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人口問題・少子化・家族の経済学

1790とはずがたり:2017/12/31(日) 20:02:15

Ariely (2008)で報告されている実験の多くでは,選択行動を行っている人間の意識にのぼらない「手掛かり(cues)」を発見するような設計がきわめて巧妙になされている.その結果,被験者たちは自分たちがどうしてそのような行動を示すのかを,選好や信念という概念を用いてうまく説明できないこともしばしばである.しかしながら,こうした行動の「合理的行動」からの乖離は,予測可能な仕方で発生するというのがアリエリの主張である.こうした研究は,上記の区別でいうならば,行動経済学Ⅱに属する

現在,標準的経済学と鋭い対立関係にあるのは,このうち行動経済学Ⅱの方である.信念や選好といった志向性に訴えることなく人間行動を説明しようとする行動経済学Ⅱの近年の発展はそこで,この節と次の節では,グルとピーセンドーファーの議論を簡単に整理して,彼らの議論の射程を定めるとともに,彼らが主張するように,神経経済学が標準的経済学にとって無関連,進化論や認知科学の発展によって,人間行動に対する自然主義的アプローチの攻勢が強化されているという背景なしには理解することが難しい.

ところで近年,標準的経済学にコミットする学者たちと神経経済学にコミットする学者たちの間で激しい論争が行われるに至り,両派の主張が一冊の書籍としてまとめられた ( Caplin andSchotter 2008).同書は,標準的経済学の立場から神経経済学の主張を批判するものとして書かれた Gul and Pesendorfer (2008) を中心に,それに対するさまざまな論者からの反批判をまとめたものである

ところで,グルとピーゼンドーファーがこの論文で神経経済学と定義するのは,以下のような主張をする研究のことである.
主張Ⅰ:心理学的・生理学的な証拠(たとえば快楽状態や脳のプロセスの記述など)は経済理論に対し直接的関連性を持つ.とくに,こうした証拠を経済モデルの支持や反駁に用いることができる.あるいは経済学方法論の支持・反駁に用いることができる.
主張Ⅱ:人を幸せにするもの(「真の効用」)は,人が選択するものとは異なるものである.
経済厚生の分析には選択を支配している効用(「選択効用」)よりもむしろ真の効用を用いるべきである.
主張Ⅰはいわゆる実証経済学に関するものであり,主張Ⅱは規範経済学に関するものである.


グルとピーゼンドーファーが主として批判の対象としているのは,前節で導入した区別でいうならば,自然主義的な行動経済学Ⅱの方である

神経経済学者たちによる規範経済学への批判(主張Ⅱ)に対するグルとピーゼンドーファーの反論は,以下のようなものである.
標準的経済学は,顕示選好の考え方に基づいて,経済主体が自らの経済厚生にとって最善な選択をするものと考えている.すなわち厚生と選択とを同一視しているのである.これに対し,神経経済学は,人を幸せにするものと人が選択するものとは違うことを問題にして標準的経済学の厚生経済学を批判している.しかし,それは標準的経済学を誤解するものである.神経経済学が人を幸せにするものと人が選択するものとの乖離を強調する
とき,それは,経済学者と経済主体との間の関係をセラピストと患者の間の関係と類推的に考えている.その結果,この乖離についてより多くの知識をもった主体による温情主義的介入がしばしば正当化される.

標準的経済学と神経経済学の間の論争が基本的に第 3 節で設けた「合理主義」と「自然主義」の両陣営の間の論争になっていることである.

いくたの論争を経た現在もなお,両陣営を統一的に見通すような枠組みは提示されていない.その根本的な理由は,「合理主義」の陣営が,信念や選好といった志向性概念を用いて人間の行為を説明しようとしているのに対して,信念や選好といった志向性を自然主義的に理解する理論が現在では存在しないため,両者を架橋あるいは翻訳することが不可能であることによる.人間行動は,意図的な行為として語ることも,物的な出来事として語ることも可能である.しかし,これら 2 つの語り方は,概念を共有しておらず,翻訳もできない事態にあるのである

このことは両者の間の対話があらゆる意味で絶望であることを意味しない.もし,グルとピーゼンドーファーの主張が,「神経科学的な証拠はいかなる意味でも経済学にとって無関連である」ということならば,その主張は強すぎると言わざるをえない


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