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☆☆☆☆☆ 同 人 α ☆☆☆☆☆ - ニューロン・カフェ

3784万理久利:2015/05/05(火) 19:45:38
シリーズ歪んだ風景−セピア色の手帳 第三回
 亜細亜設計が主な舞台となる(1−3回)「セピア色の手帳」は、設計事務所を通して
建築業界の様子を垣間見ることができる。バブル崩壊後その問題点が一気に露呈したかの
ような姉歯問題や、国立マンション訴訟など次々と起きたがそれらも取り上げている。
第一回から登場する亜細亜設計H所長がその業界、時代、人々の映し鏡のような存在とし
て登場している。普段あまり目にすることがない建築設計事務所の内実と其の中から出て
来たH氏という人物とそれを見る主人公、二人の性格の対比が読み手にとってのおもしろ
さ興味に繋がってくる。

 第一回ではたまたま職探しをしていたときに、請われて勤め始めた先の所長Hの僅かな
情報と第一印象のみ、第二回では少しその実態がわかり、そして今回では、これまでの彼
の仕事ぶり所長ぶりが明かされる。このあたりは読者を引き留める続きものならではの進
め方なのだろう。世間で、また亜細亜設計で起きた建築に関係する事件やトラブルを背景
にH所長の仕事への取り組み方、考え方、そして性格、なぜそうなったのかまで主人公は
分析しはじめるのだ。
 事務所の設計ミスで大きな損害を蒙ったという話の後に続く国立マンション事件の詳細
箇所は、もう少し要点をまとめて短くてもいいのではないか。設計ミス、その内容も問題
点も被害の大きさも、或る程度読者に説明しなければ分かりにくい専門分野のことである
からこの部分は必要かとは思うが、色んな意味でこの箇所で足止めをくってしまう。興味
がこの事件に集中してしまいがちだ(少なくとも私は)。このような、環境権といった市
民の権利意識の高まりや行政側の規制、基準、法律、条例といったことから、ゼネコン、
下請け、設計事務所等々の業界構造と利害関係、責任のなすりあい体制等がからみにから
んだ、しかも大きな金が動く建築の世界だからこそ、その不備や不透明さが、H所長のよ
うな人間を創り上げたひとつの要因なのかもしれないと読者に思わせる効果はある。
 H氏の生い立ち容貌から迫る性格分析もまたおもしろい。自分が出会った人の中にも良
く当てはまる人物がいる…などと思わず納得させられた。筑豊炭鉱の町の建設業を営む鼻
息が荒く腹の座った父親の元で育ったH、同じ建築の世界に入ったのも、その気質もどこ
か親譲りのところがあるのだろうが、その気質自体は悪いものでもなんともなくただの気
質に過ぎない。その疑問は「かけひきや嘘で固めたり虚栄や妬みや蔑みで相手を負かすの
ではなく、正義や公正さでの筋を通すこが切符の良さであり粋であり人に尊敬されること
に気づかなかったのだ」との一節で納得。受け継いだ気質をどう生かしてきたかが問題な
のだろう。

??後半で、幼い頃見た畳屋、鍛冶屋、樽屋の仕事ぶりについてふれている。「物」を相手
に肉体を使って物を作る仕事、単調な仕事だ。職人達の没頭ぶり、その時の音のリズムや
香りに心奪われた記憶が語られる。子供も職人の姿は美しさや魅せられるものを感じるの
だ。H氏の設計士という仕事も職人といえば職人なのだろうが、人相手、金相手、行政(法
律・条例その他)相手となると、「肉体」対「物」の職人というより、「頭(時として悪
知恵)」対「人」のイメージが強い。それ自体は何の色合いも無い対比なのだが、後者の
方が横道に逸れやすい要素を沢山含んでいるように思える。設計事務所の所長と職人の対
比をもってきたのも面白かった。
 職人の思い出につづいて登場するのが学習塾の上階の踊り場で見かけた「謎の女性」だ。
第三回の終わりとしては唐突な登場である。謎とあるからには、おそらく姿はあっても彼
女の意識はどこか遠くに飛んでいるといった状態だったのだろう。
異性であれ同性であれ、自分が入り込めない、どこか金や人付き合い現実の暮らしといっ
たものとは全く別の世界に引き込まれていてるような人を見ると、美しいというわけでは
ないけれど、何か神聖なもの、犯しがたい物がある。淡々と手を動かす職人も絵筆を動か
し続ける画家の姿もだ。H氏はそんな世界に引き込まれたことはあるのだろうか、そんな
人を見て神聖だと感じたことはあるのだろうか。最後読者にそんな思いを引き出して終わ
った「謎の女性」だった。
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