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それは連鎖する物語Season2 ♯2

479数を持たない奇数頁:2015/03/23(月) 15:26:31 ID:wPzqGEho0

「竜の性質、というものについてお話していませんでしたね、ミスター」
遡る事十数分前。伏神山を駆け下りる道中で、アギョー・スタチュー――クロガネは唐突にそんな事を言い出した。
「いえ、唐突ではありません。そもそも身分を明かした時点で語るべき内容でしたから」
 タイミングを逸してしまい、今までお話出来ませんでしたが、とクロガネは続ける。
「性質、っつっても大概の事は聞いてると思うけどな。人にとり憑いて、その存在を喰らって、こっちの世界に出てくる化物、だろ?」
「それが全て、という訳ではありません。例えば、竜がその存在を取り込んでいくプロセスなどは教えていないはずですが」
「いや、そりゃ聞いてないが……。そもそも、それって知る必要あるか?」
「はい。ミスターの身の安全のためにも、そのエゴを満たすためにも」
 何だよエゴって。肩越しに振り返り、眉を顰めて聞き返すソウジだが、クロガネは素知らぬ顔でそっぽを向き、アイカメラをチュインと動かすのみであった。
 ソウジは大きくため息をつくと、渋々といった口調ではあったが、話してくれと頼んだ。
 いいでしょう、と何故か鷹揚に頷くクロガネ。少々ひっかかりはしたが、話の腰を折るほどの事でもないので、ソウジは黙っている。
「まず如何な竜とはいえど、とり憑いた人間の精神を即座に掌握できるわけではありません。というより、強く拒絶されれば排除されかねないほど微かな存在なのです」
 クロガネ曰く、人の精神世界というものは砕くことは容易であるが、乗っ取るとなると相当な手間がいるのだという。
 しかし精神が壊れては、竜が居つく世界も壊れるという事。それは紛れもない自殺行為であるため、竜は滅多な事ではその愚を犯さない。
 だから竜はこっそりと精神世界に留まり、宿主に取り入るのだ。
「取り入る?」
「竜は大きな渇望を抱えた人間にとり憑き、それを埋める為の力を貸与します。力の貸与、これは即ち竜と宿主との結びつきを強めるための行為であり
 その囁きに乗り、力を振るう度に竜は深く精神世界に食い込んでいき、その活動域を広めます」
「それは、つまり……」
「はい、人格を貪られていく事を意味します。感情や思考回路に変質が生じ、往々にしてより渇望が強まります」
 例えば、ドネルクラルに憑かれた風紀委員、伊庭甲子郎。彼が抱えていたものは、異常なまでの他者への羨望だ。
 嫉妬と自己嫌悪、承認欲求と変身願望の入り混じったそれは、ドネルクラルの付け込む絶好の隙だった。
 才能、記憶、経験などを含む、あらゆるパーソナルデータの窃盗。伊庭甲子郎が心底欲した物だ。
 だがそれには、対象を殺害しなければならない。
 葛藤もあっただろう。倫理観がブレーキもかけたろう。
 しかし結局、彼は何人もの人間を殺し、その顔を奪い取っていった。


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