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ホラーテラー作品群保管庫

212くらげシリーズ「蛙毒 後日談」:2014/07/12(土) 16:23:03 ID:7TU1mP.c0
あのペットボトルの家で老人の遺体が発見されたと知ったのは、それからまた幾日か過ぎた日のことだ。
道に蛙の入ったペットボトルが散乱し、片付けもしないのかと、文句を言いに来た近所の人間が死体を発見したのだという。
私はそれを、あの駄菓子屋の目の細いおばさんから聞いた。
その日は、私は友達数人と普通に海に遊びに来ていた。おばさんは私を覚えていたようだ。
「自由研究は進んだかえ?」との問いにはもちろん、「バッチリです」と答えておいた。
「また見に来たのかねぇ。でも、あの家はもう無いよ」とおばさんは言った。
老人の死因は、熱中症と脱水症状による衰弱死だった。
何でも、部屋の中で転んだ拍子に足の骨を折ってしまい、
動くことも出来ず、助けを呼ぶことも出来ず、そのまま死んでいったのだそうだ。
出かけようとしていたのか、部屋は全て窓を閉めた状態だった。
そのせいで熱が中に篭り、発見されたとき室内はサウナのようだったという。
近所の人間が老人の死に気付いたのは、『匂い』がきっかけだった。死臭。人が腐ったときの匂い。
「……その人は、いつ頃、死んだんですか?」
尋ねる声が少し震えた。それは演技でもなんでもない。
老人が死んだのは、私とくらげがあの家を訪問した前日のことだった。私が戸を叩いたとき、家主は家の中にいた。
部屋から出ることも出来ず、助けも呼べず、じわじわと身を焼く暑さの中、死を待つしかない。
その状況はまるで、ペットボトルに閉じ込められた蛙と同じだ。
「戸を開けた瞬間、すごい匂いがぶわっと湧いてきたそうでねぇ。
 立ち会った内の何人かは、そんで体を壊して、今でもうなされて、起き上がれないんよ。
 ……嫌やねぇ、死んでまで人様に迷惑かけて」
私は思う。
その発見者が戸を開けたとき湧き出してきたのは、本当に匂いだけだったのか。
生き物を閉じ込めて殺すことで生ずる呪い。
老人が最後に想った感情が恨みであったとすれば、扉が開かれた瞬間、その恨みはどこへ行ったのだろうか。

駄菓子屋を出た後、私は友人たちと一旦分かれ、一人であの家へと向かった。
歩いていくと少しだけ時間が掛かった。
日数が経っているからか、事件現場だと示すようなものは何も残っておらず、
塀の上に置かれていたはずのペットボトルも全て無くなっている。
門を開き、私は庭へと入った。
コオロギの水槽はそのままだった。
もう全部死んでいるだろうと思ったが、驚いたことに、まだ生き永らえている個体が居た。
餌もないのにどうやって生きているのだろう。
玄関の前に立ち、家を見上げる。
なんということはない。ただの古民家だ。嫌な予感も、匂いも、何も無い。
私は玄関の戸に手をかけ、開こうとした。
しかし、扉は動かなかった。鍵が掛かっている。
私はしばらくその場に立ち尽くしていた。
あの日もこうやって、ちゃんと鍵が掛かっていたのだろうか。
私が扉を開けていたらどうなっていたのか。
くらげにはあの時、何かが見えていたのではないか。
しばらく考えてから、それらがいくら考えても答えの出ない疑問であることに気付く。
そして私は空を見上げた。
青々とした空からは、答えも、雨も、何も降っては来なかった。

終わり


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