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怖い話Part2

330『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU:2013/07/05(金) 19:28:28 ID:7ZYL5W1M0
 15時3分、辺りの空気が変わった。 始まる。
親子の姿は現れないが、微かな気配を確かに感じた。
感覚を最大限に拡張して気配に同調する。探るのは会話、2人の最後の会話。

『お母さん、雪、雪が降ってるよ。綺麗だね。』
『本当だ。寒くない?』
『少し寒いけど平気。』
『雪も綺麗だけど、春になったら、お母さんが育った村の桜を見せたかったな。』
『お母さんの育った村の桜って、この雪よりも綺麗なの?』
『ずっと綺麗よ。数え切れない桜の木に、一斉に花が咲いて。
お母さんが見た、世界で一番綺麗な景色だもの。』
『一緒に、その桜、見たかったね。』
『御免ね、お母さんがしっかりしてなかったから。怖くない?』
『大丈夫。僕、お母さんが大好きだから、何時までも一緒だよ。』
『ありがとう。でも、あの桜、見せてあげたかった。』

 続いて起こる感情の爆発。
死を決意するまでの母親の記憶。前夜の2人の会話。
そして駅までの道程。歩道の脇、立ち枯れたような姿で春を待つ桜並木。
一瞬の間に様々な感情と映像が迸る。
走馬燈どころでは無い。まるで目の前で次々と爆発する打ち上げ花火。
昨日よりはましだが、やはり激しい情動に意識が飲み込まれそうだ。
腹に力を入れて耐える。やがて唐突に、気配は消えた。


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