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スコール
:2010/08/09(月) 22:40:01
「ゆめおちっ!」
「賢にぃ、私お風呂はいりたぃ。」
そう声をかけられたとき、俺は眠っていた。
9:00。楽しみにしていたバラエティ番組は野球の延長試合でお流れとなった。代わりに、と思ってつけたドラマは顔の良い俳優が幼稚園児にも劣る迷演を余すことなく見せつけてくれていた。前半、自分の夢のため海外へ飛び立とうとするヒロインを引き留めるため、主人公が放った「行けば、お前を……殺す……!」には腹を抱えて笑ってしまった。若葉にリモコンを投げつけられ、笑いは静寂へと変わる。痛い。
元々、そのドラマを見たかったらしく、若葉はバラエティ番組が見られないとわかると狂喜乱舞し、テレビ前最前列に座り込み、食い入るようにそれを見ていた。興味が無い俺はドラマよりも若葉の後ろ姿ばかり見ていた気がする。
この家に新たな家族、小野瀬 若葉(おのせわかば)が加わり、それほど長い時は経っていない。それでも色々なことがあった。新たに家族が増える、ということはどんな時だって困難なことだ。この世の中は情だけじゃ生きてはいけない。
そういうもの乗り越え、正式にこの家に住んでいい、と認められたとき若葉は泣いた。その頭を撫でながら、俺も頬を濡らした。彼女をこれ以上の悲しみに晒してはいけない。そう心に誓いながら……。
それから若葉は目に見えてわかるほど元気になった。よく笑い、よく遊び、遊び過ぎて怒られ、舌を出してはにかむ。捨て猫がいれば拾ってこなくても勝手に懐かれ、結局飼ってしまう。そんな女の子だった。心なしか肉付きもよくなったように思われる。俺はただ妹の成長に喜ぶばかりだ。
「ねぇ、賢にぃ、おっきしてよぉ。」
ソファにもたれかかり、完全に弛緩した状態でいつの間にか俺は眠っていた。その俺の隣に若葉が座る。声を掛けても反応の無い俺の肩に小さな手が乗せられ、起こす気がないのでは?とも思える加減で揺すられる。すでに目を覚ましてはいたが、目は開けない。代わりに唇を押し出してみる。王子様を起こすのは姫様のキスと相場は決まっているだろう。
だんだん揺さぶりが強くなっていく。
「ん、ん!んーー!!」
何故若葉は気づかないのだろう?坂井 柚菜(さかい ゆな)が居たら「キモい。土に還って」と蔑まれそうなほど唇を押し出しているのに。
「はぁ、はぁ」
揺さぶり疲れ若葉は俺にもたれかかるように抱きついてきた。まだあきらめていないのか、今度は体全体を使って揺すってくる。
「ねぇ、賢にぃ。おっきしてよぉ。一緒にお風呂入ろう?」
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