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怖い話Part2

1名無しさん:2013/04/11(木) 20:47:22 ID:kJlroZZA0
霊的な怖い話を集めてみましょう

前スレ
http://jbbs.livedoor.jp/study/9405/storage/1209619007.html

270 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/26(水) 00:15:05 ID:JGC1Aft20
 皆様、こんばんは。藍です。
何故だか全く分かりませんが、突然コメントが増えて正直困惑しております。
『楽しむためならどんな想像もアリ』とは書いたものの、ヒヤリとする内容も多く、
個別のレスを控えざるを得ない状況になりました、文字通り嬉しい悲鳴です。
ただ、以前と変わらず、全てのコメントを有り難く読ませて頂いております。
また、知人もこの掲示板を閲覧しておりますので
皆様のご期待が今回の投稿に繋がったとものと存じます。
この場を借りて、皆様に心からの感謝を。本当にありがとう御座いました。

 さて、準備が出来ましたので11話目を投稿致します。
前述致しましたが、一話完結の掌編です。
『道標(結)』に続く作品ですので、季節が盛大にずれてしまいました。
知人は「正月に合わせて投稿した方が良いのに」と愚痴っておりましたが、
幾ら何でもそんな気の長いことは出来ません。
それでは以下、『呪物』。お楽しみ頂ければ幸いです。

271 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/26(水) 00:16:19 ID:JGC1Aft20
『呪物』

 「正月早々かなり珍しい仕事が来たわよ。もし本物なら、だけど。」
電話を切ったSさんが明るい笑顔でリビングに戻ってきた。
「どんな仕事ですか?私とRさんで出来る仕事なら何でも。」
姫はSさんの体を気遣っている。Sさんは妊娠5ヶ月目に入っていた。
「呪物の処理はLやR君の分野じゃない。この仕事はどうしても私が行かないと。」
Sさんは何だか楽しそうだ。まあ、検診の結果は順調だし、
やる気になっているのは、何より体調の良い証拠だろうけれど。
「場所、遠いんですか?呪物なら依頼人に持って来てもらうという方法も。」
「依頼人は私の従姉弟たちなの。前から翠とR君に会いたいって言われてたし、
良い機会だからみんなで出掛けましょ。私、体調は良い。全然平気。」
「従姉弟たちって、もしかして碧(あおい)さんと暁(あきら)君ですか?」
「そう、久し振りよね。R君と翠は初めてだから紹介してあげる。」

272『呪物』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/26(水) 00:19:32 ID:JGC1Aft20
 40分程車を走らせて、市街地の山手にある閑静な住宅街に着いた。
広いガレージに車を停め、玄関に廻る。Sさんがインターホンのボタンを押した。
「はい、どなた?」 「私よ、S。早速みんなで押しかけてきたわ。」
「ちょっと、じゃ、翠ちゃんも一緒なの?」
応答が途切れ、玄関の向こうで気配が勢いよく近づいて来る。 ドアが開いた。
「いらっしゃい。あ、ホントだ。」 女性はしゃがんで翠と視線を合わせた。
「翠ちゃん、こんにちは。」 「こんにちは。」 「可愛い〜。ね、抱っこして良い?」
人見知りした翠が姫の脚の後ろに隠れてしまったので女性は立ち上がった。
「ま、初めてだから仕方ないか。S、Lちゃん、久し振り。」
華やかな笑顔。2人とはタイプが違うがこの人も美人だ。
くっきりした目鼻立ち、背の高さは姫と同じくらい。宝塚の男役みたいな雰囲気。
「本当に久し振り。紹介するわ、こちらがR君。」
「初めまして、Rです。」
一礼して顔を上げると女性の顔が目の前にあった。思わず後ずさる。
「ふ〜ん、なかなかの美形ね。君が今一族中で話題の言霊使いなんだ。
さすがに2人とも御目が高い。私、碧。宜しくね。」
「姉さん、Sさんはお腹に赤ちゃんがいるんでしょ。立ち話は良くないよ。」
玄関の奥に少年が立っていた。姉弟だから当然だが、かなりの美少年だ。
高校生? どちらかというと女顔で線が細い。 ちょっとコンプレックスが。
「あ、御免なさい。私ったら気が利かなくて。これ、弟の暁。さ、中へ入って。早く早く。」

273『呪物』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/26(水) 00:21:57 ID:JGC1Aft20
 案内された客間でソファに腰掛けた。
とにかく広い、豪華なソファとテーブル。翠は姫に抱かれて飾り棚の中身に興味津々。
やがてコーヒーとケーキが運ばれてきて雑談になった。
お互いの近況や俺の裁許のこと、そして翠のこと。Sさんと碧さんはとても楽しそうだ。
碧さんと暁君は術者ではないらしい。御両親が海外に長期出張、始めは一家で移住したが
暁君の高校進学を機に碧さんと暁君は帰国。去年の3月から2人暮らしを始めた。
一族の人で術者ではない人に会うのは初めてだ。何だか普通の会話が新鮮に感じる。
ふと、暁君の視線に気が付いた。時折Sさんに向けられる憧憬の眼差し。
純粋な慕情が伝わってくる。Sさんは暁君の初恋の人、なのかも知れない。
「さて、おしゃべりも楽しいけど、そろそろ仕事の話をしないと。」
「そうね、お願い。」
テーブルの上が片づけられ、暁君以外は全員ソファに腰掛けた。
飾り棚の中身に飽きた翠は姫に抱かれて眠そうにしている。
「今、暁が取りに行ってる。怪しいと思ってからはずっと『保管庫』に入れてあったから。」
「ホントに呪物なの?」 「分からないけど、ちょっと嫌な感じ。あんなの初めて。」
暁君が応接間に戻ってきた。白い布の包みを持っている。
「これです。」 テーブルの上で包みを解く。 トランプ?
厚手の紙にレトロな絵柄のトランプだ。箱もある。状態は良いが、古いものなのだろうか。
「暁君、これ、何処で?」 Sさんの眼が輝いている。
「去年のクリスマス前にネットのオークションで手に入れました。
もしかしたら19世紀のものかも知れません。安かったし、状態が良かったから
レプリカだと思ってたんですけど、どうもオリジナルの木版印刷みたいで。」
少年は緊張した口調で答えた。頬が少し赤く染まっている。
なるほど、暁君と碧さんの趣味はアンティークの収集と言う訳だ。
飾り棚の中、綺麗にディスプレイされたチェスの駒やタロットカードも2人の収集物だろう。

274『呪物』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/26(水) 00:25:21 ID:JGC1Aft20
 「どうしてこれが呪物だと思ったの?」
「手に取ると、凄く嫌な感じがするんです。絵や模様はとても、綺麗なのに。」
Sさんがトランプを手に取った。慣れた手つきでシャッフルし、扇形にカードを広げる。
途端に全身の毛が逆立った。
このトランプはまるで『窓』だ。 窓の向こう側にいる、何者かの、禍々しい気配。
そして今、少しだけ開いた窓の隙間から『それ』がこちらの様子を窺っている。
カードを配ってゲームを始めれば、間違いなく『それ』は窓から手を伸ばしてくる。
「確かに呪物ね。それもかなり強力。呪物を使う呪いは、時間と相手を限定できないから
成功率はそれほど高くないし、作るのにも手間がかかる。本物は滅多に無いんだけど。」
「本物って、それ持ってるとやっぱり悪いことが起こるの?」
「『保管庫』に入れておく分には問題無い。でも、手に取ったり眺めたりすると影響を受ける。
遅かれ早かれ体を壊すし、心も蝕まれる。 強い呪いを封じて、呪う相手に贈ったもの。
作られてから、多分100年以上は経ってるのに力はほとんど弱まっていない。
使用された痕跡は感じない。多分、想定外の事態が起きて倉庫か屋根裏にでも埋もれてた。
これを贈られた人はとても運が良かったのね。それに、運が良いのは暁君と碧も同じ。
変だと感じて、直ぐにこれを『保管庫』に入れておいたのは正しい判断だった。」
「あの、やっぱり焚き上げないと駄目ですか?」 暁君は不安そうな表情だ。
駄目どころか、一刻も早く処理しないといけない気がするが、
暁君はそこまで強い気配や憎悪を感じていないということだろう。
術者ではないのだから無理もないし、変だと感じただけで大したものだ。
「焚き上げると中の呪いが解放されるから何が起こるか分からない。却って危険なの。」
そうか、焚き上げるだけで良いのなら、Sさんでなければならない理由はない。
「でも呪いの力を消してしまえば、これは呪物ではなく洒落たアンティークのトランプ。」
暁君はホッとした表情を浮かべた。

275『呪物』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/26(水) 00:29:18 ID:JGC1Aft20
 Sさんが白い布の4隅に星のような形の紙片を置く。 初めて見る特殊な結界。
眼を閉じて深く息を吸った。小声で何事か呟き、胸の前で印を結ぶ。微笑んで眼を開けた。
「見てて、もうすぐよ。」
やがて、扇形に広げられたカードの端に小さな炎が見えた。
炎は次第に勢いを増し、カード全体が炎に包まれた。
しかし、全く熱気を感じないし、カードや白い布が焦げる事もない。
驚いて何か言いかけた碧さんと暁君に、Sさんが『黙ってて』の合図を送る。
突然、トランプの上、50cmほどの高さに小さな紫色の光が現れた。
それは、一度強く輝いた後、ゆっくりと降下し、
白い布の上で小さく跳ねて輝き続ける。まるで紫色の火花のようだ。
もう一つ、また一つ。見る間に無数の小さな光が白い布へ舞い降りてゆく。
その幾つかは白い布から零れ落ちて、テーブルの上で輝いている。
しかし何故かカードの上には一つも降下しない。
「とても、綺麗。これが、『○◆の雪』。初めて見ました。」 姫は小さく溜息をついた。
小さな紫色の光が舞い降りるにつれ、カードを包む炎の勢いは弱まっていく。
しばらくすると降下する光の数は減り、ついには現れなくなった。
白い布やテーブルの上の光もかなり輝きを弱めている。カードを包む炎も消えた。
「これで良し。光が見えなくなったらそれでお終い。」

276『呪物』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/26(水) 00:31:31 ID:JGC1Aft20
 「『○◆の雪』って」 「さっきカードに火が」
碧さんと暁君が同時に口を開き、顔を見合わせた。
2人が笑い合う仕草が実に絵になる。まるでドラマのワンシーンみたいだ。
とても仲の良い姉弟なのだろう。2人の間の特別な、強い絆を感じる。
「あの炎はカードに込められていた呪いが形をとったもの。
呪いのエネルギーを光に還元したから炎は消えた。もう大丈夫。
もう暫く、そうね、あと30分もすれば暁君が触っても、全然障りはない。」
「ありがとう御座いました。」 暁君は丁寧に頭を下げた。
「どう致しまして。アンティークはどうしても色々あるから、変だと思ったらすぐに連絡して。
呪物じゃなくても、何か問題があれば対応してあげる。」
「はい。」 満面の笑み、暁君は本当に嬉しそうだ。
「呪物の処理ってもっと時間が掛かると思ってたわ。何十年とか。」
「厳重に保管して呪いが弱まるのを待つだけなら、術者に頼む意味が無いでしょ。
そのままで置いておくと呪いが弱まるのにはすごく時間がかかるし、
下手をするとその間にも被害者が出てしまう。やり方は色々あるけど、さっきのが一番早い。」
「本当にありがとう。あ、お昼ご飯食べていくよね?
美味しいお節があるの。さ、支度するから暁も手伝って。」 「はい。」
2人は慌ただしく応接間を出て行った。廊下を走る足音。

277『呪物』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/26(水) 00:33:31 ID:JGC1Aft20
 「相変わらずね。気が早くて、自分勝手で。」 Sさんは懐かしそうに微笑んだ。
確かに、従姉妹だけあって碧さんはSさんと少し似ている。気が早くて、あ。
「R君、何か?」
「いや、その、碧さんはすごくきれいな人で。Sさんに少し似てると思っただけです。
暁君もすごいイケメンですよね。」
考えてみれば一族の人たちは皆、美男美女揃いだ。
当主さまの館でドアを開けてくれた男性も、案内してくれた少女もそうだった。
「そう言えば、どうして一族の人は美男美女ばかりなんでしょうね?」
炎という名の男、俺とSさんの前に現れたその分身も、時代劇の二枚目みたいな美形だった。
「多分進化論よ、ダーウィンの。」 「進化論?」
「R君だって、依頼するなら美人の術者に依頼したいでしょ?男性の術者でも同じ。
力が同じなら当然美形の方が依頼が多い。依頼が多ければ経済的に余裕が出来るから
綺麗な女性を何人も妻に娶ってたくさんの子を残すことが出来る。
1000年近くそれが繰り返されてきたんだから、あたりまえなのかも。」
「依頼人の印象を良くするための適応ってことですか?」
「印象を良くするというより信頼を得やすくするための適応。
陰陽師にはカウンセラー的な資質も要求されるから、術者が美形なほど有利。
依頼人が術者ともっと深い関わりを持ちたいと思うほど術の成功率は高まる。当然よね。
逆に、依頼人に信頼して貰えなければ術の成功率も落ちてしまう。」
なるほど、道理だ。 「まずは依頼人に信頼されるのが大切、なんですね。」

278『呪物』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/26(水) 00:36:12 ID:JGC1Aft20
 「そう、依頼人の前で何か簡単な術を使って見せても良いけど、
できれば無駄な力は使いたくない。だからこんな方法を使うこともある。」
Sさんはカードを手に取り、シャッフルしてから扇形にひろげた。
最初に感じた禍々しい気配や憎悪は、もうほとんど感じられない。
「一枚取って何のカードか憶えておいて。私に見えないように。」
姫に抱かれて寝ていた翠が眼を覚まし、姫と一緒にSさんの手元を見つめている。
カードを一枚取り、Sさんに見えないようにそっとめくった。ハートの3だ。
「憶えたらカードをここに。」
テーブルの上に置かれたカードは2つの山に分けられていた。
Sさんが指さしたのはカードが多い方の山だ。
カードをのせるともう一方のカードの山を更に重ねた。シャッフル、手の動きが美しい。
やがてSさんはテーブルの上にカードをまとめて置いた。
「あなたの選んだカードはこれ。」 一番上のカードをめくる。 ハートの3。
「手品、なんですか?」
「そう、手品。今のはこうしたの。」
Sさんは扇形に開いたカードを2つに分けた。
「こっちは10枚、これを選んだカードにのせて10回シャッフルするふりをする。」
なるほど、一番上のカードを一枚ずつ取って行けば、10回目には選んだカードが一番上だ。
「もっと高等なトリックもあるけど、カードを手に持って当てるなら手品で十分、術は必要ない。
虚仮威しだけど安上がりで効果は高い。お得よね。」

279『呪物』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/26(水) 00:37:44 ID:JGC1Aft20
 「術を使うのなら、全く手を触れなくても当てられますか?」
「もちろん。じゃ、こういうのはどう?あなたが思い浮かべたカードを当てるの。
私だけじゃなく、あなたもカードには手を触れない。面白いでしょ。」
Sさんが真っ直ぐに俺を見つめる。綺麗な目、ドキドキして思わず目を逸らした。
集中してカードを思い浮かべる。 できるだけ地味なカードが良いのか、いやいっそ。
「ダイヤの6」 「正解です。」
「クラブの2」 「また、正解です。」
Sさんが俺の意識に同調した気配はない。どうやって俺の心を読んでいるのだろう?
「心を読んでいるんじゃありません。」 翠と並んで座った姫が微笑んだ。
「じゃあ何で思い浮かべたカードを?」
「カードを1枚選んで憶えて下さい。憶えたら裏返しにしてテーブルの上に。」
カードを一枚取り、憶えてから裏返しにしてテーブルの上に置く。
一呼吸置いて、Sさんは言った。
「スペードのJ。」 「正解です。」 「じゃあもう一度。そのカードはここに。」
俺はSさんに渡すつもりでカードに触れた。
「待って。」 「え?」

280『呪物』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/26(水) 00:40:07 ID:JGC1Aft20
 Sさんの眼がキラキラと輝いている。 「それ、本当にスペードのJ?」
どういう意味だ。 首筋がヒヤッと冷たくなる。 さっき、俺は確かに。
そっとテーブルの上のカードをめくった。 これは。
クラブの4、だ。 「何を、したんです?」
「Rさんが選んだのは確かにそれですけど、Sさんは『声』でRさんの記憶を変えたんです。」
「そう、『スペードのJ』って指定されたから、選んだのはスペードのJだったと思い込んだ。」
「いや、でもおかしいですよ時間的に。『声』を聞くのは選んだ後なんですから。」
「電話が鳴ってる夢を見て、起きたら目覚ましが鳴ってた。経験ない?
あれ、本当は音を聞いてから電話が鳴る夢を見てる。時間的には逆だけど。」
「あ。」
『声』を聞いた後に、そのカードを選んだ記憶を作った? しかも俺自身が?
「脳は何時だって都合良く記憶を変える。それを利用した術。だから絶対に、間違えない。」
「相手の心を読むより、高等な術なんですね?」
「ご名答。やっと調子出てきたわね。あんまり得意な術ではないし、同じ結果を得るために
複数の方法があるなら、力を節約出来る方法を選ぶのが鉄則なんだけど。今日は特別。」
俺の記憶を変えられる。もちろん心も読める。なら。
「僕が『これから選ぶカード』も、指定出来ますか?」
未来なら俺の心を読むことはできないし、『声』を聞くのは選ぶ前だから記憶とも関係ない。
俺の思惑を見透かしたように、Sさんは悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

281『呪物』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/26(水) 00:43:05 ID:JGC1Aft20
 「折角のお正月だし、良いわよ。それ、見せてあげても。
ただ、仕事した後だし、少し面倒な術だからR君も力を貸して。それが条件、どう?」
「もちろんOKです。Sさんの体に障ったら大変ですから。」
「じゃ右手を。」 俺が差し出した手を取って眼を閉じた。温かい。
やがて眼を開けたSさんは俺の手を離し、かなりの時間をかけて一枚のカードを探し出した。
アンティークの価値を損ねないための配慮だろう。 とても丁寧な手つきだ。
選んだカードを左掌に載せて、俺の目の前に差し出す。
カード中央の大きなハートを取り囲む美しい唐草模様。そして筆記体の文字。
「あなたが選ぶカードはこれ。ハートのA。」
裏返したカードを戻してシャッフルし、扇形に開いてテーブルに置く。
「さ、選んで。」
ハートのAを選ぶつもりでいればいいのか、それともそれ以外を選ぶつもりで。
「お待たせ。食事の用意が出来たわよ、みんなダイニングに。
あれ、R君、トランプで何やってるの?」
「あ、え〜と、これは、占い。そう、占いです。」
「翠ちゃんも一緒にトランプ占いしたいのかな?」
いつの間にか翠がテーブルの脇に立っていた。
「あっ、翠、ちょっと、今それお父さんが。」
無造作にカードを一枚取り、てててっと歩いて碧さんに手渡す。
ちらりと赤い色が見えた。 ハート? 一気に心臓の鼓動が早くなる。
「わ〜嬉しい。翠ちゃんありがと。R君、これ、絶対良いカードでしょ?どんな運勢?」
碧さんが持っているのは、ハートのA。 まさか。 軽い目眩。

282『呪物』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/26(水) 00:47:11 ID:JGC1Aft20
 これまでも、Sさんは前もって術をかけ、俺の意識や行動を操作したことがある。
今回もその術を使えば俺自身がカードの中からハートのAを探し出し、
そして自分がカードを探したこと自体を忘れてしまうだろう。
つまり、我に返った俺はいつの間にかハートのAを持っている。
だからSさんは俺の手に触れる必要があった。そう、予想していた。
しかし、カードを取ったのは翠だ。あの術ではない。
誰が選んでも、最初のカードはハートのA。 それを、予知していたのか?
いや、あり得ない。
神や高位の精霊なら知らず、人間にとって、未来は無数の偶然と選択肢の積み重ねであり、
確定してはいない。確定していないのに、予知することは不可能だ。そう、例えSさんでも。
それなら、残る答えは1つ。手元のカードを一枚めくる。ハートのA、やっぱり。
もう一枚、これもハートのA。さらにもう一枚、やはりハートのA。笑いがこみ上げてくる。

283『呪物』 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/26(水) 00:51:38 ID:JGC1Aft20
 初めて見た。 そして、恐らく二度とは見られない、ハートのAのフォーカード。
これも一種の後催眠暗示だ、『声』による視覚の操作。 凄い、面白過ぎる。
「あとどのくらい、この状態が続くんですか?」
「からくりが分かったなら、もう見えるはずよ。」
いったん目を閉じて深呼吸、ゆっくりと目を開ける。
碧さんが持っているのはハートのK。
俺の前にある3枚のカードはハートのJ、ハートの10、そして、ハートのA。
え、本物の、ハートのA?
Sさんは得意そうに微笑んで、一枚のカードを取った。ゆっくりとめくる。
ハートのQ。
「はい、これで完成。 お正月らしい、お目出度い役でしょ? 呪物の始末もこれで完璧。」

『呪物』 完

284 ◆iF1EyBLnoU:2013/06/26(水) 00:56:35 ID:JGC1Aft20
 お約束のように出だしの題名で躓きましたが、
今回も無事に投稿を完了できて有り難く思います。
明日から週末にかけて多忙となり、失礼を致します。
ありがとう御座いました。

285名無しさん:2013/06/26(水) 01:00:08 ID:S7ptmiUk0
藍さんこんばんわー。UP乙です。

>ヒヤリとする内容も多く、個別のレスを控えざるを得ない状況になりました、文字通り嬉しい悲鳴です。

勿論藍さん、まずい事はスルーで(笑)大変な事になってしまいます

>知人もこの掲示板を閲覧しておりますので

ゲロゲロッ(汗)私の危惧も勿論そこにありましたが、私を含め皆妄想が抑えれませんでした。
今のところ、原稿提供の意欲減退の直接の原因にはならなそうでホッとしています

知人さんも有難うございました。

286名無しさん:2013/06/26(水) 01:30:08 ID:S7ptmiUk0
な・・・なんという恐ろしい術なのだ・・・

SさんがR氏の浮気を防止しようと思ったら、エロ本や、街中の女性をみんな高木ブーに見えるようにすればいいだけなのか・・

287名無しさん:2013/06/26(水) 09:17:20 ID:.oDWp29UO
藍さん知人さんありがとうございました。
ハートのエースのフォーカードは高度な催眠術とでもいうか、言霊の力を持つRさんがこれをマスターすればもっとすごいんでしょうね。この応用編がまたどこかでみられるのでしょうか。今回もとても面白かったです。

288名無しさん:2013/06/26(水) 16:50:21 ID:S7ptmiUk0
応用すれエピメニデスの逆説=究極の選択が出来るな。

うん○味のカレーと、カレー味のうん○WW

ハートのエースって、実際には別のカードだったかもしれませんね。

ハートのエースが出てこなーいって曲にかけたのかも

289名無しさん:2013/06/27(木) 00:24:13 ID:2gYbyW8w0
怖い話。
ひょっとしとしら、実は私たち読者も術にかけられてたりして。
ほら、管さんが光の管(ケーブル)を通ってやってくる・・・。

290枯れ木も山の賑わい:2013/06/27(木) 01:04:49 ID:kIfH4iNs0
藍さん、新作乙です。

291枯れ木も山の賑わい:2013/06/27(木) 01:43:37 ID:kIfH4iNs0
掌編とは「短いお話」というほどの意味でしょうか?でも、凄く興味深いお話です。
ハートのAの4カード、当然R君自身が有り得ない役だと気付いていますね。
しかし、SさんがハートのQをめくって完成したハートのロイヤルストレートフラッシュが
Sさんの術によるものなら、この術は最初から2重構造。

呪物だった力の残滓を利用しながら、このトランプを祝福されたアンティークへと変化させる。
どんな人も物も、決して雑に扱うことのない、いかにも、Sさんらしい術。本当に素敵ですねぇ。

292名無しさん:2013/06/27(木) 02:52:22 ID:k/bWlXv60
藍さん
お忙しい中、投稿ありがとうございます。
知人さん
毎回、話に引き込まれています。
今後も、無理をしない範囲で、よろしくお願いしますm(_ _)m

293名無しさん:2013/06/29(土) 11:15:01 ID:U0qBlWKUO
昔の術師はトランプでなく花札でこれをやってたんでしょうね。梅に鶯のフォーカードとか…。

294名無しさん:2013/06/30(日) 12:04:16 ID:7Nd6kNRs0
精神干渉の力が強かったKさん

Sさんの今回の術は、本来のRさんとKさんの戦いだった可能性を示唆している

記憶や感情を入れ替えることが出来る攻撃の可能性もあったのだ。

RさんどんだけイケメンなのよWWW

295名無しさん:2013/06/30(日) 23:27:35 ID:7HSyv42Q0
 「出会い(下)」、Kさんの最後の干渉と、Rさんの対応は印象的な場面です。
記憶や感情を入れ替える攻撃を予想し、Sさんは反撃の準備をして罠を掛けていた。
しかし、Kさんは術士としてでなく、ただ、1人の女性としてRさんに会いたかった。
だから、Sさんには反撃の方法が無かった。

 もし、Rさんが「行くよ、一緒に。」と言わなかったとしたら、結末は変わったでしょうか?
Rさんなら、必ずそう言ったと思うし、それがRさんが「心の」イケメンである所以でしょう。
でも、読み返す度に、そう考えてしまうのです。もしも、と。

 さて、この一族が「生きている存在」に対して使う術は、ほとんど精神に干渉する系統ですね。
その術の詳細が一部明らかになったと言う点で「呪物」は私にとって重要な作品です。
藍さん、知人さん。次回作、心から期待しています。

296黒い瞳:2013/07/01(月) 00:12:18 ID:.LmJ2Sko0
不思議な体験をした
オチはない
たまに思い出すので文章にして
曖昧な記憶を確定して残したいから
書かせて下さい

創作じゃなく実体験です

社会人になって結婚して
5年ほどたった頃

妻と近所の家電量販店に出かけた
163号線の近くで
駅で言えば京阪線の古川橋駅

妻が商品を物色している間
私は特に見る物も無く手持無沙汰に
突っ立っていた

私の目の前には電池が並んでいて
棚の一番下の段には
安い電池が無造作にカゴに入っていた

私の足元でそのカゴを覗きこんでいる女の子がいた
見た感じ小学校1年生くらいかな
歳で言えば7歳くらいの女の子

その子が急に顔を上げて
私を覗きこむように見上げて
ニッコリと笑った
本当に楽しそうな顔で私に笑顔を見せた

私は大人なので
笑顔を返してやるべきだったんだけど
それが出来なかった
その事は今となっても後悔している

297黒い瞳:2013/07/01(月) 00:14:54 ID:.LmJ2Sko0
その子は障害持っているようだった
ご両親と一緒に来ていたんだけど
言葉をちゃんと話せていない

本当に可愛らしい顔をしていた
でも
笑顔を向けられた時
私は気持ちの悪い物を見たという
驚きのような嫌な表情で
その子を見てしまった
本当に後悔している

その子の目はとても大きくて
白目がなかった
大きな目の全てが黒い瞳だった
ドキっとして
咄嗟にそんな表情を返してしまった

それから3年ほどたった頃

298黒い瞳:2013/07/01(月) 00:15:53 ID:.LmJ2Sko0
私は梅田駅ビルの前の国道を挟んで
向かい側のビルで働いていた

たぶん春だったと思う
大雨が降っていた
私は階段に出てその雨を眺めていた
すると一人の女性が目に入った
服装から見て20代くらいなのかな
大雨が降っているのにもかかわらず
傘をささずに濡れていた

ありえないと思った
5mも移動すれば駅ビルの下の
雨にかからない場所に移動できるのに
濡れて突っ立っていた

不思議に思ってしばらく見ていたのだけど
どんな人か見たくなって
傘をさして見に行った
横を素通りする時に
足を止めずに少し顔を見てやろう

299黒い瞳:2013/07/01(月) 00:17:00 ID:.LmJ2Sko0
そう思って近付いて行った
身長は160cmくらいかな

そして通り過ぎる瞬間その女性の顔を見た
その女性も私の顔を見た
とても嫌な表情で私を見た
大きな白目のない黒い瞳で私を見た

3年前に出会った7歳くらいの女の子
見た感じは20歳くらい
顔の雰囲気もその面影があった
間違いないと思った

私はびっくりして
そのまま通り過ぎたのだけど・・

謝れば良かった

3年前
優しく微笑んで返してやればよかったな

常識で考えたら偶然の出来事なんだろうけど
そうは思えなくてね・・^^;

300名無しさん:2013/07/01(月) 20:48:13 ID:FrsYbEU.0
テスト中

301名無しさん:2013/07/01(月) 20:48:54 ID:ameq0zS60
テスト待ち中

302 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/01(月) 20:49:56 ID:FrsYbEU.0
 皆様、こんばんは。藍です。
折角コメントを頂きながら、多忙のため反応できず申し訳ありません。

>>296
 最近アメリカの都市伝説として多くの目撃談があるという
『Black Eyed Kids』は日本にもいるのでしょうか?
3年前だとすると2010年、本家アメリカより12年ほど遅れて
日本でも目撃されたことになりますね。
3年で10歳分くらい成長するという記述は初見で興味深いです。
もし、他にも不思議な話がありましたら書いて下さいね。

>>コメントを頂いた皆様
 多様なコメント、心から感謝致します。
個別のコメントを控えざるを得ないと判断したのは、皆様の考察が
物語の深い部分に達しており、個別のコメントをすることが、むしろ
皆様の楽しみを阻害すると思うからです。

 ただ、一言、「2011年末」の作品について。この作品は
皆様の考察通り、これらの作品が「備忘録」の体裁で書き始められた
理由を説明するものであるとともに、これらの作品の完結編です。
事実に基づくという設定上、物語の年代が現在に追いつく筈はありません。
ちょっと寂しい気もしますが、必ず『終わり』があります。
ただ、私は『呪物』以降、『完結編』に至る作品は未だ読んでいません。
今後の作品を楽しみにする気持ちは皆様と同じです。

303名無しさん:2013/07/01(月) 20:52:19 ID:ameq0zS60
さあ・・始めようか。記憶と感情の真実の物語を

304 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/01(月) 21:09:09 ID:FrsYbEU.0
>>301
 本当に驚きました。術者の方ですか?

 さて、長文失礼致します。
これまで知人の説得と相談を重ねて来ました。
物語の今後を期待して下さる方々がいると伝えてきた甲斐があったのか、
取り敢えず新作の掌編を送付してくれることになりました。引き続き
どうしても公開できない障りのある作品と現在未完成の作品を除き、
投稿できるよう説得を続ける予定です。
新作の投稿時期は未定ですが、
原稿が届き次第なるべく早く投稿出来るよう頑張ります。
暫くお待ち下さい。

305名無しさん:2013/07/02(火) 00:24:02 ID:0eglPcaw0
知人さん藍さん
楽しみにして待ってます。
無理をなさらず、また面白い物語を読ませてください。

306名無しさん:2013/07/02(火) 06:27:01 ID:WXj7hwEQ0
知人さん藍さん有難う〜(TT)

307名無しさん:2013/07/02(火) 09:47:57 ID:PMMotL7g0
終わるのは寂しいけど無理矢理引き延ばすと幻滅しそうだしなぁ

308名無しさん:2013/07/02(火) 12:52:23 ID:WXj7hwEQ0
>>304

いえいえ、たまたまF5で読み込みしなおしただけです。普通に毎日ここをチェックしてます

少し待って、物語の投稿が続かないようだったので「テスト待ち中」と投下してみました。

これは縁=偶然です。

どうですか?私のこの物語への「ファン力」WW

309名無しさん:2013/07/02(火) 19:43:03 ID:a43YguJU0
そいそい

310 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/03(水) 20:53:51 ID:Fvja4KC.0
 皆様、今晩は。藍です。

 本日原稿を受け取りました。相変わらず季節外れですが
私にとっては印象に残る、大切な作品になりそうです。
今日は仕事が休みだったので作業も思いの外捗りました。
週末までの投稿を目指しております。今暫くお待ち下さい。

311名無しさん:2013/07/03(水) 23:15:23 ID:Zf3xsq4o0
wktk

312名無しさん:2013/07/05(金) 00:19:36 ID:uolf6pWI0
うーん、今思ったけど、思い出の人になるのはやっぱりSさんかなぁ。

翠ちゃんを生むときの代償が実は本当に半端なくて、Rさんに本当の事言えなかったとか

そんな展開の気がする

だとすればKさんにトドメを刺したのはSさんかもね

313名無しさん:2013/07/05(金) 18:52:38 ID:7ZYL5W1M0
テスト中

314『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 18:54:01 ID:7ZYL5W1M0
 『名残雪』

 「じゃ、L、しっかりね。R君も、Lの事頼んだわよ。」 「ばいば〜い。」
姫と俺を駅前に残し、Sさんと翠を乗せた車が遠ざかっていく。
「Rさん。3日間、宜しくお願いします。」 姫が礼儀正しく頭を下げた。
「いや、こちらこそ宜しくお願いします。ちょっと頼りない付き添いですけど。」
話は一月程前に遡る。
その時妊娠6ヶ月目に入っていたSさんは春休みとゴールデンウィークの旅行を
パスすると決めていた。もちろん姫と俺も旅行はしないつもりだったのだが、
Sさんが『久し振りに2人きりで行って来なさい』と言うので、
春休みの3連休に合わせて二泊三日の小旅行を計画することになった。
その旅行先を探していた姫が『夜行列車に乗ってみたい』と言い出したのだ。
「列車の中で眠るなんて楽しそうですよね。朝靄の中で到着すると、きっと良い風情です。」
それはまあ、間違いなく姫は俺より先に寝てしまうし、俺より後に起きるのだけれど。
早朝のホームには酔っぱらって寝てるおじさんがいたりで、風情があるとは限らない。
「僕はホテルとか旅館が良いですね。列車だと切符買うのが面倒だし。」
「そう言えば、列車の切符って、やっぱり駅で買うんですよね?」

315『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 18:55:34 ID:7ZYL5W1M0
 俺とSさんは顔を見合わせた。
「Sさん、もしかしてLさんは。」 「確かに、Lは一度も乗ったことないわね。列車。」
お屋敷の近くには駅がない、自然と移動手段は車中心、いや100%車だ。
仕事も、買い物も、姫の送迎も。 変わるとすれば車種だけ。ロータスとマセラティ。
「今の生活なら特に何の不都合も無いけど、丁度良い機会。」
それでこの週末、金曜からの3連休に合わせた小旅行は、
姫の特訓を兼ねた列車での旅と決まった。
Sさんが決めた行程に沿って列車を乗り継ぎ、かなりの長距離を移動する。
途中、Sさんに頼まれた用事を済ませるミッションも用意されている。
もちろん地図と時刻表を頼りに姫が切符を買う。俺は一切口を出さない。
俺の任務は姫のボディガード(不要かも知れないが)。
3月も下旬、さすがに雪の予報は出ていないようだが、予想気温がかなり低い場所はある。
その日の最終目的地で宿泊先を探す行き当たりばったりの旅。
初めて行く場所ばかりだし、移動に手間取れば宿泊先がどうなるか予想出来ない。
まさか駅のベンチで夜明かしなんてことにはならないだろうが、
なかなかに緊張感のある旅行が始まった。

316『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 18:56:42 ID:7ZYL5W1M0
 最初からある程度予想していた通り、一日目、3本目の列車に乗る頃には、
姫は時刻表の見方や切符の買い方、乗り継ぎの要領をすっかり憶えてしまった。
「ちょっと行って聞いて来ます。」 勿論俺が口を出さなければ反則では無い。
そりゃ窓口に姫のように綺麗な女性が聞きに来たら、職員もさぞかし張り切るだろう。
しかも姫は演技派、『昨日沖縄から出て来て乗り方が分からないんです』と設定が細かい。
暫く窓口で話し込んであれやこれやと教えてもらい、推薦の駅弁まで聞いて来たらしい。
「このお弁当、美味しいですね。」 「列車の旅行は駅弁に限ります。」
運転しなくて良いから、気楽な俺は熱燗にした缶入りの日本酒を買って良い気分。
不安な旅の筈が、優秀な美人ナビゲーター付きの気楽な旅に早変わり。もう最高。
観光地を回る旅程ではないので列車は混んでいない。乗車率は50%といったところ。
姫は窓の外の景色や他の客の様子を興味深そうに眺めていた。
4本目の列車はローカル線、今夜の宿泊先は小さな地方都市。
駅前の繁華街でシティホテルやビジネスホテルをあたれば多分空室があるだろう。

317『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:00:05 ID:7ZYL5W1M0
 目的の駅に到着したのは15時27分。休日の午後、ホームはまだ閑散としているが、
ちらほらと学生っぽい姿が見える、部活か塾の帰りだろう。
あと2時間もすれば休日出勤した会社員の姿も増える筈。
「Rさん、私いつも思うんですけど、どうしてみんなイヤホンをしてるんでしょう?
私の大学の学生達もそうだし、この街の学生も同じです。」
確かにベンチで列車を待つ学生も、ホームを歩く学生もイヤホンをしている。
大袈裟なヘッドホン姿も見える。 そうでなければケイタイでお話中。 時折聞こえる笑い声。
「う〜ん、音楽が好き...いや、きっと暇潰しじゃないですか?」
「私、Rさんに送ってもらったあと、遠回りして、学部まで10分くらい歩くんです。
短い時間ですけど、その間でも色んなものを見たり音を聞いたり、とても楽しいです。
季節が変わって鳥の鳴き声が聞こえたり、咲いている花の種類が変わったり。
今日も世界は綺麗だなあって、全然退屈しないのに。あの人達は耳も目も心も
自分の中にだけ向けて、外の世界を見ないし聞かない。何だか勿体ないですね。」
胸の奥がきゅっと痛くなる。そっと姫の肩を抱き寄せた。
「お願いですからそんな事言わないで下さい。Lさんが生き急いでいるようで不安になります。
毎日毎日実感しなくても、この世界で綺麗です。もっといい加減で良いじゃないですか。
仕事や勉強で疲れていたら自分の殻に閉じこもるのも仕方ないし、
好きな音楽を聴きながらだと、景色もまた変わって見えるかも知れませんよ。」

318『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:02:16 ID:7ZYL5W1M0
 姫は優しく微笑んだ。
「私の、悪い癖かむ知れませんね。あとどれだけ、自分が自分でいられるだろうって
考えていた時間が長過ぎたから、つい急いでしまうんです。
明日も明後日も、家族みんな一緒で幸せな日々が続くなら、
もっとのんびり、ゆっくりしても良いんですよね。」
「そうです、人生はこれから、もっとずっと長いんですから。」
手を繋いでホームを歩く。二度目の、2人きりの旅行。Sさんの配慮が胸に染みる。
駅の構内にアナウンスが流れた。 「2番線に電車が参ります・・・」
2番線の停車位置は30mほど先、俺たちの背後から微かに地面の震動が伝わってくる。
もう少し歩いたところで、異変が起こった。
「あ。」 「あれ。」
いつのまにか、俺達の前数mの所に2人連れの姿。女性と男の子、親子だろうか?
すぐ傍のベンチに座っている学生も2人に気付いた様子はない。間違いなくあれは。
暫くして電車がホームに滑り込んできた、その瞬間。
女性が男の子を抱き上げたかと思うと電車の前に飛び込んだ。思わず息を呑む。
しかし、何の音も聞こえず、他の客の様子にも変化はない。
しばらく歩いて停車した電車の前を覗く、電車にも線路にも異常はない。やはり、幽霊。
「Rさん、今日泊まるホテル、多分大丈夫ですよね。」
「はい。ここから見えるだけでも、ビジネスホテルの広告、いくつかありますから。」
姫はホームの時刻表を確認し、メモを取った。
2番線のホーム近くに戻り、さっき学生が座っていたベンチに腰掛ける。
「次の電車は15時42分。もし同じ路線の電車だとしたらその次、49分です。」

319『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:03:42 ID:7ZYL5W1M0
 42分の電車が入って来た時は何の変化も無かった。
学生達の姿が少し増えたように見えるが、まだ人の数はそれ程多くない。
電車は問題なく停車し、そのまま出発していった。
そして47分を過ぎ、電車の到着を知らせるアナウンスが流れる前に、それは現れた。
女性と小学生くらいの男の子、2人の後ろ姿。俺達の目の前、1mほどの距離。
鍵を掛けず、目を閉じて感覚を拡張し、その『存在』から伝わってくる気配に集中する。
悲しみか、あるいは憎しみか。 同調することが出来れば手かがりが得られるはず。
それは、声。微かに聞こえる2人の会話。

「・・・・に そ・・・ら みた・・たね。」
「ごめ・・ ・か・さんが しっかり・てな・・たから こわ・・い?」
「だいじ・・・ ぼく おかあさん・だいす・だか・ ・つま・もいっしょだよ」
「・りがと・ でも ・の・・・ ・せて あげたかった。」

 先刻と全く同じように、女性は男の子を大切そうに抱き上げて、
ホームに滑り込んだ電車の前に飛び込んだ。
激しい感情の爆発、意識が飲み込まれそうになるのを必死でこらえる。
次の瞬間、気配は突然消えた。 今まで通りのホームの風景。

320『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:04:51 ID:7ZYL5W1M0
 「やっぱり、現れましたね。」 「それほど古くありません。多分、ここ2・3年です。」
「あの会話、はっきり聞き取れなかったんですが、Lさんは?」
「いいえ、会話の内容は全く。会話だとしたらRさんの領域ですね。
私はちょっと男の子の意識に集中し過ぎてしまったかも知れません。」
やはり姫も伝わってくるのが会話だとは思っていなかったのだろう。
でも、もう一度チャンスがあれば、最初から会話に絞って探知出来る。
もしかしたら、あの親子をこの場所に縛り付けているのが何なのか、分かるかもしれない。
それから約一時間、ベンチで待ち続けたが、2人の姿は現れなかった。
「Rさん、明日の予定なんですけど。」
「分かってます。明日も、この街に泊まりましょう。
あの2人、とても気になります。そのままにしてはおけません。」
「はい。後でSさんにも、電話しておきます。」
「じゃこの件については、今日はこれでお終い。折角2人きりの旅行ですから。」
「あとは宿探しですね。私、Rさんと一緒なら、どんなところでも平気です。」
「僕は出来るだけ綺麗なホテルが良いですね。こう見えても、都会派の軟弱者なので。」
姫は小さな声で笑った。
「嘘つき。魚釣りも料理も、あんなに上手なのに?」

321『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:08:29 ID:7ZYL5W1M0
 ふと、目が覚めた。ベッドの中に姫がいない。
姫は窓際に立ち、少し開けたカーテンの隙間から窓の外を見ていた。
窓から微かに差し込む街の灯りが姫の顔を照らしている。
この人はいつもそうだ。とても美しくて、でもどこか儚げで。
婚約者だし、身体を重ねたこともある。俺を愛してくれているのも痛い程分かる。
しかし、姫のことを深く知る程、いつか俺の前から消えてしまうのではないかと不安になる。
本当の姫はまだ俺の手の届かないところにいるような、頼りない感覚。
舞を奉納した時に姫が感じていたという不安が、俺にも伝染したのかも知れない。
俺の前で舞を見せてくれた姫は、羽衣を着て軽やかに舞う天女のように見えた。
いつか、羽衣を着て天に帰っていく伝説の天女。
いや、それじゃ駄目だ。この人と離れるなんて考えられない。
「あの親子の事を考えているんですか?」 「はい、男の子の事を。」
「身体が冷えてしまいますからベッドに戻って下さい。」 「はい。」
姫は戻ってきてベッドに潜り込んだ。そっと、抱きしめる。少し冷たい、細い身体。

322『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:09:28 ID:7ZYL5W1M0
 「『男の子の意識に集中し過ぎた』と言ってましたよね?」
「あの時、男の子の意識に、不安や恐れを全く感じませんでした。それが不思議で。」
「これから電車に身を投げるというのに、ですか?」
「それどころか母親が抱き上げた時、男の子の溢れるような喜びを感じました。
翠ちゃんがSさんに抱き上げられる時に感じているような、純粋な喜びです。」
「それ程にあの子は母親を愛し、信頼していたということですね。」
「心中を選ばざるを得ない事情。生活は苦しかったはずなのに、
あの母親は毎日精一杯の愛情をあの子に注いでいたんでしょうね。」
突然姫の頬を涙が伝った。 「私。」
胸の奥が痛む、やはりこの人は。枕元のティッシュペーパーで姫の涙をそっと拭う。
「どうしたんです?話して下さい。」 姫は小さく頷いた。
「私、あんな風に子供に愛情を注げるでしょうか?
自分の子供にあれほど信頼される母親に、なれるでしょうか?」

323『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:10:44 ID:7ZYL5W1M0
 姫は以前も口にしたことがある。
両親の顔さえ知らない、そんな自分が親になった時、
自分が産んだ子を愛せるのかどうか分からないという不安。
翠を溺愛し、喜々として世話をする頬笑ましい様子を見て、
すっかりそんな不安は消えたものだと思っていた。
しかし、それはあくまで『Sさんが産んだ子』を愛したのであって、
自分の産んだ子を愛した訳ではない。
翠を溺愛すればするほど、姫の不安は大きく、深くなっていったのだろう。
迂闊だった。
「Lさん、質問があるんです。」 「何ですか?」
「Lさんは裁許を受ける時、術者になれるかどうか不安でしたか?」
「...いいえ、自分に力があるのは分かってましたし、あとはどんな術者になるかだけで。」
「母親も、同じじゃないかと思うんです。」 「母親と術者が、同じ?」
「どちらも自ら選んで『なる』ものです。『なれるかどうか不安を感じるもの』ではありません。
Lさんに女性としての能力があるのは分かってます。僕という婚約者もいます。
あとはどんな母親になるかをしっかり考えれば良いだけですよ。第一。」
俺は姫の額にキスをした。少し照れくさいが、姫の目を真っ直ぐに見つめる。
「普通の方法だと、避妊の成功率は100%じゃありません。
もしかしたら今夜、Lさんは母親になったかも知れないんです。」
「もし、今、子供を授かったら...悩んでる余裕なんてありませんね。」

324『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:12:05 ID:7ZYL5W1M0
 右手でそっと姫のお腹に触れる。
「ここに、僕たちの子供がいるとしたら、どんな気持ちでしょうね?」
「きっと、すごく嬉しいです。」 姫は左手を俺の右手に重ねた。
「毎日毎日、お腹をさすって、話しかけて。」 姫の笑顔は明るかった。
「そんな感じで良いんじゃないですか?あんまり真剣に考え過ぎると疲れちゃいますよ。」
「そうですね。どうして考え過ぎちゃうのかな。私、いつもこんなで、駄目ですね。」
「Lさんは術を使う時、楽しいですか?」 「え?」
「こんなことが出来て楽しいって思いませんか?」
「正直に言うと、楽しいと思うこともあります。術を使うのはお仕事のためで、
本当は楽しいなんて思っちゃいけないのかも知れませんけど。」
「お正月のトランプのこと、憶えてますよね?」 「はい。」
「Lさんと2人きりでいるのに、Sさんのこと話して御免なさい。
でも、今は僕たちのお師匠様の話だと思って聞いて下さいね。」 「はい。」
「あの時、Sさんはとても楽しそうで、得意そうでした。
『ほら私って、術って、凄いでしょ』って感じで。だから思わず僕も楽しくなりました。」
「確かに、とても楽しそうでしたね。お正月で、久し振りに従姉弟に会って、
それでだと思ってましたけど。でも一番楽しそうだったのは術を使ってる時でした。」
「Sさんだって、時々は自分が術者であることを楽しみたいんです。
いつだって仕事に関わる辛い事や悲しい事に耐えてるんですから、息抜きも必要ですよね。」
「辛くて、悲しいから、時々は術者であることを楽しむ...Sさんも。」 姫は少し遠い目をした。

325『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:13:11 ID:7ZYL5W1M0
 「さて、次はかなりディープな質問ですよ。将来の夫婦として答えて下さいね。」
「はい。」
「Lさんは僕と、その、仲良くしてる時に、気持ち良いですか?正直に、答えて下さい。」
「あの、とても嬉しくて、幸せな気持ちです。」
「でも、気持ち良いと思ったことはないんですね?」
「はい、御免なさい。」 姫は目を伏せた。
姫と身体を重ねたことはそれ程多くない。既に痛みや出血は無くなっているが
あまり気持ち良く感じていないのが分かるので、どうしても遠慮してしまう。
自分の子を愛せないのではないかという不安を抱え、そして姫の真面目な性格。
当然、その結果妊娠するかも知れない行為を、心から楽しむ気持ちにはなれないだろう。
「Lさん、仲良くするのは子供を作るためだと思ってませんか?」
「え?だってそれは。」
「もちろん子供を作るためでもあります。でも僕にとって、普段はそれ以外の意味が大切です。」
「どんな、意味ですか?」
「コミュニケーション、互いの愛情の確認です。身体を重ねて互いの気持ちを確かめ合うこと。
そしてそれを気持ち良いって感じることは、僕が男であることを楽しむってことですから。」

326『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:19:44 ID:7ZYL5W1M0
 「あの、Rさんは、私と仲良くしてる時、気持ち良いんですか?幸せじゃなくて?」
「幸せだし、とても気持ち良いですよ。男に生まれて本当に良かったと思います。でも。」
「でも、何ですか?」
「Lさんも気持ち良いって感じてくれたら、もっともっと気持ち良いでしょうね。
それこそ天にも昇る気持ち。Lさんは仲良くしてる時、女であることを楽しんでますか?」
「Rさんに抱きしめてもらって、仲良くしてもらって嬉しいって思いますけど...」
「避妊すること、ちょっと後ろめたいと思ってるでしょ?」
「はい。」 小さな声、愛しくて堪らない。
「Lさん、避妊は僕にとって一番良い条件で子供を迎えるための準備です。」
「準備?」
「正直、僕は今すぐLさんが妊娠しても全然困りません。
それどころか、きっと、とても嬉しいです。
でも婚約者としてでなく、ちゃんと入籍してからの方がもっと良いかなと思うし、
いや、Lさんが大学を卒業してからの方がLさんの身体には良いのかなって迷いながら
僕たちの子供を一番良い条件で迎えるタイミングを考えてるんです。」
「そのためにもいっぱい仲良くして、お互いの気持ちを確かめ合うことが大切なんですね。
そのためにいつもは避妊を?」
「僕はそう思ってます。何度も仲良くして気持ち良くなったり、そのために避妊することは
全然後ろめたい事じゃありません。僕たちはもう夫婦同然なんですから。」

327『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:21:04 ID:7ZYL5W1M0
 「じゃあ、SさんはRさんと仲良くする時」
俺はキスをして姫の唇をふさいだ。
「2人きりでベッドの中にいるのに、他の人の話をしちゃ駄目です。
さっきは術のお師匠様として話したんですよ。2人で仲良くする事にお師匠様なんていません。
もっと気持ち良くなるにはどうすれば良いかって、2人で探すしかないんです。」
「じゃあ、もう一度仲良くして下さい。私、今度は気持ち良くなるように頑張りますから。」
「だ・か・ら、頑張ったら楽しめないじゃないですか。何か、こう、ガチガチな感じで。」
姫は声を立てて笑った。表情は見違えるように明るくなっている。そう、これでこそ姫。
この人には今、茫洋とした未来でなく、もっと身近な将来を実感する何かが必要なのだ。
その『何か』とは一体...
安らかな寝息を聞きながら、今度は俺が考え込む番だった。

328『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:22:16 ID:7ZYL5W1M0
 翌日、朝食の後でいったんこの街を離れ、次の目的地である街を訪れた。
Sさんから頼まれたミッション。小さな博物館を密かに(普通に入館して)調査する。
『一族にまつわる収蔵品が展示されているかも知れない』とSさんは言ったが、見事な空振り。
良く出来たレプリカだと姫は笑った。まあ、写真だけでは分からないことも沢山ある。
博物館近くの食堂で早めの昼食を食べてからその街に引き返した。
昨日、学生が座っていた2番線のホーム近くのベンチに陣取る。13時45分。
長丁場かも知れない。姫が時刻表を確認している間、売店で飲み物とお菓子を買った。
「さっき、同じ路線の電車が来ましたが異常なし。やっぱり時間も関係ありそうです。」
「それらしい電車は何本あるんですか?」
「次の電車は14時12分、その次が14時35分、この2本はまだ早いような気がします。
昨日の時刻からみて、15時5分、15時23分、15時45分。どんなに遅くても16時2分、
この4本でしょうね。昨日は16時を過ぎたら現れませんでしたから。」
時計を確認する、13時59分。可能性は低いだろうが、最初の電車まであと13分だ。

329『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:24:39 ID:7ZYL5W1M0
 14時12分と14時35分の電車は異常なかった。
駅員が近寄ってきた。「お客様、何かお困りですか?」 親切と偵察。
閑散とした休日のホーム、難しい顔をして長時間座っている男女の2人連れ。
しかも女性は飛びきりの美人。俺が駅員だとしても気になるだろう、仕方ない。
『駅員の余計なお節介に困ってます』とは言えないので、出来るだけにこやかに応じる。
「彼女の御両親と待ち合わせしてるんですが、○▲県の雪で少し遅れてるみたいなんです。
どんなに遅くても16時2分の電車には間に合うと思うんですが。」
姫は俯いて俺の左肩に頭を預けた。いかにも心細そうだ、さすが演技派。
「それで2番線の近くに。分かりました。早く会えると良いですね。」
駅員が立ち去ると姫はくすくすと笑った。
「あういうのが、立て板に水、なんですよね?」
「演技派の美人が傍にいれば、どんな台詞でもそれらしく聞こえます。簡単ですよ。」
次の電車までは少し間がある。2人でお菓子を少し食べた。
やはり温かいものが飲みたいので自販機でお茶を買い直す。
交代で姫もホットレモネードを買って来た。
お菓子と温かい飲み物。少し体を動かして気分一新。次の電車に備える。
15時。多分、あと3分と少し。

330『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:28:28 ID:7ZYL5W1M0
 15時3分、辺りの空気が変わった。 始まる。
親子の姿は現れないが、微かな気配を確かに感じた。
感覚を最大限に拡張して気配に同調する。探るのは会話、2人の最後の会話。

『お母さん、雪、雪が降ってるよ。綺麗だね。』
『本当だ。寒くない?』
『少し寒いけど平気。』
『雪も綺麗だけど、春になったら、お母さんが育った村の桜を見せたかったな。』
『お母さんの育った村の桜って、この雪よりも綺麗なの?』
『ずっと綺麗よ。数え切れない桜の木に、一斉に花が咲いて。
お母さんが見た、世界で一番綺麗な景色だもの。』
『一緒に、その桜、見たかったね。』
『御免ね、お母さんがしっかりしてなかったから。怖くない?』
『大丈夫。僕、お母さんが大好きだから、何時までも一緒だよ。』
『ありがとう。でも、あの桜、見せてあげたかった。』

 続いて起こる感情の爆発。
死を決意するまでの母親の記憶。前夜の2人の会話。
そして駅までの道程。歩道の脇、立ち枯れたような姿で春を待つ桜並木。
一瞬の間に様々な感情と映像が迸る。
走馬燈どころでは無い。まるで目の前で次々と爆発する打ち上げ花火。
昨日よりはましだが、やはり激しい情動に意識が飲み込まれそうだ。
腹に力を入れて耐える。やがて唐突に、気配は消えた。

331『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:30:05 ID:7ZYL5W1M0
 目を開け、ハンドタオルで額の汗を拭う。 気温は4℃、文字通りの冷や汗。
「あの会話。『桜の花』が2人の心残りなんですね?」
「はい。生きることの全てを諦めた2人の、最後の望み。だから、とても強い心残りです。」
もちろん自殺は罪だ。子供を道連れにしたのだから、母親の罪はさらに重い。
それに、電車への投身。 数え切れない人達に迷惑を掛けたのは間違いない。
しかし悲しいことに、『死ぬより辛いこと』がこの世にはある。厳然として、ある。
以前の事件、校舎の屋上から身を投げた女子高生もそうだった。
姫に仕込まれていた術の件では、俺自身、自分の死を考えた。そして、おそらくは姫も。
罪は罪。しかしそれは、決して許されぬ罪ではない。
それに、このままでは遅かれ早かれ2つの魂が『不幸の輪廻』に取り込まれる。
誰1人それを悲しむ人のいなかった、孤独な親子の死。
不幸はもうそれだけで、十分ではないか。
「何とか助ける方法はありませんか?」
「2人が身を投げたのは2月、雪の降る午後。2人にとって季節は常に冬だし、
その魂はこのホームに縛られています。このままでは、絶対に心残りは消えません。
世の中を憎む代わりに、2人は強く、とても強く心を閉じてしまったんですね。
もし心を開いてくれなければ、無理矢理...それだけは避けたいんですが。」

332『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:31:05 ID:7ZYL5W1M0
 重い沈黙。
Sさんなら取り敢えず2人の魂を人型に封じて、
いや、Sさんがいれば上手くいくとは限らない。今、姫と2人で出来る事、それは。
姫が顔を上げた。俺の目を真っ直ぐに見つめる。
「Rさん、何でも良いですから、2人に呼び掛けて下さい。Rさんなら、もしかしたら。」
俺が2人に? そうか、言霊。 そのあとで姫は。
辺りの様子を確認する。まだ閑散としたホーム。
少し離れたベンチに学生らしき客。イヤホンをしている、大丈夫。お節介な駅員の姿もない。
振り返る、広告のパネルを挟んで背中合わせのベンチ。端の席に白人らしき親子連れ。
並んで居眠りをしている。多分、これも大丈夫。でも、これ以上客が増えれば絶対に無理だ。
明日は連休最終日、確実に今日よりも客は多いだろう。
おそらく次の電車が、最初で最後のチャンス。失敗は許されない
「分かりました。やってみます。その後は、お願いしますね。」
「はい、任せて下さい。」

333『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:32:33 ID:7ZYL5W1M0
 15時18分、多分あと4分弱。
姫は『何でも良い』と言ったが、一体何と呼び掛ければ良いのだろう?
二人の心残りは桜、満開の桜。 ふと、去年の春、4人で出掛けた桜の名所を思い出した。
明るい陽光に照らされた山一面の桜、ライトアップされてはらはらと散る夜の花吹雪。
翠を抱いたSさんも、大学の入学式を控えた姫も、本当に楽しそうだった。
そう、あの2人が見たかったのも、きっとあんな景色だ。
目を閉じて深呼吸、できるだけ鮮明にあの景色を思い出す。
飛び交う小さな鳥の声を、桜の花びらを運ぶ風の音を。そして楽しげな人々の声を。
「もうすぐです。」 姫の声。
目を開ける。数秒後、目の前に2人の姿が現れた。 今、だ。 2人の会話が始まる前に。
立ち上がる、深く息を吸い、下腹に力を入れた。 自分の力を信じる。
『母子、仲睦まじくて何よりですね。お二人も桜を見にいらしたのですか?
お望みとあらばご覧に入れますよ。山一面、満開の桜。』
花びらのような、綿雪のような白いものが俺たちの周りを漂っている。 これが言霊?
母親の左手が微かに動いた。右腕で男の子を抱き抱えるようにしながら、ゆっくりと振り返る。
『今、あなたは満開の桜と?』
『はい、確かに。』
紺色、半袖のワンピース。やはり半袖の白いシャツに黒い半ズボン。
二人の服装は質素だが清潔で、男の子のシャツにはぴしりとアイロンがあててあった。
精一杯の一張羅、二人なりの死装束。
雪の降る日にこの服装では、さぞ寒かったろうに。 涙、が。

334『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:33:41 ID:7ZYL5W1M0
 姫が立ち上がる気配。 親子の視線が姫に移る。
『春が来る。花待里に、春が来る。』
唄うような、囁くような『あの声』だ。耳鳴り、軽い目眩。しっかりと床を踏みしめた。
術者になった以上、もう耳を塞ぐ訳にはいかない。姫の術、最後まで見届けなければ。
『命燃え、今ぞ盛りと咲き誇る、山一面の桜花。』
思わず息を呑む。いつの間にか、俺たちは無数の桜に囲まれていた。
見渡す限り満開の桜。桜。桜。明るい日差し、青い空。
『風に舞い、里に降り積む花吹雪。』
降りしきる花吹雪を両手に受けて、2人は小さく溜め息をついた。
『とっても綺麗だね。』 『綺麗。』
『これが、お母さんの育った村の桜なの?本当に、世界一だね。』
『そうよ、世界で一番綺麗な景色。これで、もう...』
母親は男の子を抱き上げて、愛おしそうに頬ずりをした。
『御免ね。』 『お母さん、大好き。』
突然、2人の姿が眩い光に包まれた。思わず目を閉じる。

335『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:34:53 ID:7ZYL5W1M0
 「Rさん、早く。上手くいきました。すぐに撤収です。」
ホームに電車が滑り込んでくる。15時23分の電車だ。身を投げる親子の姿は無い。
姫はお菓子や飲み物を手早く紙袋に詰め込んだ。他の荷物は俺が持つ。
「ねぇパパ、綺麗なお花が沢山見えたよ。前にお花見で見た桜の花。」
心臓が一瞬停まりそうになる。 姫の顔も緊張している。
声が聞こえたのは俺たちの後方、姫と顔を見合わせた後、そっと振り返った。
灰色の瞳の女の子が、居眠りする父親の肩に両手をかけて揺り起こそうとしている。
「パパ!お歌が聞こえて目が覚めたの、そしたら桜でいっぱい。聞いてる?」
「うん、なっちはお花の夢を見たんでしょ?パパもその夢、見たいよ。」
女の子は父親の肩から手を離し、頬を膨らませた。
「もう、夢じゃ無いのに。」
ベンチの脇を抜ける時、女の子と目が合った。思わず声を掛ける。
「お嬢ちゃんも、桜の花、見えたの?」 「うん、とっても沢山。」
女の子は嬉しそうだ。姫がすうっと屈んで女の子と視線を合わせた。
「桜の花、とても綺麗だったでしょ?」 「うん、凄く綺麗だった。私、桜の花、大好きなの。」
「お嬢ちゃんはとても良い耳と目を持ってるのね。
だからあの歌が聞こえたし、桜の花が見えた。」
「なっちの耳と目が?」
「そう。大きくなっても、その耳と目、大事にしてね。バイバイ。」
「うん、バイバイ。」

336『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:38:49 ID:7ZYL5W1M0
 ホームを出ると、冷たい風に乗って白いものが舞っていた。 花吹雪ではなく、雪。
「この雪は、名残雪、だと良いですね。」 「はい、少しでも早く、春が来るように。」
ホテルまでの歩道沿い、十数本の桜が並んでいる。あの母親の記憶の中の桜だろうか。
花芽が少し膨らんでいるように見える。姫も桜を見ている。少しやつれて見える横顔。
そうだ、この人に必要な、実感出来る身近な将来、それは。
「Lさん、今年の誕生日で二十歳ですよね?」 「はい。」
「二十歳になったら、入籍しましょう。」 「入籍って...」
「前に約束した通り、婚約者じゃなくて、正式に僕のお嫁さんになって下さい。
そして、大学を卒業したら、僕たちの子供を迎える準備。どうですか?」
「Rさん、ひどいです。歩きながら、そんなこと言うなんて。
でも...嬉しい。とても、嬉しいです。」
姫はハンカチで涙を拭った。小さな肩をそっと抱き寄せる。
「入籍は8ヶ月後、卒業は3年後ですけど、『過ち』があったら卒業前の出産もあり得ますよ。
なんだかドキドキしますね。痛。」 左頬をつねられた。
「正式なお嫁さんが妊娠するのは『過ち』じゃないです。授かる子供にも失礼ですよ。」
「御免なさい。『Lさんとの過ち』って設定が、その、良いなと思って。」
「ふふ、ホントは何となく分かります。ちょっと、ドキドキしますよね。」

337『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:40:46 ID:7ZYL5W1M0
 おお、俺の嗜好を理解してくれるとは、さすがに姫だ。
「でも、もっとドキドキする設定があります。」 「どんな設定ですか?」
「入籍した後は避妊をしないんです。すごく、ドキドキするでしょ?」
「...それは。」
「きっちり計画するのも大切だけど、家族なんだから、もう少しいい加減に
のんびり生きても良いですよね。『できちゃった。』『え、大学は?』なんて、素敵です。
『休学して出産したのに、復学直前に次の妊娠が発覚』
これは、さすがにちょっと赤面ですね。」
姫...演技派なだけじゃなく、結構な妄想癖が。 いや、これは妄想じゃないな。
「お屋敷の広さは十分。子育てに関わる雑用は式に手伝ってもらうとして。
当面の問題は車、5人乗りでは足りませんね。7人乗り以上で検討しないと。」
「5人乗りで足りなくなるのはどんなに早くても来年の10月ですよ。気が早いです。」
不意に両目から涙が溢れた。嗚咽が漏れる、止められない。
「Rさん、どうしたんです。プロポーズした方が泣くなんて。」
もちろん悲しい涙ではない。 今、姫は、女性として生きる未来を自ら語っている。
それは、姫が俺と、そしてこれから生まれてくる子供達とずっと生きていくという、
確固たる意思表示。 伝説の天女が自ら羽衣を脱いでくれたのだ。
それがどうしようもなく嬉しくて、涙が止まらなかった。
「泣かないで下さい、Rさん。」 俺の背中をさする姫の手。温かく、柔らかい感触。
「御免なさい、もう、大丈夫です。」 

 白い雪。立ち止まった俺と姫を包み込むような。

『名残雪』 完

338 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:43:18 ID:7ZYL5W1M0
 皆様、今晩は。藍です。
とても気に入った作品なので、かなり頑張ってみました。
原稿受け取りから投稿まで、自己最速記録更新かと思います。
お楽しみ頂ければ良いのですが。

339名無しさん:2013/07/05(金) 20:54:21 ID:uolf6pWI0
知人さん藍さんありがとうございます。とってもお楽しみ致しました(笑)

シリアスもほのぼのも、とても良いシーンがあるんですね。

340名無しさん:2013/07/05(金) 20:55:19 ID:uolf6pWI0
・・・・

そういえば新章のタイトルが・・・・なんでしたっけ?WWW

341名無しさん:2013/07/06(土) 02:09:02 ID:3IvhmewI0
知人さん藍さんありがとうございました。
とても心暖まる、やさしさ溢れる物語です。
桜は日本人の心を癒す、世界一美しい花だと思います。
数え切れない数の桜の花びらが輝きながら光をまとって舞い散るさまが眼に映るようです。
美しい物語だと思います。

342名無しさん:2013/07/07(日) 03:29:57 ID:9EhS5QtA0
うーん、秦氏系の術者(新羅・清和源氏系→白山→出雲→賀茂系)でも
中臣系(百済・中臣→藤→藤原→平氏系)でもないと仮定するとあとは忌部氏くらいしか思いつかないなぁ

忌部氏→紙すき(古いものは麻紙)で、徳島の特産が「藍」

妄想が溢れて困りますな

343名無しさん:2013/07/07(日) 11:41:51 ID:RxQH2mUk0
出自を隠すのも一つの術
なんでしょうかな。

344名無しさん:2013/07/09(火) 20:15:42 ID:hUTO0/KY0
藍さん

いつもは投稿のあとはレスがあるんだけど今回は全然ないね
多忙中って書いてたし仕事が忙しいんならそれはそれで良いんだけど
別スレの嫌な書き込みを読んで落ち込んでないか心配

最後に 『呪物』 『名残雪』 どちらも自分は好きですよ
いつも本当にありがとう

345名無しさん:2013/07/09(火) 22:18:08 ID:4ZW9g/SY0
藍さんの熱意と、知人さんのご厚意で本来読むことが許されなかった物語に触れることが出来ています。

有難うね。

346名無しさん:2013/07/12(金) 21:50:21 ID:Uj.mU.iE0
ちょっと気になるんだけど、まとめサイトの「シリーズ物/同一作者」カテゴリにこのシリーズはまとめられてるんだけど、タイトルがトリップで味気ない
なにかぴったりなタイトル誰か考えてくれ

347名無しさん:2013/07/13(土) 01:07:23 ID:lydlqMJs0
Rさんシリーズ

とか書いたら知人さん嫌がるかなぁ・・・

348名無しさん:2013/07/13(土) 08:41:26 ID:21ChEM5c0
色々思いつくタイトルはあるけど
トリップのままで良いような気もするんだよね
縁の無い人が読んだって何の意味のない物語だろうし
このまま目立たないようにしておきたい

349名無しさん:2013/07/13(土) 23:09:22 ID:lydlqMJs0
だがしかし、第一部「掌編」(たなごころ?)は解りましたが

第二部のタイトルが無い気がしますっ(笑)

350名無しさん:2013/07/13(土) 23:22:53 ID:OtOSVW4sO
シリーズ名を付けるのならやっぱり知人さんにやって頂くのが一番いいんでしょうね。

351名無しさん:2013/07/14(日) 00:45:35 ID:EXjViBw20
そうやって知人さんを引っ張り出すのが一番いけない気がWWW

反対どころか大賛成ですが、それはみんな我慢しなきゃ

352名無しさん:2013/07/16(火) 19:44:21 ID:TimnjbU60
 皆様、今晩は。藍です。

 投稿の際、奇妙な現象が起こることを確認しまして、
PCをチェックしてもらっていました(結局原因不明です)。
コメントを頂きながら反応が遅れましたこと、お詫び致します。

 さて、シリーズ名の件、知人に電話で確認を取りました。
2つの案が出て、取り敢えずそれを提示してみてはということになりました。
ただ、送付されてくる原稿には、もとの題名が記載されています。
その題名も併せて提案しても良いかと確認したところ
一部変更を条件にOKが出ました。以下、3つの案を提示致します。

①『Rさんシリーズ』
 他のシリーズの作者様に失礼にならなければ良いのですがとのこと。

②『陰陽道綺譚・藍之章』
 知人としては洒落っ気系(痛い系?)のつもりらしいです。

③『縁(いつか君に話す時のために)』
 もとの題に近い案です。

 もちろんこれ以外の案でも構いません。
読者様と管理人様にお任せ致します。長文失礼致しました。

353 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/16(火) 19:55:35 ID:TimnjbU60
藍です。
トリップを付け忘れてしまいましたが間違いなく私の書き込みです。
失礼致しました。

354名無しさん:2013/07/16(火) 23:06:19 ID:MHQTkg9U0
投稿の際、奇妙な現象が・・・誰かの術かも???

なお、②が格好いいです。

355名無しさん:2013/07/16(火) 23:44:45 ID:64A5z9d20
おお、縁(えにし)ですか。私は③ですね。自分でRさんシリーズとか言っておきながらですがWWW

Rさんシリーズは、まとめサイトの表題がトリップのままになってたので、まとめサイト用のネームのつもりで考えてました

356名無しさん:2013/07/17(水) 01:52:03 ID:5aAHJpA.0


流れとかわかりませんが、投下させてください。

あんまり怖くありませんが、今さっきあった話です。

両親と妹は隣の部屋で寝ており、 私は1人、机のある部屋でやることを終わらせようと机に座った。
暫く机に向かっていると、壁からトントンという音が聞こえた。
初めは気にしていなかったが、あまりにも続くため、気になって壁を見る。
その音は手の甲で壁をノックするような音だった。
誰かが手の甲で叩いてるにしても、その叩かれている壁の位置が明らかにおかし い。
家はアパートで、すぐ外は階段だけど、 叩かれてる位置はどう頑張って手を伸ばしても届かない位置だった。
その時、変にポジティブになった私は、 きっとカナブンとかその辺の虫が壁にぶつかってる音だろう。(良く家の周りを飛 んでるので)
そう思う事にした。

一回切ります。

357名無しさん:2013/07/17(水) 01:56:38 ID:r/ddboS20

そのあと、暫くその音は規則的に続いたが、諦めたかの様にピタリと止まった。
私は、やっと終わったかとその音のなっていた箇所を見つめホッとした。
ホッとしたのは束の間、今度は誰かがゆっくり階段を上ってくる音が聞こえた。
新聞にしては早すぎる。
私は少し怖かったが部屋を出てドアに近付き、覗き穴を覗きこんだ。
すると、今度はゆっくり階段を降りる音が聞こえ始めるが、覗き穴からは何も見えない。
集中出来ずにイライラしていた私の怒りは頂点に達した。
我ながら怖いもの知らずだと思うが、
何故か「どちら様ですか!?」と言いながらバーンとドアを開けて階段を見た。
誰もいなかった。
その代わり、先日変えたばかりの階段に備え付けられている電灯がチカチカと点滅している。
私はそれを呆然と見つめ、私の声が大きかったのか、父が起きてきた。
「どうした?」
「変な音が聞こえt」
「 寝 ろ 」
父はそういうと、寝室に戻って行ったが、私は怖くて眠れない。←今ここ


文章下手くそでごめんなさい。

358名無しさん:2013/07/21(日) 16:20:57 ID:WRatVgPIO
ノックの音が。
その向こうには、おせっかいな神々が…。

359名無しさん:2013/07/21(日) 16:21:08 ID:WRatVgPIO
ノックの音が。
その向こうには、おせっかいな神々が…。

360匿名希望:2013/07/24(水) 20:58:10 ID:OfFwZeH60
この写真は、1984年3月に撮られた写真です。

この写真は、外国のある男性が部屋で撮ったものです。

この男性は、余命1週間と宣告されたため最後に自分の部屋を撮ろうと思い、自分のお気に入りのリビングを写した。

そして、確認するとこのような奇妙なものが写ったという。

その瞬間余命1週間と言われたはずがその場でカメラを持ち原因不明の突然死したそうです。

しかも、奇妙な事にこの事件を調査した警察は全員男性と同じような原因不明の突然死したそうです。

ですが、ある警察調査したところ死にませんでした。
警察は、気づいたのです。

この写真を触ったものが、死んでいるということに。

警察は、怖くてデータを世界のどこかに隠しました。

ですが、こうしてなぜかよみがえったのです。

例が、あります。実はこの写真はよみがえってから、この話を信じない日本人の山本和真さんが、軽い気持ちで編集をしました。
やはり、山本和真さんはなくなってしまいました。


回さないと、触っている事になります。
死にたくなければ、回すことです。

信じるか信じないかはあなた次第です。

361名無しさん:2013/07/25(木) 12:38:33 ID:fuoTtmcI0
写真屋に現像頼んだら1週間かかったんだな

362名無しさん:2013/07/25(木) 23:04:06 ID:VJcrVAks0
藍さん生きてるぅ〜?WW

暑いけど頑張ってね〜

363名無しさん:2013/07/26(金) 01:25:55 ID:82f5WUZY0
藍さん、仕事が忙しいのかな?
前に書いていたとおり、「道標」が物語の完結編なのかと心配になりました。
それなら「呪物」と「名残雪」は物語の補遺。すると「名残雪」という題名は...
いやいや、次回作、信じて待ってますよ。いつまでも。

>>346
シリーズの題名は、②『陰陽道綺譚・藍之章』に一票。

364名無しさん:2013/07/26(金) 20:52:41 ID:gaAqfBbUO
藍ちゃんやーい
おるかのー?

365名無しさん:2013/07/27(土) 08:03:18 ID:Y1aEJ0CQ0
藍さんこのまま忙しいとお盆までに新作は無理ですかいのうWW

366名無しさん:2013/07/27(土) 22:51:54 ID:rAKctVGU0
藍さん暑いので無理せずに
また,美しくも妖しくも悲しくも面白い話を待っています・・・。

367名無しさん:2013/07/28(日) 14:05:43 ID:NVx9N2Ww0
本スレに書き込もうとまとめたけど規制喰らってるのでこちらに

文書力の無いオッサンの話でも。
エロ描写あり。苦手な人はスルーして
まだ20代前半の話。その頃は所謂モテ気で調子に乗ってめちゃくちゃしてた。
ガタイも大きくケンカもそれなりに強かったけど、何故かいじめられてた
中高時代の反動もあったのかもしれん。
その頃は勤務先のバイトやら社員やら客やら悪さをしまくってて、ある日恐ろしい目に遭った。
この話はまた後日だけど、そのショックでしばらくは職場の友人と飲めない酒に逃げるようになってた。
その日も2時くらいまで呑んでて、大して飲んでないのにヘロヘロになりながら一人で歩いてた。
もうすぐ家ってとこで、ふと視線を何かが横ぎった。
「ん?」
ってその方向を見ると、ごみ箱に若い女の人が詰め込まれて、頭だけ出てた。
状況が理解できずにマジマジとみると、血色は悪く化粧っ気はないものの、
20代前半、今でいうならAKBに交じってても不思議はない程度のかわいい感じに
メガネ、ツーサイドアップとイロイロと私のツボを抑えていた。
うつろに開かれた目が会ったので
「なにしてんの?」と声をかけたら、
「…を待っています」とよく聞き取れない大きさで。
「そんな所おったら臭いし窮屈やろ、俺ん家くる?」と言うと
ポカンと口を開けたままボーっとして反応がない。
しかし、その姿に何かを催した私は、普段なら当然絶対にしないが、
ファスナーを下げ、何故か臨戦状態になってるモノを取り出した。
「自分のこと、めっちゃ好みやねん、エエ?」と言いながら、
彼女の鼻を持って、自分のモノを差し込んだ。
それでも抵抗はなし。
酒の勢いか、異常な状態にか
変に興奮して彼女の左右にまとめた髪をつかんで腰を突き立て喉の奥に果てた。
つづく

368名無しさん:2013/07/28(日) 14:06:51 ID:NVx9N2Ww0
ゴボゴボと若干むせたような咳をする彼女の口を拭いてあげるが、まだ収まらない。
どうしてもやりたくなった私は彼女をごみ箱から引きずり出した。
彼女は黒いごみ袋に首だけ出す形で入れられて、袋の中には彼女以外にも何かが入っているようだった。
一度ごみ箱から出し、ごみ袋を裂くと、大量の虫(暗くてよく見えなかったがGも居たと思う)、
猫の首、鶏の胴体などが入っていて、さらによくわからない骨も。
うわ!と悲鳴をあげて飛び退いたものの、このままにしておくわけにはいかず彼女を抱えてラブホへ。
いまだ放心状態なような彼女を風呂に入れるため服を脱がすと体中に
文字とも模様ともつかないものが赤と黒で書かれていた。

今思い返せばおそらくハングル。

だんだん頭も覚めてきて、これはただ事では無いと、彼女を問いただしても反応は薄い。
それより、体中についてる血や糞のにおいがとてもじゃなかったので、風呂に。
幸い、体に書かれた文字もボディーソープで落ちたが、まだぼーっとしている。
そんな状態なのに、あくまで洗うために胸や股に手をやると、体を触ると反応はよく、
嫌とも言わないのでとりあえずやっちまおうと事に及んだ。

が、反応が良いレベルではなかった。
ぶっとんだ喘ぎ声をだし、ものの数分で絶頂を迎える始末。こっちはゴムのせいでなかなか。
で、終わってみると初めてのお印。
「これはクスリやってるなぁ」と思い、
警察に連絡するかとか?と写メなど取りながら考えてると、途中で気を失った彼女が目を覚ました。
「え?!誰!ここは!」と。
素面に戻ったらしい。
つづく

369名無しさん:2013/07/28(日) 14:08:25 ID:NVx9N2Ww0
ひとまず落ち着かせ、包み隠さず全て話すと、彼女は泣き出した。
彼女は数年前から霊に襲われるようになったそうだ。
最初は家の中だけだったのが、最近は外でも。
急な眠気のようなものを感じ意識が朦朧となると、
全裸の中年のオッサンが現れ、口に出せないような事をするのだそうだ。
悩みに悩んだ彼女は、知り合いを通じ霊能者に相談。
お祓いと称し香をかいでいるうちに意識が途絶え今に至るのだそうだ。
「え?でも自分初めてやったで?」
とシーツについてる赤い染みを見せると、何故だか安堵してた。
なぜかその後2回戦を行い、とりあえずその日は休みだったので一日一緒に居る事に。
というか、一日中やってた。
途中から、オッサンがジーッとこっちを見ていたが、その前に体験した事に比べれば、
女の子の感度を引き出したオッサンの調教に感謝こそすれ、
恐れる理由は無かったので見せつけるようにしてると、
いつの間にか消えてた。
つづく


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