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食品産業総合スレッド

1629とはずがたり:2015/11/10(火) 17:38:48

 先月のこの欄でも少し触れさせていただいたが、トリプトファンによるEMS騒動について多くの方がトリプトファンの製造過程に副生した不純物によると信じておられる。昨年末に開催された日本トリプトファン研究会の席上でたまたま小生がこの話をする機会があったが、参加者の多くがやはり不純物によると誤解をしておられ、改めてことの真相が知られていないことに驚かされた。実はこのように述べている小生も3年前に発行された内藤裕史氏の著書「健康食品中毒百科」(丸善発行)に出会うまで知らなかった。内藤氏の報告は非常に綿密な文献調査に裏付けられていて多くの研究者がこの真相を不純物によると確信した過程も明らかにされている。
 簡単に結論に至るまでの経過を纏めると、EMSの発生後間もなくその症状がスペインで1981年に発生した化学物質による中毒とよく似ていたことから、トリプトファン中に不純物の存在を疑いFDAは回収を命じた。そして、疫学調査と若干の動物実験を基に昭和電工の製造したトリプトファンに含まれる微量の不純物が原因であるとの結論を出した。しかし、突き止められた不純物による動物実験は昭和電工のトリプトファンを飲んだ場合の8000倍でやっと症状がでること、昭和電工の製品でないトリプトファンでも大量投与によって同じ症状が報告されていること、昭和電工の製品が出る以前にもトリプトファンの投与によってEMS様症状が出ていること、ある種の神経系医薬品とトリプトファンとの併用でEMS様症状が誘導されること、不純物が原因として報告された疫学調査の方法論にかなり致命的な誤りがあること、さらにはトリプトファンが全く関与しないで発症するEMSが存在すること等などから昭和電工の不純物によるという説はほぼ完全に否定されている。この経過の詳細は内藤氏の著書に理路整然と記載されている。

 ところで、このトリプトファン事件の真相は健康食品の抱えている問題点を見事に具現している。まず、これは医薬品においても共通することであるが、効果が出る化学物質は、その摂取量を超えると体質、個体差、環境などにより副作用がでるということである。トリプトファンは1g以上の摂取によって確実に多くの人々に心地よい眠りを誘う。ドイツ、カナダなどでは一般人や精神疾患患者も含めて、医師の処方箋の基に睡眠導入剤として現在も使用されている。すなわち、食品ではあるがその目的とした効果が医薬品並みに確かに得られる。少なくとも小生は自分自身で時差ぼけのときに試した経験から素晴らしい健康食品であると確信している。そして、必須アミノ酸ということを考えれば少々の摂取は安全性と言う観点から心配ないと考えるのは一般的心理としておかしくない。しかし、現実には大量投与により事件は発生してしまった。

 ここには、食品だから安全だという意識に対する危険性に関して強い警告が内在している。最近、種々ビタミンのみならずCoQ10、αリポ酸などかつて医薬品であった物が食品の範疇で販売されるようになった。多くのビタミンは栄養機能食品として法的にその摂取上限量が規定されているが、CCoQ10やαリポ酸などは完全な食品の範疇に置かれているため摂取上限に関する法的な規制も無く全く野放しの状態である。(CoQ10については、食品安全委員会で摂取上限値を議論した)そのためダイエット効果等を狙って医薬品としての上限量を超えた摂取が行われ、αリポ酸などでは耐糖能異常など発生の報告が幾つも出始めている。食品=安全という思考の中で健康食品が扱われると、トリプトファンのような大事に至らなくても過剰摂取による障害は必ず多発する。毒性学の言葉を借りるまでもなく、どんな物質も毒物になるかならないかはその量に依存するからである。


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