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ホラーテラー作品群保管庫

124なつのさんシリーズ「うじの話」8:2014/06/14(土) 02:12:48 ID:Hpd3syqU0
「でさ……。Sはさ。何で今、これを持ってるの?」
そう言って、僕は目の前の二枚の遺書を指す。
「ん?だから言ったろ。先輩の家にお邪魔した時に、失敬したって」
「そうじゃなくて!……僕が訊きたいのは、Sがこれを盗んでどうしようとしたのか、ってこと。
 何で、警察の元に、これがいっていないのかってこと」
すると、Sは肩をすくめて少しだけ笑った。
まさか、と僕は思う。Sは先輩のことを見逃したのだろうか。
先輩だと言った。世話になった人だと言った。だから見て見ぬふりをしたのか。
「……お前、普通に考えて、この事件における先輩の、刑事上の責任がどうなるか分かるか?」
「え?」
唐突な質問に僕は口ごもる。
「死体遺棄にはあたるだろうが。しかし、直接の死に関わった積極的な死体遺棄じゃない。
 更生を誓いさえすれば、ほぼ確実に執行猶予がつくだろうな。
 ストーカーのでっち上げなんてのはもっと酷い。しらばっくれられたらそこで終い。
 それに、そもそも被害者が居ないんだからな」
僕には法律の知識など無いから、ここで何か言えるわけが無かった。
「それは、彼の犯した罪からしてみれば、
 自殺まで追い込まれ、さらに死んだ後にストーカーにされた彼女から見れば、あまりに軽い。
 と、『個人的に』俺は思ったわけだ。……が、俺は同時に、『個人的に』 先輩に対して恩も感じていた」
だから、とSは言った。
「だから、俺はまず、先輩に訊いてみた。ルーズリーフ見せてな。これからどうするつもりですか、ってな。
 自首するならそれでいいと思ってたし。ゴネるなら考えがあった」
そうしてSは、先輩に自分が真相を知ったことを告げた。
「意外と簡単に白状したよ。全部。……遺書を見つけて、怖くなってやっちまったんだと。でも、自主はしたくないと言った。
 あの人の八方美人は、生きている人間限定だったらしい。その後、彼女の悪口を散々聞かされたよ。
 友達の少ない子で、同情心から構ってやってたら離れなくなって、仕方なく付き合ってた、だとかな」
Sが鼻で笑う。けれども、先輩としてはそうなんだろう。自首する気があるなら、最初から遺書を破って逃げたりしない。
「この事件がもし、彼女の自殺と先輩の遺体遺棄だけで済んでいたら、俺は見逃してたと思う。
 でも先輩はその後、死人に罪を着せて保身を図った。これは明らかにアンフェアだ。
 公にしたくないと言う先輩の言い分も分かる。ただし、罰は受けなければならない。
 だから、俺は一つ提案をした」
提案。どうやらSは、先輩をタダで見逃したわけではないようだった。そのことに少しだけホッとする。
しかし、続くSの言葉は、そんな僕の安堵を軽く吹き飛ばすものだった。
「……先輩の家には今でも、定期的に元カノからの手紙が届くそうだぜ?」
「は?」
僕はつい間抜けな返答をしてしまう。
彼女は死んでいるはずだ。本当に届いたとすればそれは、それこそ現実を離れたホラーになってしまう。
「あ!」
思わず声に出していた。
当たり前のことだ。死者は手紙を送れない。手紙を送るのは生きた人間だ。Sが言う罰とはそういうことだったのだ。


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