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農業総合スレ

2029とはずがたり:2017/02/15(水) 05:53:52
>>2027-2029
独身の棈松は途方にくれた。千歳以外の北海道の役場にもかたっぱしから連絡をしてみた。「独身っていうだけで、どこも話も聞いてもらえなかったっスねえ」。未婚は北海道の新規就農希望者たちにも大きな影響を与えていた。
「人気がなくてライバルの少ない所はどうかなって思ったんです」。作物が穫れず酪農しかできない土地。中頓別は棈松にとって好都合だった。「それまでの事もあって最初に独身なんですって言ったら。まずは話を聞きましょうって言ってくれて」
役場の平中は言う。「まだ中頓別への就農希望者の数が、さほど多くないというのもありますけど。独身の方もできるだけサポートしたいと思いパートナーツアーなんかもやってます」。パートナーツアーとは酪農後継者の婚活支援にと役場が企画したツアーである。

棈松の場合
研修生として中頓別で2年目を迎える棈松に、就農先はまだ見つかっていない。
「そりゃあ早く独立して就農したいですよ。もう40歳なんでこれから就農して65歳までに借金返してってなったら、返してすぐ引退になっちゃうんで。できるだけ早く借金返して収益あげていきたいです」
余分な初期投資はできない。牛舎は古くて構わないし、飼料も買うので牧草地もいらない。トラクターさえ一台あれば、他の機材はレンタル。予算2000万円で入れたらというのが棈松のプランである。「古くていいと言っても、使わないまま何年も放っておけば牛舎は使いものにならなくなるし。新規就農者が入れるタイミング。逃しちゃいますからね」

「タイミング」新規就農希望者との会話のなかで必ずでてくる言葉である。「離農して空いてるとこは結構あるんですよ。でも簡単には売りたくないっていうか。金額で折り合わないとこがほとんど。そんなんしてるうちに時間だけ過ぎてって」
棈松は「繋ぎ」と言われる一日中牛を牛舎に?いでエサから排出、搾乳までをすべてこなすやり方から、牛舎内を牛が自由に動き回る「フリーストール」などあらゆる経験を積んでいるエキスパート。言ってみれば棈松は酪農における〈未就農の〉職人なのである。「どんな離農跡地でもやってく自信だけはあるんですけどねえ」
就農以外では思わぬ収穫があった。パートナーツアーが功を奏し、棈松はめでたく結婚が決まった。人生設計で足りない物は就農だけになった。

ちいさな革命
時代とともに変わって行く酪農。新規就農者に門戸を開く北の町に、ささやかな革命が起きた。全校生徒52人の中頓別小学校。子どもたちの給食トレーに、今まで作られたことのない地元の生乳を使った「なかとん牛乳」が、初めて配られた。

中頓別で搾られる生乳(牛から搾ったままの状態)は集荷された後、よつ葉乳業の工場に運ばれて、水分を抜かれて「全粉乳」と呼ばれる粉末になる。それは缶コーヒーやチョコレートなどの多様な乳製品に形を変えて私たちへと届く。中頓別の生乳が「牛乳」になる事はない。それが通常の生乳の流通ルートだが、「酪農の町に生まれたからには自分たちの牛乳を飲んでみたい」という長年の地元の声がかたちになり、今回「牛乳」の少量生産が決まった。

18年前には69戸だった中頓別町の酪農家は、昨年11月に藤本が加わり35戸になった。藤本は言う。
「僕らは目の前にいる牛を見て搾乳して出荷する。原料を作ってるっていう気持ちかな。なんで牛乳になれなくて悲しいって事は、ないですねえ。でも出荷後についても自分たちが考えてなきゃいけない時がいつか来るのかもしれないですね。せっかく7年もかけて酪農家になったんですから」

伊勢華子(いせ・はなこ)
作家。東京都出身。学習院大学卒業、同大学院修士課程修了。著書に『健脚商売?競輪学校女子一期生24時』、『サンカクノニホン?6852の日本島物語』、『「たからもの」って何ですか』など。


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