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Japanese Medieval History and Literature

7405鈴木小太郎:2022/03/04(金) 11:39:08
若い世代向けの『とはずがたり』参考文献(その2)
前回投稿で「歴史学者も本当に多くの人が『とはずがたり』に言及していて、その内容は玉石混淆です」と書きましたが、実際には大半が「石」ですね。
例えば昨年、実証主義的歴史学の総本山ともいうべき東京大学史料編纂所の所長に就任された本郷恵子氏は、小学館の「全集日本の歴史」シリーズ第六巻『京・鎌倉 ふたつの王権』(2008)で『とはずがたり』に触れておられますが、率直に言って高校生の読書感想文レベルですね。

本郷恵子教授の退屈な『とはずがたり』論
https://6925.teacup.com/kabura/bbs/9361
「コラム4 『とはずがたり』の世界」(by 本郷恵子氏)
https://6925.teacup.com/kabura/bbs/9362

『とはずがたり』のエロ話のように、内容がキワモノ的で他に裏付けとなる史料が存在しない話については、実証主義云々の理屈以前に、常識として極めて慎重に取り扱うべきだと私には思われますが、「院や天皇、女院、上級貴族らの私的生活の側面を語る、稀有な内容をもつ」『とはずがたり』を丸々信じ込んでいる本郷恵子氏とは、そうした常識を共有できないようです。
ま、歴史研究者に期待されるのは『とはずがたり』そのものの検討ではなく、『とはずがたり』の背景となる鎌倉後期の政治的・社会的・文化的状況の分析ですので、そうした観点から役に立つ文献を紹介することにします。
まず、二条の出自である村上源氏についての必読書は橋本義彦氏の『人物叢書 源通親』(吉川弘文館、1992)です。

「はしがき」
http://web.archive.org/web/20150830053507/http://www015.upp.so-net.ne.jp/gofukakusa/hashimoto.htm
「村上の源氏」
http://web.archive.org/web/20150830053503/http://www015.upp.so-net.ne.jp/gofukakusa/hashimoto-yoshihiko-murakaminogenji.htm

旧サイトを開設した1997年の時点では、鎌倉時代の通史は武家社会に偏っていて、特に鎌倉後期公家社会を理解するための基本となるべき一般書が少なく、非常に苦労したのですが、今は近藤成一氏の『鎌倉幕府と朝廷』(岩波新書、2016)など、バランスの良い本がたくさん出ていますね。

西園寺家と洞院家
https://6925.teacup.com/kabura/bbs/9205
「三十四年間もかけてたった三年足らずの分しか編纂できなかった」(by 近藤成一氏)
https://6925.teacup.com/kabura/bbs/9209

ただ、『とはずがたり』の主要登場人物である後深草院や亀山院、西園寺実兼などを史実に即してきちんと理解するための文献となると、やはり筆頭は本郷和人氏の『中世朝廷訴訟の研究』(東京大学出版会、1995)ですね。

http://web.archive.org/web/20061006194849/http://www015.upp.so-net.ne.jp/gofukakusa/hongo.htm

そして、森茂暁氏の『鎌倉時代の朝幕関係』(思文閣出版、1991)も重要です。

森茂暁「西園寺公衡」
http://web.archive.org/web/20150512051815/http://www015.upp.so-net.ne.jp/gofukakusa/mori-shigeaki-saionji-kinhira.htm
森茂暁「皇統の対立と幕府の対応−『恒明親王立坊事書案 徳治二年』をめぐって−」
http://web.archive.org/web/20150515165002/http://www015.upp.so-net.ne.jp/gofukakusa/mori-shigeaki-kotonotairitu.htm

森茂暁氏は私にとってはちょっと謎の存在で、非常に緻密な史料分析に基づく実証的研究をされている一方で、『とはずがたり』や『増鏡』の奇妙な話を全然疑わない「赤裸々莫迦」の代表格でもありますね。

『とはずがたり』の「証言内容はすこぶる信頼性が高い」(by 森茂暁)
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/8095
「赤裸々に告白した異色の日記」を信じる歴史学者
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/8097
『とはずがたり』の何が歴史学者を狂わせるのか。
https://6925.teacup.com/kabura/bbs/9154

>筆綾丸さん
>呉座氏は広常の軍を大軍としていますが、本郷氏は日本書紀のパクリだと言ってますね。

ご紹介の「本郷和人の日本史ナナメ読み」、日本書紀云々はあまりに唐突で、ちょっと賛同し難い内容ですね。
呉座勇一氏は『頼朝と義時』(講談社現代新書、2021)において、「野口氏の研究を参照しつつ、私見を交えて広常の実際の行動を復元してみよう」(p61)とし、結論として「二万とも言われる大軍(延慶本『平家物語』は一万とする)も最初から広常が率いていた軍勢ではなく、目代を討ち上総の武士たちを広範に糾合した結果と思われる」(p63)と言われていますが、正確な人数はともかく、広常が大軍を集めたこと自体を疑う必要はないと思います。
ただ、その大軍が広常直属の配下であれば、寿永二年(1183)十二月に広常が暗殺された際、特に混乱が生じなかった理由を説明しづらくなりますが、あくまで一時的に広常が「広範に糾合した結果」の「大軍」だとすれば、広常暗殺後の状況も理解可能ですね。




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