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それは連鎖する物語Season2 ♯2

237Kの人 ◆0Dte0ep.fg:2014/12/17(水) 18:17:22 ID:Tv2mUhQc0
「……夕霧」
 十年来の好敵手、そして現在は婚約者である女性の名前を呟けば、分かっているという言葉が短く、そして鋭く返ってくる。
「すぐに行くと伝えておいてくれ」
「畏まりました。その、聡治様は」
「何とも言えん。捜索だけは続けてくれ」
 了解の返事も程々に、慌しく去っていった侍従から劔は視線を外し、夕霧へと視線を向ける。
 決意の済んだ美しい顔立ちではあるが、僅かながらに戸惑いを隠しきれていない様子である。
 心配は要らないと微笑みを投げ掛けた劔に返ってきたのは、脛蹴りという肉体言語であった。
「事は計画通りにすべきだと思うのだけど」
「かもしれないな。ただ、都合が良いと言えば都合が良いんだ」
 それに、という呟きの直後。
 出来れば口にしたくない恥ずかしい言葉ではあるが、それでも、言わなければ伝わらない事だと、紅潮しかけた表情を隠すように、劔は視線を逸らす。
 何を言わんとしているのか察しが付いたらしく、夕霧は大きく溜息を吐くと、呆れた表情を浮かべた。
「気にしなくても良いわ。最初からそういう式だって覚悟は決めてたから」
 そういう式というのは、伏神家の膿を搾り出す為の決起の事だ。
 幾ら女性に疎い劔でも、神前式が女性にとって憧れの式である事は、流石に理解している。
 ただでさえ申し訳なく思っていたのだ、好意を知ってしまったのなら、尚更。
 式を紅く染める必要がないのならそれに越した事はない。
 この決起自体で式が破綻するのだが、それでも、いつかは式を開き直す事だって可能なのだ。
 劔はそっと、夕霧の体躯を抱き寄せる。
 柔らかな女体の感触は、力一杯抱き締めてしまえば壊れてしまいそうなほどに儚く感じられる。
 かつてはそれも含めて女性が苦手であったのだが、夕霧とだけは、幾度となくぶつかりあってきた為に、そうでない事は理解している。
 下手をすれば、もう二度と味わう事のないその感触。
 常人よりもやや体温の低い身体を抱き締めれば、不思議と、身体の深奥で疼く不快な熱も引いてくる。
「劔」
「俺は負けんさ。……俺にはこいつがある」
 視線の先にあるのは劔自身の右腕ではあるが、そこに宿るのは人間の力ではない。
 劔はかつて――そう、聡理を失った日。喪失感を埋めんとばかりに擦り寄ってきた竜を、無理矢理に押さえ込んで、己の力としていた。
 竜の名前を、劔は知らない。名乗った気もするが、単純に興味が無かった為に覚えていないのだ。
 流石に、竜の全てを解き放つ事は危険である為出来ないが、全身に薄らと、あるいは右腕限定で顕現させる事は、これまでの訓練で可能となっている。
 伏神家の膿は、流石に腐っても御意見番であり、実力が高い者も多い。
 それでも所詮は人間の身であり、元から劔は高い実力を備え、更に竜の力を帯びれば、負ける道理はない。
 それに……と、呟いた劔は視線を夕霧に戻し、手触りの良い銀髪を指先で梳き、撫でる。
「護るべき者を護る時の男ってのは、不思議と、誰にも負ける気がしないからな」
 そんな劔に対する夕霧の返事は、照れ隠しの脛蹴りであった。


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