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それは連鎖する物語Season2 ♯2

425数を持たない奇数頁:2015/02/02(月) 22:08:36 ID:2H5/4.YY0
 大型犬に盛大に懐かれると、時折、こういう状況に陥るのだろう。
 問題があるとすればじゃれ付いて来るのが犬ではなく祖父である事、そして家族間で行われるには過剰なスキンシップを、知人の化身とも表現できる存在に観察されている事であろう。
 死んだ魚のような虚ろな眼をした聡治は、暫くの間現実逃避に徹する事に決めた。祖父がじゃれ付いているのは夢の話で、クロガネの機械甲冑《アギョー・スタチュー》に観察されているのも、夢の話なのだ――
 そんな訳あるかと、じゃれ付いて来る楯一郎を思わず蹴っ飛ばした聡治は、転倒の衝撃で投げ出してしまったノートパソコンへ視線を向けた。投げ出した際に近くで剥きだしになっていた岩石に叩き付けられたらしく、樹脂製の外装には一条の亀裂が走っており、閉じられていたそれを開けば、液晶画面が見事に割れていた。
 重要な情報源が失われた事に対して一瞬、思考が真白に染まる。それでも、僅かに残った理性が、授業で習ったパソコンの構造を思い返していた。
 外装も液晶画面も所詮は飾りだ。記憶媒体となる部分が無事であれば、それを他の機材と接続する事で中身を確認出来る。
 幸い叩き付けられたのは液晶側であり、記憶媒体などの重要部分が詰っている側は無傷だ。いや、外面的に無傷なだけで、中身は破損しているかもしれない。
 それでも僅かに見えた希望に平静さを取り戻した聡治は、破損したノートパソコンを抱え上げると、思わず蹴っ飛ばしてしまった楯一郎の方へと視線を向けた。
 流石にただの学生として平穏な日々を生きている聡治の蹴り程度では何ともないらしい。先程よりかは理性的な雰囲気を纏わせている楯一郎は、何事もなかったかのように立っていた。
 視線が機械甲冑の方へと向けられている。深く刻まれた皺で全盛期の厳しさが薄れたとは言えど、双眸を細めると威圧感を感じる。その正体を精査するかのような視線に、機械甲冑が身悶えするかのように身動ぎした。
 少々クロガネに言いたい事が喉元まで込み上げて来たが、嚥下。今は馬鹿げたやりとりをしている場合では、決してないのだ。
「……爺ちゃん、聞きたい事があるんだ」
 意を決して告げれば、楯一郎の視線がじろりと聡治に向けられた。先程までの孫馬鹿っぷりは嘘のように掻き消えている。代わりに存在しているのは静か過ぎる気迫だ。
 びくりと、聡治は身体を跳ねさせる。かつて伏神山に無断で立ち入って怒られた際とも違う、今まで見た事のない祖父の雰囲気に、自然と背筋が伸びる。
 暫し無言のまま聡治を見ていた楯一郎だったが、大きな溜息と共に、雰囲気が和らぐ。それでも孫馬鹿の雰囲気を感じさせない程には張り詰めた雰囲気を纏っていた。


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