したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

それは連鎖する物語Season2 ♯2

239Kの人 ◆0Dte0ep.fg:2014/12/17(水) 18:18:33 ID:Tv2mUhQc0
「なぁ、朝霞……お前」
 視線を集落から、横にいる朝霞へと戻せば、しかし、聡治の視線の先に朝霞はいなかった。
 ふらりと、まるで誘われるような素振りで地雷原へと歩んで行くその背を見つけ、聡治は反射的に叫び声を上げた。
「馬鹿、止まれ!」
 作動範囲内に入ったのを視認した聡治は、直後に訪れるだろう惨劇から目を背ける。
 身を伏せて衝撃に備えるも、その衝撃どころか、爆音さえ響く事はなかった。
 恐る恐る身体を起こして朝霞の方を見やれば、範囲内にいるにも関わらず、符術は発動していなかった。
 経年劣化で破損しているのか、とも思う聡治だったが、見た限りはどれも正常なはずであった。
「朝、霞?」
 呆然と呼び掛ける聡治の声に反応してか、朝霞はゆっくりと振り返った。
 切れ長の紫の眼に、健康的な褐色の肌。そして新雪を思わせる白く輝く澄んだ銀髪。
 それらは朝霞と同じ物だったのだが、その顔は朝霞の物とは異なっていた。
 尊大さなどどこにもなく、御伽噺で語られるような、淡く儚いという言葉が良く似合う悲しげな表情。
「ちょっと待て……お前は誰だ? そもそも、何で作動してないんだよ」
 震える声で問い掛けた聡治の言葉は、雪女らしき女性に届く事ない。
 ただ短く、唇を動かして何かを告げた直後、まるで春先の陽光で雪が解かされるが如く、その女性は姿を消した。
 助けて――聡治が聞き間違えてなければ、確かに、目の前で消えた女性はそう告げていた。
 いよいよもって、夢でも見ているのか。先程のはやはり幻視だったのか。
 脳内を蠢く、不快とも感じられる思考の錯綜に立ち尽くす聡治だったが、懐から響く無機質な電子音に、はっと我に返る。
 携帯電話の背面には見慣れない数列が並んでいた。
 一瞬、脳裏を過ぎったのは夏季休暇前の、ドネルクラルからの呼び出しだ。
 ただ奴は既に死んでおり、そもそも、背面に表示される数列は、一切似ていなかった。
「も」
『この馬鹿! テメェ今どこをふらついてんだ!?』
 鼓膜を叩いたのは甲高くも威圧感のある、それでいて喧嘩腰の口調であり、間違いなく朝霞の物だ。
「っ……電話で大声出すなって。……そもそも、何で俺の電話番号知ってんだよ」
『そんな事は後だ、大変なんだよ! だから、早く戻って来い!』
「状況が分からん。せめて何がどう大変なのか」
『劔さ』
「……あ? おい、朝霞? 兄さんがどうしたんだ? おい……くそ、こんな時に充電切れかよ!」
 突如として途絶えた声に、携帯電話を見れば、ついに充電が切れて沈黙してしまっていた。
 今まで持ったというべきか、それとも、重要な情報が伝わる寸前に切れやがったというべきか。
 どちらでも構わないと、携帯電話を懐に戻した聡治は、踵を返して山を駆け下りていく。
 魔界人集落の件も気になるのだが、やはり身内の事の方が、聡治にとっては優先される事であった。
 胸元はざわつき、そして、比例するかのように左腕の違和感が再発している。
「一体、何が起きてやがる……」
 そんな聡治の独白は、誰が答えるでもなく、伏神山に溶けて消えた。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板