12:55:03 ID:x4soCUzg
今回は、ここまでとなります。
気付いて読んで下さった方、ありがとうございました。
次回もまた、引き続きどうぞ宜しくお願いします。
445
:
名無しさん@転載は禁止
:2019/06/07(金) 22:42:16 ID:JMNczkNA
久々に読み返そうと思って来たらまた作者さん来てくれたんだね、お久しぶりー
また次の話も楽しみにしてるよー
446
:
名無しさん@転載は禁止
:2019/06/08(土) 06:04:08 ID:.7VI8yOc
穂乃果に睡眠薬飲ませて乱暴しようとした中学時代の同級生(
>>114
)といいこの男たちといいちょっと治安悪いイメージだね
でもそれを踏まえたら本編が女性だらけで平和な世界観なのもしっくりくるww
(作者さんへの悪口ではないよ、念のため)
447
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/08(土) 09:03:41 ID:KTg5HP1s
「…ねえねえ、あそこにいるのって…もしかして、ことりちゃんじゃない…!?」
「ウソ!?あのμ'sの南ことりかっ!?マジかよっ!!」
「だってだって!さっき聞こえた、あの声…間違いないよ、絶対!あの脳トロボイスはっ!」
「きゃーっ!ことりちゃんだーー!お願ーーい!おやつにしてーーーっ!!」
「ことりちゃーーん!愛してるよーー!!ちゅんちゅーん!ちゅんちゅんちゅーーん!!」
ワイワイ…ガヤガヤ…
「あれ?今日はことりちゃん、仲良しの海未ちゃんや嫁の穂乃果ちゃんとは、一緒じゃないのかなー?」
「バッカお前、嫁っつったらことりちゃんの方だろ。穂乃果ちゃんって実はイケメンだから、旦那ポジになるだろうしな。」
「えー?どっちも女の子同士なんだから、私は両方がお互い嫁派かなー。そして教会で、二人でウェディングドレス着て〜!きゃあ♪」
「今一緒にいるあの女の子って、ファンの子かな?それとも、ことりちゃんの友達か知り合いとか…へえ、あの子も可愛いじゃん。」
「でも、何か元気なさそう?……もしかして、禁断の三角関係だったり!?いや実は海未ちゃんも絡んでて四角!?きゃああーー!!☆」
ワイワイ…ガヤガヤ…
448
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/08(土) 09:09:10 ID:KTg5HP1s
「…そういやさ、一緒にいるあの男の人達って、誰なんだろうね?」
「記者かスタッフとか?何かのインタビューか、それとも撮影でもやってるのかなー。」
「街を歩いてたことりちゃんが、芸能関係者に捕まった感じだったりして。」
「…でも、なんかちょっと…ヘンな雰囲気、じゃないかしら…?」
「あんたも、やっぱそう思う?実は私も、なんかヘンかなーって…」
ザワザワ…ザワザワ…
「やっぱおかしいよね?あの男の人なんて、一緒にいる子を捕まえてる様にしか見えないし。芝居にも見えないよ。」
「…だよな。ガラの悪そうな男共が数人がかりで、可愛い女の子達にガチで絡んでるようにも思えるんだが…」
「あのさ、側に止まってるあの車だけど…アレおかしくない?窓、真っ黒だし…それに、なんでナンバーが見えないの?」
「うわっ、マジじゃん!?…これって、なんかヤバいんじゃないか…?」
「おいおい、どうする?もう通報しといた方がいいのかな?」
ザワザワ…ザワザワ…
449
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/08(土) 09:25:54 ID:KTg5HP1s
集まってくる人の数は、今や増える一方だった。
男達もことりも、共に互いのやりとりに意識が行っていた為に中々気付かずにいたのだが、
何時頃からか、さっきまで降り続けていたと思っていた雨は…今はほとんど止んでいたのだった。
その影響で、街を往く人々の動きも、徐々に活発になり始めていた矢先の事。
雨音が止んだこの空間に響き渡っていた、特徴的で可愛らしい歌声。
その歌声に引き寄せられた人達が、次々とこうして沢山集まって来ていたのだ。
この予想もしていなかった信じ難い状況に、明らかに狼狽し始める男達。
目の前の女の子のせいで、自分達はこんなにも多くのギャラリー達の注目を集めている。
それは男達にとっては、最悪とも呼べる状況となってしまっていた。
もしもこんな状態で、この女の子達にやましい行動等を起こしてしまえば…
この男達でも、その先を想像出来る程度の判断力は、まだ流石に残ってはいたのだ。
450
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/08(土) 09:43:55 ID:KTg5HP1s
その瞬間だった。
ことり「…っ!!」
この隙を見て、少し離れた男達の死角にそっと移動していたことりは、千歌の方へ向かって全力で走り出す。
日々のレッスンで鍛えられていた脚力は、今はこの時の為にあった。
μ'sのメンバーの中では、特別足が速かった訳ではないことりだったが、
堕落した世界の中で長い間、数々の毒によって自らの体内すら冒し続けてきた者達、
そんな連中相手には、充分過ぎる程の機敏な動きだった。
先程まで、やたら遅い口調の歌声とゆったりとした動きを、ずっと目にしていた男達は。
その突然の動きのギャップに驚きが隠せなかった上に、とうに鈍っていた自分達の反射神経では、
ことりの動きを止めるどころか、手を伸ばす暇すら与えては貰えなかった。
451
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/08(土) 10:13:08 ID:KTg5HP1s
男達の間で更なる動揺が走っている隙に、ことりは千歌の手を強く取り即座に駆け出す。
千歌の腕を掴んでいた男も他の男達と同様に、街の人々の出現と今のことりの行動に動揺していた為、
ことりは、自分の想像以上に力の緩まっていたこの男の太い腕から、いともあっさりと千歌を取り返す事に成功していた。
しかし、千歌はまだ意識が朦朧としていて、自ら走る事までは出来ない状態となっている。
このまま無理矢理引っ張って走って行ったとしても、ことりの力ではすぐに限界が来てしまう。
勿論、それはことりも充分に承知していた。
それでもことりは、千歌が転ばない様に注意を払いつつ、
人々の波にぶつからない様に、出来る限りのスピードで走る。
そして、男達が集まっている場所から約20メートル程まで離れた位置で、立ち止まり…後ろを振り返る。
ことりの予想していた通り、やはり男達は二人を追って来てはいなかった。
ことりからしても、こんなにも周りからの視線を集めてしまっていては、
流石にあの男達でも、後手に回らざるを得ないであろうと…
先に充分に察していた上での、この思い切った行動だったのだ。
452
:
◆bK3.D2B8eM
:2019/06/08(土) 10:27:10 ID:KTg5HP1s
そんな現状への自分の予想が、今ハッキリとした確信となり。
あの男達から巧く隙を突いて、こうして無事に千歌を引き離す事にも成功したことり。
そのことりが、次に取った行動は…
ことり「すうぅぅうう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……」
その場で、その小さな口を出来る限り大きく開けて……思いっ切り、息を吸い始める事だった。
そして。
ことり「みなさぁーーーーーんっ!!聞いてくださぁーーーーーいっ!!」
この場にいる、大勢の人々に向けて…
ことり「あのーー!!男の人たちはぁーーーーーっ!!」
ことり「とっても優しくてーー!!かわいい女の子でーーーっ!!私の大事なーー!!お友達をーーーっ!!」
ことり「数人がかりでーー!!乱暴に車に乗せてーーー!!攫っていこうとしたぁーーーーーーーっ!!」
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◆bK3.D2B8eM
:2019/06/08(土) 10:32:21 ID:KTg5HP1s
ことり「とっても、とってもーーーっ!!悪い人たちなんですーーーーーっっ!!!」
男達の公開処刑を執行した。
ザワザワザワ…ッッ!!
その瞬間から。
今までことりに向けられていた、この場に居た全ての人々の視線は…
鋭い刃と化して、そのまま男達へと移行していた。
思いもしなかった出来事に、ギョッ!?となって慌てる男達。
一人の少女の容赦無い暴露によって、数多くの突き刺さる様な視線を…今、一斉に自分達に向けられてるのだ。
そして、未だに自分達がこの場に留まっていた事の悪手ぶりに、ようやく気付くも…時既に遅しだった。
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