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テスト投下スレ

190なかまはずれ ◆PJfYA6p9PE:2010/09/12(日) 21:03:33 ID:Yzb87MqE


「……『風』《ウインディ》!!」


しかし、その突撃は突如現れた風の壁に阻まれた。
見えない大きな掌にはたかれるようにして、ヤミヤミは後方へと吹き飛ぶ。
背中が橋の踏み板と擦れ合う音が聞こえる。

とっさに立ち上がるのと、我に返るのとは同時だった。
理性が行動に追いつくと、激情は冷え、かわりに圧倒的な罪悪感がせり上がる。

「……ご、ごめんなさい、さくら!!
 わた、私、そんなつもりじゃ……」

狼狽する。
顔から血の気が引き、舌が絡まるのが分かる。
許しを請うて見た、その先には。

さくらが立っていた。
この上なく悲しそうな、辛そうな顔で立っていた。
その顔は決してヤミヤミを責めてはいなかったが、
二人の間には、今や、グランバニア城の堀よりも広く、深い断絶ができていた。

しばしの沈黙。
雨による増水が納まりはじめた水濠の、わずかに流れる水の音だけが、辺りを支配していた。

やがて、さくらが踵を返す。
向かう先は城とは逆方向。
ヤミヤミは必死に脳を働かせ、彼女を引き止める言葉を探したが、
無情にも、記憶の沼から金言を引き上げることはついにできなかった。
代わりに引き上げられたのは、つい先程、さくらが放った一つの問いばかり。
即ち、『何でこんなことになったのか』。

(何で、どうして、何で、何で……)

ヤミヤミは混迷を極める心を抱えたまま、レックス達に助けを求めることも忘れ、
ただ呆然と立ち尽くしていた。
さくらは豆粒のように小さくなっていき、やがて、視界の彼方へと消えた。

そして、この事態の原因となった人物――南千秋は
もう二度と蘇ることのない体を飽きもせず横たえていた。
ただ、その焼け焦げた唇は、まるで嗤っているかのように歪み、
高温に晒されたせいで白く濁った瞳は、こう言っているように見えた。

「お前だけ幸せになれると思うなよ」と。


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