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京都・京師・京洛

98とはずがたり:2008/10/21(火) 13:29:00
>>97-98
貸付の前に多角的な事前評価を行なうことが必要

 ただし、そこではいくつかの条件を必要とする。私は個人的に、一つの政策を評価する場合、派生する効果を多角的に分析できているか、そして、効果が対象者(この場合なら、低所得世帯)にとって真に望ましい状態を形成できるのかという2点をポイントとしている。

 例えば、過去に国の社会保障政策の一つとして、介護保険対象者の中で要介護度が軽度な者に「介護予防サービス」を導入するという制度改正が行なわれた。政策意図は、「要介護度を悪化させないよう、自分でできる部分は自分でしてもらう。その結果、無駄な給付を抑え、制度を持続可能なものにする」というものである。だが、現実はどうなのか。

 私は当初から、「自分でできることは自分でする」という利用者側の“意欲”を大きなポイントとする場合、心理的なサポートをセット化することが必須であると考えていた。それを行なわずに、「予防サービス」への転換を図るということは、利用者側の「支えられていない」という不安感を助長し、むしろ自立度を低め、中長期的に保険給付を増やすという結果を生む可能性がある。私の取材経験からも、その兆候をみるケースが増えている。

 今回の京都市の緊急施策についても同様のことがいえる。「物価高騰分の生活費を補う」ことの先には「住民不安を解消する」という目的があるはずで、本当にそれで不安解消につながるのかという多角的な事前評価を行なうことが必要なのだ。不十分というのであれば、例えば、生活相談の受付窓口を同時に強化し、多重債務世帯などの早期発見や解決策に向けたサポートチームの機動性を高めるなどの施策もセットで必要になるだろう。

効率的な評価システムを構築し、貸付に意義があるのかどうかを検証すべし

 こうした事前評価に基づく複合的な政策立案がなされなければ、1回のみの数万円貸付などは、砂漠に水をまくような効果しか期待できない。結果として、1億の補正予算は中長期的には住民の懐を痛めるだけとなる。予算の源泉は、他ならぬ彼らが納めた税金であるのだから。

 事実、今回の施策に関して私が当の京都市民からヒアリングした中に、「一時的な借金返済などで消えてしまうケースもあるのでは」という、違った意味での“急場しのぎ”を懸念する声も聞かれた。ここ1、2年、世帯内の「隠れた多重債務」(一見、生活状況が健全なようでいて、実は借金漬けになっている状況)が急速に増えている。そうした中では、「日用品に使ってくれるだろう」という甘い予測だけで財政出動することは大いに危険といえる。

 そもそも京都市といえば、今年7月、2011年までの3年間に総額964億円の財源不足が生じるとの財政見通しが明らかになり、財政再建団体に陥る可能性があることも示唆されている。すでに市営地下鉄事業と市バス事業は、08年度中にも再建計画の策定が必須な状態に追い込まれている。その一方で、京都市の職員互助団体に毎年2億円規模の補助が行なわれていたことで、市の財政そのものへの批判が頂点に達しつつある。

 その意味で、政策効果の測定が中途半端なままという状態が続けば、「結局は、財政悪化の批判かわしではないのか」という声にもつながりかねない。市当局にしてみれば「ひどい誤解」ということになろうが、住民感覚をきちんと理解していないと、意図しない批判が次々と襲ってくることになるだろう。

 いま全国の自治体を巡って感じることは、住民が「いま何に困っているのか」を正確に吸い上げる仕組みについて、高度な計算に基づいたシステム設計を行なっている所とまったく機能していない所の二極分化が顕著になってきた印象である。前者についていえば、それが結果として、少ない財政で高い効果を得るという理想的な状態を生み出している。

 京都市の施策が果たして、住民目線に立った効果を得られるのかどうか。せめて実施後の効果測定に向けて、効率的な評価システムを構築しておくことを提案したい。
田中 元(たなか・はじめ)

 介護福祉ジャーナリスト。1962年、群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。主に高齢者の自立・ 介護・福祉等をテーマとした取材・執筆・講演活動を行なっている。新聞や高齢者介護の専門誌などで、現場の視点に立った記事を掲載。著書に『図解 よくわかる介護保険 しくみ編+実践編』 (ナツメ社)、『介護現場の事故・トラブル防止法』 (ぱる出版)、『やさしい介護のしかた』 (監修/あい介護老人保健施設、高橋書店) など。


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