レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。
Japanese Medieval History and Literature
-
斎藤幸平氏とコロナ禍(その5)
僅か三年前、2018年「当時、感染症のmRNAワクチン研究ではドイツのビオンテック社と石井氏らに大きな差はな」く、「いまやファイザーと組んで全世界にコロナワクチンを提供し、飛ぶ鳥を落とす勢いのバイオメーカーと日本のアカデミアはほぼ同等のポジションについていた」にもかかわらず、何故に日本のmRNAワクチン研究は失速してしまったのか。
続きです。(p35以下)
-------
従来の病原体を弱毒化したワクチンや、感染能力を完全に失わせたウイルス、細菌、その一部からつくる不活化ワクチンは、鶏卵や細胞でのウイルスの培養に時間がかかるうえ、数十トン規模の培養タンクも求められる。
一方、mRNAワクチンはウイルスの遺伝子配列に応じて短期間に小さな設備で開発できる。ウイルスが変異してもゲノム情報があれば数週間以内に改良が可能だ。まさにモックアップ、後々の改良を見込んで最初に製作するプロトタイプといえるだろう。
石井氏らの開発は順調に進み、一年もたたないうちにMERSのmRNAワクチンができあがり、サルの実験でも非常によい免疫原性が得られた。さらにジカ熱や新型インフルエンザのmRNAワクチンのプロトタイプもつくる。いずれも動物実験で免疫原性を確認し、論文もまとめて、いざ臨床試験へ、とプロジェクトメンバーの士気は高まる。が、しかし。厚労省は治験の予算を認めなかった。基礎研究と非臨床試験の段階で数千万円だった費用は、人間相手の治験となれば億単位に増える。それを政府は出し渋った。ありていに言えば、「ここから先は企業とやりなさい。研究者が自分でやる必要はないでしょう」と突き放したのである。公共的観点でサポートを続けようとはしなかった。
企業側も新たな投資に及び腰だった。そもそもワクチンの市場規模は医薬品全体から見れば非常に小さく、感染症の流行が終息すれば製剤は在庫の山と化す。投資に見合う利益が望めない。日本初の感染症mRNAワクチンは官と民の「死の谷」に落ちてしまった。
「反省をこめて言えば、MERSのアウトブレイクは終わり、ジカ熱や新型インフルに活路を見出そうともしましたが、まだmRNAワクチンは新しい技術で、誰もが飛びつくものではありませんでした。準備しておこうという雰囲気はあったけれど、私も含めて本当にこれが必ず必要になるという危機感や、それを政府や企業に伝えて治験を働きかける気合が足りませんでした。そこが反省点ですね」と石井氏は語る。
こうして二〇一八年、日本のmRNAワクチンの開発は凍結されたのであった。
-------
ということで、厚労省が僅か「億単位」の「治験の予算」を認めていれば、日本が「全世界にコロナワクチンを提供」する可能性もあった訳ですね。
日本が釣り損ねた魚はあまりに大きかったとはいえ、ドイツのビオンテックとアメリカのファイザーも簡単に現在の地位を獲得できた訳ではありません。(p36以下)
-------
じつはこの年、ドイツのビオンテック社も研究開発が分岐点にさしかかっていた。免疫学者のウール・シャヒン氏と医師で腫瘍学者の妻オズレム・チュレジ氏が設立したビオンテックは、二〇〇〇年代後半から一貫して、がんの免疫療法にmRNAワクチンの技術を活かそうとしてきた。がんは遺伝子変異に起因している。多様な遺伝子の変異が、がん細胞を異常に増殖させる。そうした変異に速やかに対応するにはmRNAを使った免疫療法、いわゆる「がんワクチン」がふさわしいと夫妻は考え、研究を積み重ねていた。
同年夏、そこにインフルエンザのmRNAワクチンの開発が加わる。提案したのは提携先のファイザーのウイルス感染症研究者だった。ファイザー側はビオンテックのmRNAの生産能力の高さに目をつけ、毎年流行するインフルエンザのワクチン開発に技術を活用できれば、より速く、柔軟に対応できると期待した。背景には熾烈な競争がある。
世界のワクチン市場は四一七億ドル(四兆六〇〇〇億円:グローバルインフォメーション調査、二〇一九年)と推定されている。感染症の有病率の高さや、ワクチン開発への政府支援の増加で今後五年に五八四億ドルに達すると予想される。年平均成長率は七パーセント。それがコロナ禍で一挙に拡大した。現時点で世界市場の約九〇パーセントを四大製薬会社が占めている(グラクソスミスクライン社二四パーセント、メルク社二三・六パーセント、ファイザー社二一・七パーセント、サノフィ社二〇・八パーセント「World Preview 2018,Outlook to 2024」)。ファイザーはメガファーマらしい貪欲さで、常に新分野の開拓を狙っている。ビオンテックはファイザーと四億二五〇〇万ドル(四七五億円)の契約を結び、インフルエンザ用ワクチンの開発、治験に乗り出した。
ここが日本と米独との運命の分かれ目だった。mRNAをテクノロジープラットフォームの中核に位置づけ、戦略的に資金を投じられるかどうかが、のちに新型コロナワクチンを七〇〇〇億円かけて欧米の製薬会社から買うか、世界各国に売るかの差となって現れた。
-------
私は医薬品業界の事情は全く不案内なので、以上の山岡氏の分析が正しいのかどうか、評価する能力はありません。
ただ、何といっても『世界』という「日本唯一のクオリティマガジン」(但し自称)に載った記事ですから、これを前提として資本主義の意義、国家の役割について、「左翼」や「リベラル」の人びとと対話することは可能だと思います。
果たして、コロナ危機で鮮明になった資本主義の最先端の動向に照らして、マルクス考古学者の斎藤幸平氏が肯定的に引用するマイク・デイヴィスのように、資本主義を敵視し、巨大製薬会社を潰さねばならないとする立場が正しいのか。
ま、少なくともマイク・デイヴィスが書いているような、「巨大製薬会社が新しい抗生物質や抗ウイルス剤の研究と開発を放棄した」という事実がないことは、思想的立場が異なる人たちとも共通の認識とできそうですね。
斎藤幸平氏とコロナ禍(その2)
https://6925.teacup.com/kabura/bbs/11064
>筆綾丸さん
ま、一回負けただけですからね。
次の機会は近いかもしれません。
|
|
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板