- 1 :名無し修行中 :2008/11/02(日) 21:06:55
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#色物:寄席演芸のうち、講談・浄瑠璃・落語などに対して、音曲・踊・奇術・声色・漫才などを称して言う。 転じて、ある場において、もともと意図していない、あるいは中心的な存在とは考えられていない分野を専門とする人々を言う。
- 647 :明烏 その28「明烏夢泡雪」17 :2013/04/01(月) 18:55:34
- 二人で吹き出した。平成7年の大晦日の晩に、師匠の所有する離れの土壁を蹴り壊した二番弟子を思い出した。
「蹴り壊すかぁ?普通?」 「普通やないですね。思考も行動も、恐竜並です」 「俺達二人のが、よーっぽど、礼儀守ってるわぁ。なあ?」 「そうですね」 「仏壇もここに置けたらええんやけど。まぁだ俺、おばはんとこから引き取れんさかい」 「……一昨年の冬に菊枝はんと話そうとしてたの、これのことですか?」 「内弟子の間も残債、待ってもろたん。えらい、助かった。まあ、あと少しや」 「え?……ほな、小早若にいさんが残債、払い終えたら……。ある日突然、師匠の仏壇、届くんですか?ここに?」 「そないなるかな?俺、いない間やったら、また頼む」 「……わかりました。あの、『いない間』って、東京の部屋は?布団こっち送って?」 「もちろんあるで?浅草の部屋。当分、営業拠点や。お布団は、ちょうど新しいのん師匠から貰ろてん。で、古いの、こっち戻した」 「……『古いの』……?」 嫌な予感がした恣意草は、廊下に置いたままの兄弟子の荷物に小走りで駆け寄った。紙梱包をはがすと、布団袋に見覚えがあった。赤と白の市松模様が透けて見えていた。 「……底抜けに、うっとうしい……」 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 648 :明烏 その28「明烏夢泡雪」18 :2013/04/01(月) 18:56:44
- 早原の相談に、小早若が希望を述べた。恣意草もうなづいた。
「ああ。ええ日ですね」 「早若師匠の命日の、半年後か」 「ええ」 「ほな、その日程で見直すわ。完成お披露目や行事の計画、立てよう」 「あ、寄席行事。俺もノート作ったんですわぁ。浅草の寄席修行ノート」 「えー!!!!!」 一同、仰天した。 「何やねん? ボーッと新宿や浅草で暮らした訳やないわぁ。俺かてな?ほれ、これや」 ノートを4冊、放り投げた。四季で1冊ずつある。 「へえ。あ、ようまとまってるな。大きい字ぃで」 ノートの綴り方は、恣意草のものを見習って真似ただけだった。早々が手に取り、代表して開いた。 「俺。小早若の字ぃ、久しぶりに読むわ」 「ほっとけ」 早原と小早々、恣意草がノートを覗き込んだ。 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 649 :明烏 その28「明烏夢泡雪」19 :2013/04/01(月) 18:57:40
- 「そういう意味かぁ」
「ルールや因縁が、目ぇに見えへん蜘蛛の巣ぅみたいで。お茶ひとつ出すにも気ぃ使う」 「そ、そないにキツイんか」 「ほんで、そのルールをきちーんと守らはる人ほど、評価高いねん」 「へええ」 「言葉悪いかもしれへんけど、お城に勤めるお侍さんみたいやねん」 「宮仕え、て奴か?」 「せやねん。着物なんかもピッとしててな?かっこええでぇ?俺、生まれ変わってもでけへんけど」 「なんとのう、わかってきたわ」 拙いなりに小早若が持ち出した比喩が、一同を納得させた。 「逆に、寄席落語を知らんいう噺家も多なって。ホール落語で仰山、客集める腕ある人」 「ああ。大阪でも、そういうお方のチケットは取りにくくなったあるなぁ」 「で、噺家も、寄席だけでもホールだけでもつまらん、言うてな?」 「ふんふん」 「なかには、両方演ろう、いう考えの人もいてる。腕、ある人は実際、そうしてはる。こないだ本くれた若師匠がそうやな」 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 650 :明烏 その28「明烏夢泡雪」20 :2013/04/01(月) 18:58:49
- 弟弟子は週に一度、ごく短い葉書や手紙をしたため、兄弟子に送った。電話はよく掛け合った。夜半、延陽伯のピンク色の固定電話が四回鳴って切れる。恣意草は階下に降り、兄弟子の携帯電話に電話を折り返す。そうして、互いの稽古を電話で聴きあった。
「……下手糞」 「じゃかましい。お江戸では受けんねん!」 「もう一遍。……頭から」 「おお。『チチチチン♪ のびあがり のびあがり見れどもぉ見えぬ 後ろぉ影……ぇ」 「……」 「ええ声やろ♪……もしもし? 小唄、歌ったで?」 「……」 「お前、そこ、店の電話やろ?……もしもしぃ?」 「……zzz……」 「寝るなぁ!!」 電話を握ったまま、恣意草が眠った夜もあった。
兄弟子は顔を出しに戻りもした。墓参もした。大阪での高座も踏んだ。「はてなの茶碗」百番勝負は先月、80番を越えた。烏耶麻との約束を果たす前に、気づいた時には、周囲から「小早若師匠」と呼ばれはじめていた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 651 :明烏 その28「明烏夢泡雪」21 :2013/04/01(月) 18:59:41
- 柳芳師匠は微苦笑した。
「なるほど?」 「親にならなかったら親の噺はできへんのやったら、僕は一生、親の噺も女の噺も狸の噺もできません」 「団子理屈、言わんで宜しい。けど、そういうことやな?イマジネーションの問題や」 「想像力ですか?」 「人間の男の君が、他の人間や女や狸の噺が出来るのは、想像力があるからや。君と、客との間に。せやけど、君の想像力は『親心』で行き詰った。こういうことやろ?」 「ええ。そういうことやろと思います」 恣意草は羊羹を見つめた。 「羊羹、ジーッと見て。なんやねん?何か、想像力が刺激されまっか?」 「絶妙ですね」 「ん?」 「茶菓子のセレクトが。僕がこの話、答えに時間かけても。融けも冷めも傷みもせえへん、音も立てず散らかりもせず、食うことのできる茶菓子。『想像力』、感じられますね。この茶菓子を出した人の」 「ええ嫁はんやろ?」 「あのお内儀さんなら、戴きたいです」 「……?」 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 652 :明烏 その28「明烏夢泡雪」22 :2013/04/01(月) 19:06:52
- 恣意草は『算段の平兵衛』を東京の若い噺家に教えはじめた。その噂を聞きつけた大阪の若い噺家も、「ずるいずるいずるい」とばかりに、延陽伯に来るようになった。天狗座に程近い中国料理店は、にわかに落語家の溜まり場になっていった。
小早若は、『唐茄子屋政談』を古紺亭のあにさんから教わった。この噺を得意にしている錦馬師匠も、通しを聴いてくれた。大阪で柳芳師匠に上方流に見なおしてもらい、『南京屋政談』として高座に掛けた。『愛宕山』も古紺亭のあにさんから教わったらしいが、恣意草はそのことを兄弟子からでなく、人づてに聞いた。
*
そして、徒然亭小早若は『愛宕山』を、東京でも大阪でも、まだ高座には掛けていない。
*
心が折れるような夜は、来なかった。兄弟子を信じて、恣意草は待った。
その待ち続けて出た単純な答えに、素直で真面目な兄弟子の報告の言葉に、笑いが止まらず、腹を抱えて恣意草は、のた打ち回った。笑いが発作のようになった。
「わ、笑いすぎや、恣意草!」
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- 653 :明烏 その28「明烏夢泡雪」23 :2013/04/01(月) 19:07:47
- 「そ、『そんたび考える』責任者だけ。決めたらええんと違いますか?」
笑いの発作を鎮めながら恣意草は言った。早原が恣意草に訊ねた。 「せ、責任者って? ははっ? 腹いたい。なんやねん? 恣意草」 「各一門代表。選挙で理事を選出するんです」 「ひー。ひー。な、なるほどな。理事同士で、ご、合議してもらうんやな?」 「できるだけ風通しのええ形で。ほんで、『席亭』……代表いうか、お目付け役も、選べると。ええですね」 笑いすぎで涙が出た恣意草は、途切れ途切れに考えを言った。 「『背広組』?」 「ええ」 「要る。それは絶対、要る。噺家や芸人だけやと、ゼッタイ、無理」 長い睫に涙が溜まった弟弟子の言葉に、小早若は答えながらティッシュを放り投げた。 「拭け!」 「はい」
(こないして、生きていきたい) (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
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