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ホラーテラー作品群保管庫

127なつのさんシリーズ「言伝」2:2014/06/14(土) 20:33:19 ID:Hpd3syqU0
僕は目をそむける。腹の下から何か熱をもったものがせり上がってきていた。冷静にならなければ、と自分に言い聞かせる。
そこで初めて、僕は男が倒れていた位置から少し離れた場所、道路についたタイヤの跡に気がついた。
等間隔で二本の黒い線が、不自然に弧を描いている。
二輪ではなく、四輪車が慌てて急ブレーキを踏みハンドルを切った様な跡。
僕はもう一度周りを見回した。車の気配は無い。
ひき逃げ。そんな言葉が頭をよぎった。
びい、と何か布の裂ける様な音。
振り向くと、Sが男の胸の上に両手を置き、心臓マッサージを始めていた。
男の口には中ほどまで裂かれたハンカチが乗ってある。救命措置。Sは呼吸も脈も無いと言っていた。
事故に遭ってから僕らが来るまでに、どれくらいの時間があったのだろう。
何度か心臓マッサージをした後、Sが男の鼻をつまみ、顎を持ち上げ人工呼吸をする。そうして、また心臓マッサージ。
それを繰り返す。
「救急車も警察も、あと十分くらいでこっち来るってよ」
電話を終えたらしいKが戻って来る。Sは振り向かず「そうか」と一言。救命処置を続ける。
僕はKに向かって、「……ひき逃げかな」と道路に着いたタイヤ痕を指差す。
Kは目を凝らしてそれを見てから、「マジかよ」と小さく呟いた。

「おい、どっちでもいい、救命講習受けたことあるか」
しばらくしてSがマッサージを続けながら尋ねる。
確か車の免許を取る時に受けたはずだ。三十回心臓マッサージをした後に人工呼吸だったか。
いや、それよりまず気道確保だ。
「できるぞ」
僕がもたもたと一連の内容を思い出していると、Kが一歩進みでてそう言った。
「じゃあK、代わってくれ。俺も休みたい」
「お、おう。分かった」
Sが立ち上がり、Kと交代する。
「ふう」と溜息に似た息を吐くSの額には僅かに汗が浮かんでいた。風のせいで辺りは震えるほど寒いにも関わらず。
「助からないかもしれないな」
僕の視線に気付いた様で、Sは腕で額をぬぐいながら言った。
「まあ、医者が死亡と下すまでは生きてるわけだが。
 それでも、ああも冷たいとな……、人形を必死に生き返らせようとしている気分になる」
それからSは道路のタイヤ痕に目をやり、「ふん」と小さく鼻を鳴らした。
「……ひき逃げかな」
僕は先程Kにしたのと同じ質問をする。
「さあな。それは警察に任せとけ」というのがSの答えだった。
それからSは地面に腰を下ろすと、ガードレールにもたれかかって目を瞑った。
その手に赤いものが付いているのが見える。血だ。
僕は倒れている男に視線を移した。あの男はまだ死んでいない。医者で無い僕らにその判断は出来ないのだ。
救急車で運ばれて、医者に確認されて、初めて死んだことにされる。
それでもSは冷たいと言った。実際に触れていない僕には分からないが、その言葉は確かな実感を伴っていた。
死んではいないが、生きてもいない状態。だとしたら、男の魂は今何処をさまよっているのだろう。
目の前ではKが屈みこみ人工呼吸をしている。僕はその様子をただぼんやりと眺めていた。
身体を起こしたKが、びくり、と震える。
何だろうと思った。
そのままKは動かない。心臓マッサージを続けないといけないのに。Kはただ自分の両手を眺めていた。


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