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NON-TSF「偶然が、あたしを。」※再掲、修正・加筆
1
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:33:53 ID:???0
どうしてこんな扱いを受けなければならないの。あたしはあの時たまたまあそこにいて……。なんで汚いものを見る目で……悪し様に罵るの――。
どうしようもなかったじゃない。叫んでも、泣いても、誰も助けてくれない。みんな、見ていただけの傍観者なのに。いえそうじゃないわ。傍観者どころか加害者だって思うもの……。
「ええ? 今日? え、もう家の前? きちゃったの?」
スマホの相手は従弟の淳樹くんだった。あたしの家から電車で一時間のところに住んでいる従弟は、今年で中学一年になる。あたしとは四つ違いで兄弟姉妹のいないあたしには弟のような存在だった。その彼が突然家にやってくるという。
『だって、約束したじゃん』
淳樹くんが希望の中学に受かって、そのお祝いにちょっとしたプレゼントを買うっていう約束。それは覚えてる、けど。
特に予定のない春休みの最終日。次第に暖かくなる日差しと大気。少年の心を少しばかり浮かれさせているのかもしれない。
「……はいはい。わかった、わかりました。とにかく、ちょっと入ってよ。今玄関開けるから。――おかあさぁん、じゅんきくん来てるよぉ」
二階の部屋から階下へ急いで降りる。その間に母へ一言伝えると玄関を開けた。
「みーちゃん、おはよう。早く行こうよ」
ちょっと見は女の子にも間違われそうな華奢な男の子が、ちょっと不満げな顔をのぞかせていた。
「あのね。まずは上がって。淳樹くん、突然きて、すぐ出かけられるわけないでしょう」
「――みーちゃんが先に、なんでも、買ってあげるって言ったんだぞ」
不満げな顔であたしを見上げ、そしてその視線は廊下の奥から顔を出した母へと移っていた。
簡単な挨拶を済ませると、淳樹くんを母に任せてあたしは大急ぎで支度をした。
あー、服買っちゃったからなぁ……銀行いかないと。今月きびしぃなぁ。
2
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:35:26 ID:???0
***************
着替えを終えて外にでると少し肌寒い感じがした。
しきりにせかす従弟が、先へ先へと行こうとする。ちょっとはしゃぎすぎかな。
「ほら、危ないから」
その手を握って軽く引き寄せた。
「! が、がきじゃねぇよ」
振りほどく力が以外と強くて、ちょっとびっくりした。背はまだあたしより低いのに。
なんで? と聞く前に少し恥ずかし気な表情を見て納得した。思春期、ね。女子と手を繋ぐことに抵抗があるのね。わかるわかる。あたしも経験あるし。
でも、そのうち触れてみたいって思うようになるの、多分。近寄りたい、触れたい、でも勇気がでない。そんな風になるのよ。
妄想に入りそうになったけれど、淳樹くんがあたしを見上げる目が不安を湛えていた。いけない、怒ってると思ってる?
「そっか、もう中学生だもんね。大人だよね。ごめんね」
「そう! 俺もう大人だし。女となんか手ぇ繋がない」
一転してにこやかになった表情からは、大人の風情なんて少しもないよ。まだまだだねぇ。
「で、なにが欲しいの?」
「ゲームソフト!」
「はぁ? あのさ、仮にも合格祝いだよ? もっとこう」
「ゲームだって形に残るだろ? 前から決めてんの。みーちゃ、美里が買う」
あたしはゲームしないからわからないけど、こんなんでいいのかな。てか、美里て。いつもはみーちゃんて呼ぶのに。ま、いいけど。
大人の割には道を歩くのに右に左に。果ては、クラスの娘にもしてるんだろうね、あたしの髪を引っ張ったり。まるで子ども。その大人一割子ども九割の従弟と戯れながら、あたしは行き先を考えていた。
いつも利用する銀行は比較的家に近い場所にあったけど、ゲームソフトを売っているようなお店は近くにないし。いっそのこと、駅前のデパートの一階の角を店舗としているところに行こうかな。デパートのおもちゃ屋さんもあるし、向かい側には大手の電気屋さんもあるし。見て回るにはちょうどいいかも。ついでに通帳書き込みしちゃおう。
3
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:36:12 ID:???0
***************
銀行の自動ドアを二人でくぐると右側にATMがある。そこでおろそうかとも思ったけれど、窓口だとキャラクターを使ったティッシュとかもらえることもあるし、もしかしたら淳樹くんに何かあげられるかも。そう思って、ATMの奥にあるもう一枚の自動ドアを開けた。
恰幅のいい、スーツのおじさんに促されて窓口対応の予約券?を取った。淳樹くんがはやくはやくと急かすけれど、とりあえず三人掛けくらいの長椅子に二人で腰を下ろした。
行内にはあたしたちを含めて五人のお客とフロア係かな、なおじさん。それに五つの窓口に三人の女性行員が座って忙しそうにしている。その奥にはやっぱりおじさん行員が五人とおばさんが一人。全部で十五人がいた。
三人のお客はおばさん二人とおじいさんだった。窓口に備え付けられている掲示板の番号が代わる。
「まだよ、あたしたちの番号は次の次の次、でしょ」
「えぇ〜、まだぁ?」
大人なんでしょ。静かに待ちましょ。窓口に向かって立ち上がったおじいさんを横目に、淳樹くんにそう言いかけた時、だった。
「はいはい、今日の業務終了。お疲れ〜」
なんだか間の抜けた声。え、まだお昼前でしょ? 携帯の時計もそうだし。
「お客様、申し訳ございませんが、そういったことは――」
さっきのフロア係のおじさんの声が終わらないうちに、生暖かい何かが、あたしの背中にかかった、気がした。そして何かが倒れる音。
淳樹くんが目を見開いてあたしの背後を見つめてる。なに? どうしたの? 視線を淳樹くんから外すと行内のみんながあたしの方を、違う、あたしの後ろを凝視していた。
「おらっお前ら、こうなりたくないだろ。だったらいう通りシャッターしめろや」
「ははは、有名になりたい僕たちに協力してくれよ。悪いようにはしないから」
恐る恐る振り返ると、年若い男たちが五人、にやにやしながら立っていた。
「え? なに? これ……」
男たちは口早にまくしたててる。けど、音は聞こえるけど、意味が、わからない。あ、おじさん……これは、血、なの? え、これ銀行強盗? ま、さか。
「……み美里、これって」
どうしたらいい? あ、淳樹くん……そ、そうよ。淳樹くんを守らないと! でも、どうやって?
震えるあたしの手が、淳樹くんを掴んで、手繰り寄せて、抱きしめていた。守りたいからなのか、怖いからなのか、自分でもわからなくて。
4
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:36:47 ID:???0
***************
もうあれから二時間くらい経ったのかな。お母さんたち、心配してないかな。
一か所しかない自動ドアの出入り口はシャッターが下ろされていた。もしかしたら他にも出口はあるのかも知れないけど、あたしたちにはわからない。それに男たちはあたしたちを待合の床に壁を向いて体育座りさせた。
男たちが占拠したばっかりの時は、おじさんたちが抵抗してたけど……銃を持つあいつらが笑うたびに大きな音がして……誰かが血を吹いて倒れて、動かなくなった。十五人いた筈のあたしたちは、おじさん行員は四人とおばさん行員が血を流してた。残りは受付の女性三人、お客の三人とおじさん行員二人。それにあたしたちの十人。
怖かった。だからあたしは、あたしたちは、あいつらのいう通りにした。だってあいつら、警察が行内に電話をかけてきたとき、「俺たち未成年だからなにしても平気じゃん」て言った。
淳樹くんは意外にも泣いたりしなかった。子どもだと思ってたけど、やっぱり男の子なんだ。だめだ、あたしの方が震えて、怖くて、泣きそう。
あいつらはタブレット持って、ずっとネット見てるみたいだった。
「おお、俺達にはネットの民がついてるぞ。情報ダダ漏れ。ひでぇー」
そういうと一人がタブレットと大型のモニターをつないで、画像を映し出した。そして画面をみてみろと言われて、みんなそれに従った。右を向くと画面が見えた。
そうなんだ。誰かがネットに銀行の周りの風景を映してアップしてるんだ。だから、みんな丸見え。
「準備できたな。あとは――」
そして、また警察から電話がかかってきた。
「タイミングいいなぁあんたら。今からいいものナマ中継すっからさ。こっちもモニターしてっから。できねぇだろうけど、ナマ中継の回線切ったら、一分で一人死ぬから」
これから何が始まるのか、わからない不安。そして直接的な死という言葉。
「なぁ、あれなんかいいじゃね?」「てか、年増じゃん」「だったら、やっぱ、黒髪ストレートだろ」
その場の空気が凍ったのがわかった。あたし以外はみんな少し明るめの髪。
あたし、死んじゃうのかな……。
「あ」
淳樹くんが小さく叫ぶ。その声に反応して視線を追うと画面の中に見慣れた服を着た女子の後ろ姿があった。
間違いようがない、あたしの服が映ってた。ただ、その服にはえんじ色の飛沫がかかっていて、少し震えているようだった。
5
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:37:28 ID:???0
***************
「おい、そこの黒髪ストレート、お前だよお前。こっちこい」
モニター越しのあいつらの視線はずっと、多分あたしの、背中を映してる。震える手で床を押して立ち上がろうとしたとき。淳樹くんの手があたしを掴んでいた。
「み、美里になにしようっていうんだよ!」
勢いよく立ち上がった淳樹くんに、「ダメだよ、淳樹くんっ」そう言おうとした途端、辺りを乾いた破裂音が響いた。そして何かが倒れる音。
「?!」
言葉より先に視線が淳樹くんを捉える。あ、無事だ、よかった……。
そう、よかった。でも淳樹くんの隣のおじさん行員は頭からだくだくと血を流していた。
「あーあ、かわいそうに。おねえちゃんが早く立たないから、おじさん死んじゃったじゃん」
げらげら笑いながらそういうと、あいつらのうち二人があたしたちの方に歩いてきた。
銃をあたしのおとがいにつけて立ち上がらせる。
「いう通りにしないと死んじゃうぞぉ。――こいつがっ」
「ぎゃっ」
もう一人が淳樹くんを銃で殴りつけた。あ、じゅんきくん?
足を振り上げたのが見えた時、身体が動いていた。
「や、やめてよっ。ひどいことしないでっ。わかったから! あたしが――」
少し震えている従弟の身体を抱きながら、なけなしの精一杯の勇気を振り絞って睨んだ。
あたしの視線なんてないもののように、従弟を殴りつけた男が顔を近づける。タバコ臭い息がかかるほどに。
「そうそう、いいこにしてたら命は助けてやるよ――お、こいつ、結構美人系? アフィリエイトいい感じじゃね?」
6
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:38:27 ID:???0
***************
あたしは待合の長椅子に座らされた。その間にあいつらはあたしと淳樹くんを除いた七人をガムテでぐるぐる巻きにしていた。
今更逆らう人なんていないと思うけど……だって、もう九人中六人が女性。残りの男性も子どもとおじいさんとおじさん。生き残る確率が少しでも高くなるなら、いうこと聞いて、やるわ――。
「よし、準備できたな。あー、これお前の財布だよな、名前は、あー」
体育座りさせられる前。あたしたちは全員、スマホもお財布も取り上げられてた。やつらの手があたしのお財布を触ってる……汚い。
座ってから何もされなかったせいか、心にほんの少し余裕ができてた。
「みやまえ、みさと、ね。……どうよ? え? ああ、そうか、顔わかんねーか」
言うと、タブレットをあたしに向かってかざしながら立ち上がって、多分、撮影し始めた。あたしはフレアスカートごと腿の後ろから抱くように、あいつらから身体が見えないようにした。
「これな、俺たちが育てたうそ発見器だ。ちっと時間かかるけどな、お前がうそを言ったらわかる。ってことはだ、その場合誰か死ぬってことだ。お前のせいで」
あたしのせい、なの? 違うじゃない。嘘つこうがつくまいが、殺しているのはあんたたちじゃない。それに。うそ発見器って心拍とか発汗とか調べるんでしょ。こんな離れててできる訳ないじゃない。馬鹿じゃないの?
「ま、そのためには基本情報がいるわな。学校どこよ?」
「……■■高校……です」
馬鹿だと蔑もうと思っても、逆らえるわけもなくて、躊躇したけど真面目に返答していた。
「お〜、そうかそうか。勉強できるJKか、いいねぇ」
「うんじゃ、みさとちゃん、試しに嘘の誕生日言ってみろ」
「……じゅう、がつ、みっか」
あいつらはじっとタブレットを見つめ、しばしの間を置いて言った。
「七月二三日、だよな」
え? なんで? 知って……。財布には名前はわかっても誕生日がわかるものなんて入れてないのに。
「びっくりしたか? でもまだ信じてないよなぁ。おまえ、好きなやつとか付き合ってるやついるか?」
「――つ、つきあって、ない――好きなひとって――あたし、べつに」
いないって答えようとした、のに。
「いるだろ、生徒会、のせんぱい」
「う、ち、ちがっ、せいとかいっしらなっ、せんぱい、は、ちがくて」
なんで? そんなこと……友達、一人にしか言ってないのに……ほんとに、嘘がわかるの?
「笑えるわー。そんなきょどってたら、うそ発見器なんていらねーって」
7
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:39:52 ID:???0
「そろそろ本番いくか。――安価な、安価。どうするって?」
「けっ、すげー普通。脱げ、だよ」
聞こえた言葉は、死ぬことより怖くはないのかも知れないけど、それよりも残酷に思えた。あれほど膨らんでいた反抗心とか勇気とか、そういう、自分を酔わせて高ぶらせるものが、霧散していくよう。
「みさとちゃ〜ん。聞こえたよねぇ。……また弟殴られてぇの?」
「まっ、て……いま、脱ぎます」
床でベージュのテーラードジャケットに手をかけたとき、長椅子に立って脱げと言われた。ほんの四十センチ程度視線が高くなっただけなのに……すごく動悸が激しくなって、息苦しい。やだよ、こんなの……。
ゆっくりジャケットに手をかけて、脱ぐ。そして畳もうとして血が目に留まった。こんなの見たくない。もしかしたらあたしも、なんて考えたくない。手早く畳むと長椅子の端に置いた。
濃いめのブルーと白のノーカラーボーダーシャツも脱ぐと上半身はブラだけになった。空調が動いているせいか、少し寒い。せめてキャミくらい着て来ればよかったかな。
ハイウエストフレアスカートの三つのボタンを外してジッパーを下げ、足元に落とした。
あたしは何をしてるんだろう――知らない男たちと従弟の前で下着姿をさらしてる。頭がぐるぐるしてる……誰か、誰でもいいから、助けてよ……。も、やだ。
「なんか止まってね?」「意外と着やせするねぇ」「嫌なのはわかるけどさぁ、人助けのためには脱いでくれないとぉ。こっちも金かかってるしぃ」
視線の先に淳樹くんの顔があった。後ろには銃口が見える。
「ぁ、う、やだ、ぬぐからっ」
恥ずかしい、けど、あたしがそうしないと、誰かが傷つく……。傷つけるのがいや、傷つけたといわれるのがいや、あたしがそうしなかったからって言われるのがいや、できるのにしなかったって言われるのがいや、脱ぐだけなのにしなかったって言われるのがいや、あたしが、いや。だからあたしはしなくちゃ、ダメなの。はだか、見られても、傷ついても、しないと、あたしがしないと。あたしにできることをすれば非難されない、きっと。――けど、あたしが傷ついたら誰か、何かを、してくれる?
後ろ手にブラのホックを外して、腕で胸を隠しながら脱いだ。片手でボーダーシャツの上に畳んでのせた。
もう、前を向くのが恥ずかしくて視線を上げられなかった。そこにタブレットを掲げながらあたしを下から覗く男の姿があった。
ショーツにかけた手が震えてる。あしもガクガクしてる。一瞬躊躇したけれど一気に脱いで全裸になった。
「ほら、隠さない。手は横。で、次は?」
「なんか、インタビュー、こんなの」
「AVかよ」
「JKっても毛ぇ生えてんのな」
全身が燃えたみたいに熱くなった。羞恥なんだと思う。そりゃ、毛ぐらい……誰だって、生えてる、でしょう? あ、ムダ毛、処理しててよかった……。
「じゃぁ、JKにちょっといいこと聞いてみよー」
「全部正直に答えないと、人質の人数へるから」
言われなくても、今更だった。
「みさとちゃんはあ、処女ですかー?」
「――は、い」
「えっとぉ、今感じてるぅ? だってよ」
「感じてないです……感じてるわけ、ないでしょう」
馬鹿な質問に猛烈に怒りを覚えて。だって、あたしは一所懸命従ってるだけ、恥ずかしいだけ、なのに。
「でもさ、乳首立ってるじゃん?」
行内のモニターにはあたしの乳首が大映しになっていた。
「こっこれはっちがうっ寒いから、だから」
正当な抗議のはずなのに、なんで言い訳っぽく聞こえるんだろう。それに従弟の目があたしの身体を食い入るように見つめていて。あたしは急に言葉が出なくなっていた。
8
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:41:10 ID:???0
「……こっからか。オナニーしたことありますか?」
顔も胸元も真っ赤になってるのだろう。すごく熱い。これも、もしかしたらわかってるのかな。嘘ついたらばれちゃって、誰か死ぬのかな。
「……な……あ、あり、ます……」
ないって答えたかった。だって、これって、こういうのって次に聞かれるのは――。
「せんぱぁい、ああん、すきですうって、こんな感じでやんだろ?」
「! うぅ、ちが、……そぅ、です」
一枚一枚、薄皮を剥がれて、あたしはどんどん小さくなってる気がする。この仕打ちが終わったら、あたしは残っているんだろうか。ふと、そんなことを考えて、目の前の悪夢から少しだけ現実逃避した。
「はい、質問タイム終了っと」
「はぁ? 俺たちまだ何にもしてねぇよ。どうすんの?」
終わり、なの? 裸見られただけですんだ? そう思った。本当にほっとしたのに。でも、現実はもっと残酷。
「弟の出番だって。――みさとちゃん、弟くんに性教育してやってよ」
「……え?……」
言うが早いか、男たちが二人あたしを両脇から抱えて長椅子に座らせた。もう一人が淳樹くんの口にガムテを貼って、腕も動かないようにぐるぐる巻きにした。そしてあたしの足元側に座らせた。
いくらなんでも、意図はわかるわよ……でも、こんなの……いやだ。
淳樹くんの視線は、ずっとあたしの、あたしの、あそこを凝視して離れない。その視線にいたたまれなくて、あたしは腿をすり合わせるようにしてた。
「だめだめ。ちゃんと自分で開いて、自分の口で説明してやんなきゃ教育になんないよ。――それに、あっちにとばっちりがいくかもよ?」
タブレットが他の人たちを映した。モニターで見ていたのか全員の身体が一瞬跳ねる。そして、一斉にあたしを視線が射貫く。
あたしを、なんだと思ってるの? あたしが犠牲になれば、自分たちが助かれば、それでいいの? ――いいんだね、きっと……。何もしないくせに。訴えて、批難して、強制する、だけ。
「こ、ここが、おんなのこ、なの、淳樹くん」
足を少し開いてみせた。誰にも、あたしも見たことないトコ。声が震えて、身体も震えてる。恥ずかしいを通り越して、もう、死んじゃいたい。
「だめだめ、それじゃ。割れ目開いてさ、ここがクリですーって細かく説明しないと。笑顔で」
世界が歪む。あ、あたし泣いてるんだ。
あそこに指をかけた時、ふと淳樹くんの後ろにタブレットを見つけてしまった。映してる、よね? これ。――やだ、やだっこんなのやだっ、もうだめ、こんなの、助けてよ、これ以上できないよ、誰でもいい、こんなのひどい。
頭の中で叫んだ言葉が口をついて出てたみたいだった。それすらわかってないくらい、パニックになった。
それを、また轟音がかき消してしまう。
もう、他の人たちの方は向かなかった。向けなかった。淳樹くんの顔がまた一人死んだって訴えてる。身体に刺さる視線があたしを責めてくる……。
――もう、淳樹くんだけしかいないと思おう。そうしないと、あたしの何かが破裂しそう。
「……淳樹くん、これが、あたしの……なの。花だと、めしべになる、のかな」
涙が頬をつたってる。でもあたしは言われたように笑顔を作って、足を大きく広げて割れ目も両方の指で開いた。粘膜に当たる空気が冷えてて、身体も心も凍らせていくみたい。
従弟の目は脅されているから? それとも興味から? じっとそこを見てる。
「ここは、く、クリトリス……敏感なところ」
指で指し示すと、従弟と目があった。このこは、あたしのここを見て何を考えてるんだろう。
「それから、これは小陰唇……この辺には尿道口があるの――その下が、膣口。この、奥には、処女膜とか子宮があるの」
「はぁ? おまんこだろ、おまんこ。ちゃんと言えよ。おまんこは何するとこよ?」
横から男が口を出した。なぜか、口に出したら、何かが変わっちゃう気がしてた。
「お、おま、んこ……あかちゃんが出てく」
「ちげぇーだろっ、もっと直接的に言えよっ。せんぱぁい、なんて言ってオナってんだろっ知ってること、言え!」
耳元の怒声に身体が硬直して。怖い、としか考えられなくって、言いたくないのに口が動いた。
「おちんちんが、ここに入るの。――おまんこにおちんちんが入って、精液がでて、卵子が受精して、あかちゃんになるの」
「おー、真面目そうなJKの口からおまんこって。そそるわぁ。でも最後はやっぱり赤ちゃんなのな。うける」
「お前も、よくわかったかぁ? おまんこにちんぽ突っ込んだら気持ちいいぞぉ。今度姉ちゃんの穴に突っこませてもらえ」
あたしの葛藤なんてどうでもよくて、ただ嬲りたいだけに思えて、唇を噛んだ……。
9
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:42:17 ID:???0
「次ってなによ?」
「なんか、イラマ? くそ、いいなお前ら。俺も早く参加してぇよ」
足を閉じようとしたけど、タブレットを持った男が淳樹くんの髪を掴んであたしのあそこのすぐ近くまで差し込んだ。動くなってことよね、これ。
距離が近くなった分、従弟の鼻息があそこにかかる。……あ?! やだ、これ、匂いが……。シャワーは浴びたけど……こんなの、恥ずかしすぎる。
顔を上げると視線が絡んだ。かがないで、って言いたかったけど、それだと息ができなくなっちゃう。
「これから何があってもまんこ開いたまんまでいろよ。歯ぁ立てんじゃねーぞ。じゃねぇとガキが死ぬぞ」
「え? 歯? いたっ?! あ、んぐぅ?!」
髪を掴まれて強引に首を反らされ逆さの世界になって……口が自然と開いて、そこに何かが押し込まれた。
なにっこれっ? 口の中――これ、おちんちん? うそっやだっ!
吐き出そうにも、髪から離れた手はあごと喉を掴んでる。喉の奥まで男の、おちんちんが、出たり入ったりしてる。猛烈な嫌悪感と吐き気があたしを苛む。
手を使って引きはがそうとしたとき、男の声を思い出した。――あたしは、物みたいにされるがままでいるしか選択肢がなかった。
耳に入るのは苦しそうなあたしの声と喉の音。そして男の興奮した吐息。それが段々激しくなって――わかってる、射精するんでしょう? もう、好きにすればいいじゃない……。
息ができない苦しさと、悔しさと、情けなさで何度目かの涙が流れた。
「おおっし、イクぞ。吐き出すなっ全部飲め、よっ」
「!」
口と喉を犯してたおちんちんの先から、熱いのが、多分精液が、喉の奥に飛び出した。
「――げっふ、ん、ぐっうっんんぐ」
言われた通り、吐き出さず、咽ながら飲み込んだ。すごく、気持ち悪い感触と臭い。吐き出したいけど、できなかった。
あたし、なんて情けないんだろう。あそこ、自分で開いたままで、精液まで飲み込んで……。あぁ、あたし今汚されてるんだ。なんで? なんかしたの? あたし。勉強がんばったのよ。人にやさしく、親切にってちゃんと守ってるのよ。なんでこんなことになってるの? そう考えても答えなんかでなかった。答え、多分、ないのわかってる。
「あれー? みさとちゃん、ちょっとおかしくなってね?」
「いいこちゃんにはショックだったんじゃね」
「あ、でた。これで全員やれるわ」
その言葉を聞いて、この後の展開が、わかっちゃった……あたし、レイプされるんだ。
男たちがあそこを自分で開いてるあたしを囲んで見下ろしてる。一人があたしの手を取ると拝むように組ませてそのままガムテで固定してしまった。
両側にいた男たちがあたしの片足ずつ取って、膝を折らせたままガムテでぐるぐる巻きにした。少しの自由はあるけど、今まで以上に大きく足を広げられて隠したいところは灯りの下で丸見えになってる。手を伸ばして隠そうとしてもあまり効果はなさそうだった。こんなの……現実感がまるでない、のに、あたしにほんとに起こってること?
「! ひっ、冷たっ、やっ、触んないで……」
もう一人がヌルヌルした液体をあたしのあそこに塗っていく……クリトリスも剥きながら、膣にも指が入ってきてる……あぁ、誰にも触れられたことないのに……いやぁ……。
抵抗したらまた誰か死ぬんだって思って、きつく目を閉じてなるべく何も考えないようにしようと思ったとき。
「思ってること口にだしていいぜ。なんなら、抵抗しても構わねぇ。こっから先は誰も殺さねぇ」
低い声が耳元で囁いた。
10
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:43:07 ID:???0
「……やだ」
「ああ?」
「お願い、お願いします、犯さないで」
気付くと、あたしは圧し掛かってきた男の押し返しながら叫んでた。
「も、やっ、こんなの、お願い、やめて、犯さないで。あたし、できるから、そう、さっきみたいにできるから。ねっ口で、口ならいくらでもするからっ。お願い、やだっ、やめてよっ、こんなのやだっ。入れないで、入って、こないでっ、でて、でてよっ。あたしからっ。あっやめっ、ひっいたっ痛いっいやっだめっやだっ助けてっだれか、痛い痛い痛い痛いよ、やっやだっ助けっせんぱい、いやあ、たすけてっあああ」
「ひぃきっつっぅ。おら、元処女。全部入ったぞ。先輩、お先にぃ。てか俺のちんぽ気持ちいいだろ」
気持ちいい? そんなわけないじゃない。痛みと異物感と嫌悪感。そして、無力感。それしか浮かんでこないもの。どんなに願っても、すがっても、祈っても。どうにもできない、どうにもならないことってあるのね……。
そのまま必死に腰を振って、男はあたしの中に射精していった。膣内で射精しないでって懇願しても聞き入れてはもらえなかった。そして男たちはみんな同じように代わる代わる、あたしを使って、射精する。口々に侮蔑の言葉を投げつけて、あたしの身体と心に傷をつけていく。
叫んでも、泣いても男たちの行為は続く。むなしくて、だからあたしは抵抗するのをやめた。早く終わってくれれば、それでいいから。
ああ、そういえばあたし、先週生理終わったんだった。そんなことを考えながら次の男が乗ってくる前に、周りを見渡した。淳樹くんと目があった。ごめんね、淳樹くん。こんなとこ見せて……トラウマにならないといいな。あ、視線外されちゃった……そりゃ、そうよね、うん、あたし汚いもの――。
11
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:44:57 ID:???0
***************
何周したのか、あたしのあそこは痛みを通り越してた。もしかしたら心が、痛いのを拒否してくれたのかも知れない。わかんないけど。
身体の中も外も精液がこびりついて沁み込んでいくようで、でももう体力も心も擦り減って、ガムテで指は動かないから拭うことも掻き出すことも、ただ身じろぎすることもできなかった。
何も頭に浮かばない。あいつらがあたしに飽きたのか、何か話をしているように思えるけど、耳に入るのはただの音。なんか、もう、疲れた……。
男が一人そばに来てあたしの腕を取った。あたしにとっては、もうあいつらは嫌悪感よりも恐怖の対象になってた。
「――もう、やなの。お願いします。もう、もうできない、です……」
「ああ、もう終わりだ。だいぶ稼がせてもらったかんな。ま、運が悪かったと思ってよ」
「俺たち、これから警察呼ぶんだよ。自首すんの。で、」
「しばらくしたら出て、」
「真面目に生きるよ。なんてったって、法律が俺たち守ってくれるし。それに、なぁ?」
「プライバシーも配慮されてるからな。誰かと違って」
「ま、これからの人生、がんばんな。はははっははは」
震えながら聞いていたあたしの耳には、意味がよくわからなくて。どうしてあたしを笑うの?
男たちが警察と電話で話をしていたけれど、あたしにはどうでもよかった。考えるのもやめようと思って、目を閉じた。
自首すると言った通り、シャッターを開けると建物から出て行ってしまったようだった。途端に辺りは安堵の空気に包まれていた。
よかった、助かった、希望を捨てなくてよかった。口々に出てくる言の葉はやっぱりあたしには責められているようにしか聞こえなかった。
警官が入ってきたんだろう、「大丈夫ですか?」「さぁこちらへ」「ありがとうございます」少しうるさくなってきた。
え? なに? 身体の上になにか……あ、あたしのジャケット? 見ると淳樹くんがそばに来て、多分かけてくれたんだ。真っ赤になってそっぽ向いてるけど、やさしいね……あたし、汚れてるんだよ?
手や足のガムテは警察の人かな、切って取ってくれた。ずっと指を組んでたせいか、感覚がなかった。足も一緒。股関節が痛くて自分では閉じられなかった。ずっと何かがあたしの中に入ってる感触があって気持ち悪くて、男の人に大丈夫ですかって聞かれても、声がでなかった。
だから、婦警さんが毛布をかけてくれて、「もう大丈夫よ」って言った時、始めて終わったってわかった。
それから、あたしはストレッチャーに乗せられ病院に行くことになったけど、検査と洗浄といろんなところについていた精液の採取と、血液検査があった。精液は証拠になるとか言ってた。あたしが、出血してたから、そこから感染するかもって言われたけど……あいつらのうち誰かがHIVとか肝炎とか持ってたらみんな感染しちゃうんだ。いい気味だわ……。
検査と洗浄するときには、なんだかまともに汚された事実を突きつけられたように感じて、泣いてしまった。泣き止むと担当の先生がお薬をくれた。これで妊娠はしないからって。ああ、あたし、ほんとに――。
病院にはシャワーもあって、検査したあと浴びることができた。ようやく唾液とか精液とか、洗い流せる――触られたところを力いっぱい擦って、汚れた身体をきれいに、表面上はきれいに、できた。すごくひりひりして痛くなったけど。
12
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:45:36 ID:???0
そうしているうちに両親も来ていて、どこまで知っているのか知らないけど、とりあえず今日はこのまま病院に泊まるからって短く言われた。
「美里、ゆっくり寝なさい。――お父さんもお母さんも、美里の味方だからね」
親が味方じゃないなら、子どもはどうすればいいの? その時のお母さんの顔とお父さんの顔。なんだろう、苦渋に満ちていたような、あきらめのような、そんな顔だった、と思う。多分、レイプされたって知ってるんだよね……。
両親の顔を見て安心したと思ってた。けど、お父さんに頭を撫でられたとき、急に震えがきて――叫んでた。後からお父さんに申し訳なくって、ごめんなさいって言いながら涙があふれて。止めようがなかった。あたし、どうしちゃったんだろう。
消灯になって、目をつぶるとあいつらの顔が次々に浮かんでくる。触られる、圧し掛かられる、あたしの中に、入ってくる……何度も。そんなことがずっとあって、その度に叫んで飛び起きて。結局眠れないから先生が睡眠薬をくれた。
翌日には検査の日程をお母さんと聞いた。たくさんの性病の検査。三か月も続くんだ……知らなかったな。
あたしは性病より妊娠が怖くて、何度も先生に聞いてしまった。先生は早いうちにお薬飲んだから大丈夫って言ってたけど。それでも、怖かった。
午前中に退院ってなって、二人で支度をしてたら警察の人たちがきた。あの時の状況を聞きたいって……。男女の警察の人は専ら男の人が喋って、時折あたしの身体を見てた、ような気がした。だから、その視線が気持ち悪くて、怖くて、うまく話せなかった。
内容を聞いているうちに辛くなったのか、お母さんが「もういいじゃないですか」って怒ってた。あたしは、お母さんてこんなに大きな声が出せるんだ、なんて関係ないことを考えてた。
告訴しますか? って聞かれても、すぐには返答できなかった。テレビでみたことあるのよ。レイプって親告罪っていうんでしょう? あたしが告訴しないと罪にならない。あたしは、でも、あいつらは行員のおじさんもおばさんも、死なせたのだし、それだけでも裁判てなりたつだろうし、あんな恥ずかしいこともうこれ以上言いたくなくて、でも、罪は罪で。考えがまとまらなかったから、少し考えますって答えた。
最後に女の警察の人が「また伺いますね」って言ってたけど、もう退院だから次は家にくるんだろうか。
自分のことで手一杯だったけど、お母さんが淳樹くんは元気よって教えてくれた。――よかった、元気で。あんなことを経験させてしまって、ごめんなさい。――早く忘れてくれるといいな……。
お母さんが支払いをしている間、ロビーで待ってた。――みんながあたしを見てる、そんな気がして身が竦んでしまった。男の人がそばを通るたびに、怖くて、あたしの身体を見に来たみたいに感じて。あたし、どうなっちゃたんだろう。こんなの嫌だ。普通に暮らせない。こんなのあたしじゃないよ。
家に帰って、自分のベッドに寝転んで、寝ようと思ってもまたあの場面が浮かんで……眠れない。だから睡眠薬を飲んで……。
何か声がすると思って目を開けると、あたしの部屋で、誰も周りにいないことを確かめて、すごく安心できた。お母さんもお父さんも多くを言わないでくれて、ありがたかった。
でも。それを三日も繰り返すと周囲の反応も変わってくる。
夜、階下からの怒鳴り声があたしを覚醒させ、そして震えさせた。お母さんとお父さんが、なんであたしのことで喧嘩してるの? 二人のせいじゃないのよ?
急いで降りて居間にいる二人に言った。
「あたしが悪いの。あの銀行に行ったから。だから喧嘩しないでよ。――あたし、もう大丈夫だから。気にしてないのよ。あんなの犬に噛まれたっていうんでしょう? 明日から学校も行くし。あ、始業式から三日も休んじゃったから勉強もしっかりしなくちゃ。――ほら、お父さんにも触れるのよ。もうほんとに、大丈夫だから」
お母さんは、「大丈夫なの? もっと落ち着いてからでいいのよ」って言ってくれた。あたしは、落ち着いてるわ。大丈夫。お父さんは黙ってあたしを見て、それから「そうか」としか言わなかった。
部屋に戻って授業の用意をして、念のため睡眠薬を飲んで、ベッドに入った。
大丈夫。あたしは、もう気にしてないから。気にしないことにするって決めたから。あたしのせいで喧嘩なんてさせないから。がんばる。がんばれる。だって、みんな何が起こったかなんて知らないんだし。これまで通り、勉強もがんばる――あ、でも、恋は、先輩には……、どう、接したら、いいの、かし、ら――?
13
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:46:53 ID:???0
***************
何か夢を見たと思ったけど、どんな夢か忘れちゃった。あまりいい夢ではなかったと思う。寝汗がひどかったから。多分、春の嵐、かな、窓をたたく音で目が覚めたから。
いつものようにシャワーを浴びて、いつものように着替えて。始業式から休んじゃったから、大変。でも、友達から、紫帆ちゃんからメールが来て、クラスの事とか教えてくれた。また同じクラスになってうれしいな。紫帆ちゃんも早くおいでって書いてくれてた。
朝の番組では相変わらずあの事件のことが報道されてる――あたしたちの事はあんまり出てこなかったし、あたしに起こった事は何一つ出てなかった。ほっとした。でも、あいつらのことは少年たちとしか出ていない。あんなことをしたのに。あたしにあんなことを、したのに。
渦巻く感情が胃にきたのか、急にあの、精液の、味を思い出して、気持ち悪くなって、朝食を吐いてしまった……。せっかくお母さんが作ってくれたのに。ごめんなさい、あたしほんとに気にしてないのに。
あたしの通う高校はいわゆる進学校で、でも、やっぱり成績の上下はあって、あたしはなんとか上位に入ってる。これからもがんばって、志望の大学に行きたいと思ってる。――だから、あんなことで止まれないのよ、美里。
高校までは徒歩とバスで通ってる。家の近くからも同じ高校に通ってる子たちがいた。
バスはあんまり時間通りに来ないけど、大体遅れるけど、それも見越して足早に歩く。風が強いせいか少し肌寒くて、せっかくブラッシングした髪やひざ上のスカートを乱暴にかき乱してしまう。
なんだろう? 停留所でもバスの車内でも、女子も男子もこっちを見てる気がする……。スカートめくれてるとか、変な恰好はしてないわよね? 女子が数人で話をしながら笑ったりする。男子は――あたしの身体をなめるように見てる、気がして。気持ち悪くなってた。
きっと、あたしの気のせいよね。うん、あたしは気にしない。多分、視線は気のせい。大丈夫。あたしの事はみんな知らないから。だって、テレビでだって言ってなかったじゃない。
あ、紫帆ちゃんに今日は登校するよってメールしてなかったな。
バスを降りて校門まで歩くと、あたしは少しだけ後悔した。だって、学校って男子が半分以上いるもの。なんで思いつかなかったんだろう? あいつらと同じくらいの年の男子が、たくさん……近づいてくるたびに動悸が激しくなって、足が震えてしまう。大丈夫、みんなあいつらとは違う、絶対違う。あたしに何もしないわよ。大丈夫だって、言って出てきたじゃない。さぁ、まずは職員室行って、先生方に挨拶しなきゃ。今日からがんばりますって。
「失礼します――●●先生は……、あ、しばらく休んでしまって申し訳ありませんでした。今日からよろしくお願いします」
担任の先生が女性でよかったと心から思った。でも、職員室の先生方の視線は、なんとなく嫌な感じがした。
●●先生はしきりに、もういいの? まだ休んでてよかったのに、大変な思いをしたわねって言っていた……お母さんが電話したんだろうか……大変ってどこまでの事を言ってるの?
廊下で会う生徒たちの視線も、車内と一緒で、あたしを見てるような気がした。
「――おはよう」
声、震えてないかな、変な顔してないわよね……。一声かけて教室に入ると、誰かが「あ、宮前」って言った。それまでガヤガヤしてた室内がしんと静まって、一斉にみんなの視線があたしを射貫く。
それに射すくめられて一瞬身体が動かなくなった。――紫帆ちゃん、紫帆ちゃんは? どこ?
14
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:47:30 ID:???0
「みーちゃん、来たんだ。心配してたんだよー」
教室の奥から声がかかると、それまで静まっていた教室がまたガヤガヤとし始めていた。
「ごめんね、ちょっといろいろあったから――」
「あーそっか、そうだよねぇ」
あたしよりちょっとだけ背が低い紫帆ちゃんが、腕を絡めて席まで連れていってくれた。
「そうだ、メールありがとう。担任の先生も教室も時間割もわかんなかったから、助かったわ」
「いいっていいって――そんなことよりさ、大変だったよね。銀行強盗に巻き込まれるなんてさー」
銀行、強盗? 紫帆ちゃん、なにいってるの――?
「え? あ、あたし、え? 紫帆ちゃん?」
机に鞄を置いた手が震えてる。――違う、足も、身体も震えてる。あたしの前の席に足を組んで腰かけた紫帆ちゃんの姿が、すごく遠く感じる。
「いーからいーから。お昼、一緒に食べようね。そん時詳しく、ね」
「あ、の紫帆ちゃ――」
それだけ言うと紫帆ちゃんは、廊下側の、多分自分の席に行ってしまった。あたしは足の力が抜けたみたいに椅子に腰かけた。
本来その席に座るであろう男子が、口の端を上げてあたしを見てる。……ふと、周りを見渡すと、みんな、あたしを見て、る――。
違う、きっと。みんな知らないから。あたしのこと、あのこと、知らないから。ただ、三日も休んだから、だから――見てるだけ。大丈夫、がんばれるよ。男子だって、怖くない。大丈夫。
でも。なんであたしはこんなに不安なの? なんでこんなに、震えてるの? なんでこんなに、涙があふれそうになるの? なんでこんなに、叫びたいの?
***************
授業は滞りなく過ぎていった。けど、あたしは授業に集中できなかった。男子の臭いがすると、あの味が、あの感触が蘇ってきて吐きそうになって――。がまんするのに必死だった。休み時間にはトイレに駆け込んで、胃液だけ吐いた。
胃液の臭い、するかな――リステリン持ってきててよかった……。でも、のどが焼けるようにひりついて痛いよ……。
ずっとそんな行動をとっていたからか、あたしに話しかける生徒はいなくて、紫帆ちゃんすら声をかけてくることはなかった。
そして、昼休みになった。
「みーちゃん」
紫帆ちゃんはいつもの笑顔のままあたしの席まできた。紫帆ちゃん、なんか遠い感じ……する。
物理的というより心理的? 精神的? このまま遠いなら、何も聞かないでよ……。
「さーって、お昼う。ね、早く食べよ」
「う、うん」
あれ? さっきのって聞き間違いだった? 詳しくなんていうから、あたし、あのことだと。
お弁当を広げ、二人で一口、二口。二年生になったから理系文系に分かれて仲のいいことも離れちゃって寂しいね、なんて他愛ない話をした。
15
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:48:27 ID:???0
「でさ」
「うん? なに?」
「どんな感じ? 五人に輪姦されるのって」
突然、心臓を掴まれた気がした。まわされる、って、あのこと――言ってるの?
「え、と、あの、さ、紫帆ちゃん? それ、なんの話?」
「あたしとみーちゃんの仲じゃん? 言っちゃいなよ、あたしも興味津々だし。男子だってさ」
お箸を持つ手が震える。すごく鼓動が速くなってく。顔を上げるとニコニコしてる紫帆ちゃん。そして、周りには遠巻きにして男子がこっちを見てる。違う、女子も、だ。
何か言おうとするけど、声がでない。その態度にいら立ったのか、紫帆ちゃんが先んじた。
「あれだけやられてさ、平気な顔して学校来てさ。どんな気持ち? ねぇ、人質いたからってさ、自分から犯されたくないじゃん?」
「あ、あたし、別に、なにも……」
知ってる? なんで? どうして? 報道されてないのに? 紫帆ちゃん、でも、ひどいよ、こんなとこで聞くことないじゃない――。
「なにも? あはは、知ってるってば。だって、ねぇ?」
紫帆ちゃんの視線があたしを通り過ぎていく。
『――おちんちんが、ここに入るの。――おまんこにおちんちんが入って、精液がでて、卵子が受精して、あかちゃんになるの』
目の前にスマホが差し出されて、そこにあたしが、あそこを自分で広げたあたしが、映ってた。全部、映ってる、なんで? どうして画像が……。
「! いやっ」
スマホを持つ腕ごとたたいて、あたしはぎゅって目を閉じて、耳を塞いで、身体を丸くした。
うそ、うそよ、こんなの、違う、これ、夢よね? だって、そうでしょう?
「ひでぇな、宮前。俺たち、宮前のことみんな知ってんだぜ? 俺はこれが好きだな」
『も、やっ、こんなの、お願い、やめて、犯さないで』
いやだ、聞きたくない、聞かせないで、お願い、がんばるって、決めたんだから、気にしてないって決めたんだから、忘れたいの、思い出したくないの、お願い――。
「――やだ、もう、お願い、やめてよ……紫帆ちゃん、助けて……」
「ええ? あたし? みーちゃんさ、勉強できるからってちょっとふざけてるよ。あのさ、犯されちゃうって、結局女の子もアブないトコいくからじゃん。隙があるからじゃん。それってみーちゃん自身が招いたんだよ。あたしが助けるって違うでしょ。だいたいあんただって銀行員見殺しにしたじゃん。どうせやられちゃうんだからさ、素直にはいはい言ってやらせちゃえばよかったんだよ」
どうしてそんなこというの? あたしが、悪いの? あたし、だって、隙なんて。銀行の人だって、あたし、できることしたのよ? 嫌だったのよ? でもがまんしたのよ――それでも、あたしが、あそこに行ったから、死んじゃったっていうの? あたしが、悪いの?
教室がざわついて。男子はあたしの身体を見ながら、女子は、あたしが自分から身体を開いたみたいに言って、あたしの心を削っていく……。
「なぁ宮前」
男子が一人、あたしの手首を掴んで顔を覗き込んでくる。多分クラス替えで同じになったこ。あたしはこのこ、知らない。けど、このこは、あたしの身体見て知ってるんだ……。
そう考えると気分が悪くなっていく。どんどん。
「俺の、口でしてくれよ。誰にも言わないからさ。口ならいくらでもするんだろ?」
「やっだぁ、サイテー」
紫帆ちゃんが近くの女子に目配せしながら言う。でも、紫帆ちゃんの目は笑ってる。
『さっきみたいにできるから。ねっ口で、口ならいくらでもするからっ。お願い、やだっ、やめ――』
一瞬、誰の声かわからなかった。けど、女子が差し出したスマホに映る、泣きながら叫ぶあたしが言ってた。
急に、口の中にあの味が蘇る。身体中を這いまわる手と舌の感触が震えをひどくさせる。あたしを貫いた、あいつらの、があたしの身体の中から圧迫する。そして、吐きそうになった。
もう、やだ、だめ、吐きそう……。
考えもまとまらない。ううん、違う、考えられない。頭の中がぐるぐる回る。あたしは口元を押さえて走りだしていた。
「あ、みーちゃん、どこ行くのよ。あ、せんぱいがぁ、話あるっていってたよー」
教室から出て廊下を走るあたしに、紫帆ちゃんの声とクラスのみんなの笑い声が追い立てていた。
16
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:49:39 ID:???0
「――ぅげぇはっうう――」
トイレに駆け込むといきなり戻してしまった。少しのお弁当と胃液がフラッシュした水と混ざってぐるぐると回る。
のど、痛い、痛いよ。なんで、こんなことになったの? どうなってるの、どうして知ってるの。わかんない、わかんない、わかんない。なんでみんな。なんで紫帆ちゃん。あたし悪いことしたの?
がんばろうって決めたのに――。
「だれか戻してるって。だいじょうぶ?」
個室の外から声がかけられた。それにあたしは恐怖を感じて、そこも飛び出していた。
みんな知ってる? どうして? スマホで、動画? だって、あれは、銀行の……あ――。そう、か、わかっちゃった。
一人になりたくて、せんぱいと二人でよく話をしにきた裏庭まできたところで、駆け足は次第に徒歩になり、やがて足を止めていた。そしていろんなことがなぜか繋がってしまった。
あの時、あいつらはネット見てたじゃない。警察からの電話で『今からいいものナマ中継すっから』って言ってたのよ? それが本当なら、あの時からずっと見られる状態だったんだわ。
――なら、あのうそ発見器は? あれは、ネット見てた人が、知ってる情報を出してた、とか?
「……あたし、なんてばか……」
個人情報は大事だからネットに流さないことって授業でやったのに……自分から名前言った……ああ、そうね、学校のこともだわ。それで個人特定できた、のね。それに顔も、映されてたっけ。
この高校にもいわゆる裏サイト、掲示板があることくらいあたしも知ってる。実際に目にしたことはないけど。それに載ったとしたら? 誰かがそれをラインで広めてたら? あたしの情報なんてあっという間に集められる。きっとそういうことなんだろうな……。
え? でも、そしたらせんぱいのことは? あたし、紫帆ちゃんにしか……。
ふいに紫帆ちゃんの、みんなの、嘲るような、非難するような、蔑むような目つきを思い出した。
そっか、紫帆ちゃん、あたしのこと嫌いだったんだわ。知らなかったな。
あ、もしかしたら、あのひどいことって、あたしを知ってる子たちが、あいつらのサイトに書き込んだの? あたしが、嫌いだったから?
あたし、紫帆ちゃんに嫌われるようなこと、したかなぁ――みんなに嫌がられるようなことしたのかなぁ――もう、わかんないよ。どうしてこんなことに、こんなひどいことに?
一体、どのくらいの人が知ってるの? あたしのこと、あたしがされたこと。
「――、宮前、探したぞ」
自分の肩を抱いて立ちすくむあたしに、声がかけられた。
17
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:50:12 ID:???0
「?! せんぱい……」
お昼の時間ももうすぐ終わりになるとき、先輩が目の前にいた。つんと鼻につく胃液の匂いが気になって、あたしはハンカチで口元を隠した。
「少し話があるんだ。ああ、すぐ終わるよ」
いつもの柔らかな物腰からすると少し強引な感じがした。
「あの、……はい、なんでしょう」
せんぱいは、佐藤先輩は、あのことを知ってるの? 知ってても、普通に、いつもみたいに話かけてくれる?
「前にここで話をしたりしたろう? その時も思ってたんだけど、宮前は俺のことを――俺に好意を寄せてくれてるって。それで、まぁ、三日前のこともあったし、そうだってことも確信を持ったんだ……」
低い声は心地いいって思う。でも、内容は残酷で……あぁ、せんぱいも、あたしの姿を見たんだわ。次の言葉、なんとなく想像できる――。
「でもたとえ何があっても、宮前なら、いいと思ったのも本当だ」
――てっきり受け入れらないっていわれると思ったのに。あたし、あんなことされたのに、先輩のこと好きでいる資格、なくなっちゃったって思ってたのに……あたしは、まだ好きでいても、いいんですか?
あの時から今まで沈んでいた何かが、ふっと浮いてくるように、思った。そう、思ったの。
「でもな、宮前。お前がもっとはっきり、自分から自己犠牲を払ってくれたら、俺の父は殺されずにすんだんだよ」
――え? お父、さん? せんぱいの? あそこにいた、死んじゃった、誰かが? でも、あたし、そんなこと、知らない……。
一歩踏み出してあたしの両肩を掴んで、せんぱいが、あのせんぱいが強引にあたしを揺さぶった。
「やっ、せんぱいっいたい、放して」
「父も痛かったろうさ。お前なんかよりずーっと。少しくらい綺麗だからって、お高くとまって、あんな人の命がかかってるときに、よくも自分の痛みだけを避けようとしたもんだな。普通はな、進んで犠牲を払うんだよ」
興奮した先輩の顔は真っ赤で、掴んだ力はどんどん強くなって、あたしの浮上しかけていた心を慄かせ、小さく潰していく。
「あ、あたし、そんな、あの時、あたしもできることを――あたしも、必死で」
「は? 必死? 俺はな、お前に会ったら言いたかったんだ。お前みたいな自己中心的で自意識過剰な女の顔は二度と見たくない。いいか、金輪際俺の前に姿を見せるな。汚らわしい。お前なんぞに好かれてるなんて思うと虫唾が走る!」
そのまま校舎の壁まで突き飛ばされて、あたしは尻もちをついて転んでた。
チャイム、鳴ってる。五時間目始まるんだ……あたし、どうしたらよかったの? がまん、したんだよ、みんな、死んじゃうかもって、思ったから、だから、やだったのに、だれも助けてくれないし、知らなかったんだもん、だって、恥ずかしくて、いやなことたくさん、されて……なんで? あたし、そんなに責められなきゃいけないの? 殺したのはあいつらなのに、あたしがわがままいったの? いやなことなのに、みんなだってされたらいやなはずなのに、あたしがんばったのに、あたし、あたし、犯されるために生きてるわけじゃないのよ。
あたりに響いていた音がやむと、あたしの嗚咽だけが聞こえてた。
18
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:51:35 ID:???0
***************
もう、ぐちゃぐちゃになってる。頭も、心も。ただ、ここには、もう、あたしの居場所はなくなっちゃったんだって、それだけは理解できた。
泣いても、気分は全然晴れないんだ。こんなとこ、いたくない――家に帰ろう。
バスに乗って帰ろうと思ったけど、鞄にお財布入れてたから、手持ちがなくて。それでも早く離れたくて、あたしは家まで歩くことにした。
歩き疲れたら、眠れるかも知れないし……。
そうだ、お弁当も出しっぱなしだったんだわ。取りに……戻っても、またさっきみたいになる。あたしは、多分喋れなくなる――みんなの前に立ったら。みんなも益々あたしを嬲るつもりだろうな……そんなの、あたし、もう耐えられそうもないもん。もう、やだ、思い出したくない。
下を向いて歩いた。一歩一歩。右左右左。二十分も歩くと身体が熱くなって汗がにじんできた。呼吸も心拍も速くなっていく。バスに乗ってると近く感じるけど、意外と学校遠いんだわ……。
一時間も歩くと汗だくになっちゃってた。それに、眠ってないからか、すごく疲れちゃった。……なんとなく、家が近くなると足も重くなってきて、結局、下校途中にある公園のベンチに腰を下ろした。
歩いてるときは足を動かそうとか、早く歩こうとか考えてないのに、なんだか無心で歩くことに夢中になってて。何も考えることなんてなくて。でも、だめ、一度停まるといろんなことが頭に浮かんできて、消えてくれない。
公園には、おじいさんとかおばあさん、犬を連れた人たちが現れては消えた。時折、あたしの方をみることがあっても、話かけてはこなかった。おじいさんもおばあさんも、知ってるってことなんだろうか?
家に帰ろうと思っても、身体が動かなかった。帰って、お母さんにどう説明したらいい? あたし、レイプされたのばれてて、みんな知ってて、いじめられて、それが辛いから、もう学校いきたくない
っていうの? そんなの、言えないわよ……どんなに悲しむか。
でも、どうあっても誤魔化しようがない。なら、どうしたらいいの?
答えのない問い、せんぱいの言葉、紫帆ちゃんの言葉――考えはぐるぐる回ってるだけで、あたしの中からは出ていかない。みんな、あたしにどうして欲しかったの? あたしは自分にできることしたと思ってたのに。それでも足りなかったの? どうしたらよかったの? 間違ってたの? あたしが間違ったことしたから、せんぱいのお父さんは死んじゃったの? あたしがあそこにいかなければ……ううん、あたしがこの世にいなければ……こんなこと、起きなかったの?
時間は無為に過ぎていく。気付くと辺りは暗くなりはじめていた。
あ、もう四時間もいたんだ……お母さん、心配してるかな、連絡しておかなきゃ――携帯、あれ? あたし、どこに……あ、そっか。携帯も財布と一緒に鞄の中だわ。どうしよう――。
立ち上がろう、歩こうとしても身体がついてこない。
自分がこんなにがんばれないなんて思わなかった。前に進めない。足が竦んで動けないなんて。アナログ時計の針みたいに同じところしか回ってない。
結局、一人で考えて、答え出なくて、帰りたいのにどうしていいかわからなくて、そんな自分がいやで、だから、あんなことになっちゃったって思って、あたしがそうだから、汚くなったから、あたしが変わったから、みんなも、せんぱいも、変わっちゃうの当然だって、だから、レイプされても仕方ないって、悪いのはあたしだって、……そんなことをずっとずーっと考えてた。
夕闇が濃くなっていくらかの灯りを残して闇になる頃には、今度は闇があいつらのように思えた。思い出さないようにすればするほど、嫌になるくらい鮮明にあの感触が蘇って。肩を抱いて丸まって、震える身体を押さえてた。
「もう、こんなのやだっ、許してよ、誰か、助けて――」
多分、泣いたりしてた。ごめんなさいって謝りもした。何度もしたけれど、あたしの心に変化は現れなかった。
19
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:52:03 ID:???0
そして何度目か、数えるのも億劫になってたけど、叫んでたとき。
「みさとっ、美里!」
顔を上げるとお母さんが駆け寄ってくる姿が見えた気がした。――お父さんも、その後ろにいる、かな……。
「あなたって娘は――いきなり学校からいなくなったって連絡がきたのよ。何もかも置いて、せめて連絡くらいしなさいっ――これ以上心配させないで」
言葉はきつかったけど、安堵の表情があった。それが申し訳なくて。
「ご、ごめん、なさい、あたし、がっこうでっ、がんばろうって、でもでも、みんな、みんな知ってて、もうやだっ、なんであたし? がんばったのに、も、いきたくない、がんばれな――」
お母さんにしがみつきながらぼろぼろと言葉が出てた。そしたら頬が熱く、痛くなってた。
「わがままを言うな。みんな多かれ少なかれ嫌なことや耐えがたいことを抱えて生きてるんだ。お前がそれに耐えられなくてどうする? 大体な、ことはもうお前だけの話じゃあないんだ。わたしのか」
「あ、あなた、いいじゃない、そんなこと言う必要は今ないでしょう」
ああ、あたし、お父さんに叩かれたのね。なんか、もう、よくわからない。全部、吐き出したかった。両親には知っててほしかった。けど、お父さんはそれを否定するんだね。あたしもあたしの心が、もうよくわからなくて。耐えろって話、かな? 黙って耐えろって話なのかな? そう、なんだ。
それから、あたしは黙って身支度して、お父さんとお母さんに挟まれて歩いて帰った。お父さんの背中は、怖い背中で、あたしを威圧してた。
お母さんは色々と声をかけてくれてた。でも、ごめんなさい、頭に入ってこなかった。
家に着くとシャワーを浴びた。擦って洗う癖がついて、同じところを何度も洗っているせいか、痛い。
疲れてた。だから何も口にしないでベッドに入った。けど。いろんな場面が頭に浮かんで、眠れそうにないから、睡眠薬を倍飲んで寝た。
20
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:52:37 ID:???0
***************
それから、何度もがんばろうって、お父さんに言われたように、学校に行こうとしたけど、ダメだった。そのたびにお父さんに叱られて、叩かれもした。
ひと月も経つと、テレビではあの事件のことはほとんど見られなくなったけど、ネットは違うみたいだった。
どうしても知りたいことがあって、本当に紫帆ちゃんはあたしのことが嫌いだったのか知りたくて、怖かったけど机のノートPCで検索してみた。
たくさんサイトがあった。動画も、いっぱい拡散して……ほんとにたくさんの人があたしのこと見てるって、そのとき知った。
あいつらが作ったサイトが、元凶が、あるはずって思って、探した。そして見つけた。まとめサイトっていうところだった。
多分、その時のじゃなくて、その時の画面の画像を録画してる。だからこそ客観的で、あたしは背筋が寒くなってた。
あいつらが言っていた「安価」って言葉の意味が、その時わかった。その画面の中に流れる文字は、あたしを特定して、あたしの事を丸裸にして、あたしを罵って、あたしを犯すように言っていた。
あたしはいつ、どうしてこんなにも恨みを買っていたんだろう? あたしが銀行を襲ったの? あたしが行員の人たちを、せんぱいのお父さんを殺したの?
めまいがするほどの悔しさってあるんだわ。――書き込んでいる人たちは、ただ面白おかしくしたいだけに見えた。それでもあいつらはその安価を実行に移して。あたしにはその行為がただの傍観者ではなくて、加害者にも等しかった。ううん、違う。あいつらと同じで、あたしをレイプしたのと同じに思える。そして、今もあたしの動画は拡散し続けて、あたしは、レイプされ続けてる。
そう、そして、そのとき始めてきづいたの。多分、画像は永久に残る……あたしはこれからずっと、ずっと、きっと死ぬまでレイプされ続けるんだって……。
学校の裏サイトに行ってみると、かなり早い段階であたしの画像で特定されてて、あいつらのサイトの拡散を誘導してた。そこにも悪意ある言葉がずっと並んでて、それを読むたびに動悸が激しくなって涙が止まらなくなる。こんなことして何になるのかって、自分でも思うのに、どうしてもその悪意のもとに辿り着きたくて、進めていた。
そして、なんとなく、言葉の使い方とかでわかるのがあった。――たぶんこれが紫帆ちゃんの。だって、みーちゃんって書いてるし。思わず書いちゃったんだね。周りでみーちゃんていうこ、紫帆ちゃんしかいないのに。
せんぱいのことも、あたしが紫帆ちゃんに言ったまま書かれてた。そこには、恥ずかしげもなくとか、少し見た目がいいと思ってるから質が悪いとか、お嬢さまなんて人の痛みがわからないとか、犯されて、思い知ればいいとか……。
――後悔って、ほんとに先には来ないのね。読まなければよかった、なんで知ろうと思ったんだろう? 知らなければ、まだ救いがあったかも知れないのに。恨まれてるなんて、思いもしなかったのに。こんなにもあたしには悪意が向けられていたなんて、知りたくなかった。
その書き込みのHNはCHOって書いてあって。あいつらのサイトにも同じHNがあった。せんぱいのことを書いていたのもそのHNで。CHOの裏サイトの最後の書き込みには、『これでみーちゃん自殺したらチョーウケルんですけど』って書いてあった。
紫帆ちゃん、あたしも何度もそう思ったのよ……でも、あなたのいう通りにだけはならないから――絶対に死んであげない。
21
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:53:31 ID:???0
***************
一日のほとんどを家の中で過ごすと、人間て自堕落になる。夜と昼の境目がわからなくなって、いつなのかもわからなくなる。尤も睡眠薬のせいかも知れない。あたしが学校に行けなくなって、そのあとお父さんは転校の手続きを取ってた。
お母さんは、その時は家で家事手伝いをしてくれたらいいって、言ってくれたけど、お父さんは譲れなかったみたいだった。
家から遠くにある、それこそ電車で一時間くらいの距離にある高校は、季節外れの転校生だったからか、すぐに興味を持たれて、調べられて……。二日目にはあたしのことをみんな知ってる有様だった。
あたしのことを、あたしの知らないところで、知られてる……恥ずかしいことも嫌なことも、全部。これが、こんなことが、これからもついて回るの? こんなんじゃ、外にでるなんて無理だよ、お父さん。どうしたらいいの? 教えてよ。もう、がんばれないよ。
転校はそれから二回したけれど、二回とも、誰かがあたしを特定してしまって。そのたびにあたしの心は傷だらけになって、歪んでいく。
そして、あたしは転校を、高校生活自体を諦めてしまった。
それが原因だったんだろう、お母さんとお父さんはしょっちゅう喧嘩して、罵りあうようになって。
そういえば、あの時からひと月半も経った頃に生理がきた。それまでずっと不安だったから、お母さんと抱き合って喜んだっけ。でもそのお母さんもお父さんと離婚してしまった。お母さんは最後まで味方でいてくれた。けど、あたしを引き取ることはできなかった。専業主婦だったから、あたしを育てられないって判断されたようだった。
それから二年。
あたしはまだ部屋から出られなかった。精神的なものなのか、生理は来たり来なかったり。お父さんとは、最近話もしてない、と思う。
家のことはあたしがした。食事も作った。買い物は配達してもらった。ネットってすごいって改めて思った。
いつもと同じ変わらない毎日。きっとずーっと変わらない。そう思ってたのに。シャワーを浴びて人心地ついたとき、玄関のチャイムが鳴って、あたしの小さな世界は一変した。
「美里、お客さんだ。もう居間に通してる」
ひどく事務口調なお父さんの声。久しぶりに聞いたけど、無責任にもほどがあるわよ。
「ちょっ、お父さん? 待ってよ、お客さんて一体――」
一瞬、お母さんかと思って居間まで降りると、そこに知ってるこによく似た男の子がいた。でも、こんなに大きくない。もっと、可愛かった。
お父さん以外の男性をすごく久しぶりに身近に感じて、あたしは、身体が震えた。
「あ、の、どちら様、ですか?」
「え? あ、美里分かんないかな、俺、淳樹」
時間てすごいって思った。声も、身体も、もうほとんど大人の淳樹くんがいた。
「――淳樹くん? 見違えちゃった……」
一体、どうしたっていうの? あの時から何度か尋ねてきたのは知ってた。あたしが会いたくないからって追い返しちゃってた。半年もすると来なくなってたから、あたしはすごく安堵してたのに。あのことを直接見てるこのこには会いたくなかったから。
「ん、美里と話がしたくて、きたよ」
ちらっとお父さんを見る従弟の目が、ここではない場所でって言ってる気がした。ここじゃないところって、もうあたしの部屋しかないじゃない……このこ、いつも突然くるのね。
部屋に通すと淳樹くんは目を丸くして、気遣いもなく部屋中を見渡してた。そうよね。おかしいよね。窓は目張りして外からの光が入らないようにしてるのに、灯りは煌々とつけてるなんて。でも、こうでもしないと誰かに見られるかもしれないじゃない。あたしがここにいるって誰かが書くかもしれないじゃない。灯りがなかったら、昼間でも悪夢を見てしまうじゃない――。
淳樹くんはドアを閉めるとそのままどかっと入り口を塞ぐように座ってしまった。だからあたしは、一番遠く、ベッドを背もたれにして膝を抱えた。
やっぱり、ちょっと怖い。あたしの部屋なのに、あたしの世界なのに、逃げ場がなくなっちゃってる。
「美里、俺は外出てくる……夕飯はいらない」
あたしが異性といても大丈夫って思ったのか、淳樹くんを信用してるのか、それともあたしなんてどうでもいいって思ってるのか、お父さんはそれだけ言うと出て行ってしまった。
22
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:54:18 ID:???0
玄関が閉まって、そして車のエンジン音が遠くなって消えて。部屋の中は、あたしの速い呼吸音が響いてる。
話があるって言ったのに、淳樹くんは口を開かない。ずっとそうしててもいいけど、あたしが緊張感に耐えられそうもなかった。
「大きくなったね。男っぽくなった――そういえば、もう、受験でしょう? 早いなぁ、ちゃんと勉強してる?」
「ん、まぁ、ね。俺のことはどうでもいいんだ。――美里、髪短くしちゃったんだな。じゃなくて、いつまでこうしてる気?」
俺、だって。様になってきてるのがちょっと癪に障るけど。美里って低い声で呼ばれると、調子が狂う。
「髪は、吐くとき鬱陶しいから……こうしてるって、引きこもってるってこと? ふふ、ひどい、ね、淳樹くんは。理由、知ってるじゃない」
このこも、意外と意地悪だったんだ。知ってるくせに、あたしを、みてたくせに。
あたしの声に憤りを感じたのか、彼は一旦深く息を吐いて。
「こうしてても、何も解決しないだろ? おばさんに前聞いたし、昨日はおじさんとも話したけど、この一年、外に全然出てないんだろ。もっとさ、出てみたらどう? なんか変わるかも知れないだろ」
「……は? いやよ、絶対。――え? なに? ちょっ――」
ひねくれた態度が気にくわなかったのか、いきなり立ち上がってあたしの手首を掴んできた。それがすごく怖くて。あたしはパニックになってた。
「やっ、痛いっ放してっ、やだ、行かないっ、外になんて……ここにいるの、あたしは、ここがあたしの居場所なのっ、ここでいいのっ。――外なんて、きっと誰かがあたしを傷つける、ねぇわかる? いっぱい、いっぱい、がんばったのよ? でもがんばっても誰も助けてくれないんだよ? あたしもういやなの、あんなこと、もうやだっ、だから、知ってるのにっ見てたくせに、あたしの何もかも見たくせにっ――そんなこと言わないでよっ……」
泣いて叫んで頼んでも、淳樹くんの顔は変わらない。手も放してくれない――あの時みたいに、あたしのあそこをじっと見ていた時とおんなじ瞳。ああ、そっか、わかったわ。君も、男の子だったよね……もう、いいや。
「――もう、わかったわよ、わかったから……手、放してくれる?」
止まらない涙を空いてる手で拭う。あたしが落ち着いたと見たのか、淳樹くんは手を放してくれた。でも、手首には少し手の跡が残ってる。
ベッドに腰かけて手早く着てるものを全部脱いだ。……震えるけど、意外と平気、かも。男の子の前で、また、裸になるなんて思ってなかったけど。
「み、みさと?」
「わかってるから……淳樹くん、あの時からあたしと、……したかったんでしょう? あたし、多分、あんな風に否定されたら、強要されたら、こうするしかないって――ね、あたしの身体あげるから、心はここに置かせてよ」
あたし、言ってることめちゃくちゃだ。もう、おかしくなってるのかもしれない。
動こうとしない淳樹くん。あたし、そんなに魅力ないかなぁ。
「ここ、毎日きれいにしてるんだよ? そりゃ、あたしは汚れてるっていえばそうかもしれないけど、でも。ほら、ね?」
大きく足を広げて、あそこを指で開いた。あの時みたいに。何してるんだろう、あたし。こんなことしても、あたしもこのこも傷つくだけって思う。自傷行為みたい。でもあたしは、それよりも外に出て、誰かに傷つけられる方がいやなの。だから、わかってよ、あたしの持ってるもの、これだけだから、これしかあげられないんだから。
23
:
luci★
:2016/10/27(木) 00:55:28 ID:???0
「ふふざけんなよ、美里! 服着ろよ、服っ」
真っ赤になって横を向いて、怒鳴ってる。その横顔が、あたしの知ってる淳樹くんの顔と一緒で、重なって。それが妙に心を落ち着かせてくれた。だから服を着ろって言われたけど、手近なシーツを身体に巻いて言葉に従った。
「淳樹くんは男の子なのに、女の子と、その、したくないの? やっぱり、汚い、から」
「俺だってそりゃ、いや、違うっそうじゃなくて。俺が言いたいのは、俺だって、美里がどんなに……」
いきなり男の子がぼろぼろ泣き始めてる。なんでこのこが泣いてるんだろう? 泣きたいのはあたしだと思うけど。
「ごめんね、あたしが」
「ああっもうっ。話聞けよ! 美里は俺の憧れなんだ。あの時の美里がいたから俺は生きてるって思ってる。美里が傷ついても俺のためにがんばったって、俺が知ってる。だから、だからこそ、こんな状態嫌なんだよ。なぁ、俺は、俺が今度は美里を助けたいんだ」
あたしは可愛かった従弟の顔を見た。膝をついてあたしと同じ目線の顔。なんだか傷が結構ある。さっきまで掴まれていた手は、よく見ると大きくて、ごつごつしてる。とても逞しい身体。でも目だけは優しくて、あの時みたいに怖さはなかった。
「――どう、助けてくれるの?」
「俺だってこの二年、いろんなことがあったんだ。だから、俺が守る」
ああ、もう、それは答えになってないでしょう? 具体的なことなにも言ってないのよ、それ。きっと、力でなんとかしようって思ってるのね――男の子だなぁやっぱり。
淳樹くんの場合は、それでも解決できたのかもしれない。多分、男の癖にとか、守れなかったとか、女の裸を直接見た嫉妬とか、そんなとこなんだろうって想像がつく。
あたしの場合は、違うんだよ、わかってる? ずっとついて回るの。でも、それでも、このこは戦ってきたんだ、理不尽と。あたしが動けなかったこの二年、ずっと。それは、あたしがあのときがんばったから――? だとしたら……。
「美里、今日だけでも、出てみようよ」
「……出てって」
「え? いや、だから」
「着替えたいの。だから、部屋から出てて」
一瞬、呆けた顔が面白くて。出て行ってから少しだけ笑ってしまった。笑うなんて、まだできたんだわ。
服を選ぶのも久しぶりだった。外が明るいのは一階に行ったとき分かったけど、暖かいのか、肌寒いのかわからない。そういえば淳樹くんの服装はどうだったろう?
階下に降りると淳樹くんは靴を履いて待っていた。
淳樹くんが扉を開けると、新緑の香りと眩いお日さま。そこを一歩一歩足を動かす。
お天気と違って、あたしの心が晴れたわけじゃない。わかってるもの。このこはあたしを救えない。救われることなんてない。一生ことあるごとに悲しんで苦しんでいくんだろう。でも、あたしだって、踏み出したかった。一歩でいいから。
あたしだって、抗って、戦って、取り戻したい。この二年を。
思えば、あの日このこが来たのも偶然。あたしがあそこを選んだのも偶然。レイプされたのも、男性が怖くなったのも、人が信用できなくなったのも、どん底まで落ちたのも偶然。なら、浮上するきっかけも、このこが来た偶然から、ってなるのかも知れない。
だからあたしは、今度の偶然は、あたしを、ほんのちょっとだけ幸せにしてくれるって、もうちょっとだけがんばれるきっかけって、思うことにした。
<偶然が、あたしを。終わり>
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