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食品産業総合スレッド
1630
:
とはずがたり
:2015/11/10(火) 17:39:03
>>1628-1630
次にトリプトファン事件の被害者救済のための責任の取り方の問題である。事件発生当初から、トリプトファンに含まれていた不純物であると公的に出された結論に対して患者集団は損害賠償を昭和電工に求めた。しかし、その原因は不純物ではなく単に多量摂取に有ったと推測されるに至った。この時点で不純物に起因するとしたら責任は取らなくても良いことになるから、昭和電工は米国の健康食品事件史上最高といわれる賠償金は支払わなくても済むような気がする。しかし、実際には昭和電工は賠償金支払いで患者と和解している。その責任は不純物混入による過失に対してではなく、いわゆる製造物責任法(PL法)によっている。ここに健康食品を製造販売する立場の大きな責任問題を見ることができる。それは、使用者が多量に摂取したということであっても事件を起こしてしまったらその責任は間違いなく製造者に来るということである。そして、トリプトファンが医師の処方箋の基で使用されているケースにおいては発症しなかったという事実は、例え健康食品であっても過剰摂取を防ぐためには一般市民に対して的確なアドバイスのできる人が必要であることを示している。
最後にもう一つ、昭和電工のトリプトファンに不純物が含まれることになったのは、枯草菌の遺伝子組み換えを行ったことと精製過程が不十分であったためと結論付けられていた。そこで、遺伝子組み換え食品による世界で最初の死亡事故が発生した事件としても注目を浴びた。そのため遺伝子組み換えという技術の導入により発生するかもしれない問題の新たな危険性の一つとして指摘された。さらに遺伝子操作によりそのような危険性が予測されていなかっただけに、遺伝子操作が引き起こす不気味な現象としてのイメージ作りに大きな役割を果たした。現に遺伝子組み換え食品に対しての反対運動を行っている人達の反対理由となる重要な事件として長く取り扱われている。
以上のようにトリプトファン事件の真相が不純物ではなく、使用方法の誤りに起因していたことが明らかになってきた過程を振り返ると、健康食品の世界にもその表示、販売方法、使用方法に関するアドバイスなどに対してしっかりした法的根拠を与えることの重要性が浮き彫りになっている。消費者庁では現在「健康食品の表示に関する検討会」が開催され新しい方向が模索されている。この検討会が皮切りとなって健康食品の法的な存在意義が確立され、健康食品による健康障害が発生しない社会ができることを望んでいる。(鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科教授 長村洋一)
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