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それは連鎖する物語Season2 ♯2

1912/2:2014/12/15(月) 20:09:09 ID:bBEsXoXg0
「彼」が去り、真に一人となったクロガネは依然として眼を閉じている。
比喩ではなく、瞼の裏に映し出される光景をただぼう、と眺めていた。
先日、伏神ソウジに渡した指輪から送られてくる彼の生体情報が、そこには所狭しと表示されている。
プライバシーを考慮して、映像・音声の類は送られてきてはいないが、彼の体内全てをリアルタイムでモニタリングしているので
少なくとも今どういう状態なのか、何をしているのかは完全に分かってしまう。
ソウジはこの事実を知らないのだ。
故に、クロガネはなんだか悪いことをしているような気分になるが、これもソウジの安全のためだと己に言い聞かせる。
これで彼が、いわゆる思春期の男性によくある「アレ」でもしていたら、その罪悪感も一入だったろうが、幸いにも今の所はそのような情報は送信されてきてはいない。
そういった類の現象に嫌悪感やいらぬ羞恥心を抱かないのだから、半分とはいえ機械の体というのは便利な物だ。
いつもは少々疎ましく感じることもあるが、今日ばかりは感謝しなければ。
網膜に映る情報は、ソウジが未だ深い眠りについていることを示している。
ジ・エンドも向かったことだし、今ばかりはいいだろうと、クロガネは瞼を開けた。
伏神山。腐っても霊地と呼ばれるだけの事はあり、青白い月光に照らされるそこは、どこか神聖な静謐が満ちている。
その光景を美しいと思えないのは、自分の半分が機械だからだ。
その様な言い訳は通用しないということを、彼女は知っていた。
機械人にも、芸術家はいる。詩人はいる。作家はいる。コメディアンだっている。
だからこの心の冷たさは、自分自身の問題なのだろう。
鈍く輝く己の腕を撫ぜると、指先のセンサーがその冷たく、つるりとした触感を生体脳に伝達する。
本当にそれが冷たいという感覚なのだろうか。
稼動年数10年。「調整」に要した時間を含めれば、生誕14年。自我が目覚めて以来抱いてきたその不安は、今尚褪せる事無く彼女の胸にあり続ける。
彼女はずっと、人間に憧れ続けてきた。
国際的な定義での「人間」ではない。生身の体と、感情などという非合理なタスクを保有する機・霊界以外全ての世界に存在する生物。
それになりたいと、ずっと、ずっと思い続けていた。
過去形だ。恐らくこの先ずっと、彼女の些細にして見果てぬ夢は、膨大な過去の底に埋もれたままだろう。
学園に編入し、自分と対策室員、研究者を除く人間に接したとき、彼女は悟った。
人であるのは、自分にはあまりにも荷が重過ぎると。
「普通」の人間に比べて、自分の心はあまりにも無味乾燥で、ズレていて、機械的だった。
何となく同じように振舞えるだけで、喜怒哀楽を理解できていない存在が名乗るには、人間というものはあまりにも重過ぎる。
こんな両腕では、支えきれないほどに。
「……仕事もせずに何をやっているんでしょう、私は」
クロガネは軽く息を吐くと、その思考をすぐに外へと追いやった。
いっそ完全な機械ならば、こんな感傷に浸る事もなくなるのだろうか。……いや、より一層人への渇望が強くなるだけだろう。
クロガネはまるで踊るような足取りで――結界をかわすためだ――その場を去る。
まぎれもない「人間」が一人、そこにはいたが、それに気付いているモノが果たして存在したろうか。
変わらぬ調子で鳴き続ける虫々の声が、真夏の夜空に音高く響いた。


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