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ホラーテラー作品群保管庫

102なつのさんシリーズ「Sとの出会い」6:2014/06/14(土) 01:21:42 ID:Hpd3syqU0
「……俺には見えねえけど。まだついてきてんのか?そいつ」
僕は後ろを向く、居る。十メートルくらい後方。間違いなく。近づいてきている。僕は何度も頷く。
「ふうん。……分かった」とSが言った。
それから後部座席の方を振り返り、
「お前ら、これから三十秒くらい、ずっと前見てろ。フロントガラスだけだ。
 目を逸らすな。逸らしたら死ぬってぐらいに思っとけ」
Kはまだ後頭部強打のダメージから回復していない様だった。虚ろな瞳でSの方を見ている。
僕は訳が分からず、あの車イスが来ていないか確かめようと後ろを向きかけた。
すさまじい摩擦音。
車が急発進し、僕の身体は誰かに体当たりされたかのようにシートに押し付けられた。
僕は驚いて視線を前方に移す。Sが限界までアクセルを踏み込んだのだ。
速度メーター。
この車はミッション車のはずだったが、それでも何の支障も無しに、速度はあっという間に時速百キロを越えた。
前方の景色が流線となって次々に後方へとカッ飛んで行く。
ここは高速じゃない。国道だ。道幅はそれほど広くない。カーブもある。
対向車のドライバーが口をあんぐり開けるさまが現れて消えた。
カーブの度にタイヤが滑る。ドリフト?訳が分からない。
後方に遠ざかるクラクション。直線。120キロ。S字カーブ。あ、死ぬ。
僕は前だけを見ていた。身体が硬直して目を離せなかった。
実際100キロ以上出していた時間はほんの十数秒程度だっただろうが、
あの時の僕にはその十数秒が一分にも三分にも感じた。

そのうち車は減速して、まるで何事も無かったかのように、路肩に停まった。
「……やっぱバイクと車じゃ感覚が違うもんなんだな」
Sの口調は、今日の新聞を読んで感想を言う時のそれだった。
僕は金魚の様に口を閉じたり開いたりしていたと思う。
「後ろを見てみろ」と、後方を指差してSが言う。
僕はその時、自分が車イス幽霊のことをすっかり忘れていたことに気がついた。
後ろを振り向く、車イスは何処にも見えなかった。
そしてついでに、シートベルトを付けていなかったKが、後部座席でもんどりうって失神していた。
「どうだ、居るか?」
その問いにSの方を向き直り、僕はゆっくりと首を横に振る。
「……恐怖って感情は、たまに人に余計なもんを見せることがある。
 まあ、簡単に言ってしまえば、お前らは、夜の病院ってとこから来る恐怖心から幻覚を見たんだよ」
Sは淡々と説明する。
そんな馬鹿な。幻覚。あれが幻覚なのだろうか。服の裾を引っ張られたのも、車を追ってきていたのも。
「ものすごい速さで車を追う幽霊ってのは、良く聞く怪談だけどな。
 幽霊が超人的な身体能力を持っているって説明よりは、
 全てはそいつの脳みそ自身が見ている幻覚だから、って説明の方がしっくりくるだろ。
 鼻先三センチで常に映画を上映されているのと同じだ。だから何処まで逃げたって追って来る」
「……じゃあ、どうして今は」
「ん?どうして追って来ないのか、か?」
僕は頷く。
するとSは「くっく」と少しだけ笑った。
「怖かったろ?さっきの」
Sは先程の国道暴走のことを言っているのだ。僕は真剣に何度も頷いた。
「幽霊とは違う、別の恐怖を上乗せされたからな。幽霊どころじゃなくなったんだよ、脳みそが」
「う、上乗せ?」
「イカレた強盗に銃を突きつけられた時、そいつの背後に幽霊が見えたとして、お前はどう怖がる?
 そんなに幾つも同時に処理できないもんだ。人間の頭はポンコツだからな」
Sはそう言って、後部座席のKをちらと見やり、
「そしてたまに、ショートもする」と静かに言った。
よくよく見たら、Kは口から少量の泡を吹いていた。
「さて、種明かしはここまでだ。帰るぞ」
「Kは起こさんでいいの?」
「寝かしとけよ。その方が静かでいいだろう」
そうして車は走り出す。発信の時心拍数が上がったが、今度は普通に、といっても法定速度よりは速かったけれど。
後で聞いた話だが、Sはこの時、車の免許を取ってまだ二カ月だったそうだ。
Sはそういう人物だ。僕はそれを初めて会った日に知ったのだ。


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