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ホラーテラー作品群保管庫
172
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くらげシリーズ「五つ角」1
:2014/06/26(木) 16:18:53 ID:TrdgkZJA0
梅雨時になると、たまに思い出すことがある。今から十年程前の話だ。当時、私は中学一年生だった。
四方を山に囲まれた盆地に、私の住んでいた街はあった。
といっても標高はそれほど高くもなく、南側の山一つ越えれば太平洋を見ることができる。
コンクリートで固められた一本の川が街を南北に等分していて、その北側の住宅街に私と家族の家はあった。
対して南側の住宅街。その片隅に『五つ角』と呼ばれる場所があった。
そこは、一見すれば単なる十字路である。
では何故四つ角ではなく五つ角なのかというと、
二本の道が交錯する丁度中心に一メートル程の大きなマンホールがあり、それが五つ目の角だというのだ。
五つ角という名は正式な名称では無い。誰が名付けたのかは知らないが、もちろんそう呼ばれるには理由があった。
『雨の日の夕刻、五つ角のマンホールに近づいてはいけない』
街では有名な都市伝説だった。
何でも、男の幽霊が手招きしていて、
近づいてきた者をマンホールの中、つまり五つ目の角の奥へと引きずり込むのだそうだ。
世の都市伝説に洩れず、えらく恐ろしげでたっぷり胡散臭く、それでいていたく子供心をくすぐる噂話だった。
私と同じクラスに『くらげ』というあだ名の人物がいた。
私がオカルトに興味を持つきっかけになったのが、彼だと言ってもいい。
彼はいわゆる、『自称、見えるヒト』だった。
何でも幼少の頃、自宅の風呂に何匹ものくらげがプカプカ浮いているのを見たその日から、
彼は常人では決して見ることのできないモノを見るようになったのだとか。
当然、最初はなんじゃそりゃと思っていたが、彼と一緒に居るうちに、私はその話を信じるようになっていった。
「僕は病気だからだね」と彼はよく言っていた。病気という言葉には何かしらの説得力があった。
ちなみに、私は当時、どちらかというと科学っコだったのだが、だからこそ彼の存在は面白かった。
「五つ角の幽霊の真相を暴きに行かないか?」
六月半ばを過ぎた、ある雨の日のことだった。
HRが終わり下校の時間。私は帰ろうとしていたくらげにそう切り出した。ちなみに、二人共帰宅部だった。
くらげは私を見て、窓の向こうの雨空を見て、少しだけ面倒くさそうな顔をした。
彼はあまり積極的なノリのいいタイプでは無かった。普段も一人ぼんやりしていることが多く、表情も乏しい。
その点でも、海に漂うくらげのような人物だった。
「いいよ。って言うまで、帰らしてくれないんでしょ」
外を見つめたまま彼は言った。
私は肯定の意味でにっと笑って見せた。
くらげとは小学六年からの付き合いだが、お互いのことはもう大体分かっている。
一端荷物を置きに自宅に帰り、制服のまま傘だけ持って家を出た。
集合場所は、街を北と南を分ける仏と名のつく川に架かった、地蔵と名のつく赤い橋。
くらげは南側の山の方に住んでいた。
五つ角も南の住宅街にあるのだから、くらげが橋まで来る必要はなかったのだが、
私たちが一緒に行動する時、待ち合わせはいつもここだった。
私が行くと、くらげは先に橋で待っていた。彼は私服に着替えていた。
連日の雨で川の水は茶色く濁り増水していた。
「くらげは、五つ角の幽霊、見たことあったりする?」
「あるけど」
私が尋ねると、くらげは平然と答えた。
彼が見たことがあるということは、少なくともガセではなく、男の霊は存在するということだ。
私たちは並んで、目的の五つ角に向かって歩きだしていた。
「どんなんだった?」
「人だった。手招きしてた」
「それは知ってる」と私が言うと、「後は分からないよ。近くで見たわけじゃないから」とのこと。
「それなら、普通の人間かも知れないじゃないか」
疑問を口にすると、くらげは『それは違う』と首を横に振った。
「水死体って、見たことある?」
今度は私が首を横に振る番だった。実際に見たことは無いが、水難事故で死んだ人間がどうなるか、その知識はあった。
「そんな感じだった」
くらげはそう言った後、軽く欠伸をした。
私はぶくぶくに膨れた人間が手招きしている姿を想像して、唾を呑みこんだ。
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