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ホラーテラー作品群保管庫

1632なつのさんシリーズ「蛍」3:2014/06/16(月) 22:46:03 ID:mn6OmNt.0
「……つまり、大量発生するその光は、ホタルじゃないかもしれない、ってこと?」
「おうおうおう!何だ、察しがいいじゃねーか。……
 ま、普通に異常発生したヘイケボタルっつう可能性の方が高ぇだろうけどよ」
「蛍じゃなかったら、なんなのさ」
「シラネーよ。見たことねえし。でもまあ強いていやぁ、そうだな。……鬼火とか、人魂とか、怪火の類?」
「……今年も見れると思ってるんじゃない?」
「シラネーシラネー」
そう言ってKは「うはは」と笑った。
またオカルト絡みか。今日はただ蛍を見に来ただけだと思っていたのに。
蓋を開けてみれば、やっぱりKはKだったということなのだろうか。
その時、今までずっと沈黙を守っていたSが、ふと口を開いた。
「出てきたぞ」
その言葉に、僕はハッとして川の方を見やった。
何も見えない。じっと目を凝らす。
ちらと、青い火の粉のような何かが視界の隅に映った。それを区切りに、河原に無数の青白い光が浮かび上がる。
突然、辺りがさらに暗くなった。KかSのどちらかが、テント前のガスランタンの光を消したからだろう。
おかげで目の前の光がよりはっきりと見えるようになった。
光は明滅していた。それも飛び交う全ての光が同じタイミングで消えては光る。
それはまるで、無数の光全体が一つの生き物のように思えた。
時間の経過とともに、光は更に数を増していった。河原を覆い尽くすかのように、僕らの周りにも。
思考も感覚もどこかへ行ってしまい、目だけがその光を追っていた。
度の強いウィスキーのせいで幻覚を見ているんじゃないかと疑う。それほど幻想的な光景だった。
雲に隠れた星がここまで降りてきたかのような、そんな錯覚さえ抱く。
「もの思へば、沢の蛍もわが身より、あくがれ出づる、魂かとぞ見る……」
ふと、我に返る。Sの声だった。
「……何それ?」と僕が訊くと、「和泉式部」とSは言った。
「誰それ」とさらに尋ねると、溜息が返って来た。
「お前、文系だろうが」

それから数時間もの間。僕らはただ、目の前の星空を眺め続けた。飽きるという言葉すら浮かばなかった。
時間はあっという間に過ぎた。
その内に少しずつ数が減ってきて、時刻が夜十時を過ぎた頃、光は完全に沈黙した。
Kがいったん消した焚き火を組み直し、火をつける。
つい先ほど見ていた光とはまた別の火の光。ぱちぱちと薪が燃えて弾ける音がする。
「昔の人は、人間に魂があるとすれば、それは火の光や蛍の光のようなものだと考えたんだが……。
 今のを見れば、まあ分からなくもないな」
手の中で空の紙コップを弄びながら、Sがぽつりと言った。
あの数は大量発生と言えるのだろうか。だとすれば、今年も誰かが川で溺れて亡くなったのだろうか。
感動と共に、僅かな疑問が頭をよぎる。
「……あ、そう言えばKって、虫取り網持ってきてたよね。使わんかったん?」と僕はKに尋ねる。
おそらくは、あの光が人魂か虫かを確かめるためには、捕まえるのが一番手っ取り早いということで持ってきたのだろう。
「ああ、忘れてたな……。ま、いいや。ありゃ人魂とかじゃねえよ。蛍だ。集団同期明滅してたし」
蛍だった、とKは言いきった。
「ああ、あの同時に消えたり光ったりしてたやつ?」
「そ。ありゃ蛍の習性だからな。ああやって、同時に光ることで雄と雌を見分けてんだよ」
「ふーん」
「……あーあ、でも俺ぁてっきり、今までに死んだ水死者の魂が、飛び交ってんだと思ってたんだけどなあ」
ただ、そういうKの顔に落胆の色はなかった。あれだけのものを見たのだ。満足しない方がおかしい。
僕たちはそれから焚き火を囲んで少し話をして、三人でウィスキーを二本ともう半分開けてから、寝ることにした。
興奮はしてたものの相当酔っていたので、熱帯夜にもかかわらず、すぐに眠りにつくことが出来た。


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