したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | メール | |

ホラーテラー作品群保管庫

202くらげシリーズ「緑北向きの墓」2:2014/07/12(土) 16:13:14 ID:7TU1mP.c0
一時間ほど駆けずり回っただろうか。
もし私の母親が見ていたら、『自分の部屋の掃除もこれくらい真剣にしてくれればねぇ……』などと愚痴ってそうだ。
頑張った甲斐もあり、墓の周辺は随分綺麗になっていた。
その間、くらげは一度家に戻っており、ペットボトルのジュースやら水やら饅頭やらを家から持ってきていた。
「おつかれ様」
「おー、サンキュ」
一番上の段の草むらの上に腰を下ろし、くらげからジュースを一本と饅頭をひとつ貰う。
周りの木々が微かな風になびいてさわさわと音を立てた。
私の周りを、濃い緑の匂いと共に、何やらよく分からない小さな虫が飛び回っている。
ジュースを飲み、栗饅頭をかじりながら、私は今しがた自分が掃除した墓を見下ろした。
先程感じた違和感は消えてはいなかった。どころかそれは、墓が綺麗になったことで逆に強まっていた。
何ともいえない、『何かが違う』という感覚。
いくら考えてもその正体は見えず、私は隣に座るくらげに尋ねてみた。
「なあ、くらげさ。……気ぃ悪くしたらごめんだけど」
「何?」
「ここのお墓ってさ、なんか変じゃないか。上手くはいえないけど、どこかおかしいっていうか……」
「ああ、うん」
私は彼を見やる。その表情は何ら変わらず、いつもの彼のものだった。
「全部、おばあちゃんに聞いた話だけど……」とくらげは言った。
「この辺りにはね。昔から、人は死ぬと、その魂は海に還るって言い伝えがあるんだ」
街から現在私たちがいる山を一つ越えれば、その先には太平洋が広がっている。
街の人間にとって、海は昔から身近な存在だった。
「だから魂がちゃんと海に還れるように、この辺りのお墓はみんな、南を向いてる」
そこで私はようやく、違和感の正体にも気がついた。
確かにそうだった。私が今まで見てきた墓は、全部名が彫られた面を南向きにして建てられていた。
しかし、ここの墓は名前のある面が北に向いている。還るべき筈の海に背を向けているのだ。
おそらく無意識のうちに、『墓は南を向いている』という固定観念が私の中に出来ていたのだろう。
だから、初めて北を向いている墓を見て違和感を感じた。
「……村八分って言葉があるでしょ?」
くらげは淡々と話を続ける。
「あれって、死んだ後のことと、火事とか水害とか災害の時は助け合う、っていうのが二分で、
 あとの八分は一切のけ者にする。それが、村八分の意味らしいんだけど。
 ……僕らの家は、八分じゃなくて、村九分にされてたんだ。
 ……だから、お墓も逆向きに建てさせられた。死んだ後も、同じ場所にはいけないように」
私は何も言えなかった。彼はペットボトルのジュースをゆっくり口に含むと、ふう、と一息ついた。
彼の家が疎外されていた理由。それは、彼や彼の祖母が『見えるヒト』であることと、何か関係があるのだろうか。
「……でも、そんなことがあったのはずっと昔のことだから。
 今は、ご先祖様が皆あっち向いてるから、合わせなきゃいけない、っていう理由らしいけど」
そこまで言うと、くらげは饅頭と一緒に持ってきた袋と松葉杖を持って立ち上がった。
そして、一番端にある墓の前にしゃがみこむ。
袋に入っていたのは水と米だった。墓の上から水を掛け、米を供え手を合わせ、瞑想する。
それが終われば、隣の墓に移る。上の段から順々に。
しばらくその様子をぼんやり眺めていたが、はっとした私は、慌てて彼の後についてお参りをする。
そうして、一段目、二段目と供養を続け、一番下の段まで来た。
「これは、ひいおじいちゃん」
水を掛けながら、くらげが呟いた。
「……これは、ひいおばあちゃん」
次々と、その名前を呼びながら手を合わせてゆく。
「これが、おじいちゃん……」
くらげの祖父の墓。今まで一番長く手を合わせていた。
私はくらげの祖父に会ったことが無い。
けれども以前、彼の家で夕食をご馳走になったときのことだ。
死んだはずの祖父の席には料理と酒が置かれ、祖母は誰もいない空間に向かって嬉しそうに話しかけていた。
もちろん、私には祖父の姿は見えず、まるでパントマイムを見ているかのようだった。
くらげにも祖父の姿は見えないらしい。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板