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農業総合スレ
2217
:
とはずがたり
:2017/12/09(土) 19:29:47
エノキからエリンギに切り替えるかどうか非常に迷った時期もあったという。「けれども、エリンギはゼロからのスタートなので、軌道に乗るまで時間がかかります。そう考えるとやはりエノキで突き進むしかないなと。また、エリンギを作る人が増えたら価格は下がります。結局、何を作っても同じことなので、どこで勝負して、どうやって1番になるのか、それしか方法はないと思ったのです」と加藤社長は振り返る。
●生産量が10倍に
そこで加藤社長のとった戦略が、単位面積あたりの収量を増やすこと。これは農業で売り上げを伸ばすためには当たり前の施策と言えるが、エノキ栽培でこれを実現するには多額な投資が不可欠だったのだ。どういうことか。
エノキは筒型のプラスチック容器で栽培し、例えば、1つの容器から300グラム収穫できるのか、500グラム収穫できるのかで売り上げは大きく変わってくる。容器のサイズを大きくすればその分、収量が増えるというのはその通りなのだが、これが一筋縄ではいかないのだ。
最大のハードルは、従来の容器のサイズなどの規格を変えるため、工場の生産システムや貯蔵冷蔵庫など、あらゆる設備を新しくしなければならないことだった。エノキ工場において設備投資の規模は売り上げの4倍が目安だと言われており、とても多くの農家では真似できるものではなかった。
事実、十数年経った今も、加藤えのきのように大きな容器の規格でエノキを栽培しているところはほぼないという。全国にエノキ農家は約600あるが、7割以上が家族経営の小さな農家だという事情もある。
「容器を大きくすれば収量が上がるという理屈は分かるけれども、それをやるには容器内のエノキを均等に育てるなど技術的な難しさがあるし、何より製造設備を一から作り変えるにはお金がものすごくかかります。けれども、僕らはそれをやることに決めました。他社ができないからこそチャレンジする必要があったのです」
実際には大ばくちだった。この新しい規格に対応した設備を作り上げることができれば、しばらく会社は安泰だろう。逆にこれができなければ会社はもう駄目だと腹をくくった。「同じことをやって、他人の後ろをずっとついていっても差は埋まらない。何か違うことをやって形にしないと」――加藤社長のこうした危機感が行動に表れたのだ。
大規模な先行投資が功を奏し、生産量は急増。利益が出た部分を次の投資に回すことができるようになり、当時1棟だった製造工場は4棟に、年間生産量は10倍にまでなった。今期は売上高10億円を見込む。
●対応力で勝負
加藤えのきの戦略が他社と決定的に異なる点はほかにもある。商品の対応力だ。現在、日本の多くは核家族なので、野菜などの食品は小さなサイズを求める傾向にある。エノキに関しても、100グラムもいらないから50グラムにしてほしいという消費者の声は少なくないそうだ。ただ、生産者にとっては株ごと大きなサイズで出荷したほうが人件費などのコストが浮くのでそうした対応を好まない。
そうした中、加藤えのきでは50グラム、100グラム、150グラム、200グラム、300グラム、500グラムと、消費者のニーズに合わせて商品のサイズを細かく分けて出荷している。「業界はどちらかと言えば生産者都合の対応をしています。けれども、僕らはあくまで消費者のニーズに合わせようとしています」と加藤社長は力を込める。
この対応力によって成し得た好例が冒頭の月見ステーキだ。このメニュー向けのサイズを用意するだけでなく、工場で軸の部分だけをカットし、それをパッキングして塚田農場に納品しているのである。
これも実に手間暇がかかっている。基本的にエノキは1本1本がバラバラになりやすいため、軸をカットする際、すべて手作業でやる必要があるが、当初はすぐに軸が割れてしまい、商品として使いものにならなかったという。そこで切り方に工夫を凝らすなどして、今ではほぼロスがなくなっている。パッキングについても、最初は1袋に5株入れていたが、見込み発注なので、いっぺんに1袋分使い切らずに数株残して保管する店舗もあった。すると当然エノキの鮮度が落ちてしまう。「僕らも店に食べに行ったとき、ちょっと新鮮味に欠けるなと感じたことがありました。それから社内でも鮮度を保つにはどうするべきかとより強い問題意識を持つようになりました」と加藤社長は話す。
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