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☆☆☆☆☆ 同 人 α ☆☆☆☆☆ - ニューロン・カフェ

2345赤松次郎:2012/09/01(土) 08:14:31
山荘たより−20120830
コルム・トビーン著の「ブルックリン」を読んだ。
アイルランドの若い娘が、故郷では職がえられないためアメリカへ渡る。ブルックリンに住
んで、あるデパートの売り子として働きながら、夜は簿記の学校に通う。

訳者あとがきに「家族間に結ばれる暗黙の義務感、運命を受け入れる静かな諦念。ジェー
ムズ・ジョイス、ジョン・マクバガン、ウイリアム・トレヴァーといった書き手たちが切り
開いたアイルランド人の内面世界を、新たに掘り下げてみせる」とある。
ここで ウイリアム・トレヴァーが出てきたのでなるほどと思った。以前彼の著書「アイルラ
ンド・ストーリーズ」を読んだときも運命にあらがえない女性の静かな姿を鮮やかに描いて
いたからだ。

「ブルックリン」の主人公アイリーシュが姉の突然の死にあい、婚約者の元を離れてアイル
ランドに帰郷した。そこで会った顔見知りの青年との二週間足らずの付き合いに、ブルック
リンに残してきた婚約者の影が薄れ、いま現に目の前にいる青年に心が移る予感を持った。
若さ故の迷いもあることではあると、読者である私もそう納得してしまいそうであった。だ
とすれば単なる若い主人公の生き様を画いただけの単純な小説だと思った。しかし最後に主
人公はブルックリンに戻る決心をして故郷を旅立つ。そこには感情のままに故郷に残って青
年と一緒になるということが、婚約者を裏切ることへの罪の意識のなかで、情と理の狭間で
揺れ動く心の葛藤を画いたもので、最後の決断は彼女の生きる上でのしっかりとした彼女自
身規範を示したものである。

この結末はその苦い味を表現した秀作だと私は思った。自分の心に正直であれという自由奔
放な生き方をした終わりであれば、通俗的な物足りない物語になっただろう。そしてこれか
らも主人公は感情のままに後ろめたい行動に迷わされることなく、理を通して前を向いて生
きていくことだろうと私は感じた。






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