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それは連鎖する物語Season2 ♯2

409数を持たない奇数頁:2015/02/02(月) 12:25:05 ID:vuZYJwwA0
体勢を崩しそうになり、蒼竜は残る三足を踏んばり、何とかそれを押し留める。必然的に生まれる微かな硬直、隙。それが致命的な物にならなかったのは、単に運が良かったからだろう。
「悪路王」
烈風が吹き荒ぶ。不可視の力場が、劔の全身を覆う。蒼竜は翼を翻し、一息に飛び退った。伏神家の広大な中庭であればこそ、その巨体でも自由に動くことが出来る。
両者の距離、およそ八メートル。もう先ほどの様な奇襲は通用しそうもない程の距離。
伏神劔の「変化」は、既に終了していた。
右腕。指先から肩口までを覆うのは、光沢など存在しない漆黒の竜鱗。どこか鎧めいた堅牢さを匂わせるそれは、彼の左腕が元々、丸太のように太かったせいもあろうが、左袖を突き破り、その全体を外気に晒していた。
「『竜』の力……!」
 蒼竜は呻き、歯噛みする。まるで己の誇りを貶められたとでも言うように。
劔は口角を吊り上げ、ニィと笑った。
「相変わらずいい腕だな、夕霧。助かったぞ」
「どうも。信頼してくれるのは嬉しいけど、いい加減敵の前で無防備になる悪癖どうにかならないかしら? ひやひやするのだけれど」
 心底ウンザリしたような口調で、夕霧は呟くが、劔はそれをまたも笑うことで受け流す。そうする事を分かっていたようで、夕霧は深々とため息を吐くだけで、そこで会話を終わらせた。
そんな劔の元へ、駆けてくる影がある。半壊した会堂から飛び出てきたそれは、胸元に長大な刀剣を抱いた、小柄な人間のものだった。
それは中庭を取り囲む集団と同様の装いをしており、頭のてっぺんからつま先まで、漆黒の装束で覆われており、性別や詳細な体つきすら特定できない。
だが一四〇にも届かぬ小柄な身長と、歩調から漲る若々しさ。刀の重さに振り回され、足取りが稀にもつれそうになっている所を見るに、幼年であろうことは想像に難くない。
影は劔の元まで行くと跪き、捧げ奉るかのように両手に乗せた刀を、スイ、と劔へと差し出した。
劔の表情から笑みが消える。
彼は何も言わず刀を受け取ると、間を置かず抜刀する。鯉口を切る清廉な音と共に表れ出でた刀身が、鞘からその身を表す先から、黒々と染まっていく。
それは劔の左腕のそれと同じく、光を反射せぬ黒。竜の力の影響を受けている事は、誰の目にも明らかであった。
「祢々、これをソウジに。対話も許可する」
 一歩、進み出た劔は振り向きもせずに言う。そして後ろでに鞘を差し出し、落す。
祢々と呼ばれた影はそれを危なげなく掴むと、音もなく遠ざかって行った。
劔はそれを気配でもって確認すると、再び一歩踏み出す。つつ、大きく息を吸い込み、次の瞬間、それを全精力をこめて吐き出した。
「露払衆、任務復唱!」
 すると、跪いていた二十三人の黒装束たちが一斉に立ち上がり、右手で作った拳を、心臓の位置に叩きつける。
「非戦闘員の保護、並びに四拾七氏配下の排除であります!」
 先ほどと同様、一切乱れぬ完璧な斉唱であった。それを受けて、劔は一歩進みつつ、続ける。
「然り。これは露払衆最後の任務である。今日を堺に、伏神という呪はこの世より消えうせる。汝ら二十四剣、皆押並べて人へと還るのだ。一本たりとも折れること許さぬ! 散れ!」
「応ッ!」
 一陣の風と共に、二十三の影と、夕霧はその場より掻き消えていた。


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