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ホラーテラー作品群保管庫

210くらげシリーズ「蛙毒 下」3:2014/07/12(土) 16:20:38 ID:7TU1mP.c0
二件隣の『O』と表札の出ている家を通り過ぎ、いくつか松林を潜り抜け、セミの鳴き声に背中を押されながら、
駄菓子屋のおばさんに聞いた道を進む。
Oが言った通り、集落の外れ。目の前に小さな墓地を臨む、古ぼけた平屋の民家。
そこが目的の家だということは一目で分かった。
大して高くない塀の上に、ペットボトルがずらりと並べて置かれてある。
Oが言った百個は言い過ぎにしても、数十個は確かにありそうだった。
陽に焼かれ黒く変色した蛙の死骸が入ったペットボトル。いくつかは道に落ちてしまっている。
見たところ、生きている蛙はいなかった。

セミの声に混じって、遠くで浜辺に打ち寄せる波の音が聞こえた。辺りは静かで人の気配は無い。
私とくらげは自転車を降りて、塀の傍に近寄った。
近くで見ると、ペットボトルの表面には、それぞれ小さく文字が書かれてあることが分かる。どれも人の苗字だ。
駄菓子屋で聞いた話を思い出す。蛙の死骸が入ったペットボトルを家の前に置いていく老人。
それがもし、単なる嫌がらせ目的ではなかったとしたら。
もう随分と学校に来ていないOは、自分の部屋から出てこず、おかしくなってしまったのだと噂されている。
呪い。
塀に沿って歩く。庭へと繋がる門は、無用心にも少しだけ開いていた。
いくらか躊躇った後、私は門の中に足を踏み入れた。
「見るだけじゃなかったの?」
後ろからくらげの声。
「……庭を見るだけだ」
手入れをしていないのか、庭のいたるところで雑草が背を伸ばしている。
家の窓は全て閉められ、カーテンが引かれているため中の様子は伺えない。
庭の隅にはこれまた今にも壊れそうな納屋があり、鍬が一本立てかけてあった。
納屋とは逆方向の隅の方で私は何かを見つけた。
それは水槽だった。蓋がしてあり、中で小さな何かが蠢いている。
コオロギだ。水槽の中には、底を埋め尽くすほどのコオロギが居た。
その大半は動かず、死んでいるようにも見えたが、中には生きて動いているものも居る。
何にせよ、虫嫌いが見たら卒倒しそうな光景だ。
果たしてこれは、蛙の餌だろうか。
私は想像する。
餌がここにあるということは、このペットボトルの中の干からびた蛙たちは、元々ここで飼われていたのかも知れない。
だとすれば、飲み口と蛙の大きさが合わない疑問も解ける。
卵か、もしくはまだ幼体の蛙をペットボトルの中に入れ、大きくなるまで飼育する。
そうしてある程度大きくなったところで、陽の光を浴びさせ焼き殺す。透明な壁に阻まれ蛙は逃げることもできない。
おそらく、このペットボトルに書かれた苗字は集落の人間のものだろう。
Oが学校に持ってきたペットボトルには、Oの苗字が書かれていた。だからこそ彼も特別興味を示して拾ってきた。
そして、彼は蛙を殺した上に、その蓋を開けてしまった。


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