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それは連鎖する物語Season2 ♯2

56タタリ 1/2:2014/10/22(水) 01:08:23 ID:smnMc0lo0
 八百段の石段を上り抜け、伏神山の麓にある上伏神社へ出る。境内を少し歩くと更に蛇行して君臨する石の階段。その数、実に千五百。それが伏神本家へ通じる「舗道」である。
 無論、物資や生活消耗品などの搬入に使う車道も存在するが、そちらは馬車馬の負担を減らす様にやや勾配のあるほとんど平坦な道になっていて、人が歩く分には遠くなる。何とも恐ろしい事に、直通するなら二千三百段もの階段を歩いた方が早いのだ。
 更に恐ろしい事実をもう一つ。伏神の祭殿はもっと山頂に近かった。そこに到達する為には更に二千三百段の石段を登らねばならない。まぁ、今は過去のアレコレのせいで、中途あたりからクレーターみたく抉れて跡形もないんだけど。
「……ああ、もう。エスカレーターとか設置しようぜ、兄さん」
「えすか……れぇたぁ……? 何だそれ?」
 段差を一つ一つ踏み抜き、登りながら、先を歩く劔に提案するが怪訝な表情を返された。しまった、そもそもこのクソ田舎、電気すら通ってないんだった。
 旅行バッグは麓の分家に預け、後で届ける様に伝えてある。分家の人が馬車を出すと提案してくれた時は渡りに船と感動したものだが、兄さんが健康の為には少しくらい運動しないとなハッハッハーなんて言い出さなければこんな事には……!
 というか、オイそこの筋肉。そもそもその筋肉に少しくらいの運動が必要あるのかと問いたい。
「休憩……神社に着いたら休憩しよう、兄さん。マジで足腰がもたない……」
「おいおい。もうへばったのか? このくらい、昔は麓に行くのに何往復もしてただろう?」
「機界の利器は人を駄目にするって絶賛実感中だよ!」
 改めて帰省してみて当時の異常さがよく分かる。あの頃の俺はどうやってこの階段を下って麓の学習塾に向かい、昼には家に帰って食事を済ませ、夜深くまで外で遊び歩いていたと言うのだろうか。こんなの片道でギブアップだよ!
「まぁ、いいんじゃないかな? たぶんこの時間帯は私の妹も神社にいるだろうし、顔合わせはしておくべきだろう?」
 夕霧さんの提案に、劔兄さんが「それもそうか」と同意する。思わぬ方向からの援護射撃に感謝の極みである。ありがとう夕霧さんとやら。
 ……しかし妹、妹ときたか。俺は改めてフードを目深に被った夕霧さんの顔を横目で眺める。
 フードの裾から覗く銀の髪に、吹雪の夜を彷彿とさせる紫色の瞳は切れ長で眼光鋭い。肌は白く、それだけに顔の右半分を覆い尽す様な赤い刺青がよく映える。
 うん。もう嫌な予感しかしない。帰るんじゃなかった。
 日差しは木々に遮られているとは言っても、残暑は残暑だ。階段登りで披露はピークに達しようと言う現在、俺は汗だくである。やがて神社の鳥居が見えて来た頃には四肢を使い、登ってるのか転んでるのか判断つかない様な状態であった。
「「暑っつい……」」
 鳥居を潜り、上伏神社の境内に入った開口一番に吐いた俺の悪態は、鳥居の日陰で日差しを避けていた人物と見事にハモった。お互いに首を向けて、お互いに存在を確認し、観念した様に同時にため息を漏らした。
「まぁ、なんつーか……夕霧さんに妹がいるって聞いた時点でお前だろうと思ったよ」
「姉さんの婚約者が伏神なんて珍しい苗字の時点で、こうなる事は分かってたさ……」
 俺、および鳥居にいた人物はそれぞれ左右の鳥居の脚に腰を下ろし、息も絶えだえに諦める事にした。長い階段を登ってきた俺は疲労で、あちらさんは残暑にやられて言い争う力さえ残っていない。
 劔兄さんと夕霧さんは俺たちが知り合いだと思っていなかったらしく、きょとんとした表情でこちらを見ていた。
「あぁ、自己紹介はとっくの前に済ませてる。クラスメイトだよ、俺ら」
 そう。何を隠そう、鳥居の下で日差しを避けていた人物とは驚くべき事に、クラスメイトであるガングロ雪女の柳瀬川朝霞だったのだ。(棒読み)


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