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ホラーテラー作品群保管庫

78なつのさんシリーズ「河童井戸」6:2014/06/08(日) 16:26:23 ID:BgaWrcjA0
そしてSの車で村を出る時、僕は初めて気づいた。村の入り口近くにある御堂、そこに並んでいた沢山のお地蔵さん。
通り過ぎる際にSがぽつりと言った。
「あれも、全部、水子地蔵だぜ」
その瞬間、粟立った。
怖い。ああ、怖い。
ユウレイよりも妖怪よりも、暗闇よりも、何よりも。
ヒトは、怖いのだ。
しんと静まり返った車内。響くのはSの欠伸の声だけ。Kまでもが何も喋らない。
「ワリー。……ジョークだ」
欠伸の後、Sがぽつりと言った。
「……」
聞こえていたけど、僕は反応しなかった。
「ジョークだよ」
さっきより強めに言われて、僕はようやく反応する。
「……、……は?」
「全部、ジョーク。冗談。ジョーダン。口から出まかせ」
意味が分からない。僕はSを見る。Sは僕にちらと視線をよこし、「くっく」とさも可笑しげに笑っている。
「すまん。あんな簡単に信じるとは思ってなかったんだ。
 井戸からバケツ引っ張り上げた時に、丁度いい形の石が出てきたもんで、つい調子にのってな。
 そしたら引き際が分かんなくなって、ワリー」
「え……、え、でっ、だ」
そんな馬鹿な。
「じょ、ジョークって。……河童とか、水子の話は!?」
「河童が、間引きされた子どもの暗喩だってのはある話だ。でもな、考えてみろ。
 村人が本当にそんなことをしたのなら何故、自分たちの罪、いや恥だな。恥をわざわざを暗喩して人に伝えようとする?」
「だ、誰でも分かるわけじゃあ無いし、後悔の気持ちがあったとか……」
「俺には分かったし、あの河童の話で、私たちは後悔してますと言われてもな……。
 まあ、そんな暗喩があることを当時の村人が知らず、本当に偶然語り継がれた話ってことも考えられるが。
 そうだとしても、だ。あの井戸に、子どもは埋まっていない」
「な、何で分かるのさ!」
「簡単だ。生活に困るからだ」
「は……?」
「山奥の農村で、井戸に頼るというところは少ない。他に色々水源はあるからな。
 それでも、あんなに深い井戸を掘らなくちゃいけなかったってことは、本当にあの井戸が必要だったからだ。
 そんな井戸に、ガキを放りこむ馬鹿は居ない。捨てる場所なら他に沢山ある」
「で、で、でも、あの水子地蔵は……」
「ありゃ嘘だ。あれはただの石。形も全然違うしな。村の入り口にあったのも、ありゃ只の地蔵だ」
「……井戸の水が」
「一度枯れてまた湧き出るなんてことは、ある」
「……」
僕はKに助けを求めようと、後部座席を見る。
Kは寝ていた。どうも静かすぎると思ったんだ。くそう、使えねえ奴め。
「Kには黙っとけ。もう少し静かにさせとこう」とSが言う。
僕は今一度放心状態に陥る。
騙された。騙されたのだ。これ以上ないくらい綺麗に、見事に。
けれども、僕は何だか地の底から救われた気分だった。
もちろん、この野郎と言う気持ちはある。むくむく沸いてきている。
でもそれ以上に心の底から思う。
冗談で良かった。
Sが冗談と言うのだから、きっとそうなのだ。
僕はそう思うことにした。
だから僕は、井戸の蓋が、どうして重い石造りだったのかも気にしないことにした。
だから僕は、Sの表情が、普段よりも優しげなことについて気にしないことにした。
だから僕は、ふと思い出した、あのバケツを差し出された時に見た、水と一緒に入っていた小さな歯のようなものについて、
Sに訊くのは止めておくことにした。
全部、ジョークだから。

「河童井戸」終わり


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