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【ぼく勉】成幸 「キスと呼べない何か」

1以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:10:57 ID:nfKWg1KI
………………昼休み 一ノ瀬学園 3-B教室

大森 「なぁなぁ、一学期に唯我がキスしただの何だのって話あったじゃん?」

成幸 「………………」

成幸 (……こいつほんっっっとロクでもねーことしか言わないな!!)

成幸 「……そういえばそんなこともあったな。どうでも良すぎて忘れてたが」

大森 「結局噂もなくなっちゃって、俺としては不完全燃焼というかなんというか」

成幸 「っていうかお前が廊下で大声上げて走り回ったせいで噂になったんだけどな!?」

大森 「でもキスはしたんだろ?」

成幸 「………………」

プイッ

成幸 「……黙秘権を行使する」

小林 (それもう自白してるようなもんだけどね、成ちゃん)

2以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:14:16 ID:nfKWg1KI
大森 「いいじゃねぇかよ、唯我。ゲロっちまえって」

大森 「ここだけの秘密にしておいてやるからさ……」

成幸 「そのお前の言葉をどうやったら信じられるのか教えてほしいな」

成幸 「っつーか、何で急にそんな話を始めたんだよ」

大森 「いやー、この際はっきりさせておきたくてさー」

ズイッ

大森 「……キスの相手って古橋さんなんだろ?」 コソッ

成幸 「古橋!? 何で!?」 コソッ

大森 「いや、夏休みに一緒にお泊まりするくらいの仲だったら、あの時期にキスしててもおかしくはないかな、って」 コソッ

成幸 「意外と理性的な判断だな! っていうかお前それ言いふらしたりしてないだろうな!」 コソッ

大森 「するわけねーだろ! あの盗撮騒動のせいで、俺がどんなひどい目に遭ったか……」 ガタガタブルブル

大森 「で!? どうなんだ!? お前のキスの相手は古橋さんなのか!?」

小林 (どうでもいいけど……)

小林 (ふたりともヒートアップしすぎて、途中から俺にダダ漏れだからね、声)

3以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:39:36 ID:nfKWg1KI
成幸 「なっ……そ、そんなわけ……――」

ハッ

成幸 (待てよ。ここで否定してしまったら、こいつのことだ)

成幸 (俺と仲の良い女子全員の名前を順々に出してくる可能性が高い!)

成幸 (緒方の名前が出た瞬間、俺はきっと……)


―――― 『ただの接触事故…… ですからね』


成幸 (絶対動揺を見せてしまう……!!)

成幸 (そうしたら、俺と緒方がキスをしたことがバレてしまって、あいつに迷惑をかけてしまう……!)

大森 「……? 唯我? どうしたんだよ、違うなら違うと……」

成幸 「……の、ノーコメント、だ」

大森 「……!?」 ガーン

4以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:40:18 ID:nfKWg1KI
………………廊下

理珠 「昨日も勉強が捗りました。長文読解の精度も上がってきた気がします」

うるか 「あたしもだよリズりん。昨日の宿題八割正解しちゃったー」

理珠 「む……。やりますね、うるかさん。私も負けませんよ」

うるか (えへへ、成幸褒めてくれるかな〜) ニヤニヤ

理珠 (成幸さん、何と言ってくれるでしょうか……) ポワポワ

「うわぁあああああああん!!!」

うるか 「……? あれ、向こうから走ってくるの、大森っちだ」

うるか 「おーい、大森っちー、どうした――」


大森 「――――唯我のヤロー!! やっぱりキスの相手は古橋さんかよぉおおお!!」 ビュン


うるか 「………………」

理珠 「………………」

うるか&理珠 「「……え?」」

5以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:41:09 ID:nfKWg1KI
………………放課後 3-A教室

ヒソヒソ……ヤッパリ……マジカヨー……

文乃 「……?」

文乃 (どうしたんだろ? 今日はなんか、みんなの様子がおかしいような……)

鹿島 「あの〜、古橋さん?」

文乃 「? 何かな、鹿島さん」

鹿島 「唐突ではありますが〜、いま校内で古橋さんに関して噂が流れているのをご存知ですか〜?」

文乃 「噂?」 ジロリ 「……また変なことしたんじゃないよね?」

鹿島 「誓って、私たちは何もしておりません〜」

文乃 「……で、噂って何?」

鹿島 「……では、耳をお借りして」 コソッ

鹿島 (……唯我成幸さんと、古橋さんが、キスをされたのではないかと、そういう噂です)

文乃 「………………」

文乃 「……はぁあああ!?!?」

6以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:42:07 ID:nfKWg1KI
文乃 「ど、どこの馬の骨なのかな!? そんな噂を流したのは!?」

鹿島 「どうも、唯我成幸さんのお友達の、大森奏さんのようですね〜」

文乃 (またお前か!!! だよ大森くん!!)

男子1 「うおー! マジかよー!」

男子2 「一学期の噂は本当だったのかー!」

男子3 「俺たちのアイドル “眠り姫” をー! 唯我のヤロー!!」

鹿島 「……とまぁこんな風に、噂はしっかりと広まってしまっていまして〜」

鹿島 「一応古橋さんのお耳に入れておいた方がいいかと思った次第です〜」

文乃 「ご、誤解だよ! わたしは成幸くんときっ……キスなんかしてないよ!!」

鹿島 「………………」 プイッ

文乃 「……ど、どうして顔を赤くして目を逸らすのかな鹿島さん!?」

鹿島 「いえ、だって……」 ポッ 「お泊まりもしているのですから、キスくらい今さら……と」

文乃 「アレも誤解だって話したよね!?」

7以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:43:11 ID:nfKWg1KI
文乃 「っていうか、誰かに聞かれたら誤解だって伝えてね!?」

文乃 「わたし、本当に成幸くんとき……キスなんかしてないからね!?」

鹿島 「……古橋さんがそう望むのなら吝かではありませんが」

鹿島 (とはいえ、誤解であろうとなかろうと、噂が広まるのは悪いことではない)

鹿島 (……そのまま立ち消えるならそれでよし。しばらく静観しましょうかね)

文乃 「こうしちゃいられないよ。成幸くんとお話しなきゃ……!!」

タタタタ……

猪森 「……どうだい、鹿島さん。唯我くんのキスの相手は、本当に古橋姫かい?」

鹿島 「どうでしょうねぇ〜。うそをついているようには見えなかったですが……」

ゾクゾクッ

鹿島 「……正直、照れて焦る古橋姫が尊みが深すぎてそれどころではなかったといいますか」

猪森&蝶野 「「すごくわかる」」

8以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:44:10 ID:nfKWg1KI
………………いつもの場所

成幸 「すまん!」

文乃 「……う、うん。開口一番謝られてこっちもどう対応したらいいかわからないんだけど、」

文乃 「一体何があったのか教えてもらってもいいかな?」

成幸 「……ああ。そうだな」

成幸 「昼休みに、大森のバカが一学期のキスの噂を蒸し返してきてさ、」

文乃 「うん」

成幸 「で、あの旅館でのことを知ってる大森が、俺のキスの相手は古橋だろう、って言い出してさ、」

文乃 「……うんうん」

成幸 「で、俺が否定しなかったら大森が涙を流して走り出した」

文乃 「ちょっと待って」

文乃 「……何で否定しないの!?」

成幸 「いや、だって……。お前を否定しちゃったら、いずれ、どんどん追求されて……」

成幸 「……本当のキスの相手がバレると思ったから」

成幸 「ノーコメントって言っただけで、大森があんなに反応すると思わなくてさ……」

9以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:45:09 ID:nfKWg1KI
成幸 「いや、そもそもキスっていうか、アレはただの事故なんだけど」

文乃 「………………」

ジロリ

文乃 「……なるほど。つまり、きみはきみの本当のキスの相手のために、わたしを売ったわけだね?」

成幸 「うっ……」 ズキッ 「そんなつもりはなかったが、結果的にそうなってしまったかもしれん……」

成幸 「本当にすまん! 古橋!」

文乃 「……はぁ。冗談だよ、成幸くん。きみがそんなに器用な人じゃないって知ってるよ」

文乃 「でも、つまりきみのキスの相手は、大森くんが知ってる相手ってこと、か」

成幸 「っ……」 ギクッ

文乃 「なおかつわたしも知ってる人、かな?」

成幸 「………………」 ギクギクッ

文乃 「……ま、わたしは追求なんて野暮なことはしないから安心してよ」

成幸 「すまん。助かる……」

10以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:45:51 ID:nfKWg1KI
文乃 「人の噂も七十五日。わたしたちがいつも通りにしてれば、みんなすぐに忘れるよ」

成幸 「古橋がそう言ってくれるとありがたいよ。悪い」

成幸 「……っと、もうこんな時間か。緒方とうるかが図書室で待ってるな。行こうぜ、古橋」

文乃 「うん。そうだね――」

――カツッ

文乃 「あっ……」 グラッ

成幸 「……っと」 ポスッ

ギュッ……

文乃 「………………」

成幸 「………………」

成幸 「……だ、大丈夫か、古橋?」

文乃 「う、うん。ちょととつまずいちゃって……」

11以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:46:27 ID:nfKWg1KI
ドキドキドキドキ……

文乃 (あ、あれ、何でだろ……)

文乃 (前もたしか、足をもつれさせたわたしを成幸くんが受け止めてくれて……)

文乃 (そのときは……)


―――― 『わわわっ ご ごめんね唯我君っ!』

―――― 『い いや 気をつけてな』


文乃 (お互いすぐに離れて、それでおしまいだったのに……)

文乃 (なんで、わたし……)

文乃 (離れなくちゃって思ってるのに、身体が動かないんだろ)

成幸 「ふ、古橋? どうしたんだ?」

文乃 (これって……)

文乃 (あのときと一緒なんだ)

文乃 (旅館で、同じ布団で寝たとき……)

文乃 (身体を預けてしまったあのときと、一緒なんだ……)

12以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:47:12 ID:nfKWg1KI
ガサッ……

成幸&文乃 「「えっ……」」

理珠 「………………」

うるか 「………………」

文乃 「り、りっちゃん!? うるかちゃん!?」

うるか 「あ、あはは……あ、えっと……ふたりが遅いから、探しに来たんだけど……」

うるか 「ひょっとしてお邪魔だったかなー、なんて……」

理珠 「う、噂は、本当だったのですね、文乃……」

理珠 「おふたりは、そういう関係だったのですか……」

文乃 「!? ち、違うよ! 誤解だよ!?」

成幸 「そうだ! 誤解だぞ! 俺たちは何も……!」

うるか 「だ、抱き合ったまま言われても、説得力がないってゆーか……」

成幸 「あっ……!?」  文乃 「ち、違うんだよこれは!?」 バババッ

理珠 「……行きましょう、うるかさん。私たちはお邪魔虫のようですから」

文乃 「ち、ちょっと待ってりっちゃーん!!」

13以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:47:53 ID:nfKWg1KI
………………

理珠 「……なるほど。話は分かりました」

うるか 「つまり、大森っちの早とちりなんだね。よかった……」 ホッ

成幸 「すまん。お前たちにまで迷惑をかけたみたいだな……」

うるか 「べつに迷惑とかではないけど……」 ニヘラ

文乃 (表情に出しすぎだようるかちゃん……)

理珠 「………………」

理珠 「……あの、成幸さん」 コソッ

成幸 「ん?」 コソッ

理珠 「……その、キス、って」 コソッ 「あのときのアレ、ですよね……」

成幸 「ん……まぁ、そうだけど……」 コソッ

成幸 「……ごめんな。お前にも迷惑かけて」 コソッ

理珠 「いえ、それは、お互い様なので……」 コソッ

14以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:48:43 ID:nfKWg1KI
うるか 「ふたりとも、コソコソ何話してんのー?」

理珠 「な、なんでもありませんっ」

理珠 「オホン。とにかく、文乃の言うとおり、人の噂なんてすぐになくなります」

理珠 「我々は気にせず、いつも通り勉強に励むだけです」

成幸 「うん。その通りだな。勝手な噂で俺たちの成績が下がったりしたらそれこそコトだ」

成幸 「俺たちは気にせず勉強をがんばろ――」

――ピンポンパンポン

真冬 『3年B組、唯我成幸くん。生徒指導室、桐須のところまで来なさい』

真冬 『……大至急、来なさい』 ギリッ

ブツッ……

成幸 「………………」 (あまり深く考えなくても分かる)

成幸 (最後に歯ぎしりの音も聞こえたし……桐須先生は)

成幸 (俺に激怒している……!!)

15以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:49:34 ID:nfKWg1KI
………………生徒指導室

真冬 「………………」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 (こっ、怖えぇええええええええええ!!)

成幸 (俺、生きてこの部屋を出ることが出来るのか!?)

真冬 「……なぜ呼び出されたかはわかるわね、唯我くん」

成幸 「え、えっと……ひょっとして、今、流れている噂について、ですか……?」

真冬 「そうね。あなたが古橋さんとキスをしたという噂についてだわ」

成幸 「すっ、ストレートに言わないでください……」

真冬 「照れている場合ではないわ。現状、教師陣はバカな子どもの噂話程度に捉えているけれど、」

真冬 「唯我くん、あなたは以前にもろくでもない噂が流れたわね?」

真冬 「そういうことが重なると、VIP推薦を目指すあなたにとって良くないというのは分かるわね?」

成幸 「それは……はい。その通りだと思います」

成幸 「でも、先生! 信じてください! 俺はキスなんてしてないんです!」

真冬 「……きみがそう言うのならそうなのでしょう。私は信じるわ」

16以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:50:37 ID:nfKWg1KI
成幸 「先生……」 ジーン

真冬 「とはいえ、私が信じたところでどうなるものでもないのよ」

真冬 「また学園長の耳に入ったりしたらコトだもの」

真冬 「……以前、緒方さんとの “接触事故” のときでそれは思い知っているわね?」

成幸 「……そうですね。あのときの学園長は面倒くさかったです……」

真冬 「今回は根も葉もない噂。それに、古橋さんも否定をしている」

真冬 「噂はすぐに収束するでしょう」

真冬 「ただし、今後も同じようなことが起こると、VIP推薦が遠のく可能性があるわ」

真冬 「それを肝に銘じておきなさい」

成幸 「は、はい! わかりました!」

真冬 「……以上よ。呼び出して悪かったわね」

成幸 「えっ……?」

真冬 「? どうかしたかしら?」

成幸 「いえ、もっと怒られるかと思ったから……」

17以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:51:22 ID:nfKWg1KI
真冬 「……あなたが悪くないというのは、考えるまでもなく分かることだもの」

真冬 「あなたが悪くない現状、あなたを怒ることに教育的効果があるとは思えないわ」

成幸 「……じゃあ、先生は」

成幸 「俺を心配して、俺に注意を促すために呼び出してくれたんですか……?」

真冬 「……!?」

真冬 「なっ、何を……! 私は、べつに……ただ、教師としての責務を全うしただけであって……」

真冬 「誤解! 私はべつに、きみのことを心配したりなんて……」

成幸 「先生……」 キラキラキラ 「やっぱり先生は良い人です! ありがとうございます!」

真冬 「だ、だから違うと言っているわ!」

真冬 「まったく……」 プンプン

真冬 「……早く戻ってあげなさい。あの子たちがあなたを待っているでしょう」

成幸 「はい! では、失礼します! 桐須先生、また明日!」

バタン

真冬 「……まったく。調子が狂うわ」 クスッ 「あなたこそ、本当に」

真冬 「良い子なんだから」

18以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:52:08 ID:nfKWg1KI
………………帰路

成幸 「………………」

うるか 「………………」

成幸 (……古橋と緒方と別れ、うるかとふたりきりになったわけだが、)

成幸 (なぜだか知らないがめちゃくちゃ気まずい!!)

成幸 (いつもの活発なうるかからは考えられないくらいアンニュイな表情だし)

成幸 (言葉数も少ないし……)

成幸 (……俺、何かしてしまっただろうか)

うるか 「………………」

うるか 「……ねえ、成幸」

成幸 「っ……」 ビクッ 「な、なんだ?」

うるか 「……今日の話の続きをしても、いい?」

成幸 「今日の話……?」

うるか 「キス……」 ギュッ 「……の、話」

成幸 「!? い、いや……」 アセアセ 「っていうか、何で俺の手を掴んだんだ……?」

19以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:52:48 ID:nfKWg1KI
うるか 「……逃がしたくないから」

成幸 「に、逃げねーよ……」

うるか 「逃げるよ。いつだってはぐらかされるんだから」

ジッ

うるか 「……ねえ、成幸。答えて。教えて」

うるか 「成幸は、誰とキスをしたの?」

成幸 「っ……」

成幸 「……いや、それは……ごめん」

成幸 「言えないよ」

うるか 「んっ……。そっか……」

成幸 「た、ただ、勘違いしないでくれ! 前も言ったけど、あれはただの事故だ!」

成幸 「偶然、こう、ぶつかってしまっただけで、キスとは到底呼べないような――」


うるか 「――……事故だったなら、相手、言えるんじゃないの?」


成幸 「えっ……」

20以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:53:58 ID:nfKWg1KI
うるか 「………………」

成幸 「……えっと、それは……。相手の名誉のため、というか、なんというか……」

成幸 「俺は……」

うるか 「………………」

クスッ

うるか 「……なんて、ね。ごめんね、意地悪言って」

うるか 「教えてくれなくていいよ。成幸のキスの相手なんて、ぜんっぜんキョーミないし」

成幸 「なっ……」 ハァ 「……お前なぁ」

うるか 「ごめんごめん。でもちょっとだけ気になったんだ」

うるか 「奥手の成幸にキスをさせるような女の子って、どんな子なんだろう、って」

成幸 「いや、だからあれはただの事故で……」

うるか 「……じゃ、あたしこっちだから! また明日ね、成幸!」

タタタタ……

成幸 「人の話聞けよ! ……あー、もう。行っちまったか」

成幸 「一体なんだったんだ、うるかの奴。少し様子が変だったような……」

21以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:54:31 ID:nfKWg1KI
………………

うるか 「………………」

タタタタ……

うるか 「……っ」

グスッ

うるか 「……いいもん」

うるか 「あたしが成幸のファーストキスの相手じゃなくたって」

うるか 「いいもん!」

うるか 「最後にあたしが、成幸の隣にいられれば、それで!」

うるか 「あたしはそれでいいんだもん!」

うるか 「いい……えぐっ……いいんだもん……ぐすっ……」

うるか 「……負けないから」

うるか 「あたし、絶対負けないから……!」

22以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:55:43 ID:nfKWg1KI
………………

理珠 「………………」

理珠 「……私とのことを、正直に説明したらいいのに、なぜそうしないのでしょうか」

理珠 「キス……」


―――― 『いいか緒方!』

―――― 『キスというのは女子にとって…… いや男子にとっても神聖なものでなくてはならんのだ!!』

―――― 『今日みたいに軽々しくしようとするなど言語道断!! 必ずいつか後悔することになるんだぞ! 必ずだ!』


理珠 (……キスは、神聖なもの。男子にとっても、女子にとっても)

理珠 「……だから、なのでしょうか」

理珠 「成幸さんは、たとえ事故であったとしても、キスをしてしまった私を気遣って……?」

理珠 「私のために、キスの相手を誤魔化してくれているのでしょうか」

カァアアアア……

理珠 (ふ、不可解です……。なぜ、頬がこんなに熱くなるのでしょうか)

理珠 (なぜ、こんなにも、鼓動が激しくなるのでしょう……)

23以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:56:20 ID:nfKWg1KI
………………

文乃 「………………」

文乃 「……成幸くんのキスの相手、かぁ」


―――― 『かっこいいよなぁ 古橋は』

―――― 『苦手なものを克服してまで追いかけたい夢があるのって やぱかっこいいよ』

―――― 『いつか君が本当にやりたいことを見つけた時は お姉ちゃんが全力で応援するからね  「成幸くん」』


文乃 「でも、わたしなんて、同じ布団で寝て、同じ布団の中で、抱きしめられて……」

ハッ

文乃 (わ、わたしは何を言ってるの!? っていうか、何考えてるの!?)

文乃 (わたし、誰かも分からない成幸くんのキスの相手に……)

ドキドキドキドキ……

文乃 (……対抗意識を燃やしてる……?)

文乃 (い、意味わからないよ。わたしは、べつに……何も……)

文乃 (成幸くんと、何もないんだから……)

24以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:56:51 ID:nfKWg1KI
………………

成幸 「……はぁ」

成幸 (結局あいつらにも、桐須先生にも迷惑かけて、いいとこないなぁ、俺)

成幸 「………………」

成幸 (……キス、かぁ)

成幸 「ま、俺には関係ない話だな」

成幸 「いつかあいつらも、そういう相手ができて、そういうこと、するんだろうな」

成幸 「結婚式とか、『教育係』 なんて肩書きで呼ばれたりしてな」 クスッ

ズキッ

成幸 「っ……」 (……なんで)

成幸 (なんで、そんなことを想像しただけで……胸が痛むんだ?)

成幸 「……関係ない」

成幸 「俺は、あいつらのことなんて、なんとも……」

成幸 「……なんとも、思ってない、から」

おわり

25以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:57:24 ID:nfKWg1KI
………………幕間 「キス」

あすみ 「……ああ? キスぅ?」

うるか 「うん! 小美浪先輩なら経験ほーふそうだから!」

うるか 「キスのこと教えてくれるかな、って!」

あすみ 「……ん、まぁ、そりゃ、アタシはお前の言うとおり、経験ありすぎて困っちまうくらいだが」

あすみ 「………………」

あすみ 「……なぁ、武元。アタシは経験者だからこそ言うが、」

あすみ 「キスは、実際に経験して知った方がいいと思うんだ」

うるか 「!?」

あすみ 「……だから、お前のためにアタシは何も言わない。お前はがんばって、自分で経験して、知れ」

うるか 「さすが先輩! タメになるー!」

うるか 「よーし! あたしがんばるかんねー!」

あすみ 「………………」 (……ふぅ。武元が単純で助かった)

おわり

26以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 22:02:27 ID:nfKWg1KI
>>1です。

スレ最初のSSなので、全員登場させたニュートラルな話にしようとしましたが、
目論見が外れてただの平坦でオチも何もない話になりました。
その上、あすみさんを幕間でしか出すことができませんでした。申し訳ないことです。


パートスレのつもりはないので以前わたしが立てたスレのURLは貼りませんが、
以前わたしが立てたスレの>>1です。
ご存知の方がいたらまたよろしくお願いします。



本当であれば以前わたしが立てたスレに書き込むべきことですが、
私がこの話を書き上げる前に1000にいってしまったので、この場を借りて言わせてください。
以前わたしが立てたスレの最後にたくさんの感想や乙をいただけました。
参考や励みにして今後もSSを書きたいと思います。
本当にありがとうございました。

これからも読んでくれると嬉しいです。

何か書いてほしい内容等ありましたらいつでもレスください。
また感想等もとても嬉しいです。

ではまた、折を見てこのスレに投下します。

27以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 23:23:41 ID:re2NMTaI
新スレ乙です
これからまた楽しみにしてます

28以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 23:34:10 ID:cSoQMiss
更新ほんと楽しみにしてるわ

29以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 23:40:51 ID:HwxEdzvE
スレ立て投下おつんこ

30以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/08(木) 00:14:55 ID:tJG6QUA.
シエンタ

31以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/09(金) 22:46:05 ID:lDafsAmQ
おつおつ

32以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:13:05 ID:yfJ2n.4k
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】理珠 「愛してます」

33以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:13:39 ID:yfJ2n.4k
………………緒方家

理珠 「………………」

イライライライラ……

理珠 (……単純明快なゲームだったはずです)

理珠 (ただ成幸さんに、“愛してる” と言うだけのゲーム……)

理珠 (それなのに、私は……)


―――― 『あ……あいしししししししししししししししし』

―――― 『緒方さんがバグった!!』

―――― 『今度はまた別のイミで壊れたレコーダーに!!』


理珠 「なぜ、そんな簡単なこともできなかったのでしょうか……」

ブツブツブツ……

親父さん (理珠たま、機嫌が悪いなぁ。何かあったのかなぁ……)

親父さん (でも、イラついてる理珠たまもキュートだなぁ……) キュンキュン

34以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:14:12 ID:yfJ2n.4k
理珠 (なんにせよ、このまま済ますのは私のゲーマーとしてのプライドが許しません)

理珠 (大前提となるゲームの開始すらできず敗北するとは、なんと情けない……)

理珠 「……負けません」

理珠 「なんとかして、成幸さんに “愛してる” と言ってやります!!」

親父さん 「!?」 ゴフッ 「理珠たま!? いま、パパ聞き間違いしちゃったかな!?」

親父さん 「理珠たま今、センセイに “愛してる” とかなんとか……」

理珠 「はい? ええ、言いましたけど、それが何か?」

親父さん 「り、理珠たまとセンセイは、もうそういう関係なのかい……?」

理珠 (そういう関係? 気軽にゲームをする関係ということでしょうか?)

理珠 「ええ、そうですね。そういう関係ですが、それが何か?」

親父さん 「!!」 ガーン!!!!

親父さん 「お、おのれ……センセイ……!!」 ギリッ

理珠 「まぁそれはそれとして、また私の部屋を勝手に覗いてましたね」

理珠 「お父さん、今後一週間半径3m接近禁止です」

親父さん 「!? そ、それだけは勘弁してくれー! 理珠たまー!」

35以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:14:59 ID:yfJ2n.4k
………………翌日 一ノ瀬学園

成幸 「……つまりこの五段活用は、現代文法での五段活用とは少し違うわけだな」

理珠 「ふむふむ……」

成幸 「ただここで注意しなきゃならんのが、文章の流れによって活用法が変わる点だ」

成幸 「俺のオススメは、特殊な文法を用いる作品は丸暗記してしまうことだな」

成幸 「そうすれば、わざわざ特殊な活用について考えるリソースを必要としない」

成幸 「基本の活用だけしっかりと覚えて、数種の作品については別個に活用を覚えよう」

理珠 「わかりました。ありがとうございます、成幸さん」 ペコリ

成幸 「? なんだよ、改まって。変な奴だな」 クスクス

理珠 (……ふふふ。成幸さん、油断していますね)

理珠 (普段から親愛の情をしっかりと表しておけば、“愛してる” と言うことなど造作もないはず!)

理珠 (これはそのための布石です……!)

理珠 「いえ、成幸さんにはいつも勉強を教えていただいて、本当に感謝していますから」

理珠 「……いつも、本当にありがとうございます」

成幸 「そ、そうか? なんか、改めてそう言われると照れるな……」

36以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:15:35 ID:yfJ2n.4k
うるか 「むっ……」

うるか 「あ、あたしも! いつも成幸には、ホント感謝してもしきれないよ!」

うるか 「いつもありがとね、成幸っ」

成幸 「お、おう。どういたしまして……」 テレテレ

文乃 「………………」

文乃 (……突然どうしたというのかな。うるかちゃんはともかくりっちゃんは)

理珠 「………………」 フンスフンス

文乃 (言葉とは裏腹に、成幸くんのことを好戦的な目で見ているし、気合いも入ってるように見える……)

文乃 (嫌な予感がするなぁ……)

文乃 「……ん、まぁ、わたしももちろん、成幸くんには感謝してるんだよ」

文乃 「いつもありがとうね、成幸くん」

成幸 「あ、ああ……/// 今日は一体どうしたんだ」

文乃 (人の気も知らないで照れてるなぁ、成幸くん……)

37以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:16:09 ID:yfJ2n.4k
理珠 (むぅ……文乃もうるかさんも、私に言葉をかぶせてきましたね)

理珠 (私の意図を察しているのでしょうか。一人勝ちは許さない、と……)

理珠 (しかし、負けません!)

理珠 「……わ、私が一番感謝していますよ。なにせ私は、成幸さんのことを……あっ……」

成幸 「?」

理珠 「あ、あい……あい………………」

プシュー

理珠 「はぅ……///」

成幸 「なぜ急にオーバーヒートした!? 大丈夫か緒方!?」

理珠 (や、やはり、“愛してる” の言葉はなぜか言えません……)

理珠 (ですが、きっとですが、私がこれを自然に言えたとき、私は成幸さんに初めて勝利できる気がします)

うるか 「リズりんだいじょーぶ?」

理珠 「え、ええ……。すみません。少し休んでいることにします」

文乃 「………………」

文乃 (……うーん。また嵐の予感だよ……)

38以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:16:55 ID:yfJ2n.4k
………………立ち食いそば屋

成幸 「……悪い、古橋。付き合ってもらっちゃって」

文乃 「べつにいいけど、ふたりだけで話がしたいって、一体どうしたの?」

成幸 「いや、今日の緒方の様子についてなんだけどさ……」

成幸 「……あいつ、今日一日ずっと変だっただろ?」

成幸 「そのせいで、今日終わらせたかった範囲が全然終わってないんだよ」

ズーン……

成幸 「前に小テストの点数が落ちたときに比べればマシだけど、これがずっと続くようだと……」

文乃 「おおう……」 (成幸くん凹んでるなぁ……)

文乃 (まぁ、たしかに今日のりっちゃんは、成幸くんに何かを言いかけてはオーバーヒートする、っていうのを繰り返してたし、)

文乃 (あのままじゃ、受験勉強に支障を来しちゃうよね)

成幸 「なぁ、古橋。緒方の様子がおかしかった理由、心当たりはあるか?」

文乃 「うーん……」 (そんなの、決まりきってるじゃない)

文乃 (絶対、きみのことに決まってるよ)

文乃 (……なんて、言うわけにはいかないもんね)

39以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:17:29 ID:yfJ2n.4k
文乃 「……心当たりとかはないけど、このままじゃ困っちゃうもんね」

文乃 「いいよ。わたしがりっちゃんに聞いてあげる。今日は一体どうしたのか」

文乃 「りっちゃんが元に戻らないと、『教育係』 の成幸くんは不安だよね」

成幸 「本当か!? 助かるよ、古橋……」

成幸 「正直、俺は女子の気持ちなんて分からないし、今日も急に感謝されたりして……」

成幸 「悪い気はしなかったけど、ちょっと怖かったんだ……」

文乃 (うん。こっちとしてはあまりにも鈍すぎるきみの方が怖いと言いたいところなんだけどね)

文乃 「まぁ、本当なら女心の練習問題にするところだけど」

文乃 「お姉ちゃんが聞いてあげる。感謝してよね、成幸くん」

成幸 「ああ。本当に助かるよ。ありがとう、文乃姉ちゃん」

40以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:18:25 ID:yfJ2n.4k
………………緒方うどん

ガラガラガラ……

理珠 「いらっしゃいませ……って、文乃?」

文乃 「や、りっちゃん。さっきぶり。久々にここのうどんが食べたくってさ。来ちゃった」

理珠 「わざわざお店に来なくても、うどんくらい学校に持って行きますよ」

文乃 「いや、さすがにそれに毎度甘えるわけにはいかないからね」

文乃 「……いま、お客さん少ないね。もしよかったら、一緒のテーブルで食べない?」

理珠 「たぶん大丈夫だと思います。ちょっと父に聞いてきます!」

パタパタパタ……

文乃 (変な様子はないなぁ。やっぱり成幸くんの前だけで様子がおかしくなってるみたい)

文乃 (ってことは、考えるまでもなく、恋愛がらみのことだよね)

文乃 (はぁ……。楽しいは楽しいけど、気が重いなぁ)

文乃 (うるかちゃんといいりっちゃんといい、愛が重たいからなぁ……)

41以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:19:02 ID:yfJ2n.4k
………………

文乃 「……うん。やっぱりお店で食べるうどんはひと味違うね」 ズルズルズル……

理珠 「そう言っていただけると嬉しいです。やはり作りたては違いますね」 ズルズルズル……

文乃 「ごめんね。バイト中なのに、晩ご飯に付き合わせて」

文乃 (……とはいえ、ダイエット中なのに、わたしはさっきそばを食べてきたばかりだけど)

文乃 (もしこれで太ったりしたら成幸くん、絶対つねるからね)

理珠 「いえ、私もそろそろ晩ご飯休憩のつもりでしたから。ちょうどよかったです」

文乃 「……実はね、少し話があって来たんだ」

理珠 「話?」

文乃 「うん。今日、りっちゃん、様子がおかしかったからさ」

文乃 「急に成幸くんに改まった態度を取ったかと思ったら、突然顔を真っ赤にしたり……」

文乃 「今日は一体どうしたの?」

理珠 「そ、それは……」

文乃 「………………」 ジーッ

42以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:19:35 ID:yfJ2n.4k
理珠 「……わ、笑いませんか?」

文乃 「笑ったりしないよ」

理珠 「絶対?」

文乃 「絶対」

理珠 「……うぅ」

文乃 (ふふふ、りっちゃん、かわいいなぁ)

文乃 (大方、勘違いか何かで、成幸くんのことを変に意識してるんだろうなぁ)

文乃 (いっそのこと、紗和子ちゃんみたいに少し誘導してあげようかなぁ……)

理珠 「実は、その……」

文乃 「うん」

理珠 「成幸さんにですね……」

文乃 「うんうん」

理珠 「…… “愛してる” と言いたくてですね……」

文乃 「………………」

文乃 「……うん?」

43以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:20:25 ID:yfJ2n.4k
文乃 (ち、ちょっと待って!?)

文乃 (さっきまで微笑ましい気持ちでいたのに、とんでもないことを聞いてしまったよ!?)

理珠 「……よ、よかったです。(ゲームに負けたくらいでムキになって)文乃に笑われるかと思っていたから……」

文乃 (笑えるかぁあああああああああああ!! だよ!!)

文乃 「わ、笑えるわけないじゃん! いつから!? いつからなのりっちゃん!?」

理珠 「? いつから、とは?」

文乃 「いつからそうなの!? いつからその言葉を成幸くんに言いたくなったの!?」

理珠 「……そんなの、決まってます。先日、昼休みにゲームをしたときからですよ」


―――― 『あ……あいしししししししししししししししし』

―――― 『緒方さんがバグった!!』

―――― 『今度はまた別のイミで壊れたレコーダーに!!』

―――― ((フフ…… かわいいなぁりっちゃん……))


文乃 (あのときかぁあああああああああ!!)

文乃 「あのときのゲームで、とうとう成幸くんへの気持ちに気づいちゃったの、りっちゃん!?」

44以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:20:59 ID:yfJ2n.4k
理珠 (成幸さんへの気持ちに気づいた……?)

理珠 「え、ええ。まぁ、そうですね。(成幸さんに)負けたくないという確固たる気持ちが生まれました」

文乃 「そ、そっか。そうなんだね……。(うるかちゃんに)負けたくないと思っちゃったんだね……」

文乃 「あ、もちろん分かってると思うけど、わたしは大丈夫だからね? りっちゃんの敵じゃないからね?」

理珠 「? いえ、文乃にもいつか絶対に勝ちますけど。このまま負けっぱなしでいるつもりはありません」

文乃 「!?」 (わ、わたしも敵認定されてたの!?)

文乃 「……オホン。まぁ、それは置いておくとして」

ドキドキドキ……

文乃 「りっちゃん、分かってるの? それを言ったら、今までの関係ではいられなくなるんだよ?」

理珠 「ええ。もちろん、関係性は変わるでしょう」

理珠 「負け続けだった私が、ようやく成幸さんに並び立つことになるわけです」

文乃 (負け続け……? ひょっとしてりっちゃんって、今までも意外と恋愛してきたのかな……?)

文乃 (成幸くんは、りっちゃんにとって、初めて隣に立ちたいと思えた男の子なのかな)

文乃 「……そっか。それが分かってるなら、わたしはもう何も言わないよ」

文乃 「がんばってね、りっちゃん!」

45以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:22:17 ID:yfJ2n.4k
理珠 「………………」 ジーッ

文乃 「りっちゃん? どうかしたの?」

理珠 「……いえ。文乃はそれでいいのかな、と思いまして」

文乃 「へ……?」

理珠 「文乃はそれでいいのですか? わたしを応援するだけで、本当に」

文乃 「っ……」

ドキドキドキ……

文乃 「わっ、わたしはべつに、だって……成幸くんのことなんて……」

理珠 「悔しくはないのですか? 私はすごく悔しいです。だから、挑戦するんです……」

理珠 「文乃だって同じはずです。(成幸さんに)勝ちたいとは思わないのですか?」

文乃 「だってわたしは、りっちゃんとは違うもん。べつに、成幸くんにどうとか、そういうのは……」

文乃 (なんでそんな意地悪なことを言うのさ、りっちゃん。わたしが、友達の好きな子のことを、好きになるはずないじゃない)

ズキッ

文乃 (わたしはいいんだよ……。りっちゃんやうるかちゃんががんばってくれれば、それで……)

文乃 「……わたしには、そういうの、ないから」

46以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:23:08 ID:yfJ2n.4k
理珠 「そうですか。わかりました。それなら、結構です」

理珠 「ですが、私は行きますよ。明日は無理でも、明後日……いえ、一週間以内には、必ず……」

理珠 「成幸さんに “愛してる” と言って見せます!」

文乃 「……うん」

文乃 (ああ、りっちゃんはすごいな。もう決めてるんだ)

文乃 (まっすぐな目をして、成幸くんに言うんだろうな……)

文乃 (自分の気持ちを、まっすぐ……)

ズキズキ……

文乃 (……何で、こんなに胸が痛いんだろう)

文乃 (どうして……)

理珠 「……文乃? どうかしましたか? 表情が暗いですが」

文乃 「へ……? う、ううん。なんでもないよ」

文乃 「えへへ、うどん、美味しかったよ。ごちそうさま」

文乃 「じゃあ、いつまでもお店にいたら迷惑だろうから、わたしもう帰るね」

文乃 「りっちゃん、また明日。お父さんとお母さんにもよろしくね」

47以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:23:41 ID:yfJ2n.4k
………………翌朝 いつもの場所

文乃 「特に心配はいりません」

成幸 「へ……? 開口一番なんだそれは、古橋」

文乃 「だから、りっちゃんに関しては心配いらないよ、って。むしろこれから心配なのはうるかちゃんかな……」

文乃 (いや、万が一きみがりっちゃんの気持ちを拒絶したら、両方崩れるかもだけど……)

成幸 「うるかが心配? どういうことだ?」

文乃 「……わたしから詳しいことは言えないよ。今日か明日か、少なくとも今週中には分かることだよ」

成幸 「ど、どういうことだ? 俺に分かるように言ってくれ。俺の教え方が悪いのか?」

文乃 「だからそうじゃないんだって……」

文乃 「……あまりにも鈍すぎるのは罪だよ、成幸くん」

成幸 「……うーん、わからん」

成幸 「なんにせよ、俺にできることは、あいつらが頑張れるようにしっかり教材研究をすることだな」

成幸 「そうと決まれば、善は急げだ。早速教室で教材作りだな」

文乃 (だからそうじゃないんだけどな……)

成幸 「古橋、ありがとな。なんのことか分からんが、お前のおかげで危機感が持てたよ」

48以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:24:28 ID:yfJ2n.4k
成幸 「じゃあ、俺は教室に向かうから……」

文乃 「あっ……ま、待って!」

コケッ

文乃 「へ……?」 (あ、段差……)

成幸 「あ、危なっ……」

ポスッ

成幸 「……大丈夫か、古橋?」

文乃 「えっ……あ、うん。ありがと、成幸くん……」

文乃 (相変わらず意外とたくましい身体……)

文乃 (わたしまた、成幸くんに抱き留めてもらってるんだ……///)

ギュッ

成幸 「へ……? ふ、古橋? なんで、俺の腕を……?」

文乃 「……ごめん。話を聞いてほしくて。このまま、話を聞いてもらってもいい?」

成幸 「あ、ああ……」 (ち、近い! 良い匂いが! いやそうじゃなくて……!)

成幸 (なんで古橋は俺に抱きついたまま話を続けようとしてるんだ!?)

49以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:25:00 ID:yfJ2n.4k
文乃 「あの……あのねっ」

文乃 「これから、きみはひょっとしたらすごく難しい選択を迫られるかもしれない」

文乃 「そのとき、きみがどんな選択をするのか、わたしには分からないし、いまのきみにもわからないと思う」

文乃 「でもね、きみがどんな選択をしても、きっと誰かが傷つく。そしてきっと、きみも傷つくと思うんだよ」

成幸 「古橋……?」

文乃 「でも……でもね。たとえ、きみがどんな選択をしてどんな人に恨まれたり、嫌われたりしても……」

文乃 「わたしだけはきみの味方だからね。それだけ、覚えておいてほしくて……」

ドキドキドキドキ……

文乃 (ああ、ずるい女だ、わたし……)

文乃 (成幸くんがりっちゃんと結ばれても、結ばれなくても、成幸くんの味方でいようとしてる……)

文乃 (こんなの、わたし……)

文乃 (成幸くんのこと、そういう風に思ってるように思われたって、仕方ない……――)


「――何をしているのですか? 文乃? 成幸さん?」


文乃 「えっ……?」

50以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:27:36 ID:yfJ2n.4k
文乃 「り、りっちゃん!?」

ハッ

文乃 「ち、違うんだよ! これは、その……わたしがこけそうになって、成幸くんに支えてもらっただけで……」

理珠 「そうですか」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

理珠 「まぁ、そんなことどうでもいいですが」

文乃 (めちゃくちゃ怒ってるよーーーーー!!)

文乃 (ひ、ひょっとしてさっきのわたしの言葉も、聞いてたのかな……)

理珠 「そんなことより、成幸さん」

グイッ

成幸 「うおっ……き、急に引っ張るなよ」

文乃 (わたしから成幸くんを奪い取るように露骨な正妻アピール!?)

理珠 「いまなら、勝てる気がするのです。聞いてくれますか?」

文乃 (この場で!? この場で言っちゃうのりっちゃん!?)

文乃 (やっぱりわたしのことを敵だと思ってるから、宣戦布告的な意味でもあるのかな!?)

51以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:28:21 ID:yfJ2n.4k
理珠 「………………」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

理珠 (ふふふふふふ……。今なら言えます。絶対に言えます)

理珠 (ケガの功名と言うべきでしょうか。昨日、学校での勉強が捗らなかったため、ほぼ徹夜で勉強をしましたから)

理珠 (現在の私はほぼ前後不覚! 自分がいま何を言っているのかすらあまりわかりません!)

理珠 (いまの私ならば、ノリと勢いで “愛してる” のひとつやふたつ簡単に言えます!)

理珠 (成幸さん、覚悟!!)

成幸 「? 聞いてくれるかって、俺に何か話もあるのか、緒方?」

理珠 「そうです。成幸さんに一言言っておかなくてはならないことがあるのです」

成幸 「な、なんだ? 俺の教育方針への改善要求か? それなら善処するが……」

理珠 「違います。成幸さんは 『教育係』 としてこれ以上ないくらいがんばってくださっています」

成幸 「そ、そうか。それなら嬉しいが……。なら、他に一体何の話があるんだ?」

理珠 「ふふ。よく聞いてくださいね。いきますよ」

文乃 「………………」 ドキドキドキドキ……

52以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:29:05 ID:yfJ2n.4k
理珠 「あ……あ……」

成幸 「……?」

理珠 (うぅ……頬が熱い。恥ずかしい。言ってはいけない気もする……)

理珠 (でも、今度こそ逃げたくないです。負けたくないです……!)

理珠 「あ……愛して……あい……」

理珠 (大丈夫、言えます。だって、わたしは成幸さんのこと、嫌いではありませんから)

理珠 (『教育係』 としてがんばってくれてます。尊敬してます。感謝もしてます)

理珠 (……愛していると言って、決して過言ではない気がします)

成幸 「あの、緒方……?」

文乃 「……だめだよ、成幸くん。今は、りっちゃんの言葉を聞いてあげて」

成幸 「あ、ああ……」

理珠 (……大丈夫です。絶対、言えます)

理珠 「………………」

ギュッ

理珠 「……成幸さん。“愛してます”」

53以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:29:39 ID:yfJ2n.4k
成幸 「………………」

成幸 「へっ……?」

ボッ

成幸 「なっ、ななななな、何を……////」

成幸 「い、いきなり何を言うんだ、緒方……///」

文乃 (言ったぁあああああああああああ!)

ドキドキドキドキ……

文乃 (言っちゃったよ!? どうなるの!? 怖いけどドキドキする……!)

文乃 (成幸くんは一体どんな返答を……――)


理珠 「――ふふ、照れましたね。私の勝ちです!!」


成幸 「へ……?」

文乃 「え……?」

理珠 「“愛してる” のコールに対して、照れましたね。私の勝ちです、成幸さん!」 バーン!!!

54以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:30:19 ID:yfJ2n.4k
成幸 「………………」

文乃 「………………」

成幸 「……緒方。悪い、ちょっとタイム」

理珠 「へ……?」

成幸 「……おい、古橋。ひょっとしてこれは、この前昼休みにやったあのゲームの続きか?」 コソッ

文乃 「わたしにも分からないけど、たぶんそうなんだと思う……」 コソッ

成幸 「昨日様子がおかしかったのもそのせいか?」

文乃 「たぶん……」

文乃 (……昨日のわたしとの話もおかしなところがあったし……)

文乃 (……つまり、りっちゃんは、成幸くんにゲームで勝とうとしていただけだったのかな)

成幸 「……うん。わかった」

成幸 「……なぁ、緒方」

理珠 「はい、なんですか?」

成幸 「ちょっとお説教するから、そこ座りなさい」 ニコッ

理珠 「へ……?」

55以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:31:00 ID:yfJ2n.4k
………………

成幸 「いいか、緒方。俺もゲームをするなとは言わないよ?」 クドクド

理珠 「はい」

成幸 「勉強の後に付き合ってやってるだろ? 言ってくれればちゃんとやるよ、俺も。ゲーム」

理珠 「はい……」

成幸 「俺に対抗意識を燃やしてもらってもいいよ? ただ、急にゲームを始めるのはやめなさい」

成幸 「開始したかも分からないゲームに振り回される俺の気持ち、分かるか?」

理珠 「……今考えると、とんでもないことをしていたな、と思います」

成幸 「うんうん。わかってくれて嬉しいよ」

文乃 (結構ガチ説教だね、成幸くん……。まぁ、本当にりっちゃんのこと心配してたもんなぁ……)

成幸 「それから、一番大事なことだけどさ、」

理珠 「……?」

成幸 「誰彼構わず、“愛してる” なんて言うのはやめとけよ。変な奴に勘違いされるぞ」

成幸 「俺だから良かったものの、大森相手だったりしたら、今ごろ……――」

理珠 「――い、言いません!」 ガバッ

56以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:31:33 ID:yfJ2n.4k
成幸 「わっ……な、なんだ、急に……」

理珠 「言いません! 成幸さん以外の人に、そんなこと、言うわけないです……」

理珠 「成幸さんだから……言うんです……」

成幸 「お、おう。そうか。それならいいけど……。いや、よくはないけど……」

文乃 (おおう……。ここまでやられて気づかない成幸くんの鈍さも相当だよね……)

文乃 「……まぁ、そのへんにしておこうよ、成幸くん。りっちゃんも反省してるみたいだし」

成幸 「ああ、そうだな」

理珠 「すみません。成幸さん、文乃。私はまた、人の気持ちが分からず迷惑をかけてしまったようです……」

シュン

理珠 「……先日のゲームで、成幸さんに勝てそうだったのが嬉しくて、つい調子に乗ってしまいました」

成幸 「………………」 ハァ 「……ま、いいじゃないか。どうであれ、結果として今日はお前が勝ったんだから」

成幸 「でも、あんなの勝てるわけないじゃないか。お前、顔真っ赤だったし、涙目だったし、俺の手まで握って……」


―――― 『……成幸さん。“愛してます”』


成幸 「っ……///」 (お、思い出しただけで恥ずかしくなってきたぞ……)

57以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:32:23 ID:yfJ2n.4k
理珠 「そ、そうですね。初めて成幸さんにゲームで勝ったのですから、結果オーライでいいですね!」

文乃 「………………」

フルフル

文乃 「……ダメだよ、りっちゃん。今日も勝ててないよ」

理珠 「ふ、文乃……!?」 ガーン

文乃 「だってそうでしょ? そもそも成幸くんはゲームの開始すら知らなかったわけだし」

文乃 「そもそもりっちゃん、言う前から照れてたし」

文乃 「それに、“愛してる” じゃなくて、“愛してます” って言ってるし」

理珠 「うっ……」

文乃 「……ってことで、またりっちゃんの負けかな」

成幸 (容赦ないな、古橋……)

理珠 「……ひょっとして文乃、怒ってますか?」

文乃 「……べつに」

プイッ

理珠 (お、怒ってますね……。悪いことをしました……)

58以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:34:00 ID:yfJ2n.4k
文乃 「………………」

文乃 (まったくもう。わたしがどれだけきみのことを心配したと思ってるのかな、りっちゃん)

文乃 (昨日なんかりっちゃんとうるかちゃんのことが心配すぎて、結局一睡もできなかったよ!)

文乃 (その結果がゲームだっていうんだから、まったくもう。りっちゃんは……)

ハァ

文乃 「……本当に、仕方ないなぁ、りっちゃんは」 ニコッ

理珠 「あっ……す、すみませんでした、文乃」

文乃 「いいよ。でも、そうだな。少しだけ意地悪しちゃおっかな」

グイッ

理珠 「へ……? ふ、文乃? 近いです……」

文乃 「内緒話だよ、りっちゃん。成幸くんに聞こえないように言うだけ感謝してほしいな」 コソッ

理珠 「内緒話……?」 コソッ

文乃 「りっちゃんは、どうして “愛してます” って言っちゃったのかな?」

理珠 「へ……?」

59以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:34:32 ID:yfJ2n.4k
文乃 「まるで、本当に告白するときみたいだよね……なんて」

理珠 「………………」

ボフッ

理珠 「……っ、そ、そんな、ことは……///」

理珠 「ふ、普段から丁寧語だから、つい出ちゃっただけです……」

文乃 (ふーん。まぁ、大森くんのときは “アイシテル” って言ってたけどね)

文乃 「……ま、そういうことにしておきますかね」

理珠 「へ、変なことを言わないでください、文乃」

成幸 「おい、古橋、緒方。何の話をしてるんだか分からないけど、もう行くぞ」

成幸 「そろそろHRが始まるからな。教室に入らないと」

文乃 「……そうだね。ほら、行くよ、りっちゃん」

理珠 「……はい!」

文乃 (まったくもう。ヒヤヒヤさせてくれるよ)

60以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:35:04 ID:yfJ2n.4k
―――― 『……ダメだよ、りっちゃん。今日も勝ててないよ』


文乃 (ちょっと厳しかったかな)

文乃 (でも、ダメだよ、りっちゃん)

文乃 (だって、こんなだまし討ちみたいなカタチで成幸くんに勝っても、りっちゃんだって嬉しくないでしょ?)

文乃 (りっちゃんは、いつかきっと、成幸くんに対しての気持ちに気づくだろう)

文乃 (その後、りっちゃんがどうするのかは分からないけれど)

文乃 (……でもきっと、りっちゃんが成幸くんに “勝つ” のはその後のことだから)

文乃 (だからりっちゃん。それまでは)

文乃 (……成幸くんに勝つのはきっと、お預けだよ)

文乃 (いつかりっちゃんが、ゲームでもなんでもなく、心の底から、)

文乃 (“愛してます” と言える、そのときまで)

ズキッ

文乃 「っ……」 (……大丈夫。痛くない。痛くない。痛いはず、ない)

文乃 (わたしはこれっぽっちも、そんなこと、思ってない)

おわり

61以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:36:09 ID:yfJ2n.4k
………………幕間 「前日の緒方うどん」

親父さん (……文乃ちゃんが店に来た。挨拶に行きてえが、接近禁止命令が出ている以上近づけねえ)

親父さん (せめて物陰からふたりの会話だけでも……)

「成幸さんにですね……」  「うんうん」  「…… “愛してる” と言いたくてですね……」

親父さん 「……!?」 (な、なんだと!? やはり理珠たまはセンセイに……!?)

「わっ、わたしはべつに、だって……成幸くんのことなんて……」

親父さん (この恥じらう声は、文乃ちゃんの声だな!? あのヤロウ! うちの娘だけじゃなく、文乃ちゃんまで……!!)

「ですが、私は行きますよ。明日は無理でも、明後日……いえ、一週間以内には、必ず……」

「成幸さんに “愛してる” と言って見せます!」

親父さん 「ゴフッ……」 (ち、ちくしょう……なんてこった……)

親父さん 「あ、あのヤロウ……!! もう許さねぇ! 息の根を止めてや――」

理珠 「――お父さん。また盗み聞きしてましたね?」 ニコッ 「半径五キロメートル接近禁止です」

親父さん 「パパもう市内にもいられなくなっちゃう!?」

おわり

62以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 02:36:52 ID:yfJ2n.4k
>>1です。読んでくださった方、ありがとうございました。


また投下します。

63以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 11:16:15 ID:mSFua3bQ
おつおつー

64以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 16:01:07 ID:yfJ2n.4k
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】理珠 「ポッキーゲームというのをやりたいです」

65以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 16:01:58 ID:yfJ2n.4k
………………一ノ瀬学園 3-B教室

文乃 「………………」

文乃 (……またとんでもないことを言い出したなぁ)

成幸 「ポッキーゲームってなんだ?」

文乃 (こっちはこっちで知識が偏りすぎじゃないかな?)

うるか (ぽ、ポッキーゲーム!? 成幸と!?)

うるか (そ、それって……はうっ……///)

文乃 (そしてこっちは乙女がダダ漏れだよ……)

文乃 「えっと、りっちゃん? どうしていきなりそんなことを言い出したのかな?」

理珠 「昨日ニュースで見ました。11月11日はポッキーの日だから、ポッキーゲームというゲームをやるのだと」

文乃 「その肝心のポッキーゲームのルールは知ってるの?」

理珠 「………………」

ハッ

理珠 「……そ、そういえば、ルールについては全く触れられていませんでした」

文乃 (まぁ、そんな放送倫理に引っかかりそうなことをニュースで解説はしないよね……)

66以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 16:02:41 ID:yfJ2n.4k
うるか 「リズりん、ポッキーゲームっていうのはね、ふたりで両側からポッキーをむぐうっ」

文乃 (ふふふ……言わせないよ、うるかちゃん)

文乃 「ポッキーゲームはりっちゃんにはまだ早いかなー。ってことで話を変えようか」

うるか 「もがもがもがっ! (えー! 文乃っちひどいよー!)」

成幸 「ん、でも俺もルールくらいは気になるな。一体どんなゲームなんだ?」

文乃 (きみがそこで背中からわたしを撃つの!?)

文乃 「いや、でも……――」

「――ふたりがポッキーを両側から咥えるんです〜。そしてお互いに食べ進めて、先に折った方が負け、というゲームですよ〜」

文乃 「!?」 (こ、この声は……!)

文乃 「鹿島さん!? 蝶野さんと猪森さんも……」

鹿島 「いや〜、突然話に入って失礼致しました〜」

ニコリ

鹿島 「でも、いつも通り姫をウォッチしていたら楽しそうな話をしていたので、つい〜」

文乃 (もうツッコむ気すら起きないよ……)

成幸 「ポッキーを両側から咥えて……お互い食べ進めて、先に折った方が負け……?」

67以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 16:04:00 ID:yfJ2n.4k
成幸 「……////」 プシュー

文乃 (あー、もう。そういう感じになるってわかってたから、言わないでいたのにー!)

理珠 「単純なゲームですね。ポッキーにせん断応力を加えることなくいかに食べ進めるかがキモになりそうですね」

文乃 「……うん。りっちゃんはそういう反応だと思ってたよ」

うるか 「あ、愛してるゲームみたいにやってみない? なんて……。えへへ……」

文乃 (こっちの気も知らないで、お気楽娘めぇ〜〜〜〜)

文乃 「やれると思う? なんだったら今からわたしとやってみる、うるかちゃん?」

うるか 「えっ……」 カァアア…… 「ふ、文乃っちがいいなら、いいよ……?」

文乃 「えっ……」 ドキッ

文乃&うるか 「「………………」」 ドキドキドキドキ

文乃 「……あっ、で、でも、ポッキーがないし」

蝶野 「ご心配なく。ここにあるっス」 スッ

文乃 「用意周到だね!」

鹿島 (ふふふ。最初は女の子同士でやってもらって、いずれは古橋姫と唯我成幸さんにやってもらいます)

鹿島 (昨日のニュースを見ていて思いついた、名付けて 『ポッキーゲームで姫と王子もドキドキ!』 大作戦です!!)

68以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 16:05:03 ID:yfJ2n.4k
………………

文乃 「………………」

うるか 「………………」

文乃 「じ、じゃあ、行くよ、うるかちゃん」

うるか 「う、うん。負けないかんね、文乃っち」

ハムハムッ

文乃 「っ……」 (こ、これは……)

うるか 「はう……」 (よ、予想以上に……)

文乃&うるか ((近い……!!))

文乃 (これはとんでもないことだよ!? 同性でもこれなんだから……!)

うるか (成幸とポッキーゲームなんて、想像するだけで……うぅ……)

文乃 (っていうか、改めて間近で見ると、うるかちゃんって……)

うるか (文乃っちって、やっぱり……)

文乃&うるか ((めちゃくちゃかわいいなぁ……///))

緒方 (……? あのふたりは、見つめ合って顔を赤くして、何をしているのでしょうか)

69以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 16:05:46 ID:yfJ2n.4k
………………

鹿島 「あらあら〜。結局見つめ合ったまま大して食べ進められませんでしたね。引き分けです」

文乃 「………………」 ドキドキドキ (う、うるかちゃんかわいかった……)

うるか 「………………」 ドキドキドキドキ (文乃っちって、やっぱり美少女だなぁ……)

理珠 「わ、私もやりたいです、ポッキーゲーム!」

文乃 「!? 何で!? 正気なのりっちゃん!?」

理珠 「はい。最初はとんでもないゲームだと思いましたが、お二人がやっているのを見て面白そうだと思いました」

理珠 「現に、おふたりは今、何かとても満たされたような顔をしています!」

文乃&うるか 「「そんな顔してないよ!!」」

うるか 「それに、あたしたちは今やったばっかりで精も根も尽き果てるし、誰とやるの?」

70以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 16:06:37 ID:yfJ2n.4k
理珠 「えっ……そ、それは……」 チラッ

成幸 「……?」

ハッ

成幸 「お、俺!? いやいやいや!! さすがに女子とはできないだろ!!」

理珠 「むっ……」 プクゥ (そんなに拒絶しなくたって、いいじゃないですか……)

成幸 (もしそんなことを緒方とやっていて、また桐須先生が教室に入ってきたら今度こそ殺される!!)

鹿島 「………………」 (……唯我成幸さんには、この後古橋姫とポッキーゲームをしてもらう必要があります)

鹿島 (ここは、緒方理珠さんと私がポッキーゲームをすれば……――)

「――受けて立つわ! 緒方理珠!」 バーン

理珠 「せ、関城さん……? どうしてここに?」

紗和子 「そんなの決まってるじゃない! あなたのことを観察していたら、ポッキーゲームなんて単語が飛び出して……」

紗和子 「うらやましいから混ざりにきた――違う! 仕方ないから来てあげたのよ!!」 ババーン

紗和子 (これは、緒方理珠と私の親友度を上げるための絶好のチャンス!!)

紗和子 (本当なら緒方理珠と唯我成幸にやらせてあげたいけれど、さすがに公衆の面前でやらせるわけにはいかないわ!)

紗和子 「本当に仕方ないけれど、勝負を受けてやるわ!!」

71以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 16:09:51 ID:yfJ2n.4k
………………

ハムハムッ

理珠 「………………」

紗和子 「……ハァ……ハァ……」 (し、至近距離に緒方理珠が……///)

紗和子 (これは……想像以上だわ……)

理珠 (……正直な話、想像よりはるかに簡単なゲームです)

理珠 (目の前で顔を真っ赤にして鼻息を荒くしている関城さんは正直キモいですが、)

理珠 (別段どうという話もありませんし……)

ハムハムハムハムッ

紗和子 「!?」 (お、緒方理珠の顔がどんどん近づいて……――ッ)

紗和子 「だ、ダメよ、緒方理珠! あなたには唯我成幸という人が……!」

パッ

文乃 「あっ……」

72以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 16:10:49 ID:yfJ2n.4k
鹿島 「おお〜」 パチパチパチ 「関城さんがポッキーを放してしまいましたね〜。緒方さんの完勝です」

理珠 「えっ……?」 ムシャムシャムシャ 「わ、私の勝ちですか……!?」

紗和子 「ぐふふ……ふへへ……お、緒方理珠……///」

文乃 (うわぁ……紗和子ちゃん、これは昼休み中には回復しそうにないなぁ……)

紗和子 「でへへっ……緒方理珠の、小さな唇が、私に近づいて……」

紗和子 「ぐふふっ……」

文乃 (気持ち悪いなぁ……)

理珠 「わ、私が勝った……」 グッ 「私が勝ったんですね!!」

成幸 「おう、緒方の完全勝利だ。すごいぞ」

理珠 「ありがとうございます、成幸さん!」

73以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 16:11:20 ID:yfJ2n.4k
理珠 「ひょっとしたら私は、ポッキーゲームを極めるために生まれてきたのかもしれません!」

成幸 「うん。それは違うと思うぞ、緒方」

理珠 (ポッキーゲームなら、ひょっとして私は誰にでも勝てるのでは……?) ニヤリ

鹿島 「で、では、そろそろ仕切り直しで、古橋さんと唯我さ――」

理珠 「――次は文乃と私がやりましょう!」

鹿島 「なっ……!?」

文乃 「!? なんでわたしなの!?」

理珠 「ダメですか、文乃?」 キラキラキラ

文乃 「ぐっ……」 (純粋な目で見つめおってからに……) キリキリキリ

文乃 (まぁ、鹿島さんはどうせわたしと成幸くんをやらせたがっているだろうから、むしろ好都合かな……)

文乃 「いいよ、りっちゃん! 負けないよ!」

理珠 「私だって負けません!」

74以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 16:12:26 ID:yfJ2n.4k
………………数分後

文乃 「り、りっちゃん、そんな……急すぎるよ……」

うるか 「リズりん、大胆だよぅ……」

蝶野 「め、目の前に美少女の顔が来ると、予想以上っス……。うぅ、理珠さん……///」

猪森 「うぅ……さ、さすがだ、緒方さん……いや、理珠ちゃん……///」

成幸 「うぉぉ……」 (なんだこの、死屍累々の光景は……)

鹿島 (な、なぜこんなことに!? 私はただ、古橋姫と唯我成幸さんにポッキーゲームをさせたかっただけなのに……)

鹿島 (緒方理珠さんの超高速戦法に、誰ひとり太刀打ちできずに敗北していく……)

ポン

鹿島 「……!? ヒッ……!! 緒方さん……!?」

理珠 「次は鹿島さんですよ。ふふ。ほら、こっちを咥えてください」 ハムッ

鹿島 「あっ……ああああ……」 ガタガタブルブル

75以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 16:13:24 ID:yfJ2n.4k
………………

鹿島 「あっ……/// ふ、古橋姫以外でこんなにときめいたのは、初めてかもしれません〜……」

成幸 (また死体が増えた……)

理珠 「………………」 (ふふふ……ふふふふふ!! ゲームで勝つのがこんなに楽しいとは!!)

理珠 (皆さんは今まで、こんな楽しい気分を味わっていたのですね!)

理珠 (今こそ、敗北者の気持ちを全員に刻みつけてやるのです……!!)

ジロリ

成幸 「ひっ……。お、緒方……?」

理珠 「さぁ、残るは成幸さんだけですよ。さぁ、私とポッキーゲームをしましょう」

理珠 (そして、私に勝利をもたらすのです……!!)

キーンコーンカーンコーン……

理珠 「……えっ」

成幸 「あっ、五時間目の予鈴だな! ほら、もう遊びは終わりだ。緒方も教室戻れよ」

成幸 「ほら、お前らもいつまでも放心してないで起きろ。授業が始まるぞ」

理珠 「むぅ……」

76以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 16:14:55 ID:yfJ2n.4k
理珠 「………………」

プクゥ

理珠 (やっと成幸さんにゲームで勝てると思ったのに、残念です……)

理珠 (そうです。まったく、今回こそ成幸さんに勝って、鼻を明かしてやろうと思っていたのに……)

理珠 (成幸さんに勝てる明確なビジョンだってあります。脳内でシミュレーションしてみたって……)

理珠 (私がどんどん食べ進めて……成幸さんはその私の動きに対応できず、咥えたまま……)

理珠 (呆けた成幸さんの顔にどんどん近づいていき、そのまま、成幸さんの唇に……――)

――ハッ

理珠 (……く、唇に、触れる……?)


―――― 『それって緒方が 誰かとキスしてるってこと?』

―――― 『もう一度してみたら…… 何かわかるでしょうか』


理珠 「ふぁっ……」

理珠 (わ、私はひょっとして、とんでもないことを……?)

理珠 (また “キス” に近しい何かを成幸さんにしようとしてしまったのでは!?)

77以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 16:16:23 ID:yfJ2n.4k
理珠 (私はまた、成幸さんの唇に……)

理珠 (キスに類する何かを、しようと……)

理珠 「………………」

理珠 (……やはり、わかりません)

理珠 (なぜ私は、成幸さんにだけ、こんなにも気持ちを高ぶらせてしまうのでしょう……)

成幸 「……おい、緒方」

理珠 「!? な、なんですか……?」

成幸 「まぁ、べつにどうってことはないけどさ……」

ズイッ

理珠 (ち、近っ……。な、何を、成幸さん……)

成幸 「……前も言っただろ。冗談でも、口と口を近づけるようなことは、しちゃいけないんだ」 コソッ

理珠 「へ……?」

78以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 16:17:11 ID:yfJ2n.4k
成幸 「特に、男相手だったらな。遊び半分でも絶対にダメだ」

成幸 「ゲームに勝って楽しかっただろうけど、絶対に男とはやるなよ。いいな?」

理珠 「わ、わかりました。約束します……」

成幸 「ならいい。ほら、教室戻れ」

理珠 「はい……」

理珠 「………………」 (……いつか、遊び半分でないのなら)

成幸 「おーい、関城。起きろー」 ペシペシペシ 「なんで一番最初の被害者のお前がまだ倒れてんだよ」

理珠 (成幸さんは、怒らないのでしょうか?)

理珠 (遊び半分でなく、本気なら……)

理珠 (いつか私も、いつだか成幸さんと観たあの映画のように……)

理珠 (ゲームでも、事故でもない、キスが……)

ドキドキドキドキ……

理珠 (できるのでしょうか……)


おわり

79以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 16:18:52 ID:yfJ2n.4k
………………幕間1 「その日の職員室」

真冬 「ふぅ……」 (今日の授業はなかなかだったわね)

真冬 (ALの試みも上手くいったし、ICT機器の使い方も我ながら上手だったわ)

真冬 (この調子で教材研究を続けて、いずれは論文にまとめて教材を学会で発表したいわね……)

理珠 「失礼します」 ガラッ 「3年F組の緒方です。桐須先生はいらっしゃいますか?」

真冬 (……? 緒方さんが私を訪ねるなんて珍しいわね) 「ここにいます。用があるならどうぞ、いらっしゃい」

理珠 「はい、失礼します」

真冬 「……何の用かしら? あなたが私のところに来るなんて珍しいわね」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!

理珠 「ええ。私もそう思います」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!! 「この前のリベンジに来ました」

真冬 「リベンジ……?」

理珠 「ごき○りポーカーでの30連敗の屈辱、私は決して忘れません。今日こそその雪辱を晴らします!」

真冬 「……この前やったカードゲームの話? その前に、雪辱は晴らすものではなく果たすものよ。誤用に注意しなさい」

理珠 「ぐっ……しかしそんな余裕でいられるのも今のうちです! さぁ、桐須先生! ポッキーゲームで勝負です!」 バーン

真冬 「………………」 ガシッ 「……緒方さん。とりあえず生徒指導室でお説教ね。来なさい」

理珠 「えっ……」 ズルズルズルズル 「な、なぜですかぁああああ………………」 ズルズルズル………………

80以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 16:19:56 ID:yfJ2n.4k
………………幕間2 「その日の唯我家」

成幸 (はぁ……今日は緒方と鹿島のせいで疲れたな……)

成幸 「ただいまー……」 ガラッ

水希 「おかえりなさいっ、お兄ちゃん!」

水希 「おフロにする? ごはんにする? それとも、ポ・ッ・キ・ー?」

成幸 「………………」

成幸 「……うん。ポッキー咥えてキメ顔してるところ悪いんだけどさ、」

成幸 「お兄ちゃんはそろそろ真剣にお前の将来が心配だよ」


おわり

81以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 16:20:43 ID:yfJ2n.4k
>>1です。
読んでくれた方、ありがとうございます。


また投下します。

82以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:16:40 ID:0jOzdRyc
乙そういや先週の扉絵妹可愛かったな!

83以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:34:09 ID:yfJ2n.4k
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】文乃 「ポニーテールは振り向かない」

84以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:34:49 ID:yfJ2n.4k
………………朝 唯我家

成幸 「………………」

ガツガツガツ……ムシャムシャムシャ……

和樹 「おー。兄ちゃん朝から早食いだなー」

成幸 「ん……」 ゴックン 「早めに学校に行って、ノートをまとめておきたくてな」

葉月 「さっすが兄ちゃん! 勉強熱心ね!」

成幸 (まぁ、俺のノートじゃなくてあいつらのノートだけどな……)

成幸 「ってことで、ごちそうさま。もう学校行くな!」

水希 「あっ……お兄ちゃん、ちょっと待ってー」

ドタドタドタ

成幸 「どうかしたか、水希?」

水希 「髪がうまくまとまらないのー! お兄ちゃんやってー!」

成幸 「……おいおい、お前中学生だろ。ポニーテールくらいいい加減できるようになれよ……」

水希 「今日は髪が言うこと聞いてくれないの!」

85以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:35:47 ID:yfJ2n.4k
成幸 「仕方ないな……。ほら、後ろ向けよ」

水希 「……ぃよしっ」 グッ

成幸 「……? お前今野太い声でガッツポーズ決めなかったか?」

水希 「えーっ、なんのことー?」 キャルン

成幸 「……もういいや。じゃ、櫛入れてくぞー」

スッ……サッ……サッ……

水希 「はうぅ……」 ポワポワ (久々にお兄ちゃんに櫛入れてもらってる……)

水希 (気持ちよくてどうにかなっちゃいそう……///)

成幸 「……っし。じゃ、まとめるぞ、っと」

キュッ

成幸 「……こんなもんでいいだろ。ほら、できたぞ、水希?」

水希 「うふふ……お兄ちゃんの逞しい手が、私の髪を……えへへ……」 ポワポワポワ

成幸 「水希……? おーい、水希ー」

和樹 「あー、これはダメだな。完全にトリップしてるよ」

86以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:37:02 ID:yfJ2n.4k
葉月 「こうなっちゃったら水希姉ちゃんはすぐには動けないわね」

和樹 「兄ちゃん学校で勉強するんだろ? 姉ちゃんは俺たちが見てるから、先行きなよ」

成幸 「おう、じゃあ頼んだぞー。いってきまーす!」

葉月&和樹 「「いってらっしゃーい!」」

成幸 (ふむ……)

成幸 (久々に水希の髪をいじったが、まだまだ俺も捨てたもんじゃないな)

成幸 (まぁ、ポニーテールが楽だから簡単だってのはあるけどな)

成幸 (もっと色々な結び方とかできるようになったら、水希も葉月も喜んでくれるかな……?)

成幸 (そういや、古橋ってしょっちゅう髪型変えるような……)

成幸 (ちょっと教えてもらおうかな)

87以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:39:06 ID:yfJ2n.4k
………………昼休み 一ノ瀬学園

大森 「なぁ、女子の髪型ってさ、いいよな……」

小林 「……いきなりどうしたの、大森」

成幸 「しみじみ言われるとさすがにキモいぞ」

大森 「女子ってさ、髪型を変えることで変身できるんだよ……」 沁沁

成幸 「どうした、大森。悪いモンでも食ったのか? それとも頭でも打ったか?」

大森 「ってことで、お前らの女子の髪型の好みを聞こう!」

小林 「急に変なこと言いだしたと思ったら、結局ソッチに持ってくのね……」

ヤレヤレ

小林 「俺はショートカットかなぁ。スポーティでかわいいとなお良し!」

成幸 「なんだかんだ、お前ってこういう話題結構好きだよな……」

大森 「っていうかそれそのまま海原さんじゃねーか! ノロケんじゃねー!」

小林 「ははっ、バレた。でも実際、昔からショートカットの方が好きだしさ、俺」

88以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:39:56 ID:yfJ2n.4k
大森 「俺は断然ロング派だぞ! カチューシャとかで流してるのが好きだ!」

大森 「お嬢様っぽくおしとやかにまとめてるのも良いな!」

成幸 「……お前たちはどうしてそう自分の性癖を事細かに語れるんだ」

大森 「なんだよー。男しかいねーんだから恥ずかしがんなよ、唯我ー」

大森 「俺たちも話したんだ。お前も話せよー」

成幸 「髪型の好みなんかねぇよ」

成幸 「そういうのはわからないっていつも言ってるだろうが」

大森 「良い子ぶんじゃねー! お前だけ聞き逃げするつもりかー!?」

成幸 「なんだその無茶苦茶な言いがかりは!? お前たちの女子の髪の好みなんかどうでもいいわ!」

成幸 (ああ、ちくしょう。早く飯食ってあいつらの教材作りたいってのに……)

成幸 (こうなったら、もう適当に答えるのが一番か……)


―――― 「……おいおい、お前中学生だろ。ポニーテールくらいいい加減できるようになれよ……』


成幸 「………………」 (……うん。ポニーテールは楽だし、嫌いじゃないな。ウソにはならない)

成幸 「あえて言うなら、ポニーテールかな。長さはべつになんでもいい」

89以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:41:25 ID:yfJ2n.4k
………………廊下

理珠 「ふふふ……。明日までの宿題を今日提出したら、成幸さんはどんな顔をしますかね」

うるか 「成幸、泣いて喜ぶんじゃないかな。あたしたちの成長を喜んで!」

文乃 「そ、そうだねー……」

文乃 (冷静に考えれば、次の宿題を出すスパンが短くなるんだから、)

文乃 (成幸くんを困らせることになりかねないんだけど、まぁそれは言うまい……)

文乃 (あとで成幸くんに、宿題無理して作らなくていいからね、って言わないと……)


  「ってことで、お前らの女子の髪型の好みを聞こう!」


うるか 「……!?」 (大森っちの声!? 教室の中からだ!)

理珠 (と、いうことは、この髪型のことを聞いている相手は……)

文乃 (成幸くん、だよね……)

うるか 「……ち、ちょっと聞いてかない? この会話。べつに成幸がどーとかじゃないけど……」

理珠 「せ、せっかくですしね。成幸さんの好みを聞いておくのも、今後の関係を考えると有益かと思いますし」

文乃 (……胃が痛いなぁ) キリキリキリ……

90以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:42:09 ID:yfJ2n.4k
  「俺はショートカットかなぁ。スポーティでかわいいとなお良し!」


うるか 「こばやんの声だ」 ヒソヒソ 「こばやんの彼女、海っちの髪型そのまんまだよ」

文乃 「微笑ましいねぇ……」 (胃が痛いなぁ。お願いだから成幸くん余計なこと言わないでよ……)


  「俺は断然ロング派だぞ! カチューシャとかで流してるのが好きだ!」

  「お嬢様っぽくおしとやかにまとめてるのも良いな!」


理珠 「………………」 うるか 「………………」

文乃 (大森くんの声には清々しいまでにどうでも良さそうな顔してるね……)


  「髪型の好みなんかないよ」

  「そういうのはわからないっていつも言ってるだろうが」

  「良い子ぶんじゃねー! お前だけ聞き逃げするつもりかー!?」


うるか 「そーだそーだ。もっと言ってやれ大森っち」

理珠 「……そうです。成幸さんは卑怯です」 フンスフンス

91以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:42:50 ID:yfJ2n.4k
文乃 「……ほっ」 (よかった。成幸くん、黙り込んじゃったし、このまま何も言わないで終わるのかな)

文乃 (ヘタなこと言われたらりっちゃんたちの勉強に支障が出るからね。よかったよ)

文乃 「……ほら、りっちゃん、うるかちゃん、もう行くよ」

文乃 「成幸くんに宿題見せて褒めてもらうんで――」


「――あえて言うなら、ポニーテールかな。長さはべつになんでもいい」


文乃 「……!?」

理珠&うるか 「「………………」」 ジーーーーーーッ

文乃 「な、なんでわたしを見るのかな、ふたりとも……」

ハッ

文乃 (し、しまったぁあああああ!! 今日のわたし、ポニーテールだー!!)

文乃 (そしてりっちゃんは元より、うるかちゃんも今日は髪をそのままおろしてるね!)

92以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:44:04 ID:yfJ2n.4k
………………

成幸 「ん……? なんか廊下が騒がしいな……」

理珠 「……し、宿題の提出は後にします! ちょっと用事を思い出しました!」

うるか 「あたしも! ちょっと用事を思い出したから放課後に提出するよ!」

文乃 「ち、ちょっとふたりとも落ち着いて……」

成幸 「……騒がしいと思ったらお前たちか」

理珠 「なっ、成幸さん!」 バババッ

うるか 「成幸、こっち見ちゃダメ!」 バババッ

成幸 「……? おい、古橋。このふたりは手で頭隠して何やってんだ?」

文乃 「わたしが聞きたいよ……」 (かわいいなぁ、ふたりとも……でも胃が痛いなぁ……)

成幸 「ん……」 (古橋、今日はポニーテールか。水希とおそろいだな)

ニコッ

成幸 「古橋も今日はポニーテールか。いいよな、ポニーテール」

文乃 「ふぇっ……!?」

文乃 (こ、このバカー! このタイミングでわたしの髪型褒めるかな、普通!!)

93以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:44:45 ID:yfJ2n.4k
理珠 「!?」


―――― 『な なんだ いつも通り 普通に元気そうじゃないか よかった』

―――― 『成幸マジで信じらんないッ!!』

―――― 『最低ッ!! 最低ッ!! 最低だよ成幸くん! これだから男子は……!!』


理珠 (わ、私が前髪を切ったときは全く気づいてくれなかったくせに……)

プルプルプル……

理珠 (私が前髪を切ったときは結局最後まで気づいてくれなかったくせに!!)

理珠 (あなたはどれだけポニーテールが好きなのですか!?)

うるか (成幸めー!)

うるか (あたしが胸元開けよーがスカート丈詰めよーが気にしないくせにー!)

うるか (どんだけポニーテールが好きなんだよー! 成幸のポニテ好き変態ー!)

理珠 (こうなったら私も……) ダッ

うるか (あたしもポニテにしてきてやるー!!) ダッ

文乃 「あっ、ふ、ふたりとも……! ……行っちゃった」

94以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:45:24 ID:yfJ2n.4k
文乃 (ヘアゴムだったら言ってくれれば予備を貸すのに……)

成幸 「……なんだったんだ? 最後にめちゃくちゃ睨まれたんだけど」

成幸 「俺、なんかしちゃったか……?」

文乃 (無自覚に何かしちゃってるんだよいつもー! 少しは気づいてよ……)

成幸 「……で、結局一体何の用だったんだ?」

文乃 「あっ……えっとね、宿題が早く終わったから、出しに来たんだけど……」

文乃 「ふたりはどこかに行っちゃったけど……」

成幸 「ん、そうか。じゃあ古橋のだけでも預かっとくな。ごくろうさん」

文乃 「いえいえ。いつもありがとうございます、先生」


―――― 『あえて言うなら、ポニーテールかな。長さはべつになんでもいい』

―――― 『古橋も今日はポニーテールか。いいよな、ポニーテール』


文乃 「っ……///」

文乃 (でも、そっか……) カァアアアア…… (成幸くん、ポニーテール好きなんだ……)

95以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:46:15 ID:yfJ2n.4k
………………放課後

うるか 「………………」 バーン!!!

理珠 「………………」 ババーン!!!

文乃 「おおう……」 (本当にポニーテールにしてきてるよ、ふたりとも……)

文乃 「……ふたりとも、ヘアゴムはどうしたの?」

うるか 「ふふふ、あたしは水泳部だよ? トーゼン、バッグの中には常備だよ」

理珠 「私は持ち歩く習慣はないので借りました」

文乃 「誰に?」

理珠 「……関城さんです」

文乃 「おおう……」 (はしゃぎ回る紗和子ちゃんが目に浮かぶようだよ……)

文乃 (それにしても……)

文乃 (うるかちゃんはいいとしても、りっちゃんは……) ジーッ

理珠 「?」

文乃 (ちょんまげみたいになっちゃってるんだけど、りっちゃん的にはそれでいいの……?)

96以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:47:00 ID:yfJ2n.4k
成幸 「悪い、遅くなった。HRが長引いてさ。待たせたな」

うるか 「なっ、成幸……」 サワッ 「おつかれさま! 全然待ってないよ!」

理珠 「え、ええ。我々も今さっき来たところですから!」 ピョコン

成幸 「よーし、じゃあ早速始めるか。ふたりも宿題終わらせてるんだろ? 早速見るからくれ」

うるか 「あ……う、うん……」 理珠 「……はい」

文乃 (胃が痛い……)

文乃 (ふたりの露骨なポニテアピールに対して、成幸くんはまったく目もくれていないよ……)

文乃 (仕方ない。ここは、ふたりの気持ちを鼓舞するためにも、わたしが一肌脱いで――)

成幸 「――ん。そういえば、古橋」

文乃 「へっ……? な、何かな?」

成幸 「お前、髪結ぶ位置変えたのか」

文乃 「えっ……」

文乃 (な、成幸くんが髪の変化に気づいた!?)

文乃 (あの女の子の感情にとんでもなく疎いニブチンの成幸くんが!?!?)

97以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:47:52 ID:yfJ2n.4k
文乃 (き、驚天動地だよ……)

文乃 (たしかに、これ以上うるかちゃんとりっちゃんの乙女騒動に巻き込まれたくなくて、)

文乃 (ポニーテールからサイドテールに変えたけど、よく気づいたね……)

文乃 (いや、これもわたしの教えが染みついてきたってことかな……)

ホロリ

文乃 (師匠として鼻が高いよ……でも、成幸くん……)

理珠 「………………」 ジトーッ (……私の前髪には気づかなかったくせに)

うるか 「………………」 ジトーッ (文乃っちの髪型の変化にはすぐ気づくんだね……)

文乃 (このタイミングはやめてほしかったなぁ……!!)

ギリギリギリ……

文乃 (い、胃が……壊滅寸前のダメージを受けてる気がするんだよ……)

成幸 「どうかしたか?」

文乃 「だ、大丈夫。大丈夫だから……」 (きみはもうできるだけ喋らないでくれるかな?)

成幸 「そうか。ならいいけど……」

98以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:48:42 ID:yfJ2n.4k
成幸 「でも、サイドテールってのもなかなかいいな」

理珠&うるか 「「……!?」」

文乃 「ふぇっ……?///」 (な、なんでそんな、わたしの髪型ばかり褒めるのかな!?)

成幸 (水希はいつもポニーテールだけど、部活で邪魔にならないならサイドテールにいいんじゃないだろうか)

成幸 (今度結んでやったら喜ぶかなぁ……)

理珠 「っ……」 (成幸さんの中で髪型のトレンドが動いたということでしょうか!?)

うるか (こうなったら、サイドテールにしてくるしかない!!)

ガタッ

理珠 「ちょっと用事を思い出したので一旦抜けます!」

うるか 「すぐ戻るね!」

タタタタタ……

成幸 「えっ……? うるか? 緒方?」

成幸 「なんだ……? そんな急ぎの用事があったのか……?」

文乃 「うん。あのふたりにとっては可及的速やかにこなさなくちゃいけない用事だよ……」

99以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:49:34 ID:yfJ2n.4k
………………

理珠 「………………」 ゼェゼェ 「お、お待たせしました……」 ピョコン

うるか 「えへへ……。こ、これでどうだ……」 サワッ

文乃 「………………」

文乃 (……ふたりとも、急ぎすぎて髪の結び方が雑だし)

文乃 (りっちゃんに至っては、ただ横で結んだだけだから、乳幼児みたいな髪型になってるよ……)

成幸 「お、おう。おかえり。宿題は見終わったぞ。この調子で今日も勉強がんばろう」

理珠 「えっ……」 うるか 「そ、それだけ……?」

成幸 「……? 宿題はしっかりとやってるように見えたが、何か分からないところでもあったのか?」

うるか 「いや、そーじゃなくてね……」

理珠 「ほ、他に私たちに言っておいた方がいいこととか、ありませんか?」

成幸 「……?」

ハッ

成幸 「ああ、なるほど。俺としたことが、忘れるところだったよ」

理珠&うるか 「「………………」」 パァアアアアアアアアア……!!!!

100以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:50:26 ID:yfJ2n.4k
成幸 「悪い悪い。お前たちが早く宿題を終わらせるから、危うく間に合わないところだったけど」

ドサッ

理珠 「えっ……」

成幸 「お前たちのがんばりに、俺も 『教育係』 として準じなければならないからな!」

成幸 「明日出す予定だった宿題、がんばって今日渡せるようにしたぞ。ふふふ……」

うるか 「あ、あの、成幸……?」

成幸 「今日は宿題がなくなるんじゃないかと不安だったんだろ?」

成幸 「安心しろ」 キリッ 「お前たちの 『教育係』 は、お前たちを手ぶらで返したりはしないからな!」

うるか 「そ、そっか……えへへ、嬉しいな……うれ、しい……な……」 ズーン

理珠 「……ええ。本当に。最高の気分です」 ズーン

成幸 「喜んでくれるなら、多少無理してでも宿題を完成させた甲斐があるよ」

文乃 (……あー、もう。どうしてきみは女の子のことになると心の機微を察する気持ちが皆無になるのかな!?)

文乃 「まったくもう……」 ガシッ 「ちょっとこっち来て、成幸くん」

成幸 「ん? どうかしたか、古橋?」

文乃 「いいから、来て。話があるの」

101以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:51:11 ID:yfJ2n.4k
………………物陰

成幸 「話ってなんだ?」

文乃 「……その前に、ひとつ聞きたいんだけど、うるかちゃんとりっちゃんがさっき何をしに行ったかわかる?」

成幸 「えっ……? 用事って言ってたけど、その中身までは俺は知らないぞ?」

文乃 「うん。そうだよね。そう。きみはまったく、そうあるべきなんだよ」

成幸 「へ……? わ、悪い。俺に分かるように言ってくれるか?」

文乃 「うん。まぁ、それはいいんだけど……どうしてきみは、わたしの髪型の変化に気づいたの?」

文乃 「きみは今まで、自他共に認めるくらい、そういう変化に疎かったよね」

成幸 「……ん、まぁ、その通りだけど」

成幸 「古橋の髪型は、(今朝から)ずっと気になってたから……」

文乃 「えっ……」

成幸 「お前の髪型を気にするようにしたら、(水希と葉月が)喜んでくれるかな、って……」

成幸 「もちろん、色々(結い方とか)教えてもらう必要はあるだろうけど……」

文乃 「………………」 カァアアアア…… 「なっ……何を、言ってるのかな、きみは……!?」

102以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:51:52 ID:yfJ2n.4k
文乃 (わ、わたしの髪型を気にするようにしたら、わたしが喜ぶかなって……?)

文乃 (つ、つまり成幸くん、きみは……)

文乃 「(わたしを)喜ばせたかったの……?」

成幸 「あ、当たり前だろ! (あいつらの)笑顔を見るために俺はがんばってるんだから!」

文乃 「ふぁっ……///」

文乃 (わ、わたしの笑顔を見るために……?)

文乃 「そ、それって……どういう、意味、なのかな……?」

成幸 「……教えてほしいんだ。色々と」

文乃 「い、色々って……わ、わたしのことを……?」

成幸 「ああ、そうだ。お前の……」


成幸 「……お前の、色々な髪型のセットの仕方を!!」


文乃 「っ……///」

文乃 「……ん?」

文乃 「………………」

103以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:52:40 ID:yfJ2n.4k
………………

文乃 「……うんうん。なるほどなるほど。よくわかったよ」

文乃 「つまりきみは、妹さんたちの髪型のバリエーションを増やしたいなーと思って、」

文乃 「毎日髪型を変えるわたしに結い方を教えてもらえたらな、と思っていた、と」

成幸 「あ、ああ。さっきもそう言ったつもりだったけど……」

文乃 「だから、わたしの髪型の変化に気づくことができた?」

成幸 「うん……」

文乃 「そして、ポニーテールが好きだと言ったのは、見た目ではなく機能性の話なんだね?」

成幸 「結いやすいし運動もしやすくなるからな。部活をやってる水希は毎日ポニーテールだし」

文乃 「うんうん、なるほどねぇ……」

シュッ

文乃 「……とりあえず、一発手刀を入れても良いかな?」

成幸 「なんでだ!?」

104以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:53:12 ID:yfJ2n.4k
………………

理珠 「………………」 ズーン

うるか 「………………」 ズーン

成幸 「ほ、ほんとだ。よく見たら、かなり凹んでるな……」

文乃 「でしょ? ほら、早く。さっき教えた魔法の言葉をかけてあげて」

成幸 「ほ、本当に言うのか?」

文乃 「……ふふ、おかしな成幸くん」 シュッ 「手刀を入れられたいのかな?」

成幸 「わ、わかったよ! 言うから! 手刀の素振りはやめてくれ!」

成幸 「……うー」 モジモジ

成幸 (ええい、ままよ……!)

成幸 「お、緒方、うるか、ちょっと話を聞いてくれるか?」

理珠&うるか 「「……?」」 モゾリ

成幸 「サイドで結んでる髪型も似合ってるけど……やっぱり普段のふたりが一番……」

成幸 「か、かわ……かわっ……」 カァアアアア…… 「かわいい、と、思う、ぜ……?」

成幸 (こ、こんなんで本当にこのふたりが復活するのか!?)

105以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:53:56 ID:yfJ2n.4k
理珠 「………………」 カァアアアア…… 「……そ、そう、ですか」 パッ

うるか 「………………」 カァアアアア…… 「え、えへへ……そ、そっか……」 パッ

成幸 (サイドテールを解いて顔に生気が戻った……。一体何だったんだ……?)

理珠 「や、やっぱり気づいてくれていたのですね、成幸さん……」

うるか 「気づいてたなら、もっと早く言ってくれれば良かったのに……」

成幸 「あ、いや、俺はまったく気づいてなかっもがっ」

文乃 「……お願いだから余計なこと言わないでね、成幸くん?」 ギラリ

成幸 (ヒッ……) コクコクコクコク

理珠 (普段の私が一番、ですか……)

うるか (変に成幸を意識するより、自然のあたしの方がいいってことかな……)

理珠 「ふふ……」

うるか 「えへへ……」

理珠 (嬉しいです、すごく……///)

うるか (成幸、ありがと……///)

106以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:54:40 ID:yfJ2n.4k
文乃 「……ふぅ」

文乃 (とりあえず一件落着かな。わたしの胃の安全は保たれたよ……)

成幸 「……悪いな、古橋。またお前に迷惑かけたみたいで」

文乃 「気にしなくていよ。わたしはきみのお師匠様だからね」

成幸 「ああ。いつもありがとうございます、古橋師匠」

文乃 「苦しゅうないぞ、弟子よ」

成幸 「ははは、なんだそりゃ……」

成幸 (……古橋の髪、本当に綺麗だな。一挙手一投足に反応して艶やかに動いてるよ)

成幸 (水希の髪だったら同じようにはいかないだろうなぁ……)

成幸 「古橋は得だよなぁ……」

文乃 「へ……? 得って何が?」

成幸 「古橋はどんな髪型でも似合うからさ。うらやましいよ」

文乃 「……えっ」

カァアアア……

文乃 「そ、そんなことないと思うけど……」

107以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:55:11 ID:yfJ2n.4k
成幸 「……? どうかしたか?」

文乃 「な、何もない! 何もないよ……」

文乃 (……まったくもう! なんできみは、ニブチンのくせに……)

文乃 (ときどきこうやって、わけのわからないことを言ってくるんだろう……!)

文乃 「………………」

文乃 (ごめんね。りっちゃん、うるかちゃん、違うからね……!)


―――― 『古橋も今日はポニーテールか。いいよな、ポニーテール』

―――― 『でも、サイドテールってのもなかなかいいな』

―――― 『古橋はどんな髪型でも似合うからさ。うらやましいよ』


文乃 (断じて違うけど……でも、少しくらい、いいよね)

文乃 (男の子に、髪型の変化に気づいてもらって、褒めてもらえることを、嬉しいと思うくらい……)

文乃 (許して、くれるよね……?)

おわり

108以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:55:52 ID:yfJ2n.4k
………………幕間1 「ポニーテールでいい」

成幸 (ってことで、勉強会の後に古橋に色々な髪型のセットの仕方を教えてもらったぞ!)

成幸 「水希ー、かわいい髪型にしてやるからちょっとこいよー」

水希 「すぐ行くいま行くもういる」 シュババババッ

成幸 「よし、じゃあ始めるぞ……ふふふ、刮目しろ! これが古橋直伝のヘアセット術だ!」

スカッ

成幸 「……あ、あれ? 水希? なんで避けるんだ?」

水希 「……古橋さんに髪型のこと教えてもらったの?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「あ、ああ。そうだ。古橋に聞いたら快く教えてくれたんだ」

水希 「いい」

成幸 「えっ……?」

水希 「ポニーテールでいい」

成幸 「なんでだ!? 古橋に髪まで貸してもらって覚えたんだ。お前をかわいくする自信があるぞ」

水希 「私はもう一生ポニーテールでいい」

成幸 「なぜ!?」

109以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/11(日) 23:56:42 ID:yfJ2n.4k
………………幕間2  「人間として」

紗和子 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

紗和子 (わ、私の目の前にはいま、緒方理珠が返してくれたヘアゴムがある……!!)

紗和子 (それはいま、私の手の中にあって、私がどうしようが自由……!!)

紗和子 (そ、そう。つまり、これを嗅ごうが食べようが、私の自由ということ……!!)

紗和子 「………………」 ゴクリ

ハッ

紗和子 (め、目を覚ましなさい、関城紗和子! あなたそんなことしたら最低よ!?)

紗和子 (緒方理珠の友人として失格というか、そもそも人間としてアウトだわ!)

紗和子 「………………」

紗和子 (……いや、でも、食べるのはダメとして、少し嗅ぐくらいならいいんじゃないかしら?)

紗和子 (いやいやいや、嗅ぐのもダメでしょう!? でも緒方理珠の頭皮を感じるチャンスが今後訪れるとも思えないし……)

文乃 「……? 紗和子ちゃん、ヘアゴムとにらめっこしてどうしたんだろう?」

理珠 「わかりませんし興味もありませんが、なんとなくヘアゴムは新品を買って返して正解だった気がします」

おわり

110以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 00:10:39 ID:Ygvqo2fQ
乙です
怒涛の更新ありがたい……

111以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 00:44:29 ID:joxzYPf2
>>1です。
読んでくれた方、ありがとうございます。
締めをしたつもりになって忘れていました。

乙や感想、ありがとうございます。
とても嬉しいし励みになります。

ポニーテールは、個人的にすごく好きな髪型です。
きれいにシンメトリーに作るのは難しいですが、アレンジが容易で誤魔化しがききやすいので。
動きやすいしものを食べるときも邪魔になりません。大好きです。
ただ唯一の難点は、一度ほどかないと仰向けで寝られないところでしょうか。
なので、文乃さんがポニテにしてる姿も大好きです。

タイトルは良いのが思い浮かばなかったので人気投票結果発表の関城さんの欄から拝借しました。
関城さんの基本髪型はお団子なのになぜポニテ押しなのかはわたしの目下一番の疑問です。

自分語りが長くなりました。申し訳ないことです。

9巻が発売されるまでにこのスレも潰したいところですがそれはさすがに叶わなそうです。

また折を見て投下します。

112以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 07:06:02 ID:LqMSlx/6
乙です。
面白いけど最近のは文乃の描写が多くてメインを食ってしまってる気がする。

113以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 12:09:39 ID:T6NmL7eM
文系かわいいからね仕方ないね

114以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 12:38:54 ID:NJ9jge1o
>>112
食ってしまってる(意味深

115以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 22:44:14 ID:joxzYPf2
>>1です。
>>112さんと>>114さんに着想を得たSSを投下します。
先に断っておきますが、アホな上にキャラ崩壊もしています。
読まない方がいいかもしれません。



【ぼく勉】文乃 「相談女」

116以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 22:45:40 ID:joxzYPf2
書き忘れました。
明確な同性愛的表現があります。
性行為を連想させるような言い回しや表現もあります。
閲覧注意です。

117以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 22:46:20 ID:joxzYPf2
………………ラーメンうめえん

うるか 「でね! その男の子ったらたらひどいんだよー!」 ズルズルズル……

うるか 「友達はもうこれでもかってくらいがんばってるのにー!」

うるか 「成ゆ――じゃなくて、その男の子は全然気づかないのー!」

文乃 「うんうん。それはちょっと、さすがにねぇ……」 ズルズルズル……

文乃 (今日も今日とてうるかちゃんの愚痴を聞いてるけれど)

文乃 (いつも通り友達の話の体だけど、もうボロが出てるってレベルじゃないよ……)

文乃 (っていうかわたしダイエット中なんだけどな……)

うるか 「聞いてる、文乃っち!?」

文乃 「うんうん。ちゃんと聞いてるよ」

文乃 「……あっ、店員さん、替え玉おかわりお願いします」

文乃 「あと追加でチャーシュー盛りとチャーハンも」

文乃 (困ったなぁ……。また太っちゃうよ……)

118以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 22:47:02 ID:joxzYPf2
うるか 「……大体、その男の子は鈍すぎるんだよ」

文乃 「うんうん」

うるか 「何であんなに色々してるのに気づかないのかなぁ……」

うるか 「でも、自分から告白して、いまの関係性を壊すのはいやだし……」

うるか 「成幸の――じゃなくて、その男の子の勉強の邪魔になるのはもっといやだし……」

うるか 「ねえ、文乃っち! あたし……の友達はどうしたらいいのかな!?」

文乃 「う、うーん……。どうしたらいいかなぁ……」

うるか 「……成幸がもっと鈍くなかったらな」

文乃 「そうだねぇ。成幸く――じゃなくて、その男の子がもう少し鋭かったらねぇ……」

文乃 (なんでわたしがうるかちゃんのうっかりをフォローしてるんだろう……)

うるか 「……こんな苦しくなるなら、もっと……」

うるか 「べつの人を好きになればよかった……」

文乃 (……ふぁぁああ……) キュンキュン (うるかちゃん、いちいち台詞が乙女すぎるよ。かわいいなぁ……)

119以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 22:47:38 ID:joxzYPf2
文乃 「そうだね。もしわたしがその男の子だったら……」

ニコッ

文乃 「うるかちゃんの友達にそんな辛い思いはさせないんだけどね」

うるか 「えっ……」 キュン

文乃 「……?」

うるか 「あっ……」 カァアア…… 「そ、そうだね……」

文乃 (おや……?)

うるか 「相手が、文乃っちだったら、きっと……」

ドキドキドキドキ……

うるか 「……あたしのこと、もっと分かってくれるよね」

文乃 (お、おやおや……?)

うるか 「そっか……。文乃っちだったら……」

文乃 (な、なんか雲行きがおかしいな……?)

ギュッ

文乃 「えっ……?」 アセアセ 「な、なんでわたしの手を握るのかな、うるかちゃん?」

120以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 22:48:20 ID:joxzYPf2
うるか 「……文乃っち」

文乃 「は、はい!」

うるか 「文乃っちって、実はあたしの憧れる女の子そのものなんだよね」

文乃 「えっ……えっ?」

うるか 「……文乃っちだったら、成幸と違って、あたしのことわかってくれるもんね」

文乃 「えっえっえっ」

うるか 「ふ、文乃っち……ううん。文乃」

文乃 「ふぇっ……」

うるか 「この後、時間ある? うちで一緒に勉強していかない?」

文乃 「……へ?」

うるか 「安心して。今日、親、帰ってこないから……」

文乃 「ち、ちょっと? うるかちゃん?」

うるか 「……えへへ。行こ、文乃っ」

121以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 22:48:57 ID:joxzYPf2
………………翌朝

チュンチュンチュン……

文乃 「………………」

文乃 (なんてこった、だよ……)

文乃 (朝起きたら、知らない天井が目に入った。そしてすぐ隣に、素っ裸のうるかちゃんが寝転んでいた)

文乃 (そしていま、目覚めたうるかちゃんがわたしの身体にすり寄ってきている……)

うるか 「えへへ、文乃……」

スリスリ

うるか 「愛してるよ。えへへっ」

文乃 「………………」

文乃 (……ま、うるかちゃんかわいいし、うるかちゃんも幸せそうだし)

文乃 「わたしも愛してるよ、うるかちゃん……っ」

文乃 (これはこれで、いっか)


うるか編おわり

122以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 22:49:27 ID:joxzYPf2
………………緒方家 理珠の部屋

理珠 「……ふぅ。だいぶ進みましたね。少し休憩にしましょうか」

文乃 「そうだね。最近はわたしたちふたりだけでも勉強がしっかり進むようになってきたね」

文乃 「これも何もかも、成幸くんのおかげだね」

理珠 「そうですね。成幸さんのおかげで、基礎が身についてきたからだと思います」

文乃 「でも、今日はごめんね。急に泊まりで勉強したいなんて言い出して……」

理珠 「構いません。家に帰りたくないのでしょう?」

文乃 「……うん」 (今日はお父さんが一日中家にいるから……)

理珠 「……そんな顔しないでください。以前のパジャマパーティみたいなものですよ」

文乃 「ふふ、あのときは楽しかったね」

文乃 「今回は急だったから、うるかちゃんも紗和子ちゃんも来られなくて残念だけど……」

理珠 「また今度、ふたりもまじえてやりましょう」

文乃 「そうだね。ふふ、楽しみになってきちゃった」

理珠 「……さて、では休憩ついでにお茶でもいれてきます」

文乃 「あっ、わたしも行くよ」

123以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 22:50:04 ID:joxzYPf2
………………台所

理珠 「緑茶でいいですか?」

文乃 「うん。カフェインで眠気もすっきりだね」

理珠 「では、緑茶に最適な80度程度のお湯を、っと……」

コポポポポ……

文乃 (手慣れてるなぁ……。さすがはうどん屋の娘だよ)

文乃 (お茶をいれるのも手間取っちゃうわたしとは大違いだなぁ……)

ボイン

文乃 (それにしても、どこがとは言わないけど、パジャマだとますます強調されるなぁ……)

文乃 (お茶をいれるとき腋を締めてるから、余計に強調されて今にもこぼれそうだよ)

文乃 (……って、わたしは何で成幸くんみたいなこと考えてるんだろ)

理珠 「……? お茶、いれおわりましたけど、文乃?」

ジトーーッ

理珠 「何か、邪な念を感じたのですが……」

文乃 「へっ!? き、気のせいだよ!?」

124以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 22:50:36 ID:joxzYPf2
親父さん 「おっ、文乃ちゃん。いらっしゃい」

文乃 「りっちゃんのお父さん。お邪魔してます」 ペコリ

親父さん 「今日泊まってくんだろ? ゆっくりしていってくれな」

キョロキョロ

親父さん 「と、ところで、今日はあのヤロウ――センセイは来ないのかい?」

理珠 「今日は呼んでいません。前回だって呼んだのは関城さんですし」

理珠 「では、私たちは部屋に戻りますが……」 ジロッ 「くれぐれも覗いたりしないでくださいね」

親父さん 「なっ、何を言ってんだ理珠たま」 ギクッ 「そんなことするわけないだろう?」

理珠 「どうだか、です。では文乃、行きましょう」

文乃 「あっ、うん。では、今晩お世話になります、お父さん」

親父さん 「おう。気兼ねせず、自分の家みたいに過ごしてくれていいからなー」

125以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 22:57:01 ID:joxzYPf2
………………理珠の部屋

文乃 「ふふ……」

理珠 「……? 急に笑い出して、どうしました?」

文乃 「いや、お父さん、良い人だなと思ってさ」

理珠 「どこがですか? 娘の電話の着信に勝手に出たり、急にハグしてきたりするような父ですよ?」

理珠 「成幸さんにも暴力を振るったり脅したりしますし……」

文乃 「それだけりっちゃんのことが大事なんだよ」

理珠 「……べつに、そんなの嬉しくありません」 プイッ

文乃 「……わたしはうらやましいよ」

文乃 「うちのお父さんに比べたら、はるかに優しくて温かい人だから」

理珠 「あっ……」 シュン 「ご、ごめんなさい……」

文乃 「い、いやいや。こちらこそ、急に変なこと言ってごめんね!」

文乃 「りっちゃんの美味しいお茶を飲んで頭も冴えたし、そろそろ勉強を再開しよっか」

理珠 「そ、そうですね。では、あともうひと踏ん張り、がんばるとしましょう」

126以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 22:57:44 ID:joxzYPf2
………………

カリカリカリ……

文乃 「………………」

文乃 (……りっちゃんに悪いことしちゃったな)

文乃 (せっかく泊めてくれてるのに、気まずくさせるようなこと言っちゃった……)

理珠 「………………」

文乃 (……それにしても、改めて見ると、りっちゃんってとんでもないくらいの美少女だよね)

文乃 (背も小さくてかわいいし、その割には顔もしっかり小さくて子どもっぽくはないし……)

文乃 (……何より、おっぱいめちゃくちゃ大きいし)

ストーーーン

文乃 (ほんと、わたしとは大違い。なんでこんなに差があるんだろ……)

ズーン

理珠 「………………」 チラッ (……文乃、落ち込んでます)

理珠 (私が父を卑下したせいで、嫌な気持ちにさせてしまいました……)

理珠 (せっかく遊びに来てくれたのに、申し訳ないです……)

127以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 22:58:36 ID:joxzYPf2
理珠 (文乃に元気を出してもらうために、私が一肌脱ぎましょう)

理珠 (あまり自分のことを笑いのネタにするのは気が進みませんが……)

理珠 (文乃に元気を出してもらうためです。がんばります!)

理珠 「……文乃」

文乃 「……? どうかした、りっちゃん?」

理珠 「今日は急に泊まりに来たから、パジャマもないでしょう?」

理珠 「今日は私のパジャマを貸しますね」

スッ

理珠 「……って、私のパジャマは文乃には着られませんね。小さすぎて!」

バーン

理珠 (ど、どうですか。私の一世一代の自虐ネタは!!)

文乃 「………………」

イラッ

文乃 (自分の胸の小ささについて思い悩んでいたら巨乳の友人に煽られたわけだけど)

文乃 (えっ、待って? ひょっとして喧嘩売ってる? りっちゃん?) ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

128以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 22:59:15 ID:joxzYPf2
文乃 「……りっちゃん。いい度胸だな! だよ……」

ムニッ

理珠 「えっ……? な、なぜ涙目で私の頬をつねるのですか、文乃?」

理珠 「いまのは笑うところでは……?」

文乃 「笑えると思う!?」 ムニムニッ

理珠 「い、いはいれふ! ふいの!」

文乃 「そっ、そもそもね! こんなに大きい方がおかしいんだよ!」

ムギュッ

理珠 「!? な、なぜ胸を鷲づかみにするのですか!?」

文乃 「このっ……この乳が……この乳が……!!」

理珠 「父!? お父さんのことで私の胸に当たらないでくれませんか!?」

理珠 (なぜ自虐ネタまで披露した私が責められているのですか……!) ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

理珠 「こっ、この……! どうせ文乃には小さいことによる苦悩なんてわからないでしょうね!!」

文乃 「それで小さいつもりなの!? とことん喧嘩を売るつもりだねりっちゃん!?」

文乃 「いいよ! その喧嘩勝ってやる!! だよ!!」

129以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 22:59:50 ID:joxzYPf2
文乃 「だいたい! りっちゃんはずるいんだよ!!」

文乃 「そんなにかわいくて!! 男の子に好かれる低身長で!!」

文乃 「しかもおっぱいも大きい!? なんだその魅力的すぎる身体は!」

文乃 「その上飲食店の娘だから家事も大丈夫!? この、いいお嫁さんになるために生まれてきたような娘が! だよ!」

理珠 「い、言わせておけば! 文乃こそ、そんなに美人に生まれて何が不満なんですか!!」

理珠 「私なんて、低身長だから似合う服も少ないし、足が短いのだってコンプレックスですし!!」

理珠 「文乃は胸にこだわりすぎです!! それだけスラリとスタイル良くて何が不満なんですか!!」

理珠 「文乃は人の気持ちに敏感で気遣いができます!! いいお嫁さんになれるのはそっちでしょう!!」

文乃 「なっ……こ、こっちはまだまだ言えるよ!!」

理珠 「こっちだって!!」

文乃 「りっちゃんの分からず屋!! めちゃくちゃかわいくてズルいよ!!」

理珠 「文乃こそ分からず屋です!! それだけ美人で何が不満なのですか!!」

文乃 「だいたい、りっちゃんはねぇ……」

理珠 「文乃はいつもそうです!!」

………………

130以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:00:22 ID:joxzYPf2
………………翌朝

チュンチュンチュン……

文乃 「………………」 (……えっ、待って。ねえ待って)

文乃 (わたし、昨日の記憶があんまりないよ?)

文乃 (あの後、少し口論になって、お互いの胸や身体をもみ合って……)

文乃 (なんか、いつの間にか変な雰囲気になって、そして……)

理珠 「……ふっ、文乃……お、おはようございます……///」

理珠 「昨夜は、その……お世話になりました……」

理珠 「こっ……これからも……」 ギュッ 「よろしくお願いしますね……///」

文乃 (目覚めたら隣でりっちゃんが寝ていて、なぜだかわたしに抱きついてくる)

文乃 (……まぁ、いいか) フゥ (りっちゃんが幸せそうだし、何より……)

ムニムニッ

理珠 「あっ……/// ふ、文乃……」

文乃 (この胸をいつでも揉めると思えば)

理珠編おわり

131以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:01:30 ID:joxzYPf2
………………とあるマンション前

文乃 「………………」

文乃 「……はぁ」

文乃 (お父さんが家にいる日だから、お父さんが寝るまで外にいようと思ったけど……)

ザァアアアアアアアアアアア……

文乃 (天気予報では雨が降るなんて言ってなかったのに……)

文乃 (傘も持ってないし、やむまでこのマンションのエントランスで雨宿りさせてもらおう……)

文乃 「……くしっ」

文乃 (うー、寒いなぁ……。少し雨に打たれちゃったし……)

文乃 (風邪、引かないといいなぁ……)

文乃 (あっ……ひとが来た。このマンションの人かな。邪魔にならないようにしないと……)

?? 「……? あら」

文乃 「……? あっ……。き、桐須先生!?」

真冬 「古橋さん、こんなところでどうしたのかしら?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

132以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:02:11 ID:joxzYPf2
文乃 「うぅ……」 (相変わらず怒ってるような顔で怖いなぁ……)

文乃 「じ、実は、雨に降られちゃって……。傘もないし、ちょっと雨宿りしてるんです……」

文乃 「へくしっ……」

真冬 「なっ……」

真冬 「あなた濡れているじゃない。雨に打たれたのね」

文乃 「そ、そうですけど……」

真冬 「バカ。もう冬も間近なのに、そんな格好で濡れたまま外にいたら間違いなく風邪を引くわよ」

真冬 「傘を貸してあげるから、すぐに家に帰りなさい」

文乃 「い、いや、それは……」

真冬 「……?」

文乃 「………………」 プイッ

文乃 (桐須先生は怖いから、言うことを聞きたいけど……)

文乃 (でも、それより、お父さんがいる家に帰るのは……)

文乃 「……いや、です」

133以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:02:44 ID:joxzYPf2
真冬 「………………」

ハァ

真冬 「……仕方ないわね。ほら、来なさい」

文乃 「えっ……?」

真冬 「私はこのマンションに住んでいるの。とにかく冷えた身体を温めなさい」

文乃 「えっ……? そ、それって……」

真冬 「……じれったいわね。家に来なさいということよ」

ガシッ

文乃 「あっ……で、でも、先生の家にお邪魔するなんて、さすがに悪いというか……」

真冬 「受験生をそのまま放置できないでしょう。風邪でも引かれたら迷惑だわ」

文乃 「うっ……」 (とても厳しくて怖い言葉……でも……)

文乃 (桐須先生の手、冷たくて……)

文乃 (少し、触れた感じが、お母さんみた――)

ハッ

文乃 (わ、わたしは何を考えてるのかな!?)

134以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:03:30 ID:joxzYPf2
………………真冬の家

文乃 「うわぁ……」

ピカピカピカ……

文乃 「桐須先生の家、きれいですね。先生の家、って感じです」

真冬 「当然よ。大人たるもの、身の回りのことをまず完ぺきにこなさなければならないわ」

真冬 (昨日唯我くんが掃除しに来てくれて助かったわ……)

真冬 「ほら、わたしの着替えとタオルを貸してあげるから、シャワーを浴びてきなさい」

文乃 「……すみません」

真冬 「謝るくらいなら家に帰るべきだと思うけれど」

文乃 「うっ……」

真冬 「………………」 ハァ 「……風邪を引く前にシャワーを浴びてきなさい」

文乃 「……はい」

135以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:04:22 ID:joxzYPf2
………………風呂場

文乃 「……うわぁ、すごい」

文乃 (お風呂場の壁や床はおろか、シャワーヘッドまでピカピカだよ……)

文乃 (本当にきれい好きなんだなぁ、桐須先生って……)

文乃 (やっぱり、仕事から家事まで、何もかも完ぺきな人なんだなぁ……)

文乃 「………………」

文乃 「……すごいなぁ」

文乃 (あんなに美人で授業も上手で仕事もバリバリこなしてるのに、家事まで完ぺきなんて……)

文乃 (……わたしとまるで正反対だよ)

文乃 「……はぁ。やめよう」

文乃 (考えたって、気が滅入るだけだよ)

136以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:05:17 ID:joxzYPf2
………………

文乃 「シャワーありがとうございました、先生」

真冬 「ええ。制服はエアコンの風を当てているから、すぐに乾くと思うわ」

文乃 「ありがとうございます。何から何まで……」

真冬 「……気にしなくていいわ。教師として当然のことをしているまでのことよ」

真冬 「温かいお茶もいれておいたわ。こっちに来て座って飲みなさい」

文乃 「す、すみません。いただきます……」

真冬 「………………」 カタカタカタ……

文乃 「……え、えっと……家でもお仕事ですか? 大変ですね」

真冬 「大変と思ったことはないわ。仕事だから当然のことよ」

文乃 「そ、そうですか……」

文乃 (やっぱり、冷たくて怖い人……)

文乃 (……でも、わたしをムリに家に帰すわけじゃなくて、家に招き入れてくれた)

文乃 (『教育係』 をしてもらっていたときは、気づかなかった……)

文乃 (先生はひょっとして、優しい人なのかな……?)

137以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:05:58 ID:joxzYPf2
真冬 「………………」

真冬 「……喋りたくなければ喋らなくていいのだけど」

文乃 「は、はい?」

真冬 「どうして家に帰りたくないのか、教えてもらってもいいかしら?」

文乃 「………………」

文乃 「……お父さんに、会いたくなくて」

文乃 「眠る時間まで、外にいたかったんです……」

真冬 「……なるほど。わかったわ」

スッ

文乃 「へっ……? ノートとペンを持って、どうしたんですか?」

真冬 「聞いてしまった以上、見過ごせないわ。どうしてお父さんに会いたくないのか、言いなさい」

文乃 「えっ……そ、それは……ちょっと、言いたくない、です……」

真冬 「ダメよ。あなたは “お父さんに会いたくない” と言ってしまった」

真冬 「子どものSOSの言葉を受けてしまった。教師として、それをそのまま見過ごすことはできないわ」

真冬 「あなたが喋りたくなくても、私は絶対に聞くわ。だから、喋りなさい」

138以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:07:17 ID:joxzYPf2
文乃 「せ、先生……?」

真冬 「………………」 ジッ

文乃 (厳しい言葉。義務感から来るような、堅苦しい、言葉……)

文乃 (でも、どうしてだろう。桐須先生のその言葉から、とてつもない温かみを感じる……)

文乃 「き、聞いてくれるんです、か……?」

真冬 「……ええ。もちろんよ。私はあなたの先生だもの」

真冬 「お願い。話して。子どもの言葉を、私は絶対に投げ出したりしないから」

真冬 「もしあなたがSOSを訴えているなら、教師として……」

真冬 「……いえ。大人として、それを見過ごすことは絶対にできないのよ

文乃 「………………」

グスッ

文乃 「……わたし……わたし……っ」

文乃 「……お父さんのことが、怖くて……」

139以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:08:02 ID:joxzYPf2
………………

文乃 「……すみません、先生。お話聞いてもらっちゃって」

真冬 「気にしないで。これも仕事よ」

真冬 (……話を聞く限り、ネグレクトと呼べるか呼べないかギリギリのラインね)

真冬 (小学生当時から今の生活を続けていたとしたら、間違いなくネグレクトだけれど……)

真冬 (高校生段階の今、明確にネグレクトと言うことはできないでしょうね……)

真冬 (直接的な心身に対する暴力もいまはないようだし)

真冬 (……彼女にとっては本当に心の底からいやなことなのだろうけど、)

真冬 (いまの生活を続けてもらうしかないわね……)

文乃 「………………」

文乃 (……仕事。まぁ、そうだよね)

文乃 (わたしなんて、先生にとってはたくさんの生徒のうちのひとりだもんね……)

グスッ

文乃 (あっ……ど、どうしてまた、涙が出てくるんだろ……)

140以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:08:32 ID:joxzYPf2
真冬 「………………」

ギュッ

真冬 「……つらかったのね」

文乃 「あっ……」 (やっぱり、そうだ……)

文乃 (先生の手、少しひんやりして、でも心地良く包み込んでくれる……)

文乃 (まるで、お母さんの手みたい……)

真冬 「……お父さんが寝るまで家にいてもらって構わないわ」

真冬 「ただし、高校生ひとりで帰れるような時間でないでしょうから、私が送っていくわ」

文乃 「……すみません。ありがとうございます」

真冬 「……ふふ」

文乃 「……? どうしたんですか?」

真冬 「ごめんなさい。『教育係』 をしていたときは、あなたの泣く姿なんて想像もつかなかったから、少しおかしくて」

文乃 「なっ……」

プイッ

文乃 「な、泣いてなんかないです! 少し涙ぐんじゃっただけで……」

141以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:09:25 ID:joxzYPf2
真冬 (さっきまでわぁわぁ泣いていたくせに、まったく、気丈な子ね……)

真冬 「部屋が暖まってきて、少し暑くなってきたわね」

真冬 「涙で水分も減ってしまったようだし、ジュースでも持ってくるわ」

文乃 「あっ、お構いなく……」 ハッ 「……じゃなくて! 泣いてなんかないですってば!」

文乃 (……まったくもう)

文乃 (でも、先生の手……)

文乃 (本当にお母さんみたいだった……)

ドキドキドキドキ……

文乃 (わ、わたし、何考えてるんだろ……)

真冬 「……はい、どうぞ」

コトッ

文乃 「あ、ありがとうございます。いただきます」 ゴクリ 「……?」

文乃 (このジュース、何か変な味がするような……?)

文乃 (あ、あれ? なんか心がふわふわする? 周りが回って見える……?)

真冬 (ノドが乾いたわね。私も一杯いただこうかしら) ゴクッ

142以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:10:21 ID:joxzYPf2
真冬 「………………」

文乃 「……? 先生?」

真冬 「……古橋さん」

文乃 「は、はい!」

真冬 「……ぐすっ……えぐっ……」

文乃 「……えっ?」

真冬 「うわぁああああああああああああああああん!!!!」

ギュッ

文乃 (何事!? 桐須先生が急に泣き出して抱きついてきたよ!?)

文乃 (あっ……でも、なんか変な気分。悪い気はしないというか……)

文乃 (なんか、身体が熱いなぁ……)

文乃 「せ、先生? 一体どうしたんですか?」

真冬 「いままでつらかったわね! 大変だったわね……」

真冬 「あなたの苦悩を思うと、涙が止まらないわ……」

文乃 「先生……」

143以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:11:12 ID:joxzYPf2
真冬 「古橋さん、あなたは偉いわね……」

ナデナデナデナデナデナデ

文乃 「………………」 ポワポワ

文乃 (あっ……桐須先生がわたしの頭を撫でるなんて……)

真冬 「いままで、大変なことに耐えてがんばってきたのね……」

真冬 「理系の勉強だって一生懸命がんばってるわね……」

真冬 「偉いわ。本当に偉いわよ……」

ナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデ

文乃 「せ、先生……」 (わたしたちのこと、本心では認めてくれてたんだ……)

文乃 (お母さんみたいな手が、わたしのこと、撫でてくれてるんだ……)

キュン

文乃 「せ、先生……」

真冬 「なぁに? 古橋さん」 ニコッ

144以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:11:48 ID:joxzYPf2
文乃 「わ、わたしも、抱きついてもいいですか……?」

真冬 「ええ。もちろんよ。いらっしゃい?」

文乃 「……えへへ。桐須先生……っ」

ギュッ

真冬 「ふふ。可愛い子ね、古橋さん。良い子よ。偉いわ」

文乃 「せっ……先生!」

ムギュッ

真冬 「甘えんぼさんね。ふふふ、偉いわ。いいこいいこ」

文乃 「えへへー、もっと撫でて?」

真冬 「いいわよ。ほら」

ナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデ

文乃 (ふぁ……なんか、車酔いしたときみたいに、視界がグルグル回って……)

文乃 (なんか、すごく幸せな気分……?)

文乃 (ああ、それにしても……) ゴクリ (桐須先生って、かわいいよね……)

145以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:12:18 ID:joxzYPf2
………………翌朝

チュンチュンチュン……

真冬 「………………」

サァアアアアアアアア……

真冬 (青ざめるどころの騒ぎじゃないわ。頭から血が一斉に抜け落ちたかと思ったわ)

文乃 「先生っ。おはようございますっ!」

文乃 「ねえ、先生。朝も撫でてください。お願いします」

真冬 「え、ええ……」 ナデナデ

文乃 「きゃーっ。嬉しいです、先生。えへへ、大好きっ」 ギュッ

真冬 (目覚めたら教え子の少女が裸で隣に寝ていた。しかも目をハートマークにして抱きついてくる)

真冬 (ああ、そうね。これはつまり……)

真冬 「……減俸、停職……いや、懲戒免職……と、いうよりは……」

ガタガタガタガタ

真冬 「……逮捕、かしら」

真冬編おわり

146以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:13:02 ID:joxzYPf2
………………古橋家 玄関前

あすみ 「………………」

あすみ (……まさかまた仕事でここに来ることになるとはな)

あすみ (ったく、古橋の奴。もう一回家事代行呼ぶくらいならあのときやらせろっての)

あすみ (今回も冷やかしだったら許さねーからな……)

ガチャッ

文乃 「……お待たせしました。小美浪先輩」 キョロキョロ

あすみ 「……? 心配しなくても、電話で言われたとおり今日はアタシひとりだよ」

文乃 「そ、そうですか……」 ホッ 「よかった……」

文乃 「さ、どうぞどうぞ。もうおなかペコペコなんですよ」

あすみ 「おう。じゃ、お邪魔しまーす、っと……!?」

あすみ 「ごはっ……!?」 (な、なんだ、この尋常じゃない異臭は……!?)

あすみ (この世のものとは思えないこの臭いは……台所からか!?)

文乃 「……お料理しようと思ったら少し失敗しちゃって……」

文乃 「すみませんが、よろしくお願いします、先輩」

147以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:13:36 ID:joxzYPf2
………………台所

あすみ 「……おい、古橋」

文乃 「はい」

あすみ 「これのどこが、“少し失敗しちゃって” なんだ?」

あすみ (……なんだこの大惨事は)

あすみ (何で魚をまるごと鍋にぶち込んでるんだ?)

あすみ (何で野菜を切らずにそのまま鍋に放り込んでるんだ?)

ゴトゴトゴト……!!!!

あすみ (何で炊飯器から何かが暴れるような音がするんだ!?)

あすみ 「お前この惨状は一体なんだ!?」

文乃 「……うぅ、面目ないです」

あすみ 「これの後始末を人に押しつけられるお前の胆力を恥じた方がいいと思うぞ……」

ハァ

あすみ 「……仕方ねぇ。仕事だしな」

あすみ 「ここは責任持ってアタシがきれいにするから、少し向こうで待ってろ」

148以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:14:16 ID:joxzYPf2
………………

文乃 「……はぁ」

文乃 (結局あれから、先輩は凄まじい速度で台所をきれいにして、)

文乃 (家中の掃除を終わらせ、晩ご飯の準備まで終わらせてしまった……)

あすみ 「いやー、悪いな。アタシまでごちそうになっちゃって」

文乃 「気にしないでください。作ったの小美浪先輩じゃないですか」

あすみ 「にしし、まぁそれはその通りだけどさ」

あすみ 「にしても……」

ゴォォオオオオオ!!!!

あすみ 「すげー嵐だな。こりゃ当分やみそうにないな……」

文乃 「天気予報だと、明け方まで続くそうですよ?」

あすみ 「しまったな。嵐が来るってわかってりゃ、スクーターじゃなくて徒歩で来たんだけどな……」

文乃 「すみません、嵐が来るような日に家事代行頼んでしまって……」

あすみ 「あ? いやいや、そんなのお前が気にするようなことじゃねーよ」

あすみ 「仕事受けたのはこっちだからな。ま、なんとか帰るさ」

149以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:15:37 ID:joxzYPf2
文乃 「でも、危ないですよ……」

文乃 「もし先輩さえよければ、今日はうちに泊まっていきませんか?」

あすみ 「えっ……? いや、それは……ありがたいっちゃありがたいが……」

あすみ 「親御さんだっていらっしゃるだろうし、迷惑だろ」

文乃 「大丈夫です。うちは父しかいませんし、その父も今日は帰ってきませんから」

文乃 「寝間着はわたしのを貸しますし……だから先輩、どうぞ泊まっていってください」

あすみ 「あー……」

あすみ 「……じゃあ、悪い。正直言ってすごく助かるし、お言葉に甘えさせてもらってもいいか?」

文乃 「もちろんです!」

文乃 「ごはん食べ終わったら、一緒に勉強しましょう?」

あすみ 「……お前、まさか、アタシに勉強教わるのを期待して泊まってけなんて言ったんじゃないだろうな?」

文乃 「えっ? い、いやいや、そんなこと……まぁ、少しはありますけど……」

あすみ 「……はぁ。ったく、仕方ねーな。ま、いまのお前はアタシの雇い主だからな」

あすみ 「家事代行ついでに、後輩代わりに臨時の 『教育係』 やってやるよ」

150以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:16:41 ID:joxzYPf2
………………

あすみ 「二次不等式は、早い話が二次方程式の応用だ」

あすみ 「単純に考えろ。イコールで結ばれていた両辺が、大なりと小なりで結ばれてるだけだ」

文乃 「ふむふむ……」

あすみ 「イコールがついてりゃ以上か以下、ついてなけりゃ “より大きい" か “より小さい" かだ」

あすみ 「ふたつの式で変数に対しての関係性が暴かれりゃ、あとは数直線で考えれば一目瞭然だろ?」

文乃 「なるほど! 今まで、数学って何が何でも数式で解かなきゃって思ってましたけど、」

文乃 「図を使った方が分かりやすければ図を使ってもいいんですね!」

あすみ 「共通一次はマークシートだ。最終的に答えさえ出りゃいいからな」

文乃 「よーし! 今の感覚を忘れないうちに練習問題解きまくるぞー!」

あすみ 「おう、がんばれ」

あすみ (……ったく。分かった途端目の色変えやがって)

あすみ (なんか、勉強をしはじめた小学生みたいだな、こいつ)

あすみ (……本当に、苦手なことでも、あきらめずがんばろうとしてるんだな)

151以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:17:37 ID:joxzYPf2
………………

あすみ 「風呂、貸してくれてありがとな。温まったよ」

あすみ 「着替えも、助かる。悪いな。雇われた身なのに、何から何まで……」

あすみ 「さすがに古橋のパジャマだから、あたしにはぶかぶかだけど……」

文乃 「いえいえ。気にしないでください、先輩。わたしも勉強を教えてもらって助かりましたから」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

文乃 「それより、ぶかぶかって、わたしが太ってるって意味ですか?」

あすみ 「太ってる太ってない以前にそもそも体格がアタシとお前じゃ全然違うだろ……」

あすみ 「……お前ってさ、そんだけスラリとしてスタイルいい身体に対して、何が不満なわけ?」

文乃 「不満だらけですよ。すぐに体重増えるし、そのくせ……」

文乃 (むねはこれっぽっちも大きくならないし!!)

あすみ 「ちんちくりんのアタシよりよっぽどいいと思うけどな」

あすみ 「背が低いと大変なんだぞ? この世は身長150cm以下の人間に対して厳しいからな」

あすみ 「図書館なんて、アタシが背伸びしたって届かない位置に本がたくさん並んでるんだぜ? 嫌にもなるよ」

152以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:18:22 ID:joxzYPf2
文乃 「……ないものねだりですよ。わたしだって、背が低い方がいいとは思いませんけど、」

文乃 「わたしにだって、わたしなりの悩みがありますよ」

あすみ 「……ま、そりゃそうか」

あすみ 「でも、後輩はお前みたいな正統派美少女がタイプなんじゃないか?」

文乃 「え……?」

カァアアアア……

文乃 「い、いきなり何を言うんですか、先輩……」

あすみ 「顔真っ赤にしちまって、かわいーなー、古橋?」 ニヤニヤ

文乃 「ま、前も言いましたけどね、わたしはべつに、成幸くんのことなんて、なんとも思ってないですから!」

文乃 「ヘンなこと言うのも大概にしてください!」

あすみ 「へー。なんとも思ってない、ねぇ?」

あすみ 「なんとも思ってない男子のことを、名前にくん付けで呼ぶのかー。すごいなー。恐れ入ったわー」

文乃 「そ、それは……だから、ただの、姉弟ごっこで……」

あすみ 「ほぅ。じゃあ、姉弟ごっこをまだ続けてるのか?」

文乃 「そうではないですけど……」

153以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:19:16 ID:joxzYPf2
あすみ 「にひひ。じゃあお前は、姉弟ごっことやらが終わった後も、後輩を名前で呼びたいわけだ?」

文乃 「ち、違いますよ! なんとなくそうなっちゃっただけで……」

あすみ 「ふーん。まぁ、そういうことにしておこうかね」

文乃 「……むっ。そういう先輩こそ!」

文乃 「成幸くんから聞きましたよ! キス写真を撮ったり、ふたりきりで海に行ったりしたって!」

あすみ 「あん? 仕方ねーだろ。あいつには恋人役をやってもらってるんだから」

文乃 「先輩の事情は知りませんけど、事情があるからって、何とも思ってない相手に恋人役なんかやらせます?」

あすみ 「うっ……そ、そりゃ、まぁ……後輩のことは、べつにキライじゃないし……」

文乃 「嫌いじゃない? それって好きってことじゃないですか!」

あすみ 「なっ……何を言い出すんだお前は。好きなわけないだろ」

文乃 「へー! じゃあ言いますけど、わたし成幸くんにキス写メ見せてもらいましたけどね!」

あすみ (何見せてんだあいつ!?)

文乃 「顔真っ赤にしてる成幸くんに誤魔化されがちですけど!!」

文乃 「先輩の顔もほんのり赤みがかってましたからね!? 恥ずかしそうに!」

あすみ 「なっ……そ、そんなわけねーだろ!!」

154以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:19:58 ID:joxzYPf2
文乃 「っていうかさっきケータイの待ち受け、ちらっと見ちゃいましたけど!!」

文乃 「先輩、成幸くんとのキス写メを待ち受けにしてますよね!?」

あすみ 「なっ……ち、ちがっ、こ、これは……っ」

あすみ 「お、親父を誤魔化すための、小細工、っつーか……その……」

文乃 「………………」

ハッ

文乃 「……す、すみません、先輩。言いすぎました。つい白熱しちゃって……」

あすみ 「いや、こっちこそすまん。アタシも言いすぎた……」

文乃 「………………」

あすみ 「………………」

文乃 「……あ、あの、先輩。これ、絶対、内緒ですけど……」

あすみ 「……ん?」

文乃 「正直言うと、わたし、成幸くんにときめいたこと、一度や二度じゃすまないくらい、あるんです」

あすみ 「えっ……」

155以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:20:36 ID:joxzYPf2
文乃 「好きとか聞かれると、わかりません……」

文乃 「でも、決して、嫌いじゃないというか……」

文乃 「成幸くんだったら、いいかな、なんて思うことも、時々合って……」

文乃 「でも、りっちゃんもうるかちゃんも成幸くんのことが好きだから」

文乃 「……こんな中途半端な気持ちじゃ、ふたりには勝てないって、わかるから……」

あすみ 「……そっか」

あすみ 「実は、アタシもそうなんだよ」

あすみ 「親父を誤魔化すためとか言いつつ、あいつとふたりで過ごす時間が楽しくてさ」

あすみ 「好きとか、そういう言葉にはできないけど……きっと、アタシはあいつを憎からず想ってる」

あすみ 「でも、あの緒方と武元が相手じゃな」

あすみ 「勝てるとも思えんし、そもそも自分に勝つ気があるのかもわからんし……」

文乃 「先輩……」

あすみ 「……アタシたち、似たもの同士だな」

文乃 「で、でも、先輩は家事が大得意だし、気配りもできるし、体力もあるし……」

文乃 「わたしにはないもの、たくさん持ってるから、きっと、成幸くんだって……」

156以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:21:23 ID:joxzYPf2
あすみ 「そんなの、さっきと一緒だろ。お前が持ってて、アタシが持ってないものだってたくさんある」

あすみ 「アタシはお前みたいに綺麗じゃないしさ。お前みたいにおしとやかでもない」

文乃 「なっ……!」 ムカッ 「だから、先輩はキレイですって! すごい美人のくせに、何言ってるんですか!!」

文乃 「わたしなんて、お菓子食べてばっかりのおデブなのに……!!」

あすみ 「なっ……」 カチン 「お前いい加減にしろよ!? あたしみたいなちんちくりんを前にして、自分をまだ卑下するか!?」

あすみ 「お前がデブだと!? それなら人類ほぼ全員デブだよ!!」

ギュッ

文乃 「ひゃっ……/// お、お腹に手を回さないでください!」

あすみ 「こんなに細いウエスト回りのくせに、何がデブだ!!」

文乃 「せ、先輩こそ! 何がちんちくりんですか!! 実は身長に対して脚すごく長いくせに!!」

文乃 「顔だって小さいし、すごい美人さんだし……何より!!」

ムニュッ

あすみ 「なっ……/// き、急に胸を揉むな!!!」

文乃 「先輩細いから目立たないけど、アンダーに対してトップ結構ありますよね!?」

文乃 「カップ的には大したことないかもしれないけど、これ実はかなりの胸ですよ!?」

157以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:22:07 ID:joxzYPf2
あすみ 「な、何をぅ〜〜〜!!」

あすみ 「この正統派美少女! おしとやか!! 黒髪美人!!!」

文乃 「こっちだって負けませんよ!!」

文乃 「かわいいのにキレイ! くびれもある!! 胸もある!!!」

あすみ 「ぬぬぬ……!!!」

文乃 「ぐぐぐ……!!!」

あすみ 「この!! こうなったら夜通しお前のいいところ言いまくってやる」

文乃 「望むところですよ! 先輩のいいところで言い負かしてやります」

バチバチバチバチ……!!!

158以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:22:40 ID:joxzYPf2
………………翌朝

チュンチュンチュン……

文乃&あすみ 「「………………」」 ズーン

文乃 「……あ、あの先輩」

あすみ 「おう……」

文乃 「……昨晩のことは、お互い、忘れましょう」

あすみ 「そうだな。忘れた方がいいな」

あすみ 「お互いのいいところを言い合っていたら、いつの間にか変な雰囲気になって……」

あすみ 「……チョメチョメ……しちゃったなんて……」

文乃 「なっ……/// なんで言うんですか……」 ウルウル

文乃 「せっかく忘れようとしてたのに……忘れられなくなっちゃったじゃないですか……///」

あすみ 「……忘れる気なんてなかったくせに」

ガバッ

文乃 「あっ……せ、先輩……///」

あすみ編おわり

159以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:23:20 ID:joxzYPf2
………………一ノ瀬学園 化学室

紗和子 「……ぐすっ、えぐっ……」

紗和子 「それでね、ひどいのよ、緒方理珠……」

紗和子 「私は、緒方理珠のことを思って、突き飛ばしたのに……」

紗和子 「“キライです” だなんて……」

紗和子 「えぐっ……」

文乃 「よしよし。つらいね。いやだね。大丈夫だよ、紗和子ちゃん」

文乃 「きっとりっちゃんも本心からの言葉じゃないからね……」

紗和子 「うぅ……うわぁああああああああああああああん」 ガバッ

文乃 「……っとと。おー、よしよし」 ナデナデ

文乃 (なんでわたし、紗和子ちゃんの相談受けて抱きつかれてるんだろう……)

文乃 (まぁ、いいけどさ……)

ムラッ

文乃 (……よく見たら、紗和子ちゃんってすごくおとなっぽくてきれいだよね)

160以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:24:03 ID:joxzYPf2
紗和子 「うっ……ぐすっ……」

文乃 「………………」

ゴクリ

文乃 (そんな子が、自分の胸の中で泣いてるって考えると……)

ゾクゾクッ

文乃 「……ねぇ、紗和子ちゃん」

紗和子 「……な、なに?」 ウルウル

文乃 (あっ、涙目で上目遣い。超可愛い。うん。もうむり)

ギュッ

紗和子 「えっ……? ふ、古橋さん……?」

文乃 「今は、“文乃” って呼んで?」

紗和子 「ふぇっ……?」

文乃 「今から、りっちゃんのことなんて忘れさせてあげる」

161以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:24:43 ID:joxzYPf2
………………翌朝

チュンチュンチュン……

文乃 「……ふぅ」

紗和子 「でへ、でへへ……」

紗和子 「文乃様ぁ……でへへ……」

文乃 「紗和子ちゃんの攻略難度、低すぎだよ。チョロいね」

文乃 「でもまぁ、悪くなかったし……」

ニヤリ

文乃 「ほら、起きて、紗和子ちゃん。もう一戦、行くよ?」

紗和子 「あっ……ふ、文乃様……っ」

紗和子編おわり

162以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:25:31 ID:joxzYPf2
………………唯我家

文乃 「あなたはだんだん、わたしのことをお兄ちゃんだと思うようになーる」

水希 「うっ……」

ブラン……ブラン……

水希 (だ、ダメよ。催眠術なんかに負けちゃ……)

水希 (この人はお兄ちゃんをたぶらかそうとする、女……)

水希 (決して、お兄ちゃんなんかじゃ――)

文乃 「どうしたんだ、水希? 俺だよ? 成幸だよ?」

水希 (あっ……)

水希 「………………」

水希 「……えへへ、お兄ちゃん♪」 ギュッ

文乃 「よしっ」

文乃 (……でも、さすがに中学生相手に朝チュンは犯罪だからやめとこう)

水希編おわり

163以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:26:01 ID:joxzYPf2
………………深夜 古橋家

文乃 「………………」

パチッ

文乃 「………………」

ガバッ

文乃 「は、はぁあああああああああああ!?」

文乃 (なんてアホな夢を見たのかな、わたしは!?)

ドキドキドキドキ……

文乃 「ゆ、夢だよね……? 夢でよかった……」

? 「……? どうかしたの、文乃?」 モゾッ

文乃 「いや、ちょっと怖い夢をみちゃって……」

文乃 「……えっ? う、うるかちゃん!?」

うるか 「もー、うるさいなー。ゆっくり寝られないよー」 ギュッ

理珠 「まったくです。ほら、ぎゅってしてあげますから、怖い夢なんかわすれましょう」 ムギュッ

文乃 「りっちゃんまで!?」

164以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:26:37 ID:joxzYPf2
真冬 「……まったく。いつまでたっても子どもなのだから」 ギュッ

あすみ 「ま、そんなところもかわいいんだけどな……」 ギュッ

紗和子 「文乃様ぁ、私の方にも来てください……っ」 ギュッ

水希 「お兄ちゃん。わたしがなでなでしてあげるね」 ナデナデ

文乃 「う、うそ……」

ガタガタガタガタ……

文乃 (全部夢じゃなかったの!? 現実!?)

文乃 (わたしほんとに全員に手を出して全員に惚れられたのーーー!?)

うるか 「えへへ、文乃。あたし、幸せだよ」

理珠 「私もです。幸せですよ、文乃」

真冬 「文乃さん。あなたは私が守るわ」

あすみ 「家事なら任せろ。お前の身の回りの世話は全部アタシがやってやる」

紗和子 「私は文乃様の犬です……はぁはぁ……」

水希 「お兄ちゃんのためだったら、わたしなんでもするからね」

文乃 「た、たたた……」 ブルブルブル 「助けてーーーーーーー!!」

165以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:27:14 ID:joxzYPf2
………………幕間 「全部夢です」

文乃 「ひっ……た、助け……助けて……」

成幸 「………………」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「……どんな怖い夢を見てるのか知らないけどな」

成幸 「勉強中に寝るなー!!! 早く起きろ古橋ーーーーー!!!」


おわり

166以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:31:09 ID:joxzYPf2
>>1です。
読んでくださった方、ありがとうございました。

そして本当にごめんなさい。申し訳ない気持ちで一杯です。
まとめサイトの方。まとめていただいても構いませんが、
>>115>>116の注意書きの部分も載せてもらえると助かります。
それから、念のため、桐須先生編で文乃さんが飲んでいるのは気分が良くなるジュースです。お酒ではありません。


>>112さんのご指摘も真摯に受け止めて、今後のSSに生かしたいと思います。

アホな話を書いてしまいましたが、また懲りずに読んでいただけたら嬉しいです。

ではまた、折を見て投下します。

167以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/13(火) 12:59:57 ID:GoDNbc2k
この投稿頻度はほんとすごい

168以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/13(火) 22:06:34 ID:4XzavnYU


>>112だけど、文句言っといてあれだけど>>1の好きに書くのが一番だと思ってるよ。
前スレの含め全作品楽しんで読んでます。

169以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:17:19 ID:VRyh5Eec
ゆりゆりや

170以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:35:35 ID:xdZFqhxY
>>1です。
投下します。



【ぼく勉】 紗和子 「あのときの私のように」

171以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:36:31 ID:xdZFqhxY
………………公園

紗和子 「………………」

ゴクッ……

紗和子 「……ふぅ」

紗和子 (放課後に公園で飲む缶コーヒーは格別ね)

ワーワーワー……

紗和子 「……ふふっ。この公園は小さなサッカーコートがあるのね。フットサルって言うのかしら?」

紗和子 (遊び回る子どもたちを眺めながらコーヒーをすするというのもまた趣深いわね)

紗和子 (……サッカーはあまり得意ではなかったけれど、やるのは楽しかった憶えがあるわ)

紗和子 (小学生くらいのときは、私もあんな風に遊び回っていたかしら)

紗和子 (男の子と女の子がいりまじって遊んでるのね。楽しそうでうらやましいわ)

紗和子 (……なんて、高校生の私が考えることじゃないかしら)

172以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:37:02 ID:xdZFqhxY
紗和子 (……いつからかしら。あんな風に遊べる友達が、いなくなってしまったのは)


―――― 『またガリ勉関城が平均点上げてるよ』

―――― 『平均点以下の奴補習だってさ』

―――― 『うえーっ』

―――― 『もっと空気読んでくれよー』


紗和子 「っ……」

紗和子 (……いけない。いやなことを思い出してしまったわ)

紗和子 「………………」

紗和子 (小学校の頃は、何も考えなくてよかったのに)

紗和子 (遊ぶのも勉強するのも、どちらも楽しくて……)

紗和子 (でも、中学校にあがって、勉強がすごく楽しくて……でも……)

173以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:40:57 ID:xdZFqhxY
紗和子 「………………」

紗和子 (やめましょう。考えても詮無いことだわ)

紗和子 (それに、今は緒方理珠たちと一緒で、とても楽しいし……)

コロコロコロ……

紗和子 「あら?」

ヒョイッ

紗和子 (サッカーボール? あの子たちがこっちに蹴飛ばしてしまったのね)

クスッ

紗和子 (仕方ない。投げ返してあげるとしましょうか……――)


「――おまえ、いい加減にしろよ!」


紗和子 「えっ……?」

紗和子 (さっきまでサッカーをしていた子たちが、言い争ってる……?)

174以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:41:27 ID:xdZFqhxY
女の子 「な、なんだよ……! なんでそんなに怒ってるんだよ!」

男子1 「さっきだって言っただろ! それじゃこっちが楽しくないって!」

男子2 「そうだよ。またひとりでドリブルして、ゴールして……」

男子3 「おまえと同じチームになるとボールが回ってこなくてつまらないし」

男子4 「おまえと敵になると、ドリブルだけで抜かれるからどうしようもないんだよ」

女の子 「そ、そんなの……」 ギリッ 「そんなの、ヘタクソなおまえらが悪いだけだろ!」

女子1 「ひっ……」 グスッ 「わ、わたしだって、好きでヘタなわけじゃない、のに……」

女の子 「あっ……ち、違う。きみに言ったわけじゃなくて……」

男子1 「ふん。じゃあ俺たちに言ったのかよ」

女の子 「っ……」

男子2 「……なぁ、もう帰ろうぜ。これ以上言っても、こいつにはわかんないよ」

男子3 「だな。ほら、泣き止めって……」

女子1 「えぐっ……ひぐっ……」

男子1 「……じゃーな」

女の子 「………………」

175以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:42:15 ID:xdZFqhxY
紗和子 「………………」

ドキドキドキドキ……

紗和子 (と、とんでもないものを見てしまった気がするわ……)

紗和子 (っていうか、このサッカーボール、どうしたらいいかしら?)

紗和子 (子どもたちは帰ってしまうようだし、拾ってしまった手前、また置くのもはばかられるし……)

女の子 「………………」

チラッ

女の子 「あっ……」

紗和子 「……!?」 (め、目が合った……)

女の子 「………………」 トトトトト……

女の子 「……すみません。拾ってくれたんですね。ありがとうございます」

紗和子 「あ……ど、どういたしまして」

176以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:42:51 ID:xdZFqhxY
………………しばらくして

女の子 「………………」

ポーン……ポーン……ポーン……

紗和子 「………………」 (あれからしばらく経つけど……)

紗和子 (あの子、他の子たちがいなくなってからずっと、ひとりで壁に向かってボールを蹴ってるわ)

紗和子 (受験生としては、そろそろ帰って勉強をしたいところだけれど……)

女の子 「………………」

紗和子 (……あの子の悲しそうな顔が気になって、帰る気にならないのよね)

紗和子 (まぁ、勉強道具がないわけではないし……)

紗和子 (近くの自販機で缶コーヒーならいくらでも買えるわけだし)

紗和子 (しばらくここで勉強していこうかしら)

177以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:43:29 ID:xdZFqhxY
………………

女の子 「………………」

ポーン……ポーン……ポーン……

女の子 (……なんだよ、あいつら)

女の子 (こっちは全力でサッカーやってるだけなのに)

女の子 (何が、おまえとやるとつまらない、だよ!!)

女の子 (男のくせに、わたしよりヘタクソなおまえらが悪いんだろうが!!)

スカッ…………

女の子 (あっ……!?)

女の子 (しまった、目測誤った……バランスが……)

ドテッ……!!!

女の子 「……いてててて……」

女の子 (しまった。少し手を擦りむいちゃったな……)

女の子 (少し血が出てるけど、まぁこれくらいなら……――)

「――ちょっと! 大丈夫!?」

178以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:44:04 ID:xdZFqhxY
女の子 「えっ……?」

女の子 「さっき、ボールを拾ってくれたお姉さん……?」

紗和子 「大変! 血が出てるじゃない! ほら、水道で洗うわよ」

ギュッ

女の子 「あっ……」 アセアセ 「こ、これくらい平気ですよ……」

紗和子 「ダメよ。ばい菌が入ったら大変だわ。破傷風って怖いのよ?」

紗和子 「きちんと洗って消毒をしないといけないわ!」

女の子 「わ、わかりました……」

女の子 (制服の上に白衣を着ていて、変なお姉さんだけど……)

女の子 (ボールも拾ってくれたし、良い人なのかな……)

179以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:44:36 ID:xdZFqhxY
………………

紗和子 「……うん。傷口はしっかり洗って、エタノールで消毒して、絆創膏もしっかり貼れたわね」

紗和子 「ふふ。我ながらかんぺきな処置だわ」

女の子 「……どうして消毒液や絆創膏を持ち歩いているんですか?」

紗和子 「そんなの決まってるわ! 私が化学部部長だからよ!」

バーン!!!

女の子 (よ、よく分からない人だ……)

紗和子 「………………」

紗和子 (……さっきの口論のこととか、聞きたいけれど、)

紗和子 (きっと私が関わるべきことじゃないわね。子どもだもの。きっと翌日には仲直りしてるわね)

紗和子 (出過ぎたことをするものではないわね。そろそろ帰りましょうか)

紗和子 「……では、私は帰るわ。あなたももう暗くなるから、早く帰りなさい」

女の子 「あっ……は、はい。もう帰ります」 ペコリ 「お姉さん、本当にありがとうございました」

紗和子 「いえいえ。気にしなくていいわ。じゃあね」

180以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:45:36 ID:xdZFqhxY
………………夜 紗和子の部屋

紗和子 「………………」

紗和子 (あの女の子、大丈夫かしら?)

紗和子 (私が遠目で見ていた限り、あの子が数人のお友達に一方的に責められているように見えたけど……)

紗和子 (その後、あの子以外の子たちは、公園からすぐにいなくなってしまったし)

紗和子 (まるで、あの子ひとりを置いてけぼりにするように……)

ハァ

紗和子 (……ダメね。あの女の子のことが気になって、まったく勉強に集中できないわ)

181以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:46:18 ID:xdZFqhxY
紗和子 (勝手な話だわ。私、きっと……)


―――― 『またガリ勉関城が平気点上げてるよ』

―――― 『もっと空気読んでくれよー』


紗和子 (あの子と昔の自分を、重ねているんだわ)

紗和子 (余計なお世話。ただの杞憂。そんなの分かってるわ)

紗和子 (でも、どうしても、あの子がひとりで寂しそうにサッカーボールを蹴る姿が……目に焼き付いて離れない)

紗和子 (あの子が辛い思いをしているんじゃないかと思うと、心配でたまらない……)

紗和子 (……あのときの私のように)

182以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:46:48 ID:xdZFqhxY
………………翌日 一ノ瀬学園

理珠 「関城さん」

紗和子 「あら、緒方理珠。何か用かしら?」

理珠 「用と言うほどのことではないのですが……」

理珠 「今日の放課後、息抜きがてら文乃たちと41アイスにでも行こうかと話しています」

理珠 「関城さんも一緒にどうですか?」

紗和子 「えっ……」

紗和子 「わっ、私も誘ってくれるの……?」

理珠 「……もちろんです」

プイッ

理珠 「関城さんも、私の友達……ですから」

紗和子 「緒方理珠……」 ジーン

紗和子 「嬉しいわ! もちろんご一緒させてもら――」


―――― 『お姉さん、本当にありがとうございました』

183以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:47:34 ID:xdZFqhxY
紗和子 「………………」

紗和子 (……どうして、あの子の寂しそうな顔がちらつくのかしら)

理珠 「……? 関城さん?」

紗和子 「……ありがとう、緒方理珠。残念だけど、今日は予定があるの」

紗和子 「だから、私抜きで行ってらっしゃい」

理珠 「そうですか……」 シュン 「残念です。また今度、一緒に行きましょうね」

紗和子 「ええ。ありがとう。その言葉だけでおなかいっぱいな気分だわ」

紗和子 (……きっと、大したことなんてない)

紗和子 (これはただの杞憂で、余計なお世話で、ただの押しつけのお節介)

紗和子 (でも……)


―――― 『こ、これくらい平気ですよ……』


紗和子 (……仕方ないじゃない)

紗和子 (あの子の寂しそうな顔が、どうしても気になるのだもの)

184以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:48:32 ID:xdZFqhxY
………………放課後 公園

紗和子 「……結局、また来てしまったわ」

紗和子 (せっかくの緒方理珠のお誘いまで蹴って、一体私は何をしているのかしらね)

紗和子 (今日はサッカーをする子どもたちの喧噪は、ない……)

紗和子 (その代わり……)

女の子 「………………」

ポーン……ポーン……ポーン……

紗和子 (ひとりで、やはり寂しそうにボールを蹴るあの子の姿だけが、ある)

女の子 「……? あっ……」

紗和子 「……あっ」

紗和子 (……しまった。気づかれないようにしているつもりだったのに、目が合ってしまったわ)

女の子 「お姉さん、昨日はどうもありがとうございました」

紗和子 「どういたしまして。ケガはもう痛くない?」

女の子 「はい! もうかさぶたになっちゃいました!」

紗和子 「そう。良かったわ」

185以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:49:16 ID:xdZFqhxY
女の子 「……あっ、あの」

紗和子 「うん?」

女の子 「昨日のお礼がしたいです。何かさせてもらえませんか?」

紗和子 「お礼だなんて、そんな、気にしなくていいわよ」

紗和子 「傷を洗って消毒して絆創膏を貼っただけじゃない」

女の子 「でも、何もしないんじゃわたしの気が済まないです」

女の子 「お願いします! 何かさせてもらえませんか?」

紗和子 (うぅ……まっすぐな目をされると弱いわね)

紗和子 (小学生の女の子にしてもらうことなんて……)

紗和子 (……いいえ。プラスに考えるべきよ、関城紗和子。話をするチャンスだと)

紗和子 「……そうね。じゃあ……」

紗和子 「お姉さんね、受験生なの。だから、勉強ばっかりで嫌になってきちゃって……」

ニコッ

紗和子 「少し、話し相手になってもらってもいい?」

女の子 「話し相手……?」

186以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:49:50 ID:xdZFqhxY
………………公園 東屋

紗和子 「はい、ココアで良かったかしら?」

女の子 「あ、ありがとうございます。すみません。わたしがお礼をするはずなのに……」

紗和子 「ふふ。律儀な子なのね、あなた」

女の子 (改めて見ると……。白衣は変だけど、このお姉さん、すごくきれいだなぁ……)

紗和子 「? 私の顔に何かついてるかしら?」

女の子 「えっ……!?」 アセアセ 「な、なんでもないです。すみません……」

紗和子 「そう? ならいいけど……」

紗和子 「……さて、じゃあ、お話をする前に、ひとつあなたに謝らなければならないことがあるわ」

女の子 「……?」

紗和子 (さすがに少し恥ずかしいし、怖い気もするけれど……)

紗和子 「……ごめんなさい。昨日のお友達との喧嘩、実は少し、内容を聞いてしまったの」

女の子 「えっ……」

紗和子 「ごめんなさい。悪気はなかったのよ」

女の子 「………………」 プイッ 「……べつに、いいですけど」

187以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:50:33 ID:xdZFqhxY
紗和子 「ありがとう。それでね、その話を、あなたに聞きたいの」

女の子 「……お姉さんにお話するようなことはないですよ」

紗和子 「あなた、サッカーがとても上手なのね。でも、お友達はそこまでじゃない……」

紗和子 「だから、妬まれて、喧嘩になったのね?」

女の子 「………………」

紗和子 「……ごめんなさい。こんなこと、私が言うのは筋違いだと分かっているけれど、言わせてね」


紗和子 「あなたは何も悪くないわ」


女の子 「え……?」

紗和子 「それだけは言っておきたかったの」

紗和子 「あなたは何も悪くないわ。だから、そんな悲しい顔をしないで」

紗和子 「お願いだから、そんなつらそうな顔をしないでちょうだい」

188以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:51:12 ID:xdZFqhxY
………………公園近く 道路

成幸 (ふー、今日はあいつらの 『教育係』 をしなくていい日だから気が楽だな)

成幸 (にしてもあいつら、41アイスに行くとか言ってたけど、お気楽だな)

成幸 (受験までそう日にちはないってことをわかってんのか? 心配だ……)

成幸 (……いかんいかん。あいつらのお守りをしなくていい日くらい、あいつらのことなんか忘れよう)

成幸 (さっさと家に帰って、あいつら用の教材を完成させないと……)

ガクッ

成幸 (……結局、あいつらの勉強で忙殺されるのな、俺)

成幸 (ま、いいけどさ……ん?)

成幸 (……あの公園のベンチに座ってるの、関城? 隣は……し、小学生くらいの女の子か……?)

成幸 (……あの関城が、幼い少女と一緒にいる……?)

成幸 「………………」

成幸 (……犯罪臭しかしないな!?)

189以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:51:51 ID:xdZFqhxY
………………

女の子 「つ、つらそうな顔なんてしてないです……」

紗和子 「してるわ。思い悩んでるような顔。ボールを蹴ってるときも、ずっと……」

紗和子 「だから言ってあげたかったの。あなたは悪くないって」

紗和子 「だって、あなたはサッカーが好きで、たくさん練習したんでしょう?」

紗和子 「今日みたいに、ひとりのときだって、壁に向かってボールを蹴ってきたのでしょう?」

紗和子 「だったら上手で当然だわ。それをやっかんで、ひどいことを言って……」

紗和子 「そんなの、絶対に許されることではないわ! あなたは何も悪くないのよ!」

女の子 「………………」

女の子 「……たしかに、わたし、サッカーが好きです」

女の子 「ひとりでもたくさん練習しました。だから、クラスで一番サッカーが上手になったんだと思います……」

190以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:52:33 ID:xdZFqhxY
女の子 「……でも、わたしと同じチームでも敵でもつまらないって……」 グスッ

紗和子 「……つらかったわね。いいのよ、そんな言葉、気にしなくて」

紗和子 「あなたは悪くない。あなたは……――」


女の子 「――……違います。そうじゃ、ないんです」


紗和子 「えっ……?」

女の子 「たしかに、みんなに言われたことは、嫌でした……」

女の子 「でも、みんながそう言うのも、わかるんです……」

女の子 「だってわたし、みんなよりサッカーが上手だってわかってるのに……」

女の子 「ひとりでボールを無駄にキープしたり、わざと相手をおちょくるようなトリックをしたり……」

女の子 「……みんなが嫌がるってわかってて、そういうこと、しちゃったから……」

紗和子 「………………」

女の子 「……お姉さん、ありがとうございます。わたしのことを、“悪くない” って言ってくれて」

ニコッ

女の子 「おかげで、認められる気がします。わたし、悪かったんです。だから、みんなにちゃんと謝ります」

191以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:53:41 ID:xdZFqhxY
紗和子 「……そう?」

紗和子 「お役に、立てたなら、嬉しいわ……」

女の子 「はい!」

女の子 「……ココア、ごちそうさまでした! お話も聞いてくれてありがとうございました!」

女の子 「わたし、みんなに謝りに行って来ます!」

紗和子 「……ええ。いってらっしゃい」

女の子 「はい。お姉さん、さようなら」 タタタタタ……

紗和子 「………………」 (……行ってしまった)

紗和子 (私……)

紗和子 「……私は、なんてバカなのかしら」

紗和子 (本当に、なんてバカな……――)


「――バカじゃないだろ」


紗和子 「えっ……?」

192以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:54:27 ID:xdZFqhxY
紗和子 「ゆ、唯我成幸!?」

成幸 「よっ、関城」

紗和子 「どうしてここに……?」 カァアアアア…… 「っていうか、今の話、ひょっとして聞いてたの!?」

成幸 「……ああ。悪いけど、聞かせてもらったよ。ごめんな」

紗和子 「なっ……なななっ……」

紗和子 (私が小学生相手に力説してる姿を見られた……!?)

紗和子 (は、恥ずかしくて死にそうだわ……)

成幸 「……道路からさ、お前が小学生の女の子と話してるのが見えたから」

成幸 「お前がとうとう緒方の代わりに小学生によからぬことをしようと決意したのかと思って見張ってたんだよ」

紗和子 「あなた私のことをなんだと思ってるのかしら!?」

成幸 「結果的に盗み聞きをしたみたいになってしまった。それは本当にすまん」

成幸 「……オホン。まぁ、それは置いておくとして、だ」

成幸 「立派だったな。どういう関係かしらないけど、あの子、お前と話したおかげで元気が出たみたいだったぞ?」

紗和子 「………………」

紗和子 「……私は何もしてないわよ」

193以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:55:09 ID:xdZFqhxY
成幸 「…… “あなたは悪くない”」

紗和子 「……何よ? からかってるの?」 ジトッ

成幸 「大真面目だよ。ああやって、自分のことを肯定してもらえたら、誰だって嬉しいだろ」

成幸 「だからあの女の子だって、自分の非を素直に認められたんだろ」

成幸 「だから、お前は本当にすごいよ、関城」

紗和子 「……違うわよ。私は、そんなことを考えて、あんなことを言ったわけじゃないもの」

紗和子 「私はただ単純に、あの子に、私を重ね合わせていただけだわ」

成幸 「……?」

紗和子 「……少し昔ばなしをするわね」

成幸 「昔ばなし……?」

紗和子 「ええ。昔ね、勉強が大好きな女の子がいたの。中学生の女の子よ」

紗和子 「その子は特に理科が好きでね、がんばって勉強をしていたの」

紗和子 「でもね、その子が勉強をがんばればがんばるほど、クラスメイトは嫌な顔をしたわ」

紗和子 「“平均点を無駄に上げるな” とか、“勉強ができたって仕方ない” とか……」

紗和子 「女の子はそんなクラスメイトの声が嫌になって、教室に行かなくなっちゃったわ」

194以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:55:56 ID:xdZFqhxY
成幸 「なんだそれ! ひどい話だな!」

紗和子 「……そうね。ひどいと思ったわ」


―――― ((どうして…… 勉強できてほめられるんじゃなくて バカにされなきゃいけないのよ))


紗和子 「その子はずっと、そう思っていたわ」

紗和子 「……でもね、そうじゃなかったかもしれないって。最近そう思うの」

紗和子 「その子はもっとうまくできたんじゃないか、って」

紗和子 「バカにされたって、気にしなければいい。ううん。笑い返してあげればよかったかもしれない」

紗和子 「そもそも彼らにしてみれば、ただの冗談だったのかもしれない」

紗和子 「それを本気にして、ひとりで嫌な気持ちになって、逃げていただけなのかもしれない……」

紗和子 「……最近、その子はそう思うのよ」

成幸 「………………」

195以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:56:51 ID:xdZFqhxY
紗和子 「あの女の子が友達と喧嘩してる姿を見て、昔ばなしの女の子のことを思い出したの」

紗和子 「ああ、ふたりはきっと、同じなんだ、って」


―――― ((あの子が辛い思いをしているんじゃないかと思うと、心配でたまらない……))

―――― ((あのときの私のように))


紗和子 「……でも、違ったわ。私の勝手な勘違いだったわ」

紗和子 「だって、あの女の子は自分の非を自分で認められていたわ」

紗和子 「昔ばなしの女の子だって、ひょっとしたら、勉強ができることを鼻にかけていたかもしれない」

紗和子 「勉強ができない回りを見下していたかもしれない」

紗和子 「……自分のことを棚に上げて、だから周囲から孤立していただけかもしれない」

紗和子 「あの子は偉いわ。昔ばなしの女の子とは、違う……」

紗和子 (私とは、全然……違う……)

196以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:59:15 ID:xdZFqhxY
成幸 「………………」

ハァ

成幸 「……何言ってんだ。そんなの当たり前だろ」

紗和子 「えっ……?」

成幸 「性格だって環境だって何だって違うだろ」

成幸 「あの女の子には、たしかに友達に対して非があったかもしれない」

成幸 「でも、だからといって昔ばなしのその子にも、クラスメイトに対して非があったとは限らないだろ」

成幸 「その子は悪口みたいな冗談に言い返せるような性格だったか?」

成幸 「その子はクラスメイトのことを見下すような性格だったか?」

成幸 「……あの女の子と昔ばなしのその子は違うよ。全然違うよ。違うに決まってるだろ」

成幸 「そうやって自分を責めるのはやめろよ。お前の大好きな緒方は、そんな風に考えるか?」

紗和子 「………………」 フルフル

成幸 「だろ? だから、俺じゃ不満だろうけど、お前があの子に言ってあげたみたいに、俺が言うよ」



成幸 「お前は何も悪くないよ、関城」

197以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 01:00:03 ID:xdZFqhxY
紗和子 「………………」

ウルッ……

紗和子 「……!?」 (な、なんで涙が……でて……くるの?)

成幸 「せ、関城……!?」

紗和子 「ゆ、唯我成幸っ、向こうむいてなさい!!」

成幸 「大丈夫か? どこか痛いのか?」

紗和子 「あー、もう! このニブチン男! 泣いてるから恥ずかしいから向こうむいてって言ってるの!」

成幸 「あっ……」 プイッ 「わ、悪い……」

紗和子 「……いいわよ、べつに」

グスッ……

紗和子 (……まったくもう。急に変なこと言うから……)

紗和子 (……どうしてくれるのよ)

ポタッ……ポタッ……

紗和子 (嬉しくて、涙が止まらないじゃない……)

198以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 01:01:24 ID:xdZFqhxY
………………しばらくして

成幸 「……もう大丈夫か? 関城」

紗和子 「大丈夫よ。何も問題ないわ」

成幸 「目、真っ赤だけどな……」

紗和子 「……デリカシーのない男ね。それは思っても口に出さないの」

成幸 「……悪い」

紗和子 「いちいち謝らないで。私がいじめてるみたいじゃない」

紗和子 (……まったく。どうしてこんなに鈍い男が)


―――― 『お前は何も悪くないよ、関城』


紗和子 「あんなに、嬉しい言葉をくれたんだか……」 ボソッ

成幸 「ん? なんか言ったか、関城?」

紗和子 「……なんでもないわ」 (どうせこの鈍い男は、何も察してはくれないし)

紗和子 (……でも、このままやられっぱなしってのも性に合わないわね)

紗和子 (そうだ。いいこと思いついたわ)

199以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 01:02:00 ID:xdZFqhxY
紗和子 「……ねえ、唯我成幸」

成幸 「うん?」

紗和子 「あなた、いつだかこんなこと言ってたわよね?」


―――― 『は 初デートはどこがいいかしら!?』

―――― 『なるべく金のかからないところが…… 公園とか』


成幸 「……お前、いきなり何の話を始めるんだよ」

紗和子 「いえいえ、奇しくも私は、あなたの希望通りのことをしてしまったと思ってね」

成幸 「?」

紗和子 「だってそうでしょう?」

クスッ

紗和子 「今日はふたりきりよ? あなたと私の初デートは、公園だわ」

成幸 「なっ……」 カァアアアア…… 「き、急に何を、変なことを……」

紗和子 (ふふっ……効いてる! 効いてるわ!)

200以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 01:02:50 ID:xdZFqhxY
成幸 「は、初デートって、そんな……」

成幸 「こんなの、ただ学校帰りにダベってるだけで、デートじゃ……」

紗和子 「へぇ? なるほど? これがデートじゃないなら、また今度公園デートでもしましょうか?」

成幸 「なっ……///」 プシュー

紗和子 (ふふふ。照れてる照れてる。じゃあ、最後にダメ押しを……)

紗和子 「どうせだし、いっそのこと私たち付き合っちゃう?」

成幸 「えっ……」

成幸 「あっ……、えっと……いや、その……そういうの、俺、よくわからないし……///」

成幸 「いや、でも……そっか。お前と……付き合う、かぁ……」

紗和子 「……?」 (えっと……? この反応は、一体……?)

成幸 「……そう、だな。お前と付き合ったら楽しそうだな。悪くないかもな」

紗和子 「へっ……?」 ボフッ 「……な、ななななな、何を、言ってるの!? 唯我成幸!?」

紗和子 「じ、冗談に決まってるでしょう!? バカなのかしら!?」

成幸 「じ、冗談!? えっ、あっ……」

成幸 「そ、そうだよな! 冗談に決まってるよな! び、びっくりしたー!」

201以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 01:03:25 ID:xdZFqhxY
紗和子 (ば、バカじゃないの……本当に……)

ドキドキドキドキ……

紗和子 (あなたと私が、付き合うなんて、そんなこと、できるわけないじゃない……)

紗和子 (だって私の大親友の、緒方理珠があなたのことを好きなのだから)

紗和子 (だから、絶対に違う。このドキドキは……)

ドキドキドキドキドキドキドキドキ……

紗和子 (違うわ。この男にドキドキしているわけでは、断じてない)

紗和子 (緒方理珠の好きな人のことを、好きになったりは、絶対しない)

ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ……

紗和子 (あーっ、もう!!)

紗和子 (いい加減静まりなさいよ!! 心臓!!)

202以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 01:05:15 ID:xdZFqhxY
………………小学校 グラウンド

女の子 「……パス行くぞー!」

男子1 「よっしゃ任せろー! ……と見せかけて、スルー!」

女子1 「えへへ。このままゴールまで持ってくよー!」

女の子 「ナイススルーパス!」 (……楽しい。やっぱり、こうやって、みんなと一緒にサッカーができるから、楽しいんだ)

女の子 (名前も聞きそびれちゃったけど、あの白衣のお姉さんのおかげだよ)


―――― 『あなたは何も悪くないわ』


女の子 (あのお姉さんの言葉が、すごく嬉しかった)

女の子 (だからこそ、わたしは、自分の嫌なところを、素直に謝ることができた……)

女の子 「………………」 (あのお姉さんの制服、一ノ瀬学園の制服だよね)

女の子 (お母さんが言ってた。一ノ瀬学園はすごくレベルが高くて、勉強についていくのも大変だって)

女の子 (……勉強、がんばろう。あのお姉さんもきっと、たくさんがんばって、一ノ瀬学園に行っただろうから)

女の子 (わたし、あの人と同じ高校に行く! そしていつか……あの人のように、なりたい!)

おわり

203以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 01:05:48 ID:xdZFqhxY
………………幕間 「41アイス」

文乃 「はぁ〜〜〜」 キラキラキラ

文乃 「夢の五段重ねなんだよ……」

ムシャムシャムシャ……

文乃 「ん〜〜〜〜〜、どのフレーバーも美味しい〜〜〜〜〜〜最高だよ!!」

理珠 「ふ、文乃? 急いで食べ過ぎではありませんか?」

うるか 「そうだよ文乃っち。アイスは味わって食べないと、お腹壊しちゃうよ?」

文乃 「ふたりとも何を言ってるの!? 今日は41デーだよ!? アイスの割引がきくんだよ!?」

文乃 「もちろん全フレーバー食べるでしょ!? だったらそんな悠長なことは言ってられないよ!?」

理珠&うるか 「「えっ」」

文乃 「さぁ、次の五段重ねは……これと、これとこれとこれ……あとこれ!! お願いします!!」

うるか 「………………」 ゲッソリ 「……先、帰ろっか、リズりん」

理珠 「賛成です、うるかさん」

文乃 「ん〜〜〜〜〜〜、この組み合わせも美味しい〜〜〜〜最っ高〜〜〜〜!!」 ムシャムシャムシャムシャムシャムシャ

おわり

204以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 01:06:59 ID:xdZFqhxY
>>1です。
読んでくれた方、ありがとうございました。

毎度のことながら終盤駆け足になってしまって申し訳ないです。
乙や感想ありがとうございます。本当に励みになります。

また投下します。

205以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 12:23:37 ID:hR1cadJc
いい話だなぁ

206以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 23:44:01 ID:7CXMf8Y6
そういや先輩もレズさんも理科系科目だったが被り?

207以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:38:28 ID:feM66L2E
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】 あすみ 「ニセモノの恋人」

208以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:39:35 ID:feM66L2E
………………とある休日 街中

あすみ 「……ふー」

小美浪父 「ん、どうした? 疲れたような声を出すなんてめずらしい」

小美浪父 「インフルエンザの出張予防接種、そんなに疲れたか?」

あすみ 「いや、ずっとかしこまってたら肩こっただけだよ」

小美浪父 「? お前、たしか接客業のバイトをやっているんじゃなかったか?」

小美浪父 「普段からかしこまることも多いだろうに」

あすみ (やべっ……)

あすみ (接客業っつっても、客相手にゲームして稼ぐようなメイド喫茶だからかしこまるも何もねーよ)

あすみ (……なんて言えるわけねーし、適当に誤魔化さなきゃな)

あすみ 「ん、まぁ……今日は会社にお邪魔したし、さすがにいつもより緊張するさ」

小美浪父 「……それもそうか」

あすみ (……ほっ。誤魔化せたみたいだ)

小美浪父 「まぁ、うちみたいな小さな診療所は、こういう予防接種が収入の大半を占めるからな」

小美浪父 「毎年うちに連絡をくれるあの会社さんには、頭が上がらないよ」

209以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:40:16 ID:feM66L2E
小美浪父 「ともあれ、せっかくの休日に手伝ってもらって、悪いな」

あすみ 「いいよ。浪人生に平日も休日もないからな」

あすみ 「それに、いつかアタシが継がなくちゃいけない仕事だしな」

あすみ 「今のうちから、手伝いをしておいて損はないだろ?」

小美浪父 「……はぁ。まったく、おまえも諦めが悪いな」

あすみ 「あきらめも何もねーよ。アタシは絶対医者になって、あの医院を継ぐからな」

小美浪父 「勝手にしろ」

あすみ 「勝手にするよ」

あすみ&父 「「………………」」

小美浪父 「……もう昼過ぎか」

小美浪父 「バイト代のかわりだ。どこかで昼ご飯でも食べて帰るか」

あすみ 「……ん。食べる」

小美浪父 「あのレストランでいいか?」

あすみ 「レストランて……間違いじゃないけど、ファミレスって言えよ。恥ずかしいな……」

210以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:41:01 ID:feM66L2E
………………ファミレス ジョモサン

ワイワイガヤガヤ……

あすみ 「なんだ、えらく混んでんな」

小美浪父 「まぁ、休日の昼過ぎだ。こんなものだろう」

あすみ 「ま、勉強でもしながら待つからべつにいいけどさ」

店員 「あの、お客様」

小美浪父 「うん? なんですか?」

店員 「相席でよろしければ、すぐに席が用意できますが……」

小美浪父 「む、本当ですか。あすみ、どうする?」

あすみ 「どっちでもいいけど、腹も減ってるし、すぐ食えるならそれに越したことはないかな」

小美浪父 「それもそうだな。では、相席をお願いします」

店員 「わかりました。では、ご案内致します」

211以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:42:01 ID:feM66L2E
あすみ (相席か。まぁ、混んでるし仕方ないよな)

店員 「こちらの席になります」

店員 「では、お客様、注文が決まりましたらお呼びください」

小美浪父 「いや、すみません。相席になってしまって。失礼します」

成幸 「あ、いやいや、混んでるし仕方ないですよ。どうぞどうぞ」

小美浪父 「あっ」

成幸 「えっ」

あすみ 「……後輩?」

成幸 「えっ、せ、先輩とお父さん!?」

あすみ 「……こりゃまたすげー偶然だな」 (ってことは……)

葉月 「あっ、メイドのお姉ちゃん!」 和樹 「おひさー!」

あすみ 「よー、おチビちゃんたち。おひさー」 (……で、あっちが)

花枝 「えっ? どういうこと?」 パァアアアアアア 「あんなに綺麗な子とどこで知り合ったのよ、成幸!」

水希 「また新しい女が……」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

あすみ (あれが、後輩のお母さんと中学生の妹か……)

212以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:42:50 ID:feM66L2E
………………

小美浪父 「いやいや、すみません。まさか相席の相手が唯我くん――いや、成幸くんのご家族だったとは」

花枝 「いえいえ、いつも成幸がお世話になっています」

小美浪父 「とんでもない! いつも世話になってるのは私と私の娘ですよ」

あすみ 「……おい、後輩」 コソッ

成幸 「なんですか、先輩」 コソッ

あすみ 「この状況、とてつもなくヤバいと思うのはアタシだけか?」

成幸 「何言ってんですか、先輩。俺なんかさっきから冷や汗とまりませんからね」

あすみ 「だよなぁ……」 (っつーか……)

小美浪父 「本当に、成幸くんにはいつもお世話になってるんです」

小美浪父 「娘が連れてきた彼氏が、こんなに良い青年で、本当に良かったですよ」

水希 「えっ? えっ? えっ? えっ? えっ? えっ?」

葉月&和樹 「「彼氏!?」」

花枝 「……あらあら、まぁまぁ……」 パァアアアアアア……!!! 「こんなにきれいな娘さんが、成幸の彼女……」

花枝 「よくやったわ、成幸!」

213以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:44:10 ID:feM66L2E
あすみ (まぁこーなるよな……)

小美浪父 「あれ? 成幸くんから娘の話は聞いていませんか……?」

あすみ (そして、こうなるよな……)

あすみ (……っつーか、こうなるのは運命だったのかもしれない)

あすみ (アホみたいなウソをついて、メイドの仕事を誤魔化して……)

あすみ (後輩を担保に、医学部受験も大目に見てもらって……)

あすみ (そんなズルをしたから、こんな最悪のカタチでウソをバラさなくちゃならなくなったんだな)

あすみ (……仕方ねえ。これは、アタシに対する正当なバチだろう。公開処刑みたいなもんだが、我慢するしかねーか)

あすみ 「……あー、えっと。親父。もうこの際だから、言ってしまうけどな」

あすみ 「実は……――」


成幸 「――いやー! 実は、家族に打ち明けるのが恥ずかしくですね!」


あすみ 「……へ?」

成幸 「ごめんな、母さん、水希、葉月、和樹。兄ちゃん、実はこのあすみさんと付き合ってるんだ」

成幸 「恥ずかしくて内緒にしてたんだ。ごめんな」

214以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:45:23 ID:feM66L2E
水希 「………………」 ピクピクピク……

葉月 「あっ、水希姉ちゃんが白目剥いて泡吹いてる」

和樹 「こりゃまずいな。後で記憶操作しておかないと」

あすみ 「後輩……? おまえ……」

成幸 「しっ。わざわざバラす必要もないでしょ」 コソッ

成幸 「ウソをバラすにしても、それは受験が終わって、先輩が医学部生になってからですよ」

あすみ 「後輩……」

花枝 「まー、なんてめでたいのかしら!」

花枝 「今日は月に一度の家族で外食デー! せっかくだし成幸のおめでとう会も兼ねちゃいましょう」

成幸 「いや、母さん、そんな盛り上がらないでいいから……恥ずかしいから……」

花枝 「この前臨時ボーナスも入ったし、今日は少し高いメニューを頼んでもいいわよ!」

花枝 「特別に今日はドリンクバーも許可するわ!」

葉月 「ほんとに!?」   和樹 「やったー!」

小美浪父 「いや、うちの娘ぐらいでこんなに喜んでもらえるとは……」

215以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:45:56 ID:feM66L2E
………………

小美浪父 「……それでですね、そのとき、成幸くんは言ってくれたんですよ」

小美浪父 「“あすみさんのことは、俺が一生守ります” ……と」

花枝 「きゃー! 我が息子ながらかっこいいわー!」

成幸 「………………」

カァアアアア……

成幸 (そんなこと言った憶えはないよ!?)

あすみ (あの親父、テンション上がってあることないこと言ってやがる……)

花枝 「でも、大丈夫かしら。あすみさん、成幸と一緒で大変なこととかないかしら?」

あすみ 「へっ? あ、アタシが大変、ですか?」

あすみ 「いや、特にそういうことはないですけど……」

あすみ (あんまり、無辜の後輩の家族にウソをつきたくはないし……)

あすみ 「すごく頼りになりますし、アタシのために色々してくれますし……」

あすみ 「本当に、良い人に出会えて良かったって……そう思います」

花枝 「まぁ……まぁまぁまぁ」 パァアアアアアア……!!!

216以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:46:52 ID:feM66L2E
成幸 「せ、先輩、変なこと言わないでくださいよ……」

成幸 「俺が恥ずかしいし、母さんのテンションも上がるじゃないですか」

あすみ 「し、仕方ねーだろ。でも、ウソはついてないからな!」

成幸 「……そ、それは、まぁ……」 カァアアアア…… 「嬉しい、ですけど……」

花枝 「もー! 成幸ったら! 見せつけてくれるわね!!」 バシッ

成幸 「いたっ!? 母さんどんだけテンション上がってるんだ!?」

水希 「………………」

和樹 「水希姉ちゃん起きないなー」

葉月 「兄ちゃんがあすみ姉ちゃんとラブラブしてても反応なしね」

和樹 「こりゃ相当重傷だなー」

成幸 「先輩」 コソッ

あすみ 「おう」 コソッ

成幸 「俺はもうこの空気に耐えられそうにありません。さっさと食べて、ふたりで抜け出しましょう」

あすみ 「……だな。どこかでふたりで勉強でもするか」

217以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:48:07 ID:feM66L2E
花枝 「デート!? デート!? ふたりでどこ行くの!?」 キラキラキラ

成幸 「だー、もう! 母さん興奮しすぎだから!!」

水希 「………………」

ピクッ……

葉月 「……あ」

和樹 「水希姉ちゃんが……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

葉月&和樹 「「起きた!!」」

水希 「……ちょっと、待ってください」

あすみ 「お、おう、妹ちゃん。どうした?」

水希 「お兄ちゃんの彼女さんだって言うなら……」

水希 「逃げないでくださいよ……!!」

あすみ (こ……怖っ……。なんて気迫だよ……)

218以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:49:00 ID:feM66L2E
成幸 「逃げるって……。べつに俺たちはそんなつもりじゃ――」

水希 「――お兄ちゃんは黙ってて?」

成幸 「はい」

あすみ (そして弱いな後輩……)

水希 「……おじさん」

小美浪父 「ん? なにかな?」

水希 「この後、娘さんを借りてもいいですか? ぜひ、うちにお招きしたいので」

あすみ 「えっ……」

小美浪父 「本当かい!? おうちに娘を招待してくれるのかい?」

水希 「ええ。それはもう……」 ニヤリ 「……歓待しますよ。嫌ってほど……」

小美浪父 「よかったな、あすみ! 私に気を遣わずお呼ばれしてきなさい」

あすみ 「お、おい、親父……」

水希 「……来てくれますよね、あすみさん?」 ニコッ

あすみ (怖え……けど……) ハァ (逃げるわけにはいかねーよな)

あすみ 「……わかった。じゃあ、ぜひお邪魔させてくれ」

219以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:49:36 ID:feM66L2E
水希 「……ふふ」

水希 (わたしの知らない間に、お兄ちゃんのことをたぶらかしてた女……)

水希 (ふふふ、どんな風にお兄ちゃんを騙したのか知らないけど……)

水希 (わたしまで騙せると思わないでくださいね……!)

水希 (今日うちにご招待して、散々こき使ってやりますから!!)

水希 「………………」

水希 (……でもまぁ、お兄ちゃんの魅力に気づいたところは、褒めてあげますけど)

水希 (あと、べつにお兄ちゃんを嫌いになってもらいたいわけでもないし)

水希 (……はぁ)

水希 (複雑な心境)

220以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:50:10 ID:feM66L2E
………………唯我家

あすみ 「お邪魔しまーす」

花枝 「はい、どうぞ。ぼろくて狭い家だけど、ゆっくりしていってね。あすみちゃん」

あすみ (……まぁ、実は一度来たことはあるんだが)

水希 「………………」 ジトーーーーーッ

あすみ (あの妹が怖そうだから黙ってよう)

成幸 「すみません、先輩。予定もあっただろうに、家にまで来てもらっちゃって……」

あすみ 「そんなの気にすんなよ。元々は……」 コソッ 「お前がアタシのことを庇ってくれたから、こうなったんだ」


―――― 『いやー! 実は、家族に打ち明けるのが恥ずかしくですね!』

―――― 『ごめんな、母さん、水希、葉月、和樹。兄ちゃん、実はこのあすみさんと付き合ってるんだ』


あすみ 「……ありがとな、後輩。さっきは少し……ううん。かなりカッコ良かったぜ」

成幸 「っ……」 カァアアアア…… 「こ、こんなときまでからかわないでくださいよ」

あすみ (今のは結構本気だったんだけどなー……って言っても信じねーか)

あすみ (ま、普段散々からかい続けてるアタシが悪いんだけどさ)

221以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:51:23 ID:feM66L2E
水希 「あすみさん、このエプロンをお貸しします」

あすみ 「……うん?」

水希 「エプロンをつけたら、早速働いてもらいますよ」

ニヤッ

水希 「……まずは、家中の掃除です」

花枝 「こら、水希。あすみちゃんはお客さんなのよ?」

花枝 「掃除なんかさせられるわけないでしょ。あんた、いい加減に……――」

あすみ 「――いえ、お母さん。やらせてください」

花枝 「えっ?」

あすみ 「……ふふ、いいぜぇ? 妹ちゃん?」 ニヤリ 「アタシがやられっぱなしで終わると思うなよ?」

成幸 (あっ、いつもの先輩だ……)

水希 「むっ……?」 (さっきまでと雰囲気が変わった……?)

あすみ 「家中の掃除だな? 任せろ。大得意だ。妹ちゃんは居間でくつろいでな」 グッ

葉月&和樹 「「あすみ姉ちゃんかっこいいー!!」」 キラキラキラ

222以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:51:58 ID:feM66L2E
………………

あすみ 「まずは上から!! はたきでホコリを落とす!!」

シュババババババ

あすみ 「で、次はほうき! ゴミや埃を要所に集める!!」

シュババババババ

あすみ 「そして局所的に掃除機! 使用電力は最低限で!!」

シュババババババ

水希 「!?」 (電気代のことも考えて掃除をしている……!? この女……)

水希 「できる……!!」 ギリッ

あすみ 「最後はきつくしぼったふきんで、テーブルや棚回りを磨く!」

あすみ 「拭く程度じゃ汚れが伸びるだけだからダメだ! 磨き上げるつもりで!!」

シュババババババ

あすみ 「そして最後に、雑巾で床を磨き上げる……!!!」

あすみ 「畳も水分が残らないように磨く……!!!」

シュバババババババババババババババババババ!!!!!!

223以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:52:57 ID:feM66L2E
………………

ピカピカピカピカ……

花枝 「すごい……。かつてないくらいピカピカだわ」

あすみ 「後輩――成幸くんにはいつもお世話になってるので、気合い入れちゃいました」 キャルン

花枝 「美人なだけでなく、お掃除も完ぺきだなんて……成幸!? こんなすごい女の子どうやって捕まえたの!?」

あすみ 「えへへ、違うんですよ、お母様っ」 キャルン 「アタシが、成幸くんを捕まえたんですっ、なんて! きゃーっ」

成幸 (先輩、なんか “あしゅみー” 感が出てきたな……)

水希 「ぬぬぬぬ……」

水希 「ま、まだですよ! 次は大量の洗濯物をたたんでもらいますから!」

あすみ 「うん?」 ペタペタペタパタパタパタ

水希 「……!?」 (も、もうたたみ始めてる……!?)

水希 (しかもなんて素早いの……で、でも、たたみ方が雑では本末転倒……――)

水希 (――なっ……!?)

キラキラキラ……!!!

水希 (寸分の狂いもない、なんて美しい折り目なの……!?)

224以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:53:35 ID:feM66L2E
水希 「……す、すごい」

ハッ

水希 (感心してどうするの! この程度、わたしだって少しがんばればできるもん!)

水希 「あ、あとは! 今日やる予定はなかったけど、水回りの掃除を徹底的に――」

ピカピカピカピカ……

水希 「……!?」

あすみ 「うん。普段から清潔にしてある良いトイレと風呂だな。すぐピカピカになった」

水希 「う、うそ……」 (なんてできる人なの、この人は……!?)

水希 「っ……あ、あとは……」

あすみ 「おっ、もういい時間だな。今日の晩ご飯は何にする予定だったんだ?」

水希 「えっ……えっと……。今日は、お米を炊かずに、残り物の野菜ですいとん風鍋を……」

あすみ 「よーし、オッケー。じゃ、アタシが作るな」

あすみ 「冷蔵庫の食材、使ったらダメなやつとかあるか?」

水希 「………………」

あすみ 「……? 妹ちゃん?」

225以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:54:12 ID:feM66L2E
水希 「……なにも、ないです。自由に使ってもらって大丈夫です」

あすみ 「ん、そうか。じゃあそうさせてもらうな」

あすみ 「〜〜〜♪」

水希 (……鼻歌混じりに、意気揚々と台所へ行ってしまった)

水希 「………………」

ガクッ

水希 (……認めたくはないけど、仕方ないのかもしれない)

水希 (わたしの、完敗だ……)

水希 「……はぁ」

あすみ 「……?」 (なんか、妹ちゃん凹んでんなぁ……)

あすみ (……売り言葉に買い言葉で、気合い入れて家事をやっちまったが)

あすみ (普段、あの子がこの家の家事をやってるんだよな。やりすぎちまったかな……)

あすみ (悪いことしたな……)

226以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:54:44 ID:feM66L2E
………………晩ご飯 食卓

あすみ 「はい、できましたよー」

コトッ

花枝 「あらあらあら……良い匂いだわ。とても美味しそう」

あすみ 「お口に合うと嬉しいですけど……」

あすみ 「……ほら、葉月、和樹。お前たちの分もよそうからな」

葉月 「きゃー!」 和樹 「姉ちゃんと母ちゃん意外のお料理を家で食べるなんて、新鮮だな!」

水希 「………………」 ズーン

あすみ 「ほら、妹ちゃんも、どうぞ」

水希 「……どうも」 ズーン

あすみ (うーむ。明確な敵意は消えたけど、代わりにめちゃくちゃ暗くなっちまったな……)

あすみ (どうしたもんか)

あすみ 「ほら、こうは――成幸くんの分も」

成幸 「あ、すみません。ありがとうございます、せんぱ――あすみさん」

あすみ 「お、おう……」 (……なんか名前を呼ばれるとこそばゆいな)

227以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:55:39 ID:feM66L2E
花枝 「それじゃ、いただきましょうか。あすみちゃん、本当にありがとうね」

花枝 「いただきます」

『いただきます!』

水希 「……いただきます」

パクッ

水希 (……やっぱり、想像通りだ)

水希 (すごく美味しい。普段から料理をやり慣れてる人の、お料理の味)

水希 (わたしが作ろうとしていた節約メニューの意図をよく理解している……)

水希 (華美でも貧相でもない、素朴な料理……)

水希 「………………」

あすみ 「ほらほら、ゆっくり食べろ。こぼれちゃうぞ」

葉月 「だってー、あすみお姉ちゃんのお料理、とっても美味しいんだもの!」

和樹 「……はむっ。姉ちゃんおかわり!」

あすみ 「嬉しいねぇ。もう食べ終わったのか。ほら、おかわりどうぞ」

和樹 「わーい! ありがと、姉ちゃん!」

228以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:56:57 ID:feM66L2E
水希 「………………」 (……悔しいな。悔しいけど、もう認めざるを得ない)

水希 (この人を厭う要素がない。この人は、絶対に兄を幸せにしてくれる人だ……)

水希 (わたしより、はるかに……――)


あすみ 「――妹ちゃんはさ、学校から帰ったら、いつも家事をこなしてるんだろ?」


水希 「えっ……?」

水希 「ま、まぁ、そうですけど……」

あすみ 「すごいな。アタシなんて浪人生なのに、そうそう家事なんてやらないのに」

あすみ 「お前らの姉ちゃんはすごいな。なぁ、和樹、葉月」

和樹 「そりゃーなー!」 葉月 「水希姉ちゃんは世界一の姉ちゃんだもの!」

あすみ 「……悔しいな。アタシが一番になりたいところだけど、」

あすみ 「きっと掃除も料理も滅茶苦茶上手いんだろうな。悔しいけど、アタシは二番目で我慢するか」

水希 「………………」 (……ああ、そっか)

水希 (この人は、ずっと嫌な気持ちにさせていたわたしのことも気遣ってくれるような人なんだ……)

水希 (……ダメだ。とことん、この人を嫌いになる理由がなくなってしまった)

229以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:57:29 ID:feM66L2E
………………食後 台所

あすみ 「ふんふーんふん……♪」

キュッキュッ……

水希 「……あの、お皿洗い、手伝います」

あすみ 「うん? いいよいいよ。あと少しで終わるし、アタシひとりで大丈夫だよ」

水希 「いえ、あの……やらせてほしいんです」

あすみ 「……そっか。じゃあ、アタシがスポンジで汚れを落とすから、洗剤を流してくれ」

水希 「わかりました」

あすみ 「………………」

水希 「………………」

バシャバシャバシャ……

水希 「……あの」

あすみ 「んー?」

水希 「……今日は、すみませんでした」

あすみ 「何の話?」

230以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:59:13 ID:feM66L2E
水希 「……とぼけないでくださいよ」

バシャバシャ……

水希 「今日、ファミレスで会ってからずっと、嫌なことばかりして、言って……」

水希 「もう、わたしのことを嫌いになってるかもしれないですけど……」

あすみ 「………………」

水希 「……お願いします。兄のことは、嫌いにならないでください」

水希 「お兄ちゃんは悪くないんです。わたしが勝手に、嫌な気持ちになって、嫌なことしただけだから……」

水希 「……ごめんなさい」

あすみ 「………………」 ハァ 「……とぼけてねーよ。何の話だか、これっぽっちも分からない」

あすみ 「妹ちゃんのこと、嫌ってないし嫌う予定もないよ」 ニコッ

水希 「あすみさん……」

あすみ 「……いつまでも、“妹ちゃん” 呼びじゃ分かりにくいし、」

あすみ 「アタシも、“水希” って呼んでもいいか?」

水希 「あ……は、はい! ぜひ!」

231以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:59:55 ID:feM66L2E
あすみ 「ん。じゃあこれからはそうするな。水希」

水希 「……はい」

あすみ 「………………」

あすみ (……水希も、後輩のことが好きすぎるだけで、すごく良い子だ)

あすみ (お母さんも、葉月も、和樹も……。温かくて、良い家族だ)

あすみ (アタシはこんな人たちを騙してるのか……)

あすみ (そして、そんな家族を騙すような真似を、後輩にさせてるのか……)

ズキッ

あすみ (……ダメだ。そんなのは、絶対)

あすみ (アタシがついたウソが、後輩に迷惑をかけている……)

あすみ (それに留まらず、後輩に家族に対して無用なウソをつかせている……)

あすみ 「……なぁ、水希」

水希 「はい?」

あすみ 「洗い物が終わったら帰るけど、その前に話がある」

あすみ 「……お母さんと葉月と和樹、全員に聞いてほしい話があるんだ」

232以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:00:29 ID:RTwzERjA
………………居間

花枝 「話って何かしら、あすみちゃん」

花枝 「ま、まさか、成幸と結婚させてほしいとかかしら……。ど、どうしましょう。神社? チャペル?」

花枝 「白無垢? ウェディングドレス? あすみちゃん美人だからどっちも似合うでしょうし、迷うわね〜」

あすみ 「いや、あの……」

水希 「お母さん! あすみさんすごく真剣な顔してるから、茶化すのはやめてあげようよ」

花枝 「えっ……? あ、そ、そうね……」

花枝 (水希のことだから、まだ嫉妬心むき出しだろうから場を和ませようと思ったのに……)

花枝 (当の水希にたしなめられるとは思わなかったわ……。随分と懐いたものね)

葉月 「あすみ姉ちゃん?」 和樹 「お話ってなーに?」

あすみ 「……あ、あの」

成幸 「先輩……?」

あすみ (……怖い。せっかくよくしてくれた人たちに、前提を覆すようなことを言うのが、怖い)

あすみ (でも……) キッ (家族大好きな後輩に、家族に対してウソをつかせたままにしておくわけにはいかない)

あすみ 「……申し訳ありませんでした」 ペコリ

233以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:01:18 ID:RTwzERjA
水希 「えっ……? ど、どうしたの、あすみさん。いきなり頭を下げて……」

あすみ 「……ごめんなさい。アタシ、みんなにひとつ、ウソをついています」

成幸 「せ、先輩! それは……――」

あすみ 「――成幸くんもウソをつきました。でも、それはアタシのためにウソをついたんです。だから、許してあげてください」


あすみ 「アタシと成幸くんは、お付き合いしていません。恋人でもなんでもありません」


あすみ 「……ただの、予備校の先輩後輩の間柄です」

花枝 「………………」

水希 「えっ……ど、どういうこと……?」

水希 「あすみさんは、お兄ちゃんの彼女さんじゃない、の……?」

あすみ 「……ああ。違う」

花枝 「……成幸」

成幸 「は、はい」

花枝 「あすみさんの言っていることは本当なの?」

成幸 「……うん。本当だよ」

234以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:01:55 ID:RTwzERjA
花枝 「なら、どうしてあんなウソをついたの?」


―――― 『ごめんな、母さん、水希、葉月、和樹。兄ちゃん、実はこのあすみさんと付き合ってるんだ』


成幸 「それは、その……」

あすみ 「夏休みにアタシが頼んだんです。父をごまかすために、恋人役をやってくれ、って」

あすみ 「それが尾を引いて、今日、成幸くんにご家族を騙すようなことをさせてしまいました」

あすみ 「アタシが悪いんです。すみません。本当に……ごめんなさい!」

花枝 「……頭を上げて、あすみちゃん」

あすみ 「はい……」

花枝 「………………」

クスッ

花枝 「やっぱり、そんなことだと思ってたわ。うちの成幸にこんな出来た彼女がいるわけないと思ってたのよ」

あすみ 「へ……?」

花枝 「ほんの一時だけでも夢を見させてもらったわ。ありがとね、あすみちゃん」

あすみ 「い、いやいやいや、お礼なんてそんな! っていうか……怒らないんですか?」

235以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:02:40 ID:RTwzERjA
花枝 「あなたにも事情があるんでしょうし、騙そうとして騙そうとしたわけじゃないでしょう?」

あすみ 「ま、まぁ……そうですけど……」

花枝 「それに、今日あの場で最初にウソをついたのは成幸だし。怒るなら成幸かしら」

成幸 「……まぁ、確かにその通りだな。すまん。母さん、水希、葉月、和樹」

あすみ 「いや、やめろよ、後輩! お前、アタシのためにウソついてくれたんだろ?」

あすみ 「悪いのはアタシだから、後輩を怒るのはやめてあげてください!」

花枝 「……そんな風に言える良い子を怒らないわよ」

クスクス

花枝 「あなた、本当に良い娘さんね」

あすみ 「そ、そんなこと……」

水希 「………………」

あすみ 「あっ……その……水希も、ごめんな」

あすみ 「後輩のこと大好きなお前には、本当に嫌な思いをさせちまったと思う……」

水希 「……やめてください。今、本当に複雑な心境なんですから」

あすみ 「え……?」

236以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:03:25 ID:RTwzERjA
水希 「お兄ちゃんに彼女ができたって聞いて、ショックで、怖くて、嫉妬して……」

水希 「でもいざ家に来てもらったらすごく良い人で安心して、良かったって思って……」

水希 「そうしたら、今度は実は彼女じゃなかったって……」

水希 「……お兄ちゃんに彼女がいなかったのは嬉しいけど、」

水希 「あすみさんだったらいいかな、って思い始めた後だから、複雑な気持ちなんです」

あすみ 「お、おう……。なんか、本当に、ごめん……」

水希 「謝らないでください。べつに、怒ってはいないですから……」

水希 (ああ、もう……本当に悔しい。だってわたし、今すごく残念な気持ちになってる)

水希 (あすみさんがお兄ちゃんの彼女さんじゃなかったって知って、残念に思ってる)

水希 (わたし……あすみさんに、お兄ちゃんの彼女になってほしいって、思ってるんだ……)

葉月 「じゃあ、あすみ姉ちゃんは嫁に来ないの?」 和樹 「こないの?」

あすみ 「ごめんな、葉月、和樹。たぶん嫁には……いかないん、だよな……?」

成幸 「!? お、俺に聞かないでくださいよ。自分でいかないって言ってくださいよ」

237以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:03:56 ID:RTwzERjA
あすみ 「いや、まぁ、そうなんだけど……」 (なんだよ、後輩のやつ……)

あすみ (…… “来てほしい” くらい言ってくれてもいいじゃねーかよ)

ハッ

あすみ (って、アタシは何をバカなこと考えてんだ……)

あすみ (後輩はアタシの被害者だってのに、何勝手なこと思ってんだ……)

あすみ (……っつーか、アタシ、ひょっとして)

カァアアアア……

あすみ (後輩に、“嫁に来てほしい” って言ってほしかったのか……?)

成幸 「どうしたんですか、先輩。顔赤いですけど……」

あすみ 「なっ、なんでもねーよ!」

成幸 「?」

花枝 「………………」 (へー……)

ニヤリ

花枝 (これは、意外と、あすみちゃんもまんざらじゃないのかしら)

238以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:04:37 ID:RTwzERjA
花枝 「……あすみちゃん」

あすみ 「は、はい!」

花枝 「ウソをついていたことは怒っていません。もちろん、成幸も」

成幸 「すまん。ありがとう」

あすみ 「すみませんでした」

花枝 「でもね、さっきの口ぶりだと、あすみちゃん、お父さんにウソをついているのね?」

あすみ 「あ……それは、まぁ……はい」

花枝 「人様のご家庭のことにとやかく言うことはできないし、あすみちゃんにも事情があるんでしょうけど」

花枝 「……ウソはよくないわ。できるだけ早く、今のように、ウソを打ち明けた方がいいと思うわよ」

あすみ 「……本当に、その通りだと思います。アタシも、来年度には打ち明けるつもりです」

あすみ 「でも、もう少しだけ、時間が必要なんです。だから……」

花枝 「………………」 ニコッ 「……わかったわ。私はこれ以上何も言わない」

花枝 「うちの成幸があすみちゃんの役に立てるなら、恋人役としていくらでも使ってちょうだい」

あすみ 「すみません。ありがとうございます……」

あすみ 「……後輩も、いつもありがとな」

239以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:05:42 ID:RTwzERjA
成幸 「いや、俺はべつに、お礼を言われるようなことは……」

あすみ 「いつか、親父にもウソを打ち明けて謝るからさ」

あすみ 「……もう少しだけ、付き合ってもらってもいいか?」

成幸 「一度引き受けたことですから。先輩の夢が叶うまで、付き合いますよ」

花枝 「……ところで、ウソを本当にしちゃうってのも、アリだと思うわよ?」

あすみ 「ウソを本当に……?」

花枝 「お父さんはあすみちゃんと成幸が付き合ってると思っているのでしょう?」

花枝 「なら、このまま本当にお付き合いして、いつか結婚しちゃえば、」

花枝 「ウソも何もなくなっちゃうんじゃないかしら?」

成幸 「なっ……」 カァアアアア…… 「何言ってんだよ、母さん!」

あすみ 「………………」 プイッ

あすみ (ウソを本当にする、か……)

あすみ (そうだよな。本当に付き合っちまえば……アタシと後輩は、ニセモノじゃなくて……)

あすみ (ホンモノの恋人に、なれるのか……)

240以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:06:42 ID:RTwzERjA
あすみ 「………………」

成幸 「ほら、母さんが変なこと言うから、先輩固まっちゃったじゃないか」

成幸 「先輩、母さんの言うことなんて気にしなくていいですからね」

あすみ 「ホンモノ、か……」

成幸 「えっ……? 先輩?」

あすみ 「お前となら、それもいいかもしれねーな」

成幸 「なっ……」

成幸 「ま、またからかうようなこと言って! もうその手には乗らないですからね!」

あすみ 「……にひひ、バレたか」

241以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:07:15 ID:RTwzERjA
成幸 「まったくもう、先輩は……」

あすみ 「………………」


―――― 『……ありがとな、後輩。さっきは少し……ううん。かなりカッコ良かったぜr

―――― 『こ、こんなときまでからかわないでくださいよ』


あすみ (さっきと一緒だ。アタシの本心からの言葉は、全部ニセモノになってしまう)

あすみ (仕方ない。普段のアタシの行いのせいだから)

あすみ (素直になれない、素直になろうとしない、アタシのせいだから)

あすみ (もし、アタシのホンモノの言葉が、こいつに届いたら……)

ギュッ

あすみ (……アタシと後輩は、いつか“ホンモノ” になれるかな)


おわり

242以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:08:30 ID:RTwzERjA
………………幕間1  「父」

あすみ 「ただいまー」

小美浪父 「おお、おかえり、あすみ! どうだった!?」

あすみ 「帰って早々騒々しいな。一体なんだよ」

小美浪父 「何を言ってる! こっちはお前が粗相をしていないか気が気じゃなかったんだぞ!」

あすみ 「自分の娘のことなんだと思ってんだ、あんた……」

あすみ 「何もなかったよ。順調だ。晩飯だってアタシが作ってきたよ」

小美浪父 「おお……」 パァアアアアアア……!!! 「これはめでたい。結婚まで秒読みだな」

あすみ 「っ……」 (こっちの気もしらないで、親父の奴……)

小美浪父 「いやー、しかし良かった良かった」 ドサッ

小美浪父 「五冊目に突入した唯我くんとお前の記録ノートが無駄にならなくて済みそうだからな」

小美浪父 「結婚式の挨拶は任せろ。馴れ初めムービーがいらないくらい、私が語ってやるからな」

あすみ 「あー、うん……」 (これでウソだったって知ったら、卒倒しそうだなこの人……)

あすみ (仕方ねぇ。あくまでこの親父のために……)

あすみ (……ホンモノ、目指してみようかな)

243以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:09:00 ID:RTwzERjA
………………幕間2  「妹」

成幸 「先輩と一緒に行ったところ? えっと、カラオケボックスとか、海とか……」

成幸 「あとはファミレスで勉強したりとかだけだぞ?」

水希 「海……」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

水希 (ずるい! 海なんて滅多に行けないのに、あすみさんはお兄ちゃんと……!!)

水希 (アタシだってお兄ちゃんとふたりっきりで行きたいのに!!)

水希 (やっぱりあすみさん許すまじ……)

水希 「………………」

水希 (……悔しい)

水希 (お兄ちゃんとふたりでも行きたいけど……)

水希 (あすみさんも一緒にいたらもっと楽しいだろうなとか考えちゃう自分が……)

水希 (本当に悔しい……!!)

おわり

244以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:09:32 ID:RTwzERjA
>>1です。読んでくれた方ありがとうございました。

また折を見て投下します。

245以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:10:04 ID:ei8Z2GaQ
おつ!
やはりあしゅみー先輩こそ至高

246以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:29:08 ID:CIrMnHwE
>>1です。
投下します。



【ぼく勉】 真冬 「それがあなたの長所でしょう?」

247以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:34:56 ID:CIrMnHwE
………………一ノ瀬学園 職員室

鈴木先生 「桐須先生、お忙しいところすみません」

真冬 「? 何か?」

鈴木先生 「今日の放課後、二学期第二回目の面接練習があるのはご存知ですよね」

鈴木先生 「実は、担当ではない桐須先生にこんなことを言うのは大変恐縮なのですが、お手伝いいただきたいんです」

真冬 「構いませんよ。前回のように職員に体調不良者でもでましたか」

鈴木先生 「いえ、実はそういうわけではなく……」

鈴木先生 「桐須先生との面接練習を希望すると言う生徒がおりまして」

真冬 「私との面接練習を希望する……? ほぅ……」

ゴゴゴゴゴゴ…………

真冬 「なかなか威勢の良い生徒もいたものですね。いいですよ。引き受けます」

鈴木先生 (さすがは桐須先生。生徒に対しての教育に熱が入っていらっしゃるご様子だ……)

真冬 (どんな生徒か分からないけれど……)

ニヤリ

真冬 (私との面接練習を希望したことを、後悔させる勢いでやってあげるわ。ふふふ……)

248以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:35:56 ID:CIrMnHwE
………………放課後

理珠 「今日はよろしくお願いします。桐須先生」 フンス

文乃 「よろしくお願いします!」 フンスフンス

真冬 (驚愕。まさかこの子たちだったとは……)

真冬 「……ええ。よろしくお願いします」

真冬 「私はあなたたちの面接練習を一度担当したわけだけれど、」

真冬 「……当然。以前よりは格段にレベルアップしているのでしょうね?」

理珠 「もちろんです。もう私に答えられない質問などありません」

文乃 「わ、わたしもです。成幸くんにも付き合ってもらって、練習もたくさんしてきました」

真冬 「感心。では、私も以前以上に気を引き締めて、本物の試験官のつもりで面接に臨みます」

真冬 「よろしいですね?」

理珠 「望むところです」 フンスフンス

文乃 「精いっぱいがんばります!」

真冬 「よろしい。では、一分ほど後に、緒方さんから順番に入室をしてください」

249以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:36:35 ID:CIrMnHwE
………………

コンコン

理珠 「失礼します」

真冬 「どうぞ」

真冬 「では、学校名とお名前をお願いします」

理珠 「はい。私立一ノ瀬学園高等学校の、緒方理珠と申します。本日はよろしくお願いいたします」

真冬 (ふむ……以前より格段に言葉がなめらかになっているわね)

真冬 (自主練習をたくさんしたのでしょうね)

真冬 「はい。よろしくお願いします。では、おかけください」

理珠 「はい。失礼致します」

250以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:37:34 ID:CIrMnHwE
真冬 「では、面接を始めます」

真冬 「まず、緒方さんが本校を志望する理由を教えてください」

理珠 「はい。私は、人の心の機微に鈍感です」

理珠 「人が何を考えているか分からず、自分だけ見当違いなことをしている、ということがままあります」

理珠 「私は、そんなとき、周囲の友人たちとの間に壁を感じます」

理珠 「私はその壁を乗り越えて、人が何を考えているか、分かるようになりたいです」

理珠 「以上のことから、貴学の水準の高い心理学部ならば、私の求める人の心の探究ができると思い、貴学を志望しました」

真冬 (ふむ。言葉はなめらか。棒読みでもなく心もこもっている。及第点ね)

真冬 「よく分かりました。緒方さんは、本校の心理学部で、人の心が分かるようになりたいということですね」

真冬 「では、続けて伺います。あなたの言う “人の心の探究” とは、具体的にどのようなことを指しますか?」

理珠 「え……?」

真冬 「大学は研究機関です。あなたの言う “人の心の探究” が、最終的にどのような研究に行き着くのか」

真冬 「本校としても、私個人としても非常に興味深いです。ぜひ、ご教授いただければと思います」

理珠 「け、研究……?」

251以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:38:25 ID:CIrMnHwE
真冬 「? 大学進学を志望してらっしゃるのに、研究したいことがないのですか?」

理珠 「い、いえ、そういうわけでは……」

真冬 「では、あなたは本校での学びにより自身の苦手を克服した先にどのような研究をしますか?」

理珠 「えっと……」

真冬 「先ほども申し上げた通り、大学は学習する場であり、研究機関でもあります」

真冬 「自身の苦手を克服するという目的を達成するだけだけならば、」



真冬 「専門学校や終身教育機関など、叩くべき門戸は他にあると思いますが」



理珠 「………………」

真冬 「………………」

ハァ

真冬 「……ここまでのようね。長時間の沈黙が続いてしまった時点で、合格は絶望的だと思いなさい」

理珠 「……はい」

252以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:40:49 ID:CIrMnHwE
理珠 「………………」 (悔しい……)

理珠 (たくさん練習してきたのに、その練習の前提が崩されたような気分です)

理珠 (……しかし、どう考えても、桐須先生の指摘の通り)

理珠 (大学は教育機関であり研究機関でもある。最終的に研究をして卒業をすることになる)

理珠 (私は目の前の大学入学という目標に囚われ、入学した後のビジョンをおろそかにしている)

理珠 (私自身が一番理解していなければならないような基本的なことを、桐須先生に指摘されてしまったということ)

理珠 (……悔しい。私、前回から、まったく成長していないじゃないですか)

グスッ

理珠 「っ……」 (ダメです。泣いたら、それこそ、完全に負けてしまう。前回と同じになってしまう)

理珠 (泣かない。自分に何ができるか。今後どう成長していくか。それを考えないと……)

理珠 (勉強に付き合ってくれて、面接練習にも付き合ってくれた、成幸さんに顔向けできない)

理珠 (もっともっとがんばらないと……――)

真冬 「――まぁ、及第点には程遠いけど、前回に比べればはるかに良くなっているわ」

真冬 「がんばったのね、緒方さん」

理珠 「えっ……?」

253以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:41:24 ID:CIrMnHwE
理珠 「そ、そんな……だって、私はまた、前回と同じように……」


―――― 『どうなんですか 緒方さん 黙っていてはわかりませんよ』


理珠 「前回と、同じように……。黙りこくってしまって……」

真冬 「けれど、話をするときに固さや焦りが消えたわ。自信も少し見えていた。それは良い傾向よ」

真冬 「たくさん練習したのが見て取れたわ」

理珠 「でも……」

真冬 「そうね。結果としては惨憺たるものだわ。不合格という事実は変わらない」

真冬 「……でも私は今の面接で、あなたの可能性が見えた気がするわ」

理珠 「私の可能性……?」

真冬 「ええ。あなたは努力して、人の心を理解しようとしている」

真冬 「そして世の中には、一定数あなたのように、所謂 “空気が読めない” 人が存在するわ」

真冬 「緒方さん、あなたは、今のあなたがそうであるからこそ、そういう人たちのためになる研究ができないかしら?」

真冬 「他人に共感を覚えづらい、生きづらい思いをしている人たちを助ける研究ができないかしら?」

理珠 「私と同じような人たちを、助けるための研究……」

254以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:42:27 ID:CIrMnHwE
真冬 「ええ。それはあくまで私の想像する未来のあなたの像だけれど」

真冬 「悪くはないのではないかしら」

真冬 (……なんて、少し喋りすぎかしら)

真冬 (進路選択は自分自身で決めること。そしてそのための答えも、自分自身でできる限り決めなければならない)

真冬 (緒方さんにとってヒントになればいいと思って話してしまったけれど、)

真冬 (……出過ぎた真似をしすぎたわね。反省だわ)

理珠 「……桐須先生」

真冬 「何かしら?」

理珠 「目から鱗です」

真冬 「……?」

理珠 「すごいです。私が、自分自身をモデルケースに、私と同じような人のために何が出来るかを研究する……」

理珠 「それは、私が大学を志望する理由として十分なものに思えます!」

理珠 (少なくともアナログなゲームを理由とするよりは、はるかに!)

真冬 「そ、そう? そう思えるなら、それを自分なりにかみ砕いて、自分の言葉に直して、使えるようになりなさい」

理珠 「わかりました!」 メモメモメモ

255以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:43:11 ID:CIrMnHwE
真冬 (気むずかしいかと思えば、素直な子)

真冬 (つかみ所のない難しい子だけれど、悪い子では決してない)

真冬 (……願わくは、自身の得意分野を伸ばしていてもらいたいけれど)

真冬 (まぁ、仕方ない。本人が決めた進路に、教師が口だしできる範囲なんて限られている)

真冬 「……では、今後は大学入学後のビジョンを明確にして、面接練習に臨みなさい」

理珠 「わかりました」

真冬 「退出してください。一分後に入室するように、外の古橋さんに伝えてください」

理珠 「はい」

真冬 (……さて、次は古橋さんね。彼女もこの前からどう成長しているかしら)

理珠 「……あ、あの、桐須先生」

真冬 「? まだ何か質問があったかしら?」

理珠 「いえ、あの、これは質問というより、私の思ったことをそのまま言うだけのことですが……」


理珠 「ひょっとして、桐須先生は、わたしが文系受験をすることを認めてくれているのですか?」


真冬 「……!?」

256以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:43:42 ID:CIrMnHwE
真冬 「そ、そんなわけないでしょう? 私は、未だにあなたの進路選択を認めていません」

真冬 「今からだって遅くはないわ。考え直せるなら、理系分野を志望することをおすすめするわ」

理珠 「……むっ」 ムスッ

理珠 「私だって、先生に認めてもらわなくたって構いません」

真冬 「生意気。そういうことは、面接を最後まで続けられるようになってから言いなさい」

理珠 「そのための練習でしょう。最初から上手くできるなら、こんな練習なんてする必要はありません」

真冬 「……相変わらず口の減らない子ね」

理珠 「そちらこそ、です」

真冬 「………………」

理珠 「………………」

理珠 「……でも」

理珠 「……今日はありがとうございました。先生のご指摘は、すごくタメになりました」

真冬 「……そう。なら、せいぜいがんばりなさい。応援はしないけどね」

257以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:44:24 ID:CIrMnHwE
理珠 「………………」

クスッ

理珠 (“がんばりなさい” って言っておいて、“応援はしない” なんて……)

理珠 (ひどい矛盾です。この先生は、意外と抜けているのですね。今まで全然しらなかったことです)


―――― 『本当はな…… 緒方のこと すごく大切に思ってるんだよ』

―――― 『できれば…… 好きになってもらえたらって……』

―――― 『桐須先生のこと』


理珠 (……少しだけ、あのときの成幸さんの言葉が分かった気がします)

理珠 (この人は本当に……)

真冬 「……?」


―――― 『勘違いされやすいんだけど 本当はあったかくて生徒思いのいい先生なんだよ』


理珠 (……そういう先生なのかもしれませんね)

258以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:45:40 ID:CIrMnHwE
………………

真冬 「では、古橋さん。続いての質問です」

真冬 「あなたの得意な教科、現代文、古文、漢文、日本史……それらが天文学にどのように活かせると思いますか?」

文乃 (うぅ……やっぱり怖いなぁ、桐須先生)

文乃 (でも、負けられない。桐須先生に負けてたら、そもそも自分自身に絶対勝てない!)

文乃 「……わたしは文章を読むことを苦痛としません」

文乃 「理系分野において、実験によって新しく発見をすることも大事ですが、」

文乃 「前提として、先行研究の文献を読むことが必要不可欠です」

文乃 「文系科目が得意なわたしは、先行研究を読み解き、自分自身の研究に生かすことが容易にできると思います」

文乃 「基礎研究において、それは何より役に立つ能力なのではないかと考えます」

真冬 (なるほど……。よく考えて、よく練られた回答だわ)

真冬 (自分の得意分野をしっかりと生かした言葉になっているわ)

真冬 「……なるほど。研究をする上では、それは確かに強みになりますね」

真冬 「では、続けて聞きますが、あなたは数学が得意ではないですね?」

文乃 「……はい」

259以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:46:23 ID:CIrMnHwE
真冬 「天文学と数学は切っても切れない関係です。その苦手は大きなネックになると思いますが、どうするおつもりですか?」

文乃 「……教科書を読み解く力あるつもりです。だから精いっぱい、勉強します」

文乃 「その証拠になるかは分かりませんが、調査書を見て頂きたいと思います」

文乃 「わたしは、本当に数学が苦手です。テストでは全然点が取れないくらいでした。でも、今は……」

文乃 「がんばって、やっと平均点に届くかというところに来ました」

文乃 「絶対値としては足りないかもしれません。でも、相対的に見ればかなりの成長だと、自負しています」

文乃 「わたしの今までの伸びを、そしてこれからの伸びしろを見ていただければ幸いと存じます」

真冬 「……わかりました」

真冬 (なるほど。考えてきたわね。やはり文系科目が得意だと、対人能力……面接にも活かせるのね)

真冬 (苦手を苦手と認め、その上で苦手を克服したという部分を強調する良いやり方だわ)

真冬 (実際、彼女の数学の点数の伸びは驚異的なものがある。これは、大学の面接担当にも一考の余地が出てくることでしょう)

真冬 (……さて)

真冬 「……では、最後の質問です。あなたの長所と思える部分を教えてください」

文乃 「えっ……?」

文乃 (……わたしの、長所……?)

260以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:47:43 ID:CIrMnHwE
文乃 (文系科目以外でわたしに長所って、何かあるかな……)

文乃 (そもそも、わたしにいいところなんてあるのかな)

文乃 (わたしには何ができるのかな。今まで、何をしてきたのかな)

文乃 (……文系科目が得意で、お話を作るのが得意なこと以外、わたしに何が……)

文乃 (わたし、ひょっとして、長所なんて何一つない……?)

真冬 「………………」

文乃 (……だ、黙ってたら、ダメ!)

文乃 (それじゃ何も伝わらない! 頭が混乱していたって、何か言わなければ面接はそこで終わってしまう!)

文乃 「わ、私は……! 先ほど申し上げたとおり、苦手な数学を、努力で補ってきました」

文乃 「そ、それは、苦手科目でもやりきるという、私の長所だと思います」

真冬 「学生が必要な科目の勉強をがんばるのは当然では? その当然の努力を長所と言い張るのですか?」

文乃 「うっ……」 (た、たしかに、その通りなんだよ……)

文乃 「ほ、他にも、わたしは……れ、恋愛相談、とか、が……得意、です……?」

真冬 「………………」

文乃 (無言の目線が痛い……!!)

261以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:48:17 ID:CIrMnHwE
文乃 「………………」

真冬 「……残念。ここまでのようね。これくらいにしましょう」

文乃 「はい……」 (うぅ……結局わたし、また何も言えなかった……)

文乃 「すみません。大学に訴求できるような長所が、なかなか見つからなくて……」

真冬 「そうね。長所って言われても難しいものね。でも、それでも、言えなければならないわ」

文乃 「……はい。もう一度よく自分自身を見つめ直して、考えてみます」 ズーン

真冬 「………………」

ハァ

真冬 「……“人の心の機微に敏感で、他者との共感能力が高く、人の気持ちに寄り添える”」

文乃 「えっ……?」

真冬 「そして、その人のために全力でがんばれる優しさも持っている」


真冬 「……それがあなたの長所でしょう?」


文乃 「わたしの、長所……?」

真冬 「その結果として――これはあくまで予想だけれど――あなたは、恋愛相談とやらを受けたのではないかしら?」

262以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:48:55 ID:CIrMnHwE
真冬 「それを大学用に、自分でカスタマイズしてごらんなさい」

真冬 「たとえば、“友人との人間関係を円滑にし、勉学にも研究にも協力して取り組むことができると思います” とかね」

文乃 「わ、わたしの、長所……」

文乃 「わたしの、がんばってきたこと……」

真冬 「……?」 (どうしたのかしら、古橋さん?)

文乃 (……そっか、わたし。そうだよね。今まで、成幸くんやうるかちゃん、紗和子ちゃんの相談にだって乗ってきたもんね)

文乃 (それは、わたしの長所でもあるんだ……)

文乃 「ありがとうございます、桐須先生。うまくまとめられるような気がしてきました」

真冬 「そう? よかったわね。なら、次の面接練習までにしっかりと言えるようにしておきなさい」

文乃 「はい!」

文乃 (……分かってたことだけど、改めて思うよ。この先生は、ただの怖くて厳しい先生じゃないんだ)

文乃 (わたしのことなんて嫌いだろうに、そんなわたしのこともよく見てくれているんだ……)

文乃 (わたしが理系受験をすることをよく思ってないはずなのに、結局はこうやってわたしのためにアドバイスをくれるんだ)

文乃 (……本当に、“良い先生” なんだなぁ)

263以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:49:54 ID:CIrMnHwE
………………図書室

理珠 「………………」  文乃 「………………」

ガリガリガリガリガリ……

成幸 「お、おお、がんばってるな、お前ら……」

理珠 「……先生からアドバイスをいただきました。忘れないうちに、カタチにしておかないと」

文乃 「わたしもだよ。二回も面接練習をやってくれた桐須先生のためにも、がんばらないと」

成幸 (……前より先生に対しての苦手が少なくなったみたいだな。よかったよかった)

成幸 (というか、むしろ……) クスッ (“先生のためにがんばる” って気持ちすら見えるな)

文乃 「………………」


―――― 『……“人の心の機微に敏感で、他者との共感能力が高く、人の気持ちに寄り添える”』

―――― 『そして、その人のために全力でがんばれる優しさも持っている』


文乃 (あんなに温かい言葉をかけてくれた大人って……)

文乃 (お母さん以外で、初めてかもしれない)

おわり

264以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:50:30 ID:CIrMnHwE
………………幕間 「次はあなたの番」

真冬 「探したわよ、唯我くん」

成幸 「き、桐須先生……!? ど、どうしたんですか? 俺に何か用ですか?」

真冬 「あなたはまだ面接練習が終わってないでしょう。早く始めるわよ」

成幸 「えっ!? い、いやいや、俺、今日は藤田先生にやってもらいましたから――」

真冬 「――なら、藤田先生に指摘された内容を私に教えてちょうだい。その上で面接練習をするわよ」

真冬 「面接練習は何度やっても損することはないわ。せっかくの面接練習の日なのだから、私ともやっておきなさい」

成幸 「いや、えっと……」

真冬 「いいから、ほら、来なさい……」 ガシッ 「とりあえず前回のことからおさらいね。ちゃんと考えているか、試させてもらうわよ」

真冬 「……もし前回から成長が見られないようであれば」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!! 「……分かっているわね?」

成幸 「ひっ……!? だ、誰か、助けて--ーーー!!」

ズルズルズルズルズルズル……

おわり

265以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:53:21 ID:CIrMnHwE
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございます。
乙や感想、励みになります。個別レスしませんが、ありがとうございます。


この話は桐須先生をメインに据えるか、文乃さんをメインに据えるか迷いました。
最終的に桐須先生メインにしたつもりでしたが、オチは結局文乃さんで落ち着いてしまいました。
結果として原作の面接回の模倣をした上で劣化させただけの抑揚のない話になってしまいました。
申し訳ないことです。


また投下します。

266以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 23:03:07 ID:adZ4cVZk
おつおつ

267以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/18(日) 01:52:11 ID:WFgWIJUI
面白ければすべてよし

268以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/19(月) 00:02:25 ID:MRuKHTiA
楽しみに毎日少しずつ読んでるわ

269以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/20(火) 01:23:40 ID:tOhol3b2
なんかエレ速でまとめられなくなったな。
俺はここで見るからいいんだけど。

270以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/20(火) 22:40:02 ID:uB.im3Ew
今週のジャンプとよかったな!

271以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/21(水) 19:44:13 ID:OddFOdHY
追いついた支援

272以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/24(土) 15:01:56 ID:KEpMJF/M
楽しみに舞ってる

273以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/27(火) 00:19:09 ID:1jIqrhdE
最近新作来ないけど待ってる
あと今週の文乃も最高だった

274以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/27(火) 22:47:53 ID:Ik.X4.jA
ほんとそれな

275以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/27(火) 23:08:33 ID:3LaZHtO6
更新されないか毎日見にきてるほど楽しみ
気長に待ってよう

276以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/01(土) 09:24:47 ID:NWeuJPWo
生きてるのかどうか

277以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/02(日) 01:23:37 ID:q0PtpZHg
文乃の「起きてる」で心臓射抜かれた可能性

冗談はさておき気長に待ってます

278以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/02(日) 15:10:08 ID:I2CA3Xgw
>>277
その死因は草はえる

279以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/04(火) 21:54:45 ID:Y4rnAq.U
本当にもう来ないのか

280以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 11:57:06 ID:yc33/4Vw
主来ないけど、ここってスレ主以外でも投稿するのはアリなの?

281以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 12:35:10 ID:AvsQcYrM
どうなんだろ
誰かしら書いてくれても俺は見たいと思うけど

282以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 15:55:40 ID:ZoTh8HoA
別でスレ立てた方が無難だと思う
もし参加型っぽくしたいのなら別で立てて>>1で書いておくというのも手だし
何にしてもぼく勉のSSが増えるのは嬉しいから書くなら楽しみにしてる

283以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 16:15:25 ID:SQ64Un/I
>>280だけどありがとう。
今書いてるところなんだけどスレ立てたこと無いうえに単発ネタで、ここのスレ主さんみたいにスレ埋まるまで書き続けるのは無理だからどうしようか悩んでたんだ
書き上がったら頑張ってスレ立ててみます

284以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 17:32:46 ID:fNE1Noao
このスレに自分のSSを書き込む勇気はないわ
主が凄まじすぎる

285以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:50:00 ID:eXfAmxME
この調子で書く人増えてくれればいい
主のも見たいけど来ないのかな

286以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 22:29:56 ID:KLOPkIEQ
このスレに投下するのはさすがにな

287以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:07:12 ID:TbXVMSi6
>>1です。
投下します。

288以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:07:56 ID:TbXVMSi6
【ぼく勉】 あすみ 「緒方ってハムスターに似てるよな……」

289以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:13:38 ID:TbXVMSi6
………………夕方 繁華街

あすみ 「ふー……」

あすみ (ここのところお客様が多くてバイトが大変だな……)

あすみ (まぁ、その分時給も上がったし、ありがたいっちゃありがたいが……)

あすみ (ま、とりあえず今日は終わったし、明日は休みだし、時間とってしっかり勉強しとかないとな)

サササッ

あすみ 「……ん?」

ハミちゃん (おねーさま) キラキラキラ

あすみ 「ヒッ……!? げ、げっ歯類!?」

あすみ (み、見間違うはずもない。あれは間違いなく、例の奥様の家の、ハミちゃんだ……)

あすみ (またアタシに会うために抜け出してきたのか……)

ゾゾゾッ……

あすみ 「か、勘弁してくれよ……。アタシ、本当にお前たちは苦手なんだって……」

あすみ (とはいえ、このまま放置もできねーし……ど、どうしよう……)

ハミちゃん (おねーさま……えへへ、飛びついちゃおうかな……)

290以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:14:13 ID:TbXVMSi6
ハミちゃん (おねーさまー!) ピョーン

あすみ 「ひっ……!?」 (と、飛びかかられ――)

――ムンズ

「……? なんですか、この子は? ハムスターさんですか」

あすみ 「へ……?」

あすみ 「お、緒方!?」

あすみ (ハミちゃんを捕まえてくれたのか……)

理珠 「どうも。こんにちは、小美浪先輩」

理珠 「この子は先輩のペットですか?」

あすみ 「い、いや、そういうわけではないんだが……」

あすみ (っていうかげっ歯類をペットとか考えたくもない!!)

あすみ (だが、まぁ、緒方のおかげで助かったな……)

あすみ 「ありがとな、緒方。おかげで……――!?」

理珠 「……? どうかしました、先輩?」

291以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:14:50 ID:TbXVMSi6
あすみ (は、ハミちゃんを抱える緒方って……)

あすみ (少し、ハムスターっぽいというか、リスっぽいというか……)

あすみ (一般的には、きっと “かわいい” と言うべきなのだろうけど……)

あすみ (げ、げっ歯類の、ボスのように、見える……!!)

ゾワッ……!!!!

あすみ (や、やめろアタシ! 可愛い後輩になんて失礼なことを――)

理珠 「――先輩?」

あすみ 「ひっ……!!」 (め、目の前に、ハムスターと、ハムスターの親玉が……!?)

あすみ (い、いや、違う。緒方は人間だ。人間……いや、ちょっと待てよ)

あすみ (……もし、緒方がハムスター星人だったら……?) ※先輩は混乱しています。

理珠 「……?」 ジーーーッ

ハミちゃん (……?) ジーーーッ

あすみ (に、似てる! やっぱり似てるぞ!!)

あすみ (やはり緒方はハムスター星人なのか!?) ※先輩はとても混乱しています。

292以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:15:34 ID:TbXVMSi6
理珠 「……あの、先輩?」

あすみ 「あっ!!! すまん緒方! アタシちょっと急ぎの用事を思い出したわ!」

あすみ 「ってことでスマン! そのハムスターはお前に任せた!!」

ダッ

理珠 「へ……?」

理珠 「い、行ってしまいました……」

理珠 (何だったのでしょうか。先輩、少し様子がおかしかったですが……)

理珠 「それよりもこの子ですね。どうしたものでしょうか」

ハミチャーン ハミチャーン

理珠 「……?」

奥様 「……!? あっ、ハミちゃん!」

ハミちゃん (おくさまー!!) ピョーン

奥様 「よかったわぁ、ハミちゃん。探したのよ〜」 ギュッ

理珠 (ほっ。あの人が飼い主さんみたいですね。これで一安心です)

理珠 (それにしても……。先輩、一体どうしたというのでしょうか)

293以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:16:19 ID:TbXVMSi6
………………翌日 緒方うどん

あすみ 「………………」

ズーン

あすみ (……昨日は本当に最低のことをしてしまった)

あすみ (後輩である緒方にハミちゃんを押しつけ、逃走するに留まらず……)

あすみ (緒方をあの恐ろしいげっ歯類に似ているなどと考えてしまった……)

あすみ (……謝らねば)

あすみ (……と、思ってあいつん家に来たはいいものの、緒方の奴いるかな。とりあえず入ってみるか)

ガラッ

親父さん 「おう、いらっしゃい!」

あすみ 「どうも、こんにちは。あの、理珠さんはいらっしゃいますか?」

親父さん 「お? リズたまのお友達かい?」

あすみ (リズたま……?)

あすみ 「お友達……って言っていいのかな。一応、理珠さんの一つ上の先輩です」

あすみ 「同じ予備校の夏期講習を受けて知り合いました」

294以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:17:07 ID:TbXVMSi6
親父さん 「おお、ってことは、ひょっとして “あすみ先輩” かい?」

あすみ 「そうですけど……」

親父さん 「話はよくリズたまから聞いてるよ。リズたまに色々アドバイスをくれたみたいで、どうもありがとな」

あすみ 「いえいえ。そんな……」

あすみ 「ところで、理珠さんは……?」

親父さん 「ああ、わりぃわりぃ。リズたまはいまちょっと出前中でな。店にはいねぇんだ」

親父さん 「でも、すぐ戻ってくると思うから、うどんでも食べて待っててくれな」

あすみ 「あ、でも……」

親父さん 「気にすんなって。リズたまの友達なんだからごちそうするから」

親父さん 「とりあえず超特急で激うまうどんを作ってくるから、座って待っててくれな!」

あすみ 「あっ……行っちまった」

あすみ (……よくわからんが)

あすみ (うちの親父と同じで、経営が苦手なニオイがするな、あのお父さん)

あすみ (アタシとは違う方向みたいだが、緒方も父親で苦労してそうだな……)

295以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:17:51 ID:TbXVMSi6
………………

あすみ 「………………」

ズルズルズル……

あすみ (……学園祭でも食ったけど、ここのうどん本当にうめーな)

あすみ (こんな家に生まれりゃ、緒方くらいうどん好きになっても不思議じゃねーかもな)

あすみ 「すみません、お父さん。うどんいただいちゃって」

親父さん 「なに、気にすんなって。そんなに美味しそうに食ってくれりゃうどん屋冥利に尽きるってもんよ」

あすみ 「はい、本当に美味しいです。ご馳走様です」

親父さん 「……いや、ほんと、気にしなくていいんだよ」

あすみ 「……?」

親父さん 「うちのリズたまはさ、こう言っちゃなんだが、ちょっと人の気持ちが分からないところがあってさ」

親父さん 「友達もそう多い方じゃねぇし、友達と喧嘩したっていうのも多かったんだ」

親父さん 「……そんなリズたまがさ、ここ一年くらい、本当に楽しそうでさ」

親父さん 「俺は本当に嬉しいんだ」

296以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:18:38 ID:TbXVMSi6
あすみ 「お父さん……」

親父さん 「それも全部、文乃ちゃんやうるかちゃん、それからアンタみたいな先輩もいてくれるからだと思う」

親父さん 「だから、本当にありがとな。これからも、リズたまの友達でいてくれると、嬉しいぜ」

あすみ 「………………」

あすみ 「……理珠さんは、アタシにとっても大事な後輩ですから」

あすみ 「こちらこそ、これからも仲良くお付き合いさせてもらいたいです」

あすみ (……うぅ。この親父さん、小さい頃から緒方のことをずっと心配してたんだろうな)

あすみ (なのに、アタシはそんな緒方に、昨日あんな失礼なことをしてしまった……)

親父さん 「……? それにしてもおかしいな。リズたま、もうそろそろ戻ってくると思うんだが……」

親父さん 「まさか、事故にあったりなんか……」 オロオロ

あすみ 「あっ……じゃあ、アタシ探してきますよ」

あすみ 「うどんいただいたお礼です! ちょっと行ってきますね!」

あすみ (早く緒方を見つけて、昨日のことを謝らないと……)

297以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:19:24 ID:TbXVMSi6
………………

あすみ (……と、急き込んで飛び出したものの)

理珠 「……うーん、どうしたものでしょうか」

あすみ (こんなに早く見つかるとは。あの和服姿は間違いなく緒方だ)

あすみ (……が、)

理珠 「あなたは昨日のハムスターさんですね。今日も脱走してきたのですか?」

ハミちゃん (昨日のおねーさん!) ハミハミハミ

あすみ (なんで緒方とハミちゃんが今日も一緒にいるんだよー!!)

あすみ (これじゃ怖くて話しかけられないじゃねーか!)

298以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:20:00 ID:TbXVMSi6
理珠 「どうしましょうかね。あなたの飼い主さんも心配しているでしょうし」

理珠 「うちで保護してあげたいところですが、うちは飲食店なので動物は連れ込めませんし……」

理珠 「でも、出前帰りに偶然出会えて良かったです。今日もかわいいですね」

ハミちゃん (このおねーさんも優しいから好きー!) ハミハミハミ

理珠 「さて、どうしましょうか……」

ハミちゃん (おねえさまに会いたいの! 連れてって!) ハミハミハミ

理珠 「……? ハムスターさん? そっちに行きたいのですか?」

理珠 「………………」

ムフー

理珠 「まぁ、今はお店にお母さんもいますし、少しくらい空けてもいいですよね」

理珠 「わかりました。ハムスターさん。あなたの行きたいところまで私が連れて行ってあげましょう」

299以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:20:42 ID:TbXVMSi6
………………物陰

あすみ 「………………」

ゾクッ

あすみ (お、緒方の奴、ハムスターと楽しげにお喋りを始めやがったぞ)

あすみ (き、昨日の今日で、さっきの今で、反省したばかりで、これは大変、遺憾なことだが)

あすみ (やはりあいつはハムスター星人なのでは……!?) ※先輩は混乱しています。

あすみ (いや、違う。あいつは人間だ。人間でありながら、人類を裏切ったのか!?) ※先輩は混乱しています。

あすみ (だ、ダメだ。正常な判断ができない。こういうときは……)

ピッ……prrrr……

成幸 『もしもし?』

あすみ 「後輩! 悪いが今すぐ来てくれ! 緒方がハムスター星人で人類を裏切ったんだ!!」

成幸 『先輩が混乱しているのはよく分かりました。今すぐ行くのでそこを動かないでください』

300以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:21:30 ID:TbXVMSi6
………………

あすみ 「かくかくしかじかというわけなんだ」

成幸 「……はぁ。まぁ、話は分かりましたけど」

成幸 「それで緒方をつけ回してるんですか?」

あすみ 「し、仕方ねーだろ! アタシは先輩として、あいつを正しい人類の道に戻してあげる必要がある!」

成幸 (この人、げっ歯類が絡むとほんとぶっ飛んじゃうよなぁ)

成幸 「俺が緒方と話してきましょうか?」

成幸 「で、俺がハミちゃんを預かっちゃえば、先輩も緒方と話せますよね?」

あすみ 「だ、ダメだ!」

ギュッ

成幸 「せ、先輩!?」 (お、往来で急に抱きつかれるのはさすがに……)

あすみ 「お、お前までげっ歯類側に行ってしまったら、アタシは……アタシは……」

成幸 「……あ、はい」

成幸 (げっ歯類側って何だろう……)

301以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:22:15 ID:TbXVMSi6
………………

ハミちゃん (次はこっち!) ハミハミハミ

理珠 「こっちですね。わかりました」


………………

あすみ 「な!? 緒方の奴、ハムスターの言葉がわかってるんだよ!」

成幸 「まぁ、たしかにそう見えますけど……」

成幸 「そんなことより、緒方はどこに向かっているんでしょうね」

あすみ 「ん……そういえば……」

ハッ

あすみ 「こ、この辺は、見覚えがある……というか、アタシがよく通る道だ……」

成幸 「……うん、まぁ、俺も薄々そう思ってましたけど」

成幸 「間違いなく先輩の家に向かってますよね」

あすみ 「なんだと!? 緒方の奴、本当に人類を裏切るつもりか!?」

成幸 (……この先輩見るの少し楽しくなってきたな)

302以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:22:45 ID:TbXVMSi6
………………小美浪診療所

理珠 「ここは……」

理珠 「小美浪先輩の家……?」

小美浪父 「……おや? 君はたしか、娘の友達の緒方さんだったかな?」

理珠 「どうも、こんにちは」

ハミちゃん (おねえさまの家!) ピョーン!!

理珠 「あっ、ハムスターさん!」

トトトトトト……

303以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:23:34 ID:TbXVMSi6
理珠 「す、すみません、すぐ捕まえます」

小美浪父 「ああ、気にしなくていいよ」

小美浪父 「あのハムスターはたまに来る娘の友達だ。たぶん娘の部屋に行ったんだろう」

小美浪父 「最近、娘はよくあの子と遊んでいてね」

小美浪父 「きみが連れてきてくれたんだね。娘のために、わざわざありがとう」

理珠 「いえ、そんな……」

理珠 「あっ……す、すみません。お仕事中ですよね。お邪魔をしてしまって……」

小美浪父 「気にしなくていいよ。今はお昼休憩中だからね」

304以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:24:06 ID:TbXVMSi6
………………

あすみ 「お、緒方の奴本当にうちに入っていきやがったぞ!?」

あすみ 「あいつは本気でアタシたちを裏切ったのか!?」

成幸 「そんな自覚はないと思いますよ。ほら、先輩、少し落ち着きましょう」

成幸 「お父さんは先輩がげっ歯類を苦手だって知ってるんですよね?」

あすみ 「……まぁ、多分」

成幸 「それなら、きっとなんとかしてくれますよ。とりあえず入りましょう?」

あすみ 「そ、それもそうだな……」

あすみ (……いや、しかし、げっ歯類は狡猾だ。どんな罠を張り巡らしているか分からない)

あすみ 「……とりあえず、こっそり行くぞ」

成幸 「えっ? まぁいいですけど……」

コソコソコソ…………

305以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:24:45 ID:TbXVMSi6
あすみ 「ん……。親父と緒方が何か話してるな……」

小美浪父 「ああ、気にしなくていいよ」

小美浪父 「あのハムスターはたまに来る娘の友達だ。たぶん娘の部屋に行ったんだろう」

小美浪父 「最近、娘はよくあの子と遊んでいてね」

小美浪父 「きみが連れてきてくれたんだね。娘のために、わざわざありがとう」

あすみ 「……親父」

成幸 (お父さん、ハミちゃんから逃げ回る先輩を見て、“遊んでる” と思ってるんだな)

成幸 (あのお父さんならさもありなんだけど、先輩、怒ってるだろうなぁ……) チラッ

あすみ 「……親父ぃ」 ボロボロボロ

成幸 「……!?」 (な、泣いてる!?)

あすみ 「お、親父……どうして侵略の手引きなんかを……」

あすみ 「パパまでげっ歯類側についたのかよぉ〜〜〜!!」 シクシクシク

成幸 (先輩ってとことんまで弱るとパパ呼びなんだ……っていうか、まさか泣き出すとは……)

成幸 (……先輩は本当に辛いだろうから、不謹慎な話ではあるけど)

成幸 (……少し可愛いな)

306以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:25:29 ID:TbXVMSi6
………………

小美浪父 「お茶とようかんだよ。どうぞ」 コトッ

理珠 「すみません……」

小美浪父 「いやいや。こちらこそ、おうちのお手伝い中なのにすまないね」

理珠 「いえ。父にはもう連絡を入れたので、大丈夫です」

小美浪父 「そうか。それならよかったよ。きみたちとは、一度ゆっくりお話がしたかったんだ」

理珠 「?」

小美浪父 「……とりあえず、まず、言わせてほしい」

ペコリ

小美浪父 「……娘と仲良くしてくれて、本当にありがとう」

307以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:26:21 ID:TbXVMSi6
………………

あすみ 「うぅ……まさか、家族にまで裏切り者がいるとは……」 ブツブツブツ

成幸 「……先輩」

あすみ 「なんだよぅ……」

成幸 「盗み聞きみたいになっちゃって嫌ですけど、先輩もこっち来て聞きましょう?」

あすみ 「裏切り者たちの話なんか……」

成幸 「ほらほら、いつまでも混乱してないで、来てくださいってば」

成幸 「先輩は絶対に聞いといた方がいいですよ。この話」

クスッ

成幸 「先輩のお父さんも先輩とそっくりで、なかなか素直になれない人ですから」

あすみ 「……?」

308以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:27:13 ID:TbXVMSi6
………………

理珠 「へ? へ? い、いえいえ、そんな……頭を下げられるようなことでは……」

小美浪父 「いや、本当にきみたちには感謝をしているんだ」

小美浪父 「あすみは小さい頃から活発で人好きのする性格でね」

小美浪父 「友達も多かったし、いつも楽しそうだったよ」

小美浪父 「……でも、浪人し始めてから、あの子はずっと必死でね」

小美浪父 「もちろん私のせいもあるのだろうが、どうにも、余裕がないようだった」

小美浪父 「……しかし、夏くらいからかな。それこそ、唯我くんやきみたちと出会ってからだ」

小美浪父 「あの子から余計な力が抜けて、余裕が出てきたように見えるようになった」

小美浪父 「間違いなく、唯我くんや緒方さん、古橋さん、武元さんのおかげだ」

小美浪父 「……だから、ありがとう。私はいま、本当に安心しているんだ」

小美浪父 「娘がきみたちと出会ってよかった。きみたちが、娘のお友達になってくれて、本当によかった、とね」

理珠 「お父さん……」

309以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:27:57 ID:TbXVMSi6
理珠 「そうやって言われると、なんて言っていいのかわかりませんが……」

理珠 「私もお勉強のことやその他のことで、先輩からは色々とアドバイスをもらったりします」

理珠 「私にとって、とても頼りになる先輩です」

理珠 「……だから、私の方こそ、先輩に出会えてよかったです」

小美浪父 「そうか……」

小美浪父 「……そう言ってもらえると、私も嬉しいよ。ありがとう、緒方さん」

理珠 「あっ……さすがにそろそろお店に戻らないとです」

理珠 「お茶とようかん、ごちそうさまでした」

小美浪父 「いやいや、おじさんの話に付き合わせてしまって悪かったね」

小美浪父 「また遊びに来なさい。あすみともども、歓迎するよ」

理珠 「はい! また来ます!」

310以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:28:27 ID:TbXVMSi6
………………

あすみ 「………………」

成幸 「ね? 聞いて良かったでしょ?」

あすみ 「……ふん」 プイッ

あすみ (……緒方の奴、嬉しいこと言ってくれるじゃねーか)

あすみ (親父も親父だ。恥ずかしいことばっか言いやがって……)

あすみ (いや、しかし、アレだな……)

ズーン

あすみ (……さっき緒方のお父さんと話をして反省したばかりだというのに)

あすみ (またげっ歯類に混乱して、わけの分からんことを口走ってしまった……)

あすみ (ハミちゃんもいなくなったことだし、今度こそ緒方に謝らないと……)

311以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:29:06 ID:TbXVMSi6
………………

理珠 「さて、急いでお店に戻らないとですね……」

理珠 (さすがに、長く外に出すぎました。帰ったらお父さんに謝らないと……ん?)

あすみ 「……よう」

理珠 「あ、小美浪先輩」 キョトン 「びっくりしました。今、ちょうどおうちにお邪魔していたんですよ」

あすみ 「……みたいだな」

あすみ 「……なぁ、緒方」

理珠 「はい?」

あすみ 「昨日は、その……逃げ出すような真似して悪かったな」

理珠 「……はい?」

あすみ 「いや、その……ハムスター、お前に押しつけたみたいになっちまっただろ?」

理珠 「ああ、そういえば、昨日もハムスターさんと会いましたね」

理珠 「大丈夫ですよ。あの後すぐに飼い主さんが来て引き取ってくれましたから」

あすみ 「そ、そうか……」 ホッ 「それならよかった」

あすみ 「でも、すまん。悪いことをした」

312以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:29:52 ID:TbXVMSi6
理珠 「? そんな、頭を下げるようなこととは思えないのですが……」

あすみ (まぁ、実際にはそれだけじゃなくて、お前のことをハムスター星人だのなんだのひどいことを言ってしまったんだが……)

あすみ (緒方が気分を害しても嫌だし、それはいつか、別のときに告白するとして……)

あすみ 「あ、あのさ……」

理珠 「はい?」


あすみ 「アタシにとって、お前は大切な後輩だから」


理珠 「……? はい?」

あすみ 「……いや、お前、そこはもう少し笑顔になってくれてもいいだろうが」

カァアアアア……

あすみ 「アタシがひとりでこっぱずかしいこと言っただけみたいになっちゃうだろ」

理珠 「すみません。そういうものなんですね」

理珠 「ありがとうございます。私も、先輩のことは尊敬していますし、大切に思っていますよ」

あすみ 「っ……」 (そ、そうだ。こいつはこういう奴だ。照れるようなことを、何でもないように言えるんだ)

313以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:30:22 ID:TbXVMSi6
あすみ 「……引き留めて悪かったな。それだけ言いたかったんだ」

理珠 「そうですか」

理珠 「では、また、小美浪先輩」

あすみ 「おう。またな」

あすみ 「………………」

ズーン

あすみ (……ほんと、いくら混乱してたとはいえ、あんなに良い奴をげっ歯類の手先だと思い込むなんて)

あすみ (アタシもヤキが回ったもんだ。ごめんな、緒方……)

314以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:30:54 ID:TbXVMSi6
成幸 「終わりました?」 ヒョコッ

あすみ 「おう。後輩も、くだらねーことに付き合わせちまって悪かったな」

成幸 「いえいえ」

あすみ 「……お詫びに勉強付き合ってやるよ。うち寄ってけよ」

成幸 「お詫びって……。どうせ理科で教えてほしいところがあるんじゃないですか?」

あすみ 「にひひ、バレたか。ま、いいだろ。大好きな “先輩と密室” シチュなんだからよ」

成幸 「だからそれは勘違いだって言ってるでしょーが!」

成幸 (……あれ?)

成幸 (そういえば、何か忘れてるような……?)

315以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:31:32 ID:NI3MJeIE
うひょおおおおおお!!!!

316以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:31:39 ID:TbXVMSi6
………………小美浪家

あすみ 「大体だな、お前はもう少しこのシチュエーションに感謝した方がいいぜ?」

あすみ 「アタシとふたりっきりで勉強できるんだ。店のファンなら垂涎モンだぞ?」

成幸 「俺はべつにハイステージのファンではないので……」

ドキドキドキドキ……

成幸 (な、なんだろう。先輩とふたりきりということに対してのドキドキじゃない、この胸騒ぎは……)

成幸 (先輩の部屋に近づくにつれて、どんどん動悸が激しくなっていく……)

成幸 (何か、忘れてはいけないものを忘れているような……)

あすみ 「ったく。つれねー後輩だな。ま、いいや」

ガチャッ

成幸 「……!?」

ハッ

成幸 「あっ!! せ、先輩! 部屋の中にはきっと……――」

――――ピョーン!!!

ハミちゃん (おねえさまー!!)

317以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:32:17 ID:TbXVMSi6
あすみ 「へ……?」

ムギュッ

あすみ 「………………」

ハミちゃん (えへへー、おねえさまー!) はみはみ

成幸 「せ、先輩……」

成幸 (む、胸元にダイブをキメるとは、やるなハミちゃん……)

あすみ 「………………」

ブワッ

あすみ 「うわあぁあああああああああん!! なんでこうなるんだよぉおおおおお!!」

あすみ 「後輩取って後輩取って後輩取ってぇえええええええええ!!」

あすみ 「ハムスター怖いよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

成幸 「お、落ち着いてください先輩! 今取りますから!!」

318以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:32:49 ID:PxM1298I
待ちに待ってた

319以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:33:02 ID:TbXVMSi6
あすみ 「ダメ! お願い! 早く取ってぇええええ!!」

成幸 「ちょっ、暴れないでください! 取れないでしょ!」

あすみ 「緒方〜〜〜〜〜!! やっぱりお前はハムスターの手先なのか〜〜〜〜〜〜!!!」

成幸 「またわけわからないこと言い始めた!? 先輩どんだけげっ歯類苦手なんですか!?」

成幸 「……うわっ、脱いだ服振り回さないでください! ハミちゃんもう床に降りてますから!」

成幸 「ってなんでブラジャーまで取ろうとしてるんですか!?」

あすみ 「緒方〜〜〜!!」

グスッ

あすみ 「やっぱりお前はハムスター星人だったのかーーーー!!」


おわり

320以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:33:55 ID:TbXVMSi6
………………幕間  「まぁ誤解するよね」

あすみ 「……はぁ……はぁ」 ゼェゼェ……

成幸 「落ち着きました? 先輩……」

あすみ 「……ああ。また恥ずかしいところを見せちまったな」 ギロッ 「……とりあえず忘れろ」

成幸 (どうやって忘れろと言うんだろう……) 「……っていうか、先輩、ハミちゃんはカゴの中に入れましたから」

ハミちゃん (出してー! 出してー!) ハミハミ

成幸 「いい加減、俺から離れてくれませんか? っていうか、その……」 カァアアアア…… 「せめてブラジャーだけでもつけてもらえると……」

あすみ 「も、もう少しだけくっつかせといてくれ……身体の震えが止まらないんだ」

成幸 「……まぁ、いいですけど……」

小美浪父 「あすみ! 何を暴れているんだ!?」 ガチャッ 「大丈夫か!? ……っと」

小美浪父 「………………」 ポッ 「……すまん。取り込み中だったか」

成幸 「ま、待ってください! お父さん!? 違いますよ!? 違いますからね!?」

小美浪父 「いや、大丈夫だ、唯我くん。私は分かっているから。理解ある父親を目指しているから」

成幸 「それ絶対分かってないですからね!?」

おわり

321以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:34:59 ID:TbXVMSi6
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。


また投下します。

322以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:35:21 ID:NI3MJeIE
おつんこ

323以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/07(金) 00:22:56 ID:Kt4k9.rI
おっつ!

324以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/07(金) 09:02:08 ID:AznPBsbY
やはりあしゅみー先輩が最強

325以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/07(金) 12:49:03 ID:YbxNUzQA
生きてたようで何よりや
乙乙

326以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/07(金) 13:01:54 ID:73y8ue3k
そういや文乃って動物とも意思疎通できたな

327以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/08(土) 00:24:27 ID:uk9Tgtt.
文学を極めし者万物と対話したり
って言葉もあるくらいだし

328以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 00:40:28 ID:kzaYf5dA
おつです
おかえり!

329以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:34:39 ID:pNLIM/2k
>>1です。
投下します。

【ぼく勉】 小林 「幼なじみの餌付けにハマってたら彼女に怒られた」

330以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:35:20 ID:pNLIM/2k
………………帰り道

陽真 「ほら、見て見て智波ちゃん」

智波 「? 写真?」

陽真 「うん! この前成ちゃんが家に来たとき、カツカレーをごちそうしたんだ」

陽真 「幸せそうな顔でしょ? 可愛いよね〜」 ニヘラ

智波 「……あ、うん。そうだね」

智波 「………………」 (……また唯我くんの話かぁ)

智波 (陽真くん、本当に唯我くんのことが好きなんだなぁ。ちょっと妬いちゃうよ……)

智波 (唯我くんはきっと、わたしの知らない陽真くんもたくさん知ってるんだろうな……)

智波 (うらやましいなぁ……)

陽真 「成ちゃんは美味しいものを食べるとき、こういう幸せそうな顔をするんだよねー」

智波 「へー……」 (っていうか……)

智波 (陽真くん、わたしがどういうとき、そういう顔をするかとか、知ってくれてるのかな)

ズキッ

智波 (……ああ、なんか。わたしすごく、めんどくさいこと考えちゃってるな)

331以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:36:09 ID:pNLIM/2k
陽真 「……? 智波ちゃん?」

智波 「へっ?」

陽真 「どうかした? なんか、少し……」

陽真 「少し、悲しそうに見えたから……」

智波 「あっ……」 アセアセ 「そ、そんなことないよ! ないない!」

陽真 「………………」

智波 「………………」

智波 「あっ、えっと……」

智波 「じゃあ、わたしこっちだから! じゃあまた明日ね! 陽真くん!」

陽真 「あっ、うん……。また明日、智波ちゃん」

タタタタタ……

智波 「……はぁ」

智波 (……サイテーだ、わたし。陽真くんにウソついて、逃げ出しちゃった)

智波 (……うぅ)

332以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:36:41 ID:pNLIM/2k
………………翌日 3-B教室

陽真 「………………」

ズーン……

成幸 「……おい、大森」 コソッ 「小林の奴どうしたんだ? めずらしくめっちゃ凹んでるぞ」

大森 「お前が知らないあいつのことを俺が知ってるわけないだろ」

大森 「尋常じゃない凹み方してるから、お前ちょっと聞いてこいよ」

成幸 「……うん。そうだな。そうするよ」

成幸 (小林があんな風にもろに感情を表に出すってめずらしいからな……)

成幸 (幼なじみとして、看過するわけにはいかない。よし、行くぞ……!)

333以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:37:14 ID:pNLIM/2k
成幸 「よー、小林。おはよう。どうしたんだ、元気がないけど」

陽真 「……ああ、成ちゃん。おはよう」

陽真 「昨日、ちょっとね……」 ニコッ 「大丈夫。大丈夫だよ……」

成幸 「いや、全然大丈夫に見えないんだけど……」

ハァ

成幸 「なんかあったんだろ? 俺は頼りないかもしれないけど、お前の幼なじみだからさ」

成幸 「何かあったなら教えてくれよ。相談に乗るくらいはできるからさ」

陽真 「成ちゃん……」

陽真 「ありがとう。じゃあ、少し聞いてもらおうかな……」

成幸 「おう!」

334以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:37:59 ID:pNLIM/2k
………………3-D

智波 「……それでね、陽真くんがあんまりにも唯我くんの話ばっかりするもんだから」

智波 「わたし、段々悲しくなってきちゃって……」

智波 「陽真くんは、唯我くんと同じくらい、わたしのこと分かってくれてるのかな、とか……」

智波 「……陽真くんは、わたしより唯我くんと一緒にいる方が楽しいんじゃないかな、とか……」

智波 「そしたらね、陽真くんが心配そうな顔で……」


―――― 『どうかした? なんか、少し……』

―――― 『少し、悲しそうに見えたから……』


智波 「……わたしはその後、ウソついて逃げ出しちゃって……」

智波 「……そのときから気まずくて、メッセージも返信してないし」

智波 「うぅ……陽真くんに申し訳なくてさぁ……」

あゆ子 「……なるほどなぁ」

うるか 「海っちが朝からヘコんでたのはそういうワケだったのかー」

335以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:38:43 ID:pNLIM/2k
智波 「うぅ〜、うるかぁ、あゆ子ぉ、陽真くんきっと、もう……」

智波 「もう、わたしのことなんか……」

グスッ

智波 「……嫌いになっちゃったよね……」

あゆ子 「……!? お、おいおい、智波。泣くなよ。あの小林がそんなことでお前のことを嫌いになるわけないだろ」

智波 「でもぉ……」

あゆ子 「……というか、だ」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

あゆ子 「彼女の前で唯我とのノロケを話す小林に、私から一言言ってやらないと気が済まないぞ」

うるか 「ま、まぁまぁ。こばやんにも悪気はないだろうから、おさえておさえて」

うるか (……とは言ったものの、海っちは本当に辛そうだし、このまま放っておけないよね)

うるか (……よーしっ)

うるか 「ふふ、ここは恋のキューピッド、うるかちゃんに任せなさい!」

智波 「うるか……?」

うるか 「あたしが絶対、海っちとこばやんを仲直りさせたげるから、オーブネに乗ったつもりで任せてよ!」

うるか (とはいえ、どうしたらいいか分からないし……。とりあえずは、成幸に相談かな)

336以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:39:52 ID:pNLIM/2k
………………昼休み

うるか 「……っていうわけでね。海っちは成幸に嫉妬してるんだよ」

成幸 「なるほどなぁ……」

ハッ

成幸 「って、俺に嫉妬!? 俺男だぞ!?」

うるか 「オトメゴコロは複雑なんだよ、成幸」 チッチッチ 「そんなんじゃモテないぞ〜?」

成幸 「余計なお世話だよ。悪かったな……」

成幸 「……それにしても、俺に嫉妬ねぇ」

成幸 「まぁ、それに関しては完全に小林が悪いな。彼女に俺の話してどうするんだよ……」

成幸 「もっと他に面白い話してやれよ……」

うるか 「まぁ、こばやんにしてみれば、成幸の可愛さを大好きな海っちにも共有したかっただけなんだろうけど……」

成幸 「はぁ? 何度も言うけど、俺男だぞ? 俺が可愛いってなんだよ……」

うるか 「……!?」 (し、しまったー! つい、成幸の前で、成幸の可愛さとか口走っちゃったよー!)

うるか 「あ、あたしが思ってるんじゃないよ? あくまでキャッカンテキな目線の話だよ!?」

成幸 「客観的に見て可愛いのか!? 俺が!?」

337以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:40:33 ID:pNLIM/2k
うるか 「……オホン、オホン! 話がズレたね。元に戻すとしよーか」

成幸 (なんか誤魔化された気もするが、まぁいいか……)

うるか 「海っちもね、こばやんが成幸のこと大好きなのは知ってるから、理解は示してるんだよ」

うるか 「こばやんが成幸のことを話してるのを聞いて、少し不安になっちゃっただけなんだよ」

成幸 「わかってるよ。小林も海原もすごく良い奴らだ。ただのボタンの掛け違いだろ?」

成幸 「小林だって、少し俺の話をしすぎたって反省してたぞ」

成幸 「海原に謝りたいってさ」

うるか 「うんうん。さすがこばやんは、オトメゴコロをよく理解してるよね」

うるか (成幸とは大違いだよ) ジトッ

成幸 (……なんか、無言で責められている気がする)

成幸 「なんにせよ、海原も小林と仲直りしたいと思ってくれてるなら簡単だ」

成幸 「今話したことを俺が小林に、うるかが海原に話せば解決だな」

うるか 「オッケー! じゃあ、ゼンは急げってことで、あたし早速海っちと話してくるね!」

成幸 「ああ。じゃあ俺もすぐ小林のところに行くよ」

338以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:42:25 ID:pNLIM/2k
………………

成幸 「……ってことで、海原は全然怒ってないよ」

成幸 「お前が俺の話ばっかりするから、少し不安になってしまっただけなんだと」

成幸 「で、今は猛烈に反省していて、お前に嫌われたんじゃないかってうるかに泣きついてるみたいだぞ?」

陽真 「そっか……」

ホッ

陽真 「……よかった。嫌われたわけじゃないんだね」

陽真 「でも、智波ちゃんに不安な思いをさせてしまったのは、本当に反省しないと……」

陽真 「同じようなことをしないために、今後のことをしっかり考えないと……」

成幸 「………………」 ハァ 「まったく、お前は……。チャラい見た目のくせに根がまじめすぎるだろ」

陽真 「へ……?」

成幸 「いいからとにかく、会って謝ってこいよ」

成幸 「考えるのはそれからでもいいだろ?」

陽真 「成ちゃん……。うん、そうだね。とりあえず、智波ちゃんに会って、謝って、話してくるよ」

成幸 「おう!」

339以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:42:59 ID:pNLIM/2k
陽真 「本当にありがとね、成ちゃん。やっぱり成ちゃんは、俺にとって……」

成幸 「?」

陽真 「……ううん、何でもない。本当に頼りになる幼なじみだよ、成ちゃんは」

成幸 「そうか? そう言われると、幼なじみ冥利に尽きるってもんだな」

成幸 「ほら、早く行ってこいよ。川瀬の奴は少し怒ってるみたいだから、気をつけろよ」

陽真 「……まぁ、そうだろうね。川瀬と智波ちゃんは仲良いしね」

陽真 「武元にもお礼を言っておかないと……――」

――ビュォオオオ!!!

成幸 「っ……!?」 (痛つつ……突風で目にゴミが入ったな……)

陽真 「すごい風だったね。成ちゃん、大丈夫?」

成幸 「ああ、ちょっと目にゴミが入ったみたいだ……」 ゴシゴシ

陽真 「あっ、目をこすったらダメだよ。角膜に傷がついちゃうよ」

成幸 「そうは言ってもな、ゴミが取れなくて、痛くて……いててて……」

陽真 「ほら、こっち向いて、成ちゃん」 クイッ 「取ってあげるから」

成幸 「悪い、小林。頼む」

340以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:43:37 ID:pNLIM/2k
………………少し前

うるか 「かくかくしかじか、ってわけなんだよ」

智波 「………………」

ブワッ

智波 「よ、よかったよぅ〜……。陽真くん、怒ってないんだね……」

智波 「うぅ……陽真くんに嫌われたらどうしようって、気が気じゃなかったから……」

智波 「力が抜けたよぅ……」

うるか 「よしよし。辛かったねぇ、海っち。もう大丈夫だよ」 ナデナデ

うるか 「ほら、早速こばやんのところに行こう? こばやんも海っちに謝りたいみたいだし」

智波 「うん。そうするよ。わたしも陽真くんに謝らないといけないし……」

智波 「っていうか、彼氏の男友達に嫉妬するって、やっぱり重いよね、わたし……」

智波 「わたし、自分がこんなに嫉妬深いなんて思ってなかったよ。改めないといけないよね」

うるか (少しヤキモチを妬いて、少し悲しくなるくらい、べつにいいと思うケド……)

うるか 「……今度から、こばやんとちゃんとお話すればダイジョーブだよ」

うるか 「悲しくなったら悲しいって言えばいいし、嫉妬しちゃったら甘えればいいし!」

341以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:44:08 ID:pNLIM/2k
うるか 「こばやんなら絶対、海っちの言うことを聞いてくれるだろうし、理解もしてくれるから!」

うるか 「女の子は少し嫉妬するくらいが可愛いって文乃っちも言ってたし!」

智波 「うるか……」 グスッ 「そうだね! わたしも、ちゃんと話をしなきゃダメだよね」

智波 「いくら彼氏だって、言わなくてわたしの考えが伝わるわけないもんね!」

うるか 「うんうん。その意気だよ、海っち」

うるか 「それに、少しくらい嫉妬しても仕方ないよ。だって、成幸とこばやんは本当に仲良しだし!」


うるか 「なんてったって、あのふたりはキスマークをつけるくらい仲が良いんだからね!」


智波 「……へ?」

うるか 「……うん?」

うるか (あ、あれ? おかしいな? 海っちの目が急に真っ暗になったよ?)

うるか 「海っち……?」

智波 「……ねえ、うるか? 今、わたしの聞き間違いかな?」

智波 「陽真くんと唯我くんが、キスマークをつけるくらい、仲が良いって聞こえたんだけど?」

うるか 「い、言ったけど……」

342以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:46:26 ID:pNLIM/2k
智波 「……キスマーク」

智波 「どこに?」

うるか 「えと……成幸の、首に……二箇所くらい」

智波 「首に二箇所」

智波 「それはいつ頃の話?」

うるか 「ついこの前だけど……」

智波 「本当に陽真くんがつけたの?」

うるか 「たぶん……」

智波 「……うん。そっか。うんうん。よくわかったよ」

うるか 「い、いやいや、海っち? あのふたり仲良いから、それくらいなら……――」

智波 「――それくらい!? キスマークつける関係は仲良いとかそんなレベルじゃないよ!?」

智波 「うるかはいいの? 大好きな唯我くんが、陽真くんにキスマークをつけられてて」

うるか 「へ……? あ、うん。こばやんだったらいいかな、って……」

智波 「……うん。うん。うるかはそうかもね」

343以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:46:59 ID:pNLIM/2k
智波 「………………」

ズーン

智波 「……そっか。ずっと、もしかしたら、って思ってたけど」

智波 「……やっぱり、陽真くんが一番好きなのは、唯我くんなんだね」

うるか (ま、まずいよ) ダラダラダラ (せっかくきれいにまとまりかけたのに……)

うるか (あたしが余計なこと言ったせいで、また海っちが沈んじゃったよーー!!)

智波 「はは……そっか……。首にキスマークつけるくらいかぁ……」

うるか 「う、海っち! とりあえずこばやんとこ行こ? ね?」

グイッ

智波 「……はぁ」

うるか (ま、まずいよー! とにかく早く、こばやんのところ連れて行かないと……)

ズルズルズル……

智波 「はは……あはは……」

344以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:47:31 ID:pNLIM/2k
………………

成幸 「いててて……」

陽真 「ほら、成ちゃん。動かないでってば。取れないよ」

成幸 「そんなこと言われても、痛いんだから仕方ないだろ……」

陽真 「まったくもう」 クスッ 「成ちゃんは仕方ないなぁ……」

成幸 「あとお前、ちょっと近いぞ……」

陽真 「仕方ないでしょ。これくらい顔近づけないとなりちゃんの目の中なんか見えないよ」

成幸 (まぁ、それもそうか……)

陽真 「……よいしょっ、と」

成幸 「ん……」

陽真 「どうかな? 大きいゴミは取れたと思うけど」

成幸 「ああ、ゴロゴロしてたのはなくなったよ。ありがとな」

陽真 「どういたしまして」

  「こ、こばやん……?」

陽真 「……? あれ、武元と……智波ちゃん!?」

345以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:48:14 ID:pNLIM/2k
成幸 (お、うるかの奴、海原を連れてきてくれたのか。ちょうど良いタイミングだな)

成幸 「ちょうど良かったよ、海原。いま、小林をお前のところに――」

智波 「――……か、顔を近づけて、お互いのことを見つめ合って……」

智波 「い、今、ふたりでキスの余韻に浸ってたよね……?」

成幸 「………………」

成幸 「……は?」

智波 「き、キスマークなんて話があったから、多分そうだろうとは思ってたけど……」

グスッ

智波 「やっぱりふたりは、そういう関係だったんだね……」

成幸 「いや、待て待て待て! 海原!? お前何を言ってるんだ!?」

成幸 「小林も何か言ってやれよ……って」

陽真 「智波ちゃんが、泣いてる……」

陽真 「俺はまた、智波ちゃんに悲しい思いをさせてしまった……」

成幸 「ショックを受けるのは後にしてくれないか!? 海原がよくわからん勘違いをしてるぞ!?」

346以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:48:46 ID:pNLIM/2k
智波 「……否定もしてくれないんだね」

智波 「もういいよ。陽真くんなんか知らない! 唯我くんのことなんかもっと知らない!」

成幸 「いや、待て! 話を聞いてくれって!」

うるか 「成幸ー! こばやんとの仲良しは許してあげてたけどー!」

うるか 「キスまでしていいなんて言ってないんだからねー!」

成幸 「お前までわけわからんことを言い出さないでくれないか!?」

智波 「うぇーーーーーーーーーん!!!」

タタタタタ……!!!

成幸 「あっ、ちょっ、海原! 待てって!!」

ガシッ

成幸 「へ……?」

陽真 「……ごめん、成ちゃん。ちょっと今、成ちゃんにまでどこかに行かれたら、立ち直れないから」

陽真 「しばらくそばにいて」

成幸 「あ、ああ……」 (こんなに弱ってる小林、久しぶりに見たな……)

成幸 (やっぱり、海原に拒絶されたのがショックだったんだな……)

347以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:49:32 ID:pNLIM/2k
………………放課後

うるか 「えっ? さっき、こばやんと成幸、キスしてたんじゃないの?」

成幸 「するわけないだろ!? 何考えてんだお前は!?」

うるか 「いやー、でも……成幸とこばやんだったらありえなくはないかな、って……」

成幸 「……お前は俺たちのことを何だと思ってるんだ」

成幸 「まぁいい。とりあえず、それは置いておくとして……」

陽真 「………………」 ズズズーン

成幸 「……この今にも溶けそうなくらい沈み込んだ小林をどうするかだ」

成幸 「うるか、海原は……」

うるか 「HRが終わってすぐカバンを持って行っちゃったよ……」

成幸 「とりあえず、海原の誤解をとくしかないよな。俺はただ、目に入ったゴミを小林に取ってもらってただけなんだが、」

成幸 「それを説明すれば納得してくれると思うか?」

うるか 「……うーん、それはちょっとムズカシイかもしれないよ」

成幸 「どうしてだ?」

うるか 「……あたしが、ちょっと、余計なことを言っちゃったから」

348以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:50:19 ID:pNLIM/2k
成幸 「余計なこと?」

うるか 「……ごめん、成幸。ちょっと口が滑っちゃってさ……」

うるか 「成幸がこばやんにキスマークをつけられたこと、海っちに話しちゃってさ……」

成幸 「は?」

うるか 「ごめん! 悪気はなかったんだ。つい、ツルッと、口が滑っちゃって……」

成幸 「いや、ちょっと待て。キスマーク? 俺が、小林に? つけられた?」

成幸 「何の話をしてるんだ? っていうか、何わけのわからないことを言い出してるんだ?」

うるか 「へ……? いやいや、とぼけないでよ、この前、首に跡がついてたでしょ?」

うるか 「バンソーコだって貸してあげたじゃん」


―――― 『成幸それ…… 虫にでも刺されちった…… のかな?』

―――― 『あっ あぁ! そんなトコ……! やっぱ…… 目立つ……よな』

―――― 『バンソーコあるけど』


成幸 「……!? あ、あのときのアレか!? いや、あれは、たしかに、キスマークと言えなくもないが……」

成幸 「でもなんで小林!?」

349以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:50:54 ID:pNLIM/2k
うるか 「あの前日、成幸が最後に会ってたのがこばやんだったから……」

成幸 「いや、たしかにそうだけど! そうだけれども!」

成幸 「違うよ! あれは……」 カァアアアア…… 「……寝ぼけた葉月と和樹に吸われてできた跡だよ」

うるか 「えっ!?」

カァアアアア……

うるか 「あっ、じゃあ……こばやんにキスマークをつけられた、っていうのは……」

うるか 「あたしの、ただの、カンちがい……?」

成幸 「……そういうことだ」

うるか 「………………」

うるか 「ど、どどどどうしよう、成幸!? 海っちにウソ教えちゃったよ!?」

成幸 「どうするもこうするも、しっかりと話をして誤解を解くしかないだろ……」

成幸 (とはいったものの、だ……)

成幸 (海原の誤解をといたとして、今回はいいとしても、また同じようなことが起こらないとも限らないし……)

成幸 「………………」

成幸 「……うるか。海原に連絡を取ることはできるか?」

350以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:51:24 ID:pNLIM/2k
うるか 「う、うん。もちろんできるけど……」

成幸 「なら、居場所を聞き出してくれ」

成幸 「あいつの居場所がわかったら、俺が話をしに行く」

うるか 「へ……? あ、あたしが行くよ? その方がいいでしょ?」

成幸 「いや……」

成幸 「……わからないけどさ、これは、俺が行かなきゃいけない気がするんだ」

成幸 「お前は、小林と一緒にいてやってくれ」

成幸 (……そうだ。これは、元を正せば、俺が海原を嫉妬させるようなことをしてしまったせいだ)

陽真 「………………」 ズーン

成幸 (小林は俺の大切な友達だ。俺のせいで、これ以上小林に悲しい思いをさせるわけにはいかない)

成幸 「……俺に任せてくれ、うるか」

うるか 「……うん! わかったよ、成幸!」

351以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:52:13 ID:pNLIM/2k
………………公園

智波 「………………」

智波 (……バカみたい。わたし)

智波 (陽真くん、きっとムリしてわたしと付き合ってくれてたんだよね……)

智波 (なのに、わたし……)

…………トッ

智波 「あっ、うるか……?」

智波 「えっ……?」

成幸 「……よう」

智波 「な、なんで……唯我くん……」

成幸 「……悪い。うるかに連絡を取らせたのは俺だ。だから、うるかを責めないであげてくれ」

成幸 「ちょっと、お前と話をしたくてさ」

智波 「……そっか」

智波 「いいよ。お話しよ、唯我くん」

352以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:53:53 ID:pNLIM/2k
………………生け垣 陰

うるか 「………………」

ドキドキドキドキ……

うるか 「だ、大丈夫かな、成幸」

うるか 「海っちのことも心配だし……」

うるか (成幸にはついてくるなって言われたけど、そういうわけにはいかないよね……)

うるか (ここで隠れてどうなるか見守ってよう……)

小林 「智波ちゃん……成ちゃん……」

うるか (こばやんも、ふたりのこと心配だよね……)

うるか (ここから見守ってるからね、成幸! がんばって!)

353以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:54:44 ID:pNLIM/2k
………………

智波 「………………」

成幸 「………………」

智波 「……お話したいことって何かな、唯我くん」

成幸 「ん、ああ……」

成幸 「……まぁ、わかってるとは思うけどさ、小林のことだよ」

智波 「うん」

智波 「……安心して。もうふたりの邪魔をしたりしないから」

智波 「今までごめんね。わたし……」

成幸 「………………」

成幸 「……うん、まぁ、お前の勘違いを正すのは後にするとして、」

成幸 「少し、小林の話をしてもいいか?」

智波 「……?」

354以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:55:16 ID:pNLIM/2k
成幸 「知ってるとは思うけど、小林とは幼なじみでさ」

成幸 「小さい頃、あいつの両親がいないときとか、よく家で一緒に遊んだよ」

成幸 「妹の面倒も見てくれてさ。本当に、ずっと一緒だったんだ」

智波 「……うん。そういう話も、陽真くんから聞いてるよ」

智波 「でも、どうしてそんな話をわたしにするの? 自慢?」

成幸 「……かもな。小林っていうすごい友達がいることを、お前に自慢したいのかもしれない」

成幸 「でもな、そんな小林も、最近はお前にべったりでさ」

成幸 「俺たちと一緒にいるときも、お前とのノロケ話を何度聞かされたことか……」

智波 「……え?」

成幸 「やれ “智波ちゃんとどこへ行った” とか、やれ “〜をしていた智波ちゃんがすごく可愛かった” とか」

成幸 「…… “智波ちゃんは、こういうときこういう顔をする” とかな」

成幸 「……分かるんだよ」

成幸 「ああ、こいつは本当に彼女ことが大好きなんだな、って」

成幸 「そして思うんだ」

成幸 「小林はもう、俺の友達っていう以前に、海原の彼女なんだな、って」

355以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:56:04 ID:pNLIM/2k
智波 「陽真くん……」

智波 (そっか……)


―――― ((陽真くん、わたしがどういうとき、そういう顔をするかとか、知ってくれてるのかな))


智波 (……そう、だよね。陽真くんって、そういう人だもんね。知ってるに、決まってるよね)

智波 (わたし、バカだな……)

智波 (わたしばっかり陽真くんのこと考えてると思ってた……)

智波 (陽真くんも、わたしのこと、考えてくれてたんだね……)

成幸 「……なぁ、海原」

智波 「……?」

成幸 「だから、これからも、小林のことを、よろしくお願いします」

ペコリ

成幸 「……俺の幼なじみのことを、よろしくお願いします」

智波 (……そして、そう)

智波 (わたし以外にもたくさんの人が、陽真くんのことを思ってくれてるんだよね)

356以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:56:43 ID:pNLIM/2k
智波 「……顔を上げて、唯我くん。ごめんね。ありがとう」

智波 「わたし、自分が恥ずかしいや……」

成幸 「いや、俺の方こそ、誤解されるようなことをして悪かった」

成幸 「あっ、そうだ。本題に戻るけどさ、さっきは俺の目に入ったゴミを小林が取ってくれてただけだからな?」

成幸 「それから、うるかが勘違いしてた、キスマークの件だけど……」

成幸 「あれは、俺の弟妹が寝ぼけてつけただけであって、断じて小林につけられたものじゃないからな」

智波 「……うん。よく考えてみたら、陽真くんと唯我くんがそういう関係なわけないよね」

智波 「バカみたいな勘違いしてたね、わたし。ごめんね……」

成幸 「いや、まぁ……俺は気にしてないからいいよ」

成幸 「ただ、小林とは仲直りしてほしいかな」

智波 「……うん。もし陽真くんが許してくれるなら、わたしも仲直りしたいな」

智波 「だってわたし、やっぱり、陽真くんのことが……」

智波 「……大好き、だから」

ガサッ

陽真 「智波ちゃん!」

357以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:57:21 ID:pNLIM/2k
智波 「へ……? は、陽真くん!? な、なんでそんなところに!?」

うるか 「こ、こばやん。飛び出したら隠れてたのがバレちゃうよー!」

成幸 「うるか!?」

陽真 「ごめん、智波ちゃん! 俺、全然智波ちゃんのこと考えてなくて……!」

陽真 「不安にさせてごめんね? 苦しい思いをさせてごめんね」

智波 「違うの! わたしが、勝手に勘違いして、勝手に嫉妬してただけだから……」

智波 「陽真くんは悪くないよ。こちらこそ、ごめんなさい」

陽真 「俺は気にしてないよ。だから、大丈夫。智波ちゃん、俺のこと許してくれる?」

智波 「許すも何もないよ。陽真くんの方こそ、わたしのこと、嫌いになってない?」

陽真 「嫌いになんてならないよ。俺も、智波ちゃんのこと……」

陽真 「……大好きだよ」

智波 「陽真くん……」

ギュッ

陽真 「……ごめんね、智波ちゃん」

智波 「こちらこそ、ごめんなさい、陽真くん」

358以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:57:57 ID:pNLIM/2k
成幸 (め、目のやり場が……) カァアアアア……

成幸 (お、俺もいるんだから、いきなり抱き合うのはやめてくれよ……)

チョイチョイ

成幸 「ん……? うるか?」

うるか 「しーっ。静かに」

うるか 「……お邪魔虫になっちゃうから、このままこっそり退場しよ?」

成幸 「ああ……」

陽真 「智波ちゃん……」

智波 「陽真くん……」

成幸 「……それもそうだな」

成幸 (……小林が元気になってよかった)

クスッ

成幸 (じゃあな、小林。もう喧嘩すんなよ)

359以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:58:35 ID:pNLIM/2k
………………

うるか 「今日は本当にごめんね! 成幸!」

成幸 「もういいって。うるかばっかりが悪いわけじゃないしさ」

成幸 「ふたりが仲直りしてよかったじゃないか」

うるか 「……うん」


―――― 『だってわたし、やっぱり、陽真くんのことが……大好き、だから』

―――― 『嫌いになんてならないよ。俺も、智波ちゃんのこと……大好きだよ』


うるか 「はうっ……///」

うるか (あのふたりが抱き合ってるのを思い出すと、すごくドキドキする……)

うるか (いつか、あたしも、成幸と……――)

成幸 「――……悪くないんだな、ああいうのって」

うるか 「へ!?」

360以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:59:07 ID:pNLIM/2k
成幸 「いや、さっきの小林と海原を見て思ったんだ」

成幸 「俺は恋愛とかそういうのはよく分からないけどさ、」

成幸 「いいもんだなって、思ったんだ」

うるか (び、びっくりした。あたしの考えてることがバレたのかと思ったよ……)

成幸 「俺もいつか、誰かとああいうこと、するようになるのかな、とか……」

成幸 「あはは、何言ってるんだろうな、俺。恥ずかしいな」

うるか 「………………」

グッ

うるか (……うん。いつか)

うるか (いつか、あたしも……)

うるか 「……きっとなるよ。いつか、成幸も。大切な人を見つけて、大好きになるんだよ」

成幸 「ん……」

成幸 「……はは、なんかそういう風に言われると恥ずかしいな」

361以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 22:59:40 ID:pNLIM/2k
成幸 「……そうだな。いつか、俺も、いつか、そういう風になるんだろうな」

うるか 「ふふふん、ま、がんばんなよー、成幸」

うるか 「がんばんないと、こばやんみたいにはなれないぞー?」

成幸 「わかってるよ。ま、何にせよ受験が終わってからだな」

成幸 「……さて、ヘンなことで時間使ったし、この後挽回しないとだな」

成幸 「ファミレスで勉強でもしてから帰ろうぜ」

うるか 「うん! 行こ行こー!」

うるか (……いつか)

うるか (いつか、成幸が、恋愛をするようになったとき、)

うるか (どうか、その相手が、あたしでありますように)

うるか (成幸が、あたしのことを……)

うるか (大好きになってくれますように)

おわり

362以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 23:00:14 ID:pNLIM/2k
………………幕間1 翌日 「川瀬あゆ子」

智波 「ってことで、心配かけてごめんね! ちゃんと陽真くんと仲直りできたよ!」

あゆ子 「ほー。そりゃ良かった。何よりだよ」

あゆ子 (すっかり明るい顔になっちゃってまぁ……)

うるか 「ほんとごめんね、海っち。あたしがヘンな勘違いしたせいで……」

智波 「いいっていいって。元はといえばわたしが唯我くんにヤキモチ妬いたせなんだから、気にしてないよ」

あゆ子 「勘違い?」

うるか 「あ、いや……恥ずかしい話なんだケド……」

うるか 「成幸とこばやんがキスしてるように見えた、とか……」

うるか 「成幸の身体についてたアザを、こばやんがつけたキスマークだと思った、とか……」

うるか 「あはは、あたし、どうしてそんな勘違いしちゃったんだろうね」

あゆ子 「詳しく」

うるか 「へ?」

あゆ子 「それ、もっと詳しく教えなさい、うるか」

363以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 23:00:47 ID:pNLIM/2k
………………幕間2 「古橋文乃」

うるか 「……ってことがあってさ。昨日は大変だったんだよ」

文乃 「詳しく」

うるか 「へ?」

文乃 「それもっと詳しく教えて。特に、成幸くんと小林くんの目にゴミのくだりとか」

うるか 「ど、どしたん、文乃っち? なんか川っちも同じようなこと言ってたけど……」

文乃 「当然だよ。だって……」

文乃 「お耽美が嫌いな女の子なんていないんだから!」

バーン

理珠 (お耽美……?)

うるか (お耽美ってなんだろ……?)

おわり

364以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/09(日) 23:04:58 ID:pNLIM/2k
>>1です。
読んでくださった方、ありがとうございました。


問72〜76の間だと思ってもらえれば幸いです。

小林くんも海原さんもすごくニュートラルな子たちなので、
実際こんなことが起きてもここまでこじれないとは思います。
それから、幕間で川瀬さんと古橋さんに勝手に余計なキャラ付けをしてしまいました。
申し訳ないことです。

また投下します。

365以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/10(月) 00:18:34 ID:1FDkoLRw
うーん

366以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/10(月) 11:06:06 ID:zxEILIHc
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367以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/11(火) 00:41:11 ID:ZwxQdVUY
原作でも小林って成幸大好きだし、海原さんに色々ノロケてそう

368以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/11(火) 01:04:11 ID:azK4iaDk
きっしょ

369以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/16(日) 22:44:51 ID:KRWibcSc
先生かわいい

370以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/20(木) 13:50:25 ID:b8v8c0vg
えたってるやんけ…

371以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 11:10:50 ID:B1.sXYhM
クリスマスssはよ…

372以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 18:28:18 ID:42VB03HE
まだあと6時間あるから

373以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 21:55:33 ID:USYRGz46
>>1です。投下します。

【ぼく勉】 うるか 「ラストクリスマス」

374以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 21:56:34 ID:USYRGz46
………………駅前

〜〜♪

うるか 「おー、もうクリスマスソングが流れてるね」

あゆ子 「まだ一ヶ月くらい先だけどな。世間は気が早いな」

智波 「またあゆ子ってば、おばさんみたいなこと言って……」

あゆ子 「……ほほう。そんな生意気なことを言うのはこの口か?」 ウリウリ

智波 「あーうー……。やめてよあゆ子ー」

あゆ子 「……ま、それはそれとして、智波はクリスマスのご予定は?」

智波 「えーっ、それはもちろん、陽真くんとデートだけど?」

あゆ子 「……分かってて聞いたけど、ムカつくもんはムカつくな」

うるか 「まぁまぁ、川っち。海っちが幸せそうであたしは嬉しいよ」

智波 「……ありがと、うるか」 ニヤリ 「で? うるかはどうするの?」

うるか 「へ? 何の話?」

あゆ子 「唯我に決まってるでしょ。クリスマス、デートでも誘ったら?」

うるか 「………………」

375以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 21:58:07 ID:USYRGz46
あゆ子 (あれ……?)

智波 (予想では……)


―――― うるか 『で、デートなんて……はうっ……』


あゆ子 (って反応だと思ってたけど……)

うるか 「……無理だよ。クリスマスは、家族の日だもん」

智波 (優しい顔して微笑んで……。なんか、いつものうるかと違う感じ?)

智波 「家族の日って、うるかの家はそういう決まりがあるの?」

うるか 「ううん。あたしん家じゃなくて、成幸の話」

うるか 「成幸にとって一番大事なのは家族だから」

うるか 「あたしは、成幸が幸せな時間を邪魔したくないんだ」

うるか (……ああ、なんか思い出しちゃうな)

うるか (あれは、去年のクリスマスイヴだよね……)

376以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 21:58:48 ID:USYRGz46
………………昨年 12月24日

うるか 「へ……? ほ、補習!?」

担任 「ああ。他の教科もだが、英語だけはこのままじゃ進級できないレベルらしいからな」

担任 「英語の担当者から必ず来るようにとのことだ」

うるか 「でも、あたし、部活が……」

担任 「滝沢先生にも伝えてある。今日は部活停止だ」

うるか 「そんなぁ〜……」

担任 「……進級したくないのか?」

うるか 「うぅ……わかりました。行きますよ……」

うるか (せっかくのクリスマスイヴなのに〜……)

377以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 21:59:29 ID:USYRGz46
………………教室

先生 「では、補習を始めましょうか」

うるか 「あ、あの、先生!」

先生 「なんですか?」

うるか 「あたししかいないんですけど、他に補習を受ける生徒は……?」

先生 「二学期末の補習なんてよっぽど成績が悪い生徒にしかしませんよ」

先生 「よっぽど成績が悪いのがあなただけ、ということです」

うるか 「……なるほど」

うるか (ま、マンツーマンで個人授業……。うー……)

先生 「あ、でも、すぐにもうひとり来ると思いますよ」

ガラッ

「遅くなりました、先生!」

うるか 「……!? 成幸!?」

成幸 「おお、武元か」

378以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 22:00:05 ID:USYRGz46
うるか 「成幸も英語の成績が悪かったの?」

成幸 「いや、先生が補習をやると聞いてな。復習のために俺も受けさせてもらえるように頼んだんだ」

先生 「基礎的な部分しかやりませんから、唯我くんには必要ないと思いますけどね」

成幸 「すみません。HRの方が長引いて遅くなりました」

先生 「構いませんよ。ちょどいま始めようとしていたところですから」

先生 「では、改めて、始めましょう」

成幸 「はい、よろしくお願いします」

うるか 「お、お願いします……」

うるか (な、成幸とふたりで補習……これは……)

うるか (せんざいいちぐーのチャンス!!)

うるか (ほ、補習が終わった後、ふたりでデート、なんて……)

うるか 「にへへ……」

成幸 「……?」

379以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 22:00:44 ID:USYRGz46
………………補習中

先生 「……と、いうわけで、この場合、"before I got home" から過去完了形と判断できます」

先生 「そこまで分かれば、この場合空欄に入るのは "had known" だと判断できるわけですね」

先生 「まぁ、実際の英会話でそんなことを意識するのはナンセンスですから、あくまで入試のテクニックと思ってください」

成幸 「なるほどなるほど……」 メモメモメモ

うるか 「………………」

うるか (き、基礎しかやらないとか言ってたのに……)

うるか (めちゃくちゃ難しいんだけど!?)

うるか (ってゆーか……)

成幸 「じゃあ先生、こっちの問題の場合は……」

先生 「これは過去完了進行形になりますから、やや複雑ですね」

先生 「つまり……」

うるか (ふ、ふたりで盛り上がっちゃって全然あたしの方を気に留めてない……)

380以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 22:01:45 ID:USYRGz46
………………最終下校時刻

先生 「おや、もうこんな時間ですか。では、武元さん」

うるか 「ふぁい……」

先生 「今日の内容についての宿題です。冬休み明けまでに仕上げて提出してください」

先生 「二学期の赤点解消のための加点にしますから」

うるか 「……わかりました」

先生 「それでは、良い冬休みを。さようなら」

成幸 「さようなら、先生」

うるか 「………………」

クタリ

うるか (うぅ……こんな量の宿題、どうやって終わらせろって言うのさ……)

うるか (部活だってあるし、お正月は目いっぱい遊びたいのに……)

うるか (こんな状況じゃ、成幸をデートに誘うどころじゃないよ……)

うるか (お気楽なこと考えてた少し前の自分をひっぱたいてやりたいよ……)

成幸 「武元? どうかしたか?」

381以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 22:02:34 ID:USYRGz46
うるか 「……宿題、出ちゃった」

成幸 「まぁ、宿題というと聞こえは悪いが、要は武元の進級のための加点材料だろ?」

成幸 「ちゃんとやって提出すれば赤点解消だろ? よかったじゃないか」

うるか 「……でも、こんな難しい内容、あたしわかんないもん」

成幸 「へ……? でも、今日先生が補習してくれた内容じゃないのか?」

うるか 「……補習って言ったって、ほとんど先生と成幸のマンツーマン授業だったじゃん」

ジトッ

成幸 「あっ……」

成幸 「……よく思い返してみれば、たしかに」

うるか 「……ふんだ」

成幸 (……しまったな。二学期の英語の範囲が微妙に理解しきれてなかったから補習に混ぜてもらったが)

成幸 (そのせいで、本当に補習が必要な武元の邪魔をしてしまったようだ……)

成幸 (一考の余地もない。これは完全に俺が悪いな……)

成幸 「スマン、武元。俺のせいでお前に迷惑をかけたようだ」

うるか 「……?」

382以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 22:03:11 ID:USYRGz46
成幸 「……本当なら補習はお前のためのものだったのにな」

うるか 「……べつに、成幸は悪くないよ。先生だって、成幸に教えた方が楽しいだろうし」

うるか 「冬休みほとんど潰すことになるだろうけど、がんばって宿題終わらせるよ」

成幸 「いや……」

スッ

成幸 「……武元、この後予定はあるか?」

うるか 「へ……?」 カァアアアア…… 「へぇ!? こ、この後って……」

うるか 「今日は部活に出られないし、特に、予定とかはないけど……」

成幸 「よし、ちょうどいいな。いくら何でも、分からない宿題が大量に出されちゃお前もたまったもんじゃないだろう」

成幸 「俺が教えるから、その宿題、今日終わらせてしまおう」

うるか 「え……?」

383以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 22:03:48 ID:USYRGz46
………………

成幸 「……ってことは、そこは?」

うるか 「“私は明日、役所に行く前に郵便局に行きます” かな……?」

成幸 「正解だ。明日行う予定に対して順番をつけるようなイメージだな」

成幸 「郵便局が1番目。役所が2番目って感じだ」

うるか 「ふむふむ……」

うるか (……はぁ)

うるか (ま、そんなコトだろーと思ったけどさ)

うるか (一瞬ドキッとしちったよ。デートにでも誘われるのかと思って)

成幸 「じゃあ、次の問題だけど……」

うるか (……ま、でも、悪くないかな)

うるか (ふたりっきりで勉強教わるのも、結構オツな感じ、なんてね) ニヘラ

384以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 22:04:41 ID:USYRGz46
………………

うるか 「お、おおお……」

うるか 「……終わったーーーー!!!」

うるか 「ありがとー、成幸ー! おかげで宿題終わったよー!」

うるか 「これでお正月ものんびりできるしたくさん遊べるよー!」

成幸 「いやいや、元はといえば俺のせいだからさ。気にしなくていいよ」

成幸 「ふー、すっかり遅くなってしまったな。もう真っ暗だ」

うるか (えへへ、成幸、あたしのためにこんな夜遅くまで手伝ってくれて……)

うるか (これはもうクリスマスデートをしたと言ってもカゴンではないのでは……!?)

うるか (なんてねなんてねなんてねー!!)

成幸 「もう遅いし、そろそろ帰ろうぜ。送ってくよ」

うるか 「あ、う、うん!」

成幸 「……あ、でもその前に、ちょっと寄りたいところがあるんだけど、いいか?」

うるか 「……?」

385以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 22:05:12 ID:USYRGz46
………………学校 公衆電話

うるか 「寄りたいところって、ここ?」

成幸 「ああ、俺は携帯電話を持ってないからさ。連絡手段はこれしかないんだ」

成幸 「今からちょっと電話かけるから、えっと……」

成幸 「……向こうで待っててもらってもいいか?」

うるか 「へ? あ、うん。わかった」

うるか 「………………」

うるか (……あたしに電話の内容を聞かれたくないのかな?)

うるか (怪しい……) ピーン (ひょっとして、電話の相手は、女……!?)

成幸 「………………」

うるか (電話、かけたみたいだ。少し趣味が悪いかもしれないけど……)

コソコソコソ……

うるか (ちょと盗み聞きさせてね、成幸)

386以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 22:05:56 ID:USYRGz46
成幸 「……あっ、水希か? 俺だよ」

うるか (“水希” って、たしか妹ちゃんの名前だ……)

ホッ

うるか (なーんだ。家に電話かけてるだけかー)

成幸 「わっ……ご、ごめん。そんな大声出すなって……」

成幸 「悪かったよ。でも、仕方なかったんだ。ごめんな」

うるか (……? 謝ってる? どうかしたのかな?)

成幸 「クリスマスパーティできなかったのは、本当にごめん。せっかくごちそう作って待っててくれたのにな」

うるか (へ……?)

成幸 「ケーキも……。うん。葉月と和樹にも謝るよ。わかってる」

うるか (ひ、ひょっとして……)

成幸 「……いつも苦労をかけてごめんな、水希。うん。今から帰るよ」

うるか (あ、あたしのせいで……)

うるか (あたしのせいで、成幸にとんでもない迷惑をかけちゃったんじゃ……)

387以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 22:07:13 ID:USYRGz46
………………帰路

うるか 「………………」

成幸 「……冷えるなー」 ブルッ 「天気予報じゃ、雪が降るかもしれないとか言ってたもんな」

うるか 「………………」

成幸 「? 武元?」

うるか 「……あ、あのさ、成幸。あたし、ひとりで大丈夫だし、もう家に帰ったら?」

成幸 「へ? いやいや、さすがにこの時間だし、危ないだろ。家まで送ってくよ」

うるか 「いや、でも……」

成幸 「? なんかヘンだぞ? どうかしたのか?」

うるか 「………………」 スッ 「……ごめん、成幸。さっき、ちょっと電話、盗み聞きしちゃった」

成幸 「へ……?」

成幸 「……あー、聞かれたか。あんまりお前に聞いてほしくなかったんだけどな」

うるか 「……ごめん」

成幸 「いや、べつにそれはいいんだけど……」

成幸 「気にしなくていいからな? そもそもお前の補習を邪魔しちゃった俺が悪いんだから」

388以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 22:07:52 ID:USYRGz46
うるか 「で、でも! そのせいで、成幸にも、成幸の家族にも迷惑かけちゃったし……」

うるか 「ごめんね……。ごめんなさい、成幸」

成幸 「いや、だから、そもそも俺が悪いんだから、お前が申し訳なく思う必要はないんだけど……」

うるか 「……でも、あたしの宿題のせいで、成幸に迷惑かけちゃったのは事実だし……」

成幸 「うーん……」

パラッ……

成幸 「……うん?」

うるか 「あっ……」

パラパラ……パラ……

うるか 「雪……?」

成幸 「雪だな……」

うるか 「………………」 ポーッ 「キレー……」

成幸 「だなぁ……」

うるか 「……ホワイトクリスマスだね」

389以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 22:08:26 ID:USYRGz46
成幸 「……なぁ、武元」

うるか 「? 何?」

成幸 「俺さ、電話で妹には怒られたし、下の弟妹にもこれから怒られるだろうし、悪いことしたなって思うけどさ」

うるか 「……うん」

成幸 「でもやっぱり、お前に宿題教えてよかったよ」

うるか 「へっ……?」


成幸 「だって、普通に帰ってたら、雪が降ったなんて絶対気づかなかっただろ?」


成幸 「武元に宿題教えて、帰るのが遅くなったから、この雪を見ることができたんだ」

成幸 「帰ってあいつらにも、ホワイトクリスマスだってことを教えてあげなくちゃな」

うるか 「成幸……」

成幸 「ほら、早く帰ろうぜ。武元の家までダッシュだ!」 タッ

うるか 「あっ……ま、待てー! 成幸ー!」 ビュン!!

成幸 「待てとか言っておいて一瞬でぬかすのは勘弁してくれないか!?」

うるか 「遅いよー、成幸ー! 早く帰らないと、雪やんじゃうよー!」

390以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 22:08:59 ID:USYRGz46
………………現在

うるか (……なつかしいな。もう一年前か)

うるか (あれから色々あったよね。リズりんや文乃っちと友達になって……)

うるか (一緒に成幸に勉強教わるようになって……)

うるか (成幸に、名前で呼ばれるようになったり、“好きな人” の勘違いとか……)

クスッ

うるか (……ほんと、色々あったなぁ)

あゆ子 「おーい、うるかー?」

智波 「遠い目をしてどうしたの?」

391以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 22:09:33 ID:USYRGz46
うるか 「……ううん。なんでもないよ」

うるか 「クリスマスじゃなくてもデートはできるしさ」

うるか 「クリスマスは、成幸にとって家族の日だから」

うるか 「だから、いいんだ」

智波&あゆ子 「「……?」」

うるか (……去年は、あたしのせいで家族と過ごせなかったけど)

うるか (今年は、成幸が、幸せなクリスマスを過ごせますように)


おわり

392以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 22:10:14 ID:USYRGz46
………………幕間  「ラスト」

智波 「あ、ラストクリスマスが流れてるよ。わたしこの曲好きなんだよねー」

あゆ子 「私も嫌いじゃないな。ただ、歌詞の内容は結構ダークな感じだよな」

智波 「ねー。わたしも明るいクリスマスソングだと思ったら、ねぇ?」

うるか 「メロディは明るい感じなのに、結構物騒な曲だよね」

あゆ子 「へ……? う、うるか!? あんた、洋楽が語れるだけの英語力が身についたの!?」

うるか 「むっ、川っち、あたしのことを見くびってるね?」 フフン 「いくらなんでもラストクリスマスくらいわかるよー、だ」

智波 「まぁ、有名ってレベルの曲じゃないもんね……」

うるか 「そもそもタイトルからして物騒じゃん!」 クワッ 「“最後のクリスマス” なんて、すごく怖いタイトルだよね!」

智波&あゆ子 「「………………」」

うるか 「……? 海っち? 川っち?」

智波 「……うん。やっぱり、うるかはうるかだね」 ポン

あゆ子 「安心したよ。アホなあんたはまだ健在だね」 ポン

うるか 「なに!? あたしなんかヘンなこと言った!?」

おわり

393以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 22:16:56 ID:USYRGz46
>>1です。
読んでくれた方ありがとうございました。

また投下しますと言っておきながらなかなか投下できずすみません。
師走で生活が忙しいのと、年末の某イベントの原稿でなかなか投下できませんでした。
もし待っていてくれている方がいたら嬉しいですが、同時に申し訳ないことだと思います。

>>371さんと>>372さんのレスを偶然見かけて書けるなら書きたいなと思い二時間ほどで書き上げました。
誤字脱字表現のおかしなところ多々あるかと思います。申し訳ないことです。
ただ、期待されて書くというのはとても嬉しいもので、書いていてとても楽しかったです。

あまり本編の時間軸を飛び越えるのは好きではないので、本編でやっていないクリスマスの話は避けました。
ハロウィン回は、単行本のオマケ漫画でやっていたので、まぁいいだろうという判断で書きましたが。
本編の話の流れ的に間違いなくクリスマス回は話を動かすエピソードになると思います。今から楽しみです。

年末の某イベントがあるので、今年はまず間違いなくこれで投下は打ち止めだと思います。

自分語りが長くなりました。申し訳ないことです。
また投下します。失礼します。

394以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 23:16:14 ID:42VB03HE
来とるやんけ!!
おつおつ

395以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 23:32:09 ID:B1.sXYhM

書く速度は相変わらずのようで何より

396以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/25(火) 23:48:46 ID:DVNYyga2
シエンタ
>>1のおかげか知らんがもう1つ僕勉スレ立ったしな

397以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 02:28:36 ID:7pmaNqWk
おつ!
また書いてくれてめちゃくちゃ嬉しい!

398以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:13:27 ID:Co5zvoAw
>>1です。
気分転換に書いていたら書き上がってしまったので投下します。
やや長い上に話がくどいかもしれません。


【ぼく勉】 あすみ 「そういやあの日、まふゆセンセと何してたんだ?」

399以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:13:59 ID:Co5zvoAw
………………ファミレス

成幸 「へ……?」

成幸 「いや、あの、“あの日” って、一体……」

あすみ 「いつだか、まふゆセンセが制服着てた日のことだよ」

成幸 「う゛ぇっ……」


―――― 『誤解! 絶対君は何か勘違いをしているわ唯我君! この格好には深いわけが……』

―――― 『え…… 俺はてっきり……』

―――― 『溜め込んだ洗濯物つい全部洗っちゃって着れる服がそれしかないのかと……』


成幸 (あの日のことかぁああああああああ!!)


―――― 『……古橋さんの目に…… さっきの私達はどう映ったのかしら』

―――― 『制服だからやはり恋人同士に見えたのかしらね……』


成幸 (あっ……/// あの日のことか……////)

400以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:14:42 ID:Co5zvoAw
あすみ 「……あん?」

あすみ (なんだ、後輩のヤロウ、急に顔を真っ赤にしやがって……)

あすみ (興味本位で聞いたつもりだったが、まさか、こいつ……)

あすみ (桐須先生と、マジで制服デートしてたわけじゃねーだろうなぁ)

ジトッ

あすみ 「……おい、後輩?」

成幸 「へっ!? あ、いや、全然、その大したことじゃないですよ?」

成幸 「ただ、ちょっと先生が……」

ハッ

成幸 (い、言えるかーーーーーーーーー!! この愉快的な先輩に!!)


―――― 成幸 『桐須先生が服を全部洗ってしまって制服以外着る服がなかっただけですよ?』

―――― 成幸 『ほんと、そそっかしい先生ですよね。あはははは』


成幸 (なんて言えるかぁあああああああああああああああああ!!)

成幸 (最悪そんなこと言ったのがバレたら桐須先生にコロされるわ!!!)

401以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:15:17 ID:Co5zvoAw
あすみ 「後輩、お前さっきから百面相だぞ? どうした?」

ジーーーッ

成幸 「い、いえ、何も……」

成幸 (まずい。先輩が疑うような目をしている……)

あすみ (こいつ……アタシという恋人がいながら、まさか教師とイケない関係なんてこたぁねーだろうな……)

あすみ 「………………」

あすみ (……いや、まぁ、もちろん、アタシとこいつの関係は、ただの “フリ” ではあるわけだが)

成幸 「ほ、ほんと、大したことじゃないんですよ。ただちょっと……」

あすみ 「ただちょっと? ただちょっと何だよ?」

成幸 「……すみません」

402以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:16:10 ID:Co5zvoAw
あすみ 「ん?」

成幸 「すみません。言えません……」

成幸 (桐須先生の名誉を守るために……)

あすみ 「っ……」

あすみ (言えねーってことは、つまり……そういうコトってわけか……)

ズキッ

あすみ (……ま、べつに、アタシにはカンケーねーことだけどさ)

あすみ 「……わかった。変なこと聞いて悪かったな。勉強に戻るとするか」

成幸 「そ、そうですね。そうしましょう」 アセアセ

あすみ 「………………」

あすみ (あんだよ……)

あすみ (ほんとにアタシには言えねーようなことなのかよ)

403以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:16:46 ID:Co5zvoAw
………………

あすみ 「……んじゃ、アタシはそろそろバイトの時間だから、もう行くな」

成幸 「はい。では先輩、明日はバイト先に伺いますね」

あすみ 「おう、また明日な」

モヤモヤモヤ

あすみ (……結局あれから、あの話はなく、なんとなく気まずいまま時間だけすぎてしまった)

あすみ (いや、気まずいなんて思ってるのはアタシの方だけか)

あすみ (何でアタシはこんなに、後輩と先生のことを気にしてるんだ……?)

成幸 「先輩?」

あすみ (後輩はケロッとした顔で、普段通りだ)

あすみ (アタシが勝手に気にしてるだけ、か……)

あすみ (アタシらしくもない。でも……)

あすみ 「……なぁ、後輩」

404以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:17:20 ID:Co5zvoAw
成幸 「? なんです?」

あすみ 「……もう一度だけ聞く。あの日、制服姿の先生と何してたんだ?」

成幸 「えっ……」

あすみ 「もし本当に答えられないなら、答えなくてもいい。しつこくてすまん」

成幸 「あっ、えっと……」

あすみ 「………………」

成幸 「………………」

ウェイトレス (す、すごい雰囲気だわ、あの席……)

ウェイトレス (あれが修羅場ってやつね……!?) ドキドキ

成幸 「……すみません。答えられません」

あすみ 「………………」

あすみ 「……そっか」

あすみ 「恋人のアタシにも言えないようなことなんだな」

405以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:17:59 ID:Co5zvoAw
成幸 「へ……?」

成幸 「や、やだなぁ、先輩」



成幸 「俺たちはフリをしてるだけのニセモノの恋人じゃないですか」



あすみ 「っ……」

成幸 「また俺をからかおうって魂胆ですね。そうはいかないですよ」

あすみ 「………………」

クスッ

あすみ 「んだよー、後輩。もっと初々しい反応期待してたってのによ」

あすみ 「拍子抜けだよ」

あすみ 「……んじゃ、今度こそ、またな」

成幸 「はい、先輩! また明日!」

406以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:18:33 ID:Co5zvoAw
………………メイド喫茶 High Stage

あすみ 「………………」

ボーーーッ

マチコ 「……? ねえねえ、あしゅみーどうしたのかな?」

マチコ 「あんなに仕事に身が入ってないあしゅみー初めて見たよ」

ミクニ 「どうしたんだろうね」

ヒムラ 「恋かな? 恋の悩みかな」

マチコ 「!? だとすれば、もちろん相手は……」

ミクニ 「唯我クン一択でしょそんなの!」

マチコ&ヒムラ 「「だよねー!」」

ワイワイガヤガヤ

あすみ 「………………」

あすみ (……アタシ、何してんだ? いや、何しちまったんだ)

ズーン

407以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:19:23 ID:Co5zvoAw
―――― 『……もう一度だけ聞く。あの日、制服姿の先生と何してたんだ?』

―――― 『恋人のアタシにも言えないようなことなんだな』


あすみ (何やってんだ、アタシ……)

あすみ (自分があんなに面倒くさい女だと思わなかった……)

あすみ (……っつーか)

あすみ (あれじゃまるで、アタシが後輩とセンセに嫉妬してるみたいじゃねーか)

あすみ (そりゃ、あれくらい言われても仕方ねーわな)


―――― 『俺たちはフリをしてるだけのニセモノの恋人じゃないですか』


あすみ 「ッ……」 ズキッ

あすみ (……何で、あいつのあの言葉を思い出すだけで、こんなに辛いんだ)

あすみ (アタシは、そんなに……)

あすみ (そんなに、あいつに “ニセモノ” って言われたことがショックだったのか)

408以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:19:58 ID:Co5zvoAw
あすみ (アタシは……)

あすみ (アタシは、あいつのこと……――)

客 「――あしゅみーちゃん! 注文お願いしまーす!」

あすみ 「あっ……」

あすみ (……切り替えろ、アタシ。今のアタシは、小美浪あすみである前に……)

あすみ (メイド喫茶ハイステージの、小妖精メイド、あしゅみぃなんだ)

あすみ 「はーいっ! ただいままいりまっしゅみー!」 タタタ


―――― 『俺たちはフリをしてるだけのニセモノの恋人じゃないですか』


あすみ (っ……今は、思い出しちゃダメだ)

あすみ (今、考えたら、きっと仕事ができなくなる……。そんなのはダメだ)

あすみ (今は、笑顔で、接客に集中しなければ)

ニコッ

あすみ 「ご注文、お伺いしましゅみー♪」

409以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:20:54 ID:Co5zvoAw
………………夜 小美浪家

小美浪父 「………………」

あすみ 「………………」

ボーーーッ

小美浪父 (めずらしい……)

小美浪父 (……あすみが勉強も家事もせず無為に時間を使っている)

小美浪父 「……あー、あすみ?」

あすみ 「ん……」 モゾッ 「……あんだよ」

小美浪父 (声に元気もない。さすがにこれは心配だな……)

小美浪父 「今日はバイトの前に唯我くんとデートだったんだろう?」

小美浪父 「今日はどこへ行ってきたんだ?」

あすみ 「………………」

あすみ 「……べつに。いつも通り、受験生らしく勉強しただけだよ」

小美浪父 「そ、そうか……」

410以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:21:31 ID:Co5zvoAw
小美浪父 (こ、これは、まさか、ひょっとして……)

小美浪父 「つかぬことを聞くが、」

あすみ 「?」

小美浪父 「まさかとは思うが、唯我くんと喧嘩なんて、してないだろうね?」

あすみ 「っ……」

あすみ (喧嘩……)

あすみ (……だったら、もっと気持ちは楽かもしれねーな)

あすみ (喧嘩以前のことだ。そもそも、あいつは、アタシのことなんか……)


―――― 『俺たちはフリをしてるだけのニセモノの恋人じゃないですか』


あすみ (……アタシは、何を考えてる?)

あすみ (アタシは、どうしたいと思ってる? アタシはどうしたい?)

あすみ (アタシは……)

411以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:22:09 ID:Co5zvoAw
小美浪父 (私の問いに対して答えることもできず、急に暗い顔に……)

あすみ 「……べつに、喧嘩なんてしてねーよ。ただ……」

小美浪父 「ただ……?」

あすみ 「……なんでもない。言いたくない」

小美浪父 「!?」

小美浪父 (この反応は、考えるまでもない……)

小美浪父 (あすみと唯我くんの間に何かがあったんだ……!)

あすみ 「……もう寝るわ。おやすみ」

小美浪父 「あ、おい、あすみ!」

小美浪父 (振り返りもせず行ってしまった。ストレートに聞きすぎただろうか……)

小美浪父 「………………」

小美浪父 (いやしかし、あのあすみが、恋愛がらみで悩むことになるとはなぁ……)

シミジミ

小美浪父 (不謹慎な話ではあるが、少し感慨深いな……)

412以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:23:13 ID:Co5zvoAw
………………あすみの部屋

あすみ 「………………」

ボフッ

あすみ 「……はぁ」

あすみ (布団、落ち着く……)

あすみ (このまま、何も考えず寝ちまえば、明日になる……)

あすみ (明日になれば、さすがにこのヘンな気持ちもどっかに行くだろ……)

あすみ (……明日)

あすみ (明日は、店に後輩が来る日だ……)


―――― 『……もう一度だけ聞く。あの日、制服姿の先生と何してたんだ?』

―――― 『恋人のアタシにも言えないようなことなんだな』


あすみ (あいつ、ちゃんと来てくれるかな……って、店でのバイトも兼ねてるんだ)

あすみ (あいつは責任感の強い奴だ。来るに決まってる……)

413以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:23:43 ID:Co5zvoAw
あすみ (ああ、もう、ちくしょう)

あすみ (このまま寝かしてくれよ……)

あすみ (なんで……)


―――― 『俺たちはフリをしてるだけのニセモノの恋人じゃないですか』


あすみ (……思い出したくもない言葉ばっかり、頭に浮かぶんだ)

あすみ (わかってるよ。アタシは、お前にとって、ただのニセモノだって)

あすみ (でも……)

あすみ (……あんな言い方しなくたって、いいじゃないか)

あすみ 「………………」

あすみ (……やっぱり後輩は、アタシみたいなちんちくりんじゃなくて、)

あすみ (まふゆセンセみたいな、スタイルのいい美人さんの方がいいんだろうな)

あすみ 「………………」

あすみ (……寝よ)

414以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:24:14 ID:Co5zvoAw
………………翌日 メイド喫茶 High Stage

あすみ 「おかえりなさいませっ、御主人様!」

あすみ 「……って、後輩かよ」

ケッ

あすみ 「営業スマイルして損したわ」

成幸 「いつもより投げやり!? それはひどすぎないですか!?」

あすみ 「いいから早くエプロン着てこいよ。早速床掃除してもらいたいんだ」

成幸 「わかりました。じゃあ、すぐエプロン取ってきます!」

ミクニ 「……よかった。あしゅみー、いつも通りに戻ったみたい」

ヒムラ 「だねぇ。唯我クンと喧嘩でもしたのかと思ってたけど、そんなことなさそうだね」

マチコ 「………………」

あすみ 「……はぁ」

あすみ (いつも通り。いつも通り。いつも通り)

あすみ (……まぁ、大丈夫だろ。いつも通りできてるだろ。多分)

415以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:24:53 ID:Co5zvoAw
あすみ (昨日、寝る前に色々考えた)

あすみ (アタシは、自分のことしか考えてなかったんだ)

あすみ (後輩に言われた言葉で勝手に悩んで、怒って……)

あすみ (そもそもアタシは、そんな立場にないってのに……)

あすみ (後輩は、アタシのために恋人のフリをしてくれてるだけ。ただ、それだけ)

あすみ (そんな後輩に言われたことで悩むなんて、それこそ自分勝手だ)

あすみ (……後輩が真冬センセと何をしてようが、アタシには関係ない)

あすみ (アタシがそのことについて考えるなんてことがそもそもおこがましいんだ)

あすみ (……だから、アタシはもう、後輩に不用意に近づいたり、からかったりしたらいけない)

あすみ (……うん。だから、大丈夫)

あすみ (アタシはもう、大丈夫)

マチコ 「………………」 (“いつも通り” ……?)

マチコ (……そうかなぁ? なんか思い詰めてるように見えるけど)

416以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:25:32 ID:Co5zvoAw
………………

あすみ 「……ん、じゃあ、後輩。ここはどう解くんだ?」

成幸 「ああ、それも基本は一緒ですよ。方程式を正しく立てられれば解けるはずです」

成幸 「その釣り合いの問題なら、連立方程式が立てられると思います」

あすみ 「む……。悪い、式を一度立ててもらえると助かる」

成幸 「ああ、分かりました。ここに書きますね」

ズイッ

あすみ 「……っ!?」 ササッ

成幸 「……? 先輩?」

あすみ 「あ、いや……わ、悪い。何でもない」

成幸 「………………」 ズイッ

あすみ 「っ……」 ササッ

成幸 「………………」 ズイッ

あすみ 「………………」 ササッ

成幸 「……何で逃げるんですか、先輩?」

417以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:26:12 ID:Co5zvoAw
あすみ 「に、逃げてなんかねーよ」

成幸 「どう見ても逃げてますよね!?」

あすみ 「お前が近づくからだろ!」

成幸 「近づかないと書きながら教えられないですよね!?」

あすみ (っ……こいつ、こっちの気もしらないで……)

あすみ (アタシはもうお前に近づかないって決めたんだよ。なのにそっちから近づいてきやがって……)

あすみ 「……よし。じゃあこうしよう」

スッ

あすみ 「アタシはお前の対面に座る。これでアタシに見せながら式を書けるな?」

成幸 「まぁ、書けますけど……逆さ文字か。難しいんだよな……」

あすみ (……すまん、後輩。だがこれもお前のためなんだ)

マチコ 「………………」

ジーーーッ

マチコ (……うん。やっぱりヘンだよね)

418以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:26:44 ID:Co5zvoAw
………………閉店後

あすみ 「……今日もありがとな、後輩」

あすみ 「おかげでまた苦手がひとつ潰せた気がするよ」

成幸 「いえいえ。バイト代をもらいながら勉強できるんだから、願ったり叶ったりですよ」

成幸 「まだそう遅くはないですけど、暗いですから送っていきますよ」

あすみ 「あっ……いや……」

あすみ 「……ありがとな。ただ、今日はちょっと寄るところがあるから、遠慮しとくよ」

成幸 「? そうですか」

成幸 「わかりました。じゃあ、また。先輩」

あすみ 「おう。またな、後輩」

419以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:27:33 ID:Co5zvoAw
………………公園

あすみ 「………………」

あすみ 「……はぁ」

あすみ (……あれ以上後輩と一緒にいたら、また辛い気持ちになりそうだったから)

あすみ (ウソついちまったけど、仕方ないよな……)

あすみ (っつーか、今さらな話だけど)

あすみ (よく考えたら、恋人のフリをしてもらってるって、とんでもないことだよな)

あすみ (アタシがよく知らない男の恋人のフリ……)

あすみ (たとえば、吉田、坂本、高橋あたりで想像すると……)

あすみ 「……うぇっ」

あすみ (……うん。五秒と保たずに想像の中で殴りそうになったな)

あすみ (それを考えると、知り合いでもなかったアタシの恋人役をしてくれる後輩って……)

あすみ (聖人か何かなのか?)

420以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:28:10 ID:Co5zvoAw
あすみ (……まぁ、大変申し訳ないことではあるが、恋人のフリはこれからも続けてもらうとして、)

あすみ (やっぱり、さっき決めた通り、あいつをからかったりするのは金輪際なしにしよう)

あすみ (……今まで散々後輩に迷惑かけてきたことだし)

あすみ (受験に成功しても失敗しても、たくさんお礼をしてやらないとな……)


―――― 『俺たちはフリをしてるだけのニセモノの恋人じゃないですか』


あすみ 「………………」

あすみ (……まぁ、後輩はアタシからのお礼なんかいらないかもしれないけどな)

あすみ 「……はぁ――」


「――驚愕。あなたでもそんな顔をすることがあるのね。小美浪さん」


あすみ 「へ……?」

あすみ 「あ……ま、真冬先生?」

真冬 「まったく」 ハァ 「だから、その呼び方はやめなさいと言っているはずよ」

421以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:28:54 ID:Co5zvoAw
あすみ 「どうしてこんな公園なんかに……?」

真冬 「学校からの帰り道よ。まぁ、公園の中に入る予定はなかったのだけど」

真冬 「――ベンチでしょぼくれた顔をしている元生徒を見かけたりしなければ、ね」

あすみ 「っ……。しょぼくれてなんか……」

真冬 「……まぁ、あなたも高校は卒業しているわけだし、私もあまりかたいことを言うつもりはないのだけど、」

真冬 「あなたはまだ未成年でしょう。夜中に公園にひとりでいるのは感心しないわね」

あすみ 「………………」

あすみ (……聞いてしまえば、楽になるだろうか)

あすみ (“あの日、後輩と何をしてたんですか?” って……)

あすみ (この人に直接聞いてしまえば、楽になるのだろうか)

あすみ (ニセモノの恋人のくせに、そんな出しゃばるようなことを聞けば、)

ズキズキズキ……

あすみ (少しはこの胸の痛みもやわらぐのだろうか……)

真冬 「……ふぅ」

真冬 「まるで、受験に失敗したときのあなたを見ているようだわ。小美浪さん」

422以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:29:41 ID:Co5zvoAw
あすみ 「なっ……」

真冬 「半年くらい前かしらね。あのときも、あなたはそんな風に、あなたらしくない顔をしていたわね」

真冬 「何かを後悔するような、何かを迷うような、そんな、小美浪さんらしくない顔を」

あすみ 「………………」

あすみ (……そっか。アタシ、今、そんな顔をしてるのか)

あすみ (受験に失敗して、つらかったあのときみたいな、そんな顔を……)

真冬 「……隣、失礼するわね」 スッ

あすみ 「あっ……な、何でまふゆセンセまで座るんですか……」

真冬 「……あなたはもう私の生徒ではないけれど、」 クスッ

真冬 「アフターサービスみたいなものよ。何か悩みがあるのでしょう? 話くらいは聞くわ」

あすみ 「そんなの……」

真冬 「必要ないかしら?」

あすみ 「………………」

あすみ 「……じゃあ、少しだけ、話聞いてもらっても、いいですか?」

真冬 「ええ。どうぞ」

423以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:30:11 ID:Co5zvoAw
あすみ 「……恥ずかしい話ですし、ひょっとしたら “そんな程度のことで” って思われるかもしれないけど……」

あすみ 「……実は、その……友達、というか、彼氏、というか……いや、なんていうか……」

カァアアアア……

あすみ 「……まぁ、彼氏みたいな相手、と喧嘩をしてしまいまして」

真冬 「………………」

真冬 「……な、なるほど?」

真冬 (す、少しかっこつけて、元生徒の悩みを聞いてあげるつもりが……)

真冬 (急にとんでもない悩みが飛んできたわ……)

真冬 (か、彼氏……? いや、まぁ、小美浪さんくらいの年頃なら当然かもしれないけど……)

真冬 (恋愛関係の悩みなんて私の専門外よ……!?)

あすみ 「……先生?」

真冬 「あ、な、なんでもないわ。続けてちょうだい」

あすみ 「……まぁ、喧嘩というか、一方的に私が怒ってるだけというか、ヘコんでるだけというか……」

あすみ 「それで、ちょっと公園でボーッとしてたんです」

424以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:30:43 ID:Co5zvoAw
真冬 「そう……」

真冬 「……ちなみに、小美浪さんは、その彼氏さんにどうして怒っているのかしら?」

あすみ 「……大したことじゃないです。ただ、あいつが隠し事をするから……」


―――― 『……もう一度だけ聞く。あの日、制服姿の先生と何してたんだ?』

―――― 『……すみません。答えられません』


あすみ 「……でも、それは仕方がないことだったのかもしれないとも思えてきて、」


―――― 『俺たちはフリをしてるだけのニセモノの恋人じゃないですか』


あすみ 「少し、傷つくようなことも言われてしまって……」

あすみ 「……でも、あいつが言ってることが正しいんです。だから、アタシはそもそも、怒る立場にない」

あすみ 「それからずっと自己嫌悪というか、頭の中でグルグル同じ考えが回ってて……」

真冬 「……なるほどね」

真冬 (……どうしよう。小美浪さんが何を言っているのか全然分からないわ)

真冬 (恋愛経験の豊富な人なら分かるのかしら。ダメだわ。私には荷が重すぎる……)

425以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:31:18 ID:Co5zvoAw
あすみ 「……すみません、先生。話聞いてもらっちゃって……」

あすみ 「わけわからなかったでしょ? 色々はしょりすぎたし」

あすみ (……まぁ、何もかも包み隠さず話したら、先生と後輩が制服で何をしてたのかも問いただすことになっちまうし)

あすみ (仕方ないっちゃ仕方ないんだけど……)

真冬 「………………」

真冬 (……然りとて、たとえ元生徒といえど、それを放っておいていいわけではない)

真冬 (荷が重かろうと、経験がゼロだろうと、できることをしなければ、教員である意味はない)

真冬 (私は、小美浪さんの “元” 先生なのだから)

真冬 「……言わないと、伝わらないわ」

あすみ 「え……?」

真冬 「言ったかしら? 伝えたかしら?」

真冬 「たとえ筋違いであろうと、その彼の発言に傷ついたという旨を、彼に」

あすみ 「い、言えないですよ、そんなの……。あいつは悪くないのに」

426以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:31:53 ID:Co5zvoAw
真冬 「そうでしょうね。でも、言ったらきっと伝わるわ」

真冬 「解決するかは分からないけれど、伝わったら、きっと……」

真冬 「……あなたの気持ちを理解してくれるのではないかしら」

あすみ 「………………」

真冬 「……だって、その彼は、他でもないあなたが選んだ男の子なのでしょう?」

あすみ 「ん……」

あすみ 「………………」

真冬 (……そ、その沈黙はどういう意味なのかしら、小美浪さん)

カァアアアア……

真冬 (す、少しかっこつけすぎたかしら。今さら恥ずかしくなってきたわ)

あすみ 「……アタシのこの、モヤモヤした気持ち、わかってくれるかな、あいつ」

真冬 「……ええ、きっと。わかってくれると思うわ」

あすみ 「……そう。そうですね」

427以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:32:23 ID:Co5zvoAw
あすみ (……アタシは、今までずっと、きっと後輩に迷惑をかけてきた)

あすみ (まずはそれを謝ろう。その上で、もし、言えるなら……)

あすみ (……そんなことを言える立場ではないのはわかっているけど、)

あすみ (ニセモノの恋人って言葉にモヤモヤしていることを、伝えよう)

あすみ 「っ……」 カァアアアア……

あすみ (そ、それってもう、つまり、そういうこと、だよなぁ……)

あすみ (いやいやいや、単純にアタシがモヤモヤしてるだけであって、決して……)

あすみ (ホンモノになりたいとか、そういうわけじゃなくて……)

あすみ (……あー、ちくしょう。またわからなくなってきた)

あすみ (でも、不思議だ。なんか……)

あすみ (まふゆセンセのおかげかな。今は、後輩に会って、早く話したくて仕方ない)

真冬 「ふふ……」 (少し表情が明るくなったかしら)

真冬 (それにしても、小美浪さんが恋愛で悩むなんて……)

真冬 (小美浪さんにこんな一面があるのね。在学中は全然知らなかったわ)

428以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:33:08 ID:Co5zvoAw
………………翌日

あすみ 「………………」 ドキドキドキドキ……

あすみ (昨日の今日で呼び出してしまった……)

あすみ (一昨日から三日連続、後輩に会うことになるな)

あすみ (あいつにも予定があるだろうし、そもそも勉強で忙しいだろうし、)

あすみ (さすがに迷惑だよなぁ……。また悪いことしてしまった……)

あすみ 「……後輩、来てくれるかな――」

成幸 「――来られないなら来られないって、最初から断りますよ」

あすみ 「……あ、後輩……」

成幸 「どうしたんです、先輩? なんか元気ないですけど……」

あすみ 「いや、べつに……」

あすみ 「悪いな、後輩。なんか、毎日アタシに無理に付き合わせて……」

あすみ 「今までだって、恋人のフリとか、勉強とか、バイトとか、色々なことに付き合わたし……。本当に、ごめん」

成幸 「? 誰かと一緒に勉強した方が捗りますし、海とかカラオケとか、息抜きにもなりましたし、」

成幸 「俺は、先輩に無理に付き合わされてるとは思ってないですけど」

429以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:33:46 ID:Co5zvoAw
あすみ 「そ、そっか。ならいいんだ」

成幸 「で、今日は一体どうしたんです? 昨日の力学の範囲でまた分からないことでも出ました?」

成幸 「それとも別の分野ですか?」

あすみ 「あー、いや……。勉強の前に、お前に話したいことがあってさ」

成幸 「話したいこと?」

あすみ 「……おう。聞いてもらってもいいか?」

成幸 「そりゃ、もちろん聞きますよ。なんですか?」

あすみ 「……ん。ありがとう」 (……なんて、言ったらいい?)


―――― 『たとえ筋違いであろうと、その彼の発言に傷ついたという旨を、彼に』

―――― 『そうでしょうね。でも、言ったらきっと伝わるわ』

―――― 『解決するかは分からないけれど、伝わったら、きっと……』

―――― 『……あなたの気持ちを理解してくれるのではないかしら』


あすみ (……うん。大丈夫。わかってる)

あすみ (ただ、伝えるだけ)

430以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:34:23 ID:Co5zvoAw
あすみ 「……一昨日のことだから、後輩は覚えてないかもしれないけどさ、」

成幸 「一昨日?」

あすみ 「……お前、“ニセモノ” って言っただろ?」

成幸 「……?」


―――― 『俺たちはフリをしてるだけのニセモノの恋人じゃないですか』


成幸 「ああ……」

あすみ 「……すごく勝手なことだし、自分でもわけわかんないんだけどさ、」

あすみ 「それが、すごく……なんていうか、嫌でさ……」

成幸 「へ……?」

あすみ 「わ、わかってるんだ! 実際ニセモノで、ただのフリで、そんなの、分かってるんだけど……」

あすみ 「……でも、嫌だったんだ。“ニセモノ” って言われるのが、すごく」

成幸 「………………」

あすみ 「わ、悪い。ヘンなこと言って。忘れてくれていい。すまん……」

431以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:34:59 ID:Co5zvoAw
あすみ (い、言ってしまった……)

あすみ (何言ってんだろ、アタシ。もっとこう、ドキドキするもんかと思ってたけど……)

ドキドキドキドキ……

あすみ (このドキドキは、想像してたドキドキじゃない)

あすみ (怖いだけだ。糾弾されて、拒絶されて、絶交される。そんな、恐怖のドキドキだ)

成幸 「先輩……」

あすみ 「っ……」 (怖い。怖くて、後輩の顔も見られない。後輩はどんな……――)


成幸 「――――すみませんでした!!」


あすみ 「ふぇっ……?」

成幸 「いま思い返してみれば、すごく無神経なことを言いました。すみません」

あすみ 「あ……えっと……」

カァアアアア……

あすみ (ああ、そっか……。後輩、アタシの勝手な言い分を、聞いてくれたんだ……)

432以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:35:29 ID:Co5zvoAw
あすみ (……まふゆセンセの言った通りだ)


―――― 『……だって、その彼は、他でもないあなたが選んだ男の子なのでしょう?』


あすみ (後輩、分かってくれたんだ……)

成幸 「そりゃ、嫌ですよね。っていうか、俺だってそんなこと言われたら嫌ですよ……」

成幸 「本当にごめんなさい、先輩……」

あすみ 「あ、いや、そんな、謝れってわけじゃなくて、ただ……」

あすみ 「少しモヤモヤしてたから、それを言いたかっただけだから……」

あすみ 「むしろ、ごめんな。変な気を遣わせるようなことを言って」

成幸 「いや、先輩は悪くないですよ」

成幸 「先輩と俺の恋人関係はただのフリですけど……」

成幸 「先輩と海に行ったり、バイトを手伝ったり、家事代行をしたり……」

成幸 「先輩としてきたことは、ニセモノなんかじゃないですもんね!」

あすみ 「あっ……いや……///」

あすみ (な、なんて恥ずかしい台詞を言えるんだ、こいつは……。こっちが恥ずかしい……)

433以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:36:02 ID:Co5zvoAw
あすみ (でも、そっか……)


―――― 『先輩としてきたことは、ニセモノなんかじゃないですもんね!』


あすみ (この関係がニセモノでも、アタシたちがしてきたことはニセモノじゃない、か……)

あすみ (……うん)

成幸 「先輩、あの……」

あすみ 「……なぁ、後輩? 悪いと思ってるか?」

成幸 「へ? そ、そりゃもう。申し訳ない気持ちでいっぱいですよ」

あすみ 「わかった。じゃあ、詫び代わりにひとつやってもらいたいことがある」 ニィ

成幸 「はい! 俺にできることだったら、何でも!」

あすみ 「うん。じゃ、とりあえず」

スッ

成幸 「せ、先輩……?」 (ち、近い……っていうか、)

成幸 「なんで俺の耳を塞ぐんですか?」

434以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:36:49 ID:Co5zvoAw
あすみ 「……聞こえるか?」

成幸 「えっ? 何です、先輩? 耳を塞がれてるから何言ってるのか分からないですよ?」

あすみ 「うん。それでいい。そのまま聞いてくれ」

あすみ 「……鈍いお前は、“ニセモノって言われて嫌だった” って言ったくらいじゃ気づかないみたいだからな」

あすみ 「まぁ、気づかれるかもしれないって怖さもあったから、虚しさ半分安堵半分ってとこなんだが、」

成幸 「えっ? なんです? 何を言ってるんですか?」

あすみ 「……だから、聞こえないままで、聞いてくれ」

あすみ 「今は、どんなに否定しても “ニセモノ” かもしれない」

あすみ 「でも、いつか……」


あすみ 「……いつか、アタシはお前の “ホンモノ” になりたいんだ」


あすみ 「っ……///」

あすみ 「それだけ、だよ……」

スッ……

435以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:37:27 ID:Co5zvoAw
成幸 「あっ……先輩? 耳を塞ぎながら、なんて言ったんですか?」

あすみ 「……なんでもねーよ。今のでチャラにしてやるから、感謝しろよ?」

成幸 「先輩がそれでいいならいいですけど……」

あすみ 「……それから、」

成幸 「?」

あすみ 「今まで、色々なことに付き合わせて悪かったな。ありがとう」

成幸 「へ……?」

あすみ 「……あと、これからもよろしくな。後輩」

成幸 「………………」 クスッ 「はい、先輩!」


おわり

436以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:37:57 ID:Co5zvoAw
………………幕間 あすみの部屋 「娘の彼氏の趣味」

成幸 (……とりあえず、先輩の家で勉強をすることになったが、家についた途端先輩はどこかへ消えてしまった)

ガチャッ

成幸 「あっ、先輩。やっと戻って来……――!?」

あすみ 「にしし、さすがに外で着る勇気はないが、着てみるもんだな。我ながら悪くないんじゃねーか?」

成幸 「な、何で制服着てんですか!?」

あすみ 「いやな、まふゆセンセの制服がイケるならアタシもイケるだろ、って思ってさ」

成幸 「イケるって何が!?」

あすみ 「言わせんなよー、ドスケベくーん?」

成幸 「アンタ何言ってんすか!? っていうか、その……」

あすみ 「む……。なんだよ。まふゆセンセは大丈夫で、アタシの制服姿は見られたもんじゃないってか?」

成幸 「い、いやいや、似合ってますよ。違和感がまるでないです。後輩って言われても自然なくらいです」

あすみ (……それはそれでムカつくけど) ニィ (にしても、後輩の奴、顔真っ赤だな。制服好きなのか、こいつ)

あすみ 「……じゃ、今日はこのまま勉強会といこうか」

成幸 「なぜ!?」

437以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:38:28 ID:Co5zvoAw
ガチャッ

小美浪父 「大声が聞こえるが、どうした? まさかまた喧嘩をしているんじゃ……」

あすみ 「あっ……」

成幸 「あ……」

小美浪父 「………………」

ポッ

小美浪父 「す、すまない。制服で、と……なるほど、ああ、邪魔をしてしまったな」

成幸 「ち、ちょっと待ってくださいお父さん!? なんか勘違いしてますからね絶対!」

小美浪父 「いや、大丈夫だ。何も勘違いしていない。その……まぁ、唯我くんがコスプレさせる趣味があるのは知ってるから」

小美浪父 「大丈夫。許容範囲だ」

成幸 「許容しなくて良いです! 全部勘違いですからね!? あ、いや、メイド服の件はたしかにその通りですけど!」

小美浪父 「メイド服だけでなく高校の制服も好きなのだね……。い、良い趣味だと思うよ」

小美浪父 「では、これ以上は本当にお邪魔だろうから失礼するよ。唯我くん。えっと……ごゆっくり」

成幸 「ちょっと待ってください! 待って!? 俺の話を聞いてください! お父さん!?」

おわり

438以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 21:41:00 ID:Co5zvoAw
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。

毎回あすみさんのSSを書くたびに言っている気がしますが、
本編のあすみさんはこんなにチョロくないですし、好意も明示されていません。
わたしは単純なのでついチョロくしてしまいます。申し訳ないことです。

幕間も1レスで収められませんでした。それも反省点です。


また投下します。

439以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 23:07:22 ID:9HQ5Bh0Q
おつんこ
寝る前の楽しみが復活したわサンクス

440以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/26(水) 23:50:36 ID:HCkEQ9GU
やはりあしゅみー先輩が最強よ・・・。

441以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/27(木) 20:14:11 ID:BnW2v6Oc
乙です

442以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/27(木) 20:57:20 ID:B7SVs8J6
おつおつ

443以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 22:25:45 ID:1sIqWGVU
これはひょっとして大晦日お正月のSSを期待したら書いてくれるんじゃないか?
期待

444以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 01:28:05 ID:3jPs3JVQ
大掃除ssはよはよ

445以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 12:46:23 ID:j6WLDCu2
初詣も頼むわ

446以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 21:54:29 ID:F6bN4iBg
各ヒロインの初夢話お願いしますわ

447以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 21:57:13 ID:F6bN4iBg
各ヒロインの初夢話お願いしますわ

448以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:10:50 ID:T80BSgvU
>>1です。
投下します。

環境がいつもと違うので、変なミスなどあるかもしれませんが、ご容赦ください。
それから、あまり本編の時系列を超えるのは好きではないのですが、今回、明確に超えました。
今後本編が進んだらこのSSはなかったことにしてください。
その時点で二次創作として破綻しているとわたしは思います。

それを踏まえた上で、読んでいただけたら嬉しいです。


【ぼく勉】 真冬 「今年こそ」

449以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:11:56 ID:T80BSgvU
………………年の瀬 真冬の家


『拝啓 真冬お姉様

 こちらはとても寒いです。日本も、とても寒いようですね。

 今週末には実家に帰ります。お姉様も帰ってくれると嬉しいです。

 ……もし無理そうなら、日本にいる間に、一度お姉様のおうちに伺います。

 それでは、風邪などに気をつけて、良い年をお迎えください。

 敬具

 美春』


真冬 「……わざわざ遠征先から手紙だなんて、まったく、マメな子ね」

真冬 「でも、ごめんなさい、美春。今年も実家へは帰れそうにないわ」

真冬 「なぜなら……」

グッチャアアアァアアアア

真冬 「この部屋の惨状をどうにかしなければならないから……!」

450以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:12:49 ID:T80BSgvU
真冬 (二学期の成績処理や担任団と進路指導部のヘルプに入ったおかげで、)

真冬 (家に帰っても寝るだけという生活をしていたせいね)

真冬 (毎年のことではあるけれど、二学期の後半からこっち、)

真冬 (“どうせ大掃除をするのだからそのときでいい” なんて考えてしまうのが悪いのよ)

真冬 (……そして毎年毎年、結局、綺麗な部屋で年を越せた憶えがないわ)

真冬 (今年こそ、大掃除をやりとげなければ!!)

真冬 (……とりあえず、通販で買ったものを開封するところから始めようかしら)

真冬 (段ボールをまとめて捨てて、それから、部屋を片付けるだけのこと)

真冬 (大丈夫よ、真冬。ひとつずつこなしていけば、今日中にでも終わってしまうわ)

451以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:13:26 ID:T80BSgvU
………………図書館

成幸 「……はー、今日は勉強はかどったな」 ホクホク

成幸 (今日は久々にひとりでゆっくり勉強できたし、まんぞくまんぞく……)

成幸 (午後からは家の大掃除の約束だからな。名残惜しいけど、急いで帰らないと)

成幸 「……ん?」

真冬 「………………」

成幸 (桐須先生? 真剣な顔して、何か本でも探してるのかな……?)

成幸 (……それにしても、桐須先生は知的に見えるから、図書館が似合うなぁ)

成幸 (ジャージにコートを羽織った装いじゃなければ、だけど……)

真冬 「……ん、あった」

成幸 (お、本、無事見つけられたみたいだ) ハッ (って、これじゃ俺、先生のストーカーみたいだ)

成幸 (挨拶だけして帰ろう)

真冬 「……届かないわね」

成幸 (ん? 近くにあった踏み台を持ってきて、置いて、乗って……)

成幸 (先生大丈夫かな。いや、さすがに踏み台に乗ったくらいで落ちたりしないよな……) ハラハラ

452以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:14:22 ID:T80BSgvU
真冬 「む……これでもまだ足りないかしら。仕方ないわ」

ピョンピョン

成幸 (あっ、俺この先の展開読めた)

真冬 「あっ……」

グラッ……

成幸 「やっぱりドジって落ちるー!」

……ドサッ

真冬 「……あ、あれ? 痛くない……?」

真冬 (何か、やわらかいものが下に……?)

真冬 「!? ゆ、唯我くん!?」

成幸 「……間に合って良かったです。ケガしてないですか?」

真冬 「え、ええ。ケガはないけれど……きみは?」

成幸 「俺も大丈夫です。けど、とりあえず、上からどいてもらってもいいですか?」

真冬 「あ、ごめんなさい! すぐ降りるわ!」

真冬 「……大丈夫? 立てるかしら」 スッ

453以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:14:57 ID:T80BSgvU
成幸 「あっ……すみません」 ギュッ

真冬 「でも、一体どうしてきみが私の下敷きに……?」

成幸 「あー、えっと……」

成幸 (……先生が踏み台に乗った時点で嫌な予感がしたから駆け寄りました!)

成幸 (なんて言ったら絶対怒るよなぁ……)

成幸 「本を探してたら偶然近くにいただけです」

真冬 「そう……? まぁ、何にせよ助かったわ。ありがとう」

成幸 「いえ……」

成幸 「ところで、どの本を取ろうとしてたんですか? 俺、取りますよ」

真冬 「本当? 助かるわ。えっと、一番上の列の……」

ハッ

真冬 「………………」

成幸 「……先生?」

成幸 (一番上の列って……あっ)

『年の瀬に最適! 片付け・掃除術コーナー!!』

454以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:15:40 ID:T80BSgvU
成幸 (先生、また部屋を汚くしたのか……)

真冬 「……不覚。生徒にあんな棚の本を取ろうとしていたところを見られるなんて」

成幸 「い、いやいや、ああいう本を読んで基本を確認するのも大事ですよ」

成幸 「べつに恥ずかしい話ではないと思いますよ」

成幸 「っていうか、今まで散々部屋を片付けてきた俺に見られたところで何の問題が……?」

真冬 「へ、変なこと言わないでちょうだい。散々っていうのは言いすぎだわ」

成幸 「……あー、はい。すみません。……ってことで、どの本ですか? 取りますよ」

真冬 「……一番右の」

プクゥ

成幸 (またむくれて……。子どもみたいだ)

成幸 (えっと、一番上の列の、一番右の本は、と……)

『馬鹿でも猿でもできる! ゴミ屋敷脱出術!!』

成幸 (……挑戦的すぎるだろあのタイトル)

成幸 「よっ……と。はい、取れましたよ、先生」

真冬 「……ありがとう」

455以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:18:18 ID:T80BSgvU
成幸 (……っていうか、この人の場合、本を読んでできるようになるレベルの掃除オンチじゃないよなぁ)

成幸 (新年までそう日にちもないし、汚い部屋のまま年越しっていうのは辛そうだ……)

成幸 「……ところで先生。秋ごろに一度俺が掃除をしたはずですけど、」

成幸 「まさかもうグチャグチャに……?」

真冬 「ち、違うわ。少し、片付けを工夫しようかな、って思っただけよ」

真冬 「決して、汚くなった部屋を大掃除しようとして逆にゴミ屋敷のようにしてしまったわけではないわ!」

成幸 「………………」

ハァ

成幸 「……俺、手伝いに行った方がいいですか?」

真冬 「………………」

真冬 「……ごめんなさい」 カァアアア 「お願いしてもいいかしら」

成幸 (はぁ。まぁ、放ってはおけないよなぁ……)

成幸 (後で水希に謝らなくちゃいけないな)

成幸 「じゃ、行きましょうか」

456以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:19:40 ID:T80BSgvU
………………真冬の家

成幸 「おおう……」

グッチャアアアァアアアア……!!!!

成幸 (な、なんだこれは……想像を絶するぞ……)

成幸 (今までで一番グチャグチャじゃないか……!?)

真冬 「あっ、あんまり見ないでちょうだい、唯我くん……」 カァアアアア…… 「恥ずかしいわ……///」

成幸 (時と場合によってはドキドキしそうなセリフだけど……)

成幸 「本気で恥ずかしがってます!? よくここまで散らかせましたね!?」

真冬 「し、失礼。大掃除に失敗してしまっただけよ」

成幸 「大掃除に失敗ってあります!?」

真冬 「ため込んだ通販の荷物を取り出してから掃除をしようと思ったら……」

真冬 「段ボールから出した荷物とゴミが混じり合ってわけのわからないことに……」

成幸 「何でまず段ボールを開けるんです!? 普通、掃除してから開けません!?」

真冬 「め、面目ないわ……」 シュン

457以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:20:19 ID:T80BSgvU
成幸 「あっ……」

ハッ

真冬 「………………」 ズーン

成幸 (……今ここで先生を責めても仕方ない。っていうか、そんなことをするためにここに来たわけじゃない)

成幸 「すみません、先生。言いすぎました」

真冬 「え……?」

成幸 「俺も手伝いますから、なんとか今日中に片付けが終わるようにがんばりましょう!」

真冬 「あっ……」 プイッ 「そ、そうね。がんばりましょう」

458以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:21:29 ID:T80BSgvU
………………唯我家

水希 「………………」 ルンルン♪

花枝 「どうしたの、あの子。ごきげんね」

和樹 「今日は午後からみんなで大掃除だからなー」

葉月 「姉ちゃんずっと楽しみにしてたからー。久しぶりにお兄ちゃんと一緒、って」

花枝 「ふーん……」

水希 「えへへ……お兄ちゃん早く帰ってこないかな〜」

prrrr……

水希 「あっ、電話。わたし出るよー」

ガチャッ

水希 「もしもし?」

成幸 『あ、水希か? 俺だ』

水希 「お兄ちゃん? どうしたの?」

成幸 『すまん。今日、大掃除の約束だったけど、事情があって帰れなくなった……』

水希 「えっ……」

459以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:22:12 ID:T80BSgvU
成幸 『本当にごめん! 埋め合わせは必ずするから、今日だけは許してくれ!』

水希 「………………」

水希 (ずっと楽しみにしてたけど……)

水希 (お兄ちゃん、すごく真剣な声だもん。きっと、やむにやまれぬ事情があるんだよ……)

水希 (ワガママを言っちゃダメ。ここは、妹として余裕を見せてあげないと……)

水希 「だ、大丈夫だよ。みんなでやっておくから。お兄ちゃんは気にしないで」

成幸 『すまん。助かる。みんなにも謝っておいてくれ』

ドンガラガッシャーン

成幸 『あ……』

水希 「!? お兄ちゃん!? すごい音したけど大丈夫?」

成幸 『あ、ああ。だ、大丈夫……だと思う、けど、ちょっと、もう切るな?』

水希 「えっ? ちょっと待って。お兄ちゃんいま何を――」


  『――ゆ、唯我くん! 悪いけど、助けてくれると嬉しいわ!』


水希 「!?」 (女の声!?)

460以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:22:51 ID:T80BSgvU
成幸 『わかりました! いま行きます!!』

成幸 『ってことで、ごめん、水希。もう切るな』

ブツッ

水希 「お兄ちゃん!? お兄ちゃんってば!!」

花枝 「……? 成幸、どうかしたの?」

水希 「………………」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

花枝 「水希……?」

水希 「……女」

花枝 「女?」

水希 「お兄ちゃん、女と一緒にいた……」

花枝 「ああ……」

水希 「わたしのお兄ちゃんを奪った女……!! 絶対許さない……」

花枝 「……さ、お姉ちゃんは放っておいて、そろそろ大掃除を始めましょうか」

葉月&和樹 「「はーい!!」」

461以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:23:27 ID:T80BSgvU
………………真冬の家

成幸 「何でゴミ袋にゴミを入れていただけなのに棚が倒れてくるんですか!?」

真冬 「ゴミを拾うのに夢中になっていたら、お尻から棚にぶつかってしまって……」

成幸 (相変わらずドジだけは器用な人だ……)

成幸 「よい、しょっ……と」

ゴトッ

成幸 「……ふぅ。気をつけてくださいね、先生」

真冬 「面目ないわ。穴があったら入りたいくらいよ……」

成幸 「気にしなくていいですから。とにかく、いらないものを捨てていきましょう」

成幸 「俺はグチャグチャの台所を片付けてますから」

真冬 「……ごめんなさい。よろしくお願いするわ」

462以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:24:10 ID:T80BSgvU
………………数時間後

成幸 (……ふぅ。だいぶ片付いていたな)

成幸 (この分なら、夕飯には間に合うかな……)

成幸 (っていうか、お昼食べてないからお腹空いたな……)

真冬 「………………」

キュッ……キュッ……

成幸 (さすがに部屋が汚いまま年越しは嫌なのか、先生もいつになく真剣だ)

成幸 (……ん、そういえば……)


―――― 『それに 姉さまがこっちの道に戻ってくればきっと』

―――― 『父さま母さまだって……』


成幸 「……先生」

真冬 「? どうかしたかしら?」

成幸 「年末年始は、ご実家に帰られたりしないんですか?」

463以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:25:08 ID:T80BSgvU
真冬 「……そうね」

フッ

真冬 「実家には帰るつもりはないわ。しばらく帰ってもいないしね」

成幸 「あっ……」 (やっぱり、何か事情があるんだ……)

成幸 「すみません……変なこと聞いて」

真冬 「……気にしないでいいわ。べつに、どうでもいいことだもの」

成幸 「ん……」 (どうでもいい、こと……?)

真冬 「……? 唯我くん?」

成幸 「……すみません。えっと、その……」

成幸 「すごく、失礼なことを言ってしまうことになってしまうかもしれませんけど……」

成幸 「どうでもよくなんて、ないんじゃないですか……?」

真冬 「えっ……?」

成幸 「だって、どうでもよかったら、そんな顔、しないですよね……」

真冬 「っ……。そんなの、べつに……」

464以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:25:46 ID:T80BSgvU
成幸 「あと、たぶん、これは想像ですけど……」

成幸 「先生みたいなまっすぐな人のご家族だったらきっと……」

成幸 「どうでもいいような人たちじゃ、ないんじゃないですか……?」

真冬 「………………」

成幸 「あっ……す、すみません! また、変なこと言ってしまって……」

成幸 「俺には関係ないことでしたよね! 忘れてください!」

真冬 「……そうね」

成幸 「……?」

真冬 「家族のことを、どうでもいいなんて言うのは、ダメね」

真冬 「……あなたは家族のことが大好きなのね、唯我くん」

成幸 「へ? あ、ああ、まぁ……そうですね。大好きです」

真冬 (……やはり、まっすぐな子。唯我くん、本当に良い子ね、きみは)

真冬 (あなたにとって、家族とは、本当に大切な存在なのでしょうね……)

真冬 (私も、あなたみたいに……なんて、そんなこと考えても仕方ないわね)

真冬 (私は、私にしかなれなかったのだから)

465以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:26:17 ID:T80BSgvU
………………

成幸 「………………」

真冬 「お、終わったわ……」

ピカピカピカピカ……

成幸 「……なんとか終わりましたね」

成幸 (結局、夕飯の時間を過ぎてしまった……水希、怒ってるだろうなぁ……)

真冬 「結構な時間になってしまったわね……」

真冬 「お礼というとアレだけれど、出前でも取るわ。何か食べていきなさい」

成幸 「あっ……いえ、その……、今日はすみません。もう家に帰らないといけないので……」

真冬 「そ、そうよね。年の瀬だもの。お家でやることがあるわよね……」

真冬 「……忙しい師走の終わりに、私事に巻き込んでしまって本当に申し訳ないわ」 ズーン

真冬 「今日は本当にありがとう。埋め合わせは必ずするから、気軽に何でも言ってね」

成幸 (また何でもとか言ったぞこの人……)

成幸 「では、先生。今年は大変お世話になりました。また来年もよろしくお願いします」

真冬 「ええ。こちらこそ、来年もよろしくお願いします」

466以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:27:20 ID:T80BSgvU
………………大晦日

水希 「〜〜〜〜〜♪」

成幸 「なんだ、水希? ご機嫌だな」

水希 「えへへ、わかる?」

成幸 「そりゃ、まぁ……」 (鼻歌してりゃな……)

成幸 「どうしてご機嫌なんだ?」

水希 「ふふ、内緒♪」

成幸 「……?」

水希 (……えへへ、お兄ちゃんったら!)

水希 (そんなの、お兄ちゃんと一緒におせち作ってるからに決まってるよ……///)

葉月 「姉ちゃんほんとにご機嫌ねー。大掃除の日はおかんむりだったのに」

和樹 「兄ちゃんが埋め合わせにおせち作り手伝うって言ったら途端にアレだもんなー」

花枝 「……あの子の将来がそろそろ真剣に心配だわ」

水希 「えへへ……えへへへへ……」

水希 (こうやってふたりで台所に立ってると……新婚さんみたい)

467以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:28:25 ID:T80BSgvU
………………

花枝 「……で、ご機嫌でおせち作りをしていたら、こうなった、と?」

水希 「……はい」

バーーーーン

花枝 「こんなに作ってどうするのよ……。お重に入りきらないじゃない」

水希 「ごめんなさい……。つい、やる気が入り過ぎちゃって……」

成幸 「すまん。俺も、作りすぎだって気づくべきだった……」

花枝 「……ま、いいわ。あんたに任せっきりにしちゃった私も悪いし」

花枝 「こんにゃくとかゴボウの煮物とか、茶色い物ばかりだけど……」

花枝 「ご近所さんにちょっと配ろうかしら……」

成幸 「……ん」


―――― 『実家には帰るつもりはないわ。しばらく帰ってもいないしね』


成幸 (……そういえば、先生はああ言ってたけど)

成幸 (たぶん、おせちなんて何年も食べてないんだろうな……)

468以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:29:23 ID:T80BSgvU
………………真冬の家

真冬 「………………」

カタカタカタカタ……

真冬 (部屋がきれいだと仕事もはかどるわ……)

真冬 (……って、なぜ私は大晦日に仕事なんかしているのかしら)

真冬 (やっぱり、年末年始の休業日に仕事なんか持ち帰るべきではなかったわね)

真冬 (まぁ、どうせ、家にいたところですることもないのだけど)

真冬 (……暗いことは考えない方がいいわね。区切りも良いし、カップ麺のソバでも食べようかしら)

ピンポーン

真冬 「……?」 (こんな時間に一体誰かしら? 何か注文していたかしら……?)

真冬 「ん……?」

真冬 「唯我くん……?」

469以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:29:59 ID:T80BSgvU
………………

ガチャッ

成幸 「あっ、先生。夜分にすみません……」

真冬 「唯我くん、こんな時間にどうしたの?」

成幸 「大したことじゃないんですけど……」 スッ

成幸 「今日、妹とお正月のおせち料理を作っていたら作り過ぎちゃって……」

成幸 「良かったらもらってくれませんか? 妹の料理はとても美味しいので、味は保証します!」

真冬 「おせち料理……?」

真冬 「あっ……」 (まだ温かい……作ったばかりなのね……)

真冬 「……とても、嬉しいわ。もらってもいいの?」

成幸 「はい! 尋常じゃない量なので、もらってくれるとありがたいです」

真冬 「ありがとう。いただくわ。明日、食べさせてもらうわね」

成幸 「はい、ぜひ!」

真冬 (……あまり、利害関係者からの物の授受というのはよくないのだけど)

真冬 (そんな固いこと言うものではないわね。こんなに美味しそうなお料理、もらえなかったらもったいないわ)

470以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:31:34 ID:T80BSgvU
真冬 「……ごぼうとこんにゃくの煮物ね」

成幸 「あ、はい。恥ずかしいですけど……」

成幸 「うちはあまり裕福ではないので、おせちの中身もそういう安上がりなお料理ばかりで……」

真冬 「恥ずかしいことなんてないわ。これも立派なおせち料理よ

真冬 「ゴボウはまっすぐ伸びることから、ゴボウの煮物は子どもたちの健やかな成長を祈るお料理よ」

真冬 「そして手綱こんにゃくは、家庭内の不和をなくし、家庭円満を祈願するお料理よ」

真冬 「だから誇るといいわ。とても良いおせち料理だわ。素敵なご家庭ね」

成幸 「そ、そうですか……?」 テレテレ 「そう言ってもらえると、嬉しいです」

真冬 (本当に嬉しそうな顔をして……。ご家族のことを褒められるのが本当に嬉しいのね)

真冬 (家族……か)

真冬 「………………」

真冬 (……私も、いつまでも逃げてはいられないかしら)

真冬 「……唯我くん、二度目の挨拶になってしまうけど、」

真冬 「良いお年を」

成幸 「はい! 先生も、良いお年を!」

471以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:32:09 ID:T80BSgvU
………………

『美春

 手紙が届く頃にはもう日本にいないかもしれないと思い、メールで返信します。

 家には帰りません。ごめんなさい。

 でも、あなたが私の家に来る必要もありません。

 そんな暇があるなら、このオンシーズンの調整に当てなさい。

 勝手な姉と思うかもしれません。そう思われても仕方ないと思います。

 でも、勝手なお願いとは分かっているけれど、もうすこしだけ待ってほしいです。

 ……勝手なことばかり言ってごめんなさい。

 あなたも体調管理に気を遣って、良いオンシーズンを。

 真冬』


おわり

472以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:32:40 ID:T80BSgvU
………………幕間 「ひどい」

真冬 「ひどい……」

真冬 「ひどすぎるわ、唯我くん……!!」

ムシャムシャムシャムシャ……!!!!

真冬 「こんなにおだしの効いた美味しい煮物を食べちゃったら、」

真冬 「レトルト食品やカップ麺が美味しく食べられなくなっちゃうじゃない……!!」


おわり

473以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:35:12 ID:T80BSgvU
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。
年末の某イベントが無事終わったので、気兼ねなくSSを書くことができました。

今年は「ぼくたちは勉強ができない」という素晴らしい作品と出会えたいい年でした。
また来年も投下すると思います。
失礼します。

474以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/31(月) 23:59:59 ID:F6bN4iBg
乙です、新年も期待しています

475以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/01(火) 10:04:11 ID:M6HgD6Js
おつんこ

476以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/01(火) 10:55:51 ID:NMC6XEFU


477以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/01(火) 22:18:31 ID:pgVjrWLQ
おつ
明けましておめでとう。今年もお世話になります!

478以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/04(金) 13:03:59 ID:pikOTF8Q
ちなイッチはコミケではどんな作品を書いてるの?

479以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/04(金) 13:53:32 ID:UAb/649Q
今までどんなSS書いてたのかも知りたい

480以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:28:44 ID:GTAXl2Ic
>>1です。
投下します。

以前、作品の時系列を飛び越えるのは嫌だと言いましたが、それをやってしまいました。
想像していたら止まらなくなり、書き上げてしまいました。
完成したものを消そうとも思いましたが、手前味噌ながらとても面白く仕上がりました。
もったいないと思ってしまいました。

自分では、すごく面白いと思います。
なので、勝手ではありますが、投下します。
本編で言及されていないことについて、多く書いています。
わたしの想像によるところも多いので、不快に思われる方もいるかもしれません。
それだけ、前置きしておきます。

まとめサイトの方、載せていただいても構いませんが、このレスを最初においてくれると嬉しいです。


【ぼく勉】 成幸 「クリスマス、うちに来ないか?」

481以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:34:44 ID:GTAXl2Ic
………………唯我家

カリカリカリ……

文乃「……できた!」

文乃「成幸くん、採点お願いしてもいい?」

成幸 「ああ、任せとけ」

キュッキュッ……キュッ……

成幸 「……ふんふん……うん……おお」

成幸 「すごいぞ、古橋。満点じゃないか。初めてじゃないか?」

文乃「ほんとに!? ケアレスミスもなし!?」

パァアアアアアア……!!!

文乃「やったー! やったよ成幸くんっ!」 ギュッ

成幸 「っ……」 (う、嬉しいのはわかるが、古橋……!)

成幸 (急に両手を握るのはやめてくれ……!!) カァアアアア……

成幸 「ふ、古橋っ」

文乃「? なぁに、成幸くん?」

482以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:35:15 ID:GTAXl2Ic
成幸 「……ち、近い。あと、手……」

文乃「……?」

ハッ

文乃「わぁ!」 パッ

文乃「ご、ごめんね、成幸くん。数学で満点なんて、びっくりして、嬉しくて……」

文乃「つい……」

成幸 「あ、ああ。気持ちはわかるし、分かってくれればいいよ……」

文乃「………………」

成幸 「………………」

ドキドキドキドキ……

文乃「あっ、あの……――」


「――――……ウォッホン!!」


文乃「……!?」 ビクッ

文乃「み、水希ちゃん……?」

483以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:35:55 ID:GTAXl2Ic
水希 「………………」

ジトーーーッ

水希 「……まじめに勉強してると思ったから、少し目を離したらこれですか?」

水希 「もう試験までそう日にちもないんでしょうから、」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

水希 「もう少しまじめに勉強した方がいいと思いますよ?」

文乃「た、たしかにその通りなんだよ……ごめんね、成幸くん」

文乃 (うぅ……相変わらずすごい圧だよ、水希ちゃん……)

成幸 「い、いや、俺の方こそ、ごめんな……」

成幸 (怖え……。一体何に怒ってるんだ、水希の奴……)

水希 (まったく、油断も隙もあったもんじゃないんだから)

水希 (目を光らせてないと)

和樹 「……なぁなぁ、母ちゃん。頼むよー」

葉月「わたしからもお願いー。おーねーがーいー」

花枝 「そんなお金はないの。これで我慢しなさい」

484以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:36:40 ID:GTAXl2Ic
水希 「……? こら、和樹、葉月。またわがまま言ってるの?」

水希 「お母さん内職で忙しいんだから、邪魔しないの」

葉月&和樹「「はーい……」」 ショボーン

文乃「……? わっ、小さくてかわいいクリスマスツリーだね」

文乃「そっか。もうクリスマスの季節かぁ……」

葉月「……そうなの。小さいの」 ショボーン

和樹 「テーブルに置くようなやつだよ。飾り付けとかできない……」 ショボーン

成幸 「……あー、飾り付けとかしたいのか。俺も小さい頃憧れたなぁ」

成幸 「兄ちゃんが働いてお金稼げるようになったら買ってやるから、今はこれで我慢しな」

葉月「うん……」

文乃「クリスマスツリー……」

ハッ

文乃「……ねえ、成幸くん」

成幸 「うん?」

文乃「もし良かったら、なんだけど……」

485以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:37:26 ID:GTAXl2Ic
………………翌日 唯我家

葉月「わぁああああああああ!!!」

和樹 「うおーーーーーーー!!!!」

葉月&和樹 「「大きいクリスマスツリーだぁ!!!」」

キラキラキラ……

成幸「……ふぅ。持ってくるだけで一苦労だったな」

文乃「おつかれさま、成幸くん。車でも出せたら良かったんだけど」

成幸 「いやいや、そんな贅沢は言えないよ。それより……」

成幸 「いいのか? あのツリー、借りちゃって……」

文乃「いいのいいの。もう十年くらい物置から出してなかったし」

文乃「……お母さんが亡くなってから、出したことなかったし」

成幸 「あっ……そ、そうか……」

文乃「……ん、ごめんね、変な話して」

文乃「もう使ってないから、使ってくれた方がきっとツリーも嬉しいと思うし」

成幸 「……おう。ありがとな、古橋」

486以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:40:34 ID:GTAXl2Ic
葉月「わー、飾り付けもいっぱいはいってるー!」

和樹 「兄ちゃん、文姉ちゃん、一緒に飾り付けしようぜ!」

成幸 「……そうだな。じゃあ、やるか、古橋」

文乃「うん! よーし、久しぶりにやっちゃうぞー!」

ワイワイワイ……

葉月「この大きなお星様は、てっぺんね。兄ちゃん、つけて」

成幸 「よしきた。任せとけ」

成幸 「……よいしょっ、と。おお、様になるな」

文乃「ふふ……」 (成幸くん、いいお兄ちゃんだなぁ……)

文乃 (……なつかしい)

文乃 (昔、わたしも、お母さんとお父さんと、三人で飾り付けしたなぁ……)

文乃 (お父さん、そういうセンスがないから、お母さんとふたりでダメだししたりしたっけ)

文乃 (ふふ……)

487以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:42:25 ID:GTAXl2Ic
成幸 「……ん」

成幸 (古橋、なんか……笑ってて、楽しそうなのに……なぜか、)

文乃「………………」

成幸 (“寂しそう” ? に、見えるような……)

成幸 (そういえば……)

成幸 「……なぁ、古橋。今年のクリスマスは、お父さんとパーティか?」

文乃「……ううん。お父さん、クリスマスは研究室の忘年会なんだって」

成幸 「なっ……」

成幸 「あのお父さん、またそんなこと言って……!」

文乃「あっ、ち、違うんだよ? わたしが、忘年会の方に行ってって言ったんだよ」

文乃「お父さんは、忘年会は欠席しようかなって言ってくれたんだけど……」

文乃「……お父さんの仕事の邪魔になりたくないから。だから、行ってって言ったんだ」

成幸 「ん、そうか……。なんか、ごめん。いきなり、お父さんのこと悪く言いそうになって……」

文乃「……ううん。そうやって、わたしのことで怒ってくれるのは、嬉しいよ」

文乃「でも、わたしは大丈夫だよ。もうお父さんと仲直りできたし。気にしないで」

488以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:43:20 ID:GTAXl2Ic
成幸 (……俺は短絡的すぎる。てっきり、また古橋が寂しい思いをするのかと思って、頭に血が上ってしまった)

成幸 (っていうか、研究室もクリスマスなんかに忘年会を入れるなよ……)

成幸 (俺は絶対、大学進学しても、クリスマスは家に帰って家族と過ごすぞ)

成幸 (……いや、そんなことは今はどうでもよくて)

文乃「わっ、葉月ちゃんも和樹くんもきれいに飾り付けしてるねぇ。わたしも負けられないな」

成幸「………………」

成幸 「……なぁ、古橋。もしよかったらなんだけどさ、」

文乃「うん?」

成幸 「クリスマス、うちに来ないか?」

文乃「へ……?」

ボフッ

文乃「へぇえ……?///」

489以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:44:02 ID:GTAXl2Ic
………………夜

成幸 「……ってことで」

成幸 「母さん、水希、頼む! クリスマスパーティ、古橋を呼んでもいいか?」

花枝 「まぁ……まぁまぁ……」 パァアアアアアア……!!!

花枝 「文ちゃんをクリスマスに誘ったの!? まぁ……」

花枝 「いいに決まってるでしょ! よくやったわ、成幸!」

成幸 「え? ああ、うん……」 (よくやったってなんだ? まぁ、賛成してくれてよかったけど……)

成幸 (問題は……)

水希 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 (こっちだよなぁ……)

葉月「ねぇねぇ、姉ちゃん見て見て!」

和樹 「クリスマスツリー! きれいだろ。文姉ちゃんが貸してくれたんだ!」

水希 「うん、とってもきれい」 ニコッ 「ふたりとも飾り付けがんばったのね。えらいえらい」 ナデナデ

葉月&和樹 「「えへへ〜」」

490以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:45:02 ID:GTAXl2Ic
水希 「………………」

水希 (……葉月も和樹も嬉しそうだわ。悔しいけど、古橋さんのおかげ、だよね)

水希 「……いいよ」

成幸 「ん……?」

水希 「いいよ。古橋さん呼んでも。きっと、葉月と和樹も喜ぶだろうし」

成幸 「ほ、本当か!?」 パァアアアアアア……!!!「ありがとう、水希!」

水希 「……べつに、わたしにお礼言うことないと思うけど」

花枝 「……ふふっ」

水希 「なに、お母さん?」

花枝 「べつに〜」 クスクス 「なんだかんだ、あんたも文ちゃんのこと大好きだもんね」

水希 「なっ……」 カァアアアア……「そ、そんなわけないでしょっ! べつに、古橋さんのことなんて……」

水希 「………………」

水希 「……嫌い、では、ないけど」 プイッ

花枝 「ふふ」

491以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:45:55 ID:GTAXl2Ic
花枝 「文ちゃんが来るなら、クリスマスパーティ、気は抜けないわね」

花枝 「水希。特別に牛肉の購入を許可します。ローストビーフを作ってちょうだい」

葉月「牛肉!?」  和樹 「ローストビーフ!?」

水希 「いいの?」

花枝 「もちろんよ。文ちゃんが来るとなっては手は抜けないわ。気合い入れてごちそう作るわよ、水希」

水希 「……ま、まぁ、そうね。美味しいごちそうを山ほど用意して、唯我家の女のすごさを見せてあげないと」

水希 (……古橋さんって、本当に美味しそうにごはん食べてくれるから、作りがいがあるんだよね)

水希 (えへへ。ごちそう用意したら、どんな顔して食べてくれるかな。美味しいって言ってくれるかな)

水希 「……?」

ハッ

水希 (い、いけないいけない。あの女は、お兄ちゃんによりつく悪い虫)

水希 (たとえどんなに良い人でも、気を許しちゃダメなんだから)

水希 「………………」

水希 (……まぁ、でも)

水希 (ごちそうは、たくさん食べてもらおうっと。えへへ、何作ろうかな)

492以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:47:07 ID:GTAXl2Ic
花枝 (水希ったら、表情コロコロ変えて、なんだかんだ楽しそうじゃない)

花枝 (本人は否定するけど、ほんとは文ちゃんのこと大好きなのよね)

クスクス

花枝 (でも、そっか……古橋さん、クリスマスは忘年会なのかぁ。まぁ、お付き合いもお仕事の内だものね)

花枝 (でも今の古橋さんだったら、忘年会が終わってすぐ、家に駆けつけそうなものだけど……)

花枝 「………………」

花枝 「……いけるかしら」 ボソッ

成幸 「? 母さん、何か言ったか?」

花枝 「……ううん。なんでもない。文ちゃんに喜んでもらうには、どういしたらいいか考えてただけよ」

成幸 「はは。あいつは食いしん坊だからな。食べ物山ほど用意すれば喜ぶよ」

花枝 「………………」

成幸 「……母さん?」

花枝 「あんたさ、もう少し女心ってものを勉強したら?」

成幸 「古橋みたいなことを母親に言われた!?」

493以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:47:41 ID:GTAXl2Ic
………………古橋家

零侍「文乃」

文乃「……? なぁに?」

零侍「いや……」

零侍「……クリスマスは唯我さんの家に伺うのだろう。失礼のないようにな」

文乃「わかってるよ。ちゃんとするよ」

零侍「美味しい美味しいと、人様の家で食い意地を張らないようにな」

文乃「わかってるよ! それが年頃の娘に言うこと!?」

零侍「す、すまん……」

文乃「あ、いや……そんな、本気で怒ってるわけじゃないから、気にしないで……」

零侍「そうか……。すまない。私も、冗談のつもりだった」

文乃「……うん。わかってるよ。大丈夫」

零侍「………………」

文乃「………………」

494以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:48:27 ID:GTAXl2Ic
文乃 (……気まずい、けど)

文乃 (嫌じゃ、ない。お父さんが、必死で、がんばって、わたしと会話をしようとしてくれてるって、わかるから)

クスッ

零侍「……ん、どうかしたか?」

文乃「ううん。あのね、お父さん。クリスマスツリー、成幸くんに貸したって言ったじゃない」

零侍「ああ」

文乃「成幸くんの弟妹ちゃんたちと一緒に飾り付けもしたんだよ。そしたらね……」

文乃「……そうしたら、思い出したんだ。昔、三人でクリスマスツリー、飾り付けしたこと」

零侍「………………」

文乃「……えへへ。すごく楽しかったなぁ、って。それだけ」

零侍「……ああ。私も、楽しかったと思うよ。なつかしいな」

文乃「うん」

零侍「………………」 スッ 「……今年のクリスマスも、楽しんできなさい」

ポンポン

文乃「……うん!」

495以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:49:06 ID:GTAXl2Ic
………………

零侍「……はぁ。我ながら、本当に……なんというべきか。不器用だな」

零侍「……まぁ、いい。今日明日で気を許せるわけもない」

零侍「文乃が受け入れてくれるなら、私は、私に出来る範囲で、会話を続けなければ」

prrrrrr……

零侍「ん……? 電話?」 (こんな時間に、なんだ? 研究室からか?)

零侍「……!?」

ピッ

零侍「……古橋ですが」

零侍「ええ。おかげさまで、一応、順調ではあるかと……」

零侍「……え?」

零侍「は、いや、しかし……私は……」

零侍「……わ、わかりました。そうさせていただきます。はい……はい。では、失礼します」

零侍「………………」

零侍「……な、なんてことだ」

496以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:49:37 ID:GTAXl2Ic
………………クリスマス当日 唯我家前

文乃「………………」

ドキドキドキドキ……

文乃 (服装、よし。髪型、よし。プレゼント、よし。うん、完ぺき……だと思う)

ドキドキドキドキ……

文乃 (い、いつも勉強教わりに来てる成幸くんの家とはいえ……)

文乃 (さすがに、余所様の家庭のクリスマスパーティに参加するのは緊張するなぁ……)

文乃 (それに……)


―――― 『クリスマス、うちに来ないか?』


文乃「はうっ……」

カァアアアア……

文乃 (あ、あくまで家庭のクリスマスパーティにお呼ばれしただけだから!)

文乃 (だから……)

ドキドキドキドキ……

497以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:50:09 ID:GTAXl2Ic
ガラッ

文乃「……!?」

成幸 「お、いたいた。来てたなら入ればいいのに。どうしたんだ?」

文乃「な、何もないよ。えへへ……」

文乃 (きみのことを思い出してドキドキしてたんだよ!)

文乃 (……なんて、口が裂けてもいえないよ)

文乃 (……っていうか、うるかちゃん、りっちゃん、違うからね! これは、ただの……)

文乃 (ただの、クリスマスパーティだからね!)

成幸 「? どうした? 早く入れよ」

文乃「あ、うん! お邪魔します」

パンパンパン!!!

文乃「わっ……」

葉月&和樹 「「文ねーちゃん! メリークリスマス!!」」

文乃「葉月ちゃん、和樹くん」 ニコッ 「メリークリスマス!」

498以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:50:59 ID:GTAXl2Ic
成幸 「ごめんな、古橋。ふたりがお前のこと驚かせたいって言ってたからさ……」

文乃「ううん。クラッカーの音なんて久々で、少しびっくりしたけど、」

文乃「こうやって出迎えてくれるの、すごく嬉しいよ。ありがとう、葉月ちゃん、和樹くん」

葉月&和樹 「「えへへ〜」」

成幸 「さ、上がってくれ。水希と母さんが、古橋が来るからって大はりきりで作ったごちそうが待ってるぞ」

葉月「そうそう! すごいごちそうなの!」 ギュッ

和樹 「文姉ちゃんも絶対すごいって言うぞ!」 ギュッ

タタタタ……

文乃「わっ、わわわっ……」

ガラッ

花枝 「あら、文ちゃん。いらっしゃい」

水希 「……こんにちは、古橋さん」

文乃「どうも、こんにちは。お邪魔してます……って」

キラキラキラ……!!!!

文乃「す、すごい……!!」 パァアアアアアア……!!!「ほんとにすごいごちそうだぁ〜〜!!!」

499以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:51:55 ID:GTAXl2Ic
水希 「べっ、べつに……そんな、大したお料理じゃないですよ」

水希 「古橋さんがいつもお料理を美味しそうに食べてくれるから、ついつい気合い入れて作っちゃったとかじゃないですから!」

和樹 「? なんだ、姉ちゃん? 新手のツンデレってやつか?」

葉月「姉ちゃんも文姉ちゃんのこと大好きなのね!」

水希 「なっ……///」 ボフッ 「べ、べつに、そういうのじゃないもん……」

花枝 「ふふ……。さ、成幸も文ちゃんも、席について。お料理が冷める前にいただきましょう」

文乃「あ、はい!」

花枝 「……じゃ、いただきましょう。いただきます」

 『いただきます!!』

文乃 「どれも美味しそう……。どれからいただこうかな……」

水希 「……ん、では、これからどうぞ」

文乃「? これって……ローストビーフ?」

水希 「……牛肉なんか滅多に買えないから、作るの初めてですけど」

水希 「食べてみてください」

500以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:52:37 ID:GTAXl2Ic
文乃「うん。じゃあいただくね」

パクッ……モグモグ……

文乃「………………」

水希 「……ど、どうですか?」

文乃「……ふにゃ〜、美味しい〜〜〜〜!!」

文乃「お肉がすっごくやわらかくて、ソースとよく合うよ! 本当に美味しいよ、水希ちゃん!」

水希 「そ、そうですか。それなら、よ、よかったです……」 プイッ

和樹 「? 姉ちゃん、顔赤いぞ?」

葉月 「文姉ちゃんに美味しいって言ってもらえて嬉しいのねー」

水希 「ち、ちがうわよ! そんなのじゃないんだから……」

成幸 「いやー、しかし、ほんとにどれも美味しいな……」 モグモグ

成幸 「水希みたいな妹がいて、俺は本当に幸せ者だなぁ……」

水希 「も、もうっ。お兄ちゃんったら……///」

花枝 (兄の発言に照れる方を恥ずかしいと思ってほしいところだけど……)

花枝 (……まぁ、しょうがないわね。水希だものね)

501以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:53:15 ID:GTAXl2Ic
文乃「でも、ほんとにどれもこれも美味しいよ」

文乃「いいなぁ、成幸くん。わたしも水希ちゃんみたいな妹ちゃんがいてくれたらなぁ……」

水希 「……え?」

文乃「へ?」

葉月 「……文姉ちゃん。いい方法があるわ」

文乃「?」

和樹 「文姉ちゃんが、兄ちゃんの嫁に来たら、姉ちゃんは文姉ちゃんの妹になるぞ!」

文乃「っ……//」

成幸 「なっ……///」 ボフッ 「ば、ばかなこと言うんじゃない!」

水希 「………………」 ギリッ (……悔しい)

水希 (古橋さんが姉になるのを想像して、それもアリかな、なんて思っちゃう自分が、悔しい……!)

成幸 「ほら、せっかくのごちそうが冷めちゃうぞ。どんどん食べろ」

葉月&和樹 「「はーい」」

502以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:55:37 ID:GTAXl2Ic
………………食後

文乃「……はふぅ」

文乃「本当に美味しかったよ。ごちそうさまでした。お母さん、水希ちゃん」

花枝 「お粗末様でした。文ちゃんは本当に美味しそうに食べてくれるから、作りがいがあるわぁ」

花枝 「……ね? 水希?」

水希 「っ……」 プイッ 「ま、まぁね。美味しく食べてくれるから、嬉しいことは嬉しいかもね」

文乃「えへへ……。ありがと、水希ちゃん」

水希 「べつに……」 プイッ

文乃「あ、そうだ。あのね、クリスマスプレゼント持ってきたんだよ」

和樹 「クリスマス」  葉月 「プレゼント!?」

文乃「うん。えっと……」 ガサゴソ 「……はい、葉月ちゃんと和樹ちゃんには、クリスマスブーツ」

文乃「お菓子がたくさん入ってるよ。一気に食べちゃダメだよ」

葉月&和樹 「「ありがとう!! 文姉ちゃん!!」」

成幸 「……悪いな、古橋。プレゼントなんて用意させちゃって」

文乃「ううん。気にしないで。クリスマスパーティにお呼ばれしたんだから、これくらいは当然だよ」

503以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:56:56 ID:GTAXl2Ic
文乃「あと、水希ちゃんには、これ」

水希 「えっ……わ、わたしにもあるんですか?」

文乃「もちろん! はい、保湿クリーム。これわたしのお気に入りなんだ〜」

水希 「あ、ありがとうございます……」 (すごく高そうなやつ……っていうか……)

文乃「わたしが使ってるやつと同じだよ。おそろいだね!」

水希 「っ……/// そ、そうですね……」

文乃「あと、お母さんにも。どうぞ。水希ちゃんと同じ保湿クリームです」

花枝 「私にも? なんか、気を遣わせちゃったみたいね。ありがとう」

文乃「いえいえ。気にしないでください。こちらこそ、こんな素敵なパーティにお招きいただいて、ありがとうございます」

水希 「……じゃあ、わたしからも」

文乃 「へ?」

水希 「プレゼントです。どうぞ」

文乃 「えっ……? わ、わたしに……? 用意してくれたの?」

水希 「……はい。いつも、兄と葉月、和樹がお世話になってますから。ツリーも、ありがとうございました」

文乃 「あっ……」 パァアアアアアア……!!! 「ありがとう、水希ちゃん!」

504以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:57:45 ID:GTAXl2Ic
文乃 「開けてもいい?」

水希 「……は、恥ずかしいので、おうちに帰ってから開けてください。大したものじゃないので」

文乃 「うん。わかった! 開けるまで楽しみだよ〜」

水希 「大したものじゃないから、そんなに期待しないでください……」

花枝 (……うんうん。水希とも良い感じじゃない。いいことだわ)

花枝 (文乃ちゃん、本当に良い子だし、まじめな話、本当に嫁に来てくれないかしら……)

水希 (お母さん、またろくでもないこと考えてる顔してる……)

水希 「……ケーキも作ってあるんです。持ってきますね」

文乃「ケーキ!?」 キラキラキラ……!!!!

文乃「はぁああ……水希ちゃんが作ったケーキ。絶対美味しいやつだよ……」

ジュルジュル

文乃「楽しみだね、成幸くん!」

成幸 「あ、ああ。よだれ垂れてるぞ、古橋……」

505以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:58:33 ID:GTAXl2Ic
水希 「……ちゃんとしたオーブンなんてないですから、なんちゃってケーキですよ」

水希 「そんなに期待しないでくださいね」

トトト……

葉月 「わたしたちもケーキ作り手伝ったの!」

和樹 「かーちゃんがフルーツ使う許可もくれたから、豪華なフルーツケーキだぜ!」

文乃「本当に? 楽しみだなぁ〜」

ピンポーン

成幸 「? インターフォン? 誰だろう?」

花枝 「……あら。来たわね」 クスッ 「私が出るからいいわ」

成幸 「? なんだろう。何かの配達かな?」



  「……お邪魔します」



成幸 「? 男の人の声……? お客さんか?」

文乃「……!?」 (こ、この声……まさか……!?)

506以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 23:59:11 ID:GTAXl2Ic
ガラッ

零侍 「あ……こ、こんばんは」

文乃「お父さん!?」

葉月 「へぇ?」  和樹 「文姉ちゃんのお父さん?」

文乃「な、何で成幸くんの家にお父さんが来るの!?」

零侍 「なぜ、とはまたご挨拶だな。忘年会が終わったから来たのだが……」

文乃「そういうことじゃないよ!? お父さんが来るなんて聞いてないよ!?」

零侍 「聞いてない……?」 チラッ 「……やりましたね、唯我さん」

花枝 「ふふ。これくらいのサプライズはいいでしょう?」

零侍 「……まぁ、そうかもしれませんね」 フッ

零侍 「唯我さんに誘われたんだ。忘年会が終わったら、家に来ないかと」

零侍 「お言葉に甘えてお邪魔したのだが……嫌だったか? 文乃」

507以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 00:00:02 ID:qnUp5uO.
文乃「っ……」

文乃「嫌とか、そういうのは、ない……っていうか……」

プイッ

文乃「嫌なわけないじゃない。お父さんが、来てくれたんだもん。嬉しいよ」

零侍 「そ、そうか……」

花枝 「ふふっ♪」

成幸 「……俺にくらいは教えておいてくれてもよかったじゃないか、母さん?」

花枝 「あんた、文ちゃんにバラしちゃいそうだから。敵を欺くにはまず味方から、ってね」

成幸 「……はぁ。母さんが楽しそうで俺は嬉しいよ」

零侍 「あー……はじめまして。文乃の父の、古橋零侍です。こんばんは」

葉月 「こんばんは! 双子の姉、葉月でーす!」 和樹 「双子の弟、和樹でーす!」

葉月&和樹 「「文姉ちゃんの父ちゃんめっちゃイケメンだー!!」」

零侍 「あ、ああ、どうも? ありがとう?」

文乃 「……イケメンではないと思う」 ボソッ

零侍 「……何か言ったか、文乃」

508以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 00:01:14 ID:qnUp5uO.
………………

零侍 「む……このケーキは、本当に……美味しいな」 モグモグ

文乃 「本当だよ。すごく美味しい」 ジーーッ 「お父さんがいなければ、もっとたくさん食べられたのにな」

零侍 「……その言い方は、冗談でも傷つくぞ」

文乃 「あ、ご、ごめんね。うそだよ?」

零侍 「……すまない。今のも冗談だ」

文乃 「………………」

零侍 「……そう怒るな。私が悪かったよ」

文乃 「……べつに。怒ってないし」

水希 「………………」 (古橋さんのお父さんって言うから、どんなすごい人かと思ったけど……)

水希 (少し暗い雰囲気だけど、普通の人だな……)

零侍 「あ……水希さん、だったかな?」

水希 「え? あ、はい」

零侍 「ケーキ、とても美味しいよ。ありがとう」

水希 「あ……ありがとうございます。そんな、大したものじゃないですけど……」

509以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 00:01:46 ID:qnUp5uO.
水希 「……ん、そういえば、あのクリスマスツリー」

零侍 「うん?」

水希 「貸していただいて、ありがとうございます。おかげで、葉月と和樹も大喜びで……」

葉月 「ああいう大きなツリーに飾り付けするの夢だったの!」

和樹 「めちゃくちゃ楽しかったんだ!」

零侍 「……そうか。それはよかった。ずっとしまっていたものだから、使ってくれるなら、逆にありがたい」

成幸 「……なぁ、古橋」 コソッ

文乃 「? なぁに?」 コソッ

成幸 「お父さん、来てくれてよかったな」

文乃 「ん……ま、まぁね。お父さんも楽しそうだし、良かったんじゃない?」

成幸 「そんなこと言って、古橋」 クスッ 「お前も楽しそうだぞ?」

文乃 「なっ……」 カァアアアア…… 「そ、それは、元々、この家にいるのが楽しいだけで……」

文乃 「べ、べつに、お父さんがいるかいないかなんて関係ないもん」

510以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 00:02:27 ID:qnUp5uO.
成幸 「ふふ、そうかよ」


―――― 『うちのお父さんが そういう人だからかなぁ……』

―――― 『今日はお父さんが家にいるから…… あんまり帰りたくなくて』


成幸 (……古橋、お前は気づいてないかもしれないけどさ)

成幸 (お父さんが怖くて、お父さんがいる家に帰りたくないって言ってた頃に比べたら、)


―――― 『べ、べつに、お父さんがいるかいないかなんて関係ないもん』


成幸 (“いてもいなくてもいい” ってことは、すごいことだぞ)

成幸 (まだぎこちなくて、仲良しとは言えないかもしれないけど、)

クスッ

成幸 (お父さんと、ちゃんと、父娘に戻れたんだな)

零侍 「む……」

零侍 (……唯我くんと、文乃。何やら楽しそうにコソコソ話している)

零侍 (ふむ……)

511以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 00:03:09 ID:qnUp5uO.
………………玄関前

文乃 「今日はお招きいただいて、ありがとうございました」 ペコリ

成幸 「そんなに改まらなくていいよ。お前にはいつも世話になってるしさ」

零侍 「私からも。本当にありがとう、唯我くん。とても楽しかったよ」

成幸 「はい。お父さんも来られて良かったです。ふるは――文乃さんも、嬉しそうでしたし」

文乃 「なっ……よ、余計なこと言わないでいいよ、成幸くん!」

成幸 「ははは……」

零侍 (……うむ。やはり)

零侍 「あっ、しまったな。大学に忘れ物をしてしまった」

零侍 「すまない、文乃。先に家に帰っていてくれ。私は一度大学に戻ってから帰る」

文乃 「それはいいけど……。もう遅いし、明日じゃダメなの?」

零侍 「今日必要なものなんだ」

零侍 「すまない、唯我くん。とても厚かましいお願いだとは思うのだが、娘を家まで送ってあげてくれないか?」

成幸 「もちろん、いいですよ」

文乃 「えっ……でも、さすがに悪いよ。寒いし……」

512以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 00:03:46 ID:qnUp5uO.
成幸 「夜道は物騒だしな。もう夜も遅いし、いいから送らせろよ」

文乃 「……うん。ありがと、成幸くん」

零侍 「……ちなみに、帰りはかなり遅くなる。間違いなく日をまたぐ。2時以降の帰宅になる」

文乃 「そんなに遅くなるの?」

零侍 「ああ。もう一度言う。唯我くん。私の帰宅は間違いなく日をまたぐ。帰宅は2時以降だ」

零侍 「もし万が一早く帰宅してもそのまま寝室に直行してそのまま寝るだろう。だから何の心配もいらない」

成幸 「え……? あ、はい……」 (何で俺に言うんだ……? っていうか心配って何だ……?)

文乃 「じゃあ、わたしたち行くね。お父さんも気をつけて大学行ってね」

零侍 「ああ」

零侍 「……行った、か」 (……まったく。手くらい繋いだらいいものを。文乃のやつ、本当に楽しそうだ)

零侍 「……いかんな。ガラにもなく、唯我くんに嫉妬しているのか、私は――」

花枝 「――あら? いいと思いますよ? 年頃の娘さんのお父さんですもんね」

零侍 「……!? ゆ、唯我さん。いらっしゃったのですか……」

花枝 「ナイスアシストですね、古橋さん?」

零侍 「……アシストできているか、分かりませんが。娘の恋の応援くらいは、できるかなと」

513以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 00:05:33 ID:qnUp5uO.
花枝 「せっかく相手のお父さんがご厚意を向けてくれてるのに、うちの息子はニブいですけどね」

花枝 「成幸がもう少し恋心を分かってくれればいいんですけど」

零侍 「彼のそういうまじめなところに、好感を憶えます。それは美徳だと、私は思います」

花枝 「だといいんですけどね」 クスッ

零侍 「………………」

零侍 「あ、あの、唯我さん……」

花枝 「?」

零侍 「今日は……いえ、いつも、うちの娘がお世話になっています。本当に、ありがとうございます」

零侍 「この間のことも……本当に、どうお礼を言ったらいいか……」

花枝 「気にしないでください。息子が勝手にやったことがほとんどですから」

零侍 「……とはいえ、大人として、このままでは、あまりにも情けないと思います」

零侍 「なので、あの……もし、ご迷惑でなければ……」

零侍 「お礼と言うと、浅ましいですが……今度、一緒にお食事でも、と……」

花枝 「お食事? 私とですか?」

零侍 「は、はい……」

514以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 00:06:46 ID:qnUp5uO.
花枝 「……ふふっ」

零侍 「……?」

花枝 「いいですよ。ぜひ」

零侍 「!? ほ、本当ですか!?」

花枝 「うそなんかつかないですよ」

零侍 「あ……そ、それは、そうですよね」

零侍 「……では、また。その……電話をします」

花枝 「はい。待ってます」

零侍 「………………」

零侍 「……では、また」

花枝 「ええ。古橋さん、お気をつけて。それから……」

零侍 「?」

花枝 「メリークリスマス」 ニコッ

零侍 「あっ……」 ドキッ 「め……メリー、クリスマス」

515以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 00:07:23 ID:qnUp5uO.
………………

文乃 「えへへ、今日は本当に楽しかったなぁ……」

成幸 「“美味しかったなぁ” の間違いじゃないのか?」

文乃 「むっ……成幸くん? きみは、わたしのことを、ただの食いしん坊だと思ってないかい?」 プンプン

成幸 「冗談だよ。悪かった」

文乃 「ふーん、だ」 プイッ

文乃 「………………」

クスッ

文乃 「……ふふ」

成幸 「? どうかしたか?」

文乃 「ううん。楽しくって仕方なくてさ」 ニコッ 「怒るフリもできないよ」

成幸 「っ……」 ドキッ (そ、その笑顔はいくらなんでも反則だろ……)

文乃 「……ねぇ、成幸くん」

成幸 「お、おう。なんだ?」

516以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 00:08:02 ID:qnUp5uO.
文乃 「はい、これ」

成幸 「へ……? これ……プレゼント?」

文乃 「うん。成幸くんへのプレゼントだよ」

文乃 「さっき渡したら良かったんだけどね……えへへ」

文乃 (……なんか、みんなの前で渡すのが恥ずかしくて……なんて言えないよね)

成幸 「……あ、ありがとう。嬉しいよ」

成幸 「えっと……その……俺も」 ゴソッ 「……プレゼント」

文乃 「へ……?」

文乃 「あっ……ありがとう」 カァアアアア……

成幸 「俺も、さっき渡したらよかったんだけど……」

成幸 (みんなの前で渡すのが恥ずかしかった……なんて言えるわけないよな)

文乃 「……ふふ。なんか、わたしたち、似たもの同士だね」

成幸 「……だな」

517以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 00:08:39 ID:qnUp5uO.
文乃 「………………」

ドキドキドキドキ……

文乃 (……ああ、もう。否定することも、難しいよね)

文乃 (こんなの、ずるいよ……だって……)


文乃 (――好きにならないわけ、ないじゃない)


文乃 (……ごめんね。りっちゃん、うるかちゃん)

文乃 (正々堂々、明日、ふたりに、ちゃんと言うね)



文乃 (わたしが、唯我くんのことが好きだって、ふたりに言うね)



文乃 (だから、今日だけは許して)

文乃 (ふたりから嫌われちゃうかもしれないけど……)

文乃 (今日、いま、このときだけは……)

518以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 00:09:10 ID:qnUp5uO.
文乃 「……ねえ、唯我くん」

成幸 「ん?」

文乃 「わたし、初めてなんだ。こんな風に、男の子とふたりで、クリスマスを過ごすって」

成幸 「へ……?」

カァアアアア……

成幸 「い、いやいや、さっきまで俺の家族とお父さんと一緒だっただろ?」

文乃 「うん、そうだね。でも、今はふたりきりだよ?」

成幸 「いや、まぁ……それは、その通りだけど……」

文乃 「………………」

成幸 「………………」

ドキドキドキドキ……

文乃 「……ねえ、唯我くん。わたしが今、何を考えてるか、わかる?」

成幸 「えっ……?」

成幸 「そ、そんなの、わかるわけないだろ」

519以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 00:10:06 ID:qnUp5uO.
文乃 「……うん。そうだよね。成幸くんは成幸くんだもんね」

成幸 「……?」

文乃 「じゃあ、それが分かるようになるまで、女心の授業は続くよ、成幸くん」

成幸 「!? 女心が分かれば、お前が今何を考えてるかも分かるようになるのか……すごいな、女心の授業……」

文乃 「わたしの授業は半端を許さないからね。覚悟しておいてね」

成幸 「……ああ、分かってるよ。お前が単位をくれるまで、お前の授業を受けないとな」

成幸 「はぁ。単位修得まで、どれくらいかかることやら」

文乃 「そうだね。がんばらないとだよ、成幸くん」

文乃 「……高校を卒業しても、単位を与えられなかったら、補習は続くからね」

成幸 「うへぇ。女心って大変だな……」

成幸 「でもまぁ、お前が付き合ってくれるなら、がんばって補習を受けるとするよ」

文乃 「ふふ……」

クスッ

文乃 「今の、言質とったからね。成幸くん」

おわり

520以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 00:10:51 ID:qnUp5uO.
………………幕間1 「TOMODACHI」

文乃 「お、おう……」

文乃 「すごいセンスだね、水希ちゃん……」

文乃 「でかでかと 『TOMODACHI』 と刺繍されたエプロンとは……」


………………

水希 (古橋さん、プレゼント開けてくれたかなぁ。気に入ってくれたかなぁ)

水希 (ふふ……)

キラン

水希 (……まぁ、認めてあげないこともないですが、)

水希 (まずは清く正しく、お兄ちゃんのお友達から始めてもらわないとね……ふふふ……)

水希 「………………」

水希 (……来年のクリスマスプレゼント用に、『KOIBITOMIMAN』 エプロンも作っとこうかな)

521以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 00:11:30 ID:qnUp5uO.
………………幕間2 「オマケ」

零侍 「……ゆ、唯我さん?」

花枝 「ごめんなさいねぇ、古橋さん。外食に行くって話をしたら……」

葉月 「こんばんは! 文姉ちゃんのお父さん!」

和樹 「ついてきちゃいました!!」

花枝 「お母さんだけずるいって言われてしまって……」

零侍 「あ、いえ……構いませんよ。葉月さんと和樹くんにもお礼をしなければなりませんから」

零侍 「葉月さん、和樹くん、何が食べたい? 私が何でも食べさせてあげよう」

零侍 (……まぁ、落胆していないと言えばウソになるが)

花枝 「あら、良かったわね、葉月、和樹」

葉月 「うーん、うーん……」 和樹 「何がいいかな……」

零侍 「……うむ」

零侍 (唯我さんの嬉しそうな顔が見られただけで、良し)

零侍 (しかし、まぁ……) ハァ (唯我くんのニブさは、間違いなく母親譲りだな)

おわり

522以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 00:14:38 ID:XuaKvmLc
乙!!!!!

523以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 00:16:13 ID:S8mU02Bk
乙!!!
いい最終回だった!

524以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 00:19:27 ID:qnUp5uO.
>>1です。

まず第一に、わたし自身がコミックス派なので、本誌の話を先に出すことがためらわれました。
(文乃さんの家出のときだけ誘惑に負けてジャンプを買ってしまいましたが)。
また、明示されてない好意に関しても本編に先んじて描くのもよくないと思いました。
ただ、思いついて、書いていると、勝手ながらとても面白いと思ってしまいました。
なので、言い訳がましい前置きをして投下させてもらいました。
申し訳ないことだと思います。

今後、こういうのは控えようと思います。が、自分で面白いと思ったら、また投下すると思います。
不快に思われた方がいたらすみません。もうしわけないです。


>>478
あまり匿名掲示板で明言するのも正しくないと思うのでジャンルだけ言いますが、「プリキュア」の小説です。

>>479
今で匿名掲示板で投下したのは主に「とある」と「プリキュア」のSSです。
ギャグが苦手なのでシリアスばかりです。



また投下します。

525以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 00:35:08 ID:FgSAvOmk
好きなように書いてくれてええんやで

526以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 01:15:28 ID:1oT6qPsk
とりあえず無限の可能性を秘めた女の子の画像貼っときますね
https://i.imgur.com/4gRGYWO.jpg

527以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 07:45:41 ID:ML9R6WoI
>>478だけどありがとう
委託してるか知らんが探してみるわ

528以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 21:17:43 ID:X3tVyTOU
もう

529以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 21:18:32 ID:X3tVyTOU
誤送信してしまった
もうこれ本編でいいだろって出来だな
最高だよ

530以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 21:43:29 ID:u4hlzuRA
>>526
ぐうかわ

531以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/07(月) 18:44:39 ID:Ru94J.Qg
おつ

532以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/09(水) 01:11:47 ID:u39T5QFQ
今週のジャンプもいとおもしろく

533以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/10(木) 22:45:54 ID:1QrxQ.1A
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】 文乃 「成幸くん、散々わたしの胸のことバカにしてたよね?」 ボイン

534以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/10(木) 22:46:48 ID:1QrxQ.1A
………………5年後

文乃 「で、今現在、これだけ大きくなったわたしの胸を見て、どう思う?」 タユン

成幸 「へ……?」

成幸 「バカにしてたって……べつに、そんなことないだろ……」

成幸 「あと、胸の大きさなんて……そんな……」

文乃 「ふふん。そんなおぼこみたいな反応したって無駄だよ」 ムギュッ

文乃 「文乃お姉ちゃんは全部お見通しなんだからね」 ムギュムギュ

成幸 「お、お姉ちゃんてお前……何年前の話だよ……」

成幸 「あとお前、その……さっきから、胸が、当たってるんだけど……」

文乃 「わ・ざ・と。当ててるに決まってるでしょ」

成幸 「……お前な。そういうの、はしたないからやめろって」

ジトッ

成幸 「まさかお前、俺以外の男にも、同じようなことしてるんじゃないだろうな?」

文乃 「……!? 他の男の子に? す、するわけないじゃん! 成幸くんのえっち!」

成幸 「……お前の恥ずかしがるポイントがまるで分からないよ」

535以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/10(木) 22:47:38 ID:1QrxQ.1A
文乃 「あっ……は、話を逸らそうったってそうはいかないよ?」

ムギュウムギュッ

文乃 「正直、成幸くん、付き合い始めた頃は、わたしのおっぱいに関しては色々あきらめてたよね?」

成幸 「胸に関して諦めるってどういうことだよ」

文乃 「わたしのおっぱいが小さいから、りっちゃんのおっぱいを揉みたいとか思ってたよね?」

文乃 「あの、最終的にIカップ寸前まで成長したハザード級のおっぱいを」

成幸 「思ってねーよ! 恋人と共通の友達のおっぱい揉みたいとかただのダメ野郎だろそれ!」

文乃 「えっ? じゃあうるかちゃんの健康的な日焼け跡おっぱい?」

成幸 「お前ほんと俺のことなんだと思ってるんだ?」

文乃 「……ふーん。じゃあ、成幸くんは、わたしのおっぱい以外はどうでも良かった、と?」

成幸 「……いや、それを肯定しても、俺、お前のおっぱい目当てで付き合ったことにならないか?」

文乃 「……当時のわたしのAカップおっぱいには何の価値もなかった、と?」 ゴゴゴゴゴ………

成幸 「そんなこと一言も言ってないよな!?」

536以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/10(木) 22:48:29 ID:1QrxQ.1A
文乃 「じゃあ、質問を変えるけど、」

ムギュッ

文乃 「今現在、きみの恋人のおっぱいは、Fカップですが、それに関して何かコメントは?」

成幸 「コメントって……」

カァアアアア……

成幸 「……えっと、その……どんなお前も魅力的だけど……」

成幸 「……とても、その……よろしいと、思います、です……」

文乃 「よろしい」 フフン

成幸 「………………」

成幸 (得意げな顔がムカつく……。どうでもいいとか言うと拗ねるくせに……)

成幸 (まぁ、でも、そんなところもかわいいけど……)

文乃 (……なんてことを考えてる顔だね。あれは)

ニヤリ

文乃 (まったく。成幸くん、かわいいのは、照れながらも正直に答えてくれるきみの方だよ)

537以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/10(木) 22:49:06 ID:1QrxQ.1A
成幸 「……ったく、お前が胸のコンプレックス爆発させたせいで時間食っちまったじゃないか」

成幸 「新婚旅行の行き先、今日中に決めるって約束なんだから、早く探さないとだぞ」

文乃 「わかってるよー、だ。しっかり者の旦那さんを持ててわたしは幸せ者だなー」

成幸 「……ほんっと、調子いい女になったよな、お前」

クスッ

成幸 「俺も、お前みたいな美人でおっぱいの大きい嫁さんもらえて幸せ者だよ」

文乃 「えへへ……」

成幸 「午後からは結婚式の最終打ち合わせもあるんだからな?」

文乃 「うん! えへへ……」

成幸 「? どうした?」

文乃 「……ううん。結婚式、楽しみだなぁ、って」

成幸 「……まぁ、そうだな」

文乃 「えへへ。幸せにしてね、成幸くん!」

成幸 「おう!」

………………

538以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/10(木) 22:49:39 ID:1QrxQ.1A
………………古橋家

文乃 「えへへ……えへへへへへ……」

文乃 「ふにゅ……」

パチッ

文乃 「……ん……う?」

文乃 「あれ……成幸くん……?」

文乃 「………………」

ハッ

文乃 (……夢!? えっ、ちょっと待って……夢!?)

文乃 (わ、わたし……夢を見てた……?)

文乃 「………………」

スカッ

文乃 (……あ、うん。わかってたけどね。うん。胸、こうだよね。これがわたしの胸だよね)

ズーン

文乃 (っていうか……) カァアアアア…… (わたし、なんて恥ずかしい夢を見てしまったんだろう……)

539以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/10(木) 22:50:29 ID:1QrxQ.1A
………………一ノ瀬学園

うるか 「おっはよー! 文乃っちー!」

文乃 「あ、お、おはよ、うるかちゃん」

文乃 「………………」 ジーーーーッ

うるか 「? どったの? あたし、なんか変?」

文乃 「………………」

文乃 (……うん。相変わらず、筋肉質ながらもやわらかそうなおっぱいがふたつ)

文乃 (でも、夢の中のわたしは、もっと大きかった……)

うるか 「ふ、文乃っち? そんなに見つめられると、恥ずかしいよ……///」

文乃 「……ふふっ」

文乃 (なんだかわからないけど、少し勝った気分だよ……!)

文乃 (それと同時に、とんでもない虚しさを感じるよ……)

成幸 「……? 朝っぱらから何やってるんだ、あのふたりは」

理珠 「なんだか分かりませんが、関わらない方がいいと思います」

540以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/10(木) 22:51:04 ID:1QrxQ.1A
………………放課後

理珠 「……はぁ? 胸が大きくなる夢を見た?」

文乃 「……うん」

文乃 (恥ずかしいけど、笑い話になるかなと話してしまった……)

うるか 「へぇー。文乃っちのおっぱいが大きくなる夢ねー……」

うるか (……もし、文乃っちのおっぱいが大きくなったら、きっと完全無欠の超絶美女のできあがりだよね)

うるか (そうなったら……) ジーッ

成幸 (……そういう話は女子だけのときにしてくれないかな……)

うるか (……きっと成幸も、文乃っちのこと大好きになっちゃうよね)

うるか 「だ、ダメだよ! 文乃っちはおっぱい大きくなっちゃ!」

文乃 「ダメ!? 禁止されるようなことなの!?」

うるか 「文乃っちにもひとつくらい欠点がないとダメだよ! じゃないと……」

うるか (成幸が文乃っちのこと好きになっちゃうかもしれないし!!)

文乃 「……さりげなくわたしの胸が小さいことを欠点扱いされた」 ズーン

541以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/10(木) 22:51:40 ID:1QrxQ.1A
成幸 「ほ、ほら! アホな話してないで、さっさと勉強に戻るぞ。受験生だろ」

理珠 「その通りですよ。胸が大きくなる夢なんて、文乃の潜在的な欲求が表れただけのことでしょう」

理珠 「取るに足らないことですよ」

文乃 「………………」

ムギュッ

成幸 「なっ……///」

理珠 「な、なぜ無言で私の胸を鷲づかみするのですか!? 文乃!」

文乃 「“取るに足らないこと” ……?」

ギラリ

文乃 「そんな悪いことを言うのはこの胸かー! この凶悪なおっぱいなのかー!?」 ムギュムギュムギュウ

理珠 「や、やめてください! 成幸さんもいるんですよ……っ」

うるか (……成幸がいないとこでなら揉んでもいいのかな? 今度やってみよ)

成幸 「お、落ち着け、古橋! 緒方の胸を揉んでもお前の胸は大きくならないぞ!?」

文乃 「何でそこで全力で煽りに来るのかな成幸くん!?」

542以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/10(木) 22:53:03 ID:1QrxQ.1A
………………

文乃 「……ごめんなさい。取り乱しました」

理珠 「いえ、こちらこそ、取るに足らないことというのは言いすぎでした。ごめんなさい」

成幸 「……うん。俺も空気読めないことを言って悪かったよ」

うるか (胸ねー。水泳選手的にはあんまりないほうがいいんだけど……)

うるか (それを言ったらまた文乃っちが暴れ出しそうだからやめとこーっと)

うるか 「ん、そういえばさ、リズりん。さっきなんか変なこと言ってなかった?」

理珠 「はい?」

うるか 「文乃っちのセンザイテキナヨッキューがどーの、とか……」

理珠 「ああ……。潜在的な欲求の表出ですか」

理珠 「……最近、受験勉強の合間に心理学の勉強をしているのですが、読んだ本に出てきたんです」

理珠 「“即物的すぎる夢は、当人の潜在的な欲求を示している場合が多い”」

うるか 「???」

理珠 「……オホン。うるかさんに分かりやすいように、簡単な言葉に直すと、つまり……」

理珠 「夢に出てきたことが、本人が望んでいることだ、ということです」

543以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/10(木) 22:53:34 ID:1QrxQ.1A
うるか 「夢がそのまま本人の望むもの……」

うるか 「……つまり、文乃っちはおっぱい大きくなりたいってこと?」

理珠 「……身も蓋もない言い方をするとそうなりますが、」

文乃 「………………」 ズーン

理珠 「今度こそ文乃の目が死んでしまったので、それ以上はやめてあげてください」

うるか 「えー、でもそれって面白いね!」

文乃 「……面白い? わたしが胸が小さいことで悩んでるのがそんなに面白いかー!!」

うるか 「ど、どうどう、文乃っち。そうじゃなくてさ……」

うるか 「夢に出てきたことをその人が望んでるってコトなんでしょ?」

うるか 「文乃っち、夢の中で、おっぱいが大きくなること以外に、何かなかったの?」

文乃 「えっ……」

文乃 「……あ」


―――― 『午後からは結婚式の最終打ち合わせもあるんだからな?』


文乃 「……っ」

544以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/10(木) 22:54:33 ID:1QrxQ.1A
うるか 「お、なんかあったのー? 教えてよー」

文乃 「だ、ダメ! ダメだよ! 絶対言えないよ!」

理珠 「? どうしたのですか、文乃。そんなに顔を真っ赤にして」

理珠 「胸が大きくなったこと以上に恥ずかしいことなのですか?」

文乃 「わたしがとんでもなく恥ずかしいやつみたいな目でみるのはやめてくれないかな!?」

うるか 「えーっ、じゃあいいじゃん。教えてよ〜」

文乃 「………………」 (い……言えるかー!!)


―――― 文乃 『いやー、実はふたりの好きな人と結婚する夢を見たよ』

―――― 文乃 『それがわたしの望みなんだとすると、今日からわたしたちライバルだね!』


文乃 (そんなこと言えるかーーーーーーー!!)

545以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/10(木) 22:55:17 ID:1QrxQ.1A
成幸 「……ったく。ほら、そろそろいい加減にしろよ」 スッ 「古橋も話したくないみたいだし」

文乃 「あっ……成幸くん……」

うるか 「えーっ! 文乃っちのガンボーが知りたいのにー」

成幸 「ダメだ。今から十五分後に英単語の確認テストをするぞ」

うるか 「へ!? 十五分後!? じ、時間ないじゃん! 早く勉強しなきゃ!」

成幸 「緒方も。十五分後に古文の活用の穴埋めテストするからな」

理珠 「は、はい! 今日こそ完ぺきにしてみせます!」

成幸 「古橋は、今日はひたすら計算だな。そろそろインテグラルとは友達になれそうか?」

文乃 「えっ、あ、う、うん。まだ殴り合いをしてる真っ最中かな……」

成幸 「存外熱血な友達の作り方だな。ま、いいや。不定積分の練習問題を繰り返しやっておいてくれ」

文乃 「うん!」

成幸 「気を抜くなよ。そろそろ積分と三角関数が同居を始めるからな」

文乃 「……あんまり考えたくない、けど……」 グッ 「がんばるよ。成幸くん!」

成幸 「ああ、その意気だ」

546以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/10(木) 22:55:59 ID:1QrxQ.1A
………………

文乃 「………………」

カリカリカリカリ……


―――― 『わかってるよー、だ。しっかり者の旦那さんを持ててわたしは幸せ者だなー」』


文乃 (……わたしの胸が大きくなくても)

文乃 (わたしたちが結婚式を間近に控えた恋人同士じゃなくても)

文乃 (きみがしっかり者であることは、変わらない)

文乃 (……ねえ、りっちゃん、うるかちゃん。そして、成幸くん)


―――― 『夢に出てきたことが、本人が望んでいることだ、ということです』


文乃 (……わたしは、それを望んでもいいのかな)

文乃 (わたしは……)

文乃 (きみを、好きになっても、いいのかな……)

おわり

547以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/10(木) 22:57:39 ID:1QrxQ.1A
>>1です。読んでくださった方、ありがとうございました。
個別レスしませんが、乙や励ましの言葉、嬉しいです。ありがとうございます。
感想をくれる方、とても嬉しいです。ありがとうございます。


また投下します。

548以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/10(木) 23:30:50 ID:56lcqZPA
乙です

549以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/11(金) 19:26:25 ID:NjlEfpX2
おつんこここ

550以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/11(金) 20:57:32 ID:F21GcOTU

今週ないのをこれで乗り切れる気がする

551以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/12(土) 02:20:13 ID:uWc/XS6A
これは正妻ですわね?

552以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/12(土) 10:52:40 ID:d1TmaCA2
おつぱい!!!!

553以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/12(土) 13:50:55 ID:0Y0Jaolc
おつ!

554以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/14(月) 09:54:02 ID:qxtQW6K.
母親も貧乳なので残念ながらね

555以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/19(土) 14:47:42 ID:XJCkUcqI
シエンタ

556以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/22(火) 01:27:38 ID:4hgKH4tU
まだかな

557以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/29(火) 02:26:23 ID:9WLA6o9Y
アニメまであと2ヶ月か
期待できるかは置いといて楽しみだな

558以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/12(火) 22:55:13 ID:Gckp7Fdc
もう首がちぎれそうですわ

559以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 07:58:49 ID:8Fa4HPeQ
よしイベントだから更新日だな

560以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 12:33:36 ID:ZEUZ8Dsw
はよはよ

561以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:38:16 ID:D3bTG5yg
>>1です。
投下します。
本編の時系列飛び越えてしまいますが、内容は日常回程度なのでお許しください。


【ぼく勉】 水希 「チョコ菓子の作り方?」

562以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:38:46 ID:D3bTG5yg
………………唯我家

成幸 「ああ。ちょっと教えてもらいたくてさ」

成幸 「毎年俺と家族の分作ってくれるだろ? 今年は俺にも一緒に作らせてもらいたいんだ」

水希 「それはいいけど……」

水希 「……作ったお菓子、誰かにプレゼントするの?」

成幸 「えっ……?」

カァアアアア……

成幸 「ま、まぁ、そうだな」

水希 「……ふーん」

水希 (目を逸らして顔を真っ赤にして、あの表情……)

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

水希 (間違いない。お兄ちゃんは、作ったお菓子を誰かにプレゼントするつもりだ……!)

563以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:39:17 ID:D3bTG5yg
水希 (……どこの女にプレゼントするつもりだろう)

水希 (否。どこの誰が相手だろうと、思うことは変わらない)

水希 (……うらやましい!!!)

水希 (あーもう! どこの誰よ! わたしのお兄ちゃんからチョコを贈りたいと思われる幸せ者は!)

水希 (そんな女のためのチョコ菓子作り、協力するのは躊躇われるけど……)

成幸 「水希? なんかすごい顔してるけど……お菓子、一緒に作っちゃダメか?」 クゥーン

水希 (……こんな捨てられた子犬みたいな顔をするお兄ちゃんのお願いを断れるわけないじゃない)

水希 「いいよ、お兄ちゃん。一緒にとっても美味しいお菓子作ろうね」

成幸 「本当か!? ありがとう! 助かるよ」

成幸 「俺ひとりじゃ美味しく作れる気がしなかったからさ……」

成幸 「……せっかく贈るなら、美味しいのを食べてもらいたいからさ」

水希 (っ……) ズキューン (健気!!! 健気すぎ! 可愛すぎだよお兄ちゃん……!)

水希 (こんなに可愛いお兄ちゃんからチョコをプレゼントされる女……)

水希 (許すまじ……!)

564以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:39:59 ID:D3bTG5yg
………………

水希 「じゃあ、チョコ作りを始めるよ、お兄ちゃん」

成幸 「はい! よろしくお願いします、水希先生」

水希 「や、やだなぁ、先生だなんて……。えへへ」

水希 (先生かぁ……)


ポワンポワンポワンポワン………………

成幸 『水希先生、聞きたいことがあるんですけど……』

水希 『あら、何かしら。成幸くん』

成幸 『あの……先生のことを考えるとドキドキして、頭がボーッとして……』

成幸 『俺、病気なんですかね……』

水希 『あらあら。ふふふ、そうね。病気かもしらないわね』

水希 『でも大丈夫よ。それは、恋の病だから』

成幸 『恋の病……?』

水希 『今から先生が治してあげる。ほら、こっちにおいで。成幸くん』

565以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:40:27 ID:jG2xNT6Q
来てるやん!!

566以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:40:39 ID:D3bTG5yg
………………ポワンポワンポワンポワン

水希 「……えへへ、うふふ……ぐふっ」 クネクネクネ

成幸 「水希? おい、大丈夫か?」

水希 「はっ……生徒成幸くんとわたしはどこに……?」

成幸 「何を言ってるんだお前は……」

水希 「あ……」 ハッ 「ご、ごめんね、お兄ちゃん。ちょっと考え事をしてただけだよ」

成幸 (どんな考え事をしていたんだか気になるが怖いからスルーしよう……)

水希 「じゃあはりきってやっていこー! 今年作るのはしっとりチョコマフィンだよ!」

成幸 「しっとりチョコマフィン……」 キラキラ 「想像するだけで美味しそうだな」

水希 「生地にココアパウダーを混ぜるだけだと、普通のチョコマフィンになっちゃうから、」

水希 「今日は湯煎して溶かしたチョコを生地に混ぜていくよ」

成幸 「はい、先生!」

水希 「ということでお兄ちゃん、この割れチョコを湯煎するから、包丁で細かく刻んでね」

成幸 「わかった。刻めばいいんだな」

567以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:41:21 ID:D3bTG5yg
成幸 「………………」

ザクザクザクザク……

水希 「えへへ……」 (なんか、こうやって一緒に台所に立っていると……)

水希 (新婚さんみたいだよぅ……)

成幸 「……ふぅ。これくらいでいいか?」

水希 「あ、うん。十分だよ。じゃあ、その刻んだチョコをこのボウルに入れて、バターも入れて……」

水希 「今度はヘラで、ゆっくりかき混ぜながら溶かしてね」

成幸 「わかった。まかせとけ」

水希 (はぅぅ……) キュンキュンキュン (本当に新婚みたいだよ……鼻血出そう……)

成幸 「………………」 ペタペタグルグル

水希 (……すごい、真剣な顔)

水希 (プレゼントする相手のために、あんな顔してるんだよね……)

ズキッ

水希 「っ……」 (悔しいな……)

568以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:42:34 ID:D3bTG5yg
………………

成幸 「最後に、余った割れチョコを上に乗せて……っと。これで生地は完成か?」

水希 「うん。お疲れ様、お兄ちゃん。あとはオーブンで焼くだけだよ」

成幸 「美味しく出来るかな。不安だけど……」 ニコッ 「水希と一緒に作ったんだから、美味しくないはずないよな」

水希 「えへへ。きっと美味しいよ、お兄ちゃん」

水希 「………………」

水希 「……ねえ、お兄ちゃん」

成幸 「うん?」

水希 「こんなにたくさんのマフィン、誰にあげるつもりなの?」

成幸 「ああ、いつもお世話になってる人たちに配りたいと思ってさ」

成幸 「小林とか大森とか……あとは、古橋、緒方、うるか、先輩、先生……」

成幸 「今年一年で友達が増えたからさ。他にも渡したい奴がいるんだ」

569以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:43:06 ID:D3bTG5yg
水希 「そっか……。じゃあ、これは誰にあげるの?」

水希 「……この、ひとつだけ大きいカップのマフィンは」

成幸 「う゛ぇっ……!?」 ギクッ 「い、いや、それは……その……」

成幸 「誰というか……その……」

水希 「………………」 ジーーーッ

成幸 「……な、ナイショ」

水希 「……そっか。わかった」

水希 「無理に聞くつもりはないよ。でも、その人はお兄ちゃんにとってとても大事な人なんだね」

成幸 「あっ……」 カァアアアア…… 「そ、そうだよ。とても……大事な人だよ」

水希 「……うらやましい」 ボソッ

成幸 「へ? なんか言ったか?」

水希 「ううん。なんでもないよ」

ニコッ

水希 「その人が、美味しく食べてくれるといいね」

成幸 「……おう!」

570以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:43:47 ID:D3bTG5yg
………………バレンタインデー当日 一ノ瀬学園 3-B教室前

うるか 「………………」 ドキドキドキドキ…… (手作りのチョコケーキ……)

ガサッ

うるか (持ってきちったけど、これ、成幸に渡せるかな……)

うるか (あー、もう! あたしのバカバカバカー!)

うるか (義理チョコと同じラッピングにすればよかったのに、)

うるか (成幸のラッピングだけめっちゃハートだよ!! こんなの……)

うるか (……これが本命だってバレバレじゃん……////)

理珠 「? おや、うるかさんじゃないですか」

うるか 「あ、リズりん。おいっすー」

理珠 「うるかさんもチョコレートを成幸さんに渡しに来たんですか?」

うるか 「え? あ、うん。そうだケド……。ひょっとしてリズりんも?」

理珠 「はい。成幸さんにはいつもお世話になってますから」

理珠 「揚げたうどんにチョコをトッピングしたうどんチョコです。美味しいですよ」

理珠 「うるかさんの分もありますので、おひとつどうぞ」

571以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:44:23 ID:D3bTG5yg
うるか 「あ、うん。ありがとう、リズりん」

うるか (うどんチョコ……。見た目はポッキーみたいで美味しそうだけど……)

ハムッ

うるか 「……あっ、これめっちゃ美味しい」

理珠 「ふふふ。そうでしょうそうでしょう。うどんは何にでも合うんです」 ムフー

うるか 「じゃあ、あたしからもリズりんに。チョコケーキだよ」

キラキラキラ

理珠 「お、おお……。ありがとうございます、うるかさん。キラキラしててとても美味しそうです」

うるか 「えへへ。お口に合うと嬉しいな」

ワイワイワイ

572以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:44:59 ID:D3bTG5yg
………………物陰

文乃 「………………」

文乃 (で、出て行きにくい……)

文乃 (昨日は手作りチョコにチャレンジしてみたものの、できあがったのはダークマターだし……)

文乃 (味は美味しいかもと思ってお父さんに無理矢理食べさせた――もとい、食べさせてあげたら)


―――― 零侍 『後生だから二度と台所に立たないでくれ』


文乃 (……仲直りからこっち、久々に見たなぁ。あんな真顔のお父さん)

文乃 (だから、朝コンビニで買ってきたチョコしかないよ……)

文乃 (うるかちゃんの綺麗にラッピングされたチョコと、りっちゃんの独創的なチョコと比べられるの、イヤだなぁ……)

文乃 (とりあえず、今は回れ右で教室に帰ろ……――)

「――……あらぁ〜、古橋さんじゃないですか〜」

文乃 「……!?」

うるか 「へ? 文乃っち? と、鹿島っち」

理珠 「おや、文乃。奇遇ですね。文乃もチョコレートを成幸さんに渡しに来たのですか?」

573以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:45:59 ID:D3bTG5yg
文乃 「い、いや、わたしは……っていうか!」

鹿島 「ふふふ〜」 ニンマリ

文乃 「鹿島さん! いまわざと大声でわたしのこと呼んだよね!? っていうかどこから出てきたの!?」

鹿島 「さて〜? 何のことやら〜」 クスクス 「ではわたしは教室に戻る途中でしたので、これで失礼します〜」

うるか 「? どうかしたん、文乃っち?」

文乃 「べつに、なんでもないけど……」

文乃 (うぅ、近くで見れば見るほど、豪華なチョコだようるかちゃん……)

うるか 「ま、いいや。はい、文乃っち。これ文乃っちのだよ」

理珠 「私からもどうぞ。うどんチョコです!」

文乃 「あ……ありがとう。嬉しいな」

文乃 「……わたしからも、これ。手作りじゃなくて申し訳ないけど……」

うるか 「あー、コンビニのバレンタイン限定スイーツじゃん! こーゆうの美味しいんだよねー! ありがとう、文乃っち!」

理珠 「ふむふむ。最近のコンビニはうどんも美味しいですからね。これもきっと美味しいのでしょうね」

理珠 「ありがとうございます、文乃」

文乃 (うぅ……。ひとりだけ既製品って、わたしだけ女子力ゼロみたいだよぅ……)

574以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:46:49 ID:D3bTG5yg
うるか 「じゃ、みんなで成幸にチョコ渡しに行こー!」

文乃 「えっ……!? いや、わたしは……」

うるか 「ってことで、B組に失礼しまーす!」 ガラッ

文乃 (即断即決!? 行動が早いようるかちゃん!)

成幸 「ん? おお、うるかに緒方に古橋か。どうかしたのか?」

うるか 「またまたー、とぼけちゃってー」 カァアアアア……

うるか 「ど、どーせ、チョコをもらえるかもらえないか、昨日は不安で夜も眠れなかったでしょー?」

文乃 (恥ずかしさをこらえるためにわざとテンションを上げてるんだねうるかちゃん。健気な子……)

成幸 「ああ、チョコか。わざわざ作ってきてくれたのか。ありがとな、うるか」

うるか 「え、えへへ……///」

文乃 (そしてさすがだね成幸くん。明らかに本命と覚しきピンクピンクしたハートまみれのラッピングなのに、)

文乃 (眉一つ動かさずお礼を言えるなんて……。まったく分かっちゃいない顔だよあれは)

理珠 「わたしからも、どうぞ。うどんチョコです!」

成幸 「お、おお。また斬新なチョコレートだな。でも美味しそうだ。緒方もありがとな」

理珠 「いえいえ、成幸さんにはいつもお世話になっていますから」

575以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:47:32 ID:D3bTG5yg
文乃 「わ、わたしも……手作りじゃないけど、あげるね」

成幸 「古橋もありがとう。買ってきてくれるだけ嬉しいよ」

文乃 (まぁ、成幸くんはわたしが料理下手だって知ってるもんね……)

文乃 (手作りを期待したりはしてくれないよね)

成幸 「ちょうど良かったよ。俺も放課後渡そうと思ってたけど、いま渡しちゃうな」

文乃 「へ……?」

成幸 「チョコマフィン、昨日水希と一緒に作ったんだ。チョコがしっとりしてて美味しいぞ」

うるか 「な、成幸の手作り!?」

理珠 「ふぉぉお……とても美味しそうです!」

文乃 「………………」

成幸 「べつに男子が贈ってもいいかな、って思ってさ。いつもお前たちにはお世話になってるし」

成幸 「……いつもありがとな」

うるか&理珠 「「……っ」」 ズキューン

文乃 (……ハートを撃ち抜かれた音がしたよ。正直、わたしも撃ち抜かれたい気分だけど) ズーン

文乃 (意中の男の子に既製品のチョコをあげ、その男の子から手作りチョコを返されるわたしって……) ズズズーン

576以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:48:12 ID:D3bTG5yg
文乃 「………………」 ガサガサ

ハムッ

文乃 「……あっ、美味しい」

成幸 「本当か!? いや、一応味見はしたけど、みんなの口に合うか不安でさ……」

文乃 「これ、本当に美味しいよ。マフィンなのにパサパサしてなくて、チョコでしっとりしてる……」

理珠 「わ、私も食べてみます!」  うるか 「あ、あたしも!」

ハムハムハムッ

理珠 「ほあああああ……!! 文乃の言うとおりです! とても美味しいですよ、これ!」

うるか 「うんまーーーーい! さっすがみずきん。とっても美味しいよ!」

成幸 「おいおい、作ったのは一応俺だぞ?」

うるか 「分かってるよー。ありがとね、成幸」

文乃 (手作りチョコをくれるだけでもアレなのに、その上美味しいなんて……) ズズズズーン

文乃 (こ、こうなったら……練習して練習して練習しまくって、美味しいチョコを作ってみせるんだから!)

文乃 (とりあえず今日も作ってみて、またお父さんに食べてもらおう……!!)

577以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:49:07 ID:D3bTG5yg
………………大学

零侍 「っ……!?」

ゾクッ

学生 「? 古橋先生? どうかしましたか?」

零侍 「い、いや、何でもない……」

零侍 (な、なんだ、今の悪寒は……。明確な殺意を向けられたような感覚だったが……)

578以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:49:56 ID:D3bTG5yg
………………夕方 唯我家

水希 「………………」


―――― 『無理に聞くつもりはないよ。でも、その人はお兄ちゃんにとってとても大事な人なんだね』

―――― 『そ、そうだよ。とても……大事な人だよ』


水希 (……お兄ちゃん、“大事な人” に渡せたかな。あのチョコマフィン)

水希 (昨日、オーブンで焼いた後、あの一際大きなチョコマフィンに、ホワイトチョコペンで何か書いてたし……)

水希 (あれは間違いなく本命用だよね……)

ズキズキ……

水希 (……はぁ。昨日は作りながら、何度も頭をよぎった。マフィンをまずくしてやろうか、って)

水希 (でも、食べ物を粗末にするのは絶対にしちゃいけないことだし、何より……)


―――― 『……せっかく贈るなら、美味しいのを食べてもらいたいからさ』


水希 (あんな顔をするお兄ちゃんの邪魔なんて、絶対できないよね……)

ガラッ

579以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:50:26 ID:D3bTG5yg
成幸 「ただいまー!」

葉月 「兄ちゃん帰ってきたー!」 和樹 「帰ってきたー!」

水希 「ん……」 (お兄ちゃん、もう帰ってきたんだ。今日は早いなぁ)

トトトト……

水希 「おかえり、お兄ちゃん。チョコマフィン、食べてもらえた?」

成幸 「ああ、おかげさまで大好評だったよ。みんな美味しい美味しいって喜んでたよ」

成幸 「ありがとな、水希」

水希 「どういたしまして。でも、わたしは何もしてないよ。お兄ちゃんががんばったから美味しくできたんだよ」

ドキドキドキドキ……

水希 「……あの大きなマフィンも渡せたの?」

成幸 「ん……ああ、あれか……」

クスッ

成幸 「実はまだ渡せてないんだよ。これからだな」

水希 「これから……?」

580以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:51:04 ID:D3bTG5yg
………………

成幸 「冷蔵庫の中に……あったあった」

水希 「あっ……昨日の大きいマフィン。冷蔵庫に入れてたの?」

成幸 「ああ。帰ってきたら渡そうと思ってたからさ。ってことで……」

成幸 「はい、水希。いつもありがとう」

水希 「へ……?」

水希 「……こ、これ……わたしに?」

成幸 「毎年お前からチョコをもらってさ、今年は俺もお前にあげたくてさ……」

成幸 「でも俺一人じゃ美味しく作れないと思ったからさ、本末転倒だとは思ったけど、お前に教えてもらったんだ」

水希 「あっ……ありがとう……」


 『いつもありがとう』


水希 「あっ……」 (お兄ちゃん、昨日チョコペンでこれを書いてたんだ……)

水希 (わたしのために……)

581以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:51:55 ID:D3bTG5yg
水希 (そ、そっか……)


―――― 『無理に聞くつもりはないよ。でも、その人はお兄ちゃんにとってとても大事な人なんだね』

―――― 『そ、そうだよ。とても……大事な人だよ』


水希 (“大事な人” って……)


―――― 『……せっかく贈るなら、美味しいのを食べてもらいたいからさ』


水希 (わたしのこと、だったんだ……)

水希 (ど、どうしよう……)

カァアアアア……

水希 (う、嬉しすぎて、お兄ちゃんの顔も見られない……)

水希 (今すぐ踊り出したいくらい、嬉しい……!)

クイクイ

水希 「ん……?」

葉月&和樹 「「………………」」 キラキラキラ

582以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:52:35 ID:D3bTG5yg
水希 「あっ……」

クスッ

水希 「葉月と和樹も食べたいよね。じゃあ、お茶にしましょ」

水希 「このお兄ちゃんの手作りマフィン、みんなでわけっこして食べようね」

葉月&和樹 「「わーい!」」

水希 「お兄ちゃんも一緒に食べよ」

成幸 「ああ。ありがとう」

水希 「えへへ……」

水希 (お兄ちゃんにとって、“大事な人” って……)

水希 (古橋さんでも緒方さんでも、武元先輩でもなく……)

水希 (わたしなんだね……///)

水希 「……ねえ、お兄ちゃん」

成幸 「ん?」

水希 「わたしも、お兄ちゃんのこと、大好きだからねっ」

おわり

583以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:53:26 ID:D3bTG5yg
………………幕間1  『ダブスタ』

女子1 「鈴木先生、バレンタインのチョコです。どうぞっ」

鈴木先生 「おお、わざわざすまんな。ありがとう」

女子1 「あと、佐藤先生も、どうぞ!」

佐藤先生 「手作りかー。嬉しいよ。ありがとう」

真冬 「………………」 (……まったく。お菓子とはいえ、生徒と物の授受をするなんて)

真冬 (鈴木先生も佐藤先生も、教員としての自覚が足りないのではないかしら)

成幸 「失礼します」 ガラッ 「3年B組の唯我成幸です。桐須先生、お願いします」

真冬 「? 唯我くん。どうかしたの?」

成幸 「いえ、大したことじゃないんですけど……」

成幸 「これ、昨日妹と手作りしたチョコマフィンです。よかったら食べてください」

真冬 「へ……?」 カァアアアア…… (唯我くんが、私のために……?)

成幸 「? 先生?」

真冬 「あっ……ありがとう。いただくわ」

真冬 (ま、まぁ、バレンタインデーだものね。お菓子くらいは大目に見るべきね!)

584以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:54:10 ID:D3bTG5yg
………………幕間2 『殺意の正体』

零侍 「………………」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

零侍 (この世のものとは思えない、禍々しい瘴気が立ち上っている……)

零侍 (……果たして、私は明日の朝日を拝むことができるだろうか)

文乃 「………………」

ニコッ

文乃 「お父さん、お帰りなさい。ちょうどよかったよ。いまできたばかりなの」

零侍 (見てくれているかい、静流。私たちの娘はこんなに立派に育ったよ)

文乃 「……さ、たくさんあるから、どんどん食べてね、お父さん」

零侍 (そして私は、思ったより早く君の元に行くことになりそうだよ)

おわり

585以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/14(木) 23:59:01 ID:D3bTG5yg
>>1です。
なんとかバレンタインデーに間に合わせられました。
読んでいただけたら嬉しいです。

>>527
遅レスになってしまって申し訳ないですが、委託はしていません。すみません。
ほとんど無料配布しかしないので……。



ここは匿名掲示板ですので、宣伝するつもりはありませんし、あくまで報告のつもりですが、
四月の某即売会とC96をぼく勉で申し込みました。
こんなにハマるとは思っていませんでした。自分でも驚きです。
アニメが今から楽しみで仕方ありません。


仕事や他諸々で投下が滞ってしまってごめんなさい。
また投下しますが、それがいつになるかわかりません。
また読んでくれたら嬉しいです。

586以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/15(金) 02:20:32 ID:HwlswbCE
おつおつ

587以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/15(金) 07:55:46 ID:hFH.gI/2
よきかな

588以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/15(金) 08:27:20 ID:Emq5dg86
アニメ効果でぼく勉増えたらいいな
なにはともあれ面白かった乙

589以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/15(金) 12:18:04 ID:CxwohszY
ダークマターでもいいから是非食べてみたいですね

590以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/15(金) 18:43:17 ID:8fjqN7iw
おつ

591以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/16(土) 20:03:29 ID:y4BgMncg
更新乙
貧乳で料理下手っていいよな(混乱)

592以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:06:25 ID:NSO23Erk
>>1です。投下します。

【ぼく勉】 文乃 「わたしのお誕生日会?」

593以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:13:11 ID:NSO23Erk
………………文乃の誕生日 唯我家

成幸 「と、いうわけで……」

成幸 「水希の下着は、間違えて古橋に渡しちゃったんだ……」

成幸 「すまん……」

花枝 「まぁ、間違えちゃったものは仕方ないわね。ブラジャーはまた買ってくるとして……」

花枝 「あんた、さすがに余所様の娘さんに下着をプレゼントするのはドジじゃ済まないわよ」

成幸 「わ、わかってるよ。よく確認しなかった俺が悪かったよ」

成幸 「水希もごめんな。ブラジャー、なくて困らなかったか?」

水希 「………………」

成幸 「水希……?」

水希 「……お兄ちゃん、もしかして、古橋さんはそのブラジャーを、着けたのかな?」

成幸 「へ……?」 ギクッ 「な、なんでそんなこと聞くんだ……?」

水希 「……答えて?」 ニコッ

成幸 「あ、ああ……。えっと、その……今日、着けてきてくれた、みたいだけど……///」

水希 「……へぇ」

594以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:14:15 ID:NSO23Erk
花枝 「……あら、あらあらあら」 ニンマリ

花枝 (普通、同級生の男の子からブラジャーなんてもらったら、怖がるか気持ち悪がるかだと思うけど……)

花枝 (これはひょっとしてひょっとすると、文ちゃん、成幸のこと、憎からず思ってくれてたり……?)

クスッ

花枝 (なんて、あんな可愛い子がうちの冴えない長男を好きになるわけないかー)

水希 (……うん。古橋さんは、お兄ちゃんがプレゼントした下着を、身につけたんだね)

水希 (それだけじゃない。わたしの誕生日のとき、お兄ちゃんを家に招き入れて、ふたりで仲良くカレーを作ったり……)

水希 (……まぁ、それはわたしのためでもあるから感謝してるけど。カレー美味しかったし)

水希 (それはともかくとして……)

水希 「……敵だね」 ボソッ

成幸 「……!?」 ビクッ (敵って!? 敵ってなんだ妹よ!)

水希 「……ねぇ、お兄ちゃん」

成幸 「お、おう!? なんだ、水希?」

水希 「古橋さんにはお兄ちゃんもお世話になってるだろうし、わたしも誕生日にカレーを作ってもらったりしたし……」

水希 「週末、うちに招いて誕生日パーティでも開いてあげたらどうかな?」

595以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:15:05 ID:NSO23Erk
成幸 「へ……? あ、ああ……。誕生日パーティ……?」

花枝 「あら、いいじゃない! 葉月と和樹もしょっちゅう遊んでもらってるし、日頃の感謝も込めて家族でお祝いしてあげましょう」

花枝 「良いこと言うわね〜、水希」

水希 「……うん。まぁね」 ギラリ

成幸 (……水希が何を考えてるのか分からなくて怖いが、)


―――――― 『星が綺麗な夜だとついつい 死んじゃったお母さんの星 探しちゃうんだよね』

―――――― 『今日はお父さんが家にいるから…… あんまり帰りたくなくて』


成幸 (古橋、お母さんは亡くなってるそうだし、お父さんとはあまり良い関係ではないようだから、)

成幸 (きっと、誕生会なんか開いてもらってないんだろうな……)

成幸 「……うん。俺もすごく良い考えだと思う。明日、古橋を誘ってみるよ」

水希 「うん! 古橋さんが来られるなら、わたし、日頃の感謝も込めて、ごちそう作っちゃうよ」

水希 (……そう。日頃の色々な恨み辛みを込めて、ね) ニヤリ

596以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:16:15 ID:NSO23Erk
………………翌日 一ノ瀬学園 いつもの場所

成幸 「……ってことで、もし予定がなければ、週末うちに来ないか?」

文乃 「そっか。妹さんがそんなことを……」

ドキドキドキドキ……

文乃 (まぁ、正直、あの成幸くんのこと大好きな妹さんが、わたしのことを想ってくれてるとは思えないけど……)

文乃 (……いけないいけない。せっかくの妹さんの厚意を疑うなんて、人間として最低だよね)

文乃 (誕生日会、かぁ……)

文乃 (……何年ぶりかな。正直、すごく、嬉しい。けど……)

ジーーーッ

成幸 「……? どうした、古橋?」

文乃 「わたし、本当にお邪魔しても良いのかな。ご迷惑じゃない?」

成幸 「迷惑なもんかよ。母さんも葉月も和樹も楽しみにしてるぞ」

成幸 「あと、水希も、カレーのお返しだーって、気合い入れてごちそう作るつもりだぞ」

成幸 「お前さえ良ければ、ぜひ来てくれよ」

597以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:17:19 ID:NSO23Erk
文乃 「そ、そっか……。えへへ、嬉しいな」

文乃 「じゃあ、週末、お言葉に甘えて、お邪魔させてもらうね」

成幸 「よしっ。じゃあ、母さんと水希に伝えておくな」

文乃 「うん! ありがとね。とっても楽しみだよ」

文乃 (……ん、そういえば、水希ちゃんといえば……)


―――― 『いや……それはさすがに…… ご査収いただければ……』


文乃 (あのブラジャー、結局わたしがもらってしまったけど……)

文乃 (きっと水希ちゃん困ってるよね)

文乃 「………………」

文乃 「……ねえ、成幸くん」

成幸 「ん? なんだ?」

文乃 「週末、お家に伺う前に、少し買い物に付き合ってもらってもいいかな?」

成幸 「へ……?」

598以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:18:29 ID:NSO23Erk
………………週末

成幸 「………………」 ダラダラダラ

文乃 「何してるの、成幸くん。ほら、早く行くよ?」

成幸 「……いや、えっと、その、古橋さん?」

文乃 「なにかな、成幸くん?」

成幸 「ここ、ランジェリーショップだよな!?」

文乃 「そうだけど?」

成幸 「そうだけど、って……」

文乃 「だって、仕方ないでしょ。成幸くんが間違えてわたしにブラを渡したせいで、妹さんいま困ってるんじゃない?」

文乃 「だから、ブラを一枚もらってしまったことは確かだから、妹さんに一枚プレゼントしようかなって思ったの」

成幸 「うっ……いや、それはありがたいというか、俺が迷惑かけてごめんなんだけど……」

成幸 「だからって、俺が一緒に来る必要あるか?」

文乃 「へー」 ジトーッ 「きみは、きみのミスを棚に上げて責任全部をわたしに押しつけるつもりかな?」

成幸 「わ、わかった! 俺が悪かったよ。付き合うから、その目はやめてくれ……」

文乃 「わかればよろしい。では、レッツゴーだよ、成幸くん」

599以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:19:45 ID:NSO23Erk
成幸 「わかったよ、文乃姉ちゃん……」

文乃 (……っていうのは建前で、水希ちゃんにブラを渡すとき、変な反発が予想されるから、)


―――― 水希 『お兄ちゃんに近づくメスネコからの施しなんか受けません!!』 フシャーッ


文乃 (成幸くんが選んだってことを言えば、きっと素直に受け取ってくれるだろうから、連れてきたんだけど)

成幸 「うぅ……」 カァアアアア……

文乃 (……反応が予想以上にかわいい)

ニヤリ

文乃 (ついついいじめたくなっちゃうなぁ……なんてね)

店長 「ん……? あ、ナリユキくんじゃなーい! おっひさー!」

成幸 「あっ、店長さん。どうも、ご無沙汰してます……」

店長 「またお店手伝ってよー。きみがいると若い女の子のブラの売り上げが上がるんだよね〜」

成幸 「あっ、いや、その……」

文乃 「………………」 ジトッ 「……へー。何人の若い女の子にブラを売りつけたのな、きみは」

成幸 「ご、誤解だ、古橋! その蔑むような目をやめてくれ!」

600以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:20:28 ID:NSO23Erk
店長 「ん? んん?? んんん???」 パァアアアアアア……!!!

店長 「まさか、ナリユキくん、その子はきみの……彼女さん?」

文乃 「へっ……!?」

成幸 「へぇ!? い、いやいや、違いますよ!」

店長 「またまた〜、照れなくてもいいのに〜」 ニヤニヤ 「花枝さんにはナイショにしといてあげるから、ゲロっちゃいなよ」

成幸 「だから違いますってば! ただの同級生ですよ!」

店長 「へー。つまりきみは、ただの同級生とふたりでランジェリーショップに来たってこと? 勇者だね」

成幸 「いや、そうじゃなくて……いや、そういうことになっちゃいますけど、それには深いわけが……」

店長 「ま、いいや。ナリユキくんの彼女の下着選びってんなら私も気合い入れなくちゃね」

文乃 「い、いえ、ですから……――」

店長 「ふーん、ほーん、なるほどー……」 ジーーーーーッ

店長 「……えっと、そうね。彼女さんは、このAカップのゾーンを見てもらったらいいかなー」

文乃 「今日はわたしのブラを選びに来たわけじゃないんです!」

601以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:21:17 ID:NSO23Erk
………………

文乃 (まったくもう、悪い店長さんじゃないんだろうけど、一言多いよ) プンスカプン

成幸 (古橋、怒ってるかな。怒ってるよな……)

文乃 「……ほら、成幸くん。早くブラを選んじゃおう」

成幸 「えっ……? お、俺が選ぶのか?」

文乃 「その方が間違いなく妹さんが喜ぶだろうからね」

成幸 「そんなこと言われてもな……」

成幸 (……っていうか、たとえばここで、俺が水希のブラを選ぶとして、)

成幸 (たとえば、ああいう子どもっぽいのを選んだら……)


―――― 文乃 『へー。きみは妹さんにいつまでも子どもでい続けて欲しいって幻想を抱いてるんだね。ああおかしい』


成幸 (なんてことを言われそうだし、ちょっと過激なのを選んだとしたら……)


―――― 文乃 『へー。きみは妹さんにもそうやって下劣なお胸への劣情を抱いているんだね。ああ怖い』


成幸 (どっちにしろハズレじゃないかそれ!?)

602以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:22:17 ID:NSO23Erk
文乃 「どうしたの? そんなに悩むようなこと?」

成幸 「へっ!? あ、いや……」


―――― 文乃 『妹さんのブラ選びにどれだけ真剣になってるの? 怖いんだけど……』


成幸 (ま、まずい。このまま考え込んでても死が待ってる……)

成幸 (どうあがいたって死が待ってるならさくっと選んで終わりにしてしまおう)

成幸 (着ぐるみで接客したとき、うるかが買って行ったようなデザインの……)

成幸 「……とりあえず無難に、こういうのでいいんじゃないかな」

文乃 「ふんふん。白地に少しレースの入った、普通のだね。ふーん……」

成幸 (ど、どうなんだ、その反応は……) ドキドキドキ……

文乃 (へー。そっか……) ドキドキ (成幸くんは、こういうデザインが好きなんだ。ふーん……)

ハッ

文乃 (べ、べつに、だからどうだってわけじゃないけど……)

文乃 「ん、じゃあ、この前のブラと同じサイズ、買って来るね。外で待ってて」

603以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:22:52 ID:NSO23Erk
成幸 「あ、ああ……わかった……」 (セーフ……なのかな? いや、それより……)

成幸 「古橋。あの下着は俺が間違えてお前に渡しちゃったやつだから、俺が買ってくるよ」

文乃 「へ?」

成幸 「お前にお金を出させるのはやっぱり忍びないというか……悪いのは俺だし」

文乃 「ふふ、おかしな成幸くん。じゃあ、これ持ってレジ行ける?」

成幸 「い、いや、それはちょっと……」

文乃 「じゃあ、ダメだね。そもそも、これはわたしの自己満足みたいなものだから」

文乃 (……まぁ、自己満足というよりは自己防衛というべきだけど)

文乃 「ブラ買うお金があるならさ、参考書でも買いなよ。お金のことは気にしなくていいから」

成幸 「……わかった。すまん」

文乃 「謝らないでいいってば」 ハァ 「じゃ、わたし買ってくるから、ちょっと待っててね」 トトト……

成幸 「……はぁ」 (なんか、古橋に悪いことしちゃったな……)

604以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:24:15 ID:NSO23Erk
店長 「……ナリユキくんナリユキくん」 コソッ

成幸 「? 店長さん?」

店長 「いや、さっき、彼女さんのご機嫌を損ねちゃったみたいだから、申し訳なくってさ」

ガサッ

店長 「これ、私からのプレゼント。後で彼女さんに渡しといてよ」

成幸 「古橋に……? でも、この紙袋の中身って……」

店長 「もち、この店のブラ! 安心して! さっきナリユキくんが選んだブラと同じデザインのサイズ違いだから!」

店長 「サイズももちろんぴったしだよ! 私は服の上から見ただけで大抵のお客さんのトップとアンダーが分かるからね!」

成幸 (何をどう安心しろと言うんだ!?)

成幸 「いや、でも……――」

客 「――あの、すみません。ちょっとサイズを測ってもらいたいんですけど……」

店長 「あ、はーい! 今いきまーす!」

店長 「ってことで、彼女さんにそれプレゼントしてご機嫌取っといてね!」

店長 「今後ともうちの店をごひいきに! ってことで、またね、ナリユキくん!」

成幸 「あ、ちょっと! 店長さん!?」

605以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:25:30 ID:NSO23Erk
成幸 (行ってしまった……)

ゴソッ

成幸 (これ、どうしよう……って、古橋に渡すしかないよなぁ……)

成幸 (でも、これ……俺が選んだブラの、サイズ違いなんだよな……)

カァアアアア……

成幸 (無難なのを選んだだけとはいえ、俺が選んだブラを、古橋に……――)

文乃 「――お待たせ、成幸くん。買ってきたよー、って」

文乃 「どうしたの? 顔真っ赤だよ?」

成幸 「へ!? いや、な、なんでもない!」 コソッ

文乃 「? そう?」

成幸 「さ、そろそろ俺の家に行こうぜ。母さんたちも待ってると思うし!」

文乃 「それもそうだね。じゃあ、行こうか」

606以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:26:32 ID:NSO23Erk
成幸 (……思わず隠して誤魔化してしまったが)

成幸 (まぁ、今渡す必要もないだろう。後でゆっくりしっかり、店長さんからのお詫びだと説明して渡せばいいんだ)

文乃 「あ、そうだ。おうちにお邪魔するのに手ぶらってわけにもいかないよね」

文乃 「何かお菓子でも買ってから行かないと」

成幸 (……俺が選んだデザイン云々とか、そういうのはわざわざ説明しなくてもいいよな、うん)

文乃 「? 成幸くん? 聞いてる?」 ズイッ

成幸 「!? ふ、古橋、どうかしたか?」

文乃 「………………」 ジーーーッ 「なんか怪しいなぁ。何か隠し事してない?」

成幸 「ないない! 何もないぞ!」

文乃 「……ふーん。ま、いいけどさ」

文乃 「じゃあ手土産を買いに行こ。そしたら成幸くんの家に行こうね」

成幸 「お、おう。わかった」 (はぁ。さすがに、古橋は鋭いな……)

607以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:27:08 ID:NSO23Erk
………………唯我家

文乃 「………………」 ドキドキドキ (ふぅ。今さらだけど、すごく緊張してきたよ……)

文乃 (お誕生会なんて、お母さんが亡くなってから一度もやってもらってないし、)

文乃 (本当に今さらな話だけど、提案されたこととはいえ、)

文乃 (やっぱり友達の家でお誕生会を開いてもらうなんて、厚かましかったかな……)

成幸 「どうした、古橋? 入るぞ?」

文乃 「あ、うん……」 (……さて、とりあえず、水希ちゃんが怒ってないといいなぁ)

ガラッ――

 『――――文ねーちゃん! お誕生日おめでとーっ!!』

パンパン!!!

文乃 「わっ……葉月ちゃんと和樹くん」

葉月 「いらっしゃい、文姉ちゃん!」

和樹 「ほらほら、上がってー! ごちそうがまってるぞ!」

ギュッ

文乃 「わっ……わわわ……」

608以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:27:49 ID:NSO23Erk
文乃 「わっ……」

キラキラキラ……

文乃 (す、すごい……!! すごいごちそうが並んでるよ!!)

水希 「……どうも、古橋さん」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

水希 「お誕生日、おめでとうございます。ようこそおいでくださいました」

花枝 「お誕生日おめでとう、文ちゃん。今日はゆっくりしていってね」

文乃 「あっ、水希ちゃんと成幸くんのお母さん。本日はお招きいただいてありがとうございます」

花枝 「そんなかしこまらなくていいわよ。自分の家だと思って、楽しんでいってね」

花枝 「……じゃあ、文ちゃんと成幸もついたことだし、みんな席について、改めて……」

「文ちゃん」 「古橋さん」 「「文姉ちゃん」」 「古橋」 『お誕生日おめでとーーっ!!』

パチパチパチ……

文乃 「あっ……ありがとう、ございます……」

文乃 (ど、どうしよう……。こんな風にお祝いされると、予想以上に……)

文乃 (嬉しくて、感極まりそう……)

609以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:28:31 ID:NSO23Erk
文乃 (それにしても……)

文乃 「すごいごちそうだね。全部水希ちゃんが作ったの?」

水希 「ええ、まぁ。わたしにかかればざっとこんなものってところでしょうか」

水希 (ふふ。これで、わたしのお兄ちゃんに色目を使うことの愚かさを少しは思い知ったかしら)

水希 (お兄ちゃんはわたしの美味しいお料理を食べて舌が肥えてるんだから……)

花枝 (またくだらないこと考えてるわね、水希ったら……) ハァ

文乃 「………………」

文乃 (うっ……嬉しい……)

文乃 (わたしのために、こんなに豪華なお料理を作ってくれるなんて……)

ガシッ

水希 「へ? な、なんでわたしの手を握るんですか……?」

文乃 「水希ちゃん、ありがとう! わたし、いますごく感激してるんだよ!」

文乃 「こんな美味しそうなごちそうをたくさん作ってくれたんだね。本当に……」

グスッ

水希 「!?」

610以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:29:12 ID:NSO23Erk
文乃 「……あっ、ご、ごめんね。えへへ、嬉しいのに、なんか……」

水希 「そ、そんな、泣くほどのお料理じゃないですよ」 アセアセ

水希 「ローストビーフは特売の牛肉だし、チキンだって安い手羽元をそれっぽく料理しただけだし……」

水希 「そもそもこれは、夏のわたしの誕生日のときに作ってくれたカレーの、」

水希 「(あてつけのつもりの) お返しですから、気にする必要なんてないですよ」

文乃 「ご、ごめんね。でも、お誕生会なんて久しぶりで、すごく嬉しくて……」

文乃 「そのうえ、こんな素敵な、手作りのごちそうまで用意してもらって……」

ニコッ

文乃 「本当にありがとう、水希ちゃん」

文乃 (ああ、わたし、本当に恥ずかしいや。水希ちゃんはわたしのためにこんなにがんばってくれたのに……)

文乃 (わたしはそんな水希ちゃんの厚意を疑うようなことを……うぅ……本当に最低だな、わたし……)

水希 (ど、どうしよう。どちらかといえば負の気持ちで料理をしたのに……こんなに喜ばれると……)

水希 (さすがに良心が痛むわ……)

花枝 「……さ、いただきましょう。お料理が冷めちゃうわ」

611以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:29:57 ID:NSO23Erk
葉月&和樹 「「いただきまーす!」」

文乃 「あっ……い、いただきます」

ハムッ

文乃「……!?」 パァアアアアアア……!!! 文乃「美味しいぃいいい〜〜〜〜〜!!!」

ヒョイッパクッヒョイッパクッヒョイッパクッ

文乃「どれもこれもすっごく美味しいよ、水希ちゃん!!」 ムシャムシャムシャムシャムシャムシャ

水希 「っ……で、ですから、そんなに言うほどの料理じゃないんですって……」

花枝 「ふふ」 (水希も嬉しそうだわ。なんだかんだ、文ちゃんのこと好きなのね)

成幸「ああ、やっぱり水希の料理はピカイチだな。こんなに料理上手な妹がいて俺は幸せ者だよ」

水希 「えへへ……。まったくもう、お兄ちゃんったら……」

文乃 (はぁ〜、本当に美味しいなぁ。ほんと、成幸くんが羨ましいよ)

葉月「チキンおいしー!」 和樹 「こんなにたくさん肉が食えるなんて久しぶりだな!」

文乃 (それに、何より、こうやって家族みんなで幸せそうなのが……)

ズキッ

文乃 (……本当に、うらやましい)

612以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:30:37 ID:NSO23Erk
………………

水希 「ふー……」

水希 (洗い物も終わったし、後片付けはこれくらいかな……)

水希 (晩ご飯は残り物だけで良さそうだし、ご飯を炊いてお味噌汁を作るだけでいいかな)

水希 「………………」


―――― 『どれもこれもすっごく美味しいよ、水希ちゃん!!』


水希 (……やだな。古橋さん、あんなに喜んでくれたのに、わたし……)

水希 (……嫌な妹だな)

水希 「はぁ……――」

 「――あっ、ねえ、水希ちゃん」

水希 「へ!? ふ、古橋さん……?」

文乃「ごめんね、水希ちゃん。後片付けまで全部やってもらっちゃって……」

水希 「それは、べつに……古橋さんはお客さんですから、気にしないでください」

水希 「葉月と和樹と遊んでくれてるだけで大助かりですから」

613以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:31:09 ID:NSO23Erk
水希 「ところで、どうかしましたか?」

文乃「あ、うん。えっとね、ちょっと、水希ちゃんに渡したいものがあって……」

ガサッ

文乃「これなんだけど……」

水希 「? 何です?」

文乃「ほら、この前、成幸くんが間違えて水希ちゃんのブラをわたしにプレゼントしちゃったじゃない?」

水希 「……ええ」

文乃「それで、結果的にわたしが水希ちゃんのブラを一枚もらったことになっちゃうから、困るかな、って思って、」

文乃「それはそのお詫びの品というか……早い話が、ブラだよ」

水希 「へ……?」

水希 「間違えたのはお兄ちゃんなんだから、そんなの、古橋さんが気にすることじゃないのに……」

文乃「まぁ、それはそうかもしれないけど……今日はわざわざわたしの誕生日会も開いてくれたし、」

文乃「そのお礼の意味もあるから、受け取ってくれると嬉しいな」

水希 「あっ……わ、わかりました。ありがとうございます」

文乃「うん!」

614以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:31:52 ID:NSO23Erk
水希 「………………」

水希 (……わたし、本当に恥ずかしいや)

水希 (古橋さんは、わたしのことまで考えてくれているのに、わたしは……)

水希 (いつも、自分とお兄ちゃんのことばかり。古橋さんに嫉妬して、嫌な妹だ……)

水希 (前から分かってたけど、古橋さんってすごく良い人だ……)

水希 (お兄ちゃんのことも何とも思ってないみたいだし、この人には、気を許してもいいかな……)

水希 「……中、見てもいいですか?」

文乃「もちろん、どうぞ」 (ああ、そうだ、言っておかないといけないよね)


文乃「ちなみに、そのブラを選んだのはわたしじゃなくて、成幸くんだからね」 ニコッ


水希 「……え?」

文乃「ん?」

水希 「お兄ちゃんが? ブラを? 選んだ?」

水希 「……それってつまり、お兄ちゃんと、ランジェリーショップに一緒に行ったってことですか?」

文乃「……!?」

615以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:32:26 ID:NSO23Erk
文乃 (し、ししし……)

文乃 (しまったぁあああああああああああああああ!!)

水希 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

文乃 (そりゃそうだよ! そりゃそうなるよ!)

水希 「古橋さん?」

文乃「は、はい!」

水希「……どういうことなのか、説明、してほしいなぁ?」

文乃「えっと、それは、その……その方が、水希ちゃんが喜んでくれるかな、って思って……」

水希 「………………」

クスッ

水希 「……ま、そんなところですよね」

文乃「へ……?」

水希 「えへへ。お兄ちゃんが選んでくれたブラかぁ……」

水希 「最高の贈り物ですよ、古橋さん。ありがとうございます」

文乃 (よ、よかった……。地雷を踏み抜いたかと思ったよ……)

616以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:32:58 ID:NSO23Erk
水希 (……まぁ、正直、お兄ちゃんとふたりでランジェリーショップに行ったっていうのはちょっとムカつくけど)

水希 (古橋さんに他意はないだろうし、わたしのためにしてくれたって言うのも本当だろうし)

水希 (何より、お兄ちゃんに選ばせるあたり、分かってるというか……あ、鼻血出そう)

文乃 (……とりあえず、正解だったみたいでよかったよ)

文乃 (今後も成幸くんの家で勉強することもあるだろうから、唯我家の皆さんとは仲良くしないとだからね)

成幸 「……ん、いたいた。古橋」

文乃 「? 成幸くん?」

成幸 「忘れる前に渡しちゃうな。これ」 ガサッ

文乃 「へ……? これ、プレゼント? いや、でも、もうボールペンもらったよ?」

成幸 「いやいや、俺からじゃないよ。今日失礼なことを言っちゃったからって、店長さんからのお詫びの品」

成幸 「渡してくれって頼まれたんだ」

文乃 (えっ……? それって、つまりこの紙袋の中身は……)

水希 「………………」

水希 「……お兄ちゃん、ソレ」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!! 「この紙袋と、同じだね?」

成幸 「へ? あ、いや、まぁ……中身、下着だからな」

617以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:33:42 ID:NSO23Erk
水希 「……ふーん。へー。ほー」

水希 「つまりお兄ちゃんは、また古橋さんに下着をプレゼントするんだ……」

成幸 「い、いやいや! これは俺のプレゼントってわけじゃ……」

成幸 「たしかに俺が選んだブラと同じデザインのサイズ違いって言ってたけど……」

文乃 (きみはなんでそんな余計なことを言うのかな!?)

成幸 「……じゃなくて! とにかくこれは、俺からじゃなくて店長さんからだから!」

文乃 「……う、うん。じゃあ、ありがたくもらっておくね」

文乃 (これ……)


―――― 『……とりあえず無難に、こういうのでいいんじゃないかな』


文乃 (なっ……成幸くんが選んだ、ブラなんだよね……しかも、わたしのサイズにぴったりの……)

文乃 「っ……」 (だ、だめ……どんなに我慢しても、顔赤くなるし、口元も緩んじゃうよ……)

水希 「………………」 (……うん。やっぱり。間違いない)

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

水希 (この人は、敵……!!!)

618以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:34:12 ID:NSO23Erk
………………その夜 古橋家

文乃 「………………」 ドキドキドキドキ……

文乃 (……成幸くんが選んだデザインのブラ)

文乃 (これ、つけてもいいのかな……。い、いいよね?)

スッ……

文乃 (あ、サイズ本当にぴったりだ)

文乃 (似合ってる、かな……?)

文乃 (……この姿のわたしを見たら、成幸くんは……)

文乃 「……喜んで、くれるかな」

ハッ

文乃 (な、なんてはしたないことを考えてるの、わたし……///)

文乃 (りっちゃん、うるかちゃん、違うからね!!)

文乃 (……違うけど、せっかくもらったものだし、明日、つけてっちゃおうかな……)

文乃 (えへへ……///)

おわり

619以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:36:43 ID:NSO23Erk
………………幕間1 『秘密の花園について[x]は如何程に秘密を吐露したか』

うるか 「今日の体育はA組と合同かー! 負けないかんねー!」

文乃 「あはは。うるかちゃん元気だねー」

うるか 「……んう? あれぇ、文乃っち、そんなブラ持ってたっけ?」

文乃 「へ!? あ、いや……あ、新しく買ったやつだよ?」

文乃 (人の下着とかよく覚えてるなぁ……。危ない危ない。油断できないね……)

うるか 「なんかあたしのと似てるね。えへへ、なんかおそろいみたいでドキドキするねっ」

文乃 「はは……」 (うるかちゃんってときどきすごいこと言うよなぁ……)

うるか 「このブラ、ランジェリーショップの店員さんに選んでもらったんだよね〜」

うるか 「着ぐるみの新人さんだったんだけど、もうお仕事には慣れたかなー」

文乃 (着ぐるみの新人っぽい店員……)

文乃 (……ああ、なるほど) ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!! (うるかちゃんの下着も選んだ、と……)

うるか 「文乃っち……?」

文乃 (成幸くん、今度、ぶつ)

620以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:37:39 ID:NSO23Erk
………………幕間2 『鼻血』

水希 「………………」 ドクドクドクドク……

花枝 「………………」

花枝 (洗面台の鏡の前でブラジャーを身につけ鼻血を流し倒れる娘……)

花枝 (どこで育て方を間違えたのかしら……)

葉月 「和樹、いつもの」

和樹 「あいさ」 スッ

おわり

621以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 21:38:24 ID:NSO23Erk
>>1です。読んでくださった方ありがとうございました。

また投下します。

622以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 22:26:45 ID:tke93D4U
おつんここ

623以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/17(日) 23:00:14 ID:3mDNnq16
相変わらずいいすなぁ・・・

624以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/18(月) 01:41:02 ID:oMyh4n9U
おつ

625以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/18(月) 12:40:44 ID:hErkqsg.
お昼休みに更新を確認する毎日や
このスレで文系派になったわ

626以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/18(月) 13:00:33 ID:rNR0MKfM
考えてみれば他人から貰ったブラつけるって確かにやばいなwww

627以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/18(月) 22:44:46 ID:XfeoPyfQ

原作が文系に全振りしたらありそうな話だな
商業誌である以上それは叶わないから、このスレは本当にありがたい

628以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:43:50 ID:HAJPKQlU
>>1です。投下します。

先に言っておきますが夢オチです。
例に漏れずチョロくなっています。

【ぼく勉】 あすみ 「お前もキスなんかしたことないだろ?」

629以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:44:41 ID:HAJPKQlU
………………???

あすみ 「ん……」 モゾッ 「う……?」

あすみ (朝……? いま、何時だ……?)

あすみ 「……?」

成幸 「………………」 Zzzz……

あすみ 「……なっ!?」

あすみ (アタシの横で、後輩が寝てる!?)

あすみ (いや、それも相当だけど……)

あすみ (そもそもどこだここ!?)

成幸 「むにゃ……」 Zzzz……

あすみ 「っ……」 ビクッ

成幸 「……肉まん、こんなにいっぱい……むにゃ……幸せ……」

あすみ 「………………」

あすみ 「……ご機嫌な夢みてんなー、こいつ」

あすみ 「おい、起きろ、後輩」 ユサユサ

630以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:46:00 ID:HAJPKQlU
成幸 「んん……」 モゾモゾ

成幸 「あれ? あしゅみー先輩……?」

あすみ 「おう。おはよう」

成幸 「………………」

成幸 「……なんだ夢か」 モゾモゾ

あすみ 「夢じゃねーよ。寝直すな。起きろ」

成幸 「夢じゃない……?」

ハッ

成幸 「……って先輩!? 何で一緒のベッドに!? っていうかここどこですか!?」

あすみ 「ワンテンポ遅れて驚いてくれてありがとう。とりあえず耳が痛い」

成幸 「あっ……す、すみません……」

あすみ 「その様子だとお前も何も知らないみたいだな」

成幸 「はい。まったく……。昨日はたしか、普通に床に入って寝て……」

あすみ 「アタシもだ。で、起きたらこのベッドで寝てた」

成幸 「一体何なんでしょうか……」

631以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:46:50 ID:HAJPKQlU
あすみ (見たところ、何の変哲もない部屋だ)

あすみ (棚にはたくさんの本。奥には台所と生活家電。ドアにはバスルームとトイレの表示)

あすみ (ワンルームのアパートみたいだな……けど、)

ガチャッガチャッ

あすみ 「……開かねーな」

成幸 「はい。外から鍵をかけられてるみたいです」

あすみ (出入り口とおぼしきドアには外から鍵。こりゃ出られそうもねーな)

ピラッ

あすみ 「ん……?」

成幸 「先輩、なんか紙が落ちてきましたよ」 ヒョイッ


 『キスしないと出られない部屋』


あすみ&成幸 「「………………」」

632以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:47:30 ID:HAJPKQlU
 『キスしないと出られない部屋』

 『ここは “キスしないと出られない部屋” です。
  その名の通り、この部屋から出るには、キスをする必要があります。

  食料はありますが、補給等はありませんので、早めのキスをお勧めします。

  それでは、よいキスを』


あすみ 「………………」

成幸 「………………」

あすみ 「……後輩、ケータイとか持ってるか?」

成幸 「いえ。先輩は?」

あすみ 「アタシもないな。んー、どうしたもんかな」

あすみ (……アタシと後輩はその紙を無視することにした)

633以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:48:00 ID:HAJPKQlU
………………

あすみ (あれからしばらく経った)

あすみ (とはいえ、部屋に時計はないし、窓もない)

あすみ (いまが昼なのか、夜なのか、加えてどれくらいの時間が経ったのかすら分からない)

あすみ (後輩とふたりで部屋を探索し尽くしたが、特に新しい発見はない)

あすみ (とりあえず冷蔵庫・冷凍庫には食材が、床下収納にはレトルトや缶詰が詰め込まれていて、)

あすみ (当面の食料に困ることはなさそうだ)

成幸 「………………」

あすみ 「………………」

成幸 「あっ……あの……――」

あすみ 「――あー! 腹減ったなー! 後輩、お前も腹減っただろ?」

成幸 「へ……? あ、はい」

あすみ 「仕方ねーなー。この小美浪あすみの手料理を振る舞ってやろう。ちょっと待ってろ」

634以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:48:55 ID:HAJPKQlU
………………

トントントントントン……

あすみ 「………………」

あすみ (……つい、逃げるように台所に来てしまった)


―――― 『あっ……あの……――』


あすみ (後輩が何を言おうとしていたのか、アタシは知らない)

あすみ (でも、想像はつく。きっとこの部屋についてだろう)

あすみ (『キスしないと出られない部屋』 とかいうふざけたこの部屋について……)

あすみ (キス……)

カァアアアア……

あすみ (……つまり、後輩と、キスをしろということだろう) チラッ

成幸 「……うーん。やっぱりこのドア開きそうにないなぁ。どうしたもんかな」

あすみ (後輩と……////)

635以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:49:30 ID:HAJPKQlU
………………

成幸 「わぁあああ……!! すごく美味しそうです、先輩!」

あすみ 「ふふーん。そうだろうそうだろう。アタシは家事に関しては自信があるからな」

あすみ 「ほら、冷めないうちに食べようぜ」

成幸 「はい! いただきます!」

パクッ……モグモグ……

あすみ 「……味はどうだ?」

成幸 「美味しいです! ありがとうございます、先輩」

あすみ 「おう。お口に合ったようで何よりだ」

成幸 「改めて、先輩って何でもできますよね。すごいなぁ」

あすみ 「おいおい、おだてても何もでねーぞ? お前だって家事得意じゃねーか」

成幸 「でも、料理だけはあんまり得意じゃないんですよね。練習しないとなぁ……」

成幸 「先輩、ここから出られたら料理を教えてくださいよ」

あすみ 「ああ。お前にはいつも世話になってるし、それくらいお安いご用だ」

636以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:50:06 ID:HAJPKQlU
成幸 「ありがとうございます。まぁ、出られたら、ですけどね」

あすみ 「っ……」

成幸 「あっ……」

成幸 「す、すみません……」

あすみ 「いや……」

あすみ (……ドアが開く様子はない)

あすみ (外に人の気配もない。どういう状況かはかりかねているというのが正直なところだが、)

あすみ (いつまでもボーッとしてるわけにもいかないか)

あすみ (けど……)


―――― 『キスしないと出られない部屋』


あすみ 「っ……///」

成幸 「………………」

成幸 「あの、先輩」

637以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:50:57 ID:HAJPKQlU
あすみ 「ん、何だ?」

成幸 「ここには勉強道具もないですし、このままここにいるのが良いこととは思えません」

あすみ 「……まぁ、そうだな」

成幸 「それでですね……その……えっと、なんて言ったらいいか分からないんですけど……」

カァアアアア……

成幸 「ここから出る手段は示されていますし、本当に出られる保証はありませんけど……」

成幸 「……試して、みませんか?」

あすみ 「……キスを?」

成幸 「っ……///」

成幸 「くっ、口に出さないでください。意識しちゃうじゃないですか」

あすみ 「ひっひっひ。後輩は本当にスケベ君だなぁ」

成幸 「やめてくださいってば……」

あすみ 「そんなにアタシとチューしたいのか。まったく後輩は……」

ドキドキドキドキ……

あすみ 「ほっ……本当に……仕方ないなぁ」

638以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:52:02 ID:HAJPKQlU
あすみ 「そもそもな、キスするって言ったって、お前はいいのかよ」

成幸 「いいって……」

あすみ 「……だって、お前もキスなんかしたことないだろ?」

成幸 「う゛ぇっ……!?」

あすみ 「………………」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

あすみ 「あ゛?」

639以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:53:00 ID:HAJPKQlU
あすみ 「……後輩、お前、キスしたことあんの?」

成幸 「い、いや、違うんですよ先輩! あれはそういうのじゃなくて……」

成幸 「……2回目のあれも着ぐるみ越しだし……」

成幸 「3回目もあれはあいさつだって言ってたから、そういうのじゃないし!」

あすみ 「は!? お前三回もキスしたことあるの!?」

成幸 「!? いやいやいや、違いますって! 全員そういう関係の相手じゃないですし!」

あすみ 「………………」

ジロリ

あすみ 「…… “全員” ?」

成幸 「あっ……」

あすみ 「お前、まさか三回とも違う相手とキスをしたのか……?」

成幸 「いや、違っ……くはないですけど、違うんですよ! 違うんです!」

成幸 「……いや、というか、“お前もキスなんかしたことない” ……?」

あすみ 「ん?」

640以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:53:39 ID:HAJPKQlU
あすみ 「……あっ」


―――― 『……だって、お前もキスなんかしたことないだろ?』


あすみ 「い、いや、違う! 断じて、そんな……キスの経験がないなんてことはない!」

成幸 「ああ……」

成幸 「……すみません。てっきり先輩は、経験豊富だと思ってたから……」

成幸 「やっぱり初めては好きな人とがいいですよね。他に出る方法を探しましょう」

あすみ 「だから違うって言ってるだろ! アタシはもう……そりゃ、キスなんかしまくりだ」

あすみ 「キスの相手に困ったことは一度もないからな!」

成幸 「……あ、はい。わかりました」

あすみ 「絶対信じてないだろお前! っていうか、話逸らしやがったな!」

あすみ 「三人以上とキスしたことあるなんて聞いてないぞ。このドスケベ!」

成幸 「ガチトーンでスケベって言うのはやめてくださいよ! そういうのじゃなかったんですってば!」

成幸 「不慮の事故と成り行きとあいさつなんですってば!!」

あすみ 「不慮の事故はともかく成り行きとあいさつってなんだよ! やっぱりスケベじゃないか!」

641以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:54:14 ID:HAJPKQlU
………………

あすみ 「………………」

成幸 「………………」

あすみ (……気まずい)

あすみ (いくら動揺したからといって、スケベスケベ言いすぎたかもしれない)

あすみ (後輩が女たらしなんて知ってたはずなのに、それを実感した途端、)

あすみ (……それと、後輩がもうすでに三人以上の誰かとキスをしているということを知った途端、)

ズキッ

あすみ (……すごく、嫌な気持ちになってしまった)

あすみ (そもそも、アタシと後輩はただの勉強友達でバイト仲間なんだから、)

あすみ (後輩が誰とどんなただれた関係を築いていようと関係ないはずなんだよな)

あすみ (……アタシはただの、フリをしてるだけの恋人にすぎないんだから)

成幸 「……あの、先輩」

あすみ 「……ん」

642以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:54:50 ID:HAJPKQlU
成幸 「……さっきはその、すみませんでした。キスのこととか……」

成幸 「ヘンなこと話して、先輩の気分を悪くさせちゃって……」

成幸 「でも、信じてほしいんです。俺は本当にやましいこととかはなくて、ただ……」

成幸 「……ただ、俺自身キスをするとかそういう自覚なく、そうなってしまったというか」

成幸 「でも、よく考えたらその方が最低かもしれません。だから、俺……」

あすみ 「………………」

あすみ 「……悪かったよ」

成幸 「え……?」

あすみ 「お前がそんなに器用な奴じゃないって知ってるはずなのにな」

あすみ 「……信じて、いいんだな?」

成幸 「あ……はい! 誓って、俺はまだキスをしようとしてしたことはありません!」

あすみ 「……にひひ、胸張って言うことかよ、それ」

成幸 「あっ……す、すみません」

643以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:55:33 ID:HAJPKQlU
あすみ 「……っつーか、アタシの方こそ悪かったよ」

あすみ 「そもそも、べつにアタシが不機嫌になる道理はないよな」

あすみ 「気まずくさせて悪かった。お前がどこの誰とキスをしてようと、アタシには関係ないもんな」

成幸 「先輩……」

あすみ 「……あー、ちくしょう。この際だから言っちまうけど、」

あすみ 「アタシはキスなんかしたことねーよ。生まれてこの方、一度もだ」

あすみ 「つーか、男と付き合ったのも、お前が初めてだ」

成幸 「……意外です。先輩美人できれいだから、モテるもんだと……」

あすみ 「軽音やってた頃はまぁ、それなりにモテたけどな。部活に勉強に忙しかったからそんな暇なかったよ」

あすみ 「……はぁ。こんな恥ずかしことお前に言うつもりはなかったんだけどな」

あすみ 「バカにするならしろよ。けっ」

成幸 「バカにできないですよ。俺だって、お付き合いなんて先輩が初めてですよ?」

あすみ 「……ほー、それでキスを三回も、か。モテる方は違うなー。さすがだなー」

成幸 「だっ、だから違うんですってば!」

あすみ 「ひひひ、冗談だよ」

644以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:56:28 ID:HAJPKQlU
成幸 「あー、もう、まったく、先輩は……」

あすみ 「悪かったよ。怒るなって」

あすみ (……良かった)

あすみ (このまま気まずいままだったら、と少し考えていたから)

あすみ (正直なところ、後輩がキスを経験していたという事実は、まだ心の中でくすぶっている)

あすみ (でも、それを言えるような立場にないということも、分かっているから)

あすみ (……そして何より、初めて付き合った相手が自分であるという事実が、少しだけ心を安らかにさせてくれたと思う)

あすみ 「………………」

あすみ (今さら、否定することも難しいだろう)

成幸 「……先輩?」

あすみ (アタシは……)

645以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:57:06 ID:HAJPKQlU
あすみ (……アタシは、今までずっと、何度も何度も)


―――― 『キスくらいしとくか?  「彼氏」 なんだし』

―――― 『ん? なんだ? やっぱしたくなったか? 後輩 このスケベめ』

―――― 『そろそろ一回くらいチューしとくか?』

―――― 『よっぽどチューしたいらしいな このたらし野郎が』


あすみ (後輩とのキスを望んで、せがんでいた……)

あすみ (アタシは、だから、きっと……)

成幸 「せ、先輩、どうしたんですか? 何で、近づいてきて……――」


――――ギュッ


あすみ (後輩のことが……)

646以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:57:37 ID:HAJPKQlU
成幸 「せ、先輩!? なっ、なんで、抱きついて……?」

あすみ 「……なぁ、早く外に出て勉強したいよな? 後輩?」

成幸 「へ……? ま、まぁ、そりゃ……」

あすみ 「外に出て、アタシから料理、教わりたいよな?」

成幸 「はい……」

あすみ 「……じゃあ、もう仕方ないよな」

成幸 「えっ……?」

あすみ 「……みなまで言わせんな、バカ」

スッ

あすみ 「………………」

成幸 「あっ……」 アセアセ 「でも、先輩、初めてなんじゃ……」

あすみ 「………………」

成幸 「っ……」

647以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:58:35 ID:HAJPKQlU
あすみ (……こいつはもう、キスをしっている)

あすみ (アタシは、しらない)

あすみ (どんなにがんばっても、アタシはそれに関しては、こいつの一番にはなれない)

あすみ (だから、せめて……)

あすみ (フリであろうとなんであろうと、後輩の最初の彼女であるアタシが……)

あすみ (後輩から “キスをされる”、最初になりたい)

あすみ 「………………」

成幸 「………………」


スッ………………………………


………………

…………

……

648以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:59:24 ID:HAJPKQlU
………………

あすみ 「……こう、はいっ……ん……」

あすみ 「……しょっ、そんな、激しっ……」

あすみ 「アタシ、初めてだって……」

パチッ

あすみ 「………………」

あすみ 「ん……う……?」

あすみ 「………………」

あすみ (見慣れた勉強机。見慣れた “必勝” の文字。まぎれもない、アタシの部屋だ)

あすみ (……瞬間的にすべてを理解した)

あすみ (夢だ)

あすみ (アタシは後輩からもらったマスコットを両手で握りしめ、熱いキスをかましていた)

あすみ 「……あっ……ああああ……」

カァアアアア……

あすみ 「ちっ……ちがっ、今のは、夢の中だから……違うからっ!」

649以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 23:00:04 ID:HAJPKQlU
………………唯我家

成幸 「……ん、今日は先輩とファミレスで勉強の約束か。そろそろ出ないとな」

成幸 「先輩、前回渡した化学の問題全部解けたかなー、っと……」

ピロリン♪

成幸 「……? 先輩からメッセージ?」

成幸 「今日は体調が悪いから休む……?」

成幸 「………………」

成幸 「……あの先輩が体調不良!?」

650以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 23:00:38 ID:HAJPKQlU
………………小美浪家

あすみ 「………………」

あすみ (……うそをつくのは気が引けるが、あながちうそでもないだろう)

あすみ (今日、後輩と顔を合わせたりしたら、間違いなく死ぬ)

あすみ (絶対、とんでもないことになる)

あすみ (だから、うそじゃない。体調不良みたいなもんだ……)


―――― ((フリであろうとなんであろうと、後輩の最初の彼女であるアタシが……))

―――― ((後輩からキスをする、最初になりたい))


あすみ 「っ……///」

あすみ (夢。夢だから。あれはただの夢だから……)

あすみ 「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

あすみ (ダメだ。絶対ダメだ。せめて今日一日は絶対後輩と顔を合わせちゃダメだ!)

651以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 23:01:25 ID:HAJPKQlU
………………唯我家

成幸 「あの完ぺき超人の先輩が、体調不良……」

成幸 「心配だ。何か悪い病気じゃないだろうな……」

成幸 「先輩の家は病院だから心配はないだろうけど……」

成幸 「………………」

成幸 「……よしっ」

成幸 「お見舞いに行こう!」

おわり

652以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 23:01:58 ID:HAJPKQlU
………………幕間1  「○○○に入る言葉を答えなさい」

水希 「お兄ちゃん、起きて! 起きてってば!」

成幸 「ん!? なんだ水希!? どうした!?」

水希 「わたしたち、とんでもないところに閉じ込められちゃったよ!!」

成幸 「何!? 閉じ込められた!? とんでもないところって、どこだ!?」

水希 「『○○○しないと出られない部屋』 だよ!」 キラキラキラキラ

653以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 23:03:04 ID:HAJPKQlU
………………幕間2  「本編でも強ち」

文乃 「大変だよ成幸くん! とんでもない部屋に閉じ込められたよ!」

成幸 「今度は一体何だ、古橋!」

文乃 「これは困った! これは本当に困る! ああもう、本当に嫌だなぁ!!」

成幸 「何だ!? 一体どんな部屋だ!?」

文乃 「『人気飲食店の商品全部食べ尽くすまで出られない部屋』 だよ!」 キラキラキラ……!!!!

おわり

654以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 23:04:42 ID:HAJPKQlU
>>1です。読んでくださった方ありがとうございました。

夢オチのコメディを書きたいなと思いながら書き始めて、
結果中途半端になってしまったと思います。

また投下します。

655以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 03:31:51 ID:Lcs/eQSk
おつ

656以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 12:42:33 ID:1t8JVcRM
おつんこ
書くの早いな

657以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 19:32:37 ID:ZDtxQMO6
やっぱり先輩がNo.1!!

658以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:20:59 ID:.1QY/f6c
>>1です。投下します。


【ぼく勉】 紗和子 「あら、奇遇ね」

659以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:21:38 ID:.1QY/f6c
………………放課後 一ノ瀬学園

理珠 「すみません、成幸さん。母が急用で店を開けなくてはならないそうなので、今日は帰ります」

文乃 「わたしも、荷物を受け取らなくちゃいけないから帰るね。ごめんね」

うるか 「あたしも、ママ……じゃなくて、お母さんからお遣いたのまれちってさ。ごめん」

成幸 「おお、そうなのか。じゃあまた明日だな」

文乃 「うん。ごめんね、成幸くん。また明日!」

うるか 「じゃーねー、成幸ー」

理珠 「さようなら、成幸さん。また明日」

トトトトトト……

成幸 「………………」

成幸 (んー、あの三人が帰ってしまったということは、俺ひとりか)

パァアアアアアア……!!!

成幸 (久々にひとりで伸び伸びと勉強できる!? やったー!)

660以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:22:19 ID:.1QY/f6c
………………図書室

ザワザワザワ…………

成幸 「わぁ……」

成幸 (今日は混んでるなぁ。うーん、座れないことはないけど……)

成幸 (せっかくひとりなんだから、静かに勉強したいところだな)

成幸 (……ん、そういえば)


―――― 『あっ そういえば一箇所心当たりが!』


成幸 「………………」

成幸 (もし空いてそうだったら、あそこを借りてもいいかな?)

661以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:23:03 ID:.1QY/f6c
………………生物室

成幸 「………………」

カリカリカリカリ……

成幸 (案の定、誰もいないから勉強にうってつけだ)

成幸 (家に帰ったら和樹と葉月がいるし、ここでがっつり勉強して帰るとしようかな)

標本 「………………」


―――― 『ねーねー知ってる? あのウワサ』

―――― 『放課後になるとね…… あそこの骨格標本がひとりでに生物室内を徘徊し始めるんだって……』


成幸 (……い、いやいやいや、大丈夫、大丈夫。あんなのはただの噂だ)


―――― 『あれ……変ね 電池が入ってないわ』


成幸 (あれは……うん、まぁ、説明はつかないけど……でも……――)

――――ガラッ

成幸 「ヒッ……!?」 ビクッ

662以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:23:37 ID:.1QY/f6c
紗和子 「……? あら、唯我成幸じゃない。奇遇ね」

成幸 (な、なんだ。関城かよ……) ドキドキドキドキ……

紗和子 「どうかしたの? 床に座り込んだりして……」

成幸 「い、いや、何でもない。ちょっとこけちゃってさ……」

成幸 (言えない……驚いて椅子から転げ落ちたなんて……!)

紗和子 「まったく、そそっかしいわね。大丈夫?」 スッ

成幸 「あっ……」 ギュッ 「わ、悪い……」

紗和子 「図書室が混んでいたからここで勉強しようと思ってきたんだけど、あなたも同じ考えだったようね」

成幸 「ああ。ここは静かに勉強できるからな」

紗和子 「緒方理珠たちは?」

成幸 「今日は急な用事で帰ったよ。だからこそ余計に静かに勉強したかったんだけど……」

成幸 (この生物室が怖くて、逆に集中できてなかった……なんて言えないよな)

紗和子 「えっ……」 ガーン

紗和子 「あっ、じ、じゃあ、私もお邪魔よね? ごめんなさい。失礼するわ」

成幸 「!?」

663以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:24:22 ID:.1QY/f6c
成幸 「ま、待ってくれ!」

ガシッ

紗和子 「ふぇっ……!?」

成幸 「い、行かないでくれ。お前が来てくれてすごく嬉しかったんだ。だから……」

成幸 (関城がいなくなったらまたこの生物室にひとりきりになってしまう!)

紗和子 「なっ……///」

紗和子 「う、嬉しかったって、あなたには緒方理珠が……」

成幸 「……? 緒方? 緒方は関係ないだろ」 (もう帰っちゃったし)

紗和子 「………………」

紗和子 「……そっ、そこまで言うなら、まぁ」

紗和子 「本当に私がいても邪魔じゃないのね?」

成幸 「邪魔なもんか。一緒に勉強しようぜ、関城」

紗和子 「……え、ええ」 カァアアアア……

標本 「………………」

664以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:25:00 ID:.1QY/f6c
………………

紗和子 「………………」

成幸 「………………」

標本 「………………」

カリカリカリ……

成幸 (ひとりきりなら怖かったものも、ふたり以上になれば怖いも何もない)

成幸 (骨格標本だって、化学部の改造によって電動になっているらしいが、よくよく考えればただの模型だ)

成幸 (噂だって、電動になった骨格標本が動く様を目撃した生徒がいただけのことだろうし、)

成幸 (電池が入っていなくても動いたことに関してはまぁ、説明はつかないけど……)

成幸 (なんにせよ、関城がいてくれれば心強い。静かに勉強ができて何よりだ)

成幸 (……そして、さすがは化学部部長といったところだろうか)

成幸 「……ん? これって……」

紗和子 「……?」

成幸 「なぁ、関城。ここの結合ってこういう風に分解はできないのか?」

標本 「………………」

665以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:25:50 ID:.1QY/f6c
紗和子 「? ……ああ、それだとイオン化ができないからそもそも分解されないわよ」

成幸 「? 教科書のイオン化の例と何が違うんだ?」

紗和子 「……ああ、それは高校レベルじゃやらないから分からないのも無理ないわね」

紗和子 「仕方ないわね。少し長くなるけど、説明する?」

成幸 「本当か? 助かるよ」

成幸 (関城は俺の分からないところを丁寧に説明してくれる)

成幸 (いつも教えている身としては、同級生に教わるのはなかなか新鮮だ)

成幸 (理系科目――特に化学に造詣が深い関城は、やや高度な疑問にもすぐに答えてくれる)

成幸 (本当に、関城が来てくれてよかった……)

ニコニコニコ

紗和子 「……? 何にやにやしてるのよ」

成幸 「へ? ああ、悪い」 クスッ 「表情に出てたか」

成幸 「いや、お前が来てくれて良かったなって思ってさ」

紗和子 「は……?///」

666以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:26:20 ID:.1QY/f6c
紗和子 (なっ……なんなのかしら、さっきから……)


―――― 『「ま、待ってくれ!』

―――― 『い、行かないでくれ。お前が来てくれてすごく嬉しかったんだ……。だから……』

―――― 『いや、お前が来てくれて良かったなって思ってさ』


紗和子 (まったくもう、唯我成幸ってば。あなたには緒方理珠というステディがいるでしょうに……)

紗和子 (なんで、私が来たくらいでこんなに大喜びするのよ……)

紗和子 (そっ、それじゃまるでっ……)

カァアアアア……

紗和子 (あなたが私に気があるみたいじゃない……///)

成幸 「……?」

成幸 「関城、なんか顔赤いけど、大丈夫か?」

紗和子 「はっ……!? あ、赤くなってないけど!?」

成幸 「いや、めっちゃ赤いけど……」

標本 「………………」

667以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:27:10 ID:.1QY/f6c
紗和子 「なってないって言ってるの! ほら、せっかくの勉強時間なんだから、勉強に集中するわよ!」

成幸 「……ああ、それもそうだな」


―――― うるか『成幸ー、勉強飽きちゃったよー。つかれたよー』

―――― 文乃 『………………』 Zzzz……

―――― 理珠 『全然分かりません。成幸さん、ここはどういうことですか?』


成幸 (あいつらもここ最近はここまでひどくはないけど……)

成幸 (……ああ、なんか、いつもとの落差がすごい)

成幸 (いつもだったら、こっちががんばれと励ます方なのに……)

成幸 (関城は俺のことを励ましてくれるんだな……)

成幸 「……あー、ほんと、お前が来てくれてよかったよ」 ホロリ

紗和子 「っ……/// ま、またヘンなこと言って……」

成幸 「? 変じゃないだろ?」

成幸 「なんだったら毎日お前と一緒に勉強したいくらいだぞ?」

紗和子 「あ……う……」 カァアアアア……

668以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:27:44 ID:.1QY/f6c
紗和子 「………………」 プスプスプス……

成幸 「関城? なんか、顔が真っ赤になりつつあるぞ?」

紗和子 (あなたがヘンなこと言うからでしょーがー!)

紗和子 (まったく、この男は一体何を考えて……――)

――――ピタッ……

紗和子 「ふぇっ!?」 (手!? おでこ!? え!?)

成幸 「……んー、熱はなさそうだな」

紗和子 (あう……/// 唯我成幸の手、冷たくて、気持ちいい……)

ハッ

紗和子 (って私は何を考えてるの!? 唯我成幸は私の大親友、緒方理珠の想い人!)

紗和子 (そんな相手に、私は、何を……)

成幸 「本当に大丈夫か?」

紗和子 「……あっ、だ、大丈夫。大丈夫だから!」 プイッ

標本 「………………」

669以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:33:29 ID:.1QY/f6c
成幸 「あっ……」

ハッ

成幸 「わ、悪い。急におでこに手を当てたりして……」

紗和子 「それは、まぁ……いいけど」

紗和子 「や、やっぱり私、ちょっと体調悪いみたいだわ」

紗和子 「今日はこれで帰るわね。あとはひとりで集中して勉強したらいいわ」

紗和子 (これ以上ここにいたらヘンになりそうだし……)

紗和子 「それじゃ、またね。唯我成幸――」

成幸 「――あっ、待ってくれ! 俺も一緒に帰るよ!」

紗和子 「ふぇっ!?」 アセアセ 「そ、そんな、いいわよ。あなたはここで勉強していったら……」

成幸 (ここでひとりになったらまた怖くてきっと集中できない! だったら家に帰った方がマシだ!)

成幸 (けど、それを関城に悟られるのはさすがに恥ずかしいし……)

成幸 「た……体調の悪そうなお前をひとりで帰すわけにはいかないだろ。送ってくよ」

紗和子 「えっ……」

標本 「………………」

670以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:34:01 ID:.1QY/f6c
紗和子 「あっ……えっと、その……」 カァアアアア……

成幸 (さすがに苦しいか……?)

紗和子 「じ、じゃあ……お願いするわ……///」

成幸 「……?」

成幸 (なんでまた顔を赤くしてるんだ……?)

成幸 「ん、じゃあ行くか」

紗和子 「え、ええ……」

紗和子 (ち、違うから! 違うのよ、緒方理珠! これは、友達だから送っていってくれているだけで……)

紗和子 (決して、“そういうの” じゃないんだから!)

………………

標本 「………………」

ギギギギ……

標本 「………………」

ギシッ……ギシッ……

671以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:34:34 ID:.1QY/f6c
………………帰路

紗和子 「………………」

ドキドキドキドキ……

紗和子 (ど、どうしたらいいのかしら。胸がすごいことになってるわ……)

チラッ

成幸 「……ふむふむ」

紗和子 (歩きながらも勉強……。本当にガリ勉ね)

紗和子 (でも、そんな横顔が……) カァアアアア…… (なぜか、いつもより精悍に見えるわ……)

成幸 「ん……? どうかしたか、関城?」

紗和子 「えっ? いえ、何もないわ……」

成幸 「……?」

紗和子 (……ああ、どうしたらいいのかしら。今、横にいる男の子は、大親友の想い人だというのに……)

紗和子 (なんでこんなに、ドキドキするの……)

………………

標本 「………………」 コソッ

672以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:42:25 ID:.1QY/f6c
成幸 「おい、本当に顔真っ赤だぞ? 大丈夫か?」

紗和子 「………………」

紗和子 「……ダメ、かも」 ボソッ

成幸 「!? やっぱり体調が悪いのか。もっと早く言えよ」

紗和子 「ご、ごめんなさい……」

紗和子 (体調ではなく精神的なものなのだけど……でも、そんなこと言えないし……)

成幸 「荷物持つよ。教科書とか入ってて重いだろ」 スッ

紗和子 「あっ……」

成幸 「歩けるか? おんぶするか?」

紗和子 「さ、さすがにそこまでは大丈夫よ。歩けるわ」

成幸 (でも辛そうだな……ん?)

成幸 「公園があるな。ちょっと休んでくか? それとも早く帰った方が楽か?」

紗和子 「公園……?」

673以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:43:14 ID:.1QY/f6c
紗和子 (公園といえば……)


―――― 『は 初デートはどこがいいかしら!?』

―――― 『なるべく金のかからない所が…… 公園とか』


紗和子 「っ……」

紗和子 「あっ……えっと……」

成幸 「ん?」

紗和子 「………………」

紗和子 「……ちょっと、寄っていくわ」

成幸 「ん、分かった。ベンチがあるから、そこで少し休もうか」 ニコッ

紗和子 (わ、私……)

紗和子 (自分で、公園に寄ることを選んで……これじゃ、まるで……)

紗和子 (唯我成幸と、公園デートしたがってるみたいじゃない……///)

………………

標本 「………………」 ジーーーーッ

674以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:43:45 ID:.1QY/f6c
………………公園

成幸 「ほい、関城。自販機でコーヒーと紅茶買ってきたけど、どっちがいい?」

紗和子 「ん……じゃあ、コーヒーをいただくわ。ありがとう」

成幸 「どういたしまして」

紗和子 「………………」 ズズズ……

紗和子 (……ひょっとして、こうしてベンチの隣に座っていると)

紗和子 (傍から見たら、私たちは、恋人同士に見えたりするのかしら……)

紗和子 (なんて……)

紗和子 「………………」

紗和子 (……違う)

紗和子 (違う)

紗和子 (絶対に違う……!)

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

675以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:44:18 ID:.1QY/f6c
紗和子 (こんなの、何かがおかしいわ)

紗和子 (今まで、私は、大親友のために色々とがんばってきた……)


―――― 『あら! そこにいるのは唯我成幸じゃない! 偶然ね!』

―――― 『ちょうどよかったわ 唯我成幸 緒方理珠の新しいペンケースを一緒に選んでやってくれないかしら』

―――― ((やはり…… せっかく好きな人と2人きりで出かけられるチャンスを 大親友の私が奪うわけにはいかないわよね))

―――― 『じゃッ!! 私はトイレに行ってくるから! 2人ともグッドラック!!!』


紗和子 (そんなこの私が……!)

紗和子 (この、化学部部長、関城紗和子が!!)

紗和子 (大親友にして大恩人、緒方理珠を裏切るようなことをするはずがない……!!!)

成幸 「関城? すごい顔してるけど、大丈夫か……?」

紗和子 (この男を、唐突に奪い取るようなマネをするはずがない!!)

676以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:44:55 ID:.1QY/f6c
………………

標本 「………………」 ギシッ……

標本 「………………」 ギシギシギシッ……

標本 「………………」

ガシャッ……ガシャッ……ガシャッ……――――


    「――そこまでっスよ」


標本 「……!?」

蝶野 「美少女霊媒戦士、マジカルチョーノとミラクルイノポンが相手になるっスよ」

猪森 「いや、君は何もしないだろう、蝶野。というか、勝手に変な名前をつけないでくれ」

猪森 「……またあの骨格標本に変な霊が取り憑いたか。まったく、度し難いな」

蝶野 「どうも唯我成幸さん周りのラブコメの波動に引き寄せられてるみたいっスね」

蝶野 「前回同様、ラブコメ好きの霊が取り憑いてるみたいっスよ」

猪森 「……一体何なんだ、ラブコメの波動とか、ラブコメ好きの霊って」

蝶野 「ツッコんだら負けっスよ、いのぽん」

677以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:45:33 ID:.1QY/f6c
………………

紗和子 「……唯我成幸」

成幸 「ん?」

紗和子 「私とあなたは、友達?」

成幸 「……? いきなりなんだよ」

紗和子 「答えて。お願い」

成幸 「……ん、まぁ、そりゃ……友達だろ?」

紗和子 「……うん」 クスッ 「嬉しいわ」

成幸 「? なんだそりゃ」

紗和子 (……うん。だって、そうよ)

紗和子 (それだけで十分だもの)

スゥ……

紗和子 (好きになんて、ならない。そもそも、好きになる要素なんて、ない)

紗和子 (だから私は、これでいい……)

678以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:46:23 ID:.1QY/f6c
………………

標本 「……!?」

猪森 「どうやら、今回は関城さんと唯我くんのふたりに変な念をおくっていたようだが、」

猪森 「残念だったね。関城さんは、自分の精神力ひとつでお前のラブコメ念波を打ち破ったようだ」

猪森 「なんにせよ、人に迷惑をかけてはいけない。悪いけど、除霊させてもらうよ」

標本 「………………」 フルフル

猪森 「ん? なになに? ラブコメ念波なんて送ってない……?」

猪森 「“ちょっと素直になっちゃうビーム” を関城さんに撃ってただけ……?」

猪森 「………………」

猪森 「ていっ」 ぺしっ

オギャアアアアアアア………………

蝶野 (さすがはいのぽん。無視してそのままおフダをたたき込んだっス)

679以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:47:06 ID:.1QY/f6c
猪森 「ふぅ。除霊完了だな」

蝶野 「お疲れさまっス、いのぽん」

猪森 「ああ。蝶野も、付き合ってくれてありがとう」

蝶野 「……それにしても、関城さんもよくよく取り憑かれやすい人っスね」

猪森 「そういう体質なんだろう。まぁ、近くに私みたいな人間がいてよかったよ」

蝶野 「……そう言って、ミラクルイノポンは笑う」

蝶野 「人知れず、今日も美少女霊媒戦士の戦いは続くのである」

猪森 「一体何のナレーションなんだ……?」

猪森 (それにしても、“ちょっと素直になっちゃうビーム”か……)

猪森 (不謹慎な話ではあるが、)

クスッ

猪森 (うちのお姫様にも、撃ってくれればいいのにな)

680以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:47:39 ID:.1QY/f6c
………………翌日

成幸 「あっ……」  紗和子 「あっ」 バッタリ

紗和子 「……お、おはよう、唯我成幸」

成幸 「ああ、おはよう。体調は大丈夫か?」

紗和子 「おかげさまでよくなったわ。昨日は手間をかけさせたわね」

紗和子 (……不思議だわ。昨日はあんなに騒がしかった心臓が、今はすっかり鳴りを潜めている)

紗和子 (まるで、昨日は何かの呪いでも受けていたんじゃないかというくらい不自然だったわ)

成幸 「なぁ、関城。また化学で教えてほしいことがあるんだけどさ、」

成幸 「また今度、ふたりで勉強とかできないかな?」

紗和子 「? 何でふたりなの? 緒方理珠たちも誘えばいいじゃない」

成幸 「いや、まぁ、そうなんだけどさ……」 コソッ 「お前とふたりの方が、勉強に集中できるからさ……」

紗和子 「っ……し、仕方ないわね……」

681以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:48:21 ID:.1QY/f6c
紗和子 (ない。絶対ない)

カァアアアア……

紗和子 (昨日考えたとおり、絶対、ない)

紗和子 (この男を好きになったりなんて、そんなこと、絶対ない)

紗和子 (……ない、のに)


―――― 『お前とふたりの方が、勉強に集中できるからさ……』


紗和子 (何で、“嬉しい” なんて思ってるのよ、私……!!)

紗和子 (違うから! 絶対違うからね、緒方理珠!)

紗和子 (あなたの好きな人を奪い取ったりなんて、絶対しないから!)

おわり

682以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:49:20 ID:.1QY/f6c
………………幕間 「肩こり」

猪森 「前回の霊は緒方さんと唯我くんのラブコメを見るために寄ってきて、」

猪森 「今回の霊は関城さんと唯我くんのラブコメを見るために寄ってきた……」

蝶野 「我々 『いばらの会』 としては、ぜひとも霊に古橋姫に取り憑いてもらいたいものっスね」

猪森 「滅多なことを言うなよ、蝶野。霊になんて憑かれないに越したことはないんだから」

猪森 「それに、古橋姫は多分霊に取り憑かれることはないよ」

猪森 「霊に取り憑かれると肩こりがするようになるんだ。そして、オカルトにおいて、因果と結果は相関関係にある」

猪森 「つまり、逆説的に言えば、“肩こりになりやすい人は霊に取り憑かれやすい”」

蝶野 「あっ……つまり……」

猪森 「ああ。肩がふにゃふにゃなくらい柔らかく健康的な古橋姫は、霊に取り憑かれにくい」

蝶野 「まさか胸のアドバンテージがこんなところでも表れるとは……はっ!?」

文乃 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

猪森 「ふ、古橋さん!? いつからそこに……?」

文乃 「……なんかしらないけどすごく失礼なことを言われた気がしたから、ふたりともとりあえずつねるね?」

おわり

683以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 23:53:35 ID:.1QY/f6c
>>1です。読んでくださった方ありがとうございました。


問70の霊は、ひょっとしたら理珠さんと成幸くんのイチャラブを見た方のでは?
なんてことを考えていたら書けてしまった話ですが、色々と雑かもしれません。申し訳ないことです。



今さらな話ですが、本紙派の人はコミックス幕間を読めていないわけで、
わたしが今まで書いてきた話で何のこっちゃ分からない話があったかと思います。
申し訳ないことです。
これを機にコミックスも買っていただけたら嬉しいなと思います。

また投下します。

684以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/22(金) 00:07:53 ID:YXHdKQ4Y


685以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/22(金) 01:31:13 ID:7QnFaMJg
おつおつ

686以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/22(金) 12:36:46 ID:6cyf.K5I
かわいい

687以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/22(金) 15:32:26 ID:ORWQ2hEA
すまん、先輩くっそかわいい

688以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/22(金) 23:19:53 ID:W6HYjLRA
更新頻度多くて嬉しいですわ

689以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:01:35 ID:seYST57A
>>1です。投下します。


【ぼく勉】 真冬 「自習監督の桐須です」 理珠 「…………」

690以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:02:44 ID:seYST57A
………………3-D教室 共通科目授業

真冬 「と、いうことで、体調不良の先生に代わって自習の監督を私が務めます」

ドーーーン

真冬 「好きな教科の好きな勉強をして構わないと言われています」

真冬 「各自、自習だからといって手を抜かず、受験に向けてがんばりなさい。以上よ」

男子1 (よ、よりによって “氷の女王” 桐須先生かよ……)

女子1 (眠るどころかまどろむことも許されない雰囲気……)

男子2 (最悪だ……)

理珠 「………………」

理珠 (よりによって桐須先生ですか……)

理珠 (まぁ、自習監督なら関係ないですね。私は私の勉強をするだけです)

理珠 (それにしても……)

シーーーーーン

理珠 (……水を打ったような静けさ、とはまさにこのことではないでしょうか)

真冬 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

691以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:03:26 ID:seYST57A
理珠 (桐須先生が教卓についているだけで、すごい効果です。これは集中できそうですね)

理珠 (ちょうどいいタイミングです。今日成幸さんに教えてもらう予定だった範囲を先に仕上げて……)

理珠 (成幸さんを驚かせてあげましょう!)

理珠 「………………」 ガリガリガリガリ……

理珠 (ふふ……) フンスフンス (成幸さん、きっと喜んでくれますね!)

真冬 (……ふむ。緒方さんが開いている参考書は現国かしら。熱心に勉強しているようね)

真冬 (まったく。唯我くんが希望を与えるから、ああやってがんばってしまうのよ)


―――― 『でも俺は…… 「できない」 ことに本気で立ち向かっている奴らを』

―――― 『「できないからやめろ」 なんて見捨てるくらいなら 胸張って一緒に後悔する道を選びます』

―――― 『先生が 「才能」 の味方なら 俺は 「できない」 奴の味方ですから』


真冬 (……まぁ、あそこまでの信念を持っているのなら私はもう何も言うべきではない)

真冬 (……否。そもそも、私には何も言う権利もないというべきね)

真冬 (私は、緒方さんと古橋さんの教育係を放棄したも同然の身なのだから……)

692以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:04:01 ID:seYST57A
………………

真冬 「………………」

真冬 (……暇。自習監督をやるのはいいのだけれど、まったくもって暇だわ)

真冬 (仕事を持ってくるのも自習監督として適切とは思えないし、かといってボーッとしているのも無為だわ)

男子1 「……んー、ここってどうやって解くんだっけな……」

真冬 「……あら、わからないところでもあるのかしら?」

男子1 「あっ……き、桐須先生」 ビクッ 「そんな……大したことじゃ……」

真冬 「せっかくの自習時間だわ。分からないところは、自習監督に聞くのも手だと思うけれど」

男子1 「いや、でも、これ数学ですよ? 先生は世界史の先生じゃ……」

真冬 「当然。たとえどんな教科の内容であれ、高校レベルの問題が解けないはずないでしょう」

真冬 「……なるほど。連立合同式の証明ね。これは一工夫必要だけど、それさえ分かれば帰納法で証明できるわね」

真冬 「互いに素である条件に合致する場合、この連立合同式がどうなるのかを考えてみたらどうかしら」

真冬 「そうすれば、証明の道筋が立てられるはずよ」

男子1 「……あっ、なんかわかりそうな気がします! ちょっと考えてみます!」

真冬 「ええ。がんばって」

693以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:04:34 ID:seYST57A
女子2 (す、すごい……)

女子1 (さすが氷の女王! 数学まで完ぺきなんて……!)

男子2 (お、俺も教わっちゃおうかな……)

男子2 「すみません、桐須先生! 俺も教えてもらいたいところが……」

女子1 「あ! その次あたし、お願いします!」

女子2 「その後で私に教えてください!」

真冬 「わかったわ。順番に回っていくから待っていなさい」

理珠 「………………」 (……まぁ、さすがといったところでしょうか)

理珠 (私には関係のないことです。私は私の勉強に集中するだけです)

理珠 (さっさとこの評論問題を解いてしまいましょう。ん……?)

 『〜近畿の一部地域では、翻車魚を御御御付けの具材として用いることがある。また〜』

理珠 「なっ……」

理珠 (なんですかこの漢字は……!?)

理珠 (ほんしゃぎょ……? みみみづけ……? これは一体……)

694以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:05:34 ID:seYST57A
理珠 (漢字から推察するに、おそらく “ほんしゃぎょ” は魚の種類でしょう)

理珠 (そして、“みみみづけ” はなんらかの料理と考えられます)

理珠 (そこだけわかれば、別段この漢字の読み方が分からなくても、問題を解くことはでき――)


 『傍線部の漢字を答えなさい』

 『翻車魚           』

 『御御御付け         』


理珠 (――ないじゃないですかこれではーーー!!)

ガクッ

理珠 (……今は自習時間とはいえ授業中。しかも相手は桐須先生です)

理珠 (スマホを出したら怒られるでしょうし、この問題はもう諦めるしかないですね……)

理珠 「うぅ……」

695以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:06:16 ID:seYST57A
………………

真冬 「――……と、いったところね。これでわかったかしら?」

女子2 「はい! ありがとうございます! よくわかりました!」

真冬 (ふぅ。まぁ、教卓で暇しているよりははるかにマシね)

真冬 (私に教えられる程度の内容で助かったわ)

真冬 「ん……?」

理珠 「うぅ……」

真冬 (緒方さん? さっきまでまじめに勉強していたのに、肩を落としているわね)

真冬 (ひょっとして何か分からない問題でもあったのかしら)

真冬 「………………」


―――― 『そんなことで本当に文系受験するつもり?』

―――― 『言われるまでもありません!』


真冬 (……どうせ私が行ったところで、彼女を不快にさせてしまうだけだわ)

真冬 (私は彼女の望む進路を否定して、教育係を投げ出した、いわば敵のようなものなのだから)

696以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:06:58 ID:seYST57A
理珠 「………………」 ズーン

理珠 (情けないです……)

理珠 (漢字のひとつやふたつだけで、問題が進まなくなってしまうことが、本当に……)

理珠 (私は本当に文系受験なんてできるのでしょうか。勉強は進んでいるのでしょうか)

理珠 (一歩進んで、二歩下がっているような気がします……)

ズズズーン

真冬 「………………」

真冬 (……承前。然りとて、あれを放っておくこともできないかしらね)

真冬 「……緒方さん?」

理珠 「……!?」

理珠 (桐須先生……?)

理珠 「……何かご用ですか?」

真冬 「いえ、用というほどのものではないのだけれど、」

真冬 「もし勉強で困っているのなら、力になるわよ?」

理珠 「へ……?」

697以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:07:38 ID:seYST57A
理珠 「あ……えっと……」

理珠 「この漢字の読み方が分からなくて……」

ハッ

理珠 (や、やってしまいました! 漢字程度で困っていることを知ったら、この先生のことです……!)


―――― 真冬 『あらあら、文系受験を目指されている緒方さん? こんな漢字も分からないの?』

―――― 真冬 『失笑。冗談も大概にした方がいいと思うわよ?』


理珠 (きっとこんな風に、こちらの心を抉りにくるに決まって……――)


真冬 「―――― “マンボウ” と “おみおつけ” よ」


理珠 「えっ……?」

真冬 「だから、“マンボウ” と “おみおつけ” よ。おみおつけはお味噌汁のことね」

698以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:08:15 ID:seYST57A
理珠 「あっ……」 (メモをしておかなければ……) カリカリカリ……

真冬 「まぁ、これは初見ならば読めなくても仕方ないわね。雑学程度に覚えておくといいと思うわ」

真冬 「それにしても、この漢字の読みを答えさせるって、かなりいやらしい問題ね」

真冬 「……他に分からないことはある?」

理珠 「い、いえ、今のところはないです」

真冬 「そう。今後何か分からないことがあれば、気軽に言いなさい」

理珠 「は……はい。ありがとうございます」

理珠 (……なぜ、そんなことを言ってくれるのでしょうか)

理珠 (だって、桐須先生、あなたは……)


―――― 『笑止千万 あきらめなさい』


理珠 (そういう人だった、はずなのに……)

699以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:09:02 ID:seYST57A
カサカサカサ……

女子1 「……?」 ハッ 「ご、ごきぶり!?」

真冬 「……!?」

女子2 「きゃー! ほんとにゴキブリいる!」

男子1 「うお、びっくりした!」

ザワザワザワ……

真冬 「し、静かに! 騒ぐようなことではないわ!」

真冬 (ど、どうしたらいいかしら。って、私がなんとかするしかないわよね……)

真冬 (私が、どうにか……)

カサカサカサカサカサカサ……

真冬 「ヒッ……」 (で、できるわけないわ!!)

女子1 「ちょっと男子! 誰かなんとかしてよ!」

男子1 「あー、俺無理だわ。虫とか苦手なんだよ」

男子2 「俺も。生き物コロすのはちょっと……」

女子2 「あーん、もう! ヘタレー!」

700以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:09:37 ID:seYST57A
真冬 「………………」

キッ

真冬 (ここは、学校! 私は、教員! 情けないことを言っている場合ではないわね)

真冬 (いらないプリント類をまとめて丸めて……)

真冬 (これで、叩くだけ。それだけで終わるのよ、真冬)

真冬 「みっ……みんな、大丈夫よ。虫一匹くらい、私が退治するから」

理珠 (あれ、桐須先生、たしか……)


―――― 『少し……意外でした 先生……虫が苦手だったんですね』


理珠 (虫が苦手なはずですよね……?)

真冬 「大丈夫。大丈夫、だから……」 ガタガタブルブル

理珠 (……やっぱり。やせ我慢してるじゃないですか)

701以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:10:20 ID:seYST57A
理珠 「………………」


―――― 『まぁ、これは初見ならば読めなくても仕方ないわね。雑学程度に覚えておくといいと思うわ』

―――― 『そう。今後何か分からないことがあれば、気軽に言いなさい』


理珠 (……仕方、ありませんね) クスッ

真冬 「………………」

カサカサカサカサカサカサ……

真冬 「ひっ……」 (怖い怖い怖い……でも、生徒の前で醜態を晒すわけには……――)

――――パシッ

真冬 「へ……?」

理珠 「すみません、先生。この丸めたプリント借ります」

理珠 「太郎さん一名ご来店です!」

バシッッッ!!!

理珠 「……ゴキブリ一匹程度、桐須先生の手を煩わせるまでもありません」

女子1&2 ((緒方さんカッコイイ……!!!))

702以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:11:19 ID:seYST57A
理珠 「どなたか、ホウキとちりとりを持ってきてください」

男子1 「あ……じゃあ俺、持ってくるよ」

男子2 「あ、俺も行くよ」

真冬 「あ……では、私は職員室から消毒用のスプレーと拭くものを持ってくるわね」

理珠 「お願いします」

真冬 「………………」

トトトトト……

真冬 (……私のことなんて、好きではないでしょうに)



―――― 『すみません、先生。この丸めたプリント借ります』

―――― 『……ゴキブリ一匹程度、桐須先生の手を煩わせるまでもありません』


真冬 (まるで、私のことを庇うように、ゴキブリを退治して……)

真冬 (あまつさえ、私が虫が苦手だということを、周囲に悟られないように気遣っているようですらあった……)

703以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:11:55 ID:seYST57A
真冬 (なぜ、そんなことをしてくれたの、緒方さん……)

真冬 (あなたは、私のことなんて、好きではないはずなのに)


―――― 『尋問のようなマネはすぐやめてください!』

―――― 『言われるまでもありません!』


真冬 (……それに、彼女にとっては、恐らく苦痛に感じるようなこともたくさん言ったわ)


―――― 『どうしたって人には 向き不向きはあるものよ 緒方さん』

―――― 『そんなことで本当に文系受験するつもり?』

―――― 『笑止千万 あきらめなさい』


真冬 (後悔はしていない。今だって、緒方さんには、できれば理系受験をしてもらいたいもの)

真冬 (でも……)

真冬 (……目標に向かって一生懸命がんばっている彼女に、また同じ事が言えるの?)

真冬 (私は……)

704以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:12:27 ID:seYST57A
………………放課後

理珠 「ふふふ、どうですか? 成幸さん!」

成幸 「おー、まさかこの範囲を、ひとりで放課後までに終わらせてくるとはな」

成幸 「すごいぞ、緒方。えらいえらい」

ナデナデナデ

理珠 「はうっ……///」

理珠 「こっ、子ども扱いしないでください!」

成幸 「ああ、ごめんごめん。嬉しくってさ」

成幸 「難しい漢字やいやらしい問題も多かったのに、よく解けてるじゃないか。すごいぞ」

理珠 「ま、まぁ、私が本気を出せば、こんなものでしょうか」

クスッ

理珠 「……でも、本当は一箇所、桐須先生に教えてもらったところがあるのですが」

成幸 「えっ!? 桐須先生に!?」

理珠 「? そんなに驚くようなことですか?」

705以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:13:01 ID:seYST57A
成幸 「いや、驚くことだろ……桐須先生も、一体どういう風の吹き回しだよ」

成幸 「そんなキャラじゃないだろうに……――」


真冬 「――――失礼。それは言いすぎではないかしら、唯我くん」


成幸 「のわっ……!?」

真冬 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 (き、急に出てきた……心臓が飛び出るかと思った……)

真冬 「緒方さん、まだ学校にいてくれてよかったわ。話があるの」

理珠 「私に話ですか……?」

成幸 「あっ……俺、席外した方がいいですか?」

真冬 「……いえ、唯我くんなら、いてもらって構わないわ」

真冬 「……緒方さん」

理珠 「? はい」

真冬 「……その……今日は、ありがとう」

理珠 「……?」

706以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:13:35 ID:seYST57A
理珠 「お礼を言われるようなことは何もないと思うのですが……」

真冬 「自習の時間、ゴキ――虫が出たとき、私の代わりに虫を退治してくれたでしょう?」

理珠 「ああ……」

成幸 (そんなことがあったのか……。虫嫌いの桐須先生からしたら地獄だろうな……)

真冬 「そのお礼よ。本当に助かったから……」

理珠 「なんだ、そんなことですか」

理珠 「先生が虫が苦手というのは知っていますから、当然のことをしたまでです」

理珠 「お礼を言われるようなことではないと思います」

真冬 「……いえ、私は教師だわ。ならば、生徒に頼るようなことはしてはいけないはずよ」

真冬 「また、情けない姿を見せてしまったわね。でも、あなたのおかげで、他の生徒に醜態を晒さなくて済んだわ」

真冬 「……だから、ありがとう」

理珠 (情けない姿……?)

707以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:14:08 ID:seYST57A
理珠 「………………」


―――― 『みっ……みんな、大丈夫よ。虫一匹くらい、私が退治するから』


理珠 「……情けなくなんて、ないと思いますよ?」

真冬 「え……?」

理珠 「だって先生は、私たちのために、苦手な虫をなんとかしようとがんばっていたんですよね?」

理珠 「それを情けないなんて思う人の方が情けないと思います」

真冬 「緒方さん……?」

理珠 「私は、苦手だと分かっていても、果敢に立ち向かった先生を、すごいと思いますよ?」

真冬 「っ……///」

真冬 「せ……生徒が教員を褒めるようなことを言うものではないわ」

理珠 「む……」 プクゥ (せっかく本心を言ってあげているのに、嫌味な人ですね!)

真冬 「………………」 プイッ 「でも……」

真冬 「……嬉しいわ。ありがとう」

708以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:21:25 ID:seYST57A
真冬 (私は……)


―――― 『昔ね…… そんな限られた大切な時間を 一時の感情で無意味な道に費やして 二度と戻れなくなった女がいたの』

―――― 『馬鹿な女よね』

―――― 『故に結論 教育者は生徒の感情の如何に依らず 才ある道に導くことに徹するべきなのよ』


真冬 (それを間違いだとは思わない。それが正しいと信じている。けど……)


―――― 『先生が 「才能」 の味方なら 俺は 「できない」 奴の味方ですから』

―――― 『私は、苦手だと分かっていても、果敢に立ち向かった先生を、すごいと思いますよ?』


真冬 (……ああ、そうね。私はもう、きっと、)


―――― 『「できない」 自分を認め 向き合えること』

―――― 『……それが 君の長所でしょう?』


真冬 (「できない」 人の 「苦手」 を、応援したいと、思ってしまっているのね……)

709以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:22:06 ID:seYST57A
真冬 「……緒方さん」

理珠 「?」

真冬 (立場上、私は決して、この子の進路を応援することはできない。それは、私の信念を揺るがすことになるから。だから……)

真冬 「……正直、私はあなたに今からでも進路選択を変更してほしいと思ってはいるけれど、」

真冬 「でも、その道しかないというのなら、がんばりなさい。応援はできないけれど、ね」

理珠 「へ……?」

真冬 「では、ふたりとも、さようなら。日が落ちるのも早くなってきたわ。勉強もほどほどにして、早めに帰りなさいね」

成幸 「あ、はい。さようなら、桐須先生」

真冬 (願わくは、あなたの進路に、幸多からんことを)

真冬 (私のように、後悔だらけの人生を、歩まないで済みますように)

710以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:22:50 ID:seYST57A
………………

理珠 「一体全体、桐須先生は何が言いたかったのでしょうか?」

理珠 「わけが分かりません。応援していないと言いながら、がんばりなさいとも言う……」

理珠 「私には、本当にわけが分かりません……」

成幸 「……まぁ、仕方ないよ。あの人も色々と面倒くさい人だからさ」

成幸 「ま、せっかくがんばりなさいのお言葉もいただいたわけだし、さっさと図書室行って勉強始めようぜ」

成幸 「今日の分がもう終わってるってことは、明日の分に取りかかれるってことだからな」

理珠 「はい。そうですね」 フンス 「放課後もがんばります!」

成幸 「おお、気合い入ってるな。俺もがんばらないとな」

理珠 「………………」

理珠 「がんばりなさい、ですか……」

理珠 「言われなくたって、」

クスッ

理珠 「もちろん、がんばりますよ、桐須先生」

おわり

711以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:23:34 ID:seYST57A
………………幕間1 「眠り姫」

真冬 「自習監督の桐須です。各自、受験に向けて自由に自習をしてください」

文乃 (わーい、自習だー! バリバリ勉強して、成幸くんを驚かせるぞー!)

………………十分後

文乃 (バリ……バリ……やって……おど、ろ……むにゃ……)

文乃 (あっ……ダメ、昨日夜遅くまで勉強したから、緊張感ないと、眠気に勝てな……むにゃむにゃ……)

文乃 「………………」

Zzzz……

真冬 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

真冬 「……本当にいい度胸ね、古橋さん?」

712以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:24:34 ID:seYST57A
………………幕間2 「それは」

文乃 「……ってことで、桐須先生に昼休みにめっちゃ怒られたよ」 ズーン

文乃 「やっぱりわたし、桐須先生に嫌われてるのかなぁ……」

成幸 「ああ……」

うるか 「うん……」

理珠 「まぁ……」

成幸&うるか&理珠 「「「それは単純に古橋(文乃)(文乃っち)が悪い(です)よ」」」

文乃 「わーん! そんなの分かってるよー!」

文乃 「だからってそんな3人で追い打ちかけなくたっていいでしょー!」

おわり

713以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:27:04 ID:seYST57A
>>1です。読んでくださった方ありがとうございました。

数えてみたらこれで49個目でした。
次で50個になります。


感想、本当に励みになります。ありがとうございます。嬉しいです。
ないとは思いますが、書いてほしい題材やキャラ、設定等ありましたらレスいただければ考えます。
もしあれば、レスしていただければ嬉しいです。


また投下します。

714以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 00:46:39 ID:Ii.dLlQ6
おつんこっこ
キスをしないと出れない部屋の他の人バージョンとか
>>1の書きやすい人がいれば

715以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/23(土) 01:48:22 ID:Gc9tOhZM
更新速くて嬉しい。おつです!

酔ってないデレた桐須先生が読みたいです。

716以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/26(火) 11:19:20 ID:AlEcOYuU
おつおつ

717以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/02(土) 22:56:58 ID:BODDsAFI
>>1です。投下します。
>>714さんのお題です。
先に言っておきますが、また夢オチです。

【ぼく勉】 成幸 「キスしないと出られない部屋?」

718以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/02(土) 22:57:56 ID:BODDsAFI
………………

成幸 「なんてことだ」

成幸 「キスしないと出られない部屋に閉じ込められてしまったぞ……」

理珠 「キス……」

理珠 「………………」


―――― 『私は別にッ』

―――― 『緒方危な……ッ』


理珠 「はうっ……」 ボフッ

成幸 (まぁ……やっぱりそうなるよな。俺も恥ずかしいし……)

成幸 (っていうか、それ以前に、だ

文乃 「キス……///」  うるか 「き、キスかぁ……///」

真冬 「バカらしいわね。まったく……」  あすみ 「その割には顔赤いですよー? まふゆセンセ?」

成幸 (普通こういう部屋ってふたりで閉じ込められるものじゃないのか!?)

成幸 (何で俺含めて六人も放り込まれてるんだ!?)

719以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/02(土) 22:58:36 ID:BODDsAFI
………………

真冬 「まず状況を整理しましょう。現状、我々は6人はこの部屋に閉じ込められている」

真冬 「電気水道ガスなどのライフラインは正常。食料も当面は心配なさそうね」

真冬 「この部屋から出る唯一の方法は、きっ……キスをすること」

真冬 「理屈は知らないけれど、キスをすれば、この部屋の鍵が開けられるそうよ」

あすみ 「改めて説明されるとわけわかんない上にアホすぎるな……」

文乃 「まぁ、その通りなんですけど……」

うるか 「キス……キス……キス……」

理珠 「うぅ……」

文乃 「約二名そのアホな状況以上にアホっぽくなっちゃってるので……」

成幸 (……さすが天才たち。状況の飲み込みと処理が早い)

成幸 (俺は未だにこのわけのわからない部屋に戸惑っているんだけど……)

720以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/02(土) 22:59:27 ID:BODDsAFI
あすみ 「………………」

ニィ

あすみ 「ま、なんにせよいつまでもここにいるわけにもいかんだろ」

あすみ 「勉強道具はないし、お前たちは学校があるだろうし、センセも仕事がありますよね?」

真冬 「まぁ、その通りだけど、かといってどうすることも……」

あすみ 「はぁ? 先生、本気で言ってます?」

あすみ 「しちゃえばいいじゃないですか、キ・ス」

真冬 「!? は、ハレンチよ、小美浪さん! そんなことできるわけがないでしょう!」

あすみ 「ハレンチて……。先生、年頃の女の子じゃないんだから……」

あすみ 「なんだったら、アタシがしますよ? なぁ、後輩?」

成幸 「!? お、俺ですか!?」

あすみ 「そりゃ男はお前しかいないんだからしょーがねーだろ?」

成幸 「べっ、べつに、男女でしろとは指定されていないんですから……」

あすみ 「ほー。つまりお前は、アタシと女子誰かの百合百合しいキスを見たい、と?」

あすみ 「このスケベ♪」

721以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/02(土) 23:00:09 ID:BODDsAFI
成幸 「ち、違いますよ! そういうことじゃないです!」

文乃 「へぇ……。成幸くんそういう趣味なんだ」 ジトーーッ

理珠 「そういえば、私と関城さんが一緒にいるとき、ときどきいやらしい視線を感じます……」 ジトーーッ

うるか 「あたしがリズりんのおっぱい揉んでるときも顔を真っ赤にしてたよね」 ジトーーッ

真冬 「ふっ、不潔! 唯我くん、あなたは女子をどういう目で見ているの!」

成幸 「だから違いますってば!」

あすみ 「こんな後輩の前で女子同士キスなんかしようもんならどうなるか分かりませんよ?」

あすみ 「後輩の夜のお供にされちゃうかもしれないですね、センセ?」

真冬 「夜のお供? 一体それは何の話かしら?」

理珠 「?」  うるか 「???」

文乃 「せっ、先輩、何言ってるんですか! もうっ……///」

あすみ (マジかよ。古橋以外全員訳分からない顔をしてるぞ。先生まで……)

成幸 「?」

あすみ 「ってお前もかよ!」

722以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/02(土) 23:00:40 ID:BODDsAFI
あすみ 「……オホン。何にせよ、後輩の前で女子同士のチューは御法度ということで、」

成幸 「すごく釈然としませんけどもうそれでいいです」

あすみ 「しっ、仕方ねーから、アタシがキスしてやるよ。光栄に思えよ?」

うるか&理珠&文乃 「「「!?」」」

成幸 「へ……!? ほ、本気ですか先輩!?」

あすみ 「仕方ねーからだって言ってるだろ。べつに、アタシだってしたいわけじゃないけどさ……///」

あすみ 「ほら、後輩、こいよ」

成幸 (誘い方がめっちゃ男らしい……)

成幸 「え、えっと……」

真冬 「待ちなさい。それは不純異性交遊に当たるわ。教師として許可できません」

真冬 「キスとは、とても神聖なことのはずよ。強制されてするものではないわ」

あすみ 「っ……」

成幸 (考え方意外と乙女なんですね、先生……)

723以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/02(土) 23:01:30 ID:BODDsAFI
理珠 「そ、その通りです! 以前、成幸さんも言っていました!」


―――― 『キスというのは女子にとって…… いや男子にとっても神聖なものでなくてはならんのだ!!』


成幸 「!?」

うるか 「へぇ〜……」 ジトーッ

文乃 「成幸くん、りっちゃんにキスの講釈を垂れるなんて、すごいね」 ジトーッ

うるか 「そういえば、一学期に誰かとキスしたんだもんねー」 ジーーーーッ

文乃 「一体誰とキスしたんだかねー」 ジーーーーッ

成幸 (なぜ俺が針のむしろに……!?)

理珠 「……!?」 ビクッ

真冬 (……やはり、事故とはいえ、唯我くんと接吻をしてしまった緒方さんは辛そうだわ)

真冬 (教育者として、そんな緒方さんにこれ以上キスの話を聞かせるわけにはいかない。早急に手を打たなければ……)

真冬 (……致し方ないわね)

724以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/02(土) 23:02:22 ID:BODDsAFI
真冬 「……生徒に変な役目を与えるわけにはいきません」

成幸 「せ、先生……!」 パァアアアアアア……!!!

成幸 (さすがは桐須先生だ。キスなんてバカげた解決方法に頼らない手を考えてくれたんだ……)

真冬 「唯我くんには申し訳ないことをしてしまうけれど、私が唯我くんとキスをします」

成幸 「今の話の流れで何でそうなるんですか!?」

あすみ 「へぇー?」 ニヤリ

あすみ 「アタシはもう生徒じゃないんだから気にする必要ないんじゃないですか?」

真冬 「……? 何が言いたいのかしら、小美浪さん?」

あすみ 「ひょっとして先生、後輩とキスしたいだけなんじゃないですかー?」

真冬 「なっ……」 カァアアアア…… 「憤慨! なんてことを言うの、小美浪さん!」

あすみ 「そんな顔を真っ赤にして、ますます怪しいなー?」

真冬 「こっ……小美浪さんっ!」

725以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/02(土) 23:03:13 ID:BODDsAFI
成幸 (ああもう、また先輩、先生のことからかって遊んでるよ……)

成幸 (先生も乗せられやすいんだから……)

チョンチョン

成幸 「ん……? うるか?」

うるか 「ねぇねぇ、成幸。早くこんな部屋出て、勉強したいよね?」

成幸 「まぁ……そりゃそうだけど……」

うるか 「……ん、じゃあ……」 カァアアアア…… 「さっさと、出なきゃだよね」

成幸 「あ、ああ、そう、だな……? いや、ちょっと……」

成幸 (何でどんどん距離を詰めてくるんだうるか!?)

うるか 「動かないでよ、成幸。あたしだって恥ずかしいんだからさ……」

成幸 「いや、待て、うるか、お前、まさか……わっ」

ドテッ

成幸 「いててて……っ!?」

うるか 「えへへ……もう逃げられないよ、成幸っ」

726以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/02(土) 23:03:51 ID:BODDsAFI
成幸 (ま、まずい! このままじゃ、うるかにキスを……)

成幸 (うるかと、キス……)


―――― 『だからずっと…… ちゃんと見ててねっ!!!』


成幸 「っ……///」

うるか (えへへ……成幸と、キス……キス……)

グイッ

うるか 「ふぐっ……」

文乃 「ストップだよ、うるかちゃん。どうどう」

うるか 「文乃っち! 何するのさー!」

文乃 「……ねぇ、うるかちゃん、気づいてる?」

文乃 「倒れた成幸くんに覆い被さってるうるかちゃん、控えめに言って痴女さんみたいだよ?」

うるか 「ふぇっ……!?」 ハッ 「ち、違うよ!? あたし、その……」

うるか (あたし、一体何やってんのー!?)

727以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/02(土) 23:06:07 ID:BODDsAFI
成幸 「ふぅ、助かった……」

文乃 「大丈夫、成幸くん?」

成幸 「ありがとな、古橋。うるかの奴、一体どうしたんだか……」

文乃 (うん。それで気づかないあたり君は本当に君だよね、成幸くん)

文乃 「………………」 チラッ

理珠 「はうぅ……///」

あすみ 「先生、どんだけ後輩とキスしたいんですかー?」

真冬 「だ、だから違うと言っているでしょう!」

うるか 「うぅ……あたしってば、なんて大胆なことを……///」

文乃 (……みんな、なんかすごいことになってるなぁ)

文乃 (……ひょっとしてひょっとすると、これは)

文乃 「……チャンス、かな」 ボソッ

728以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/02(土) 23:06:39 ID:BODDsAFI
成幸 「ん? なんか言ったか、古橋?」

文乃 「……ううん。なんでもないよ」

文乃 (そう、そうだよ)

文乃 (うるかちゃんとりっちゃんは言わずもがな成幸くんのことが大好きだし、)

文乃 (小美浪先輩は成幸くんと恋人のフリをしてるらしいし、)

文乃 (桐須先生は定期的に成幸くんを家に招いているらしいし……)

文乃 (……うんうん。そういう人たちに、キスを義務的にさせるなんて、やっぱりダメだよね)

文乃 (その点わたしは、成幸くんのことを弟としか思っていないから問題ないし)

文乃 (ここは、わたしがキスをするべきかな!)

文乃 「………………」

文乃 (べつに、わたしが成幸くんとキスをしたいわけじゃないからね!)

729以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/02(土) 23:07:19 ID:BODDsAFI
文乃 「ねぇ、成幸くん」

成幸 「ん?」

文乃 「わたしは君のお姉ちゃんです」

成幸 「……は?」

文乃 「わたしは君のお姉ちゃんです」

成幸 「いや、えっと……」

文乃 「……わたしは君のお姉ちゃんです」

成幸 「は、はい。文乃姉ちゃん……」

文乃 「よろしい。わたしは君のお姉ちゃんなので、何の問題もありません」

成幸 「いや、あの……えっと、何の話?」

文乃 「だから……っ」

文乃 「わたしと君は姉弟だから、キスをしても何の問題もないって言ってるの」

成幸 「お前まで何とち狂ったこと言ってんだ!?」

730以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/02(土) 23:07:56 ID:BODDsAFI
理珠 「む? 何をしているのですか、文乃」

うるか 「!? 文乃っち、ひょっとして成幸とキスしようとしてる!?」

文乃 「へっ!? いやいやいや、そんなことしてないよ!?」

真冬 「ダメよ、古橋さん! そんなそんな役目、あなたにさせるわけにはいかないわ!」

あすみ 「そんなこと言って後輩とキスしたいだけのくせにー」

真冬 「なっ……! だ、だからそうではないと言っているでしょう!」

ワーワーギャーギャー

成幸 (あ……阿鼻叫喚だ……。止めないと)

成幸 「みんな、ちょっと落ち着いて……」

ドン!!!

成幸 「わっ……!?」 (誰かの手が当たって、バランスが……!)

731以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/02(土) 23:08:45 ID:BODDsAFI
コケッ

成幸 「うおっ……!?」 (やば! 倒れ……!)

文乃 「!? 成幸くん、危ない!」

理珠 「成幸さん!」

うるか 「成幸!」

真冬 「唯我くん、手を……!」

あすみ 「後輩!」

ドタドタドタッ……!!!

成幸 「……!?」

チュッ……

?? 「あっ……」

?? 「今、くちびる、当たって……」

成幸 (い……今のって、キス……?)

……………………………………

…………………

732以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/02(土) 23:09:19 ID:BODDsAFI
………………唯我家

成幸 「……ん……あっ……」

成幸 「……き……キス!?」

ガバッ

成幸 「………………」

成幸 「……夢、か」

成幸 「夢……」


―――― 『今、くちびる、当たって……』


成幸 「っ……」 カァアアアア……

成幸 「いや、でも、夢だし。うんうん。夢だから、べつに……」

成幸 「………………」

成幸 (……いやキスする夢を見るってヤバいだろ常識的に考えて!!)

成幸 (っていうか 『キスしないと出られない部屋』 !? バカなのか俺は!?)

733以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/02(土) 23:09:56 ID:BODDsAFI
成幸 (……いや、いやいや、それより)


―――― 『後夜祭で打ち上げられる一発目の花火』

―――― 『そいつが上がった瞬間に触れ合っていた男女は 必ず結ばれるんだってさ……』


―――― 『あ……ありが……』


成幸 (あのときと、同じ相手……)

ドキドキドキドキ……

成幸 (俺は……)

成幸 (ひょっとして、あのときのことを意識してるのか……?)

成幸 「………………」

成幸 (“必ず結ばれる” か……)

成幸 (……いやいやいや)

成幸 (何を考えてるんだろうな、俺は。恥ずかしい)

734以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/02(土) 23:10:28 ID:BODDsAFI
………………???

?? (っ、何で、あんな夢……)

?? (『キスしないと出られない部屋』 なんて、何を考えて、そんな……)

?? 「………………」


―――― チュッ……


「っ……///」

ソッ……

?? (残ってる、この、くちびるに……)

?? (彼とのキスの、感触が……)

?? 「……えへへっ」

おわり

735以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/02(土) 23:13:28 ID:BODDsAFI
>>1です。読んでくださった方ありがとうございました。

>>714さんが期待したようなのかは分かりませんが、お題ありがとうございました。
>>715さんのもすぐに書けると思います。

また投下します。

736以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/03(日) 00:25:20 ID:jWKUPpx6
おつつつ

737以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/03(日) 01:51:41 ID:EzaVMotg
控えめに言って最高だわ

738以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/03(日) 09:29:02 ID:hPSwbrG6
からかう先輩もからかわれる先生もかわいい

739以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/03(日) 14:28:06 ID:3OoVCj/I
おつ

740以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:12:17 ID:./mOxEco
>>1です。投下します。

【ぼく勉】 成幸 「あの日、この境内で」

741以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:12:58 ID:./mOxEco
………………夕方 図書館

成幸 「………………」

あすみ 「………………」

カリカリカリ……

成幸 「んっ……。もうこんな時間か」

成幸 「先輩、そろそろ帰りませんか? 日が暮れちゃいますよ」

あすみ 「ん? ああ、いつの間にか夕焼けだな。時間経つのはえーなー」

成幸 「それだけ集中できてるってことですね。いいことです」

あすみ 「あんまり問題が解けてないのがアレだけどな。はぁ……」

成幸 「焦っても仕方ないですよ。ちゃんと理科系科目の苦手潰しは進んでるんですから」

あすみ 「……ま、そうだな。今日もありがとよ、センセ」

あすみ 「じゃ、まぁ、帰るとするか」

成幸 「はい! 暗くなるといけないですから、送っていきますよ、先輩」

あすみ 「ん……」 プイッ 「じゃあ、ま、お願いするわ」

742以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:13:54 ID:./mOxEco
………………帰路

成幸 「……なので、その値は無視できます。測定結果に影響を与えない微量ですから」

あすみ 「んあー、そうか。いちいち有効数字で考えないといけないか……」

成幸 「加算と乗算ではそのあたりも意味合いが変わってきますから、」

成幸 「常識の範囲内で、その数字が計算に必要かどうかを判断するといいと思いますよ」

あすみ 「ん、頭に留めとくわ」

あすみ 「ん……?」

成幸 「あ、神社……ここって……」

あすみ 「?」

成幸 「……この神社、なつかしいな。」

あすみ 「なつかしい? この辺、昔来たことあるのか?」

成幸 「……まぁ、そうですね。最近はあまり寄ることもなかったですけど」

743以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:15:46 ID:./mOxEco
あすみ 「ふーん、そっか。偶然だな。アタシも昔はよくここに来てたよ」

成幸 「先輩もですか?」

あすみ 「うちから一番近い神社だからな。それに、思い出の場所でもあるから……」

成幸 「思い出……?」

あすみ 「あ、いや、なんでもねーよ。そんな大した話じゃねーし」

成幸 「そうですか。いや、実は俺もこの神社には思い出……というよりは、思い入れがあるんですよ」

あすみ 「……? 後輩?」

成幸 「……すみません、先輩。少し寄っていってもいいですか?」

成幸 「久しぶりにお参りをしていきたいんです」

あすみ 「……ん、わかった。ついでだ。アタシもお参りしてくとすっかな」

744以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:17:46 ID:./mOxEco
………………神社

チャリンチャリン……パンパン

成幸 「………………」

あすみ 「………………」

チラッ

あすみ (……熱心な顔してまぁ。何をお願いしてるんだか)

あすみ (まぁ、受験生なんだから、当然志望校への合格とかだろうけどな)

成幸 「………………」

パチッ

成幸 「……お待たせしました、先輩」

あすみ 「いやいや、べつに待っちゃいねーよ。何をお願いしてたんだ?」

成幸 「お願いはしてないです。ただ、ありがとうございました、って」

あすみ 「?」

成幸 「あ、いや……」 アセアセ 「すみません、わけ分かんないですよね」

成幸 「大したことじゃないんです。忘れてください」

745以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:18:21 ID:./mOxEco
あすみ 「意味深なことばっか言いやがって。気になるだろ」

あすみ 「……お前がいいなら、教えてくれよ。この神社にどんな思い入れがあるんだ?」

成幸 「あ、えっと……」

成幸 「……ほんとに、大した話じゃないですよ? それに、楽しくもない話だし……」

あすみ 「アタシが気になるから聞いてんだ。もしお前がいいってんなら、」

あすみ 「受験勉強の息抜きだ。ここで少し話してくれよ。お前の昔の話をさ」

ニィ

あすみ 「やっぱりカノジョとしては、気になるだろ? カレシの昔の話なんて」

成幸 「もう、先輩は……」

ハァ

成幸 「……分かりました。じゃあ、話します。あれは、もう五年以上前のことかな」

成幸 「中学に上がってすぐくらいの連休に、高熱を出したんです」

………………………………

………………

746以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:18:56 ID:./mOxEco
………………五年前 春 深夜

水希 「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」

成幸 「あ……ああ、水希……ゴホッ、ゴホッ……」

成幸 「うつるといけないから、離れてなさい……ゴホッ……」

水希 「お母さん! お兄ちゃんすごく辛そうだよ! 熱も全然下がらないし……」

水希 「40度越えてるんだよ!」

花枝 「分かってるわよ。でも、救急車は全部出払っているって言うし、かかりつけのお医者さんもお留守だし……」

花枝 「救急センターの人も、近隣で開いてる病院はないって言うし……」

成幸 「ゲホッ……ゴホッ……」 ゼェゼェゼェ…… 「ごめん、母さん……」

成幸 「父さんがいない、から……俺が、しっかりしてなきゃいけない、のに……」

花枝 「っ……」

花枝 (……そう。あの人はもういない。子どもを守れるのは、私だけ)

花枝 「……水希」

水希 「? 何?」

747以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:19:30 ID:./mOxEco
花枝 「もう五年生よね? ひとりでお留守番できる?」

花枝 「ひとりでお兄ちゃんのこと看ていてあげられる?」

水希 「え……? それは、大丈夫だけど……お母さんは?」

花枝 「私は……」

スッ……スッ……」

葉月&和樹 「「………………」」 Zzzz……

花枝 「葉月と和樹を連れて、人がいる病院を探してみるわ」

花枝 「閉院していても、人がいれば開けてくれるかもしれないから」

水希 「お母さん……」

花枝 「大丈夫よ、水希。つらい思いをさせてごめんなさいね。お兄ちゃんのことよろしくね」

水希 「………………」 コクッ 「うん! 大丈夫! お兄ちゃんのことちゃんと看てるから!」

水希 「お母さん、気をつけてね。何かあったらすぐ戻ってきてね」

花枝 「ええ。それじゃ、いってくるわ。戸締まりをしっかりね」

748以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:20:05 ID:./mOxEco
………………

ドンドンドン

花枝 「……すみません! どなたかいらっしゃいませんか!」

シーン

花枝 「っ……」

花枝 (……これで五軒目。連休中だからでしょうけど、どこもお留守だわ)

花枝 (まだまだ。何軒回ってでも、お医者さんを探さなくちゃ……)

花枝 (水希が待ってる。成幸がつらい思いをしている。それなら、私がへばってる場合じゃない……)

葉月&和樹 「「………………」」 Zzzz……

花枝 「……ふふ、あんたたちは良い子ね、葉月、和樹」

花枝 「あんたたちが寝てくれているだけで助かるわ。ありがとう」

749以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:20:46 ID:./mOxEco
………………数時間後

花枝 「………………」

ゼェ、ゼェ、ゼェ……

花枝 (小さな、個人経営の病院……)

花枝 (灯りは、ついていない……)

花枝 (お願い。誰か、いて……)

ドンドンドン

花枝 「夜分にすみません! どなたかいらっしゃいませんか!」

花枝 「………………」

花枝 「っ……」 グスッ 「っ……ふぐっ……うっ……」

花枝 (……どうしよう。どうしたらいいの?)

トボトボトボ……

花枝 (もし、成幸にもしものことがあったら、私は……)

花枝 (とにかく、一度家に戻って、なんとか……――)

――――――カランカラン……

750以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:21:28 ID:./mOxEco
花枝 「へ……?」

花枝 「神社……?」 (いつの間に、こんなところに……?)

花枝 (神社、か……)

花枝 「………………」

パンパン!!!

花枝 「……お願いします! 神様! 助けてください!」

花枝 「お願いします! お願い! お願い……」

花枝 「……お願い、だから……――」



   「――……どうかしたかね?」



花枝 「へ……?」

?? 「こんな夜更けに抱っこひもひとつで小さなお子さんと一緒に歩き回っているとは……」

?? 「何か事情がおありのようだ。私は医者だ。もし力を貸せることがあれば、何なりと言ってほしい」

花枝 「あっ……あの! た……助けてください!」

751以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:22:42 ID:./mOxEco
………………現在

成幸 「……とまぁ、そんな風に、この神社でお医者さんと出会ったんだそうです」

成幸 「それ以来、母さんに連れられて、この神社にお参りすること何度かあったんですよ」

あすみ 「………………」

あすみ 「……えっ、いや、まさか、いや、いやいや……」

成幸 「? 先輩?」

あすみ 「へっ!? あ、すまん。なんでもない……」

あすみ 「にしても、ドラマみたいなことがあるもんだな」

成幸 「俺も母さんから話を聞いただけだからどこまでほんとか分かりませんけどね」

成幸 「まぁ、この神社でそのお医者さんと出会ったのは本当にただの偶然でしょうけど、」

成幸 「でも、母さんにしてみたら、この神社の神様がそのお医者さんと巡り合わせてくれたと思うでしょうね」

あすみ 「……まぁ、だろうな」

あすみ (……五年前の春。アタシも、そんな話を聞いた事がある)

あすみ (他でもない、アタシの親父から。ここで、急患と出会ったと)

752以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:23:25 ID:./mOxEco
………………五年前

あすみ 「……ったく、親父帰ってくるのおせーなー」

あすみ 「飯作っとけって言ったなら、せめて時間通りに帰ってこいっての」

ドタバタドタバタ……

あすみ 「ん、帰ってきたか。おい、おせーぞ、親父――」

小美浪父 「あすみ、急患だ。悪いが、診療所を開けてくれ。それから入院用のベッドの準備も頼む」

あすみ 「はぁ!? この時間からか!?」

あすみ 「っていうかあんた、今時間外の往診行ってきたばっかだろうが!」

小美浪父 「急患を見つけてしまったのだから仕方ないだろう。いいから早くしろ」

小美浪父 「重度の肺炎だ。命に関わる可能性もある」

小美浪父 「奥さん、とりあえずこの毛布の上に寝かせてあげてください」

花枝 「は、はい」

成幸 「……ゴホッ……ゲホッ……」

753以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:23:59 ID:./mOxEco
あすみ 「っ……」 (本当に辛そうだ。ありゃ高熱が出てるな)

あすみ (その上呼吸も満足にできないんじゃきついだろうな)

あすみ (……ったく。お節介な親父だな)

あすみ 「親父、院内処方用の新しい抗生物質、まだ倉庫から出してねーから後で持ってくる」

あすみ 「解熱剤はいつものとこに入ってる」

小美浪父 「む、分かった」

あすみ 「あと、ストレッチャーと点滴カートも用意するけど、他なんかいるか?」

小美浪父 「今はそれだけでいい。もう寝る時間だというのに、いつもすまんな、あすみ」

あすみ 「ほんとにいつものことだから気にしなくていいよ。小遣いさえ弾んでくれればな」

タタタタタ……

あすみ (……ま、文句垂れつつも親父の手伝いしちまうアタシも、相当アレだけどな)

754以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:24:54 ID:./mOxEco
………………

あすみ 「……ふー」 (……さすがにこの時間にドタバタ走り回ると疲れるな)

小美浪父 「奥さん、もう大丈夫ですよ。熱が下がり始めています」

小美浪父 「抗生物質も点滴で投与しましたから、すぐによくなりますよ」

花江 「あっ……ありがとうございます!」

成幸 「………………」 Zzzz……

花江 「よかった……」 ポロポロポロ 「本当に、よかった……っ」

花江 「なんてお礼を言ったらいいか……」

小美浪父 「そんなことは気にしなくていい。奥さんも夜の街を走り回って疲れだろう」

小美浪父 「患者の容態は安定しているから、大丈夫。心配でも隣のベッドで休んでいなさい」

花江 「すみません……。あ、でも、娘たちが……」

あすみ 「ああ、一緒についてきた女の子と双子ちゃんたちですか?」

あすみ 「それならアタシが見ときますし、隣の部屋で寝かせますよ」

小美浪父 「ああ、すまんな。頼むぞ、あすみ」

755以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:25:43 ID:./mOxEco
………………廊下

水希 「………………」

あすみ 「よっ」

水希 「……!? び、病院の方!」 ガバッ 「あの、お兄ちゃんは!?」

あすみ 「ん、もう大丈夫だよ。解熱剤で熱も下がり始めたし、抗生物質も打った。問題ないよ」

あすみ 「でも、肺炎のウイルスは子どもにうつりやすいから、今は病室に入らない方がいい」

水希 「……はい」

あすみ 「ん。心配だろうけど、我慢できて偉いな。よしよし」 ナデナデ

葉月&和樹 「「………………」」 Zzzz……

あすみ 「……この子たちも良い子たちだな。あれだけ騒いでるのに眠りっぱなしだ」

水希 「……はい。本当に。助かってます」

あすみ 「お前も疲れただろ? 隣の部屋のベッド用意しておいたから、寝ろよ」

あすみ 「そのおチビちゃんたちはアタシが見てるからさ」

756以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:26:16 ID:./mOxEco
水希 「………………」

水希 「……いえ、帰ります」

あすみ 「お、おいおい。もう深夜だぞ? さすがにお前たちだけで帰せねーよ」

水希 「……だって、」

水希 「お兄ちゃんの治療費だって出せるか、わからないのに……」

水希 「その上、入院費用とか、わたしたちの宿泊費用なんて……」

水希 「……そんなの、払えるわけないもん」 グスッ

あすみ 「……あー、なるほど」

あすみ 「あんまり裕福じゃないのか、家?」

水希 「……お父さん、死んじゃった、から……」

あすみ 「そっか……。大変なんだな」

あすみ 「……でも、大丈夫。その点は心配いらねーよ」

あすみ 「大変遺憾なことに、うちの親父は、経営のセンスがゼロだからさ」

水希 「……?」

757以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:26:51 ID:./mOxEco
………………翌日

コンコン

小美浪父 「……? どうぞ」

花江 「失礼します……。すみません、お仕事中に」

小美浪父 「構いませんよ。どうかしたかな?」

花江 「あの、その……お世話になっておいて、大変厚かましいというか、恥ずかしいことなのですが……」

花江 「実は、その、あまり……家に、お金がなくてですね……」

花江 「もちろん、お題はお支払いします。入院費も、私や娘たちの宿泊費も含めて」

花江 「……ですが、その、支払いを待っていただくことは、できないでしょうか?」

花江 「割賦にしていただけると、助かるのですが……」

小美浪父 「………………」

花江 「……っ」

小美浪父 「……あっ、しまった! あー、やらかしてしまったなー。困ったぞー、これは」

花江 「えっ……?」

758以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:27:33 ID:./mOxEco
小美浪父 「私はあなたに、息子さんの健康保険証の提示を求めるのを忘れておりました」

花江 「へ? あ、保険証ならここに……――」

小美浪父 「いやいや、医師法によって、保険証の提示は治療前に求めなければならないと規定されているんですよ」

花江 「え? えっと……」

小美浪父 「いやー、しまった。院内処方の薬も、健康保険なしでやってしまったなー」

小美浪父 「あー、これは明確な医師法、薬事法違反だ。まずいぞー。これはー」

小美浪父 「……そこで、奥さん、ひとつ相談なんですがね」

花江 「……?」

小美浪父 「このままでは私は、医者としてしてはいけないことをしてしまったことになる」

小美浪父 「なので、息子さんの診療記録や入院記録、そして娘さんたちの宿泊の記録もつけないことにする」

小美浪父 「……記録がないなら、お金も取りようがないですね?」

花江 「え……?」

小美浪父 「……と、いうことで、ご相談だ。今回の診療、なかったことにしてくれますね?」

759以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:28:45 ID:./mOxEco
………………ドアの外

あすみ 「……な? うちの親父、経営のセンスゼロだろ?」

水希 「………………」

あすみ 「……?」

水希 「っ……ひぐっ……」 ポタッ…… 「ふ……ぐっ……」 ポタポタポタ……

あすみ 「!? お、おいおい、妹ちゃんよ、何も泣くことはねーだろ」

水希 「……ありがとう……ありがとう、ございます……!」

あすみ 「よーしよし。泣くの我慢しなくていいぞー」 ギュッ 「お前もがんばってんだなー」

あすみ 「小さい弟妹がいるから、気抜けないんだよな。その上、お父さんもいないんだもんな」

あすみ 「それで大好きなお兄ちゃんが倒れちまって、怖かったんだよな」

あすみ 「今はアタシがいるから、たくさん泣いていいぞー」 ナデナデナデ

水希 「ひぐっ……うぇ……うぇええええええええええええええん!!」

あすみ 「よしよーし。がんばったなー。えらいなー。大丈夫だぞー」

あすみ (……ったく。またロハで仕事しやがって親父の奴) クスッ

あすみ (ま、でも……そんな親父だからこそ、アタシも……医者になりたいって思うんだけどさ)

760以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:29:55 ID:./mOxEco
………………現在

成幸 「……実際、病院ではそんな感じだったみたいですよ?」

成幸 「って言っても、やっぱり俺は熱のせいであんまり覚えてないんですけどね」

あすみ 「………………」

あすみ (……あー、うん。まさかあのときの急患が後輩だったとは)

あすみ (そういやあんとき肺炎になってた子ども、よく思い出してみるとこいつそっくりだな)

あすみ (……あのとき、本当に感謝してくれる妹ちゃんとお母さんを見て、)

あすみ (医者になりたいと強く決心することができた。アタシにとっても、この神社の巡り合わせは大切な思い出だ)

成幸 「俺はそのお医者さんたちにまだ会ったことないんですよ」

成幸 「でもいつか、俺がお金を稼げるようになったら、お礼をしにいくつもりです」

成幸 「会って、直接、お礼を言いたいし、ちゃんと治療費も払いたいですから」

あすみ 「………………」

クスッ

あすみ 「……だな。いつか、会ってお礼が言えるといいな、後輩」

成幸 「はい!」

761以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:30:32 ID:./mOxEco
………………小美浪診療所

コンコンコン

小美浪父 「? どうぞ?」

花江 「失礼します。お久しぶりです、先生」

小美浪父 「……またあんたか。何度来れば気が済むんですか?」

花江 「何度来ても変わりませんよ。先生がお金を受け取ってくれるまでは」

小美浪父 「何度も言うがね、私はあの日の診療記録も何も持ってない」

小美浪父 「健康保険の診療記憶にも残っていないはずだ」

小美浪父 「だから、奥さんからお金をもらうことはできないんだよ」

花江 「分かってます。だから、三割負担でなく、十割負担の金額を用意してあるんです」 ニコッ

小美浪父 「いや、だから、そういうことじゃなくてだね……」

花江 「ま、いいです。受け取ってくれるのはいつでも」

花江 「今日は普通に診療してもらおうと思って来たんです。来る途中でちょっとこけちゃって……」

小美浪父 「む、それはいけない。さっそく治療を……」

762以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:31:42 ID:./mOxEco
花江 「その前に、はい、健康保険証。またお代を払えなかったらたまったもんじゃないですからね」

小美浪父 「……奥さん、あんたは私を何だと思ってるんだ?」

小美浪父 「……ん? んんん???」

花枝 「? どうかされました?」

小美浪父 「…… “唯我” ? 唯我さん、とおっしゃるのか」

花枝 「……あれ? 名乗ってませんでしたっけ?」

小美浪父 「……唯我、成幸、くん。ああ、そうか。なるほど。あのときの子が……」

花枝 「? 先生?」

小美浪父 「……奥さん。いや、唯我さん。ひとつだけお願いがあるんだが、」

花枝 「何ですか?」

小美浪父 「……うちの娘を、息子さんの嫁にもらってやってくれないだろうか?」

花枝 「!?」 キラン 「その話、詳しくお聞かせ願えます!?」

おわり

次回! 暴走する小美浪家の父! 唯我家の母!
唯我家・小美浪家、結納編突入!
うそです。

763以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:34:31 ID:./mOxEco
>>1です。読んでくださった方ありがとうございました。

過去の妄想をしていたら止まらなくなって書きました。
二次創作としてはわたしもあまりいい手とは思いません。
当然、あまり愉快に思わない人もいると思います。申し訳ないことです。

>>715さんのもすぐに投下できると思います。お待たせしてしまっていたらすみません。

また投下します。

764以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:49:41 ID:0UL9UOoI

結納編気になるな

765以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 00:53:10 ID:./mOxEco
連投すみません。>>1です。
IME任せにしてたら名前の漢字をいくつか間違えていました。申し訳ないことです。
以後気をつけます。
それから>>758あたりの法律関連の話は厳密に言えば間違ってるので一応注意をしてください。(そんな話を始めたら病院周りの描写は矛盾点や間違いだらけなのですが、悪しからず)

ともあれ、ここのところ少しノリと勢いだけで書きすぎかなと思います。
がんばりますので、今後も読んでいただけると嬉しいです。

766以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 07:54:10 ID:P90oUCa.
おつ
ずいぶんと本格的なスレだな

767以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 12:44:39 ID:V.HkGXtE
これは運命ですね

768以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 12:54:00 ID:YslaApJ2
>>715だけど、>>1のペースで書いてくれ

おつでした

769以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:35:46 ID:./mOxEco
>>1です。投下します。

【ぼく勉】 文乃 「手に入れたかったのなら」

770以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:36:17 ID:./mOxEco
………………問94直後

文乃 「……はぁ」


―――― 『わーっ 大っきいドハっちゃん!』

―――― 『じゃあ 古橋にやるよ』

―――― 『ええっ!! いいの!? ありがとー!!』

―――― ((また…… 成幸くんからプレゼント……)) ぎゅ……

―――― 『そんなに…… 好きなのか?』

―――― 『ぜ……ッ 全然っ ちがいますけどっ!!!』

―――― 『じゃあさ…… ぶしつけで悪いんだが…… アタシがもらっても……いいか?』


文乃 (あの大っきいドハっちゃん、本当だったらわたしがもらっていたのにな……)

モヤモヤモヤモヤ

文乃 (……一回、わたしにくれたのに)

文乃 (成幸くんの、バカっ……)

771以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:37:28 ID:./mOxEco
文乃 「………………」

文乃 (……なんて、ね)

文乃 (あれは元々成幸くんのもので、誰にあげるかを決めるのは成幸くんだもんね)

文乃 (小美浪先輩は、ドハっちゃんが大好きなんだもんね)

文乃 (そんな先輩に、ドハっちゃんをあげるのが、自然だよね……)

文乃 (そう。それでいい。それでいいはずなんだ)

文乃 (本当に好きな人が、好きなものを手に入れた方がいいに決まってる)

文乃 (手に入れたいのなら、欲しいと思わなくちゃいけない……)

文乃 (だから……)


―――― ((うん 大丈夫 絶対ない))

―――― ((絶対好きになんてなるはずがない 友達が 好きな人のこと))

―――― 『もー先輩…… そんなに好きなら最初から素直に言ってくれればいいのに……』


文乃 「っ……」 ズキッ

772以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:38:00 ID:./mOxEco
………………翌日 一ノ瀬学園

うるか 「でね! 例の友達がね、やっぱりあきらめたくないって!」

うるか 「本気で、一番を取りたい……本当に、成ゆ――男の子の一番になりたいんだって」

うるか 「そのために、がんばる。本気で、一番になる。ずっと、自分のことを見ていてもらいたいから!」

うるか 「えへへ、それで、文乃っちにお礼を言ってほしいって言ってたから、代わりに言うね?」

うるか 「ありがとう、文乃っち!」

文乃 「……うん。どういたしまして。そのお友達によろしくね」

文乃 (ふふ、相変わらずバレバレだけど、可愛いなぁうるかちゃん)

文乃 (とうとう、気持ちを固めたんだね)

文乃 (成幸くんの一番になるって、決めたんだね)

文乃 (そっか……)

うるか 「ん、もうこんな時間! 今日は部活に顔出す約束だからもう行くね!」

うるか 「じゃーねー、文乃っち!」

文乃 「うん。練習がんばってね。また明日、うるかちゃん」

文乃 「………………」 ハァ 「……今日は勉強会の約束もないし、帰ろっかな」

773以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:38:31 ID:./mOxEco
理珠 「おや、文乃ではないですか」

文乃 「あ、りっちゃん。今帰り?」

理珠 「はい。今日はお店のお手伝いなので」

文乃 「そっか。じゃあまっすぐ帰らないとだね」

文乃 「………………」

文乃 「……もしよかったら、わたしも一緒に帰ってもいいかな」

文乃 「久々にりっちゃんの家でうどんが食べたいな、って」

理珠 「本当ですか。嬉しいです」 フンスフンス 「一緒に行きましょう!」

文乃 「うん!」

文乃 (なんか昨日からモヤモヤして落ち着かないけど!)

文乃 (りっちゃん家のおうどん何杯か食べればきっと落ち着くよね!)

774以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:39:02 ID:./mOxEco
………………帰路

理珠 「ふむふむふむ……」

ペラ……ペラ……

文乃 「もー、りっちゃん。歩きながら参考書読んだら危ないよ」

文乃 「成幸くんじゃないんだから……」

理珠 「……あっ、すみません、つい」

理珠 「たしかに今のは、成幸さんみたいでしたね……」

文乃 「まったくもう。りっちゃんは成幸くんに影響受けすぎだよ」

文乃 「ほんとに……」

文乃 (……ほんとに、成幸くんのこと、大好きなんだね、りっちゃん)

理珠 「………………」

理珠 「……そう、ですね」 クスッ 「春に出会って、まだ半年ほどしか経っていないのに、」

理珠 「成幸さんに、どれだけお世話になってるか。だから、つい真似もしてしまいます」

文乃 (あれ……? 少し怒るかと思ったけど……)

文乃 (りっちゃん、なんか嬉しそうだな……)

775以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:39:39 ID:./mOxEco
文乃 「……りっちゃんは、さ」

理珠 「? はい?」

文乃 「成幸くんのこと、どう思ってるの?」

理珠 「へ……?」

理珠 「………………」

理珠 「そうですね……。ときどきヘンなことをしますし、むっつりさんですけど……」

理珠 「尊敬していますよ。成幸さんのこと」

文乃 「そっか……。うん、そうだよね」

ニコッ

文乃 「成幸くん、良い人だもんね」

理珠 「はいっ!」

文乃 (……そっか。そうだよね。りっちゃんは、少なくとも、こうやって素直に言うことはできるもんね)

文乃 (今はまだ、恋心がどういうものか分かっていなくて、成幸くんへの感情を掴んでいないだけで、)

文乃 (きっと、りっちゃんが恋を知ったら、すぐに成幸くんにアプローチし始めるだろうな)

文乃 (……それこそ、うるかちゃんよりも積極的なくらい)

776以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:40:23 ID:./mOxEco
? 「ん? おお、古橋と緒方じゃないか」

文乃 「へっ? 成幸くん!?」

理珠 「小美浪先輩も一緒ですか。こんにちは」

あすみ 「おう。今から一緒にバイトなんだ」

成幸 「ま、今日は勉強メインの日ですけどね」

文乃 (先輩と成幸くん、仲よさそう……)

文乃 (でもまぁ、このふたりはきっと、ただの先輩後輩ってだけの関係だよね)

文乃 (先輩みたいなオトナっぽい性格の人が、成幸くんみたいな男の子に本気になるわけないし)


―――― 『いや? けっこーいいと思ってっけど? カワイーじゃんそいつ』

―――― 『ま ウソだけど』


文乃 (恋人のフリも、お父さんを誤魔化すためのものだって言うしね)

文乃 (先輩はただ成幸くんをからかって遊んでるだけだろうし)

777以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:41:03 ID:./mOxEco
成幸 「古橋と緒方も今から一緒に勉強か?」

理珠 「はい! お店のお手伝いをしながらうどんを食べながら勉強します!」

あすみ 「忙しそうな勉強会だな……」

ポヨン……

文乃 「ん……あっ……!」

あすみ 「ん?」

文乃 「そ、そのバッグについてるドハっちゃん、かわいい〜! ちっちゃーい!」

あすみ 「おお、このちっちゃいやつか。へへ、いいだろ」

文乃 「これ、どこで売ってるんですか? こんなの持ってる人初めて見ましたよ」

あすみ 「ん……えっと、まぁ、その、なんだ……」

カァアアアア……

あすみ 「……後輩が、作ってくれたんだよ」

文乃 「え……?」

文乃 (作った? 成幸くんが? 手作り?)

778以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:41:43 ID:./mOxEco
文乃 (いや、いやいやいや、そんなことより……)

あすみ 「……///」

文乃 (何その可愛い照れ顔はーーーーー!?)

成幸 「ほら、前、一度お前に渡した大きいドハっちゃんぬいぐるみがあっただろ?」

成幸 「色々あって、あれがなくなっちゃって、先輩が残念そうだったからさ」

成幸 「作ってあげたんだ。小さくてブチャイクになっちゃったけど……」

理珠 「ほうほう。ドハっちゃん……。クラスメイトがハマってると言っていましたね」

理珠 「でも、意外です。先輩もこういう子どもっぽいものに興味があるのですね」

あすみ 「うぐっ……」

あすみ 「……わ、悪かったな。どうせキャラじゃねーよ。でも……」


―――― 『……キャラじゃなくたって いいじゃないですか』

―――― 『俺…… 素直に喜んでくれる先輩見れて 嬉しかったです』


あすみ 「少なくともアタシは、これが好きだってことを、隠したくないんだよ」

あすみ 「わざわざ手作りしてくれた後輩のためにも、さ……」

779以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:42:25 ID:./mOxEco
理珠 「あっ……」 アセアセ 「すみません。その、バカにしたりするつもりはなかったんです」

理珠 「ヘンな風に聞こえてしまったならすみません。その……」

理珠 「先輩に似合っていて、とても可愛いと思います。ただ、意外だっただけで……」

あすみ 「ん、おお、ありがとな。このブチャイクさが可愛くてさー」

理珠 「たしかによく見ると、ブサイクながらもどことなく愛嬌が……」

文乃 「………………」

文乃 (……ああ、そっか)

成幸 「先輩……」 ジーン 「そんな風に思っててくれてたなんて……」

あすみ 「なっ……! 何涙流してんだ! 恥ずかしいやつだな!」


―――― 『もー先輩…… そんなに好きなら最初から素直に言ってくれればいいのに……』

―――― 『う うるせーな こんなのキャラじゃねーしハズいだろ……』


文乃 (もう、あのときとは違うんだ。きっと、先輩はもう、“好き” から逃げない……)

文乃 (きっと先輩は、成幸くんのことを憎からず想っている。それが、本当に自覚できたとき、きっと……)

文乃 (先輩もまた、成幸くんの心を手に入れようと、がんばるだろう……)

780以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:43:17 ID:./mOxEco
………………緒方うどん

理珠 「かけうどん一杯、お待ちどう、です」 コトッ

文乃 「……ん、ああ、ありがとうりっちゃん」

文乃 「おだしのいい匂い〜! 食欲がそそられるよね〜。いただきまーす!」

理珠 「では、私も、いただきます」

ズルズルズル……

文乃 「………………」


―――― 『そのために、がんばる。本気で、一番になる。ずっと、自分のことを見ていてもらいたいから!』

―――― 『尊敬していますよ。成幸さんのこと』

―――― 『少なくともアタシは、これが好きだってことを、隠したくないんだよ』


文乃 (……みんな、すごいなぁ)

文乃 (自覚のあるなしに関わらず、たぶん、みんな、成幸くんのことを……)

文乃 (わたし……わたしは……)


―――― 『じゃあさ…… ぶしつけで悪いんだが…… アタシがもらっても……いいか?』

781以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:43:47 ID:./mOxEco
文乃 「っ……」

文乃 (……わたしは、欲しいって言えなかった)

文乃 (だって、欲しいのか、欲しくないのか、わからなかったから……)

文乃 (でも、今さら、やっぱり欲しかったなんて思ってる……)

文乃 (……ほんと、浅ましい女だ、わたし。きっと、これからもそんなことばかりなんだろうな)

文乃 (成幸くんのことも、きっと……――)

理珠 「――……文乃?」

文乃 「へっ!?」 ビクッ

理珠 「大丈夫ですか? ボーッとしていましたけど……」

文乃 「え? あ、あはは、ごめんごめん。うどんがあんまりにも美味しくてさー」

スカッ

文乃 「あ、あれ? もうない……?」

理珠 「無表情でうどんをすすり続けていましたから……」

文乃 「あ……そっか……」

782以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:44:32 ID:./mOxEco
文乃 「………………」

理珠 「……大丈夫ですか、文乃? 元気がないように見えますが」

文乃 「……うん。大丈夫だよ。でも、ちょっとだけ、頭が痛いかも」

文乃 「ごめん、りっちゃん。うどんごちそうさま。今日はもう帰るね」

理珠 「……えっ、一杯だけで大丈夫ですか?」

文乃 「もー、りっちゃん。当然でしょ。女子高生だよ? うどんを何杯も食べたりしないよ」

理珠 (いつもなら軽く三杯は食べていくでしょう……)

文乃 「じゃあ、りっちゃん、お会計よろしく」

理珠 「あ、はい。いま行きます」

理珠 (文乃……)

理珠 (やっぱり、元気がないように見えます……)

783以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:45:05 ID:./mOxEco
………………夜 唯我家

成幸 「………………」

カリカリカリカリカリ……

成幸 (今日は先輩の勉強を見るのがメインだったから、あまり自分の勉強が進まなかったからな……)

成幸 (今日の分だけは少なくとも終わらせないと……)

prrrrrr……

成幸 「ん……? 緒方から電話……?」

ピッ

成幸 「もしもし? 緒方か?」

理珠 『はい、こんばんは、成幸さん。突然電話してしまってすみません』

成幸 「いや、べつに構わないよ。何か分からないところでもあったのか?」

理珠 『いえ、そういうことではなく……ちょっと、相談したいことが』

成幸 「相談? ああ、俺が聞けるようなことなら話したらいいよ」

理珠 『ありがとうございます。助かります』

理珠 『……その、実は、文乃のことなのですが……』

784以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:45:47 ID:./mOxEco
………………古橋家 文乃の部屋

文乃 「………………」

文乃 (……勉強、しなくちゃいけないのに)

文乃 (こんなことで勉強が手につかなくなるなんて、自分が情けないよ)

文乃 (わたしは……)


―――― 『大丈夫 絶対ない 絶対好きになんてなるはずがない 友達が 好きな人のこと』

―――― 『起きてる』

―――― 『ぜ……ッ 全然っ ちがいますけどっ!!!』


文乃 (わたし、は……)

文乃 (好き、なの……?)

文乃 (好きになっても、いいの……?)

文乃 (りっちゃんとうるかちゃんが好きな人のことを、好きになっても……)

文乃 (わたしは……)

785以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:46:26 ID:./mOxEco
………………唯我家

理珠 『……と、そんな様子で。うどんだって一杯しか食べなかったんですよ』

理珠 『いつもだったら軽く三杯食べてカレー丼も食べて帰るのに……』

成幸 (それは食い過ぎだけど、まぁ……)

理珠 『元気もなかったし、体調不良というよりは……その、何かに悩んでいるように見えて……』

理珠 『……心配なんです』

成幸 「……うん。そうだな。大切な友達だもんな。心配だよな」

理珠 『……はい』

成幸 (……緒方の話を整理すると、最初は元気だった古橋が、俺と小美浪先輩と会ってから元気をなくし始めたらしい)

成幸 「………………」

成幸 「……うん、わかった。なんとなく、古橋が元気をなくした理由が分かった気がするんだ」

理珠 『!? 本当ですか!? さすがは成幸さんです!』

成幸 「まぁ、まだ分からないけどな。でも、古橋とは明日話をしてみるよ」

成幸 「大船に乗ったつもり……とは言えないけど、まぁ任せてくれよ」

成幸 「俺はお前たちの 『教育係』 だからさ」

786以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:46:58 ID:./mOxEco
………………

成幸 (……古橋が元気のない原因)

成幸 (心当たりがないわけじゃない。よく考えたら、俺は無神経だった)

成幸 (古橋だって、先輩と同じはずなのに……)

成幸 「……明日の朝まで、数時間。間に合うか。いや、」

成幸 「間に合わせるしかないよな……」

ハァ

成幸 (……まぁ、自分で撒いた種だ。自分で回収するしかない)

成幸 (勉強は……まぁ、明日がんばればなんとかなるだろ!)

成幸 「……っし。今日は久々の徹夜だな!」

成幸 (こんなことが先輩とお父さんにバレたらまた休めって怒られるな……)

787以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:47:41 ID:./mOxEco
………………翌朝 一ノ瀬学園 いつもの場所

文乃 「………………」 ソワソワソワソワ……


―――― 成幸 『おはよう、古橋! ちょっと話があるから、HR前にいつもの場所に来てほしい』


文乃 (……朝起きたら、こんなメッセージが届いてるんだもんなぁ)

文乃 (メッセージの着信時間、すごい早朝だったし。ひょっとして成幸くん寝てないのかな?)

文乃 (でも……)

ドキドキドキドキ……

文乃 (急に呼び出しなんて、一体何なんだろう。びっくりするからやめてほしいよ……)

成幸 「……お、いたいた。おはよう、古橋」

文乃 「っ……」 ビクッ 「お、おはよう。成幸くん」

成幸 「朝から呼び出して悪かったな」

文乃 「それは、まぁ、べつに、大丈夫だけど……」 ドキドキドキ

文乃 「はっ、話って、何かな?」

成幸 「ああ……実は、ひとつ謝らなくちゃいけないかなって思ってさ」

788以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:48:26 ID:./mOxEco
文乃 「謝る……?」

成幸 「いや、俺も考えが足りなかったかな、って」

成幸 「……っていうか、少し考えれば分かることだよな」

文乃 「? 何の話?」

成幸 「誤魔化すなよ。昨日元気がなかったって、緒方が心配してたぞ」

成幸 「……お前も、欲しいんだよな。当たり前だよな」

文乃 「へ……?」


―――― ((好きになっても、いいの……?))


文乃 「へ……へぇえええええええ!?///」

成幸 「……やっぱりそうか。そりゃそうだよな。お前だって欲しいよな」

文乃 「ち、ちょっと待って! 違うから! 違うよ!?」

文乃 「わたしは別に、欲しいなんて思ってないよ!?」

789以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:49:02 ID:./mOxEco
成幸 「誤魔化さなくていいよ。だって、すごく嬉しそうな顔してたじゃないか」

成幸 「……自分のものになるってときに。本当に、嬉しそうな顔を、してたじゃないか」

文乃 「そ、そんな顔してないよ……」


―――― 『起きてる』

―――― 『だから…… あとほんのちょっとだけ…… このままでもいい……?』


文乃 「……!?」

文乃 (……し、してた、かも。あのときは……)

文乃 (いや、だって、あのときは……しかたないじゃない……)

ドキドキドキドキ……

文乃 (でも……)

文乃 「……じ、じゃあ、成幸くんは、どうにかしてくれるの?」

文乃 「わたしが、“ほしい” って言ったら、くれるの?」

ドキドキドキドキ……

790以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:49:33 ID:./mOxEco
成幸 「……ああ、そのために、今日はお前を呼び出したんだ」

成幸 「古橋が欲しいものを、あげるために」

ギュッ

文乃 「へ……?」

ボン!!!!

文乃 「へぇええええええ……///」

文乃 (手……手! 手、握られて……!!)


―――― 『少しひんやりして…… でも心地よく包み込んでくれる ああ…… これはお母さんの 手の……』

―――― 『……成幸くん 前にもこうして手を握ってくれたよね』


成幸 「……古橋」

文乃 「ひゃ、ひゃい!」 ビグゥ!!!

成幸 「だからこれ、受け取ってくれ。あんまり上手じゃないけど……」

文乃 「へ……?」 モニュッ 「…… “もにゅっ” ?」

文乃 「これ、って……ドハっちゃん?」

791以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:50:15 ID:./mOxEco
成幸 「いやー、緒方からお前が元気がないって聞いたとき、ピンと来たんだよ」

成幸 「よく考えたら、あの大きなドハっちゃんぬいぐるみ、手に入れられなかったのは先輩だけじゃないもんな」

成幸 「お前も先輩のために譲ってくれたわけだし、先輩だけにプレゼントするのは悪いかな、って」

成幸 「それで元気がないのかなーって思ったから、昨日作ってきたんだよ」

成幸 「悪かったな、古橋。もっと早く気づいてあげればよかったよ。ごめんな」

文乃 「………………」

成幸 「……古橋?」

文乃 (……まったくもう)

文乃 (ほんと、成幸くんは成幸くんだね)

クスッ

文乃 「……ありがと、成幸くん。これ、大切にするね」

文乃 「えへへ、実は昨日、小美浪先輩がドハっちゃんのぬいぐるみ持ってて羨ましかったんだ」

文乃 「さすが成幸くん。少しずつ女心が分かるようになってきてるね」

792以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:51:24 ID:./mOxEco
成幸 「!? ほんとか!?」

パァアアアアアア……!!!

成幸 「古橋の問題を解き続けてきた甲斐があったな。俺もとうとう女心の単位修得か……」

文乃 「……ふふ、まだまだだよ。これくらいじゃ単位はあげられないよ」

成幸 「ぐっ……さすがは古橋師匠、厳しいな」

文乃 「……ねぇ、成幸くん」

成幸 「うん?」

文乃 「……わたし、決めたよ。もう迷わないし、恥ずかしいとも思わない」

文乃 「わたしも、一番になりたい。尊敬してるって言いたい。欲しいって、言いたい」

文乃 「だって……、」

成幸 「?」

文乃 (……好き)

成幸 「古橋……?」

文乃 (好き、好き、好き……! 好きだから。君のことが……)

文乃 「――――……大好き、だから……!!」

793以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:52:06 ID:./mOxEco
成幸 「へ……?」

カァアアアア……

成幸 「なっ……す、好きって……」

成幸 「あ、そ、そっか。ドハっちゃんのことだよな。はは……」

成幸 (び、びっくりしたぁ……)

文乃 「………………」

クスッ

文乃 「……うん。そうだよ。今は、それでいいよ」

文乃 「でも、覚悟しててね、成幸くん」

ニコッ

文乃 「いつか、君の全部を、もらっちゃうからねっ」

おわり

794以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:52:36 ID:./mOxEco
………………幕間1 「全部」

成幸 (俺の全部……? あれは一体どういう意味だ?)

成幸 (全部……? もしかして……)


―――― 文乃 『ヒャッハー! 唯我家の土地家財全部差し押さえだー!』

―――― 文乃 『かわいい妹たちも連れてくぜー!』


成幸 「………………」 ガタガタブルブル

陽真 「? 成ちゃん、どうしたの?」

成幸 「ど、どうしよう、小林!」

成幸 「俺の家が古橋に世紀末にされてしまう!!」

陽真 「なんて?」

795以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:53:24 ID:./mOxEco
………………幕間2 「鼻血の会」

文乃 「………………」 ニヘラ 「……えへへ」

文乃 (……成幸くんからもらった、小さなドハっちゃんぬい。かわいいなぁ……)

文乃 (えへへへへへ……)

文乃 「………………」

キョロキョロキョロ

文乃 (だ、誰もいないよね……)

文乃 「………………」

チュッ

文乃 「……っ///」 カァアアアア……

………………物陰

鹿島 「……唯我くんからもらったぬいぐるみに、キス」 ボタボタボタ

猪森 「ふむ。困ったな。尊すぎて鼻血が止まらないぞ」 ボタボタボタ

蝶野 「今回に関してはまったく同意ッス……」 ボタボタボタ

おわり

796以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 22:56:41 ID:./mOxEco
>>1です。読んでくださった方ありがとうございました。

問99であすみさんがバッグにドハっちゃんぬいをつけているのを発見し、
感極まって興奮しすぎていてもたってもいられずに書きました。
それでなぜ文乃さんの話になったのかはわたしにもわかりません。なぜでしょう。

また投下します。また読んでくれたら嬉しいです。

797以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 23:54:36 ID:P90oUCa.
書くの速すぎるやろどないなっとんねん

798以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/04(月) 23:58:58 ID:S7r49ddE
おつつつ
貧乳こそ正義だからね仕方ないね

799以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/05(火) 01:56:19 ID:.MzTiMTw
おつ!

800以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/05(火) 12:40:26 ID:ql06vZe2
シエンタ

801以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/11(月) 21:35:04 ID:G9YothrM
もうこのスレも終わりがちかいな
1が話せる範囲で今まで書いたSS教えてくれないか?
というか酉つけてくれると嬉しいな

802以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/12(火) 19:56:44 ID:985VJ0cQ
ノベライズ発売されるらしいがはてさて

803以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/13(水) 09:48:21 ID:PSvgZInc
>>802
正直このスレ大好きだからここより面白い話かどうか比べてしまうと思う

804以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/31(日) 23:54:21 ID:BS7lMF5o
来年度はぼく勉ss増えたらいいな!

805以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/01(月) 12:10:23 ID:NVPBQoOk
エイプリルフールssはよはよ

806以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/01(月) 21:24:11 ID:X1SsLnS2
>>1です。
投下します。

オチなしヤマなしイミなしで自分で書いていて笑ってしまいました。
>>805さんのエイプリルフールネタです。

時系列おかしくなりますがコミックスのオマケ漫画のようなものだと思っていたければ幸いです。



【ぼく勉】 成幸 「最近女子たちの絡みを見るとドキドキしちゃってさ」 陽真 「なんて?」

807以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/01(月) 21:24:47 ID:X1SsLnS2
………………

陽真 「いきなり何を言い出すの成ちゃん……」

成幸 「おい、そんなにドン引きするなよ。ウソだよウソ。エイプリルフール」

陽真 「なんだ、びっくりした……」

ホッ

陽真 「成ちゃん、前々からそのケがあったらからとうとう目覚めたのかと思ったよ」

成幸 「そのケって何だそのケって……」

陽真 「成ちゃんも、ソッチに興味があるのかな、ってさ……」

ギュッ

成幸 「!? な……なんで手を握るんだ、小林……?」

陽真 「成ちゃんが先に振ったんじゃないか。同性愛の話……」

クイッ

陽真 「俺をその気にさせた責任くらいは取ってくれてもいいんじゃない?」

陽真 「だって俺、ずっと、成ちゃんのこと……」

成幸 「こ、小林……? いや、その、えっと……」

808以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/01(月) 21:25:40 ID:X1SsLnS2
陽真 「………………」

クスッ

陽真 「なーんて、ね」

成幸 「へ?」

陽真 「ウソのお返しだよ。成ちゃん顔真っ赤にしちゃって、かわいいなぁ」

成幸 「お、お前なぁ! 腕掴んであごをクイって、それ冗談でも何でもなくないか!?」

陽真 「やりすぎちゃったかな。ごめんごめん」

成幸 「まったく……」

成幸 「………………」

ドキドキドキドキ……

成幸 (男とはいえ、イケメンに迫られるとドキドキするのは、普通の反応だよな……)

809以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/01(月) 21:26:12 ID:X1SsLnS2
陽真 「………………」

クスッ

陽真 「なーんて、ね」

成幸 「へ?」

陽真 「ウソのお返しだよ。成ちゃん顔真っ赤にしちゃって、かわいいなぁ」

成幸 「お、お前なぁ! 腕掴んであごをクイって、それ冗談でも何でもなくないか!?」

陽真 「やりすぎちゃったかな。ごめんごめん」

成幸 「まったく……」

成幸 「………………」

ドキドキドキドキ……

成幸 (男とはいえ、イケメンに迫られるとドキドキするのは、普通の反応だよな……)

810以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/01(月) 21:27:02 ID:X1SsLnS2
………………

理珠&文乃&うるか 「「「………………」」」

文乃 「す、すごいものを見てしまったね……」

うるか 「ど、ドキドキしたよぅ。こばやんはすごい迫り方するねぇ……」

理珠 (なぜこんなに動悸が激しくなるのでしょう……)

理珠 (いや、今はそんなことはどうでもいいんです。いいことを思いつきました)

理珠 「文乃、うるかさん、協力してもらいたいことがあるのですが……」

うるか 「? 協力?」

理珠 「ええ。成幸さんにゲームで勝つ算段がついたので、その協力をしていただけたら、と」 ニヤリ

文乃 (ああ、またよからぬことを考えてるなぁ、この顔は……)

811以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/01(月) 21:28:19 ID:X1SsLnS2
………………ファミレス

成幸 「……んー、せっかくの勉強会なのに、あいつら遅いなぁ。メッセージも来てないし……」

成幸 「何かあったのかな……――」

「――成幸!」  「成幸くん!」

成幸 「ん、うるかと古橋か? まったく、遅い、ぞ、って……」

成幸 「……え?」

文乃 「えへへ……///」 うるか 「はは……///」

ギュッ……!!!

成幸 「え、えっと……///」 プイッ 「な、なんで、ふたりは……腕を、組んでるんだ……?」

成幸 (めちゃくちゃ密着してる……)

文乃 「う、うん。あのね。実は……」

うるか 「えへへ、あたしたちね、実は付き合ってるんだ。ね、ふみのん」

文乃 「う、うん! うるたん!」

成幸 「……!?」

成幸 (付き合ってる!? ふみのん!? うるたん!?)

812以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/01(月) 21:29:05 ID:X1SsLnS2
成幸 「………………」

成幸 「……いや、えっと」

成幸 「エイプリルフールのウソだろ?」

うるか&文乃 「「!?」」

うるか 「なんで分かったの成幸!?」

成幸 「わからいでか! 最初は少しびっくりしたけどよく考えたらわかるわ!」

文乃 「ん……まぁ、そうだよね。さすがにバレるよね……」

成幸 (まぁめっちゃドキドキしたけど!!)

成幸 「……っていうか、ふたりとも」

うるか&文乃 「「?」」

成幸 「い……いつまで、くっついてるんだ……?///」

うるか 「あっ……」 文乃 「はわっ!」

シュババッ

うるか (ふ、文乃っちいいにおいだったなぁ……) ドキドキドキドキ……

文乃 (うるかちゃん、やっぱりかわいいよなぁ……) ドキドキドキドキ……

813以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/01(月) 21:29:40 ID:X1SsLnS2
………………物陰

理珠 「むぅ……。どうやら文乃とうるかさんはすぐに看破されたようですね」

紗和子 「まぁ、そりゃそうよね」

理珠 「そうなると、我々が同じ手段で行っても、やはりすぐ看破されるでしょうか……」

理珠 「せっかくエイプリルフールのウソで成幸さんを騙して、成幸さんに勝つチャンスだったというのに……」

紗和子 「!?」

紗和子 (ま、まずいわ! せっかく緒方理珠と合法的にくっつけるチャンスを棒に振るわけにはいかな――)

紗和子 (――じゃなくて! 緒方理珠の勝利への情熱を無駄にするわけにはいかないわ!)

紗和子 「い、いきましょう、緒方理珠! やってみないとわからないわ!」

ガシッ

理珠 「へ? ちょっ、せ、関城さん、あぶなっ……!!」

ドタドタドタッ

ムギュッ

成幸 「!? な、なんだ!?」

814以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/01(月) 21:30:19 ID:X1SsLnS2
紗和子 「いててて……」 ハッ 「あっ」

理珠 「もう、関城さん、急に動くから……って……」

成幸 「………………」

成幸 (……ファミレスの床に倒れる緒方の胸元とスカートの裾が危ういところまで開いている)

成幸 (そして、そんな緒方の上に、関城がのしかかっている。まるで、押し倒したかのように……)

成幸 (その手は当然のように緒方の胸の上だ。口と口は今にも接触しそうなくらい、近い)

紗和子 「くわっ……」 ブシュッ

成幸 (その上鼻血を噴き出した……)

成幸 (これはもう、疑う余地はないだろう……)

成幸 「………………」

ピッピッ……

紗和子 「ゆ、唯我成幸? 一体どこへ電話をかけようとしているのかしら?」

成幸 「警察だよ。決まってるだろ」

紗和子 「随分と問答無用ね!? 早まらないでちょうだい!」

815以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/01(月) 21:30:58 ID:X1SsLnS2
理珠 「成幸さん、感謝します。早く通報してください」

紗和子 「緒方理珠まで!?」

紗和子 「誤解よ、唯我成幸! これはウソよ! エイプリルフールのウソなのよ!」

成幸 「ウソだろうが何だろうが嫌がってる女子の胸を揉むのは犯罪だよ」

紗和子 「はっ!? 魔性の魅力ね。知らず知らずのうちに揉みしだいていたわ」

文乃 (成幸くんは冗談のつもりなんだろうけど、紗和子ちゃんは一度本当に通報された方がいいと思う)

うるか 「………………」

ドキドキドキドキ……

うるか (文乃っち、本当にきれいだよね……。えへへ、なんか、不思議な気持ち……)

うるか (こ、今度ふたりで出かけるとき、手とかつないでもいいかな……?)

うるか (とっ、友達だったら、手をつなぐくらいフツーだよね?)

文乃 「……!?」 ゾワッ (な、なんだろう、今の寒気……どこから……!?)

816以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/01(月) 21:31:42 ID:X1SsLnS2
………………

紗和子 「まったく、唯我成幸。通報の真似をするなんて、冗談じゃすまないわよ!」

成幸 「誰がそれをさせたんだ、誰が。まったく……」

成幸 「さっさと勉強会始めるぞ。お前たちがアホなことするから時間使ったじゃないか……」

文乃 「ごめんごめん。ちょっとしたお茶目だよ」

理珠 「………………」

ドキドキドキドキ……

理珠 (……さっき、一瞬、関城さんにキスをされるのかと思いました)

理珠 (なぜ……)

紗和子 「? 緒方理珠、どうかした?」

理珠 「!? い、いえ……」

理珠 (……なぜ、それを思い出して、私は、)

理珠 (こんなにも、ドキドキしているのでしょう……)

おわり

817以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/01(月) 21:32:25 ID:X1SsLnS2
………………幕間1 「たぎる」

ワイワイガヤガヤ……

四方谷真子 「………………」

ドキドキオロオロ

真子 (NLGL五角関係……!?)

真子 (めっちゃ修羅場だわ。どうしよう。たぎりすぎてヤバい……)

真子 (関係が複雑すぎてよく分からないけど、とりあえず……)

真子 (あのメガネ男子は絶対総受けね!)

818以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/01(月) 21:32:58 ID:X1SsLnS2
………………幕間2 「二段構えは基本」

あすみ 「こ・う・はーい♪ 愛してるぞー?」 ムギュッ

成幸 「はいはい。エイプリルフールのウソですよね」

あすみ 「むっ……なんだよ。少しは慌てろよ。つまんねーの」

成幸 「お店のエイプリルフールフェアとかじゃないんですか?」

成幸 「お客さんみんなに愛してるって言ってるとか……――」

あすみ 「――なっ!」 カァアアアア…… 「い、言うわけねーだろそんなこと!!!!」

あすみ 「げ、ゲームでもなしに、愛してるなんて、そんなの……」

あすみ 「お、お前以外に言うわけ……ねーだろ……」

成幸 「せ、先輩、それって……///」

あすみ 「……うん。まぁ二段構えは基本だよな。ウソに決まってるだろ」

成幸 「結局やられたー!!」

あすみ (……ん、まぁ)

あすみ (ゲームでもないのに “愛してる" なんて言うのは、ほんとにお前だけだけどな)

819以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/01(月) 21:33:43 ID:X1SsLnS2
………………幕間3 「午後」

マチコ 「ん、いけないなぁ、あしゅみー。エイプリルフールは午前中だけだよ?」

あすみ 「へ?」

マチコ 「ウソをついていいのは四月一日の午前中だけ。だから、今のウソ……」

ニヤリ

マチコ 「ホント、ってことになっちゃうねぇ?」

あすみ 「っ……///」

マチコ 「ねぇねぇ、あしゅみーは、唯我クンのことが大好きなんだねぇ?」 ニヤニヤニヤ

成幸 (マチコさんがすごく良い笑顔で先輩を攻めている……)

成幸 (……日本では午前中に限らず午後もウソをついていいって説もあるけど、)

あすみ 「う、うるせーぞマチコ! ちょっと間違えただけだろ!」

成幸 (めずらしくうろたえてる先輩が面白いから、言わないでおこう)

おわり

820以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/01(月) 21:39:56 ID:X1SsLnS2
>>1です。読んでくださった方ありがとうございました。

お題の桐須先生ネタはもうちょっと待っていただけると助かります。ごめんなさい。

リアルで疲れていてもお題をいただけると不思議と書く元気がもらえます。
書いた結果がこれだからなんとも言えませんが。
申し訳ないことです。

>>801
酉はつけません。ごめんなさい。
SSも、ジャンルがまったく違うので貼るのはためらわれます。ごめんなさい。



また投下します。

821以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/01(月) 22:15:12 ID:aJNucWtY
おつつ
陽真で分かるやつおる?ww

822以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 01:20:57 ID:6ear/QuY
乙やで

823以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 01:35:04 ID:qZKgFeuA
おつでした。
>>1の暇な時で大丈夫だよ(先生ネタ)
ところで四方谷真子って誰だっけ?

824以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 20:46:44 ID:QUrQhu/g
>>1です。投下します。
タイトル詐欺ですがあすみさんメインです。


【ぼく勉】 紗和子 「とんでもないものを見てしまったわ……」

825以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 20:48:27 ID:QUrQhu/g
………………メイド喫茶 High Stage

あすみ 「制服イベントだぁ?」

マチコ 「そうなの。この前コスプレイベントやったじゃない? あれが好評だったみたいでさ」

店長 「お客様にアンケートをとったところ、次はぜひ制服姿を見たいとのことでな」

あすみ 「……ったく。うちはメイド喫茶であってコスプレ喫茶じゃねーはずだけどな」

ミクニ 「まぁまぁ、あしゅみー。合法的に制服を着られる機会なんてめったにないしさ」

ヒムラ 「コスプレイベントも楽しかったしね。制服着たら、きっと高校の文化祭みたいで楽しいよ」

あすみ 「アタシはつい去年まで制服着て高校通ってたんだけどな……」

あすみ 「ま、別に断る理由はねーし、いいよ。どんな制服を着るんだ?」

店長 「差し支えないなら、高校時代に着ていた制服を持ってきてくれると助かる。リアリティの問題でな」

店長 「もちろん店での使用後にクリーニング代は出す」

あすみ (この店長、コワモテで良い人だけど、マジモンだよな……)

あすみ 「わかった。じゃ、イベントの日に制服持ってくよ」

店長 「そうか。助かる」 ニコッ 「ローファーも忘れずにな」

あすみ (ほんとヤベー人だよなこの人)

826以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 20:49:17 ID:QUrQhu/g
………………小美浪家

あすみ 「………………」

あすみ (……実際、卒業してから半年とはいえ、制服を着るのはやっぱり抵抗あるな)

あすみ 「えーい、ままよ」

スルスルスル……キュッ……シュッ……

あすみ 「……んっ」 (よかった。太ってはないみたいだな)

あすみ (姿見みるのは怖いけど……)

あすみ 「……うん」 クルッ……フワッ

あすみ 「……まぁ、悪くはないよな」 ニヤリ 「むしろ相当イケてんじゃねーか?」

あすみ 「ふふん、この格好を後輩に見せたら、また顔真っ赤にするかもな。にひひ」

コンコン

あすみ 「………………」 (って、なんでアタシはあいつに見せることなんて考えてんだ)

コンコンコンコン

あすみ (でも……) ドキドキドキドキ…… (……この格好、後輩が見たら、可愛いって言ってくれるかな?)

827以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 20:49:50 ID:QUrQhu/g
ガチャッ

あすみ 「……!?」

小美浪父 「あすみー、来週の往診なんだが、付き添いを……」

小美浪父 「……あすみ? なんだその格好は」

あすみ 「ち、ちがっ! 違う! 違うからな!」

あすみ 「べつに、制服コスプレをしてたわけじゃなくて、これは……!」

ハッ

あすみ (バイトのことナイショにしてるのに “店で使うため” なんて言えるかー!)

小美浪父 「……皆まで言うな、あすみ。分かっている」

ニコッ

小美浪父 「今度、唯我くんと制服デートでもするんだろう?」

あすみ 「……は?」

小美浪父 「そう照れなくてもいい。私は理解ある父親を目指しているからな」

小美浪父 「高校を卒業をした後でも、“制服ディ○ニー” なることをするのは普通らしいじゃないか」

828以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 20:50:47 ID:QUrQhu/g
あすみ 「……あー、うん」

あすみ (なんか勘違いしてるけど、否定するの必要もなさそうだしいいか)

小美浪父 「……それにしても、コスプレ好きの彼氏のために自ら制服を着るとは、」

小美浪父 「我が娘ながらいじらしい……。唯我くんが喜んでくれるといいな!」

あすみ 「……ん、まぁ、そうだな」

ハッ

あすみ 「っつーか親父! 年頃の娘の部屋にノックなしで入ってくるんじゃねーよ!」

小美浪父 「……いや、ノックはしたんだがな」

小美浪父 「唯我くんにその格好を見せることを考えて聞こえていなかっただけだろう?」

あすみ 「なっ……! そんなわけねーだろ! っていうか、話あったんじゃねーのかよ! なんだよ!」

小美浪父 「ふふ、照れるな照れるな。話は着替えてからでいい。着替えたら居間に来なさい」

あすみ 「……っ、わーったよ」

あすみ 「……ったく、親父の奴」 ドキドキドキドキ……

あすみ (……制服イベントの日、後輩、バイト入ってるかな)

あすみ 「………………」 ニヘラ 「……えへへ」

829以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 20:51:19 ID:QUrQhu/g
………………制服イベントデー 当日

マチコ&ミクニ&ヒムラ 「「「うー……」」」

あすみ 「? おい、三人ともどうしたんだよ。早く準備しないと開店に間に合わねーぞ」

マチコ 「わ、分かってるけどさ……」 カァアアアア……

ミクニ 「やっぱり、昔着てた制服を着るのはちょっと恥ずかしいね」

ヒムラ 「これお客様に見せるのかぁ……。万が一同級生とか来たらどうしよう」

あすみ 「なんだよ、みんなそんなこと気にしてたのかよ」

あすみ 「お客様は御主人様、だろ? せっかく来てくれるお客さんのためにも恥ずかしがってなんかいらんないだろ」

マチコ 「さすがはあしゅみー。一本筋が通ってるね……」

ミクニ 「そりゃ、あしゅみーは去年まで高校生だったんだから余裕だろうけどね」

ヒムラ 「でも、あしゅみーの言うとおりだね。恥ずかしがってらんないよね」

ワイワイワイワイ

店長 「………………」 (うむ……)

店長 (妙齢のメイドたちが高校の制服を身につけ、恥じらう……)

店長 (いい光景だ……) グッ

830以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 20:51:55 ID:QUrQhu/g
………………休憩室

成幸 「こんにちはー」

ヒムラ 「おお、唯我クンじゃないか」

マチコ 「わっ、唯我クン。さすがに知り合いにこの姿を見られるのは恥ずかしいね」

成幸 (話には聞いてたけど、ほんとに制服着てる……)

成幸 (でも、皆さん若々しいから違和感は少ないなぁ)

成幸 (……でも、ヘンなこと言ったらセクハラになっちゃうから、言うのはやめておこう)

成幸 「じゃあ俺着替えてきますね」

マチコ 「……む。いや、ちょっと待って唯我クン」

成幸 「?」

マチコ 「制服のまま、エプロン締めて……と」

マチコ 「……うんうん。さすがは現役男子高校生。制服エプロン姿も様になってるね」

成幸 「意味が分からないんですが……」

マチコ 「いやいや、実は最近、唯我クン目当てで来てる妙齢のお嬢様方も少なくなくてさ」

マチコ 「……そんなお客様方に喜んでもらえるかな、って」 ニヤリ

831以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 20:52:36 ID:QUrQhu/g
成幸 「!? このまま店に出るんですか!? 制服で!?」

マチコ 「お願い。だってみんな制服着てるのに、唯我クンだけ制服じゃないのも変じゃない?」

成幸 「いやいや、マスターや他の皆さんだって制服じゃないじゃないですか」

マチコ 「ははっ、さすがにみんなが制服着たら地獄絵図だよ」 ケラケラ

マチコ 「おねがい、唯我クン。お店のためだと思って、さ」

コソッ

マチコ 「制服のクリーニング代だすからさっ」

成幸 「……むっ。むむむ……」

ヒムラ (クリーニング代に心が揺らぎ始めている……)

成幸 「……わかりました。制服のまま店に出ます」

マチコ 「おおっ。それでこそ唯我クン! そういうところダイスキー!」

成幸 (制服のクリーニング代はバカにならないから、それが手に入るなら御の字!)

832以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 20:53:08 ID:QUrQhu/g
………………

あすみ 「……で、お前も制服なのか。まったく、マチコの奴」

成幸 「はい。なんだかうまく丸めこまれた気もしますけど、クリーニング代にはかえられません」

あすみ 「まぁいい。お前は普段通り接客してくれりゃいいよ」

成幸 「はい、分かりました!」

女性客1 「あ……ボーイさん! 注文お願いしまーす!」

成幸 「はい、いま行きます! じゃあ、先輩、また後で!」

女性客2 「制服着てるー! チェキいいのかな!?」

成幸 「え? あ、いや、俺――私はそういうサービスは……」

女性客3 「君にケチャップ文字書いてもらいたーい!」

成幸 「いえ、ですから、その……」

あすみ 「……ほーう」 (モテモテじゃねーかあの野郎)

成幸 「いや、あの……お、お嬢様方!? ちょっ、いや、あの……!」

あすみ 「………………」

あすみ (……アタシの制服姿にはなんの感想もなし、か)

833以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 20:53:44 ID:QUrQhu/g
………………退勤時刻

あすみ 「ふー、さすがにイベントデーは忙しくて勉強どころじゃなかったな」

成幸 「忙しかったですね。俺もなんか今日はよく呼ばれた気がします」

あすみ (女性客が興奮しきりだったからな)

あすみ 「この後暇か? ファミレスで勉強でもしていかねーか? 教えてもらいたいとこがあるんだよ」

成幸 「いいですね。行きましょう」

あすみ 「おう、助かる。サンキュな」

あすみ 「……じゃ、マチコ。今日は先上がるぞ。おつかれー」

マチコ 「あ、あしゅみーと唯我クン。お疲れ様。またね」

マチコ 「……あれ?」

あすみ 「? どうかしたか?」

マチコ 「ん、なんか蛇口から水が出なくてさ。なんだろ。なんか詰まってるのかな?」

あすみ 「水が出ない? ちょっと見せてみろ」

834以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 20:54:14 ID:QUrQhu/g
あすみ 「……ふんふん。水がチョロチョロとしか出ないな。こういうときは、っと」

キュッキュッキュッ

あすみ 「一気に水圧をかけてやれば、大体直るもんだ」

グググッ……ググッ……

成幸 「せ、先輩? なんか蛇口から不穏な音が……」

あすみ 「へ……――」

――――ブッシャァアアアアアアアア!!!!

マチコ 「!? あ、あしゅみー!?」

あすみ 「………………」

ポタポタポタ……

あすみ 「……へくしっ」

マチコ 「大変! 早くタオル持ってこなくちゃ!」

835以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 20:55:03 ID:QUrQhu/g
………………店の外

成幸 (……先輩、びしょ濡れだったけど大丈夫かな)

成幸 (そりゃ、ものが詰まってる蛇口に一気に水圧かけたらつまりは取れるかもしれないけど……)

成幸 (……その水圧の分、水が一気に吹き出るよ)

成幸 (先輩が理科系科目を苦手とする理由が少し分かった気がするぞ)

カツッカツッカツッ……

成幸 「あっ……先輩! 大丈夫でしたか……って……」

あすみ 「おう。大丈夫なように見えるか?」

成幸 「……な……何で制服着てるんですか!?」

あすみ 「仕方ねーだろ。服はびしょ濡れだし、他に着るものなんてコレしかねーし」

ニヤリ

あすみ 「それとも、メイド大好き後輩的にはメイド服を着た方が良かったか?」

成幸 「ち、違いますよ! 何言ってるんですか!」

836以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 20:56:27 ID:QUrQhu/g
あすみ 「ま、べつにいいだろ? それとも何だ?」

ドキドキドキドキ……

あすみ 「に、似合ってねーか? 浪人生のアタシじゃ、女子高生に見えないか?」

成幸 「えっ……いや、その……見えますし、似合ってるとは思いますけど……」

あすみ 「……そ、そうか」 ホッ

あすみ 「このリボンの色、今はたぶん一年生が使ってるんだろ?」

成幸 「そうですね」

あすみ 「……ってことは、今アタシはお前の二つ下の後輩だな? “唯我センパイ” ?」

成幸 「っ……///」

あすみ 「お? 何照れてんだ? さてはお前、年下好きだな?」

成幸 「だ、だからまたそういうこと言ってからかわないでください!」

あすみ 「あ、間違えた」

あすみ 「……先輩って、年下好きなんですか?」 キャルーン

成幸 「だーかーらー! もー!」

あすみ 「にひひ、ほんとにからかい甲斐がある奴だなぁ、後輩は」

837以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 20:57:01 ID:QUrQhu/g
成幸 「まったくもう……」 プンプン

あすみ 「………………」


―――― 『えっ……いや、その……見えますし、似合ってるとは思いますけど……』


あすみ (……えへへ。似合ってる、か)


―――― 『今度、唯我くんと制服デートでもするんだろう?』


あすみ 「……なぁ、後輩」

成幸 「? はい?」

あすみ 「勉強の前に、制服デートでも、どうだ?」

成幸 「へ……?」

838以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 20:57:38 ID:QUrQhu/g
………………街中

「まいどありー!」

紗和子 (ふふふ、とうとう手に入れたわよ、地域限定数量限定釜玉うどん専用醤油!)

紗和子 (緒方理珠、喜んでくれるかしら……) ポワアアアアア……

紗和子 「ん……?」

成幸 「あ、あんまりくっつかないでくださいよ! 恥ずかしいですよ……」

あすみ 「にしし、顔真っ赤ですよー、先輩?」

あすみ 「可愛い後輩が腕組んであげてるんだから、もっと嬉しそうな顔してくれてもいいじゃないですかー」

成幸 「可愛い後輩は人を困らせるようなことしませんよ!」

あすみ 「何で困るんですー? にひひ、先輩のえっちー」

成幸 「だー! もうー!」

紗和子 (あ、あれは唯我成幸! と……どこかで見たことあるような女子生徒……)

紗和子 (仲睦まじく腕を組みながら歩いている……)

ガタガタガタガタガタガタ

紗和子 「と、とと、とんでもないものを見てしまったわ……」

839以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 20:58:36 ID:QUrQhu/g
………………

成幸 「……」  あすみ 「……」 ケラケラケラケラ

紗和子 「………………」 (思わず後をつけてしまっているけど……)

紗和子 (唯我成幸と後輩と覚しき女の子は、楽しそうに話をしながら歩いている……)

紗和子 (まるで、彼氏彼女といった雰囲気だわ……)

紗和子 (こんな場面を緒方理珠が見ようものなら……)


―――― 理珠 『成幸さん……ぐすっ……ひどいです……』


紗和子 (……だ、だめよ! 緒方理珠に涙を流させるわけにはいかないわ!)

紗和子 (緒方理珠の大親友、関城紗和子。この名にかけて、あのふたりのことを探ってやるわ!)

840以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 20:59:14 ID:QUrQhu/g
………………ゲームセンター

成幸 「制服デートとか言ってましたけど……」

成幸 「ゲームセンターで一体何をするんです?」

あすみ 「何するんですかって、ゲームセンターなんだから遊ぶに決まってるだろ」

あすみ 「ま、お前あんまりゲーセンとか行かなそうだもんなぁ」

成幸 「……あんまりそういうことに使えるお金はなかったので」

あすみ 「……そっか」 ニッ 「じゃあ、今日はアタシがおごっちゃるから、遊んでみようぜ」

成幸 「えっ、あ、でも……――」

あすみ 「――でもも何もねーだろ。ほら、行こうぜ」 ギュッ

成幸 「のわっ! だ、だからあんまりくっつかないでくださいってば……///」

あすみ 「じゃ、とりあえず音ゲーでもやろうぜ。何クレかやらしてやるから」

成幸 「クレ???」

あすみ 「……はぁ。そんなんじゃほんとに彼女ができたときに困っちまうぞ」

841以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 20:59:49 ID:QUrQhu/g
………………

紗和子 「………………」 ジーーーッ

紗和子 (楽しそうにダンスゲームを始めたわね……)

紗和子 (軽快に踊る後輩の子と、珍妙なダンスを繰り広げる唯我成幸……)

ハラハラハラ

紗和子 (あっ……唯我成幸、こけたわね。大丈夫かしら……)

紗和子 (唯我成幸は運動が苦手なのだから、あんなことやらせたらダメでしょうに……)

紗和子 (後輩の子はこけた唯我成幸を見てケラケラ笑ってるし……)

ムカムカ

紗和子 (まったく、唯我成幸の奴! 一年生の女子に手玉に取られちゃって!)

紗和子 (緒方理珠ならまじめだから、あなたに恥をかかせるようなことはしないわよ!)

紗和子 (目を覚ましなさい唯我成幸! あなたには緒方理珠っていう、魅力的な相手がいるのよ!)

842以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 21:00:50 ID:QUrQhu/g
………………

成幸 「………………」 ボロボロボロ

あすみ 「お前、運動音痴なのは察しがついてたけど、まさかリズム感もないとはな」

あすみ 「太○の達人であんな低いスコア初めて見たぞ」

成幸 「……悪かったですね。ああいうのは苦手なんですよ」

あすみ 「あー、もう。冗談ですよー、先輩。むくれないでくださいよっ」

ムギュッ

成幸 「なっ……ま、また……!」

あすみ 「じゃあ、最後に、アレ、行きましょ?」

成幸 「アレって……プリクラ?」

843以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 21:01:27 ID:QUrQhu/g
………………

成幸 (プリクラの中って、予想以上に狭いな……)

あすみ 「……ふふーん」 ニィ

あすみ 「せーんぱいっ。もっとくっついてくださいよー」

ギュッ

成幸 「あ……う……///」 カァアアアア…… 「なんで、くっつくんですか……」

あすみ 「このプリクラ、親父に見せるつもりだからさ、恋人っぽく撮った方がいいだろ?」

成幸 「あんた制服姿で撮ったプリクラを父親に見せるつもりですか!?」

あすみ 「……まぁ、親父はお前のことをコスプレ大好き男だと思い込んでるからなぁ」

あすみ 「どっちかっていうと、恥ずかしい思いをするのはお前だと思う」

成幸 「淡々とすごく怖いことを言わんでください!」

あすみ 「ほらほら、そんなこと言ってると、撮られちまうぞ。ほら、前向け」

成幸 「あ、は、はい……」

あすみ 「……ってことで、じゃあ、恋人らしく、」

チュッ

844以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 21:01:57 ID:QUrQhu/g
成幸 「へ……!?」

パシャッ

成幸 「のわっ!? と、撮られた!?」

成幸 「えっ、いま、えっ!? ほっぺ!?」

あすみ 「お前動揺しすぎだろー。ちょっとほっぺにチューしただけだろうが」

成幸 「ちょっとって! いや、いやいやいや……!」

あすみ 「ん、もう二枚目の撮影だな。ほら、前向けよ」

成幸 「その手には乗りませんよ! 前向いたらまた……――」

あすみ 「――まったく、先輩は欲しがりサンですねーっ。お口とお口のチューがいいなんて」

成幸 「そういうことじゃないです! ……わ、わかりましたごめんなさい! 前向きます!」

あすみ 「にひひ。かわいい奴め」

ムギュッ

あすみ 「密室で先輩に迫られるのは好きらしいですけどが、後輩に迫られるのはどうですか?」

あすみ 「……せんぱいっ?」

成幸 「あ、あんまりくっつかないでくださいよっ」

845以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 21:02:54 ID:QUrQhu/g
………………外

紗和子 (……プリクラの中に消えてからしばらく経ったわね) ドキドキドキドキ……

紗和子 (ゆ、唯我成幸の奴、まさかいかがわしいことでもしてるんじゃないでしょうね……)

紗和子 (後輩の、しかもあんなに背がちっちゃい子と、そんな……そんなの……)

ブシュッ

紗和子 (はっ、犯罪よ! あなたは犯罪者だわ、唯我成幸!)

店員 「!?」

店員 (あの白衣の人、鼻血をボタボタ垂らしてるけど大丈夫かな……)

紗和子 (なんとか中の会話を聞くことはできないかしら……)

シャッ

あすみ 「せーんぱいっ、顔真っ赤ですよー? どんだけ照れてるんですかもー」

紗和子 「!?」 サササッ

成幸 「誰のせいですか誰の! まったくもう!」

あすみ 「アタシなんにもしてないのになー」 ニヤニヤ 「せんぱいのえっち」

紗和子 (あ、危なかったわ! 危うく見つかるところだった……!)

846以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 21:03:39 ID:QUrQhu/g
あすみ 「ほら、先輩。ペンでプリクラにお絵描きしましょー?」

成幸 「? どういうことです?」

あすみ 「……あー、先輩って、ほんとにしらないことばっかりですねーっ」

ニコッ

あすみ 「仕方ないですねー。先輩の将来の彼女のために、アタシが色々教えてあげないとですねっ」

成幸 「……彼女なんて、そんなの、べつに……」

あすみ 「えへへっ、ま、そうですよね。今の先輩の彼女はアタシですもんね!」 ギュッ

紗和子 「!?」 (か、彼女!? 唯我成幸、あの子とお付き合いしているってこと!?)

成幸 「あっ、ま、またくっついて……! もうっ!」

あすみ 「ほら、先輩もペン持って、色々書き込めるんですよ。スタンプとかも押せますよ?」

ムギュムギュッ

成幸 「わ、わかりました! やりますから! だからあんまりくっつかないでください!」

紗和子 (と、ととと……) ガタガタガタ (とんでもないことを聞いてしまったわ……!)

847以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 21:04:24 ID:QUrQhu/g
紗和子 (私ひとりじゃもう処理しきれないわ! 誰か呼ばないと……)

紗和子 (……呼ぶとしたら、あの子しかいないわよね)

ピッピッ……prrrr  ガチャッ

?? 『もしもし、紗和子ちゃん? どうかしたの?」

紗和子 「よく出てくれたわ! 助けてほしいの!」

?? 『助けてほしい? 何かあったの!?』

紗和子 「そうなの! 大変なのよ!」

紗和子 「唯我成幸の貞操の危機なのよ!!!」

?? 『!? へ? 貞操? いや、いきなり何を……――』

紗和子 「話してる時間すら惜しいわ! いますぐ来てちょうだい!」

紗和子 「唯我成幸が後輩の女子生徒にたぶらかされてるのよ!!」

?? 『後輩の女の子……!?』

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

?? 『成幸くん、また新しい女とゆきずりにフラグを立てたのかな……』

?? 『わかったよ、紗和子ちゃん。すぐ行くよ。場所を教えて』

848以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 21:05:18 ID:QUrQhu/g
………………ファミレス

あすみ 「………………」

成幸 「………………」

カリカリカリ……

成幸 (ほっ。勉強中もヘンなことするんじゃないかとヒヤヒヤしたけど、大丈夫そうだ)

成幸 (さすが先輩。ふざけるときとまじめなときのメリハリがきいててすごいなぁ)

成幸 (……いやまぁ、いつもまじめな方が良いに決まってるけど)

あすみ 「ん? なんだ、後輩? アタシの顔になんかついてるか?」

成幸 「へっ!? あ、いや、なんでもないです。すみません……」

あすみ 「んー?」 ニヤァ 「なんですかー、せんぱいっ。アタシの顔に見惚れてたとか?」

成幸 「あー、まったくもう! またそうやってふざけだすんだから!」

あすみ 「顔真っ赤にしちゃってかわいいなぁ、後輩は」

クスクスクス

あすみ 「ま、おかげさまで勉強も結構進んだし、少し休憩しようぜ。甘いものでもおごっちゃるよ」

成幸 「ほんとですか!?」 キラキラキラ

849以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 21:05:51 ID:QUrQhu/g
あすみ 「む……」

あすみ (なんだ、後輩のやつ。アタシに密着されてるときよりいい顔しやがって。花より団子ってことか?)

ムカムカムカムカ

あすみ (アタシより甘いものの方がいいってか? ふーん……)

成幸 「うーん、どれにしようかな。どれも美味しそうだな……」

あすみ 「………………」 ニィ

あすみ 「すみません、店員さーん」

真子 「あ、はーい! ご注文ですか?」

成幸 「へ? 先輩? いや、まだ俺決めてな――」

あすみ 「――はい。このパフェ、お願いします。スプーンはひとつでいいんで」

真子 「特大パフェですね。かしこまりました」 (このパフェって……)

真子 (カップル御用達のやつ。しかも、スプーンはひとつって……///)

成幸 「せ、先輩……?」

あすみ (にしし。勉強中にふざけるのはよくないが、休憩中ならいいだろ?)

あすみ (覚悟しろよ……いや) ニヤリ (覚悟してくださいね、唯我センパイっ)

850以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 21:07:16 ID:QUrQhu/g
………………

バーーーーン!!!

成幸 「うわぁ……」

あすみ 「うおお……」 (こりゃ想像以上だな……)

成幸 (これ、この前、古橋がひとりで食べきったやつだ。先輩もこれをひとりで食べるつもりなのかな)

あすみ 「……ふふん。じゃ、先輩っ。はい、あーん」 スッ

成幸 「へっ? あーん、って……」

あすみ 「ほら、唯我センパイっ。早く口開けてくださいよ。それともぉ……」

グスッ

あすみ 「アタシのパフェ、食べられないんですか?」

成幸 「いや、そんなことは……」

成幸 (っ……!! 嘘泣きだって……嘘泣きだって分かってるのに……!!)

成幸 (泣き真似には抗えない……!!!)

成幸 「あ……あーん……――」


   「――何をしてるんですか? 先輩? 成幸くん?」

851以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 21:07:47 ID:QUrQhu/g
成幸 「へ……?」

あすみ 「あっ、古橋……」

文乃 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

文乃 「……あれぇ? おかしいなぁ。わたし、何をしてるんですか、って聞いたはずだけどなぁ?」

成幸 「ひっ……」 (こ、怖っ……!! 何で怒ってるんだ古橋!?)

文乃 「……はぁ。ま、べつに怒ってるわけじゃないですけど」

文乃 「紗和子ちゃん。安心していいよ。この人、得体の知れない後輩なんかじゃないから」

紗和子 「……? どういうこと?」 ヒョコッ

成幸 「関城も!? 何でここに……?」

文乃 「今から説明するよ。だからちょっと勉強会に混ぜてね?」

文乃 「こっちも説明を聞かなくちゃだから、ね」

あすみ 「説明?」

文乃 「やだなぁ、先輩ったらとぼけちゃって」 ニコッ

文乃 「…… “唯我センパイ” って何かなぁ? 教えてほしいなぁ?」

あすみ 「!?」 (やっぱり怒ってるだろこいつ!?)

852以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 21:08:26 ID:QUrQhu/g
………………

成幸 「……と、いうわけです」

文乃 「なるほどなるほど。ふんふん……」

文乃 「つまり、先輩が久々の制服にテンションが上がって先輩後輩ごっこに熱が入っちゃった、と?」

あすみ 「あっ、改めて言うな! 恥ずかしいだろ!」

あすみ 「……悪かったよ。ちょっとはしゃぎすぎたよ」

あすみ 「まさか誰かに見られてるとは思ってなくてさ」

文乃 「ってことで紗和子ちゃん、この人は先輩だよ。文化祭の後夜祭で一度会ったことあるんじゃない?」

紗和子 「ん……あ、ひょっとして、あのバンギャっぽい格好をしてた人かしら?」

あすみ 「バンギャて……。まぁ間違いじゃねーけどさ」

あすみ 「小美浪あすみだ。こいつらの一個上で、一ノ瀬のOGだよ。なんか勘違いさせたみたいで悪かったな」

紗和子 「せ、先輩だったんですか。こちらこそ失礼しました……」

紗和子 「関城紗和子です。唯我成幸の同級生です」

紗和子 (身長が身長だから絶対後輩だと思いこんでいたわ……)

あすみ (なんか失礼なことを考えてるなこいつ……)

853以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 21:09:12 ID:QUrQhu/g
紗和子 「……つまり、彼女云々の話も、ただのごっこあそび、ってことかしら?」

成幸 「ん、まぁそうなるかな」 (まぁ、恋人役の話はわざわざしなくていいだろう……)

紗和子 「そう……」

紗和子 (……よ、よよよ、よかったわぁ……!! これで緒方理珠が悲しむ姿を見なくて済むわ!)

ニコニコニコニコ

あすみ (? この子、急に笑顔になったな……)

あすみ (……まさかとは思うが、こいつ、後輩のこと……)

紗和子 (でも、そもそもよく考えたら……)

あすみ (……うーん、でも、よく考えてみりゃ……)

紗和子 (こんな美人な人が唯我成幸のことを好きになるはずないものね)

あすみ (こんなオトナっぽい同級生が、後輩を好きになるはずねーよな)

成幸 (このふたり、なんかとんでもなく失礼なことを考えている気がするぞ……)

文乃 (……胃が痛い) キリキリキリ……

854以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 21:09:48 ID:QUrQhu/g
あすみ 「………………」 ジトッ

成幸 「? 何です、先輩?」

あすみ 「……いつも思うけどさ、お前って……」

成幸 「?」

あすみ 「ほんっっっっとうに、女たらしだよなぁ」

成幸 「しみじみとひどいことを言わないでくれますか!?」

文乃&紗和子 「「………………」」 コクコクコク

成幸 「お前たちもうなずかなくていいよ!!」

855以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 21:10:22 ID:QUrQhu/g
あすみ 「でもまぁ、お前たちが来てくれてちょうどよかったよ」

あすみ 「これ、勢いで頼んじまったけど、どう考えてもふたりじゃ食べきらないからさ」

紗和子 「このパフェ、四人でもギリギリじゃないかしら……」

文乃 「? やだなぁ、先輩も紗和子ちゃんも。これくらいならふたりいれば余裕じゃないですか」

あすみ&紗和子 「「!?」」

文乃 「でもせっかくだし、お言葉に甘えていただきまーすっ」 ムシャムシャムシャムシャムシャムシャ

文乃 「んーっ♪ 甘くておいしーい!」

成幸 (まぁ、古橋はその気になればあのパフェひとりで食い切るしな……) ゲッソリ

成幸 「俺、ちょっと飲み物とりにいってきますね」

文乃 「あ、わたしも行くよ。甘い物にはお茶が必要だよね」

あすみ 「んー、じゃ、アタシもなんか取りに行こうかな」

紗和子 「じゃあ、私は待ってるわ。いってらっしゃい」

あすみ 「おう、頼むなー」

ピラッ…………

紗和子 「ん……?」 (なんか、紙が落ちた……?)

856以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 21:10:52 ID:QUrQhu/g
ヒョイッ

紗和子 「……!?」

紗和子 (こ、これは、プリクラ……。せ、先輩と、唯我成幸の、ツーショット……)

紗和子 (きっ……キスしてるプリクラまであるじゃない……!!)

紗和子 (こんなこと、さっきの説明では言ってなかったわよね!?)

紗和子 (まさかあの先輩、本当に唯我成幸のことを……!?)

紗和子 「………………」

ガタガタガタ

紗和子 「とっ……とんでもないものを見てしまったわ……!!」

※その後、誤解は解けました。

おわり

857以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 21:12:46 ID:QUrQhu/g
………………幕間1 「小美浪家」


―――― 『……先輩って、年下好きなんですか?』

―――― 『まったく、先輩は欲しがりサンですねーっ。お口とお口のチューがいいなんて』

―――― 『……ふふん。じゃ、先輩っ。はい、あーん』


あすみ 「……っ」 ボフッ!!!!! (よ、よくよく思い返してみると、今日のアタシはほんとどうかしてるぞ!)

あすみ (恥ずかしいとかそういうレベルじゃない! 制服を着た程度であんなにはしゃぎ回るなんて……)

あすみ (は、恥っず……)

ピラッ

あすみ (……まぁ、でも、後輩と制服でデートして、プリクラも撮れたのは、少し、嬉しいかな、なんて)

あすみ 「えへへ……」

………………ドアの外

小美浪父 (高校の制服で帰宅したときは度肝を抜かれたが、本当に唯我くんと制服デートをしたのだな……)

小美浪父 (今日のデートのことを思いだしながらニヤニヤするとは……。あの子にあんな乙女な一面があるとはな)

858以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 21:13:25 ID:QUrQhu/g
………………幕間2 「唯我家」

成幸 (はぁ、今日は疲れたな……)

成幸 「ただいまー」

水希 「おかえりなさい、お兄ちゃんっ!」

成幸 「ああ――……って、なんだその格好は」

水希 「あっ、そうだ。間違えた……えっと……」

水希 「……おかえりなさい、せんぱいっ」

成幸 「……うん。とりあえずその一ノ瀬の制服は盗品じゃないよな?」

水希 「卒業生の人にもらったんだ。えへへ。似合う?」

成幸 「ならよし」

花枝 (高校の制服でお出迎えだとかせんぱい呼びだとかはスルーなのね……)

おわり

859以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 21:13:58 ID:QUrQhu/g
………………幕間3 「古橋家」

文乃 「よ、四人で……」

文乃 「四人でわけっこしたはずなのに……」

ガーーーーン!!!!

文乃 「何でこんなに体重が増えてるの!?」

おわり

860以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 21:20:22 ID:QUrQhu/g
>>1です。読んでくださった方ありがとうございました。

どうでもいい話ですが、今のところ
理珠さんメイン 6つ
文乃さんメイン 13つ
うるかさんメイン 5つ
真冬先生メイン 8つ
あすみさんメイン 11つ
その他 11つ(内紗和子さんメイン4つ)
という数のSSを書いたようです。

理珠さんとうるかさんのSSはなかなかむつかしいですが、もっと書きたいと思います。

また投下します。また読んでくれたら嬉しいです。

861以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/02(火) 22:37:06 ID:agL9V37M
おつおつ

862以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 00:17:14 ID:hgNnmgHA
>>1です。
書き上がってしまったので投下します。


【ぼく勉】 理珠 「あの日、手を貸してくれたのは」 紗和子 「あの時、背中を押してくれたのは」

863以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 00:18:06 ID:hgNnmgHA
………………休日

理珠 「……うぅ」

ゼェゼェゼェ……

理珠 「う、うどん屋はまだですか……」

紗和子 「マップによるとあと2キロね」

理珠 「うぅ……。なぜこんな山道にうどん屋を作るのか、理解に苦しみます……」

紗和子 (山道だからこそドライブインが必要なんだと思うんだけど……)

紗和子 (というかこの店、徒歩で向かう店ではないと思うけど……)


―――― 理珠 『関城さん、次の休日にうどん屋巡りに行くのですが一緒にどうですか?』

―――― 紗和子 『デートのお誘い!? 行くわ行くわ行くわー!!』


紗和子 (……安易に飛びつくものではないわね。まったく。こんなの軽い登山だわ)

理珠 「まったく……」 ブツブツブツ

紗和子 「……ふふ」 (まぁ、緒方理珠と一緒なら、何でも楽しいのだけれどね)

864以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 00:18:46 ID:hgNnmgHA
理珠 「……これもうどんを楽しむためうどんを楽しむため……」 ブツブツブツ

紗和子 「本当にうどんが好きねぇ」 クスクス

紗和子 「そういえば、一年の最初の登山でも、山頂の鍋焼きうどんのためにがんばってたわね」

理珠 「え?」

理珠 「……? 私、あのとき、鍋焼きうどんのこと、誰にも話してないような……」

紗和子 「へ?」 ハッ 「……あっ」

理珠 「……ん、でも、たしか、ひとりだけその話をした相手がいたような……」

理珠 (……あれは、そうです。二年前、まだ入学した頃のオリエンテーリングのとき、)

理珠 (私は、誰かとうどんの話をした……)

理珠 (……そう。あの登山で、私は……)

理珠 (誰かに、助けてもらって……)

………………

……………………

…………………………

865以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 00:19:23 ID:hgNnmgHA
…………………………

……………………

………………二年前 春 緒方家

理珠 (明日は一ノ瀬学園入学直後のオリエンテーリングで山登り……)

ハァ

理珠 (正直、とても憂鬱です。休みたいくらいですが……)

理珠 (学校行事を休むと内申点にも響きますし、進路のことを考えると参加するしかないでしょうか)

理珠 (はぁ、本当に憂鬱です……)

親父さん 「あっ、リズたま! 明日は山登りだろう? がんばってな!」

理珠 「お父さん……」 (人の気もしらないで、まったく……)

親父さん 「明日登るのは鍋○山だろう? あそこの山頂で食べられる鍋焼きうどんは絶品だからぜひ食べておいで」

理珠 「……!? うどんが食べられるのですか!?」

理珠 「………………」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

理珠 (……俄然やる気が湧いてきました!)

866以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 00:20:00 ID:hgNnmgHA
………………関城家

紗和子 (明日はオリエンテーリングで登山……)

紗和子 (友達を作るためのイベントなんでしょうけど、私は……)

紗和子 (どうせ、中学のときと同じ。うまく友達なんか作れるわけもないし)

紗和子 (休みたい。休みたい、けど……)


―――― 『終わりました』

―――― 『おそらく全問合ってると思いますので 帰ってもいいですか』

―――― 『私 あの人と同じ高校に行く!』


紗和子 (……ひょっとしたら、あの子と友達になれるかもしれない)

紗和子 (なら……)

グッ

紗和子 「……行くしか、ないじゃない」

867以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 00:20:44 ID:hgNnmgHA
………………オリエンテーリング当日 麓

先生 「じゃあ、今から本格的な登山道に入るぞー」

先生 「事前に伝えた通り、このオリエンテーリングは水の運び上げの奉仕活動も兼ねている」

先生 「各自、ここで最低2Lペットボトル一本以上は運び上げるように」

先生 「体調不良やケガ、その他不測の事態があった場合はすぐに教員に伝えること。以上だ」

先生 「では、楽しい登山にしよう。出発するぞ」

理珠 「………………」 (冗談でしょう?)

理珠 (駅からここまでのハイキングコースだけでもうヘトヘトだと言うのに……)

理珠 (この後に水を2Lも運ばなければならないなんて……)


―――― 『あそこの山頂で食べられる鍋焼きうどんは絶品だからぜひ食べておいで』


理珠 「っ……」 (でも、負けるわけにはいきません……!)

理珠 (鍋焼きうどんが待っているのですから!!!)

868以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 00:22:25 ID:hgNnmgHA
………………

「でさー……」  「えーっ、わかるー!」  「……ねぇねぇ、メッセ交換しよ?」

紗和子 「………………」 (周囲では着々と仲良しグループができはじめている……)

紗和子 (そんな輪の中に、もちろん私が易々と入れるわけもない……)

グスッ

紗和子 (……やっぱり、こなければよかっ――――)


理珠 「――……んっ……んんんん……!!!」


紗和子 「あっ……」 (緒方理珠、さん……?)

紗和子 (顔を真っ赤にして、リュックを背負い直しているけど……)

紗和子 (ああ、ペットボトルを積んだのね。重そうだわ)

紗和子 (……っていうか、あの体格で2kgの重量増はきついんじゃ……)

紗和子 「………………」

紗和子 (……負けてられないわ。あの子があんなにがんばっているのだから)

紗和子 (私も、がんばらないと……!!)

869以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 00:23:08 ID:hgNnmgHA
………………

理珠 「………………」

ゼェゼェゼェゼェ……

理珠 (つ、つらい、です……)

理珠 (リュックがとても重たいですし、山道は想像以上にデコボコです……)

理珠 (何度も何度もこけそうになって……――)

――――カツッ

理珠 「はうあっ……!!」

理珠 (あ、危ない……! またこけるところでした……!)


………………物陰

紗和子 (だ、大丈夫かしら、緒方理珠さん……) ハラハラハラ (こけて山道をころげ落ちたりしないかしら……)

紗和子 (本当に体力がないのね。心配で目が離せないわ……)

870以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 00:23:39 ID:hgNnmgHA
………………

理珠 「………………」

クタァ……

理珠 (も、もう動けません……)

理珠 (少しの休憩のつもりが、もう足が動かない、です……)

理珠 (……でも)

理珠 (鍋焼きうどんの、ために……) スッ……

フラッ……

理珠 「あっ……」

ドシャアアアッ!!

理珠 「痛っ……」

理珠 (うぅ……足に全然力が入りませんでした……)

理珠 (とにかく、立ち上がらないと……ん? あれ……?)

ハッ

理珠 (め、めがねがない!?)

871以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 00:24:13 ID:hgNnmgHA
………………物陰

紗和子 「あっ……」

紗和子 (緒方理珠さん、派手にこけてしまったわ……)

紗和子 (近くに先生はいないし、生徒の姿もないわ……)

紗和子 (ど、どどど、どうしたら……)

紗和子 「………………」

紗和子 (わ、私が……出て行っても、いいのかしら……?)

紗和子 (あの人の……緒方理珠さんに手を貸してあげても、いいのかしら……?)

紗和子 (できるのかしら。私に、そんなことが……)


―――― 『空気を読むとはどういうことですか?』

―――― 『できたのにできないフリをしろということですか? どうなのですか?』


ギリッ

紗和子 (……行かなきゃ)

紗和子 (あのとき背中を押してくれたあの人のために、行かなくちゃ……!)

872以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 00:24:53 ID:hgNnmgHA
………………

理珠 (困りました……) ズーン (メガネが見当たりません)

理珠 (メガネがないと、鍋焼きうどんどころの話ではありません。下山もままならないですね……)

理珠 (さて、どうしたものか……――)

?? 「――これ、あなたのメガネでしょう?」

理珠 「へ……?」 (人……? クラスメイトでしょうか?)

理珠 (メガネがないから、顔も何も見えませんが……)

?? 「とりあえず、へたり込んだままじゃ何だから、立ち上がりなさい。ほら」

スッ

理珠 「あっ……ありがとうございます」

?? 「はい、メガネ」

理珠 「助かりました。これがないと何も見えないので……」

?? 「あっ、メガネをかけるのはちょっと待ってちょうだい」

?? 「まだ面と向かって話すのは恥ずかしいから……」

理珠 「……?」

873以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 00:25:30 ID:hgNnmgHA
?? 「私は、実は、あなたのことを中学のときから知っているの」

?? 「……そして、私はあなたに、とても感謝しているの。だから……」


?? 「……あのとき、背中を押してくれて、ありがとう」


理珠 「……? すみません、顔も見えないので、あなたのことを思い出せないのですが……」

?? 「当然だわ。あなたは私のことを知らないでしょうから」

?? 「……それだけよ。時間を取らせて悪かったわね」

?? 「あと少しで頂上みたいだから、がんばりなさい」

理珠 「本当ですか!? ということは、あとすこしで鍋焼きうどんですね!!」

?? 「……ふふっ、あなたうどんが好きなのね。覚えておくわ」

理珠 「はい、家がうどん屋なのでうどんは大好きです。それから、この山の頂上の鍋焼きうどんも絶品だそうですよ?」

?? 「へぇ、そうなのね。じゃあ、私も後でいただこうかしら」

?? 「それじゃ、先に頂上で待っているわ。もうメガネをかけてもいいわよ」

理珠 「……?」 スッ 「あれ……?」

理珠 「誰もいない……?」

874以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 00:26:26 ID:hgNnmgHA
理珠 (……一体、今の方はどなただったのでしょう?)

理珠 (一方的にお礼だけ言って去ってしまいましたが……)

理珠 (正直、改めてお礼を言いたいのはこちらなのですが……)

理珠 「………………」

ギュッ

理珠 (……温かい手と、温かい言葉)

クスッ

理珠 「……ヘンな人です。でも……」

理珠 「きっと、すごく良い人なんでしょうね」

………………

……………………

…………………………

875以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 00:26:56 ID:hgNnmgHA
…………………………

……………………

………………現在

理珠 「………………」

紗和子 「………………」 ダラダラダラ……

理珠 「……関城さんだったんですね」

紗和子 「な、何の話かしら? 全然分からないわねー?」

理珠 「………………」 クスッ 「……今思い返してみれば、声もそっくりです。シルエットも」

理珠 「髪も今日みたいなお団子でしたね」

紗和子 「……し、知らないわっ」

紗和子 (……は、恥ずかしくて、今さら 『実は私でした』 なんて言えないわよ!)

理珠 「そうですか……」 クスッ 「じゃあ、これならいいですか?」

スッ

紗和子 「へ……? めがね、どうして外して……?」

876以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 00:27:41 ID:hgNnmgHA
理珠 「今は何も見えません。目の前のあなたの顔も、見えません。だから、聞いてくれますよね?」


理珠 「……あの日、手を貸してくれてありがとうございました」


紗和子 「あっ……」

カァアアアア……

紗和子 「……どっ……どういたし、まして……」

理珠 「はい」

理珠 「……では、今日も手を貸してもらえますか?」

紗和子 「?」

理珠 「手、引いてください。疲れちゃいました」

紗和子 「っ……」 ボフッ 「しっ、仕方ないわね……!!///」

ギュッ

紗和子 (お、緒方理珠と、手を繋いでいる……///)

理珠 (……あのときと同じ、温かい手。私の想像通りでした)

理珠 (やっぱり、すごく良い人でした)

877以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 00:28:27 ID:hgNnmgHA
理珠 (……あの日、この人が手を貸してくれたから、私は山頂のうどんを味わえました)

紗和子 (……あの時、この子が私の背中を押してくれたから、私は今ここにいられるわ)

理珠 (そして今も、私の手を引いてくれています)

紗和子 (今だって、あなたがいるから、私はこうやって笑うことができるのよ)

理珠&紗和子 ((だから……))

理珠 「……なっ、なんですか。関城さん。顔がニヤけてますよ?」

紗和子 「そういう緒方理珠こそ。ちょっと顔が赤いんじゃないかしら?」

紗和子 「ほら、あと1キロよ! あと1キロで念願のうどんよ!」

理珠 「自動車がないから諦めていたドライブインの激うまうどん……! 楽しみです!」

理珠 (……だから、これからもどうか、ずっと、友達でいてくださいね)

紗和子 (だから、これからも、この子の友達でいられたら、私は満足だわ)

おわり

878以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 00:29:12 ID:hgNnmgHA
………………幕間 「問103の大判写真についての考察」

先生 「おお、緒方もしっかりと水を運んでくれたんだな。ご苦労ご苦労」

理珠 「……はい。がんばりました」 ズルズルズルズル……

先生 (すごい勢いで名物の鍋焼きうどんをすすっている……)

先生 「そうだ。緒方、あんまり写真に写ってなかっただろう?」

先生 「販売用の写真を撮るから、うどん食べながらでいいからこっちに目線をくれないか?」

理珠 「……わかりました」 ズルズルズル……

先生 「じゃあ、撮るぞー? 3,2,1……」

紗和子 「………………」 ピース

カシャッ

先生 「ん……?」 (奥の木立から突然女子生徒が現われてピースサインをしたが……)

先生 (……まぁ、いいか)

おわり

879以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 00:31:35 ID:hgNnmgHA
>>1です。読んでくださった方ありがとうございました。

実は鍋割山の鍋焼きうどんネタは一度やりたかったのですが、
問103で遠足と覚しき写真が出てきたことで、勝手に頭の中ですべてが繋がりました。

久しぶりに気持ち良くお話が書けた気がしますが、ラブコメ漫画のSSだというのに
ラブコメのラの字もないのはどうかと思います。申し訳ないことです。

自分語りが長くなりました。
申し訳ないことです。

また投下します。

880以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 07:55:54 ID:G7mSOgZU
乙やで

881以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 12:09:33 ID:tRAL6jPo
やっぱり先輩なんだよなぁ

882以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/03(水) 21:20:54 ID:SfbK2b9Q
おつ!

883以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 17:53:15 ID:MOT0E4vs
>>1です。投下します。
>>715さんのお題です。ご期待に沿えているかどうか未知数ですが。

【ぼく勉】 真冬 「彼は教え子につき」

884以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 17:53:54 ID:MOT0E4vs
………………週休日 水泳部 部室

うるか 「さー、今日は息抜きがてら、久々に泳ぐぞーっ!」

智波 「あはは、元気だねー、うるか」

あゆ子 「少しわけてもらいたいくらいだよ、まったく」

池田 「あ、先輩! こんにちは!」

池田 「今日は先輩たちも練習に参加してくれるんですか?」

うるか 「うん! 池田っちたちの邪魔にならないようにするからレーン貸してねっ」

池田 「邪魔だなんてそんな! 来てくれて嬉しいです!」

池田 「皆さんに久しぶりにフォーム見てもらいたいです!」

智波 「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいね」

あゆ子 「ほんとに可愛い後輩だなぁ、池田はー」

池田 「可愛いだなんて、そんな……っ」

885以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 17:54:25 ID:MOT0E4vs
うるか 「あっ、そうだ。池田っち、これ貸してくれてありがとね」

池田 「あっ! 先輩、カレエゴ一巻読み終わったんですね!」

うるか 「めっちゃ面白かったよ! 続きが気になるよ〜!」

あゆ子 「? なんだそれ? 漫画?」

うるか 「うん。池田っちが貸してくれたんだ。めっちゃ面白かったよ」

あゆ子 「池田ー? うるかはただでさえおバカなんだから、漫画なんか貸すんじゃないよ」

あゆ子 「せっかく最近まぁまぁになってきた英語がまたぱっぱらぱーになっちゃうだろ」

池田 「うっ……。たしかに、先輩たち受験生ですもんね……」

うるか 「ちょっと、川っち! ぱっぱらぱーってなにー!」

あゆ子 「そのまんまでしょうが。まったくもう……」

智波 「まぁ、息抜きも大事だよね。でも、続きは受験が終わったらにしたら?」

うるか 「うぅ……。海っちの正論が心に刺さるよぅ……」

池田 「あ……じゃあ、受験が終わったら、二巻以降も貸しますね!」

うるか 「うん! 早く借りられるようにがんばるね!」

886以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 17:54:59 ID:MOT0E4vs
あゆ子 「そんなに面白いのか、その漫画……」

あゆ子 「………………」

コソッ

あゆ子 「なぁ、池田。それ、私が借りてもいいか?」

池田 「!? もちろんです! どうぞ!」

あゆ子 「ん、ありがとう。読ませてもらうな」

池田 「いえいえ、カレエゴファンが増えてすごく嬉しいですから!」

池田 (……あっ、そういえば、)


―――― 『とりあえず10巻まで……』


池田 (桐須先生、カレエゴ買ってたよね……)

池田 (ひょっとして、先生もカレエゴファンになってたりなんて……)

池田 「………………」

クスッ

池田 (まさか、そんなわけないよね)

887以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 17:55:53 ID:MOT0E4vs
………………真冬の家

真冬 「………………」

バーン!!!

真冬 (……驚愕。まさか私の家に漫画本が並ぶことになるとは)

真冬 (結局最新刊まで買いそろえて読み込んでしまったわ……)

真冬 (まぁ、これは学校現場の物語なのだから、これからの仕事に役立たないこともないでしょう)

ペラッ……ペラッ……

真冬 (……中身は、荒唐無稽としか言いようのないようなシチュエーションばかりだけれど)

真冬 (でも、どこかリアリティを感じてしまうのは、私が似たような経験をしているからかしら)


―――― 『たいした傷じゃないですし もう……』

―――― 『だめよ! 化膿でもしたら……』


真冬 「っ……」

888以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 17:57:25 ID:MOT0E4vs
真冬 (……まったく、本当に、)


―――― 『先生危ない!』

―――― ((ここで唯我君に受け止められてしまったら……))


真冬 (私は、彼の前だとどうしても、醜態ばかり晒してしまう……)


―――― 『先生 目つぶって……』

―――― 『だ……っ だだ だめよ唯我君……! 私とあなたは教師と生徒!!』

―――― 『でも……っ』


真冬 (……それが、この作品と重なることが多いのね)

真冬 (この作品の主人公、クリスも生徒の結人に助けられることが多いし……)

真冬 (……いえ、もちろん私はこんな生徒にときめくようなダメ教員ではないけれど)

889以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 17:58:29 ID:MOT0E4vs
真冬 (でも、そんなダメなところばかりのクリスの働きかけで、結人はどんどん成長している……)

真冬 (……実際、これだけリアリティのある描写を描くためにかなりの取材をしたのではないかしら)
※真冬先生個人の感想です。

真冬 (だとすれば、この本を参考にすれば、生徒の教育の一助になる可能性もある……?)

真冬 「………………」

ピンポーン

真冬 (? 新聞の勧誘? それとも通販でも頼んでいたかしら?)

ガチャッ

成幸 「こんばんは、先生」

真冬 「あら、唯我くん。こんばんは。何か用かしら?」

成幸 「おでん作り過ぎちゃって。もしよかったらもらってくれませんか?

成幸 「あと、ついでに……」 ニコッ 「そろそろ掃除が必要かな、と」

890以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 17:59:11 ID:MOT0E4vs
………………少し前 唯我家

葉月 「ねー兄ちゃん、遊んで遊んでー」

和樹 「遊んでー!」

成幸 「だー! 後で遊んであげるから、今は勉強させてくれー!」

葉月 「だってー! 母ちゃんも姉ちゃんもお台所で忙しそうなんだもん!」

和樹 「兄ちゃんが一番暇そうだもん!」

成幸 「ひどい言い草だなお前たち……」

水希 「こら、葉月、和樹。お兄ちゃんを困らせないの」

水希 「そろそろご飯だから居間においで。お兄ちゃんも、区切りがいいところで来てね」

成幸 「ああ、ちょうどいいから行くよ」

成幸 「……ん、今日の晩ご飯はおでんかな?」

水希 「うん! 大根練り物こんにゃくたまごも特売だったから、たくさんあるよ!」

成幸 「おお、そりゃ楽しみだ」

891以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 17:59:46 ID:MOT0E4vs
花枝 「……とはいえ、」

ドーーーーーン!!!

花枝 「いくら何でも作りすぎたわね」

成幸 「お、おお……」 (大きめの鍋ふたつにおでんタネがてんこもりだ……)

葉月&和樹 「「山盛りおでんだー!!!」」 キラキラキラ……!!!

花枝 「この分じゃ、丸三日はおでんね。もちろんお弁当もおでんよ」

成幸 「そ、それはちょっときつそうだな……」

花枝 「ま、さすがにそれは冗談よ。あとでご近所さんにでもお裾分けするわ」

成幸 「ん……」 (お裾分け、か……)


―――― 『不覚……! 家にエプロンがないんだったわ……!!』

―――― 『不味…… 何かしらコレ 圧倒的に苦くて硬くてしょっぱいわ……』


成幸 (先生、またろくなもの食べてないだろうし、持って行ってあげようかな。ついでに掃除とか……)

892以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:00:27 ID:MOT0E4vs
成幸 (……って、俺とは生徒と教師。あんまりこういうのはよくないよな)


 『それでは、次の特集です。テーマは「若者の孤独死」です』

 『近年、若くして孤独死をするひとり暮らしの若者が増えています』

 『中には、ゴミ屋敷のような部屋でゴミに埋もれて栄養失調で亡くなるようなケースもあるようです』


花枝 「……あら、暗い話題の特集ね。でも、うちとは縁遠い話ね、成幸」

成幸 「………………」

花枝 「……成幸?」

成幸 (……ま、まずい)

ダラダラダラ……

成幸 (桐須先生がそうなる未来が容易に想像できる……!)

893以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:01:56 ID:MOT0E4vs
成幸 (やっぱり今日、様子見がてらおでんをお裾分けに行こう。ついでに掃除もしてあげよう……)

成幸 (でも俺も来年には高校を卒業するわけだし、いつまでも先生のお世話をできるわけじゃない)

成幸 (先生には、最低限の自活ができるようにしておいてもらわないと……)

成幸 (最悪、栄養失調で死ぬことはないとしても、入院なんてことはありえるもんな……)

成幸 「………………」

グッ

成幸 (よし! 決めた! 俺が卒業するまでの間に、先生に家事のノウハウをたたき込むぞ!)

成幸 (俺がいなくなっても、家事で困らないように!!)

成幸 (とりあえず今日は掃除からだな! よーし!)

894以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:02:46 ID:MOT0E4vs
………………現在

成幸 「……まぁ、わかっていましたけど、こうなりますよね」

グッチャアアアァアアアア……

真冬 「……きれいな方だと思っていたのだけれど」

成幸 (先生の場合は、まずこの常人とかけ離れた感覚を矯正する必要があるな)

成幸 (よし。ここは心を鬼にして……)

成幸 「先生。失礼かもしれませんが、ひとつ言わせてください」

真冬 「い、いきなり何かしら?」

成幸 「これできれいと思えるその感覚は、どうにかしたほうがいいと思います」

真冬 「し、辛辣……。もう少し歯に衣着せてほしいわ……」 シュン

成幸 (あっ……し、しまった。今日は厳しく行こうと思ってたけど、さすがに言いすぎか……?)

成幸 (……いや、でも、このままじゃ先生がダメダメな大人になってしまう)

成幸 (最悪、ゴミに埋もれて栄養失調でしんでしまうかもしれない!!)

成幸 (ここは心を鬼にしなければ……!!)

895以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:03:38 ID:MOT0E4vs
成幸 「先生だって言って聞かない生徒には言葉を厳しくしたりするでしょう?」

真冬 「それはそうだけど……」

成幸 「ほら、先生。晩ご飯の前にまず掃除ですよ。今日は先生にもしっかりやってもらいますからね」

ガサゴソガサゴソ……

真冬 (なんだか、今日は唯我くんが刺々しい気がするわ)

ハッ

真冬 (こ、これはカレエゴ5巻で、結人がクリスに反抗するシーンに似てる……!)

真冬 (言葉もどこか刺々しい気がするし、このままでは……)

真冬 (良い子で優しい唯我くんが不良になってしまうかもしれない……)


―――― 成幸 『勉強なんかやってられっかよー! やめだやめだー!』

―――― 成幸 『酒と煙草もってこーい!』


真冬 (なんてこと……!!)

896以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:06:05 ID:MOT0E4vs
真冬 (だっ、だめよ! 良い子の彼がそんな風になるなんて、考えたくもないわ!)

ハッ

真冬 (そういえば、カレエゴでも……)


―――― クリス 『結人君、きみはどうしていつもそう……』

―――― 結人 『うるせーな。あんたには関係ないだろ』


真冬 (そんな風にクリスに心を開こうとしなかった結人に対して……)


―――― クリス 『彼が何を考えているのか分からない。でも、放っておくわけにも……』

―――― クリス 『彼の抱える孤独、悩み……すべて知りたい……』

―――― クリス 『そっか……。私の方から心を開かない限り、彼の心の中なんて分かるはずもないんだわ』

―――― クリス 『なら、彼が私に心を開いてくれるまで……私は彼に、心を開いて声をかけ続けるだけよ』


真冬 (クリスは彼を気にかけ続けた……)

897以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:07:08 ID:MOT0E4vs
真冬 (そして……)

―――― クリス 『ダメよ! ケガをしているじゃない!』

―――― 結人 『だから、うるせーって言ってんだよ! あんたには関係ないだろ!』

―――― クリス 『関係なくなんてないわ! 私はあなたの先生だもの!』

―――― 結人 『先生……』


真冬 (結人はクリスのことを信頼するようになったのだったわね……)

真冬 「………………」

真冬 (……私にもできるかしら)

真冬 (クリスのように、素直に、生徒のために、心を開いて……)

成幸 「……?」 (先生、ボーッとしてどうしたんだろ?)


―――― 『これできれいと思えるその感覚は、どうにかしたほうがいいと思います』


成幸 (ひょっとして、さっき言い過ぎちゃったせいかな……。謝らないと)

898以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:07:48 ID:MOT0E4vs
成幸 「あの、先生」

真冬 (大丈夫。私は教師だもの。できるはずよ)

真冬 (彼に道を誤らせてしまったら、“あの人” に申し訳が立たないわ)

真冬 (素直に。変に強がらず。見栄を張らず。虚飾を排して)

真冬 (できるかどうかじゃないわ。やらなければならないのよ。唯我くんのために!)

成幸 「先生?」

真冬 「………………」

ニコッ

真冬 「……あら? どうしたの、唯我くん?」

成幸 「……!?」 ビクッ

成幸 (なっ……何が起きているんだ、一体……)

真冬 「ん?」 ニコニコニコ

成幸 (あの “氷の女王” 桐須先生が、未だかつて見たことのないような笑顔を浮かべている!?)

899以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:09:08 ID:MOT0E4vs
成幸 「あ……えっと、あの……」

真冬 「ふふ、変な唯我くん。一体どうしたというの?」

スッ

成幸 (うおっ!? ち、近っ!?)

成幸 「な……ななな、なんでもありません! 掃除を始めましょう!」

真冬 「あっ……」

真冬 (やはり、そうすぐにはいかないわね……)

真冬 (焦ってはダメね。ゆっくり、少しずつ進めていくことにしましょう)

900以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:09:56 ID:MOT0E4vs
………………

成幸 「ということで、今日は掃除の基礎をひとつひとつ教えていきます」

真冬 「まぁ、本当に?」 ニコニコ 「助かるわ。ありがとう」

成幸 「っ……」 (調子狂うなぁ……)

真冬 (やっぱり様子が変ね。非行の前兆かしら……) ハラハラ

成幸 「まず、水回りをきれいに保つのは基本です。食器をため込むのをやめてください」

成幸 「キッチンを使ったらすぐに食器を洗う癖をつけてください」

真冬 (キッチンを使ったらすぐ……!? なかなか大変なことを言ってくれるわね……)

真冬 (忙しいとついつい洗い物をためてしまうのだけれど……)

成幸 (心を鬼にして心を鬼にして……) ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

真冬 (……そんなことを言える状況ではないわね。これも唯我くんのためよ、真冬)

真冬 「わかったわ。これからはそうするって、約束するわ」 ニコッ

成幸 (っ……) ドキッ (聞き分けがいいのは助かるけど……)

真冬 「では、早速食器を洗ってしまうわね」

成幸 (拗ねたような顔もしないし、まるでまともな大人みたいだぞ!? 一体どうしたんだ!?)

901以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:10:44 ID:MOT0E4vs
………………トイレ

成幸 「次はトイレです! ここも汚れがちですから、少なくとも一月に一回は掃除しましょう!」

真冬 「分かったわ。掃除の仕方も教えてくれると助かるのだけど……」

成幸 「わ、分かりました。今から一緒に掃除しましょう」

真冬 「ありがとう。本当に助かるわ」

成幸 (桐須先生が自分から掃除を教えてくれと言い出すとは……)

………………浴室

成幸 「あー、もう。せっかくきれいなおフロにまたピンクカビが……」

真冬 「ごめんなさい……。水が流れていればきれいになると思ってしまって……」

成幸 「流れがあるうちはいいですけどね、残った水に汚れがつくんですよ」

成幸 「おフロの後に、軽くスポンジで水気を取るだけできれいが長続きしますよ」

真冬 (ちょっと……いえ、かなり面倒だけど……これも、唯我くんのため……)

真冬 「……こっ、これからはそうするわ。約束します」 ニコッ

成幸 (素直すぎて怖い……!!)

902以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:11:39 ID:MOT0E4vs
………………リビング

成幸 「で、やっと部屋の掃除に入れるわけですが……」

グチャア……

成幸 「まず、掃除の基礎とかそういう話の前に、ゴミは定期的に出してください」

成幸 「うちの地区は週に二回は燃えるゴミの収集があるんですから、せめてどちらかだけでも出すようにしてください」

真冬 (ゴミ出し、ついつい面倒になってまた今度、また今度とため込んでしまうのだけど……)

真冬 (まったくもって唯我くんの言うとおりだわ。しっかりしないと……)

成幸 「それから、床に物を放置しないでください。それを徹底するだけで部屋は汚れませんよ」

真冬 (……床に物を放置しない!? そんな生活ができるの!?) ※できます

真冬 (うっ、でも……)

成幸 「………………」 ジーーーッ

真冬 「……わ、わかったわ。約束するわ。物はできるだけ床に置きません」

成幸 (できるだけ、っていうのが不安だけど……)

成幸 (素直に約束してくれてるんだから、信じてあげた方がいいよな)

903以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:12:21 ID:MOT0E4vs
成幸 「それから、使った物はすぐに片付けるくせをつけましょう」

真冬 「わかったわ」

成幸 「週に一度は掃除機をかける癖をつけてください」

成幸 「そうすればホコリもたまらないし、物を片付ける癖もつきますから」

真冬 「……うっ、ぜ、善処するわ」

成幸 「……?」 (色々言いすぎたからかな。段々いつもの桐須先生っぽくなってきたな)

成幸 (よかった。一時は何が起きたのかってくらい別人だったけど)

成幸 (笑顔もいいけど、やっぱりいつもの桐須先生の方が落ち着くな) クスッ

真冬 「あっ……」 (唯我くん、やっと笑ってくれたわ)

真冬 (今日は妙に刺々しくて戸惑ったけど、『カレエゴ』 を参考にしたおかげで元の彼に戻ったみたいだわ)

成幸 「……さ、じゃあ、実際に片付けをやっていきましょう。今日は先生中心ですからね」

真冬 「わ、わかっているわ。しっかりとやってみせるわ」

904以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:13:07 ID:MOT0E4vs
………………

成幸 「あらかた終わりましたね」

真冬 「ええ。いつも本当にありがとう。あなたのおかげで助かっているわ」

ニコッ

真冬 「今日あなたに教わったことをしっかりと実践していくように、がんばるわね」

成幸 「あ……は、はいっ」

成幸 (うぅ……。また笑顔だ……。今日の先生は妙に素直で、緊張するなぁ……)


―――― 『中には、ゴミ屋敷のような部屋でゴミに埋もれて栄養失調で亡くなるようなケースもあるようです』


成幸 (はっ! い、いかん! 緊張している場合じゃない! 厳しく、心を鬼にして……)

成幸 「で、でも、まだまだですからね! 先生は他の家事もダメダメなんですから!」

成幸 「掃除だけじゃなくて、家事全般、しっかりできるようになってもらいますからね!」

真冬 「………………」

成幸 「……あ」 ハッ (しまった。さすがに言いすぎだろうか……)

成幸 (これ、絶対怒られるやつだ……) ガタガタブルブル (とんでもなく失礼なことを言ってしまった)

905以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:13:42 ID:MOT0E4vs
真冬 「………………」

真冬 (唯我くん、また刺々しい感じだわ……。やはりこれは、非行の兆候かしら……)

真冬 (唯我くんがどうして刺々しいのか、まったく分からないわ……) シュン


―――― 『なら、彼が私に心を開いてくれるまで……私は彼に、心を開いて声をかけ続けるだけよ』


真冬 (……そう。そうよね、クリス。私には、彼に心を開いて、接することしかできないわね)

成幸 「あ、あの、先生? す、すみません。さすがに言いすぎ……――」

真冬 「――……ごめんなさい。私、まだまだよね。いつも君に迷惑をかけてばかりだわ」

成幸 「!?」 (あ……あれだけ言ったのに!? 先生がむくれてもいない!?)

成幸 (それどころか、しおらしい顔をしている!?)

真冬 (素直に。本当に、思っていることを……)

真冬 「君がいなかったらどうしようもなかったことも、今まで何度もあったわね」

真冬 「虫が出たときとか、海でのこととか、美春のことだって……」

真冬 「今だって、こうやって私に掃除を教えてくれたし……」

真冬 「だから、本当に君には感謝しているのよ」

906以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:14:32 ID:MOT0E4vs
成幸 (い、一体何が起きているんだ……)

真冬 (恥ずかしい、けど……)

真冬 (決して、嫌な気持ちではない……)

真冬 「……厚かましいお願いだとは思うけど、君がいいのなら、今後もよろしくお願いします」

真冬 「私に、色々と教えてくれると助かるわ」

真冬 (……そう。素直に。心の中で思っていることを、そのまま、)


真冬 「……これからも、ずっと。私のそばにいて、私が知らない色んなことを、教えて」


成幸 「っ……///」

成幸 「ず、ずっと、ですか……?」

成幸 (あっ……でも、そっか……)

成幸 (俺が、高校を卒業してもずっと先生のそばにいて、先生の代わりに家事をしてあげれば、全部解決じゃないか?)

ハッ

成幸 (い、いやいやいや……/// 何考えてるんだ、俺……)

907以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:15:12 ID:MOT0E4vs
成幸 「だ、ダメですよ、先生。俺がずっと先生のそばにいられるわけじゃないんですから」

成幸 「先生が自分で家事を覚えないと……」

真冬 「ダメ……」 シュン 「そうよね。あなたは、私のそばにはいたくないわよね……」

真冬 「こんなダメダメな私なんかのそばには……」

成幸 (なんでそんな悲しそうな顔をするんだー!?)

成幸 「いや、そういう問題じゃなくて……っていうか、そもそも先生が嫌でしょう?」

成幸 「俺が、高校を卒業した後もずっと、先生の家にお邪魔することになるんですよ?」

真冬 「私は全然構わないわ。むしろ……それは、とても嬉しいと思うもの」

成幸 「っ……」

真冬 (素直に……素直に……)

真冬 「あなたみたいな素敵な男の子に助けてもらえるって、とても幸せなことだと思うの」

成幸 「あっ……/// い、いや、俺は……その……」

成幸 (な、なんだ? 今日の桐須先生はやっぱりヘンだぞ? で、でも……)

成幸 「……お、俺は……俺も……――――」

――――prrrrrr!!!!!

908以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:15:57 ID:MOT0E4vs
成幸&真冬 「「!?」」 ビクッ

成幸 「あっ……で、電話……。すみません、出ます……」 ピッ

成幸 「もしもし? 水希? あ、ああ、もう帰るよ」

成幸 「ごめんごめん、ちょっと話し込んじゃってさ……。すぐ帰るよ」

成幸 「……ん、悪かったって。じゃ、切るな」 ピッ

成幸 「……すみません」

真冬 「……べつに」

成幸 「………………」 (……改めて冷静になると、)

真冬 「………………」 (なっ、何を……)


―――― 『あなたみたいな素敵な男の子に助けてもらえるって、とても幸せなことだと思うの』

―――― 『……お、俺は……俺も……――――』


真冬 (一体何を口走っていたのかしら私はーーーー!?)

成幸 (一体何を口走ろうとしていたんだ俺はーーーー!?)

909以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:16:43 ID:MOT0E4vs
………………

成幸 「な、なるほど。俺が刺々しいからグレたのかと思って……」

成幸 「それで、優しくすれば元の俺に戻るのかと思った、と?」

真冬 「あなたは、私がゴミに埋もれて孤独死を遂げるのではないかと心配になり……」

真冬 「私に家事を習慣づけさせるために厳しく接した、と……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

真冬 「へぇ……なるほどね……?」

成幸 (あ、完全にいつもの桐須先生だ)

成幸 「失礼なことを考えてしまったのは、本当にすみません。でも……」

成幸 「心配だったんです……」

真冬 「……はぁ。分かっているわよ、そんなこと」

真冬 「あなたが善意しか持ち合わせていないことなんて、ずっと前から知っていますからね」

真冬 「私の普段の生活が、あなたにそれを想起させるに足るだけのものだということでしょう?」

真冬 「それは私の責任だわ」

910以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:17:31 ID:MOT0E4vs
真冬 「ごめんなさい、受験生に無為に時間を使わせてしまったわね」

真冬 「さっきの電話、ご家族からでしょう? もう遅いし、早く帰りなさい」

成幸 「そうですね。そうします。長々と居座ってしまってごめんなさい」

真冬 「私の部屋の掃除に付き合わせてしまったのだから、謝る必要はないわ。ありがとう」

成幸 「あっ……」 クスッ 「ふふ……」

真冬 「? 何か可笑しなことを言ったかしら?」

成幸 「あ、すみません。そうじゃなくて……」

成幸 「さっきの先生を思い出してしまって、つい……」

真冬 「っ……」 カァアアアア…… 「わ、忘れなさい。あんな姿……」

成幸 「でも、お世辞って分かってても嬉しかったですよ? 先生が褒めてくれて、俺はとても」

真冬 「……べつに、お世辞ではないわ。全部本心よ」

真冬 「普段なら絶対に言わないけれど、君に助けられているのは事実ですからね」

成幸 「えっ……」 ボフッ 「あっ……そ、そうですか……///」

真冬 「?」

911以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:18:52 ID:MOT0E4vs
成幸 (全部、本心……? ってことは……)


―――― 『……厚かましいお願いだとは思うけど、君がいいのなら、今後もよろしくお願いします』

―――― 『……これからも、ずっと。私のそばにいて、私が知らない色んなことを、教えて』

―――― 『そうよね。あなたは、私のそばにはいたくないわよね……』

―――― 『私は全然構わないわ。むしろ……それは、とても嬉しいと思うもの』


成幸 (あれも、本心ってことか……?)

成幸 (“ずっと私のそばにいて” って言葉も……?)

成幸 (い、いやいや、そんなわけない。あれはさすがに、本心じゃないはずだ)

成幸 (……それに、俺も人のことは言えないよな。だって、)

真冬 「?」


―――― ((俺が、高校を卒業してもずっと先生のそばにいて、先生の代わりに家事をしてあげれば、全部解決じゃないか?))


成幸 (……それもアリかな、なんて思っているんだから)

おわり

912以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:19:47 ID:MOT0E4vs
………………幕間1 「彼女は妹につき」

水希 「………………」 (お兄ちゃん、帰ってくるの遅いなぁ……)

ピキューン!!!!

水希 「はっ!? お兄ちゃんが大人の女性にプロポーズされた気がする!?」

葉月 「和樹」

和樹 「ほいさ」

913以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:20:22 ID:MOT0E4vs
………………幕間2 「彼女はミーハーにつき」

池田 (川瀬先輩、『カレエゴ』 気に入ってくれたかな……)

池田 (まぁ、先輩も受験生で忙しいだろうし、まだ読んでないかな)

あゆ子 「あ、いたいた。池田ー!」

池田 「川瀬先輩……?」

あゆ子 「これ面白かったよ! 二巻貸してくれ! 頼む!」

池田 「もう読んだんですか!?」

池田 (……まぁ、川瀬先輩結構ミーハーなところあるからなぁ)

914以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:20:59 ID:MOT0E4vs
………………幕間3 「彼は律儀につき」

成幸 (……いや、でもよくよく考えてみたら、)

うるか 「ん? どったの、成幸?」 ←勉強と部活の頑張りすぎでぶっ倒れた奴

理珠 「成幸さん?」 ←うどんばっかり食べていて将来生活習慣病になりそうな奴

文乃 (成幸くんまたろくでもないこと考えてるね) ←超料理下手で食べるの大好きな奴

成幸 「………………」

成幸 (……桐須先生に限らず、こいつら全員のマネジメントをする必要があるな)

おわり

915以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 18:22:09 ID:MOT0E4vs
>>1です。読んでくださった方ありがとうございました。

要素を増やしすぎて話がとっちらかってしまった気がします。
ツギハギのあとが見えてしまうかもしれません。
申し訳ないことです。

また投下します。

916以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 20:25:03 ID:G2BsidGg
おつです。
リクエストの話、ありがとうございました!。
先生からのプロポーズもありだな!

917以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/04(木) 20:41:30 ID:8RN6x6aE
乙です

918以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/05(金) 00:00:26 ID:kmfpT3V.
相変わらず早えわ

919以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/05(金) 12:58:53 ID:F2hru5As
>>824
このssすき

920以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 01:48:46 ID:to7lUyVg
先生ぐうかわ

921以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:11:06 ID:0O24lWYM
>>1です。投下します。


【ぼく勉】 あすみ 「キスは催眠術の後で」

922以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:12:10 ID:0O24lWYM
………………

あすみ 「はー……」 ノビー

あすみ (今日は捗ったな……。我ながらがんばったぞ)

あすみ (この前の模試の結果もなかなかだし、最近調子いいぞ。にしし……)

あすみ (この調子で、国立医学部確実に合格してやるからな、見てろよ親父)

あすみ 「………………」

あすみ (……もし、もしも)

あすみ (合格できたら……いや、できなくても、)

あすみ (後輩に、なんかお礼してやらないとな)

あすみ (そんときは、もっと素直に、しっかりとお礼を言わないとな……)

グゥゥ……

あすみ 「ん……しかし腹減ったな」

あすみ 「……寒いし、なんか温かいモンでも食ってから帰るか」

923以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:14:25 ID:0O24lWYM
………………緒方うどん

理珠 「……まったく、私には理解できないことです」

成幸 「いや、うん。まぁ、気持ちは分かるけどさ」

成幸 「そうやって意固地になってると、心情理解なんかできないぞ?」

理珠 「この物語はできなくていい気がします……」

理珠 「なぜこの少女は、意中の相手をからかって遊ぶのです?」

理珠 「その心情が理解できるのですか、成幸さんは」

成幸 「……うん。緒方の気持ちはわかるぞ? でも、そうじゃなくてだな……」

理珠 「恋愛とは、相手をからかって遊ぶのが主目的なのでしょうか……」

理珠 「好きなら好きとはっきり言うべきです。相手をからかっていたら、嫌われてしまうと思います」

成幸 (まずい。緒方の思考が受験勉強とはかけ離れたところに行きつつある……)

成幸 (どうしたものか……) ハァ

理珠 「……!?」

理珠 (成幸さんがため息を……!? まさかまた、何か、進路について悩み事が……?)

理珠 (こういうときはやはり……) スッ

924以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:15:04 ID:0O24lWYM
成幸 「……おい、緒方。それは何だ?」

理珠 「? それ、とは何ですか?」

成幸 「五円玉を糸で吊したそれだよ」

理珠 「成幸さんは何も気にしなくていいんです。ただ、この五円玉を見つめていてもらえれば」 フンスフンス

成幸 「鼻息荒くソレを構えるな! やめろ! ぶらぶら揺らすんじゃない!」

理珠 「む……」

ブスゥ

理珠 「なぜ邪魔をするのですか。私は成幸さんのためを思ってしているというのに」

成幸 「俺のためを思ってなぜ俺に催眠術をかけようとするんだ!?」

ガラッ

あすみ 「こんちゃーす。緒方いるかー?」

あすみ 「……って、何してんだお前ら?」

成幸 「あ、先輩……」

925以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:16:00 ID:0O24lWYM
………………

あすみ 「……はぁ? 催眠術だぁ?」 ズルズルズル……

成幸 「はい。実は以前、緒方の催眠術にかかってすごいことになりまして……」


―――― 『ええと…… 私が頭をなでると あなたはだんだん心地よくなって どんどん私に甘えたくなっていきます』

―――― 『よしよしよしよしよしよし いい子いい子です』 ぼたゅん

―――― 『今 ものすごく…… 成幸さんに甘えたい…… です』

―――― 『ひざまくらしてください』 『いい子いい子してください』 『あーんしてください』

―――― 『名前で呼んでください』


理珠 「はうっ……///」

成幸 「っ……///」

あすみ 「……あん? すごいことってなんだ?」

成幸 「い、いや、それは、その、大したことじゃ……」

あすみ 「ふーん。でも眉唾だなぁ。催眠術なんてそう簡単にかかるもんじゃねーぞ?」

理珠 「む……」 プクゥ 「疑われるとは心外です」

926以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:18:03 ID:0O24lWYM
あすみ 「そう怒るなよ。こちとら医学部目指してがんばってるんだ」

あすみ 「医学界でも精神療法で催眠術を用いる場面はままあるが、テレビみたいな催眠術ってのはなぁ……」

理珠 「………………」 スッ

成幸 「緒方? おい、緒方? 五円玉を構えてどうするつもりだ!?」

理珠 「先輩。なら、試しにやってみますか?」

あすみ 「お、面白そうじゃん。アタシはそんなの絶対かかんねーからな」

理珠 「わかりました……。じゃあ、やらせてもらいます」

成幸 「いや、まずいですって先輩。本当に、絶対ろくでもないことに……」

あすみ 「何心配してんだ後輩。アタシが催眠術なんかにかかるように見えるかよ」

成幸 「……んー、まぁ確かに、先輩が催眠術にかかってる姿は想像できないですね」

あすみ 「だろ?」

成幸 (……ま、先輩のことだし。大丈夫だろう。俺は絶対あの五円玉を見ないようにしないと)

理珠 「では、始めます。小美浪先輩。五円玉をよく見つめてください」

あすみ 「はいはい、っと……」

927以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:18:41 ID:0O24lWYM
理珠 (さて、どういう暗示をかけましょうかね。以前成幸さんには “甘える” という暗示をかけましたが……)


―――― 『なぜこの少女は、意中の相手をからかって遊ぶのです?』


理珠 (そういえば、小美浪先輩もよく成幸さんをからかって遊んでいますね)

理珠 (……小美浪先輩はややあまのじゃくですからね。“素直になる” という暗示はどうでしょうか)

理珠 「小美浪あすみさん」

あすみ 「はいよー」

理珠 「あなたは、この五円玉を見つめていると、だんだんとボーッと心地よい気分になっていきます」

あすみ 「ふんふん」

理珠 「そして、あなたはだんだんと、意識が遠のいていきます」

理珠 「次に目が覚めたとき、あなたはとても素直になっています」

あすみ 「……ふーん」

理珠 「心地よくなってきましたね。意識が浮かんでいきます。少しずつ、身体が浮かぶような気持ちで……」

あすみ 「………………」

………………

928以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:19:36 ID:0O24lWYM
………………

あすみ 「………………」 ポーーーーー

成幸 「………………」

成幸 (……ほんとにかかっちゃったじゃないかー!)

理珠 「ふふふ、成功です。やはり私の催眠術の腕は確かなようですね!」

成幸 「言ってる場合か! どうするんだよ、これ!」

理珠 「安心してください。ちゃんと解き方も勉強してありますから」 ドヤッ

理珠 「……まぁ、その前に一度目覚めてもらわないといけないですね」

パン!!!

あすみ 「んっ……あれ、アタシ……」

成幸 「あ、先輩、どうですか? 気分は悪くないですか?」

あすみ 「こう、はい……?」

ギュッ

あすみ 「後輩だぁーっ♪」

成幸&理珠 「「!?」」

929以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:20:31 ID:0O24lWYM
あすみ 「えへへっ、こうはいっ、こうはいっ」 ムギューーーッ

成幸 「先輩!? な、なんでくっつくんですか!?」

あすみ 「何でって、そんなの決まってるだろー?」

あすみ 「後輩にぃ、くっつきたいからだー!」 ムギュムギュムギュッ

成幸 「っ……///」 (せ、先輩の……色々なブブンが、めっちゃ当たって……///)

理珠 「むぅ……」 プクゥ 「……随分と嬉しそうですね、成幸さん?」

成幸 「何でお前が怒ってんだ!? いいから早く催眠を解いてくれよ!」

理珠 「あっ、そ、そうですね」 オホン 「では、小美浪先輩、こっちを向いてください」

あすみ 「やっ」 プイッ

理珠 「……いや、“やっ” ではなく……」

あすみ 「やっ!」 プイプイッ 「後輩をたぶらかすGカップは、やっ!」

理珠 「じ、Gカップって……! 私が胸だけみたいなこと言うのはやめてください!」

あすみ 「やーん、Gカップが怒った。こうはーい、怖いよー」 ムギュゥッ

成幸 (ほぼ抱きつかれてるような姿勢になってるぞ!?)

930以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:21:34 ID:0O24lWYM
理珠 「むぅ……」

理珠 「いいから、こっちを向いてください! いい子ですから!」

あすみ 「アタシいい子じゃないしー」 プイッ

理珠 「ムキー!!」

理珠 「………………」

成幸 「……お、おい、緒方?」

理珠 「……先輩がこっちを向いてくれない限り、私にはどうすることもできません」

成幸 「へ?」

あすみ 「……えへへ、こうはーい♪」

理珠 「まぁ、催眠術は数時間で解けますから」 ムスッ

理珠 「先輩は、成幸さんが責任を持ってお家に届けてあげてください」 ムスムスッ

成幸 「ちょっと待て! 本当に何でお前が怒ってるんだ!?」

931以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:22:23 ID:0O24lWYM
………………帰路

あすみ 「わーい、後輩のおんぶーっ♪ ラクチン〜!」

成幸 「わ、わかりましたから、あんまり騒がないでください、先輩」 フラフラフラ……

成幸 (いつもの先輩からは想像できない姿だ……)

あすみ 「えへー、ありがとなー、こうはいっ!」

ハムッ

成幸 「はうあっ!?」 ビクッ

成幸 「みっ、耳をはみはみしないでください……! あっ……ダメですって!」

あすみ 「お礼なのに……」 シューン

成幸 (こ、このままじゃ身が保たない……。早く家に送り届けないと……)

932以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:23:10 ID:0O24lWYM
………………小美浪家

成幸 「ごめんくださーい! 小美浪さん、いらっしゃいますかー?」

シーーーン

成幸 「あれ……?」

成幸 「先輩、お父さんは……?」

あすみ 「親父? 親父は今日は往診なんだ」

成幸 「……ってことは、家にはいないんですか?」

あすみ 「ん! だからふたりっきりだぜ、成くん?」 ムギュッ

成幸 「……!? な、成くんって……」

あすみ 「えへへー、今考えたんだ! ほら、アタシたち恋人同士だろ?」

成幸 「えっ」

あすみ 「なのにいつまでも先輩後輩呼びは変だろ。だから、成くん」

成幸 「い、いやいやいや、恋人同士って、それはあくまでお父さんを誤魔化すためのフリで……」

あすみ 「………………」 ウルッ

成幸 「!?」

933以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:24:01 ID:0O24lWYM
あすみ 「……成くんは、アタシが恋人じゃ、イヤってことか?」 ウルウルウル

成幸 「えっ!? いや、そういう問題じゃ……っていうか、何で泣きそうになってるんです!?」

成幸 (っていうか、これが素直な先輩って……) ボフッ (これじゃまるで、先輩が俺のこと好きみたいじゃないか……)

成幸 (いや、いやいや……いくらなんでもそれは自意識過剰すぎるな)

成幸 (先輩はきっと、俺への感謝の気持ちを “素直に” 表現してるだけだ。うん。絶対そうだ……)

あすみ 「だって……だってぇ……」 ブワッ 「成くんにフラれる〜〜〜〜!!!」

成幸 「わーー! 泣き出さないでください! ごめんなさい! 俺が悪かったですから!」

成幸 「嫌じゃないです! 先輩の恋人になれてすごく嬉しいですから!」

あすみ 「………………」 ピタッ 「……えへ〜」 ニコッ

成幸 (めっちゃすぐ泣き止んだ。このあたりはいつもの先輩と一緒だ……)

あすみ 「じゃあ、成くんは、アタシのことなんて呼んでくれるんだ?」

成幸 「え……!? えっと……あー……」

成幸 (……いつもの先輩に知られたらめちゃくちゃ怒られそうだけど)

成幸 (また泣かせるわけにもいかないし……)

934以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:24:40 ID:0O24lWYM
成幸 「あっ……」 カァアアアア…… 「“あーちゃん” ……とか?」

あすみ 「………………」

成幸 (……し、しまった。気に入らなかったか?)

ニヘラ

あすみ 「……えへっ。すごくいい。ね、呼んでみてくれよ、成くん」

成幸 「あ、はい……。えっと……あーちゃん?」

あすみ 「うん。成くん。えへへ……」 ギュッ

成幸 「……っ///」 (うー、恥ずかしい、けど……)

あすみ 「?」

成幸 (やっぱり素直な先輩はめちゃくちゃ可愛い……)

ハッ

成幸 (って、何考えてんだ俺は! 催眠術にかかってる相手にそんな……)

あすみ 「ほら、成くん! アタシの部屋行って勉強しよ!」 ギュッ

成幸 「わっ、せ、先輩……じゃなくて、あーちゃん! 引っ張らないでくださいよー!」

935以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:26:05 ID:0O24lWYM
………………あすみの部屋

あすみ 「………………」

成幸 「………………」

カリカリカリ……

成幸 (ほっ。幸い、部屋についた途端、勉強モードに入ってくれた)

成幸 (先輩は根がまじめだもんな。“勉強したい” って気持ちも素直のうちなんだろ)

あすみ 「ねー、成くん。一問解けた! 解けたよ!」

成幸 「あ、はい。よくできましたね」

ナデナデナデ

あすみ 「えへへー♪」

成幸 (……まぁ、問題を解くたびに色々と要求されるけど、これくらいで済むならいいよな)

あすみ 「次の問題解けたらひざまくらしてくれるか?」

成幸 「……いや、それじゃ勉強できないじゃないですか」

あすみ 「……だめ?」 ウルウルウル

成幸 (こうやって感情に揺さぶりをかけてくるあたりはいつもの先輩と一緒だ……)

936以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:26:45 ID:0O24lWYM
成幸 「……じゃあ、一分だけですよ?」

あすみ 「! わかった!」

成幸 (……うん。まぁ、これくらいで済んで僥倖と言うべきだろう)

成幸 (緒方のときは最終的に永久機関ができあがったからな……)

成幸 (……いかんいかん。俺も勉強に集中しないと)

あすみ 「………………」

カリカリカリカリカリカリカリ……

あすみ 「……できた!」

あすみ 「えーい!」 ゴローン

成幸 「わっ……ととと……」

成幸 「もう、あーちゃん? いきなり寝転んでこないでくださいよ」

あすみ 「だって早く成くんに膝枕してもらいたかったんだもん!」

成幸 「まったく……。一分だけですからね?」

あすみ 「はーい」

937以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:27:31 ID:0O24lWYM
成幸 「………………」

カリカリカリ……

あすみ 「………………」 (……真剣な顔して勉強してる成くん、かっこいいなぁ)

あすみ (こんないい人の恋人になれて、アタシは幸せ者だなぁ……)

あすみ (……もっと、成くんと距離を縮めたいな)

成幸 「……ん。そろそろ一分ですよ、先輩。勉強を再開してください」

あすみ 「……んー、もうちょっとー!」

成幸 「約束を破るのはダメですよ。ほら、起き上がってください」 スッ……

あすみ 「はうっ……!?」

成幸 「あっ……///」

成幸 「す、すみません。先輩を起こそうと思ったけど、近づきすぎました……」

あすみ (きっ……) ボフッ (キスされるかと思った……///)

あすみ (……ん、キス?)

あすみ (キス……かぁ)

938以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:28:10 ID:0O24lWYM
成幸 「? あーちゃん?」

あすみ 「……ねえ、成くん。今から小テストやるから、終わったら採点お願いしてもいい?」

成幸 「もちろんです。がんばってくださいね、先輩」

あすみ 「………………」 ジーーーッ

成幸 「あっ……。あーちゃん……」

あすみ 「……うん!」 パァアアアアアア……!!

あすみ 「ねえねえ成くん。もうひとつお願いがあるんだけど、」

成幸 「何です?」

あすみ 「この小テスト、満点取れたらゴホービちょうだい?」

成幸 「ご褒美? また膝枕ですか?」

あすみ 「ううん。今度は……その……、……ゥ、して、ほしい……」

成幸 「?」

あすみ 「……だから……チューして、ほしい」

成幸 「へ……?」

成幸 「……い、いやいやいや! それはさすがにまずいでしょう!?」

939以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:29:04 ID:0O24lWYM
あすみ 「まずいって、どうして?」

成幸 「いや、だって、あーちゃんはいま、催眠術にかかって……」

あすみ 「催眠術にかかってると、チューしちゃいけないのか?」

成幸 「そ、そりゃそうですよ。前後不覚の女性に、そんなこと……」

あすみ 「……むぅ。そんなにアタシとチューするのイヤかよ」

成幸 「むくれてもダメですよ。さすがに、こればっかりは……」

あすみ 「……イヤなんだ」

成幸 「嫌とかそういう問題じゃなくて……」

あすみ 「成くんがイヤじゃないならいいだろ? アタシがしたいって言ってるんだぞ?」

成幸 「………………」

ハァ

成幸 「……分かりました。満点取れたらですからね」

あすみ 「!」 パァアアアアアア……!!! 「うん、がんばる!」

成幸 (……まぁ、大丈夫だろ。先輩がいまやってる問題集、かなり難しいやつだし)

940以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:29:50 ID:0O24lWYM
………………

成幸 「……!?」 (ま、満点……!?)

あすみ 「よっしゃー! 全問正解!」

成幸 「す、すごい。先輩、着実に基礎が身についてるってことですよ!」

成幸 「国立医学部、かなり現実味を帯びてきたんじゃないですか!?」

あすみ 「えへへ。ありがとな、後輩」

あすみ 「……ってことで、ゴホービ、だよな?」

成幸 「あっ……」 (わ、忘れてた……)

成幸 「いや、えっと、その……」 テヘッ 「ご褒美って何でしたっけ?」

あすみ 「あん? それでごまかせると思ってるのか、お前は?」

成幸 「……ですよね」

成幸 「いや、でも、やっぱりキスは……」

あすみ 「………………」 プクゥ 「……やっぱり、アタシとキスすんのイヤなだけじゃねーか」

成幸 「そうは言ってないですけど……」

941以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:30:26 ID:0O24lWYM
あすみ 「ならいいじゃねーか」

スッ……

成幸 「あ、あーちゃん……」

成幸 (目を閉じて、唇を尖らせて……これって……)

成幸 (俺のキスを、待ってるってこと、だよな……)

ドキドキドキドキ……

成幸 (キス……)

成幸 「………………」 グッ 「……先輩」

あすみ 「こう、はい……?」


成幸 「――……やっぱり、ダメです」


あすみ 「……っ」 プイッ 「そんなに、イヤかよ。アタシとキスするの……」

成幸 「違います。いま、先輩は催眠術にかかってるんです。だから、そんな先輩にキスをするのは、卑怯なんです」

成幸 「だから、ダメなんです。分かってください。先輩……いや、あーちゃん」

あすみ 「………………」

942以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:30:59 ID:0O24lWYM
あすみ 「……なぁ、こうは――成くん?」

あすみ 「でも、さっき言ってたよな? 約束を破るのはダメだって」

成幸 「ん……」


―――― 『約束を破るのはダメですよ。ほら、起き上がってください』


成幸 「まぁ、確かに言いましたけど……」

成幸 「でも、やっぱり……」

あすみ 「……それに、さっきの言い回しだと、アタシの催眠術が解けたら、チューしてもいいってことだな?」

成幸 「へ? いや、そういうことじゃ……なくは、ないのかな?」

成幸 「で、でも、催眠術が解けたら、そもそも先輩はべつに俺とキスなんか……――」

――ギュッ……スッ……

成幸 「へ……――」


――――――チュッ……


成幸 「……!?」

943以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:31:46 ID:0O24lWYM
あすみ 「………………」

成幸 「………………」

ッ……

あすみ 「……約束は、約束だからな。恨むなよ」

成幸 「……は? えっ? いや……えっ」

あすみ 「……お茶でもいれてくる」

トトトト……バタン

成幸 「………………」

カァアアアア……

成幸 「い、いま……き、キス……? 口に? えっ? ええっ!?」

成幸 (い、いやいやいやいやいやいやいや、お、おおおお落ち着け、俺)

成幸 (先輩は、催眠術にかかってたんだ。だから、べつに、他意はなくて、そんな大したことじゃ……)

成幸 「………………」

成幸 (……大したことじゃないわけあるかーーーー!!!)

成幸 (せ、先輩にどんな顔して会えばいいんだ? ど、どど、どうしたら……///)

944以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:32:35 ID:0O24lWYM
………………ドアの外

あすみ 「………………」

スッ……

あすみ (……チューって、結構ドキドキするもんなんだな)

あすみ (唇が熱い……気がする)


―――― 『……それに、さっきの言い回しだと、アタシの催眠術が解けたら、チューしてもいいってことだな?』

―――― 『へ? いや、そういうことじゃ……なくは、ないのかな?』


あすみ 「……おまえが悪いんだぞ、後輩」

ドキドキドキドキ……

あすみ 「催眠術が解けているなら、キスしてもいいって、言ったのはお前なんだから」

おわり

945以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:35:28 ID:0O24lWYM
………………幕間1 「あきらめた」

水希 「………………」

ピキューン!!!

水希 「お兄ちゃんがまた女とキスした気がする!!」

花枝 「………………」

和樹 「? 母ちゃん何か言わないの?」

花枝 「もうあきらめたわ」

946以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:36:06 ID:0O24lWYM
………………幕間2 「また」

文乃 「また相談したいことがあるって……何かあったの?」

クスッ

文乃 (……なんて、どうせりっちゃんかうるかちゃんのことだろうけど)

成幸 「……うん。実は、これはあくまで友達の話なんだけど……」

文乃 「うんうん」

成幸 「その友達が、知り合いの女の先輩とキスしちゃってさ……」

文乃 「うんう――うん?」

成幸 「……どうしたらいいかな?」

文乃 「………………」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「……? 古橋?」

文乃 (この男……)

文乃 (またゆきずりの女とフラグを……!!!)

おわり

947以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 15:36:53 ID:0O24lWYM
>>1です。読んでくださった方、ありがとうございました。

このスレにあと一つくらい投下できると思います。
また投下します。

948以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 19:04:08 ID:gGGRcViI
先輩の話甘いわ
それがいいんだけどな!!

949以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 21:44:58 ID:0O24lWYM
>>1です。投下します。

【ぼく勉】 成幸 「結局あの後、緒方の家に泊まることになってさ」 文乃 「ちょっと待って」

950以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 21:45:42 ID:0O24lWYM
………………問36後 夜 ラーメンうめえん

ズルズルズル……

うるか 「んーっ! やっぱりこの時間のラーメンは最高だね、文乃っち」

文乃 「ほんとだねぇ……」 ズルズルズル……

文乃 (うぅ……また太っちゃう……)

文乃 (でも美味しいよぅ……)

文乃 「あ、すみません。替え玉お願いします」

店員 「かしこまりましたー!」

文乃 (ああもう、太っちゃうなぁ……困るなぁ……)

うるか 「でも、リズりんほんとにダイジョーブだったの?」

文乃 「えっ……あ、う、うん。大丈夫。問題なかったよ」

951以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 21:46:12 ID:0O24lWYM
うるか 「ふーん、そっか。“タスケテ” なんてメール送ってきたから心配しちゃったね」

文乃 「あはは……」


―――― [えっと唯我君…… これは一体全体どういうことなのか 説明してくれるかなこの野郎]

―――― [ち 違う! これはかくかくしかじかで……]

―――― [ホラー映画? ああ…… たしかにりっちゃん苦手だもんねぇ……]

―――― [………… ドサクサに紛れて変なこと……してないよね……?]

―――― [しっ してません!! 神に誓って!!]

―――― [……もう しょうがないなぁ…… これは貸しにしておくからね!]


文乃 (……まぁ、唯我くんのことだから全部本当のことだろうし、大丈夫だよね)

文乃 「そんなことより、夜はこれからだよ、うるかちゃん」 ズルズルズル……

うるか 「? 夜はこれから?」

文乃 「あ、すみません! チャーハン大盛り追加お願いします!」

店員 「かしこまりましたー!」

うるか 「ほへー、たくさん食べるねぇ、文乃っち。よーし、あたしも負けないよー!」

952以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 21:46:54 ID:0O24lWYM
………………翌日 夏期講習 昼休み

文乃 「うぅ……」

ボロボロ

文乃 「今日の講習も散々だったよ。進むのが早いよぅ……」

成幸 「まぁ、しょうがない。寝なかっただけ偉いぞ、古橋」

成幸 「さて、じゃあ今日の範囲の復習からだな。お昼食べながらやるぞ」

文乃 「はーい……」

ジーーーッ

文乃 (……特に何も言ってこないから、わたしの方から聞くのもはばかられるけど)

文乃 (昨日は結局、あの後どうなったんだろう)

953以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 21:47:33 ID:0O24lWYM
文乃 (りっちゃんのことだから一晩中怖かっただろうし、ヘタしたら唯我くんにずっとそばにいてもらったりして……)

クスッ

文乃 (……なんて、そんなわけないか。唯我くんは紳士だし、りっちゃんもその辺はわきまえてるもんね)

成幸 「あ、そういやさ、昨日の話だけど、」

文乃 「うん? あの後のこと?」

成幸 「うん。まったく、ひどい目にあったよ」



成幸 「結局あの後、緒方の家に泊まることになってさ」



文乃 「ちょっと待って」

954以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 21:48:33 ID:0O24lWYM
成幸 「? どうかしたか?」

文乃 「いや、“どうかしたか?” じゃないよ!?」

文乃 「何 “コンビニ行ってきた” みたいな軽い感じでとんでもないこと言ってるの!?」

文乃 「泊まったの!? りっちゃん家に!?」

成幸 「いや、まぁ……泊まったって言っても一晩中起きてたし……」

成幸 「何も問題はないと思うけど」

文乃 「むしろ余計に問題が増えたんだけど!? ずっと起きてたの!?」

成幸 「なんで起きてたら問題なんだ?」

文乃 「むしろそれで問題ないと思っている方が疑問なんだけど!?」

955以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 21:49:21 ID:0O24lWYM
成幸 「お、落ち着けよ。いきなりどうしたんだ、古橋」

成幸 「近いから。な? 少し離れようか」

文乃 「なんでわたしがなだめられてる感じを出すのかな!?」

文乃 (い、いけない。とんでもないことを言われたからつい取り乱してしまった)

文乃 (落ちつかないと。うん。落ち着いて……落ち着いて……)

成幸 「いや、それにしても、緒方って寝相悪いのな」

成幸 「抱きつかれたときはどうなるかと思ったよ。ははは」

文乃 「なんで笑ってられるのかなきみは!?」

文乃 「りっちゃんの部屋でりっちゃんに抱きつかれたの!?」

成幸 「あ、いや、ちょっと語弊があったか。抱きつかれたって言うと、あいつの名誉にかかわるもんな」

文乃 (ほっ……。言葉の綾だったみたいだ。よかったよかった……――)

成幸 「――正確に言うと、急に布団から飛び起きて腰に手を回されてのしかかられたって言うべきか?」

文乃 「わたしに聞かれても知らないし余計まずい感じになってることに気づかないのかなきみは!?」

文乃 (わたしとうるかちゃんが呑気にラーメン食べてる間にきみは一体何をやってたのかな!?)

956以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 21:49:52 ID:0O24lWYM
文乃 「……ねぇ、唯我くん」

成幸 「?」

文乃 「聞いたよね、わたし。それに答えたよね、きみ」


―――― [………… ドサクサに紛れて変なこと……してないよね……?]

―――― [しっ してません!! 神に誓って!!]


成幸 「あ、ああ……。まぁ、言ったというか、アイコンタクトだったけど、まぁ……」

文乃 「あれはその後なら変なことしていいって意味じゃないからね?」

成幸 「当たり前だろ!? 変なことなんてしてねーよ!」

成幸 「ちょっと朝まで(親父さんと)激しい運動してただけだよ!」

文乃 「おいちょっと待てコラ唯我くん」

文乃 「はぁああああああああ!? ほんとに何やってたのきみたちは!?」

成幸 「うーん……いや、あれは運動というよりは戦いだったな……」

文乃 「やかましいよ! 余計生々しくしてどうするのかな!?」

957以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 21:50:25 ID:0O24lWYM
………………帰り道

文乃 「りっちゃんを寝かしつけてたら驚異的な寝相の悪さでのしかかかられ、」

文乃 「折悪く帰宅したりっちゃんのお父さんに見つかって一晩中戦っていた、と……」

文乃 「……なんだ。そういうことだったのね」

成幸 「いや、だから最初からそう言ってただろ……」

文乃 (きみがまぎらわしい言い方をするから誤解が広がったんだけどね)

文乃 (……まぁいいや。早とちりして疑ってしまったわたしも悪いし)

ジトーーーッ

成幸 「な、なんだよ。その目は」

文乃 「……ほんとにりっちゃんに何もしてないんだよね?」

成幸 「してないよ!」

文乃 「ほんとに? 抱きつかれたときに唯我くんもこっそり腰に手を回したりしてない?」

成幸 「してないよ! するわけないだろそんなこと!」

文乃 「どさくさにまぎれてあの暴力的なおっぱいを揉んだりとかは?」

成幸 「お前は俺のことを何だと思ってるんだ!?」

958以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 21:51:01 ID:0O24lWYM
文乃 「……ま、いいや。信じてあげる」

クスッ

文乃 「でも、寝相だったとしても、りっちゃんに抱きつかれて少しはドキッとしてたりして」

成幸 「そ、それは……」

プイッ

成幸 「仕方ないだろ。俺だって男だし、緒方は……ほら、客観的に言ってかわいいし……」


―――― ((普段は小動物みたいな奴だけど……))

―――― ((こうして改めて見るとやっぱり すげぇ美少女だな……))


文乃 (おや……? おやおや?)

文乃 (これは意外と、りっちゃんのことをちゃんと意識してるのかな?)

文乃 「へー」 ニヤニヤ 「つまりきみは、寝ているりっちゃんに欲情した、と?」

成幸 「他にもっと言い方ないかな古橋さん!!」

959以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 21:51:45 ID:0O24lWYM
文乃 「………………」

ホッ

文乃 (ま、いいや。何もなかったのは本当のことみたいだし)

文乃 (結果的に、唯我くんがりっちゃんのことを意識するきっかけになってくれれば悪くもないし)

文乃 (……ただひとつ、明確に言えること)

文乃 「……ねぇ、唯我くん」

成幸 「ん?」

文乃 「りっちゃん家で一夜を明かしたこと、絶対に他の人に喋っちゃだめだからね」

成幸 「? まぁ、男子たちに話したらどう思われるか分かったもんじゃないし話すつもりはないけど」

成幸 「武元は? あいつになら笑い話として話せるかなー、なんて――」



文乃 「――バカなの?」



成幸 「辛辣すぎません!?」

960以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 21:52:17 ID:0O24lWYM
文乃 (なんでそこでよりによって一番話しちゃいけない相手にならいいとか思っちゃうのかな!?)

文乃 (……まったくもう)

文乃 「いい? 誰にも話しちゃダメだからね? うるかちゃんにも!」

成幸 「そ、そういうもんか。俺にはまったくわからん……」

文乃 (……本当に、唯我くんは手がかかるなぁ)

文乃 (ま、念も押したし、大丈夫だよね。間違ってもうるかちゃんの耳にこのことが届くことはないだろう)

文乃 「………………」


―――― 『タスケテ』


文乃 (……あのメールを見て、唯我くんは誰より早くりっちゃんの家に駆けつけたんだよね)

文乃 (もしわたしが同じようなメールを出したら、唯我くんは……)

文乃 「……ねえ、唯我くん」

成幸 「ん?」

文乃 「もしわたしがりっちゃんと同じように困っていたら、わたしのことも助けてくれる?」

成幸 「えっ……?」

961以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 21:52:47 ID:0O24lWYM
文乃 「………………」

ハッ

文乃 (わ、わたし一体何を聞いてるの!? なんでそんなこと、唯我くんに……) カァアアアア……

文乃 「ご、ごめん! 唯我くん! 変なこと聞いちゃったけど、忘れて――」

成幸 「――そんなの、当たり前だろ」

文乃 「へ……?」

成幸 「俺はお前たちの 『教育係』 だからな。当然、お前の家にも行くよ」

文乃 「そ、そっか……」 (唯我くん……)

文乃 (わたしのところにも、来てくれるんだ……)

成幸 「ま、夜に急に呼び出すのは、本当の緊急時に限ってほしいけどな」

文乃 「……だ、大丈夫だよ。わたしホラー映画怖くない人だし!」

成幸 「そういう問題かよ」 クスッ 「じゃ、俺こっちだから。また明日、古橋」

文乃 「……うん。また明日ね。唯我くん」

962以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 21:53:35 ID:0O24lWYM
………………数ヶ月後 問89後 いつもの場所

文乃 「………………」

成幸 「………………」

カリカリカリ……

文乃 (……なつかしいこと思い出しちゃったな)

チラッ

文乃 (あのとき言ってくれた通りだね。成幸くん、君は、本当にわたしを助けてくれたんだ)

成幸 「ん……? どうかしたか、古橋?」

文乃 「へっ? う、ううん。なんでもない」

文乃 (……そう。なんでもない)

文乃 (なんでもないんだよ、成幸くん)

963以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 21:54:12 ID:0O24lWYM
成幸 「……大丈夫か、古橋?」

成幸 「仲直りはしたみたいだけど、やっぱりまだお父さんと顔を合わせるのは怖いか?」

文乃 「……えっ?」

カァアアアア……

文乃 「あっ……そ、そうだね……」

成幸 「?」

文乃 (な、なんて不謹慎なのわたし!? 成幸くんはわたしのこと心配してくれてるのに……)

文乃 (わたし、全然べつのこと考えてた……)

文乃 「………………」 (そっか……)

文乃 (わたし、この人の隣にいると、辛かったこと全部、忘れちゃうんだ……)

964以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 21:55:24 ID:0O24lWYM
成幸 「古橋……?」

文乃 「……ねえ、成幸くん。わたし、本当にきみがいてくれてよかった」

成幸 「へ……?」

文乃 「ううん。違うな。君が変わらず君でいてくれてよかった、って言うべきかな」

成幸 「えっと……? それは、どういう意味だ?」

文乃 「……ううん。なんでもない」 クスッ 「ごめんね、ヘンなこと言って」

文乃 「勉強、もどろ?」

成幸 「ん……ああ……」

文乃 (……君は、りっちゃんだから家に駆けつけたわけじゃない)

文乃 (そして、わたしだから家に泊めてくれているわけでもない)

文乃 (わかってる。だから、これは君の優しさに甘えているだけのこと)

965以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 21:56:25 ID:0O24lWYM
文乃 (……ねぇ、成幸くん)

文乃 (君は約束通り、わたしを助けてくれた)

文乃 (でもね、わたし、わがままだ)

文乃 (りっちゃんと同じように助けてもらうだけじゃ、満足できないみたい)

成幸 「………………」


―――― 『起きてる』

―――― 『だから…… あとほんのちょっとだけ…… このままでもいい……?』


文乃 (成幸くん、ねえ、気づいてる? わたし、もう “起きてる” んだよ?)

文乃 (だから、わたし……)

文乃 (君を……)

ギュッ……

文乃 (君を、好きになっても、いいのかな……)

おわり

966以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 21:57:17 ID:0O24lWYM
………………幕間 「死屍累々」

うるか 「よー、リズりん。今日も勉強がんばろーねー!」

理珠 「はい。今日もしっかりと励みましょう」

うるか 「……ん?」

鹿島&猪森&蝶野 「「「………………」」」 ピクピクピク……

うるか 「!? A組のみんな!? どうしたの!?」

鹿島 「あ……た、武元さん〜……」

鹿島 「我々は〜、もうだめです〜……」

猪森 「と、文x成の尊みが強すぎて……」 ゴフッ

蝶野 「我が人生に一片の悔いなし……」 ガクッ

おわり

967以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 21:59:21 ID:0O24lWYM
>>1です。読んでくださった方ありがとうございました。

時系列が途中で飛ぶのはあまり好ましくないかもしれません。
申し訳ないことです。

968以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 22:05:03 ID:0O24lWYM
>>1です。
連投失礼します。


もう一つ投下できるかなーと書いていたのですが、このスレに収まらない気がするのでやめておきます。
このスレにはもうSSは投下しません。長らくお付き合いありがとうございました。
アニメが始まる直前ではありますが、2つめのスレも無事埋められて良かったなと思います。

感想をくれた方、乙をくれた方、本当にありがとうございました。
最初のスレと比べて、書きたいものがどんどんマニアックになっていく上に、
わたし独自の解釈も増えていき、大層読みにくかったと思います。申し訳ないことです。


厚かましいお願いではありますが、読んでいただいた方、
最後に感想などを残していただければすごく嬉しいです。
一番面白かったSSなど教えていただければ、今後の参考にさせていただきます。


次のスレを立てるかどうかは分かりません。
もし立てるとすれば、前回今回と同様、完成したSSのタイトルをスレタイにすると思います。
そのときは、また読みに来ていただけると嬉しいです。

969以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/06(土) 22:19:54 ID:z6KGdkt.
乙です

真冬 「それがあなたの長所でしょう?」
真冬 「彼は教え子につき」

かな。真冬先生最高です

970以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/07(日) 03:01:36 ID:zDD9eezY
おつんこここ

このスレだと
【ぼく勉】 成幸 「クリスマス、うちに来ないか?」
が印象深い
時間軸超えてるとか知ったことではないわ!

971以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/07(日) 03:24:48 ID:joDA48Cc
おつでした
毎日更新楽しみしてました!次スレも期待してます!
難しいけど、成幸 「キスと呼べない何か」が一番好き

972以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/07(日) 15:05:35 ID:OwNsG45g
おつ
アニメ思ったより出来良いな

973以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/08(月) 23:42:36 ID:BbthHg3s
2スレも乙
タイトル覚えてないが文系ちゃんとプラネタリウム見に行く話が記憶に残ってる

974以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/09(火) 18:21:06 ID:FxYd1ccA
おつつ

個人的には1スレ目にあったこれ
【ぼく勉】桐須先生 「不可解。どうしたというの、唯我くん」

原作とごっちゃになった(いい意味で)
しばらく経って読み返すまでこの話は原作の話だと勘違いしてたレベル

975以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/16(火) 02:14:50 ID:iXFEFCac
いま、【ぼく勉】文乃 「なんてベタな……」まで読んだ
どれも面白い

976以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:41:32 ID:UawLMgbI
たくさんの感想、ありがとうございます。
励みになります。参考にもなります。
さて、投下しないと言っておきながら、
スレにあそびがあるのももったいないので、短く書き上がったものを投下します。
大してみじかくなっていないので、ギリギリですが。
全キャラの“今週末シリーズ”は新しいスレの方に投下しますので、
今回はシーズンネタを投下します。
ギリギリになってしまいましたが、母の日です。


【ぼく勉】 文乃 「そっか。今週末は母の日だね」

977以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:42:08 ID:UawLMgbI
文乃 (だからこんなに街中赤いカーネーションだらけなんだね)

「パパ! これあげたらお母さん喜ぶかなー!」

「きっと大喜びだよ。一緒にプレゼントしようね」

「うん!」

文乃 (ふふ。お父さんと娘さんかな。何をプレゼントするんだろ)

文乃 (微笑ましいなぁ……)


―――― 『だから文乃もね もし今後何かカベにぶつかったとしても それでいいの』

―――― 『「できない子」代表のお母さんが許す!』

―――― 『好きなことを全力で 好きにやりなさい』


文乃 (……うん。大丈夫。悲しいとか、辛いとかは、ない)

文乃 (お母さんの言葉は、わたしの中で生きている)

文乃 (そのお母さんの言葉で、わたしはやりたいことを目指して、今もがんばっている)

文乃 (だから、大丈夫) グッ (さびしくなんか、ない)

文乃 「……ん?」

978以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:42:43 ID:UawLMgbI
………………

成幸 「………………」

成幸 「うーーーーーーん……どうしたもんかな……」

成幸 「これは……いやいや、高すぎるな。絶対嫌がるよな……」

成幸 「これか……? いやしかし、あまり家事を連想させるものを贈るのはよくないし……」

成幸 「これか? いや、でも前新しいの買ってたし……」

成幸 「……うーむ。どうしたもんか……――」


文乃 「――成幸くん? こんなところで何やってるの?」


成幸 「のわっ!? ふ、古橋!?」

文乃 「やっ。一週間ぶりくらいかな。元気にしてたようで何より何より」

成幸 「そりゃ当たり前だろ。体調崩してたらこんなとこうろついてないよ」

文乃 「はは、それもそうだね」

文乃 「……で? 今日は一体どうしたの?」

成幸 「う゛ぇっ!? あ、いや……」

979以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:43:25 ID:UawLMgbI
成幸 「た……大したことじゃ、ないんだけど……」

文乃 「へぇ〜?」 ニンマリ 「母の日のプレゼント選び、そんなに大したことじゃないかなぁ?」

成幸 「なっ……ば、バレてたのかよ……」

文乃 「そりゃ、母の日ギフトのコーナーで右往左往してれば誰だって分かるって」

文乃 「……まったく、君は高校を卒業しても相変わらず優しいね」

文乃 「わたしが傷つかないように、母の日のプレゼント選びしてたって言わなかったんでしょ?」

成幸 「い、いや、そんな……」 カァアアアア…… 「……ことは、なくは、ないけど」

文乃 「ふふ。だと思った。ほんと……」

文乃 (……ほんと、優しいんだから)

文乃 (まぁ、そういうところが……ゴニョゴニョ……なんだけどさ……///)

成幸 「……? どうした? 顔赤いぞ?」

文乃 「な、なんでもないよ」

オホン

文乃 「ところで、悩める若人に、この古橋文乃が力を貸してしんぜようか?」

成幸 「へ?」

980以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:43:56 ID:UawLMgbI
文乃 「だから、」 ニコッ 「プレゼント選び、付き合ってあげよっか? って言ってるの」

成幸 「本当か!? 助かるよ!」

文乃 「ふふん。まぁ、わたしは君のお姉ちゃんでもあるからね。それくらいお安いご用だよ」

成幸 「さすが、頼りになるよ。文乃姉ちゃん」

文乃 「……とはいえ、成幸くんが贈りたいものを贈るのが、一番いいと思うけどね」

成幸 「お、おいおい、身もふたもないこと言い出すなよ」

成幸 「……っていうか、欲しいもの聞いたとき、母さんにも同じようなこと言われたぞ」

成幸 「だからプレゼントを決められなくて困ってるんだよ……」

文乃 「ああ、なるほど……」

文乃 「ちなみに、水希ちゃんたちは何をあげるの?」

成幸 「ああ、水希はご馳走用意するって言ってたな。はりきって下ごしらえしてるぞ」

文乃 「も、もうお料理を始めてるんだ……。すごいね」

成幸 「葉月と和樹は、絵をプレゼントするって。大作を鋭意製作中だよ」

文乃 「いいねぇ。微笑ましいねぇ」

981以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:44:42 ID:UawLMgbI
成幸 「……で、俺は何も決まらず悩んでるんだけど、」

成幸 「俺、進路を決めるとき母さんに迷惑かけたし、貯金も使わせてもらったし……」

成幸 「母さんのおかげでここまで大きくなれた。母さんのおかげで希望の進路を目指せる」

成幸 「バイト代も結構貯まったしさ、今まで俺を育ててくれた母さんに、いいプレゼントをあげたくてさ」

文乃 「成幸くん……」

成幸 「……でもそうやって気負うとまた迷うんだよ」

文乃 「………………」

文乃 「……ふふ、腕が鳴るよ」

成幸 「古橋……?」

文乃 「成幸くんのお母さんへの想い、心に響いたよ!」

文乃 「よーし、文乃お姉ちゃんが、はりきってお手伝いするよ!」

成幸 「……おう。ありがとな、古橋。よろしく頼むよ」

文乃 「うん! がんばって最高のプレゼントを見つけようね!」

982以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:45:15 ID:UawLMgbI
………………

文乃 「装飾品とかどうかな? ブローチとか」

成幸 「俺もそういうの考えたんだけどさ……」

成幸 「ほら、結構値段が張るだろ?」

文乃 「? うん」

成幸 「俺はいいんだけど、母さんが絶対嫌がるんだよ」

成幸 「“そんな大金私のために使うくらいなら貯金しろー!” ってさ」

文乃 「ああ……」 (成幸くんのお母さん、たしかに言いそう……)

文乃 「じゃあ、普段の家事で使うようなものは? かわいいミトンとか菜箸とか……」

成幸 「うん。それも考えたんだけど、昨日テレビでやっててさ……」

成幸 「“家事を連想させるものを贈るのは、もっと家事をしろ、と受け止められる場合があります” って」

文乃 「ああ……」 (余計なことを言うテレビ番組だなぁ……)

文乃 「じゃあこっちはどうかな。かわいい文房具とか……」

成幸 「文房具、この前一式新しいの買ってたんだよな……」

文乃 「ああ……」

983以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:45:49 ID:UawLMgbI
………………

文乃 「じゃあ、基本に立ち返ってカーネーションとかは?」

成幸 「“生花は手間がかかるため嫌がられることがあります” ってテレビで……」

………………

文乃 「じゃあ布とか買って手作りで何か作ったらどうかな」

成幸 「うーん、普段から服とか作りすぎて、そもそも俺の手作り品が結構家に溢れてるからな……」

………………

文乃 「お高めのスイーツとかどう?」

成幸 「水希が洋菓子店顔負けのケーキも作るって息巻いてるから、悪いし……」

………………

文乃 「商品券!」

成幸 「うちの母親のことだから、商品券とか現金くれるくらいなら何もくれるな貯金しろ、って言うと思う……」

………………

………………………………

………………………………………………

984以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:46:29 ID:UawLMgbI
………………

文乃 「………………」

成幸 「………………」

グッタリ……

成幸 「……なんかすまん。俺のワガママに付き合わせてるみたいだな」

文乃 「う、ううん。わたしが自分から言い出したことだから、大丈夫だよ……」

文乃 (……うーん、これは想像以上だよ。NG要素が多すぎる……)

文乃 (成幸くんが気にしすぎとも思うけど、でも……)

成幸 「うーん、母さんに何をプレゼントしたら、一番いいか……」 ブツブツ……

文乃 (成幸くんは本当に、心の底からお母さんに感謝してて、だからこそ喜んでもらいたいんだよね……)

成幸 「ちなみに、参考までに聞きたいんだけど、」

文乃 「うん?」

成幸 「……もし古橋がお母さんになったとして、母の日のプレゼントに何をもらったら嬉しいと思う?」

文乃 「えー……想像もつかないけど……」

985以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:47:20 ID:UawLMgbI
文乃 (わたしがお母さんで、もらって嬉しいプレゼント、かぁ……)

文乃 「………………」

文乃 「……あくまで、今の想像だけどさ、」

文乃 「わたしは、手作りのものをもらったら、すごく嬉しいと思うよ」

文乃 「だから成幸くんの服飾テクニックとか、すごくいいと思うんだけど……」

成幸 「……んー、母さんの部屋着とか、俺が作ったのも結構あるからなぁ」

文乃 「成幸くんの家はそうだよね……」

成幸 「悪いな、変なこと聞いて」

文乃 「ううん。参考にならなくてごめんね」

文乃 (なんかいいものないかなぁ……)

キョロキョロキョロ

文乃 「……ん?」 ハッ 「わっ……わわっ……」

トトトトト……

成幸 「? 古橋?」

986以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:48:04 ID:UawLMgbI
文乃 「こっ、このぬいぐるみ……かわいい……」

パァアアアアアア……!!!

文乃 「さ、触り心地も気持ちいい……」

文乃 「ふおお……」

成幸 「………………」

成幸 「あ、えっと……古橋、さん……?」

文乃 「……!?」 ハッ 「ご、ごめん、成幸くん。あんまりにも好みの顔のぬいぐるみがあったから、つい」

文乃 「真剣にプレゼント選びをしてるのに、ごめんね……」

成幸 「いや、いいよ。お前も買い物とかあったらしていいからな?」

文乃 「ううん。大丈夫。ありがと」

文乃 「さ、もうひと頑張り、いってみよー!」

成幸 「おう!」

987以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:48:38 ID:UawLMgbI
………………

成幸 「……ありがとな、古橋。おかげでちゃんと考えて選べたよ」

文乃 「どういたしまして。お母さん、喜んでくれるといいね」

成幸 「おう。本当にありがとな」

文乃 (結局、あれから、悩んで悩んで悩んだ末、無難にハンカチをプレゼントすることになった)

文乃 (たくさんあって困るものではないし、オシャレで上等なものが見つかったというのもある)

成幸 「散々悩んで振り回して悪かったな。その割にはハンカチって、何の意外性もないし……」

文乃 「ううん。そんなのいいんだよ」

文乃 「それにわたしも楽しかったよ。自分がプレゼント選んでるみたいで」

文乃 「わたしのお母さんはもういないから、ひとりじゃこんなことできないしね」

成幸 「ん……」

文乃 「あっ、ごめんね。変なこと言って。忘れて忘れて」

文乃 「とにかく、ちゃんと選べて何よりだよ」

成幸 「……おう」

988以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:49:42 ID:UawLMgbI
成幸 「あっ、ヤバい。もうこんな時間か」

成幸 「すまん、古橋。この後バイトの予定なんだ」

成幸 「散々振り回したお詫び、今度必ずするから。また連絡するな」

文乃 「そんなの気にしなくていいってば」

文乃 「バイトがんばってね。いってらっしゃい」

成幸 「ああ、ありがとう。でもお礼はさせてくれ」

成幸 「またな、古橋」

文乃 「うん。じゃあね、成幸くん」

ニコッ

文乃 「また今度」

文乃 「………………」

文乃 「……わたしも、」

文乃 「カーネーションでも一本、買って帰ろうかな」

989以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:50:22 ID:UawLMgbI
………………母の日

文乃 「………………」

文乃 (……成幸くん、ちゃんとプレゼント渡せたかな)

クスッ

文乃 (なんて、子どもじゃないんだから大丈夫に決まってるよね)

文乃 (ふふ。本当に “弟” みたいなところあるからなぁ、成幸くんって)

文乃 (いけないいけない。いつまでも姉弟ごっこなんてしていられないよね)

ピンポーン

文乃 「……? インターフォン、誰だろ……」

トトトトト……

文乃 「……へ?」

 『あ、どうも、こんにちは。唯我と申します……』

文乃 「成幸くん……?」

990以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:51:20 ID:UawLMgbI
………………

文乃 「ど、どうしたの、成幸くん。突然家に来るなんてびっくりしたよ」

成幸 「いや、悪い。連絡しようかとも思ったんだが……」

成幸 「……あのさ、これ」 スッ 「良かったら、もらってくれないか?」

文乃 「へ?」

キョトン

文乃 「ラッピング……? ぷ、プレゼント!? 何で!?」

成幸 「いや、えっと……この前のお礼、というか、なんというか……」

文乃 「……ああ、母の日のプレゼント選びのお礼?」

成幸 「まぁ、そうなるのかな……」

成幸 「ただ、それプラス、なんというか、その……」

文乃 「?」

成幸 「……お前にはいつも色んな相談に乗ってもらったりとか、お世話になってるし、」

成幸 「母の日のプレゼント的な意味合いも、あるんだけど……」

文乃 「へぇ?」 ジトーーーッ 「わたし、きみを産んだ憶えはないんだけど……」

991以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:51:54 ID:UawLMgbI
成幸 「い、いや、悪い。そういうことじゃなくて、えっと……」

ハッ

成幸 「ほ、ほら! 母の日、お父さんがお母さんにプレゼント贈ったりってあるだろ」

文乃 「……まぁ、たしかに。旦那さんが奥さんにプレゼント、とかよく聞くね」

成幸 「そうそう。だから、まったく変な意味はなくて、」


成幸 「夫から妻に贈る母の日ギフトみたいなものだと思ってくれ!」


文乃 「………………」

文乃 「へ……?」

成幸 「あっ……」

成幸 「……い、いや、それもまた、ちょっと、語弊があるな……///」

文乃 「そ、そうだね……///」

文乃 「……じ、じゃあ、とにかく、いただくね。ありがとう」

文乃 「開けても、いい?」

成幸 「お、おう」

992以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:52:27 ID:UawLMgbI
ガサゴソガサガサ……

文乃 「これって……」


―――― 『こっ、このぬいぐるみ……かわいい……』


文乃 「あ……あのときのぬいぐるみ……?」

文乃 「でも、あれ? なんか違うような……?」

成幸 「ん、さすがにバレるか」

成幸 「それ、俺が作ったんだ。あのぬいぐるみを思い出しながら作ったんだけど、やっぱり変か」

文乃 「……!? これ手作りなの!? 全然見えないよ!?」

成幸 「ぬいぐるみ用の生地とか買ってみたからな。縫い方とかも勉強したし」

成幸 「……本物を買おうかなとも思ったんだけどさ、」


―――― 『わたしは、手作りのものをもらったら、すごく嬉しいと思うよ』

―――― 『だから成幸くんの服飾テクニックとか、すごくいいと思うんだけど……』


成幸 「あのとき、ああ言ってくれたのがすごく嬉しくてさ……」

993以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:52:58 ID:UawLMgbI
文乃 「あっ……ありがとう! すごく嬉しいよ!」

文乃 「えへへ……」

ムギュッ……

文乃 「……かわいい。すごくかわいいよ」

文乃 「抱き心地も最高……」

成幸 「そうか。それなら良かったよ」

成幸 「……で、古橋。ひとつ相談なんだが、この後空いてるか?」

文乃 「この後? うん、特に用事はないけど、どうかしたの?」

成幸 「ああ、実はこの後うちで水希が用意したごちそうをみんなで食べることになってるんだけど……」

成幸 「もし良かったらなんだけど、うちに来て一緒に食べないか?」

文乃 「へ……?」

994以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:53:49 ID:UawLMgbI
成幸 「実は、母さんにプレゼント渡して、古橋と一緒に選んだって言ったら……」


―――― 花枝 『文ちゃんも一緒にプレゼント選んでくれたの!?』

―――― 花枝 『よくやったわ成幸! それならもう文ちゃんは名実ともに私の娘も同然ね!』

―――― 花枝 『今すぐ文ちゃんの家に行って今日の母の日パーティに誘ってきなさい!』


成幸 「……って」

文乃 「………………」

成幸 「なんか、すまん、古橋……」

文乃 「……ううん」 フルフル


―――― 『それはそれとして私の可愛い文ちゃんにひどいこと言ってから!!!』

―――― 『オッケー文ちゃん!! 向こうの頭が冷えるまでいくらでもウチにいなさい!!』


文乃 「……成幸くんのお母さん、あのとき、そう言って、わたしを家に置いてくれて」

文乃 「すごく頼もしくて、嬉しくて……本当に、ふたりめのお母さんみたいだって……」

文乃 「……わたしも、思ってるから」 ニコッ

995以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:55:13 ID:UawLMgbI
文乃 「………………」

文乃 「……ねぇ、成幸くん。わたし、お邪魔してもいいのかな?」

成幸 「へ? 無理しなくていいぞ? 嫌だったら嫌って……――」

文乃 「――行ってもいいのか聞いてるんだけど?」 ジトッ

成幸 「いや、そりゃ、まぁ……来てくれれば、母さんは喜ぶだろうし、葉月と和樹も喜ぶだろうし……」

成幸 「水希はツンケンするかもしれないけど、あいつなんだかんだお前がご飯食べるの見るの好きみたいだし……」

文乃 「………………」 ジーーーーッ

成幸 「……えっと、その……俺も……お前が来てくれれば、嬉しい、かな……」

文乃 「……よろしい」 クスッ 「じゃあ、お言葉に甘えて、お邪魔しちゃおうかな」

文乃 「水希ちゃんのご飯食べたいし、葉月ちゃんと和樹くんとも遊びたいし」

文乃 「ちょっと待っててね。すぐ準備してくるから!」

成幸 「おう、急がなくていいぞ。ゆっくり待ってるから」

文乃 「ありがと! じゃ、準備してくるね!」

トトトトト……

996以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:55:48 ID:UawLMgbI
……パタン

文乃 「………………」

カァアアアア……

文乃 「ま、まったくもう、成幸くんったら、分かってるのかな……」


―――― 『夫から妻に贈る母の日ギフトみたいなものだと思ってくれ!』

―――― 『よくやったわ成幸! それならもう文ちゃんは名実ともに私の娘も同然ね!』


文乃 「成幸くんも、お母さんも、まったく……」


―――― 『天文学の前は…… 幸せなお嫁さんになるのも夢だったから!!』


文乃 「………………」

ムギュッ

文乃 「……もう、母の日のプレゼントももらっちゃったし」

文乃 「わたしのもうひとつの夢、結構早く、叶っちゃうかも……なんて。えへへ……」

おわり

997以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:56:30 ID:UawLMgbI
………………幕間 「唯我水希」

水希 (まったくもう! お母さんのために作った料理を、どうして古橋さんに……)

文乃 「ふわぁ〜〜、これ美味しい〜〜〜〜。とろける〜〜〜〜!!」

ムシャムシャムシャムシャムシャムシャ

文乃 「あれも、これも……ふわぁ……全部美味しい……」

パクパクパクパクパクパク

水希 「………………」

水希 「……古橋さん」

文乃 「!?」 ハッ 「ご、ごめん、水希ちゃん。お母さんのお祝いなのに、調子に乗って食べ過ぎ……――」

水希 「……次は、このソースにつけて食べてみてください」 コトッ

文乃 「わぁ……」 パァアアアアアア……!!! 「美味しい!! 味が少し変わったよ!!」

水希 「……えへへ」

花枝 (……水希はほんと、文ちゃんが食べるの見るの好きよねぇ)

葉月 「水希姉ちゃんは」 和樹 「ツンデレだなー」

おわり

998以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:58:00 ID:UawLMgbI
読んでくださった方ありがとうございました。

受験が終わって新生活に突入してすぐくらいの話でしょうか。
完結してもいない作品の先を描くなんて野暮なことはしたくないのですが、
日常回程度なので許していただけると嬉しいです。
今度こそこのスレは終わりだと思います。
ありがとうございました。

999以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/12(日) 08:44:21 ID:IovkaPpE
乙ですわ!

1000以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/12(日) 12:43:13 ID:w25gqWi.
乙神




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