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ホラーテラー作品群保管庫

154なつのさんシリーズ「ノック 中」3:2014/06/16(月) 21:54:30 ID:mn6OmNt.0
戸の無くなった玄関から家の中を覗く。すぐそこは、四畳半ほどの板の間だった。
一本の紐を渦巻状に敷き詰めたような丸いカーペットが、無造作に敷かれている。
正面と左右にそれぞれ戸があり、各部屋へと繋がっているのだろう。
「とっとと行って来い。人が来ないか見ててやるからよ」
Sの声に背中を押される形で、僕はその一歩を踏み出した。
「おじゃましまーす……」
玄関で靴を脱ぎ、僕は一人中に入る。
玄関の方からしか陽の光が届いていないせいか、意外と薄暗い。埃が舞っているらしく、鼻孔が少しムズムズした。
しばらくじっと耳を済ます。けれども何も聞こえてこなかった。あのノックの音もない。
何故だろう。自分で探せといいたいのだろうか。
ふと、家の西側の部屋が、誘拐事件の際に子供たちの監禁に使われた部屋だということを思い出す。
昨日鍵の有無と共に確認した事柄だ。
内側から窓を塗り固めた部屋。そこへ行こうと僕は左手の戸を開いた。
まっすぐな廊下が伸びてあって、三つほど扉がある。
手前のドアから順に開けて確かめていく。物置。次いで客間だろうか、空の部屋。
そうして残ったのは、一番奥の部屋。ドアノブに手をかけ、ゆっくりと開ける。
一瞬、ドアの隙間から暗闇が飛び出してきたような錯覚を覚えた。
暗い。辛うじて、開いたドアから差しこむ光が、室内を僅かに照らしている。
誘拐された子供たちは、ここで監禁生活のほとんどをすごしたのだ。
部屋の中、ドア近くの壁に、明かりのスイッチらしきものがあったので押してみる。
途端に温かみのある柔らかな光が室内に満ち、見えなかった部屋の様子が照らし出された。
どうやら、電気は未だ送られているようだ。
そうして僕はハッとする。電気をつけてしまって良かったんだろうか。まあしかし、やってしまったものは仕方が無い。
部屋の入り口から見て、左手には大きなベッドと、
天井に届くかという程の高さで、マンガ本や図鑑などがびっしり収まっている本棚。
右奥にはいくつかのゲーム機器が並ぶ納棚があり、
その上に、当時としては最新型だっただろう薄型テレビが置かれている。
壁の方を見やると、クレヨンだろうか、全身真っ黒な人間を書いた落書きがあった。
子供が書いたものじゃないかと推測する。
その落書きの上、窓があると思われる部分が、周りの壁と同じ色の薄い板で覆われていた。
窓がないという一点を除けば、ここで過ごすのに不便など何も無い、快適な子供部屋と言えた。
天井には、電球に白い傘を被せただけの簡素な照明がぶら下がっている。
「白熱灯だな」
いきなり背後から声。
比喩でなく心臓が弾け飛び散るかと思った。
振り向くと、いつの間にかSが背後に立っていて、僕の肩越しに室内を覗きこんでいた。
「あー、びっくりした……足音くらいたててよ」
「勝手に入った見も知らぬ人の家でか?馬鹿言うなよお前」
まるで正しいことのように聞こえるけれど、それはどうなのだろう。
「……見張ってるんじゃなかったん?」
「飽きたんだよ。……それにKの話をよくよく思い出してみりゃ、気になることがいくつかあったしな」
入口付近に立っていた僕の肩をちょいと押し脇にどけると、Sは室内の丁度真ん中でぐるりと周囲を見回した。
「お前は、どう思う?」
突然のSの質問に僕は「え、何が?」としか返せなかった。
「何がも何も、この部屋だ。気にならないか?」
言いながらSはおもむろに、ベッドの下から何か箱を引き出してくる。
「失礼」と言ってSが箱のフタを開けると、中には様々な種類の玩具が詰め込まれてあった。
「あれもこれも、小さな子供の身分にしちゃ、少し贅沢過ぎるんじゃないか?
 まあ、一人っ子なんて大体こんなものかも知れんが。やっぱり、ちと過保護の気があるな」
Sが何を言いたいのか分からない。まさか、自分の子供時代と比較して拗ねているのだろうか。
「誘拐してきた子供のために買いそろえたんじゃない?」と僕が言うと、Sは首を振った。
「全部じゃないかも知れんが、名前が書いてある。●●ってな。ここの子供の愛称だったか」
玩具箱を覗きこむと確かに、一つ一つの玩具に『●●のもの』 と書かれたシールが貼られている。
「ここで数人、Kが言うには四,五人だったか、の子供たちが、何日間か監禁されたんだったな」
玩具箱のフタを閉め、元通りにベッドの下に戻しながらSが言った。
確かにその通りなんだろうと僕は頷く。


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