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鷹目遊里史板
554
:
夕凪
:2010/05/03(月) 12:11:36
鄙びた湯・古い湯治場 はしがき ? by 渡辺 寛
とうとう私は酔いつぶれ、
気がついてみると女が枕もとにきちんと坐っていた。
その夜明けに見た桜桃の花の色を、生涯私は忘れられない。
「 仄桃色 (ホノモチイロ) 」という言葉があれば、
それがいちばん似合った色だ。
私たちはふたりとも話し合わないのに
死ぬことを考えなおしていた。
そのことについてお互に話を避けたわけではなかった。
生きろことの尊さがわかったようで、
女と別れるときも、ふたりともお互いのしやわせを
いわず語らずのうちに折り合った。
結局は邪恋だということをあの婚礼が反省させてくれたのだと
いまでもしみじみそう思う。
女はその後、空襲で死んだ。
私はなくなった桑折鉱泉を想うとき、
桜桃の花と婚礼の席を想い起こす。
いで湯・いで湯はどの人にとっても、
これに似たおもい出を残していることだろう。
まして無くなった温泉は………。
昭和31年6月1日発行の著作より
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