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伊東静雄を偲ぶ

1037山本 皓造:2014/06/26(木) 18:45:01
谷友幸『リルケ』(アテネ文庫、昭26.10刊)
 Morgen さんの投稿に触発されて、何かリルケの本を読んでみようと書架の前に立ち、やがて引っぱり出したのが、これでした。
 「アテネ文庫」。今どきこんな名前を知っている人はもうあまりいないでしょう。この文庫はどれもみな薄くて安くて(上掲書は78ページ、定価30円)、私もだいぶん持っていたのですが、いつのまにかみんな無くなってしまいました。
 谷友幸先生の名前も、古いリルケイアンなら知っている、その筋ではかなり有名らしいのですが、今頃は聞きません。私はこの谷友幸先生に、2回生のときにドイツ語を習いました。こわい先生でした。たしかテキストはホーフマンスタールだったと思います(無茶ですよね)。
 そんなわけでわたしにとってはなつかしい本で、それこそ一気に読了しました。(なにしろ78ページですから。)
 そのうえで思うのですが、もう、自分は力が弱くなって、何か本を読んで、ハッと気を引かれる場所に遭っても、いつか強い思考の力を以て独自の思索を展開することがあるとすれば、この個所はその立脚点の一つになるだろう、と思って、傍線を引き、メモに書き写し、コピーを取って、それを残し、しかしながら「強い思考」は一向に働かず、「独自の思索」は少しも立ち上がらない、口惜しく、情けない思いばかりが残る、という具合なのです。今回も引用で埋めることになりましたが、どうかお許しください。
 さてそれで、昔読んだ時も今も、やっぱり「リルケはむつかしい」。私はMorgenさんの引いておられる、塚越敏『リルケの文学世界』も持っていて、半分ぐらい読んだのですが、時祷・神・復帰・形象・親密性・鏡・運命・落ちる・伽藍・精神・たましひ・世界内面空間・純粋連関・内部/外部・物象・愛・恋をする女・死/生・天使・豹……
 ザッハリッヒということについて、とくにひとつ印象深く残っているエピソードがありました。それは、別の本で読んだのかもしれません。谷さんの本から引用します。

「新詩集」は、抒情詩の領域に、未曽有の新生面を拓いた。いはゆる「物象詩」の成立である。この「物象詩」の最初の記念すべき作品たる「豹」が、詩人にとって、いかなる大きな犠牲のすえに生まれたか。読者は、パリのリルケが幾週間にもわたって欠かさずジャルダン・ド・プラントに通ひつめ、ひねもす檻のまへに立ちつくしながら、檻中の豹を熟視するに努めたことを、知ってゐるだらうか。

 わかりやすいエピソードですが、しかし私たちはその意味するところを、半分も、2割も、理解できないようです。檻の中の豹をひねもす観て、凝視めて、それで豹という物象の本質のようなものが見えてくるのか、そうして見えたものを詩作すればそれはザッハリッヒな詩ということになるのか。

 谷さんの主張は、仮に「物象詩」という云い方をしても、それは「リルケの詩作の発展の一段階」のようなものではなかった、ということであろうと思います。
 谷さんは一応リルケの活動の時期区分のようなこともしているのですが、そのあとで、

なほ「第一詩集」「舊詩集」に集められた諸篇とか、「生活に沿うて」「プラーク物語二種」「最後のひとびと」に収められた短編小説類は、リルケを専門に研究するのでなくば、詩人の有史以前の作としてまったく無視して差支へない。

と、大胆に断定し切っています(こわい先生でした)。もしそうだとすると、私たちも「呂」や、拾遺詩篇の前半なども「有史以前」として無視してもよいのかもしれません。
 「物象詩」についての谷先生の結語は、次のようです。

生の忘却と死の加齢――これが、パリ時代におけるリルケの芸術的生にほかならなかった。かくては、かれのたましひも、しだいに、その表層から冷たく石のごとく凍るばかり。かれは、石と化した内面の重みにあくまでも耐へながら、研ぎすました眼を鑿と化しつつ、観入の槌によって、一打一打、われとわがたましひを刻みながら、物の象を彫りおこす。「物象詩」は、すべて、かくのごとくにして、成立したのであった。

 本書のいちばん最後に、次のようなフレーズを含む詩句が引かれます。

……
もはや 眼の仕事は終つた
心の仕事にかかるがよい
……

 わかりやすい、と思ってはいけない。谷先生によると、ここには

「すべて宗教的なるものは、詩的である」との深遠な使命に生きた純粋孤独の聖なる詩人ヘルダーリンに嚮導されつつ、急角度の転向を行って、芸術による芸術の克服の道に進む

リルケがゐる、という。
 ……私に「リルケを読む」ということが果して可能なのだろうか。――
(書架にもう一冊、谷友幸『リルケ』(新潮社、昭25.8刊、328ページ)があるのですが、これには全然手をつけていません。)




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