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テスト投下スレ

1子供好きの名無しさん:2009/05/09(土) 13:42:28
規制で投稿できない場合や、
SSの意見を聞きたい場合に。

90つながり(追加指摘点の修正案) ◆T4jDXqBeas:2010/03/24(水) 19:10:22 ID:npGj41GY
もう一つ原因らしき描写を見つけたのでこちらも加筆しておきます。
場所は一つ目のトマが伝言を伝える場面の少し前です。

     *  *  *

「あなたは、そのアルルゥさんに怨まれるようなことをしてはいませんか?」
『──────っ!』

注意して聞いていたから、息を呑む音まで聞こえた。
レベッカが気づいた“白”の驚愕に似た音が。
まるで心の奥まで踏み込まれたような衝撃が聞こえた。
やはり、そうなのか。

『……どうして、それを』
「あなたの名前です」
インデックスはトマに頼んだ。
怨まれる心当たりがあるかどうかを聞いて、ヤムィヤムィがそれを否定したならただの杞憂だからごめんなさいと伝えてほしい。
だけどもしもヤムィヤムィに心当たりが有るようなら、今から話す情報を伝えてほしいと。
それは一つの知識だった。

     *  *  *

要約すると、心当たりがあるならまだ怨まれているかもしれないから名前の理由について確認した方が良いよ。
心当たりが無いならただの勘違いだから気にしないで。
というのがインデックスのお願いでした。
修正点が多岐に渡ってしまい、お騒がせしました。。

91冥探偵ジェダ〜解答編〜 ◆tcG47Obeas:2010/04/07(水) 08:27:41 ID:mvdxLdvw
冥王の城に、魔蟲の羽音が響く。
穴を抜け室を抜け通路を抜けて、羽音を立てて魔界蟲が降りたった。
魔蜂の女王はこの世界を統べる冥王に傅いた。
「ふむ、帰ったか」
ジェダは振り返りQ-Beeを迎えると、報告を促した。
Q-Beeは忠実に報告を開始する。

「49バン、ノガミアオイ。シタイカクニン。
 45バン、ニア。リリスカラシボウヲカクニン。
 22バン、グリーン。リリスカラシボウヲカクニン」

Q-Beeは確認した順番に報告を並べていく。
グリーンもリリスから確認した事は予想外だが、76番の報告に有った二つの首輪に合致する。
そのまま続けさせる。

「86バン、ヴィクトリア=パワード。クビワダケカクニン。
 21バン、ククリ。シタイカクニン。
 17バン、カナリア。シタイカクニン」

首輪だけ。
報告の内容にジェダは眉を顰める。
それは中身を誰かが持ち去ったと考えるべきだろうか。
あるいは中身が自分で歩き去ったと考えるべきだろうか。
だがそれ以前の答えが姿を見せる。

「タブン、40バン、タチカワミミ。セイゾンカクニン。
 62バン、フルデリカ。シタイカクニン」

太刀川ミミの生存。
最早確定事項だろう。
ジェダは確認を始める。
「多分、というのはP-Beeの首輪が無いためか?」
「クビワツイテナカッタ。カオ、タチカワミミダッタ」
ふむと唸り考える。
「よくやった。首輪に入るP-Beeを一匹用意しておけ。
 それが終われば通常の仕事に戻れ、ただし放送の前になったら一度戻って来るのだ」
ジェダは一旦Q-Beeを帰らせて、思案する。

とにかく太刀川ミミの為に新たな首輪を用意しなければならない。
それ自体はそう難しいことではない。
予備の首輪の用意は有るし、太刀川ミミに付けられているものは一般人用の通常の首輪だ。
通常の首輪なら数分もあれば用意できる。
そう、太刀川ミミ自身は通常の首輪で十分な参加者の筈なのだ。
にも関わらず、どうして未だ生きている?

(首輪が爆発すれば死ぬはずだ)

首輪の爆発は全ての参加者を確実に殺傷せしめるだけの威力を持っている。
参加者本来の能力であれば耐え切れる者さえも、決して逃れる事ができない。
それは参加者全ての能力が等しく、そして個別に制限されているからだ。

92冥探偵ジェダ〜解答編〜 ◆tcG47Obeas:2010/04/07(水) 08:28:27 ID:mvdxLdvw
参加者には二種類の制限が課されている。
それは会場全域を覆うフィールド状の物と、首輪から個別に発動している物だ。

まず前者の制限フィールドはジェダ以外の基本的な能力を制限する。
どれだけ強力な参加者でも、少なくともジェダと首輪に抗えないレベルまで能力を落とされているのだ。
この正体はジェダが敷き詰めた自身の魔力である。
即ちかつてインデックスが見抜いた通り、法則が違うあらゆる界の魔法を同時に運用する為のフィールドでもある。
この世界におけるありとあらゆる異能はジェダの掌の上にあるからこそ動けるのだ。
その程度を制限する事も、容易い。

しかしこれにより制限できるのは比較的単純な能力だけである。
人外の身体能力、気、魔法、超能力、全てを等しく制限できる反面、
個別な特殊能力を制限しきる事が出来ないのだ。


そこでもう一つ、首輪により課されている個別の制限が存在する。
首輪には所謂呪いの一種が刻まれているのである。
これは様々な道具等を使い参加者の前歴を完全に洗った上で設定した物で、
前者の制限フィールドによる基本能力制限の微調整も兼ねている。
微調整といってもフィールドの制限は大雑把な物であるため、ケースによっては大きな差を生む。
割と理不尽かつ出鱈目に多種多様な能力を持っていたパタリロに至っては纏めて通常人間程度に制限してあるのだ。
首輪が外れたところで会場の制限がある以上そこまで脅威にはならないだろうが、一応バランスを考慮したのである。
まかり間違っても色々有って面倒だったというわけではない。

加えて首輪の制限は、それよりも特殊な能力に対して掛けられた部分が多い。
吸血鬼が無数の蝙蝠へと分離する事は出来ても、中枢部分を固め押さえて離さないといった具合だ。
物理攻撃を無効化する霧化に至っては封印してある。
これにより首輪の爆破を無効化する事も、首輪から抜ける事もできない。

また、別の話だが支給品で強化できる範囲でも首輪の爆発を防ぐ事はできない。
これは基本能力の強化では制限フィールドに妨げられ首輪の爆破に耐え切れない事と、
特殊効果の類も配慮した上で支給品に回しているからである。

制限下で首輪が爆発すれば死ぬはずなのだ。
なのにどうして、彼女は生き延びた?
増して自身はただの人間であるはずの太刀川ミミがどうやって。
首輪が爆発すれば死ぬ事を前提にするならば、太刀川ミミでは説明がつかない。

そもそも太刀川ミミの顔をした首輪が無い参加者は、本当に太刀川ミミなのだろうか?

そう、ジェダがその答えに辿りつく。
冥王の手が事実に届いてしまう。
幾条もの偽りを超えて真実を掴み取ってしまう。
冥王の知性はあまりにも怜悧だった。

「生き延びたのはヴィクトリア=パワードか」

ジェダは真相に到達した。

93冥探偵ジェダ〜解答編〜 ◆tcG47Obeas:2010/04/07(水) 08:29:59 ID:mvdxLdvw
確かQ-Beeが追加支給品として持って行った中には顔形を変えるような物が有ったはずだ。
それを使えばヴィクトリアが太刀川ミミに成りすますのは難しいことではないだろう。
ヴィクトリアは首輪を外し太刀川ミミに成りすまして生きている。

「だが」

ジェダはそこで止まらなかった。
薄っすらと笑みを浮かべ、呟きを漏らす。
「自分で言うのもおこがましいが 私は聡明なのだ……あきれるほどに」
そう、ジェダはもう一段踏み込んだ。

「君でも無理だろう? ヴィクトリア=パワード」



ヴィクトリアの持つ錬金術では首輪を外すに至らないだろう。
彼女には知識が有っても機材が不足していたはずだ。
機械的設備が無い場所で首輪解除を達成するには、恐らく魔法が必要になる。
ヴィクトリアが来た世界に錬金術は有ったが、魔法は存在していなかったはずだ。
もちろん支給品の中には有る程度の魔法を習得可能にする物もある。
だがそんな付け焼刃で首輪を外せたとは考えにくい。
何千何万人に一人という類稀なる適正を持ってでもいなければありえまい。

ならば誰が彼女の首輪を外した?
首輪を解除する方法を見つけたのは誰だ?
ヴィクトリアの死が誤報だとすれば、その場には誰が居た?
ジェダの知性はその者の名を告げた。

「君か。吸血鬼レミリア・スカーレット」

思えばレミリア・スカーレットの経緯は異常である。
ヴィクトリアすら殺害していなかったとすれば最早間違いない。
膨大な数の戦闘を積み重ねながら、殺害したのはあろう事かQ-Beeだけなのだ。
しかも彼女には前例がある。
夕方に起きたレベッカ宮本の吸血鬼化という些細なイレギュラーが。

レベッカ宮本の吸血鬼化。
すぐに修正されたため首輪から抜けたヴィクトリアとは雲泥の差が有るが、実を言えばあれもイレギュラーの一つだった。
生命の水などによる生態系の変化とは訳が違う。
幾ら生態系が変化しようとも、肉体が平常の生物の範疇であるならば首輪はバイタルサインを確認し続ける事ができる。
正確には首輪は、というよりもP-Beeが感知している。
着用させた時に有った、物理的にせよ魔術的にせよ生体反応を丸暗記し、それが途絶えれば死んだと判断する。
P-Beeの類稀なる触覚は密着している者の生体反応くらい余すことなく感じ取る事ができるのだ。
しかし吸血鬼、妖怪というものは肉体よりも精神に依存した生物なのである。
その肉体は精神により生かされているといっても過言ではない。
あまりにも命の形が違いすぎる。

本来そういう類の変化を起こすものは、全て会場から排除していたはずだった。
支給品にあるものでその類の変化を起こす事は出来ないし、参加者のそれも首輪の個別制限により封じていた。
例えば別の世界の吸血鬼であるエヴァンジェリンの場合、吸血による強化支配能力は制限してある。
スカーレット姉妹にあるもう一つの特性である、肉体が陽光に焼かれて生じる煙を吸った者が不死性を得る特性も制限してある。
それを吸った者は居なくとも、レミリアが日に焼かれた事は何度かあったのだ。

しかしスカーレット姉妹の吸血鬼化の特性は、過去一度たりとも効果を発揮した事が無かったのだ。
それどころか彼女達自身が望もうとも、その特性を発揮する事は出来なかった。
姉のレミリアはあまりの少食から。
妹のフランドールは生きた人間を木っ端微塵にせず吸血する加減が欠如していたから。

94冥探偵ジェダ〜解答編〜 ◆tcG47Obeas:2010/04/07(水) 08:31:29 ID:mvdxLdvw
幾らジェダとて過去の記録にも当人の意識にも無い上に特異すぎる性質を封じきる事は出来なかった。
過去当人が望んでも出来なかった事であり、起きる可能性は低いと判断して大目に見る事にしたのだ。
その隙を突かれた。
消耗した空腹の時に失血死寸前の人間から血を吸い尽くす事で条件を満たしたのである。
首輪はあまりにも特異な変容を追跡する事が出来ず、かくしてレベッカ宮本は一時ジェダの探知から零れ出た。

それが大きな問題にならなかったのは、確認が容易であったからだ。
機能を停止していたとはいえ、首輪が付いている事に変わりは無いのである。
ジェダは魂の漏れからそれに気づくと、すぐさまQ-Beeに命じて休眠状態のP-Bee達に確認を呼びかけさせた。
結果、レベッカ宮本の体内に通常とは違う新たな命が流れているのを感知する事が出来、彼女の監視は復活した。

その際、レベッカ宮本は未だ生き続けている参加者としてバトルロワイアルへの継続参加を認めると共に、
実行者であるレミリア・スカーレットに対しても特別な処置を与える事は無かった。
吸血鬼化による変化が起きても自動的に反応を追跡するよう設定した事も有るし、
事前に予測しえたにも関わらずジェダが油断した結果である事を理解していたからだ。
恐らくレミリア・スカーレットは人の血を求めただけだろうし、その行為自体はバトルロワイアルを健全に進行させる。
そう考えていたのだ。

「闇に惑う幼子達よりは聡明な部類に入ると考えていたのだがね。実に残念だ」

しかしそうではない。
これだけの経歴が積み重なれば幾らなんでも確信に至る。
レミリアはジェダの儀式を瓦解させようとしていたのだ。
その為に吸血鬼化現象を試し、殺し合いに乗ったフリをしながら誰も殺さず、それどころかQ-Beeを倒した。
あまつさえ妹を殺した仇であるヴィクトリアまでも助けるとは予想外だった。
いや、もしかするとだからこそ助けたのかもしれない。
この島で一番助けるはずのない者だからこそ、裏をかくために。

レミリアの怒りは真っ直ぐとジェダ一人に向いていたのだ。

ならばジェダはどうするのか。
ここまで明確に反抗したレミリアをどう処置するのか。
(まずは罰を与えるところだが、私は寛大だ。しばらくは泳がせてあげよう)
答えは何もしない。
ただ、レミリアへの監視を強めるだけ。
もしもレミリアが他の参加者に怪しい行動を行ったらそのデータを採らなければならない。
レミリアが一体どういう手段で首輪を外したのかを調べる為に。

95冥探偵ジェダ〜解答編〜 ◆tcG47Obeas:2010/04/07(水) 08:32:25 ID:mvdxLdvw
基本、ジェダはQ-Beeを通じてP-Beeにより参加者を監視している。
これでも大抵の場合は問題無いのだ。
P-Bee達は覗き窓から見た情報、耳にした情報を報告している。
場合によってはキーワードに反応して報告を行うようにも命じてある。
P-Beeの知性は低いため、そういったキーワードシステムが有効だったのだ。
『ご褒美をちょうだい』という後付けキーワードも反応するように、追加は容易だ。

例えば『首輪』というキーワードについても設定してある。
ただしこれを設定したのは第一放送の後である。
最初の内は身に付けられた首輪への戸惑いと恐怖から。首輪という単語が頻発すると予想できたからだ。
一方でそれ以降も会話に上るなら危険が有ると判断し、経過を見て監視ワードに設定した。
少し言い換えるだけで逃れられる事もネックだが、盗聴を警戒されなければ効果は有ると思われたのだ。
その結果、このキーワードは主にトマという参加者から多く検知された。
野上葵とトマとの会話。
既に死んでいるジュジュとの会話。
レベッカと会った時も、野上葵の首輪を取ろうとしている事が伝えられた。
何れもジェダの耳に入り、しかし気にする必要も無いと一笑に付した会話である。

野上葵の能力による首輪解除はそもそも首輪による制限が掛かっている限り不可能だった。
トマの予想は半分だけ外れ、能力制限の仕掛けは首輪“にも”仕込まれていたのだ。
ジュジュとの会話も、あくまで現実逃避だろう。
野上葵の首輪については恐らく死んでいるものだと思っていたのだが、これは逆に信用できず、
Q-Beeの死のせいで報告が途絶えていた事もあり、後からQ-Beeを調査に向かわせる必要が生じてしまった。

トマという参加者が首輪を外そうと足掻いている。
それだけだ。
監視ワードに入る内容はどれも足踏みをしている段階、気にする必要さえも無い。
日が過ぎてQ-Beeを生き返らしてからは殆ど検知されてすらいない。
『首輪』という発言が殆ど無いのだ。
リンクという参加者からも検知されたが、外す方法が見当もつかないと零す程度。
Q-Bee死亡中の報告が失われた──P-Beeに報告を覚えておくような事は出来なかった──のは気になるが、
今のところ、トマもリンクも問題のある段階ではないように思えた。

それよりもレミリアだ。
今回レミリアを監視する為に設定した条件は、キーワードではなく対象人物を指定したものだ。
レミリアの発言から行動の全てをジェダに報告するよう設定したのである。

(ヴィクトリア……いや、“太刀川ミミ”には新しい首輪を付けておくだけで良いだろう)

“太刀川ミミ”には設定がヴィクトリア用の首輪を付けなければならない。
しかし薄っすらと彫られている名前などは太刀川ミミの名を使うとしよう。
首輪を付けなければならないが、レミリアを油断させる必要も有る。
たまたま“太刀川ミミ”を見つけて首輪を付けた、その程度に思わせておくのだ。
放送の名前もヴィクトリアの方を呼んでやろう。
首輪を付けに行くのはその時が良いだろう。
そうやってジェダは巧緻な策謀を張り巡らせていく。

(さあ、レミリア・スカーレット。その真実を私に委ねるのだ)

冥王城の奥深く、殺し合いの主人はほくそ笑む。
その推理の絶対を信じて。

96冥探偵ジェダ〜解答編〜 ◆tcG47Obeas:2010/04/07(水) 08:33:18 ID:mvdxLdvw

余談であるが。
今のところ、ジェダ・ドーマは気づいていない。
いつの間にか新たにもう一組のイレギュラーが生まれていることに。
蒼星石とチャチャゼロのチェンジリング。
それは本来起こるはずもない事だから。

もちろんそれは蒼星石の魔力変質が予想外だったからでもある。
エヴァのドール契約自体は、少なくとも新たに従者を作り出す事は制限されていた。
これは意志が吹き込まれる部分などが制限により機能停止していたという意味である。
それ以上に制限する必要は無いと思われていたし、制限すれば他の魔法の使用まで支障を来たしていた。
チャチャゼロを材料に他の人形の参加者の治療に使うというのは応用的で、完全に想定外の使い方だったのである。
何よりもその結果として魔力が変質する程の劇的な症状が出るとは予想だにしなかった。
それは魔術的に高度な要素が複雑に絡み合った結果、偶発的に起きた現象なのである。
だがそれよりもチャチャゼロに起きていた現象こそ劇的だった。

実を言うとジェダは、一定以上の魂が含まれない事を条件に支給品を集めていた。
魂には重みという物が有る。
同じ種族ですら、Q-Beeは一人分に誤認されてもP-Beeのそれが誤差にすらならないように、
支給品“達”の魂は全て破壊されようとも参加者一人分にさえ満たないはずだったのだ。
実際、他の意志有る支給品が破壊された時の魂に誤差は出ていない。
にも関わらずチャチャゼロの魂には参加者一人分を満たす程の重みが有った。

考えられる事は幾つかある。
エヴァが近くに居た事で、魔力が流れ込まずとも何らかの強化に繋がったのかもしれない。
死んだというより仮死、あるいは擬死状態とでもいうべき状態から神体に吸引され、
魂が無理矢理引き剥がされて呑み込まれた事も一因と言えるかもしれない。
だがもっと単純に考えるならば、こうだ。
これまで数百年エヴァと共に歩んで来て成長しなかった魂が、僅か一日で急激に育っていたのだ。
そんな事は普通に考えるならありえない。
“人型である事から参加者と同じく魂を練磨する儀式の影響を受けたとしても”そこまでの成長は想定外だ。
だが事実、チャチャゼロの魂はそれほどの重みを持っていた。

だから気づけなかったのだ。
有り得ないと思われていた事が起きたから。
ジェダはチャチャゼロを甘く見ていたのだろう。
たかが人形がささやかな奇跡を起こしていたなんて思いもしなかったのだから。

儀式はあるべき形へと効率的に進んでいた。
誰が思うよりも劇的に、速やかに。

混迷は全ての真実を覆い隠していく……。

97 ◆tcG47Obeas:2010/04/07(水) 08:41:39 ID:mvdxLdvw
以上でジェダの話の投下を終わります。

続いて、蒼星石の話。

98蒼星石/Lapislazuri Stern ◆tcG47Obeas:2010/04/07(水) 08:44:00 ID:mvdxLdvw
蒼星石は物陰に隠れて、彼女達の会話を耳にした。
リリスとQ-Beeの会話。
危ないと思い咄嗟に隠れて聞いた話は衝撃的な物だった。

まず古手梨花、そしてククリと金糸雀の死体を確認したというQ-Bee。
それだけでも蒼星石にとっては重大な意味を持っている。
(死体を確認したという事は、タバサ達はどうなったんだ!?)
金糸雀とククリの死体はタバサが引く棺桶に入れられていたはずなのだ。
タバサや小太郎は無事なのだろうか。
気にはなるが、どうすれば良いか判らなかった。
少なくともあと二時間足らずで耳に出来る放送を待てば、その生死だけは確認できる。
しかし今すぐ確認に行かなくて良いのか。
(いや、Q-Beeは不用意に参加者を傷つけはしないはずだ。
 ジェダも、あの戦いは参加者の方から挑んだ物だという風に……ジェダの言葉を信じられるのか?)
動揺が胸の中を駆け巡り収まらない。
更に魔物達の会話は続く。

「アト、イキテテクビワツケテナイニンゲンモミツケタ」
「あ、生きてる人って本当にいたんだ」

(誰か首輪を外した人が居るのか!?)
どうやらQ-Beeはそれを捜し死体を確認して回っていたらしい。
苦渋を噛み締め、タバサ達への不安をさておき思考する。

そもそもどうして確認していた死体がククリ、金糸雀、古手梨花なのだろうか。
偶然にも、蒼星石はその全ての死体を知っていた。
ククリの死体も金糸雀の死体も、目の前の古手梨花の死体も知っていた。
それらの死体に共通する点とは何なのか?

ククリと金糸雀だけなら北東の街で死んだ事しか意味しない。
どうやら首輪を外した誰かもそこに居たらしい。
しかし古手梨花の死体を確認する必要が有ったのはどうしてだろう。

(箱に密封されたり、埋められていたからとか? ……いや、それだけじゃダメだ)
すぐに否定する。
もしそうだとすれば、一緒に棺桶に入れられていたイシドロの死体だって調べたはずだ。
だがイシドロの死体に興味は無かったようだし、そもそも夕方の放送時点で死亡したと認識されている。
そう、夕方の頃は。
(まさか…………時間が問題なのか?)
ククリと金糸雀の死体にもう一つ共通しているのは、殆ど同時に死んでいた事だ。
古手梨花は判らないが、彼女も似た時期に殺されたとすれば……。

(考えろ、考えるんだ蒼星石。あの名探偵くんくんのように)
薔薇乙女達の間で熱狂的ブームを引き起こしている推理物動物人形劇の探偵を思い出す。
彼のように鋭い推理をするのだ。
北東エリアで死んだククリと金糸雀、時間帯は多分九時かその前後だろう。
その調査をQ-Beeが行っていた。
Q-Bee。
レミリアに殺害され、日の替わりと共に復活したQ-Beeが調査していた?
(もしかして関係が有るのか?
 Q-Beeが倒された事。十二時に蘇り、雨が降らされた事。
 Q-Beeが調べていた死者達。死者の中に混じっていた首輪から逃れた誰か。
 Q-Beeが殺されたのと近い時間帯に殺されたのかもしれない死者達。
 もしもこれが一本の線で繋がるとすれば……!!)

Q-Beeが殺されたから、首輪から逃れる者が出た?

99蒼星石/Lapislazuri Stern ◆tcG47Obeas:2010/04/07(水) 08:46:10 ID:mvdxLdvw
(いや違う、そうじゃない!
 そもそもククリと金糸雀が死んだのはQ-Beeより少し前だったんだ。
 Q-Beeが殺されたから何か有ったなら、Q-Beeより後に死んだ人を調べるはずなんだ。
 ……どんな順番で死んだのか正確には把握できてないのか?
 それとも、もしかして。
 正確な把握もできなくなっていたのか?)

──Q-Beeが殺された前後は生死の監視に若干の粗が生まれる。

若干粗い仮説だ。
しかしそう考えるのが妥当に思えてきた。
Q-Beeが死ねば誰が生きているか誰が死んでいるかのチェックが甘くなるのだ。
その隙を突いて、何者かが首輪を解除した。

(逆に言えば、Q-Beeが生きている間はすぐに感知されてしまうのか?)
厄介な難題だった。
悔しいが、レミリアとQ-Beeとの激闘は手の出せる領域ではなかった。
再びあれを倒す事など出来るのだろうか。



しばらくしてリリスとQ-Beeは別れた。
蒼星石は思う。
せめてリリスだけでも倒すべきなのだろうか。
エヴァは言った。

『私は光を知らしめる影となる。おまえはそれを手伝え』
『別に罪を背負えとは言わん。私に付いてくる必要も無い。
 悪を映えさせる者として正義に味方してもかまわん。
 ただ私の在り方を手伝え。それすらしないというなら死ね』

正義に味方をしようがどうしようが構わない。
ならばリリスは倒すべき敵なのだろう。
蒼星石の道は未だ定まらなかったが、リリスを打ち倒す事は正しい事に思われた。
倒しても殺そうというつもりにはとてもなれなかったが、それでも。
ただしそれができるならだが。

(出来るのか? 僕に)
昼間に塔で戦った時の事を思い返す。
戦術の指揮を受けていたとはいえ、四人がかりで戦ってようやく撃退できた難敵だ。
あれに一人で太刀打ちする事などできるだろうか。
(僕の調子はどうなんだ)
ドール契約により四肢を取り戻し、腕や足は違和感さえ感じさせず自在に動く。
白兵戦であれば以前と同じように戦えるはずだ。
空を飛び白兵戦に持ち込むか、金糸雀のヴァイオリンを使えば戦いようがあるだろうか。
蒼星石はリリスを見上げる。

リリスは空を見回し、何かを見つけた様子で飛び立った。
リリスの視線の遥か先に居たのは。

「エヴァ……!!」

西の方角へと飛んでいくエヴァ。
自分の担当区域だと言いながら、エヴァが向かおうとはしなかった方角だ。
そちらに何か有ったのかもしれない。
何れにせよ最早選択の余地は無い。
蒼星石は助走を付け、自らもローゼンメイデンの飛行能力で飛翔しようとして。

雨上がりでぬかるみと化した地面に叩きつけられた。

100蒼星石/Lapislazuri Stern ◆tcG47Obeas:2010/04/07(水) 08:47:28 ID:mvdxLdvw
「うぐっ。クッ、一体何が?」
泥でべちゃべちゃになりながらも立ち上がる。
飛ぼうとしたはずだ。
ローゼンメイデンの飛行能力はそこまで優れた物ではないが、出来るはずだし出来ていた。
なのにどうして。
「飛べなくなってるのか……?」
それが出来なくなっているのか。

蒼星石はハッとなり自らの胸に手を当てた。
その奥に感じ取れるはずのものを感じ取ろうとした。
胸の奥深く、ドール達の中枢にある。

ローザミスティカの鼓動を。







感じ、とれなかった。


蒼星石自身のそれはもちろんの事、取り込んだ金糸雀のローザミスティカも反応が無い。
確かにそこに在るのだ。
存在しているのに、反応を返してくれない。
まるで化石になってしまったみたいに、そこから溢れ続けるものが感じられない。

「…………は……はは…………は………………」

乾いた笑いが零れた。
理解してしまった。
どうして自らの中にあるローザミスティカが反応を止めたのか。
自らの身に降りかかった現象が何であるのか。



蒼星石はローゼンメイデンではなくなったのだ。



自らの体だ、意識を巡らせれば実感として理解できる。
蒼星石の体内を巡る力はエヴァのドール契約の作用が複雑に絡み合い変質していた。
逆に言えばローゼンメイデンの力が機能を停止したのだ。

だから、ローゼンメイデンとしての力が喪われた。

金糸雀のバイオリンを取り出して、演奏してみた。
ギィギィと耳障りな音が響くだけで何も起きなかった。
金糸雀のローザミスティカはもう、ヴァイオリンの弾き方も教えてくれない。

空を飛ぶ力は失われ、夢に入る力も失われている事を感じとれた。
庭師の鋏で心の樹を正しく剪定する事も叶わない。
例えローザミスティカを集めても、最早何の想いも伝えてはくれないだろう。
究極の少女、アリスに至る事も絶対に有り得なくなった。

蒼星石の生まれた理由さえもが否定された。

101蒼星石/Lapislazuri Stern ◆tcG47Obeas:2010/04/07(水) 08:48:39 ID:mvdxLdvw
「そういう事、か……」
打ち捨てられた庭の様に胸の中で絶望が繁茂していく。
とっくの昔に判っていた事だ。
殺し合いを許容した自分が何かを望むなんておこがましいと。
だけどそれでも想ってしまった。
希望を抱いてしまった。
まだ何かを信じていいのだと。

「…………なにが」

例え徒歩で辿り着けたとしても、リリス相手には戦いにすらならないだろう。
空中から攻撃を続けられればそれだけで、今の蒼星石には何もできないのだから。
大体走って向かったとしても到着するのは全てが終わった頃だ。
西で起きる筈の戦いにおいて、蒼星石に出来る事は何も無い。

「なにが、悪いんだ」

そもそも蒼星石は何のために何をする。
最早生まれた意味すら否定された。
敬愛するお父様の願いを叶える事はできない。

こんなにも無力な体で誰かを護る事も。
こんなにも罪に穢れた身で誰かを救う事も。
できるわけがない。
できるはずがない。

なのに。

「一筋の光を求め続けることが!」

蒼星石は立ち上がる。
存在理由は否定された。
胸腔の奥に眠るローザミスティカはただの預かり物と化した。
その身は泥と罪に塗れ、心には絶望の蔦が絡み付いている。
泥に塗れた顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。
意地を張るように噛み締めた歯はカタカタと噛み合わない。

胸が苦しい。

想いが辛い。

痛い。

痛い、痛い、痛い!

こころが、いたい。

最早許されなくとも、究極の少女アリスは父ローゼンの夢で、ローゼンの夢は蒼星石の夢でもあった。
とても大切な夢だった。
いや、言葉を尽くしても語り尽くす事などできないだろう。
ローゼンメイデンである事は、蒼星石にとっての根底だった。
全てだったとはいわない。
幾つもの絆が無意味な物だったとは思わない。
だけど蒼星石の全てはその基盤の上に構築されていた。
その基盤が崩れ去った。
だから何もかもが失われた。
蒼星石にとっての全てが崩れ去る。
意志も矜持も絆も思い出も、希望も。
何もかもが崩れ去る。

102蒼星石/Lapislazuri Stern ◆tcG47Obeas:2010/04/07(水) 08:49:19 ID:mvdxLdvw
それでも蒼星石は想うのだ。

(僕は救われたんだ)

死に瀕してなお勇者であったニケによって、心を救われた。
主人であるエヴァの手で消費されたチャチャゼロによって、体を救われた。

だったら、こんな所で足踏みをしている暇なんて有るものか。

歩き続けなければならない。
その想いが蒼星石の足を支えてくれる。

(どうする?)
自問する。
悔しいが西は、間に合わない。
それでも西に行くのか。
それとも他の選択をするのか。
(……西で起きている何かは、エヴァを信じよう)
何が有って向かったのかは判らないが、彼女ならそうそう仕損じる事は無いはずだ。
蒼星石は蒼星石に出来る事をしなければならない。

そう考えるなら答えは一つしかないのだ。
元より蒼星石にはしなければならない事がある。

(タバサ達に謝らなくちゃいけない)

それは蒼星石が犯した明確な過ちで、だけどまだ償える事だ。
タバサ達を捜し、再会し、謝ろう。
前に進むならその前にケジメを付けるのは当然の事なのだから。

(なら、どう向かう?)
問題は進路だろう。
蒼星石は北から来た。
だけど5時に発動するE-2の禁止エリアが蒼星石の帰り道を塞いでしまう。
急げば発動前に抜けられなくもないが、もし夜道に迷って途中で禁止エリアが発動すれば最悪だ。
森まで掛かるE-2エリアに迷い込まないよう進むには相当の余裕を見なければならない。
見通しの利かない森の中を進むのだから、1エリア余裕を見てC-4から森に入っても警戒しすぎという事はない。
あるいは、東から回るか。
G-4の禁止エリアこそ気になるが、こちらは道なりに行けばいいのだから概ね安全だ。
城に寄るのも良いかもしれない。

どのみち朝までには到底戻れない。
タバサ達は街を出ているかもしれない。
出ているとすれば、何処へ?

(……東、かな)
こちらから使いにくいルートは逆側からも使いづらいのだ。
北周りはE-2の禁止エリアが邪魔になる。
やはり、東回りだ。
途中幾つか有る施設に寄って行くのも良いだろう。

蒼星石は東を見つめた。
一度だけエヴァが向かった西を振り返り、それから。
東へと向けて歩き始めた。

(エヴァが自分を悪と引き立てろというのならしてやるさ。
 エヴァが悔やむくらいに、引き立ててやる)
だからその為に、今はエヴァと逆を行く。
蒼星石のケジメを付けて、それから必要な何かを見つけるために。
そう。

103蒼星石/Lapislazuri Stern ◆tcG47Obeas:2010/04/07(水) 08:50:38 ID:mvdxLdvw

(僕は君を諦めない) 

エヴァを連れ戻せるだけの何かを見つけてみせる。
エヴァが自らを悪だ影だと言うのなら、その悪や影にすら手を差し伸べ引き戻してみせる。

光の道とはそういうものだ。
どれだけ喪おうとも、どれだけ叶いっこ無いほどの奇麗事だろうとも挑み続ける。
現実を見ないだけだと蔑めばいい、憎めばいい。
こんな生き方で何かを掴めるはずも無い。
十中八九全ては徒労に終わるだろう。
だから正義は弱いのだ。
未来ばかり見る無想家は明日に辿り着けずのたれ死ぬ。
自分どころか周りを巻き添えにして死んでいく。
光は夜闇の前に儚くて、どこまでも愚かな蛮勇に過ぎない。
だけど蒼星石はそんな勇気に救われた。

行為だけを見れば最低だ。
ニケは蒼星石を救うアテも何も無く蒼星石を護って、散った。
それが無駄にならなかったのはエヴァが心動かされたからだ。
その成果ですらチャチャゼロという別の犠牲を必要とし、その上で蒼星石の力さえ失われた上での物だ。
何一つプラスになってはいない。
奇麗事でしかない光の道とはそういう物だ。
それでも蒼星石は奇麗事に救われた。
命を救えるのは闇の道を貫く悪の信念なのかもしれない。
でも心は奇麗事でしか救えない。
だったら奇麗事を選ぶのは当然の事だ。
何故なら蒼星石は。

「僕の役目は、心を護る事なんだから」

心の樹を護る庭師なのだから。
もうローゼンメイデンですらなくなったけれど、それでもそう在り続けようと思う。
ニケの遺志が、歩き続ける強さをくれるから。
だから胸を引き裂くような痛みを噛み締めて、蒼星石は歩き出す。

歩き、歩き、歩き、歩いて。
やがて目前に広がるのは立ち枯れの森。
蒼星石は何時ごろに誰がこれを為したのか、その後に何処へ行ったのか知る由も無い。
ただ、それを為した誰かに恐怖を抱きながら。
決意の一歩で、枯れ土を踏締めた。


【E−5/荒地/2日目/早朝】
【蒼星石@ローゼンメイデン】
[状態]:金糸雀のローザミスティカ継承、チャチャゼロの部品と人形契約により四肢を維持、
    ローゼンメイデンとしての機能失調、泥塗れ、精神的に激しい衝撃、それでも進む意志
[装備]:庭師の鋏@ローゼンメイデン、戦輪×4@忍たま乱太郎
[道具]:基本支給品×2、金糸雀のバイオリンと弓@ローゼンメイデン、ジッポ、板チョコ@DEATH NOTE、素昆布@銀魂、
    旅行用救急セット(消毒薬と針と糸)@デジモンアドベンチャー、トンネル南側入り口の鍵
[思考]:諦めちゃいけないんだ
第一行動方針:タバサ達に謝りに行く。
第二行動方針:エヴァを引き戻すための何かを探す。
基本行動方針:人の心を護る。
[備考]:現在蒼星石の四肢はエヴァとの人形契約により動いています。
    蒼星石の自由に動き、エヴァにとっての負担もほぼ有りませんが、
    昼間のエヴァの魔力の減衰や、死亡によって影響を受ける可能性は有ります。
    エヴァと情報交換しました。少なくとも島を覆う結界や地下に本拠地があるであろうことは聞いてます。
※ジェダ達に死亡したと思われています。首輪の中のP-Beeも眠っています。そのことに蒼星石は気付いていません。

104守るもの、奪うもの  ◆v5ym.OwvgI:2010/04/09(金) 01:14:52 ID:/k3dyqO6

ヤミは自ら、大切な人を手放す。
大切な人が、自分のせいで傷つくのが嫌だから。
大切な人を傷つける、自分自身が嫌だから。

冷たい濁流に流されるままに、お城を離れる。
お城の対岸に渡って、彼女は陸に上がる。

その下半身を人間の物に戻し、呆然と、ただ茫然とお城のある方向を見つめていた。

心にざわめく想いを声にしたら、謝罪になるか、未練になるか。
複雑な想いを、形にできないまま彼女はお城を見つめ続ける。

本心は、離れたくない。
彼らとともにいると、それだけで温かくなれるから。
彼らは自分にとっての、全てだから。

だけど、それは許せない。
例えレックスやアルルゥが許してくれたとしても。
私自身が、それを許せない。

だから私は、ヤミになる。
冷たいのは、自分だけでいいから。
冷たくあるべきなのは、自分だけなのだから。


パキ、と
突然、後方から木の枝が折れる音が響く。

「……っ! 誰!?」

警戒し、音のした方を注視する。
そこに人の姿はない。だが確かに音がした。

ヤミが警戒していると、そこに誰かがいるという証明をするように足跡が突如現れる。
ぺた、ぺたとぬかるんだ地面を踏む音が聞こえる。
そして、目の前の光景がにじみ、一人の少女が姿を現す。


「イヴ……か?」

その名前を。
今の自分が忌み嫌う、過去の自分の名前を聞いた時、
ヤミの中にいやな感情が流れる。

その名前は、自分の罪と同じだから。
自分が犯してしまった、罪と同じだから。

「お前……生きてたのか!?」

自分だった名前を告げた少女。
茶髪の、銀のコートをまとった少女。

105守るもの、奪うもの  ◆v5ym.OwvgI:2010/04/09(金) 01:15:22 ID:/k3dyqO6
ベルカナ達から聞かされた、自分が協力していた「ご主人様」のことを思いだす。
自分がイヴだった時、梨々を殺してしまうことになった原因を。
梨々を殺した、人間を。

そう理解したとき、彼女の中の嫌な感情は、全てが怒りとなって少女へ降り注ぐ。

そしてその激情の赴くままに少女に襲いかかり、馬乗りになり動きを封じる。

記憶を消し去ってしまったとしても、彼女はもともと戦いの為に作られたナノマシンだ。
そして何年も身体に沁みつかせた掃除屋の動きも、身体の記憶に刻まれている。

一般人にすぎない少女には、その動きに対応する暇さえなかった。

「イ、ヴ……?」

こいつのせいで。
こいつがレックス達を襲ったせいで。
こいつが梨々を殺したせいで。

そんな、半分以上が八つ当たりでできた思いでヤミは少女に襲いかかる。

「あなた、のせいで……!」
「っ!!」

無抵抗な少女の首を刈らんと、
彼女の髪が刃の形に変化する。

そして、その刃が振り下ろされようとしたとき。


「ぶはあ!」


場違いの様な声が響く。

ヤミが驚き、その方向を見ると、そこにはさっき別れたはずのレックスの姿があった。
それも、濁流にのまれ、溺れた状態の。



レックスは、躊躇していた。
『磁力』を使い、ヤミヤミを捕まえにいくか、否か。

使い捨て。故にたったの一度しか使えないそカードを使うか、否か。

だが、その躊躇は、目の前で泣くアルルゥによって霧散した。
レックスはアルルゥに、必ずヤミヤミを見つけて戻ってくると約束し、
すぐに『磁力』を使い、ヤミヤミの下へ飛んでいったのだ。
ヤミヤミとのつながりを守るために、アルルゥを悲しませないために。

106守るもの、奪うもの  ◆v5ym.OwvgI:2010/04/09(金) 01:15:45 ID:/k3dyqO6
だが、飛んだ先がまずかった。
河の中に飛び込んだヤミヤミの下に飛んだということは、水中に転移したということだ。

一応それはレックスも予想していたようで、衣服は全てランドセルに入れ、
アルルゥから海底探検セットをもらっていた。
そしてその中からエアチューブを取り出し、装着していた。

だが焦っていたのだろう。他の道具は装着しなかった。

そしてヤミヤミは魚のような下半身をしており、普通の人間の何倍も泳ぐスピードが速い。
レックスの転位先から背を向けていたヤミヤミは気付くこともなく去っていく。

今になって海底探検セットを全て装備しようとするも、もう遅い。
豪雨による増水で流れが急になっている今、ランドセルを開いてしまったら確実に荷物は流されてしまう。
レックスもそれに気づいているがゆえに、不用意にランドセルを開けることはできなかった。

レックスはその持ち前の体力だけで、ヤミヤミを追いかけた。
だが鍛えられた体でも、強すぎる自然の力にはかなわない。

勢いのある川の流れに流されるまま。
エアチューブのおかげで溺れることはかろうじてないが、流れのせいでなかなか陸に上がることができない。

そしてヤミからすれば、彼がエアチューブを装備しているなどということはわからず。

ヤミからみたレックスは、川の急な流れに攫われて必死で陸に上がろうとする姿であり、
まさしく溺れている人間そのものだった。

自分の大切な仲間ゆえに、彼らを『冷たい私達』でいさせることが嫌で別れたが、
彼が、彼らが嫌いなわけではない。

「レックス!!」

ヤミは無我夢中で千秋を突き飛ばし、すぐにその下半身を魚のひれへと変え、川へと飛び込む。




流されていくレックスを見つけ、抱え、陸を目指す。
しかし、ヤミは急に疲労感を覚え、規則的だった泳ぎに荒れが出た。

制限された中での体の構造を大きく変えるトランスの連続。
子供一人抱えての激流の中の水泳。
それらの行為は、ヤミの体力を大きく削っていた。

しかし彼女は、この激流の中必死に体制を整え、泳ぎ続ける。
抱えた彼の身体を絶対に手放さないよう、かたく抱きしめて。
彼は、彼の温もりは、彼女のすべてといってもいい大切なものだから。

107守るもの、奪うもの  ◆v5ym.OwvgI:2010/04/09(金) 01:16:06 ID:/k3dyqO6
だが彼女の意思に反して、彼女の身体は急激に力を失っていく。
体力の限界が近いのだ。

それでも。
この温もりを失わせたくはないから。
彼女は必死で泳ぎ、そして――――






    ※    ※



千秋は困惑していた。
目の前で起こった出来事全てに。

協力者と思っていたイヴに襲われた。
生きていたことに驚いたが、それ以上に喜んでいる自分がいた。

彼女は先ほど、恐怖に出会ったばかりだったのだ。
化け物の生まれる瞬間を目にして。
その化け物のいる場所に一秒でもいたくなくて逃げてきたのだ。

そして、逃げてきた先で、唯一の仲間に会えた。
死んだと思っていた、協力者に。

イヴはこの場において唯一といってもいい味方だ。
例え最後には争う関係になるとしても、今だけは味方といっていい存在だったはずだ。

その時の彼女は、余裕がなかったこともあり、とても喜んだのだ。
協力者が知っている姿よりも幼くなっていたことにも気付けなかったくらいに。

なのに。

その協力者は自分を殺そうとした。

出会ってすぐに彼女は自分に刃を向け。
そしてお城にいた、馬鹿みたいに強い少年が溺れているのを見て、迷わず川へ飛び込んだ。

わけがわからなかった。



何故?

108守るもの、奪うもの  ◆v5ym.OwvgI:2010/04/09(金) 01:17:15 ID:/k3dyqO6
最後には殺し合う中ではあるが、今はまだ仲間といえるはずなのに。

何故?

先ほど敵対していたはずの少年が溺れていて、助ける必要がある?


わからない。
わからないが、彼女がどうにかして城にいた連中の仲間になったことは理解できた。

そして、その連中がイヴにとって大切な存在になっていることを。




どうして。




イヴと自分は同じはずなのに。
何人も殺して、ご褒美をもらえるくらいに殺して。

なのにどうして、イヴばかりがいいめに会うのか。
自分は梨々も雛苺も殺して、冷たい雨の中走って、
会いたくもないモンスターの誕生を間近でみてしまって。

自分は散々な目にあったというのに。

なのにどうして。
彼女は温もりを手にしているのだろう。

「ふざけんな、馬鹿野郎……」

彼女が、憎かった。
どうしようもなく、憎かった。

暖かい場所で、暖かい思いをした彼女が。
彼女の温かみを壊してやりたかった。彼女の悲しむ姿を見てやりたかった。

それが、今なら実現可能だと千秋は思う。

お城の戦い。
一番やっかいだった、リーダーシップを取る少年。
もっとも戦い慣れ、もっとも多種多様なことができていた少年。
力も一番強く、雷を操り、おまけに回復までできる奴。

109守るもの、奪うもの  ◆v5ym.OwvgI:2010/04/09(金) 01:17:35 ID:/k3dyqO6
奴の名前はレックスだったはずだ。
そしてそいつは、どういうわけだか川を流されていた。

奴がいなくなった今なら。
倒せないと思った城の連中にも、勝てる。


千秋はお城へと走り出した。




    ※    ※




暖かい。


ヤミがまず認識したのは、暖かさを感じる触覚だった。

自分の前面から感じる、暖かい感触。
それにもっと触れていたくて、頬をすりつける。
そうしているうちにだんだんと、他の感触も蘇ってくる。

等間隔で弾むような、振動を感じる。
振動と同じく等間隔で、ぬかるんだ土を踏む音が聞こえる。
霞む目には、金色の何かがちらつく。

自分はさっきまで何をやっていたんだっけ……?

ぼんやりとした思考が、そこに至った瞬間、彼女は急激に覚醒する。

ハッとヤミは眼を覚ます。

「あ、目が覚めたんだ」

目を覚ました彼女は、自分がレックスに背負われていることをすぐに理解する。
川からはもう出られたみたいで、今は何処かに向かっているようだった。

「お礼がまだだったね。助けてくれて、ありがと」

照れくさそうに、レックスはそう告げる。
その姿は川の中のように裸じゃなく、城にいた時と同じ服を着ている。
自分の姿も、いつの間にか人魚から戻っていた。

その言葉にくすぐったさをかんじるも、すぐにそれじゃだめだと思い、

110守るもの、奪うもの  ◆v5ym.OwvgI:2010/04/09(金) 01:17:54 ID:/k3dyqO6
「おろ、して」
「だめだよ、さっき気絶したばかりなんだから」
「大丈夫、だから」

そういって暴れるも、レックスは離さない。

「だってヤミヤミ、僕が離したら逃げちゃうでしょ?」

その言葉に、ヤミは息詰まる。
いなくなりたいわけじゃない。
本心は、レックス達と一緒にいたい。
だけどそんな自分を、ヤミは許せない。

「その名前は、返しました。今の私は「それじゃあ、だめなんだよ」……え?」

だから、屹然と言い放つ。
言い放つも、その言葉はやはり、止められる。

「君だけが、冷たいままじゃアルルゥは悲しむ。
 僕たちみんなが、同じじゃなくちゃ」

レックスは続いて、そう言う。
だけどそれは、ヤミが最も望まないものだ。
周りのみんなを、そうさせないために分かれたというのに。

「今、僕の身体、あったかいでしょ?」
「え……う、うん」

どうやって彼から離れようかと考えていたときに、
突然のわけのわからない問い。呆然と答えるヤミ。

自分の身体は、レックスの身体と密着し、相手の身体を感じさせる。
レックスの身体は互いの体温で温もりに包まれる。

「それでも、川から上がった後はとっても冷たかったんだ。
 僕がこうやってあったかくなったのは、ヤミヤミと一緒だったからだ」

そういって、レックスはヤミを降ろす。
そして、ヤミに思いっきりだきついた。
お城でアルルゥにやったように。

「え……? え?」

いきなりのその行動に、ヤミは頬が染まる。
密着したレックスの身体からは、心音が響く。

「アルルゥは、こうしたくて君をヤミヤミって名前にしたんだ」

111守るもの、奪うもの  ◆v5ym.OwvgI:2010/04/09(金) 01:18:49 ID:/k3dyqO6
動転するヤミに、レックスはそう、語る。

彼女の名前の真実を。
彼女の名前に込められた、アルルゥの想い。


ヤミ……いや、再びヤミヤミと名乗ることになる彼女は、
身体と心にあふれるその暖かさに満たされた。









       ※     ※





「これでよし、っと」

千秋は目の前にある物騒な砲台を目にして、満足げだった。

その砲台の名は無敵砲台。
とある未来の世界の秘密道具の兵器だ。

千秋の残る追加支給品は、この無敵砲台と、ヴォーパルソードという氷の剣だった。

光学迷彩
ヴォーパルソード
無敵砲台

この中で、ヴォーパルソードは千秋にとってハズレだ。
レックス等の戦士達にとってはこの上ない当たりであろうこの道具も、
剣術の心得のない千秋にとっては包丁と同等の価値しかない。

光学迷彩も今の千秋にとって、実は使いにくい。
これは千秋が既に持っているシルバースキンとの併用ができないのである。
同時に装着しようとすれば、シルバースキンが光学迷彩の上に展開されてしまい、
服だけが浮いた状態になってしまうのだ。


故に、この追加支給品達でレックス達に再度挑んだとしても、勝てないだろうと千秋は考えていた。

112守るもの、奪うもの  ◆v5ym.OwvgI:2010/04/09(金) 01:19:06 ID:/k3dyqO6
例え雛苺と一緒に攻め入ろうとも、無敵砲台をあてるために彼らの姿を見なければならない。
そして、その距離からだと相手の攻撃を防ぐことができない。

こちらが「発射」といわなければ無敵砲台は発動しない。

そしてレックスの雷の魔法は、シルバースキン越しでもダメージが通った。
そのダメージに怯んでいる間に、レックスが瞬く間に近づいて、渾身の一撃をたたきこんできたら。
シルバースキンは無敵の装甲だが、あの雷のように耐えられないものも存在する。
本当に完全に耐えられるのか、と言われれば不安が残る。

あるいは光学迷彩をしていたなら、こちらの姿は見えないだろうが、
その時は「発射」という言葉で方向だけは気付かれるだろうし、
そうなるとレックスの雷やアルルゥのドラゴンの広範囲攻撃で殺されてしまう。
シルバースキンをまとわないわけにはいかなかった。

故に、千秋は当たりともいえる無敵砲台があろうと、お城の面々に勝てないと思っていた。


だが、一番厄介なレックスは今どういうわけだが城の外にいる。
今この城の中には、ベルカナとアルルゥと呼ばれていた面々しかいない。
この二人は、レックスほど接近戦が得意ではない。

これなら勝てる。
にやり、と千秋は口の端を釣り上げるような笑みを浮かべる。

「お前だけ、抜け駆けなんて許さないからな」

大切な存在がいなくなっていることに気づいたイヴが
一体どれほどの悲しみに染まるのか。

それを考えるだけで、自然に笑みができる。





彼女は気付いているだろうか。

今の彼女の笑みは、彼女が恐怖した存在とまったく同じだということに。

113守るもの、奪うもの  ◆v5ym.OwvgI:2010/04/09(金) 01:19:27 ID:/k3dyqO6












仲間を得たことで、温もりを手にしたイヴ。
彼女はその温もりを愛し、その温もりの為に行動することを決意する。

一度は冷たい機械であろうとしたイヴは、
記憶喪失等のハプニングに助けられたこともあったが、再び暖かい存在になれた。



そして仲間も何もかも捨て、どんどん冷たくなっていく千秋。
彼女はいったい、いくつもの温もりを傷つけどこへ行こうとするのだろうか。




【F-3/グランバニア城一階・宿屋/2日目/早朝】
【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:魔力消費(中)、右腕の手首から先が動かない。
[装備]:タマヒポ(サモナイト石・獣)、ワイヴァーン(サモナイト石・獣)@サモンナイト3
[道具]:基本支給品×2、クロウカード『泡』『駆』@カードキャプターさくら、
    スタンガン@ひぐらしのなく頃に、アタッシュ・ウェポン・ケース@BLACK CAT
[服装]:普段着である民族衣装風の着物(背中の部分が破れ、血で濡れている)
[思考]:ヤムィヤムィ、レックスおにーちゃん……
第一行動方針:レックスがヤムィヤムィを連れて帰ってくるまで、お城で待つ。
第二行動方針:レックスについていき、レミリアやイエローを捜したい。
基本行動方針:優勝以外の脱出の手段を捜す。敵は容赦しない。
参戦時期:ナ・トゥンク攻略直後
[備考]:アルルゥは獣属性の召喚術に限りAランクまで使用できます。
    ゲームに乗らなくてもみんなで協力すれば脱出可能だと信じました。
    サモナイト石で召喚された魔獣は、必ず攻撃動作を一回行ってから消えます。攻撃を止めることは不可能。
    アリス・イン・ワンダーランドに対して嫌悪を覚えています。
    ベッキーは死亡したと考えています。

114守るもの、奪うもの  ◆v5ym.OwvgI:2010/04/09(金) 01:19:44 ID:/k3dyqO6
【F−3/城入口/2日目/早朝】
【南千秋@みなみけ】
[状態]:健康、疲労(中)、人間不信&精神衰弱。イヴに対する憎悪
[装備]:ロングフックショット@ゼルダの伝説/時のオカリナ、祝福の杖(ベホイミ残1回)@ドラゴンクエスト5、
    首輪探知機、シルバースキン《核鉄状態》@武装錬金、光学迷彩《展開中》@絶対可憐チルドレン
[道具]:基本支給品×5(食糧、水のみ四人分)、ルーンの杖(焼け焦げている)@ファイナルファンタジー4、
    コンチュー丹(容器なし)@ドラえもん、青酸カリ(半分消費)@名探偵コナン、
    的の書かれた紙×5枚@パタリロ!、太一のゴーグル(血がついている)、替えのパンツ×2枚、
    ころばし屋@ドラえもん、小銭入れ(10円玉×4、100円玉×3) インデックスのメモ、ご褒美ランドセル
    F2000R(残弾12/30)@とある魔術の禁書目録、FNブローニングM1910(残弾0)、飛翔の蝙也の翼@るろうに剣心、
    グラス×5、爆弾石×2@ドラゴンクエスト5、ヴォ―パルソード@TOS
[思考]:今ならやれる……!
第一行動方針:お城にいる奴らを殺す。そしてイヴの反応が見たい。
第二行動方針:グレーテルには、もうできる限り関わりたくない。
第三行動方針:他者を利用しつつ、殺し合いを促進させる。危険因子はその都度排除。
第四行動方針:全て終わったら、八神ヒカリに形見のゴーグルを渡したい(自分が殺した事実は隠す)?
基本行動方針:優勝狙い。優勝のご褒美で“殺し合いに参加していた自分”を消してもらい、元の世界に戻る。
       もう正面から戦ったりしない。
[備考]:グレーテルに対し、シルバースキン以外の手の内をほとんど明かしていません。
    グレーテルの再生能力、エネルギードレイン能力を把握しています。
    木之本桜はレックス達に殺されたと思っています。

※無敵砲台@ドラえもんをF−3のお城中庭に設置しています。



【G−5/河川付近/2日目/早朝】
【レックス@ドラゴンクエスト5】
[状態]:魔力中消費、ヤミヤミを背負ってる。
[装備]:ドラゴンの杖@DQ5(ドラゴラム使用回数残り2回)、勇気ある者の盾@ソードワールド、エアチューブ@ドラえもん
[道具]:基本支給品×2、飛翔の蝙也の爆薬(残十発)@るろうに剣心
    ドラゴンころし@ベルセルク、バトルピック@テイルズオブシンフォニア、
    爆弾石×2@ドラゴンクエスト5、魔力の尽きた凛のペンダント、小さなメダル@DQ5
    海底探検セット(深海クリーム、(エア・チューブ)、ヘッドランプ、ま水ストロー、深海クリームの残り、快速シューズ)@ドラえもん
[服装]:普段着
[思考]:戻ろう、ヤミヤミ
第一行動方針:ヤミヤミと共にお城に帰り、アルルゥを安心させる。
第二行動方針:仲間を守りつつ、レミリアとタバサを捜す。
第三行動方針:魔力が回復して余裕が出来たら、不明アイテムや水中の調査
基本行動方針:勇者としてタバサの兄として誇れるよう生きる。でも敵には容赦しない。
[備考]:エンディング後なので、呪文は一通り習得済み
    アルルゥや真紅はモンスターの一種だと思っています。
    ベッキーは死亡したと考えています。
    お城の地下に迷宮があるのを確認しましたが、重要なことだと思っていません

115守るもの、奪うもの  ◆v5ym.OwvgI:2010/04/09(金) 01:20:04 ID:/k3dyqO6
【ヤミヤミ(イヴ)@BLACK CAT】
[状態]:疲労(大)、10歳前後の容姿、レックスに背負われてる。
[装備]:レミリアの服、エッチな下着@DQ5、返響器@ヴァンパイアセイヴァー
[道具]:基本支給品×2、光子朗のノートパソコン@デジモンアドベンチャー、
    フック付きロープ@DQ5、神楽の傘(弾0)@銀魂、エーテライト×1@MELTY BLOOD、
    胡蝶夢丸セット@東方Project、ラグーン号操船マニュアル、病院服、ただの布切れ
[服装]:レミリアの服、その下はエッチな下着
[思考]:アルルゥ……
第一行動方針:アルルゥに会いたい。謝りたい。
第二行動方針:レックス達についていく。もう迷わない
第三行動方針:自分の過去を知りたい。そのために、ブルーや千秋から話を聞きたい。
基本行動方針:自分の過去を知りたい。そして罪と向き合いたい。
[備考]:記憶をすべて消し去りました。元世界の記憶、この島での記憶、共にありません。
    再びヤムィヤムィ(ヤミヤミ)と名乗ることにしました。


【無敵砲台@ドラえもん】
巨大な砲台で、どこかに設置することで使用可能になる。
誰かを指差して「発射」と合図すると、思いのままにいつでも誰でも砲撃できる。
砲台の機能を停止できるのはセットした本人のみ。
それ以外の人間が停止したければ破壊しなければならない。

本来なら砲台に接近するものがいた場合、レーダーにより探知され迎撃されるが、その機能は制限で使えないため、
使用者の目の届かないところで見つかってしまえば何もできない。
砲撃から逃げることも防ぐことも一切不可能だったが、本作では制限の為可能。
また本作では同エリア内にしか砲撃できないものとする。


【ヴォ―パルソード@TOS】
氷の属性を秘めた秘剣。
物語のキーアイテムであるマテリアルブレードの片割れ。
フランベルジュと合わさることでエターナルソードに変化する。
作中では主人公ロイドが父親のクラトスにもらった。

116 ◆v5ym.OwvgI:2010/04/09(金) 01:20:57 ID:/k3dyqO6
規制により本スレに投下できないのでこちらに。
誰か代理投下お願いします。

118 ◆PJfYA6p9PE:2010/04/23(金) 21:14:51 ID:sVhpYQuM
案の定、さるさんにひっかかったので、一先ずこちらに投下いたします。

119 ◆PJfYA6p9PE:2010/04/23(金) 21:15:38 ID:sVhpYQuM


「くっ、フォーリング・コントロールッ!!」


動作とともに呪文を唱えて――――










「え」










――――しかし、なにもおこらなかった。


それは、彼女の故郷、アレクラストの魔法使いにあまねく課せられた厳しい掟。
三十六度に一度の割合で、魔法の発動は失敗に終わるという奇妙な法則。
どんな大魔道士にも避けることはできない絶対的な不幸。
確率の神の残酷な悪戯。
人はそれを


ファンブルと呼んだ。


呆けた顔のまま


落ちていく


落ちていく


やがて海が近づいて


ぞぶりと


肉の裂ける音がした。

120Sneak Attack!!(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/04/23(金) 21:17:49 ID:sVhpYQuM





彼女は崖の端に膝を付き、眼下に広がる海を眺めていた。
立ち上がって見ないのは、ギリギリのところでそうすると、そのまま落ちてしまいそうで怖いから。

こんな高いところから落ちたら大変だ。
こんな高いところから落ちたら――――ああ、なってしまう。

彼女は崖の端に膝を付き、眼下の海から突き出た岩を眺めていた。
岩の先には人間が引っかかっている。

「ハ」

尖った岩の先端で少女の腹は無残に引き裂かれ、だらしなくはみ出た桃色の小腸が波に洗われている。

「ハハハ」

信じられないとでも言いたげに大きく見開かれた瞳は、もう二度と瞬きをしない。

「ハハハハハ!」

手と足が変な方向に曲がっているのが、何だかとても滑稽だ。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

哀れな姿になったベルカナを見て、南千秋は心の底から笑い声を上げていた。

実際のところ、千秋の奇襲は全く巧みなものだった。

無敵砲台を設置した後、コンチュー丹を飲み、光学迷彩を使用。
首輪探知機で城内を動き回る二つの首輪――アルルゥとベルカナの位置を確認し、殺害を開始した。
アルルゥは杖で床を叩く音とわざと目立つように落とした探知機とを用いておびき寄せ、
背後から首をへし折った。
こちらから近づいていかなかったのは、足音で存在を看破されないため。
ベルカナはアルルゥの死体で動揺させた隙に撲殺する予定だったが、
思いのほか相手の勘がよく、失敗してしまった。
慌てているうちにコンチュー丹の効果が切れ、危うく逆襲されるところだったが、
そこは、事前に用意しておいた無敵砲台でフォロー。
結果は見てのとおりだ。

全てを思い通りに成し遂げた彼女の心に浮かぶ想いは、ただ一つ。

「ざまあみろ、ざまあみろイヴ!!
 お前の仲間はみんな殺してやったぞ!!
 一人だけいい子ぶってズルするからだ!!
 お前のせいでみんな死んだんだ!!」
 
心臓の鼓動が速い。
背筋がゾクゾクして、凄く興奮しているのを感じる。

121Sneak Attack!!(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/04/23(金) 21:19:36 ID:sVhpYQuM

(やっぱり、この島で仲間を作ろうなんて考える奴は、どいつもこいつも大バカ野郎だ!)

ここに至り、南千秋は明確にそう考えるようになっていた。

そもそも、最後に残った一人しか助からないこの場所に、仲間なんて概念が馴染むわけがないのだ。
なのに、どいつもこいつもこぞって寄り集まり、群れたがる。
何故か。

(みんな、心が弱いからだ)

怖い、寂しい、辛い、不安だ、誰かに助けて欲しい。
そんな感情が、本来、場違いな仲間作りという行為に皆を走らせる。
そして、昨日までは顔も見たことのなかった他人に対して、
あたかも古くからの親友であるかのような態度を示すのだ。
優しい言葉をかけ、好意を伝え、共に泣き、共に笑う。
それは一見、とても暖かい光景だ。
だが。

(そんなのはただの現実逃避だ)

生きて帰れるのはたった一人だけであるという現実を忘れ、偽物のつながりに酔いしれる。
そんなのはただのおままごとで……タチの悪い裏切りだ。
そう、それは故郷にいる、本当に大切な人たちに対する裏切り。
誰だって、多かれ少なかれ、元の世界に自分のことを待ってくれている人がいる筈だ。
その人たちのもとに帰るため、最後の一人になる努力もしようとせずに、
死ぬのは嫌だ、殺すのも嫌だ、悲しいのも嫌だと一時の温もりに縋り続ける。
そんなのは……汚らわしい。

(……私は、もう、そんな風にはならない)

殺し合いに参加しない子たちを減らすためとはいえ、イヴに心を許したのは失敗だった。
ほんの僅かでも、一緒に何かを分かち合える存在だと考えたのは浅はかだった。
だから、あんなつまらないところで危うく死にそうになったのだ。

(だけど、もう迷わない。
 私が心を開くのは、元の世界のみんなだけだ。
 ハルカ姉様や、カナや、内田や、吉野や……みんなだけなんだ)

気を引き締めて、そして、思い知らせてやろう。
仲間を作るバカ野郎どもに、この島のルールを思い出させてやろう。
一時の暖かさに縋るような弱い子は、みんな死ぬんだってことを。
生きて本当の暖かい世界に戻れるのは、南千秋、ただ一人だけだってことを。

「そうと決まれば、長居は無用だな」

千秋は踵を返す。

安全な逃避ルートを確認しようと、ランドセルから首輪探知機を取り出して……
ディスプレイに映る二つの動く点に、彼女の目は、大きく見開かれた。

122Sneak Attack!!(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/04/23(金) 21:20:33 ID:sVhpYQuM





「…………」

視界一杯に広がる巨石と鉄に圧倒されて、蒼星石は思わず息を呑んだ。
暁の光を受けて、灰色に照らされた城は耳が痛いくらいに静まり返っている。

北東の街を目指していた彼女がここに立ち寄ったのには理由がある。
森を抜け、さらに東へ進もうとしていたときに、ふと聞こえたあの音。
確かにこの城からしていたあの音は、大砲が発射されるときに出るもののように低く、重かった。
一度ではなく、続けて何度か打ち鳴らされたそれは、きっと戦いの音。
蒼星石の探し人――タバサがそこにいる可能性を考えると、無視することなどとてもできなかった。

今、城からは何も聞こえない。
多分、戦いは終わったのだろう。
誰がいて、どんな決着がついたのか。
いくらでも想像することはできるが、おそらく、それをする意味はない。

だから、蒼星石は一歩を踏み出した。
大きな声で名前を呼びたい衝動を、冷静な判断で打ち消して。
敵がいてもいいように鋏を構え、慎重に進む。

(……タバサ、無事でいて)

開け放たれた暗い門扉が、息を潜めた獣の口のように見えた。





「はー……はー……はー……」

墨汁を塗りこめような闇の中、少女の息づく声だけが木霊する。

荒い呼吸の主は、南千秋。
首輪探知機の放つ、無機質な光の白だけが、
闇の黒の中、彼女の顔を幽鬼めいた青に浮かび上がらせていた。

(くそっ、もう戻ってきたのかよ!?)

睨みつけている探知機の上では、二つの光点が相変わらず、ゆっくりと動き回っている。
レックスとイヴが戻ってきた。
千秋はレーダーが示す状況をそのように解釈した。

だが、事実は異なる。
探知機が示す二つの点はそれぞれ、
砲撃の音が聞こえなくなったせいで、行き場を見失ったさくらと
探し人がいるかもしれないという推測のもと、城に踏み込んできた蒼星石だ。

誤認を招いた原因は二つ。
千秋の認識では、さくらは既に殺されていることと、
レックスとイヴに対する憎悪と警戒の念があまりにも強かったことだ。

123Sneak Attack!!(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/04/23(金) 21:21:40 ID:sVhpYQuM

今、二人に遭遇してしまうことは、千秋にとって大きな懸念だった。
ベルカナとの激戦で予定よりも消耗してしまったため、今の彼女に二人と戦う体力は残っていない。
仲間を殺されたと知ったイヴの顔を見たい気持ちはあったが、
そのためだけにノコノコ顔を出して、殺されては元も子もない。

二人をやりすごす方法として、当初、千秋は光学迷彩服を使おうと考えていた。
だが、ここで一つトラブルが起こる。
シルバースキンを解除した後、起動しようとした光学迷彩が何の反応も示さなかったのだ。
あまりにもタイミングの悪い故障に、彼女は憤慨した。
実際は故障ではなく、支給品の説明書に小さな文字で書かれた一文、
『ただし、本製品は一時間の使用につき、三時間のチャージが必要です』
を見逃しただけなのだが、焦っている彼女がそんなことに気づく筈もない。

結局、光学迷彩服の使用を諦め、隠れてこの場を切り抜けることにした。
二人と入れ違いざまに城から出るという手もあったが、
一人が唯一の出口付近をうろうろしていたためこの案は却下。
少しずつ近づいてくるもう一人から身を守るため、慌てて隠れる場所を探し始めた。

だが、ここで千秋に思わぬ幸運が舞い降りる。

身を隠す場所として、階段の下のスペースを検討していたとき、
何と、床の石板の下に、秘密の地下道があることを発見したのだ。
藁をもすがる思いで、地下へ潜りこんだ彼女が見たものは、あまりに広大で、あまりに複雑な地下迷宮。
予想外の大物の出現に、千秋はふと、昔、テレビで見た歴史番組のことを思い出していた。

(そういえば聞いたことがあるぞ。
 昔のお城には、戦争に負けたとき、偉い人が逃げるための地下通路が掘ってあるって。
 ……もしかして、ここは、そういうところなんじゃないか。
 だとしたら、この通路を通って、どこか別の場所に抜けられるかも……)


手元のレーダーと、眼前に広がる暗い通路とを見比べて、千秋が下した決断は……





打ち寄せる波が囁くように音を立てる。
白銀色の怪人が去った後、断崖は何事もなかったことように、静けさを取り戻していた。
聳える城は古ぶるしき石の灰色。
城の足元から伸びる地面は土の焦げ茶と草の緑。
崖は堅い黄色の岩肌をむき出し、その表面を燃えるように赤く色づいた木々が覆っていた。

その木々の間に、異質に紅く、されど黒くくすんだ色の物体がほの見える。
太い幹の上、身じろぎのせずに横たわるそれは二本の腕、二本の足を持つ人間。
彼女は海上の岩場に突き刺さった自らの死体と、誰もいない崖の上とを交互に見ると、
緊張を解き、大きく溜め息をついた。

「……やっと……行ってくれましたか」

息も絶え絶え、消えそうな声で呟いたのは、ベルカナ・ライザナーザ。
先の戦闘における敗北者だ。
フォーリング・コントロールの魔法に不幸にも失敗し、
そのまま墜落して臓物を晒したはずの彼女がどうして生きているのか。

「うまく……誤魔化、されて……くれたみたい、ですわね」

124Sneak Attack!!(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/04/23(金) 21:22:48 ID:sVhpYQuM

その答えは古代語魔法『クリエイト・イメージ』。
この樹上に落下したとき、ベルカナは残りの体力と集中力を振り絞って、
幻覚映像を作り出すこの魔法を詠唱し、海の上に自らの偽死体を投影した。
敵が自らの死を誤認してくれるようにと、敢えて残酷な演出を施した幻は
見事に功を奏し、敵を遠ざけることに成功したのである。

「………………」

とはいえ、彼女の被ったダメージは決して小さくない。
ゴロンの服とレースのビスチェがダメージを軽減してくれたおかげで、
どうやら骨折は免れたようであるが、手足と胴体にはいくつかの打撲傷。
それから、落ちるときに切ったのか、額からこめかみにかけては大きな裂傷。
開いた傷からは骨が見え、流れる血は容易に止まる様子がない。
そして、何より辛いのは、木の幹に強打した腰。
クリエイト・イメージをかけた直後、強烈に痛み出し、そのまま立ち上がれなくなってしまった。
おそらく、しばらくして多少痛みが引いてくるまでは、移動もままならないだろう。

(助かったのはいいですが……状況は厳しいですね)

やらなければいけないことは無数にある。
応急手当と当面の安全確保。
城にいたはずの仲間、レックス、イヴ、さくらの状況確認。
三度戻ってくるかもしれない白銀外套の怪人に対する備え。
エトセトラ。エトセトラ。

「とりあえず、できそうなのは応急手当と……」

ベルカナはランドセルから救急用品とともにメモ帳と鉛筆、それから名簿を取り出す。
いくら苦しい状態にあるとはいえ、これだけは聞き逃すわけにはいかない。
遠くにいる知り合いの安否を確かめるほぼ唯一の手段であり、憎き悪の魔人の数少ない手がかりなのだから。





間もなく、二回目の放送が始まった。









【アルルゥ@うたわれるもの 死亡】

125Sneak Attack!!(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/04/23(金) 21:23:55 ID:sVhpYQuM


【F-3/城内/2日目/早朝】
【木之本桜@カードキャプターさくら】
 [状態]:魔力消費(中)、疲労(中)、核鉄二つで回復中
 [装備]:核鉄『シルバースキン・アナザータイプ』@武装錬金、核鉄LXX70(アリス・イン・ワンダーランド)@武装練金、
     クロウカード『水』『風』、リインフォースII@魔法少女リリカルなのはA's
 [道具]:基本支給品×2
 [服装]:梨々の普段着
 [思考]:……行かなくちゃ。
  第一行動方針:戦闘の現場に駆けつける。
  第二行動方針:雛苺を止めたい、約束を守りたい、彼女にこれ以上殺人を起こさせないようにしたい
  基本行動方針:状況を把握する。雛苺のそばにいてあげたい。
 [リインフォースIIの思考・状態]:???、梨々の知り合いの情報を聞いている


【F-3/城門前/2日目/早朝】
【蒼星石@ローゼンメイデン】
 [状態]:金糸雀のローザミスティカ継承、チャチャゼロの部品と人形契約により四肢を維持、
    ローゼンメイデンとしての機能失調、泥塗れ、精神的に激しい衝撃、それでも進む意志
 [装備]:庭師の鋏@ローゼンメイデン、戦輪×4@忍たま乱太郎
 [道具]:基本支給品×2、金糸雀のバイオリンと弓@ローゼンメイデン、ジッポ、板チョコ@DEATH NOTE、素昆布@銀魂
     旅行用救急セット(消毒薬と針と糸)@デジモンアドベンチャー、トンネル南側入り口の鍵
 [思考]:……タバサ、無事でいて。
  第一行動方針:城を探索する。
  第二行動方針:タバサ達に謝りに行く。
  第三行動方針:エヴァを引き戻すための何かを探す。
  基本行動方針:人の心を護る。
 [備考]:現在蒼星石の四肢はエヴァとの人形契約により動いています。
     蒼星石の自由に動き、エヴァにとっての負担もほぼ有りませんが、
     昼間のエヴァの魔力の減衰や、死亡によって影響を受ける可能性は有ります。
     エヴァと情報交換しました。少なくとも島を覆う結界や地下に本拠地があるであろうことは聞いてます。
  ※ジェダ達に死亡したと思われています。首輪の中のP-Beeも眠っています。そのことに蒼星石は気付いていません。

126Sneak Attack!!(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/04/23(金) 21:25:06 ID:sVhpYQuM


【F-3/城地下迷宮/2日目/早朝】
【南千秋@みなみけ】
 [状態]:疲労(大)、極度の人間不信、仲間を持つ者への憎悪
 [装備]:ロングフックショット@ゼルダの伝説/時のオカリナ、シルバースキン《核鉄状態》@武装錬金
     首輪探知機、ルーンの杖(焼け焦げている)@ファイナルファンタジー4、
 [道具]:基本支給品×7(食糧、水のみ六人分)、祝福の杖(ベホイミ残1回)@ドラゴンクエスト5、
     青酸カリ(半分消費)@名探偵コナン、光学迷彩(使用可能まであと3時間)@絶対可憐チルドレン
     的の書かれた紙×5枚@パタリロ!、太一のゴーグル(血がついている)、替えのパンツ×2枚、
     ころばし屋@ドラえもん、小銭入れ(10円玉×4、100円玉×3) インデックスのメモ、ご褒美ランドセル
     F2000R(残弾12/30)@とある魔術の禁書目録、FNブローニングM1910(残弾0)、飛翔の蝙也の翼@るろうに剣心、
     グラス×5、爆弾石×2@ドラゴンクエスト5、ヴォ―パルソード@TOS、スタンガン@ひぐらしのなく頃に
     タマヒポ(サモナイト石・獣)、ワイヴァーン(サモナイト石・獣)@サモンナイト3、
     クロウカード『泡』『駆』@カードキャプターさくら、アタッシュ・ウェポン・ケース@BLACK CAT
     海底探検セット(深海クリーム、ヘッドランプ、ま水ストロー、深海クリームの残り、快速シューズ)@ドラえもん
 [思考]:地下通路を行ってみるか?
  第一行動方針:安全な撤退の方法を考える。
  第ニ行動方針:他者を利用しつつ、殺し合いを促進させる。危険因子はその都度排除。心は誰にも許さない。
  第三行動方針:仲間を殺されたと知ったイヴの反応が見たい。
  第四行動方針:グレーテルには、もうできる限り関わりたくない。
  第五行動方針:全て終わったら、八神ヒカリに形見のゴーグルを渡したい(自分が殺した事実は隠す)?
  基本行動方針:優勝狙い。優勝のご褒美で“殺し合いに参加していた自分”を消してもらい、元の世界に戻る。
 [備考]:グレーテルに対し、シルバースキン以外の手の内をほとんど明かしていません。
     グレーテルの再生能力、エネルギードレイン能力を把握しています。
     木之本桜はレックス達に殺されたと思っています。
     首輪探知機に映る桜と蒼星石をレックスとイヴだと誤解しています。

     ※F-3/城中庭に無敵砲台@ドラえもんが設置してあります。F-3エリア内なら自由に砲撃が可能です。


【G-3/城東の断崖中腹/2日目/早朝】
【ベルカナ=ライザナーザ@新ソードワールドリプレイ集NEXT】
 [状態]:疲労(極大)、精神力消耗(大)、全身にいくつかの打撲、額に裂傷、腰に激痛(暫く移動不能)
 [装備]:ネギの杖、果物ナイフ@DQ5、ゴロンの服@ゼルダの伝説、レースのビスチェ@DQ5、
 [道具]:支給品一式×4、懐中時計型航時機『カシオペア』@魔法先生ネギま!、黙陣の戦弓@サモンナイト3
     テーザー銃@ひぐらしのなく頃に、爆弾石×1@ドラゴンクエスト5、魔晶石(15点分)@ソードワールド、
     消毒薬や包帯等、ツーカー錠x3@ドラえもん、マジカントバット@MOTHER2、パワフルグラブ@ゼルダの伝説
     GIのスペルカード『交信』@HUNTER×HUNTER
 [服装]:ゴロンの服。その下にレースのビスチェ
 [思考]:とりあえず、放送を聞くしかありませんか。
  第一行動方針:放送を聞き、仲間たちの安否を確かめる。
  第ニ行動方針:イエローが無事だった場合、『交信』でイエローと連絡したい。
  第三行動方針:イエローと合流し、丈からの依頼を果たせるよう努力はする(無理はしない)
  第四行動方針:仲間を集めたい(イエローの友人、タバサの捜索。簡単には信用はしない)
  第五行動方針:出来れば睡眠で精神力を回復させたいが……
  基本行動方針:ジェダを倒してミッションクリア
 [備考]:葵が死んだことを知りません。
     レベッカ宮本を『フォーセリアのレッサー・バンパイア』だと考えている?

     ※G-3/城東岸にベルカナの惨殺死体の幻覚が投影されています。

127 ◆PJfYA6p9PE:2010/04/23(金) 21:26:23 ID:sVhpYQuM
ひとまず投下終了です。
ご支援くださった方、ありがとうございました。
もし、暇な方がおられましたら、本スレに代理投下していただければ幸いです。

128想いは百秒で砕け散る(改訂版) ◆S4WDIYQkX.:2010/05/02(日) 01:03:38 ID:7Xk9iNHY
一人早く起きているリンクは皆の眠りを妨げぬよう、部屋の外に居た。
放送までの時間はそれほど無い。
仮眠に戻る事なくそのまま起き続け、思考していた。
自分が何をすべきなのか。
自分の役割が何であるかを噛みしめて、想う。

(僕の役目はみんなを護る事だ)

それは間違いの無い前提だ。
リンクは仲間達を護らなければならない。
数多の戦いを乗り越えてきたリンクの最大の役目だ。
問題はナニから護るのかという事である。

(襲い来る敵、殺し合いに乗ってしまった人から。
 あるいは“殺し合いそのもの”から)

殺し合いから護る、という言葉には二つの意味合いが有る。
殺し合いに巻き込まれ誰かに殺されてしまわないよう安全を護るという意味。
もう一つは、

(仲間が殺し合いに心を呑まれてしまわないように護らなくちゃいけない)

殺し合いに巻き込まれ誰かを殺してしまわないように精神を護るという意味だ。
それは殺人鬼に堕ちるような過激な意味ではなくとも、
殺し合いを許容し、仲間以外の全てを殺しても構わないといった危険な思想に染まらないよう護る意味でもある。

(高町なのは)

その思想を否定したはずの仲間を連想する。
そう、彼女はリンクの目の前で危険すぎる思想を否定したはずだった。
なのに何時しか全てが嘘に包まれて見えている。
彼女は本当に殺し合いを否定してくれたのだろうか。

(君は一体、どんな想いを秘めているんだ)

それすらも解らないままに想いを秘めて。
朝を待つ。
廊下の窓から外を見てみれば、もう東の空が白くなりはじめている。
放送は目の前に迫っている。
朝焼けだろうか、眩い輝きが木々の合間から見えて……。
(待て)

まだ日は昇りきっていない。
朝日には少々早すぎる。
それならこの輝きは一体何だ!?
「何か、来る!!」

数秒後、光り輝く最悪の敵が廊下の壁をぶち抜いた。

129想いは百秒で砕け散る(改訂版) ◆S4WDIYQkX.:2010/05/02(日) 01:06:39 ID:7Xk9iNHY
「みんな起きて! 敵だ!!」

警告の叫びを上げてリンクは剣を抜き放つ。
コキリの剣。
子供の姿の自分にとっては丁度良い、長く使い慣れた剣だ。
自分の剣が手元に回ってきたのは幸運だった。
この島では愛用の武器と再会出来る可能性など極めて低いのだから。
大人の姿になれたなら最良の剣は聖剣マスターソードになるのだろうが、
(この姿の僕としてはこれが最良の剣だ)
子供の姿のリンクにとっては、コキリの剣こそ最良の武器だった。
自らの実力を引き出せる得物を手に敵を見据える。
濛々と上がる粉塵の中を視認する。

ソレは熱を帯びた赤銅の肌をしていた。
淡く輝く螢火の髪をしていた。
髪はまるで生き物のように蠢いて見える。本来の長さまで再生しようとするように。
絡み付いていた銀髪のウィッグが、伸びる髪に押されて落ちた。
喪服か、あるいはゴスロリ調の、黒いドレスを身に纏っている。
しかしズタズタのドレスだ。
心臓の直上には膨らみの無い肌が覗き、奇妙な黒い文字──∀IIIが浮かび上がっている。
左腕の袖も途中から無いし、他の部分もそこら中に破れ目が覗いている。
奇妙なことに、破れ目の下の赤銅色の肌には傷跡一つ見当たらなかった。
そして右手には巨大な突撃槍が握られていた。
穂先は何処かしら龍のような形状で凶悪な“顔つき”をしている。
怪物の手にあるそれは、ともすれば怪物の一部にも見える。
その石突から伸びる飾り布は途中からエネルギーに転じ、光り輝いている。
まるで太陽の光のような、美しい山吹色に。

ヴィクター・スリー……セカンド。
グレーテル。

残酷極まりない愉悦を浮かべて、少女の姿をした怪物は槍先を向ける。
幼き時の勇者へと、その切っ先を。
猛烈な殺意が吹き荒れていた。

知らない。
リンクはこんな怪物を知らない、はずだ。
だけどどうしてだろうか、見たことが有るように思える。
目の前の少女のような誰かと、何処かで戦った記憶、が。
(敵だ)
何にせよそれだけは判る。
残念ながら殺し合いを否定するしないという段階ではない。
目の前に顕れた怪物はきっと、この島に居なくとも人間を殺戮し愉悦とともに貪るだろう。
殺す気で挑まなければ殺されるだけだ。
リンクと、仲間たちが。
果たして怪物は歓びに歪めた口元から、天使のような声で囁いた。

「天使を呼んであげましょう」

襲来から十秒。
それが開幕のベルだった。

130想いは百秒で砕け散る(改訂版) ◆S4WDIYQkX.:2010/05/02(日) 01:08:28 ID:7Xk9iNHY
グレーテルは巨大な槍を手に突撃する。
リンクはそれを正面から迎え撃った。
半身だけずれて突撃を回避しながら、コキリの剣を振り下ろす。
グレーテルは、停止していた。
「くっ」
読まれた。いや、力ずくで止まられた。
小さく息を吐く。
槍が届く間合いで視線が絡み合う。
それでも体勢は崩れていない。コキリの剣は小回りが利く、振りを戻すのは一瞬だ。
槍が振るわれた。
剣が振るわれた。
速度はグレーテルの方が上だったが、技量を合わせればリンクも大差はない。
斬り合いに関して言えば互いの速度はほぼ同等、ほんの僅かにリンクの方が上だった。
つまり。
(ダメだ、押し切られる!!)
巨大な突撃槍を手斧の如く振るえる圧倒的な剛力分、グレーテルの方が上だった。
数合でリンクは後退り、それでも。
反撃に転じた。
相手が槍を振りかぶった瞬間に懐へと飛び込んで脱力感を堪えて剣を一閃し手応えを感じたその瞬間に
衝撃が走り視界が弾み白く染まり重力を見失い居場所を見失い状況を見失い──。

皆が眠る部屋の壁に叩きつけられていた。

「ぐぁ……!?」

戦況に理解が追いつかない。
視界が揺れて意識が酔いに冒される。
脳が揺れて体が動かない。

(一体……なにが……!?)
揺れる視界に映るのは胸元から出血するグレーテルの姿。
だけどあまりにも浅い傷だ。
手元を誤ったのか、いやそんなハズは無いと思考が巡る時間、さえもが惜しい。

襲撃から二十秒余り。
リンクが体勢を立て直すまではしばらくかかる。
グレーテルは槍を動けぬリンクに向けて飾り布のエネルギーを点火し一撃必殺の突撃を仕掛けようと。

「させるかぁっ!!」
すぐ横の扉が開き、アリサ・バニングスが飛び出した。
左手にステッキ、右手に秀麗な刀を握り締め、リンクの前に立って壁となる。
グレーテルはくすりと笑い、右手に突撃槍を握ったまま左手で何かを取り出した。
片手で握れるサイズの金属塊。
リンクにはそれが何かは判らなかった。
しかしアリサの気配が緊張に強張る。

それは、拳銃である。

引き金が引かれた。
轟音と共に銃弾が放たれる。
射線上にはアリサとリンク。
アリサが避ければ鉛弾はリンクの体を穿つだろう。
その状況でアリサの持つ贄殿遮那の白刃が。
受け止めた。

131想いは百秒で砕け散る(改訂版) ◆S4WDIYQkX.:2010/05/02(日) 01:09:50 ID:7Xk9iNHY
甲高い金属音が響いた。
続きカラカラと軽い音を立てて鉛の小粒が床を打つ。
カレイドステッキに支えられたアリサの剣技は、贄殿遮那の刀身で銃弾を凌いだのだ。
絶対不変にして堅牢無比なる贄殿遮那の刀身が有っての話とはいえ、
咄嗟に射線上に刀身を構え、銃弾の強烈な運動量を受け止め弾ききった膂力は見事という他にない。
グレーテルは驚愕に目を見開き、しかし表情を笑みに戻して、続けざまに数度引き金を引いた。

アリサには、それ以上は防げない。
その表情には銃弾への怯えが浮かぶ。
その足膝には恐怖からの震えが見える。
僅かに崩れた体勢が“付け焼刃の達人”の限界だった。

ならば二度三度繰り返せば良いだけだ。
引き金は引かれ、銃弾は二度三度と放たれて。

見えない壁に防がれた。

部屋から飛び出してきたのはアリサだけではなかった。
高町なのはも目を覚まし、転がり出るように部屋から出てその片腕をかざしていたのである。

プロテクション。
物理攻撃に強力な耐性を誇る魔法の壁が続く銃弾を防いでいた。

数瞬の攻防だった。

グレーテルは笑う。
哂う。
嘲り嗤う。
「森鹿のシチュー。フィッシュアンドライスに紅茶を添えて」
目の前にごちそうが並んでいると歓喜する。
拳銃を懐に戻し、突撃槍を両手で握り締める。
ヴィクター・スリーの手で振るわれる武装錬金の突撃ならば、プロテクションなど紙にも等しい。
戦車砲の如き一撃は障壁ごと三人を粉砕しても余りある。
「ブレックファーストには贅沢かしら?」
「ワケわかんないこと言ってんじゃないわよ!!」
させまいとアリサが突っ込んだ。
贄殿遮那が振るわれる。
銃弾を鎬で受け止めはじいても刃こぼれ一つ歪み一ミリ有りはしない。この刀は完全なる強度を誇っている。
その斬撃に襲われてグレーテルは突撃を中止した。
代わり槍が振るわれて、宝具贄殿遮那と武装錬金サンライトハートが切り結ぶ。
襲撃からはまだ僅かに三十秒。

力はやはりグレーテルが圧倒していた。
それでもアリサは耐え凌ぐ。
付け焼刃でも今のアリサは達人だ。
しかも最初から人外の達人の為に鍛えられた贄殿遮那を振るえる腕力も与えられている。
アリサの身長近い大太刀が鮮やかに舞い踊る。
人間を一薙ぎで粉砕する化物であっても、カレイドステッキの力があれば立ち向かえる。
斬撃が服を食み、刺突が髪を掠めても、致命傷だけは受けまいとする。
その殺陣にグレーテルは笑みすら浮かべ。
笑みは油断か、アリサの前に一瞬の隙が晒される。
(今だっ!)
殺人が良い悪いなど斬り合いの最中には考える暇も無い。
アリサは渾身の斬撃をグレーテルの胸部に叩き込み。

132想いは百秒で砕け散る(改訂版) ◆S4WDIYQkX.:2010/05/02(日) 01:13:20 ID:7Xk9iNHY
切れ味の悪い包丁で大型トラックのタイヤに斬りつければこんな感覚が返るだろうか。

「な……っ」
切れなかったわけではない。
確かに切れた。
リンクの付けたそれと交差する十字傷がグレーテルの胸元に走っている。
皮膚を切り裂き、何もかも違うのに変色していないことが奇妙に思えるほど真っ赤な血を噴き出している。
しかしその傷は、信じられないほどに浅かった。
「私は、殺せないわ」
果たしてグレーテルは恍惚とした笑みを浮かべて。
確信と信仰に満ちた笑顔で突撃槍を振りかざす。
そして、
「だってたくさん殺してきたんだもの。たくさん命を取り込んだんだもの」
破滅は振り下ろされた。

辛うじて贄殿遮那を間に挟み、それでも圧倒的な打撃が全身を駆け降りる。
腰が、膝が、体勢が崩れる。
ディバインシューターという叫びが響いた。
続く刺突が、突き立った。
アリサの右肩に深い傷が穿たれて、悲鳴と共に贄殿遮那を取り落とす。
「Never Die。そう、私たちはNever Dieなのよ」
更なる刺突が襲う二瞬前に、魔弾の一つがアリサの懐に飛び込んで一瞬静止して。
刺突が床を穿つのとアリサの体が跳ね飛ばされるのは同瞬だった。
なのはがアリサを受け止めて倒れこむ。
死んではいない、けれど。

グレーテルはコンクリート床に突き刺さった槍をあっさりと引き抜いた。
その視線が獲物の群れを品定めするように舐っていく。

リンクは立ち上がり、再び剣を構えていた。
事実上、現在グレーテルに立ちはだかれる敵は彼だけだった。

右肩から出血し粗い息を吐いて倒れているアリサは、既に戦力外だった。
出血量からして急ぎ治療しなければ命に関わるかもしれない。
奇妙なステッキがアリサさんと名を叫び、心配している様子だった。

遅れて起きてきたインデックスがアリサに駆け寄っている。
熱で消耗したその動きは遅く頼りなく、何の障害にもなりえない。

なのははアリサを抱き続けることもできず腕からこぼし、ただ呆然となっていた。
彼女は大凡無力だったのだから。

そう、高町なのははディバインシューターを放ちアリサを支援した。
グレーテルの攻撃を止めようとしたのだ。
放たれた魔力弾の数は三つに及ぶ。
しかし槍を狙った一つはグレーテルが振るう腕と交差しただけで砕け散った。
槍に直撃したもう一つが心臓を狙った槍の狙いを逸らし、
遅れた一つを使いアリサの救出したのは見事な芸当だったが、殆ど被害を与えられなかったのには変わりない。
なのはに殺意が無かった事など言い訳にもならない。
デバイス無しのディバインシューターはグレーテルを傷つけることすらできなかった。

ヴィクタースリー・セカンド。
その赤銅の肉体が恐るべき強度で攻撃を阻む。
高町なのはにデバイスやミニ八卦炉は無く、リンクに大人の体とマスターソードは無い。
襲撃から僅か一分足らず。
アリサは倒れ、グレーテルを斃しきるほど強力な武器は無い。
──完全に追い詰められていた。

133想いは百秒で砕け散る(改訂版) ◆S4WDIYQkX.:2010/05/02(日) 01:25:09 ID:7Xk9iNHY
(どうすればいい!?)
リンクは刹那の時間で疾く思考を巡らせる。
アリサの敗北を見て、リンクは一つ理解していた。
今のがさっきの自分だ。
リンクはグレーテルに斬撃を命中させた肌を切り裂いたが、グレーテルは意に介さず槍を振るったのだ。
その成果がグレーテルの胸元に付いた浅い十字傷と、アリサ達に助けられなければ確実に死んでいたリンクだ。
どこまでも一方的な蹂躙だった。
圧倒的な戦力差に歯噛みし、苦悩し、それでも。

剣を握り対峙する。
仲間を置き去りにして逃げるなんて選択肢にすら浮かばない。
どうやって仲間を逃がすかなら考えた。
それにインデックス達を逃がせば、一応勝ち目は有ると言えなくもない。
(傷を負わせられない相手じゃないんだ、一対一なら少しずつでも削り取っていけばいいっ)
恐ろしく困難だが完全に不可能とも言えないはずだ。

だけどそもそもの前提となる、仲間を逃す手段が思いつかない。
アリサは深手を負ったし、インデックスは高熱で消耗している。
足止めをするにしたって、まともな傷を付けられない現状では難しい。
やろうと思えば横合いからの脆弱な攻撃など無視して逃げる者を襲えるのだから、どうしようもない。

(せめて一度。一度でいいからもっと深手を与えなきゃいけない)
そうすればグレーテルもリンクに背を向けられなくなる。
ゆっくりでも仲間が逃げる時間を稼げる。
問題は深手を与える手段だ。
腕に嵌っているリング、勇者の拳も考えてみたが、
緊張した状態から十分な威力を出す自信は無いし──リンクにはユーモアが足りない──攻撃の範囲も面だ。
当たりやすいのは良いけれど、一点は突けないし、相手の攻撃にも正面からぶつかってしまう。
ヴィクターと化し圧倒的破壊力を誇るグレーテルの突撃槍に正面から拮抗出来る者は、そうそう居ない。
剣の方が上手く立ち回れる。
だけど剣では硬すぎる。
(高い威力が無いなら……相手の弱いところを突いたら?)
リンクの視線が、グレーテルの胸元で止まった。

アリサとリンクの剣戟が交差した、十字傷を刻まれた胸元だ。
十字傷分だけ皮膚が破れ肉が薄くなっている部位だ。
あの一点にもう一度刺突を打ちこめば?
上手くいけば瀕死の重傷に追い込めるほどの深手を与えられるのではないだろうか?

(だけど、そんなこと出来るのか!?)
確かにリンクもアリサもグレーテルに一撃を命中させていた。
グレーテルの方も自らの強度を理解したのか、アリサに対しては威力を測りわざと隙を作った節がある。
それでも当てられるのは、どこかに当たれば良いという攻撃だ。
動いている相手の一点を正確に狙うのとは話が違う。
しかも全体重をぶつける必殺の突きでなければ話にならないだろう。
自殺覚悟で突撃しても成功するかわからなかった。

(せめて動きを止められれば)
さっきもなのはの攻撃は槍先を狙い撃てた。
アリサにトドメを刺そうとした瞬間、遠距離からの攻撃は不意打ちの狙撃にも等しかったのだ。
だから当たった。
何らかの手段で動きを止めることさえ出来れば当てられる。
(そういえば、なのはは?)
リンクは脇目でなのはを見て……息を呑んだ。

       ◇

134想いは百秒で砕け散る(改訂版) ◆S4WDIYQkX.:2010/05/02(日) 01:26:33 ID:7Xk9iNHY
「…………ごめんなさい…………」

高町なのはは呆然となっていた。
襲来したグレーテルを見て、思い出していた。
それが誰であるかを。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
自分が殺した一人の少年の事を思い出していた。

学校で遭遇した災厄の化身。
江戸川コナンを犠牲にしてまでして殺した少年。
髪の色も肌の色も違うし、少年でなく少女だけれど、決して見間違える事はない。
忘れられるはずもない。
彼と江戸川コナンは、高町なのはが初めて命を奪った相手なのだから。

友人であるヴィータの腕を焼いたのが地獄の始まりだった。
だけどもう一つ始まりが有るとすれば、自らの意思で三つの命を奪った学校の惨劇だろう。
ヘンゼルを殺すためにコナンを殺し、それでも救えない二人の片割れを助ける為に一人を切り捨てた地獄。

なのはは彼らの名前さえ知らない。
ただ、理解はしていたのだ。
わるい人だから殺していいわけじゃないし、そもそもわるい人でもなく、
ただ狂っていただけなのだと理解していたのだ。
それでも殺した少年だから、その死は高町なのはが背負わなければいけない死だった。

プロテクションで銃撃を防いだ時、その存在に気がついた。
アリサが殺されそうになって咄嗟にディバインシューターを放つことさえ戸惑いがあった。
例えどんな怪物であろうとも、高町なのはは彼女に対して罪を背負っている。

「さっきは撃ってしまってごめんなさい。
 あなたを……ううん、お兄さんを殺してごめんなさい。
 こんな言葉に意味を感じない人だって知っています。
 あなた達がどういう人間なのかを知っています。
 ずっと、生きることと殺すことが同じところに居たからそうなったことを知っています。
 たぶん、わたしのことも仇じゃなくて獲物でしかないってことを知っています。
 でも」

今のなのはにはどうすれば良いのか判らなかった。
こんな時、少し前のなのはなら殺そうとしていた。
あるいは打ち倒し、戦う力を奪おうとしていた。
なのははそれを、否定した。

その時点で、なのはの中には何の指針も残ってはいなかった。

アリサ達への友情はとても深いものだった。
インデックスもリンクもカレイドルビーも大切に思っていた。
本来の高町なのはらしく生きたいと思っていた。
生きて果たすべき目的は取り戻していた。

だけどそれでも、目的とするところへどう向かえば良いかがわからない。
当然の話だ。

だってなのはは、一人でもたくさんの人を救おうとしてたくさんの人を殺してしまったのだから。
誰かをたすけようと思って行動しても、誰かを殺してしまうかもしれない。
誰かをまもろうと思って行動しても、誰かを殺してしまうかもしれない。
誰かに生きてほしいと想って行動しても、誰かの命を奪ってしまうかもしれない。
なのはには最早、自らの判断の一切を信じることができない。

135想いは百秒で砕け散る(改訂版) ◆S4WDIYQkX.:2010/05/02(日) 01:28:25 ID:7Xk9iNHY
だからなのはは仲間にすがった。

『はやてに、謝ろう。コナンに、アイに謝りに行こう。
 君はコナン達に一度も謝っていない。死んだ人たちに謝っていない』

なのはの脳裏に反響したのはリンクの言葉だ。
なのははリンク達に依存することで殺し合いを否定したのだ。
それによって、どんな人間でも殺すのはいけないことだと信じられた。
その結論がこの行動だった。

相手が狂った殺人鬼であることなんて、今のなのはにとっては判断材料にもならない。
なのはは目の前の相手に自分の言葉が通じるはずなんてないと、知識として知っている。
でもそんな知識に依存した末があの暴走だったのだ。
もう、なのははそんな末路を辿りたくはなかった。
理性ではなく感情に従いたかった。
リンクの言葉を信じたかった。
それが依存という歪なカタチでも、いつかほんとうのカタチを取り戻せると信じたかった。

「ごめんなさい。
 でもおねがいです。みんなを殺さないで」

進む道を変えるために罪の意識を薄めてしまったこの心で、それでもあやまろう。
入れる中身の足りない薄っぺらな言葉でも、謝罪という行為は正しく必要なことだから。
彼女の家族を殺害したのだろうこの体で、それでもわたしの友達を殺さないでとおねがいしよう。
どれだけちぐはぐで筋の通らない行為でも、それが今のわたしだから。
自分らしく生きたいという歪な理由で、それでも話し合いをしよう。
この想いがどれほど身勝手で醜いとしても、戦わず話し合う行為は正しいはずだから。

一歩一歩にその想いを篭めて、ゆっくりと歩み寄る。
今度こそ話し合いを試みるために。
それがきっと正しい行動なのだと信じて──ううん、信じるために。

高町なのはは自らの意思で、高町なのはであろうとし続けていた。

その行為を前にしたグレーテルは驚きの表情と、次いで楽しげな表情を浮かべて。
なのははそれでも祈り続けて。

「あなた達にとってこんな話は笑い話なんだと思います。
 それでも、おはなしを」

突撃槍が振るわれた。

高町なのはは叩きつけられように床に倒れた。

襲撃から八十五秒。
グレーテルが嘲嗤う。
高町なのはの愚かさと無謀を嘲う。
「ねえ、東の方の国に踊り食いっていうものがあるそうよ」
リンクには理解できない。
邪悪に過ぎてあまりに装飾的な言葉を、断片からは理解できない。
グレーテルはその可憐な唇から愉しげに続きを綴る。
「海産物を生きたままお刺身にしたり、殻を剥いて食べるそうよ。とっても美味しいそうね。
 学校でも素敵な勇者さまでやってみたけど、この子も最後まで今の話を続けられるのかしら?」
「な……おまえ、まさかっ!?」

突撃槍が振りかざされた。
九十五秒。

そして、五秒間が始まる。

136想いは百秒で砕け散る(改訂版) ◆S4WDIYQkX.:2010/05/02(日) 01:29:26 ID:7Xk9iNHY
「くそっ」
リンクは仕方無しに距離を詰める。
それを予想していたグレーテルが向き直る。
結局リンクは十字傷の一点を貫く狙う術が見いだせない。
それでも一縷の望みに賭けて挑もうとして。
九十六秒。

「っ!?」
グレーテルの動きが鈍る。
殴り倒されたはずの高町なのはが倒れこむように這いずってグレーテルの腰にしがみついていた。
微かに聞こえるもうやめてというか細い言葉。
九十七秒。

「そのまま抑えてて!!」
リンクはそれを、高町なのはがグレーテルを抑えたのだと思い込む。
素養が、あったのだ。
なのはは迫真の演技で自らの本心を隠したのかもしれない人物だった。
だったらやはりこの行動も、グレーテルを油断させて嵌めたのかもしれないと思ったのだ。
(どっちにせよこれで狙えるもう少し抑えてくれればあの傷口をコキリの剣で──)
九十八秒。

「ぁ……」
高町なのはは何故か急速に薄れゆく意識の中でリンクの姿を見つめる。
剣を構えグレーテルに突撃する姿を見てまるで氷の刺が刺さったみたいな冷たい悲しみとかすかな失望が
胸に広がるのを感じてでもそれがどうしてかわからなくて意識が見る見るうちに暗く──。
九十九秒。

なのはが今度こそ崩れ落ちる。
開放されるグレーテルを見てリンクの心中に一瞬焦りが走る。
高町なのはを信じたのは失敗だったのか?
すぐにそれを否定する。
彼我の距離はほんの僅か、動きを止められていたグレーテルが回避するには間に合わない。
だから間に合うはずだ。
貫けるはずだ。

果たしてリンクの刃はグレーテルの胸に届いた。
狙いたがわず正確に一点へと鋭い突きを叩き込む。
その動きは完璧でグレーテルの行動はそれに一瞬間に合わなくて。



襲撃から百秒が経過した。



ザッという音がした。
グレーテルが壁に開けた穴を抜け、人影が一つ飛び込んできたのだ。
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
自称最強の悪の魔法使い。
リンク達を護るため、他の悪を討つために、魔女たちに同盟を示唆しながら四散させた張本人。
つい先ほどヴィクターと化す前のグレーテルと戦い撃退した、夜に生きる吸血鬼である。
彼女は変貌したグレーテルが工場の方角に向かうのを見て、それを追ってここに来たのだ。
しかしグレーテルがヴィクターの飛行能力を使いこなし始めた挙句にサンライトハートで加速したため、
彼女の飛行能力では若干の遅れが生じ、出発の時間差も含めて百秒の遅れが生じた。
たったの百秒だ。
例えば廊下など見晴らしの良い場所に出ず適当な部屋に隠れて、迎撃に出るのではなく待ち伏せれば過ぎ去る程度の時間。
救援の見込みなど薄いのだからそんな可能性は低かったが、一つ違えば何事も無く間に合ったほどの時間。
それだけの時差で彼女は戦場に辿り着き。
その光景を視た。

137想いは百秒で砕け散る(改訂版) ◆S4WDIYQkX.:2010/05/02(日) 01:31:43 ID:7Xk9iNHY
リンクの剣は確かに狙いたがわず一点を貫いた。
グレーテルが傷を負っていたその場所を。
そこからならリンクの刺突はグレーテルの肉を深く穿ち、上手くすれば致命傷に至る程の傷になっていたかもしれない。

その切っ先が、ほんの少し肉に埋まっただけで止まっていた。

リンクは幾つか気づくべきだった。
何よりも高町なのはが冷静な判断で戦術的行動を取っていたわけではない事に気づくべきだった。
この状況における高町なのはは何処までも無力な少女でしかなかった。
その行動に作戦を見てはいけなかったのだ。

高町なのはがグレーテルにしがみついたのは動きを抑えるためではない。
だから、その力は動きを妨げるにはあまりにも弱かった。
回避行動を妨げる事が出来ても、攻撃の邪魔まではできない程に。

そして今の高町なのはは人間的な感情に素直になった代償として、冷徹なまでの理性的判断力と観察眼を失っていた。
だから高町なのはは気づいていなかったし、
なのはの行動を信じられるかどうかという言ってみれば
戦闘とは無関係な方向に思考が逸れてしまったリンクも気づいていなかった。
背後で、アリサを安全な場所に運ぼうとしたインデックスがいつの間にか二人して倒れている事と、その理由。
それが何をもたらすのかに。

高町なのははヴィクターと化しているグレーテルにしがみつき、密着した。
高町なのはの意識を奪った最終的な要因は、ヴィクター化によるエネルギードレインである。
ヴィクターと化した者はそのエネルギーで武装錬金を振るい。

あるいは自らの肉体を再生する。

僅かに血が滲む程度の掠り傷など、ほんの数瞬なのはが密着していた分で十分だったのだ。
リンクの剣が届く前に再生は完了し、赤銅色の皮膚はリンクの剣を受け止め貫通力の殆どを奪い去った。
そしてさっきまでの様に、攻撃に頓着せず振るわれたグレーテルの突撃槍が。

リンクの頭部を粉砕していた。

紅い液体と赤い塊と白くて硬い欠片と白くて柔らかい欠片と灰色の塊と白く小さな球体と細い金糸の生えた肌色が
リンクの頭部だった場所から四散して壁にへばりつき少女達を赤く紅く染めていた。

それが一つの結末だった。

「そういう、事か」

エヴァは呟く。
悲壮と共に。
怨嗟と共に。
哀哭と共に。

「やはりそういうものか」

絶望と共に。
苦痛と共に。
悲嘆と共に。

「やはり正義とは、勇者とは、そんなものか」

正義の勇者の敗北を、続けざまに知った。
その儚さと、無力さとを識った。

確かめ、実証されるところを観せられた。

138想いは百秒で砕け散る(改訂版) ◆S4WDIYQkX.:2010/05/02(日) 01:33:54 ID:7Xk9iNHY
何が悪の中ボスだろう。
全てが今この瞬間だけは、どうでもよくなっていた。
だから正直に、胸の奥から溢れくる感情に身を委ねていた。

「良いさ。貴様は私が殺してやる」

グレーテルに向けて氷のように凝固した憤怒を、叫んだ。

       ◇

インデックスはそれを見ていた。
倒れ伏し、息苦しいほどに消耗しながら。
喘ぎ、悶えながら見ていた。

(ダメだよ、エヴァ……)

そして恐怖していた。
襲撃者の持っている能力と、この状況がもたらす最悪の組み合わせに。

インデックスは戦いに巻き込まれないよう、なのはの腕から零れたアリサを仮眠室に引きずり込もうとしていた。
呻き声を上げていたが、出血で一時的に意識が飛んでいたのか抵抗は無かった。
その途中で急激な脱力感に襲われ倒れてしまったのだ。
戦況を観察し続けて、やがてその原因を理解した。
しがみつきすぐに倒れたなのはと、グレーテルの胸の傷を見て。

グレーテルは周囲から生命力を吸い上げて自らの傷を再生していた。
即ち、エナジードレインだ。
その生命力は戦う力にも使われているのだろう。
グレーテルはそこに居るだけで周囲の者達を衰弱させ、力を増し続けていた。

とはいえ、本来は至近距離でなければこうも即効性を持つ力ではなかった。
健康な者ならこの距離でやられはしなかったはずだ。
だがインデックスは高熱と貧血で消耗していた。
微弱なエナジードレインに耐える体力すら残っていなかったのである。
深手を負ったアリサも似たようなものだろう。
エナジードレインを直接受けて倒れたなのはに至っては言うまでもない。

インデックスもアリサもなのはもまともに行動出来ず、しかしまだ生きている。
それこそが最悪だった。

(私たちの事は見捨てなきゃいけないんだよ……)

それは裏を返せば、生命力のまだある、無力な存在が転がっているという事だ。
インデックスはグレーテルが周囲から力を吸い上げている現象に気づき、その“最悪”に気がついた。

この戦場で戦う限りグレーテルは力を増し続け、回復を続けるのだ。

(いくらエヴァでも、ここじゃ勝てないんだよ……!)

この消耗では警告を叫ぶことさえ難しい。
だからインデックスは祈る。
戦況が不利になれば、エヴァが苦渋の選択で自分たちを見捨ててくれる事を。
せめて一人でも生き延びてくれることを。

悪夢は百秒で訪れた。

【リンク(子供)@ゼルダの伝説 時のオカリナ 死亡】

139想いは百秒で砕け散る(改訂版) ◆S4WDIYQkX.:2010/05/02(日) 01:35:06 ID:7Xk9iNHY
【A-3/工場/2日目/早朝】
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:健康、ヴィクター化、血塗れ、胸に小さな傷。
    喪われた心臓の代わりに核鉄(サンライトハート)が埋め込まれている。
[装備]:サンライトハート@武装錬金
    ソードカトラス×2(1+12/15)(銀10/15)@BLACK LAGOON、ソードカトラス専用ホルダー
[道具]:基本支給品一式、塩酸の瓶×1本、毒ガスボトル×1個、ボロボロの傘
    ソードカトラスの予備弾倉×3(各15発、一つだけ12発)、バット、
    蝶ネクタイ型変声機@名探偵コナン、救急箱、エルルゥの薬箱の中身@うたわれるもの
   (カプマゥの煎薬(残数3)、ネコンの香煙(残数1)、紅皇バチの蜜蝋(残数2))、100円ライター
    スペクタルズ×8@テイルズオブシンフォニア、クロウカード『光』『剣』@CCさくら、
    コエカタマリン(残3回分)@ドラえもん、
[服装]:いつも通りの喪服のような黒い服。胸の中央に大きな穴が空き、更に大きく十字に切られている。雨に濡れて湿っている。
[思考]:うふふ……あははは……
第一行動方針:エヴァと周囲の連中を殺す?
第二行動方針:千秋との再会を楽しみにする。千秋が「完全に闇に堕ちた」姿を見届けたい。
第三行動方針:機会があればまた紫穂と会いたい。2人きりで楽しく殺し合いたい。
基本行動方針:効率よく「遊ぶ」。優勝後はジェダに「世界のルール」を適用する(=殺す)。
[備考]:シルバースキンの弱点(同じ場所をほぼ同時に攻撃されると防ぎきれない)に勘付きました。
    「殺した分だけ命を増やせる」ことを確信しました。ただし痛みはあるので自ら傷つこうとはしません。
    銀の銃弾は微妙に規格が違う為、動作不良を起こす危険が有ります。使用者も理解しています。

【エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル@魔法先生ネギま! 】
[状態]:全身に痛み、左腕が殆ど動かない、魔力消費(中)
[装備]:フェアリィリング@テイルズオブシンフォニア
[道具]:支給品一式、手足の無いチャチャゼロ(半永眠)@魔法先生ネギま!
[思考]:殺してやる、殺してやるさ
第一行動方針:グレーテルを殺す
第二行動方針:リリスと遭遇することがあったら、リリスを倒し身柄を押さえ、情報を得る。
第三行動方針:ジェダの居場所に至る道を突き止め、露払いをする。
第四行動方針:ジェダを倒そうと挑む者たちの前に立ち塞がり、討たれる。
基本行動方針:ジェダ打倒のために暗躍。ただし仲間は作らない。誇り高き悪として、正義の前に散る。
[備考]:梨花の血を大量に吸いました。雛見沢症候群、及び女王感染者との関連は不明です。
    ジェダ打倒を目指している者として、ニアの名前をグリーンから聞いています。
    パタリロを魔族だと思っています。名前は知りません
    紫穂の『能力』が、触れることで発動することを見抜きました。詳細までは把握していません。
    雲に隠れていても満月による補正は有るようです。

【インデックス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:高熱&貧血&エナジードレインによる消耗で行動不能、全身に軽度の凍傷、
    背中に大きな裂傷跡と火傷、足裏に擦過傷(共に応急手当て済み)
[装備]:水の羽衣(背部が横に大きく裂けている)@ドラゴンクエストⅤ
[道具]:支給品一式(食料−1日分、時計破損)、ビュティの首輪、鉄製の斧@ひぐらしのなく頃に(?)
[服装]:私立聖祥大付属小学校の制服の下に水の羽衣。背中と足にシルクの包帯。
[思考]:逃げて、エヴァ……!
第一行動方針:どうにか、したい
第二行動方針:ヴィータを捜し、説得する。
第三行動方針:ニケ達と合流する。
第四行動方針:紫穂の行方の手掛かりを探す。エヴァの説得も諦めていない。名前しか知らないヤムィヤムィが少し気になる。
第五行動方針:落ち着いたら、明るい所でじっくりビュティの首輪を調べたい。
基本行動方針:誰にも死んで欲しくない。状況を打破するため情報を集め、この空間から脱出する。
[備考]:拾った双葉の型紐が切れたランドセルに荷物まとめて入れています。
    インデックス自身のランドセルは壊れているので内容物の質量と大きさを無視できません。
    深夜12時の臨時放送を、完全に聞き逃しました。

140想いは百秒で砕け散る(改訂版) ◆S4WDIYQkX.:2010/05/02(日) 01:35:43 ID:7Xk9iNHY
【アリサ・バニングス@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:全身に軽い火傷(右腕と顔は無事)、左腕出血(軽度打撲)、背中出血(深い切り傷)、以上応急処置済み。
    精神負担中、足と両手に軽度の凍傷、右肩に深い刺し傷、腹部打撲、出血と軽度エナジードレインで行動不能?
[装備]:カレイドステッキ@Fate/stay night
[道具]:なし
[服装]:パジャマ。変身を解いたらショーツ一枚。
[思考]:??????
第一行動方針:この状況をどうにかしたい。
第二行動方針:リンク、インデックスと情報交換する。
基本行動方針:はやての遺志を継いで、なんとかする。(なのはと一緒に)ゲームからの脱出。
[備考]:深夜12時の臨時放送を、完全に聞き逃しました。
    カレイドルビーは臨時放送を聞いています。
    贄殿遮那@灼眼のシャナはグレーテルの足元に転がっています。

【高町なのは@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:魔力消費(中)、両手首に浅い傷、背中に軽度の凍傷(治療済み)、頬骨と肋骨一本にヒビ、
    胴部打撲、密着エナジードレインにより昏倒
[装備]:なし
[道具]:なし
[服装]:シーツでできた服
[思考]:………………。
第一行動方針:これまでに殺した人たちに謝る……
基本行動方針:自らの罪を償う。自身の想いに素直になる。それから……
[備考]:深夜12時の臨時放送を完全に聞き逃しました。

141名無しさん:2010/05/22(土) 03:08:49 ID:uNNqcsfI
「みんな起きて! 敵だ!!」

警告の叫びを上げてリンクは剣を抜き放つ。
コキリの剣。
子供の姿の自分にとっては丁度良い、長く使い慣れた剣だ。
自分の剣が手元に回ってきたのは幸運だった。
この島では愛用の武器と再会出来る可能性など極めて低いのだから。
大人の姿になれたなら最良の剣は聖剣マスターソードになるのだろうが、
(この姿の僕としてはこれが最良の剣だ)
子供の姿のリンクにとっては、コキリの剣こそ最良の武器だった。
自らの実力を引き出せる得物を手に敵を見据える。
濛々と上がる粉塵の中を視認する。

ソレは熱を帯びた赤銅の肌をしていた。
淡く輝く螢火の髪をしていた。
髪はまるで生き物のように蠢いて見える。本来の長さまで再生しようとするように。
絡み付いていた銀髪のウィッグが、伸びる髪に押されて落ちた。
喪服か、あるいはゴスロリ調の、黒いドレスを身に纏っている。
しかしズタズタのドレスだ。
心臓の直上には膨らみの無い肌が覗き、奇妙な黒い文字──∀IIIが浮かび上がっている。
左腕の袖も途中から無いし、他の部分もそこら中に破れ目が覗いている。
奇妙なことに、破れ目の下の赤銅色の肌には傷跡一つ見当たらなかった。
そして右手には巨大な突撃槍が握られていた。
穂先は何処かしら龍のような形状で凶悪な“顔つき”をしている。
怪物の手にあるそれは、ともすれば怪物の一部にも見える。
その石突から伸びる飾り布は途中からエネルギーに転じ、光り輝いている。
まるで太陽の光のような、美しい山吹色に。

ヴィクター・スリー……セカンド。
グレーテル。

残酷極まりない愉悦を浮かべて、少女の姿をした怪物は槍先を向ける。
幼き時の勇者へと、その切っ先を。
猛烈な殺意が吹き荒れていた。

知らない。
リンクはこんな怪物を知らない、はずだ。
だけどどうしてだろうか、見たことが有るように思える。
目の前の少女のような誰かと、何処かで戦った記憶、が。
(敵だ)
何にせよそれだけは判る。
残念ながら殺し合いを否定するしないという段階ではない。
目の前に顕れた怪物はきっと、この島に居なくとも人間を殺戮し愉悦とともに貪るだろう。
殺す気で挑まなければ殺されるだけだ。
リンクと、仲間たちが。
果たして怪物は歓びに歪めた口元から、天使のような声で囁いた。

「天使を呼んであげましょう」

襲来から十秒。
それが開幕のベルだった。

142名無しさん:2010/05/22(土) 03:14:00 ID:uNNqcsfI
グレーテルは巨大な槍を手に突撃する。
リンクはそれを正面から迎え撃った。
半身だけずれて突撃を回避しながら、コキリの剣を振り下ろす。
グレーテルは、停止していた。
「くっ」
読まれた。いや、力ずくで止まられた。
小さく息を吐く。
槍が届く間合いで視線が絡み合う。
それでも体勢は崩れていない。コキリの剣は小回りが利く、振りを戻すのは一瞬だ。
槍が振るわれた。
剣が振るわれた。
速度はグレーテルの方が上だったが、技量を合わせればリンクも大差はない。
斬り合いに関して言えば互いの速度はほぼ同等、ほんの僅かにリンクの方が上だった。
つまり。
(ダメだ、押し切られる!!)
巨大な突撃槍を手斧の如く振るえる圧倒的な剛力分、グレーテルの方が上だった。
数合でリンクは後退り、それでも。
反撃に転じた。
相手が槍を振りかぶった瞬間に懐へと飛び込んで脱力感を堪えて剣を一閃し手応えを感じたその瞬間に
衝撃が走り視界が弾み白く染まり重力を見失い居場所を見失い状況を見失い──。

皆が眠る部屋の壁に叩きつけられていた。

「ぐぁ……!?」

戦況に理解が追いつかない。
視界が揺れて意識が酔いに冒される。
脳が揺れて体が動かない。

(一体……なにが……!?)
揺れる視界に映るのは胸元から出血するグレーテルの姿。
だけどあまりにも浅い傷だ。
手元を誤ったのか、いやそんなハズは無いと思考が巡る時間、さえもが惜しい。

襲撃から二十秒余り。
リンクが体勢を立て直すまではしばらくかかる。
グレーテルは槍を動けぬリンクに向けて飾り布のエネルギーを点火し一撃必殺の突撃を仕掛けようと。

「させるかぁっ!!」
すぐ横の扉が開き、アリサ・バニングスが飛び出した。
左手にステッキ、右手に秀麗な刀を握り締め、リンクの前に立って壁となる。
グレーテルはくすりと笑い、右手に突撃槍を握ったまま左手で何かを取り出した。
片手で握れるサイズの金属塊。
リンクにはそれが何かは判らなかった。
しかしアリサの気配が緊張に強張る。

それは、拳銃である。

引き金が引かれた。
轟音と共に銃弾が放たれる。
射線上にはアリサとリンク。
アリサが避ければ鉛弾はリンクの体を穿つだろう。
その状況でアリサの持つ贄殿遮那の白刃が。
受け止めた。

143名無しさん:2010/05/22(土) 03:15:57 ID:uNNqcsfI
甲高い金属音が響いた。
続きカラカラと軽い音を立てて鉛の小粒が床を打つ。
カレイドステッキに支えられたアリサの剣技は、贄殿遮那の刀身で銃弾を凌いだのだ。
絶対不変にして堅牢無比なる贄殿遮那の刀身が有っての話とはいえ、
咄嗟に射線上に刀身を構え、銃弾の強烈な運動量を受け止め弾ききった膂力は見事という他にない。
グレーテルは驚愕に目を見開き、しかし表情を笑みに戻して、続けざまに数度引き金を引いた。

アリサには、それ以上は防げない。
その表情には銃弾への怯えが浮かぶ。
その足膝には恐怖からの震えが見える。
僅かに崩れた体勢が“付け焼刃の達人”の限界だった。

ならば二度三度繰り返せば良いだけだ。
引き金は引かれ、銃弾は二度三度と放たれて。

見えない壁に防がれた。

部屋から飛び出してきたのはアリサだけではなかった。
高町なのはも目を覚まし、転がり出るように部屋から出てその片腕をかざしていたのである。

プロテクション。
物理攻撃に強力な耐性を誇る魔法の壁が続く銃弾を防いでいた。

数瞬の攻防だった。

グレーテルは笑う。
哂う。
嘲り嗤う。
「森鹿のシチュー。フィッシュアンドライスに紅茶を添えて」
目の前にごちそうが並んでいると歓喜する。
拳銃を懐に戻し、突撃槍を両手で握り締める。
ヴィクター・スリーの手で振るわれる武装錬金の突撃ならば、プロテクションなど紙にも等しい。
戦車砲の如き一撃は障壁ごと三人を粉砕しても余りある。
「ブレックファーストには贅沢かしら?」
「ワケわかんないこと言ってんじゃないわよ!!」
させまいとアリサが突っ込んだ。
贄殿遮那が振るわれる。
銃弾を鎬で受け止めはじいても刃こぼれ一つ歪み一ミリ有りはしない。この刀は完全なる強度を誇っている。
その斬撃に襲われてグレーテルは突撃を中止した。
代わり槍が振るわれて、宝具贄殿遮那と武装錬金サンライトハートが切り結ぶ。
襲撃からはまだ僅かに三十秒。

力はやはりグレーテルが圧倒していた。
それでもアリサは耐え凌ぐ。
付け焼刃でも今のアリサは達人だ。
しかも最初から人外の達人の為に鍛えられた贄殿遮那を振るえる腕力も与えられている。
アリサの身長近い大太刀が鮮やかに舞い踊る。
人間を一薙ぎで粉砕する化物であっても、カレイドステッキの力があれば立ち向かえる。
斬撃が服を食み、刺突が髪を掠めても、致命傷だけは受けまいとする。
その殺陣にグレーテルは笑みすら浮かべ。
笑みは油断か、アリサの前に一瞬の隙が晒される。
(今だっ!)
殺人が良い悪いなど斬り合いの最中には考える暇も無い。
アリサは渾身の斬撃をグレーテルの胸部に叩き込み。

144名無しさん:2010/05/22(土) 03:17:40 ID:uNNqcsfI
切れ味の悪い包丁で大型トラックのタイヤに斬りつければこんな感覚が返るだろうか。

「な……っ」
切れなかったわけではない。
確かに切れた。
リンクの付けたそれと交差する十字傷がグレーテルの胸元に走っている。
皮膚を切り裂き、何もかも違うのに変色していないことが奇妙に思えるほど真っ赤な血を噴き出している。
しかしその傷は、信じられないほどに浅かった。
「私は、殺せないわ」
果たしてグレーテルは恍惚とした笑みを浮かべて。
確信と信仰に満ちた笑顔で突撃槍を振りかざす。
そして、
「だってたくさん殺してきたんだもの。たくさん命を取り込んだんだもの」
破滅は振り下ろされた。

辛うじて贄殿遮那を間に挟み、それでも圧倒的な打撃が全身を駆け降りる。
腰が、膝が、体勢が崩れる。
ディバインシューターという叫びが響いた。
続く刺突が、突き立った。
アリサの右肩に深い傷が穿たれて、悲鳴と共に贄殿遮那を取り落とす。
「Never Die。そう、私たちはNever Dieなのよ」
更なる刺突が襲う二瞬前に、魔弾の一つがアリサの懐に飛び込んで一瞬静止して。
刺突が床を穿つのとアリサの体が跳ね飛ばされるのは同瞬だった。
なのはがアリサを受け止めて倒れこむ。
死んではいない、けれど。

グレーテルはコンクリート床に突き刺さった槍をあっさりと引き抜いた。
その視線が獲物の群れを品定めするように舐っていく。

リンクは立ち上がり、再び剣を構えていた。
事実上、現在グレーテルに立ちはだかれる敵は彼だけだった。

右肩から出血し粗い息を吐いて倒れているアリサは、既に戦力外だった。
出血量からして急ぎ治療しなければ命に関わるかもしれない。
奇妙なステッキがアリサさんと名を叫び、心配している様子だった。

遅れて起きてきたインデックスがアリサに駆け寄っている。
熱で消耗したその動きは遅く頼りなく、何の障害にもなりえない。

なのははアリサを抱き続けることもできず腕からこぼし、ただ呆然となっていた。
彼女は大凡無力だったのだから。

そう、高町なのははディバインシューターを放ちアリサを支援した。
グレーテルの攻撃を止めようとしたのだ。
放たれた魔力弾の数は三つに及ぶ。
しかし槍を狙った一つはグレーテルが振るう腕と交差しただけで砕け散った。
槍に直撃したもう一つが心臓を狙った槍の狙いを逸らし、
遅れた一つを使いアリサの救出したのは見事な芸当だったが、殆ど被害を与えられなかったのには変わりない。
なのはに殺意が無かった事など言い訳にもならない。
デバイス無しのディバインシューターはグレーテルを傷つけることすらできなかった。

ヴィクタースリー・セカンド。
その赤銅の肉体が恐るべき強度で攻撃を阻む。
高町なのはにデバイスやミニ八卦炉は無く、リンクに大人の体とマスターソードは無い。
襲撃から僅か一分足らず。
アリサは倒れ、グレーテルを斃しきるほど強力な武器は無い。
──完全に追い詰められていた。

145名無しさん:2010/05/22(土) 03:18:58 ID:uNNqcsfI
(どうすればいい!?)
リンクは刹那の時間で疾く思考を巡らせる。
アリサの敗北を見て、リンクは一つ理解していた。
今のがさっきの自分だ。
リンクはグレーテルに斬撃を命中させた肌を切り裂いたが、グレーテルは意に介さず槍を振るったのだ。
その成果がグレーテルの胸元に付いた浅い十字傷と、アリサ達に助けられなければ確実に死んでいたリンクだ。
どこまでも一方的な蹂躙だった。
圧倒的な戦力差に歯噛みし、苦悩し、それでも。

剣を握り対峙する。
仲間を置き去りにして逃げるなんて選択肢にすら浮かばない。
どうやって仲間を逃がすかなら考えた。
それにインデックス達を逃がせば、一応勝ち目は有ると言えなくもない。
(傷を負わせられない相手じゃないんだ、一対一なら少しずつでも削り取っていけばいいっ)
恐ろしく困難だが完全に不可能とも言えないはずだ。

だけどそもそもの前提となる、仲間を逃す手段が思いつかない。
アリサは深手を負ったし、インデックスは高熱で消耗している。
足止めをするにしたって、まともな傷を付けられない現状では難しい。
やろうと思えば横合いからの脆弱な攻撃など無視して逃げる者を襲えるのだから、どうしようもない。

(せめて一度。一度でいいからもっと深手を与えなきゃいけない)
そうすればグレーテルもリンクに背を向けられなくなる。
ゆっくりでも仲間が逃げる時間を稼げる。
問題は深手を与える手段だ。
腕に嵌っているリング、勇者の拳も考えてみたが、
緊張した状態から十分な威力を出す自信は無いし──リンクにはユーモアが足りない──攻撃の範囲も面だ。
当たりやすいのは良いけれど、一点は突けないし、相手の攻撃にも正面からぶつかってしまう。
ヴィクターと化し圧倒的破壊力を誇るグレーテルの突撃槍に正面から拮抗出来る者は、そうそう居ない。
剣の方が上手く立ち回れる。
だけど剣では硬すぎる。
(高い威力が無いなら……相手の弱いところを突いたら?)
リンクの視線が、グレーテルの胸元で止まった。

アリサとリンクの剣戟が交差した、十字傷を刻まれた胸元だ。
十字傷分だけ皮膚が破れ肉が薄くなっている部位だ。
あの一点にもう一度刺突を打ちこめば?
上手くいけば瀕死の重傷に追い込めるほどの深手を与えられるのではないだろうか?

(だけど、そんなこと出来るのか!?)
確かにリンクもアリサもグレーテルに一撃を命中させていた。
グレーテルの方も自らの強度を理解したのか、アリサに対しては威力を測りわざと隙を作った節がある。
それでも当てられるのは、どこかに当たれば良いという攻撃だ。
動いている相手の一点を正確に狙うのとは話が違う。
しかも全体重をぶつける必殺の突きでなければ話にならないだろう。
自殺覚悟で突撃しても成功するかわからなかった。

(せめて動きを止められれば)
さっきもなのはの攻撃は槍先を狙い撃てた。
アリサにトドメを刺そうとした瞬間、遠距離からの攻撃は不意打ちの狙撃にも等しかったのだ。
だから当たった。
何らかの手段で動きを止めることさえ出来れば当てられる。
(そういえば、なのはは?)
リンクは脇目でなのはを見て……息を呑んだ。

146名無しさん:2010/05/22(土) 03:20:02 ID:uNNqcsfI
「…………ごめんなさい…………」

高町なのはは呆然となっていた。
襲来したグレーテルを見て、思い出していた。
それが誰であるかを。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
自分が殺した一人の少年の事を思い出していた。

学校で遭遇した災厄の化身。
江戸川コナンを犠牲にしてまでして殺した少年。
髪の色も肌の色も違うし、少年でなく少女だけれど、決して見間違える事はない。
忘れられるはずもない。
彼と江戸川コナンは、高町なのはが初めて命を奪った相手なのだから。

友人であるヴィータの腕を焼いたのが地獄の始まりだった。
だけどもう一つ始まりが有るとすれば、自らの意思で三つの命を奪った学校の惨劇だろう。
ヘンゼルを殺すためにコナンを殺し、それでも救えない二人の片割れを助ける為に一人を切り捨てた地獄。

なのはは彼らの名前さえ知らない。
ただ、理解はしていたのだ。
わるい人だから殺していいわけじゃないし、そもそもわるい人でもなく、
ただ狂っていただけなのだと理解していたのだ。
それでも殺した少年だから、その死は高町なのはが背負わなければいけない死だった。

プロテクションで銃撃を防いだ時、その存在に気がついた。
アリサが殺されそうになって咄嗟にディバインシューターを放つことさえ戸惑いがあった。
例えどんな怪物であろうとも、高町なのはは彼女に対して罪を背負っている。

「さっきは撃ってしまってごめんなさい。
 あなたを……ううん、お兄さんを殺してごめんなさい。
 こんな言葉に意味を感じない人だって知っています。
 あなた達がどういう人間なのかを知っています。
 ずっと、生きることと殺すことが同じところに居たからそうなったことを知っています。
 たぶん、わたしのことも仇じゃなくて獲物でしかないってことを知っています。
 でも」

今のなのはにはどうすれば良いのか判らなかった。
こんな時、少し前のなのはなら殺そうとしていた。
あるいは打ち倒し、戦う力を奪おうとしていた。
なのははそれを、否定した。

その時点で、なのはの中には何の指針も残ってはいなかった。

アリサ達への友情はとても深いものだった。
インデックスもリンクもカレイドルビーも大切に思っていた。
本来の高町なのはらしく生きたいと思っていた。
生きて果たすべき目的は取り戻していた。

だけどそれでも、目的とするところへどう向かえば良いかがわからない。
当然の話だ。

だってなのはは、一人でもたくさんの人を救おうとしてたくさんの人を殺してしまったのだから。
誰かをたすけようと思って行動しても、誰かを殺してしまうかもしれない。
誰かをまもろうと思って行動しても、誰かを殺してしまうかもしれない。
誰かに生きてほしいと想って行動しても、誰かの命を奪ってしまうかもしれない。
なのはには最早、自らの判断の一切を信じることができない。

147名無しさん:2010/05/22(土) 03:23:12 ID:uNNqcsfI
だからなのはは仲間にすがった。

『はやてに、謝ろう。コナンに、アイに謝りに行こう。
 君はコナン達に一度も謝っていない。死んだ人たちに謝っていない』

なのはの脳裏に反響したのはリンクの言葉だ。
なのははリンク達に依存することで殺し合いを否定したのだ。
それによって、どんな人間でも殺すのはいけないことだと信じられた。
その結論がこの行動だった。

相手が狂った殺人鬼であることなんて、今のなのはにとっては判断材料にもならない。
なのはは目の前の相手に自分の言葉が通じるはずなんてないと、知識として知っている。
でもそんな知識に依存した末があの暴走だったのだ。
もう、なのははそんな末路を辿りたくはなかった。
理性ではなく感情に従いたかった。
リンクの言葉を信じたかった。
それが依存という歪なカタチでも、いつかほんとうのカタチを取り戻せると信じたかった。

「ごめんなさい。
 でもおねがいです。みんなを殺さないで」

進む道を変えるために罪の意識を薄めてしまったこの心で、それでもあやまろう。
入れる中身の足りない薄っぺらな言葉でも、謝罪という行為は正しく必要なことだから。
彼女の家族を殺害したのだろうこの体で、それでもわたしの友達を殺さないでとおねがいしよう。
どれだけちぐはぐで筋の通らない行為でも、それが今のわたしだから。
自分らしく生きたいという歪な理由で、それでも話し合いをしよう。
この想いがどれほど身勝手で醜いとしても、戦わず話し合う行為は正しいはずだから。

一歩一歩にその想いを篭めて、ゆっくりと歩み寄る。
今度こそ話し合いを試みるために。
それがきっと正しい行動なのだと信じて──ううん、信じるために。

高町なのはは自らの意思で、高町なのはであろうとし続けていた。

その行為を前にしたグレーテルは驚きの表情と、次いで楽しげな表情を浮かべて。
なのははそれでも祈り続けて。

「あなた達にとってこんな話は笑い話なんだと思います。
 それでも、おはなしを」

突撃槍が振るわれた。

高町なのはは叩きつけられように床に倒れた。

襲撃から八十五秒。
グレーテルが嘲嗤う。
高町なのはの愚かさと無謀を嘲う。
「ねえ、東の方の国に踊り食いっていうものがあるそうよ」
リンクには理解できない。
邪悪に過ぎてあまりに装飾的な言葉を、断片からは理解できない。
グレーテルはその可憐な唇から愉しげに続きを綴る。
「海産物を生きたままお刺身にしたり、殻を剥いて食べるそうよ。とっても美味しいそうね。
 学校でも素敵な勇者さまでやってみたけど、この子も最後まで今の話を続けられるのかしら?」
「な……おまえ、まさかっ!?」

突撃槍が振りかざされた。
九十五秒。

そして、五秒間が始まる。

148名無しさん:2010/05/22(土) 03:25:03 ID:uNNqcsfI
「くそっ」
リンクは仕方無しに距離を詰める。
それを予想していたグレーテルが向き直る。
結局リンクは十字傷の一点を貫く狙う術が見いだせない。
それでも一縷の望みに賭けて挑もうとして。
九十六秒。

「っ!?」
グレーテルの動きが鈍る。
殴り倒されたはずの高町なのはが倒れこむように這いずってグレーテルの腰にしがみついていた。
微かに聞こえるもうやめてというか細い言葉。
九十七秒。

「そのまま抑えてて!!」
リンクはそれを、高町なのはがグレーテルを抑えたのだと思い込む。
素養が、あったのだ。
なのはは迫真の演技で自らの本心を隠したのかもしれない人物だった。
だったらやはりこの行動も、グレーテルを油断させて嵌めたのかもしれないと思ったのだ。
(どっちにせよこれで狙えるもう少し抑えてくれればあの傷口をコキリの剣で──)
九十八秒。

「ぁ……」
高町なのはは何故か急速に薄れゆく意識の中でリンクの姿を見つめる。
剣を構えグレーテルに突撃する姿を見てまるで氷の刺が刺さったみたいな冷たい悲しみとかすかな失望が
胸に広がるのを感じてでもそれがどうしてかわからなくて意識が見る見るうちに暗く──。
九十九秒。

なのはが今度こそ崩れ落ちる。
開放されるグレーテルを見てリンクの心中に一瞬焦りが走る。
高町なのはを信じたのは失敗だったのか?
すぐにそれを否定する。
彼我の距離はほんの僅か、動きを止められていたグレーテルが回避するには間に合わない。
だから間に合うはずだ。
貫けるはずだ。

だがしかし、次の瞬間、リンクの考えは一変する。
なのはをあのままにしておいてもいいのか…?
僕は仲間達を護らなければならない。
襲い来る敵から。殺し合いに乗ってしまった相手から
それは間違いの無い前提だ。
じゃあなんで今僕はなのはをあのままにしている…?
高町なのは
そもそもそれは本当に仲間と言えるのだろうか。
仲間だと信じて良いのだろうか…?
君は一体、どんな想いを秘めているんだ?
リンクがなのはに対して抱いている感情はそれだ。
だがしかしいつからそんな感情を抱くようになったのか。
仲間を守らなければならないと誓ったこの時からか。
『はやてに、謝ろう。コナンに、アイに謝りに行こう。
 君はコナン達に一度も謝っていない。死んだ人たちに謝っていない』
自分は確かにそういった。なのはは今それをやっているじゃないか。
しかし、今なのはが謝っているのはあのグレーテルだ。
たくさんの命を奪い、あまつさえ人を食ったという化け物だ。
倒さなくてはならない。現に今自分たちを殺そうとしている。あの化け物だけは…
しかし、今なのははグレーテルのそばに倒れている。あのままでは…
いや、なのはは仲間かどうかも怪しいこのまま放っておいてあの化け物にとどめを…
(にげ…て)
しかし、頭に響いてきた声によってリンクは一瞬何事かと立ち止まるり、次の瞬間、その優れた反射神経か、グレーテルの振るった突撃槍を間一髪で回避した。
しかし、その風圧で吹き飛ばされてしまうリンク。
(今の声は…?)
いったい誰が発したのかリンクには分かった。否、知ることができた。
今の声はなのはの声だ。
リンクは知らない。なのはは気を失う直前になって最後の力をふりしぼって念話を使い、グレーテルがリンクに向かって槍を振るうのを知らせたのだ。
しかしリンクにはそんなことはどうでもよかった。
彼が気ずいたのはなのはが自分を助けてくれたということだけだ。
リンクにはそれだけで十分だった。

149名無しさん:2010/05/22(土) 03:26:00 ID:uNNqcsfI
『はやてに、謝ろう。コナンに、アイに謝りに行こう。
 君はコナン達に一度も謝っていない。死んだ人たちに謝っていない』
ああ、どうして疑ってしまったのだろう。
大切な、守るべき仲間を…ほかならぬ自分が説得したなのはを…罪を償おうと必死になっているなのはを…。
なのははこんなにも自分の罪を償おうと必死になっていたというのに。

リンクの迷いは一瞬で消し飛ぶ。
ああ、馬鹿だった。仲間を疑うなんて。なのはを疑うなんて。
なのはだって仲間だ。守るべき仲間だ。
リンクは強く剣を握りしめ、グレーテルを睨みつける。

襲撃から丁度百秒が経過した。

グレーテルを見たリンクの目は驚愕に支配された。
奴に与えた傷がみるみる再生していくではないか。
ヴィクター化によるエネルギードレインである。
ヴィクターと化した者はそのエネルギーで武装錬金を振るい。

あるいは自らの肉体を再生する。
高町なのはの意識を奪った、背後で、アリサを安全な場所に運ぼうとしたインデックスがいつの間にか二人して倒れている最終的な要因だった。

グレーテルは周囲から生命力を吸い上げて自らの傷を再生していた。
その生命力は戦う力にも使われているのだろう。
グレーテルはそこに居るだけで周囲の者達を衰弱させ、力を増し続けていた。

そのことをリンクは知る由もなかった。

だがそれがなんだ。自分は仲間を守る。そう誓ったのだ。
その仲間の為にもここであきらめてなるものか。

「そうだ。諦めない…諦めてたまるか。
 僕は仲間を守る。僕が、守るんだぁぁぁ!」

咆哮するリンクに対してグレーテルはさらに高笑いを続けている。

その時だった。

150名無しさん:2010/05/22(土) 03:26:37 ID:uNNqcsfI
ザッという音がした。
「ほう、生きていたか。少しは見直したぞ。勇者。」
グレーテルが壁に開けた穴を抜け、人影が一つ飛び込んできたのだ。
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
自称最強の悪の魔法使い。
リンク達を護るため、他の悪を討つために、魔女たちに同盟を示唆しながら四散させた張本人。
つい先ほどヴィクターと化す前のグレーテルと戦い撃退した、夜に生きる吸血鬼である。
彼女は変貌したグレーテルが工場の方角に向かうのを見て、それを追ってここに来たのだ。
しかしグレーテルがヴィクターの飛行能力を使いこなし挙句にサンライトハートで加速までしたため、
彼女の飛行能力では若干の遅れが生じ、出発の時間差も含めて百秒の遅れが生じた。
たったの百秒だ。
例えば廊下など見晴らしの良い場所に出ず適当な部屋に隠れて、迎撃に出るのではなく待ち伏せれば過ぎ去る程度の時間。
救援の見込みなど薄いのだからその行動の可能性は低かったが、一つ違えば何事も無く間に合ったほどの時間。
それだけの時差で彼女は戦場に辿り着き。
その光景を視た。

リンクはグレーテルの攻撃をかわし、その後何かが吹っ切れたように、仲間を守ると言った。そしてまた、化け物となったグレーテルに剣を向けている。

それが一つの結末だった。

「そういう事か。」

エヴァは呟く。
感心と共に。
希望と共に。

誰かを助けるために誰かを殺すって、どう考えたって泥沼じゃねーか。
 もう助からないから殺すって、もっと違うだろ。
 殺した奴は嫌われて、殺された奴の仲間は悲しむんだ。
 戦わなきゃいけないのかもしれないけど。
 殺さなきゃ生きられないのかもしれないけど。
 仲間が仲間を殺すなんて、仲間が敵に殺される以上に最悪じゃないか。
 誰かを嫌いになるなら、敵だけ嫌いになった方が、マシだっ

オレは仲間を嫌いになんてなりたくないんだ。
 仲間が仲間を殺すなんてイヤだね

二ケの言葉が一つ一つ浮かんでは消えていく。

(少しは認めてもいいのかもな…ニケ)

「エヴァ!」
リンクの声が聞こえる。だが自分は…

「勘違いするな!私は考えを変えたつもりはないぞ。
 ここに来たのもあの化け物を殺すためだ!」

151名無しさん:2010/05/22(土) 03:27:59 ID:uNNqcsfI
やはりまだ考え直してはくれないのか…
リンクはがっかりしながらも、

「それでも今はエヴァの力が必要なんだ!仲間を、アリサを、インデックスを、なのはを、みんなを助けるために力を貸して、エヴァ!」

対するエヴァはリンクをほんの一瞬だけ見て、
「フッ、いいだろう。だが忘れるな。グレーテルを倒したら、次は貴様らだ!」
あくまでもスタンスを変えなかったがリンクは。

「うん!行くよ!エヴァ!」

第二ラウンドのゴングが今、なった。

インデックスはそれを見ていた。
倒れ伏し、息苦しいほどに消耗しながら。
喘ぎ、悶えながら見ていた。

(気をつけて!エヴァ、リンク……)

そして恐怖していた。
襲撃者の持っている能力に。

インデックスは戦いに巻き込まれないよう、なのはの腕から零れたアリサを仮眠室に引きずり込もうとしていた。
呻き声を上げていたが、出血で一時的に意識が飛んでいたのか抵抗は無かった。
その途中で急激な脱力感に襲われ倒れてしまったのだ。
戦況を観察し続けて、やがてその原因を理解した。
しがみつきすぐに倒れたなのはと、グレーテルの胸の傷を見て。

グレーテルは周囲から生命力を吸い上げて自らの傷を再生していた。
即ち、エナジードレインだ。
その生命力は戦う力にも使われているのだろう。
グレーテルはそこに居るだけで周囲の者達を衰弱させ、力を増し続けていた。

とはいえ、本来は至近距離でなければこうも即効性を持つ力ではなかった。
健康な者ならこの距離でやられはしなかったはずだ。
だがインデックスは高熱と貧血で消耗していた。
微弱なエナジードレインに耐える体力すら残っていなかったのである。
深手を負ったアリサも似たようなものだろう。
エナジードレインを直接受けて倒れたなのはに至っては言うまでもない。

インデックスはグレーテルが周囲から力を吸い上げている現象に気づき、その“能力”に気がついた。

この戦場で戦う限りグレーテルは力を増し続け、回復を続けるのだ。

(いくらエヴァやリンクでも、ここじゃ勝てないんだよ……!)

この消耗では警告を叫ぶことさえ難しい。
だからインデックスは祈る。
せめて一人でも生き延びてくれることを。

152名無しさん:2010/05/22(土) 03:33:39 ID:uNNqcsfI
A-3/工場/2日目/早朝】
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:健康、ヴィクター化。胸元に微かな傷(すぐに再生する)
    喪われた心臓の代わりに核鉄(サンライトハート)が埋め込まれている。
[装備]:サンライトハート@武装錬金
    ソードカトラス×2(1+12/15)(銀10/15)@BLACK LAGOON、ソードカトラス専用ホルダー
[道具]:基本支給品一式、塩酸の瓶×1本、毒ガスボトル×1個、ボロボロの傘
    ソードカトラスの予備弾倉×3(各15発、一つだけ12発)、バット、
    蝶ネクタイ型変声機@名探偵コナン、救急箱、エルルゥの薬箱の中身@うたわれるもの
   (カプマゥの煎薬(残数3)、ネコンの香煙(残数1)、紅皇バチの蜜蝋(残数2))、100円ライター
    スペクタルズ×8@テイルズオブシンフォニア、クロウカード『光』『剣』@CCさくら、
    コエカタマリン(残3回分)@ドラえもん、
[服装]:いつも通りの喪服のような黒い服。胸の中央に大きな穴が空いている。雨に濡れて湿っている。
[思考]:うふふ……あははは……
第一行動方針:エヴァと周囲の連中を殺す?
第二行動方針:千秋との再会を楽しみにする。千秋が「完全に闇に堕ちた」姿を見届けたい。
第三行動方針:機会があればまた紫穂と会いたい。2人きりで楽しく殺し合いたい。
基本行動方針:効率よく「遊ぶ」。優勝後はジェダに「世界のルール」を適用する(=殺す)。
[備考]:シルバースキンの弱点(同じ場所をほぼ同時に攻撃されると防ぎきれない)に勘付きました。
    「殺した分だけ命を増やせる」ことを確信しました。ただし痛みはあるので自ら傷つこうとはしません。
    銀の銃弾は微妙に規格が違う為、動作不良を起こす危険が有ります。使用者も理解しています。

【エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル@魔法先生ネギま! 】
[状態]:全身に痛み、左腕が殆ど動かない、魔力消費(中)
[装備]:フェアリィリング@テイルズオブシンフォニア
[道具]:支給品一式、手足の無いチャチャゼロ(半永眠)@魔法先生ネギま!
[思考]:勇者か…いいだろう認めてやるよ
第一行動方針:グレーテルを殺す
第二行動方針:リリスと遭遇することがあったら、リリスを倒し身柄を押さえ、情報を得る。
第三行動方針:ジェダの居場所に至る道を突き止め、露払いをする。
第四行動方針:ジェダを倒そうと挑む者たちの前に立ち塞がり、討たれる。
基本行動方針:ジェダ打倒のために暗躍。ただし仲間は作らない。誇り高き悪として、正義の前に散る。
[備考]:梨花の血を大量に吸いました。雛見沢症候群、及び女王感染者との関連は不明です。
    ジェダ打倒を目指している者として、ニアの名前をグリーンから聞いています。
    パタリロを魔族だと思っています。名前は知りません
    紫穂の『能力』が、触れることで発動することを見抜きました。詳細までは把握していません。
    雲に隠れていても満月による補正は有るようです。

153名無しさん:2010/05/22(土) 03:34:11 ID:uNNqcsfI
【インデックス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:高熱&貧血&エナジードレインによる消耗で行動不能、全身に軽度の凍傷、
    背中に大きな裂傷跡と火傷、足裏に擦過傷(共に応急手当て済み)
[装備]:水の羽衣(背部が横に大きく裂けている)@ドラゴンクエストⅤ
[道具]:支給品一式(食料−1日分、時計破損)、ビュティの首輪、鉄製の斧@ひぐらしのなく頃に(?)
[服装]:私立聖祥大付属小学校の制服の下に水の羽衣。背中と足にシルクの包帯。
[思考]:リンク…エヴァ…死なないで…。
第一行動方針:どうにか、したい
第二行動方針:ヴィータを捜し、説得する。
第三行動方針:ニケ達と合流する。
第四行動方針:紫穂の行方の手掛かりを探す。エヴァの説得も諦めていない。名前しか知らないヤムィヤムィが少し気になる。
第五行動方針:落ち着いたら、明るい所でじっくりビュティの首輪を調べたい。
基本行動方針:誰にも死んで欲しくない。状況を打破するため情報を集め、この空間から脱出する。
[備考]:拾った双葉の型紐が切れたランドセルに荷物まとめて入れています。
    インデックス自身のランドセルは壊れているので内容物の質量と大きさを無視できません。
    深夜12時の臨時放送を、完全に聞き逃しました。

【アリサ・バニングス@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:全身に軽い火傷(右腕と顔は無事)、左腕出血(軽度打撲)、背中出血(深い切り傷)、以上応急処置済み。
    精神負担中、足と両手に軽度の凍傷、右肩に深い刺し傷、腹部打撲、出血と軽度エナジードレインで行動不能?
[装備]:カレイドステッキ@Fate/stay night
[道具]:なし
[服装]:パジャマ。変身を解いたらショーツ一枚。
[思考]:??????
第一行動方針:この状況をどうにかしたい。
第二行動方針:リンク、インデックスと情報交換する。
基本行動方針:はやての遺志を継いで、なんとかする。(なのはと一緒に)ゲームからの脱出。
[備考]:深夜12時の臨時放送を、完全に聞き逃しました。
    カレイドルビーは臨時放送を聞いています。
    贄殿遮那@灼眼のシャナはグレーテルの足元に転がっています。

【高町なのは@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:魔力消費(中)、両手首に浅い傷、背中に軽度の凍傷(治療済み)、頬骨と肋骨一本にヒビ、
    胴部打撲、密着エナジードレインにより昏倒
[装備]:なし
[道具]:なし
[服装]:シーツでできた服
[思考]:……。
第一行動方針:これまでに殺した人たちに謝る……
基本行動方針:自らの罪を償う。自身の想いに素直になる。………………。
[備考]:深夜12時の臨時放送を完全に聞き逃しました。

【リンク(子供)@ゼルダの伝説 時のオカリナ】
 [状態]:左太腿と右掌に裂傷、左肩に打撲、足に軽度の凍傷(治療済み)、強い決意
 [装備]:勇者の拳@魔法陣グルグル、コキリの剣@ゼルダの伝説
 [道具]:基本支給品一式×5(食料一人分−1、飲料水を少し消費)、クロウカード『希望』@CCさくら、
     歩く教会の十字架@とある魔術の禁書目録、時限爆弾@ぱにぽに、エスパー錠とその鍵@絶対可憐チルドレン、
     じゃんけん札@サザエさん、ふじおか@みなみけ(なんか汚れた)、5MeO-DIPT(24mg)、
     祭具殿にあった武器1〜3つ程、祭具殿の鍵、裂かれたアリサのスリップ(包帯を作った余り)
 [服装]:中世ファンタジーな布の服など。傷口に包帯。
 [思考]:守るんだ!仲間を!
 第一行動方針:なのは達を守る。
 第二行動方針:エヴァと協力してグレーテルを倒す。
 第三行動方針:もし桜を見つけたら保護する。
 第四行動方針:ゲームに乗った人間は、説得する。
第五行動方針:戦い終わったらエヴァを説得したい。
 第五行動方針:死者蘇生の可能性を探す。
 基本行動方針:ゲームを壊す。その後、絶対に梨花の世界へと赴き、梨花の知り合い達に謝罪したい。
 参戦時期:エンディング後
 [備考]
 リンクが所持している祭具殿にあった他の武器が何なのかは次以降の書き手さんに任せます。
 (少なくとも剣ではないと思われます)
 祭具殿の内部を詳しく調べていません。
 カレイドルビーと情報交換しました。これまでのアリサの動向を知っています。
 なのはに対する疑念を捨てました。

154第二回定時放送 ◆PJfYA6p9PE:2010/06/16(水) 22:19:23 ID:1/VrcDY6
古人曰く
始まりの時、まず混沌を創造した絶対者が、次に生み出したものは光であった。
光は昼と名づけられ、続く闇は夜と名づけられた。
光陰は巡り、世界に二度目の朝が来る。

古人曰く
この日、絶対者は混沌を二つに割り、天上と天下の別を生み出した。
しかし、この世界において、絶対者はそんなことをしたりはしない。
何故なら、天上と天下を分けるのは混沌自身に課せられた役目なのだから。

世に放たれし86の混沌。
既にそのうち50と9が天の上へと召されて消えた。
天の下に存在を許されるそれは、たったの1。

神聖なる運命が最後の裁きを下すまで、絶対者はその手を下さない。
行なうは、ただ囁くこと。
優しく、厳かに――――そして何より、残酷に。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ――夜の帳を潜り抜け、朝の光に浴する幼子たちよ。
 私は君達に、心からの称揚と労いの言葉を贈ろう。

 おめでとう。
 君達は過酷な運命に打ち克ち、この試練の島で一昼夜生き残った。
 流された聖別の血は、その類希なる魂をより一層輝かしいものへと変えただろう。

 そんな君達だからこそ、これから私が放つ言の葉を、すなわち、第二回目の定時放送を聞く権利がある。
 言うまでもないことではあるが、二度同じことはない貴重な機会だ。
 心して聞きたまえ。

 まずは、向こう半日で追加される禁止区域を発表しよう。


   7時より A-4
   9時より H-1
  11時より B-8
  13時より H-6
  15時より F-2
  17時より E-5


  ――以上だ。

 これから一時間後に次の禁止区域が発動し、以後は二時間毎に数が増えていく。
 前の放送の時とルールは変わらない。
 禁止区域に踏み込む危険さも、今までと同様だ。
 せっかく残った尊い命だ。愚昧な方法で散らしてしまわないことを祈っているよ。

155第二回定時放送 ◆PJfYA6p9PE:2010/06/16(水) 22:20:08 ID:1/VrcDY6


  ――――次に前回の放送から今までの間で、不幸にも命を散らしてしまった者の名前を発表する。
  
 03番   アルルゥ
 08番   一休
 17番   金糸雀
 20番   キルア
 21番   ククリ
 22番   グリーン
 33番   白レン
 36番   鈴木みか
 38番   蒼星石
 45番    ニア
 46番   ニケ
 49番   野上葵
 52番   野比のび太
 55番   雛苺
 62番   古手梨花
 66番   ベルフラウ=マルティーニ
 70番   メロ
 73番   吉永双葉
 74番   李小狼
 77番   梨々=ハミルトン
 78番   リルル
 79番   リンク
 86番   ヴィクトリア=パワード

   ――以上23名だ。


 聞いてのとおり、選定の儀は已然、滞りなく運んでいる。
 3人殺しのご褒美を求める声はますます高く、こちらの支給が追いつかないほどだ。
 私もまさか、このルールがこれほどの好評を勝ち得ることになるとは、思ってもみなかったよ。
 勇気を持って提案してくれた少年には、この場を借りて感謝を述べておくとしよう。
 ああ、無論、支給が遅れている者の元には、この後、すぐにQBを派遣する。
 好きな褒美を受け取ってくれたまえ。

 それから、あと少しでご褒美に手が届くという者は、急いだ方がいいかもしれない。
 当然のことだが、人数が減れば、他人を殺せる機会も減ってしまうことになる。
 今なら殺せるという状況に出会ったら、早めに実行に移すことだな。
 実は、私の宝物庫には、今回ご褒美として渡すことにしたものの中でも、
 一番強力な、素晴らしいアイテムがまだ残っていてね。
 運良く手に入れば……零からの逆転も夢ではない代物だ。
 もし、絶望に心が曇るようなことがあれば、私のこの言葉を思い出して欲しい。

 最後に。
 君達は選ばれた人間だ。誇っていい。
 開始直後にはあれほどいた君達の同胞も、今や三分の一以下の人数になった。
 その時間の分だけ、その犠牲の分だけ、君達は確実に救世主に近づいている。
 ついに救世主が現れたあかつきには、私は跪き、最上級の礼をもってこれを迎え、
 然る後に、その願いを寸分の違いもなく成就させるであろう。
 世界を救う道のりは辛く、険しい。
 君達もその途上で焼けるような苦しみを味わうことだろう。
 しかし、その魔境を越えた先には、只々救世の福音のみが待っているのだ!
 救済の時は近い。
 
 次の放送は午後六時だ。
 そのときには、更なる練磨を積んだ君達にまた会えることを願っているよ。
 
 ――今回の放送は以上だ。

156第二回定時放送 ◆PJfYA6p9PE:2010/06/16(水) 22:20:57 ID:1/VrcDY6


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

岩盤を刳り貫いたような荒々しい広間に、再びの静寂が戻る。
豪奢な玉座に身を沈めたまま、この世界の絶対者――冥王ジェダは満足げに唇を歪ませた。
滲み出る喜悦の所以は、先刻終えたばかりの放送か。それとも、右手が弄ぶ銀の輪か。
か細い蝋燭の炎が揺れて、一瞬、輪の表面を照らし出す。
鈍い光沢を返す金属の表には、確かに、“太刀川ミミ”の銘が刻まれていた。


古人曰く
光や混沌が創造されるより以前、始まりの時よりさらに昔、
そこには闇だけがたゆたっていた。

天上と天下が別れ、
この世の全てが生まれ出て、
幾星霜の時が過ぎても、

闇は今も、ここにいる。

157子供を○○する名無しさん:2010/06/18(金) 22:10:08 ID:Ns3p0fa.
ところで問題ない場合は書き手本人が本スレ投下するの?
それとも代理投下して欲しいの?

158子供を○○する名無しさん:2010/06/21(月) 18:39:26 ID:UiuOwcgU
少し早いけど立てました
ぎりぎりで立てるよりいいと思うし

ロリショタバトルロワイアル26
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1277112367/

159前編冒頭に追加 ◆Xdenpo/R4U:2010/06/22(火) 01:05:15 ID:wrpR9LcQ
ヴィータが見た光景は正しく現場検証のそれだった。
もっとも、マッドサイエンティスト然とした表情の歪みを除けばという前提が必要になるが。
着用している白い病人着が時折実験用の白衣のように錯覚してしまいそうになる。

「まあ、大したことは分からなかったわね」

雨後の泥に塗れた人形、およびその周辺の地面を手で触れながら捜査していた紫穂が立ち上がり、
ヴィータの眼が微かに細まる。
(やっぱり、手で触れてたな……)
エヴァンジェリンに見破られたせいか、紫穂からはある種の開き直りのようなものが感じられた。
接触によって発動する何らかの能力。
ヴィータにはそれを完全に推察することなどできなかったが、
触れた物体の見たものや記憶を読むことができるのだろうというあたりはつけていた。
そうであるなら紫穂と交渉したときのことにも筋が通るし、目の前で行われていた捜査とも合致する。

「冥王さまの躾能力に疑問を感じたことくらいかしら。
 蜂さんに関わるなって言った舌の根も乾かないうちに蜂さんのほうから参加者に接触してきているんだもの。
 それとも死者はノーカウントなのかしらね。あるいはさっきの放送自体何かのカモフラージュなのかも。
 嫌だわ、頂点が揺らいだらこの世界のルールに疑問を持つ子がでてきちゃうかもしれないのに」

相も変わらず笑う姿を見て、決まりだなとヴィータは思った。
紫穂は当然気づいているものと思って名前を出したのだろうが、
ヴィータは先ほど飛び立った姿がQBだったということに、今の今まで気がつかなかった。
原因は雨で視界が不明瞭だったこと。だが、それなら紫穂も同じ条件だ。
そしてヴィータ自身は、単純な動体視力なら紫穂に負けているとは微塵も思っていない。

「埋まっていたのはその人形含めて3人。
 あと分かったことといえば……私たちの目的地はもう近いということかしら」

紫穂の怪しく光る瞳が壊れた人形に向けられた。
やはりヴィータに対して能力の核以外を隠蔽する気は失せているらしい。
あえてそこの人形から情報を読み取ったことを強調することで、
自身の能力の絶対性をアピールしておきたいのだろう。
(今更んなことしなくったって乗ってやるよ、どこまでだってな)
静かに歩き出した紫穂の背中を焼くように睨み付けながら、ヴィータは彼女の後を無言で追った。


   *   *   *

160紅からは逃げられない ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:24:55 ID:O55C9ohY





走る。走る。走る。
不機嫌な低音でエンジンが唸る。
桃色のネコ型バスが、まるで本当の野獣になったかのように温泉街を駆ける。
店の看板をすり潰す。
宿の生垣を削り取る。
商品棚を吹き飛ばす。
暴れる獣はしかし、哀れ手負いの逃げる寝子。

飛ぶ。
背負った炎の翼が燃える。
飛ぶ。
標識がねじ切れる。
飛ぶ。
ガラスが砕け散る。
飛ぶ。
木造の軒が発火する。
赤い目の復讐者が阻む全てを焼き尽くして追いすがる。

「ヴィクトリアッ!! 右ッ!」
「分かってる! それと今は太刀川ミミッ!!」

死に物狂いのスピードで走るバスの車内。
喉を限りに、半ば悲鳴のような声で叫ぶ。
ほぼ時差なく、車体が急に右へとぶれる。

そして、トリエラを光が捉えた。

窓の向こう。
早送りの景色を赤とオレンジの炎が塗り潰す。
直後、雷でも落ちたかのような大爆音。
つい一瞬前までバスがいた空間を、火炎の舌が舐める。
黒い舗装コンクリートがコールタールへと戻る高温に、トリエラは思わず身震いした。

だが、彼女は知っている。
この攻撃には「タメ」があることを。
猫のような俊敏さで割った窓から身を乗り出し、狙い、発砲。
弾丸は狂いなく、空の目標へと向かう。

だが、彼女は知っている。
敵にとって、ハンドガンなど足止めにしかならないことを。
案の定、シャナが日本刀を一振りしただけで、銃弾は無へと帰った。
迎撃のため、ミサイルのようなスピードが若干緩んだが、それだけだ。

「ちっ」

狙撃者の舌打ち。
状況は、悪い。

161紅からは逃げられない ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:26:00 ID:O55C9ohY


「――君達――――運命に―――――――れんの――昼夜――――ちわ――――魂――」


放送が流れている。
この島にいる者にとっては貴重な情報源が頭の中を流れていく。
聞かなければ。
そして、記憶しなければ。
いや、それだけではまだ甘い。
書き留めなければ。
トリエラは思う。

だが、彼女はそれをしない。
否、できない。

エンジン音。
破砕音。
擦過音。
爆発音。
発射音。
そして、怒号と悲鳴。
あらゆる音が放送の聞き取りを阻害している。

そして、それにも増して放送の記録を難しくしているのは、
言わずと知れた、シャナの猛追。
この怪物少女が空を飛ぶスピードは、恐ろしいことに、バスのそれを僅かだが上回っている。
それでも、トリエラとヴィクトリアが何とか生き延びているのは、
無駄に長い人生の中で余技として身につけた、ヴィクトリアの運転技術と
悲しいほど短い人としての人生の中で叩き込まれた、トリエラの狙撃技術とが
奇跡的なバランスでシャナを撹乱しているからに他ならない。
もし、どちらかが放送を聴くために集中を乱せば、その途端、バスは炎に呑まれ、爆発炎上。
二人はめでたくあの世行きになるだろう。

「ショックに備えて!」

ヴィクトリアが怒鳴る。
強烈なGがトリエラに襲い掛かる。
ギャリギャリとタイヤが地面へ過剰に擦れ、不快な悲鳴を上げた。
進行方向に対してほぼ九十度旋回、道路に横たわる形になったバスの窓から、見る。

まるで大蛇の開かれた口のように迫る、炎の渦。
その毒牙にかかり、まずガラスが赤熱し、泡立ち、溶けていく。
次いで、合成素材で張られたシートが、水の染みるように燃え上がる。
そして、剥き出しになった生のトリエラを、
その顎が丸呑みにするかと思われたとき、不意に視界が切り替わった。

目の前には、何の変哲もないビルの壁。
バスが間一髪、横道に逃げ込むことに成功したのだ。
急な旋回がこのためであったことに思い至り、彼女は安堵のため息をついた。

162紅からは逃げられない ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:28:12 ID:O55C9ohY
しかし、已然、危機的状況は変わらない。
ヴィクトリアが手を滑らせて、運転をミスすれば、その時点でゲームオーバー。
トリエラが機を読み間違えて、射撃のタイミングを誤れば、ゲームオーバー。
もし、両方がうまくいき続けて、現状を維持できたとしても、
そのままでは、やはりいずれゲームオーバーだ。

何故なら、トリエラの手にある銃弾は無限ではない。
初めに装填されていた分は撃ち尽くし、マガジンは既に二つ目に突入している。
デイパックに残っているマガジンは残り二つ。
つまり、残りの弾丸はおよそ二十発。
これらが全てなくなれば、最早、あの加速を抑えられる武器は存在せず、
それは即ち、デッドエンドを意味する。

懸念はまだある。
それは……

「……ちっ、最悪だわ」

忌々しげな運転手の呟きに顔を上げ、窓の外を見ると、
トリエラはもう一つの懸念が早速、現実のものとなったことを知った。

先ほど、炎をかわすために飛び込んだ横道。
両側を建物に挟まれたその細い道が不意に途切れ、バスは大きな一本道へと躍り出ていた。
視界が開け、前方に見えるのは、まっすぐに伸びた道路と広がる平原のみ。
あれほどごちゃごちゃと立ち並んでいた建物の群れは、もう一つも見えない。
これらの景色は、今、彼女たちが踏み込んだ道が、
北東市街を抜け、南へと向かう幹線道路であることを雄弁に語っていた。

「まずい。これじゃ追い詰められる」

これは二人にとって致命的な事態だ。
彼女らがシャナの追撃を凌いでこれた背景には、温泉街の入り組んだ地形がある。
細かい路地を頻繁に曲がりながら逃げることで、
トリエラ達は爆発的な加速を持つシャナの飛行から何とか逃げ切ってきたのだ。

これが、直線における単純な競争になったらどうなるか。
足の速い人間と、そうでない人間が鬼ごっこをする場合を考えてみればよい。
足の遅い者でも、木や障害物をうまく使って、回り込みながら逃げれば、
普段、徒競走では絶対に勝てない者が相手でも、そう簡単には捕まらない。
だが、何も遮るもののない、グラウンドのど真ん中で、足の速い者と一対一になってしまえばどうか。
後には、能力どおりの単純極まりない結末が待つのみだ。

163紅からは逃げられない ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:28:51 ID:O55C9ohY

だからと言って、後戻りするわけにもいかない。

後ろを振り返ると、ちょうど、「ようこそ海鳴温泉街へ」と書かれたアーチ状の看板が
真っ二つに断ち割られて崩落するところだった。
赤い翼の追跡者も二人に着いて既に街を出ている。
ここで反転するのは、自殺行為以外の何者でもない。

コーナーを周っての最後の直線。
決戦の火蓋は望まぬまま切って落とされた。
状況を打開する一手は。
どうすればいい。
どうする。

「……トリエラ、あなた、拳銃以外の火器の扱いに自信は?」

もつれる思考は、死ぬも生きるも一蓮托生の性悪女から、
問いかけがあったことで中断された。

「一応、一通りは習ったけど」

ヴィクトリアは前を向いたまま少し黙り込むと、
おもむろに口を開いた。

「私に考えがあるわ」

164紅からは逃げられない(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:30:07 ID:O55C9ohY
都市計画もろくに立てられていないような、うざったいガラクタの街が途切れ、
代わりに地平線の彼方まで続く一本道が現れたとき、シャナは思わず喜悦の表情を浮かべた。

(よし、これで勝った)

心の中で勝ちを確信し、されど奢らず、
確実に最後の詰めを図ろうとする彼女の額には、珠の汗が浮かび、呼吸は僅かならず乱れている。
自動人形達が土壇場で持ち出した大型自動車に対する追走劇は、
相応の体力をシャナの身体から奪い去っていた。

炎の翼の自在法で空を飛ぶことに対する負担が普段に比べて大きいことは、とっくの昔に気づいていた。
ただ、同時に、これくらいの負担が何だと甘く見ていたのもまた事実。
付きまとう枷は、ある程度の時間、スピードを上げて飛び続けることにより、
二倍、三倍の勢いで増大した。
加えて、制動の部分についても制限が効いているらしく、
あまりに加速がつくと、細かい速度調節やベクトルの制御が思うに任せない。
おかげで、さっさと爆砕するはずだった敵にいいように翻弄され、ここまでの逃亡を許してしまった。

しかし、有利な環境条件を手に入れた今、それももう終わりだ。

一気呵成に距離を詰め、とどめをささんと心に決める。
当然、銃弾による撹乱があると踏み、警戒しながらの飛行だったが、
意外なことに、褐色肌の自動人形は車中に隠れたまま、顔を出さない。

(諦めた……と考えるのは危険ね)

不気味な沈黙に警戒を強め、少し速度を落としてじりじり詰める方針に切り替える。
亀の歩みのように少しずつ距離が縮まり、ようやく炎弾の射程範囲に敵を納めたころ、
不意に、ひょこりと褐色の自動人形が顔を出した。
何を企んでいるのかと、一瞬、表情を硬くしたシャナだったが、
敵が手に持っているものを見て、整った眉間に皺が寄る。
上半身と右腕だけを外に出し、射抜くような視線で
こちらを睨みつけた人形の手にあったのは――おなじみのハンドガン。

(考えた末の結論がそれ?
 だとしたら……やっぱりおまえは愚かだわ)

追い詰められた小物が無い知恵を使おうとしたが、
結局、何も思いつかず、従来通りの手で行くことにした。
そんな他愛もない結論に彼女は納得した。
そして、目の前の哀れな敵を消し去るため、左手に力を込める。
存在の力を巧みに織り上げ、掌の上で渦巻く炎に変えていく。

(今の状況なら、さっきみたいにチョロチョロ逃げられる心配はない。
 もう一発くらい被弾したって関係ない。
 この一撃で、確実に……壊すッ!!)

必滅の決意。
ますます猛る紅蓮。
敵のトリガーが引かれるのも気にせず、
左手の炎弾を――――――

165紅からは逃げられない(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:31:00 ID:O55C9ohY





「!?」





――――――放たない。
代わりに放たれたのは、右手の楼観剣。
反射的に出た刃が切り裂いたのは……無視を決め込んだはずの銃弾だった。

何故、彼女はそのような行動に出たのか。
フレイムヘイズの身体を生命の水で強化した肉体は、
魔次元における制限の下にあるとはいえ、9ミリの銃弾一発でどうこうできる類のものではない。
先程のような不利な環境での戦いであり、ダメージが蓄積する恐れがあるならまだしも、
今のような状況で、神経質に反応する必要はないはずだ。
にもかかわらず、迎撃を選んだのは……狙われたのがシャナではなかったから。

「……自動人形がッ!!」

目を剥く。歯を剥く。
この島に来る前には無かった凄まじい憎しみの貌。
そんな彼女の胸元で揺れながら、沈黙を守る者……天壌の業火アラストール。
そう、敵が狙ったのは彼だった。
正確に言うならば、シャナの中を満たす偉大なる紅世の王が
目として、耳として、口として用いる神器、コキュートスを狙われたのだ。

無論、このペンダント型アーティファクトは、神器の名に恥じない耐久性を持っている。
並大抵の攻撃で破壊されることはあり得ないし、
彼女自身、常日頃、戦場を伴にしているにもかかわらず、これの損壊を案じたことはほとんどない。

ただし、それはあくまで、元の世界での話だ。

冥王ジェダが作り上げたこの世界は、元の世界とは何もかもが異なっている。
物心ついて以来、ほとんど離れたことのなかったアラストールとあっさり引き離された。
封絶は使えず、炎は弱まり、飛行の自在法は消耗が大きい。
「この世の本当のこと」を知っていたはずの彼女にも、
まったく理解できない脅威がそこかしこに跋扈し、
挙句の果てには、生命の水を飲まされて、「しろがね」にまでなってしまった。
全てが未知の法則で動く異形の世界。

果たして、この世界で、9ミリ弾はコキュートスを破壊しないだろうか?

おそらく、しない。
まず、しない。
99%しないだろう。
それでも、シャナは銃弾を打ち落とさずにはいられなかった。

166紅からは逃げられない(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:31:55 ID:O55C9ohY
(絶対に許さない……絶対に、壊す!!)

かけがえのないものを奪われかけた怒りが、しろがねの記憶に残る憎しみの扉を開け放った。
濁流のように流れ出た憎しみは、小さな胸で暴れ回り、大きな炎となって渦を巻く。
赤い灼眼が憎悪の薪を巻き込んで、さらに赤く。血のように赤く。

だが、はちきれんばかりの感情に身を任せ、攻勢に出ようとしたシャナを押し留めたのは、
当のコキュートスに宿る、親しき魔人の声。

「シャナ、心を乱すな。敵のハッタリに過ぎん」
「……分かってる。大丈夫だから」

胸が溶け出すかと思えるほどの熱い心を何とか押さえつけ、
まだ辛うじて冷たいままの脳を意識的に活動させる。
その結果、導き出されるのは一つの仮説。

(もしかして……)

試しに、炎弾を放つそぶりを見せると、読みどおりのタイミングで弾丸が発射された。

(やっぱり)

敵は、どうやら、彼女の攻撃の出を読み取って、それに合わせる形で射撃を行っているようだ。
相手のアクションに被せて潰す、後の先の戦術。
これを的確にやられると、自然、状況は膠着し、長期戦の様相を呈してくる。
そうなれば、持久走で不利なのは、ガソリンで走るバスより自力で飛ぶシャナの方に決まっている。

しかし、彼女の怜悧な理性は、もう一つ、別の事実もはじき出していた。
褐色の自動人形が用いている獲物は何の変哲も無い拳銃だ。
拳銃にはそれぞれ、必ず装弾数というものが決まっている。
弾が尽きれば、絶対に弾倉を交換するための僅かな隙を生ずる。

当然、敵はそれをカバーするため、何らかの手段をとってくるだろう。
褐色の自動人形は自らの仕事に専念せねばならないので、警戒すべきはもう一人、運転手の方。
おそらくは、バスにアクロバティックな機動をとらせ、攻手をかわす方向で来る。
ならば、対応してこちらが採るべき戦術は何か。
簡単だ。
相手がどう動こうが、回避しようのない攻撃を繰り出せばいい。

「決めた」

切るカードは炎の大太刀。
まだ自動人形どもには一度も見せたことのないこの技で、視界180度、全ての範囲を薙ぎ払う!!

そうと決まれば、あとは容易い。
おとりのアクションで銃弾を釣り出し、弾切れを待つのみ。

167紅からは逃げられない(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:33:10 ID:O55C9ohY


一発目。
楼観剣が打ち落とす。


二発目。
急降下して軌道を外す。


三発目。
夜笠で受けた、その直後。
逃げ出す野生動物のごとく、俊敏な動きで褐色の自動人形が窓の奥へ退く。
瞳にその事実が映し出されるやいなや、



シャナは押さえつけていた憎しみを一気に解放した。



それはさながら火山の噴火のように。
巻き上がった憎悪は、空気を切り裂く轟音とともに炎へと転化する。
楼観剣から突如、天を突く火柱が燃え上がり、太陽を焼き尽くさんばかりに伸びていく。
巨大な、まるで神の振るう剣のごとき轟炎は、青い空を焦がして黒く染める。
その、超弩級の大刀を、豆粒のような少女はしかし、見事に御した。
振りかぶられた刀が、僅かに地面を擦れる。
すると、その一瞬だけで、青草の生える地面が黒一色に焼き付けられた。

同時、炎の翼が爆発とともに空気を叩く。
小さな身体が砲弾のように飛んでいく!!


「死ぃぃいいねええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」


角度、速度、温度。
いずれも申し分ない一撃に、止め処ない煮え滾る感情を乗せて。
叫んだ言葉を生んだのは意識か、それとも無意識か。

関係ない。全て消し飛ばせば関係ない。
そう言い聞かせ、灼眼を向けた先。




何故か、無表情で窓から顔を出す、褐色の少女と目が合った。

168紅からは逃げられない(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:34:01 ID:O55C9ohY
危険だ、と思う間もなかった。

少女の手元で何かが弾けた。
そこから何かが飛び出した。
そして。



爆音とともに、炎の翼が弾けて消えた。




「!!!!?????」


ミサイルのように加速された体は一気に制御を失い、空中に投げ出された。
バランスが狂い、世界が回る。
心の平衡が崩れ、火柱が消える。
土でない、固い何かを突き破る。
まるでビル一個分の瓦礫が頭上に降り注いだような、凄まじい衝撃が襲い、意識が磨り減る。
アラストールが何か言っている気がするが、それももう聞こえない。

そして、あらゆる感覚が失われ、気絶の闇に落ちる直前、シャナは見た。

自分の内側を満たす赤。
フレイムヘイズを構成する紅世の王の存在。
そのそこかしこに癌のように粘りつき、脈を打って増殖する、銀の存在。



銀の、憎しみを。







【H-3/道路沿いの民家/2日目/朝】
【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:しろがね化、気絶、消耗(大)、全身に打撲等のダメージ(回復中)
[装備]:楼観剣(鞘なし)@東方Project、コキュートス@灼眼のシャナ、あるるかん@からくりサーカス
[道具]:支給品一式(水少量、パン一個消費)、包帯
[思考]:憎い。
第一行動方針:自動人形(トリエラ・リルル・ヴィクトリア)は絶対に破壊する。
第二行動方針:要件が済んだら、インデックスや双葉たちと合流。
基本行動方針:ジェダを討滅する。自動人形(と認識した相手)は、全て破壊する。
[備考]:義体のトリエラ、ロボットのリルル、ホムンクルスのヴィクトリアを自動人形の一種だと認識しました。
[備考]:これまでのインデックスの行動の全てを知っています。
    神社を拠点にする計画も知っています。
    弥彦、キルア、アラストールと情報交換しました(どの程度かは次の書き手任せ)
    第二回放送を聞き逃しました。

169紅からは逃げられない(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:35:05 ID:O55C9ohY





人気のない廃墟のビル街に一台のバスが停まっている。
可愛らしい意匠を施されたピンクの猫型バス。
本来ならば、子供達を満載にしていなければならないその車中には、しかし、
今はたった二人の子供しかいなかった。

「……はぁ」
「……ふぅ」

二人は幼稚園児用に設えられた小さなシートに脱力して寝転がり、
ああとかううとか言葉にならない呻きを漏らしながら、ダラダラしていた。
そのダラダラ具合といったら、本来の世界でこのバスに乗っていた先生が見たら、
思わず叱り飛ばしそうなほどだ。
だが、彼女らにとって幸いなことに、ここに咎める大人はいないし、
仮にいたとしても、彼女らは「やだ! ダラダラするもん!」と駄々をこねたに違いない。

それほどまでに、二人――トリエラとヴィクトリアは疲れていた。
肉体的に、というよりも、精神的に。
まあ、先程まで、見た目はか弱い少女だが、中身はいかついドラゴンのような敵と
延々、命がけの追いかけっこを強いられていたのだから、
何とか逃げ切った今、緊張の糸が切れるのも無理はない。

「しっかし、危なかったわねー」

横になったまま、トリエラが呟く。
その声には全くもってふにゃふにゃしていた。

「私のおかげ。この貸しは高いんだからー
 そうね、グラーフアイゼンで勘弁してあげるわー」

負けないくらいのふにゃふにゃ声でヴィクトリアが返す。
やはり、ぐだりとシートに身を預けたまま。
いつもの棘のある調子も、何だか元気がない。

「えー? 実際撃ったのは私なんだから、それでチャラじゃない? フツー」
「あの支給品は私のよ」
「使えない支給品なんて持ってたって、意味ないでしょうがー
 ってか、あんなもんあるならもっと早く言いなさい」
「うるさいわね。忘れてたんだからしょうがないじゃない」
「まぬけー」
「うるさい」
「ドジー」
「うるさいうるさいうるさーい」

朝の穏やかな陽気の中、幼稚園バスのなかには少女たちの、微笑ましい会話。
その平和な風景を見ていると、
一瞬、ここが殺し合いの場であることを忘れてしまいそうになる。

「だいたい、そのドジの作戦で助かったのは誰ー?
 私がドジならお前はバカよ。バーカ、バーカ」
「……まあ、確かに効果的があったことは認めるわー」

今、二人がこうして力を抜いて休むことができるのは、
ひとえに、ヴィクトリアが土壇場で提案した作戦のおかげだ。

170紅からは逃げられない(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:36:15 ID:O55C9ohY

「胸のペンダントの正体を見抜いた洞察力もたいしたもんだしね」

作戦の第一段階。
それは、コキュートスに向かって発砲することで、敵の足止めを図るというもの。
アイテムリストと詳細名簿の併せ技により、
シャナとコキュートスの関係を類推することのできた、
ヴィクトリアならではの策と言えるだろう。

「人質とるみたいで気は進まなかったけど……ね」
「あら、そのわりには、進んで撃ってたように見えたけど?」
「……しょうがないじゃない。死ぬよりましー」

だが、それだけでは彼らの生存は覚束なかったはずだ。
牽制で放てる銃弾は有限だし、何より、装填の際、隙ができる。
銃の扱いに慣れているトリエラの手によるリロードなので、僅かな隙だが、
それでも、あの怪物、シャナが攻撃を放つには十分すぎる。

そこで、立案されたのが作戦の第二段階。
もし、ヴィクトリアの推測が当たっていれば、
シャナはコキュートスを狙撃されたことにより、激怒する。
そして、怒りに燃えた敵の前で、隙を見せれば、
必ずそこを突き、こちらを殺し尽くそうと突っ込んでくるはずだ。

第二段階の肝は、その敵に予想外のカウンターを食らわせること。
シャナは決して考えなしの力自慢ではない。
当然、こちらの隙の原因が、銃のリロードであることを理解する。
ならば、本来ならばどう頑張っても装填が間に合わないタイミングで攻撃を繰り出せば、
相手の虚を突き、逆転のカウンターパンチを極めることができるはず。

そのために選ばれた武器がヴィクトリアが持っていた支給品、ペンシルロケット。
あらかじめ、銃を持った右手とは逆の左手に、敵から見えないようにこれを準備しておき、
弾が切れた時点で、一瞬、頭を引っ込め、銃を放棄。
すぐさま窓際へととって返し、両手で発射する。
ペンシルロケットは特殊な武器ゆえ、素人には照準が難しいのだが、
そこは、治安活動のため、あらゆる現代武器の使い方を叩き込まれたトリエラ。
何とか狙い通りに炎の翼を撃ち抜き、敵をまくことに成功した。

「全部、あんたが書いた筋書きどおりに行ったわねー」
「そうよ。感謝しなさい」
「筋書き通り、シャナ怒ってたわねー」
「………………」
「怖い顔して、恨みで全身がはちきれそうなぐらい」
「………………」
「もう、仲良くはなれないだろうな」
「…………当然よ。
 お前がもし、自分の大事な人に同じことをされたら、お前は許せるの?」

「……絶対に許さない」

「……そういうことよ」
「だよねー」

もぞもぞと、もどかしげにトリエラが身を捩る。

171紅からは逃げられない(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:37:06 ID:O55C9ohY
他にも考えたくないことは山ほどある。
放送を聞き逃してしまった。
誰が死に、誰が生きているのか分からない。
禁止エリアも分からない。
イエローとひまわりは街に置き去りだ。
小太郎とタバサの安否は分からない。

首輪について、少し進展があると思ったら、直後にはこのザマ。
しかし、だからといって、立ち止まっているわけにはいかない。
こうしている間にも、事態は刻一刻と悪化している。
だから、立ち上がり、動き出さなければならない。
そんなことは分かっている。

だけど。
だけどもう少し。

もう少しだけ、休憩が欲しい。






【G-7/廃墟の街/2日目/朝】
【トリエラ@GUNSLINGER GIRL】
[状態]:肉体疲労(中)、精神疲労(中)
    頭部殴打に伴う頭痛。胴体、胸部に重度の打撲傷複数、全身に軽度の火傷、
    右肩に激しい抉り傷(骨格の一部が覗き、腕が高く上がらない)。
[装備]:拳銃(SIG P230)@GUNSLINGER GIRL(残弾数8/8)
    ベンズナイフ(中期型)@HUNTER×HUNTER、トマ手作りのナイフホルダー、防弾チョッキ(一部破砕)
    グラーフアイゼン(待機フォルム)@魔法少女リリカルなのはA's(ダメージ有り、カートリッジ0
[道具]:基本支給品(パン1個、水少量消費)、ネギの首輪、血塗れの拡声器、北東市街の詳細な地図
    US M1918 “BAR”@BLACK LAGOON(残弾数0/20)、9mmブローニング弾×8
    インデックスの0円ケータイ@とある魔術の禁書目録、コチョコチョ手袋(片方)@ドラえもん )
    回復アイテムセット@FF4(乙女のキッス×1、金の針×1、うちでの小槌×1、十字架×1、ダイエットフード×1、山彦草×1)
[服装]:普段通りの男装+防弾チョッキ
[思考]:もう少しだけ休憩したい。
第一行動方針:第二回放送の内容を確認する。
第二行動方針:仲間との連絡、もしくは合流。
第三行動方針:シャナに対しては態度を保留。(和解は難しい?)
第四行動方針:トマとその仲間たちに微かな期待。トマと再会できた場合、首輪と人形の腕を検分してもらう
基本行動方針:好戦的な参加者は積極的に倒しつつ、最後まで生き延びる(具体的な脱出の策があれば乗る?)
[備考]:携帯電話には、『温泉宿』の他に島内の主要施設の番号がある程度登録されているようです。
    トリエラが警察署地下で見た武器の詳細は不明。
    第二回放送を聞き逃しました。

     ※トリエラは仲間と分かれる前、朝になったら、以下の作戦に則って行動するつもりでした。
      まずシェルターまで全員で行動し、洞窟にも寄りつつシェルターに向かう。
      シェルター到着後に解散し、小太郎とタバサは城へ、トリエラは廃墟へ行く。
      それ以降は小太郎達は定期的にトリエラの携帯電話に連絡をする。

172紅からは逃げられない(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:37:50 ID:O55C9ohY


【ヴィクトリア=パワード@武装錬金】
[状態]:肉体疲労(小)、精神疲労(大)首輪解除、太刀川ミミに瓜二つの顔
[装備]:幼稚園バス@クレヨンしんちゃん、i-Pod@東方Project、
    スケルトンめがね@HUNTER×HUNTER、魔剣ダイレク@ヴァンパイアセイヴァー
[道具]:基本支給品×2(食料のみは1人分)、天空の剣@ドラゴンクエストⅤ、
    塩酸の瓶、コチョコチョ手袋(左手のみ)@ドラえもん、
    ポケモン図鑑@ポケットモンスター、ペンシルロケット×4@mother2
    アイテムリスト、詳細名簿(ア行の参加者のみ詳細情報あり。他は顔写真と名前のみ。リリスの情報なし)
    マッド博士の整形マシーン、カートリッジ×10@魔法少女リリカルなのはA's、
    思いきりハサミ@ドラえもん、その他不明支給品×0〜1
[服装]:制服の妙なの羽織った姿
[思考]:もう少し休憩。
第一行動方針:第二回放送の内容を確認する。
第二行動方針:仲間との連絡、もしくは合流。
第三行動方針:氷結、石化魔法の使い手を捜す。
第四行動方針:首輪や主催者の目的について考察する。そのために、禁止エリアが発動したら調査に赴きたい(候補はH-8かA-1)
第五行動方針:“信用できてなおかつ有能な”仲間を捜す。インデックス、エヴァにできれば接触してみたい。
基本行動方針:様子見をメインに、しかしチャンスの時には危険も冒す
参戦時期:母を看取った後。能力制限により再生能力及び運動能力は低下、左胸の章印を破壊されたら武器を問わずに死亡。
[備考]:首輪が外れた事により能力制限が外れている可能性も有ります。
    第二回放送を聞き逃しました。

    ※首輪に『首輪を外そうとしている』や『着用者が死んだ』誤情報を流す魔法を編み出しました。
     ただし、デバイスなど媒体が無ければ使えません。攻撃に使うのも不意打ちで無ければ難しいと思われる?
     更にヴィクトリアの場合、実際に致命傷を受けて殆ど死に体になっていた事が助けとなった可能性も有ります。


【幼稚園バス@クレヨンしんちゃあsdfsdfghjkl;:

173紅からは逃げられない(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:38:21 ID:O55C9ohY


















     ――ソノトキ、視界ガ紅ク染マッタ。

174紅からは逃げられない(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:39:16 ID:O55C9ohY
それは突然のできごとだった。
バスの直上に何かぶつかるような音がした刹那、
窓から見える世界全てが、血のような紅に染まったのだ。

二人同時。
慌てて体を撥ね起こす。
感覚を研ぎ澄まし、周囲の変化を観察。
間もなく、起こった事態を把握した。

世界が紅く染まったのではなかった。
染まっていたのは窓だった。
バスに嵌っているガラスというガラスに、
赤い、血とも肉ともつかないゼリー状の物体がべったりと付着していたのだ。

「何……何が起こったの!?」

あまりの異常事態に声を震わせるトリエラ。

(これは……?)

その横でヴィクトリアは、目の前の赤に対し、確かな既視感を覚えていた。
自分はどこかでこれを見たことがある。
あれはどこだったか……確か……

「あっ」

記憶の糸と糸が繋がる。
答えが出る。
だが、それを口にする前に。




「おはよう。
 選ばれし中でもさらに選ばれし子供たちよ。
 君たちは幸運だ。
 本来ならば、最後の一人になるまで再び見えることはできないはずだったこと私と……
 来るべきときが来る前に、もう一度逢瀬を重ねることができるのだから」




周りの赤全体から、荘厳な声が響く。
まるでいくつものスピーカーから少しずつ遅れて放たれているような不気味な韻律。

二人はこの声を知っている。
いや、この島にいる者なら、誰一人知らぬものはない、
そして、決して忘れられることのない、声。
その持ち主は……

「ジェダ……ドーマッッ!!」

怒り、恐れ、緊張、その他様々な負の感情がないまぜになった、ヴィクトリアの叫び。
それはあたかも、この島に生きる子供たちの感情を代弁しているかのように響いた。

175紅からは逃げられない(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:40:07 ID:O55C9ohY

「いかにも」

唐突に、微震がバスを襲う。
カタ……カタカタと、車中のガラスが一斉に振動音を奏で始める。
見れば、窓に貼りついている血塊の全てが、まるで意思を持つアメーバーのように
脈打ち、蠢き、そして、一挙に動き出した。
車全体を覆っていた醜い肉は、みるみるうちに割れた窓へと殺到。
今や、赤い濁流のように車内へ流れ込んでいた。

そして赤は、ちょうどトリエラとヴィクトリアの中間あたりの地点へ、
自然の法則に逆らって、溜まり、埋もれ、積み重なり、ある一つの形をとっていく。
細身の長身。スタイルに優れたボディ。
体にぴたりと貼りつく、宗教家のような、学生のような藍の衣装。
背負われた、明らかにこの世のモノではない鋭角の翼。
不自然に尖った頭からは、触覚か、角のようなものが二本伸びている。

「君たちには、こちらの姿の方が馴染みがあるかな」

死人を連想させる青白い顔がニヤリと歪む。
ほの見えた口の中は、煮詰めたようにどす赤かった。



「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!」



咆哮一閃。
ヴィクトリアがジェダに襲いかかる。
右手を固めた本気の手刀。
ありったけの殺意を腕に込め、相手の臓腑を貫き、抉り、そのまま砕かんとする必殺の一撃。

しかし、その反抗の暴力は、
ジェダがゆるやかに、優雅ささえ感じさせる動きで彼女の腕を掴んだだけで、
あっさりと止められた。

「ふむ。元気そうで何よりだよ、太刀川ミミ」
「あっ」

渾身の攻撃を止められ、体が硬直した一瞬の隙に、
冥王は掴んだ腕を放さぬまま、強引にヴィクトリアの体をシートへと押し倒し、
そのまま、上へと覆いかぶさった。

「実のところ心配していたのだ。
 外れないはずの首輪が……何の手違いか外れてしまっていたようだったからね」

言いながら、その青く細い指で彼女の首筋を撫でる。
ほっそりと白い、染み一つない美しい首。
その感触を楽しむように、ゆっくりと指を這わせ、何度も往復させる。

176紅からは逃げられない(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:41:12 ID:O55C9ohY

「変に爆発して、もし怪我でもしていたら大変だ……そう思っていたのだが」

首には飽きたのか、今度は逆の手で下半身をまさぐる。
スカートをめくり上げ、健康的な生の美脚を慈しむようにさする。
肉付きのいい感触を確認するため、軽く揉んでみることも忘れない。
この時、首筋を触っていた手は、抜け目なくセーラー服の中へと滑り込ませている。
柔らかい腹の肉を感じるのも早々に、ここ百年余の間、ずっと未発達の胸へと手を伸ばす。
僅かだけ膨らんだ双丘を、指先で押し、そして戻す。

ヴィクトリアは自らの下顎を噛み砕かんばかりに、歯を食いしばる。
怒りと屈辱で脳はほとんど白熱し、爬虫類のように引き絞られた虹彩からは
殺意が無尽蔵に放たれている。
しかし、それでも、彼女は抵抗することができない。
何故なら、この上なく優しいタッチで体を弄びながらも、
冥王は巧みに反抗の動きを殺し、また、同時に、
星の重力にも並ぶかと思われるほどの威圧感を漲らせていたからだ。
それは、無言のうちにこう語っていた。

『逆らえば、ただでは済まさない』

ヴィクトリアは人外の化け物、ホムンクルスとして百年の時を生きてきた。
恐れられ、疎まれることはあっても、嬲られたことなど一度もなかった。
それがこうも……こうも容易く……
人生で始めての衝撃が与えたのは屈辱……ただ屈辱。
感情のやり場がない彼女にできることは、目尻に溜まった涙が決して流れないよう、
必死で耐えることくらいしかない。

「……どうやら、大した怪我はないようだ。安心したよ。
 それから……トリエラ」

いつのまにか銃を抜き、ジェダに向かって構えていたトリエラは
自分の背筋をとてつもなく冷たい何かが走り抜けるのを感じた。

頭をヴィクトリアの胸にあてがい、心臓の鼓動を聞いたままの姿勢で、冥王は続ける。

「無益なことはやめておくことだ。
 そんな玩具で私をどうこうできないことくらい、聡明な君なら分かるだろう。
 それに……つまらん理由で脱落したくはあるまい?」

ギン。
その言葉を聴いた途端、トリエラが最早、微塵も感じていなかった首の違和感が一気に膨れ上がる。
それをはっきりと思い出したとき、無駄な抵抗の意思はあっという間に萎えていった。
銃を下ろすことはしなかったが、それは「お前の思い通りにはならない」という
精一杯のポーズであって、おそらく冥王にとっては、
すねた子供がそっぽを向くのと、何ら変わりのない行動にしか映らないことだろう。

そんなトリエラの態度を見て、ジェダは満足したのか、再び、ヴィクトリアに意識を移した。

「さて、大事なかったとはいえ、首輪が外れてしまったのは、こちらの落ち度だ。
 お詫びに、君に私から一つプレゼントをしよう」

ヴィクトリアを貪っていた上体を起こすと、おもむろに、両腕を彼女の首へと巻きつける。
死の予感に瞳が見開かれ、表情が硬直する。
だが、予想に反し、ジェダの両手は柔らかく両側を包み込んだだけで、
しばらく経った後には、触れると同じように、ゆっくりと離していった。
しかし、手がすっかり肌を離れた後も、何故か首の違和感が消えない。
不審に思い、自ら触って確認すると、そこには――――

177紅からは逃げられない(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:43:04 ID:O55C9ohY



「新しい首輪だよ」



逃れた筈の枷が。
滅したはずの絶望の象徴が。
銀の首輪が、また嵌っていた。



崩れ去る。


辿り着いたはずの結果。

勝利への一歩。

築いたはずの優位。

秀でた自らへの自信。

生還へと伸びかけていた階段。


一切合財が、音も立てずに崩れ去る。



「私はそろそろ戻るとするよ。
 あまり君たちばかりを贔屓するわけにもいかないからね。
 では、頑張ってくれたまえ。
 私はいつでも、君たちのことを遠くから見守っているよ。
 ククク……ヒャーーーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

腕を大きく広げる。
ジェダの背後の空間が、口を開けるようにパックリと裂け、赤斑の異次元が現れる。
瞬きをする刹那、冥王はその口に呑まれるようにして消えていった。


後には、耳障りな哄笑の、僅かな残滓だけが響いていた。

178紅からは逃げられない(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:44:07 ID:O55C9ohY



【G-7/廃墟の街/2日目/朝】
【トリエラ@GUNSLINGER GIRL】
[状態]:肉体疲労(中)、精神疲労(中)
    頭部殴打に伴う頭痛。胴体、胸部に重度の打撲傷複数、全身に軽度の火傷、
    右肩に激しい抉り傷(骨格の一部が覗き、腕が高く上がらない)。
[装備]:拳銃(SIG P230)@GUNSLINGER GIRL(残弾数8/8)
    ベンズナイフ(中期型)@HUNTER×HUNTER、トマ手作りのナイフホルダー、防弾チョッキ(一部破砕)
    グラーフアイゼン(待機フォルム)@魔法少女リリカルなのはA's(ダメージ有り、カートリッジ0
[道具]:基本支給品(パン1個、水少量消費)、ネギの首輪、血塗れの拡声器、北東市街の詳細な地図
    US M1918 “BAR”@BLACK LAGOON(残弾数0/20)、9mmブローニング弾×8
    インデックスの0円ケータイ@とある魔術の禁書目録、コチョコチョ手袋(片方)@ドラえもん )
    回復アイテムセット@FF4(乙女のキッス×1、金の針×1、うちでの小槌×1、十字架×1、ダイエットフード×1、山彦草×1)
[服装]:普段通りの男装+防弾チョッキ
[思考]:呆然。
第一行動方針:第二回放送の内容を確認する。
第二行動方針:仲間との連絡、もしくは合流。
第三行動方針:シャナに対しては態度を保留。(和解は難しい?)
第四行動方針:トマとその仲間たちに微かな期待。トマと再会できた場合、首輪と人形の腕を検分してもらう
基本行動方針:好戦的な参加者は積極的に倒しつつ、最後まで生き延びる(具体的な脱出の策があれば乗る?)
[備考]:携帯電話には、『温泉宿』の他に島内の主要施設の番号がある程度登録されているようです。
    トリエラが警察署地下で見た武器の詳細は不明。
    第二回放送を聞き逃しました。

     ※トリエラは仲間と分かれる前、朝になったら、以下の作戦に則って行動するつもりでした。
      まずシェルターまで全員で行動し、洞窟にも寄りつつシェルターに向かう。
      シェルター到着後に解散し、小太郎とタバサは城へ、トリエラは廃墟へ行く。
      それ以降は小太郎達は定期的にトリエラの携帯電話に連絡をする。

179紅からは逃げられない(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:44:42 ID:O55C9ohY


【ヴィクトリア=パワード@武装錬金】
[状態]:肉体疲労(小)、精神疲労(大)、太刀川ミミに瓜二つの顔
[装備]:幼稚園バス@クレヨンしんちゃん、i-Pod@東方Project、
    スケルトンめがね@HUNTER×HUNTER、魔剣ダイレク@ヴァンパイアセイヴァー
[道具]:基本支給品×2(食料のみは1人分)、天空の剣@ドラゴンクエストⅤ、
    塩酸の瓶、コチョコチョ手袋(左手のみ)@ドラえもん、
    ポケモン図鑑@ポケットモンスター、ペンシルロケット×4@mother2
    アイテムリスト、詳細名簿(ア行の参加者のみ詳細情報あり。他は顔写真と名前のみ。リリスの情報なし)
    マッド博士の整形マシーン、カートリッジ×10@魔法少女リリカルなのはA's、
    思いきりハサミ@ドラえもん、その他不明支給品×0〜1
[服装]:制服の妙なの羽織った姿
[思考]:呆然。
第一行動方針:???
基本行動方針:???
参戦時期:母を看取った後。能力制限により再生能力及び運動能力は低下、左胸の章印を破壊されたら武器を問わずに死亡。
[備考]:第二回放送を聞き逃しました。

    ※首輪に『首輪を外そうとしている』や『着用者が死んだ』誤情報を流す魔法を編み出しました。
     ただし、デバイスなど媒体が無ければ使えません。攻撃に使うのも不意打ちで無ければ難しいと思われる?
     更にヴィクトリアの場合、実際に致命傷を受けて殆ど死に体になっていた事が助けとなった可能性も有ります。


【幼稚園バス@クレヨンしんちゃん】
しんのすけ達が通う、ふたば幼稚園の通園バス。
ネコを模したピンクの車体がキュート。
ちなみに、原作でも、今作中ばりのカーチェイスを演じたことがある。

180紅からは逃げられない(後編) ◆PJfYA6p9PE:2010/07/17(土) 16:45:20 ID:O55C9ohY
投下終了です。
本スレでご支援くださった方はありがとうございました。

181Point of Return ◆Xdenpo/R4U:2010/09/05(日) 17:54:01 ID:2zLybEgU
魔女狩りの魔女は戦場に降り立った。
地に転がるは死人と半死人、相対し屹立するは絶対強者。
人の領域を超越した赤銅肌の化け物が冷徹に嗤う。
場に存在する事象全てが彼女の味方と化し、一戦交えたばかりだというのに内包する気力の充溢さは計り知れない。
正に化け物。
だが、彼女はそこで甘んじない。
一片の容赦も油断もなく足元のボロ人形、高町なのはを片手で持ち上げ対峙した魔女に見せ付ける。

「裏切り者さん、この意味がお分かりかしら?」

嗤う。
尚も嗤い続けるその顔が。
パアン!
という破砕音に飲み込まれた。
砕け散った氷の弾丸が周囲に飛散し、白い靄が生まれる。

「生憎と全く分からんな。
 この私がそんな善人に見えたか?」

右手に魔法の射手の残照を燻らせ、闇の福音もまた嗤う。
迷いも躊躇も追憶もその嗤いの中には居場所がない。だが、

「ええ、よーく見えるわ。あまりにぬるすぎて気持ち悪いくらいよ」

彼女にはその居場所が見えた。
水蒸気がはれ着弾点が露になる。
頬に小さな傷。
魔法の射手の一矢程度では怪物はおろか普通の人間とて殺すことなどできはしない。
その僅かな傷が人質を傷つけずに行うことができる、精一杯の虚勢だということをどこまでも残酷に表していた。
(……分かっていたさ)
突きつけられた事実を視神経に焼付け、エヴァは決意する。
やはり、全てを救うことなどできはしない。
もとより高町なのはは終わっている存在。袋小路から抜け出せない者。
エヴァが拘泥する理由など最初からなく、見捨てるという選択肢をとることにも何ら抵抗はない。
その内情を見透かしたかのように、グレーテルが笑みの質を変える。
そのまま片手だけで槍を振りかぶる。次いで地面をめくるように広く広く横薙ぎにした。
所作は一見優美にすら見える。だが付随する事象は苛烈の一言だ。
その動きは槍ですらない。むしろ斧のような取り回しだ。
それも片腕であの大質量を振るう様は悪夢のような威圧感を伴っている。
掘削された床が山吹色の洪水の後押しを受け、大小様々な破片とともに牙を剥く。
エヴァはこれを冷静に瞬動で大回りに回避する。
回避できた、はずだった。

「……ッ」

瞬動先で右腕に展開した対物障壁に幾多もの光と破片が衝突し、やがて音が止んだ。
腸わたを煮えくりかえしたような苦渋を浮かべるエヴァ。
その背後には何かが伏している。
何かは、二人の少女だった。共に気を失った動くこともままならないか弱い存在。
その構図もまた、語りたくもない一つの想いと事実を雄弁に物語っていた。

182Point of Return ◆Xdenpo/R4U:2010/09/05(日) 17:54:30 ID:2zLybEgU
「ふふ、大した悪党がいたものね」

エヴァの心が解体された。
最早、見せ掛けの脅しも悪態をつくこともできない。
エヴァがとれる反抗手段は一つずつ潰され、残ったのは殺意を込めた瞳で射竦めるだけだった。

「そういうことやった子を知っているわよ。あの男の子、勇者様とおんなじね」

貴様に言われんでも分かっている。
あぁ滑稽さ。袂を分かったあの莫迦どものするような行動と同じことをしているのだからな。
それでもな。
もういないかもしれないんだ。
こいつら以外に悪を打倒しうる正義の味方になれるような連中が。

「だったら末路も同じであるべきだと思うの」

なぜ死んだ。ニケ。リンク。
ここに立つのは私じゃない。弱者を守り悪の前に立ちはだかって勝利すべきはおまえたちだったはずだろう。

サンライトハートの飾り布が眩い光に転化する。
突撃態勢。いかにエヴァといえど正面からまともに受けきる術などない。
だが、身をかわせば後方のインデックスとアリサの身体が粉微塵に散らされる。
エヴァに残ったものは多くなかった。
だから差し出した。
満足に動かない左手ではなく自由に動く右手を。
差し出し、二の腕で抱え込むようにインデックスを、手の握力だけでアリサを掴み、
突撃準備態勢のグレーテルに背を向け工場の奥へと無様に逃げ始めた。
右手が塞がった。即ち反撃手段の放棄。
逃げる。プライドも屈辱感も溝に放り捨てて、入り組んだ迷路のような工場内を縫うように飛ぶ。
逃げ切ってインデックスとアリサを隠せればまだ勝負になる。
だが、大きすぎる荷物を抱えたエヴァがヴィクタースリーからいつまでも逃げ切れるはずがなかった。

「……くそ」

行き止まりに追い詰められ、エヴァは呻いた。
壁をぶち抜くために動かせる腕などない。

183Point of Return ◆Xdenpo/R4U:2010/09/05(日) 17:54:59 ID:2zLybEgU
「もう逃げないのかしら?」

グレーテルが照準を定めるように突撃槍をエヴァに向ける。
距離は10歩分。両腕が使えず、足だけで姿勢制御を行っているエヴァに避けられる状況ではない。
死刑宣告とばかりに、槍が光を放ち始める。

「何か言い残すことは?」
「殺してやる」

グレーテルは一瞬目を丸くした後、舌なめずりをしながら口角を吊り上げた。

「良いわね。そういう強がり方」

山吹色が噴射。グレーテルが飛ぶ。
ヴィクター化によりその身は既に人の限界を超えている。
常人ならば容易くブラックアウトするような過加速度、それすらも強化された肉体には枷とはならない。
エナジードレインにより噴射燃料も十二分。
ゆえにその突撃は瞬動の域に迫る、刃持つ陣風だった。
危急的脅威を前にエヴァは動かなかった。
身を屈め見上げるようにグレーテルを睨み付け、一瞬だけ抱えられた高町なのはに視線を移し、……逡巡した。
何かを迷い、そして振り払い。
彼女は静かに怨嗟をあげた。

「おまえは、私が必ず殺しに来てやる。脳髄に叩き込んでおけ……!」

瞬間だった。
エヴァの足元の影が意思をもったかのように蠢き、泥沼に沈み込むようにエヴァと抱えられた少女二人を飲み込んだ。

「!?」

獲物を食い損ねた突撃槍が目的地に到達したのはその一瞬後のこと。
影を使った転移魔法。
三流の捨て台詞を吐き捨て、悪の魔法使いは完膚なきまでに敗走した。


バトルロワイアル開始から丸一日。
定時放送が新たな朝の到来を告げる。


   *   *   *

184 ◆Xdenpo/R4U:2010/09/05(日) 17:56:03 ID:2zLybEgU
Point of Return は以上です。
続きはタイトル変更になります。

185なかまはずれ ◆PJfYA6p9PE:2010/09/12(日) 20:58:29 ID:Yzb87MqE
見ていた。

――は……発射! 発射!!

――発射! 発射!! 発射!!!! 発射!!!!!!!!


見ていた。

――ぶ……武装錬金!

――お、おい! 動け! 動けよ!! 武装錬金! 武装錬金!!


聞いていた。

――なん、でだよ……

――なんでだよ! どうせ誰も生きられないんだ! お前らだってわかってるだろ!
  最後の一人にならないと死ぬんだ! なら殺して何が悪い!!


聞いていた。

――イヴだって私と同じだ!!
  全員殺して! 全部忘れて暖かいところに帰るために殺してるんだ!!

――お前らが全員死んだら! 私は全部忘れて! 帰れるんだ!!


全て聞いていた。

――殺せって言われたから殺して悪いか馬鹿野郎!!

―――――――――――――――――――――――――――ギガデイン


耳を聾する、重く、崩れるような轟音と。
目を眩ます、白い、白い紫電と。
そして、確かに崩れ去った、人の形と。

意識があったのはそこまでだった。

186なかまはずれ ◆PJfYA6p9PE:2010/09/12(日) 20:59:35 ID:Yzb87MqE





「ん……」

膝の上。
さくらが、身じろぎしながら瞼を開く。
まだ眠そうな、不快そうな目覚め。
しかし、見下ろすヤミヤミは、心底嬉しそうに顔を輝かせた。

「目が覚めたんですねさくら! よかった……」

もぞりと。
覚束ない動きで身をもたげようとするさくらを、慌てて両手で支える。
彼女は上半身を起こすと、焦点の合わない目であちらこちらを見やっていたが、
やがて、橋の上に横たわる赤黒い物体のところで視線を止めた。

「敵は倒しました。心配ありません」

光景を補足するように言葉をかける。
静かに優しく、安心を与えるように。
しかし、目の前の少女に反応は見られない。
ただ、ぼんやりと死骸の方に目を向けているだけだ。

「……さくら?」

少しおかしい。
もしかしたら、打ち所が悪かったのかもしれない。
肩に手をかけ、顔を覗き込む。
その眼は、既に覚醒した者のそれだったが、瞳の黒には何か言い知れぬ違和感があった。

「何で……?」

するうち、さくらの震える唇が言葉を発する。
小さな声は何故かとても平坦だった。

「……ごめんなさい。
 こんなことになったのは私のせいです」

一瞬の間があった後、顔を曇らせて、応える。
襲撃、アルルゥの死、傷つけられた仲間達。
さくらもそれを悲しんでいる。自分や、レックスと同じように。深く。深く。
ヤミヤミは一連のさくらの反応をそう理解した。

「私がいけなかったんです。
 アルルゥさんの本当の気持ちもよく知らずに、自分勝手に答えを出して、飛び出して……
 そのせいでアルルゥさんは死んでしまいました。
 さくらを傷つけてしまいました」

だから謝罪した。
謝ったからとて、必ず許されるとは思っていない。
罵声を浴びせられることも覚悟していた。
そんなことよりも、自分の罪から逃げてしまうことの方が怖かった。
だが。

187なかまはずれ ◆PJfYA6p9PE:2010/09/12(日) 21:00:34 ID:Yzb87MqE

「何で殺したの……?」
「………………………………、え?」

しばらくの間、ヤミヤミには何のことを言っているのか理解できなかった。
だが、相変わらず動いていないさくらの視線の先を追って……気づいた。

「……彼女のことを言っているのですか?」
「…………」

返らぬ答えが、肯定を示していた。

「あの少女は敵でした。
 発言も行動も彼女が殺し合いに積極的な殺人者であることを示しています」

そんなことはあなただって分かっているでしょう。
知らず、語調にそんな調子が含まれた。

「……敵だったら殺していいの?」
「それは……仕方のないことです。
 そうしなければ仲間を守れませんでした」
「そんなことないよ」

ゆらりと、さくらが立ち上がる。
まだ湿ったままの木橋の上を静かに歩いていく。
ところどころ焼け焦げ、血管の模様が浮き出た死体の傍に向かって。
ヤミヤミはただそれを見ていることしかできない。

間もなく、さくらは死体を直下に見下ろす位置へ立った。

「この子の武器はレックス君には全然効いてなかった。
 他の武器も持ってたみたいだけど、それも使えなくなってた。
 そんな子が、それ以上、どうやって私たちを攻撃するの?」
「殺さずに捕えるべきだったと言いたいんですか?
 でも、私たちに捕虜を作る余裕はないんじゃないですか?
 見張りにさく労力の問題や叛乱の危険だって……」


「私はそんなことを言ってるんじゃないよ!!」


さくらがついに叫んだ。
その強い調子に気圧される。
予想だにしなかった展開に、戸惑いを隠せない。

「……この子、言ってたよね。
 殺さないと帰れないから殺すんだ。
 殺して何が悪い……って」
「確かに言っていました。
 自分勝手な理屈です」
「そうかな?」

思わず顔を上げると、さくらが真っ直ぐこっちを見ていた。
表情は何故か奇妙な半笑いだった。

188なかまはずれ ◆PJfYA6p9PE:2010/09/12(日) 21:01:36 ID:Yzb87MqE

「ヤミヤミちゃんは全然、考えなかった?
 みんなのところに帰るために殺し合いをしようって、本当に、少しも考えなかった?」

そんなことを言われても、分からない。
想像することすらできない。
何せ、彼女にはここ数時間より前の記憶が全くないのだから。
ヤミヤミにとっての『みんな』とはここにいる人達のことなのだから。

「私は考えたよ。
 でも、すぐにやめようって思った。
 殺し合いなんて嫌だったから。
 死ぬのも嫌だけど、殺す方がもっと嫌。
 他の人を殺してまで、生き延びたくないもん。
 だから、私は殺し合いなんてしないぞって決めたの」
「…………」
「……でも、この子はきっと違ったんだね。
 他の人を傷つけて、殺してでも、元の場所に帰りたかった。
 もしかしたら、この子にも、優しいお父さんや、ちょっといじわるだけど頼りになるお兄ちゃんや
 大切な友達や……好きな人……がいたかもしれないね。
 この子は、何をしても、そこへ帰りたかったんだよ。
 私との違いは、多分そこだけ」
「……あなたは何が言いたいんですか?」

言ってから気づく。
自分の言葉に刺々しいものが混じっていることに。
この話の行きつく先は分からないが、
どうやらあまり愉快なところではなさそうなことを、薄々悟りつつあった。

「アルルゥちゃんは言ってたよ。
 『みんなで協力すればきっと帰れる』って。
 レックス君もベルカナさんもその意見に反対したりしなかった。 
 もちろん、私も賛成だよ。
 ヤミヤミちゃんはどう?」
「反対するわけない……です」
「そうだよね。なら」

さくらは一呼吸置いて、言った。




「何でこの子を仲間に入れてあげなかったの?」




聞いた途端、頭がカッと熱くなる。
ヤミヤミから相手の感情を推し量る余裕が急速に失われていく。

189なかまはずれ ◆PJfYA6p9PE:2010/09/12(日) 21:02:33 ID:Yzb87MqE

「この子、泣いてたよ。
 泣きながら言ってたよ。『殺すしかないんだ』って。
 でも、私たちはそうじゃないことを知ってる。
 『みんなで協力すればきっと帰れる』って信じてる」

「それは」

「じゃあ、何でそれを言ってあげられなかったのかなあ?
 『大丈夫だよ。殺さなくても帰れるよ』って……
 そう言ってあげれば、この子と私たちは友達になれたかもしれないのに」

「友達って……」

「でも、レックス君は代わりに雷を落とした。
 雷に打たれて、この子はこんな風になっちゃった。
 何で? ねえ、何で? 何でこんなことになったの?」



「でもッ!!!」



ついに、ヤミヤミが叫んだ。

「そいつは……そいつはアルルゥさんを殺したんだ!!!」

凄まじい激情が胸の中で沸騰していた。
さくらが何でそんなことを言うのか分からなかった。
いや、本当のことを言おう。
その瞬間、ヤミヤミは確かにさくらのことを憎悪していた。

「それがどうしたの?」

しかし、さくらは冷静だった。
ある意味では。

「私だって人を殺したよ。
 レックス君だって、アルルゥちゃんだって殺したって言ってた。
 ヤミヤミちゃんだってそうなんじゃないの?
 この子と少し前までの私たちと何が違うの?
 私だって、アルルゥちゃんが死んだことは悲しい……すごく悲しいよ!!
 でも、だから……だからこそ、もうこれ以上、人を殺しちゃいけないんだよ!!」

そして、さくらはとうとう、決定的な一言に至った。


「私たちが帰るためなら、敵を殺していいって言うんだったら……
 それはこの子のやってたことと何も変わらない。
 私も、ヤミヤミちゃんも、アルルゥちゃんも、レックス君も……
 私たち、ただの人殺し仲間になっちゃうよ!!!」


刹那、意識が激情に白く塗り潰された。
理性の検閲を経ることなく、ヤミヤミは地を蹴ってさくらに飛び掛っていた。
もう、不快な言葉を一秒でも聞いていたくなかった。


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