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哲学的・雑談的 3

142千手:2008/04/17(木) 20:54:08
Ein Buch für Alle und Keinen (ツァラ・ゼミ8)

ツァラ・ゼミを再開する。こういう仕事もついでの時間がないとできないのだが、さいわい京都造形芸術大学で「ニーチェの『ツァラトゥストラはこう言った』を読む」という授業をさせてもらえることになったので、これを機会に『ツァラトゥストラ』の読解を進めさせてもらう。授業は日本語訳を出発点にして読み進めてゆくのだが、それでも当然内容をきちんと検討するためにはドイツ語の原文に戻って点検しなければならない。このブログでは、前と同じように、論を進めてゆく。日本語がわかれば論旨は理解ができるようにするが、その論証の正しさを理解してもらうためにはところどころドイツ語の理解を必要とする、といったところだ。この授業を機会に、手塚富雄訳(中公クラシックスw17)を手に入れたので、叩き台にするものが増えた。しかし日本語訳の出発点にするのは、今回も同じく氷上英廣訳、岩波文庫の『ツァラトゥストラはこう言った』である。まずは「序説」を最後までやりたいと思っているが、いろいろな都合でどうなるかわからない。先のシリーズでは授業では説明したが、説明がかなりやっかいなところは幾つか飛ばした。今回はそういうところを補えればいいのだが。その余裕があるかどうかは、まあ、やってみなければわからないことだ。まずは4月15日の授業で考えた、巻頭の、"Also sprach Zarahtustra."というタイトルの下につけられた"Ein Buch für Alle und Keinen"という添辞について述べてみよう。

 その添辞というか、「副題」というよりはコメントに近いと思われるその言葉は、次のように訳されている。

1.「だれでも読めるが、だれにも読めない書物」 氷上英廣訳、岩波文庫。
2.「万人のための、そして何びとのためのものでもない一冊の書」 吉沢伝三郎訳、ちくま学芸文庫
3.「万人に与える書、何びとにも与えぬ書」 手塚富雄訳、中公クラシックス

三者三様の訳、と言えるかもしれない。けれど一番分かりやすいのは氷上氏の訳だ。読者に向かって、ちょっと高踏的に、お前たちのだれでも文章は読めるだろうが、内容は誰にも分からないだろう。そんな本だ、と構えているところを見せているのだ、というわけである。なるほど確かにわかりそうな気がする。しかし、もしこの本は「だれに読めない」本だと宣言するのであれば、何でそんな本を公にするのであろうか? 
 実際わたしには、この問いを問うだけで、ニーチェがこの言葉にこめたものにまっすぐにたどりつくことができるように思う。だがしばらく寄り道をしよう。
2.「万人のための、そして何びとのためのものでもない一冊の書」の吉沢訳であるが、これはドイツ語の文字どおりの逐語訳に近い。それだけに訳者がそこにどういうメッセージを読み取っているのか示してもらいたいところだが、吉沢訳んぼ巻末につけられた豊富な注にも、この「添辞」の解釈は見当たらない。となると、訳者がどう解釈したかわkらないままである。しかしこの短い訳文からも、わたしなら決してそうは訳さないところが見出せる。それは「ための、そして」の間の「、」だ。後で述べるが、わたしはこの「、」が誤りだと思うのである。
3.の手塚訳は、まるで正岡子規の『歌よみに与える書』を思い出させる。おそらく訳者の念頭に浮かんでいたものに違いない。しかしこの「万人に与える書、何びとにも与えぬ書」は何か滑稽である。「万人に与える書」の方はお前らみんなこれを読んで勉強しておけ、というような高慢な姿勢として理解できるのであるが、しかしその同じ高慢な調子で「何人にも与えぬ書」とやられると、それなら自分の部屋に積んでおいてベッド代わりにするか、あるいは寒いときには薪にでもされたらよいでしょう、と言いたい気になる。つまり、この後半は「お願いだからもらっておくれ」と言いたいのに、言えないで、さびしくしている自尊心のお高い男のセリフにしかみえないのである。それにそもそもどうして「与える」などという訳語が出てくるのだろうか? "für"に与えるという上から下への視線を読み取るのは誤りである。"für"は、「〜向きの」、あるいは、「〜のための」というぐらいの意味である。誰に、あるいは何にフィットするか、というようなことである。その後に"gegeben"(与えた)が省略されているのだ、と言い張る人がいるかもしれないが、それなら"für"ではなく、"Alle""Keinen"も3格にして語るはずだ。手塚訳は、一応日本語にはなっているが、一貫した解釈ができているとは言い難い訳だ。


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