したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。

☆☆☆☆☆ 同 人 α ☆☆☆☆☆ - ニューロン・カフェ

5499万理久利:2021/02/28(日) 13:52:12
『猫のしっぽ』
掲題は2月22日の猫の日をにらんでの図書館特設コーナーで借りた数冊の本の中で印象
に残った一冊。
著者高田宏さんは、作家になる前はエッソ石油広報部でPR誌『エナジー』の編集者でこれ
がまた数あるPR誌のなかでもピカイチだったそうである。
もともと観察力や表現力に長けていたことに加えPR誌編集で鍛えられたのだろう。ときど
きα電子図書に寄稿してくれる佐賀櫛田宮の牟田氏とちょっと重なる。

猫をめぐる43の短いエッセーが綴られているが、そこには画家である息子雄太さんによ
るたくさんの挿絵が挟み込まれている。息子もまた著者とともに猫と仲良く暮らしてきた
ことがよくわかる。親譲りの観察力と表現力が絵によく現れている。

「猫らしさ」をうまくとらえていると思えたエッセーをひとつ紹介。


  好奇心??

 仁木悦子さんに会ったのは一九八四年、国際ペン東京大会のさよならパーティーでのことだった。京王プラザホテルの大ホールの片隅で、車椅子の仁木さんと初対面の挨拶を交わし、すぐ猫の話に花が咲いた。
(中略)
 たくさん話したなかに、猫の好奇心、とりわけ子猫のなみなみでない好奇心のことがあった。猫はだいたい、好奇心のつよい動物で、玄関に人が来ると様子をさぐりに出てきたり、荷物が届いたりするとそのダンボール箱をぐるぐる廻って調べたりする。箱を空けて中味を出せば、今度は空き箱のなかに跳び込んでみる。好奇心のかたまりなのだ。なかでも子猫の好奇心はなみはずれている。
 仁木さんにも話したのだが、うちの猫の一匹でサチという三毛猫がまだ生後半年あまりのとき、雪を見て好奇心をかきたてられ、雪のなかをかけまわったことがあった。
 或る冬の朝、起きてみると東京にはめすらしい大雪たった。庭の木々は枝という枝に雪を積もらせ、庭には数十センチの積雪があった。人間の膝くらいまでの雪だ。
 雪好きのぽくも興奮したが、ぼく以上に興奮したのが、サチたった。雨戸とガラス戸を開け放って雪見をしているぽくの足もとで、彼女はしばらく白銀の世界をくい入るように見ていたが、やがてじりじりと前進し、濡れ縁の雪を前足でさわってみた。
 その白いものの冷めたさにびっくりして手を引つ込めるのだが、また手を出してみる。何度かそんなことをしたあげく、サチはとうとう好奇心を押さえ切れなくなって、お尻と短い尻尾を振ったかと思うと、庭の雪のなかへジャンプした。
 その日の雪は軽い雪たった。ジャンプしたサチが雪煙にかくれた。つぎの瞬間、塀のほうへ向かって突進していた。両子両足が雪に埋もれながら、猫族特有のしなやかな跳躍力を見せ、粉雪を散らせて走る。塀際の常緑樹の下は薄い雪だ。そこまで行くと、こちらを振りかえり、ちょっと得意気に鳴いた。
 サチはふたたび深雪に跳び込む<雪煙を散らして走る。
 ――おいおい、サチはトラたったのか。
 まるでトラが雪山を疾駆しているようだ。左に右にサチが走り、新雪が乱れてゆく。
 濡れ縁にもどったサチが、四本の足を順に振って雪をはらった。目はらんらんとして、雪を見ている。これはいったい何だろう、生まれてこのかた昨日まで一度も見たことのないものだ。たぶん、そう思っていたのだろう。手足に暖かさがもどると、サチはまた雪の庭ヘジャンプした。
 つぎの冬も雪が降った。「サチの大好きな雪だよ」とけしかけると、ちょっと庭に出たがすぐに帰−てきた。もう最初のような好奇心はうずかないようだった。

             

(好奇心:『猫のしっぽ』新潮社 P162より 絵 高田雄太)






掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板