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ヴァンパイアハンターエマちゃん

1名無しさん@転載は禁止:2021/03/07(日) 23:23:14 ID:eEEkwSx.
ラブライブ板で書いていたのですが、規制で書き込まなくなりました。
代わりにこちらで投稿させて下さい

2名無しさん@転載は禁止:2021/03/07(日) 23:26:33 ID:eEEkwSx.
https://itest.5ch.net/fate/test/read.cgi/lovelive/1610972245

上の続きになります。
もしよろしければ、どなたか上のスレにこちらに移ったことを告知して下さりませんか?

3名無しさん@転載は禁止:2021/03/07(日) 23:26:47 ID:YRGL9iww
期待
誘導貼れなかったら俺やるよ

4名無しさん@転載は禁止:2021/03/07(日) 23:29:18 ID:eEEkwSx.
>>3
申し訳ありません。
どうかよろしくお願いします。

5名無しさん@転載は禁止:2021/03/07(日) 23:29:58 ID:2TrWc.zg
貼ってきたよ
続き頑張れ!

6名無しさん@転載は禁止:2021/03/07(日) 23:31:58 ID:eEEkwSx.
吸血鬼としての格が上がった歩夢は、さらに装いを変える。
黒色の軍服は紫の貴族服に変わり、外套を脱ぎ捨て、背中には竜のような膜のついた翼を広げた。

そこにいるのは美しく気高い最新の魔王。
ここに来て、歩夢はしずくと同じ位階に立ったのだった。

「強くなったね。
さっきとは別人みたい」

エマは素直に称賛した。
いや目の前の少女の風格に圧倒されてさえいた。

エマがこれまで討伐した吸血鬼で、彼女より強い者はいなかった。

「これは私だけの力じゃない。
……侑ちゃんのおかげで、私は強くなれた」

歩夢の口調は先程までの、理性を失った怪物のそれではなかった。
人の言葉を流ちょうに操り、憂いを帯びた声は聞く者の心を揺れ動かせる。

強力な吸血鬼となったことで、破壊された彼女の理性は修復されていた。

7名無しさん@転載は禁止:2021/03/07(日) 23:32:53 ID:eEEkwSx.
「もう一度聞くけど、その剣は侑ちゃんだね?」

「……そうだよ」

歩夢は答えた。

「まだそれを一度も使ってないね?」

「……うん」

エマは胸を撫でおろした。

「それならまだ手はあるよ。
私、吸血鬼を人に戻せる聖骸布を持ってるの。
だから歩夢ちゃんが侑ちゃんを渡してくれれば」

「それで侑ちゃんを人間にもどせる。
そう言いたいの?」

歩夢はエマの言葉を遮って言った。

「侑ちゃんを人間じゃなくしたのは私だよ?
そんな私が素直に渡すと思う?」

「……歩夢ちゃんは侑ちゃんを吸血鬼にしたことを後悔してる。
そうじゃない?」

「っ」

8名無しさん@転載は禁止:2021/03/07(日) 23:33:22 ID:eEEkwSx.
図星だった。
侑を吸血鬼などにするべきではなかった。

そんなことは歩夢も百も承知だ。
彼女の未来を思うのなら、歩夢は侑から離れるべきだった。
事実家のマンションのベランダから飛び降りて、侑の元から離れようとしたこともある。
両親を食べてしまった時は、強い言葉で彼女を拒絶した。

それでも、一緒にいたいと思う気持ちが勝ってしまったのだ。
それは侑も同じ。

「私はママもパパも食べちゃった。
たくさんの人を殺したから、同好会の皆とも一緒に居られない。
……もう私の手の中にあるものは侑ちゃんだけなの。
それなのに、エマさんは最後に残ったものまで手放せって言うの?」

「それは……」

「侑ちゃんは渡さない。
もし邪魔するなら」

歩夢は剣を振り上げた。

「エマさんを殺すしかないよね」

9名無しさん@転載は禁止:2021/03/07(日) 23:34:06 ID:eEEkwSx.
歩夢の周りに、いや剣の刀身に黒い魔力が集まっていく。
それが膨大な熱量をもっているのは簡単に想像できた。

(やばい)

エマは全力で屋上の端へ逃げ込み、躊躇なくヒルズから飛び降りる。

その直後、爆発と閃光と轟音を伴って六本木ヒルズの上層が蒸発した。

10名無しさん@転載は禁止:2021/03/07(日) 23:39:47 ID:YRGL9iww
先に貼ってくれたみたいだね
ここに書いて完成したら最終的に支部に載せるといいと思うよ
やっぱりラ板と比べると人少ないしさ

11名無しさん@転載は禁止:2021/03/07(日) 23:40:30 ID:eEEkwSx.
>>10
助言感謝します。
了解しました。

12名無しさん@転載は禁止:2021/03/08(月) 08:15:43 ID:H181Ke6Q
一気に強くなったから、ここからどうなるかわからないな。歩夢たちが逃げおおせる可能性も出てきた

13名無しさん@転載は禁止:2021/03/08(月) 09:50:38 ID:L.DGM9II
こっちに来てたか
規制困るよなあ

14名無しさん@転載は禁止:2021/03/08(月) 17:05:23 ID:ZFOCkb2I
自分もあっちでは感想書き込めなかったから助かる

15名無しさん@転載は禁止:2021/03/09(火) 00:28:24 ID:RzpfYoYI
「ぐっ」

エマがくぐもった悲鳴を上げる。

当然だ。
彼女は200mを超えるビルの屋上から身を投げした。
常人なら当然圧死。そ
うならないのは鍛え上げられた彼女の肉体があればこそだ。

とはいえ。

「詠唱で速度は殺したけど自然な着地にはならなかったな」

落下の衝撃であばら骨数本と左の尺骨がやられた。
これでもうエマは派手な肉弾戦は出来ない。

16名無しさん@転載は禁止:2021/03/09(火) 00:31:50 ID:RzpfYoYI
「それにしても今のは……」

今気にすべきは己の身体の怪我ではない。
先程歩夢が剣を振るい放った光線攻撃。
夜の闇よりも昏い閃光が炸裂し、ヒルズの上40m程度が消し飛んでいた。

少しでも判断が遅れていれば、エマは骨すら残らなかっただろう。

「ふーん。
今の攻撃を避けられたんだ。
地上に向かって切り裂けばよかったかな」

声がしたのは上空から。
上原歩夢が竜翼を羽ばたかせながら、舞い降りてきた。

17名無しさん@転載は禁止:2021/03/09(火) 00:32:33 ID:RzpfYoYI
「ねぇエマさん」

歩夢が問いかける。

「私たちを見逃してくれないかな」

エマを見下ろしながら、彼女はそう提案した。

「……どうしてそんなことを言うの?」

「私も侑ちゃんもエマさんを殺したくない。
いまので分かったでしょう?
エマさんじゃ私達二人には勝てない」

「それはやってみなくちゃ分からないよ」

「ううん。
それは違うよ。
だってエマさん、もう酷いけがしてるじゃない。
そんな状態で私達に挑むの?」

「優しいね、歩夢ちゃんは」

それはエマの本心からの言葉だった。
そんなことはないと言わんばかりに、歩夢は目を伏せた。

「どんなに罪を犯しても、悪逆には慣れないでしょう?
根が善良すぎて戦いにも向いてない」

「そんなこと……」

「あるよ。
私、吸血鬼からそんな風に労わってもらったのは初めて。
それだけ歩夢ちゃんは良い子なんだよ」

だから、とエマは続けた。

「歩夢ちゃんがこれ以上罪を重ねないように私が頑張らなくちゃいけない。
救わなくちゃいけない。
元の道に戻してあげなくちゃいけない。
それが私の仕事だから」

エマの覚悟は鋼のように硬かった。

「……私を殺すことになっても、戦うの?」

「……うん。
歩夢ちゃんは人を殺しすぎた。
私は歩夢ちゃんの魂を救う。
侑ちゃんも元に戻す」

「そっか。
私達、どうあがいても相いれないんだ」

哀し気に歩夢は呟いた。

18名無しさん@転載は禁止:2021/03/09(火) 00:36:37 ID:RzpfYoYI
「せっかく戦わないで済むようにしてあげたのに馬鹿な人」

歩夢の声色が一段と冷たくなる。

「ねぇ、エマさん。
もしかして、さっきのが私達の全力だとか。
そんなこと思ってない?」

エマは驚愕する。
先程の攻撃でさえ、普通は出来るものではない。
それなのに、この少女達にはさらにその先があるのか。

「私たちの本気、見せてあげる」

そう言って、歩夢は剣を逆手に持ち替えた。

「あなたは私の力だよ」

それは解号。
魔剣の力を引き出すための詠唱だ。

「『此君姫宮愛女上之虹霓 (このきみひめみやあめあがりのこうげい)』」

それが魔剣の、斬魄刀となった侑の銘。
歩夢と侑の力が飛躍的に増大する。
だがこれは一段階目に過ぎない。

「____卍解」

続く恐るべき二段階目。
剣は白金から純黒に変わり、刃先が緑色に光る。
歩夢の三つ編みのシニヨンには、広葉の花簪が咲いた。

「じゃあ、はじめようか」

19名無しさん@転載は禁止:2021/03/09(火) 00:38:48 ID:RzpfYoYI
今日はここまでにします

20名無しさん@転載は禁止:2021/03/09(火) 00:46:51 ID:nrXHL2rg
おつおつ

21名無しさん@転載は禁止:2021/03/09(火) 00:50:14 ID:8Kmk7Y/Y
こんなに強くなったらしずくちゃん相手でも倒せちゃいそうだけど、エマさんどうにかできるのかな
というか周囲に迷惑かけずに二人だけでひっそり暮らすなら、見逃しちゃうのはダメなのかな。ちゃんと倒して救済しないとか

22名無しさん@転載は禁止:2021/03/09(火) 01:00:52 ID:RzpfYoYI
>>21
補足で説明します。

食事でこれからも人間を食べなくちゃいけないのと、既に100人以上を殺してしまっているため、エマさん側として見逃す選択肢は取れない状況です

23名無しさん@転載は禁止:2021/03/09(火) 08:36:17 ID:8Kmk7Y/Y
ああ、生きて?いくために人間を食べないといけないんだね。それなら仕方ないか。ということはしずくせつ菜の二人もやっぱり食べてるのかな

24名無しさん@転載は禁止:2021/03/09(火) 09:29:06 ID:EWOds5sU
侑ちゃんだけはまだ元に戻せるのか
2人揃ってというわけにはいかないんだな

25名無しさん@転載は禁止:2021/03/09(火) 09:50:13 ID:RzpfYoYI
>>23
しずくちゃんは食べてます
せつ菜ちゃんは食べてませんが、オルフェノクは設定上短命なので長く生きられません

26名無しさん@転載は禁止:2021/03/09(火) 19:27:43 ID:nrXHL2rg
現在乱立荒らしの巻き込み規制出てるみたいなので書けない方は少し辛抱してください
固有回線なら多分書けると思います
作者さんは平気でしょうか

27名無しさん@転載は禁止:2021/03/09(火) 19:51:41 ID:nrXHL2rg
あっちの総合スレで規制方針決まったみたいなので多分問題なく書けますね
一人でお騒がせしました

28名無しさん@転載は禁止:2021/03/09(火) 20:25:07 ID:sOFKEbSs
[面ライダー][卍解]出てきて急にショボいっつうか薄っぺらいssになったな

29名無しさん@転載は禁止:2021/03/10(水) 00:54:40 ID:haWSVZuM
「ぐっ……はぁ……」

覚醒した魔王歩夢の攻撃は苛烈だった。
制空権を確保している彼女は、地に這う虫けらを踏み潰すかのごとく、熱線による蹂躙を開始した。

歩夢が無造作に剣を振るう。
それだけで大気は爆ぜ、コンクリートの建築物は融解し、大地には癒えることのない深い断層が走る。

それをエマは、

「”私を大いに祝福し、私の地峡を広げて下さいますように”」

詠唱で編んだ魔力障壁でかろうじて直撃を避けることしか出来なかった。
だがそれはあくまで即死を免れているだけ。
悪夢めいた火力の前に、エマの身体には熱量による火傷がつき、斬撃による裂傷が刻まれる。

劣勢は誰の目にも明らかだった。

30名無しさん@転載は禁止:2021/03/10(水) 00:57:03 ID:haWSVZuM
侑が為った斬魄刀”此君姫宮愛女上之虹霓”の能力は非常に簡明だ。

刃からの持ち主への信愛と、持ち主から剣への恵愛を相乗し、それを魔剣の切れ味に変換する。
ただそれだけだ

故に剣と使い手の相性が悪ければ、この魔剣は錆びた包丁以下の鈍らにしかならない。

もし絆を紡いだ者がこの剣を使ったとしても、刃こぼれをしない便利な武装の域を出ないだろう。

名だたる聖剣、魔剣とは比較するのもおこがましい程の貧弱さ。

故にこれは最弱の斬魄刀だ。
使い勝手は黒鍵にさえ劣るだろう
万軍を屠り、概念にさえ干渉しうる名だたる宝剣の前では、精々刃こぼれしない剣など矮小な存在でしかない。

だが、使い手が上原歩夢だったなら話は別だ。
歩夢と侑は互いに永遠を誓った。
大淫婦の誘惑さえ跳ねのけた。
それらが証明するのは世界にも稀な、本物の愛という名の奇跡。

侑が歩夢を守りたいと願う程、歩夢が侑と生きていきたいと祈る程、斬魄刀は究極に研磨され、空を引き裂くほどの域に達する。

先程から歩夢が撃ち続けている熱線は、原理はただの斬撃に過ぎない。
歩夢が剣を振るうと、極まった斬撃は空間を裂き、その剰余熱が熱線となって敵を襲うのだ。

かつて英雄王が手にした最強の宝具、乖離剣エアと同じ時空断層を、歩夢が使い手の時だけこの魔剣は引き起こせた。
もし一対一で、魂を指しだす契約がなく、逃げ場のない場所での戦闘なら、歩夢と侑はしずくを確実に滅ぼせただろう。

31名無しさん@転載は禁止:2021/03/10(水) 00:58:06 ID:haWSVZuM
(このままじゃ負けちゃうね)

先程の爆発でエマの右脹脛が吹き飛んだ。
彼女はもう逃げることが出来ない。

エマはその場に跪いた。

「降参する気になったの?
もう許してあげないけど」

「まさか」

エマが詠唱補助用の聖書を取り出す。

逃げ場はない。
脚も使い物にならない。
敵は見逃すつもりはない。

だからこの場を切り抜けるには、正面からアレを撃ち落とすしかない___‼

「”魔弾装填”」

魔法陣が空中に一層、二層、三層そしてエマを中心に一際大きい層が展開される。

「戦いはこれからだよ‼」

32名無しさん@転載は禁止:2021/03/10(水) 01:00:27 ID:haWSVZuM
一方そのころ

夜の闇に紛れて二人の超人がしのぎを削っていた。
一人は赤い救世主。
もう一人は青き魔王。

せつ菜は仮面ライダーファイズとなって、
武装を都合に合わせて変えながら戦う。

死徒27祖たるしずくは魔術を用いながら応戦した。

「きりきり舞いです」

悪性情報の塊を旋風のようにして巧みに操り、身にまといながら高速に旋回してせつ菜を襲った。

「きゃ!?」

せつ菜が短い悲鳴を漏らす。
爪やマント、先程の黒い竜巻の魔術がしずくの主武装だ。

加えて。

「!?
ぐ…あっ…」

気が付くと目の前からしずくの姿が消え、胸部に斬撃を受けていた。
せつ菜は注意深く彼女の動きを見ていた。
よそ見はしていない。

にも拘わらず、戦闘中一瞬のうちになんどもしずくを見失い、不意打ちを受けることが何度もあった。

33名無しさん@転載は禁止:2021/03/10(水) 01:01:32 ID:haWSVZuM
(……おかしい。
さっきから何度も不意打ちを受けてる)

せつ菜は思考を張り巡らせた。

(私と目が合った後、瞬間移動でもしたかのように何度も私の背後を取ってる。
でもそれだけじゃない。
しずくさんが移動するのと全く同時に、攻撃を受けてる)

しずくの攻撃は今のところ、ファイズの装甲に阻まれ致命傷には至っていない。
だがそのことはせつ菜を安心させる要因にはならなかった。

ファイズは一定のダメージを受けると、ベルトが破損しないように変身が解除される特徴がある。
いまのまま攻撃を受け続ければ確実にベルトは外れるだろう。

せつ菜はウルフオルフェノクとしての力も持っているが、吸血鬼相手には決め手に欠ける。
そうなればしずくには、再生能力の差で敗北するだろう。

「……っ。
一か八かです」

長期戦になればなるほどせつ菜が不利になる。
ならば、こちらから短期決戦をしかけるのみだ。

34名無しさん@転載は禁止:2021/03/10(水) 01:02:27 ID:haWSVZuM
せつ菜は腰に装着されているポインターを取り出し、ベルトのミッションメモリーを差し込む。
それを左足に装着して、携帯のenteキーを押した。

Exceed charge

処刑を宣告するかの如く、無慈悲な機械音声がなり、脚に走る赤いラインが光った。

「ほう。
必殺技ですか」

しずくはマントを広げる。

「フィナーレにはまだ早いですが、幕といきますか?」

魔王の元に魔力が集結する。
せつ菜の切り札を迎撃するためだ。

「ラストアーク」

魔力の重圧で、しずくを中心に世界が歪む。
彼女もまた堂々たる死刑宣告を行った。

35名無しさん@転載は禁止:2021/03/10(水) 01:04:47 ID:haWSVZuM
「やああああああ!!!!!!! 」

空中で一回転して、赤い円錐状のマーカーをしずくに射出する。

「せつ菜スカーレットストオオオム!!!!!!!!」

正式名称はクリムゾンスマッシュというのだが、そんなことはどうでもいい。
せつ菜は飛び蹴りを放ちながら、円錐の中に突っ込んでいった。

対して、

「ナイトルーラー・ザ・ブラッドディーラー」

しずくは己を赤黒い竜巻に変換し、錐揉み状に回転しながら真正面からぶつかっていった。


二つの衝撃は反発しあい、半径100メートルを更地にした。

36名無しさん@転載は禁止:2021/03/10(水) 01:05:31 ID:haWSVZuM
今日はここまでにします

37名無しさん@転載は禁止:2021/03/10(水) 01:38:24 ID:rV8r4DYA
侑ちゃんは肉体を失ってて、歩夢ちゃんは吸血鬼になって、二人とももう人間としての本能を色々失ってそうだから、
その分お互いへの愛情の純度がさらに高まってそうだな。もう二人にはそれしか残ってない的な感じで。強そう

38名無しさん@転載は禁止:2021/03/10(水) 11:13:38 ID:84glcXYw
エマさんがここで死ぬことはないだろうし食事の時は剣使うまでもないから一応侑ちゃんはギリ救える範疇か?

39名無しさん@転載は禁止:2021/03/12(金) 00:24:51 ID:ESl7Driw
侑ちゃんだけは救えるとエマさん言ってたけど、必ずしもそれが幸せとは限らない気もするな

40名無しさん@転載は禁止:2021/03/12(金) 01:07:09 ID:La..E7sg
エマの見立てでは歩夢にはいくつかの弱点があった。

一つ目。
覚醒前に受けたダメージが尾を引いていること。
また急過ぎる成長は、やはりそれだけで体力を消耗する。
この場において、彼女が全力で魔力を行使するのは不可能なはずだ。

二つ目は、歩夢が戦闘経験に乏しいことがあげられる。
いくら手傷を追っているとは言え、それ以上に重傷を負っているエマ相手なら、歩夢の身体能力で白兵戦に持ち込み、至近距離で魔剣を開放すれば簡単に倒せたはずだ。

だが歩夢はそれをしない。
上空から乱暴に熱線を放ち続けているだけだ。
それは確かに、空という安全圏から遠距離攻撃に徹するという点では理にかなっている。

しかし歩夢の攻撃はあまり精密ではなかった。
初めての遠距離攻撃故、恐らく狙いがうまく定まらないのだろう。
また空が安全圏であるには、エマが対空戦闘力を持たないという仮定の下で成り立つ。
詠唱という、声の届く範囲で効果を発揮する能力を持つエマは当然上空への攻撃が可能だ。

それは歩夢も分かっているはず。
だが戦闘の初心者にとって、敵に近づくのはそれだけで心的ストレスを伴うものだ。
だから、近距離での戦闘なら確実かつ最短で仕留められるのに近寄ろうとしない。

素人故に、戦いにおいて背負ってもいいリスクが分からないのだ。 

結果として、歩夢はエマの反撃を許そうとしている。

41名無しさん@転載は禁止:2021/03/12(金) 01:08:38 ID:La..E7sg
地に刻まれた円形の術式は数秒毎に規模を増していく。
空中に展開された三層分と合わせて高速回転し、青白い電荷を迸らせる。

脚を壊されたエマが選んだ戦術。
それは詠唱による超長距離殲滅魔砲だ。
それはエマが持てる最大火力の攻撃。

通常エマの詠唱は魂に直接働きかけ、相手を昇天させるものだが、これは一味違う。
詠唱によって魔力を集め、それを相手に直接叩きつけて、対象の物理的な滅却を目指すものだ。

それには膨大な魔力と10小節以上の大詠唱が必要になる。
後者は詠唱補助聖書でどうにか出来る。
あれは術者の詠唱を省略し、その効果を底上げする効果がある。
だから詠唱による隙はこの場において問題ではない。

重大な課題は後者だ。
人間一人、しかも魔王レベルの化け物を焼き切るには、エマ一人分の魔力では到底足りない。
加えて、歩夢には彼女だけの最強の魔剣がある。
アレを打ち破って、歩夢に着弾させるには当然それだけの膨大なエネルギーがいる。

だからエマは大気に満ちる原子を集める必要があった。
窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素。
ありとあらゆる元素がエマの身体に流れ込む。
それらを体内で循環させ、純粋な魔力へと変換する。

42名無しさん@転載は禁止:2021/03/12(金) 01:09:30 ID:La..E7sg
「くっ」

エマの表情が苦痛に歪む。
それは元素を魔力に変えた代償。

彼女の肉体はいわば魔力の炉心だ。
熱量が全身の血管、神経系を駆け巡るが故の体内火傷。

その痛みを意志でねじ伏せて、エマは宙に君臨する魔王を睨む。

夜空に浮かぶ女王は、不遜極まる聖女を許しはしない。
闇の王たる自分の温情を跳ね除け、あんなあからさまに術式を展開し、挑戦状をたたきつけられては、あとはもうそれをねじ伏せるしかない。

青白い術式に呼応するかのように、黒剣が魔力を集結させ、うなりを上げる。

魔王は誰に憚ることもなく、その力をちっぽけな獲物〈エマ〉に振り下ろそうと___。

43名無しさん@転載は禁止:2021/03/12(金) 01:10:40 ID:La..E7sg
身体中をのたうち回る魔力。
これだけ大規模な魔術行使。
放てば確実に術者へフィードバックが起こる。

それに、一度口火を切ってしまえば、エマにはもう次の手段も逃げ場もない。
魔弾を放てば、エマは最後までこの場所で戦わなくてはならない。
その終わりが勝利だろうと、死だろうと関係なく。

構わない。
そうエマは深呼吸した。

準備は万全だ。
あとはもうロケットの噴射に等しい魔力の渦を、直接あの怪物にたたきつけるだけ。

44名無しさん@転載は禁止:2021/03/12(金) 01:11:30 ID:La..E7sg
本当にそれでいいのか、と冷静な自分が告げる。
始めてしまえば後戻りはできない。

この先はコンマの戦いだ。
判断ミスも悔いる瞬間さえない。

0.1秒の迷いが天秤を傾ける。
痛みへの覚悟も、失着への開き直りは出来ているか?

そもそもお前は、このちっぽけな魔弾で世界を切り裂く魔剣に打ち克つつもりか?
月の代わりに夜に顕現する、宵闇の女王を撃ち落とせるのか___?

いやそれ以前にお前が為したいことはなんだ。
侑を人間に戻し、歩夢の魂を救うことではなかったか。
この魔力の奔流が彼女らを消し去ってしまえば元も子もない。

「いい!
とりあえず当たったあとで考える‼」

魔王を見据える双眸に決意を込める。
魔弾を放ったあと、全身に強烈な負担がかかることを念頭に入れて、


「上等。
出し惜しみはなし。
名いっぱいぶん回すよ‼」

宙を狙う狙撃手は、気勢と共に、一撃必中、超長射程の魔弾を解き放つ……!

45名無しさん@転載は禁止:2021/03/12(金) 01:12:37 ID:La..E7sg
轟音と共に打ち出される熱光線。
手のひらから射出される魔弾は第一層で収束し、二層目で加速、勢いを繋いだまま受け止める三層目で魔力と威力を再集結、相手に向かって一直線に拡散した。

地上から宙へ流れ落ちる青白い流星。

だが、

「お願い、侑ちゃん」

魔力の収束を終えたのは敵も同じ。
時空を切り裂き、世界そのものを巻き込む斬撃を無慈悲に打ち下ろす。

それは赤黒い竜巻のようだった。
空間に亀裂を走らせながら、斬撃による熱線は流星とぶつかり合う。

光線と熱線は対消滅し、あたりに衝撃と爆発がまき散らされた。
前哨戦は引き分け。

エマと歩夢は急いで魔力を再集結させた。

46名無しさん@転載は禁止:2021/03/12(金) 01:22:21 ID:La..E7sg
今日はここまでにします

47名無しさん@転載は禁止:2021/03/12(金) 08:24:11 ID:ESl7Driw
慣れないうちは遠くからちまちまやるのはゲームとかでもよくあるね。それか無理攻めしてすぐやられちゃったりとか
持久戦になったら人間じゃない歩夢の方が有利そうだから、遠くからというのも一理ありそう

48名無しさん@転載は禁止:2021/03/13(土) 00:12:59 ID:WIa91Oj.
更新ちょっと遅れます

49名無しさん@転載は禁止:2021/03/14(日) 01:16:47 ID:hkUo.cQM
”急げ、急げ、急げ____‼”

焦燥を胸に、エマは魔力を再収集させる。

天地を揺るがす流星と竜巻の衝突。
あれは戦いの始まりに過ぎない。

が、先程の拮抗で互いの戦力は完全に分かってしまった。

”___あの魔力、私のマックスよりはるかに上だ”

前哨戦とは言え、エマは術式を先に展開し、大気中に散布する分子、あるいは魔力を集結し、それを全力で打ち出した。

それだけエマの方が歩夢より先手を取っていたということ
言い換えれば、歩夢にはさらに力をためることで威力を伸ばす余力があるのだ。

エマは、先程の撃ち合いでほぼ最高の火力を繰り出した。
これ以上破壊力を増加させるのは不可能に近い。
にも関わらず結果は相殺。

だから、歩夢に魔力をためる時間を充分に与えてしまえば、敗北は必定___!

50名無しさん@転載は禁止:2021/03/14(日) 01:18:09 ID:hkUo.cQM
大気中の元素、分子、そして魔力が集結する。
一方は祈りの聖女に。
もう一方は破壊の魔王に。

攻撃の手法は異なるが、燃料は同じ。
周辺のあらゆるものを体内に取り込み、生成した魔力を以って相手を撃滅する。
現在空間の構成要素の支配率はエマが二割で、歩夢が八割だ。

エマは一人で集めなくてはならないのに対し、彼方は歩夢と侑で実質二人分。
綱引きは一人より二人の方が強いに決まっている。

火力の上限ではあちらに軍配が上がり、攻撃のための焚物も制圧されかけている。
素人目にもわかるほどのあまりの分の悪さ。

だがそれは、エマにとって予想通りでもあった。

何せ相手は最強の魔剣を携えた新生の魔王。
無慈悲で強力な力の前では、人の子が起こす奇跡など吹けば飛ぶようなものでしかない。

だから吸血鬼狩りで重要なのは力でなく戦術。
たしかに勝機は薄氷の上だが、存在しないわけではない。

”最低限、この魔力ならいける‼”

詠唱補助の聖書のおかげで連射、速射性能はエマが上回る。
つまりそれは撃ち合いのタイミングはエマが決められるということ。
当然二射目も、エマが先制を決めた。

”行って_____!”

再び魔弾が、轟音を伴って発射された。

51名無しさん@転載は禁止:2021/03/14(日) 01:18:47 ID:hkUo.cQM
駆け上がる青白い綺羅星。
先程と同じように一層目、二層目の術式に到達していく

”ふうん。
この程度の魔力で撃ったんだ”

だが今回の魔弾は一射目よりも明らかに威力が劣っていた。
線は細く、鮮度も落ちている。

”焦りすぎだよ。
大方、私が魔力をためている間に仕留めたかったんだろうけど”

だがお生憎様。
この程度なら、上限まで魔力を蓄えなくても余裕で撃破できる。
それどころか魔弾ごとエマを粉砕することも可能だろう。

迎撃のために剣を振り下ろそうとして、

”嘘、分裂した⁉”

歩夢は目を丸くした。

52名無しさん@転載は禁止:2021/03/14(日) 01:20:01 ID:hkUo.cQM
魔弾が第三層目に到達すると同時、閃光は八方向に分裂した。

それぞれが鞭のようにしなり、大蛇のように曲がりくねる。
無尽蔵にのたうつそれは、けれど確実に歩夢に捕捉していた。

直線でしか攻撃できないという先入観が崩され、歩夢の思考が一時停止する。

”まさか⁉”

これがエマと歩夢の技量の差。
一方向でしか攻撃出来ない歩夢と違い、エマは曲線で撃つことが出来る。
正面から、側面から、あるいは上下から分かたれた魔弾は襲い掛かる。

防ぐには着弾直前で、魔剣で切り払うしかない。
それはここまで貯めた魔力を使い切ることを意味する。

そうなればその隙を狙って、エマはすかさず三発目の魔弾を放ち、とどめを刺すだろう。
それがエマの戦術だった。

”どうしよう……。
ダメージ覚悟でエマさんに攻撃する?
そうすればエマさんは確実に殺せる。
でも魔弾のいくつかは相殺しきれずに受けちゃうよ”

歩夢がここまででかなりのダメージを背負っている。
威力は控えめだが、まともに喰らえばただでは済まないだろう。
ここでエマを攻撃して倒せたとしても、相討ちでは意味がない。

だが防御に移ってしまえば、それこそ本命の第三射への備えを失ってしまう。

”仕方ない。
ここは侑ちゃんで受けよう。
次の攻撃は全力で回避すれば___”

寄せ来る魔弾を打ち払おうとして____。

53名無しさん@転載は禁止:2021/03/14(日) 01:23:02 ID:hkUo.cQM
歩夢は直前で魔剣を引っ込め、自分の身体で魔弾を全弾受けた。

歩夢は侑を使わなかった。
いや、使えなかった。

「ぐっ‼
あああああああああああ!!!!!!!!!!!」

全身を焼かれる激痛に歩夢が悲鳴を上げる。
エマが放った魔弾は摂氏3000度を超えている。
常人なら直ちに蒸発する高温。
耐えられるのは歩夢が吸血鬼だからだ。

”嘘、なんで⁉”

剣を使って防御するという予測を外し、エマは驚愕する。
方向を制御するために威力を抑えたが、それでもエマの熱線は一度は世界を引き裂く攻撃を相殺しきっている。
消耗している身体で無抵抗に攻撃を受け入れるのは無謀にすぎる。

”貯めた魔力を温存したかったから?
……いや、むしろこれは”

それはエマと歩夢の剣〈侑〉に対する認識の違いだった。

いくら友達が姿を変えているとは言え、エマにとって剣は武器であり攻撃の手段だ。
それを使って人を殺し、物を壊し、時には自分の身を守る。
言い方は悪いが、ただの歩夢の道具だと考えていた。

だが歩夢は違う。
吸血鬼になっても、剣という無機物になっても、侑は侑以外の何物でもない。
そして歩夢にとっての侑は共犯者であり、親友であり、幼馴染であり、恋人という運命共同体。
言うなれば、愛するものがたまたま剣という形をしているだけ。
その愛するものを、あんな光線に当てるなど出来るはずもない。

__だってあれに当たるのはすごく熱いし、痛い。
そんな思いをさせるものに、侑を晒すことは出来なかった。
例え今の侑が武器で、痛覚など感じなくても、大切なものを危険に晒す真似はしたくない。
それは恋人が、お互いの顔や体に傷がつかないよう、気遣うのと同じこと。
人として、それ以上に思い人として扱っているが故の当然の配慮だった。

エネルギーを温存して反撃するためだとかそんな小手先の戦術ではない。
論理ではなく、感情で、歩夢は侑をとっさに庇ったのだ。

”なんで私を使わないの⁉
歩夢の馬鹿‼”

侑がテレパシーで歩夢に怒鳴る。

”ごめんね。
でもこれで___”

防御に使われなかった魔力は、そのまま攻撃に転じさせることが出来る。
充分に魔力を蓄えた刀身は、恋人を傷つけられた激情に燃えるかのように、轟音を鳴り響かせた。

”不味い、不味すぎる‼”

歩夢が瀕死という制約こそあれ、上限一杯にまで威力をため込んだ魔剣の前に、エマは戦慄した。

54名無しさん@転載は禁止:2021/03/14(日) 01:23:23 ID:hkUo.cQM
今日はここまでにします

55名無しさん@転載は禁止:2021/03/14(日) 02:03:15 ID:tLs5sU/U
愛が深すぎて、最強の武器であると同時に弱点みたいにもなってるね。双方とも余力はなさそうだから、もうすぐこっちは決着なのかな。悲しい結末が見えてきた

56名無しさん@転載は禁止:2021/03/14(日) 03:05:20 ID:jRf8EMSg
この展開は熱いな
ゆうぽむは姿を変えてもゆうぽむだった

57名無しさん@転載は禁止:2021/03/14(日) 17:28:54 ID:1KECM7/g
@cメ*

58名無しさん@転載は禁止:2021/03/15(月) 02:00:41 ID:msXXaJwI
明日更新します

59名無しさん@転載は禁止:2021/03/16(火) 01:40:48 ID:NRjltkZQ
さあ____いざ天を仰げ現代の聖女。

あれなるは情熱の最先端(トップランナー)。
熱情を以って人間、時間、空間、ありとあらゆる世界を焼却する、破壊と滅亡の申し子。

「貸し借りはここまで。
ノシをつけて倍返しにしてあげる」

愛憐の理を担う新星の魔王___!

60名無しさん@転載は禁止:2021/03/16(火) 01:41:43 ID:NRjltkZQ
先程から術式を加速させている痛み。
体内血液の沸騰。
神経細胞の剥離。
アイデンティティーの消失。

エマが即死級の苦痛に耐えられているのは、それこそ即死級の蘇生を自身にかけているからだ。

そのギリギリの境界で、エマは現実を直視する。

…その現実がエマの、意志を折りに来る。

三千世界を切り離す赤黒い竜巻。
六本木ヒルズ含め周りの建造物は、ただの余波で消え失せた。

誰が見ても差は歴然。
エマ・ヴェルデという砲身ではあの暴風を削ることさえ出来はしまい。

”っそれが___”

エマは術式をなお加速させる。

天空に坐する魔王は、満身創痍でありながら不敵に笑っていた。

友人を殺す覚悟。
それによって歩夢も侑も、既に人類の敵になる覚悟(開き直り)を完了させてしまっている。
侑は穢さないという歩夢の一線は、歩夢を守りたいという侑の一線に道を譲った。

彼女たちにはもう防御も回避も必要ない。
ただ眼前の身の程を弁えない愚かな修道女を押しつぶせばいい。
地上に落ちれば域内すべてを融解させる巨大熱量で、エマだけでなく、数十万人の人口、目障りな真の支配者たるしずくも含め、この港区諸共まとめて押しつぶそうと笑っている。

”どうした____‼”

61名無しさん@転載は禁止:2021/03/16(火) 01:42:35 ID:NRjltkZQ
どうにか三度目の魔弾の引き金を引く。
青白い弾道は恐るべき熱界雷に直撃した。

”っ……あ……”

吹き出される青い炎、
だが竜巻は削られさえしない。
熱量以前に、ため込んだ魔力量が違い過ぎる。

”……これだけ頑張ってるのに、歩夢ちゃんの方が全然上!”

空間に満ちた構成要素の奪い合いは制圧され、単純な威力も彼女が上。
エマの勝利条件は隙を見つけて、唯一上回る速射性能で無防備な彼女に渾身の魔弾を叩き込むことだけだった。

だがそのプランは先程の、歩夢の常軌を逸した献身によって瓦解した。

「だ、め……。
止められない……」


勝敗を告げるように暴風が迫りくる。

「あああああああああ!!!!!!!!」

エマに出来るのはその結末を遅らせる程度。
追いつめられるだけだとわかっていながら、今は魔弾を撃ち続けるしかない。

62名無しさん@転載は禁止:2021/03/16(火) 01:43:44 ID:NRjltkZQ
ああ、でも今ならまだほかにも手はある。

この魔力を全て防御に回せば、極低確率だが自分だけは助かるのではないか、と。

「……っ、うるさい。
ここを凌げば、歩夢ちゃんだってもう限界のはず」

破綻した希望に縋って、エマは魔力を回しつづける。
だが、本音ではどこにも勝ち目がないことを分かっていた。

あれが落ちれば死人が大勢出る。
だからなんだ。
エマだって顔も名前も知らない誰かより、わが身の方が余程かわいい。

___死にたくない。
もっと生きて居たい。
こんなところで終わりたくない。

……嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!。

先延ばしにされている目の前の死に、生存本能が生き汚い悲鳴をあげた。

何が奇跡の少女だ。
何が現代の聖女だ。
何が吸血鬼狩りだ。

そんな名誉より、一分一秒でも長い生を謳歌したい。
神様でも誰でもいい。
誰か私を助けてほしい。

だって今まで大勢の人を助けてきた。
たくさんの怪物を屠ってきた。
今この瞬間、たった一度逃げることくらい許されてもいいはずだ。
自分を優先することは、そんなに罰当たりなことだろうか?

実際、それは特別軽蔑されることでもない。
事実、それは別段禁忌されてもいない。

何もかも放り出し、諦めようとして____。

63名無しさん@転載は禁止:2021/03/16(火) 01:44:18 ID:NRjltkZQ
今日はここまでにします

64名無しさん@転載は禁止:2021/03/16(火) 07:42:57 ID:ERb8BQTc


65名無しさん@転載は禁止:2021/03/16(火) 09:46:08 ID:212OovtU
現実的な選択なら、逃げて他に歩夢達の情報を伝えるというのも重要かもしれないね。逃げきれればだけど。
でも数十万人が犠牲になるほどのエネルギーなら無理そうだし、ここで倒さないとあとで二人も苦しみそうだね

66名無しさん@転載は禁止:2021/03/17(水) 02:39:15 ID:Q6Z4BaUY
見てるぞ

67名無しさん@転載は禁止:2021/03/18(木) 00:08:08 ID:yGcgO0v6
「はっ、なんて無様」

吐き捨てるようにエマは呟く。
口から漏れたのは自嘲。
それよりは純粋な怒りに近かった。

一瞬の錯覚から目を覚ます。
最低ラインの弱音が、逆に少女の誇りに火をつけた。

エマの双肩には港区25万人の命がかかっている。
その中には大切な同好会の仲間だっている。
それ以上にこの攻撃を通してしまえば侑は殺人者になってしまうし、歩夢はより罪を重ねることになるのだ。

それを止めたくて、自分はここにいるのではなかったか……‼

「逃げる?
馬鹿なことを」

そうだ。
エマは王手をかけられている。
だがそれは傷だらけの歩夢も同じこと。

なぜ負けているかは明白で、あとは対策を立てるだけ。
魔力が足りないのなら、奪い返せばいい。
無茶な話だが、試す前から諦めるのは許されない。

ではどうやって魔力を賄うか?
空間にある魔力の構成要素は歩夢にほぼ全て支配されている。
彼女の勢力下にない魔力がどこにあろうか?

結論から言えば、それは目の前にあった。
空より落ちたる崩壊の星。
あれは言うなれば使用済みの魔力だ。
だから厳密には歩夢の制御から解き放たれている。

あの魔力を吸収することが出来れば、逆転は充分可能だ。

68名無しさん@転載は禁止:2021/03/18(木) 00:08:42 ID:yGcgO0v6
魔弾がかき消され、凶星はいまだ健在。
あとは質量と熱量に任せて、地上に落ちるだけ。

その前に。

「あああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

エマは空中に展開している三層の魔法陣をありったけ、加速させた。
それはあの赤い暴風を阻む最後の障壁であると同時、その魔力を養分として奪うための糧として変性する。

急激な役割の変更に魔法陣はエマの身体を通して悲鳴を上げた。

”何だ。やれば出来るじゃん、私”

そうエマは自画自賛した。
今とっくに超えた限界を振り切って、上極限に達している自分を褒めないで、いつ褒めればいいというのか。

69名無しさん@転載は禁止:2021/03/18(木) 00:09:15 ID:yGcgO0v6
通常、相手が攻撃のために使った魔力を吸収するなど、理論的には可能でも実践する者はまずいない。

なぜならそれは相手の攻撃をそのまま吸収するのとほぼ同義であるからだ。
殴りかかられて、それを顔面で潔く受け入れるのと同じこと。

エマが行っているのは、毒を皿ごと飲み込むのに等しい。

”_____________”

声にならない悲鳴。
全身の血管の中を針で貫かれているような感覚。
いや事実、あの魔剣は斬撃属性の攻撃を放っている。
その魔力を体内に吸収して、無数に切り刻まれいる。

あまりの激痛に反転する価値観。
狭まりゆく視界。
ぐちゃぐちゃに掻き混ざる内臓と肉。

構うものか。
今この場において心臓と脳さえ生きて居れば問題ない。

70名無しさん@転載は禁止:2021/03/18(木) 00:10:23 ID:yGcgO0v6
この方法を選んだ時点で、エマに残された道は星に押しつぶされるか、魔力を扱いきれずに自滅するかの二択に狭まった。

”こういう境地を、武士道とかハラキリっていうのかな”

エマは諧謔の笑みを浮かべる。
どうせ死ぬなら、相手に手にかかって殺されるなら、自滅でいいと彼女は思った。

”これで、最後_______”

魔力を吸収しながら魔弾の照準を合わせる。
これがラストチャンス。
だがエマに残された機会はあまりに短い。

それも当然。
魔力を吸収し続けるエマが自滅するまであと数十秒しかない。
その間に、どうにかして歩夢から勝利をかすめ取らなくてはならないのだから。

「行ってえええええええええええ!!!!!!!!!!!!」

ありったけの全力で、エマは最後の魔弾を撃ち放った。

71名無しさん@転載は禁止:2021/03/18(木) 00:10:50 ID:yGcgO0v6
今日はここまでにします。

72名無しさん@転載は禁止:2021/03/18(木) 00:19:10 ID:bcBjZ7GI
,,(d!.•ヮ•..) 乙だよ〜

73名無しさん@転載は禁止:2021/03/18(木) 00:20:27 ID:G7XE2q8o
乙!

74名無しさん@転載は禁止:2021/03/18(木) 00:23:56 ID:lGQbomQ2
ついに決着か。何百人も殺した歩夢はもうダメそうだけど、かといって侑ちゃんだけ生き残るのもそれはそれでかわいそうな気もするな
救われて人間に戻れたとして吸血鬼に対する怒りがすごそう

75名無しさん@転載は禁止:2021/03/18(木) 21:35:18 ID:3KEfomq6
二人とも殺すしかないかなあ…

76名無しさん@転載は禁止:2021/03/19(金) 23:44:20 ID:JhIu/TIE
すみません
投稿遅れます

77名無しさん@転載は禁止:2021/03/20(土) 06:41:02 ID:IaKi.nog
楽しみに待ってます

78名無しさん@転載は禁止:2021/03/21(日) 00:05:20 ID:mpTinu0.
さあ_____いざ地を顧みよ、貴き魔王。

あれなるは現代に蘇る最後の神聖。
これより数多の怪異、あらゆる化け物を屠る、恐れ知らずの人類代表。

「負債は完済したよ。
こっからは正真正銘の五分と五分。
命の燃料の一滴まで燃やしつくして戦うよ」

聖女は憐れなる魂に光の救済を投げつける____!

79名無しさん@転載は禁止:2021/03/21(日) 00:05:58 ID:mpTinu0.
最後の魔弾。
それは螺旋状に回転しながら放たれた。

岩盤を掘削するドリルのイメージ。
紫電が勇猛果敢に赤い星に挑みかかる。

エマの常識外の戦略、いや自殺行為で使用できる魔力量はこの瞬間だけ互角になっていた。
故にぶつかり合う熱線は互角につばぜり合う。

”うそ、なんで!?”

その現実は歩夢にとって、到底容認出来るものではなかった。
命がけでため込んだ魔力、世界を切り裂く魔剣の性質、そして切っ先に乗せた侑への想い。
あれはそれら全ての集合体、言わば歩夢のこれ以上ない全力だ。

よもやその全力を、たかが人間風情が凌ごうなどと___!

80名無しさん@転載は禁止:2021/03/21(日) 00:06:33 ID:mpTinu0.
崩壊の星がじりじりと押し戻される。
二人の攻撃は同等、いやわずかにエマが優勢だった。

自滅覚悟で歩夢が放った魔力を吸い取り続けているが故に量では五分五分、さらにその扱いには一日の長がある。
エマの魔弾に、魔剣と同じ斬撃属性が付与されたことも原因の一つだろう。

”なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで_____⁉”

いや、そんなことは歩夢にとってはどうでも良かった。
全力の攻撃を真正面から対抗されている事実で、彼女は半分パニックに陥っていた。

素人同然の戦闘経験が導いた狂乱。
それよりも、歩夢自身の生来の基質に由来しているのかもしれない。

数多の可能性、素質を持ち合わせていながら、いま一歩踏み出せずに立ち止まり蹲ってしまう彼女の性質。
それがこの状況において、最悪の形で現れようとしていた。

81名無しさん@転載は禁止:2021/03/21(日) 00:07:44 ID:mpTinu0.
”どうしよう、どうしよう⁉
逃げなきゃ、避けなきゃ‼”

冷静に観察すれば、エマが埒外の無茶を押し通していることは分かったはず。
ただ数十秒、魔力の放出を続けているだけで、歩夢の勝利は確定していた。

だが歩夢は、自分が押し負けると、そう思ってしまった。
これはもう気持ちの問題。

押し負ける寸前でなお勝負に出たエマと、僅かに気勢を削がれて勝利への確信を失ってしまった歩夢は対照的だった。
そもそも日本へ留学したように、見知らぬ世界へ果敢に飛び込む聖女と、最近まで普通の家庭で何気ない日常を望んでいた悪魔では、その生い立ちから正反対だ。

だから、エマとさかしまになったこの局面で、歩夢は『逃避』という彼女が取らなかった行動をしてしまう。

”歩夢、ダメ___!!”

異変に気付いた侑の静止は寸前で届かなかった。
この場から逃げようと姿勢を変え、集中力が途切れ、魔力の供給が途絶えた赤い星は、容赦なくエマの光弾に貫かれる。

「撃ち砕けええええええええ‼!!!!!!!!!!!!!!」

勝利を確信したエマの雄たけびが辺りに響く。
歩夢が魔弾の光に包まれ、悲鳴を上げたのはほぼ同時だった。

「きゃああああああああああ‼!!!!!!!!!!!」

82名無しさん@転載は禁止:2021/03/21(日) 00:10:30 ID:mpTinu0.
今日はここまでにします。

やっとエマと歩夢の戦闘の決着をつけられましたが、もう少しだけ歩夢達の話が続きます。

83名無しさん@転載は禁止:2021/03/21(日) 03:07:02 ID:Ff38iNA6
最期はせめて楽に逝けるといいな…。侑ちゃんはどうなるんだろう

84名無しさん@転載は禁止:2021/03/21(日) 08:32:51 ID:ekOfk.Jo
乙です

85名無しさん@転載は禁止:2021/03/21(日) 14:33:30 ID:yzgV5M7g
侑ちゃんだけ戻せても生き地獄だよね…

86名無しさん@転載は禁止:2021/03/23(火) 02:37:20 ID:7GVdSBxg
"なんとか打ち勝てた……"

エマはほっと胸を撫でおろす。
本当は勝ち目など皆無だった戦い。
勝利できたのは偶然と、歩夢のコンディションと性格によることが大きい。

限界まで酷使した身体、一欠けらまで燃やし尽くした誇り。
それでエマは一厘にも満たない可能性を確かに勝ち取った。

だが、まだこれで終わりではない。
彼女にはまだすべきことが残っている。

”早く歩夢ちゃん達を見つけないと”

重い脚を引きずって、エマはその場を後にした。

87名無しさん@転載は禁止:2021/03/23(火) 02:37:56 ID:7GVdSBxg
「ぐっ……あ……」

全身を襲う痛みで歩夢は目を覚ました。

エマと歩夢の激しい戦闘は、その余波だけで視界に映る範囲の物を全て吹き飛ばした。
本来ビル街が立ち並ぶ都会の街並みは、一面の荒野に変わっていた。

そこで歩夢は大の字になって横たわっている。
翼は折れ、左腕は吹き飛び、全身が火傷で覆われていた。
ここまで手傷を負えば、いくら吸血鬼といえど再生には時間がかかる。

もう歩夢には戦闘を行う余力は残されていない。
ここでエマの追撃を受ければそれで詰みだ。
不幸中の幸いで、魔弾に吹き飛ばされた影響で、彼女とはそれなりに距離が離れていたが、それでもいずれは鉢合わせるだろう。

その前にどうにかして姿を眩ませなければならない。
だが____。

”認めない。認めないよ”

歩夢は激痛をかき消す程の激情に駆られていた。
歩夢がエマに放った崩壊の星。
あれは言わば、歩夢と侑の愛の結晶だ。

それを打ち破られたことに、歩夢のプライドは酷く傷ついていた。
思い返すと、あの時点でエマは既に限界を迎えていた。
あの時怖気づかず攻撃を続けていれば、自分の勝ちだった。
今更そんなことを振り返って、なおさら悔しさがこみ上げる。

自分たちにたった一つ残されたもの、何者にも勝る至高の愛。
それが敗れるなど、断じてあってはならない。

だからこそもう一度勝負し、さらに深く練り上げた”愛”によって今度こそ勝利を掴むのだ。

88名無しさん@転載は禁止:2021/03/23(火) 02:39:34 ID:7GVdSBxg
その思いだけで歩夢は更なる進化を開始した。

魔弾によって傷つけられた身体は、即座に修復を開始し、翼はより広く、爪はより鋭く、三つ編みのシニヨンに飾られたローダンセは妖しく光った。

通常の吸血鬼ならこれ程の深手を負えばそれで打ち止め。
魔王クラスでも戦闘の続行は不可能だ。

だが歩夢はさらにその先を行く。
極点の愛を証明する。
ただそれだけの想いで、歩夢は魔王を超える者へ羽化しかけていた。

人間の獣性によって生み出される大災害。
人類の原罪が生む死の要因、自業自得のアポトーシス。
文明より出でて、文明を喰らう人類そのものの汚点。

即ち、人類愛によって人類を滅ぼす”人類悪”が顕現しようと____。

89名無しさん@転載は禁止:2021/03/23(火) 02:40:37 ID:7GVdSBxg
かつてない全能感に歩夢はみたされる。
いや、歓喜に打ち震える。

歩夢が新たに手に入れようとしている能力はどれも強力だ。

英霊や神霊も含めたありとあらゆる人類にたいする特攻スキル__『獣の権能』が承認される。

世界の修正力や抑止力を受け付けず、タイムパラドクスや即死系の攻撃をキャンセルし、現世に現れるスキル____『単独顕現』を獲得する。

最後に、歩夢自身の在り方、ただ一人を胸に抱き、その他の救済の一切を跳ね除け無効化する_____『ネガ・メサイヤ』を身に着けた。

ローダンセは歩夢という獣の角と化し、『愛慕』の理によって行き過ぎた人類悪という人類愛に覚醒した。

これならばエマ・ヴェルデごときに遅れを取る道理はない。

最後に己を象徴する宝具、高咲侑という魔剣を手にしようとして、

「侑、ちゃん……?」

歩夢は絶句した。

90名無しさん@転載は禁止:2021/03/23(火) 02:41:47 ID:7GVdSBxg
侑は魔剣から人の姿に戻っていた。

浄化の作用があるエマの魔弾に敗れたことによるダメージで、しずくにかけられたある種の呪いが解かれたからだ。

侑が吸血鬼として覚醒し、魔剣として強大な力を振るえた根源が打ち消され、それに加えて光線による損害で、侑は元の生気を失った人形に戻ってしまっていた。

いやそれどころか、侑はみるみる小さくなっていっている。
吸血鬼としての再生が追いつかず、身体をすり減らしているのだ。
元々小柄だった侑は既に小学生程の小ささになっている。

消滅するのは時間の問題だろう。

「……やだ。
侑ちゃん、死なないで」

そこで、歩夢の糸はプツンと切れてしまった。
大切な思い人をこんな目に合わせて何が愛だ。
……何が恋人だ。

それで、完全に歩夢の心は折れてしまった。
手にした全能感が消えていく。
獲得したスキルは全て消失するのを感じた。

「そっか。
私、侑ちゃんと一緒にいちゃいけなかったんだ。
……そんなこと初めから、分かってたのに」

遠目にエマがやってくるのが見えた。
自分が何をするべきなのかは、歩夢はもう分かっていた。

91名無しさん@転載は禁止:2021/03/23(火) 03:24:54 ID:dGMn.4GU
辛くて吐きそう

92名無しさん@転載は禁止:2021/03/23(火) 08:47:02 ID:r9Yy9VaM
理屈としては吸血鬼にされちゃった時点で詰んでたんだろうけど、理不尽すぎるね。下手に希望を見せられた分、事故や病気で亡くなるより辛いよ
両親や無関係の人まで大勢殺してしまう結果になったし。そしてこの後多分一人で消えていくわけで、かわいそうすぎるね。吸血鬼のままでいるよりはいいのかもだけど

93名無しさん@転載は禁止:2021/03/23(火) 12:18:30 ID:r9Yy9VaM
>>92を読み返してみたら棘がある感じに見えるけど、決して展開に不満とかじゃないです、念のため

94名無しさん@転載は禁止:2021/03/24(水) 01:25:04 ID:4keqXUB.
夜明けを告げる朝日が昇りはじめる。
荒野と化したビル街には穏やかな風が吹き抜けていた。

その中で、死んだように横たわる侑と、彼女の髪を梳く歩夢をエマは見た。

それで、彼女たちに何があったかをエマは察する。
侑な身体は消滅しかけている。

早く適切な処置を施さなければ、取り消しのつかないことになる。
だがエマは、ここに来て歩夢になんと声をかければいいか分からなくなっていた。

愛し合う二人を引き離す残酷な告白。
それをどう切り出すか逡巡しているところで、意外にも歩夢の方から話しかけてきた。

「お願い、エマさん。
侑ちゃんを助けて。
……そして、私をこの世界から消し去って」

95名無しさん@転載は禁止:2021/03/24(水) 01:25:48 ID:4keqXUB.
みるみる小さくなっていく侑を、歩夢はただ眺めていることしか出来なかった。
瞬きするごとに幼くなっていく彼女。
その姿は、歩夢の記憶の中のそれと完全に一致していた。

そしてついに、侑は幼稚園生くらいの大きさになってしまった。

”___ねぇ、幼稚園の時のこと、覚えてる?”

歩夢は侑に尋ねた。
それは場違いな問いかけ。
彼女が答えることは決してない。

けれど幼くなったその面影に、侑と積み重ねた時間、懐かしさを覚えて、ふと口にしたくなってしまった。
歩夢は彼女にとっての大切な思い出をそのまま語り掛けた。

”私がお遊戯会に出るのを恥ずかしがって嫌がって時、あなたが言ってくれたよね。
頑張る私のことを、応援するからって”

両手を握りしめ、満面の笑顔で元気づけてくれた侑を、歩夢は思い出す。
この消えない想いはきっとあの時から始まったのだろう。

96名無しさん@転載は禁止:2021/03/24(水) 01:26:33 ID:4keqXUB.
それから幾星霜。
いくつもの四季を重ねるごとに、愛情も降り積もって行った。

それを自覚したのは吸血鬼になってからだけど、侑にはたくさんの愛を注ぎ、同じ夢と希望を見た。

時にはすれ違うこともあったけれど、その度に絆はより深く強くなっていく。

____だけど、それもこれでもうおしまい。

本当は永遠に生き続けたかったし、おばあちゃんになるまで一緒にいようと約束もしたけれど。
彼女のこれからの人生を思うなら、こんなにも穢れ切った私は速やかに消え去らなくてはならない。

最後に一度、歩夢は侑の髪をそっと撫でる。
別れの決心はそれでついた。

「お願い、エマさん。
侑ちゃんを助けて。
……そして、私をこの世界から消し去って」

いつの間にか目の前にいたエマに、歩夢は言った。

97名無しさん@転載は禁止:2021/03/24(水) 01:27:22 ID:4keqXUB.
「……思い残すことはない?」

「うん」

「私の詠唱は人間にとっての薬で、吸血鬼にとっての毒。
だから侑ちゃんを人間に戻す儀式を始めたら、歩夢ちゃんの肉体はきっと……」

「私は大丈夫だよ。
それよりはやく、侑ちゃんを助けてあげて」

「……分かったよ」

エマは侑の前で膝を付き、祈りのために手を組んだ。

「最後にエマさん」

「なに?」

「いままでたくさん酷いことをしてごめんなさい。
……そして、ありがとう。
最後まで私たちに寄り添おうとしてくれて」

「……っ」

瞼から零れ落ちようとする熱い物を抑えて、エマは詠唱を開始した。

98名無しさん@転載は禁止:2021/03/24(水) 01:42:45 ID:4keqXUB.
なんか思ったよりエマvs歩夢戦が長くなってしまったので、しずくせつ菜戦はちょっとはしょるかもしれません

99名無しさん@転載は禁止:2021/03/24(水) 02:23:18 ID:0vnrgaNE
モチベ続くよう自分の好きに書いてくれ

100名無しさん@転載は禁止:2021/03/24(水) 07:34:32 ID:xjrs7u7g
短くなっても長くなっても、好きなように書いて下さい

歩夢ちゃんも侑ちゃんもかわいそうで。しずくちゃんもエマさんかせつ菜ちゃんにおそらく倒されてしまうんだろうし、取り憑いた吸血鬼許せんね

101名無しさん@転載は禁止:2021/03/24(水) 21:12:35 ID:k7HlF.MQ
良き

102名無しさん@転載は禁止:2021/03/24(水) 22:45:49 ID:8qA0Uirg
目をつけられた時点で終わりだったね…

103名無しさん@転載は禁止:2021/03/26(金) 00:53:15 ID:IlwH6hl6
エママも辛いな

104名無しさん@転載は禁止:2021/03/26(金) 12:54:29 ID:794RqOZE
ちょっと投稿遅れるかもです

105名無しさん@転載は禁止:2021/03/26(金) 22:18:00 ID:E5z7u7rc
ゆっくり待ってます

106名無しさん@転載は禁止:2021/03/27(土) 01:43:11 ID:MiMXIV0s
ゆっくり待つぜ〜

107名無しさん@転載は禁止:2021/03/27(土) 02:30:38 ID:j8ZbVf5o
風が吹いている。
東から差し込む朝焼け。

僅かに目をくらませて、侑は静かに瞼を開いた。

そして元に戻った身体を確かめる。
全身に長い布、エマの聖骸布が巻かれていた。

「……これって」

いつの間にか自分の身体は、剣ではなく元の人間の形に戻っていた。
それどころか吸血鬼特有の”邪気”すら感じられない。
自分は、本当に、ただの人間に戻っている。

侑は急いで周りを見渡した。
傍でエマが見下ろし、歩夢は少し離れた位置で背を向けて立っている。

歩夢の武器だった自分が人間に蘇生して、争い合っていた彼女たちは穏やかに佇んでいる。
彼女は事の顛末をそれで理解した。

エマと目を合わせる。
彼女は何も言わなかった。
けれどその意志はすぐに伝わった。

”歩夢ちゃんと話してあげてほしい”

侑にはそう言っているように思えた。

それを受けてすぐに歩夢に駆け寄った。
彼女は後ろを向いたまま振り返らない。

「歩夢」

そう呼び掛けて手を取ろうとしたところで、

「__っ」

彼女の指先が透き通って、薄く消えかかっていることに気が付いた。

108名無しさん@転載は禁止:2021/03/27(土) 02:31:20 ID:j8ZbVf5o
辺りにはなにもない。
何もかも吹き飛んだビル街は、まっさらな荒野に変わっている。

遠くには夜明け。
時刻はすでに日の出の刻。
東の空がうっすらと黄金色に染まりゆく。

差し込んだ光は歩夢を先に照らして、足元から消え去りかけていることを明らかにした。
それで、本当に幕は下りたのだと受け入れた。


その姿を見て、侑は何を言うべきか思いつかなくなってしまった。
ここ一番の肝心な時に言葉が出ない。
あと少しで彼女がいなくなってしまう現実、それに喉を詰まらせたから。

そんな不器用さが愛おしくて、

「ふふっ」

歩夢はいつものように可愛らしく微笑んだ。

109名無しさん@転載は禁止:2021/03/27(土) 02:32:05 ID:j8ZbVf5o
小鳥のさえずりのような笑い声。
何度も聞いているはずなのに、久しぶりに聞いた気がした。

「これで終わりだね」

「……うん」

「後のことはエマさんに任せてあるよ。
だから何も心配しないで。
侑ちゃんのことを守ってほしいってお願いしておいたから」

「そう、なんだ……」

「ずっと共に歩いていく。おばあちゃんになるまで一緒にいる。永遠に生き続ける。
何も約束を守れなくてごめんね。
……けど最後に、侑ちゃんを汚さずにすんだ。
侑ちゃんが生き残れて、本当に良かった」

「歩夢はよくやってくれたよ」

口に出せる言葉はそれだけだった。
もう彼女の手を引くことも、抱きしめることもできない。
消えかかった彼女は繊細なガラスのようで、触れることさえためらわれた。

110名無しさん@転載は禁止:2021/03/27(土) 02:33:00 ID:j8ZbVf5o
”行かないでほしい。
ずっと一緒に居てほしい
ここに残ってほしい”

むき出しの心がそう叫ぶ。
それが本当に口にしたかった言葉。

侑が歩夢と碌に話せなかったのは、彼女にかけたい言葉がなかったからではない。
それはかけてはいけない言葉だったからだ。

歩夢は誰よりも自分を愛してくれていた。
自分のために尽くしてくれていた。

そんな彼女が決めたのだ。
もう一緒にはいられないと。
彼女がどんな気持ちで決断したか、侑は痛いほどよく分かる。

だから、彼女の想いを踏みにじるようなことは口にしてはいけない。

なによりも幸せになってほしい、どんなことからも守りたい。
彼女のことをそう思ったなら、その決意をわがままで台無しにすることは出来ない。
今はただ彼女に準じる。
それが、己の役割だった。

111名無しさん@転載は禁止:2021/03/27(土) 02:38:51 ID:j8ZbVf5o
犯した罪を贖う。
愛した者を残す。

それがどこまでも救われなかった少女に施された、最後の報い。

朝日は優しく祝福した。
そよ風は安らかに慰める。
時間は穏やかにゆっくりと流れていく。

「最後に、一つだけ言わせて?」

人生最後の願いを、歩夢は言った。

「……うん。どんな?」

せめていつも通りに、努めて侑は聞き返す。

歩夢が振り返る。
二人は正面に向き合う。

瞳を煌めかせて、正直で気持ちのいい声で、

「___侑ちゃん、今までありがとう」

満開の笑顔で、彼女はそう言った。

ざあ、という潮騒のような音。
瞬きのうちに彼女はこの世を旅立った。

傷ついた心と体を、ようやく休ませた彼女を労わって。

「___歩夢、今までありがとう」

侑は手向けの言葉をそっと送った。

112名無しさん@転載は禁止:2021/03/27(土) 02:45:45 ID:HHUNUuqI
ゆうぽむでこういうのはほんとにいかん
泣いてしまう

113名無しさん@転載は禁止:2021/03/27(土) 08:24:57 ID:RBTtnvak
この時が来てしまった。侑ちゃんがあまり取り乱さなかったのは、何となく覚悟してた部分もあるのかな
喪失感が押し寄せてくるのはこのしばらく後か

114名無しさん@転載は禁止:2021/03/27(土) 23:43:26 ID:H0CNGhQY
心のぽむが泣き叫んで死んだ

115名無しさん@転載は禁止:2021/03/29(月) 00:21:41 ID:bqidyWMk
投稿遅れます

116名無しさん@転載は禁止:2021/03/29(月) 07:11:42 ID:t.iQaABQ
楽しみに待ってます

117名無しさん@転載は禁止:2021/03/29(月) 23:19:23 ID:G2CxEpAw
ゆっくり楽しみにしてます

118名無しさん@転載は禁止:2021/03/30(火) 01:46:52 ID:wlHDmSzg
惨劇の第一幕。
それは昇る朝日と共に幕を下ろした。
人類悪はその”所業”をなす前に、己の愛でその一生を終えた。

そして侑の手には勝利はなく、約束は果たせず、極点の愛さえも失った。
胸に迫るのは喪失感より、慰労の気持ち。

分かっていた。
永遠の命などというものを手に入れても、何故か滅びに向かっていくように感じられて、終わる時はきっと来るのだと分かっていた。

ただ一つ救われたのは、その結末が予想よりもずっと人間らしくあれたこと。

だから寂しくても、湧き上がるのは運命に玩弄され、また自分のために苦しみぬいた彼女への厚意だ。

「ああ、それでも」

彼女は思い描く。
幼いころ、よく後ろに着いて歩いた可愛らしい幼馴染の姿を。
決してみることの出来ない、少し大人になった恋人の魅力を。

そしていつも隣りで笑顔の花を振りまいてくれていた、彼女の横顔を。

119名無しさん@転載は禁止:2021/03/30(火) 01:47:29 ID:wlHDmSzg
「歩夢ちゃんは、侑ちゃんのなかにいるよ」

エマはそう言って肩に手を置いた。

「うん。
私、歩夢のことを想い続けて生きていくよ」

これから先の人生、たくさんの出会いと別れを繰り返し、たとえ彼女の顔が思い出せなくなってしまったとしても。
この愛だけは、永遠不変の変わらぬ想いなのだから。

忘れぬよう、どうか長く色あせぬよう。
侑は地平線の彼方を見つめた。

「歩夢は死んじゃったけど、思いと記憶は胸の中にある。
だから、歩夢は私のなかで」

「違う、違う。
そうじゃなくて」

侑の言葉を遮って、エマは微笑んだ。

「歩夢ちゃんは本当に侑ちゃんの中にいるんだよ」

「……?」

「目を閉じて、心の中をのぞいてごらん」

侑は言われたとおりに瞳を閉じる。
するとそこには、驚いたような、照れくさそうな顔で目を伏せる彼女がいた。

120名無しさん@転載は禁止:2021/03/30(火) 01:47:58 ID:wlHDmSzg
申し訳ないのですが、ここまでライブ感で書いてきたので、設定を間違ってしまった箇所と、悪ノリしすぎた部分があるのでいくつか変更させて下さい。

121名無しさん@転載は禁止:2021/03/30(火) 01:48:47 ID:wlHDmSzg
>>18
斬魄刀からfateで言うところの宝具に設定を変更します。


「せっかく戦わないで済むようにしてあげたのに馬鹿な人」

歩夢の声色が一段と冷たくなる。

「ねぇ、エマさん。
もしかして、さっきのが私達の全力だとか。
そんなこと思ってない?」

エマは驚愕する。
先程の攻撃でさえ、普通は出来るものではない。
それなのに、この少女達にはさらにその先があるのか。

「私たちの本気、見せてあげる」

そう言って、歩夢は剣を逆手に持ち替えた。

「あなたは私の力だよ」

それは解号。。
魔剣の力を引き出すための詠唱だ。

「『此君姫宮愛女上之虹霓 (このきみひめみやあめあがりのこうげい)』」

それが魔剣の、宝具となった侑の銘。
歩夢と侑の力が飛躍的に増大する。
だがこれは一段階目に過ぎない。

「___真名開放」

続く恐るべき二段階目。
剣は白金から純黒に変わり、刃先が緑色に光る。
歩夢の三つ編みのシニヨンには、広葉の花簪が咲いた。

「さあ、はじめようか」

122名無しさん@転載は禁止:2021/03/30(火) 01:50:54 ID:wlHDmSzg
>>89
スキル名を一部変更します。
ネガ・メサイヤ→ネガ・デザイア

かつてない全能感に歩夢はみたされる。
いや、歓喜に打ち震える。

歩夢が新たに手に入れようとしている能力はどれも強力だ。

英霊や神霊も含めたありとあらゆる人類にたいする特攻スキル__『獣の権能』が承認される。

世界の修正力や抑止力を受け付けず、タイムパラドクスや即死系の攻撃をキャンセルし、現世に現れるスキル____『単独顕現』を獲得する。

最後に、歩夢自身の在り方、ただ一人を胸に抱き、その他の愛の一切を跳ね除け無効化する_____変質した『ネガ・デザイア』を身に着けた。

ローダンセは歩夢という獣の角と化し、『愛慕』の理によって行き過ぎた人類悪という人類愛に覚醒した。

これならばエマ・ヴェルデごときに遅れを取る道理はない。

最後に己を象徴する宝具、高咲侑という魔剣を手にしようとして、

「侑、ちゃん……?」

歩夢は絶句した。

123名無しさん@転載は禁止:2021/03/30(火) 08:50:46 ID:Ts4qMHW6
歩夢ちゃんも救われてそうで良かった

124名無しさん@転載は禁止:2021/03/30(火) 14:46:01 ID:A3JgDFwg
ライブ的に書いてたのか。すごいな。単語は知ってるけど設定までは知らないから、読んでても全然違和感なかったな
歩夢ちゃんは魂?が残ったのなら再び肉体を得る奇跡もあり得るのかもね。しずくちゃんはどうなるのかな。魂まで乗っ取られてるっぽいけど

125名無しさん@転載は禁止:2021/03/30(火) 22:07:28 ID:ubu7Tl6g
HF三章を見たばかりの身としては高性能義体に魂移し替えて復活してほしさはあるw

126名無しさん@転載は禁止:2021/04/02(金) 01:19:46 ID:Km8Q.XvI
エマが習得している奇蹟。

洗礼詠唱は教会が唯一取得を認めている魔術であり、聖堂教会の信仰に基づく人類最大の魔術基盤を利用し、
ただ力づくに周囲を浄化する。
信仰というルールを押し付ける摂理の鍵そのもの。
主の教えに基づき、迷えし魂をあるべき『座』へと還らせるのだ。

通常教会の代行者に教わることで身に着ける簡易魔術儀式だが、
エマはそれを生まれながらにして行使することが出来た。

それはエマ・ヴェルデという一人の人間の『起源』が神の奇跡にほど近いことの証明している。
彼女の言葉は「人が世界に話しかける」”統一言語”の亜種で、魂の扱いに特化している廉価版にして特別性。
統一言語そのものが、全てに通じる意思疎通で、根源に至る渦への門だ。
その性能をある部分では上回るとは、つまりその性能に関してだけは『根源の渦』に接しているということ。

故に、エマは摂理に対峙するモノの一端に爪先が触れている。
それは古より伝わり、今はアインツベルンより失われたとされる第三の秩序。
この世に現存する最後の奇跡の一つ。

即ち、第三魔法『天の杯』(ヘブンズフィール)に。

その才能と数多の吸血鬼狩りの功績を以って、彼女はとある機関に席次を置いていた。

聖堂教会の最高位異端審問機関。
教会の矛盾点を法ではなく力で強制的に排除する組織。

エマが習得している奇蹟。

洗礼詠唱は教会が唯一取得を認めている魔術であり、聖堂教会の信仰に基づく人類最大の魔術基盤を利用し、
ただ力づくに周囲を浄化する。
信仰というルールを押し付ける摂理の鍵そのもの。
主の教えに基づき、迷えし魂をあるべき『座』へと還らせるのだ。

通常教会の代行者に教わることで身に着ける簡易魔術儀式だが、
エマはそれを生まれながらにして行使することが出来た。

それはエマ・ヴェルデという一人の人間の『起源』が神の奇跡にほど近いことの証明している。
彼女の言葉は「人が世界に話しかける」”統一言語”の亜種で、魂の扱いに特化している廉価版にして特別性。
統一言語そのものが、全てに通じる意思疎通で、根源に至る渦への門だ。
その性能をある部分では上回るとは、つまりその性能に関してだけは『根源の渦』に接しているということ。

故に、エマは摂理に対峙するモノの一端に爪先が触れている。
それは古より伝わり、今はアインツベルンより失われたとされる第三の秩序。
この世に現存する最後の奇跡の一つ。

即ち、第三魔法『天の杯』(ヘブンズフィール)に。

その才能と数多の吸血鬼狩りの功績を以って、彼女はとある機関に席次を置いていた。

聖堂教会の最高位異端審問機関。
教会の矛盾点を法ではなく力で強制的に排除する組織。
一人一人が天変地異、主の御技を代行する異端狩りのスペシャリスト集団。
埋葬機関、その第5席にその身を置いていた。

127名無しさん@転載は禁止:2021/04/02(金) 01:20:15 ID:Km8Q.XvI
エマが習得している奇蹟。

洗礼詠唱は教会が唯一取得を認めている魔術であり、聖堂教会の信仰に基づく人類最大の魔術基盤を利用し、
ただ力づくに周囲を浄化する。
信仰というルールを押し付ける摂理の鍵そのもの。
主の教えに基づき、迷えし魂をあるべき『座』へと還らせるのだ。

通常教会の代行者に教わることで身に着ける簡易魔術儀式だが、
エマはそれを生まれながらにして行使することが出来た。

それはエマ・ヴェルデという一人の人間の『起源』が神の奇跡にほど近いことの証明している。
彼女の言葉は「人が世界に話しかける」”統一言語”の亜種で、魂の扱いに特化している廉価版にして特別性。
統一言語そのものが、全てに通じる意思疎通で、根源に至る渦への門だ。
その性能をある部分では上回るとは、つまりその性能に関してだけは『根源の渦』に接しているということ。

故に、エマは摂理に対峙するモノの一端に爪先が触れている。
それは古より伝わり、今はアインツベルンより失われたとされる第三の秩序。
この世に現存する最後の奇跡の一つ。

即ち、第三魔法『天の杯』(ヘブンズフィール)に。

その才能と数多の吸血鬼狩りの功績を以って、彼女はとある機関に席次を置いていた。

聖堂教会の最高位異端審問機関。
教会の矛盾点を法ではなく力で強制的に排除する組織。

エマが習得している奇蹟。

洗礼詠唱は教会が唯一取得を認めている魔術であり、聖堂教会の信仰に基づく人類最大の魔術基盤を利用し、
ただ力づくに周囲を浄化する。
信仰というルールを押し付ける摂理の鍵そのもの。
主の教えに基づき、迷えし魂をあるべき『座』へと還らせるのだ。

通常教会の代行者に教わることで身に着ける簡易魔術儀式だが、
エマはそれを生まれながらにして行使することが出来た。

それはエマ・ヴェルデという一人の人間の『起源』が神の奇跡にほど近いことの証明している。
彼女の言葉は「人が世界に話しかける」”統一言語”の亜種で、魂の扱いに特化している廉価版にして特別性。
統一言語そのものが、全てに通じる意思疎通で、根源に至る渦への門だ。
その性能をある部分では上回るとは、つまりその性能に関してだけは『根源の渦』に接しているということ。

故に、エマは摂理に対峙するモノの一端に爪先が触れている。
それは古より伝わり、今はアインツベルンより失われたとされる第三の秩序。
この世に現存する最後の奇跡の一つ。

即ち、第三魔法『天の杯』(ヘブンズフィール)に。

その才能と数多の吸血鬼狩りの功績を以って、彼女はとある機関に席次を置いていた。

聖堂教会の最高位異端審問機関。
教会の矛盾点を法ではなく力で強制的に排除する組織。
一人一人が天変地異、主の御技を代行する異端狩りのスペシャリスト集団。
埋葬機関、その第5席にその身を置いていた。

128名無しさん@転載は禁止:2021/04/02(金) 01:21:11 ID:Km8Q.XvI
『天の杯』は魂の物質化という現象を引き起こす。

物質界において唯一永劫不滅でありながら、肉体という枷に引きずられる魂を、それ単体で存続できるよう固定化する。
精神体のまま魂単体で自然界に干渉できるという、高次元の存在を作る業。魂そのものを生き物にして、次の段階に向かう生命体として確立するのだ。

魂は星幽界という物質界より高位の次元に属しており、エーテル体に宿り、生物として活動したり、幽体になったりする。
魂を物質界に降ろすのに要する魔力より、魂が保有するエネルギーの方が多いが、魂は魂と同じ肉体でなければ留める事が出来ず、精々自分の魂を自分のクローンに魂を移す程度で、後は魂がこの次元から消え去るのを待つだけ。

しかし第三魔法を用いれば、その自然の摂理を捻じ曲げ、魂を別人の肉体に定着させたり、永久機関とすることで魂のエネルギーを魔力として無尽蔵に汲み出す事が可能となる。

ここにエマが歩夢を撃ち破り、その魂を侑の肉体に移しかえられる理由があった。
世界を切り裂く剣には、己の魂より捻出したエネルギーを用いた対城クラスの『無尽エーテル砲』によって迎撃し、滅びゆく歩夢の魂をかき集め、侑の身体に転生させたのである。

正式な使い手ではないので、歩夢の魂を独立してこの世に留まらせることは不可能だったが、それでも侑の身体へと移す次善策のは成功した。
正直できるかどうかは未知数で、成功する自信はあまりなかったのだが。

それでも、

”歩夢ちゃんの魂を救う”

彼女は確かにその誓いを果たしたのだった。

129名無しさん@転載は禁止:2021/04/02(金) 01:22:02 ID:Km8Q.XvI
「あとは知り合いの冠位人形師に頼んで、歩夢ちゃんの身体と寸分違わぬ人形を作ってもらえれば万事解決なんだけど……」

その冠位人形師はエマと同じく第三魔法に指をかけている天才で、人間と同性能の人形を作ることが出来るのだが。

「歩夢ちゃん、多分いろいろ納得できてないよね」

「うん。そうみたい」

「歩夢ちゃんと変われるかな?」

「出来るよ。
……歩夢のことお願いします」

「まかせて」

130名無しさん@転載は禁止:2021/04/02(金) 01:35:45 ID:Km8Q.XvI
>>127
ミスってたので修正します。

エマが習得している奇蹟。

洗礼詠唱は教会が唯一取得を認めている魔術であり、聖堂教会の信仰に基づく人類最大の魔術基盤を利用し、
ただ力づくに周囲を浄化する。
信仰というルールを押し付ける摂理の鍵そのもの。
主の教えに基づき、迷えし魂をあるべき『座』へと還らせるのだ。

通常教会の代行者に教わることで身に着ける簡易魔術儀式だが、
エマはそれを生まれながらにして行使することが出来た。

それはエマ・ヴェルデという一人の人間の『起源』が神の奇跡にほど近いことの証明している。
彼女の言葉は「人が世界に話しかける」”統一言語”の亜種で、魂の扱いに特化している廉価版にして特別性。
統一言語そのものが、全てに通じる意思疎通で、根源に至る渦への門だ。
その性能をある部分では上回るとは、つまりその性能に関してだけは『根源の渦』に接しているということ。

故に、エマは摂理に対峙するモノの一端に爪先が触れている。
それは古より伝わり、今はアインツベルンより失われたとされる第三の秩序。
この世に現存する最後の奇跡の一つ。

即ち、第三魔法『天の杯』(ヘブンズフィール)に。

その才能と数多の吸血鬼狩りの功績を以って、彼女はとある機関に席次を置いていた。

聖堂教会の最高位異端審問機関。
教会の矛盾点を法ではなく力で強制的に排除する組織。
一人一人が天変地異、主の御業で怪物を狩るスペシャリスト集団。

埋葬機関の第五席の代行者なのだ。

131名無しさん@転載は禁止:2021/04/02(金) 01:36:39 ID:Km8Q.XvI
>>127
ミスってるので修正します

エマが習得している奇蹟。

洗礼詠唱は教会が唯一取得を認めている魔術であり、聖堂教会の信仰に基づく人類最大の魔術基盤を利用し、
ただ力づくに周囲を浄化する。
信仰というルールを押し付ける摂理の鍵そのもの。
主の教えに基づき、迷えし魂をあるべき『座』へと還らせるのだ。

通常教会の代行者に教わることで身に着ける簡易魔術儀式だが、
エマはそれを生まれながらにして行使することが出来た。

それはエマ・ヴェルデという一人の人間の『起源』が神の奇跡にほど近いことの証明している。
彼女の言葉は「人が世界に話しかける」”統一言語”の亜種で、魂の扱いに特化している廉価版にして特別性。
統一言語そのものが、全てに通じる意思疎通で、根源に至る渦への門だ。
その性能をある部分では上回るとは、つまりその性能に関してだけは『根源の渦』に接しているということ。

故に、エマは摂理に対峙するモノの一端に爪先が触れている。
それは古より伝わり、今はアインツベルンより失われたとされる第三の秩序。
この世に現存する最後の奇跡の一つ。

即ち、第三魔法『天の杯』(ヘブンズフィール)に。

その才能と数多の吸血鬼狩りの功績を以って、彼女はとある機関に席次を置いていた。

聖堂教会の最高位異端審問機関。
教会の矛盾点を法ではなく力で強制的に排除する組織。
一人一人が天変地異、主の御業で怪物を狩るスペシャリスト集団。
埋葬機関の第五席に。

132名無しさん@転載は禁止:2021/04/02(金) 02:29:38 ID:bnAGuIWo
救いがあってまじでよかった

133名無しさん@転載は禁止:2021/04/02(金) 08:02:24 ID:fNZT6rKA
ゆうぽむ最強!ゆうぽむ最強!うおおおおおお!

134名無しさん@転載は禁止:2021/04/02(金) 19:43:56 ID:5sM4UBxk
あとは歩夢ちゃんが自分の罪とどう向き合うかだろうね。自分の親を含め結構な数の命を犠牲にしてるし
エマさんの能力ならしずくちゃんも救われるかもしれないけど、そちらも同じ問題があるか

135名無しさん@転載は禁止:2021/04/04(日) 01:15:43 ID:LdybtIh.
「どうして?
どうして私を生かしたんですか?」

侑の声が弱弱しく震える。
人格が歩夢と入れ替わったからだ。
彼女は己の行いを悔いていて、もうこの世界には一秒だって存在していたくはなかった。
そんな彼女に、生を強いることはどんな罰よりも残酷な仕打ちだ。

「それはあんまり深い理由はないかな」

「……?」

「歩夢ちゃんと侑ちゃんが離れ離れになるのが可哀そうだったから。
言ってしまえばそれだけのこと。
宗教的な教義とか、深遠な道徳とかそんな高尚なものに基づいて助けたわけじゃないんだ」

それに、とエマは続ける。

「歩夢ちゃんは私にとっても大切な友達で後輩。
本当は善い子だってことも知っている。
そんなあなたを死に追いやるなんてしたくないんだよ」

それは至極単純なエマのエゴ。
数百人を殺した怪物を救うなど、教会の教義どころか社会常識ですらありえない。

「27祖級の死徒を封印も滅ぼしもせず、他人の肉体に放置したなんて教会にばれたら、最悪私も処刑されちゃうんだけどね?」

「だったらやっぱり私は存在してちゃいけないよ。
いままでたくさん人を殺してきた。
これからだって多くの人に迷惑をかけてしまうかもしれない。
そんな私に生きて居る資格なんて……」


「ねぇ、歩夢ちゃん」

エマは歩夢の言葉を遮った。

「生きたいか生きたくないかじゃなくて、侑ちゃんと一緒にいたいかいたくないかで答えてほしい。
歩夢ちゃんはどうしたい?」

「それは」

歩夢は唇をかみしめる。

「……侑ちゃんとはずっと一緒に居たい。
でもいつか私のせいで侑ちゃんを傷つけてしまうかもしれないから。
そんなことは嫌だから、私は生きてちゃいけないんです」

「それで、生き残った侑ちゃんはどうするの?」

エマは続けた。

「歩夢ちゃんを失った苦しみに、侑ちゃんは耐えられるかな?」

「それは……時間が解決してくれると思います」

「本当にそう思う?」

136名無しさん@転載は禁止:2021/04/04(日) 01:16:34 ID:LdybtIh.
「詳しい状況は分からないんだけど、侑ちゃんを吸血鬼にしたのは歩夢ちゃんなんだよね」

「……そうです」

「歩夢ちゃんが無理やり襲ったんじゃなくて、侑ちゃんの方から受け入れたんでしょう?」

「……はい」

「それってさ、すごい覚悟だよね。
歩夢ちゃんの両親のご遺体を確認しにいったあと、すぐあなたに会いに行って、下手したら死んじゃうかもしれないのに自分の身体を差し出した。
……こんなこと、歩夢ちゃんに対して深い愛がないと絶対にできないよ」

だから、とエマは続けた。

「歩夢ちゃんが残した侑ちゃんへの心の傷、それが時間で解決できるとは思わないな」

それは紛れもない真実だ。
侑は魔剣として、歩夢は人類悪という人類愛でお互いの極点の愛を証明した。
それは逆に、侑には歩夢の代わりの愛は存在しないということ。
侑の心の中に空いた空白を埋められる者は誰ひとりとしていない。

だからこれは、時間が解決してくれる問題ではない。
歩夢を失えば、侑は世界一の愛の矛先を失って、さかしまにもう誰も愛せなくなってしまうだろう。

今は気丈にふるまっているが、いつかきっと、必ず心折れてしまう時が来るだろう。

「だからさ、侑ちゃんを救えるのは歩夢ちゃん、あなただけなんだよ。
あなたはたしかに数百人を殺してしまった大罪人だけど、それでもたった一人の愛と命と未来を救うことが出来る。
そのために、今は彼女によりそってあげてくれないかな?」

137名無しさん@転載は禁止:2021/04/04(日) 01:17:28 ID:LdybtIh.
「少し考える時間を下さい」

そう言って歩夢は侑と人格を入れ替えた。

「エマさん、私たちを、歩夢を助けてくれて本当にありがとう」

「どういたしまして。
でもね、あなた達が大変なのはここからだよ。
歩夢ちゃんが自分の罪にどう向き合っていくのか、それはあまりに難題だけど、時間をかけて、一緒に探してあげて欲しい」

「まかせて。
世界中が敵に回っても、私は。
私だけは歩夢の味方だから」

「それは頼もしいね。
さてと」

エマは次の戦場に向かうための準備を整える。

「もういっちゃうの?」

「うん。
今度はしずくちゃんを止めないと」

そう言って、エマは次の戦場に旅立った。
その後ろ姿えを見送って、侑は呟く。

「どうか気を付けて」

138名無しさん@転載は禁止:2021/04/04(日) 01:57:51 ID:Jmbw6lYw
まさかこんなすごい純愛展開になるとは。この二人なら形だけじゃなくていつか本当の救済になりそうでよかった。しずくちゃんも何とか救われるといいな…

139名無しさん@転載は禁止:2021/04/04(日) 13:26:19 ID:fvTqXV7w
全員生存してほしい

140名無しさん@転載は禁止:2021/04/04(日) 21:16:40 ID:LdybtIh.
朝焼けに照らされる大地を、エマは歩き続けた。

”私の気持ち、ちゃんと伝わったかな”

侑と歩夢のこれまでと、その先を考える。
歩夢が怪物になってしまったのは偶然で、人殺しになったのも吸血鬼の生態に紐づけられた悲運が原因だ。
彼女は元々善人で、何百人を生贄にする残忍さは元々待ち合わせていない。
全ては間が悪かったのだ。
友人が非業の運命に弄ばれるままこの世を去るのは忍びなかったので、エマはそれを救った。

だが、善人だからこそ。
怪物ではなく只人に戻ったからこそ、人殺しという十字架の重さに歩夢は耐えられない。
歩夢一人を思うのなら、彼女は潔く消え去るのが端的な救いになる人物だ。

だけど歩夢の人生は、もう歩夢だけのものではない。
死の闇に一人で旅立つには、彼女は侑とあまりに多くを分かち合い過ぎた。
歩夢がいなくなってしまえば、侑はその喪失にいつか耐えきれなくなる。
歩夢を見送る時は割に冷静だったが、それも消え去ろうとする彼女を慮って気丈にふるまっていただろうことは容易に予想出来る。

ならば、歩夢を死によって救済することは、侑を絶望の彼方へ見殺しにすることと同義だ。
癒えない悲しみの傷を背負って人生を終えるのかもしれないし、本当に命を絶ってしまうかもしれない。
どちらにせよ、侑の人生は歩夢がいなくては台無しになってしまう。
簡潔に、短絡的にまとめれば、自死を選ぶことで歩夢は侑を殺してしまうのだ。

歩夢は数百人を殺した大罪人で、大災害だ。
そう、だからこそ。
”人食いのあなたにこれ以上の罪の上塗りは許されない。
まして、最愛の者を見殺しにするなどと____”

エマの言葉の裏には、そんな厳しさが込められていた。

141名無しさん@転載は禁止:2021/04/04(日) 21:17:22 ID:LdybtIh.
それは友人への励ましで、咎人への判決。
どちらにせよ、救い上げた彼女の生きる理由になることを願うばかりだ。

本当はちゃんと口にして、伝えたかったのだが。

”喉が、痛い”

法外な奇蹟にはいつだって、帳尻合わせの代償が付き纏うものだ。
詠唱によってこの世の理をねじ伏せたつけは、エマの声帯に直接跳ね返る。
第三魔法の限定的行使に対する、”抑止力(ガイアとアラヤ)”からのカウンター。
エマの喉はズタボロに破壊されていた。

本当は会話するどころか、呼吸するだけで咽喉に激痛が走っている。
この傷は生涯をかけても、どんな魔術的な処置を施しても癒えることはないだろう。

それはエマにとってあらゆる意味で致命的だった。
吸血鬼狩りとしても、スクールアイドルとしても声は必要不可欠だ。
声を発するたびに痛みが襲うのでは、生業としてとても成立しない。

けれどエマはその苦痛を黙って受け入れた。
これが己のエゴで殺人鬼を身勝手に救った自分への罰なのだと信じて。

”歩夢ちゃんと侑ちゃんにはばれてないよね……?”

142名無しさん@転載は禁止:2021/04/04(日) 21:17:56 ID:LdybtIh.
こんな状態がばれてしまえば、侑と歩夢の心はさらに曇ってしまう。
彼女たちは十分に罪の意識がある。
これ以上の罪悪感を上乗せするのは避けたかった。

「……っ」

エマの身体が倒れる。
喉だけじゃない。
そもそも歩夢との戦闘で全身に重傷を負っている。
出血多量と内臓のシェイクでいつ死んでもおかしくなかった。

”まだ死んじゃ、ダメ。
歩夢ちゃんの罪がまた一つ増えちゃう。
しずくちゃんもどうにかしないといけない”

だけど、どうしても瞼が重い。
少しだけ、ほんの少しだけ休んでいきたかった。

”私が、なんと…か……”

最後の意識が流れる。
エマは静かに、瞳を閉じた。

143名無しさん@転載は禁止:2021/04/04(日) 22:21:40 ID:Jmbw6lYw
エマさん負傷は大丈夫そうかと思ってたら大変なことになってたんだな。エマさんも癒されて欲しい

144名無しさん@転載は禁止:2021/04/05(月) 18:31:05 ID:DKDoqavQ
しずく倒せるのかこれで

145名無しさん@転載は禁止:2021/04/05(月) 23:01:40 ID:MPdfdtMg
エマさん頑張れ

146名無しさん@転載は禁止:2021/04/07(水) 01:27:50 ID:QQjsDlvI
爪先から冷えていく感覚、朧げにかすむ視界、流れ落ちて止まらない血流。
否応なく感じさせられる。
これが死なのだと。

”……す”

その中で誰かの声がした。

”死ん……す……!”

呼びかける声は懸命で、エマのことを心から案じているようだった。
出来ればその声に応えてあげたいが、もうエマには欠片程の余力も残されていない。

”まだ死んじゃだめです‼”

そうだ。
その通りだ。
エマには生きる理由がある。
まだ死んではいけない訳がある。

それなのに、どうしたってこの身体は言うことを聞いてくれない。
誰かの必死な呼び声を聞きながら、エマの意識は闇に沈んだ。

147名無しさん@転載は禁止:2021/04/07(水) 01:29:28 ID:QQjsDlvI
こんな夢を見た。
夕焼けの差し込む教室に、二人の少女が向き合う。
少女らの他に人らしい人はおらず、その場は二人だけの密室だ。

長い髪の少女が、静かな声で好きですと云う。

色白な頬の底に温かな血のいろが程よくさして、薄紅に染めている。
唇も無論赤い。

私も、と短髪の少女が受け入れた。
お互いの気持ちを確かめ、分かち合い、深めていく。

長い髪の少女の身体が揺れた。
短髪の少女の方へ向かっていったからだ。
そのまま彼女は愛しの少女の元へ行き、息遣いの分かる位置までその顔を近付けた。

長い髪の少女はぱっちりと大きな瞳を開けた。
眼には潤いがあり、長いまつ毛に包まれた中は一面の青いしずくが広がる。

それはだめ、と短髪の少女は云った。
少女は長い髪の彼女を押しのけ、教室を出ていく。

「どうして?」

彼女はその場に座り込み、瞳から夕立を流した。

「……本当の私を見て」

148名無しさん@転載は禁止:2021/04/07(水) 01:31:18 ID:QQjsDlvI
目を覚ますと、広い洋室の中にいた。
天蓋つきのベッドの上で寝かされており、毛布のしたは衣類の類は纏っておらず生まれたままの姿だった。

”何とも…ない……?”

目を覚ました少女、エマ・ヴェルデは己の状態の把握に努める。
不思議なことにあれだけの重傷を負って死にかけていたというのに、身体に傷跡は一切なかった。

ただ一つ。
首筋に噛み後以外には。

”まさか……⁉”

エマは急いでベッドを飛び降りる。
それと同時に、部屋の扉が開いた。

「おはようございます、エマさん。
いい朝ですね」

エマの宿敵、もう一人の魔王がそこにはいた。

149名無しさん@転載は禁止:2021/04/07(水) 02:43:47 ID:zeCy/JKU
しずくの部屋かな。せつ菜との戦いはどうなったんだろう。というかエマさん噛まれちゃってるのか。色々予想外な展開だ

150名無しさん@転載は禁止:2021/04/08(木) 01:15:47 ID:6Hqg6JW2
「寝覚めが悪いのか、どうにもご機嫌ななめですね

右手で胸を、左手で秘所を隠しながら、エマはしずくを睨みつけた。

「……何のつもり?」

エマが尋ねる。
恐ろしき魔王を相手に丸腰でありながら、この聖女は猛々しかった。
うなりのような低い声で質問はしずくに伝わる。

それを受けてもなお、しずくは飄々とした態度を崩さない。

「せっかく拾った命ですもの。
もっと存分に生を謳歌しては?」

「質問に答えて。
私の身体に何をしたの?」

「別になにも。
ただ魔術で身体を治してあげただけです」

「じゃあこの首筋の傷はなに?」

それは確かに血を吸われた跡だった。
この少女は同好会のメンバー全員を吸血鬼にしたいとのたまっていた。
そんな彼女に吸血されたということは恐らく。

しかししずくの返答はエマにとって予想外のものだった。

「私は先輩を吸血鬼にしてません。
……声出すの、つらくないでしょう?」

151名無しさん@転載は禁止:2021/04/08(木) 01:16:25 ID:6Hqg6JW2
「あ」

言われてみれば不思議なほど流ちょうに会話が出来ている。
魔法を使った反動でエマの喉は、どんな医学的、魔術的手法を用いても治癒不可能に破壊されていた。
そんな彼女がこうして自然に言葉を口に出来ているのは、おかしなことだった。

「勘違いしないでくださいね?
エマさんの喉は治せてません。
ただ痛みをごまかしているだけです。
吸血の作用によって」

「……そうか。
死徒の吸血は吸うもの、吸われる者両名に性感を与えると聞く。
それは本質的に愛欲からの衝動だから。
しずくちゃんは麻酔代わりとして、私の血を吸って痛みを和らげてくれたんだ」

「まあそんなところです。
吸血鬼にしてないってのも本当ですよ。
証拠に、心臓の鼓動はまだ止まっていないでしょう?」

エマは自分の胸に手を当てる。
確かに生きている証、鼓動を感じられた。

「でも、ますます分からない。
どうしてしずくちゃんは私を助けてくれたの?」

152名無しさん@転載は禁止:2021/04/08(木) 01:18:12 ID:6Hqg6JW2
うまくかけませんでしたが、しずくはエマを吸血鬼にしない程度に痛みを和らげるために血を吸ったって感じです

153名無しさん@転載は禁止:2021/04/08(木) 09:56:54 ID:suAaSdg.
しずくちゃんの意図はわからないけどすごい吸血鬼だから痛みだけ消すこともできるんだろう、くらいに思って読んでたら大丈夫
それにしてもエマさんは喉のダメージは残ったままなのか。アイドルなのに

154名無しさん@転載は禁止:2021/04/08(木) 18:20:12 ID:fNPtAaFg
せっつー負けちゃったのかな

155名無しさん@転載は禁止:2021/04/08(木) 21:18:46 ID:70dHq.c6
他のメンバーも戦闘力持ちでないと…いやでも覚醒歩夢はポテンシャルで言えばしずくと同等なのかな

156名無しさん@転載は禁止:2021/04/11(日) 23:49:04 ID:dAeDEY7k
新学期のゴタゴタで投稿ちょっと遅れます

157名無しさん@転載は禁止:2021/04/12(月) 00:12:16 ID:673M1lcs
忙しい時期ですしね。楽しみに待ってます

158名無しさん@転載は禁止:2021/04/12(月) 00:27:01 ID:R7jOTWIg
新生活頑張れ

159名無しさん@転載は禁止:2021/04/12(月) 21:15:11 ID:PfD0dHIA
楽しみにしてるぜ

160名無しさん@転載は禁止:2021/04/14(水) 23:15:12 ID:D3sPRfgs
「以前お話しした通りなんですけどね?」

「同好会のみんなを吸血鬼にしたいって言ってたよね。
でもそれならどうして私が眠っている間にやらなかったの?」

「やって欲しかったんですか?」

「それはあり得ないけど」

やれやれ、というようにしずくは肩をすくめ、修道服と下着を投げてよこした。

「洗ってあります。
細かい話はそれを着てからでも遅くないでしょう?」

161名無しさん@転載は禁止:2021/04/14(水) 23:15:42 ID:D3sPRfgs
「単純なことです。
エマさんを吸血鬼にするのに、合意がないまま血を啜っては可哀想だと思ったんです。
吸血衝動(愛欲)を相手の許しなしにぶつけるなんて、それこそ凌辱と変わらないでしょう?
これは私の"在り方"の問題なんです」

服を着たエマに、しずくはそう言った。

「それは嘘だよ。
しずくちゃんは歩夢ちゃんを襲って吸血鬼にしてる。
あの娘がしずくちゃんの誘いに乗ったとは思えない」

「……昨日エマさんに魔眼を発動した時のように、歩夢さんを魅了していうことを聞かせたとしたら?」

エマは暫く思案する。
だが答えは変わらなかった。

「あの子の愛は普通のそれよりも遥かに大きい。
魅了の魔眼は通用しなかったんじゃないの?
魔術とは言え、歩夢ちゃんがしずくちゃんに浮気をして、言うことを聞くなんて信じられないな」

それが、昨夜歩夢と死闘を繰り広げ、その結末を観た者の結論だった。

「流石の慧眼ですね。
その通りです。
歩夢さんと侑さんに私の力は通用しませんでした」

「だったらしずくちゃんは、歩夢ちゃんを強引に吸血鬼にしたことになる。
状況証拠からの推測だけど、そうとしか思えないよ」

「はぐらかしても無駄ですね。
はい、そうです。
私は歩夢さんの意思を聞かず、無理矢理吸血鬼にしました」

ですが、としずくは続ける。

「エマさんに対しては合意を得ようとすること、歩夢さんには蹂躙すること。
奇妙に思うかもしれませんが、私の中では矛盾しないんです。
それも」

「あなたの"在り方"の問題なんだね?」

162名無しさん@転載は禁止:2021/04/14(水) 23:16:06 ID:D3sPRfgs
エマにはしずくが、どうしてか己の"在り方"を強く拘っているように見えた。
いや、この場合縛られているというべきか。

思えば、この少女は昨日からずっと、歩夢のマンションで出会った時からエマに対して攻撃らしい攻撃はしていない。

罠に嵌められ結界の中に閉じ込められたり、魔眼による精神への干渉は受けているが、少なくとも肉体面を損傷させるような暴行は受けていない。

それどころか今日に至っては、致命傷を癒やし、喉の痛みを和らげてくれている。
驚くことに、彼女は敵として振る舞うどころか、甲斐甲斐しく看病さえしているのだ。

吸血鬼の中には、ある種のパラノイアで己の持つ性質や本性に基づく秩序だった行動を取る者がいると聞く。
例えば上原歩夢は、高咲侑を守ることに固執し、最後には自分の命を投げ出してまで助け出そうとした。

もしかしたら、マザーハーロットを名乗る彼女も、その類の存在なのかもしれない。
エマはそう思った。

163名無しさん@転載は禁止:2021/04/14(水) 23:16:38 ID:D3sPRfgs
「私をどうしても吸血鬼にしたいんだね?」

「はい」

「嫌だと言ったら?」

「はいと言ってくれるまで、いつまでも待ちます。良いと言ってくれるまで、最大限努力します」

まただ。
この少女はどうしてか、エマには優しい。
人や動物を虫けら以下に惨殺し、歩夢を人外にしたケダモノとはどうしても人物像が合わない。
寧ろ、同好会でいつも接しているしずくとなんら変わりないように見えた。

「……私が、今直接、あなたを封印ないしは滅ぼすと言ったら?」

「今のエマさんの状態ではとても無理だと思いますけど、お好きにどうぞ?
せつ菜さんの時と同じように、流石に私も反撃しなくてはいけませんが」

「……ちょっと待って。
今、せつ菜ちゃんって言った?」

エマの顔色が青くなる。

「せつ菜ちゃんをどうしたの?」

「殺し合いました。
その果てに、彼女も私に魅了されて、今は土の中で身体を作り替えてる真っ最中です」

「……このお馬鹿!」

エマは急いで洋室を出て、屋敷を飛び出した。

164名無しさん@転載は禁止:2021/04/15(木) 01:50:57 ID:jeBNbE4c
せつ菜大丈夫か?

165名無しさん@転載は禁止:2021/04/15(木) 07:28:49 ID:MQhOPFjg
続きが来てた。しずくちゃんの考えや行動の基準みたいなのがまだよくわからないね。せつ菜ちゃんを倒してしもべ?にすることには躊躇いなさそうだし

166名無しさん@転載は禁止:2021/04/17(土) 18:02:23 ID:T5ISQaTc
扉を開けたその瞬間、エマは息を呑んだ。

しずくの屋敷は鎌倉の沿岸沿いにあり、海と陸が隣接している。
邸宅といっても良い立派な佇まいだ。

だが、エマが驚いたのは屋敷の壮麗さ故ではない。
世界を支配する無音、無動という名の異常に気がついたからだ。

潮騒はなく、空は凪ぎ、陸を行き交う人々はそのままの姿勢を保って立ち止まっている。

「時間、停止……?」

まるで世界そのものが歩みを忘れてしまったかのような静寂に、エマは心当たりがあった。
こんな異常現象を起こせるのはたった一人しかいない。
しずくだ。

だが彼女の魔眼は瞬きする間にしか世界を止めることは出来なかった筈だ。
これ程長時間、いや手を加えなければこの先の未来永劫まで、この世の理をねじ伏せる時間停止を行えるはずがない。

筈なのに。

「歩夢さんはよく働いてくれました」

エマの後ろで、悪魔の声がした。

167名無しさん@転載は禁止:2021/04/17(土) 18:02:54 ID:T5ISQaTc
「死徒には吸った者、吸われた者で親子の関係があり、子の集めた血肉や力を親は取り立てる事が出来る。
聖堂教会の代行者たるエマさんなら当然ご存知の知識ですよね?」

「……それとこの異常事態にどんな関係が?」

「気付いていませんでしたか?
歩夢さんたら、"人類悪"に目覚めかけてたんです。
人類のルールを汚すために存在する死徒が、一個人を究極的に愛してしまった結果です。
彼女はその愛の本性と所業を持って、この世に現界する筈でした。
結局、その力を手放してしまいましたが」

人類悪、その単語を聞いてエマの背筋が凍りつく。
それは亡霊や吸血鬼などとは比較にならない、ワールドエンド級の大災害だからだ。
エマはその忌み名を知識として知っていた。

人類悪はクラス・ビーストの席を以ってサーヴァントとしてこの世界に単独で顕現し、各々が持つ性質や本性、"愛"に従ってこの世界を滅ぼすという。

例えばこの世界は、原種のビーストたる魔神王によって2016年に人類史を焼却されているし、終局のⅦによってそれ以降の未来を一度白紙化されている。
そのどちらも人理継続保障機関フィニス・カルデアの働きによって無事解決され、人類は正常な歴史を取り戻していたが、魔術世界においてこの大災害の存在を知らぬ者はいない。
一般人には徹底的に秘匿されたが、世界は2度滅ぼされかけているのだ。

歩夢は彼らと同規模の存在になりかけていたのだ。
しかし______。

「歩夢ちゃんは罪を認めて、自分から首を差し出した。
人の世を滅ぼす災害になる一線を越える前に、愛故に愛する者との訣別を選んだんだ」

"人類悪"としての上原歩夢は誕生する前に、破滅を選んだ。
世界を滅ぼす彼女の"愛"は一切の矛盾なく、その"愛"のルールに従って己の理想、願望、存在さえも打ち砕いて見せたのだ。

その在り方は尊く純粋で、同時に哀しくエマは思った。

168名無しさん@転載は禁止:2021/04/17(土) 18:07:57 ID:T5ISQaTc
「事のあらましが漸く見えてきたよ。
歩夢ちゃんは"人類悪"としての力を手放した。
行き場を失った力は、歩夢ちゃんの"親"に当たるあなたを選び、集まった。
その結果が、しずくちゃん。
あなたという、全く新しい"人類悪"(世界を滅ぼす愛)を呼び覚ましたんだ」

「ご名答。
以前は大淫婦を名乗るには、未熟な部分が多すぎて気恥ずかしかったのですけど。
今なら何の迷いもありません」

しずくは恭しくドレスの裾を上げ、一礼してみせた。

「ご無沙汰しております、エマ・ヴェルデ様。
我が名は桜坂しずく、マザー・ハーロットの完全なる再演者。
かつて27祖の13位にあって、今は6番目の獣(ビースト)に位置する者。
どうかご贔屓にお願いします」

単純な事。
これは一番目の獣・ゲーティア、七番目の獣・異星の神に並ぶ大偉業。

何のことはない。
エマが目覚めたこの世界は、しずくにとっくに滅ぼされた後だったのだ。

169名無しさん@転載は禁止:2021/04/17(土) 18:34:46 ID:LOiekFHs
やばいしずくちゃん強すぎるな。というか歩夢達も一歩間違ってたらこうなってたのか。エマさんどうにかできるんだろうか

170名無しさん@転載は禁止:2021/04/17(土) 22:25:36 ID:HUqhuPsM
戦力になりそうなほかメンバー頼るか歩夢の再起か…

171名無しさん@転載は禁止:2021/04/18(日) 00:29:26 ID:r4ldISR6
しずくは歩夢の力を吸収して強くなったみたいだから、もう歩夢を頼るのは無理そう。せつ菜もやられちゃったみたいだから、他に誰かいれば

172名無しさん@転載は禁止:2021/04/20(火) 21:44:46 ID:lbjtJtqE
しずくつよい

173名無しさん@転載は禁止:2021/04/24(土) 16:36:52 ID:KdwFbqJI
すみません
今日か明日には投稿します

174名無しさん@転載は禁止:2021/04/24(土) 18:05:31 ID:jg1s6i76
楽しみ

175名無しさん@転載は禁止:2021/04/25(日) 20:34:34 ID:BRGcxZsY
期待

176名無しさん@転載は禁止:2021/04/30(金) 21:22:45 ID:OlZtKI7o
待ってる

177名無しさん@転載は禁止:2021/05/02(日) 00:13:59 ID:Kv6du7SY
待つぜよ

178名無しさん@転載は禁止:2021/05/04(火) 00:16:39 ID:pYKUqSgc
待つわ

179名無しさん@転載は禁止:2021/05/04(火) 00:44:32 ID:R0pBG.P.
忙しい時期だろうからのんびり待つよ

180名無しさん@転載は禁止:2021/05/08(土) 22:23:12 ID:jJWKIp7A
気になるところで切れてるから、余裕できたらぜひ続いて欲しいな

181名無しさん@転載は禁止:2021/05/12(水) 21:12:02 ID:MJCDbu3U
待ってるぞ

182名無しさん@転載は禁止:2021/05/17(月) 07:41:33 ID:zWP3d39M
一か月だけど、諦めずに待ってる

183名無しさん@転載は禁止:2021/06/03(木) 01:30:46 ID:c5GEaO2k
逃げたか

184名無しさん@転載は禁止:2021/06/07(月) 21:41:25 ID:eFBJB/cc
まつわ

185名無しさん@転載は禁止:2021/07/02(金) 23:12:52 ID:wX8ltZHE
待ってるぞ


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