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ホラーテラー作品群保管庫

199くらげシリーズ「緑ヶ淵」3:2014/07/09(水) 09:29:08 ID:qlht/3vE0
何投目か。
しばらくして、あまりにもアタリが無いので上げてみると、針に刺さっている部分は残して餌の半分だけ食べられていた。
魚が居ないわけではないらしい。
「……いてっ」
新しい餌に換えようとして、針が人差し指に刺さった。
思ったよりも血が出ていたが、面倒くさいのでそのまま餌をつけて、再び竿を振る。
絆創膏も無いので、一度指を舐めて、あとは放っておく。
隣のくらげが、眠たげな目で私の指をじっと見つめている。
「何?」と訊くと、彼は餌の虫が入ったケースに目を落として、「……何でも無い」と言った。
おかしな奴だなと思う。
その時だった。竿が下に引っ張られた。合わせる暇も無いほど、それは一瞬の出来事だった。
もしも咄嗟にくらげが服を掴んでくれなかったら、私は川に落ちていたかもしれない。それほど突然で、強いアタリだった。
ギチ、と竿が悲鳴を上げる。
くらげも危ないと思ったのか、私の服を掴んだ手を離そうとはしなかった。
本当に巨大ナマズでもかかったのだろうか。
踏ん張りながら、糸の先にいる生き物が何なのか私は考える。
これほど強い引きの川魚とは出会ったことが無い。
しかもそいつは前後左右に暴れることを一切せず、ただ下へ、下へと引っ張っている。
まるで私を川へ引き込もうとするかのように。
これでは、釣りではなく綱引きだ。
その不自然な引きに、一瞬背筋が震えた。
けれども、竿から手を離すことはしなかった。この先に何が喰らいついているのか知りたいと思った。
しかし、結末はあっけなく訪れた。糸が切れたのだ。
引き込まれないよう力をこめていた私は、その瞬間後ろに尻餅をつく。
糸の先にはウキだけが残り、あとの仕掛けは全部持っていかれてしまっていた。
「大丈夫?」
くらげの問いに、私はひっくり返った体制のまま頷く。
ゆっくりと身体を起こして、半ば呆然としながら千切れた糸の先を見やる。
最初は本当に人喰いナマズでも掛かったのかと思った。けれども私の直感は、あれは魚ではないと告げていた。
じゃあ何なのかと問われると、答えようが無いのだが。
「……釣れなくて、良かったのかもね」
川のほうを見ながら、くらげがぽつりと呟いた。
再び覗き込むと、緑ヶ淵はまるで何事も無かったかのように静かに佇んでいた。


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