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ホラーテラー作品群保管庫

138なつのさんシリーズ「UFOと女の子 冬」4:2014/06/14(土) 20:41:23 ID:Hpd3syqU0
「あの子の父親は、このデパートで働いていたんですよ」
「え?」
「あ、いえ。と言っても私はあまり関わりも無かったんですが。傍から見ても、仲の良い親子だったんですよ。
 お父さんの方は朝から夕方までここで働いて、夜はまた別の仕事があったそうですが、
 あの子は、いつもお父さんのことを待っていてね。
 二人、下で夕飯の材料を買って帰るんです、いつも。
 料理はあの子がしてたそうですよ。何でも、母親が病気だったそうで」
「病気……」
「ええ。病名は忘れましたが、大分特殊な病気だったそうで」
『私のお母さんが宇宙人で。だから、私も宇宙人なの』
ふと、彼女が言った言葉を思い出した。けれども、それについては何も分からない。
彼女は自分のことに関しては、ほとんど何も話さなかった。
「もしかして、今、その父親の方は……ここに?」
「いえいえ。あの事件があった後、すぐに辞めましたよ。彼の気持ちを考えたら、とても居られないでしょう」
「そうですね。……あの、有難うございます。何だか色々と教えてもらって」
「いえいえ」
店員にお礼をして、五十円分ずつ別の袋に分けてもらった菓子を持って、僕は駄菓子屋を出ようとした。
けれど、ふと思い出して振り返る。
「あの、最後に。屋上に折り紙の花が置いてあったんですが。あれって……」
「ああ、それは多分。清掃の人が置いたものでしょう。中沢さんじゃないかな。
 ああ、大層恰幅の良いおばちゃんなんですけどね。はは。あの人も私と同じくらい長いですから」
「あの花って、確か」
「ええ。スミレですね」
礼を言って、僕は店を出た。
友人は二人とも百円ショップの前で退屈そうに商品を見ていた。
Kは僕の姿を見つけた途端、「おっせーよ」と言った。
「用は済んだのか?」とS。
僕は、まだ、と首を横に振る。
「先に食べといて。一階にフードコーナーがあるはずだから」
「なになに、なんなのさっきからお前。変だぞ。なんかあったんか?それとも何か隠しててていてて痛いSイタイ」
たぶん一番状況を理解していないKが、Sに首根っこを掴まれて引きずられて行く。
僕は片手を上げ、無言でゴメンと二人に謝ってから、また四階からさらに上へのぼる階段へと向かった。
歩きながら思う。
僕は本当は全部分かっていたんだ。自宅であのニュースを見た時に。もう女の子には会えないということを。
けれども僕の頭は、それをどうしても否定したかったようだ。
高熱は出たけれど、もしかしたらそのおかげかもしれない。僕は事故の存在と彼女の名前を忘れることに成功した。
あの子はまだ生きていると、自分に思いこませるために。
彼女に会いたいがために。
僕は目を細めた。
屋上へと続く階段に、さっきまでとは違う大量の光が降り注いでいた。透明な冬の光ではなく、色のついた夏の光だ。
所々塗装がはげていた階段も、いつの間にか白く綺麗になっていた。
十年前に見た光景だった。何も変わらない。そうして今、僕はあの時と同じように百円分のお菓子を持っている。
戸惑いながらも一歩ずつ階段を上る。上りながらSが言った言葉を思い出す。
記憶は簡単に曲げられる。
だったら、一秒前の記憶はどうなのだろう?ゼロコンマ一秒前の記憶は?ゼロコンマゼロ一秒前なら?
意識と言うモノが記憶の集合体ならば、僕が今見ている景色はそういうモノではないだろうか。
そう強引に納得して歩を進めた。
光が段々強くなってくる。どこからか夏の匂いがした。子供たちの声が聞こえた。
たまらなくなって、気がつくと僕は走り出していた。階段を駆け上がる。


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