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ホラーテラー作品群保管庫

67なつのさんシリーズ「道連れ岬」3:2014/06/06(金) 12:28:54 ID:bXavpRb60
「やめろ」
Sの声は冷静だった。
「でもKが!」
「あれはKじゃない」
「……え?」
Sの言葉に、僕は崖の先端に立ちこちらに背を向けている人物を見つめた。
今は後姿だが、あれはどう見たってKだ。先まで一緒にいたKだ。
「今は何時だ?」
Sが僕に向かって言う。その額にも脂汗が浮かんでいた。
「答えろ。今は何時だ?」
Sは真剣な表情だった。僕はわけが分からなかったが、自分の腕時計を見て「……十一時、四十分」と言った。
「だろう。だったら、あれはKじゃない」
僕はSが何を言っているのか分からず、かといって僕の肩をつかむSの腕を振りほどくこともできず、
ただ、目の前のKらしき人間を凝視する。
あれはKじゃない? 
じゃあ、誰だというのだ?
時間がどうした?
あいつがKだと思ったから伸ばした僕の腕。開いていた掌。
迷いと混乱と疑心によって、僕はいったん腕を下ろした。
その時、目の前のそいつが振り向いた。首だけで、180度ぐるりと。
そいつは笑っていた。顔の中で頬だけが歪んだ気持ち悪い笑み。Kの顔で。
その笑みで僕も分かった。あれはKじゃない。
そいつは僕とSに気持ち悪い笑みを見せると、そのまま首だけ振り向いたままの姿勢で……飛んだ。
「あ、」
僕は思わず口に出していた。
頬だけで笑いながら、そいつはあっという間に僕らの視界から消えた。
何かが水面に落ちる音はしなかった。
「……飛んだ」
僕はしばらく唖然としていた。口も開きっぱなしだったと思う。
突っ立ったままの僕の横を抜けて、Sが数十メートル下の海を覗き込んだ。
「何もいねえな。浮かんでもこない」
僕は何も返せない。Sはそんな僕の横をまた通り過ぎて。
「おい、いくぞ。……Kは大丈夫だ」
そう言ってガードレールを跨ぎ、車を停めた休憩所への下り坂を早足で降り始めた。
僕もそこでようやく我に帰り、崖の下を覗くかSについていくか迷った挙句、急いでSの後を追った。
「S、S!警察は?」
「まだいい」
Sは休憩箇所まで降りると、車を通り過ぎ、迷うことなく男子トイレに入った。僕も続く。
トイレに入った瞬間、僕ははっとする。
洗面所の鏡の前で、Kがうつ伏せで倒れていた。
急いで駆け寄る。Kはぐうぐう眠っていた。気絶していたと言ってあげた方がKは喜ぶだろうが。
僕はKがそこにいることがまだ信じられないでいた。
例えKじゃなくても、ついさっきKの形をしたものが確かに崖から飛んだのだ。
「おいこらK」
Sが屈み込み、寝ているKの右側頭部を軽くノックする。三度目でKは目覚めた。
「いて、何。ん……、ってか、うおっ!?ここどこだ!」
Kだ。まぎれもなく、これはKだ。僕は確信する。
急に、どっと安堵の気持ちが押し寄せてきて、僕は上半身だけ起こしたKの背中を一発蹴った。
「いってっ!え、何?俺か?俺が何かした?」
何かしたも何も、僕はKに何と説明したら良いものか考えて、結局そのまま言うことにした。
「Kが、……いや。Kにそっくりなやつが、僕らの目の前で崖から飛んだんだ」
Kは目をパチパチさせ。
「はあ?……うそっ!?マジかよ俺死んだの!?やっべ、すっげー見たかったのにその場面!」
Kだ。こいつはまぎれもなくK過ぎるほどKだ。あきれて笑いが出るほどだった。
「おい、お前ら。帰るぞ」
Sが言った。
「ええ?そんな面白いことあったんだったらまだ居ようぜ。俺だけ見てないの損じゃん!」
「うるせー。二十分は経った。俺は帰る。俺の車で帰るか、ここに残るかはお前ら次第だ」
そう言ってSはトイレから出て行こうとした。
けれど何か思い出したように立ち止まり、「ああ、そうだ。忘れてた」と独り言のように呟くと、
つかつかと洗面台の前に戻ってきた。
「ビシッ」
深夜のトイレ内に異様な音が響いた。
Sが手にしていたペットボトル。Sはその底を持ち、一番硬い蓋の部分を、まっすぐ洗面所の鏡に叩きつけたのだ。
蜘蛛の巣状に白い亀裂の入った鏡は、もう誰の顔も正常に写すことはない。
僕とKは石のように固まっていた。
Sは平然とした顔で鏡からペットボトルを離すと、僕ら二人に向かってもう一度「ほら、帰るぞ」と言った。
僕とKは黙って顔を見合わせ、Sの命令に従って、急いでトイレを出て車に乗り込んだ。


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