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許由と太上老君
1
:
【管理人】アイオーン・アブラクサス★
:2009/06/21(日) 17:32:04 ID:???0
ヤルダさんのリクエスト第一弾。
「荘子」逍遥遊や「史記」燕世家などに見られる故事として「許由巣父」
というのがある。まず許由というのは、これは既に何回か述べたことであ
るが、古代中国の伝説時代、「帝堯」の時代に登場する世間の冥利を嫌っ
た「隠者」あるいは「隠士」である。彼にまつわる話は突拍子もないのだ
が、帝堯が突如として許由の庵を訪れて、いきなり帝位を譲ると申し出た
というところから語られる。それを聞いた許由は「耳が穢れた」と言って
帝堯の申し出を断る。頴水に向かい、「穢れた耳」をその水で洗い落とす
許由。そこに、牛に水を飲ませようと一人の農夫(巣父)がやってきた。
農夫からすれば許由がやっていることが不思議なことだったのだろう。な
ぜそんなところで耳を洗っているのかと許由に尋ねる農夫。そのわけを聞
いて農夫は「そんな穢れた耳を洗った穢れた水を牛に飲ませるわけにはい
かない」として、牛を川上に連れて行く。「偉い農夫だ」と感動した許由
はその農夫の後を追い、いつしか頴水の上流にあった棋盤山の黄帝陵(軒
轅廟)の前に出る。許由はそこに隠れ住むことになった。
とまあ、一応の故事はここで終わりである。これは栄貴を忌み嫌うたとえ
の故事としてしばしば画題にされることであるが、『封神演義』ではまだ
この先に話が続いている。
軒轅廟の庭に、額に黒ブチのある白い大きな虎が寝そべっていた。考えに
耽っていた許由は、それを白い巨石と間違えて腰を下ろしてしまう。その
時この虎が動いて許由は気絶した。ところがこの白い虎は許由を食おうと
はせず、逆に懐いて気絶した許由の顔をやさしくなめたのである。このよ
うな不思議な人間と虎の一連の出来事に眼をとめたのが、崑崙山脈の終南
山、玉柱洞の雲中子という仙人で、彼は許由とこの虎(黒点虎と名づけら
れる)を仙界にまで連れて行く。帝位を拒絶した人間の魂の位は、帝王よ
りも高位であるために、仙界の教主の一人である元始天尊は、この許由の
待遇を測りかねて、仙人界の大長老である玄都八景宮の太上老君(老子)
に相談を持ちかけた。この太上老君、めったなことでは顔を出さないが、
許由と聞いて元始天尊のもとに訪れた。なにかしら気にかかっていたのだ
ろうか、「なぜ帝位を拒否したのか」と尋ねる老君に対し、許由はこのよ
うにいう。
「我、あえて天下の先にたたず」
これが老君の気を惹いたのである。これは老君が徳目の一つとして挙げて
いた言葉と同義だったという。許由はそのときから老君の特別な庇護を受
けるようになり、「道士」となる。その道士名を「申公豹」という。しか
し彼は「仙人」になるつもりはなかった。見た目は払塵を手に、長い髭を
なびかせ、道服姿でいるので、申公豹は絵に描いたような仙人である。下
界では、その払塵の中に仕込まれた雷公鞭という宝貝で、人々が被った災
害に対して救助活動をしたりしたので、人気があった。ところが彼は仙人
界の異端児だった。仙人になろうとしないというのが他の仙人には気に入
らないのだそうだ。申公豹のほうは、彼は彼で仙人界の徒弟制度というも
のが気に入らず、うざったがったそうである。いうなれば、彼は仙人界で
はKY扱いされていたのだ。『封神演義』の物語の中でも、申公豹はその
異端児っぷりを大いに発揮する。時折黒ブチの虎に揶揄されるのが面白い。
2
:
【管理人】アイオーン・アブラクサス★
:2009/06/23(火) 21:56:22 ID:???0
失礼、許由が徒弟制度を嫌ったというのは、老君の庇護を受けている
状態をうざったがったわけではないということを述べておきたい。老
君に対しては許由は最大の敬意を払っている。彼がうざったがったの
は他の仙人のように「自分が弟子を取る」制度についてなのである。
そこが自由奔放さを好む閑人としての性質なんだろうと思うが、時折
他の仙人とこの許由とどっちが仙人っぽいだろうかと疑問に思うこと
が多々ある。それがまた面白い要因ではあるのだが。
この申公豹と呼ばれるようになってからの許由、彼は天界と仙人界の
連絡将校的な位置づけにいる女媧とはすこぶる仲が悪い。彼女は許由
を無頼者呼ばわりし、彼を道士として取り立てたことをして、仙人界
のしでかした失態呼ばわりする始末である。それというのは「女媧の
なすこと=天数」という図式について、許由が何かと邪魔立てしよう
とするからである。「天数」といえば聞こえはよいかもしれないが、
ようは天界の気まぐれということである。特にこの女媧の場合、人々
の災難を救助するということもあるが、非常に気難しがりやで怒りっ
ぽい性格をしている。容姿端麗ではあるのだが。殷を滅ぼすというこ
とに関しても、殷の命数が既に分かっているはずの天界であるのに、
女媧は紂王を許すまじ(紂王が女媧を称えるつもりで女媧宮に貼り付
けた文がその内実猥褻なものだったことに対する私怨)として三妖を
送り込む。こういうことが許由は大嫌いなのである。よく考えてみれ
ばわかるが、紂王一人に災厄をもたらすならまだしも、災厄をもたら
されているのは本当のところは誰かといえば、その支配下にいる人民
となる。それも彼女の私怨一つでだ。三妖怪が「殷を滅びの道へと向
かわせるならばなんでもしてもよい」という状況を造り上げる、その
ことが明白に見えており、不条理が大嫌いな許由はそれを阻止しよう
とする。それもことあるごとにである。だから女媧にしてみれば許由
は「無頼漢」なのである。
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