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怖い話Part2

1名無しさん:2013/04/11(木) 20:47:22 ID:kJlroZZA0
霊的な怖い話を集めてみましょう

前スレ
http://jbbs.livedoor.jp/study/9405/storage/1209619007.html

65名無しさん:2013/05/01(水) 19:51:07 ID:0te3IxYA0
小説だから

66 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/01(水) 22:29:42 ID:zZ7Rtlx60
皆様、こんばんは。藍です。

>>63
ありがとう御座います。批判も有りますが、このお話の最後までは
投稿致しますので、お楽しみ頂ければ幸いです。

>>64
鬱陶しく思われる方には、あらかじめスルーをお願い致しましたが
公開いたしましたからには、ご批判も甘んじてお受け致します。ただ、お陰様で
作者である知人が前作で公開終了しようとした気持ちも理解出来ました。

>>65
私達の拙いお話を「小説」と認定して頂き感謝致します。そう言えば
前スレの但し書きに、「創作はOK、でも創作と小説は違う」と明記されていたような気がします。
もし小説認定なら、私の投稿はルール違反のですね。申し訳ありません。

67名無しさん:2013/05/02(木) 01:38:07 ID:RU2.cLyQ0
全レスうざ

68名無しさん:2013/05/04(土) 13:24:13 ID:5B/9g4kI0
>前スレの但し書きに、「創作はOK、でも創作と小説は違う」と明記されていたような気がします。

それは洒落怖本スレのテンプレで、ここは何でも良いよ

69 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 22:41:33 ID:dAcosai.0
皆様、こんばんは。藍です。

(中)の投稿が完了する前に、作者である知人から
原稿を修正する旨の連絡があり、作業が滞っていました。
少しばかり消化不良な感じがするかもしれませんが
作者の意向を尊重したいと思います。

では、以下(下)・(結)投稿致します。
お楽しみ頂ければ幸いです。

70『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 22:45:03 ID:dAcosai.0
 次の週の金曜日は朝から久し振りの青空。窓から朝陽が差し込んでいる。
俺が姫を大学に送って戻ってくると、Sさんは入れ違いに出掛けていった。
「今夜のために下調べと準備があるの。昼ご飯までには戻るわ。」
「僕も一緒に行かなくて良いんですか?」
「予備知識は少ない方が適性を調べるのには好都合だから。翠をお願いね。」

 帰ってきたSさんが少し疲れたような様子だったので心配したが、
昼食を食べた後、いつも通りに翠と昼寝をした後はすっかり元気になっていた。

 俺が姫を迎えてお屋敷に戻ったのは6時少し前。Sさんは身支度をして俺を待っていた。
俺も姫を迎える前に出掛ける準備を済ませてある。姫に翠を託してすぐに車を出した。
待ち合わせの交番に着いたのが6時25分。ドアの前で榊さんが待っていた。
「男が住んでるマンションはここから歩いて3分くらい。『シャトレ○崎』の205号室だ。
警官に事情を話してあるから車はここに置いてくれ。此処から歩こう。」
「確かに男は家にいるんですね?」
「6時前に帰ってきたのを部下が確認してる。
Sちゃんの指示通りに部下を配置したけど、本当に障りはないのかい?」
「はい、特別な結界を張ってありますから入ることは出来ても出てこれらません。
本体も生き霊も。だから大丈夫です。じゃ、出掛けましょう。」

71『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 22:47:57 ID:dAcosai.0
 マンションの管理人にはあらかじめ話してあったのだろう。
榊さんがインターホンで二言三言話すと、一階正面、オートロックのドアが開いた。
フロアの端の階段で2階へ上がる。階段を上って左、最初の部屋が205号室だった。
ドアから3m程の距離で榊さんが胸ポケットから封筒を取り出した。中身は多分捜査令状。
「榊さん、護符は持ってますよね。」
「ああ、部屋の中に入っちゃったらSちゃんの護符だけが頼りさ。さて、いよいよだな。」
その時、微かな金属音がして205号室のドアがひとりでに開いた。中に人影は無い。
「あれは?」
「『入ってこい』ということですね。私たちが来たのを男は知ってます。
R君、あのドアをくぐったらそこから先は完全に相手の領域。
何が見えても、何が起こっても不思議じゃない。気をしっかり持って、良いわね。」
「了解です。」
ドアをくぐり、玄関で靴を脱いで中に入る。
ダイニングキッチン。その奥に灰色のドア、男はおそらくあの中だ。
と、玄関のドアが閉まり、俺たちの見ている前でひとりでにドアチェーンが掛かった。
「おっかねぇ。」 榊さんが小声で呟く。
その時、微かな耳鳴りがした。くぐもったような雑音。いや、これは誰かの声だ。
キーンという耳鳴りに混じって聞こえる、途切れ途切れの呟くような声。
『・・・な○・ なぜ・・・だけ ・○み・・・』
「R君、どうしたの?」 「何だか、小さな声が聞こえました。雑音みたいな。」
『どうした はいってこいよ かぎはかかってない』 嗄れた声が響く。
ゆっくりとドアノブが回り、灰色のドアが開いた。やはりドアの内側に人影はない。
「行きましょう。」
Sさんを遮って榊さんが先にドアをくぐった。次にSさん、最後が俺。
部屋の中は薄暗く、男がパソコンのモニターを背にして椅子に座っていた。
まるで居眠りをしているように俯いていて顔は見えない。

72『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 22:51:29 ID:dAcosai.0
 『たてものに さいくをしたのはおまえたちだな けいさつ か』
嗄れた声は男の頭上、天井近くから響いていた。
「そうだ。令状もある。3人の女の子が殺された事件だ。心当たりがあるかい。」
『それじゃあ かんたんにかえすわけには いかないなぁ』 部屋のドアがバタンと閉まる。
空気が変わった。
体感温度が一気に下がり、部屋の中に濃密な悪意が満ちていく。
『鍵』を掛けていないから、流れこんで来る悪意に意識が飲み込まれそうだ。
目眩がして胃の中から苦いものが逆流してくる。必死でこらえた。
「しっかり、前を見て。」 耳許でSさんの声。
深く息を吸い下腹に力を入れて真っ直ぐ前を見る。
男のすぐ前に、巨大なものが立っていた。
人に近い姿だが、『鬼』という他に表現しようのない異形。
身長はおそらく3m近い、見上げるような裸身の巨体。肩まで伸びた蓬髪。
黒く汚れた大きな顔には血走った野球ボールほどの目玉、俺たちを見つめている。
そして...榊さんの部下が錯乱したのも無理はない。
4本の長い腕が胸の前で3人の女の子をまとめて抱きかかえていた。
腕の間から女の子たちの腕や脚がはみ出して力無く垂れ下がっている。
2人の女の子の顔は見えないが、1人の女の子の顔がこちらに向いていた。
苦痛に歪んだ顔。見開かれた眼は白く、表情に変化は無い。
残り2本の腕が女の子たちの髪をすいたり頬を撫でたり、ゆっくりと動いている。
巨体に6本の腕、これはまさに『鬼』そのものだ。
一体これは現実なのか、それともこの部屋を満たす悪意が見せている幻視なのか。
今、俺たちはここにいるのだから、ドアが開いたりチェーンが掛かったりしたのは現実だろう。
しかし、幾ら何でもこの異形の鬼は...とても現実のものとは思えない。

73『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 22:56:22 ID:dAcosai.0
 「やっぱり。殺した女の子たちの魂を捕らえていたのね。意識を辿れなくて当然だわ。」
『このこたちは おれのものだよ』 嗄れた声は以前より大きく、はっきりと聞こえた。
「違う。その女の子たちはお前のものじゃない。その子たちを離しなさい。」
『いや だ ことわる』
Sさんはポケットから白い小さな布袋を取り出した。
この鬼を人型に封じることができるのだろうか。それが出来れば男の本体も。
女の子の頬を撫でていた鬼の腕が一本、ゆらりと伸びて更に長く、太くなった。
座布団ほどもありそうな手が、壁際のゴルフバッグを鷲掴みにする。
ゴルフバッグは軽々と浮き上がり、俺の頭より高い位置で横になった。
ゴルフクラブがぶつかりあう重い音が微かに聞こえる。
まずい、もしこれが幻視でないとしたら。
投げつけられても、叩きつけられても、絶対に無事では済まない。
Sさんをそっと抱き寄せる。何とかして庇う方法はないか。何としてもこの人だけは。
つっ!!また、耳鳴り。耳の奥が痛む。雑音に混じる、途切れ途切れの、呟くような声。

74『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 22:58:44 ID:dAcosai.0
 『・・・な○み なぜおま・だけが な○み・・・』
この声。そうか、4人目の女の子はこの男の。俺は思わず言葉をかけた。
「なあ、あんたに聞きたい事がある。とても大切な質問なんだ。答えてくれないか?」
数秒の沈黙の後。ふっ、と鬼の腕が緩み、ゴルフバッグが床に降りてきた。
Sさんは驚いたような顔で俺を見つめている。
『なにを ききたい』
「あんたが大事に抱きしめている女の子たちの中に、あんたの娘もいるのかい?」
『な に』
「あんたが抱きしめている女の子たちの中に、あんたの娘、『な○みちゃん』もいるのかい?」
『な○み...おれの むすめ...』
俺はこちらを向いている女の子を指さした。おそらく先月の事件の被害者だ。
「少なくともその女の子は『な○みちゃん』じゃない。
残りの2人はどうだ?『な○みちゃん』はいるかい?」
『な○み おれのむすめ いない もう いない』
「あんたと別れるだけでも『な○みちゃん』は辛くて悲しかったはずだ。
それなのに、あんたの今の姿を見たら、『な○みちゃん』は余計に辛くて悲しいんじゃないか?
大事な娘を亡くして、辛いのは良く分かる。でも、だからってこんなことをするなんて。
あんたはそれで、それで本当に満足なのか?」
『...おお おれの な○み いない どこにも』
鬼は頭を抱えて床に膝をつき、床が揺れた。体は一回り小さくなったように見える。
その両目から赤黒い液体が溢れ、首から胸へと伝った。文字通り、血の涙。

75『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 23:00:18 ID:dAcosai.0
 Sさんが白い布袋の中から人型を取り出して右掌にそっと乗せた。
息を吹きかけると人型は鬼へ向かってひらひらと飛び、空中で燃え上がる。
...これは。
膝をついた鬼のすぐ前に、小さな女の子が立っていた。
鬼はぽかんと口を開けて目の前の女の子を見つめている。
腰まで伸びた長い髪。黄色のワンピース、白い靴。悲しそうな後ろ姿。
『お父さん、どうして? どうしてこんな酷いことするの?』
俺はSさんの口元を見た。一文字に結んだままだ。ということは、『声色』ではない。
『な○み それ は おとうさん が』
『お父さんが大好きだったのに。お父さんの馬鹿!私は、ずっと...』
俯いた女の子の肩が震えている。透明な雫が小さな靴を濡らした。
『お願い。もうこんな事止めて。その女の子たちを離して、ちゃんと謝って。でないと、私。』
女の子は耐えかねたように両手で顔を覆った。静かな部屋に響く小さな泣き声。
どのくらい時間が経ったのか、鬼の腕がゆっくりと動き出した。
2本の腕で女の子の体をそっと床に横たえる。
1人、もう1人、そして最後の1人。
鬼は6本の手で仰向けの女の子の髪を整え、開いていた眼を閉じていった。
『おまえが 死んだ時、お父さんは。なぜお前だけがと、そう思って。お父さんは馬鹿だった。』
鬼の体は次第に小さく萎み、その姿も人に近づいていく。

76『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 23:01:51 ID:dAcosai.0
 『俺は、他の親子を妬んだ。妬んで、憎んで。あんな酷いことを。』
鬼の腕は2本になっている。その2本の腕を床についた。
『俺はこうして、な○みに会えたのに。あの子たちは、あの子たちの家族は...』
前のめりに床に突っ伏しているのはもう鬼の姿をした異形ではなく、
椅子に座って俯いている男と同じ服を着た、痩せた長髪の男だった。
Sさんが右手に3枚の人型を掲げ、何事か小声で呟いた。
横たわる女の子たちの顔から苦悶の表情が消え、その姿は見る間に薄れていく。
黄色いワンピースの女の子が振り向いた。涙に濡れた可愛い顔。
女の子はSさんに向かって頭を下げた。
Sさんは目を閉じ、胸の前で印を結ぶ。
部屋の空気が軽くなった
この部屋を閉ざしていた力が緩み、部屋に満ちていた悪意と憎しみが拡散していく。
女の子と、床に突っ伏した男の姿も消えた。

77『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 23:02:49 ID:dAcosai.0
 「あなた達は警察だと、そう言ったよな?」
椅子に座って俯いていた男が、顔を上げて俺たちを見ている。
「俺は、3人の女の子を殺した。逮捕して、くれ。」
言い終わると男の体は床に崩れ落ちた。
榊さんが男に歩み寄り、膝をついてその体を抱き起こす。
「おい、どうした。大丈夫か?」
「今は意識を失ってるだけです。でも、その男の体はもう...。」
榊さんは右肩に軽々と男の体を担いで立ち上がり、左手で電話をかけた。
「もしもし。おう、もうほとんど解決だ。容疑者を確保した。
意識がないからマンションの裏口に車を回してくれ。そこまで俺が運ぶ。」

78『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 23:04:56 ID:dAcosai.0
 歩きながら榊さんが独り言のように呟いた。
「こいつ、軽いな。この男が娘を事故で亡くしたのは2年前だ。
子を失った親の気持ちは骨身に染みてたはずなのに、何故あんな事を。全くやりきれん。」
Sさんが小さく溜息をついた。
「娘を亡くした事を受け入れられず、悲しむことも出来なかったから。
泣いて、叫んで、ちゃんと悲しむべきだったのに。
それが出来ていたら、2人の間に『通い路』が開いたはず。
この男の霊質なら、通い路を通して娘の魂とその声を感知できたかもしれません。
でも、この男は悲しむ代わりに他人を妬み、そして憎んでしまったんです。
『自分たちはこんなに不幸なのに、何故他人は幸福なのか?』それで。」
「それで他人にも同じ不幸を、と?」 「そうです。」
榊さんの溜息は大きく、深かった。
「この世に鬼を生み出すのは、やっぱり人の心、なんだな。」
「人の心ではなく、人の心に宿る『業』ですね。」
裏口の外に背の高い男が立っているのが見える。
榊さんがドアを開けた。 「この男だ。頼む。」
「Sちゃん。ありがとう。」 榊さんは振り向いてSさんの手を握り、次に俺の手を握った。
「R君も、ありがとう。何かあったらまた宜しく頼むよ。」
榊さんは俺の背中をぽんと1つ叩いてドアをくぐり、
インターホンで少し話してから早足で車に向かった。

79『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 23:06:37 ID:dAcosai.0
 俺たちは正面入り口に戻り、マンションを出た。
交番の中の警官に会釈をして車に乗り込む。警官は少し驚いた顔をした。
俺たちと榊さんが此処を出てからまだ30分も経ってないのだから驚くのも無理はない。
「こんなに早く捜索が終わるなんて思わなかったでしょうね。」
「もしあの男が罪を認めたら、なるべく早く調書を取った方が良いと
榊さんに話してあったの。多分あの男の体はあまり長く保たないから。
本格的な家宅捜索は、きっと来週以降になると思う。」
写真に写った影、ドアや鍵の開閉、なによりあの鬼の出現。
一体どれほどのエネルギーを要しただろう。生身の人間には、あまりに大きな消耗だ。
修行を重ねた術者ですら、限度を超えて消耗すれば回復出来なくなる、
つまり死ぬことがあると聞いていた。まして普通の人間では。
この事件の裁判は開かれない、何となくそんな気がした。
「それにしても早く済んだわね。まだ7時ちょっと過ぎよ。あなたのお陰。」
「僕のって、どういう意味ですか?」
文字通りよ。この件はあなたが解決したようなもの。だから榊さんはあなたに
『また宜しく』と言ったの。少なくとも榊さんには術者として認められたってこと。

80『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 23:08:37 ID:dAcosai.0
 「でも、僕はただ、話しかけただけで。」
「それがあなたの力。あなたの適性は『言の葉』、あなたは『言祝ぐ者』。
記録には残っているけれど、現在の術者でこの適性を備える者はいない。
あれ程強力な言霊、実際に見るのは初めてだったから本当に驚いた。」
これまで色々な術を見せて貰ったが、言霊を使う力なんて聞いたこともない
「言霊が、僕の力と何か関係あるんですか?」
「あなたが無心に、そして心から発する言葉には言霊が宿る。
だからその言葉は、言葉の向けられた相手の心に届いて、そしてその奥底に染み込む。
普通、妬みや憎しみで凝り固まった人の心は何重にも『鍵』をかけた状態になる。
だから他人の話を聞かないし、聞こうとも思わない。
だからあの男は自分の傍にいた娘の魂に気付かず、その声は男の心に届かなかった。
でも、あなたの言葉は届いた、ただの一度で。そして自分の罪とその重さを悟らせた。
私は解放された女の子達の魂が不幸の輪廻に取り込まれないようにしただけ。」
「言霊の力って、Lさんの『あの声』と同じようなものですか?」
「確かにどちらも術者の声を触媒に使うけど、系統が全く違うわ。
Lの術はL自身の意志で相手の心や体を操作出来る。だから幻覚を見せるのも簡単。
でも、あなたの力はあなたの意志で言霊を操作する事は出来ない。
それに言霊は言葉の真の意味を相手に届けるだけ。どう反応するかは相手次第。」

81『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 23:10:44 ID:dAcosai.0
 「僕の意志で操作できないなら、あんまり役に立たないような気がするんですが。」
「何を罰当たりな事言ってるの。さっきだって、あなたの力がなかったら
2人の魂は救えなかったかも知れないのよ。2年前、事故で亡くなったあの子の魂は
父親への愛着からこの世界にとどまっていた。親子だから、おそらく霊質も似ていたのね。
でも、さっきも言ったように、妬みと憎しみに狂った父親の心にあの子の声は届かない。
愛する父親が女の子を殺して異形に変化していくのを、あの子はただ見ているしかなかった。
異形に変化した魂は、普通の魂と存在の仕方がずれてしまうから、
あの子の魂に気付く可能性はゼロ。あの子の魂は男の部屋に入ることすら出来なくなった。
今朝私が此処に来た時も、あの子はマンションの入り口に佇んでた。
魂が酷く傷ついていて、いつ不幸の輪廻に取り込まれてもおかしくない状態だった。
愛する父親が女の子を殺す場面を3度も見たのだから、当然と言えば当然だけど。」
「もしかして、あの写真はあの子の?」
「そう、あの子の力を借りてその記憶を焼き付けた。一番新しい、鮮明な記憶を。」
「あの男はキャンプ場の駐車場に停めた車に女の子を連れて行き、絞殺したの。
遺体は夜のうちに裏の山に埋めた。皆、河の事故だと思ってたから駐車場は盲点になってた。
夕方、それらしい女の子が一人で河遊びをしてたと証言したのはあの男よ。
あの子はその一部始終を見てた。そして父親がこれ以上罪を重ねるのを止めるために
私に力を貸してくれた。父親への愛着のあり方が変化したのを示す良い兆候。」
そうか、だからSさんはあの子の魂を人型に封じてあの部屋へ連れて来たきたのだ。
異形に変化した父親に会わせて未練を断ち切り、中有への道を開いてあげるために。
「出来れば手荒な事はせず、自ら納得して旅立ってもらう方が良い。
そして男にも、自分の罪を認めてから地獄へ...」
Sさんは言葉を切って小さく息を吐いた。
「あなたの言葉が切っ掛けになって男は微かな正気を取り戻した。
だからこそ娘の姿を見、その声を聞くことが出来たのよ。
結果的に男は自分の罪を認めたし、女の子も自分の気持ちに区切りをつけられた。
私も何とか男を説得しようと思ってたけど、あれほど上手くやれる自信は無かったわ。」

82『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 23:12:28 ID:dAcosai.0
 Sさんは右手を俺の左手に添えた。
「それからね。これでやっと分かった。
術を仕込まれていたせいで異性に全く反応しなかったLが、あなたにだけ反応した理由。」
そういえば...
姫との初対面の日、俺は自転車修理のバイトをしながら
何となく気まずい『間』を埋めようと思って俺は好き勝手に喋り続けた。
俺の自転車のこと。それから修理した自転車が姫には乗りにくいのではないかということ。
あの時、ただ無心に喋り続けていた言葉にも、言霊が宿っていたのだろうか。
「それから、あなたが『下心もあります』って言った言葉が少しも不愉快でなく、
むしろ率直な愛情表現として、私の心に響いたこと。
あなたの力はほとんど発現していなかったから感知できなかったけど
あの時の言葉にも、きっと微かな言霊が宿っていたんだわ。」
もしかしたら俺は言霊の力で2人を...腹の底がヒヤリと冷たくなるのを感じた。

83『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 23:14:09 ID:dAcosai.0
 「そのせいでLさんも、Sさんも、僕の事を」
「違う。さっきも言ったでしょ。言霊は言葉の真の意味を相手に伝えるだけ。
どう反応するかは聞いた人が決めること。Lも、私も、自分で決めたのよ。」
「でも、もしこの力がなかったら、2人は僕の事を好きには、痛。」
思い切り左頬をつねられた。
「少し余計に時間は掛かったかも知れないけど、それでも絶対好きになったわ。絶対にね。」
Sさんの、自信に満ちた言葉を聞くと暖かい気持ちになる。これも、言霊だろうか。
「さて、適性も分かったし、正式に『裁許』を受けなきゃね。早速手配するわ。」
「あの、『裁許』って?」
「一族の当主様か、代理の方にお目通りして、正式に一族の術者として修行を続ける
許可を頂くの。明日からその時のための『誓詞』を練習してもらうわよ。」
Sさんの笑顔はとても満足そうだった。

『卯の花腐し(下)』了

84『卯の花腐し(結)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 23:17:18 ID:dAcosai.0
 翌々日の日曜日、俺たちは榊さんからの電話であの男が死んだことを知らされた。
昨日は自ら望んで丸一日供述を続けたが、今朝、独房の中で冷たくなっていたという。
そして、男の供述通りの場所から、二人目の被害者の遺体も見つかったことも。
「絶対に許せない罪だけど、最後にその重さを自覚したのだからまだ救いがある。
たとえ地獄で過ごす途方もなく永い時間の果ての、蜘蛛の糸程の救いだとしても。
R君、手伝って頂戴。タイミングを計りかねていたけど、あの男が死んだなら今日が潮時。」

85『卯の花腐し(結)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 23:18:20 ID:dAcosai.0
 図書室の中のドアの向こう、畳張りの広い和室。
その奥の板張りの部分に設えられた3つの小さな祭壇、それぞれに人型が祀られていた。
Sさんはそれぞれの祭壇の前で丁寧に鎮魂の儀式を行い、
人型を白い布で出来た小さな袋に納めていく。袋の口は赤い紐で閉じられた。
事故で亡くなった女の子が一人。娘を亡くして狂った男に殺された女の子が三人。
そして三人を殺した男の魂は生きながら悪霊となり、
自らの憎しみと呪詛が生み出す負荷に耐えられず、精魂尽き果てて死んだ。
もともとに悪意があって仕組まれた事件ではない。なのに失われた5つの命。
おそらく最初の事故がなければ、5つの命は失われなかった。
父親として、今回の一連の事件は他人事では無い。
姫と比べてSさんが笑うほど、俺は翠を溺愛しているからだ。
もし事故や病気で翠を失ったら、俺は狂わずにいられるだろうか。
勿論、俺が狂ったら、罪を犯す前にSさんは俺を殺してくれるだろう。
それが俺とあの男の違いで、俺は幸運だ。でも、確かな違いはそれだけ。
こんな悲しい事件が起きるのは、やはり人の心の弱さ故なのだろうか。
この世に鬼を生み出すのは人の心に宿る『業』だと、Sさんは言った。
そして俺はあの時の、『業からは逃れられない』という母の言葉を思い出した。
『業』とは一体何なのか、それは『不幸の輪廻』とどう関わっているのか。
Sさんの後ろ姿を見ながら、そんな事を考えていた。

86『卯の花腐し(結)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 23:19:20 ID:dAcosai.0
 その日の午後。Sさんと俺は、雨の中半日かけて車を走らせた。
運転手は俺。Sさんは後部座席に座り、三方に乗せた3つの白い袋を護っている。
まずは隣の△県。最初の事件が起きた街へ向かう。Sさんの指示通り
閑静な住宅街の一角で車を停めた。一際大きな家が見える。
榊さんから聞いたのか、それとも女の子の記憶を辿ったのか、確かめる気にはならない。
女の子の家族にも、犯人が逮捕され事件が解決したことは伝えられているだろうか。
もし、大罪に自らの魂を蝕まれた犯人が事件の供述を残して死んだことを知ったら
女の子の家族は一体どう思うだろう。
Sさんはマセラティの後部座席に置いた大きな貝殻の中で最初の人型を焚き上げた。
「もし迷うと可哀相だから、出来るだけ帰る場所の方が良い。」 独り言のように呟く。
「迷ってしまうことも、あるんですか?」
「大人なら大丈夫だけど、子供だし。それに、事情にもよるから。」
珍しくSさんの歯切れが悪い。この件についてこれ以上の質問はNGだ。

87『卯の花腐し(結)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 23:20:20 ID:dAcosai.0
 再び県境を越えてお屋敷に近い街に戻ってきた。雨足が強まっている。
Sさんは市内にある一軒の家を指示したが、その家に着くと思い直したように
その家から少し離れたアパートの駐車場を改めて指示した。二枚目の人型を焚き上げる。
「事件の起きた順番、なんですか?」
「そう、苦しんだ時間が長い子から、楽にしてあげるべきだから。」
Sさんの顔が、少しだけ翳ったように見えた。
最後の家、向かいの道路に停めた車の中で三枚目の人型を焚き上げる。
既に4時半を過ぎ、辺りは薄暗くなり始めていた。お屋敷に向けて車を走らせる。
Sさんは助手席に移り、黙って窓の外を眺めていた。
もうすぐ市街地を抜けるという時、俺は不思議なものに気が付いた。
前方50m程先の歩道あたり、そこだけまるで陽が差しているように明るい。
「Sさん、あれ。あそこだけ陽が差してます。」
前方に視線を移したSさんの顔が、一瞬で緊張した。小声で指示を出す。
「あそこで、車を停めて。」

88『卯の花腐し(結)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 23:21:39 ID:dAcosai.0
 その場所まで進み、ウィンカーを出して路肩に車を停めた。花屋の看板が見える。
やはり、歩道のその一角だけが明るく照らされていた、そして。
子犬...
花屋の看板のすぐ脇で白い子犬が嬉しそうに尻尾を振っていた。
この雨の中、その毛並みは水を含んでおらず、
行き交う通行人は誰一人として不思議な明るさにも子犬にも頓着してはいない。
そうだ、この次の交差点は『○町南』。
Sさんはじっと窓の外の子犬を見つめる。俺も質問を飲み込んで子犬を見つめた。やがて。
子犬のすぐ前、地面近くに小さな白い両手が見えた。
一段と嬉しそうに尻尾を振る子犬を、その両手が優しく抱き上げる。
子犬が花屋の看板と同じ位の高さに持ち上げられた時、女の子の全身が見えた。
白地にピンクと黄色の水玉模様のTシャツ。紺色の半ズボン。青い靴。
笑顔で子犬に頬ずりをする女の子の姿が、一瞬強い光に包まれ、視界が白く遮られた。
視界が戻ってきた時、子犬を抱く女の子の姿は既になかった。
ただ、雨の夕方の薄暗い歩道を、幾つかの傘がすれ違うのが見えるだけだ。

89『卯の花腐し(結)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/09(木) 23:24:41 ID:dAcosai.0
 「二人目の、女の子だったんですね。あの子犬が待っていたのは。」
Tシャツの柄に見覚えがあった。あの時の、真空パックの中身だ。
榊さんが行方不明の女の子の親族から借りてきた、女の子のお気に入りのTシャツ。
「あの女の子は両親を亡くして親戚に引き取られたけど、そこにあの子の居場所はなかった。」
その子の失踪は親族の意向で公にされなかったと榊さんは言った。
そしてSさんは、あの家の前からアパートの駐車場に指示を出し直した。
それぞれの意味が俺の心に染み込んで来る。 寒い、俺の服は濡れていないのに。
「あの子にとっても、自分を慕ってくれる子犬は、とても大切な記憶だったのね。」
「あの子がここに現れると、分かっていたんですか?」
「いいえ。あのTシャツを見た時、子犬が待っている女の子は
二番目の被害者だと分かったけれど、まさかここに現れるとは思っていなかった。」
「『稀な霊質を持ち、人間の心との関わりがあった動物だけが幽霊になる』、そうでしたね。」
「そう。おそらくはたった一度、長くても数分。でも、それは本物の、心の触れ合いだった。」
Sさんはもう一度窓の外を見た。相変わらずの雨。
「『卯の花腐し』、そして『卯の花下し』、今は梅雨本番。
このところ本当に雨が多かった。この事件で流された沢山の涙に天が呼応していたのかしら。
早く、梅雨が明けたら良いわね。もう誰も、涙を流さずに済むように。」

『卯の花腐し(結)』 了

90 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/10(金) 00:23:39 ID:r.NEGjJM0
 藍です。

 投稿を終えて油断したせいか、居眠りしてしまいました。

 公の場に投稿したのですから色々な意見があるのは承知の上です。
快く思わない方がおられるのも仕方ありません。

 ただ私と知人は、拙い文章ではありますが、一連の物語を
この掲示板に投稿させて頂いて本当に良かったと思っております。
それでは今夜はこれで失礼致します。ありがとう御座いました。

91名無しさん:2013/05/10(金) 01:10:33 ID:NIDYNWPM0
正直別に専用スレ立ててやってほしい

92名無しさん:2013/05/10(金) 01:12:08 ID:lQ6cjScU0
藍さん作者さんお疲れ様。
いろんな意見があるのは当然。
どんな作家でも好きな人がいれば嫌いな人もいる。
私はあなたたちの話が好き。

93名無しさん:2013/05/10(金) 16:21:48 ID:Wo3tlZEQ0
藍さん作者さん
またまた楽しませて頂きました。今後も読めることを楽しみにしています。

94名無しさん:2013/05/10(金) 23:40:12 ID:y4KlJMRk0
>>91
専用スレ立てられるものならやってみろよ
嫌いなら黙ってスルーしろ。

95名無しさん:2013/05/13(月) 05:59:19 ID:lwuSPQpMO
>>90 投稿お疲れさまでした。
偶然まとめを見つけて読み始め、
ようやくここにたどり着き、一気に読破してしまった。
6時間かかって貫徹w

本当に面白かったです。
これからも期待しています。

96 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/13(月) 23:16:56 ID:gDNu0G360
 藍です。

>>91
投稿とかまとめサイトではなく、ネット上に文書を保存して
好きな時に読める方法があると職場の同僚に教えてもらいました。
私たちの投稿を快く思わない方々にも迷惑を掛けない方法として
検討の必要があると考えています。
ありがとう御座いました。

>>68
>>92
>>93
>>94
温かいコメント感謝致します。
投稿して良かったと思えるのは皆様のお陰です。

>>95
投稿した立場上、この掲示板と、まとめサイトは仕事の合間に覗いてしますが
さすがに6時間貫徹は、私自身も無理です。本当にありがとう御座いました。

97名無しさん:2013/05/14(火) 18:01:44 ID:1iLZDsGE0
>投稿とかまとめサイトではなく、ネット上に文書を保存して
好きな時に読める方法があると職場の同僚に教えてもらいました。
私たちの投稿を快く思わない方々にも迷惑を掛けない方法として
検討の必要があると考えています。

ただ一人のいちゃもん気にしてたら切りが無いよ
どこかに移る必要全くない
むしろ移られた方が迷惑。ここで気軽に読めるのに

98名無しさん:2013/05/14(火) 18:06:32 ID:F0y3rzTE0
移られる方が迷惑、とかさすがに引く
結局自分が楽したいだけじゃん

99名無しさん:2013/05/14(火) 18:41:49 ID:1iLZDsGE0
常駐してるサイトから余所に移られるとサイト移動するのが面倒
そういう意味で移られると迷惑と言ってるんだけど
自分のサイトでも無いのに自分が気にくわないから迷惑とか言う方がどう考えてもおかしいだろ
ただでさえ投下する人いないのに、書き手を追い出すようなレスは慎むべきじゃないの?

あと専用スレたてろって言ってるけど、ここの掲示板は管理人以外スレ立てできないよ
書き手を追い出して掲示板を潰したいんならどうぞ

100名無しさん:2013/05/18(土) 14:12:22 ID:2yxhqf3M0
藍さん作者さん。
こんなに面白くて深くて怖くて心揺さぶられてまた次を読みたくなる物語は滅多にありません。
この世の常、読む人の反応は光もあれば影もあります。
次も読めるようにしていただければうれしいです。

101 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:30:26 ID:73YnciYs0
皆様、今晩は。藍です。

>>97
>>99
>>100
新作の投稿を準備している間に頂いた、
皆様のコメントはとても心強く、有り難く思います。

知人の指示通り、短めのお話を投稿致します
お楽しみ頂ければ幸いです。

102『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:31:39 ID:73YnciYs0
『誓詞』

 「はい、最初からもう一度。ちゃんと詠唱出来ないと私が困るのよ、ね。」
『誓詞』の練習を始めて一週間程が経つ。修行の前の30分程を練習にあてていた。
文字を読むのではなく、Sさんからの口伝で詠唱する。独特の声の調子と抑揚。
古い言葉なので文字がないとほとんど意味が分からない。
それに元々あまり歌は得意ではない。
最初の内はかなり調子が外れていたのだろう、Sさんが何度も吹き出す程だった。
「せめて意味が分かれば少しはましになるかも知れません。文字も教えて下さい。」
「当主様は私たち一族の祭主。誓詞は当主様に奉る一種の祝詞なの。
心を込めて詠唱すれば、あなたの心はちゃんと当主様に伝わる。
あなたの力を考えたら、むしろ意味が分からない方が無心になれて良い結果が出るはず。」
『言霊に期待する』ということか。それなら無心に詠唱出来るまで練習するしかない。
さらに約一週間、誓詞の練習を続け、何とか様になってきたある日。
姫を大学に送って戻ってくると、Sさんが玄関の前で俺を待っていた。
明るい笑顔、きっと、何か良い知らせだ。
「さっき『上』から連絡が連絡が有ったわ。当主様にお目通り出来るって。
代理の方が対応して下さる事も多いのだけど、私たちは運が良い。」
何としてもその日までには誓詞を仕上げなければならない。気合いが入る。
「それはいつ、ですか?」
「次の日曜日。」
既に今日は木曜、もう練習期間は3日しかない。

103『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:32:34 ID:73YnciYs0
 日曜日、俺とSさんは午後2時30分過ぎにお屋敷を出発した。
当主様のお社とお住まいは県境に近い県道から脇の山道に入った所だと聞いていた。
指定された4時までには1時間30分ある。余裕を持って到着できるだろう。
運転しながら、俺はSさんに教えられたお目通りの手順を頭の中で何度も確認した。
俺とSさんが待つ部屋の中に当主様と当主様の奥方である桃花の方様が御出になる。
俺とSさんは起立し、最敬礼の姿勢で当主様が席にお着きになるのを待つ。
当主様が席にお着きになった所でSさんが俺を当主様に紹介し、俺は誓詞を奉る。
当主様から御裁許のお言葉を頂き、当主様と桃花の方様が御退出なされた後で俺たちも退出。
「あの、当主様と桃花の方様で良いんですよね?御名前や号ではなく。」
「祭主である当主様は、いわば一族全員の親にあたる存在。
一族のうち特定の家系や特定の個人と繋がりがあってはいけない。
建前としては、当主となった時点で元の名前や親子の絆は封印される。
だから当主様には御名前も号も無い。桃花の方様も同じ。」
「桃花の方様というのはお后様と同じような敬称と考えれば良いんですね。」
「桃花の方様のお社は当主様のお社の北東、鬼門にあたる方角に造営される。
つまり『妹の力』で鬼門を封じ、当主様をお守りするお方という意味。」
桃に魔除けの力があるという話は聞いたことがある。
確か『桃太郎』の桃もその系統の考え方から来ていたはずだし、
俺の実家の庭にも、家の鬼門にあたる方角に桃の木が植えてあった。

104『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:33:42 ID:73YnciYs0
 「次の脇道から山道に入って。そこから、10分くらい。多分。」
脇道を入ってすぐに簡単な門があり、俺は門を開いて車を進め、再び門を閉めた。
車を走らせると、そこが今までとは違う領域であると、俺にも分かった。
鬱蒼と茂った森の中、ゆるやかに曲がりながら上っていく山道は綺麗に舗装されている。
その道には、ただ一本の枯れ枝も、ただ一枚の枯れ葉も落ちてはいない。
そして道の両側、深い森の中には静かな気配が其処此処にひっそりと蹲っていた。
それらは当主様のお社とお住まいを護る式たちだろう。
おそらく、許可された者でなければこの道を最後まで辿ることは出来ない。
興味本位で入り込んだ者があれば、森の深みに迷い込む。
もしも悪意を持って入り込んだ者があれば、すぐに式たちに排除される。
道自体が『聖域』を行き来する人を選別する。そういう道なのだ。
5分あまり車を走らせると突き当たりの広場に出た。広場の奥の斜面に細い階段。
木々と空の感じで山の頂に近い場所であることが分かる。
「ここに車を停めて歩きましょ。」
車を出たSさんが不意に振り向いて、今辿ってきた山道の方向を見つめた。遠い目。
鳥の声と風の音、さっきと変わった気配は感じられない。
「どうか、したんですか?」
「ううん、大した事じゃない。」 階段を上り始めた。
Sさんだって緊張しているのだろう。俺も階段に足をかけた。これからが正念場だ。
黙ったまま並んで階段を上る。階段の上には鳥居。
その先には鬱蒼とした森の中を抜けていく石畳の長い参道。
Sさんが一礼して鳥居をくぐる。おれもSさんに倣って後を追う。

105『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:34:26 ID:73YnciYs0
 「見えた。」
参道の端は開けた平地になっていて、右側奥に大きな洋館がある。
洋館の左を抜ける細い道は階段に繋がり、階段の上には立派なお社の屋根が見えた。
「あの洋館が当主様と桃花の方様のお住まい。お社はあの階段の上。
お目通りの場所は洋館の中の部屋。いよいよね。覚悟は良い?」
「はい。此処まで来て、もう後戻りは出来ません。」
「うん、良い返事。付いてきて。」
Sさんの後に付いて洋館の門をくぐる。綺麗に手入れされた庭、其処を抜ける小道。
小道を辿ると大きな玄関。扉の脇に男性が立っている。
俺たちが扉の前まで来ると男性が一礼して扉を開いた。
Sさんが軽く会釈をして扉をくぐる。俺も後に続く。
玄関の中には少女が一人、俺たちに頭を下げる。
「Sさま、Rさま、お待ちしておりました。どうぞ中へ、御案内致します。」
少女が顔を上げた。中学生か高校生くらい、どこかで見覚えのある顔だ。
「ご苦労様。宜しくお願いしますね。」
少女は踵を返して廊下を進む。俺たちはその後を追う。軽い足音だけが響く、静かだ。
廊下の一方は一面ガラス張りの壁で中庭の様子が見える。やはり良く手入れされていた。
廊下の途中で階段を上り、上り切ったところで右へ。少し細くなった廊下を進む。
3つ目の扉の前で少女が立ち止まった。一礼して扉を開く。

106『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:35:04 ID:73YnciYs0
 「当主様はもうすぐ御出になります。正面のソファでお待ち下さい。」
「ありがとう。」 Sさんがドアをくぐり、俺も少女に一礼して部屋の中に入った。
思ったより小さな部屋だ。カーテンを背にした大きな机と椅子。
その正面にソファとテーブル。俺たちが入ってきたドアと反対側の壁に立派な扉。
Sさんがソファへ座る。 「あなたは其処へ。」
Sさんと俺はテーブルを挟んで座り、俺は壁の扉を背にした位置。
ノックの音がして扉が開き、さっきの少女がお盆を持って入ってきた。
テーブルの上に背の高いグラスを2つ並べ、一礼して出て行く。
冷えて露の着いたグラスに透明の氷と薄緑色の液体、緑茶だろうか。
「緊張して喉が渇いたでしょ?今の内に飲んでおいて。」
確かに喉がカラカラだ。誓詞の詠唱に差し支えないよう、慎重に喉を湿らせる。
良い香りがするが、緊張していて味が良く分からない。
再びノックの音がした。
扉が開き、少女が扉を押さえたまま、扉の向こうに向かって最敬礼をする。
Sさんと俺も立ち上がり、大きな机に向かって最敬礼、そのままの姿勢を保つ。
何度も何度もシミュレーションした手順の通りだ。

107『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:36:12 ID:73YnciYs0
 静けさの中に響く微かな足音と2つの気配。机に向かって移動していく。
「ふたりとも、顔を上げなさい。」 女性の声、澄んだ心地よい響きだ。
俺たちは直立の姿勢で正面を見た。
座っている壮年の男性、俺たちから見て男性の右後方に立つ女性。
男性は、榊さんをさらにお人好しにしたような、悪戯っぽい笑顔を浮かべている。
女性は、Sさんをもっと厳しくしたような、凛とした表情。とても綺麗な人だ。
これが当主様、そして桃花の方様。
確かに、伝わってくる気配でどちらも凄い人だとすぐに分かる。
しかし、気圧されて声が出なくなるほど怖い感じではない。正直、ホッとした。
「S...随分と久し振りだ。突然の連絡で少々驚いたぞ。
前線から退いて子を成したと聞き、気に掛けていたが。幸せそうで、何よりだ。」
「はい、お陰様で良縁に恵まれ、思いもかけず人並み以上の幸せを授かりました。」
ちょっと待ってくれ。こんなやりとりがあるとは思わなかった。一体、誓詞のタイミングは?
Sさんが俺を見て微笑んだ。
「この度、我が夫Rのお目通りが叶いました事、光栄の至りに存じます。
つきましては、Rが誓詞を奉る事をお許し頂きますよう、お願い申し上げます。」
「宜しい。聞かせて貰おう。」
つまり、今が『その時』だ。もう、腹を括るしかない。眼を閉じて深く息を吸った。
練習してきた通りに、一言一言、心を込めて誓詞を詠唱する。
スーッと雑念が消えて頭の中がクリアになっていく。
ふと、頭の中に、青い空を無数の白い鳥が飛ぶ情景が浮かんできた。不思議な感覚だ。
詠唱を続けるうち、青い空と白い鳥を背景にして、Sさんとの出会い、姫との出会い、
そして翠が生まれた日の情景が次々と浮かんでくる。大切な人、俺の一番の宝物。
その宝物を守りたい、俺を一族の術者として認めて欲しい、強い思いが湧き上がってくる。
そうか、誓詞とは、俺自身の想いと願いを当主様にお伝えする言葉なのだ。

108『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:37:22 ID:73YnciYs0
 詠唱を終えて一礼。顔を上げると、桃花の方様が懐紙で目頭を押さえているのが見えた。
何故、と想った途端。張りのある声が直接頭の中に響いた。
『...これ程の『力』がこもった誓詞を聞いたのは初めてだ。
安心して、SとLを託すことが出来る。喜んで裁許しよう。』
当主様から感じる雰囲気が、一変していた。
その眼差しは一瞬で俺の全てを見通すような光に満ちている。
広大な海の、決して手の届かない深淵を眼の前にしたような畏怖の念が湧き上がり、
どうしようもなく体が震えた。正直、怖いのに眼を逸らすことが出来ない。
『R君。いや、裁許したのだから、これからはRと呼ばせて貰う。
R、良き資質を持つ青年が我が一族に加わった事を心から嬉しく思う。
その資質を余す所無く開花させ、近い将来、術者として働いてくれる事を期待する。』
Sさんと俺はもう一度深く頭を下げた。当主様が立ち上がる気配。
御退出なされた後で俺たちも退出、それで完了だ。もう一度頭の中で手順を確認する。
「ところで、S。」
「はい。」
!? また、手順と違っている。慌てて当主様とSさんの様子を窺う。
当主様の声は、頭の中で無く、耳に聞こえる普通の声に戻っていた。悪戯っぽい笑顔。
「成した子は、娘だと聞いた。私たちに、会わせてはくれないのか?」
「夫を御裁許頂きました上、娘のお目通りも叶うなら、これ以上の望みは御座いません。」
「うん。出来るだけ早く、頼む。」 当主様は扉に向かって歩き出した。
慌てて頭を下げる。
「S、きっとですよ。きっと、近いうちに。」
「はい。必ず。」
桃花の方様とSさんの短い会話が聞こえた後、扉の閉まる音がした。

109『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:38:39 ID:73YnciYs0
 「首尾は上々、惚れ直しちゃった。」
「いや、でも聞いていた手順と。」
「手順通り。さ、すぐに退出するわよ。」 Sさんはドアを開けて廊下に出た。
急ぎ足で来た順路を逆に辿り、玄関に着く。先程の少女がドアを開けてくれた。
「ありがとう。」 Sさんがドアをくぐる。俺も一礼して後を追う。
「あの、聞きたい事が。」
「車に戻ってから答えてあげる。だから今は急いで、ね。」
庭を抜け、門を出て石畳の参道、2人並んで、黙って急ぎ足で歩く。
Sさんはほとんど小走りに近い速さで俺の左側を進む。
一体何故こんなに急いでいるのだろう?
もう御裁許は頂いたのだし、急ぐ理由などないはずなのに。

 ふと、蝉の声が聞こえたような気がした。まだ少し、蝉には早いはずだ。
急ぎ足で歩きながら、参道両側の森の様子を窺い、蝉のいそうな木を探す。
突然、Sさんの脚が止まった。 同時に囁くような声。
「『鍵』を。」
反射的に『鍵』をかけ、Sさんの視線を辿る。
...目の前に男が立っていた。そんな、一体何処から?
長い参道は見通しが良く、死角になるような場所はない。ついさっきまで人影などなかった。
なのに今、俺たちから僅か2mほどの距離に、この男は立っている。
森の中から現れたとすれば、いや、下草や落ち葉を踏む音すら聞こえなかった。
黒いスーツ、俺より背が高い。微かな笑みを浮かべてSさんを見下ろしている。
一体これは人なのか。それとも...。

110『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:39:17 ID:73YnciYs0
 「久し振りだな。S。」
「そうね。6年振り、かしら。」
Sさんの声は冷ややかだ。
「縁談を断り、前線からも退いたと聞いて訝しんでいたが。」
男の眼が俺を見た。『鍵』を掛けているのに、俺の心を見透かすような鋭い視線。
「なるほど。原石を見つけた、という訳か。確かに、暇潰しにはなりそうだ。」
「類い希な原石には違いない。決して暇潰しではないけれど。」
数秒間の沈黙。辺りの空気が張り詰めて、肌がピリピリする程だ。
「話したいこともあるが、今日は『公務』で時間が無い。
前線に戻ってきたのなら、急がずとも話す機会はあるだろう。」
「機会があったしても、話したいこと、私にはない。」
男の口元が緩む。 「相変わらずだな。安心した。」
男の体がゆらりと流れるように動き、Sさんの左側をすり抜けた。革靴が石を踏む硬い音。
Sさんが唇にそっと右手の人差し指を当て、それから前に向ける。
おそらく『黙って前へ』の合図。
Sさんがゆっくりと歩を進める。おれも並んだまま歩調を合わせた。
背後で男の足音が次第に小さくなっていく。
しかし、何故か濃密な気配がいつまでもすぐ背後にある。
振り返って確かめたいが、指示通りSさんの歩調に会わせて歩き続けた。

111『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:40:02 ID:73YnciYs0
 参道を過ぎ、車を停めた広場へ続く階段を下りる。
未だ気配を背後に感じる。まるで何かが俺のすぐ後ろに付いて来ているようだ。
一体何だ、この得体の知れない気配は?心臓の鼓動が半端じゃない。
怖い。走って、一刻も早く車に乗りたい。そんな気持ちを必死で抑える。
ようやく車に辿り着いた。少し震える手でポケットを探り、鍵を取り出す。
助手席のドアを開けると、Sさんは俺の手から鍵を取り上げた。
左手で俺の背中を軽く払ってから助手席を指さす。
『先に乗って』という意味だろう。できるだけ素早く助手席に乗り込んでドアを閉める。
Sさんは慌てる風もなく運転席に乗り込んだ。ドアを閉じる。
すぐに車を出した。山道を飛ばし、5分足らずで扉の場所に着く。
車を止め、俺を制して車を出たSさんが扉を閉めた。
運転席に戻り、俺の顔を見て微笑んだ。
『もう大丈夫』ということだろう。俺も気持ちを静めるために深呼吸をした。
「御免ね。まさか、出会うはずないと思って黙ってたの。ちゃんと話しておけば良かったけど。」
車を出し、山道から県道に戻る。ようやく俺の心臓の鼓動も元に戻った。
「一体、あれは人間なんですか?」
「人間、には違いない。一族の女性が産んだんだから。その家系の、『最高傑作』。」
普通、人間に対して最高傑作という言葉は使わないだろう。
「人間と言うより、計画的に作り出された存在、という風に聞こえますが。」
「その通りよ。3世代かけて行われた計画だったの。」

112『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:41:03 ID:73YnciYs0
 「計画って。人間を材料に使うような計画だったんですか?」
「慢性的に術者が不足してるって前に話したでしょ?」
「はい、もう何十年も前から不足していると。」
「何故不足してると思う?」
Sさんや姫とともに、これまでいくつもの『非科学的』な事件に関わって来た。つい最近も。
科学全盛の時代とはいえ、俺の知らないところでそんな事件が増えているのだろうか?
しかし、それならそういう事件の、信憑性のある噂がもっと広まっているはずだ。
「正直、想像もつきません。」 「能力を持つ子が、生まれなくなってきているからよ。」
「何故、そんなことに。」 「一番の原因は少子化。」 「少子化?」
「そう、一族の中にも一夫一婦制の結婚が普通に見られるようになったし、
それに一人っ子も多くなった。特に最近はその傾向が顕著になってる。
当然だけど、たった一人の子供を術者にしたいと考える親は少ない。一族の者でも。」
確かに、自分自身が術者ではなく普通の生活を送っている親なら、
今の時代、子供にも普通の生活を送らせたいと考えるのはむしろ必然の流れだろう。
俺だって積極的に翠を術者にしようと思っている訳ではない。
「時代の流れ、ってことですか?」 
「そう。でも、その状況に危機感を持つ人たちがいたのは当然よね。
術者の数が減れば、一族の力や影響力が弱まるのは自明の理だもの。」

113『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:41:53 ID:73YnciYs0
 冷たいものが背筋をはい上がってくる。それは、つまり。
「まず、外法を使って強力な依り代を作り出し、
依り代に憑依した神や精霊の力に頼ろうとした一派が現れた。
そうすれば、生まれてくる子に任意の能力を与える事が出来るから。
でも外法を認めない『上』はその一派を異端として一族から排除したの。
それが分家、Lの心に術を仕込んだ者たち。」
俺の曾祖母はその分家の出身だと母から聞いていた。
「ただ、外法を使うのは論外としても、影響力の低下を防ぎたいという人は多かった。
だからある家系で、その計画が立てられた。そして、実行されたの。」
術者の減少に対応する計画、やはりそれは。寒気が全身に拡がった。
「そう。その家系の術者の中から計画に参加する希望者を募り、
計画的な妊娠によってその能力を組み合わせた術者を生み出そうとした。」
ジーンリッチ・優性思想・デザイナーチャイルド・・・そんな言葉が次々と浮かんでくる。
いや、しかし。一族に生まれる子供の中で、能力を持つ者はむしろ少数だとSさんは言った。
一夫一婦制とは限らない結婚制度のもとで、能力を持つ子供が十分な数生まれていたのなら、
それは男性の優秀な術者が多数の妻を娶り、多くの子を残すのがあたりまえだったという事だ。
逆の組み合わせでは、生まれてくる子の数は一夫一婦制と同じだけしか期待できない。
近代まで、その血筋を保つために権力者が多くの側室を持つのは当たり前だった。
一夫一婦制になった後でも、恋愛結婚が普通になったのは最近のことだ。
見合い結婚が主流の時代には、結婚式で初めて相手の顔を見たという話も多かったと聞く。
つまり、もともと結婚という言葉やその制度が、常に愛情と結びついている訳ではない。
無理に強制したのでもなければ、現代の価値観でその計画を非難することは筋違いだろう。

114『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:42:28 ID:73YnciYs0
 「あくまで希望者、なんですよね?」
「そう、強制したという話は聞いていない。だから『上』も計画を黙認し続けた。
実際、優秀な術者ほど、強制するのは難しいでしょうね。
それに、確実に能力を持つ子が生まれる訳ではないから、
この計画で作られた術者もそれほど多くない。『上』が把握しているのは8人。」
「その中で一番強い力を持っているのがさっきの...」
「そう、だから最高傑作。名前は『炎(ほむら)』。
ね、憶えてる?学校法人の理事長、Lの高校の。」
「はい、あの背の高い。すごく礼儀正しい人ですよね。」
「炎はあの人の孫にあたる。計画を実行したのは、その家系なの。」
あの老人に対するSさんの態度はどこか冷ややかでよそよそしかった。
そしてさっきは『話したいこと、私にはない。』と。
Sさん自身がその計画を快く思っていないということか、あるいは。
「やっぱり、いたんじゃないですか?許婚。」
「違う、許婚じゃない。縁談が来て、それを断っただけ。」
『最高傑作』とSさんの縁談がまとまれば、更に良い結果を期待できただろう。
「私の家系は一族の中で一番古い、いわゆる直系。優れた術者も多かったし、
それに歴代の当主様も、直系の出身者が一番多い。
計画の仕上げに、直系の者との結婚を考えるのは彼らにとって当然でしょうね。」
でも、Sさんはそれを断った。やはりこの計画に賛同していないという事だ。
前もって俺に話さなかったのは、あまり思い出したくない記憶だからだろう。

115『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:43:28 ID:73YnciYs0
 ふと、さっきのSさんの様子を思い出した。まるで俺を守ろうとしているような。
計画のためだけの縁談なら、次の候補者を探せば良い、それだけのこと。
断った縁談の相手に偶然出会ったとしても、Sさんが俺を守る必要はないはずだ。
その縁談には、あの男の、Sさんへの恋愛感情も含まれていたのではなかったか。
「もしかして、僕、恨まれたりしませんかね。」
「恨むとか憎むとか、そんな激しい感情は感じなかった。だけど、イタズラ半分に
式を貼り付けた位だから、あなたに興味を持ったのは間違いないわね。」
背後に感じた異様な気配は式だったのか。もしかしてこれ、かなり面倒な事態かも。
「これからも、何か干渉される可能性はありますか?」
「式は帰ったし、心配する必要はないと思う。多分、冗談みたいなものよ。
もしそれ以上の干渉があっても、聖域の中以外なら術の制限が無いから
あなたを守るのはそれほど難しくない。」
「それで帰りを急いだんですね。あの男に気が付いたのはいつですか?」
「車を停めて歩き出した時。気配が近づいて来ているのは分かったけど、
大切な儀式の前にあなたの気を散らしたくなかった。」
確かに、こんな話を事前に聞いたら色々な意味で集中できなかっただろう。
「ね、もうこの話はお終い。折角御裁許を頂いたんだから、楽しい話をしましょ。
あ、乾杯のお酒を買って帰らなきゃ。シャンパンが良いわね。
ハイボール用のウイスキーも切れてたし。」
そう、緊張と誓詞の練習からようやく解放されたのだ。
今夜くらい息抜きをしても罰はあたらないだろう。

116『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:44:11 ID:73YnciYs0
 シャンパンを3杯飲んでソファで寝てしまった姫を抱いて部屋まで運び、
リビングに戻ってくると、Sさんがハイボールを作っていた。氷の音が涼しく響く。
翠はベビーベッドの中でぐっすり寝入っていた。
「はい、どうぞ。お祝いだから、もう少し飲んでも大丈夫よね。」
「ありがとう御座います。頂きます。」
嬉しそうな横顔。Sさんはずっと上機嫌だ。考えてみれば緊張していたのはSさんも同じだろう。
いや、もしかするとSさんの方がプレッシャーは大きかったかもしれない。
もし、御裁許を頂けなかったとしたら、それはSさんの立場を悪くする不名誉だったはずだ。
取り敢えず上手くいって良かった、事前のシミュレーションとは多少違う部分も合ったが、概ね。
...そういえば、帰りがけの出来事のせいで質問をすっかり忘れていた。
「質問を、忘れていました。」 「何?」
「何故、当主様が翠に会いたいと仰ったのか、と思って。」
Sさんは少しの間ベビーベッドの方を見て、それから俺の眼を真っ直ぐ見つめた。

117『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:44:59 ID:73YnciYs0
 「『孫の顔を見たい』という事ね。」
「え? 孫??」
「立場上、血縁を封印しているとはいえ、やはり当主様も人間だから。」
「ちょっと待って下さい。翠が当主様の孫なら、それは、Sさんが。」
「そう、私は当主様と桃花の方様の、血を分けた実の娘。」
「!? そんな...」
全く、想像もしていなかった。何を、どう考えればいいのか、混乱して事態を飲み込めない。
じゃあ俺は今日、Sさんの御両親の前で誓詞を、当主様と桃花の方様は俺を...
頭の中の混乱が収まるにつれ、怒りと悲しさが入り交じった激しい感情が湧き上がってきた。
思わず右手を握りしめる。
「どうして!! どうして先に教えてくれなかったんですか?教えてくれていたら...」
自分でも驚く程大きな声を出した後で、腹の底がヒヤリと冷たくなった。
それを教えて貰っていたとして、俺に、一体何が出来たというのか?
一族を追われた異端・分家の末裔。術者としては修行を始めたばかりの駆け出し。
Sさんが胸を張って俺を御両親に紹介できる材料など何ひとつない。
他の縁談を断って選んだのが、こんな半端者だなんて...
「違う、そうじゃない。信じて、お願い。」
俺の大声に驚いて泣き出した翠を抱き上げたあと、Sさんは俺の左隣に座った。
膝の上で握りしめた俺の右手に、そっと右手を重ねる。温かい。

118『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:45:40 ID:73YnciYs0
 「前もって知らせなかったことは申し訳ないと思ってる。本当に御免なさい。
でも、許して頂戴。前もって知らせたら、あなたに余計なプレッシャーがかかって
無心に誓詞を奉ることが難しくなると分かっていたから。」
確かに。もし知っていたら、どれほどのプレッシャーだったか想像も出来ない。
俺は間違いなく緊張でガチガチだったろう。
「私、あなたの力を両親にも見せたかった。正直言うとね、自慢、したかったの。
あの時も言ったでしょ、惚れ直したって。今日のあなたは、とても立派だったわ。」
「じゃあ、言霊はちゃんと?」
Sさんは微笑んで、力強く頷いた。
「父の言葉、母の涙、憶えてる? やっと親孝行ができて、私、とても誇らしかった。」
落ち着いてくると、Sさんの気持ちや心遣いも考えず大声を出したことが恥ずかしくなる。
「大きな声を出して御免なさい。混乱して、つい。」
「謝らないで、あなたは悪くない。」

119『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:46:42 ID:73YnciYs0
 Sさんは泣きやんだ翠を抱いたまま、俺の左肩に頭を預けた。
「もうひとつ、黙ってた事があったわね。」
「何ですか?」
「あなたが奉った誓詞の意味。
あれは一族の娘を娶った者が術者になるのを認めて頂くための誓詞。
娶った娘、成した子を守ること。そして一族のためにしっかり働くこと。それを誓う言葉。
だからあなたは、あの場に一番相応しい言葉を奉ったのよ。」
そうだ、Sさんはいつも俺を本当に大切にしてくれる。それこそ俺には不相応な程に。
それなのに。たとえ一瞬でも、あんな感情が湧き上がったこと、それが俺の弱さだ。
「一刻も早く、僕は強くならなきゃいけませんね。SさんとLさんと翠を守れるように。」
Sさんは頷いて、優しく微笑んだ。
「急ぐ必要は無いけど、期待してる。それとね、ひとつだけ約束して頂戴。
例え駆け出しでも、今日からあなたは裁許を受けた正式な術者。
どれほど力のある術者でも最初は駆け出しなんだし、
少なくとも私は、あなたやKを生んだ分家の血そのものは尊敬してる。
だから誇りを持って。あなたは私とLの夫、そして翠の父親なのよ。
絶対に自分の事を半端者だなんて思っちゃ駄目。」
その言葉の、ひとつひとつが俺の心を貫いた。文字通り、耳が痛い。

120『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:47:25 ID:73YnciYs0
 俺は深く息を吸い、下腹に力を込めた。
自分の力を信じる。これは、俺の、心からの言葉。
どうかSさんに、姫に、そして翠に、伝わりますように。
・・・・・・・
その言葉を言い終わった時、
虹色に光る蝶が7片、目の前を舞うのが見えた。

『誓詞』 了

121 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:51:55 ID:73YnciYs0
どうにか、無事に投稿を終えることが出来ました。
私は、このお話が好きなので、期待して下さる方々と共に楽しめればと存じます。
ありがとう御座いました。

122名無しさん:2013/05/18(土) 20:58:40 ID:caxojwZU0
初の投稿遭遇、
なんか得した気分だ。
面白かったです、これからも期待してますよ。

123名無しさん:2013/05/18(土) 21:15:05 ID:suSLqkA.O
新たな始まり。
次の物語がどうなるのか、本当にワクワクします。

124名無しさん:2013/05/18(土) 23:20:18 ID:2yxhqf3M0
本当に面白かったです。ありがとうございました。

125名無しさん:2013/05/19(日) 00:14:01 ID:odh3/L8Y0
たまに覗いてみたら投下してるし
ラッキーだな

126名無しさん:2013/05/19(日) 11:32:42 ID:6CbgZxvE0
藍さん作者さん
お疲れ様でした。あっという間に読みきってしまいました。またひとつ大好きな作品が増えことを心から感謝します。今後の展開も楽しみで仕方ありません。本当にありがとうございました。

127名無しさん:2013/05/19(日) 11:44:11 ID:fGkp0W/kO
>>121
今回も素晴らしいお話をありがとうございます。
一気に引き込まれ涙が出ました。
この先の展開も非常に気になります。
こんなにも夢中になれる作品に出会えて嬉しいです。

頑張ってください。

128名無しさん:2013/05/19(日) 18:58:35 ID:9U9l7VfQ0
いつもすばらしい話をありがとうございます。
まとめサイトやブログに 「宮大工とオオカミ様」の話があるんですが
私はあの話を読んで、神様の存在を畏怖の念を持ちながらも
身近に感じることができたのですが、(最近はブログもアップされてないようですが)
藍さんの友人のお話も共通点があり、心に響いてきます。

もしかして「宮大工」氏ともお知り合いなんでしょうか?
まるで現代版の古事記のようですね。
これからも楽しみにしております。

129 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/23(木) 20:30:31 ID:OGuIpYi20
 今晩は、藍です。

>>122
>>123
>>124
>>125
>>126
>>127

 皆様、ありがとう御座います。
当初、知人が送ってくれた原稿は『卯の花腐し』だけだったのですが、
その最後の一部を統合して、未完だった掌編を完結したいと
指示があり、『誓詞』を追加して投稿しました。
読み直してみると、確かに、この方が良かったように思います。
公開の許可がもらえるかどうかはわかりませんが
この次も、ここで投稿させて頂ければ有り難いです。

>>128

 私自身は「オオカミ様の神社の修繕」のお話、存じております。
あれほど有名なお話と共通点があるとするならとても嬉しいですし
『まるで現代版の古事記』との評価を、とても嬉しく、有り難く思います。
でも、知人は「宮大工」氏も「オオカミ様のお話」も知らないようです。
今後の展開、私自身が一番楽しみにしておりますので
一緒に御期待頂ければと思います。

130名無しさん:2013/05/24(金) 00:54:24 ID:iOr/Oknc0
>>129
何度読み返しても面白く、作者さんの知識と思索の深さ、神々を愛する心、そして人への
優しさが満ちあふれた物語だと思います。
 次を待っています。

131名無しさん:2013/05/25(土) 14:08:54 ID:gTJUxZLY0
藍さん作者さん楽しく拝見させて頂いております。すでに通しで六回読破しました。読む度に作品の奥深い内容が少しずつわかってきて新たな発見って感じて読み返してます。個人としては実話として見させて頂いてます。毎回楽しみにしておりますのでどうか掲載を続けて頂きたく、書き込みさせてもらいました。

132名無しさん:2013/06/02(日) 13:11:49 ID:zVVu8gPAO
wktk

133 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/03(月) 21:28:34 ID:bgS2b3Ho0
>>130
温かいコメント感謝致します。ありがとう御座いました。

>>131
通しで6回読破して頂いたとのこと、とても嬉しく思います。
私自身、読み返して『あ、これ、そういう事だったのか』と思う事が多々あります。
ありがとう御座いました。

>>132
私たちの物語へのコメントなら、有り難いです。

 昨日、知人から新作の原稿と公開の許可が届きました。
しかし、地名や人名の障りがあまりに多く、知人と相談・修正の上、
準備を進めている所です。ちょっと時間が掛かると思いますが
投稿まで、暫くお待ち下さい。

134名無しさん:2013/06/03(月) 21:48:15 ID:GIoBzlDUO
藍さん知人さん、心から期待しています。待ってます!!

135名無しさん:2013/06/09(日) 01:28:45 ID:XWBJxoqE0
とても惹き込まれて読んでおります。UP乙でございます。

記憶を留めるためと題して始まった物語ですが、早晩その意味が解るという事なのでしょうか?

展開が楽しみなようなおっかないような気がしています。

お体大事で活動続けられてください。

136名無しさん:2013/06/09(日) 13:41:19 ID:f0JcbGf.O
楽しみ楽しみ

137 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/09(日) 17:44:28 ID:BEI3CUXA0
テスト中です。

138 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/09(日) 18:10:34 ID:BEI3CUXA0
皆様、今晩は。藍です。

>>135
温かいコメントありがとう御座います。
私の検討結果では『誓詞』が2008年のお話なので、
公開の許可が貰えるかどうかは別として、まだ先は長いと思っています。
もしかしたら『誓詞』の『炎』がラスボスなのではないかと予想していますが
今まで私の予想が当たったためしはありません。
今後もご期待下されば有り難いです。

>>136
ありがとう御座います。新作、お楽しみ頂ければ幸いです。

 では、以下、新作『道標(上)』を投稿致します。
前述致しましたが、この作品は地名と人名の縛りが多く、
しかも地名を伏せると物語が成り立ちません。
知人と相談の上、送付された原稿を一部修正しています。
少々不自然に感じられる点があると思いますが、
その点をご承知置きの上でお読み下さればと思います。
修正作業にかなり時間が掛かりますので、
(中)以降は週一くらいのペースで投稿したいと思っております。

139 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/09(日) 18:12:03 ID:BEI3CUXA0
『道標(上)』

 強い日差し、アスファルトの道路に逃げ水が見える。
既に梅雨が明け、日差しはもう真夏のような強さだ。暑い。

 榊さん行きつけの喫茶店で打ち合わせを終え、車を停めたコイン駐車場に戻る。
千円札を両替して料金を投入していたら、背後から声を掛けられた。
「ねえ、あれ、お兄さんの車でしょ?」
振り向くとセーラー服を着た少女が立っていた。右手でロータスを指さしている。
膝上の短いスカート。派手目の化粧、もともと綺麗な顔立ちなんだろうが、これでは駄目だ。
セーラー服なら絶対に膝小僧が見えてはいけないし、化粧なんて言語道断。
正統派セーラー服嗜好の俺としては、神聖なセーラー服を汚されたような気がして不快になる。
「そうだけど。何で、あっ。」 手元が狂って百円玉を一個落としてしまった。
百円玉は軽い音を立てながら少女の足下に転がった。
少女がしゃがんで百円玉を拾う。白い足、下着が見えそうだ。ますます不快になる。
「はい。」 少女が歩み寄り、掌に載せた百円玉を差し出した。
「ありがとう。」 軽く頭を下げて百円玉を受けとる。
少女はじっと俺の顔を見ている。

140『道標(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/09(日) 18:14:38 ID:BEI3CUXA0
 「あれ外車だよね。お兄さん若いのにお金持ち?」
「悪いけど、時間無いからさ。」
少女は歩き出した俺の前に立って両手を広げた。
「ちょっとくらい話聞いてよ。今日テストで学校が午前中だったから
バイトの時間までヒマなんだ。ね、車でどっか連れてって。カラオケでも良いよ。」
「いや、だから時間無いんだって。」
「もう、鈍いな〜。私、お兄さんとお友達になりたいの。」
「へ?」
「お兄さんカッコイイし、良い人みたいだから気に入っちゃった。」
セーラー服着てるのに、何、この物言い?
腹の底から怒りが湧き上がってきたが、深呼吸して心を静める。
もしかしたら何か事情があるのかもしれないし。俺の嗜好は他人の知ったことでは無い。
「俺、一応妻子持ち。色々と誤解のもとになるから女子高生の友達は要らない。」
少女の横をすり抜けてロータスのドアを開ける。
「じゃ、これあげる。気が向いたらで良いから、連絡して。」
少女は名刺のようなカードを俺の胸ポケットに押し込んだ。
素早く運転席に乗り込みドアを閉める。
「待ってる。メールでも、電話でも」
少女の声はエンジン音にかき消された。
ロータス乗っててこんな面倒臭いのに掴まったのは初めてだ。
初仕事の打ち合わせの日にこんな事、何だか嫌な予感がする。

141『道標(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/09(日) 18:16:54 ID:BEI3CUXA0
 姫と2人、翠の相手をして遊んでいるとSさんがリビングに入ってきた。
「R君。今日の打ち合わせ、あの男の子の件でしょ?交通事故の。」
「はい。病院に行く日と、それから依頼の内容を詳しく確認してきました。」
「それだけ?」 「そうです。」
「じゃ、これは何かしらね?」 Sさんは小さなカードをテーブルに置いた。
「これ、誰ですか?何だか派手な感じの女の人ですね。」 姫がカードを手に取る。
顔から音を立てて血の気が引いた。しまった、あのまま胸ポケットに。
いや、待て。2人は俺の心が読める。あったことをそのまま話せば大丈夫だ。
ホッとして思わず笑みが浮かぶ。
「ちょっと、R君。何笑ってるの?」
「僕、ナンパされたんですよ。それも女子高生に。笑えますよね。」
「ナンパ?」 「はい、カラオケ行こうって。びっくりしました。」
「大人っぽいけど、本当に高校生なんですか?。」 姫からカードを受けとる。
カードには少女の写真。電話番号とメールアドレス。何かのロゴみたいな筆記体の文字。
思わず溜息をつく。
「制服着てたし、実際に見た感じは確かに高校生だったんですが、これじゃあ全然。」
「制服って、セーラー服?」 Sさんは悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「セーラー服です。でも、スカートは短すぎるし化粧してるし、邪道ですね。」
「あの、セーラー服の邪道って何ですか?」 姫が不思議そうな顔で俺を見る。
「いや、邪道っていうか、校則違反って意味で。多分化粧も違反だし。」
いくらSさんに乗せられたとは言え、危うくセーラー服嗜好を姫の前で。馬鹿か俺は。
まあ取り敢えずセーフ、それとなく掌で額の汗を拭う。

142『道標(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/09(日) 18:18:57 ID:BEI3CUXA0
 「校則が無い高校もあるわよ。とにかく、これは要らないのね。」 「はい。」
Sさんが俺の手からカードを取り、天井に向かって投げ上げた。何事か小声で呟く。
カードは空中に静止したまま炎に包まれ、灰も残さずに燃え尽きた。
「さて、洗濯の続き。」 Sさんはリビングを出て行った。
Sさんを追いかけようとする翠を姫が抱き上げる。
「お母しゃん、今忙しいから。お姉ちゃんと遊ぼうね〜。」
「Sさん、機嫌悪くしましたかね?」
「Sさんも、私も、怒ってなんかいないですよ。
Rさんの力が発現すれば、Rさんの本当の顔が見える人も増えます。
時々こんなことがあっても仕方ないって、覚悟しなきゃいけません。」
翠は姫の右肩に頭をもたせて眠そうにしている。
姫の横顔は少し寂しそうだ。胸の奥が痛くなる。
「外出した時、目立たなくしていられる方法ってありませんか?」
「う〜ん、難しいですね。そうしたらRさんの感覚もかなり鈍くなっちゃいます。
それにRさん、前に私に言ったじゃないですか。
『税金みたいなものだから我慢して下さい』って。」
「我慢、ですか。Sさんの護符に何か良いのがないですかね。女難除け、とか。」
「女難除けの護符だなんて。胡散臭い占い師じゃあるまいし。
それに、女の子に声掛けられること自体は女難じゃないでしょ。」
洗濯機の操作を終えたのか、Sさんがリビングに戻ってきた。
寝てしまった翠を姫から受けとって頬ずりをする。

143『道標(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/09(日) 18:20:37 ID:BEI3CUXA0
 「そう言えば、気になる占い師の話を聞いたんです。大学で。」
「どんな話?」
「街の占いハウスに、凄く良く当たる占い師がいるっていう話なんですけど。」
「占い師?占いハウスの?」
相鎚を打ってはいるが、Sさんはあまり興味が無さそうだ。
翠をソファに寝かせ、団扇でそっと扇ぐ。
「はい。ただ黙って座るだけで、何を占って欲しいのか当ててしまうそうです。」
「コールドリーディングとは違うんですか?」
姫をフォローするつもりで俺は口を挟んだ。一応、この辺りは自習済みだ。
女子大生が街の占い師を訪れたなら、それはまず恋愛関係の悩み。
次に友人関係の悩み、その次に家族関係の悩みだろう。取り敢えず人間関係に絞って
会話を進めれば『当てた』ように思わせるのはそれ程難しくないような気がする。

144『道標(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/09(日) 18:21:53 ID:BEI3CUXA0
 「それが、その占い師に占ってもらったのは私の大学の先生なんです。男の先生で。
噂を聞いて行ってみたら、本当に黙って座ってるだけで何を占って欲しいのか、
ぴたりと言い当てたって。相談は家族の事だったそうですけど。」
「名前や生年月日を聞いたり、書かせたりもしないんですね?」
「はい、そう言ってました。とにかく事前の情報は一切必要ないって。」
コールドリーディングは会話の上に成り立つ技術だ。
当然、会話がなければ相手の情報を得てそれを当てたように思わせることは出来ない。
「本物、なんでしょうか?」
「街中で営業してる占い師に本物がいるなんて思えないけど。」
「でも、沖縄出身の同期から同じような話を聞いたことがありますよ。
黙って座るだけでピタリと当てる占い師。ええと、ユタ。そう、ユタって言ってました。」
「確かに沖縄には一種のシャーマン文化がまだ色濃く残ってる。
その中に本物もいると聞いているけど、ここは沖縄じゃない。」
「沖縄にいるなら、ここにいてもおかしくないような気がしますが。」
実際、今俺の目の前に本物が2人もいる。それも、とびっきりの本物が。

145『道標(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/09(日) 18:23:22 ID:BEI3CUXA0
 「沖縄と北海道は別として、『上』は日本国内の術者と、
術者を生みだす家系の動向をほとんど全て把握してる。
私たちの一族だけでなく、それ以外の系統に関してもね。」
「どうして一族以外の系統まで把握する必要があるんですか?」
「単独で活動する術者を警戒してるんです。組織を離れたりして
単独で活動する術者はとても危険だから。」 少し姫の表情が曇る。
「危険?」 たとえ優れた術者でも単独で出来ることは限られる筈なのに。
「誰かに脅迫されて外法を使ったり、ということですか?」
「それもあります。でも、一番危険なのは単独の術者が業に呑まれた場合です。
組織に管理されていないので、処理されないまま暴走してしまいますから。」
「業に、呑まれる...」
「術者自身が悲しみや憎しみに囚われ、生きたまま不幸の輪廻に取り込まれた状態。
同じような状態の魂を取り込んで、不幸の輪廻に送り込む端末になってしまうの。
そうなったら、術者を処理する、つまり殺すしか方法は無い。」
俺は3人の女の子を殺した男のことを思い出した。もしあの男が術者だったら、
女の子たちの魂は間違いなく不幸の輪廻に取り込まれていただろう。

146『道標(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/09(日) 18:24:23 ID:BEI3CUXA0
 「『上』は北海道や沖縄についても術者を把握したいと考えているんですか?」
「沖縄には民間のシャーマンが多いから把握は難しいでしょうね。
ユタ、オガミサー、カミンチュ。ほとんどが女性がなのは興味深い。
その中にどれだけ本物がいるのか分からないけど。」
「Sさん、今カミンチュって?」 姫の表情が少し緊張している。
「そう、神の人って書いてカミンチュ。どうかした?」
「当たるっていう占い師は若い女性で、
大学の先生が『黙ってるのにどうして相談の内容が分かるの』って聞いたら
『私カミンチュだから』って答えたそうです。」
「じゃあ、沖縄の?」 その占い師が沖縄から移住してきたという可能性は当然ある。
「もし沖縄の...それが本物なら、単独かどうかを確認しなきゃいけないわね。
R君、Lと一緒に確認してくれる?L、どこの占いハウスなのか先生に聞いてきて頂戴。」

147『道標(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/09(日) 18:25:19 ID:BEI3CUXA0
 「かなりの評判みたいですね。通常の時間では予約が取れなくて、
追加料金で時間外の予約を取りました。明日の午前11時です。Rさん、大丈夫ですか?」
「はい、明日の修行は午後なので全然問題ないです。
でも、本当に本物なのか、何となくドキドキしますね。不謹慎かもしれませんが。」
「もし本物で、単独の術者だったら、きっとその後が面倒ですよ。
Sさんが確認してくれると思いますが、まず間違いなく『上』から指示が来ます。」
上ずっていた気持ちが一瞬で冷めた。そうだ、危険な存在は放置できない。
「どんな、指示ですか?」
「力の強さによります。力が弱ければ経過観察でも良いと思いますが、
強ければ力を封じる必要があるかも知れませんね。これは気が重いです。」
「術で力を...相手の体に代を封じて魂の活動を制限するんですね?」
「そうです。あまり使いたくはないですが、仕方有りません。」
魂や命の操作。それは術者の寿命を削る術だ。
「『禁呪』なんですか?」
「はい。結果的に相手を助ける事になるとしても、
無理矢理に相手の力を封じるのは気分の良いものではないです。
相手が抵抗したら、こちらの身に危険が及ぶ場合も有るでしょうし。」
もしその役目がSさんか姫に任されたとしたら、俺は。
「本物じゃない方が、良いですね。」
「はい。」

『道標(上)』 了

148 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/09(日) 18:27:52 ID:BEI3CUXA0
藍です。早速題名でしくじってしまいましたが、
お付き合い頂いた皆様、ありがとう御座います。
今夜はこれで失礼致します。

149名無しさん:2013/06/09(日) 20:42:41 ID:XWBJxoqE0
おお、さっそく新作が。ありがとうございます。

この物語がどのあたりまで本当なのかと想像するのが楽しいですね。

と、その路線で想像すると藍さんがお話にまったく出てこないのは不思議ですね

藍さんがPC練習中の姫様だったら面白いなーとか思います

150名無しさん:2013/06/09(日) 22:27:39 ID:TiqilcTs0
藍姫様ありがとうございました。
これからの展開にわくわくします。

151名無しさん:2013/06/10(月) 12:19:25 ID:gXeVGCNc0
藍姫様WW

152名無しさん:2013/06/10(月) 20:26:54 ID:iurNAVRw0
藍姫様いいかもww

新作お疲れ様でした。相変わらず、続きが気になる作品でわくわくが止まりません、お身体労って頑張って下さい。

153 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/10(月) 22:33:38 ID:WPsDD/nU0
皆様、今晩は。藍です。

>>当掲示板の管理人様
『卯の花腐し(下)(結)』と『誓詞』、まとめサイトへのUP、心から感謝致します。
当初『卯の花腐し(中)』としてまとめられていたのが、
(中①)(中②)とまとめ直して頂いたことにも驚きました。
このような対応をして頂く度に、この掲示板に投稿出来て良かったと思います。

>>134
早々にコメントを頂きながらレスが遅れて申し訳ありません。
ご期待頂いたことが新作の投稿に繋がっていると思います。
ありがとう御座いました。

>>150
>>151
>>152
温かいコメントには感謝致します。
しかし、「藍姫」や「藍姫様」という呼び方には、性別以外に
一致する点がないのを私自身が自覚しております。
出来れば「藍」や「藍さん」と呼んで頂くようお願い致します。

154名無しさん:2013/06/10(月) 22:36:05 ID:gXeVGCNc0
うん、良い反応(OK)WW

>「出来れば「藍」や「藍さん」と呼んで頂くようお願い致します。 」

155 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/10(月) 22:53:01 ID:WPsDD/nU0
>>149
過去スレにも書き込みました通り
これら一連の作品群は、作者である知人曰く『実話に基づく創作』です。
その点を確認した時、知人はこれらの作品を
『依頼に基づいてある人物へのインタビューを書き取ったもの』と説明しました。
そして『これ以上の詮索はしないのが作品を読む条件』とも。
字義通りに取れば、主人公の1人である『R君』と知人は同一人物ではない、
(あるいは同一人物ではないという設定)と言うことになります。
当然、私はこの話の中に登場する人物ではありませんが、
物語を楽しむ上で足しになるなら、どのような想像も有りかと思います。
私自身、この物語の世界で生活できたらと、心から思います。
今後も、温かく深いコメントを頂ければ幸いです。

156 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/10(月) 23:02:28 ID:WPsDD/nU0
>>154
「良い反応」の基準は分かりませんが、OKを頂き感謝致します。

157名無しさん:2013/06/10(月) 23:30:31 ID:/o/zSlWUO
あの世とこの世、夢とうつつ、光と影、善と悪、愛と憎しみ、創作と実話。
もともとすべては紙一重。
いとめずらしき神と人との物語を、語り部の言の葉の続く限り、ただただ楽しんで参りましょう。

158名無しさん:2013/06/11(火) 01:39:44 ID:ODFFWMOs0
ふ、一瞬背筋が凍りました

過去スレ全部読んで注意書きを調べてしまったです

想像と詮索の境界に関しては多少のご寛恕を頂きたいところです

公開に関しまして、自分の態度が影響しないことを祈っています。失礼しました

>「そして『これ以上の詮索はしないのが作品を読む条件』とも。」

159 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/11(火) 06:30:20 ID:LBhz3as60
>>157
温かいコメント、ありがとう御座います。
(中)の準備、順調ですのでご期待下さい。

>>158
舌足らずで申し訳ありません。
『詮索しない』と約束したのは知人と私です。
公の場で投稿しておりますので、読者様が自由に想像したり
調べたりするのは作品を楽しむ上で大事な要素だと思います。
今後も色々と想像してお楽しみ頂ければ幸いです。

160 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/11(火) 18:18:13 ID:LBhz3as60
皆様、こんばんは。藍です。

今日は急に休みになったので作業が進みましたが、
代わりに週末は出勤です。週末に投稿しようと思っていた分を前倒しで投稿致します。
以下『道標(中)』、お楽しみ頂ければ幸いです。

161『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/11(火) 18:19:37 ID:LBhz3as60
『道標(中)』

 その占いハウスは繁華街の裏通りにあった。
自動ドアをくぐると左側に受付。建物の奥に向かって廊下が伸びている。
廊下の両側には色とりどりのドアが並んでいた。あれがそれぞれの占い師の部屋だろう。
「あの、11時に予約したLとRですが。」
「はい、ノロタンさんの予約ですね。料金は前払いでお願いします。」
時間外の予約は結構あるのか、受付の女性はにこやかに対応してくれた。
「ノロタンさんは『青の部屋』です。部屋の中に入ったら座ってお待ち下さい。
ノロタンさんが声を掛けるまで黙っていて下さいね。」
「本当に、相談の内容を当てるんですか?」
「はい、相談したお客さんは皆そう言います。評判良いですよ。では、どうぞ奥へ。」
廊下を進むと右側の一番奥に青いドアが見えた。突然姫が立ち止まる。
「どうしたんですか?」
「残念ながら、本物です。念のため『鍵』を掛けて下さい。」

162『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/11(火) 18:20:36 ID:LBhz3as60
 ドアをノックする。 「どうぞ。」 若い女性の声。
ドアを開けると手前にイスが2つ、テーブル、奥にイスがもう1つ。
奥のイスの向こうは水色のカーテンで仕切られている。その向こうで人の気配。
「最初に相談の内容を見ます。座って待ってて下さい。」
姫と並んでイスに座る。安っぽいアルミのパイプイス。
テーブルの上には小さな籐のカゴ、中には沢山のカードとボールペンが一本。
姫がカードを一枚取り、左手の人差し指を唇にあてたまま俺の前に置いた。
若い女性の写真、電話番号、メールアドレス。 筆記体の太文字。 『Norotan』 これは。
あの時、少女が俺の胸ポケットに押し込んだカードだ。
なら、カーテンの向こうにいる占い師というのは。

163『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/11(火) 18:21:54 ID:LBhz3as60
 「おかしい、何にも見えない。こんなの初めて、何かの悪戯?」
カーテンが開いた。
「あ、あの時のお兄さん。」 「君だったのか。」
相変わらず派手目の化粧。私服だと、とても高校生には見えない。
少女は俺をじっと見つめた。あの時より、ずっと強い力を感じる。
「ふーん、心を読まれないように出来るんだ。お兄さんも私の同類ってことね。
そっか、沖縄にいるなら本土にカミンチュがいてもおかしくないよね。」
少女は姫をチラリと見て、俺に視線を戻した。テーブルの向こうのイスに座る。
「これが奥さん?綺麗な人、若いし。で、要件は何?
心を読まれないようにしてるんだから、何かを占って欲しい訳じゃないんでしょ。」
「1つは君の力が本物かどうか確かめること。」
「本物。お兄さん達が私と同類なら、もう分かってるはず。」
「もう1つは君が組織に属しているかどうか確かめること。」
「組織...もしかして私の事スカウトに来たの?考えても良いな。ギャラ次第だけど。
客取られた古株達がウザくて、最近ここ居づらいから。やっぱり占いの仕事?」
「あのさ、こんな事に力を使ってるとまずいことになるよ。
君を信じた誰かが、とんでもない相談を持ち込むかも知れないだろ。」
「ホントに危ない相談なら逃げれば良い。部屋の奥に非常口あるし。」

164『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/11(火) 18:25:48 ID:LBhz3as60
 「力を持つ者は、力をコントロールする方法を身につけなければならない。
でも、あなたにはその気がない。」
ゾッとするような冷たい声だ。姫のこんなに厳しい表情は初めて見る。
「他人に対して力を使う者は、その結果に責任を持たなければならない。
でも、あなたにはその覚悟がない。」
少女は驚いたような顔をしたが、すぐに皮肉な笑みを浮かべた。
「若いのに、言ってることがおばあさんみたい。
1回20分の占い。そんなんで力をコントロールする必要なんて、ある訳ない。」
「使い始めて1年くらいの間は、使えば使うだけ力が少しずつ強くなる。
1回20分、それで1日何人の相手してるの?週4日、予約が取れないほどの回数。
それだけのトレーニングをしたら、ここで占いを始めた時より、
今はもっと、ずっとハッキリ見えるようになってるはず。そうでしょ?」
少女の顔に微かな怯えが見えた。
「そりゃ前より楽に見えるようにはなったけど、それが。」
姫はポーチの中から白い小さな袋を取り出して少女の前に置いた。
「強い力には色々なものが寄って来る。夜、灯りに集まる虫たちのように。
おかしな事が起こったら、この袋の中身を部屋の四隅に置いて。それと。」
カゴからボールペンを取り出し、さっきのカードに数字を書き込む。
「どうにもならないと思ったら、此処に電話して。私の携帯。」
カードを白い袋の隣に置いて立ち上がり、そのまま部屋から出て行く。俺も立ち上がった。
「何なの、あの人。」 少女の顔は青ざめていた。
「陰陽師、超一流の。怒らせると、とても、怖い人だ。それから君。
目上の人と話す時は、もう少し言葉遣いに気を付けた方が良いよ。」


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